本発明者らは、特許文献1に係る不飽和脂肪族基を有するシランカップリング剤を用いた場合に、アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン(以下、「アナターゼ型酸化チタン」とも称す)粒子を含有するシリコーンゴム弾性層の、基材に対する接着強度が経時的に低下する理由について検討した。
特許文献1には、不飽和脂肪族基としてビニル基またはメタクリル基を有するシランカップリング剤が記載されている。通常、これらの不飽和脂肪族基は、付加硬化型シリコーンゴムに含まれる架橋剤中のヒドロシリル基と付加反応して、シリコーンゴムとの間に結合を形成している。そこで、本発明者らは、特許文献1に係るシランカップリング剤とシリコーンゴム弾性層との間に形成される結合が、アナターゼ型酸化チタン粒子の酸化作用によって徐々に切断されていると推測した。
図3は、不飽和脂肪族基としてビニル基を有するシランカップリング剤である、ビニルトリメトキシシランと、付加硬化型シリコーンゴム中の架橋剤との反応図である。
図3に示すように、ビニルトリメトキシシラン中のビニル基は、付加硬化型シリコーンゴムの架橋剤中に存在するヒドロシリル基とのヒドロシリル化反応によって、≡Si−CH2−CH2−Si≡結合を形成する。この結合中のメチレン構造は耐酸化性が低いため、アナターゼ型酸化チタン粒子の作用によって該結合が切断されやすいと考えられる。
また、図4は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと付加硬化型シリコーンゴムの架橋剤との反応図である。メタクリロキシ基は、付加硬化型シリコーンゴムの架橋剤中に存在するヒドロシリル基との反応によって、≡Si−CH2−CH2−CH2−O−CO−CH(CH3)−CH2−Si≡結合を形成する。この結合において、カルボニル基(CO)からみて隣のα位の炭素原子が、アナターゼ型酸化チタン粒子によって酸化されやすく、結合が切断に至ることがあると考えられる。
上記考察を踏まえたうえで、基材とシリコーンゴム弾性層との間の高い接着強度を維持することを検討した結果、珪素原子に結合しているアリル基を基材と弾性層との界面に存在させることが有効であることを本発明者らは見出した。このような効果が得られるメカニズムについて、本発明者らは以下のように推定している。
図2は、珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤の例としてアリルトリメトキシシランを用いた場合における、シランカップリング剤と付加硬化型シリコーンゴムの架橋剤との反応図である。該シランカップリング剤中のアリル基は、付加硬化型シリコーンゴムの架橋剤中に存在するヒドロシリル基とのヒドロシリル化反応によって、≡Si−CH2−CH2−CH2−Si≡結合を形成する。この結合において、珪素原子間に形成されたトリメチレン構造は耐酸化性が高いため、上記結合はアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子によって切断されにくいと考えられる。
さらに、未反応の珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤が残存している場合、すなわち、珪素原子に結合しているアリル基が基材と弾性層との界面に存在している場合、高温環境下において、該アリル基が、弾性層中のシリコーンゴムとラジカル付加反応し、基材と弾性層との間に新たに化学結合を形成する。そのため、基材と弾性層との接着強度の低下が抑制され、長期にわたって両者が良好に接着されると考えられる。
以下に、本発明の定着部材について、具体的な構成に基づき詳細に説明する。
1.定着部材
図1は、本発明の定着部材の例である、定着ベルト1および定着ローラ2の概略断面模式図である。一般に、定着部材は、基材自体が変形することにより定着ニップを形成する場合は定着ベルトと呼ばれ、基材自体はほとんど変形せず弾性層の弾性変形で定着ニップを形成する場合は定着ローラと呼ばれる。
図1において、定着部材は、それぞれ、基材3の外周を弾性層4が被覆し、弾性層4の外周を表層5が被覆した構成となっている。基材3と弾性層4との界面には、珪素原子に結合しているアリル基が存在する。なお、表層5は、弾性層4の周面に接着層(不図示)により固定されている場合がある。また、弾性層4は複層構成であってもよい。
以下、これらの各層について詳細に説明する。
(1)基材
基材3の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルの如き金属およびその合金、ならびにポリイミドの如き耐熱性樹脂が用いられる。
定着部材がローラ形状を有する場合、基材3には芯金が用いられる。芯金の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレスの如き金属および合金が挙げられる。なお、芯金の内部は、定着装置での加圧に耐える強度を有していれば、中空状であっても良い。芯金の内部が中空状である場合には、芯金の内部に熱源を設けることも可能となる。
定着部材がベルト形状を有する場合には、基材3としては、電鋳ニッケルスリーブ、ステンレススリーブおよび耐熱樹脂ベルトが挙げられる。スリーブ又はベルトの内面には、耐磨耗性や断熱性の如き機能を付与するための層(不図示)が更に設けられることがある。
基材3の表面には、ブラスト・ラップ・研磨の如き物理的処理を施してもよい。
定着部材がベルト形状を有する場合の基材の厚さとしては、15μm以上、80μm以下であることが好ましい。定着部材がローラ形状を有する場合は定着装置の加圧力による変形が生じにくいように適宜設計される。
(2)弾性層
弾性層4は、アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子と付加硬化型シリコーンゴムとを含有するシリコーンゴム組成物の硬化物である。
付加硬化型シリコーンゴムは、後述する充填剤(フィラー)を分散させやすく、また、後述するフィラーの種類や添加量によって、シリコーンゴムの架橋度を調整し、弾性層の弾性を調整することができるため、好適に用いられる。
シリコーンゴム組成物は、以下の材料を混練することによって得ることができる。
(2−1)付加硬化型シリコーンゴム
付加硬化型シリコーンゴム組成物は、基本的な構成成分として下記(a)、(b)及び(c)を含む。
(a)不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン;
(b)ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン;
(c)ヒドロシリル化触媒。
上記(a)成分である、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンとしては以下のものが挙げられる。
・分子両末端がR12R2SiO1/2で表され、中間単位がR12SiO及びR1R2SiOで表される直鎖状オルガノポリシロキサン
・分子両末端がR12R2SiO1/2で表され、中間単位にR1SiO3/2及び/又はSiO4/2が含まれる分岐状ポリオルガノシロキサン
ここで、R1はケイ素原子に結合した、脂肪族不飽和基を含まない1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す。具体例は、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基)、アリール基(フェニル基、ナフチル基)、置換炭化水素基(例えば、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−シアノプロピル基、3−メトキシプロピル基)が挙げられる。
特に、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が得られることから、R1の50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR1がメチル基であることがより好ましい。
また、R2はケイ素原子に結合した不飽和脂肪族基を表す。R2としては、ビニル基、アリール基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基が例示され、合成や取扱いが容易でシリコーンゴムの架橋反応も容易に行われることから、特にビニル基が好ましい。
上記(b)成分である、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、白金化合物の触媒作用により、上記(a)成分のアルケニル基との反応によって架橋構造を形成させる架橋剤である。
上記(b)成分において、ヒドロシリル基の数は、1分子中に平均して3個を越える数であることが好ましい。ケイ素原子に結合した有機基としては、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のR1と同じ非置換又は置換の1価の炭化水素基が例示される。特に、合成及び取扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されない。
また、上記(b)成分の25℃における粘度は、好ましくは10mm2/s以上100,000mm2/s以下、さらに好ましくは15mm2/s以上1,000mm2/s以下の範囲である。粘度が10mm2/s以上であると、該オルガノポリシロキサンが保存中に揮発しにくく、得られるシリコーンゴムにおいて所望の架橋度や物性を得ることができる。また、粘度が100,000mm2/s以下であると、該オルガノポリシロキサンの取扱いが容易で系に容易に均一に分散させることができる。
上記(b)成分のシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも差支えなく、これらの混合物を用いてもよい。特に合成の容易性の観点から、直鎖状のものが好ましい。
また、上記(b)成分において、Si−H結合は、分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、少なくともその一部が、R12HSiO1/2単位のように、オルガノポリシロキサンの分子末端に存在することが好ましい。
更に、上記(a)成分および上記(b)成分は、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、ケイ素原子数に対する不飽和脂肪族基数の割合が、0.001以上0.020以下、より好ましくは0.002以上0.010以下となるように配合されることが好ましい。また、不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合が、0.3以上0.8以下となるように配合されていることが好ましい。不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.3以上であると、硬化後のシリコーンゴムにおいて安定して所望の硬度を得ることができる。また、不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.8以下であると、シリコーンゴムの硬度の過度の上昇を抑えられる。不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合は、水素核磁気共鳴分析(1H−NMR(商品名:AL400型FT−NMR;日本電子株式会社製))を用いた測定により不飽和脂肪族基数及び活性水素数を定量して算出することができる。
上記(c)成分としては、白金化合物およびロジウム化合物の如き公知の物質が挙げられる。
また、上記した成分(a)〜(c)の他に、インヒビターと呼ばれる反応制御剤(阻害剤)を含んでもよい。反応制御剤としては、メチルビニルテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール、ハイドロパーオキサイドの如き公知の物質を用いることができる。
(2−2)アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子
本発明においては、弾性層に耐熱性を付与するために、弾性層にアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子(以降、「アナターゼ型酸化チタン粒子」ともいう)を含む。
本発明の効果を十分に発現する上で、アナターゼ型酸化チタン粒子は、シリコーンゴムベースポリマー100質量部に対して、0.2質量部以上20質量部以下の割合で含有させることが好ましい。特には、1質量部以上5質量部以下で含有させることが好ましい。アナターゼ型酸化チタン粒子の含有量を0.2質量部以上とすることで、弾性層の弾性を十分に確保することができる。また、アナターゼ型酸化チタン粒子の含有量を20質量部以下とすることで、シリコーンゴム組成物において、構造粘性の上昇を抑えることができる。
また、アナターゼ型酸化チタン粒子の少量の添加によって、弾性層の耐熱性を確保するため、アナターゼ型酸化チタン粒子の一次粒子の体積平均粒子径は、小さいほど好ましい。具体的には、アナターゼ型酸化チタン粒子の一次粒子の体積平均粒子径として、5nm以上、100nm以下、特には、20nm以上、40nm以下が好ましい。
ところで、弾性層中のアナターゼ型酸化チタン粒子の一次粒子の体積平均粒子径は、本発明においては、フロー式粒子像分析装置(商品名:FPIA−3000;シスメックス株式会社製)を用いて求めることとする。具体的には、弾性層から切り出したサンプルを磁器製のるつぼに入れ、窒素雰囲気中で1000℃に加熱し、ゴム成分を分解させ除去する。次いで、このるつぼを空気雰囲気下で1000℃に加熱し、気相成長法炭素繊維を燃焼させる。その結果、るつぼ中には、サンプルに含まれていた酸化チタン粒子のみが残る。るつぼ中の酸化チタン粒子を乳鉢と乳棒を用いて1次粒子となるように解砕したのち、これを水に分散させて、試料液を調製する。この試料液を、上記粒子像分析装置に投入し、装置内で撮像セル内に導入し通過させ、無機充填剤を静止画像として撮影する。
平面に投影された無機充填剤の粒子像(以下、「粒子投影像」ともいう)と等しい面積を有する円(以下、「等面積円」ともいう)の直径を、当該粒子像にかかる酸化チタン粒子の直径とする。そして、1000個の酸化チタン粒子の等面積円を求め、それらの算術平均値を、酸化チタン粒子の一次粒子の体積平均粒子径とする。
また、酸化チタン粒子の結晶構造はX線回折測定(XRD)によって特定することができる。測定は、試料水平型多目的X線回折装置(商品名:UltimaIV;株式会社リガク製)を用い、以下の条件で行う。
X線源:Cu−Kα線
管電圧/電流
30Kv/20mA
走査範囲:10゜〜80゜
スキャン速度:2.0゜/分
サンプリング速度:0.01゜
積算回数:3回
測定したX線回折プロファイルにおいて、2θ=25.3°付近に、アナターゼ型酸化チタン粒子の結晶の面指数(101)に特徴的な回折ピークが、最も強い強度で確認することができる。
(2−3)フィラー
本発明においては、弾性層に熱伝導性、耐熱性、および補強性の如き機能を付与するために、フィラーを弾性層に添加してもよい。
フィラーは高熱伝導性を有することが好ましい。具体的には、該フィラーとして、金属、金属化合物、炭素繊維を挙げることができる。高熱伝導性フィラーとしては、以下が挙げられる。炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、気相成長法炭素繊維、PAN系(ポリアクリロニトリル)炭素繊維、ピッチ系炭素繊維。これらのフィラーは、単独であるいは2種類以上を混合して用いることができる。
フィラーの平均粒径は、取扱い上、および分散性の観点から1μm以上50μm以下が好ましい。また、フィラーの形状は、球状、粉砕状、針状、板状、ウィスカ状が用いられる。特に、分散性の観点から、フィラーの形状は、球状のものが好ましい。
フィラーは、その機能を十分に達成させるために、弾性層中に、付加硬化型シリコーンゴムを基準として、30vol%以上60vol%以下の範囲で含有させることが好ましい。
(3)弾性層の形成
弾性層は、上記シリコーンゴム組成物を、金型成型法、ブレードコート法、ノズルコート法及びリングコート法の如き加工法によって、基材の外周面に担持し、加熱することによって形成することができる。ここでいう基材には、後述するプライマー液による表面処理が行われている。
形成した弾性層の表面には紫外線を照射してもよい。紫外線を照射することにより、離型層と弾性層との接着に用いる接着剤が弾性層に浸透するのを抑制することができる。紫外線の光源としては、185nmの波長を有する紫外線を用いることが好ましい。具体的な紫外線の光源としては、低圧水銀ランプが挙げられる。
紫外線は、波長185nmの紫外線の、単位面積当たりの積算光量が、300mJ/cm2以上、1000mJ/cm2以下となるように照射することが好ましい。紫外線の照射量は、紫外線光量計(商品名:「C8026/H8025−18510」;浜松ホトニクス株式会社製)を用いて測定することができる。
弾性層の厚さは、定着部材の表面硬度への寄与、およびニップ幅確保の観点から、適宜設計可能である。定着部材がベルト形状を有する場合、弾性層の厚さの好ましい範囲は、100μm以上500μm以下、更に好ましくは200μm以上400μm以下である。弾性層の厚さが上記範囲であると、定着ベルトを定着装置に組み込んだ場合に、基材がよく変形して十分なニップ幅を確保することができる。また、弾性層の厚さが上記範囲であると、ベルト内に発熱源を有する場合に、熱源から記録媒体に効率よく熱を伝えることができる。定着部材がローラ形状を有する場合には、基材が剛体であるため、ニップ幅を弾性層の変形で形成する必要がある。このため、定着ベルトの場合より弾性層の厚さは大きい。具体的には、弾性層の厚さの好ましい範囲は、300μm以上10mm以下、更に好ましくは1mm以上5mm以下である。
なお、弾性層の強度は、一般に、JIS K6251:2010に基づく、ダンベル状3号型試験片を用いて測定したときの引っ張り強さ(TS)が、0.4MPa以上、3.0MPa以下、特には、1.0MPa以上、2.5MPa以下であることが好ましい。弾性層の強度が上記範囲であると、定着部材の弾性層が十分な強度を有することができる。
なお、弾性層の引っ張り強さは、シリコーンゴム組成物において、オルガノポリシロキサンの架橋度を大きくすることで大きくすることができる。具体的には、例えば、ケイ素原子数に対する不飽和脂肪族基、及びケイ素の結合した活性水素の割合を増加させることで可能となる。
(4)基材と弾性層との接着
本発明の定着部材は、基材と弾性層との界面において珪素原子に結合しているアリル基が存在することを特徴とする。
かかる定着部材は、珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤を含むプライマー液によって基材と弾性層とを接着し、該アリル基を基材と弾性層との界面に残存させることで、得ることができる。すなわち、該アリル基は、基材上に塗布された、珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤に由来するものである。
(4−1)珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤
本発明において、基材と弾性層との間の接着に用いられるシランカップリング剤は、珪素原子に結合しているアリル基を有することが重要である。
本発明に係るシランカップリング剤としては、下記式(1)で表される有機珪素化合物又はその縮合物が挙げられる。
CH2=CH−CH2−Si(−CH3)3−n(−OR)n 式(1)
式(1)において、−ORは加水分解性基、nは1〜3の整数である。−ORは、加水分解したのち基材上のOH基と脱水縮合して、基材との強固な結合を形成する。−ORとしては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基およびフェノキシ基の如きアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオン酸エステル基およびブタン酸エステル基の如きカルボキシ基が挙げられる。特に、−ORとしてはメトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。これらの基の種類およびこれらの基のシランカップリング剤への導入量はシランカップリング剤の加水分解速度に応じて、適宜選択される。なお、−ORが1分子中に複数含まれる場合は、−ORは、それぞれ異なる基であっても良い。
式(1)で示される有機珪素化合物としては以下のものが挙げられる。アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルジエトキシメトキシシラン、アリルエトキシジメトキシシランの如きアリルトリアルコキシシラン、アリルジメトキシシラン、アリルジエトキシシランの如きアリルジアルコキシシラン。これらの中でも、アリルトリメトキシシランおよびアリルトリエトキシシランが好ましく用いられる。
(4−2)プライマー液
プライマー液には、上記シランカップリング剤の他に、ビニル基、メタクリロキシプロピル基、エポキシ基、イソシアネート基、ウレイド基の如き官能基を有するシランカップリング剤が含まれていてもよい。なお、アミノ基又はメルカプト基を官能基として有す
るシランカップリング剤は、該官能基が、シリコーンゴム組成物中に含まれる白金触媒の活性を低下させてヒドロシリル化反応を阻害することがあるため、用いないことが好ましい。
プライマー液には、シランカップリング剤の他に、有機溶媒、シリコーンポリマー、水素化メチルシロキサン、アルコキシシラン、触媒、および着色剤が必要に応じて配合される。
シリコーンポリマーは、シリコーンゴムとの親和性確保のために添加される。該シリコーンポリマーとしては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ジフェニルシリコーンが挙げられる。
アルコキシシランは、造膜成分として添加される。該アルコキシシランとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランの如きテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシランの如きアルキルアルコキシシランが挙げられる。
触媒は、加水分解反応、縮合反応または付加反応を促進するために添加される。具体的には、チタネート化合物、錫化合物、白金化合物が挙げられる。
着色剤は、塗膜の塗布量確認のために添加される。該着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラが挙げられる。
プライマー液には、基材上に塗布した後に風乾するだけで使用できる常温乾燥型(1液タイプ)のものと、基材上に塗布した後に加熱による焼付け処理を必要とする焼付け乾燥型(2液混合タイプ)のものがある。JIS K6854−1:1999で規定される90°はく離接着強さ試験において、基材と弾性層との界面剥離が生じず、弾性層が凝集破壊するような接着強度をもたせるためには、焼付け乾燥型のプライマー液を用いることが好ましい。焼付け乾燥型のプライマーは、上記したシランカップリング剤と基材との反応を十分に生じさせることができるためである。
このような焼付け乾燥型のプライマー液としては、具体的には、東レ・ダウコーニング社製の「DY39−104A/B」が挙げられる。
また、珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤を含む、市販の焼付け乾燥型のプライマー液に、珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤を混合させたプライマー液も用いることができる。珪素原子に結合しているアリル基を有するシランカップリング剤の例としては、たとえば、アリルトリメトキシシラン(商品名:Z−6825;東レ・ダウコーニング社製)、アリルトリエトキシシラン(商品名:SIA0525.0;Gelest,Inc.製)を挙げることができる。
(4−3)プライマー液による表面処理
基材は、上記したプライマー液によって表面処理される。具体的には、基材の表面にプライマー液を塗布して焼付けし、基材の表面上にプライマー層を形成する。なお、プライマー液は乾燥してから焼付けしてもよい。
作製した定着部材において、基材と弾性層との界面に珪素原子に結合しているアリル基が存在するためには、上記シランカップリング剤中の未反応のアリル基を残存させることが重要である。
基材の表面の単位面積当たりのプライマーの塗布量は、0.05mg/cm2以上、1.0mg/cm2以下、特には、0.1mg/cm2以上、0.5mg/cm2以下であることが好ましい。ここでいう「プライマーの塗布量」とは、プライマー液を基材表面に塗布し、乾燥および/又は焼付けした後の基材の質量から、プライマー液を塗布する前の基材の質量を差し引いた値である。すなわち、プライマー液中の全固形分の質量である。単位面積当たりのプライマーの塗布量が、0.05mg/cm2以上であると、基材と弾性層との界面に、十分に珪素原子に結合しているアリル基を残存させることができる。また、プライマー液は、定着部材の伝熱特性を良好なものとするためには、多量に基材上に塗布することは好ましくない。そのため、単位面積当たりのプライマーの塗布量を1.0mg/cm2以下にすることが好ましい。
プライマー液は、基材上に塗布したあと焼付けすることが好ましい。基材上に塗布したあとに焼付けを行わず風乾しただけの場合では、シランカップリング剤の縮合反応が十分に進まず、良好な接着性を得ることが困難な場合がある。
プライマー液の焼付け条件としては、温度50℃以上、120℃以下、特には、温度70℃以上、90℃以下で行うことが好ましい。温度120℃以下で焼付けすると、焼付け工程においてアリル基が失活しにくく、定着部材において十分にアリル基を残存させ易い。焼付け乾燥型(2液混合タイプ)のプライマー液は、通常、120℃より高い温度で焼付けを行う(上記した「DY39−104」の焼付け温度は通常165℃程度)。このような焼付け温度では、基材と弾性層との界面にアリル基を残存させることが困難である。また、温度50℃以上で焼付けすると、シランカップリング剤の縮合反応を加速することができ、基材と弾性層との高い接着強度が得られる。
また、プライマー液の焼付け時間は、30秒以上、60分以内、特には、2分以上、15分以内であることが好ましい。焼付け時間が上記範囲内であれば、シランカップリング剤の縮合反応を十分に行うことができる。また、焼付けに伴うアリル基の消失を抑えることができる。
プライマー層は、定着部材の熱伝導性の観点から薄く形成することが好ましい。そのため、プライマー層の厚さは、0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
(4−4)基材と弾性層との界面のアリル基について
基材と弾性層との界面には珪素原子に結合しているアリル基が存在している。該アリル基の存在は、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)を用いて確認することが可能である。以下に、基材と弾性層との界面に存在する該アリル基の有無を確認する方法について説明する。
定着部材において、基材と弾性層との界面に剃刀を入れて、基材と弾性層とを強制的に剥離する。そして、基材側の剥離面および弾性層側の剥離面の、それぞれの表面において、全反射(ATR)法によって赤外分光測定を行う。珪素原子に結合しているアリル基(≡Si−CH2−CH=CH2)は、1630〜1640cm−1の波数領域に特徴的な吸収ピークを示すことが知られている(P.J.Launer:SILICON COMPOUNDS:SILANES & SILICONES,ed.Gelest,inc.(2008年) p.223−226)。この波数領域での赤外吸収の有無によって珪素原子に結合しているアリル基の有無を確認することができる。そして、基材側の剥離面における赤外吸収スペクトルおよび弾性層側の剥離面における赤外吸収スペクトルの少なくとも一方に、1630〜1640cm−1の波数領域に吸収ピークが認められる場合に、基材と弾性層との界面に、珪素原子に結合しているアリル基が存在しているものとみなす。なお、赤外分光測定の条件の詳細は実施例にて述べる。
(4−5)剥離試験
本発明において、基材と弾性層とは良好に接着され、日本工業規格で定められた「接着剤−はく離接着強さ試験方法」(JIS K6854−1:1999)において、弾性層が凝集破壊を起こすことが重要である。
具体的な試験方法について、図5を用いて説明する。定着部材(図では定着ベルト1)の基材の形状が変形しないように、必要に応じて内部に中子12を挿入し、部材の周方向に沿って、表層側から基材表面に到達するように剃刀を用いて幅1cmのスリットを入れる。次に、スリットを入れた部分に長手方向に一カ所切り込みを入れ、ここを剥がし端とする。この剥がし端において、弾性層と基材との界面部分に剃刀を入れて、界面で強制的に定着部材の周方向に2cm程度剥離する。そして、剥がし端をフォースゲージ13のチャック部14に挟みこむ。尚、弾性層が薄く塑性変形が起こりやすい場合には、スリット形成に先立って補強用としてポリイミドテープを表層の表面に張り付け、その上からスリットを形成してもよい。
そして、定着部材が周方向に自由に回転可能なように中子12(もしくは基材。以下同様。)を固定し、フォースゲージ13を不図示の手段を用いて剥がし端の根元における定着部材本体の接線方向に対し垂直方向に、剥がした弾性層側の層の長さが10mmになるまで、50mm/分の一定速度で引き上げる。この際、引き剥がす方向Fが、剥がし端の根元における定着部材本体の接線方向に対して90°を維持することが重要である。90°を維持するために、まず、該剥がし端をフォースゲージで挟み込む際に、剥がした弾性層側の層が90°となるように挟み込む。次に、中子12の回転軸の真上から垂直方向Fに一定の移動速度(50mm/分)にて引っ張ると同時に、中子12の接線における移動速度が垂直方向Fの移動速度と等しくなるように、中子12を図中R方向に回転させる。具体的には、定着ベルト2の外径がΦ30mmであれば、0.53rpmの速度で回転させることで90°を維持して剥離させることが可能である。
この剥離試験によって形成された破断面の破壊様式を、日本工業規格で定められた「接着剤−主要破壊様式の名称」(JIS K6866:1999)に則って判断する。具体的には、以下である。
接着破壊:割れ目が接着剤と被着剤の界面にあることが目に見える接着剤結合の破壊。
凝集破壊:割れ目が接着剤又は被着剤の中にあると目に見える結合たい積物の破壊。
基材と弾性層とが良好に接着している場合、破断面において、弾性層が凝集破壊を呈する。これは、基材側と弾性層側の両方に破壊した弾性層が付着している状態である。なお、破断面が、凝集破壊と接着破壊の混合破壊を呈した場合には、弾性層の凝集破壊部分が剥離面積の50%以上であれば弾性層の凝集破壊と判定し、50%に満たない場合には接着破壊と判定する。
(5)表層
定着部材の表面には必要に応じて、表層5が形成される。表層5としては、フッ素樹脂層が好適に用いられる。フッ素樹脂としては、以下に列挙する樹脂を単独もしくは複合して用いることができる。テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)。
上記に列挙した材料の中でも、成形性やトナー離型性の観点からPFAが好ましい。
表層の形成手段としては、特に限定されないが、以下の方法を用いることができる。フッ素樹脂ペレットを用いてチューブ状に成形したフッ素樹脂チューブを接着層を介して弾性層4上に被覆する方法。フッ素樹脂の微粒子を直接弾性層表面にコーティングした後、あるいは、フッ素樹脂の微粒子が溶媒中に分散された塗料を弾性層表面にコーティング後、乾燥し、焼付けする方法。
また、表層中には、熱物性を制御する目的で、成形性や離型性を損なわない範囲において、フィラーを含有しても良い。該フィラーとしては、以下のものが挙げられる。シリカ、アルミナ、カーボン、カーボンナノチューブ。
表層の厚さは、10μm以上、50μm以下、更には、15μm以上、30μm以下とすることが好ましい。表層の厚さは、10μm以上であると耐久性が良く、30μm以下であると、伝熱性が良好である。
なお、定着部材の表面硬度は、記録媒体の凹凸への追従性の観点から75°以上、85°以下であることが好ましい。表面硬度はマイクロゴム硬度計(商品名:マイクロゴム硬度計MD−1 capa タイプC;高分子計器株式会社製)を用いて測定することができる。
2.定着装置
本発明の定着装置は上記した定着部材を有している。定着装置は、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が圧接されている。これらは、画像形成装置全体としてのプロセス速度、大きさ等の条件を勘案して適宜選択される。ここでは、定着装置の具体例を示して、その構成を説明する。
(1)ベルト形状の定着部材を用いた定着装置
図6は、ベルト形状の定着部材を用いた定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この定着装置において、定着ベルト1は、本発明に係る定着部材としてのシームレス形状のベルトである。この定着ベルト1を保持するために、耐熱性・断熱性を有する樹脂によって成型されたベルトガイド部材16が形成されている。
このベルトガイド部材16と定着ベルト1の内面とが接触する位置に熱源としてのセラミックヒータ17を具備する。
セラミックヒータ17はベルトガイド部材16の長手方向に沿って成型具備された溝部に嵌入して固定支持されている。セラミックヒータ17は、不図示の手段によって通電され発熱する。
シームレス形状の定着ベルト1はベルトガイド部材16にルーズに外嵌させてある。加圧用剛性ステイ18はベルトガイド16の内側に挿通してある。
加圧部材としての弾性加圧ローラ19はステンレス芯金19aにシリコーンゴムの弾性層19bを設けて表面硬度を低下させたものである。
芯金19aの両端部を装置に不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。
弾性加圧ローラ19は、表面性及び離型性を向上させるために表層19cとして、厚さ50μmのフッ素樹脂チューブが被覆されている。
加圧用剛性ステイ18の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ18に押し下げ力を付与している。これによってベルトガイド部材16の下面に配設したセラミックヒータ17の下面と加圧部材19の上面とが定着ベルト1を挟んで圧接して所定の定着ニップNが形成される。
この定着ニップNに未定着トナーGによって画像が形成された、被加熱体となる記録媒体Pを搬送速度Vで挟持搬送させる。これにより、トナー画像を加熱、加圧する。その結果、トナー画像は溶融・混色、その後、冷却されることによって記録媒体P上にトナー画像が定着される。
(2)ローラ形状の定着部材を用いた定着装置
図7は、ベルト形状の定着部材を用いた定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この定着装置において、定着ローラ2は、本発明に係る定着部材である。この定着ローラ2は基材3の外周面に弾性層4が形成され、更にその外側に表層5が形成されている。
定着ローラ2と対向するように加圧部材としての弾性加圧ローラ19が配されており、不図示の加圧手段により、二つのローラが回転可能に押圧されることで、定着ニップNが形成されている。
定着ローラ2及び弾性加圧ローラ19の内部には、未定着トナーGを溶融するために必要な熱を供給する、熱源としてのヒータ20が設置されている。ヒータ20としてはハロゲンヒータが一般に用いられる。搬送されてくる記録媒体Pのサイズに合わせて、複数本のハロゲンヒータを内部に設置する場合もある。
定着ローラ2及び弾性加圧ローラ19は不図示の手段により基材3及び芯金19aの端部を通じて回転力が加えられ、定着ローラ2表面の移動速度が記録媒体搬送速度Vと略等速となるように回転が制御されている。この際、回転力は、定着ローラ2及び弾性加圧ローラ19のどちらかに付与され、もう一方が従動により回転していても良いし、両方に回転力が付与されていても良い。
このように形成された定着装置の定着ニップNに、未定着トナーGによって画像が形成された記録媒体Pを挟持搬送させる。これにより、未定着トナー画像を加熱、加圧する。その結果、未定着トナー画像が溶融・混色、その後、冷却されることによって、記録媒体P上にトナー画像が定着される。
3.画像形成装置
本発明の画像形成装置としては、電子写真方式を用いた複合機、コピー、ファックス、プリンタがある。ここではカラーレーザープリンタを例に用い、本発明の画像形成装置の全体構成の概略について説明する。
図8は本発明の画像形成装置の実施の形態の一様態であるカラーレーザープリンタの概略断面図である。
図8に示したカラーレーザープリンタ(以下「プリンタ」と称す)40は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の色毎に一定速度で回転する電子写真感光体ドラム(以下「感光体ドラム」と称す)を有する画像形成部を有する。また、画像形成部で現像され多重転写されたカラー画像を保持し、給送部から給送された記録媒体Pにさらに転写する中間転写体38を有する。
感光体ドラム39(39Y、39M、39C、39K)は、駆動手段(不図示)によって、図8に示すように反時計回りに回転駆動される。
感光体ドラム39の周囲には、その回転方向にしたがって順に、感光体ドラム39表面を均一に帯電する帯電装置21(21Y、21M、21C、21K)、画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム39上に静電潜像を形成するスキャナユニット22(22Y、22M、22C、22K)、静電潜像にトナーを付着させてトナー画像として現像する現像ユニット23(23Y、23M、23C、23K)、感光体ドラム39上のトナー画像を一次転写部T1で中間転写体38に転写させる一次転写ローラ24(24Y、24M、24C、24K)、転写後の感光体ドラム39表面に残った転写残トナーを除去するクリーニングブレードを有するクリーニングユニット25(25Y、25M、25C、25K)が配置されている。
画像形成に際しては、ローラ26、27及び28に張架されたベルト状の中間転写体38が回転するとともに各感光体ドラム39に形成された各色トナー画像が前記中間転写体38に重畳して一次転写されることでカラー画像が形成される。
前記中間転写体38への一次転写と同期するように搬送手段によって記録媒体Pが二次転写部T2へ搬送される。搬送手段は複数枚の記録媒体Pを収納した給送カセット29、給送ローラ30、分離パッド31、レジストローラ対32を有する。画像形成時には給送ローラ30が画像形成動作に応じて駆動回転し、給送カセット29内の記録媒体Pを一枚ずつ分離し、該レジストローラ対32によって画像形成動作とタイミングを合わせて二次転写部T2へ搬送する。
二次転写部T2には移動可能な二次転写ローラ33が配置されている。二次転写ローラ33は、略上下方向に移動可能である。そして、像転写に際して、二次転写ローラ33は記録媒体Pを介して中間転写体38に所定の圧で押しつけられる。この時同時に二次転写ローラ33にはバイアスが印加され中間転写体38上のトナー画像は記録媒体Pに転写される。
中間転写体38と二次転写ローラ33とはそれぞれ駆動されているため、両者に挟まれた状態の記録媒体Pは、図8に示す左矢印方向に所定の搬送速度Vで搬送され、更に搬送ベルト34により次工程である定着部35に搬送される。定着部35は、本発明の手一着装置である。定着部35では熱及び圧力が印加されて転写トナー画像が記録媒体Pに定着される。その記録媒体Pは排出ローラ対36によって装置上面の排出トレイ37上へ排出される。
以下に、実施例を用いてより具体的に本発明を説明する。なお、各実施例および比較例で作製した定着ベルトの作製条件を表1に示す。
(実施例1)
<定着ベルトの作製>
まず、基材として、内径30mm、幅400mm、厚さ40μmのニッケル電鋳製エンドレススリーブを用意した。尚、以下の一連の製造工程中、エンドレススリーブは、その内部に中子を挿入して取り扱った。
次いで、基材の外周面にプライマー処理を施した。アリルトリメトキシシランを含有する、焼付け乾燥型のプライマー(商品名:DY39−104A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)のA液とB液を1:1で調合後、n−ヘプタンで3倍(質量比)に希釈した。得られたプライマー液を基材の外周面に均一に塗布し、溶媒を乾燥させた後、80℃設定の電気炉で4分間の焼付けを行った。プライマー液塗布前の基材と焼付け後の基材との質量変化から、プライマーの塗布量を算出したところ、0.1mg/cm2であった。
次いで、シリコーンゴム組成物の調製を行った。ベースポリマーとして、平均分子量が6000の、両末端にビニル基が導入されたジメチルシロキサンポリマーを準備した。また、架橋剤シリコーンポリマーとして、ヒドロシリル基が珪素原子比で19.5%導入されたメチルハイドロジェンシリコーンポリマーを準備した。これらを質量部で90:10の比率で配合し、十分に混合した。更に、微量のヒドロシリル化触媒(白金触媒:白金カルボニルシクロビニルメチルシロキサン錯体)と微量のインヒビターとを添加し、十分に混合した。
そして、この混合物に、耐熱充填剤としてアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子(商品名:酸化チタン(IV)アナターゼ型 208−18231;和光純薬工業株式会社製、一次粒子の体積平均粒子径=30nm、表1中、TiO2(a)と記載)を体積充填率2%となるように、また、熱伝導性フィラーとして、アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A20S;昭和電工株式会社製、平均粒径21μm)を体積充填率40%となるように、添加した。これらを、十分に混合することでシリコーンゴム組成物を得た。なお、ここでいう体積充填率とは、シリコーンゴム組成物全体の体積を基準としている。
調製したシリコーンゴム組成物を、プライマー処理された基材上に、リングコート法で、厚さが300μmになるように塗布した。得られたエンドレスベルトを200℃に設定した電気炉中で4時間加熱してシリコーンゴムを硬化させ、弾性層を形成した。
このエンドレスベルトの表面に対して、該表面が周方向に20mm/secの速度で移動するようにエンドレスベルトを回転させながら、該表面から10mmの距離に設置した紫外線ランプを用いて、エンドレスベルトの表面に対し紫外線照射を行なった。紫外線ランプには、低圧水銀紫外線ランプ(商品名:GLQ500US/11;ハリソン東芝ライティング株式会社製)を用い、大気雰囲気中100℃で5分間の照射を行なった。
エンドレスベルトを室温まで冷却した後、当該エンドレスベルトの弾性層の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)を、厚さがおよそ20μmになるように略均一に塗布した。
次いで、内径29mm、厚さ20μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:KURANFLON−LT;倉敷紡績株式会社製)を、拡径しながらエンドレスベルトの弾性層上に積層した。その後、フッ素樹脂チューブの上からベルト表面を均一に扱くことにより、過剰の接着剤を弾性層とフッ素樹脂チューブの間から扱き出した。
当該エンドレスベルトを200℃に設定した電気炉にて1時間加熱して接着剤を硬化させて、当該フッ素樹脂チューブを弾性層上に固定した。得られたエンドレスベルトの両端部を切断し、幅が341mmの定着ベルトNo.1を得た。
<定着ベルトの評価>
作製した定着ベルトNo.1について、下記評価(1)〜(3)を行った。なお、評価結果は表2にまとめて示す。
(1)珪素原子に結合しているアリル基の有無
完成した定着ベルトNo.1について、基材と弾性層との界面における珪素原子に結合しているアリル基の存在を確認するため、赤外分光分析装置(商品名:Frontier FT IR;PerkinElmer社製)を用いて、以下のようにして赤外分光分析を行った。
定着ベルトNo.1の基材と弾性層との界面に剃刀入れて両者を強制的に剥離し、該界面を露出させた。基材側と弾性層側の両剥離面の、それぞれの表面において、下記条件にて全反射(ATR)法による赤外分光測定を行い、1630〜1640cm−1の波数領域に、珪素原子に結合しているアリル基に特有のピークが見られるか否かを、両方の剥離面について観察した
ATRクリスタル ダイヤモンド
スキャン範囲 4000〜450cm−1
スキャン回数 4回
分解能 4cm−1
入射角 45°
そして、いずれの界面においてもアリル基に特有のピークが見られない場合、「アリル基無し」、いずれかの界面においてアリル基に特有のピークが見られた場合、「アリル基有り」と判断した。そして、定着ベルトNo.1においては、基材側の剥離面において、珪素原子に結合しているアリル基に特有のピークが認められた。基材側の剥離面のIRスペクトルチャートを図9に示す。
(2)剥離試験
基材と弾性層との界面について、上記した剥離試験を実施した。
上記剥離試験を定着ベルトNo.1において実施した結果、初期状態での基材−弾性層界面の剥離試験時の破壊様式は、弾性層の凝集破壊を呈した。
さらに、定着ベルトの、高温環境下での長期間の使用を模擬して評価する目的で、定着ベルトNo.1を、温風循環炉を用いて250℃の環境で合計500時間暴露した。300時間後、および500時間後において、それぞれ、定着ベルトNo.1を室温に戻し、上記と同様の手段で基材−弾性層界面の剥離試験を実施したところ、300時間後、および500時間後において、共に、定着部材は弾性層の凝集破壊を呈した。
(実施例2)
アリルトリメトキシシランを含有するプライマー(商品名:DY39−104A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)のA液とB液を1:1で調合後、n−ヘプタンで1.6倍に(質量比)希釈し、プライマー液を調製した。このプライマー液を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトNo.2を作製し、評価した。なお、基材上に塗布されたプライマーの量は、0.2mg/cm2であった。評価結果を表2に示す。
(実施例3)
実施例1において、プライマー液をn−ヘプタンで希釈せずに原液のまま基材に塗布し、定着ベルトNo.3を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、基材上に塗布されたプライマーの量は、0.5mg/cm2であった。
(実施例4)
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有する、焼付け乾燥型のプライマー(商品名:DY39−051A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)のA液とB液を1:1で調合した。該プライマー100質量部に対し、さらに、シランカップリング剤としてアリルトリメトキシシラン(商品名:Z−6825;東レ・ダウコーニング株式会社製)を5質量部添加した。そして、n−ヘプタンで5倍(質量比)に希釈し、プライマー液を調製した。このプライマー液を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトNo.4を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、基材上に塗布されたプライマーの量は、0.3mg/cm2であった。
(実施例5)
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有する、焼付け乾燥型のプライマー(商品名:DY39−051A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)のA液とB液を1:1で調合した。該プライマー100質量部に対し、さらに、シランカップリング剤としてアリルトリエトキシシラン(商品名:SIA0525.0;Gelest,Inc.製)を5質量部添加した。そして、n−ヘプタンで5倍(質量比)に希釈し、プライマー液を調製した。このプライマー液を基材に塗布し、温度80℃、15分で焼付けした。これ以外は実施例1と同様にして、定着ベルトNo.5を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、プライマーの塗布量は0.3mg/cm2となった。
(比較例1)
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含有するプライマー(商品名:DY39−051A/B;東レ・ダウコーニング株式会社製)のA液とB液を1:1で調合後、n−ヘプタンで6倍(質量比)に希釈して、アリル基を有するシランカップリング剤は添加せずにプライマー液を調製した。このプライマー液を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトNo.6を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、プライマーの塗布量は0.1mg/cm2となった。
(比較例2および3)
n−ヘプタンでの希釈倍率を3倍および2.3倍とし、さらに焼付け条件を165℃で4分としたこと以外は比較例1と同様にして、それぞれ定着ベルトNo.7およびNo.8を作製し、評価した。結果を表2に示す。
(比較例4)
プライマー液の焼付け条件を165℃で4分に変更したこと以外は実施例3と同様にして定着ベルトNo.9を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
この定着ベルトNo.9の基材と弾性層の界面について、実施例1と同様に全反射(ATR)測定を行ったところ、珪素原子に結合しているアリル基の存在は認められなかった。定着ベルトNo.9では、プライマー液の焼付け工程を、実施例1と比較して高温で行ったため、アリル基が失活していると考えられる。
(比較例5)
アリルトリメトキシシランに変えて、ビニルトリメトキシシラン(商品名:Z−6300;東レ・ダウコーニング株式会社製)を5質量部添加したこと以外は実施例4と同様にして定着ベルトNo.10を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
(比較例6)
アリルトリメトキシシランを含有するプライマー(商品名:DY39−067;東レ・ダウコーニング株式会社製)を、原液のまま希釈せずに、実施例1で作製した弾性層を有するエンドレスベルト上に、厚さがおよそ10μmになるように均一に塗布し、室温で30分乾燥させた。その後、実施例1と同様にしてフッ素樹脂チューブを被覆して、定着ベルトNo.10を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。なお、プライマーの塗布量は0.01mg/cm2となった。
定着ベルトNo.11で用いたプライマーは、アリルトリメトキシシランを含有するプライマーであるが、初期の段階においても良好な接着性を得ることができなかった。ここで用いたプライマーは常温風乾型(1液タイプ)のプライマーであり、通常焼付けを経ず風乾して用いるものである。そのため、基材上のOH基とシランカップリング剤との脱水縮合が十分に進まず接着強度が低いと考えられる。また、アリル基の存在が認められなかったのは、プライマーの粘度が低く多量に塗布することが困難だったためであると考えられる。
(参考例1)
まず、比較例2と同じプライマー液を用いて同じ条件で、基材上にプライマー液を塗布し、焼付け処理を行なった。
次いで、シリコーンゴム組成物の調製を以下のようにして行った。実施例1において、アナターゼ型酸化チタンにかえて、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタン(商品名:酸化チタン(IV)、ルチル型、99.9%、型式:203−09413;和光純薬工業(株)製、一次粒子の体積平均粒子径=30nm、表1中、TiO2(r)と記載)を添加して、十分に混合することでシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物を用いたこと以外は、比較例2と同様にして定着ベルトNo.12を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。