本発明の積層多孔性フィルムは、熱可塑性樹脂を主成分とする多孔性フィルムの少なくとも片面に導電層が設けられた積層多孔性フィルムである。ここで、熱可塑性樹脂を主成分とするとは、多孔性フィルムを構成する全成分中に占める熱可塑性樹脂の割合が50質量%以上であることを意味し、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
本発明の積層多孔性フィルムを構成する多孔性フィルム(以下、単に本発明の多孔性フィルムまたは多孔性フィルムと表記する場合もあり)は、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔を有する多孔性フィルムを得る方法としては、製法や材質は特に限定されない。例えば製法としてはβ晶法やラメラ延伸法などの乾式法、抽出法、更にはフィルムにレーザーなどを利用して物理的に貫通孔を開ける方法などを用いることができるが、生産性、長手方向と幅方向の物性の均一性の観点から、β晶法によることが好ましい。
材質としては、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性樹脂を主成分として用いることができる。熱可塑性樹脂を主成分とすることで、多孔性フィルムにシャットダウン特性を付与することができる。シャットダウン特性とは、異常時に電池が過昇温した際に多孔性フィルムが溶融し開口部が閉塞することで、電子の授受をシャットダウンし、その後の電池内部の温度上昇を防止できるという機能である。熱可塑性樹脂のなかでも、コストの観点からオレフィン樹脂を主成分とすることが好ましく、さらには耐熱性の観点からポリプロピレン樹脂が特に好ましく用いられる。ここで、オレフィン樹脂を主成分とするとは、多孔性フィルムを構成する全成分中に占めるオレフィン樹脂の割合が50質量%以上であることを意味し、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
β晶法とは、結晶構造としてβ晶を有するポリプロピレン樹脂のキャストシートを用い、該キャストシートを縦延伸することにより、β晶の結晶構造をα晶に転移させるとともに、製膜方向に配向したα晶のフィブリル状物を形成させ、そのフィブリル状物を横延伸工程において開裂させて網目構造を形成させることにより、貫通孔を有するフィルムを得る手法である。キャストシートとは、溶融したポリプロピレン樹脂をキャストドラム上でシート状に成型した、未延伸のシートを意味する。β晶法においては、多孔性フィルムの物性を向上させるために、ポリプロピレン樹脂にβ晶核剤を添加しβ晶形成能を高めることが好ましい。β晶形成能が高いと、α晶への結晶転移を起こす結晶構造の部分が多くなり、フィルム中に形成される空隙の数を増加させることができる。また、β晶核剤を含む原料の物性を制御することで、ポリプロピレン結晶の配向性、緻密性を向上させ、孔を均一かつ緻密に開口させることにより、多孔性フィルムを蓄電デバイス用セパレータとして用いた際の出力特性、回生特性を向上させることができる。また、開口状態の均一性を向上させることにより、粗大孔を減少させ、弾性率や引張伸度などの機械物性を向上させることができる。これらのβ晶法における出力特性、回生特性、機械特性の両立は、後述する原料を用い、特定の製膜条件で製膜を行うことにより達成することができる。
本発明の多孔性フィルムはβ晶形成能が40%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。β晶形成能が40%以下の場合、β晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、フィルムの出力特性に劣る場合がある。β晶形成能を40%より大きくする方法としては、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用する方法、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いる方法があるが、本発明においては、後述するβ晶核剤を使用する方法、またはアイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂に後述するβ晶核剤を添加剤として用いる方法によることが好ましい。なお、本発明の多孔性フィルムのβ晶形成能は後述する方法で測定することができるが、多孔性フィルムの状態での測定が困難な場合は、縦延伸前のキャストシートのβ晶形成能を測定し、得られた値を本発明の多孔性フィルムのβ晶形成能とすることができる。
本発明で用いるβ晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、キナクリドン系顔料を挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を用いることが好ましい。また、β晶核剤の含有量としては使用するβ晶核剤によって異なるが、上記アミド系化合物を使用する場合には、多孔性フィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましく、後述する効果を有するためには0.22〜0.3質量%であれば特に好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性フィルムの出力特性および回生特性が悪化する場合がある。また、0.5質量%を超えると、β晶核剤の凝集などによりフィルムに粗大ボイドが形成され、機械強度が低下する場合がある。
本発明においては、ポリプロピレン樹脂として、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが、押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgで測定した値を指す。本発明においては、結晶性の観点からポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましく、95〜99%であることがより好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満の場合、ポリプロピレン樹脂の結晶性が低くなり、製膜性が低下する場合があるほか、フィルムの弾性率に劣る場合がある。
本発明でポリプロピレン樹脂を用いる場合、ホモポリプロピレン樹脂が好ましく用いられるが、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレン樹脂にエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を共重合した樹脂を用いることもできる。なお、ポリプロピレン樹脂へのコモノマー(共重合成分)の導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。また、コモノマー(共重合成分)の割合は、共重合ポリマー全体を100質量%とした場合、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
本発明の多孔性フィルムは、二軸延伸時の空隙形成効率の向上や、孔の均一な開口、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、ポリプロピレン樹脂を80〜99質量部とエチレン・α−オレフィン共重合体を20〜1質量部の質量比率とした混合物から成ることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレン樹脂や超低密度ポリエチレン樹脂を挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレン樹脂は市販されている樹脂、例えば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
上記共重合ポリエチレン樹脂は本発明の多孔性フィルム全体を100質量%としたときに、10質量%未満含有することが好ましい。これにより、以下に記載する平均孔径を好ましい範囲に制御することが容易となる。共重合ポリエチレン樹脂の含有量はフィルムの機械特性の観点から0.1〜7質量%がより好ましく、出力特性および回生特性の観点から1〜7質量%が特に好ましい。
本発明において用いられるポリプロピレン樹脂は、孔構造を均一化し、フィブリルを微細化し、フィルム面内の熱収縮量のムラを低減する観点から、上述したエチレン・α−オレフィン共重合体に加え、分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体のポリプロピレン樹脂への分散性を高めることができるものであればよいが、国際公報第2007/046225号に記載の通り、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体の相溶性は良好であり、例えば一般にポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の相溶化剤として用いられるエチレン・プロピレンランダム共重合体は本実施の形態において孔構造均一化のための分散剤として機能しない。本実施の形態に好ましく用いられる分散剤としては、ポリプロピレンとの相溶性が高いセグメント(例えばポリプロピレンセグメント、エチレンブチレンセグメント)とポリエチレン樹脂との相溶性が高いセグメント(ポリエチレンセグメントなど)を各々有するブロック共重合体が好ましい。このような構造を有する樹脂として、市販されている樹脂、例えばJSR社製オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロック共重合体(以下、CEBCと表記する)“DYNARON”(ダイナロン)(登録商標)(タイプ名:6100P、6200Pなど)や、ダウ・ケミカル社製オレフィンブロック共重合体“INFUSE OBC”(登録商標)を挙げることができる。分散剤の添加量としてはエチレン・α−オレフィン系共重合体100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜33質量部であることがより好ましい。また、エチレン・α−オレフィン系共重合体のポリプロピレン樹脂への分散性向上の観点および孔形成の均一性向上の観点から、分散剤の融点は、エチレン・α−オレフィン系共重合体の融点より、0〜60℃高いことが好ましく、15〜30℃高いことがより好ましい。
本発明の多孔性フィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂を用いる場合、熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤の添加量は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、無機あるいは有機粒子からなる孔形成助剤を含有させることができる。孔形成助剤を使用する場合、含有量はポリプロピレン樹脂100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、蓄電デバイス用セパレータとして使用した際に、脱落した粒子が電池性能の低下の原因となる場合があるほか、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムは、導電層表面の表面開口率が45%以上である。なお、導電層表面の表面開口率とは、充放電時の多孔性フィルム表面のリチウムイオン透過領域が全表面領域に占める割合を示し、倍率1,000倍の表面SEMを2値化処理することによって算出した値である。本発明において、導電層表面の表面開口率(以下、単に表面開口率と表記する場合もあり)が45%以上であるとは、導電層が多孔性フィルムの片面のみに設けられている場合は、該導電層表面の表面開口率が45%以上であることを意味する。また、導電層が多孔性フィルムの両面に設けられている場合は、両面の表面開口率がそれぞれ45%以上であることを意味する。
表面開口率は50%以上がより好ましく、55%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。表面開口率が、45%未満では表面開口性が不均一であり、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき、出力特性や回生特性が悪化したり、セパレータと電極との界面の面内抵抗が不均一となり、電析が起こり、長期信頼性に劣る場合がある。出力特性および回生特性の観点からは、表面開口率は高いほど好ましいが、表面開口率が高すぎると、フィルムの強度が低下して、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき安全性が低下する場合があるため、95%以下とすることが好ましい。表面開口率を45%以上にする方法としてはポリプロピレン樹脂中のβ晶核剤の添加量、結晶化温度を調整すること、エチレン・α−オレフィン系共重合体や分散剤を添加すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御することができる。また、導電層を付与する際、後述する手法により、導電層を付与することが重要である。
本発明の積層多孔性フィルムは、透気抵抗が50秒/100ml以上である。透気抵抗が50秒/100ml未満であると、工程適性の指標となる弾性率などの機械強度が低下する場合がある。透気抵抗が100,000秒/100mlを超えると、セパレータとして用いた際に必要な出力特性が得られない場合があり、実質的な透気抵抗の上限は100,000秒/100mlである。透気抵抗は、より好ましくは50〜10,000秒/100ml、更に好ましくは80〜3,000秒/100ml、特に好ましくは50〜1,000秒/100mlである。透気抵抗は、ポリプロピレン樹脂に添加するβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。また、導電層を付与する際、後述する手法により、多孔性フィルムの透気抵抗を低下させずに導電層を付与することが重要である。
本発明の積層多孔性フィルムは、導電層の表面比抵抗が1×102〜1×1011Ω/□である。表面比抵抗は、より好ましくは1×103〜1×108Ω/□、更に好ましくは1×104〜1×107Ω/□である。表面比抵抗が1×1011Ω/□を超えると、蓄電デバイス用のセパレータに用いたとき、本発明の特徴である導電層の付与による回生特性向上の効果が得にくい場合がある。表面比抵抗を1×102Ω/□未満にするためには、導電層の厚みを厚くする必要があり、透気抵抗や表面開口率が低下する場合がある。また、蒸着により金属薄膜を付与して表面比抵抗を低くすることも可能であるが、蒸着を用いると、生産性が悪化しコストが高くなったり、また、蒸着時の熱により多孔性フィルムの孔径が開いて安全性が低下したり、表面が溶けて表面開口率が低下し、出力特性が低下する場合がある。導電層の表面比抵抗を上記範囲とするには、後述する手法により、多孔性フィルムの表面に導電層を付与することが有効である。
本発明の積層多孔性フィルムの導電層は、金属成分および/または金属酸化物を主成分としないことが好ましい。ここで、金属成分および/または金属酸化物を主成分としないとは、導電層全体を基準としたときに、金属成分およびその酸化物の含有量があわせて30質量%未満であることを意味する。より好ましくは20質量%未満、さらに好ましくは10質量%未満である。また、本発明において金属成分とは、20℃での電気抵抗率が1×104Ωm以下の金属のことをいい、金属酸化物とは上記金属成分の酸化物のことをいう。金属成分としては、たとえば、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、クロム、亜鉛、錫、マグネシウム、珪素などが挙げられる。金属成分や金属酸化物がセパレータ表面に存在すると、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき、デンドライト発生の基点となり、電池の安全性が低下する場合がある。上述した観点から、本発明の積層多孔性フィルムの導電層は、非金属性の炭素材料または導電性高分子またはイオン性高分子を主成分とすることが好ましい。
ここで、炭素材料または導電性高分子またはイオン性高分子を主成分とするとは、導電層中の導電性発現に寄与する成分の全体量を100質量%としたとき、炭素材料、導電性高分子、イオン性高分子の合計量が70質量%以上であることをいう。炭素材料、導電性高分子、イオン性高分子の合計量は、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。なお、炭素材料、導電性高分子、イオン性高分子はそれぞれ単体で用いてもよいし、二種類以上をあわせて使用してもよい。
本発明において炭素材料とは、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられ、特にカーボンナノチューブが好ましく用いられる。
カーボンナノチューブとは炭素原子だけで構成されたハニカム構造のグラフェンシートが円筒状に丸まったシームレス(継ぎ目のない)チューブの総称であり、実質的にグラフェンシートを1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、3層以上の多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブいう。本発明に用いられるカーボンナノチューブは、直線又または屈曲形の単層カーボンナノチューブ、直線または屈曲形の2層カーボンナノチューブ、直線または屈曲形の多層カーボンナノチューブのいずれか、または、それらの組み合わせたものであることが好ましい。
また導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリベンゾチアゾール、ポリフェニレンなどが挙げられ、特にポリチオフェンが好ましく用いられる。
イオン性高分子とは、イオン性官能基を有する高分子のことをいい、ポリスチレンスルホン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも特にポリスチレンスルホン酸塩が好ましく、例えば、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸マグネシウム等が挙げられ、本発明の積層多孔性フィルムをリチウムイオン電池用のセパレータとして用いる場合、特にポリスチレンスルホン酸リチウムが好ましく用いられる。
本発明の導電層には、上記した導電性成分以外にもバインダー樹脂、分散剤、その他の添加剤などを必要に応じて適宜追加することが好ましい。バインダー樹脂は熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線硬化性樹脂のいずれでもよい。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等などを用いるのが好ましい。分散剤としては、導電層中に導電性成分を均一に微分酸させることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、導電性成分としてカーボンナノチューブを用いる場合、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルピロリドン系重合体、水溶性セルロース、もしくは水溶性セルロース誘導体のいずれか、又はそれらを組み合わせたもの等が挙げられる。また、その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、天然または石油ワックス等の有機系易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、核剤などが挙げられる。
本発明において、導電層を多孔性フィルム上に存在せしめる方法は、特に限定されないが、例えば、上記した導電性成分、バインダー樹脂、分散剤、その他添加剤などを含む塗剤を作成し、この塗剤を多孔性フィルムの片面または両面に塗布し、その後一軸延伸する方法を挙げることができる。塗剤を塗布する方法としては、一般に行われるどのような方法を用いてもよいが、例えば、導電性成分、バインダー樹脂、分散剤、その他添加剤などを溶媒などに分散させて作成した分散液をリバースコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などの塗布方法によりフィルム上に塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。溶媒としては、水系溶媒や有機溶媒を用いることができるが、好ましくは水系溶媒もしくは水系溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いるとよい。有機溶媒の使用を抑えることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な導電層を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れているためである。
本発明においては、上記した塗布を、縦延伸フィルムに対して行うことが好ましい。縦延伸前に塗布すると、十分な透気性が得られず、セパレータとして用いた際の特性が不十分となることがある。また、横延伸後に塗布すると、表面開口率が低くなり出力特性に劣る場合や溶媒を乾燥させるための乾燥工程が必要となり、高コストになる場合や製造工程が複雑化する場合がある。本発明においては、縦延伸後のフィルムに導電性成分を含む塗剤を塗布し、その後横延伸をテンターなどにより行うことで、横延伸と乾燥とを同時に行うことが可能となる。
本発明の積層多孔性フィルムの導電層は、厚みが1〜500nmであることが好ましい。導電層の厚みが500nmを超えると、導電層が多孔性フィルムの孔を塞ぎ、積層多孔性フィルムの表面開口率が低下する場合がある。導電層の厚みが1nm未満では、導電層の表面比抵抗が大きく、本発明の特徴である導電層の付与による回生特性向上の効果が得にくい場合がある。導電層の厚みは、より好ましくは5〜200nm、更に好ましくは10〜100nmである。なお、本発明において導電層の厚みとは、積層多孔性フィルムの断面を超薄切片に切り出し、RuO4染色、OsO4染色、あるいは両者の二重染色による染色超薄切片法により、透過型電子顕微鏡で場所を替えて10視野の断面構造を観察し、それぞれの断面写真から得られた厚みの平均値のことをいう。
本発明の積層多孔性フィルムは、バブルポイント法で測定した平均孔径が30〜55nmであることが好ましい。平均孔径が30nm未満では、蓄電デバイス用セパレータとして用いたとき出力特性が低下する場合がある。平均孔径が55nmを超えると、デンドライトが成長しやすくなり、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき、電池の安全性が低下する場合がある。平均孔径を上記範囲とするには、ポリプロピレン樹脂中のβ晶核剤の添加量や結晶化温度を調整すること、また、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすること、また、後加工工程で、積層多孔性フィルムに必要以上の熱をかけないことが重要である。
本発明の積層多孔性フィルムは、厚みが10〜25μmであることが好ましい。厚みが10μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、25μmを超えると、電池抵抗が増大してセパレータとして用いた際に出力特性が低下する場合があるほか、蓄電デバイス内に占めるセパレータの体積割合が高くなり、高いエネルギー密度を得ることができなくなる場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムは、絶縁破壊電圧をV(kV)、膜厚をT(mm)としたときに、下記式(A)で定義される絶縁破壊強度Ea値が160kV/mm以上であることが好ましい。
Ea=V/T ・・・(A)
本発明において、絶縁破壊電圧とは、積層多孔性フィルムに段階的に電圧を昇圧させながら印加していき、各印加電圧での絶縁破壊個数を計測し、その総計が10個を超えた時の電圧をいう。また、絶縁破壊強度とは、前記の絶縁破壊電圧を積層多孔性フィルムの膜厚で除した数値である。積層多孔性フィルムの膜厚は電極間距離に相当し、絶縁破壊電圧に大きく影響するため、絶縁破壊電圧を膜厚で規格化している。絶縁破壊強度の値が大きくなると、より薄い厚みのフィルムで耐電圧性に優れた積層多孔性フィルムを得ることができる。
Eaが160kV/mm未満であると、耐電圧性が低くなり、電池の工程適性、長期保存性が劣る場合がある。電池セパレータとして工程適性、長期保存性の観点から、Eaは、170kV/mm以上が好ましく、180kV/mm以上であれば、さらに好ましい。工程適性、長期保存性の観点からは高い方が好ましいが、高すぎると透気性が低下する場合があるため400kV/mmが上限である。
Eaをかかる範囲に制御するためには、横延伸時の延伸条件、例えば、予熱温度、初期延伸温度、後期延伸温度、延伸速度、熱処理温度、熱処理時間、リラックス率を後述する範囲に制御することにより達成可能である。また、本発明の積層多孔性フィルムは、後述する方法により、導電性を保ちながら、Eaを上述する範囲に制御することができる。
本発明の積層多孔性フィルムは、曲路率が1.2〜4.5であることが好ましい。曲路率が1.2未満であると、連続する孔構造が実質的に直線状構造に近くなり、電圧印加時に電子が通りやすく、耐電圧性が低くなり、電池の工程適性、長期保存性が劣る場合がある。また、曲路率が4.5を超えると、透気性が不足し、例えば蓄電デバイス用のセパレータとして用いた場合に電池の出力特性が十分でなく、性能の劣った電池となる傾向がある。
曲路率をかかる範囲に制御するには、原料物性を制御することや横延伸時の予熱温度、初期延伸温度、後期延伸温度、および延伸速度や、熱処理温度、熱処理時間、リラックス率を制御することにより達成可能である。
なお、本発明における曲路率τの算出は次の関係式から求めることができる。
多孔質体における細孔モデルにおいて、流体の透過速度と空孔率や孔径や流体の粘度との関係は、式(1)で表される。
u=(d2・ε/100)ΔP/(2ηT1τ2) ・・・(1)
ここで、u(m/sec)は流体の透過速度、d(m)は孔径、ε(%)は空孔率、ΔP(Pa)は圧力差、η(Pa・sec)は流体の粘度、T1(m)は膜厚、τ(無次元)は曲路率である。なお、本式を変形すると、曲路率は式(2)のように表され、上記各パラメータを代入することで求めることができる。
τ=d(εΔP/200ηT1u)0.5 ・・・(2)
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性フィルムは、様々な効果を付与する目的で導電層以外の層を設けた積層構成をとっても構わない。積層数としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもよく、積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式、ラミネートにより多孔性フィルム同士を貼り合わせる方法などがあるが、積層する樹脂などの物性に応じて、積層方法を選択すればよい。積層構成としては、例えば、低温でのシャットダウン性を付与する目的でポリエチレンを含む層を積層したり、強度や耐熱性を付与する目的で粒子を含む層を積層したりする構成が挙げられる。
以下に本発明の積層多孔性フィルムの製造方法を具体的な一例をもとに説明する。なお、本発明の積層多孔性フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
なお、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向、長手方向、MD方向あるいは単にMDと称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向、TD方向あるいは単にTDと称することがある。
ポリプロピレン樹脂として、MFR7.5g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂99.45質量部、β晶核剤としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.30質量部、酸化防止剤としてIrganox1010、Irgafos168を各々0.10質量部、滑剤としてベヘン酸カルシウム0.05質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランドをダイから吐出して、0〜25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(a)を準備する。この際、溶融温度は280〜310℃とすることが好ましく、チップの断面形状は、円、楕円、長方形のいずれでもかまわないが、チップの製造時の流れ方向に対して直交する断面積(以下、チップの断面積という)が0.1〜3.0mm2の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2〜2.5mm2、さらに好ましくは0.5〜2.0mm2、特に好ましくは0.5〜1.5mm2である。チップの断面積が3.0mm2を超えるとポリプロピレン原料の結晶化温度が低下してしまう場合がある。また、チップの断面積が0.1mm2より小さい場合、チップ製造時にストランドが切れやすくなったり、溶融混練時の吐出量を低くする必要があり、生産性が低下することがある。ポリプロピレン原料(a)の結晶化温度は出力特性、回生特性、機械特性のバランスの観点から、130℃以上であることが好ましく、130.5℃以上であることがより好ましい。ポリプロピレン原料(a)の結晶化温度に特に上限は設けないが、140℃以上にすることは困難である。
つづいて、上記したMFR7.5g/10分のホモポリプロピレン樹脂を63.8質量部、エチレン・α−オレフィン系共重合体として市販のMFR18g/10分のエチレン・オクテン−1共重合体を30質量部、分散剤として市販のCEBC6質量部、酸化防止剤としてIrganox1010、Irgafos168を各々0.10質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、200〜250℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、0〜25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(b)を準備する。チップの断面形状は、円、楕円、長方形のいずれでもかまわないが、チップの断面積が2.0〜20.0mm2の範囲であることが好ましい。より好ましくは3.0〜12.0mm2、さらに好ましくは4.0〜10.0mm2である。断面積が2.0mm2より小さいと生産性が低下したり、また断面積が20.0mm2を超えるとチップ製造時にダイから出てきた隣同士のストランドが融着してしまう可能性がある。
さらに、上記のポリプロピレン原料(a)を89.9質量部、ポリプロピレン原料(b)を10質量部、酸化防止剤としてIrganox1010を0.1質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランドをダイから吐出して、0〜25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(c)を準備する。チップの断面形状は、円、楕円、長方形のいずれでもかまわないが、チップの断面積が2.0〜20.0mm2の範囲であることが好ましい。より好ましくは3.0〜12.0mm2、さらに好ましくは4.0〜10.0mm2である。断面積が2.0mm2より小さいと生産性が低下したり、フィルムの製膜時に押出機でのチップのかみ込み不良が生じて吐出量が不安定になる場合がある。また、断面積が20.0mm2を超えるとチップ製造時にダイから出てきた隣同士のストランドが融着してしまう場合がある。また、溶融混練時の樹脂温度は200〜250℃とすることが好ましく、より好ましくは210〜240℃、さらに好ましくは215〜235℃である。樹脂温度が250℃を超えるとポリプロピレン原料(a)中のβ晶核剤が粗大化してしまう場合がある。また、樹脂温度が200℃より低いと、溶融樹脂の粘度が高くなりすぎて、生産性が低下したり、押出安定性の低下を招いてしまう場合がある。上記温度範囲で得られたポリプロピレン原料(c)は、粗大化したβ晶核剤が少なく、チップ中の核剤サイズの均一性に優れる。また、ポリプロピレン原料(c)中の結晶化β晶核剤が安定化するため、製膜時の押出機中でのβ晶核剤の成長を抑制でき、生産安定性が向上するとともに、均一性に優れた積層多孔性フィルムが得られる。
上記のポリプロピレン原料(c)を単軸押出機に供給し、200〜240℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。ここで、共押出によりフィルムを積層構造とする場合には、複数の押出機を用い、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式により積層構造とした後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、積層未延伸シートとすることができる。キャストドラムは、表面温度が100〜130℃であることが、電池特性制御の観点から好ましく、115〜130℃がさらに好ましい。この際、特にシートの端部の成形が、後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態の観点から、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
次に、得られたキャストシートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、出力特性、回生特性、機械特性のバランスの観点から逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に、長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
具体的な延伸条件としては、まず、キャストシートの温度を制御しながら長手方向に延伸する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては、電池特性と機械特性の両立の観点から、90〜140℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。90℃未満では、フィルムが破断する場合がある。また、140℃を超えると、出力特性および回生特性が悪化する場合がある。電池特性と機械特性の両立の観点から、延伸倍率としては、3〜10倍であることが好ましい。より好ましくは4.5〜6倍である。延伸倍率を高くするほど電池特性は向上するが、10倍を超えて延伸すると、横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなるほか、機械特性が悪化する場合がある。
次に、縦延伸後のフィルムの片面または両面に導電層を形成するための導電性成分を含む塗剤を塗布する。必要に応じ、フィルムの塗布面に空気あるいは窒素あるいは炭酸ガスと窒素の混合雰囲気中で、コロナ放電処理などの表面処理を施してもよい。塗布方法としては、たとえば、導電性成分を溶媒などに分散させて作成した塗剤をリバースコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などの塗布方法によりフィルム上に塗布し、乾燥してコーティング層とすることができる。本発明では、導電層の形成は、縦延伸後、縦延伸フィルムの少なくとも片面に導電性成分を分散させた塗剤をバーコート法で塗布して形成することが好ましい。塗剤としては、例えば、カーボンナノチューブを0.1質量%、水99.9質量%をサンプル管に入れ、カーボンナノチューブ水分散体を調製し、超音波破砕機を用いて30分間超音波照射し、均一なカーボンナノチューブ水分散体を準備する。つづいて上記で作成したカーボンナノチューブ水分散体を39.5質量%、熱可塑性ポリエステル樹脂水分散体(固形分濃度25質量%)を1.2質量%、水59.3質量%を混合攪拌し、得られた塗剤をメイヤーバーを用いて縦延伸後のフィルムにバーコート法にて塗工する方法が挙げられる。
次に、テンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。横延伸温度は、出力特性、回生特性、機械特性のバランスの観点から、130〜155℃であることが好ましく、より好ましくは145〜155℃である。130℃未満ではフィルムが破断する場合があり、155℃を超えると出力特性および回生特性が悪化する場合がある。幅方向の延伸倍率は、引張強度向上の観点から2〜12倍であることが好ましい。より好ましくは7〜11倍、更に好ましくは7〜10倍である。2倍未満であると、出力特性および回生特性が悪化したり、幅方向の引張強度が低下する場合がある。12倍を超えるとフィルムが破断する場合がある。なお、このときの横延伸速度としては、500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。出力特性および回生特性を向上させながら弾性率を向上させる観点から、面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、高倍とするほうが好ましく、具体的には20倍以上が好ましく、30倍以上がより好ましい。面積倍率が低倍の場合、具体的には20倍未満の場合、出力特性、回生特性、機械特性の両立が困難となる。面積倍率の上限は特に設けないが、60倍を超えると製膜性が悪くなり破れやすくなる場合がある。
横延伸に続いて、テンター内で熱処理工程を行う。ここで熱処理工程は、横延伸後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS1ゾーンと記す)、テンターの幅を狭めてフィルムを弛緩させながら熱処理を行うリラックスゾーン(以後、Rxゾーンと記す)、リラックス後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS2ゾーンと記す)の3ゾーンに分かれていることが、出力特性、回生特性、機械特性のバランス、さらには低熱収の観点から好ましい。
HS1ゾーンの温度は、出力特性、回生特性、機械特性のバランスの観点から140〜165℃であることが好ましく、150〜160℃であることがより好ましい。140℃未満であると、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。165℃を超えると、フィルムの配向緩和が大きすぎるために、続くRxゾーンにおいて弛緩率を高くできず、電池特性と機械特性の両立が困難となる場合があるほか、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。
HS1ゾーンでの熱処理時間は、幅方向の熱収縮率と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。
本発明におけるRxゾーンでの弛緩率は、5〜35%であることが好ましく、5〜30%であるとより好ましい。弛緩率が5%未満であると面弾性率が小さくなる場合がある。35%を超えると出力特性および回生特性が悪化する場合があるほか、幅方向の厚み斑や平面性が低下する場合がある。
Rxゾーンの温度は、155〜170℃であることが好ましく、160〜165℃であるとより好ましい。Rxゾーンの温度が155℃未満であると、弛緩の為の収縮応力が低くなり、上述した高い弛緩率を達成できない場合があるほか、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。170℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて出力特性および回生特性が悪化する場合がある。
Rxゾーンでの弛緩速度は、100〜1,000%/分であることが好ましく、150〜500%/分であることがより好ましい。弛緩速度が100%/分未満であると、製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要があり、生産性に劣る場合がある。1,000%/分を超えると、テンターのレール幅が縮む速度よりフィルムが収縮する速度が遅くなり、テンター内でフィルムがばたついて破れたり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じる場合がある。
HS2ゾーンの温度は、電池特性と機械特性の両立の観点から、155〜165℃であることが好ましく、160〜165℃であることがより好ましい。155℃未満であると、熱弛緩後のフィルムの緊張が不十分となり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じたり、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。また、HS2の温度が高い方が、機械強度が高くなる傾向があり、155℃未満では機械強度に劣る場合がある。165℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて出力特性および回生特性が悪化する場合がある。
本発明におけるHS2ゾーンでの熱処理時間は、幅方向の物性ムラや平面性と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。熱処理工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って製品とする。
本発明の積層多孔性フィルムは、出力特性や回生特性に優れることから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に蓄電デバイス用のセパレータとして好ましく用いることができる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
(1)厚み(t1)
接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.06N)にて測定した。測定は場所を替えて10回行い、その平均値を積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルムの厚みt1(μm)とした。
(2)導電層の厚み(t2)
積層多孔性フィルムの断面を超薄切片に切り出し、RuO4染色、OsO4染色、あるいは両者の二重染色による染色超薄切片法により、TEM(透過型電子顕微鏡)で断面構造が目視可能な以下の条件にて、場所を替えて10視野観察し、それぞれの断面写真から得られた導電層の厚みの平均値を積層多孔性フィルムの導電層の厚みt2(nm)とした。
測定装置:透過型電子顕微鏡(日立(株)製H−7100FA型)
測定条件:加速電圧 100kV
試料調整:凍結超薄切片法
倍率:30万倍。
(3)表面比抵抗
アドバンテスト(株)製の超高抵抗/微小電流計R8340Aを用いて、導電層表面を次の条件で測定し、表面比抵抗(Ω/□)を測定した。なお、表面比抵抗が1.0×1016より高い場合は、O.L.とした。
印加電圧:100V
印加時間:10秒
測定環境:23℃、相対湿度65%、大気圧下
調温調湿:上記測定環境下にて24時間静置したサンプルの表面比抵抗を測定した。
(4)透気抵抗
積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルムについて、JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気抵抗とした。
(5)表面開口率
積層多孔性フィルムの導電層表面にエイコーエンジニアリング社製IB−5型イオンコーターを用いてイオンコートを行い、日本電子社製電界放射走査顕微鏡(JSM−6700F)を用いてフィルム表面を撮影倍率1,000倍で観察した。得られた画像データ(スケールバーなどの表示がない、観察部のみの画像)をMVTec社製HALCON Ver.10.0を用いて画像解析を行い、表面開口率(%)を算出した。画像解析方法としては、まず256階調モノクロ画像に対して、11画素平均画像Aと3画素平均画像Bをそれぞれ生成し、画像B全体の面積(Area_all)を算出した。
次に画像Bから画像Aを差として除去し、画像Cを生成し、輝度≧10となる領域Dを抽出した。抽出した領域Dを塊ごとに分割し、面積≧100となる領域Eを抽出した。その領域Eに対して、半径2.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Fを生成し、横1×縦5画素の矩形要素でオープニング処理した領域Gを生成することで、縦サイズ<5の画素部を除去した。そして、領域Gを塊ごとに分割し、面積≧500となる領域Hを抽出することで、フィブリル領域を抽出した。
さらに画像Cにて画像≧5となる領域Iを抽出し、領域Iを塊ごとに分割し、面積≧300となる領域Jを抽出した。領域Jに対して、半径1.5画素の円形要素でオープニング処理した後、半径8.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Kを生成し、領域Kに対して、面積≧200となる領域Lを抽出した。領域Lにおいて、面積≧4,000画素の暗部を明部で埋めた領域Mを生成することでフィブリル以外の未開口部の領域を抽出した。
最後に、領域Hと領域Mの和領域Nを生成し、和領域Nの面積(Area_closed)を算出することで、未開口部の面積を求めた。なお、表面開口率の計算は、以下の式により算出した。
表面開口率(%)=(Area_all − Area_closed) / Area_all
上記の方法にて、同じ積層多孔性フィルムの導電層表面において10ヶ所測定し、その平均値を当該サンプルの表面開口率(%)とした。
なお、後述の比較例1については、導電層を形成していないため、多孔性フィルムの両面に上記方法と同様にイオンコートを行い、さらに上記した導電層表面の表面開口率の算出方法と同様にして、多孔性フィルムのそれぞれの面の開口状態(%)(表面開口率に相当)を確認した。
(6)β晶形成能
縦延伸前のキャストシートを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から220℃まで40℃/分で昇温(ファーストラン)し、5分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却(ファーストラン)した。5分保持後、再度40℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値を多孔性フィルムのβ晶形成能とし、下記の通り評価した。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
○:70%以上
△:40%以上、70%未満
×:40%未満
ただし、上記方法において、140〜160℃に頂点を有する融解ピークが存在するが、β晶の融解に起因するものか不明確な場合は、140〜160℃に融解ピークの頂点が存在することと、下記条件で調製したサンプルについて、上記2θ/θスキャンで得られる回折プロファイルの各回折ピーク強度から算出されるK値が0.3以上であることをもってβ晶形成能を有するものと判定する。
下記にサンプル調製条件、広角X線回折法の測定条件を示す。
・サンプル:
フィルムの方向を揃え、熱プレス調製後のサンプル厚さが1mm程度になるよう重ね合わせる。このサンプルを0.5mm厚みの2枚のアルミ板で挟み、280℃で3分間熱プレスして融解・圧縮させ、ポリマー鎖をほぼ無配向化する。得られたシートを、アルミ板ごと取り出した直後に100℃の沸騰水中に5分間浸漬して結晶化させる。その後25℃の雰囲気下で冷却して得られるシートを切り出したサンプルを測定に供する。
・広角X線回折方法測定条件:
上記条件に準拠し、2θ/θスキャンによりX線回折プロファイルを得る。
ここで、K値は、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβ1とする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα1、Hα2、Hα3とする)とから、下記の数式により算出できる。K値はβ晶の比率を示す経験的な値であり、各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)を参考にすればよい。
K = Hβ1/{Hβ1+(Hα1+Hα2+Hα3)}
なお、ポリプロピレンの結晶型(α晶、β晶)の構造、得られる広角X線回折プロファイルなどは、例えば、エドワード・P・ムーア・Jr.著、“ポリプロピレンハンドブック”、工業調査会(1998)、p.135−163;田所宏行著、“高分子の構造”、化学同人(1976)、p.393;ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)や、これらに挙げられた参考文献なども含めて多数の報告があり、それを参考にすればよい。
(7)結晶化温度(Tc)
上記(6)の示差走査熱量計によるβ晶形成能の測定方法と同様の方法で原料のポリプロピレン樹脂を測定し、冷却(ファーストラン)のピーク温度を結晶化温度(Tc)とした。
(8)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定した。
(9)絶縁破壊強度
絶縁破壊電圧をV(kV)、膜厚をT(mm)として、絶縁破壊強度Ea(kV/mm)は下記式(A)によって求められる。
Ea=V/T ・・・(A)
絶縁破壊電圧Vの求め方は、以下の通りである。60cm×70cmの銅板上に60cm×70cmに切り出した測定用の積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルムを置き、その上に50cm×60cmのアルミ蒸着した2軸延伸ポリプロピレンフィルムを置いて、春日電機製SDH−1020P直流式耐圧試験器を接続した。0.5kVをスタート電圧とし、0.01kV/秒の昇圧速度で0.1kVずつ段階的に昇圧していき、各印加電圧において30秒間ホールドしている間の、絶縁破壊個数をそれぞれの印加電圧で数えていった。絶縁破壊個数が10個を超えたときの印加電圧を絶縁破壊電圧とした。測定は5回実施して平均値を算出し、下記の基準で評価を行った
◎:Ea≧180
○:160≦Ea<180
×:Ea<160
(10)出力特性
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)厚みが40μmの正極を直径15.9mmの円形に打ち抜いた。また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を直径16.2mmの円形に打ち抜いた。次に、積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルムを直径24mmに打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルム、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器(宝泉(株)製、HSセル、ばね圧1kgf)に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にプロピレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPF6を濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入して密閉し、電池を作製した。
作製した二次電池について、25℃の雰囲気下で測定を行った。1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、3mAの電流値で2.7Vの電圧まで定電流放電を行った。上記充放電操作を4回行った。次に、1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、3、6、9、12、15mAの電流値で10秒間定電流放電を行い、その電池電圧を測定した。なお、各放電前に1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を実施した。
放電電流値と10秒間定電流放電後の電池電圧との関係(傾き)から抵抗(R1)を算出した。測定は試料を替えて5回行い、平均値を抵抗R0とした。
厚みの異なるサンプルを規格化するために以下の式で算出される値を電池抵抗(R)とし、下記の基準で出力特性を評価した。
電池抵抗(R)=R0/t×18
○:R≦7.5
△:7.5<R≦8.5
×:8.5<R
(11)回生特性
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)厚みが40μmの正極を直径15.9mmの円形に打ち抜いた。また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を直径16.2mmの円形に打ち抜いた。次に、積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルムを直径24mmに打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、積層多孔性フィルムまたは多孔性フィルム、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器(宝泉(株)製、HSセル、ばね圧1kgf)に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にプロピレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPF6を濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入して密閉し、電池を作製した。
作製した二次電池について、25℃の雰囲気下で測定を行った。1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、3mAの電流値で2.7Vの電圧まで定電流放電を行った。上記充放電操作を4回行った。次に、1.5mAの電流値で2.7Vとなるまで定電流放電を行った。続いて、3、6、9、12mAの電流値で10秒間定電流充電を行い、その電池電圧を測定した。なお、各充電前に1.5mAの電流値で2.7Vとなるまで定電流放電を行った。
充電電流値と10秒間定電流放電後の電池電圧との関係(傾き)から抵抗(R1)を算出した。測定は試料を替えて5回行い、平均値を抵抗R0とした。
厚みの異なるサンプルを規格化するために以下の式で算出される値を回生抵抗(R)とし、下記の基準で回生特性を評価した。
回生抵抗(R)=R0/t×18
○:R≦55
△:55<R≦70
×:70<R
(実施例1)
<塗剤Aの調製>
カーボンナノチューブ(直線2層カーボンナノチューブ:サイエンスラボラトリー社製、直径5nm、)を0.1質量%、水99.9質量%をサンプル管に入れ、カーボンナノチューブ水分散体を調製し、超音波破砕機(東京理化器機(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて30分間超音波照射し、均一なカーボンナノチューブ水分散体(カーボンナノチューブ固形分濃度0.1質量%)を得た。
つづいて上記で作成したカーボンナノチューブ水分散体を39.5質量%、熱可塑性ポリエステル樹脂水分散体(高松油脂(株)製、ペスレジンA−120、固形分濃度25質量%)を1.2質量%、水59.3質量%を混合攪拌し、塗剤Aとした。
<積層多孔性フィルムの作製>
ポリプロピレン樹脂として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.45質量部、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、ベヘン酸カルシウムを0.05質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーからL/D=41の二軸押出機に原料供給し、304℃で溶融混練を行い、ダイから吐出して、チップの断面積が1.1mm2となるように引き取り、10℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットして結晶化温度(Tc)が130.6℃となるポリプロピレン組成物(あ)のチップを得た。
つづいて、ポリプロピレン樹脂として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製FLX80E4を63.8質量部、共重合PE樹脂としてエチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部と、分散剤としてCEBC(JSR(株)製 DYNARON6200P)を6質量部と、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010およびIRGAFOS168を各々0.1質量部とがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、230℃で溶融混練を行った。そして、溶融混練された樹脂をストランド状にダイから吐出して、チップの断面積が2.8mm2となるように引き取り、15℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(い)を得た。
さらに、ポリプロピレン組成物(あ)を89.9質量部、ポリプロピレン組成物(い)を10質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010を0.1質量部が、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、230℃の樹脂温度で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、15℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(う)を得た。得られたポリプロピレン組成物(う)のチップの断面積は4.8mm2で、結晶化温度は130.8℃であった。
得られたポリプロピレン組成物(う)を単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて118℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、124℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.3倍延伸を行った。つづいて、バーコーターへフィルムを搬送し、フィルムの片面にコロナ放電処理を施した。その後、コロナ放電処理面に塗剤Aをマイヤーバーにて塗工した。さらに塗布後のフィルム端部をクリップで把持して152℃で幅方向に7.5倍延伸し、続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に163℃で弛緩率15%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま163℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み20μmの積層多孔性フィルムを得た。
(実施例2)
<塗剤Bの調製>
ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸水溶液(ヘレウス社製、クレビオスPH1000、固形分濃度1%)を75.0質量%、エポキシ架橋剤(アデカ製、アデカレジンEM−101−50、固形分濃度50質量%)を0.5質量%、水24.5質量%を混合攪拌し、塗剤Bとした。
<積層多孔性フィルムの作製>
塗剤Aの代わりに塗剤Bを用い、所望の厚みを得るためにメイヤーバーの番手を変更した以外は実施例1の積層多孔性フィルムの作製と同様の方法で、厚み20μmの積層多孔性フィルムを得た。
(実施例3)
<塗剤Cの調製>
窒素ガス雰囲気下かつ常温(25℃)下で、容器1に、水200質量部、過硫酸アンモニウム1質量部を仕込み、これを85℃に昇温し、溶解させ、85℃の溶液1を得た。常温(25℃)下で、容器2に、スチレンスルホン酸リチウム100質量部、過硫酸アンモニウム3質量部、水100質量部添加し、溶液2を得た。窒素ガス雰囲気下で、溶液1を反応器に移し、反応器内の溶液の温度を85℃に保ちつつ、溶液2を溶液1に4時間かけて連続滴下せしめた。滴下終了後、更に3時間攪拌したのち、25度まで冷却し、ポリスチレンスルホン酸リチウムを得た。
つづいて、上記ポリスチレンスルホン酸リチウムを2.5質量%、アクリル系樹脂(DIC株式会社製、バーノックWE−304、固形分濃度45質量%)を16.5質量%、水81.0質量%を混合攪拌し、塗剤Cとした。
<積層多孔性フィルムの作製>
塗剤Aの代わりに塗剤Cを用い、所望の厚みを得るためにメイヤーバーの番手を変更した以外は実施例1の積層多孔性フィルムの作製と同様の方法で、厚み20μmの積層多孔性フィルムを得た。
(比較例1)
実施例1において、塗剤Aを塗工しなかったこと以外は、実施例1と同様にして厚み20μmの多孔性フィルムを得た。なお、導電層表面の表面開口率と同様にして求めた多孔性フィルムの開口状態(表面開口率に相当)は、多孔性フィルムの両面とも70%であった。
(比較例2)
実施例1において、縦延伸後に塗剤Aの塗工を行わず多孔性フィルムを製造し、得られた多孔性フィルムに塗剤Aを塗工し、120℃のオーブンで1分間乾燥させて厚み20μmの積層多孔性フィルムを得た。
実施例1〜3、比較例1、2で得られた積層多孔性フィルムおよび多孔性フィルムの評価結果を表1に示す。本発明の要件を満足する実施例では表面開口性に優れ、表面比抵抗が好ましい値を示すため、出力特性や回生特性に優れる。一方、比較例では、表面開口性に劣り、表面比抵抗が高いため、出力特性と回生特性のバランスに劣る。