以下に添付図面を参照して、搬送装置、モータ制御方法、画像読取装置および画像形成装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る搬送装置の一例の構成を模式的に示す模式図である。図1において、搬送装置300aは、複数枚の用紙が集積された用紙束(図示しない)から1枚の用紙330を分離して送り出す分離機構と、分離機構から送り出された用紙330を被搬送物として搬送する搬送機構とを備える。また、図1に示される搬送装置300aは、例えばCIS(Contact Image Sensor)を用いた画像読取部310を備え、用紙330の画像を画像読取部310で読み取って出力する画像読取装置の一部として示されている。
搬送装置300aは、用紙330と直接的に接触する部材として、フィードローラ324と、分離ローラ325と、第1搬送ローラ306と、第2搬送ローラ307とを含む。なお、図1では省略されているが、搬送装置300aは、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307に対し、通過する用紙330を挟む位置にそれぞれ第1加圧ローラおよび第2加圧ローラが設けられる。すなわち、第1搬送ローラ306および第1加圧ローラの組により第1の搬送部が構成され、第1の搬送部は、第1搬送ローラ306と第1加圧ローラとで用紙330を挟んで用紙330を搬送する。同様に、第2搬送ローラ307および第2加圧ローラの組により第2の搬送部が構成される。
また、図1において、画像読取部310が第1搬送ローラ306と第2搬送ローラ307との間に配置される。
図1において、搬送装置300aは、搬送機構に含まれる第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307を駆動する搬送駆動伝達系の構成として、減速ギア付プーリ302と、プーリ303および304と、タイミングベルト305とを含む。プーリ303および304は、それぞれ第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307に接続される。
この搬送駆動伝達系は、図示されないモータのモータギア軸301の動力が減速ギア付プーリ302のギア部に伝達される。減速ギア付プーリ302は、モータギア軸301から伝達された動力を、タイミングベルト305を介してプーリ303および304に伝達する。プーリ303は、第1搬送ローラ306を駆動し、プーリ304は、第2搬送ローラ307を駆動する。すなわち、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307は、共通の動力により駆動される。
図1の構成では、搬送駆動伝達系は、モータギア軸301を右回り(時計回り)に回転させることで、プーリ303および304がそれぞれ左回り(反時計回り)に回転し、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307により用紙330を図の左方向に向けて搬送する。搬送装置300aは、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の外径を異ならせることで、第1搬送ローラ306による第1の線速と、第2搬送ローラ307による第2の線速とを異ならせることができる。この例では、搬送装置300aは、搬送方向の下流側のローラ、すなわち第2搬送ローラ307の外径を第1搬送ローラ306の外径より大きく設計し、第2の線速が第1の線速よりも速くなるように構成される。
さらに、図1において、搬送装置300aは、分離機構に含まれるフィードローラ324を駆動する分離駆動伝達系の構成として、減速ギア320と、アイドラギア321と、フィードローラギア322と、ワンウェイクラッチ323とを含む。フィードローラギア322は、ワンウェイクラッチ323を介してフィードローラ324に接続される。
ワンウェイクラッチ323は、フィードローラ324およびフィードローラギア322と同軸に設けられ、フィードローラギア322からフィードローラ324への動力の伝達の接続を、フィードローラ324に対する負荷に応じて制御する。より具体的には、ワンウェイクラッチ323は、フィードローラ324に対して、フィードローラギア322による駆動方向と同方向に、予め定められた値を超えるトルクが掛かった場合に、フィードローラギア322からフィードローラ324への動力の伝達を切断する。ワンウェイクラッチ323としては、例えば、捻りコイルばねを利用したものを用いることができる。
分離駆動伝達系において、モータギア軸301の動力が減速ギア320に伝達されて回転速度が減速され、アイドラギア321を介してフィードローラギア322に伝達される。フィードローラギア322は、ワンウェイクラッチ323を介してフィードローラ324を駆動する。なお、フィードローラ324は、線速が第1搬送ローラ306による第1の線速よりも遅くなるように設計される。
分離ローラ325は、分離ローラ325とフィードローラ324とで通過する用紙330を挟む位置に設けられ、用紙330に対して、フィードローラ324の回転方向に対抗する方向の負荷を与えるように構成されている。分離ローラ325は、回転するローラに限らず、分離パッドなど固定的な部材を用いてもよい。分離ローラ325とフィードローラ324とにより、分離部が構成される。
なお、この図1に例示される搬送装置300aは、用紙330が直線的に搬送される、所謂ストレート搬送パス方式が適用されているものとする。すなわち、搬送装置300aは、フィードローラ324、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の用紙330に接する各接平面が同一平面上となるように構成される。
このような構成において、フィードローラ324よりも上流側(右側)に設けられるピックアップローラにより、複数枚の用紙が重積された用紙束から用紙330がピックアップされて図の左方向に向けて送り出され、フィードローラ324に到達する。このとき、各用紙間の摩擦力などにより、複数枚の用紙330が同時にピックアップされ送り出されることがある。フィードローラ324に到達した複数枚の用紙330は、分離ローラ325により1枚の用紙330が分離されてフィードローラ324から送り出される。
フィードローラ324から送り出された用紙330は、そのまま第1搬送ローラ306に到達し、第1搬送ローラ306により図の左方向に向けて搬送される。第1搬送ローラ306に搬送された用紙330は、画像読取部310上を通過しつつ第2搬送ローラ307に到達し、さらに左方向に向けて搬送される。
図2および図3を用いて、第1の実施形態に係る搬送装置300aにおける用紙330の搬送状態についてより詳細に説明する。図2を用いて、第1搬送ローラ306、第2搬送ローラ307およびフィードローラ324の位置関係について説明する。図2において、用紙330は、図の右側から左側に向けて搬送される。搬送方向の上流側から下流側に向けて、ピックアップローラ342、フィードローラ324、第1搬送ローラ306、第2搬送ローラ307の順に各ローラが配置される。第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の中間の位置posは、画像読取部310が配置される位置であって、用紙330のこの位置posでの搬送速度を一定とするように制御を行う。
また、第1搬送ローラ306に対して所定の圧力が加わるように、第1加圧ローラ340が配置される。第1搬送ローラ306と第1加圧ローラ340とを含んで第1の搬送部が構成される。第1の搬送部において、第1搬送ローラ306と第1加圧ローラ340との間に挟まれた用紙330が、第1搬送ローラ306の回転方向に従い搬送される。第2搬送ローラ307についても同様に、第2の搬送ローラ307に対して所定の圧力が加わるように、第2加圧ローラ341が配置され、第2の搬送部が構成される。
図中、距離L1は、第1搬送ローラ306から位置posまでの距離、距離L2は、第1搬送ローラ306から第2搬送ローラ307までの距離、距離L3は、フィードローラ324から第1搬送ローラ306までの距離をそれぞれ示す。また、用紙330の長さLは、距離L2およびL3に対して、L>L2+L3であるものとする。
さらに、フィードローラ324の線速を速度v1、第1搬送ローラ306の線速を速度v2、第2搬送ローラ307の線速を速度v3とする。ここで、v1<v2<v3とし、搬送方向の上流側から下流側に向けて、各ローラの線速が順次高速になるようにする。
なお、以下では、速度v1、速度v2および速度v3を、それぞれ線速v1、線速v2および線速v3として記述する。また、用紙330は、例えば第1の搬送部においては、第1搬送ローラ306と第1加圧ローラ340とに挟まれて搬送されるが、以下では、特に記載のない場合、これを、単に第1搬送ローラ306により搬送される、などと記述する。
図3を用いて、第1の実施形態に係る搬送装置300aにおける用紙330の搬送動作について概略的に説明する。図3(a)は、用紙束331のうち最も下の用紙330がピックアップローラ342によりピックアップされ、フィードローラ324により図の左方向に向けて送り出された状態を示す。この、用紙330がフィードローラ324から送り出されて第1搬送ローラ306に到達するまでの状態を、状態Aとする。状態Aにおいて、用紙330は、分離部において、フィードローラ324により、分離ローラ325による分離負荷を受けながら搬送される。状態Aにおける用紙330の搬送速度Sv1は、フィードローラ324の線速v1に対して分離負荷による用紙330のスリップ分だけ遅くなる。
図3(b)は、用紙330が第1搬送ローラ306に到達し、第1搬送ローラ306と第1加圧ローラ340とに噛み込まれた状態を示す。この、用紙330が第1搬送ローラ306と第1加圧ローラ340とに噛み込まれた状態を、状態Bとする。ここで、線速v1<線速v2であるため、用紙330には、搬送方向に対して逆方向に引っ張られる力が働く。この、搬送方向に対して逆方向に引っ張られる力を、バックテンションFbと呼ぶ。状態Bでは、用紙330の搬送速度は、状態Aの搬送速度Sv1から、搬送速度Sv1に対して第1搬送ローラ306の線速v2に対してバックテンションFbによる用紙330のスリップ分だけ遅い搬送速度Sv2に変化する。
また、状態Bでは、用紙330がフィードローラ324および第1搬送ローラ306の2つのローラに掛かるため、分離部による分離負荷の伝達経路が状態Aに対して変わり、フィードローラ324の線速v1に対する第1搬送ローラ306の線速v2の比の逆の値に従った、第1搬送ローラ306を駆動するモータギア軸301に対する力が発生する。この力は、モータギア軸301の回転方向に対して逆の方向に加えられる力であり、メカ負荷トルクと呼ぶ。
図3(c)は、第1搬送ローラ306により搬送される用紙330が位置posを通過して第2搬送ローラ307に到達するまでの状態(状態Cとする)を示す。状態Cでは、用紙330は第1搬送ローラ306のみで搬送され、フィードローラ324は、用紙330に引っ張られて連れ回り状態となる。また、分離部により生じるバックテンションFbの影響で、第1搬送ローラ306において用紙330のスリップが発生する。そのため、用紙330の搬送速度Sv2は、第1搬送ローラ306の線速v2よりも小さくなる。
なお、状態Cにおいて、用紙330の先端が位置posを通過した時点で、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが開始される。
図3(d)は、用紙330が第2搬送ローラ307に噛み込まれた状態を示す。この状態では、用紙330は、第2搬送ローラ307、第1搬送ローラ306およびフィードローラ324それぞれに掛かっている。この、用紙330が第2搬送ローラ307、第1搬送ローラ306およびフィードローラ324に掛かって搬送される状態を、状態Dとする。状態Dでは、用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の2本のローラにより、分離部によるバックテンションFbを受けながら搬送されている。
ここで、状態Dでは、用紙330の搬送が第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の2本のローラにより行われているため、上述した状態Cの第1搬送ローラ306の1本のローラにより搬送されている場合に比べてスリップは減少する。そのため、状態Dにおける用紙330の搬送速度Sv3は、状態Cにおける搬送速度Sv2と、第2搬送ローラ307の線速v3との間の値となる。
図3(e)は、用紙330の後端が分離部を抜けた状態(状態Eとする)を示す。状態Eでは、用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の2本のローラにより搬送される。また、状態Eでは、分離部によるバックテンションFbが無くなっているため、用紙330の搬送速度Sv4は、状態Dにおける搬送速度Sv3より大きく、且つ、第1搬送ローラ306の線速v2と第2搬送ローラ307の線速v3との間の速度となる。例えばこの速度は、搬送力の大きな第1搬送ローラ306の線速v2に近い速度となる。
なお、上述したが、第2搬送ローラ307の線速v3は、第1搬送ローラ306の線速v2よりも大きく設定される。これは、バックテンションFbが無い状態でv2>v3であると、用紙330が第2搬送ローラ307に噛み込まれた際に、第2搬送ローラ307と第1搬送ローラ306との間で用紙330に撓みが生じ、用紙330の後端が搬送ローラ306を抜けた後に、この撓みが解消されるまで用紙330が搬送されなくなる事態を防止するためである。第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の線速差は、ローラ外径の公差で逆転しない極僅かの範囲で決定すると好ましい。
また、第1搬送ローラ306への加圧力は、第2搬送ローラ307への加圧力よりも大きなものとすることが好ましい。このように第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307に対する加圧力を設定することで、第1搬送ローラ306の1本で搬送を行う状態における用紙330の滑りを減らし、用紙330の第2搬送ローラ307への突入の際のショックジッターを抑制することができる。
図3(f)は、用紙330の後端が第1搬送ローラ306を抜けた状態(状態Fとする)を示す。この状態Fでは、用紙330は、第2搬送ローラ307のみで搬送される。この場合、第2搬送ローラ307に対するバックテンションが無く用紙330のスリップが発生しないので、用紙330の搬送速度Sv5は、第2搬送ローラ307の線速v3と等しくなり、状態Eの搬送速度Sv4よりも大きくなる。
状態Fにおいて、用紙330の後端が位置posを抜けると、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが終了する。
上述のように、フィードローラ324、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307それぞれの線速v1、v2およびv3の関係がv1<v2<v3であるものとする。この場合において、用紙330にスリップが生じる状態での各状態A〜Fにおける各搬送速度Sv1〜Sv5の関係は、Sv1>Sv2>Sv3>Sv4>Sv5となる。
図4は、上述した各状態A〜Fにおける、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307を共通に駆動するモータ(図示しない)の各状態および用紙搬送速度Svの変化の例を示す。なお、図4(a)〜図4(e)において、横軸は時間を示し、時間t0およびt1は、それぞれ、用紙330が位置posに掛かった時間および位置posから抜ける時間を示す。上述の図3(a)〜図3(f)を参照しながら、モータの各状態および用紙搬送速度Svについて説明する。
図4(a)は、モータのモータ軸(モータギア軸301)におけるメカ負荷トルク(N・m)の時間変化の例を示す。図4(a)において、状態Aにおけるメカ負荷トルクをトルクT0とする。状態AにおけるトルクT0は、分離部のみによる負荷によるトルクであり、これを初期状態でのメカ負荷トルクとする。用紙330が第1搬送ローラ306に突入すると、状態Aが状態Bに遷移する。状態Bにおいて、用紙330の第1搬送ローラ306へのメカ負荷トルクは、用紙330の先端の第1搬送ローラ306への突入に応じたピークが出現する。より詳細には、この状態Bにおけるピークは、用紙330の第1搬送ローラ306への突入による変化と、分離負荷が用紙330を介して第1搬送ローラ306に伝達されることによるメカ負荷トルクの変化とを合計した挙動に起因するものである。
状態Bにおいて用紙330が第1搬送ローラ306に噛み込まれると、状態Cに遷移され、用紙330が第1搬送ローラ306により搬送される。状態Cに遷移してから所定の時間t0後に、用紙330の先端が位置posに到達し、画像読取部310による用紙330の画像の読み出しが開始される。
状態Cでは、用紙330は、分離部によるバックテンションFbを受けながら搬送され、メカ負荷トルクは、トルクT0からトルクT1に上昇する。その後、用紙330の先端が第2搬送ローラ307に突入し、この突入により発生する衝撃負荷でメカ負荷トルクに小さなピークが出現し、状態Cから状態Dに遷移する。
状態Dでは、用紙330は、分離部によるバックテンションFbを受けながら、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307により搬送される。ここで、用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306との間に張架された状態となり、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306は、用紙330を介して互いに引っ張り合う状態となる。しかしながら、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307は、共通するモータで駆動されているため、引張力は相殺されて、メカ負荷トルクの上昇とはならない。そのため、状態Dにおいて、メカ負荷トルクは、状態Cと同じトルクT1となる。
状態Dから状態Eに遷移する際に、用紙330の後端が分離部を抜けた直後、少なくともワンウェイクラッチ323の伝達余裕分の時間は、バックテンションFbが無くなりメカ負荷トルクが略0となる。その後、状態Eにおいて次の用紙330がピックアップローラ342によりピックアップされ当該次の用紙330が分離部に突入すると、メカ負荷トルクが状態Aと同様のトルクT0となる。
用紙330の後端が第1搬送ローラ306を抜けると、メカ負荷トルクに小さな落ち込みが出現し、状態Eから状態Fに遷移する。状態Fに遷移してから所定の時間を経過後の時間t1において用紙330の後端が位置posを抜け、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが終了する。すなわち、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りは、時間t0から時間t1の間、各状態C〜状態Fを跨いで行われる。
図2で示した各距離L1〜L3と、時間軸で表した各状態A〜Eとを対応付けると、用紙330の例えば先端の移動距離は、状態Cでは距離L2、状態Eでは距離L3、状態Fでは、位置posに到達するまでの距離L1となる。また、用紙330の移動距離は、状態Dでは、距離(L−L2−L3)となる。
図4(b)は、用紙330の搬送速度Svの変化の例を示す。なお、図4(b)では、各状態A〜F間での速度調整を行わない状態の各搬送速度Sv1〜Sv5の例を示している。上述したように、用紙330は、状態Aにおいては、フィードローラ324により搬送速度Sv1で搬送され、状態Aから状態Bを介して状態Cに遷移する際に、搬送速度Sv1が搬送速度Sv2に増加する。その後、用紙330の搬送速度は、状態が状態C〜Fに遷移するのに伴い、搬送速度Sv2〜Sv5に順次増加する。
ここで、状態C〜状態Fを跨いで、時間t0〜t1の間、位置posにおいて画像読取部310による用紙330の画像の読み出しが行われている。画像読取部310による画像の読み取りは、所定の時間間隔でラインを順次読み取ることで行われる。そのため、時間t0〜t1の間は、搬送速度Svが一定値である必要がある。例えば、各状態C〜Fの搬送速度Sv2〜Sv5を、画像読取部310による読み取り時間が最も長い状態Dの搬送速度Sv3に合わせて制御する。
図4(c)は、モータの回転速度N(rpm)の時間変化の例を示す。モータの回転速度Nは、モータが備えるエンコーダの出力に基づき、モータを駆動するモータ駆動部(後述する)により一定速度N0に制御されている。ここで、モータの回転速度Nは、状態Aから状態B、さらには、状態Bから状態Cへの遷移時と、状態Cから状態Dへの遷移時と、状態Dから状態Eへの遷移時と、状態Eから状態Fの遷移時とにおいて、メカ負荷トルクの変動に応じて変動する。
より具体的には、モータの回転速度Nは、状態Aから状態Cの遷移時、すなわち状態Bにおいて、メカ負荷トルクの上昇に伴い速度N0から一旦低下し、フィードバック制御のレスポンス時間の経過後に、フィードバック制御により元の速度N0に戻り安定する。状態Cから状態Dの遷移時においても同様に、モータの回転速度Nは、メカ負荷トルクの上昇に伴い一旦低下し、その後、フィードバック制御のレスポンス時間の経過後に、フィードバック制御により元の速度v0に戻り安定する。
一方、状態Dから状態Eへの遷移時、および、状態Eから状態Fへの遷移時において、モータの回転速度Nは、メカ負荷トルクの低下に伴い一旦上昇し、その後、フィードバック制御のレスポンス時間の経過後に、フィードバック制御により元の速度v0に戻り安定する。
図4(d)は、モータの回転位置偏差Pの時間変化の例を示す。モータの回転位置偏差Pは、例えば、モータが備えるエンコーダの出力によるパルス数を単位時間毎に順次比較した差分に基づく。回転位置偏差Pは、モータの回転速度Nが一定であれば0となる。モータの回転位置偏差Pは、図4(c)に示した回転速度Nの時間変化と同様の変化となる。
図4(e)は、モータを駆動するための駆動信号の出力の時間変化の例を示す。この例では、後述するモータ駆動部は、モータが備えるエンコーダの出力に基づきデューティが制御されたPWM(Pulse Width Modulation)信号によりモータを駆動する。そのため、図4(e)では、モータに対する駆動出力として、PWM信号を積分した電圧値Vを用いている。
図4(e)において、状態Aにおける駆動信号出力を電圧V0とする。状態B〜Dでは、図4(a)に示されるようにメカ負荷トルクが状態Aよりも大きくなるのに対して、モータの回転速度Nを一定に保つ必要がある(図4(c)参照)。例えば、メカ負荷トルクがピーク状に上昇する状態Bでは、モータ駆動部でのフィードバック制御により、駆動信号出力が電圧V0よりも高い電圧V2をピークとするように制御される。
また、状態CおよびDでは、駆動信号出力が電圧V2よりも低く、且つ、電圧V0よりも高い電圧V1に制御される。このとき、状態Cから状態Dへの遷移時において、メカ負荷トルクのピーク状の低下に応じて、駆動信号出力が電圧V1よりも高いピークに制御される。さらに、状態Dから状態Eの移行時においても同様に、駆動信号出力は、メカ負荷トルクの低下に伴い一旦大幅に低下し、その後、フィードバック制御のレスポンス時間の経過後に、元の電圧V0に戻り安定する。
上述した図4(a)と図4(e)とを比較すると、モータのメカ負荷トルクの変化は、モータ駆動部から出力される駆動信号による電圧値の変化と対応することが分かる。
(第1の実施形態によるモータ駆動方法)
次に、第1の実施形態によるモータ駆動方法について説明する。第1の実施形態においては、用紙330に対する搬送方向に向けた搬送力(搬送力Faとする)と、搬送方向と逆方向に働く抵抗力であるバックテンションFbと、用紙330が搬送に追従できない度合いを示す値との関係を利用して、モータの駆動を制御する。
用紙330が第1搬送ローラ306や第2搬送ローラ307の回転に対して滑っている場合に、用紙330が搬送に追従できなくなると考えられる。例えば、図3(c)で示した状態Cにおいて、用紙330が第1搬送ローラ306の回転に対して滑ると、用紙330の搬送速度Sv2が、第1搬送ローラ306の搬送速度v2よりも遅くなる。これは、用紙330がローラによる搬送に追従できていないことを意味している。以下では、この、被搬送物(用紙330)が搬送に追従できない度合いを、滑り率と呼ぶ。
図5および図6を用いて、搬送力Fa、バックテンションFbおよび滑り率との関係について、より具体的に説明する。滑り率は、被搬送体(例えば用紙330)を1本のローラで搬送する場合と、2本のローラで搬送する場合とで異なる。
図5は、被搬送物を1本および2本のローラで搬送する様子を模式的に示す。図5(a)は、被搬送物360を搬送ローラ350および352の2本のローラを用いて搬送する例を示し、図5(b)は、被搬送物360を搬送ローラ350の1本のローラで搬送する例を示す。なお、図5(a)および図5(b)において、搬送方向を図の右側から左側に向けた方向とする。
図5(a)において、被搬送物360は、搬送ローラ350および加圧ローラ351に挟まれて、搬送ローラ350の回転に従い搬送されると共に、搬送方向に対して下流側に設けられた搬送ローラ352および加圧ローラ353に挟まれて、搬送ローラ352の回転に従い搬送される。また、図5(b)において、被搬送物360は、搬送ローラ350および加圧ローラ351に挟まれて、搬送ローラ350の回転に従い搬送される。
図5(a)および図5(b)の例において、被搬送物360に対して、搬送力Faが搬送方向に向けて働き、バックテンションFbが搬送方向と逆方向に向けて働く。したがって、バックテンションFbを受けている被搬送物360を搬送力Faで搬送すると、搬送ローラと被搬送物360との間に滑りが発生し、被搬送物360の搬送速度が搬送ローラの線速よりも遅くなる。
搬送力Faは、予め定められた値を用いて計算にて求めることができる。例えば、図5(b)を参照し、加圧ローラ351が搬送ローラ350の方向に加える加圧力をPr、搬送ローラ350と被搬送物360との間の摩擦係数をμとすると、搬送ローラ350による被搬送物360に対する搬送力Faは、下記の式(1)にて求められる。加圧力Prおよび摩擦係数μは、装置の仕様や構造などにより決まる値であるため、搬送力Faは、既知の値を用いて予め算出できる。
Fa=Pr×μ …(1)
なお、2本ローラ搬送の場合の搬送力Faは、各ローラによる搬送力Faを加算した値となる。
ここで、下記の式(2)に示すように、バックテンションFbに対する搬送力Faの比αを求める。なお、詳細は後述するが、バックテンションFbは、モータに対する駆動出力(電圧V)と、モータの回転速度Nとから計算にて推定することができる。
α=Fa/Fb …(2)
図6は、この比αと、滑り率βとの関係の例を示す。図6において、縦軸が滑り率βであり、パーセンテージで示されている。横軸は、比αである。滑り率βは、例えば、所定時間内に搬送されるべき理想距離と、実際に搬送された距離との差分を理想距離で除した値に基づく。滑り率βは、比αに対して反比例に類似した変化を示し、比αが大きくなると0に近付き、比αが小さくなるに連れ増加して所定の値に近付くように変化する。
図6において、特性線400は、搬送ローラ350の1本のローラを用いて搬送した場合の例を示す。また、特性線401は、搬送ローラ350および352の2本のローラを用いて被搬送体360を搬送した場合の例を示す。このように、比αと滑り率βとの関係は、被搬送体360を1本のローラにより搬送するか、2本のローラを用いて搬送するかによっても異なる。
滑り率βは、比αの関数として、β=f(α)の形で表すことができる。第2の搬送である搬送を1本のローラにより行う場合(1本ローラ搬送と呼ぶ)の滑り率β1と、第1の搬送である2本のローラにより行う場合(2本ローラ搬送と呼ぶ)の滑り率β2とを、それぞれ下記の式(3)および式(4)のように表すものとする。
β1=f1(α) …(3)
β2=f2(α) …(4)
一例として、滑り率βを1%以下に抑えたい場合、図6を参照し、1本ローラ搬送の場合には比α>7とし、2本ローラ搬送の場合には比α>5とする。上述したように、搬送力Faは、予め算出できる値であり、バックテンションFbは、モータの駆動出力信号の電圧Vと、回転速度Nとから算出可能である。
そこで、第1の実施形態に係る搬送装置300aは、図6に特性線400および401で示した、1本ローラ搬送および2本ローラ搬送それぞれの場合の滑り率βと比αとの各関係を、例えば予め実験的に求め、テーブルとして搬送装置300aが有するメモリに記憶しておく。そして、搬送装置300aは、搬送力Faと、電圧Vおよび回転速度Nを用いて算出したバックテンションFbとから算出した比αに基づきこのテーブルを参照して、滑り率βを求める。
なお、以下では、1本ローラ搬送の場合の滑り率βと比αとの関係を示すテーブルを「1本ローラ搬送用テーブル」と呼び、2本ローラ搬送の場合の滑り率βと比αとの関係を示すテーブルを「2本ローラ搬送用テーブル」と呼ぶ。
ここで、図3を用いて説明したように、搬送装置300aは、用紙330の搬送を、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の何れかを用いて行う1本ローラ搬送と、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の両方を用いて行う2本ローラ搬送とが混在する。より具体的には、図3(b)および図3(c)に示す状態Bおよび状態Cと、図3(f)に示す状態Fは、1本ローラ搬送である。一方、図3(d)および図3(e)に示す状態Dおよび状態Eは、2本ローラ搬送となる。
したがって、第1の実施形態に係る搬送装置300aは、図4を用いて説明したモータの各状態に基づき現在の状態が状態B〜Fの何れであかを判定し、判定結果に応じて、メモリに記憶される、1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを選択する。そして、搬送装置300aは、選択された滑り率βおよび比αの関係を比αに基づき参照して、現在の状態に応じた滑り率βを求める。モータのフィードバック制御をこの滑り率βに基づく補正値を用いて行うことで、用紙330の滑りの影響が抑制された制御を実現することができる。
滑り率βの算出方法について説明する。先ず、モータ駆動出力の電圧Vについて、電圧Vは、式(5)に示すように、モータの回転数による逆起電圧V01と、メカ負荷トルクに対応して仕事をする電圧V02との合計である(モータの等速回転中)。V2はメカ負荷トルクT分の電圧換算値である。
V=V01+V02 …(5)
逆起電圧V01は、下記の式(6)に示すように、逆起電圧定数keに従いモータ回転角速度ωに比例する。
V01=ω×ke …(6)
モータ回転速度N(rpm)とモータ回転角速度ω(rad/s)との関係は、下記の式(7)で表される。
ω=(N/60)×2π …(7)
モータに対するメカ負荷トルク(トルクT)について、トルクTは、下記の式(8)に示すように、トルク定数ktと、モータに流れる電流I(A)との積で表される。
T=kt×I …(8)
また、モータの巻き線抵抗R(Ω)から、上述した、メカ負荷トルク相当の駆動電圧である電圧V02は、下記の式(9)にて表される。
V02=R×I …(9)
よって、式(8)および式(9)から、電圧V02に関し、下記の式(10)が導出される。
V02=R×T/kt …(10)
この式(10)と、上述の(6)とから、上述した式(5)は、下記の式(11)のように表すことができる。
V=V01+V02=ω×ke+R×T/kt …(11)
したがって、求めるメカ負荷トルク(トルクT)は、式(11)をトルクTについて解いて、下記の式(12)で表される。
T=kt(V−ω×ke)/R …(12)
次に、バックテンションFbの算出方法について説明する。バックテンションFbは、下記の式(13)によりメカ負荷トルク(トルクT)に変換される。なお、式(13)において、値Dは、搬送ローラ350の外径Φ(図5(b)参照)を示す。
T=Fb×(D/2) …(13)
したがって、バックテンションFbは、上述した式(12)に基づき下記の式(14)により表される。
Fb=2T/D=2(kt(V−ω×ke)/R)/D …(14)
式(5)〜式(14)の結果に基づき、滑り率βの算出方法について説明する。滑り率βは、下記の式(15)に示すように、比αの関数であり、比αは、上述したように、式(16)により定義される。
β=f(α) …(15)
α=Fa/Fb …(16)
ここで、搬送力Faは、固定値であり、バックテンションFbは、式(14)で示されるように、メカ負荷トルク(トルクT)の関数である。したがって、滑り率βは、式(15)に基づき下記の式(17)のように表すことができる。
β=f(T) …(17)
トルクTは、上述の式(12)に示したように、モータの駆動出力の電圧Vと、モータ回転角速度ωとを計測することで求めることができる。また、モータ回転角速度ωは、式(7)に示したように、モータ回転速度Nから求めることができる。したがって、バックテンションFbは、電圧Vおよび回転速度Nを計測することで計算でき、搬送力Faが固定値であることから、式(16)によりバックテンションFbから比αが算出できる。
算出した比αに基づき、上述した式(3)および式(4)に従い滑り率βと比αとの関係を記憶したテーブルを参照することで、メカ負荷トルク(トルクT)の関数としての滑り率β(T)を取得することができる。
滑り率βを考慮したモータの駆動制御について説明する。モータの回転速度Nに対して滑り率βを補正値として用いて補正を行う場合、補正後の目標回転速度N1(T)は、下記の式(18)に示すようになる。
N1(T)=N×(1+β(T)/100) …(18)
また、モータによる目標送り量Fdに対し滑り率βを補正値として用いて補正を行う場合、補正後の目標送り量Fd1(T)は、下記の式(19)に示すようになる。
Fd1(T)=Fd×(1+β(T)/100) …(19)
(第1の実施形態に適用可能なモータ制御装置)
図7は、第1の実施形態に適用可能なモータ制御装置の機能を示す一例の機能ブロック図である。図7において、モータ制御装置10は、駆動部12と、検出部16と、判定部17と、計算部18と、メモリ19とを含む。検出部16、判定部17および計算部18は、CPU(Central Processing Unit)上で動作するプログラムにより実現してもよいし、これらのうち一部また全部を、互いに協働するハードウェアにより構成してもよい。
図7において、搬送ローラ14および15(図中ではそれぞれTR1およびTR2と記述)は、上述した第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307にそれぞれ対応する。また、伝達系13は、上述した減速ギア付プーリ302と、プーリ303および304と、タイミングベルト305とを含む。モータ(M)11は、例えばモータプリドライバとモータを駆動するための駆動素子(FET:Field-Effect Transistor)とが一体化されたDCモータであって、モータギア軸301を回転軸とする。
駆動部12は、モータ11を駆動するための駆動信号を生成し、駆動出力としてモータ11に供給する。駆動信号は、例えばPWM信号であり、デューティに応じてモータ11の回転トルクを制御する。駆動部12は、生成した駆動信号を、モータ11と、検出部16と、計算部18とに供給する。
モータ11は、単位回転角毎にパルスを出力するエンコーダを備える。このエンコーダの出力に含まれるパルスを単位時間毎に計数することで、モータ11の回転速度Nを知ることができる。また、このパルスを累積することで、モータ11の回転量を知ることも可能である。エンコーダの出力に基づくモータ11の回転速度Nを示す情報が、駆動部12および計算部18に供給される。駆動部12は、供給された回転速度Nの情報に基づき、モータ11の回転速度Nが一定になるようにフィードバック制御の計算を行って駆動信号を生成する。これにより、モータ11の動作がフィードバック制御される。
検出部16は、駆動部12から供給される駆動信号からモータ駆動出力の電圧Vを求め、電圧Vに基づきモータ11のメカ負荷トルクの変動を検出する。検出結果は、判定部17に供給される。判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、用紙330が一本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れにより搬送されているかを判定する。例えば、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、用紙330の現在の搬送状態が図3で説明した状態A〜Fの何れであるかを判定する。そして、判定部17は、搬送状態が状態Cおよび状態Fの何れかであれば1本ローラ搬送であり、状態Dおよび状態Eの何れかであれば2本ローラ搬送であるとする。判定部17は、搬送状態の状態Bをさらに1本ローラ搬送に含んでもよい。判定部17による判定結果は、計算部18に供給される。
メモリ19は、上述の、図6に特性線400および401で示した、1本ローラ搬送および2本ローラ搬送それぞれの場合の滑り率βと比αとの各関係が、予め1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルとしてそれぞれ記憶される。また、メモリ19は、比αすなわちバックテンションFbおよび搬送力Faを算出するための各固定値が予め記憶される。
計算部18は、駆動部12から供給された駆動信号からモータ駆動出力の電圧Vを求め、電圧Vと、モータ11から供給された回転速度Nを示す情報と、メモリ19に記憶される各固定値とに基づき、上述した式(14)に従いバックテンションFbを算出する。また、計算部18は、メモリ18に記憶される各固定値に基づき搬送力Faを算出し、バックテンションFbと搬送力Faとから比αを算出する。そして、計算部18は、判定部17の判定結果に従い、メモリ19に記憶される1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを取得し、比αに対応する滑り率βを求める。
計算部18は、求めた滑り率βに基づきモータ11の目標回転速度の補正値を求め、求めた補正値を駆動部12に供給する。駆動部12は、この補正値を用いてモータ11のフィードバック制御を行う。このように、駆動部12は、モータ11の制御を行う制御部としても機能する。
(第1の実施形態に係るモータ駆動制御方法)
図8は、第1の実施形態に係る搬送装置300aにおけるモータ駆動制御方法を示す一例のフローチャートである。図8のフローチャートによる処理は、図7に示したモータ制御装置10により実行されるもので、例えば、ピックアップローラ342からピックアップされた用紙330が分離部から送り出されることで開始される。用紙330が分離部から送り出されたか否かは、例えば判定部17がモータ駆動出力の電圧Vをモニタすることで検知することができる。
ステップS100で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図4(a)で説明した状態Aから状態Bに遷移したか否かを判定する。例えば、判定部17は、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して第1の閾値による閾値判定や、微分を用いた勾配判定を行い、状態Aから状態Bに遷移したか否かを判定する。第1の閾値は、トルクT0より大きく、トルクT1よりも小さい値を用いる。状態Bに遷移していないと判定した場合、判定部17は、処理をステップS100に戻す。また、判定部17は、搬送状態が状態Aから状態Bに遷移したと判定した場合、1本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS101に移行させる。
なお、図4(a)に示されるように、状態Bは短時間で終了し、搬送状態が状態Cに遷移する。
ステップS101で、計算部18は、ステップS100で判定部17から受け取った1本ローラ搬送を示す判定結果に従い、メモリ19に記憶される、1本ローラ搬送用テーブルを取得する。
次のステップS102で、計算部18は、駆動部12から供給される駆動信号と、モータ11から供給される回転速度Nとを取得する。計算部18は、取得した駆動信号から、モータ駆動出力の電圧Vを求める。
次のステップS103で、計算部18は、ステップS101で取得した1本ローラ搬送用テーブルと、ステップS102で取得した回転速度Nおよび電圧Vとに基づき、モータ11のフィードバック制御に対する補正値を計算する。より具体的には、計算部18は、回転速度Nと電圧Vとに基づき上述した式(14)からバックテンションFbを計算し、計算されたバックテンションFbと、固定値から求められる搬送力Faとから比αを求める。計算部18は、求めた比αに基づきステップS101で取得した1本ローラ搬送用テーブルを参照して、比αに対応する滑り率βを補正値として取得する。計算部18は、取得した補正値を駆動部12に渡す。
次のステップS104で、駆動部12は、計算部18から渡された補正値を用いて、上述した式(18)または式(19)に従い目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)を算出する。駆動部12は、算出した目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)に従いモータ11を駆動する駆動信号を生成し、モータ11に供給する。
次のステップS105で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図4(a)で説明した状態Cから状態Dに遷移したか否かを判定する。例えば、判定部17は、ステップS100と同様にして、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して閾値判定や、微分を用いた勾配判定を行い、状態Cから状態Dの遷移時に発生するメカ負荷トルクのピークの検出を行う。判定部17は、ピークが検出された場合、状態Cから状態Dに遷移したと判定し、2本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS107に移行させる。
一方、判定部17は、ステップS105でメカ負荷トルクのピークが検出されなかった場合、未だ状態Cから状態Dに遷移していないと判定し、処理をステップS106に移行させる。判定部17は、ステップS106で、例えば処理がステップS100からステップS101に移行してから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間を経過していないと判定した場合、処理をステップS102に戻す。一方、判定部17は、ステップS106で所定時間を経過したと判定した場合、搬送状態が状態Cから状態Dに遷移したと見做して、2本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS107に移行させる。
これに限らず、判定部17は、ステップS106において、経過時間の代わりにモータ11の回転量を判定条件として用いてもよい。モータ11の回転量は、モータ11が備えるエンコーダから出力されるパルスに基づき取得できる。例えば、判定部17は、ステップS106で、搬送状態が状態Bから状態Cに遷移してからの回転量が所定量に達したか否かを判定する。判定部17は、回転量が所定量に達していないと判定した場合、処理をステップS102に戻し、所定量に達したと判定した場合、処理をステップS107に移行させる。
搬送状態が状態Cから状態Dに遷移する際のメカ負荷トルクのピークは、比較的小さく、また、搬送する用紙330の紙厚が薄い場合、ピークがほとんど検出されない場合も有り得る。そのため、判定部17は、ステップS106において、搬送状態が状態Bから状態Cに遷移してからの経過時間または回転量に基づく判定を、メカ負荷トルクのピーク検出による判定と併用して実施する。
ステップS107で、計算部18は、ステップS105またはステップS106で判定部17から受け取った2本ローラ搬送を示す判定結果に従い、メモリ19に記憶される1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち、2本ローラ搬送用テーブルを取得する。
以降、ステップS108〜ステップS110の処理は、上述したステップS102〜ステップS104と同様にして行われる。すなわち、計算部18は、ステップS108で、駆動部12から供給される駆動信号と、モータ11から供給される回転速度Nとを取得し、駆動信号からモータ駆動出力の電圧Vを求める。ステップS109で、計算部18は、ステップS108で取得した回転速度Nおよび電圧Vに基づき式(14)からバックテンションFbを計算し、バックテンションFbと搬送力Faとから比αを求める。計算部18は、求めた比αに基づきステップS107で取得した2本ローラ搬送用テーブルを参照して、比αに対応する滑り率βを補正値として取得する。計算部18は、取得した補正値を駆動部12に渡す。
次のステップS110で、駆動部12は、計算部18から渡された補正値を用いて、上述した式(18)または式(19)に従い目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)を算出し、算出した目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)に従いモータ11を駆動する駆動信号を生成し、モータ11に供給する。
次のステップS111で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図4(a)で説明した状態Dから状態Eに遷移したか否かを判定する。例えば、判定部17は、ステップS100と同様にして、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して閾値判定や、微分を用いた勾配判定を行い、状態Dから状態Eの遷移時に発生するメカ負荷トルクのピークの検出を行う。
ここで、状態Dから状態Eへの遷移の際には、用紙330が分離部から抜け、ワンウェイクラッチ323の伝達余裕分の時間だけフィードローラ324と動力との接続が遅延し、フィードローラ324に対する負荷がモータ軸に伝達されない期間が生じる。そのため、状態Dから状態Eへの遷移の際は、フィードローラ324に係る負荷分のメカ負荷トルクが解放され、メカ負荷トルクが減少する方向のピークが発生する。判定部17は、この減少方向のピークを検出して、状態Dから状態Eに遷移したか否かを判定する。判定部17は、当該ピークが検出されず、状態Dから状態Eに遷移していないと判定した場合、処理をステップS108に戻す。
一方、判定部17は、当該ピークが検出され搬送状態が状態Dから状態Eに遷移したと判定した場合、図8のフローチャートによる一連の処理を終了させる。すなわち、用紙330が分離部を抜け、搬送状態が状態Dから状態Eに遷移した後は、用紙330に対して分離部によるバックテンションFbが発生しない。そのため、判定部17は、図8のフローチャートによる処理を一旦終了させ、次の用紙がピックアップローラ342によりピックアップされて搬送が開始されるまで待機する。また、駆動部12は、図8のフローチャートによる処理が終了すると、計算部18から供給された、滑り率βに基づく補正値を用いたフィードバック制御を中止する。
このように、第1の実施形態では、搬送装置300aは、モータ11の駆動出力の電圧Vと、モータ11の回転速度Nとに基づき、搬送方向と逆方向に働く抵抗力であるバックテンションFbを算出する。そして、搬送装置300aは、バックテンションFbに基づき、予め記憶されたテーブルを参照して滑り率βを求め、求めた滑り率βを補正値として用いてモータ11のフィードバック制御を行っている。そのため、用紙330の搬送における滑りの影響を抑制することができ、より高精度の搬送制御が可能となる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。上述した第1の実施形態による搬送装置300aは、用紙330が直線的に搬送されるストレート搬送パス方式が適用され、また、用紙330を用紙束から分離する分離部を備えていた。これに対して、第2の実施形態は、用紙330が曲線的に搬送される経路を含むことが可能とされ、且つ、分離部を備えない搬送装置に適用可能なものである。
図9は、第2の実施形態に適用可能な搬送装置の一例の構成を模式的に示す模式図である。この図9に示される構成は、図17を用いて後述する、ADF51における第1固定読取部151の前後の搬送ローラの構成に対応する。なお、図9において、上述した図1と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図9において、搬送装置300bは、上述した図1の搬送装置300aから分離機構を除いた構成となっている。
すなわち、搬送装置300bは、用紙330を被搬送物として搬送する搬送機構を備える。また、図9に示される搬送装置300bは、搬送装置300aと同様に画像読取部310を備え、用紙330の画像を画像読取部310で読み取って出力する画像読取装置の一部として示されている。
搬送装置300bが備える搬送機構は、図1の搬送装置300aと同様に、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307と、これらを駆動する搬送駆動伝達系の構成として、減速ギア付プーリ302と、プーリ303および304と、タイミングベルト305とを含む。プーリ303および304は、それぞれ第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307に接続される。また、図示されないモータのモータギア軸301の動力が減速ギア付プーリ302のギア部に伝達される。すなわち、この例においても、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307は、共通の動力により駆動される。
さらに、図9では省略されているが、搬送装置300bは、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307に対し、通過する用紙330を挟む位置にそれぞれ第1加圧ローラおよび第2加圧ローラが設けられる。
図9に示される搬送装置300bは、用紙330の経路が屈曲している場合にも適用可能とされている。以下では、図9の右側から左側に向けた方向を搬送方向とし、用紙330の経路のうち、第1搬送ローラ306に対して搬送方向の上流側における経路が屈曲しているものとする。例えば、用紙330の表裏を反転させるように搬送する反転パス方式の場合、屈曲した経路が用いられる。この場合、経路の屈曲部分においては、例えば用紙330が経路のガイドに接触する、用紙330の撓みにより用紙330が他の構造物に接触するなどにより、用紙330の搬送方向に対して逆方向の抵抗力、すなわちバックテンションFbが発生することが考えられる。
バックテンションFbは、屈曲部分に限られず、搬送中の用紙330と他の構造とが接触するような状況において発生し得る。以下では、用紙330の搬送中にバックテンションFbが発生するような場所を、屈曲部分として説明する。
図10および図11を用いて、第2の実施形態に係る搬送装置300bにおける用紙330の搬送状態についてより詳細に説明する。図10を用いて、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の位置関係について説明する。図10に示されるように、第1搬送ローラ306、第2搬送ローラ307および位置posの位置関係および各距離L1およびL2は、上述した図2と同一となっている。
また、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307にそれぞれ対応して加圧ローラ340および341が設けられて第1の搬送部および第2の搬送部がそれぞれ構成される。また、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307は、それぞれ線速v11およびv12で搬送を行い、v12>v11である。
図11を用いて、第2の実施形態に係る搬送装置300bにおける用紙330の搬送動作について、概略的に説明する。図11(a)は、速度Sv10で搬送される用紙330が、経路の屈曲部分から第1搬送ローラ306に到達するまでの状態(状態Gとする)を示す。状態Gでは、用紙330は、速度Sv10で搬送され、用紙330に対して経路の屈曲部分によるバックテンションFbが働いている。
図11(b)は、用紙330が第1搬送ローラ306に到達し、位置posを通過して第2搬送ローラ307に到達するまでの状態(状態Hとする)を示す。状態Hでは、用紙330は、第1搬送ローラ306のみで搬送される。また、用紙330は、未だ屈曲部分を抜けていないので、屈曲部分により生じるバックテンションFbの影響で、第1搬送ローラ306において用紙330のスリップが発生する。そのため、用紙330の搬送速度Sv11は、第1搬送ローラ306の線速v11よりも小さくなる。
図11(c)は、用紙330が第2搬送ローラ307に噛み込まれた状態を示す。この状態では、用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306それぞれに掛かり、且つ、用紙330の後端側は、未だ屈曲部分に掛かっている。この、用紙330が第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306に掛かり、且つ、用紙330の後端側が屈曲部分に掛かって搬送される状態を、状態Iとする。状態Iでは、用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の2本のローラにより、屈曲部分によるバックテンションFbを受けながら搬送されている。
ここで、状態Iでは、用紙330の搬送が第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306の2本のローラにより行われているため、上述した状態Hの第1搬送ローラ306の1本のローラにより搬送されている場合に比べてスリップは減少する。そのため、状態Iにおける用紙330の搬送速度Sv12は、状態Hにおける搬送速度Sv11と、第2搬送ローラ307の線速v12との間の値となる。
また、状態Iにおいて、用紙330の搬送が進むと、用紙330が屈曲部分に掛かる長さが減少し、それに伴いバックテンションFbも減少する。用紙330は、後端が第1搬送ローラ306を抜けると、後端部が屈曲部分に掛かる長さも0となり、それに伴い、用紙330に掛かるバックテンションFbも0となる。
図11(d)は、用紙330の後端が第1搬送ローラ306を抜けた状態(状態Jとする)を示す。この状態Jでは、用紙330は、第2搬送ローラ307のみで搬送される。この場合、第2搬送ローラ307に対するバックテンションが無く用紙330のスリップが発生しないので、用紙330の搬送速度Sv13は第2搬送ローラ307の線速v12と等しくなり、状態Iの搬送速度Sv12よりも大きくなる。
状態Jにおいて、用紙330の後端が位置posを抜けると、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが終了する。
上述のように、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307それぞれの線速v11およびv12の関係がv11<v12であるものとする。この場合において、用紙330にスリップが生じる状態での各状態G〜Jにおける各搬送速度Sv10〜Sv13の関係は、Sv10>Sv11>Sv12>Sv13となる。
図12は、上述した各状態G〜Jにおける、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307を共通に駆動するモータ(図示しない)の各状態および用紙搬送速度Svの変化の例を示す。なお、図12(a)〜図12(e)は、それぞれ上述した図4(a)〜図4(e)に対応する図であって、横軸は時間を示し、時間t0およびt1は、それぞれ、用紙330が位置posに掛かった時間および位置posから抜ける時間を示す。上述の図11(a)〜図11(d)を参照しながら、モータの各状態および用紙搬送速度Svについて説明する。
図12(a)は、モータのモータ軸(モータギア軸301)におけるメカ負荷トルク(N・m)の時間変化の例を示す。図12(a)において、状態Gにおけるメカ負荷トルクをトルクT10とする。状態GにおけるトルクT10は、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307のみによる負荷によるトルクであり、これを初期状態でのメカ負荷トルクとする。
用紙330が第1搬送ローラ306に突入すると、状態Gが状態Hに遷移する。状態Hにおいて、用紙330は、第1搬送ローラ306により搬送される。状態Hに遷移してから所定の時間t0後に、用紙330の先端が位置posに到達し、画像読取部310による用紙330の画像の読み出しが開始される。
状態Hでは、用紙330は、屈曲部分によるバックテンションFbを受けながら搬送され、メカ負荷トルクは、トルクT10からトルクT11に上昇する。その後、用紙330の先端が第2搬送ローラ307に突入し、この突入によりメカ負荷トルクに小さなピークが出現し、搬送状態が状態Hから状態Iに遷移する。
状態Iでは、用紙330は、屈曲部分によるバックテンションFbを受けながら、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307により搬送される。用紙330は、第2搬送ローラ307および第1搬送ローラ306との間に張架された状態となるが第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307は、共通するモータで駆動されているため、引張力は相殺されて、メカ負荷トルクの上昇とはならない。そのため、状態Iにおいて、メカ負荷トルクは、状態Hと同じトルクT11となる。
状態Iにおいて、用紙330の搬送に伴い用紙330の後端側が屈曲部分に掛かる長さが減少し、この長さの減少に応じてメカ負荷トルクが徐々に低下する。用紙330の後端が第1搬送ローラ306を抜けると、搬送状態が状態Iから状態Jに遷移する。状態Jでは、用紙330の後端側が屈曲部分に掛かる長さが0となり、バックテンションFbが0になる。メカ負荷トルクは、状態GのトルクT10と略等しいトルクとなる。
状態Jに遷移してから所定の時間を経過後の時間t1において用紙330の後端が位置posを抜け、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが終了する。すなわち、画像読取部310による用紙330の画像の読み取りは、時間t0から時間t1の間、各状態H〜状態Jを跨いで行われる。
図12(b)は、用紙330の搬送速度Svの変化の例を示す。なお、図12(b)では、各状態G〜J間での速度調整を行わない状態の各搬送速度Sv10〜Sv13の例を示している。上述したように、用紙330は、状態Gにおいては、搬送速度Sv10で搬送され、状態Gから状態Hに遷移すると、搬送速度Sv10が搬送速度Sv11に増加する。その後、用紙330の搬送速度は、搬送状態が状態Iおよび状態J遷移するのに伴い、搬送速度Sv12およびSv13と順次増加する。
ここで、状態H〜状態Jを跨いで、時間t0〜t1の間、位置posにおいて画像読取部310による用紙330の画像の読み取りが行われている。時間t0〜t1の間は、搬送速度Svを一定に制御する。
図12(c)は、モータの回転速度N(rpm)の時間変化の例を示す。モータの回転速度Nは、一定速度N0に制御されている。ここで、モータの回転速度Nは、各状態の遷移時に、メカ負荷トルクの変動に応じて変動する。なお、状態Iの後半では、メカ負荷トルクが徐々に低下しているが、メカ負荷トルクの変動の時間がフィードバック制御のレスポンス時間に対して十分長いため、回転速度Nは、一定に制御される。
より具体的には、モータの回転速度Nは、状態Gから状態Hの遷移時には、用紙330の第1搬送ローラ306による噛み込みにより、フィードバック制御のレスポンス時間に対応して振動状に変動する。同様に、回転速度Nは、状態Hから状態Iへの遷移時においても、用紙330の第2搬送ローラ307による噛み込みにより、振動状に変動する。さらに、回転速度Nは、状態Iから状態Jへの遷移時は、用紙330が第1搬送ローラ306を抜ける際に、振動を含むピーク状に変動する。
図12(d)は、モータの回転位置偏差Pの時間変化の例を示す。モータの回転位置偏差Pは、例えば、モータが備えるエンコーダの出力によるパルス数を単位時間毎に順次比較した差分に基づく。回転位置偏差Pは、モータの回転速度Nが一定であれば0となる。モータの回転位置偏差Pは、図12(c)に示した回転速度Nの時間変化に対応した変化となる。
なお、図12(c)および図12(d)に示されるように、状態Iから状態Jに遷移する際に、メカ負荷トルクに急激な変化が無いにも関わらず、モータの回転速度Nと、回転位置偏差Pにピークが発生している。これは、ある厚みを持った用紙が搬送ローラに突入する場合や、当該用紙が搬送ローラから抜ける場合に、搬送ローラに対して働く力に起因するものである。例えば、用紙先端が搬送ローラに突入する場合には、搬送ローラを逆転させる力が瞬間的に働く。この力は、用紙の紙厚が厚い程、また、加圧ローラの加圧力が大きいほど顕著になる。この力により、モータ回転速度Nが遅くなり、位置偏差Pが負側に増加する。また、用紙後端が搬送ローラから抜ける場合には、搬送ローラを正回転させる力が働く。この力により、モータ回転速度Nが速くなり、位置偏差Pが正側に増大する。
図12(e)は、モータを駆動するための駆動信号の出力の電圧Vの時間変化の例を示す。図12(e)において、状態Gにおける駆動信号出力を電圧V10とする。状態HおよびIでは、図12(a)に示されるようにメカ負荷トルクが状態Gよりも大きくなるのに対して、モータの回転速度Nを一定に保つ必要がある。状態HおよびIでは、駆動信号出力が電圧V10よりも高い電圧V11に制御される。このとき、状態Hから状態Iへの遷移時において、メカ負荷トルクのピーク状の上昇に応じて、駆動信号出力が電圧V11よりも高いピークに制御される。状態Iの後半から状態Jにかけて、メカ負荷トルクの低下に伴い、駆動信号出力の電圧が低下し、状態Gの電圧V10と略等しい電圧で安定する。このように、モータのメカ負荷トルクの変化は、モータ駆動部から出力される駆動信号による電圧値の変化と対応する。
(第2の実施形態に係るモータ駆動制御方法)
次に、第2の実施形態に係るモータ駆動制御方法について説明する。なお、第2の実施形態では、図7を用いて説明したモータ制御装置10の構成をそのまま利用できるので、適宜、図7のモータ制御装置10を参照して説明を行う。また、第2の実施形態でも、モータ11のフィードバック制御を、第1の実施形態において、図6と式(1)〜式(19)とを用いて説明した、滑り率βを補正値として用いて行う。
図13は、第2の実施形態に係る搬送装置300bにおけるにおけるモータ駆動制御方法を示す一例のフローチャートである。なお、図13のフローチャートにおいて、上述した図8のフローチャートと共通する処理には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図13のフローチャートによる処理は、図7に示したモータ制御装置10と同等の構成のモータ制御装置により実行されるもので、例えば、用紙330が、第1搬送ローラ306に対して搬送方向の上流側における所定の位置に到達した時点で開始される。用紙330が所定の位置に達したか否かは、図示されないセンサなどを用いて検知することができる。
ステップS200で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図12(a)で説明した状態Gから状態Hに遷移したか否かを判定する。例えば、判定部17は、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して第1の閾値による閾値判定や、微分を用いた勾配判定を行い、状態Gから状態Hに遷移したか否かを判定する。第1の閾値は、トルクT10より大きく、トルクT11よりも小さい値を用いる。ステップS200で状態Hに遷移していないと判定した場合、判定部17は、処理をステップS200に戻す。また、判定部17は、ステップS200で搬送状態が状態Gから状態Hに遷移したと判定した場合、1本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS101に移行させる。
ステップS101で、計算部18は、ステップS200で判定部17から受け取った1本ローラ搬送を示す判定結果に従い、メモリ19に記憶される、1本ローラ搬送用テーブルを取得する。次のステップS102で、計算部18は、駆動部12から供給される駆動信号を取得し、取得した駆動信号から、モータ駆動出力の電圧Vを求める。また、計算部18は、モータ11から供給される回転速度Nを取得する。
次のステップS103で、計算部18は、ステップS101で取得した1本ローラ搬送用テーブルと、ステップS102で取得した回転速度Nおよび電圧Vとに基づき、モータ11のフィードバック制御に対する補正値を計算し、補正値を駆動部12に渡す。すなわち、計算部18は、回転速度Nと電圧Vとに基づき上述した式(14)からバックテンションFbを計算し、バックテンションFbと、固定値から求められる搬送力Faとから求めた比αに基づき、ステップS101で取得した1本ローラ搬送用テーブルを参照して、比αに対応する滑り率βを補正値として取得する。
次のステップS104で、駆動部12は、計算部18から渡された補正値を用いて、上述した式(18)または式(19)に従い目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)を算出する。駆動部12は、算出した目標回転速度N1(T)または目標送り量Fd1(T)に従いモータ11を駆動する駆動信号を生成し、モータ11に供給する。
次のステップS201で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図12(a)で説明した状態Hから状態Iに遷移したか否かを判定する。例えば、ステップS201で、判定部17は、ステップS200と同様にして、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して閾値判定や、微分を用いた勾配判定を行い、状態Hから状態Iの遷移時に発生するメカ負荷トルクのピークを検出し、ピークが検出された場合、搬送状態が状態Hから状態Iに遷移したと判定する。判定部17は、2本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS201からステップS107に移行させる。
一方、判定部17は、ステップS201でメカ負荷トルクのピークが検出されず、搬送状態が未だ状態Hから状態Iに遷移していないと判定した場合、処理をステップS106に移行させる。判定部17は、ステップS106で、例えば処理がステップS200からステップS101に移行してから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間を経過していないと判定した場合、処理をステップS102に戻す。一方、判定部17は、ステップS106で所定時間を経過したと判定した場合、搬送状態が状態Hから状態Iに遷移したと見做して、2本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS107に移行させる。
ステップS107で、計算部18は、ステップS201またはステップS106で判定部17から受け取った2本ローラ搬送を示す判定結果に従い、メモリ19に記憶される、2本ローラ搬送用テーブルを取得する。以降、ステップS108〜ステップS110の処理が、上述したステップS102〜ステップS104と同様にして行われる。すなわち、計算部18は、駆動部12から供給された駆動信号から電圧Vを取得すると共に、モータ11から回転速度Nを取得し(ステップS108)、電圧Vおよび回転速度Nに基づき滑り率βを計算し補正値として取得する(ステップS109)。計算部18は、取得した補正値を駆動部12に渡す。駆動部12は、計算部18から渡された補正値を用いて駆動信号を生成し、モータ11に供給する(ステップS110)。
次のステップS202で、判定部17は、検出部16の検出結果に基づき、搬送状態が図12(a)で説明した状態Iから状態Jに遷移したか否かを判定する。ここでは、判定部17は、検出部16から供給されたモータ11のメカ負荷トルクに対して第2の閾値による閾値判定を行う。第2の閾値は、トルクT10より小さく、トルクT12よりも大きな値を用いる。判定部17は、ステップS202での閾値判定の結果、メカ負荷トルクがトルクT12まで低下していない場合、搬送状態が状態Iから状態Jに遷移していないと判定し、処理をステップS108に戻す。
一方、判定部17は、ステップS202での閾値判定の結果、メカ負荷トルクがトルクT12まで低下している場合、搬送状態が状態Iから状態Jに遷移したと判定し、1本ローラ搬送を示す判定結果を計算部18に渡して処理をステップS203に移行させる。
以降、ステップS203〜ステップS206では、上述したステップS101〜ステップS104と同様の処理が行われる。すなわち、ステップS203で、計算部18は、ステップS202で判定部17から受け取った1本ローラ搬送を示す判定結果に従い、メモリ19に記憶される、1本ローラ搬送用テーブルを取得する。以降、ステップS204〜ステップS206の処理が、上述したステップS102〜ステップS104と同様にして行われる。すなわち、計算部18は、駆動部12から供給された駆動信号から電圧Vを取得すると共に、モータ11から回転速度Nを取得し(ステップS204)、電圧Vおよび回転速度Nに基づき滑り率βを計算し補正値として取得する(ステップS205)。計算部18は、取得した補正値を駆動部12に渡す。駆動部12は、計算部18から渡された補正値を用いて駆動信号を生成し、モータ11に供給する(ステップS206)。
このように、第2の実施形態においても、搬送装置300bは、モータ11の駆動出力の電圧Vと、モータ11の回転速度Nとに基づき、搬送方向と逆方向に働く抵抗力であるバックテンションFbを算出する。そして、搬送装置300bは、バックテンションFbに基づき、予め記憶されたテーブルを参照して滑り率βを求め、求めた滑り率βを補正値として用いてモータ11のフィードバック制御を行っている。そのため、用紙330が屈曲部分などによりバックテンションFbを受ける場合であっても、用紙330の搬送における滑りの影響を抑制することができ、より高精度の搬送制御が可能となる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。図14は、第3の実施形態に係る搬送装置の一例の構成を模式的に示す模式図である。なお、図14において、上述した図1および図9と共通する部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図14において、搬送装置300cは、図9で示した搬送装置300bに対してフィードローラ324および分離ローラ325による分離機構を追加したものである。搬送装置300cは、さらに、フィードローラ324と第1搬送ローラ306との間に第3搬送ローラ364が追加されている。なお、図示は省略するが、第3搬送ローラ364は、第1搬送ローラ306や第2搬送ローラ307と同様に、対応する位置に加圧ローラが設けられている。
なお、搬送装置300cは、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の間には、搬送装置300bと同様に、画像読取部310が設けられている。また、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307を駆動するための駆動装置、ならびに、フィードローラ324および第3搬送ローラ364を駆動するための駆動装置は、それぞれ、図7を用いて説明した駆動装置10をそのまま適用できる。
図14において、搬送装置300cは、分離機構に含まれるフィードローラ324を駆動する分離駆動伝達系の構成として、減速ギア320’と、アイドラギア321’と、フィードローラギア322’と、ワンウェイクラッチ323’とを含む。フィードローラギア322’は、ワンウェイクラッチ323’を介してフィードローラ324に接続される。
この分離駆動伝達系は、モータギア軸301に接続されるモータとは異なるモータ(図示しない)が接続されるモータギア軸350の動力が減速ギア付プーリ320’のギア部に伝達され、この動力が、アイドラギア321’を介してフィードローラギア322’に伝達される。フィードローラギア322’は、伝達された動力により、およびワンウェイクラッチ323’を介してフィードローラ324を駆動する。
また、搬送装置300cは、第3搬送ローラ364を駆動する駆動伝達系の構成として、減速ギア付きプーリ361と、プーリ362と、タイミングベルト363とを含む。減速ギア付プーリ361は、分離駆動伝達系と共通のモータギア軸360から動力を伝達され、この動力を、タイミングベルト363を介してプーリ362に伝達される。プーリ362は、第3搬送ローラ364を駆動する。
フィードローラ324および第3搬送ローラ364は、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307の線速v11およびv12との関係がv12>v11>v21>v20となる線速v20およびv21で、それぞれ駆動される。
また、各線速v11、v12、v20およびv21は、第3搬送ローラ364から送り出された用紙330が撓みを持って第1搬送ローラ306に突入するように設定する。これにより、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307による搬送機構が、分離機構によるバックテンションFbの影響を受けないようにできる。
ここで、例えば第1搬送ローラ306と第3搬送ローラ364との間の経路を屈曲させることを考える。例えば、屈曲部分は、フィードローラ324および第3搬送ローラ364による搬送方向に対して、第1搬送ローラ306および第2搬送ローラ307による搬送方向が反転するように設けることが考えられる。
この場合、屈曲部分、すなわち、第3搬送ローラ364および第1搬送ローラ306との間において、用紙330の搬送に対してバックテンションFbが発生する可能性がある。画像読取部310の位置での搬送制御は、図13のフローチャートに従い、第2の実施形態にて説明した方法により行うことができる。
なお、第3搬送ローラ364と第1搬送ローラ306との間において、用紙330に撓みを持たせない場合(すなわちストレート搬送パス方式の場合)には、第1の実施形態で説明した方法により、画像読取部310の位置での搬送制御を行うことができる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。図15は、第4の実施形態に係る搬送装置の一例の構成を模式的に示す模式図である。なお、図14において、上述した図14と共通する部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図15において、搬送装置300dは、第1搬送ローラ306、第2搬送ローラ307、第3搬送ローラ364、フィードローラ324および分離ローラ325を含み、これら各ローラの位置関係や、各ローラを駆動するための機構は、図14で示した搬送装置300cと共通である。一方、搬送装置300dは、画像読取部310が第1搬送ローラ306と第3搬送ローラ364との間に設けられ、この点が搬送装置300cと異なる。
なお、搬送装置300dにおいて、フィードローラ324から第3搬送ローラ364を介して第1搬送ローラ306に到達するまでの経路は、ストレート搬送パスを構成しているものとする。
この搬送装置300dの構成は、第1の実施形態において図1を用いて説明した搬送装置300aと同様の構成となる。したがって、搬送装置300dにおいて、画像読取部310の位置での搬送を制御するための駆動制御は、図8のフローチャートに従い、第1の実施形態にて説明した方法により行うことができる。この場合、駆動制御は、第3搬送ローラ364を駆動するモータと、第1搬送ローラ306を駆動するモータとに対して、それぞれ行われる。
ここで、搬送装置330dは、用紙330が画像読取部310の位置を通過する際の搬送を、互いに異なるモータにより駆動される第3搬送ローラ364および第1搬送ローラ306により行うことになる。第3搬送ローラ364を駆動するモータを上流側モータ、第1搬送ローラ306を駆動するモータを下流側モータとして、上流側モータのメカ負荷トルクは、用紙330が第3搬送ローラ364に突入すると、メカ負荷トルクが上昇するピークが出現する(図3(b)に対応、状態B)。また、下流側モータのメカ負荷トルクは、用紙330が第1搬送ローラ306を抜けると、メカ負荷トルクが減少するピークが出現する(図3(f)に対応、状態F)。
さらに、用紙330が第3搬送ローラ364および第1搬送ローラ306の2本のローラにより搬送される場合には(図3(d)および図3(e)に対応、状態Dおよび状態E)、用紙330は、第3搬送ローラ364と、第1搬送ローラ306とにより引っ張られた状態で搬送される。この場合、第3搬送ローラ364は、用紙330により連れ回り状態となり、下流側モータのメカ負荷トルクは減少し、上流側モータのメカ負荷トルクは上昇する。
図7を参照し、判定部17は、このような上流側モータおよび下流側モータそれぞれのメカ負荷トルクに基づき、用紙330の搬送が1本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れで行われているかを判定することができる。したがって、計算部18は、判定部17の判定結果に従いメモリ19から1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを取得することができ、取得したテーブルを参照して滑り率βを求めることができる。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態では、上述した第1の実施形態〜第4の実施形態に係る搬送装置300a〜300dを適用可能なMFP(Multi Function Printer)について説明する。MFPは、プリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能など複数の機能を1の筐体で実現可能とした複合機である。
MFPは、例えば、画像データに従い用紙に画像を形成する画像形成機構と、原稿から画像を読み取るスキャナ機構とを有し、これら画像形成機構とスキャナ機構とを組み合わせて、あるいは、各々単独で利用することで、上述したプリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能を1の筐体で実現する。MFPは、さらに、データ通信を行う通信部を設けて、上述したプリンタ機能、スキャナ機能、コピー機能と、通信部による通信機能とを組み合わせてFAX機能をさらに実現することも可能である。
図16は、第5の実施形態に適用可能なMFPの一例の構成を示す。図16において、MFP500は、プリンタ機能、スキャナ機能およびコピー機能を利用可能な複写機として構成されている。
図16において、MFP500は、画像形成装置としての画像形成部1と、転写紙供給装置40と、画像読取ユニット50とを備えている。画像読取装置としての画像読取ユニット50は、画像形成部1の上に固定されたスキャナ150と、これに支持されるシート搬送装置としての原稿自動搬送装置(以下、ADFという)51とを有している。
転写紙供給装置40は、ペーパーバンク41内に多段に配設された2つの転写紙給紙カセット42、転写紙給紙カセット42から転写紙を送り出す転写紙送出ローラ43、送り出された転写紙を分離して転写紙給紙路44に供給する転写紙分離ローラ45を有している。また、画像形成部1の搬送路としての本体側転写紙給紙路37に、転写紙(用紙)を搬送する複数の搬送ローラ46も有している。転写紙供給装置40は、転写紙給紙カセット42内の転写紙を画像形成部1内の本体側転写紙給紙路37内に給紙する。
なお、画像形成部1が画像を形成する媒体が転写紙すなわち紙媒体であるものとして説明したが、これはこの例に限定されない。すなわち、画像形成部1が画像を形成する媒体は、紙媒体に限定されず、フィルムなど他の媒体であってもよい。
画像形成部1は、光書込装置2や、黒(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色のトナー像を形成する4つのプロセスユニット3K、3Y、3Mおよび3Cと、転写ユニット24と、紙搬送ユニット28と、レジストローラ対33と、定着装置34と、スイッチバック装置36と、本体側転写紙給紙路37とを備えている。画像形成部1は、光書込装置2内に配設された図示しない例えばレーザダイオードによる光源を駆動して、ドラム状の4つの感光体4K、4Y、4Mおよび4Cに向けてレーザ光を照射する。このレーザ光の照射により、感光体4K、4Y、4Mおよび4Cの表面は静電潜像が形成され、この潜像が所定の現像プロセスを経由してトナー像に現像される。
4つのプロセスユニット3K、3Y、3M、3Cの下方には、転写ユニット24が配設されている。転写ユニット24は、複数のローラによって張架した中間転写ベルト25を、感光体4K、4Y、4M、4Cに当接させながら図中時計回り方向に無端移動させる。これにより、感光体4K、4Y、4M、4Cと、中間転写ベルト25とが当接するK、Y、M、C各色用の一次転写ニップが形成されている。
K、Y、M、C各色用の一次転写ニップの近傍では、ベルトループ内側に感光体4K、4Y、4M、4Cに対応する位置にそれぞれ配設された各一次転写ローラによって、中間転写ベルト25を感光体4K、4Y、4M、4Cに向けて押圧している。これら各一次転写ローラには、図示しない電源によって一次転写バイアスが印加されている。これにより、K、Y、M、C各色用の一次転写ニップには、感光体4K、4Y、4M、4C上のトナー像を中間転写ベルト25に向けて静電移動させる一次転写電界が形成される。図中時計回り方向の無端移動に伴って、K、Y、M、C各色用の一次転写ニップを順次通過していく中間転写ベルト25の表側面には、各一次転写ニップでトナー像が順次重ね合わせて一次転写される。この重ね合わせの一次転写により、中間転写ベルト25の表側面には、4色重ね合わせトナー像(以下、4色トナー像という)が形成される。
転写ユニット24の図中下方には、駆動ローラと二次転写ローラとの間に無端状の紙搬送ベルトを掛け渡して無端移動させる紙搬送ユニット28が設けられている。そして、自らの二次転写ローラと、転写ユニット24の下部張架ローラとの間に、中間転写ベルト25および紙搬送ベルトを挟み込んでいる。これにより、中間転写ベルト25の表側面と、紙搬送ベルトの表側面とが当接する二次転写ニップが形成されている。二次転写ローラには、電源によって二次転写バイアスが印加されている。一方、転写ユニット24の下部張架ローラは接地されている。これにより、二次転写ニップに二次転写電界が形成されている。
この二次転写ニップの図中右側方には、レジストローラ対33が配設されている。また、レジストローラ対33のレジストニップの入口付近には、レジストローラセンサ(図示しない)が配設されている。転写紙供給装置40からレジストローラ対33に向けて搬送されてくる転写紙は、その先端がレジストローラセンサに検知された所定時間後に搬送が一時停止され、レジストローラ対33のレジストニップに先端を突き当てる。この結果、転写紙の姿勢が修正され、画像形成との同期をとる準備が整う。
転写紙の先端がレジストニップに突き当たると、レジストローラ対33は、転写紙を中間転写ベルト25上の4色トナー像に同期させ得るタイミングでローラ回転駆動を再開して、転写紙を二次転写ニップに送り出す。二次転写ニップ内では、中間転写ベルト25上の4色トナー像が二次転写電界やニップ圧の影響によって転写紙に一括二次転写され、転写紙の白色と相まってフルカラー画像となる。二次転写ニップを通過した転写紙は、中間転写ベルト25から離間して、紙搬送ベルトの表側面に保持されながら、その無端移動に伴って定着装置34へと搬送される。
二次転写ニップを通過した中間転写ベルト25の表側面には、二次転写ニップで転写紙に転写されなかった転写残トナーが付着している。この転写残トナーは、クリーニング部材が中間転写ベルト25に当接するベルトクリーニング装置によって掻き取り除去される。
定着装置34に搬送された転写紙は、定着装置34内における加圧や加熱によってフルカラー画像が定着された後、定着装置34から排紙ローラ対35に送られた後、機外の排紙トレイ501へと排出される。
紙搬送ユニット28および定着装置34の下には、転写紙反転装置であるスイッチバック装置36が配設されている。これにより、両面プリントを行う場合には、片面に対する画像定着処理を終えた転写紙の搬送経路が、切換爪によってスイッチバック装置36側に切り換えられ、そこで反転されて再び二次転写ニップに進入する。そして、もう片面にも画像の二次転写処理と定着処理とが施された後、排紙トレイ501上に排紙される。
画像形成部1の上に固定されたスキャナ150やこれの上に固定されたADF51からなる画像読取ユニット50は、固定読取部や移動読取部152を有している。移動読取部152は、原稿MSに接触するようにスキャナ150のケーシング上壁に固定された第2コンタクトガラス155の直下に配設されており、光源や、反射ミラーなどからなる光学系を図中左右方向に移動させることができる。そして、光学系を図中左側から右側に移動させていく過程で、光源から発した光を第2コンタクトガラス155上に載置された図示しない原稿MSの下面で反射させた後、複数の反射ミラーを経由させて、スキャナ150に固定された画像読取センサ153で受光する。
一方、画像読取ユニット50は固定読取部として、スキャナ150の内部に配設された第1固定読取部151と、ADF51内に配設された後述する第2固定読取部とを有している。第1固定読取部151は、光源と、反射ミラーと、CCD(Charge Coupled Device)による画像読取センサとを有し、原稿MSに接触するように、スキャナ150のケーシング上壁に固定された第1コンタクトガラス154の直下に配設されている。第1固定読取部151は、ADF51によって搬送される原稿MSが第1コンタクトガラス154上を通過する際に、光源から発した光を原稿MSの第1面で順次反射させながら、複数の反射ミラーを経由させて画像読取センサ153で受光する。これにより、光源や反射ミラーなどを含む光学系を移動させることなく、原稿MSの第1面を走査する。また、第2固定読取部は、第1固定読取部151を通過した後の原稿MSの第2面を走査する。
スキャナ150の上に配設されたADF51は、本体カバー52に、読取前の原稿MSを載置するための原稿載置台53と、原稿MSを搬送するための原稿搬送部54と、読取後の原稿MSをスタックするための原稿スタック台55とを保持している。本体カバー52は、スキャナ150に固定された蝶番によって、上下方向に開閉可能に支持されている。本体カバー52は、開かれた状態でスキャナ150の上面の第1コンタクトガラス154や第2コンタクトガラス155を露出させる。
原稿が、製本された本などの、原稿束の片隅を綴じた片綴じ原稿の場合には、原稿を1枚ずつ分離することができないため、ADF51による搬送を行うことができない。そこで、片綴じ原稿の場合には、ADF51を開いた後、読み取らせたいページが見開かれた片綴じ原稿を下向きにして第2コンタクトガラス155上に載せた後、ADF51を閉じる。そして、スキャナ150の移動読取部152によってそのページの画像を読み取らせる。
一方、互いに独立した複数の原稿MSを単に積み重ねた原稿束の場合には、その原稿MSをADF51によって1枚ずつ分離搬送しながら、スキャナ150内の第1固定読取部151やADF51内の第2固定読取部に順次読み取らせていくことができる。この場合、原稿束を原稿載置台53上にセットした後、ユーザによる動作開始操作に応じて、ADF51が、原稿載置台53上に載置された原稿束の原稿MSを上から順に分離させて1枚ずつ原稿搬送部54内に送り、送られた原稿MSを反転させながら原稿スタック台55に向けて搬送する。この搬送の過程で、原稿MSを反転させた直後にスキャナ150の第1固定読取部151の真上に通す。このとき、原稿MSの第1面の画像がスキャナ150の第1固定読取部151によって読み取られる。
図17は、第5の実施形態に適用可能なADF51の一例の構成を、スキャナ150の上部と共により詳細に示す。ADF51は、原稿セット部Aと、分離搬送部Bと、レジスト部Cと、ターン部Dと、第1読取搬送部Eと、第2読取搬送部Fと、排紙部Gと、スタック部Hとを備える。
原稿セット部Aは、原稿MSの束が第1面が上方となるようにセットされる原稿載置台53を有する。分離搬送部Bは、セットされた原稿MSの束から原稿MSを1枚ずつ分離して給送する。
レジスト部Cは、給送された原稿MSに一時的に突き当たって原稿MSを整合した後に送り出す。ターン部Dは、C字状に湾曲する湾曲搬送部を有しており、この湾曲搬送部内で原稿MSを折り返しながら表裏を反転させて、原稿MSの第1面を下方に向ける。第1読取搬送部Eは、第1コンタクトガラス154の上で原稿MSを搬送しながら、第1コンタクトガラス154の下方からスキャナ150の内部に配設されている第1固定読取部151に原稿MSの第1面を読み取らせる。
第2読取搬送部Fは、第2固定読取部95の下方に配置された第2読取ローラ96によって原稿MSを搬送しながら、原稿MSの第2面を第2固定読取部95に読み取らせる。また、排紙部Gは、両面の画像が読み取られた原稿MSをスタック部Hに向けて排出する。また、スタック部Hは、原稿スタック台55の上に原稿MSをスタックするものである。
読取を行う原稿MSは、原稿先端部を支持し原稿MSの束の厚みに応じて図中矢印a、b方向に揺動可能な可動原稿テーブル53bと、原稿後端側を支持する固定原稿テーブル53aとから構成される原稿載置台53上に、第1面が上向きとなるように載せられた状態でセットされる。このとき、原稿載置台53上において、その幅方向、すなわち、原稿MSの搬送方向に直交する方向の両端に対してそれぞれ図示しないサイドガイドが突き当てられることで、幅方向における位置決めがなされる。
このようにして原稿載置台53にセットされる原稿MSは、可動原稿テーブル53bの上方で揺動可能に配設されたレバー部材であるセットフィラー62を押し上げる。すると、それに伴って原稿セットセンサ63が原稿MSのセットを検知して、検知信号を図示されないコントローラに送信され、コントローラから図示されない本体制御部に送信される。
また、固定原稿テーブル53aには、原稿MSの搬送方向の長さを検知する反射型フォトセンサ又は原稿一枚でも検知可能なアクチュエーター・タイプのセンサからなる複数の原稿長さセンサ57、58aおよび58bが配置されている。これらの原稿長さセンサにより、原稿MSの搬送方向の長さの概略が判定される。
可動原稿テーブル53bの上方にはピックアップローラ80が配置されている。可動原稿テーブル53bは、図示されない底板上昇モータの駆動により、駆動するカム機構によって図中矢印a、b方向に揺動する。原稿MSが原稿載置台53にセットされたことをセットフィラー62や原稿セットセンサ63で検知すると、コントローラは、底板上昇モータを正転させて束状の原稿MSの最上面がピックアップローラ80と接触するように可動原稿テーブル53bを上昇させる。
ピックアップローラ80は、図示されないピックアップ昇降モータによって駆動するカム機構により、図中矢印c、d方向に移動可能となっている。また、ピックアップローラ80は、可動原稿テーブル53bが上昇して可動原稿テーブル53b上の原稿MSの上面により押されて図中矢印c方向に上がる。これをテーブル上昇センサ59で検知することにより、可動原稿テーブル53bの上限までの上昇が検知される。これにより、ピックアップ昇降モータが停止すると共に、図示されない底板上昇モータが停止する。
ユーザによる動作開始操作に応じてピックアップ搬送モータが駆動されてピックアップローラ80が回転駆動され、原稿載置台53上の1乃至数枚の原稿MSをピックアップする。ピックアップローラ80の回転方向は、最上位の原稿MSを給紙口48に搬送する方向である。
ピックアップローラ80によって送り出された原稿MSは、分離搬送部Bに進入して、給紙ベルト84との当接位置に送り込まれる。この給紙ベルト84は、駆動ローラ82と従動ローラ83とによって張架されており、給紙モータの正転に伴う駆動ローラ82の回転によって図中時計回り方向に無端移動せしめられる。
この給紙ベルト84の下部張架面には、給紙モータの正転によって図中時計回りに回転駆動されるリバースローラ85が当接している。リバースローラ85の当接部においては、給紙ベルト84の表面が給紙方向に移動する。これに対し、リバースローラ85の表面は、給紙方向とは逆方向に移動しようとする。一方、リバースローラ85の駆動伝達部にはトルクリミッタ(図示しない)が設けられており、リバースローラ85は、給紙方向に向かう力がトルクリミッタのトルクよりも大きいと給紙方向に表面移動するように回転する。
リバースローラ85は、給紙ベルト84に所定の圧力で当接しており、給紙ベルト84に直接当接している際、あるいは当接部に原稿MSが1枚だけ挟み込まれている際には、給紙ベルト84または原稿MSに連れ回る。但し、当接部に複数枚の原稿MSが挟み込まれた際には、連れ回り力がトルクリミッタのトルクよりも低くなるように設定されているため、連れ回り方向とは逆の図中時計回りに回転駆動する。これにより、最上位よりも下の原稿MSには、リバースローラ85によって給紙方向とは反対方向の移動力が付与されて、数枚の原稿から最上位の原稿MSだけが分離される。これにより、重送が防止される。
給紙ベルト84やリバースローラ85の作用によって1枚に分離された原稿MSは、レジスト部Cに進入する。そして、給紙ベルト84によって更に送られ、突き当てセンサ72によって先端が検知されつつ、更に進んで停止しているプルアウトローラ対86に突き当たる。その後、突き当てセンサ72による先端の検知から所定時間だけ給紙モータを駆動させて、停止する。これにより、原稿MSが突き当てセンサ72による検知位置から所定量定められた距離だけ送られ、結果的には、原稿MSがプルアウトローラ対86に所定量の撓みをもって押し当てられた状態で給紙ベルト84による原稿MSの搬送が停止する。
突き当てセンサ72によって原稿MSの先端が検知されたときに、ピックアップ昇降モータを回転させることでピックアップローラ80を原稿MSの上面から退避させ原稿MSを給紙ベルト84の搬送力のみで送る。これにより、原稿MSの先端は、プルアウトローラ対86の上下のローラによって形成されるニップに進入し、先端の整合(スキュー補正)が行われる。
プルアウトローラ対86によって送り出された原稿MSは、原稿幅センサ73の直下を通過する。原稿幅センサ73は、反射型フォトセンサなどからなる紙検知センサを原稿幅方向(搬送方向に直交する方向)に複数個並べたセンサであり、どの紙検知センサが原稿MSを検知するかに基づいて、原稿MSの幅方向のサイズを検知する。また、原稿MSの搬送方向の長さは、原稿MSの先端が突き当てセンサ72によって検知されてから、原稿MSが突き当てセンサ72によって検知されなくなる(原稿MSの後端が通過する)までのタイミングに基づいてモータパルスから検知する。
プルアウトローラ対86および中間ローラ対66の駆動によって搬送される原稿MSは、中間ローラ対66および読取入口ローラ対90によって搬送されるターン部Dに進入する。中間ローラ対66はプルアウトローラ対86の駆動源であるプルアウトモータと、読取入口ローラ対90の駆動源である読取入口モータとの両方のモータから駆動が伝達される構成となっている。そして、2つのモータのうち、回転速度が速くなる側のモータの駆動によって回転速度が決まる機構を備えている。
画像読取ユニット50では、プルアウトローラ対86および中間ローラ対66の回転駆動によりレジスト部Cからターン部Dに原稿MSが搬送される際には、レジスト部Cでの搬送速度を第1読取搬送部Eでの搬送速度よりも高速に設定しており、原稿MSを第1読取搬送部Eへ送り込む処理時間の短縮が図られている。このとき、中間ローラ対66はプルアウトモータを駆動源として回転する。
原稿MSの先端が読取入口センサ67により検出されると、読取入口ローラ対90の上下のローラによって形成されるニップに原稿MSの先端が進入する前に、原稿MSの搬送速度を第1読取搬送部Eでの搬送速度と同速にするために、プルアウトモータの減速を開始する。これと同時に、読取入口モータおよび読取モータを正転駆動する。読取入口モータを正転駆動することで読取入口ローラ対90が搬送方向に回転駆動し、読取モータを正転駆動することで読取出口ローラ対92及び第2読取出口ローラ対93が搬送方向にそれぞれ駆動する。
ターン部Dから第1読取搬送部Eに向かう原稿MSの先端をレジストセンサ65で検知すると、コントローラは、所定の時間をかけて各モータの駆動を減速することで、原稿MSの搬送速度を所定の搬送距離をかけて減速する。そして、コントローラは、第1固定読取部151による第1読取位置400の手前で原稿MSを一時停止するように制御すると共に、本体制御部にレジスト停止信号を送信する。
続いて、コントローラは、本体制御部より読取開始信号を受信すると、レジスト停止していた原稿MSの原稿先端が第1読取位置400に到達するまでに、原稿MSの搬送速度が所定の搬送速度に立ち上がるように、読取入口モータおよび読取モータの駆動を制御する。これにより、原稿MSは搬送速度が増速されつつ、第1読取位置400に向かって搬送される。そして、読取入口モータのパルスカウントに基づいて算出された原稿MSの先端が第1読取位置400に到達するタイミングで、コントローラから本体制御部に対して原稿MSの第1面の副走査方向有効画像領域を示すゲート信号が送信される。この送信は、原稿MSの後端が第1読取位置400を抜け出るまで続けられ、原稿MSの第1面が第1固定読取部151によって読み取られる。
第1読取搬送部Eを通過した原稿MSは、読取出口ローラ対92のニップを通過した後、その先端が排紙センサ61によって検知され、さらに、その後、第2読取搬送部Fを通過して排紙部Gへと搬送される。
原稿MSの片面(第1面)のみを読み取る場合には、第2固定読取部95による原稿MSの第2面の読取が不要である。そこで、排紙センサ61によって原稿MSの先端が検知されると、排紙モータの正転駆動が開始されて、排紙ローラ対94における図中上側の排紙ローラが図中反時計回り方向に回転駆動される。また、排紙センサ61によって原稿MSの先端が検知されてからの排紙モータのパルスカウントに基づいて、原稿MSの後端が排紙ローラ対94のニップを抜け出るタイミングが演算される。そして、この演算結果に基づいて、原稿MSの後端が排紙ローラ対94のニップから抜け出る直前のタイミングで、排紙モータの駆動速度が減速せしめられて、原稿MSが原稿スタック台55から飛び出さないような速度で排紙されるように制御される。
一方、原稿MSの両面(第1面および第2面)を読み取る場合には、排紙センサ61によって原稿MSの先端が検知された後、第2固定読取部95に到達するまでのタイミングが読取モータのパルスカウントに基づいて演算される。そして、そのタイミングでコントローラから本体制御部に対して原稿MSの第2面における副走査方向の有効画像領域を示すゲート信号が送信される。この送信は、原稿MSの後端が第2固定読取部95による第2読取位置を抜け出るまで続けられ、原稿MSの第2面が第2固定読取部95によって読み取られる。
第2固定読取部95は、例えば密着型イメージセンサ(CIS)からなり、原稿MSに付着している糊状の異物が読取面に付着することによる読取縦筋を防止する目的で、読取面にコーティング処理が施されている。また、原稿MSが通過する搬送路を挟んで第2固定読取部95に対向する位置には、原稿MSを非読取面側(第1面側)から支持する原稿支持手段としての第2読取ローラ96が配設されている。この第2読取ローラ96は、第2固定読取部95による第2読取位置での原稿MSの浮きを抑えるとともに、第2固定読取部95におけるシェーディングデータを取得するための基準白部として機能する役割を担っている。
このADF51に対し、第1の実施形態および第4の実施形態に係る搬送装置300aおよび300dは、例えば、分離搬送部Bおよびレジスト部Cを含む構成に対して適用させることが考えられる。また、第2の実施形態および第3の実施形態に係る搬送装置300bおよび300cは、例えば、ターン部Dおよび第1読取搬送部Eとを含む構成に対して適用させることが考えられる。なお、ターン部Dから第1読取搬送部Eにかけての経路は、屈曲部分を構成している。
図18は、第5の実施形態に適用可能なモータ制御システムの一例の構成を示す。図18において、モータ制御システム1401は、モータ制御部1410と、プリドライバ1420と、モータ(M)1430と、ホール素子1431と、エンコーダ(ENC)1432と、モータ1430を駆動するための回路とを含む。プリドライバ1420は、図7のモータ11に含まれるものとする。また、モータ制御部1410は、駆動部12に含めた構成とすることもできる。
モータ制御システム1401は、モータ制御部1410が生成した駆動制御信号および動作制御信号に基づきプリドライバ1420がモータ駆動信号を出力し、このモータ駆動信号によりモータ1430を駆動してモータ1430の回転を制御する。
モータ制御部1410は、制御部1411、PWM制御信号生成部1412、設定部1414を有する。制御部1411は、図7に示す駆動部12の一部と、検出部16と、判定部17と、計算部18と、メモリ19とを含み、図示されないコントローラから送信された、モータ1430の駆動を制御するための制御信号を受信する。図7に示す駆動部12は、制御部1411およびPWM制御信号生成部1412を含む構成とされる。
また、モータ制御部1410に対して、後述するモータ1430の回転を検出するエンコーダ1432から出力されるエンコーダ信号が入力される。モータ制御部1410は、コントローラから受信した制御信号と、エンコーダ1432から入力されたエンコーダ信号とに基づきフィードバック制御を行い、プリドライバ1420に送信するモータ駆動制御信号を生成する。
モータ制御部1410において、制御部1411は、コントローラから送信された制御信号に基づき、PWM制御信号生成部1412に対して、モータ1430の回転速度および回転方向を指示する指示信号を生成して供給する。この指示信号は、例えば、電圧値の絶対値が回転速度を示し、正負の極性の符号が回転方向を示す信号である。
PWM制御信号生成部1412は、制御部1411から供給された指示信号の電圧値を、PWM制御信号として出力する。駆動部12は、このPWM制御信号を駆動出力として用いる。また、PWM制御信号生成部1412は、当該指示信号の符号を示す信号を設定部1414に供給する。設定部1414は、この符号を示す信号に応じて、モータ1430の回転方向を設定するCW/CCW信号を生成する。設定部1414は、例えば、当該指示信号の符号の極性が正で、第1の回転方向を設定するCW/CCW信号を生成し、当該指示信号の符号の極性が負で、第1の回転方向に対して回転方向が反転された第2の回転方向を設定するCW/CCW信号を生成する。
また、制御部1411は、モータ1430をブレーキ制御するBRAKE信号を生成する。PWM制御信号生成部1412で生成されたPWM制御信号と、設定部1414で生成されたCW/CCW信号と、制御部1411で生成されたBRAKE信号とが、モータ1430を駆動するためのモータ駆動制御信号としてプリドライバ1420に供給される。
ここで、設定部1414は、制御部1411に受信された制御信号に含まれるモータ駆動モードが位置ホールドモードを示す場合に、モータ1430の回転方向を設定し、設定された回転方向を示すCW/CCW信号を出力するように、制御部1411に制御される。
プリドライバ1420は、ロジック回路1422を有する。モータ制御部1410のPWM制御信号生成部1412から出力されたPWM制御信号がロジック回路1422に供給される。ロジック回路1422は、供給されたPWM制御信号に応じたデューティ比のPWM信号を生成する。例えば、PWM制御信号は、所望のデューティ比に対応するレベルの指令信号であって、ロジック回路1422は、モータ1430の駆動周期で三角波を生成し、生成した三角波の振幅と指令信号とを比較して、当該指令信号により指令されるデューティ比のPWM信号を生成する。
モータ1430は、例えばFETを用いたスイッチング素子Q1〜Q4によるHブリッジ回路からなるドライバ回路により駆動される。なお、図18では、説明のためドライバ回路の例として2相のHブリッジ回路を示しているが、実際には、モータ1430は、U相、V相およびW相の3相のモータ駆動信号により駆動され、ドライバ回路は、モータ1430に対して上下のスイッチング素子のペアがさらに1組追加される。
ロジック回路1422から出力されるU相、V相およびW相の各相のモータ駆動信号が各スイッチング素子Q1〜Q4のゲートに供給されると共に、モータ駆動電圧Vddがドライバ回路に供給される。各相の駆動信号により各スイッチング素子Q1〜Q4を所定のタイミングで制御することで、モータ1430が回転駆動される。
ロジック回路1422は、CW/CCW信号に応じてそれぞれ3相のモータ駆動信号およびホール信号の順序を入れ替えることで、モータ1430の回転方向を第1および第2の回転方向に制御することができる。また、ロジック回路1422は、BRAKE信号に応じて例えばモータ1430の端子を短絡させることで、モータ1430をブレーキ停止させることができる。
ホール素子1431は、モータ1430に内蔵され、モータ1430における磁界の強度に応じたアナログ信号を出力する。ホール素子1431から出力されるホール信号は、図示されない信号処理回路で増幅など所定の信号処理を施されてロジック回路1422に供給される。
エンコーダ1432は、例えば、モータ1430の軸上に設けられ、モータ1430の回転に応じたA相およびB相の2相のエンコーダ信号を出力する。このエンコーダ信号は、モータ制御部1410に供給される。モータ制御部1410において、例えば制御部1411は、受信されたエンコーダ信号に基づきモータ1430の回転量、回転速度および回転方向をモニタすることができる。
なお、エンコーダ1432は、モータ1430の軸上に限らず、例えばモータ1430により駆動制御される制御対象と同期して動く部位に設けるようにしてもよい。また、モータ1430の回転速度の検出を、エンコーダ1432の代わりにホール素子1431から出力されるホール信号を用いて行ってもよい。この場合、速度検出用のセンサとしてエンコーダ1432を省略できるので、コストを削減することが可能である。
抵抗Rは、モータ1430に流れる合成電流をモータ制御部1410でモニタするためのシャント抵抗である。抵抗Rによる電流のモニタ出力は、モータ制御部1410に供給される。
このような構成において、モータ制御部1410は、モータ1430が有するエンコーダ1432の出力に基づきモータ1430の回転速度が一定になるようにPWM制御信号を生成する。そして、モータ制御部1410は、このPWM制御信号を電圧値に変換した電圧Vと、エンコーダ1432から出力されるエンコード信号に基づきモータ1430の回転速度Nを求め、電圧Vと、回転速度Nと、所定の固定値から、上述した式(14)に従いバックテンションFbを算出する。
また、モータ制御部1410は、電圧Vに基づき原稿MSの搬送が1本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れで行われているかを判定し、判定結果に従い、メモリ19から1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを取得する。そして、モータ制御部1410は、メモリ19から取得したテーブルを、算出したバックテンションFbと予め与えられた搬送力Faとから得られる比αに基づき参照し、滑り率βを取得する。モータ制御部1410は、取得した滑り率βを補正値として用いて補正したPWM制御信号を生成し、ロジック回路1422に供給する。
これにより、原稿MSの滑りを考慮したモータ駆動制御を行うことができ、原稿MSの読取り精度が向上される。
なお、モータ制御部1410は、上述したPWM制御信号の代わりに、抵抗Rによる電流のモニタ出力に基づき、原稿MSの搬送が1本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れで行われているかの判定や、バックテンションFbの算出を行ってもよい。すなわち、モータ1430に流れる合成電流は、抵抗Rにより電圧に変換される。モータ制御部1410は、例えば、この抵抗Rにより変換された電圧をモータ駆動出力と見做して、これらの判定や算出を行う。
さらに、モータ1430の制御を、ディジタルフィードバック制御方式の電流フィードバック制御により行う場合、モータ1430を駆動する電流値から駆動トルクの推測が容易に行える。例えば、モータ制御部1410は、モータ1430のフィードバック制御として、既知のディジタルPID(Proportional Integral Derivative)フィードバック制御を用いることができる。この場合、モータ制御部1410は、フィードバック制御の入出力値である、目標速度と、現在速度と、速度偏差と、目標位置と、現在位置と、位置偏差と、各PID出力と、モータ駆動出力とを用いて、モータ回転に伴う各出力値の特徴を示す特徴量および特徴量の変化の計測計算処理や、メカ負荷トルクの推定を行う。
モータ制御部1410は、推定されたメカ負荷トルクに基づき用紙が1本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れで行われているかを判定し、判定結果に従い、メモリ(例えば図7のメモリ19)などに予め記憶された1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを取得する。また、モータ制御部1410は、現在速度およびモータ駆動出力と、予め与えられた各固定値とに基づき、式(14)に従いバックテンションFbを算出する。そして、モータ制御部1410は、取得したテーブルを、算出したバックテンションFbと、予め与えられた搬送力Faとから求めた比αに基づき参照し、滑り率βを取得する。モータ制御部1410は、この滑り率βを補正値として用いて、モータ1430を制御する。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。第6の実施形態は、上述した第1の実施形態〜第4の実施形態における搬送系の制御をディジタルフィードバック制御を用いて行う場合の例である。なお、第6の実施形態では、上述した図16のMFP500および図17のADF51の構成をそのまま適用するものとする。
図19は、第6の実施形態に係るモータ制御システムの一例の構成を示す。モータ制御回路1180は、DCブラシレスモータからなるモータ1110の駆動を制御する。モータ制御回路1180は、目標位置・速度計算回路1181と、位置・速度追従制御回路1182、モータ回転量・速度計算回路1183を含む。
図19において、目標信号生成部1190は、モータ1110に対する目標回転量、目標回転速度、目標回転停止位置といった目標信号を生成する。この制御システムが適用されるMFP500の全体的な制御を司る制御部を目標信号生成部1190として機能させてもよい。モータ制御回路1180としては、1チップマイコンや制御用ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を利用して構成することができる。
目標信号生成部1190からモータ制御回路1180に送られた目標信号は、モータ制御回路1180の目標位置・速度計算回路1181に入力される。目標位置・速度計算回路1181は、入力された目標信号に基づいて、モータ1110のモータ軸1113を目標の回転姿勢で停止させるための目標モータ停止位置を算出し、その結果を目標位置信号として出力する。また、目標信号に基づいて、モータ軸1113を目標の回転速度で回転させるための目標モータ回転速度を算出し、その結果を目標速度信号として出力する。
モータ1110は、回転軸を共通として、円周上にスリットを有するコードホイール1111aと、コードホイール1111aのスリットを通過した光を検知する光学センサ1111bとを含むモータエンコーダを備える。光学センサ1111bは、スリット透過後の光を受光する受光部として第1受光部および第2受光部の2つを具備する2チャンネル光学センサを用いている。光学センサ1111bは、コードホイール1111aのスリットが第1受光部に対向したときに、第2受光部がそのスリットの脇に存在するホイール非スリット部に対向するように構成される。
モータ制御回路1180は、光学センサ1111bの第1受光部による受光量と、第2受光部による受光量との比率の変化に基づいて、それぞれの受光部に対してコードホイール1111aのスリットをズレ無く対向させた瞬間が高精度に把握される。第1受光部は受光量に応じた電圧をパルス信号Aとして出力する。また、第2受光部は、受光量に応じた電圧をパルス信号Bとして出力する。
光学センサ1111bから出力されるパルス信号Aやパルス信号Bは、モータ制御回路1180のモータ回転量・速度計算回路1183に入力される。モータ回転量・速度計算回路1183は、パルス信号A、パルス信号Bについてそれぞれパルス立ち上がり数やパルス周波数を演算した結果に基づいて、モータ回転量およびモータ回転速度を算出する。モータ回転量・速度計算回路1183は、算出したモータ回転量およびモータ回転速度を示すモータ回転量信号およびモータ回転速度信号をそれぞれ出力する。
位置・速度追従制御回路1182は、ドライバ回路1112に対して、GND(−電源)を常時供給している。また、必要に応じて励磁用+電源(+24V)や、信号用+電源(+5V)をドライバ回路1112に供給する。更には、必要に応じてブレーキ信号、PWM信号、方向信号(CW,CCW)をそれぞれ個別にドライバ回路1112に出力する。方向信号としては、正転命令を行うための正転信号、逆転命令を行うための逆転信号の何れかを出力する。PWM信号は、ドライバ回路1112からモータ1110のコイルに対して出力される励磁電流値を指示するためのものである。
モータ1110は、ホール素子1117を有している。このホール素子1117は、モータ1110のモータ軸1113の回転角度姿勢を示すホール信号を、例えば基準となる0°に対して120°毎にドライバ回路1112に出力する。
ドライバ回路1112は、出力調整部と、コイル切替部とを具備する(図示しない)。出力調整部は、モータ制御回路1180の位置・速度追従制御回路1182から出力されるPWM信号に基づいてモータ1110のコイルに対する励磁電流の出力を調整する。コイル切替部は、モータ1110における3相のコイルのうち、励磁電流を出力するコイルを切り替える。
より具体的には、出力調整部は、PWM信号に基づいて、コイル切替部に対する+24[V]の電圧の出力をオン/オフすることで、コイル切替部を介してコイルに流れる単位時間あたりの励磁電流の値を調整する。また、コイル切替部は、プリドライバと、複数のFETとを含む。複数のFETは、少なくとも、1相目のコイルに励磁するためのU励磁電流の出力をオン/オフするための第1FETと、2相目のコイルに励磁するためのV励磁電流の出力をオン/オフするための第2FETと、3相目のコイルに励磁するためのW励磁電流の出力をオンオフするための第3FETとを含む。プリドライバは、FETによるスイッチングを制御するためのゲート電圧を、それら複数のFETそれぞれに対して個別に出力する。
プリドライバは、ホール素子1117からのホール信号に基づいて、3つのFETに対するゲート電圧のオンオフを個別に制御することで、モータ1110に出力する励磁電流を、U励磁電流と、V励磁電流と、W励磁電流とで切り替える。この切り替えにより、モータ1110のモータ軸1113に対して磁界の切り替えによる回転力が付与される。
位置・速度追従制御回路1182は、モータ回転量・速度計算回路1183から送られてくるモータ回転速度信号の、目標速度信号からのズレ量を算出し、算出したズレ量に基づいてPWM信号を調整することで、モータ1110に対する励磁電流を調整する。これにより、位置・速度追従制御回路1182は、モータ1110の回転速度を目標の回転速度に制御するための速度調整処理を実施する。この速度調整処理により、モータ1110のモータ軸1113の回転速度を自在に調整することができる。
位置・速度追従制御回路1182は、モータ回転量・速度計算回路1183からモータ回転量信号が送られ、目標位置・速度計算回路1181から目標位置信号が送られる。位置・速度追従制御回路1182は、これらモータ回転量信号と目標位置信号とに基づきモータ1110の制動タイミングを取得し、その制動タイミングでドライバ回路1112に対するPWM信号の出力を停止すると共に、ブレーキ信号を出力し、モータ1110を目標の回転角度姿勢で停止させる。
モータ1110を停止させている状態において、位置・速度追従制御回路1182は、ホールド処理を行う。このホールド処理では、モータ回転量・速度計算回路1183から送られてくるモータ回転量信号に基づいて、モータ軸1113の正転や逆転の有無を監視する。位置・速度追従制御回路1182は、正転を検知した場合、正転量に応じた量だけモータ1110を逆転駆動する。一方、位置・速度追従制御回路1182は、逆転を検知した場合は、逆転量に応じた量だけモータ1110を正転駆動する。これにより、モータ1110の回転駆動力によって駆動される被駆動体を目標の回転姿勢に拘束する。かかる構成では、ハス歯ギヤの付設によらず、ホールド制御によってモータ1110を所望の回転角度姿勢に拘束することで、装置の小型化および装置構成の簡素化を図ることができる。
図19において、メモリ1201は、図7で説明したメモリ19に対応し、1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルと、各固定値とを予め記憶する。計算部1200は、図7で説明した判定部17および計算部18を含み、位置・速度追従制御回路1182から出力されたPWM信号と、モータ回転量・速度計算回路1183から出力されたモータ回転速度信号とを取得する。計算部1200は、取得したPWM信号から、モータ1110を駆動するモータ駆動出力の電圧Vを求める。また、計算部1200は、取得したモータ回転速度信号から、モータ1110の回転速度Nを求める。
さらに、計算部1200は、電圧Vから、用紙の搬送が1本ローラ搬送および2本ローラ搬送の何れで行われているかを判定する。計算部1200は、判定結果に従い、メモリ1201から1本ローラ搬送用テーブルおよび2本ローラ搬送用テーブルのうち何れかを取得する。計算部1200は、電圧Vおよび回転速度Nと、メモリ19から読み出した各固定値とに基づき、式(14)に従いバックテンションFbを算出する。そして、計算部1200は、取得したテーブルを、算出したバックテンションFbと、予め与えられた搬送力Faとから求めた比αに基づき参照し、滑り率βを取得する。
計算部1200は、取得した滑り率βに基づき式(18)により目標回転速度N1(T)を求め、この目標回転速度N1(T)を補正値として目標位置・速度計算回路1181に渡す。また、計算部1200は、取得した滑り率βに基づき式(19)により目標送り量Fd1(T)を求め、この目標送り量Fd1(T)を補正値として目標位置・速度計算回路1181に渡す。目標位置・速度計算回路1181は、これらの補正値を用いて目標位置信号および目標速度信号を生成し、位置・速度追従制御回路1182に渡す。
図20は、図19に示したモータ制御回路1180に含まれる位置・速度追従制御回路1182の一例の構成を示す。位置・速度追従制御回路1182は、位置フィードフォワード制御回路1182aと、速度フィードフォワード制御回路1182bと、位置フィードバック制御回路1182cと、速度フィードバック制御回路1182dと、速度検出回路1182eと、第1加減算回路1182fと、第2加減算回路1182gと、加算回路1182hとを含む。
一般的には、DCブラシレスモータからなるモータ1110は、ステッピングモータに比べて、起動時や停止時の位置追従性や速度追従性が劣る。そこで、第6の実施形態においては、モータ制御回路1180は、モータ1110の起動時や停止時の動作特性を予め取得する。モータ制御回路1180は、取得した動作特性に基づいて、起動時や停止時の位置追従性や速度追従性を向上させるための位置追従プロファイルや速度追従プロファイルを構築して、目標位置・速度計算回路1181に記憶させている。目標位置・速度計算回路1181は、記憶された位置追従プロファイルや速度追従プロファイルに基づいて、目標位置信号や目標速度信号を生成する。
第1加減算回路1182fは、位置・速度追従制御回路1182に受信された目標位置信号が加算値として入力され、モータエンコーダによるモータ回転量検知結果に基づいて構築される位置検知信号が減算値として入力される。第1加減算回路1182fは、実際のモータ回転位置(位置検知信号)と目標回転位置(目標位置信号)とが同じである場合にはゼロを出力する。第1加減算回路1182fは、実際のモータ回転位置が目標回転位置よりも進んでいる場合には、マイナス値を出力する。また、第1加減算回路1182fは、実際のモータ回転位置が目標回転位置よりも遅れている場合には、プラス値を出力する。第1加減算回路1182fの出力は、位置フィードバック制御回路1182cに入力される。位置フィードバック制御回路1182cは、入力された第1加減算回路1182fの出力を位置から速度に変換して第1フィードバック信号として出力する。
位置・速度追従制御回路1182に受信された目標位置信号は、位置フィードフォワード制御回路1182aにも入力される。位置フィードフォワード制御回路1182aは、目標位置を速度に変換して第1フィードフォワード信号として出力する。位置フィードバック制御回路1182cから出力された第1フィードバック信号や、位置フィードフォワード制御回路1182aから出力された第1フィードフォワード信号は、それぞれ第2加減算回路1182gに対して加算値として入力される。
位置・速度追従制御回路1182に受信された位置検知信号は、速度検出回路1182eにも入力される。速度検出回路1182eは、入力される位置検知信号の時間変化に基づいてモータの回転速度を算出し、その結果を速度検出信号として出力する。この速度検出信号は、第2加減算回路1182gに対して減算値として入力される。第2加減算回路1182gは、加算値として入力された各信号を加算し、加算結果から減算値として入力された信号を減算して、速度を示す信号として出力する。
第2加減算回路1182gの出力は、速度フィードバック制御回路1182dに入力される。速度フィードバック制御回路1182dは、入力された速度を示す信号を、その速度の増減、すなわち、当該信号がプラス符号の場合には増加、マイナス符号の場合には減少を実現するための電圧値に変換して、第2フィードバック信号として加算回路1182hに出力する。
一方、位置・速度追従制御回路1182に受信された目標速度信号は、速度フィードフォワード制御回路1182bに入力される。速度フィードフォワード制御回路1182bは、入力された目標速度信号を、当該目標速度信号が示す目標速度を実現するための電圧値に変換して、第2フィードフォワード信号として加算回路1182hに出力する。そして、加算回路1182hにおける電圧の加算結果が、PWM信号としてドライバ回路1112に出力される。
係る構成では、位置追従プロファイルや速度追従プロファイルに基づくフィードフォワード制御値に対し、速度検知結果と目標速度との差に基づくフィードバック制御値と、位置検知結果と目標位置との差に基づくフィードバック制御値とを加算している。これにより、第6の実施形態に係る制御システムは、DCブラシレスモータであるモータ1110に対し、ステッピングモータに匹敵するほどの位置追従性と速度追従性とを発揮させることができる。
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態について説明する。第7の実施形態は、画像読取部310により読み取られた画像データに対して、用紙の搬送状態の遷移に伴うモータ回転位置偏差の変動に応じて画像処理を施す。これにより、モータ回転位置偏差の変動による画像データの部分的な縮率の変化を抑制し、読み取られた画像データによる画像の品質を向上させる。
図21は、第7の実施形態に適用可能な画像形成装置の一例の構成を示す。なお、ここでは、第7の実施形態に適用可能な画像形成装置として、図16を用いて説明したMFP500を例にとって説明する。ここで、MFP500は、例えば、ADF51における原稿MSの搬送に係る各モータの制御を、図19に示したモータ制御システムにより、ディジタルフィードバック制御を用いて行うものとする。
図21において、MFP500は、アナログビデオ処理部1050と、画像データ受取り部1051と、画像処理部1052と、画像メモリコントロール部1053と、I/Fコントローラ部1055と、画像メモリ1054とを含む。MFP500は、さらに、CPU1057と、ROM1058と、RAM1059と、画像形成制御部1060とを含む。MFP500に含まれるこれら各部は、バスなどにより互いに通信可能に接続されている。
また、MFP500は、画像読取部(CIS)310および駆動制御部1056を含む。画像読取部310は、アナログビデオ処理部1050に接続される。また、駆動制御部1056は、CPU1057に接続される。
CPU1057は、ROM1058に予め記憶されたプログラムに従い、RAM1059をワークスペースとして用いて、このMFP500全体の処理を制御する。なお、上述した検出部16、判定部17および計算部18は、このCPU1057上で動作するプログラムにより実現することができる。これに限らず、検出部16、判定部17および計算部18を、ハードウェア的に実装してもよい。また、メモリ19は、ROM1058に含まれる。
駆動制御部1056は、CPU1057の命令に従い、目標信号生成部1190(図19参照)に対して各目標信号の生成指示を出す。画像形成制御部1060は、CPU1057の命令に従い、MFP500が有する画像形成部1の動作を制御する。画像形成部1は、画像形成制御部1060の制御に従い動作することで、画像データに従った画像を転写紙上に形成することができる。
画像読取部310は、図示されないクロック出力部から供給されたクロック信号に従い、所定の時間間隔でライン単位の画像読み取りを実行し、アナログ方式の画像信号を出力する。この画像信号は、アナログビデオ処理部1050において暗電位部分の除去やゲイン調整を施された後、A/D変換されディジタル方式の画像データに変換される。アナログビデオ処理部1050から出力された画像データは、画像データ受取り部1051に受け取られ、シェーディング補正処理を施されて画像処理部1052に出力される。
画像処理部1052は、画像データ受取り部1051から供給された画像データに対して、後述するライン単位の補間処理および間引き処理を含む所定の画像処理を施す。画像処理部1052は、各種画像処理を施した画像データを画像メモリコントロール部1053に供給する。画像メモリコントロール部1053は、画像メモリ1054に対する画像データの入出力を制御する。
画像メモリコントロール部1053は、画像処理部1052から供給された画像データを画像メモリ1054に格納する。CPU1057は、例えばI/Fコントローラ部1055を介してホストコンピュータ1105などの画像データ転送先から画像の転送要求を受け付けた場合、画像メモリコントロール部1053に対して画像メモリ1054に格納された画像データの読み出しを要求する。画像メモリコントロール部1053は、この要求に従い画像メモリ1054から画像データを読み出して、I/Fコントローラ部1055に渡す。I/Fコントローラ部1055は、CPU1057の命令に従い、画像メモリコントロール部1053から渡された画像データを、ホストコンピュータ1105などの画像データ転送先に転送する。
また、複写処理など、画像読取部310で原稿を読み取った画像に従い、転写紙に画像を形成する場合、CPU1057は、画像メモリコントロール部1053に対して画像メモリ1054に格納された画像データの読み出しを要求する。画像メモリコントロール部1053は、この要求に従い画像メモリ1054から画像データを読み出して、CPU1057に渡す。CPU1057は、画像メモリコントロール部1053から渡された画像データを画像形成制御部1060に渡すと共に、画像形成制御部1060に対して画像データに従った画像形成を実行するように命令する。
(第7の実施形態に係る画像処理)
次に、第7の実施形態に係る画像処理について、より具体的に説明する。ここでは、説明のため、図1の搬送装置300aを例にとって説明を行う。図4などを用いて説明したように、搬送状態の各状態A〜状態F間での遷移時には、メカ負荷トルクが変動し、それに伴い、モータの回転速度Nおよび回転位置偏差Pと、モータ駆動出力の電圧Vなどが変動する。これらのうち、モータの回転位置偏差Pの変動に注目する。
図22は、モータ回転位置偏差Pをより詳細に示す図である。図22(a)および図22(b)は、それぞれ図4(a)および図4(d)に対応する。図22(a)に示されるように、メカ負荷トルクが搬送状態の各状態A〜状態F間での遷移時に変動すると、図22(b)に示されるように、モータ回転位置偏差Pも、メカ負荷トルクの変動に対応して変動する。
特に、用紙330の後端が分離機構を抜ける状態Dから状態Eへの遷移時は、ワンウェイクラッチ323の機能によりメカ負荷トルクが一時的に解放される。そのため、モータ回転位置偏差Pは、図22(b)に部分410として示されるように、他の状態遷移時と比較してより大きく変動する。図22(c)に、部分410のモータ回転位置偏差Pの変動を拡大して示す。図では、モータ回転位置偏差Pは、時間t2〜t3の間に、ピーク位置で偏差P1に上昇している。
用紙330は、モータ回転位置偏差Pが変動している時間t2〜t3の間は、本来搬送されるべき搬送速度で搬送されないことになる。図23を用いて、このことについてより詳細に説明する。図23(a)は、モータ回転位置偏差Pの変動をより詳細に示す。モータ回転位置偏差P(以下、適宜、偏差Pと記述する)は、偏差P=0の状態から、時間aで偏差P=P1まで上昇し、ピークのタイミングから、時間bで偏差P=P1から偏差P=0に下降する。
図23(b)は、横軸が図23(a)と対応する時間であり、縦軸が画像読取部310の原稿(用紙330)上の位置を示している。したがって、特性線411および412は、画像読取部310に対する原稿の速度を示している。特性線412は、偏差Pの変動が無い場合の原稿の速度を示す。特性線411は、偏差Pが変動した場合の原稿の速度を示す。
特性線411に示されるように、偏差Pがピークに向かって変動する時間aでは、原稿の速度は、偏差Pが変動しない場合に比べて大きくなる。また、偏差Pがピークから0に下降する時間bでは、原稿の速度は、偏差Pが変動しない場合に比べて小さくなる。
画像読取部310による原稿画像の読み取りは、ライン毎に一定時間間隔にて行われる。すなわち、画像読み取りによる画像データは、図23(b)の下部にラインデータとして示されるように、一定時間間隔で取得される。これに対して、原稿の速度が変動すると、図23(b)に水平方向の点線で示されるように、偏差Pが変動しない場合に比べて、原稿の速度が速い場合には原稿の単位距離当たりに読み取られるライン数が少なくなり、原稿の速度が遅い場合には、原稿の単位距離当たりに読み取られるライン数が多くなる。図23(b)の例では、時間aにおいて、原稿の単位距離当たりに読み取られるライン数が少なくなり、時間bにおいて、原稿の単位距離当たりに読み取られるライン数が多くなる。
画像形成部1による画像形成や、ディスプレイへの表示の際には、各ラインは等間隔となるので、時間aの部分は原稿の搬送方向に縮んだ(縮率が1より大きい)画像となり、時間bの部分は、原稿の搬送方向に伸長された(縮率が1より小さい)画像となる。したがって、時間aの部分は、補間処理によりラインを増やし、時間bの部分は間引き処理などによりラインを減らす処理を行う。
図24は、このような、モータ回転位置偏差Pの変動に応じてラインデータの補間処理および間引き処理を行うための一例の構成を示す。メモリ20は、画像読取部310で原稿画像を読み取ったライン単位の画像データが入力ラインデータとして入力され、記憶される。メモリ20は、少なくとも補間処理や間引き処理に必要なライン数の画像データを記憶可能とされている。
画像補正部21は、モータ回転位置偏差Pを示すモータ回転位置偏差情報が入力され、モータ回転位置偏差情報に従い、モータ回転位置偏差Pが変動している部分に対応する画像データをメモリ20から読み出すように読み出し制御を行う。画像処理部21は、この読み出し制御によりメモリ20から読み出されたラインデータに対して、モータ回転位置偏差Pの変動に従い、縮率を1とするように補間処理や間引き処理などの画像補正処理を施す。画像補正部21は、画像補正処理を施した画像データを、例えばライン単位の出力ラインデータとして出力する。
なお、図24のメモリ20は、図21の画像メモリ1054を利用することができる。また、画像補正部21は、図21の画像処理部1052に含まれる構成とすることができる。これに限らず、メモリ20および画像補正部21は、画像処理部1052内に含めてもよいし、図21に示した各部に対して別途設けてもよい。
さらに、上述した画像補正部21による補正処理は、画像読取部310による原稿画像の読み取りに対してリアルタイム的に実行する必要は無く、例えば1枚の原稿の読み取りが終了してから、当該原稿から読み取った画像データに対して纏めて実行してもよい。
また、上述では、画像補正部21は、モータ回転位置偏差Pに基づき補間処理および間引き処理を行うように説明したが、これはこの例に限定されない。例えば、画像補正部21は、メカ負荷トルク、回転速度N、モータ駆動出力の電圧Vなど、他の情報に基づき補間処理や間引き処理を行ってもよい。
また、上述では、縮率が変化する位置を、モータ回転位置偏差Pの変動の大きさに基づき検出しているが、これはこの例に限定されない。縮率の変化位置は、例えば搬送状態の遷移を検出することで計測できるため、本来のレイアウト距離(第1搬送ローラ306およびフィードローラ324間の距離など)と縮率の変化位置との比較で縮率を求めてもよい。さらに、モータ11のエンコーダパルス量と搬送状態の遷移点の検出位置とを対応させて縮率を求めることも可能である。さらにまた、これらの方法を併用してもよい。
画像補正部21による補正分解能について説明する。画像読取速度が255mm/s、ライン分解能が600dpiの場合について考える。モータ11の回転速度Nを2400rpmで設計し、エンコーダパルス数を400パルス/回転とすると、エンコーダの1パルスは15.6μmに相当する。ここで、ライン分解能600dpiは、換算すると42.3μmの分解能となるので、読取分解能に対し補正分解能は、約3倍となる。したがって、エンコーダの分解能を上げることで、補正処理による補正精度は向上する。
なお、上述の各実施形態は、本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形による実施が可能である。