JP5553931B1 - 電子写真用定着部材、定着装置及び電子写真画像形成装置 - Google Patents

電子写真用定着部材、定着装置及び電子写真画像形成装置 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、表面が柔軟で、かつ、短時間でより多くの熱量を被記録材およびトナーに供給することのできる定着部材の提供に向けたものである。
【解決手段】本願発明に係る定着部材は、基材、弾性層および離型層を有する電子写真用の定着部材であって、該離型層の表面に周波数10Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上であり、かつ、表面のマイクロゴム硬度が85度以下である。
【選択図】図2

Description

本発明は、電子写真用の定着部材に関する。また、それを用いた定着装置及び電子写真画像形成装置に関する。
一般に、レーザープリンターや複写機等の電子写真方式に用いられる加熱定着装置では、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が圧接されている。
そして、未定着のトナーによる画像を保持した被記録材が、この回転体間に形成された圧接部位(定着ニップ)に導入されて加熱され、該トナーを溶融し、紙等の被記録材に当該画像を定着させる。
被記録材上に保持された未定着トナー像が接する回転体は定着部材と称し、その形態に応じて定着ローラ、定着フィルム、定着ベルトと呼ばれる。
これら定着部材としては、以下のような構成のものが知られている。
金属または耐熱性樹脂等で形成された基材上に、耐熱性を有するシリコーンゴム弾性層、及びシリコーンゴム接着剤を介してフッ素樹脂からなる離型層を被覆した構成。
シリコーンゴム弾性層上にフッ素樹脂の塗料の塗膜を形成し、該塗膜をフッ素樹脂の融点以上の温度で焼成することで離型層を形成した構成。
上記した構成を有する定着部材は、シリコーンゴム弾性層の優れた弾性変形を利用して、定着ニップにおいてトナー像を過度に押しつぶすことなく、包み込んで溶融させることができる。そのため、特に多色構成のカラー画像の定着において、像ズレ、にじみを防ぎ、混色性を良くするという効果がある。また、被記録材である紙の繊維の凹凸に追従し、トナーの溶融ムラが発生するのを防止するといった効果がある。
更に、定着部材の機能としては、定着ニップ部位において瞬間的に、被記録材に対しトナーを溶融するだけの十分な熱量を供給することが求められている。
かかる課題に対し、特許文献1では、定着部材の一部に高熱容量物質を混入することで定着部材の熱容量を大きく確保し、被記録材に対する熱供給量を増大させる構成が知られている。これにより、定着部材により多くの熱量を蓄積することが出来る為、省電力化および高速化に有効であるとされている。
また、特許文献2では、弾性層中に気相成長法により形成された炭素繊維を含有させることで、弾性層の熱伝導性を改善した定着ベルトの提案がなされている。また、本発明者らは、カーボンファイバーとシリカ、アルミナ、酸化鉄などの当該カーボンファイバーの配向阻害成分とを弾性層に含有させることにより弾性層の厚み方向の熱伝導率を改善した加熱定着部材を提案している(特許文献3)。
特開2004−45851号公報 特開2002−268423号公報 特開2006−259712号公報
ところで、上述したように定着プロセスは未定着トナーが接する定着部材とそれに対向して当接する加圧部材との間に形成された定着ニップ部位において、被記録材及びトナーに対して熱エネルギーが供給される。これによりトナーの溶融を招来し、定着ニップ通過後に冷却固化することで被記録材上に固着し定着画像が形成される。
定着器における定着ニップの幅は定着部材及び加圧部材の構成や加圧力等により適宜設計可能であるが、一般に高速・大型の装置ほど広く設計されており、低速・小型の装置では狭く設計されている。これは、被記録材が定着ニップの中に滞留する時間(デュエルタイム)を確保することで、十分な熱量をトナーに対して供給して溶融させる為である。特にカラー画像の場合は多色の未定着トナー像が何層にも重なって存在しているので、十分に定着させるには多くの熱量を必要とする。
デュエルタイムをT、定着ニップ幅をN、被加熱体の定着器内における搬送速度をVとすると、これらは、T=N/V なる関係を有する。
一般的な定着装置においてはデュエルタイムは、30〜100msec程度に設計されている。しかし最近の高速化の要求(搬送速度(V)の上昇)、および小型化(定着ニップ幅(N)の縮小)の要求から、より短いデュエルタイムでの定着性能確保が求められている。
定着部材の性能の検討にあたり、伝熱工学の分野において知られている熱拡散長ならびに熱浸透率の概念の適用が有効であると本発明者らは考えた。
定着ニップにおける定着部材とトナーや被記録材との間の熱的挙動について見ると、定着部材は、相対的に低温物質であるトナーや被記録材によって周期的に熱を奪われている。
これを周波数fの交流温度波と捉えたときに、定着ニップにおいて熱が、定着部材の表面からどの程度の深さにまで到達するかを知ることによって、定着部材の表面からどの程度の領域が、その定着部材の熱的特性を支配しているかを知ることができるものと本発明者らは考えた。
ここで、熱拡散長(μ)は、交流温度波が試料中に拡散していくときの当該交流温度波の振幅が1/eにまで減衰する距離と定義され、下記式(1)で表されることが知られている。なお、下記式(1)中、αは試料の熱拡散率を示す。
μ=(α/(π・f))0.5 ・・・(1)
これを定着部材について見ると、加熱された状態にある定着部材から熱が低温物質に移動したときに定着部材が受ける熱的な影響は、定着部材の熱拡散率とデュエルタイムの逆数を上記式(1)に代入して求まる熱拡散長に相当する、表面からの所定の深さにまで及ぶと考えられる。
このことは、定着ニップにおける定着部材からの低温物質に対する熱の供給能力は、定着部材の表面から上記所定の深さの範囲の定着部材の熱的特性によりほぼ支配されると言い換えることができる。定着部材は一般に基材、弾性層、離型層などからなる複層構成になっていることから、部材表面に熱刺激が与えられた際の熱拡散長は各層の厚みと熱物性に左右されることとなる。
次に、低温物質に対する定着部材の熱供給能力には熱浸透率の概念の導入が有効であると考えた。すなわち、熱浸透率は、温度の異なる2つの物体が接触したときに熱を与え、或いは熱を奪い取る能力の指標として用いられているパラメータである。そして、熱浸透率は、下記式(2)で表される。
b=(λ・C・ρ)0.5 ・・・(2)
式(2)中、λは熱伝導率、Cは定圧比熱、ρは密度を表し、多層構成の場合には厚みの割合で加重平均することで平均値を導き出すことができる。また、C・ρは単位体積あたりの熱容量(=体積熱容量)を表す。
以上の考察をまとめると、定着部材の熱的な性能は、熱拡散長に相当する、表面からの深さ領域における熱浸透率によりほぼ決定付けられるものと考えられる。
一方、定着部材に対しては、被加熱体に対する熱の供給能力の向上に加えて、表面のマイクロゴム硬度の低下という要求があることは先に述べた通りである。定着部材の被加熱体への熱の供給能力は、定着部材の、熱拡散長に相当する、表面からの所定の深さの領域におけるフィラーの含有量を増加させることにより向上させることができる。
しかし、当該領域におけるフィラーの添加量の増加は、定着部の表面のマイクロゴム硬度をも向上させてしまうこととなる。弾性層に含有させるフィラーの性質に応じて弾性層中のフィラーの含有量を定着部材の硬度の上昇を抑えるべく適宜調整することは従来から行われてきていた。しかし、デュエルタイムが30msec乃至100msec、或いは今後の電子写真画像形成プロセスのより一層の高速化を考慮すると、上記した2つの相反する課題を従来よりも一層高いレベルで解決し得る構成を達成する必要がある。
従って、本発明は、表面が柔軟でありながら、表面近傍の熱浸透率が大きな定着部材の提供に向けたものである。
また、本発明は、短いデュエルタイムであっても良好にトナーを記録媒体に定着させることのできる定着装置、および電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
本発明者らは、表面の柔軟化および表面近傍の熱浸透率の向上という相反する2つの課題を、より高いレベルで両立させるべく検討を重ねた。その結果、従来の構成では達成できていなかったものと思われる表面近傍における高い熱浸透率を有するにも拘らず、表面のマイクロゴム硬度を85°以下という軟らかさの定着部材を得ることができることを知見した。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明に係る定着部材は、基材、弾性層および離型層を有する電子写真用の定着部材であって、該離型層の表面に周波数10Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上であり、かつ、表面のマイクロゴム硬度が85°以下であることを特徴とする。
また、本発明に係る定着装置は、上記の定着部材と、該定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする。
更に、本発明に係る電子写真画像形成装置は、上記の定着装置を具備していることを特徴とする。
本発明によれば、表面の柔軟性を維持しつつ、表面近傍の熱浸透率の高い定着部材が得られる。また、本発明によれば、トナーの過度の圧接を抑制しつつ、トナーならびに被記録媒体に対して充分な熱を安定して付与することのできる定着装置を得ることができる。
更に本発明によれば、高精細な画像を安定して提供することのできる電子写真画像形成装置を得ることができる。
本発明に係る定着部材の横断面模式図である。 本発明に係る定着部材の表面から100μmの範囲における断面模式図である。 本発明に係る定着部材の弾性層を形成する工程の一例の説明図である。 本発明に係る定着部材の離型層を形成する工程の一例の説明図である。 本発明に係る定着部材の離型層を形成する工程の一例の説明図である。 本発明に係る定着装置の一例の断面図である。 本発明に係る定着装置の一例の断面図である。 本発明に係る電子写真画像形成装置の一例の断面図である。 弾性層における気相成長法炭素繊維の配合量と熱浸透率の関係を表すグラフである。 本発明に係る弾性層材料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例である。
本発明にかかる定着部材について以下に具体的な構成に基づき説明する。
図1は、本発明に係る定着部材としての定着ベルトの概略断面図である。図1に示した定着ベルト1において、3は金属製の基材、4は弾性層、6は離型層であり、5は弾性層4と離型層6とを接着している接着層である。
ここで、基材3、弾性層4、接着層5および離型層6について、厚さ、熱拡散率、密度、比熱容量および熱伝導率を下記表1に記載したように規定する。
離型層6に印加された交流温度波の、離型層6における減衰の程度は、離型層6の熱拡散率(α4)と交流温度波の周波数fにより求まる熱拡散長[μ4=(α4/(π・f))0.5]と離型層6の厚さt4との大小関係により知ることができる。つまり、t4≧μ4なる関係が成り立つとすれば、それは、交流温度波が離型層6において十分に減衰することを意味している。すなわち、この定着ベルトの熱拡散長(μ)はμ4となる。
一方、t4<μ4である場合、交流温度波は離型層6では十分には減衰しない。そのため、交流温度波は、離型層6を通過し、接着層5に達する。このとき接着層5における交流温度波の減衰の程度は、次のようにして計算することができる。離型層6を通過して接着層5に達した交流温度波を周波数換算fで表すと式1の変形より、f=α4/(π・(μ4−t4))となる。
つまり、t4<μ4の場合には、接着層5に対して周波数fの交流温度波を与えるのと等価と考えることができる。そして、接着層5の熱拡散率(α3)と、当該交流温度波の周波数fにより求まる熱拡散長[μ3=(α3/(π・f))0.5]と接着層の厚さt3との大小関係により、接着層5における当該交流温度波の減衰の程度を知ることができる。つまり、t3≧μ3なる関係が成立すれば、交流温度波(f)が接着層5において十分に減衰することを意味している。したがって、この定着ベルトの熱拡散長(μ)は、t4+μ3となる。
一方、t3<μ3である場合、交流温度波(f2)は接着層5では十分には減衰せず、弾性層4に達する。この場合、同様に弾性層4における交流温度波の減衰の程度は次のようにして計算することができる。接着層5を通過して弾性層4に達した交流温度波の周波数換算fで表すと式1の変形よりf=α3/(π・(μ3−t3))となる。
つまり、μ3>t3の場合には、弾性層4に対して周波数fの交流温度波を与えるのと等価と考えることができる。そして、弾性層4の熱拡散率(α2)と、当該交流温度波の周波数(f)より求まる熱拡散長[μ2=(α2/(π・f))0.5]と弾性層4の厚さt2との大小関係により、弾性層4における当該交流温度波の減衰の程度を知ることができる。つまり、t2≧μ2なる関係が成立すれば、交流温度波(f)が弾性層4において十分に減衰することを意味している。したがって、このとき定ベルトの熱拡散長(μ)は、t4+t3+μ2となる。
一方、t2<μ2である場合には、交流温度波(f)は、弾性層4では十分には減衰せず、さらに基材3に達することとなる。この場合、同様に基材3における交流温度波の減衰の程度は次のようにして計算することができる。弾性層4を通過して基材3に達した交流温度波の周波数換算fで表すと式1の変形よりf=α2/(π・(μ2−t2))となる。つまり、t2<μ2の場合には、基材3に対して周波数fの交流温度波を与えるのと等価と考えることができる。そして、基材3の熱拡散率(α1)と当該交流温度波の周波数(f)より求まる熱拡散長[μ1=(α1/(π・f))0.5]と基材3の厚さt1との大小関係により、基材3における当該交流温度波の減衰の程度を知ることができる。つまり、t1≧μ1なる関係が成立すれば、交流温度波(f)が基材3において十分に減衰することを意味している。従って、この定着ベルトの熱拡散長(μ)は、t4+t3+t2+μ1となる。一方、t1<μ1である場合には、交流温度波(f)が基材3においても十分には減衰せず、基材3の裏側の媒体(空気など)にまで達することとなる。すなわち交流温度波が定着ベルトを熱通過する系となるため、熱拡散長(μ)は、t4+t3+t2+t1と考えることができる。このようにして、定着ベルトの表面に周波数fの交流温度波を印加した際の熱拡散長(μ)が求まる。次に、この熱拡散長(μ)に相当する表面からの深さ領域の間に存在する各層の特性値を用いることによって、当該深さ領域における熱浸透率bを求めることができる。すなわち、上記の構成において、周波数fの交流温度波が離型層6、接着層5を経て弾性層4にて十分に減衰したとする。この場合、熱拡散長に相当する深さ領域には、離型層6、接着層5及び弾性層4が存在する。そこで、各層における熱浸透率b6、b5及びb4とすると、これらは、以下のように表される。
b6=(λ6・c6・ρ6)0.5
b5=(λ5・c5・ρ5)0.5
b4=(λ4・c4・ρ4)0.5
そして、bは、加重平均から、下記式で求めることができる。
=((b6・t6)/(μ))+(b5・t5)/(μ))+(b4・μ4)/(μ))。
こうして求めたbは、前記したとおり、熱定着部材としての熱的性能を示すパラメータとなる。そして、この値が大きいほど、被記録材に対する熱の供給能力が高いことを意味する。
(第一の実施態様)
次に、本発明を、基材3、弾性層4、接着層5及び離型層6がこの順番で積層された定着部材を例に説明する。離型層6の表面が、被加熱体と接触する。
ここで、基材3としては、ニッケル電鋳膜、接着層5としては、シリコーンゴム接着剤、離型層6としては、テトラフロオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルビニルエーテル(FVA)との共重合体(PFA)からなるチューブを用いた。基材3、接着層5及び離型層6の厚さ及び各種物性値を下記表2に示す。
そして、このような定着ベルトの離型層の表面に周波数10Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長(μ410)を計算する。
μ410=(0.12/(π・f))0.5=61.8×10−3mm=61.8μm
この値は、離型層6の厚さ(=10μm)よりも大きいことから、当該交流温度波は、離型層6で減衰せず、接着層5に達する。そこで、次に接着層5内における熱拡散長(μ310)を計算する。ここで、接着層5に達する温度波を交流温度波の周波数(f)に換算すると、以下の式で求めることができる。
=0.12/(π・(μ410−t4))=14.2Hz
即ち、接着層5には14.2Hzの交流温度波を印加したのと等価な状態となる。したがって、μ3は下記式により求まることとなる。
μ310=(0.11/(π・f))0.5=49.6μm
この値は、接着層5の厚さ(t3=5μm)よりも大きいことから、当該交流温度波は接着層5でも減衰せず、弾性層4に達する。ここで弾性層4が、十分に大きな熱浸透率を有していれば、当該交流温度波は、弾性層4で減衰することとなる。
ここで、離型層6と接着層5におけるそれぞれの熱浸透率b6、b5は以下の式により算出できる。
b6=(λ6・c6・ρ6)0.5=0.71[kJ/(m・K・sec0.5)]、
b5=(λ5・c5・ρ5)0.5=0.61[kJ/(m・K・sec0.5)]
弾性層4に達する温度波を交流温度波の周波数(f)に換算すると以下の式で求めることができる。
=0.11/(π・(μ310−t3))=17.6Hz
即ち、弾性層4には17.6Hzの交流温度波を印加したのと等価な状態となる。
そこで、弾性層として下記の表3に示す構成および物性値を有する4A、4B、4C、および4Dを用いたときを想定し、熱拡散長および熱浸透率を算出する。
ここで、弾性層4Aは後に述べる比較例A−5で用いる弾性層材料に、弾性層4Bは比較例A−3で用いる弾性層材料に、弾性層4Cは比較例A−6で用いる弾性層材料に、弾性層4Dは実施例A−3で用いる弾性層材料にそれぞれ相当するものである。
詳しくは実施例並びに比較例の項目で説明するが、弾性層4Aは熱伝導性の充填剤を含まない、付加硬化型シリコーンゴム硬化物のみにより構成されている。弾性層4Bは付加硬化型シリコーンゴムに、体積割合で45%のアルミナフィラーを配合し、硬化することにより形成されている。弾性層4Cは付加硬化型シリコーンゴムに、体積割合で2%の気相成長法炭素繊維を配合し、硬化することで形成されている。弾性層4Dは同じく付加硬化型シリコーンゴムに、体積割合で45%のアルミナフィラーと、体積割合で2%の気相成長法炭素繊維を配合し、硬化することにより形成されている。
<弾性層4Aを用いた場合>
弾性層4A内における熱拡散長(μ210(4A))を計算する。ここで、弾性層4Aに達する温度波を交流温度波の周波数(f)として求めているので、μ210(4A)は、
μ210(4A)=(0.13/(π・f))0.5=48.5μm
となり、弾性層の厚さ300μmよりも小さくなる。つまり、交流温度波は弾性層4で十分に減衰することがわかる。すなわち、このベルトでの熱拡散長μ10(4A)は、
μ10(4A)=t4+t3+μ210(4A)=63.5μm
となる。
また、このときの弾性層4Aの熱浸透率b4(4A)は、
b4(4A)=(λ4(4A)・c4(4A)・ρ4(4A)0.5
=0.56[kJ/(m・K・sec0.5)]
となる。
そのため、この定着ベルトに10Hzの交流温度波を与えた際の熱拡散長μ10(4A)における熱浸透率b10(4A)は、
10(4A)=((b6・t6)/(μ10(4A)))+((b5・t5)/(μ10(4A)))+((b4(4A)・μ210(4A))/(μ10(4A)))=0.59[kJ/(m・K・sec0.5)]
であり、弾性層がフィラーの充填されていないシリコーンゴム層では、十分な熱浸透率即ち、トナーや非記録材に対する熱供給が得られていないことがわかる。
<弾性層4Bを用いた場合>
弾性層4B内における熱拡散長(μ210(4B))を計算する。
μ210(4B)は、
μ210(4B)=(0.38/(π・f))0.5=82.9μm
となり、やはり弾性層の厚さ300μmよりも小さくなる。
つまり、交流温度波は弾性層4で十分に減衰することがわかる。すなわち、このベルトでの熱拡散長μ10(4B)は、
μ10(4B)=t4+t3+μ210(4B)=97.9μm、となる。
また、このときの弾性層4Bの熱浸透率b4(4B)は、
b4(4B)=(λ4(4B)・c4(4B)・ρ4(4B)0.5
=1.36[kJ/(m・K・sec0.5)]
となる。そのため、この定着ベルトに10Hzの交流温度波を与えた際の熱拡散長μ10(4B)における熱浸透率b10(4B)は、
10(4B)=((b6・t6)/(μ10(4B)))+((b5・t5)/(μ10(4B)))+((b4(4B)・μ210(4B))/(μ10(4B)))=1.26[kJ/(m・K・sec0.5)]
である。すなわち、弾性層にアルミナフィラーを配合したことにより、未配合の場合に比べて熱浸透率は向上するものの、未だ十分な熱浸透率が得られていないことが分かる。
<弾性層4Cを用いた場合>
弾性層4C内における熱拡散長(μ210(4C))を計算する。μ210(4C)は、
μ210(4C)=(0.44/(π・f))0.5=89.2μm
となり、同じく弾性層の厚さ300μmよりも小さくなる。つまり、交流温度波は弾性層4で十分に減衰することがわかる。
すなわち、このベルトでの熱拡散長μ10(4C)は、
μ10(4C)=t4+t3+μ210(4C)=104.2μm
となる。
また、このときの弾性層4Bの熱浸透率b4(4C)は、
b4(4C)=(λ4(4C)・c4(4C)・ρ4(4C)0.5=1.05[kJ/(m・K・sec0.5)]
となる。
そのため、この定着ベルトに10Hzの交流温度波を与えた際の熱拡散長μ10(4C)における熱浸透率b10(4C)は、
10(4C)=((b6・t6)/(μ10(4C)))+((b5・t5)/(μ10(4C)))+((b4(4C)・μ210(4C))/(μ10(4C)))=1.00[kJ/(m・K・sec0.5)]
である。すなわち、弾性層に気相成長法炭素繊維を配合したことによっても、未配合の場合に比べて熱浸透率は向上するものの、ここでも未だ十分な熱浸透率が得られていないことが分かる。
<弾性層4Dを用いた場合>
弾性層4D内における熱拡散長(μ210(4D))を計算する。
μ210(4D)は、
μ210(4D)=(1.11/(π・f))0.5=141.7μm
となり、この場合もやはり弾性層の厚さ300μmよりも小さくなる。つまり、ここでも交流温度波は弾性層4Dで十分に減衰することがわかる。
すなわち、このベルトでの熱拡散長μ10(4D)
μ10(4D)=t4+t3+μ210(4D)=156.7μm
となる。
また、このときの弾性層4Dの熱浸透率b4(4D)は、
b4(4D)=(λ4(4D)・c4(4D)・ρ4(4D)0.5
=2.36[kJ/(m・K・sec0.5)]
と非常に大きな熱浸透率を示す。この定着ベルトに10Hzの交流温度波を与えた際の熱拡散長μ10(4D)における熱浸透率b10(4D)は、
10(4D)=((b6・t6)/(μ10(4D)))+((b5・t5)/(μ10(4D)))+((b4(4D)・μ210(4D))/(μ10(4D)))=2.20[kJ/(m・K・sec0.5)]
であり、弾性層にアルミナフィラーと気相成長法炭素繊維を共に配合したことにより、それぞれを単体で配合した時に比べて、定着ベルトとしての熱浸透率が飛躍的に向上していることがわかる。これは即ち、トナー並びに非記録材への熱供給能力がこれまでに達成できていないレベルで向上していることを示している。
(第二の実施態様)
基材3としてニッケル電鋳膜、弾性層4として先で用いたシリコーンゴム弾性層4D、接着層5は設けずに、離型層6をフッ素樹脂コーティングで直接形成した定着ベルトを例に挙げる。各層の構成及び物性値を下記の表4に示す。
これは実施例B−2に相当する構成である。
このような定着ベルトの離型層の表面に周波数10Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長(μ410)を計算する。
μ410=(0.12/(π・f))0.5=61.8×10−3mm=61.8μm
この値は、離型層6の厚さ(=10μm)よりも大きいことから、当該交流温度波は、離型層6で減衰せず、弾性層4Dに達する。ここで、離型層6における熱浸透率b6は以下の式により算出できる。
b6=(λ6・c6・ρ6)0.5=0.75[kJ/(m・K・sec0.5)]
次に弾性層4D内における熱拡散長(μ210(4D))を計算する。ここで、弾性層4Dに達する温度波を交流温度波の周波数(f)に換算すると、以下の式で求めることができる。
=0.12/(π・(μ410−t4))=14.2Hz
すなわち、弾性層4Dには14.2Hzの交流温度波を印加したのと等価な状態となる。したがって、μ210(4D)は下記式により求まることとなる。
μ210(4D)=(1.11/(π・f))0.5=157.7μm
この場合、μ210(4D)は弾性層の厚さ300μmよりも小さくなる。つまり、交流温度波は弾性層4Dで十分に減衰することがわかる。すなわち、このベルトでの熱拡散長μ10(4D)は、
μ10(4D)=t4+μ210(4D)=167.7μm
となる。
また、このときの弾性層4Dの熱浸透率b4(4D)は先と同様に、
b4(4D)=2.36[kJ/(m・K・sec0.5)]
であるので。この定着ベルトに10Hzの交流温度波を与えた際の熱拡散長μ10(4D)における熱浸透率b10(4D)は、
10(4D)=((b6・t6)/(μ10(4D)))+((b4(4D)・μ(4D))/(μ(4D)))
=2.26[kJ/(m・K・sec0.5)]
であり、接着層を形成せずに離型層を直接形成することで、部材表面近傍における熱浸透率をさらに向上させることが可能となる。
(1)定着部材の構成概略
本発明の詳細について図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る電子写真用定着部材の一態様を示す概略断面模式図であり、1はベルト形状を有する定着部材(定着ベルト)であり、2はローラ形状の定着部材(定着ローラ)を示している。一般に基材自体が変形することにより、定着ニップを形成して用いられる場合に定着ベルトと呼ばれ、基材自体はほとんど変形せず、弾性層の弾性変形で定着ニップを形成する場合に定着ローラと呼ばれる。
図1において、3は基材、4は基材3の周面を被覆している弾性層、6は離型層である。離型層6は、弾性層4の周面に接着層5により固定されている場合がある。
また、図2は、定着部材の表面から熱拡散長μの範囲の層構成を拡大し、断面を模式的に表した図である。図2において4は弾性層であり、4aはベース材としてのシリコーンゴム、4bは高体積熱容量充填材、4cは気相成長法炭素繊維を示している。これら弾性層を構成する各成分については後に詳述する。
図2に示すように、弾性層4中には、高体積熱容量充填剤4bの間を橋渡しするような形で、互いに絡まった気相成長法炭素繊維4cが存在している。すなわち、高体積熱容量充填剤4b同士が、気相成長法炭素繊維4cによって端かけされることによって伝熱路が形成されているものと考えられる。そのため、弾性層の硬度を上昇させる充填剤の弾性層への添加総量(体積割合)を抑えつつ、優れた熱供給能力を備えた定着部材とすることができる。
5は接着層を示しており、6は離型層を示している。これらの層にも気相成長法炭素繊維を含むことで定着部材の熱供給能力の向上が可能である。また、これらの層の形成方法についても後に詳述する。
以下、定着部材における各層について説明し、その利用方法について述べる。
(2)基材
基材3としては、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケルなどの金属や合金、ポリイミドなどの耐熱性樹脂が用いられる。
定着部材がローラ形状である場合、基材3には、芯金が用いられる。芯金の材質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレスなどの金属や合金が挙げられる。このとき芯金の内部が中空状であっても定着装置での加圧に耐える強度を有していれば良い。また、中空状の場合には内部に熱源を設けることも可能となる。
定着部材が、ベルト形状を有する場合には、基材3としては、例えば電鋳ニッケルスリーブやステンレススリーブ、ポリイミドなどからなる耐熱樹脂ベルト等が挙げられる。内面には耐磨耗性や断熱性などの機能を付与するための層(不図示)が更に設けられることがある。また外面には弾性層との接着性等の機能を付与するための層(不図示)が更に設けられることがある。
(3)弾性層、及びその製造方法
弾性層4は、定着時にトナーを押しつぶさず、紙の繊維の凹凸に追従する弾性を定着部材に担持させる層として機能する。
かかる機能を発現させる上で、弾性層4は、ベース材としてシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性ゴムを用いることが好ましく、中でも付加硬化型シリコーンゴムを硬化させたものとすることが好ましい。液状状態のものが多いため充填剤(フィラー)が分散させやすく、後述するフィラーの種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、弾性を調整することができるからである。
また、層構成として、定着部材表面から熱拡散長μの範囲に含まれる弾性層部分は被記録材への伝熱効率の観点から制約を受けるが、その範囲から外れる厚み範囲に関しては制約から除外される。特にローラ形状の定着部材では、表面から熱拡散長μを超える範囲においては、更なる柔軟性や伝熱性、断熱性等の機能を付与する目的で、多様な形態をとることが可能である。
(3−1)付加硬化型シリコーンゴム
図2において、4aを構成するのが付加硬化型シリコーンゴムである。
一般に、付加硬化型シリコーンゴムは、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン、および架橋触媒として白金化合物が含まれている。
不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンの例は以下のものを含む。
・分子両末端が(RSiO1/2で表され、中間単位が(RSiOおよびRSiOで表される直鎖状オルガノポリシロキサン;
・中間単位にRSiO3/2乃至SiO4/2が含まれる分岐状ポリオルガノシロキサン。
ここでRはケイ素原子に結合した、脂肪族不飽和基を含まない1価の非置換または置換炭化水素基を表す。具体例は、以下のものを含む。
・アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等);・アリール基(フェニル基等);
・置換炭化水素基(例えば、クロロメチル、3−クロロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、3−シアノプロピル、3−メトキシプロピル等)。
特に、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が得られることから、Rの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのRがメチル基であることが特に好ましい。
また、Rはケイ素原子に結合した不飽和脂肪族基を表しており、ビニル、アリル、3−ブテニル、4−ペンテニル、5−ヘキセニルが例示され、合成や取扱いが容易で、架橋反応も容易に行われることから、ビニルが好ましい。
また、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、白金化合物の触媒作用により、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のアルケニル基との反応によって架橋構造を形成させる架橋剤である。
ケイ素原子に結合した水素原子の数は、1分子中に平均3個を越える数である。
ケイ素原子に結合した有機基としては、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のRと同じ範囲である非置換または置換の1価の炭化水素基が例示される。特に、合成および取扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。
ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されない。
また、当該オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、好ましくは10mm/s以上100,000mm/s以下、さらに好ましくは15mm/s以上1,000mm/s以下の範囲である。保存中に揮発して所望の架橋度や成形品の物性が得られないということがなく、また合成や取扱いが容易で、系に容易に均一に分散させることができるからである。
シロキサン骨格は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも差支えなく、これらの混合物を用いてもよい。特に合成の容易なことから、直鎖状のものが好ましい。Si−H結合は、分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、少なくともその一部が、(RHSiO1/2単位のような分子末端のシロキサン単位に存在することが好ましい。
付加硬化型シリコーンゴムとしては、不飽和脂肪族基の量が、ケイ素原子1モルに対して0.1モル%以上、2.0モル%以下であるものが好ましい。特には、0.2モル%以上、1.0モル%以下である。
(3−2)充填剤(フィラー)について
弾性層4は、定着部材の伝熱特性の向上、及び補強性、耐熱性、加工性、導電性等の付与のために充填剤(フィラー)を含む。
(3−2−1)材料
特に、伝熱特性を向上させる目的では、フィラーとしては高熱伝導性、及び高体積熱容量である無機充填剤が好ましい。無機充填剤の具体例としては、金属、金属化合物等を挙げることができる。
特に、伝熱特性を向上させる目的で用いられる無機充填剤としては、たとえば以下の材料が好適に用いられる。
炭化ケイ素;窒化ケイ素;窒化ホウ素;窒化アルミニウム;アルミナ;酸化亜鉛;酸化マグネシウム;シリカ;銅;アルミニウム;銀;鉄;ニッケル;等。
更に、弾性層の体積熱容量確保の観点からは、3.0[mJ/m・K]以上の体積熱容量を有する、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、鉄、銅、ニッケルを主成分とする高体積熱容量充填剤を用いることが好ましい。
図2において4bが、ここで述べる高体積熱容量充填剤(無機充填剤)である。
これらは単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。平均粒径は取扱い上、および分散性の観点から1μm以上50μm以下が好ましい。また、形状は球状、粉砕状、針状、板状、ウィスカ状などが用いられるが、分散性の観点から球状もしくは粉砕状に類したものが好ましい。
ここで、弾性層中の無機充填剤の平均粒径は、フロー式粒子像分析装置(商品名:FPIA−3000;シスメックス株式会社製)で求めるものとする。
具体的には、弾性層から切り出したサンプルをるつぼに入れ、窒素雰囲気中で1000℃に加熱し、ゴム成分を灰化させ除去する。この段階で、るつぼ中には、サンプル中にふくまれていた無機充填剤が存在している。なお、弾性層が、後述する気相成長法炭素繊維をフィラーとして含有している場合には、気相成長法炭素繊維もるつぼ中に存在している。
そこで、るつぼ中に無機充填剤と共に気相成長法炭素繊維が存在している場合には、このるつぼを空気雰囲気下で1000℃に加熱し、気相成長法炭素繊維を燃焼させる。その結果、るつぼ中には、サンプルに含まれていた無機充填剤のみが残る。
次いで、るつぼ中の無機充填剤を乳鉢と乳棒を用いて1次粒子となるように解砕したのち、これを水に分散させて、試料液を調製する。この試料液を、上記粒子像分析装置に投入し、装置内で撮像セル内に導入し通過させ、無機充填剤を静止画像として撮影する。
平面に投影された無機充填剤の粒子像(以下、「粒子投影像」ともいう)と等しい面積を有する円(以下、「等面積円」ともいう)の直径を、当該粒子像にかかる無機充填剤の直径とする。そして、1000個の無機充填剤の等面積円を求め、それらの算術平均値を、無機充填剤の平均粒径とする。
フィラーの体積熱容量は定圧比熱(C)と真密度(ρ)の積により求めることができ、それぞれの値は下記の装置で求めることができる。
・定圧比熱(C)・・・示差走査熱量測定装置(商品名:DSC823e;メトラー・トレド株式会社製)
具体的には、サンプル用のパン及びリファレンス用のパンとして、アルミニウム製のパンを用いる。まずブランク測定として、両方のパンが空の状態で、15℃で10分定温の後、115℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、115℃で10分定温させるプログラムで測定を実施する。次に定圧比熱が既知である約10mgの合成サファイアを基準物質に用い、同じプログラムで測定を行なう。次いで、リファレンスのサファイアと同量の約10mgの測定サンプル(充填剤)をサンプルパンにセットし、同じプログラムで測定を実施する。これらの測定結果を上記示差走査熱量測定装置に付属の比熱解析ソフトウェアを用いて解析し、5回の測定の算術平均値から、25℃における定圧比熱(C)を算出する。
・真密度(ρ)・・・乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330−01;株式会社島津製作所製)
具体的には、10cmの試料セルを用い、セル容積の約8割のサンプル(充填剤)を試料セル内に入れる。サンプルの重量を測定したのち、装置内の測定部にセルをセットし、測定用のガスとしてヘリウムを用い、10回のガス置換ののち、容積測定を10回実施する。サンプルの重量と測定された容積から密度(ρ)を算出する。
フィラーとしては更に、熱伝導性確保の観点から、気相成長法炭素繊維を含有することが好ましい。
図2において4cが、ここで述べる気相成長法炭素繊維である。気相成長法炭素繊維は、炭化水素と水素を原料とし、加熱炉内において気相で熱分解反応させ、触媒微粒子を核に繊維状に成長させたものである。繊維径、繊維長は原料及び触媒の種類・大きさ・組成、反応温度・気圧及び時間などによって制御され、反応後、熱処理によって黒鉛構造を更に発達させたものが知られている。
繊維の径方向には複層構造になっており、グラファイト構造が筒状に積層された形状を有している。平均繊維径は80〜200nm程度、平均繊維長は5〜15μm程度のものが一般的であり、また、市販されている。
ここで、弾性層中の気相成長法炭素繊維の平均繊維径および平均繊維長の測定方法は、以下の通りとする。すなわち、まず、弾性層から切り出したサンプル10gを、るつぼに入れ、空気中において550℃で8時間加熱して、ゴム成分を灰化させて除去する。次いで、るつぼ内に残った気相成長法炭素繊維を、無作為に1000本選択し、光学式顕微鏡を用いて、倍率120倍で観察し、デジタル画像計測ソフト((商品名:Quick Grain Standard、イノテック社製)を用いて、それらの繊維長および繊維端部における繊維径を測定した。そして、各々の繊維長及び繊維径の算術平均値を、平均繊維長及び平均繊維径とした。
また、フィラーとしては他に、導電性等の特性を付与させる目的で、カーボンブラックを添加してもよい。
(3−2−2)含有量
上記フィラーは、弾性層の柔軟性を確保しつつも、その伝熱特性を充分に達成させるために、総量として弾性層4中に、体積基準で25体積%以上50体積%以下の範囲で含有させることが好ましい。そのうち、気相成長法炭素繊維については、多量に添加した際にベース材の粘度上昇を抑制し、良好な加工性を維持するために、弾性層の体積基準で0.5体積%以上、5体積%以下とすることが好ましい。
(3−3)弾性層の厚さ
定着部材の表面硬度への寄与、並びにニップ幅確保の観点から、弾性層の厚さは適宜設計可能である。定着部材がベルト形状を有する場合には、定着装置に組み込んだときに、基材の変形によりニップ幅が確保できるため、また、ベルト内に発熱源を有するため、弾性層の厚みの好ましい範囲は、100μm以上、500μm以下、更に好ましくは200μm以上、400μm以下である。定着部材がローラ形状を有する場合には、基材が剛体であり、ニップ幅を弾性層の変形で形成する必要がある。このため弾性層の厚みの好ましい範囲は、300μm以上10mm以下、更に好ましくは1mm以上、5mm以下である。この際、部材表面から熱拡散長μの範囲に含まれる弾性層領域においては、先に示した構成を取ることが求められる。
(3−4)弾性層の製法
弾性層は金型成型法や、ブレードコート法、ノズルコート法、リングコート法等の加工法が、特開2001−62380号公報や特開2002−213432号公報等において広く知られている。これらの方法により基材の上に担持された混和物を加熱・架橋することで弾性層を形成することができる。
図3は基材3上に弾性層4を形成する工程の一例であり、所謂リングコート法を用いる方法を説明するための模式図である。
未架橋状態のベース材(本例では付加硬化型シリコーンゴム)中にフィラーをそれぞれ計量配合し、遊星式万能混合機等を用いて、十分に混合・脱泡された弾性層形成用の原料混和物を、シリンダポンプ7に充填し、圧送することで該原料混和物の供給ノズル8を経て塗工ヘッド9から基材3の周面に塗布する。
塗布と同時に基材3を図面右方向に所定の速度で移動させることで、該原料混和物の塗膜10を基材3の周面に形成することが出来る。該塗膜の厚みは、塗工ヘッド9と基材3とのクリアランス、該原料混和物の供給速度、基材3の移動速度、などによって制御することが出来る。基材3上に形成された原料混和物の塗膜10は、電気炉などの加熱手段によって一定時間加熱して、架橋反応を進行させることにより、弾性層4とすることができる。
(4)離型層及びその製造方法
離型層6としては、主にフッ素樹脂層、例えば、以下に例示列挙する樹脂が用いられる。
・テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等。
上記例示列挙した材料中、成形性やトナー離型性の観点からPFAが好ましい。
形成手段としては、特に限定されないが、チューブ状に成形したものを被覆する方法や、フッ素樹脂の微粒子を直接、乃至は、溶媒中に分散塗料化されたものを弾性層表面にコーティング後、乾燥・溶融し焼き付ける方法などが知られている。
また、離型層中には成形性や離型性を損なわない範囲において、熱物性を制御する目的でフィラーを含有しても良い。
フッ素樹脂離型層の厚みは、50μm以下、更には30μm以下とするのが好ましい。このような厚みとすることで、積層した際に弾性層の弾性を維持し、定着部材としての表面硬度が高くなりすぎることを抑制できる。
(4−1)フッ素樹脂チューブ被覆による離型層形成
フッ素樹脂チューブはPFA等の熱溶融タイプのフッ素樹脂を用いる場合においては、一般的な方法で作成することができる。例えば、熱溶融タイプのフッ素樹脂ペレットを、押出成形機を用いてフィルム等に成形する。
フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、表面を活性化し、接着性を向上させることが出来る。
図4は、弾性層4上に、接着剤11を介してフッ素樹脂層を積層する工程の一例の模式図である。前述した弾性層4の表面に、接着剤11を塗布する。接着剤については後に詳述する。接着剤11の塗布に先立って弾性層4の表面に対して紫外線照射工程を行っても良い。これによって接着剤11の弾性層4への浸透を抑制することができ、弾性層との反応による、表面硬度の上昇を抑制することができる。また、この紫外線照射工程は加熱環境下で行なうことで、さらに効率的に実施することが可能である。
この接着剤11の外面に、離型層6としてのフッ素樹脂チューブ12を被覆し、積層させる。
基材3が形状保持可能な芯金の場合には必要ないが、ベルト形状の定着部材に用いられる樹脂ベルトや金属スリーブのような箔肉の基材を用いる際には、加工時の変形を防ぐために中子13に外嵌させて保持する。
被覆方法は特に限定されないが、接着剤を潤滑材として被覆する方法や、フッ素樹脂チューブを外側から拡張し、被覆する方法等を用いることが出来る。
被覆後、不図示の手段を用いて、弾性層と離型層との間に残った、余剰の接着剤を、扱き出すことで除去する。扱き出した後の接着層の厚みは、20μm以下であることが好ましい。接着層の厚みを20μm以下とすることで、伝熱特性の低下をより確実に抑制することができる。
次に、電気炉などの加熱手段にて所定の時間加熱することで、接着剤を硬化・接着させ、必要に応じて両端部を所望の長さに加工することで、本発明の定着部材を得ることが出来る。
(4−1−1)接着剤
接着剤は弾性層及び離型層の材質によって適宜選択することが可能であるが、弾性層に付加硬化型シリコーンゴムを用いる際には、接着剤11として自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを用いることが好ましい。具体的には、ビニル基に代表される不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンおよび架橋触媒としての白金化合物を含有する。そして、付加反応により硬化する。このような接着剤としては、既知のものを使用することができる。
自己接着成分の例は、以下のものを含む。
・ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基、カルボニル基、およびフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するシラン、
・ケイ素原子数が2個以上30個以下、好ましくは4個以上20個以下の、環状または直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物、
・1価以上4価以下、好ましくは2価以上4価以下のフェニレン構造等の芳香環を1分子中に1個以上4個以下、好ましくは1個以上2個以下含有し、かつ、ヒドロシリル化付加反応に寄与しうる官能基(例えば、アルケニル基、(メタ)アクリロキシ基)を1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上4個以下含有する、分子中に酸素原子を含んでもよい、非ケイ素系(即ち、分子中にケイ素原子を含有しない)有機化合物。
上記の自己接着成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
接着剤中には粘度調整や耐熱性確保の観点から、本発明の趣旨に沿う範囲内においてフィラー成分を添加することができる。
当該フィラー成分の例は、以下のものを含む。
・シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化セリウム、水酸化セリウム、カーボンブラック等。
このような付加硬化型シリコーンゴム接着剤は市販もされており、容易に入手することができる。
また、接着層における伝熱特性付与の観点から、さらにフィラーとして気相成長法炭素繊維を添加することができる。添加量としては、接着強度の維持を図る観点から、接着層中における体積割合で0.5体積%以上、10体積%以下とすることが好ましい。
(4−2)フッ素樹脂コーティングによる離型層形成
離型層としてのフッ素樹脂のコーティング加工にはフッ素樹脂微粒子の静電塗工方法や、フッ素樹脂塗料のスプレーコーティングなどの方法を用いることができる。
静電塗工方法を用いる場合には、まず金型内面にフッ素樹脂微粒子の静電塗工を施し、金型をフッ素樹脂の融点以上まで加熱することで、金型内面にフッ素樹脂の薄膜を形成する。この後、内面を接着処理したうえで、基材を挿入し、基材とフッ素樹脂との間に弾性層材料を注型硬化せしめた後、フッ素樹脂ごと脱型することで本発明の定着部材を得ることが出来る。
スプレーコーティングを用いる場合には、フッ素樹脂の塗料を使用する。図5にスプレーコーティング方法の概略図を示す。フッ素樹脂塗料はフッ素樹脂の微粒子が界面活性剤等によって溶媒中に分散された、所謂ディスパージョン液を形成している。フッ素樹脂ディスパージョン液は市販もされており、容易に入手可能である。このディスパージョン液を、不図示の手段によりスプレーガン14に供給し、空気等のガス圧により霧状に噴霧する。必要に応じてプライマー等により接着処理された弾性層4を有する部材を、スプレーガンに対向する位置に配置し、部材を一定速度で回転させると共に、スプレーガン14を基材3の軸方向に平行移動させる。これによって、弾性層表面にフッ素樹脂塗料の塗膜15を一様に形成することができる。このようにフッ素樹脂塗料塗膜15が形成された部材を、電気炉等の加熱手段を用いてフッ素樹脂塗料膜の融点以上にまで加熱することで、フッ素樹脂離型層を形成することができる。
(5)定着部材表面のタイプCマイクロ硬度
定着部材の変形は、定着ローラ等の場合にニップ部を形成するために求められる大変形領域における硬度と、被記録体である紙繊維やトナー像の凹凸に対しての追従を求められる微小変形領域における硬度があり、ここでは微小変形領域の硬度に着目して説明する。
定着部材は紙繊維の内部にまで入り込んだトナーや、部位によって積層構成が異なるトナー像に対しても溶融に十分な熱量を与えるために、紙繊維やトナー像の凹凸に対して追従し、接触することで熱供給を行なう必要がある。この追従性を比較するにあたり、微小変形領域における硬度測定、所謂マイクロ硬度が有用なことが知られている。
定着部材表面のタイプCマイクロ硬度は、マイクロゴム硬度計(高分子計器株式会社製、商品名:マイクロゴム硬度計MD−1 capa タイプC)を用いて測定することが出来る。ここでの定着部材表面におけるマイクロ硬度は、85度以下、特には80度以下が好ましい。
一般に、熱効率を上げるために弾性層中にフィラーを多く添加した際には硬度が上昇する傾向となるが、上記の方法を用いることで熱効率を上げつつも弾性層の柔軟性を保つことができる。これにより、タイプCマイクロ硬度を上記数値範囲内とすることで、転写媒体上の未定着トナーを過度に押しつぶすことを抑制できる。その結果、像ズレ、滲みが少ない高品位な電子写真画像を得ることができる。
(6)複層構成の定着部材における熱浸透率
ここまで述べたように、定着部材は基材、弾性層、離型層を含む複層構成を成している。定着部材は被加熱体に対して直接接触する離型層側から熱供給を行なうため、表面側からデュエルタイム相当の時間領域において測定される熱浸透率が、熱供給能力を決定付けることとなる。
一般にある周波数の交流温度波における物質の熱拡散長は、先に示した式(1)により算出することができるが、層の厚みが熱拡散長よりも小さい場合には、当該層を突き抜けて更に奥の層に熱影響を及ぼすこととなる。このとき下層における熱拡散長は当該層の熱物性によって再度変化するため、再計算が必要となる。
仮に複層(3層以上)構成の定着部材について考えてみる。1層目の厚みをt、熱拡散率をαとし、2層目の厚みをt、熱拡散率をαとして、交流温度波の周波数fを1層目の表面に与えた時の熱拡散長μについて考える。まず、1層目単独での熱拡散長μはμ=(α/(π・f))0.5となる。このときμ≦tの場合には、1層目だけで温度波の振幅が減衰するため、この部材の熱拡散長μはμ=μとなる。
しかし、μ>tの場合には、温度波の熱影響が1層目を突き抜けて、2層目に到達することとなる。ここで、1層目を通過し2層目に到達した温度波を周波数換算fで表すと式1の変形より、f=α/(π・(μ−t)となる。
つまり、μ<tの場合には、2層目単独に対して周波数fの交流温度波を与えたのと同じ状況が想定される。このfを用いて、同様に2層目の熱拡散長μを算出すると、μ=(α/(π・f))0.5となる。このときμ≦tの場合には、2層目で減衰するためこの部材の熱拡散長μはμ=t+μとなる。しかし、μ>tの場合には、更にその奥の3層目に温度波が到達するため、部材の熱拡散長の導出には同様の計算を行なう必要がある。
次に、この複層構成の定着部材において、周波数fの交流温度波を与えた際の、熱拡散長μに相当する深さ領域での平均の熱浸透率bについて考察する。
各層における熱浸透率は各層の熱物性値より式2より導出可能である。ここで、1層目の熱浸透率をb、2層目の熱浸透率をbとして温度波が2層目まで到達し、減衰した場合を想定して加重平均からbを求めると、b=((b・t)/(t+μ))+((b・μ)/(t+μ))となる。3層目以降にまで到達した場合も同様の考え方で、熱浸透率bが導出可能である。
(6−1)離型層の熱浸透率
離型層には一般にフッ素樹脂が用いられるため、フィラーを混入しないPFAを用いた場合、熱物性値より、この層における熱浸透率は、0.6乃至0.8[kJ/(m・K・sec0.5)]程度となる。また、熱浸透率はフィラーの添加によって向上させることが可能である。フィラーとしては炭化珪素や窒化ホウ素、酸化亜鉛、シリカ、アルミナなどの無機フィラーを用いることができるが、多量に添加すると離型性や成形性が悪化するという弊害が有る。
しかし、フィラーとして気相成長法炭素繊維を用いることで、フィラーを少量添加するだけでも熱浸透率を大幅に上昇させることができることを確認した。具体的にはPFAに対して体積比率で3体積%の気相成長法炭素繊維を含有した状態でフッ素樹脂離型層を形成した際に、1.5乃至2倍程度の熱浸透率となることが確認された。
(6−2)接着層の熱浸透率
先にも述べたように、チューブ形状のフッ素樹脂チューブ離型層を形成する際において、接着層には付加硬化型シリコーンゴム接着剤を用いることが好ましいが、この接着層においても充填剤を配合することで、熱浸透率の向上が見込まれる。炭化珪素や窒化ホウ素、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ等の一般的な無機フィラーを用いてもよいが、熱浸透率を向上させるには多量の配合が必要となるため、粘度の上昇を招来し、チューブ被覆後の扱き工程において薄く扱くことが困難となる。しかし、ここでもフィラーとして気相成長法炭素繊維を添加することで少ない添加量で熱浸透率が向上することが確認できている。具体的には、接着層単独の熱浸透率が0.6[kJ/(m・K・sec0.5)]程度であった接着剤に対し、気相成長法炭素繊維を体積割合で2体積%添加することで1.2[kJ/(m・K・sec0.5)]程度まで上昇することが確認できている。
(6−3)弾性層の熱浸透率
弾性層は、離型層や接着層などに比べ、層厚みが相対的に大きく確保可能であることから、熱物性を向上させる目的で様々なフィラーを充填させることが可能となる。しかし、定着部材としての柔軟性を確保する必要があるため、フィラーの総量としては体積割合で50%以下に設計することが好ましい。フィラーの体積割合が50%を超えると、弾性層の柔軟性が低下し、電子写真画像の画質の低下を招来する場合がある。
このような条件のもと、弾性層の熱浸透率を向上させるために鋭意検討を重ねた結果、高体積熱容量のフィラーと気相成長法炭素繊維を共に配合することで、それぞれを単独で配合した場合に比べて相乗的な効果が得られることが確認できた。
シリコーンゴムに対して高体積熱容量フィラーとしてのアルミナと、気相成長法炭素繊維を配合した際の、気相成長法炭素繊維配合量と熱浸透率の関係を図9に示す。
気相成長法炭素繊維及び、高体積熱容量フィラーとしてのアルミナを弾性層中に同時に配合することで、それぞれを単独で配合した場合よりも、より効果的に熱浸透率を上昇させる効果があることが確認できる。
このような効果が発現するにいたる理由については、いまだ十分に解明できてはいない。しかし、本発明者らは以下のように推測している。即ち、弾性層中に均一に分散されている高体積熱容量の無機充填剤の間を、気相成長法炭素繊維が互いに絡まりあって橋渡すような形態が形成されることにより、該弾性層中に高熱伝導性の伝熱路が形成される。これにより、熱浸透率が上昇することになると考えられる。
図10においては付加硬化型シリコーンゴム中にアルミナと気相成長法炭素繊維を配合し、加熱硬化させた弾性層材料の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。白く固まりで観察されているものがアルミナ粒子、白く繊維状に観察されているのが気相成長法炭素繊維である。写真のようにアルミナ粒子間を気相成長法炭素繊維が橋渡している状態が形成されていることが確認できる。
高体積熱容量の無機充填剤を単独で配合した場合であって、その配合量が少ない場合においては上述した伝熱路形成が困難である。また、気相成長法炭素繊維を単独で配合した際には、仮に伝熱路が形成されても、同じ体積において蓄熱される熱量、所謂体積熱容量が少ない。そのため、いずれの場合においても熱浸透率を向上させることは困難となる。
(7)定着装置
電子写真用加熱定着装置は、一対の加熱されたローラとローラ、フィルムとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト等の回転体が互いに圧接されており、電子写真画像形成装置全体としてのプロセス速度、大きさ等の条件を勘案して適宜選択される。
定着装置においては、加熱された定着部材と加圧部材を圧接することで定着ニップ幅Nを形成し、この定着ニップ幅Nに未定着トナーGによって画像が形成された、被加熱体となる被記録材Pを挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって被記録材上にトナー像が定着される。このときの被記録材搬送速度Vとの関係から、N/Vにより被記録材が定着ニップの中に滞留する時間であるデュエルタイムTが算出できる。
(7−1)ベルト形状の定着部材を用いた加熱定着装置
図6には本発明に係るベルト形状の電子写真用定着部材を用いた、加熱定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この加熱定着装置において、1は本発明の一形態となる、定着部材としてのシームレス形状の定着ベルトである。この定着ベルト1を保持するために耐熱性・断熱性の樹脂によって成型された、ベルトガイド部材16が形成されている。このベルトガイド部材16と定着ベルト1の内面とが接触する位置に熱源としてのセラミックヒータ17を具備する。セラミックヒータ17はベルトガイド部材16の長手方向に沿って成型具備された溝部に嵌入して固定支持されている。セラミックヒータ17は、不図示の手段によって通電され発熱する。
シームレス形状の定着ベルト1はベルトガイド部材16にルーズに外嵌させてある。加圧用剛性ステイ18はベルトガイド16の内側に挿通してある。加圧部材としての弾性加圧ローラ19はステンレス芯金19aにシリコーンゴムの弾性層19bを設けて表面硬度を低下させたものである。芯金19aの両端部を装置に不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。弾性加圧ローラ19は、表面性及び離型性を向上させるために表層19cとして、50μmのフッ素樹脂チューブが被覆されている。
加圧用剛性ステイ18の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ18に押し下げ力を付与している。これによってベルトガイド部材16の下面に配設したセラミックヒータ17の下面と加圧部材19の上面とが定着ベルト1を挟んで圧接して所定の定着ニップNが形成される。この定着ニップNに未定着トナーGによって画像が形成された、被加熱体となる被記録材Pを搬送速度Vで挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって被記録材上にトナー像が定着される。
(7−2)ローラ形状の定着部材を用いた加熱定着装置
図7には本発明に係るローラ形状の電子写真用定着部材を用いた、加熱定着装置の一例における横方向断面模式図を示す。
この加熱定着装置において、2は本発明の一形態となる、定着部材としての定着ローラである。この定着ローラ2は基材である芯金3の外周面に弾性層4が形成され、更にその外側にコート法により離型層6が形成されている。ここで定着ローラ2の表面から100μmの範囲に該当する弾性層4については上述した熱物性が付与されている。この範囲より深い範囲においては、外部加熱ユニット20から付与された熱量を必要以上に蓄積しないよう、断熱性の高い弾性材料が用いられることがある。
定着ローラ2と対向するように加圧部材としての加圧ローラ19が配されており、不図示の加圧手段により、二つのローラが回転可能に押圧されることで、定着ニップNが形成されている。
外部加熱ユニット20は、定着ローラ2をローラ外側から非接触で加熱する。外部加熱ユニット20は、熱源としてのハロゲンヒータ(赤外線源)20aと、ハロゲンヒータ20aの輻射熱を効率的に利用するための反射鏡(赤外線反射部材)20bとを有する。
ハロゲンヒータ20aは、定着ローラ2と対向して配置され、不図示の手段によって通電し発熱する。これにより、定着ローラ2の表面を直接加熱する。また、ハロゲンヒータ20aによる定着ローラ2方向以外の方向に、反射率の高い反射鏡20bが配設される。
反射鏡20bは、ハロゲンヒータ20aが中に入るように、定着ローラ2と反対側に突出するように湾曲して配設される。これにより、ハロゲンヒータ20aからの輻射熱を発散させずに、輻射熱を効率的に定着ローラ2側へ反射させることができる。
本実施形態では、反射鏡20bの形状は通紙方向に対して楕円軌道とし、一方の焦点にハロゲンヒータ20aを、もう一方の焦点には定着ローラ2内側の表面付近となるように配置する。これにより、楕円の集光効果を利用することができ、定着ローラ表面近傍に反射光が集光する。
また、定着ローラ2の温度制御手段として、シャッター20cや温度検知素子20dを配し、これら、並びにハロゲンヒータ20aを不図示の手段で適切に制御することで、定着ローラ2の表面温度を略均一に制御可能となる。
定着ローラ2および加圧ローラ19は不図示の手段により基材3乃至は19aの端部を通じて回転力が加えられ、定着ローラ2表面の移動速度が被記録体搬送速度Vと略等速となるように回転制御されている。この際、回転力は、定着ローラ2及び加圧ローラ19のどちらかに付与され、もう一方が従動により回転していても良いし、両方に回転力が付与されていても良い。
このように形成された加熱定着装置の定着ニップNに、未定着トナーGによって画像が形成された被加熱体となる被記録材Pを挟持搬送させる。これにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色、その後、冷却されることによって被記録材上にトナー像が定着される。
(8)電子写真画像形成装置
電子写真画像形成装置の全体構成について概略説明する。図8は本実施の形態に係るカラーレーザープリンタの概略断面図である。
図8に示したカラーレーザープリンタ(以下「プリンタ」と称す)40は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)各色ごとに一定速度で回転する電子写真感光体ドラム(以下「感光体ドラム」と称す)を有する画像形成部を有する。また、画像形成部で現像され多重転写されたカラー画像を保持し、給送部から給送された被記録材Pにさらに転写する中間転写体38を有する。
感光体ドラム39(39Y,39M,39C,39K)は、駆動手段(不図示)によって、図8に示すように反時計回りに回転駆動される。感光体ドラム39の周囲には、その回転方向にしたがって順に、感光体ドラム39表面を均一に帯電する帯電装置21(21Y,21M,21C,21K)、画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム39上に静電潜像を形成するスキャナユニット22(22Y,22M,22C,22K)、静電潜像にトナーを付着させてトナー像として現像する現像ユニット23(23Y,23M,23C,23K)、感光体ドラム39上のトナー像を一次転写部T1で中間転写体38に転写させる一次転写ローラ24(24Y,24M,24C,24K)、及び転写後の感光体ドラム39表面に残った転写残トナーを除去するクリーニングブレードを有するユニット25(25Y,25M,25C,25K)が配置されている。
画像形成に際しては、ローラ26,27,28に張架されたベルト状の中間転写体38が回転するとともに各感光体ドラムに形成された各色トナー像が前記中間転写体38に重畳して一次転写されることでカラー画像が形成される。
前記中間転写体38への一次転写と同期するように搬送手段によって被記録材Pが二次転写部へ搬送される。搬送手段は複数枚の被記録材Pを収納した給送カセット29、給送ローラ30、分離パッド31、レジストローラ対32を有する。画像形成時には給送ローラ30が画像形成動作に応じて駆動回転し、給送カセット29内の被記録材Pを一枚ずつ分離し、該レジストローラ対32によって画像形成動作とタイミングを合わせて二次転写部へ搬送する。
二次転写部T2には移動可能な二次転写ローラ33が配置されている。二次転写ローラ33は、略上下方向に移動可能である。そして、像転写に際しては被記録材Pを介して中間転写体38に所定の圧で押しつけられる。この時同時に二次転写ローラ33にはバイアスが印加され中間転写体38上のトナー像は被記録材Pに転写される。
中間転写体38と二次転写ローラ33とはそれぞれ駆動されているため、両者に挟まれた状態の被記録材Pは、図8に示す左矢印方向に所定の搬送速度Vで搬送され、更に搬送ベルト34により次工程である定着部35に搬送される。定着部35では熱及び圧力が印加されて転写トナー像が被記録材Pに定着される。その被記録材Pは排出ローラ対36によって装置上面の排出トレイ37上へ排出される。
そして、図6や図7に例示した、本発明にかかる定着装置を、図8に示した電子写真画像形成装置の定着部35に適用することにより、消費エネルギーを抑制しつつ、高品位な電子写真画像を提供可能な電子写真画像形成装置を得ることができるものである。
以下に、実施例を用いてより具体的に本発明を説明する。
(実施例A−1)
市販の付加硬化型シリコーンゴム原液(商品名:SE1886;東レ・ダウコーニング株式会社製の「A液」及び「B液」を等量混合)に対し、フィラーとして高純度真球状アルミナ(商品名:アルナビーズCB−A25BC;昭和タイタニウム株式会社製)を、硬化シリコーンゴム層を基準として体積比率で35体積%になるように配合、混練した。その後さらにフィラーとして、気相成長法炭素繊維(商品名:カーボンナノファイバー・VGCF−S;昭和電工株式会社製)を体積比率で2体積%となるように加えて混練し、シリコーンゴム混和物を得た。
ここで、各々のフィラーの体積熱容量(C・ρ)は以下のとおりである。各物性値は25℃の室温環境にて測定を行なった。
・アルナビーズCB−A25BC・・・3.03[MJ/m・K]
・カーボンナノファイバー・VGCF−S・・・3.24[MJ/m・K]
基材として、表面にプライマー処理を施した、内径30mm、幅400mm、厚さ40μmのニッケル電鋳製のエンドレス形状のスリーブを用意した。尚、一連の製造工程中、該スリーブは、その内部に、図4に示したような中子13を挿入して取り扱った。
この基材上に、リングコート法で上記シリコーンゴム混和物を、厚さ300μmに塗布した。シリコーンゴム混和物の塗膜が表面に形成されたスリーブを200℃に設定した電気炉中で4時間加熱して、シリコーンゴム混和物の塗膜を硬化させ、弾性層を形成した。弾性層の熱物性値は、下記の装置を用いて測定することが可能である。各物性値は25℃の室温環境にて測定を行なった。得られた熱物性値より、(式2)を用いて弾性層部分単独の熱浸透率b1が算出できる。その結果、弾性層の熱浸透率b1は、1.97[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。結果を表5−1に示す。
・定圧比熱(C)・・・示差走査熱量測定装置(商品名:DSC823e;メトラー・トレド株式会社製);
測定は、JIS K 7123「プラスチックの比熱容量測定方法」に則って行う。サンプル用のパン及びリファレンス用のパンとして、アルミニウム製のパンを用いる。まずブランク測定として、両方のパンが空の状態で、15℃で10分定温の後、115℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、115℃で10分定温させるプログラムで測定を実施する。次に定圧比熱が既知である約10mgの合成サファイアを基準物質に用い、同じプログラムで測定を行なう。次いで、リファレンスのサファイアと同量の約10mgの測定サンプルをサンプルパンにセットし、同じプログラムで測定を実施する。これらの測定結果を上記示差走査熱量測定装置に付属の比熱解析ソフトウェアを用いて解析し、5回の測定の算術平均値から、25℃における定圧比熱(C)を算出する。
・密度(ρ)・・・乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330−01;株式会社島津製作所製);
10cmの試料セルを用い、セル容積の約8割のサンプルを試料セル内に入れる。試料の重量を測定したのち、装置内の測定部にセルをセットし、測定用のガスとしてヘリウムを用い、10回のガス置換ののち、容積測定を10回実施する。試料の重量と測定された容積から密度(ρ)を算出する。
・熱伝導率(λ)・・・周期加熱法熱物性測定装置(商品名:FTC−1;アルバック理工株式会社製);
サンプルを8×12mmの面積で切り出して準備し、装置の測定部にサンプルを設置して熱拡散率(α)の測定を行う。5回の測定の算術平均値から得られた熱拡散率(α)と、先に求めた定圧比熱(C)及び密度(ρ)から、λ=α・C・ρの関係により、熱伝導率(λ)を算出する。
表面に弾性層が形成されたスリーブの表面を周方向に20mm/secの移動速度で回転させながら、表面から10mmの距離に設置した紫外線ランプを用いて、弾性層に対し紫外線照射を行なった。紫外線ランプには、低圧水銀紫外線ランプ(商品名:GLQ500US/11;ハリソン東芝ライティング株式会社製)を用い、大気雰囲気中で100℃・5分間の照射を行なった。
室温まで冷却後、当該スリーブ上の弾性層の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV;東レ・ダウコーニング社製の「A液」及び「B液」を等量混合)を厚さがおよそ20μm程度になるように略均一に塗布した。
次いで、内径29mm、厚み10μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:KURANFLON−LT;倉敷紡績株式会社製)を図4に示すように積層した。その後、フッ素樹脂チューブの上から表面を均一に扱くことにより、過剰の接着剤を弾性層とフッ素樹脂チューブの間から十分に薄くなるように扱き出した。
なお、上記フッ素樹脂チューブは、PFA樹脂のペレット(商品名:PFA451HPJ;三井・デュポン・フロロケミカル株式会社製)を押し出し成型機を用いて、チューブ状に押出し成形することにより作製されたものである。
そして、当該スリーブを200℃に設定した電気炉にて1時間加熱することで接着剤を硬化させて当該フッ素樹脂チューブを弾性層上に固定した。得られたスリーブの両端部を切断し、幅が341mmの定着ベルトを得た。
得られた定着ベルトの断面を顕微鏡で観察すると、接着層の厚みは5μmであった。
ここで用いたフッ素樹脂チューブ離型層単独の熱浸透率b3は熱物性の測定値から、0.71[kJ/(m・K・sec0.5)]と算出され、また、当該接着層単独の熱浸透率b2は0.61[kJ/(m・K・sec0.5)]と算出された。結果を表6−1に示す。
この定着ベルトの切断した端部から20mm×20mmの熱物性測定用の試験片を切り出し、離型層側表面にモリブデン(Mo)の薄膜(厚さ100nm)をスパッタリングで形成した後、光加熱式サーモリフレクタンス法熱物性顕微鏡(商品名:Thermal Microscope;株式会社ベテル製)の試料ステージに設置した。
試験片の離型層側(外側)表面に対し、加熱用レーザの温度交流波における交流周波数fを10Hz、20Hz、33Hzおよび50Hzに順次変更して熱浸透率の測定を行った。その結果、熱浸透率b(以下、各周波数についての熱浸透率を、b10、b20、b33及びb50とも記載する)は、それぞれ、b10=1.83、b20=1.76、b33=1.67、b50=1.57[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。測定値は2mm四方の測定領域にて25点測定した値の平均値である。また、各交流周波数における熱拡散長μ(以下、各周波数についての熱拡散長を、μ10、μ20、μ33及びμ50とも記載する)は、物性値と層構成から算出すると、それぞれμ10=140.5μm、μ20=91.5μm、μ33=64.8μm、μ50=48.0μmとなる。
得られた定着ベルトの表面硬度を、タイプCマイクロ硬度計(商品名:MD−1 capaタイプC;高分子計器株式会社製)を用いて、周方向4点×長手方向3点の計12点について測定した。その結果、平均の表面マイクロ硬度は76度を示した。以上の結果を表7−1に示す。
この定着ベルトを、カラーレーザープリンタ(商品名:Satera LBP5900;キヤノン株式会社製)の定着装置ユニットに図6のように装着し、感圧紙を挟んでニップ幅を測定したところ、9.0mmとなった。
この定着装置ユニットを、通紙速度が90mm/secとなるように矢印方向に加圧ローラに回転駆動力を与え、セラミックヒータに通電制御することで、定着ベルトの表面温度が185℃となるように温調制御を行なった。これにより、デュエルタイムTが100msecの環境下で被記録体が定着ニップ部位を通過することとなる。
A4サイズのプリント用紙(商品名:オフィスプランナー、キヤノン株式会社製、厚さ95μm、坪量68g/m)を用意した。この用紙表面の搬送方向先端部位から20mmの位置に素子先端が来るように、直径25μmのK型(クロメル−アルメル型)熱電対を、素子先端が剥き出しの状態で耐熱性のポリイミドテープで張付けた物(以下、温度評価紙とする)を用意した。該熱電対の両末端を、市販の温度計測装置に接続した状態で、先に用意した定着装置ユニットのニップ部位に、熱電対が定着部材側となるように温度評価紙を導入し、熱電対の検出温度を測定することで熱供給能力の評価を行なった。この結果、温度計測装置で確認された熱電対の最高温度は166℃となった。結果を表8に示す。
以下、同じ185℃の表面条件で通紙速度を180mm/secとなるようにして、デュエルタイムTが50msec環境に設定し、温度評価紙を通したところ、熱電対で検出された最高温度は157℃となった。
同様に通紙速度を300mm/secとしてデュエルタイムを30msecとした場合、通紙速度を450mm/secとしてデュエルタイムを20msecとした場合について温度評価紙による温度測定を行った。その結果、検出温度はそれぞれ145℃及び126℃となった。以上の結果を表8に示す。
また、この定着ベルトを、カラーレーザープリンタ(商品名:Satera LBP5900;キヤノン株式会社製)の定着装置ユニットに図6のように装着し、電子写真画像を形成して、得られた電子写真画像の光沢ムラの評価を行った。電子写真画像の光沢ムラは、被記録体の繊維構造への追従性能に左右され、定着ベルトの表面硬度の上昇につれて悪化する。つまり、定着ベルトの表面硬度の、電子写真画像の品質に与える影響の大小を示す指標となり得る。
評価画像は、A4サイズのプリント用紙(商品名:オフィスプランナー、キヤノン株式会社製、厚さ95μm、坪量68g/m)にシアントナーとマゼンタトナーをほぼ全面に100%濃度で形成した。これを評価用画像とし、目視観察により、光沢ムラ評価した結果、光沢ムラが殆ど無く、極めて高品位な電子写真画像が得られた。
(実施例A−2)乃至(実施例A−12)および(比較例A−1)乃至(比較例A−10)
シリコーンゴム混和物中の、フィラーの種類および量、並びにフッ素樹脂チューブの厚みを表5−1及び表6−1に記載したように変更した。それ以外は、実施例A−1と同様にして定着ベルトを調製し、熱物性および表面硬度について評価した。弾性層の熱浸透率b1を表5−1、接着剤層の熱浸透率b2及び離型層の熱浸透率b3を表6−1に記載した。また、各定着ベルトの温度周波数(10Hz、20Hz、33Hz)ごとの熱浸透率b10、b20、b33及び各定着ベルトの表面マイクロ硬度を表7−1〜表7−2に記載した。さらに、各実施例及び各比較例に係る定着ベルトの熱供給能力の評価結果としての熱電対検出温度を表8に示す。
尚、実施例A−11乃至A−16および比較例A−6乃至A−8においては、各々下記のフィラーを用いた。各々の体積熱容量(C・ρ)と共に記す。
・実施例A−11、実施例A−15:酸化亜鉛(商品名:LPZINC−11;堺化学工業株式会社製)・・・3.02[MJ/m・K];
・実施例A−12:酸化マグネシウム(商品名:スターマグU;林化成株式会社製)・・・3.24[MJ/m・K];
・実施例A−13:銅粉末(商品名:Cu−HWQ;福田金属箔紛工業株式会社製)・・・3.43[MJ/m・K];
・実施例A−14:ニッケル粉末(商品名:Ni−S25−35;福田金属箔紛工業株式会社製)・・・3.98[MJ/m・K];
・実施例A−15:気相成長法炭素繊維(商品名:カーボンナノファイバー・VGCF−H;昭和電工株式会社製)・・・3.24[MJ/m・K];
・実施例A−16:気相成長法炭素繊維(商品名:カーボンナノファイバー・VGCF;昭和電工株式会社製)・・・3.24[MJ/m・K];
・実施例A−16:鉄粉末(商品名:JIP S−100;JFEスチール株式会社製)・・・3.48[MJ/m・K];
・比較例A−6:シリカ(商品名:FB−7SDC;電気化学工業株式会社製)・・・1.64[MJ/m・K];
・比較例A−7:金属珪素粉末(商品名:M−Si300;株式会社関東金属製)・・・1.66[MJ/m・K];
・比較例A−8:アルミニウム粉末(商品名:高純度球状アルミニウム粉末;東洋アルミニウム株式会社製)・・・2.43[MJ/m・K]。
また、比較例A−1で作成した定着ベルトを、実施例A−1と同様にカラーレーザープリンタに搭載し、評価用画像を用いて同様の条件で画質評価を行なった。この結果、定着ベルト表面のマイクロ硬度が高いため、紙繊維の凹凸に追従することが難しく、光沢ムラが非常に目立つ電子写真画像となった。
(実施例B−1)
実施例A−1と同様の方法で、ニッケル電鋳製エンドレススリーブ上に弾性層を形成した。この弾性層表面にフッ素樹脂ディスパージョン塗料(商品名:ネオフロンPFAディスパージョン・AD−2CRE;ダイキン工業株式会社製)をスプレーコーティング法によって均一に塗布し、350℃に設定した電気炉にて10分間加熱した。
電気炉から取り出した後、25℃の水浴中にて冷却することで、弾性層表面にフッ素樹脂コーティング法による離型層を形成した。得られたエンドレスベルトの両端部を切断し、幅が341mmの定着ベルトを得た。切断した端部を顕微鏡で観察すると、離型層の厚みは10μmであった。
ここで形成されたフッ素樹脂離型層の熱浸透率b3は0.74[kJ/(m・K・sec0.5)]となり、フッ素樹脂チューブの値とほぼ近い値となった。
この定着ベルトの切断した端部から20mm×20mmの熱物性試験片を切り出し、離型層側表面にMoスパッタを施した後、光加熱式サーモリフレクタンス法熱物性顕微鏡の試料ステージに設置して、実施例A−1と同様の方法で、加熱用レーザの温度交流波における交流周波数fを10、20、33、50Hzと変えて熱浸透率の測定を行ったところ、熱浸透率bはそれぞれ、b10=1.89、b20=1.85、b33=1.81、b50=1.76[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。
また、得られた定着ベルトの表面硬度を、タイプCマイクロ硬度計を用いて測定した結果、平均の表面マイクロ硬度は74度を示した。結果を表7−3に示す。
この定着ベルトを実施例A−1と同様に定着ユニットに搭載し、100msec、50msec、30msec、20msecの各デュエルタイム条件下で、温度評価紙による熱供給能力評価を行なったところ、それぞれ167℃、159℃、148℃、129℃となった。結果を表8に示す。
(実施例B−2)乃至(実施例B−3)および(比較例B−1)乃至(比較例B−2)
シリコーンゴム混和物中の、フィラーの種類および量を表5−2に記載したように変更した。それ以外は、実施例B−1と同様にして定着ベルトを調製し、評価した。離型層の熱浸透率b3を表6−2に記載した。また、各実施例及び各比較例に係る定着ベルトの温度周波数ごとの熱浸透率b10・b20・b33・b50、及び各定着ベルトの表面マイクロ硬度を表7−3に記載した。さらに、各定着ベルトの熱供給能力の評価結果としての熱電対検出温度を表8に示す。
(実施例C−1)
基材として、表面にプライマー処理を施した、直径10mmのステンレス製芯金を用意した。この基材上に、金型成型法によって、シリコーンゴム(商品名:DY35−561;東レ・ダウコーニング株式会社製の「A液」及び「B液」を等量混合)を厚み2mmで成型し下層弾性層とした。更にこの下層弾性層の外面にリングコート法を用いて、実施例A−4で使用したのと同様のシリコーンゴム混和物を厚さ150μmに塗布した。
得られた芯金塗布体を200℃に設定した電気炉中で4時間加熱して、シリコーンゴムを硬化させ中間弾性層の形成されたローラ成型体を得た。中間弾性層の熱浸透率b1は2.28[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。この結果を表5−3に示す。
実施例A−1で用いた接着剤に、気相成長法炭素繊維(VGCF―S)を体積比率で2%添加して接着剤混和物を得た。この接着剤混和物をローラ成型体の表面に約20μmの厚みで略均一に塗布した。
次いで、実施例A−1と同様の方法で内径14mm、厚み10μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:KURANFLON−LT;倉敷紡績株式会社製)を図4に示すように積層した。その後、フッ素樹脂チューブの上からローラ成型体表面を均一に扱くことにより、過剰量の接着剤を中間弾性層とフッ素樹脂チューブの間から十分に薄くなるように扱き出した。
そして、当該ローラ成型体を200℃に設定した電気炉にて1時間加熱することで接着剤を硬化させて当該フッ素樹脂チューブを中間弾性層上に固定することで定着ローラを得た。
同様の定着ローラを輪切りにし、切断した端部を顕微鏡で観察すると、接着層の厚みは8μmであった。
ここで用いたフッ素樹脂チューブ離型層の熱浸透率b3は0.71[kJ/(m・K・sec0.5)]であり、また、当該接着層の熱浸透率b2は1.21[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。結果を表6−2に示す。
同様の手順で作成したローラの表面から、深さ1mmで20mm×20mmの熱物性試験片を切り出し、離型層側表面にMoスパッタを施した後、光加熱式サーモリフレクタンス法熱物性顕微鏡の試料ステージに設置して、実施例A−1と同様の方法で、加熱用レーザの温度交流波における交流周波数fを10、20、33、50Hzと変えて熱浸透率の測定を行ったところ、熱浸透率bはそれぞれ、b10=2.21、b20=2.13、b33=2.04、b50=1.93[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。
得られた定着ローラの表面硬度を、タイプCマイクロ硬度計を用いて測定した結果、平均の表面マイクロ硬度は79度を示した。結果を表7−3に示す。
先に示した工程から、中間弾性層の成型工程だけを除いて加圧ローラを作製し、各々のローラを図7に示した定着装置に搭載した。
不図示の加圧手段により、ローラ間の加圧力を20Kgfに設定し、感圧紙を用いてローラ間のニップ幅を測定したところ、4.5mmとなった。定着ローラの回転速度を被加熱体搬送速度が45mm/secとなるように調整し、外部加熱ユニット20に通電・制御することで定着ローラ表面が185℃になるように温調制御した。これにより、デュエルタイムTが100msecの環境下で被記録体が定着ニップ部位を通過することとなる。
実施例A−1と同様に、デュエルタイムTが100msec環境に設定された定着装置において、定着ニップ部Nに温度評価紙を通過させることにより、熱供給能力評価を行なったところ、熱電対の検出温度は172℃となった。同様にデュエルタイムが50msec、30msec、20msec時の熱電対検出温度の結果を表8に示す。
(比較例C−1)
定着部材の弾性層において、比較例A−1で用いたのと同様のシリコーンゴム混和物を用いた以外は、実施例C−1と同様に各部材の作成、及び評価を行なった。
本定着ローラを用いて得られた温度評価紙による熱電対検出温度を表8に示す。
(実施例C−2)
離型層用のフッ素樹脂チューブの材料として、PFA樹脂ペレット(商品名:PFA420HPJ;三井・デュポン・フロロケミカル株式会社製)及び気相成長法炭素繊維(商品名:カーボンナノファイバー・VGCF−S;昭和電工株式会社製)を用意した。PFA樹脂ペレットを体積割合で98%、気相成長法炭素繊維を体積割合で2%となるように混合し、ヘンシェルミキサーで乾式混合し、次いで、押出機を通してペレット状にした。このペレットを、押出成形機を用いて内径14mm、厚み30μmのフッ素樹脂チューブに成形することで離型層用のフッ素樹脂チューブを得た。
得られたフッ素樹脂チューブの熱物性を測定したところ、熱伝導率λ=0.50[W/(m・K)]、定圧比熱Cp=0.96[J/(g・K)]、密度ρ=2.17[g/cm]となり、該フッ素樹脂チューブ単独での熱浸透率b3は1.02[kJ/(m・K・sec0.5)]となった。
実施例C−1と同様の手順で、芯金上に下層弾性層、及び中間弾性層を形成し、接着剤として実施例A−1で用いた接着剤を用意して、実施例C−1と同様の手順で、該フッ素樹脂チューブを積層、硬化することで定着ローラを得た。該ローラの熱浸透率、並びに表面マイクロ硬度を表7−3に示す。
また、本定着ローラを用いて得られた温度評価紙による熱電対検出温度を表8に示す。
(実施例C−3)乃至(実施例C−5)
シリコーンゴム混和物中の、フィラーの種類および量を表5−3に記載したように変更した。また、接着層及び離型層を表6−2に記載した構成に変更して定着ローラを調製し、実施例C−1に準じて評価を行なった。各定着ローラの温度周波数ごとの熱浸透率b10・b20・b33・b50、及び各定着ローラの表面マイクロ硬度を表7−3に、熱供給能力評価による熱電対検出温度を表8に示す。
この出願は2012年12月19日に出願された日本国特許出願第2012−277247及び2012年12月26日に出願された日本国特許出願第2012−282972からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
N 定着ニップ
P 被記録材
G 未定着トナー
V 被記録体搬送速度
1 定着ベルト
2 定着ローラ
3 基材
4 弾性層
4a ベース材(シリコーンゴム)
4b 高体積熱容量充填材
4c 気相成長法炭素繊維
5 接着層
6 離型層
7 シリンダポンプ
8 塗液供給ノズル
9 塗工ヘッド
10 未架橋弾性層塗膜
11 接着剤
12 フッ素樹脂チューブ
13 中子
14 スプレーガン
15 フッ素樹脂塗料塗膜
16 ベルトガイド部材
17 セラミックヒータ
18 加圧用剛性ステイ
19 弾性加圧ローラ
19a ステンレス芯金
19b 弾性層
19c 表層
20 外部加熱ユニット
20a ハロゲンヒータ
20b 反射鏡
20c シャッター
20d 温度検知素子
21 帯電装置
22 スキャナユニット
23 現像ユニット
24 一次転写ローラ
25 クリーニングユニット
26・27・28 中間転写体張架ローラ
29 給送カセット
30 給送ローラ
31 分離パッド
32 レジストローラ対
33 二次転写ローラ
34 搬送ベルト
35 定着部
36 排出ローラ対
37 排出トレイ
38 中間転写体
39 感光体ドラム
40 カラーレーザープリンタ

Claims (13)

  1. 基材、弾性層および離型層を有する電子写真用の定着部材であって、
    該離型層の表面に周波数10Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上であり、かつ、
    表面のマイクロゴム硬度が85度以下であることを特徴とする定着部材。
  2. 前記離型層の表面に交流周波数が20Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上である請求項1に記載の定着部材。
  3. 前記離型層の表面に交流周波数が33Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上である請求項2に記載の定着部材。
  4. 前記離型層の表面に交流周波数が50Hzの交流温度波を与えたときの熱拡散長に相当する該離型層の表面からの深さ領域における熱浸透率が、1.5[kJ/(m・K・sec0.5)]以上である請求項3に記載の定着部材。
  5. 前記表面のマイクロゴム硬度が80度以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子写真用定着部材。
  6. 前記弾性層が、シリコーンゴムを含み、前記離型層がフッ素樹脂を含む請求項1乃至5のいずれか一項に記載の定着部材。
  7. 前記弾性層が、体積熱容量が3.0[mJ/m・K]以上の無機充填剤と、気相成長法炭素繊維とを含有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の定着部材。
  8. 前記無機充填剤が、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、鉄、銅、ニッケルから選ばれる少なくとも1つである請求項7に記載の定着部材。
  9. 前記離型層が、気相成長法炭素繊維を含有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載の電子写真用定着部材。
  10. 前記離型層と前記弾性層との間に接着層を更に有している請求項1乃至9のいずれか一項に記載の定着部材。
  11. 前記接着層が、気相成長法炭素繊維を含有する請求項10に記載の定着部材。
  12. 請求項1乃至11のいずれか一項に記載の定着部材と、該定着部材の加熱手段とを具備していることを特徴とする定着装置。
  13. 請求項12に記載の定着装置を具備していることを特徴とする電子写真画像形成装置。
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