JP6408772B2 - ワニスおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリアリレート樹脂からなるワニスに関する。
ポリアリレート樹脂は、耐熱性に優れ、耐衝撃性に代表される機械的強度や寸法精度に優れ、また、非晶性で透明であるため電気・電子、自動車、機械などの分野に幅広く利用されている。ポリアリレート樹脂からなる製品の多くは、押出成形や射出成形のように溶融状態で加工された成形品であるが、溶剤に溶解してキャストされたフィルム、あるいは金属、ガラス、樹脂、木材などの基材に塗布され被膜としての利用が盛んになってきている。
このようなポリアリレート樹脂からなるフィルムや被膜について、例えば、特許文献1には、ビスフェノールA、テレフタル酸およびイソフタル酸からなるポリアリレート樹脂をハロゲン系有機溶媒に溶解した溶液を用いて、流延法によりフィルムを製膜することが開示されている。また、特許文献2には、ビスフェノールA、テレフタル酸、イソフタル酸およびオルトフタル酸からなるポリアリレート樹脂を非ハロゲン系有機溶媒に溶解したコーティング剤について開示されている。
特開平8−269214号公報 特開2013−18943号公報
しかしながら、ポリアリレート樹脂に関し、特許文献1または2記載のようなコーティング剤を用いて得られる被膜、フィルムについて、本発明者らは、以下のような問題があることを見出した。
特許文献1記載のようなフィルムでは、用いるポリアリレート樹脂は塩化メチレンやクロロホルムといったハロゲン系有機溶媒に溶解し、流涎、乾燥することで得られている。このようなハロゲン系有機溶媒は近年、環境や人体への影響を懸念して使用が避けられている。ところで、前記ポリアリレート樹脂は、非ハロゲン系有機溶媒への溶解性が乏しく、安定な樹脂溶液を得ることが困難であった。したがって、流涎フィルムを得る際、環境負荷を低減した有機溶剤を用いることは難しかった。
一方で、電気・電子、自動車分野においては、近年、軽量化、薄型化が求められており、それに伴い耐熱を要求される部品には、より一層高い耐熱性が求められるようになった。
このような背景のもと、前記分野で用いられる被膜やフィルムとしてのポリアリレート樹脂に対しても、耐熱性向上が求められている。特許文献2記載のポリアリレート樹脂は、溶剤溶解性は向上し、被膜やフィルムの形成はし易くなったが、耐熱性が不足した。
本発明者らは、耐熱性を高めたポリアリレート樹脂を用い、しかも、塗工性、溶液安定性を向上したワニスを提供することを目的とする。
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達し
た。
すなわち本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)ポリアリレート樹脂を有機溶剤に溶解したワニスであって、
前記ポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸残基を導入するための芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸およびイソフタル酸であり、ビスフェノール類残基を導入するためのビスフェノール成分が下記(III)および(IV)であり、モル比{(III)/[(III)+(IV)]}が、0.20を超え、0.80未満であり、ガラス転移温度が200℃以上320℃未満であり、前記有機溶剤は、ケトン化合物、ハロゲン基を含まない芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とするワニス。
(III):2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)から選ばれる1種以上
(IV):1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTMC)
(2)固形分濃度が1〜40質量%である(1)のワニス。
(3)100μm以下のポリアリレート樹脂粒子を、有機溶媒に混合して溶解することを特徴とする(1)または(2)のワニスの製造方法。
(4)(1)または(2)のワニスを基材に塗布してなる被膜。
(5)(1)または(2)のワニスより形成されたフィルム。
本発明によれば、耐熱性を高めたポリアリレート樹脂を用い、しかも、塗工性、溶液安定性を向上したワニスが得られる。
このようなワニスから得られた被膜やフィルムは、耐熱性や機械特性に優れるため、各種用途で好適に使用できる。
本発明に用いられるポリアリレート樹脂とは、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、ビスフェノールまたはその誘導体とよりなり、その構造単位として下記一般式(I)および(II)で示される構造を含む芳香族ポリエステル重合体であり、溶液重合、溶融重合、界面重合などの方法により製造される。
一般式(I)中、Wは、単結合、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルキリデン基、ハロ置換アルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、カルボキシルアルキレン基、カルボキシルアルキリデン基、アルコキシカルボニルアルキレン基、アルコキシカルボニルアルキリデン基、フルオレン基、イサチン基、フタルイミジン基、アルキルシランジイル基、ジアルキルシランジイル基からなる群より選ばれ、Arは、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、オキシジフェニレン基、炭素数3〜7の環状炭化水素基からなる群から選ばれ、R、R、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜20の脂環族炭化水素基、炭素数1〜20の芳香族炭化水素基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれる。
中でも、下記一般式(II)との組み合わせで用いる際に、良好な溶解性を有し、耐熱性を高める効果が優れる点で、Wは、単結合、硫黄原子、アルキレン基、アルキリデン基が好ましく、Arは、フェニレン基であることが好ましく、R、R、RおよびRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。
一般式(I)で示される構造に、ビスフェノール類残基を導入するためのビスフェノール成分としては、例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、N−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、N−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。上記の中でも、前記溶解性、耐熱性の観点から、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)を好ましく用いることができる。
一般式(II)中、Arは、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、オキシジフェニレン基、炭素数3〜7の環状炭化水素基からなる群から選ばれ、R11、R12、R13およびR14は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜20の脂環族炭化水素基、炭素数1〜20の芳香族炭化水素基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれ、R15およびR16は、各々独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜20の脂環族炭化水素基、炭素数1〜20の芳香族炭化水素基、ハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれ、kは2〜12の整数である。
中でも、下記一般式(I)との組み合わせで用いる際に、良好な溶解性を有し、またガラス転移温度を高める効果の高い点で、Arはフェニレン基であることが好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸を等モル量で用いることが特に好ましい。R11、R12、R13およびR14は、各々独立に水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。R15およびR16は、各々独立に水素原子あるいはメチル基であることが好ましく、kは5であることが好ましい。
一般式(II)で示される構造に、ビスフェノール類残基を導入するためのビスフェノール成分としては、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリエチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。上記の中でも、前記溶解性、耐熱性の観点から、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTMC)、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンを好ましく用いることができる。
一般式(I)および(II)で示される構造に芳香族ジカルボン酸残基を導入するための芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。中でも、テレフタル酸およびイソフタル酸が好ましく、溶剤に対する溶解性の観点から、両者を混合して用いることが特に好ましい。その場合、混合比率は(テレフタル酸/イソフタル酸)=100/0〜0/100(モル%)の範囲の任意であるが、好ましくは80/20〜10/90(モル%)、より好ましくは60/40〜25/75(モル%)の範囲とすると得られるポリアリレート樹脂の溶解性が優れたものとなる。
また、本発明の特性や効果を損なわない範囲で、脂肪族ジカルボン酸類を用いてもよい。脂肪族ジカルボン酸類としては、特に限定されず、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸等を挙げることができる。
上記ポリアリレート樹脂には、本発明の特性や効果を損なわない範囲で、脂肪族グリコール類やジヒドロキシベンゼンを用いてもよい。脂肪族グリコール類としては、特に限定されず、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジール、ノナンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、同プロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等を、ジヒドロキシベンゼンとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコールを挙げることができる。
本発明で用いるポリアリレート樹脂において、一般式(I)と(II)で示される構造
のモル比{(I)/[(I)+(II)]}は、0.20を超え、0.80未満である。
上記モル比は0.20を超え、0.80未満である。モル比が0.90を超えると、用いるポリアリレート樹脂の有機溶剤への溶解性が不十分なものとなり、ポリアリレート樹脂の耐熱性が劣ったものとなる。モル比が0.10未満であると耐熱性は十分であるが、有機溶剤への溶解性が不十分なものとなる。
本発明で用いるポリアリレート樹脂は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの60/40(質量比)の混合液に濃度1g/dlとなるように溶解した樹脂溶液の、温度25℃におけるインヘレント粘度が0.40〜1.20dl/gであることが好ましく、0.45〜1.00dl/gであることがより好ましい。インヘレント粘度は分子量の指標であるが、本発明において、用いるポリアリレート樹脂のインヘレント粘度が0.40dl/g未満であるとポリマーとしての機械的特性が劣ったものとなる。インヘレント粘度が1.20dl/gを超えると、用いるポリアリレート樹脂を有機溶剤に溶解した際にワニスの粘度が高まり、作業性が悪くなることがあり好ましくない。
ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度、すなわち分子量を所定の範囲とするには、重合時間を調節することで反応率を制御し分子量を調整する方法、芳香族ジカルボン酸成分あるいは二価フェノール成分のモノマーの配合比率をいずれかの成分をわずかに過剰に配合して重合することで分子量を調整する方法、反応性官能基を分子中に1つだけ有するアルコール類やフェノール類、あるいは、カルボン酸類を末端封鎖剤としてモノマーとともに添加して分子量を調整する方法などが挙げられる。これらの中では末端封鎖剤を添加する方法が分子量の制御をしやすく好適である。
前記末端封鎖剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアルコール類、フェノール、クレゾール、2,6−キシレノール、2,4−キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、クミルフェノール等のフェノール類や、安息香酸、メチル安息香酸、ナフトエ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸等のカルボン酸類、あるいはそれらの誘導体が挙げられる。
本発明で用いるポリアリレート樹脂は、ガラス転移温度が200℃以上320℃未満であり、210℃以上310℃未満であることが好ましく、220℃以上300℃未満であることがより好ましく、230℃以上290℃未満であることがさらに好ましい。
本発明で用いるポリアリレート樹脂には、その特性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、燐系酸化防止剤等を添加してもよい。
本発明で用いるポリアリレート樹脂は、有機溶剤に溶解することで、ワニスとして使用可能である。溶解時の固形分濃度は任意に決めることができる。
本発明において、用いるポリアリレート樹脂として、前記一般式(I)と(II)で示
される構造のモル比{(I)/[(I)+(II)]}が0.20を超え、0.80未満となるように重合しポリアリレート樹脂を得ることで、有機溶剤に対する溶解性が特に優れたものとなる。このようなポリアリレート樹脂は、特にケトン化合物および芳香族炭化水素に好適に溶解が可能であり、得られるワニスの安定性も向上する。
本発明のワニスにおいて、用いるポリアリレート樹脂の有機溶剤に対する溶解性の優劣の判断は、例えば、常温(23℃)下、固形分濃度10質量%以上で完全に溶解するか否かで確認することができる。一般的に、ポリアリレート樹脂は構成単位によっては、特定の有機溶剤にしか溶解しなかったり、溶剤に対する溶解度が小さかったり、溶解はするものの溶解後数日、場合によっては数時間でゲル化するなど安定性が悪いという問題がある。本発明のワニスにおいては、前記に掲げるいずれの有機溶剤を用いた場合であっても、固形分濃度が10質量%未満でしか溶解しないか、溶解中にゲル化するものは溶解性を有しないと判断をする。
本発明において、ワニスの製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリアリレート樹脂を100μm以下の大きさに粉砕した後、得られた微粒子を有機溶媒と混合し、必要に応じて撹拌し溶解させることが好ましい。ポリアリレート樹脂を有機溶剤と混合する方法としては、一定温度に保った状態で、所定量の有機溶剤とポリアリレート樹脂を容器に入れ混合液とし、攪拌機により前記混合液を攪拌する方法、または容器を密閉して振とうする方法などが挙げられる。溶解開始から全量が溶解するまでの所要時間は、ポリアリレート樹脂の溶解性だけなく溶解方法に影響されるが、好ましくは24時間以内、より好ましくは5時間以内に全量が溶解できる条件とすることが作業性の面からも好ましい。溶解中に前記混合液の状態を適時観察し、不溶物(沈殿)、濁り、及びゲル化のいずれもが認められない状態であれば、完全に溶解したと確認できる。この時、ポリアリレート樹脂の粒子の大きさや微細構造によっては溶解に時間を要する場合があるので、そのような場合にはポリアリレート樹脂を平均粒径が100μm以下となるよう粉砕した後、前記溶解方法にて溶解することで、作業性を向上することができる。
上記溶解に用いる有機溶剤は、ハロゲン化脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、アミド化合物、エーテル化合物、ケトン化合物および芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種類の有機溶剤である。用いる有機溶剤はポリアリレート樹脂を溶解してワニスとすることができれば特に限定されることはなく、ワニスを使用するプロセス適性に合わせて選択することが好ましい。
前記ハロゲン化脂肪族炭化水素の具体例としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、ブロモエタン、1,2−ジブロモエタン、1−ブロモプロパンなどが挙げられる。
前記ハロゲン化芳香族炭化水素の具体例としては、例えばクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどが挙げられる。
前記アミド化合物の具体例としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
前記エーテル化合物の具体例としては、例えば1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
前記ケトン化合物の具体例としては、例えばシクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記芳香族炭化水素の具体例としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
本発明で用いるポリアリレート樹脂は、前記有機溶剤に溶解することでワニスとするこ
とができる。なお、ワニスとする際、所望の性能を付与するため、本発明で必要とする性
能の範囲内でポリアリレート樹脂以外の他の樹脂を溶解してもよい。他の樹脂の一例としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミド等が挙げられる。また、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、微粒子無機フィラー等の各種添加剤を混合して用いてもよい。
本発明で得られるワニスの固形分濃度は、1〜40質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましい。
ワニスの使用方法は特に限定されないが、コートにより樹脂や金属などの基材上に被膜を形成する方法や、基材、ドラム、ベルト上に形成した被膜のみを取り外してフィルムを得る方法、繊維状強化材にワニスを含浸させて、溶剤を蒸発させて一般にプリプレグと呼ばれる複合材とする方法、樹脂や金属など基材上に塗膜を形成し、溶剤を蒸発させる前に塗膜面に他の樹脂や金属などの基材を張り合わせ接着剤として使用する方法などが挙げられる。
ワニスの乾燥方法は特に限定されないが、効率よく溶媒を除去するためには加熱乾燥することが好ましい。
このようにしてワニスより得られた被膜やフィルムは、耐熱性、機械特性に優れるため、各種用途に適用が可能となる。例えば、自動車部品、電気・電子部品における耐熱性、機械特性が要求される用途において、金属部品や他の樹脂部品上に被膜を形成したり、単体のフィルムとして、ディスプレイ、基板、絶縁層等として用いることができる。また、第一の基材にワニスを塗布した後、第二の基材を積層、加熱することで一体化させ積層体とすることもできる。
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
1.評価方法
(1)インヘレント粘度(ηinh)
フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合液
を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃の条件で相対粘度(ηrel)を測定した。得られた相対粘度より下記式よりインヘレント粘度を算出した。
ηinh(dl/g) = Ln(ηrel)/c (c:濃度)
(2)ガラス転移温度
示差走査熱分析装置(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を使用し、昇温速度10℃/minで30℃から400℃まで昇温し、得られた昇温曲線中のガラス転移温度に由来する不連続変化の開始温度をガラス転移温度とした。
(3)溶解性
内容量50mlのガラス製ねじ口瓶に所定濃度になるよう秤量した樹脂と有機溶剤の合計30gを密封し、23℃の室温でミックスローターを使用して70rpmでねじ口瓶を回転させた。回転を開始して24時間後に回転を停止した。その後ねじ口瓶の樹脂溶液を目視観察し、下記基準により溶解性を評価した。なお、有機溶剤として、クロロホルム、クロロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノンおよびトルエンのそれぞれを用い、10、20、30質量%の各濃度になるように樹脂溶液を作製した。
〇:完全に溶解し、透明性を有した。
△:白濁した。
×:不溶物があった。
(4)溶液安定性
(3)で溶解性の評価を行った各樹脂溶液について、回転を停止したねじ口瓶を23℃の室温下48時間静置した。その後ねじ口瓶の樹脂溶液を目視観察し、下記基準により溶液安定性を評価した。
〇:透明性が維持され、増粘もしなかった
△:白濁し、やや増粘した。ただし流動性は有した。
×:ゲル化した。流動性はなかった。
(5)塗工性
後述の実施例において得られたポリアリレート樹脂を、固形分濃度が20質量%となるようにクロロホルムに溶解しワニスを得た。得られたワニスを、乾燥後の厚みが100μmとなるようアプリケータを用い、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム基材上に塗膜を形成後、150℃で乾燥させ、ポリアリレート樹脂フィルムを得た。得られたポリアリレート樹脂フィルムについて、下記基準により評価した。なお、(3)でクロロホルムを用い、固形分濃度20質量%での溶解性が×のものは、塗工性の評価は行わなかった。
〇:フィルム表面が平滑で、厚みが均一で、しかも透明である。
△:平滑性がやや劣る。
×:白濁した。
実施例1
水冷用ジャケットと攪拌装置を備えた内容積100Lの反応容器中に、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に溶解し、ついで2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下BPA)3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下BPTMC)3.00mol、および、p−tertブチルフェノール(以下PTBP)0.30molを溶解した。
別の容器でテレフタル酸ジクロリド(以下TPC)3.08mol、イソフタル酸ジクロリド(以下IPC)3.08molをジクロロメタン18Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジクロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。
静置分離後に水相を抜き出し、残ったジクロロメタン相に酢酸20gを添加した。その後、イオン交換水30Lを投入し、20分間攪拌してから再度静置して水相を抜き出した。この水洗操作を水相が中性になるまで繰り返した後、ジクロロメタン相をホモミキサーを装着した容器に入った50℃の温水中に投入して塩化メチレンを蒸発させ、粉末状ポリアリレートを得た。
この粉末状ポリアリレートを脱水した後、真空乾燥機を使用して、減圧下130℃で24時間乾燥してポリアリレート樹脂を得た。この樹脂のインヘレント粘度は0.52dl/gであり、DSC測定では結晶化および融解ピークは認められず、ガラス転移温度は225℃であった。さらに、得られたポリアリレート樹脂を分級し、平均粒径を100μm以下とした。
得られたポリアリレート樹脂を用いて、溶解性、溶液安定性および塗工性を評価した。その結果を表1に示す。
実施例2〜5、比較例1、2
BPA、BPTMC、PTBP、TPCおよびIPCの配合比率を表2、3に記載のも
のにした以外は実施例1と同様の方法でポリアリレート樹脂を作製し、評価を行った。そ
の結果を表1、2に示す。
実施例
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついで2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(以下B
PC)3.00mol、BPTMC3.00mol、および、PTBP0.30molを
溶解した。別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメタン1
8Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
参考例1
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついでBPA3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロ
ヘキサン(以下BPZ)3.00mol、および、PTBP0.30molを溶解した。
別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメタン18Lに溶解
した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
参考例2
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついでBPA3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェ
ニル)シクロヘキサン(以下DMBPC)3.00mol、および、PTBP0.30m
olを溶解した。別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメ
タン18Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
比較例
BPA、BPC、BPTMC、BPZ、PTBP、TPCおよびIPCの配合比率を表
3に記載のものにした以外は実施例1と同様の方法でポリアリレート樹脂を得て、各種評
価を行った。その結果を表3に示す。
比較例
ポリアリレート樹脂に代えてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチッ
クス社製ユーピロンS−3000)を用いて、各種評価を行った。その結果を表4に示す

なお、塗工性の評価については、クロロホルムに対し、固形分濃度10質量%で溶解し
たワニスを得て、評価を行った。乾燥温度は120℃とした。
実施例1〜6で得られたワニスは、所定構造を有するポリアリレート樹脂を用いたため
、各種有機溶剤に対する溶解性と溶液安定性に優れていた。このようなワニスから得られ
るフィルムは、耐熱性が向上し、フィルム表面が平滑で、厚みが均一で、しかも透明であ
った。
比較例では、所定構造を有するポリアリレート樹脂を用いなかったため、特定の
有機溶剤に、比較的低濃度でしか溶解せず、溶液安定性も劣ったものとなった。
比較例では、溶解性と溶液安定性に優れていたが、所定構造を有するポリアリレート
樹脂を用いなかったため、必要とするポリアリレート樹脂の耐熱性を有さなかった。
比較例では、ポリアリレート樹脂以外の耐熱性樹脂を用いたため、特定のハロゲン系
溶媒以外では、溶解性、溶液安定性を有さなかった。用いたワニスでは不透明なフィルム
しか得られなかった。

Claims (5)

  1. ポリアリレート樹脂を有機溶剤に溶解したワニスであって、
    前記ポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸残基を導入するための芳香族ジカルボン酸成分が、テレフタル酸およびイソフタル酸であり、ビスフェノール類残基を導入するためのビスフェノール成分が下記(III)および(IV)であり、モル比{(III)/[(III)+(IV)]}が、0.20を超え、0.80未満であり、ガラス転移温度が200℃以上320℃未満であり、前記有機溶剤は、ケトン化合物、ハロゲン基を含まない芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とするワニス。
    (III):2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)から選ばれる1種以上
    (IV):1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTMC)
  2. 固形分濃度が1〜40質量%である請求項1記載のワニス。
  3. 100μm以下のポリアリレート樹脂粒子を、有機溶媒に混合して溶解することを特徴とする請求項1または2記載のワニスの製造方法。
  4. 請求項1または2記載のワニスを基材に塗布してなる被膜。
  5. 請求項1または2記載のワニスより形成されたフィルム。
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