JP6398579B2 - 操業スケジュール作成装置、操業スケジュール作成方法、及びプログラム - Google Patents

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Description

本発明は、転炉工程、2次精錬工程、及び連続鋳造工程を経て鋼材の生産を行う製鋼プロセスの操業スケジュールを作成するために用いて好適なものに関する。
製鋼プロセスの転炉工程は、溶銑に酸素を吹きつけて溶銑中の炭素を取り除き溶鋼を製造するプロセスである。2次精錬設備を経由して連続鋳造機に到着した際の溶鋼の温度が適切な温度となるように、転炉工程における溶鋼中の炭素濃度の調整時に、溶鋼温度が調整される。転炉工程における操業が終わると、溶鋼は、転炉から取鍋と呼ばれる搬送容器へと注がれる。以降、この取鍋1杯分の溶鋼の単位を必要に応じて「チャージ」と呼ぶ。取鍋に注がれた溶鋼の温度は、取鍋の前回の使用時からの経過時間や、投入する合金量に応じて低下する。また、クレーンにより取鍋ごと2次精錬工程へと搬送される際にも、搬送時の経過時間に応じて溶鋼温度は低下する。
2次精錬工程の一つであるRH(Ruhrstahl Heraeus)処理では、浸漬管を通して溶鋼を真空中に循環させて、溶鋼内の不純なガスを除去する。さらに、溶鋼温度が低い場合には、溶鋼中に酸素を吹き込んでAlを燃焼させることにより溶鋼を昇温する。RH工程が終了すると、取鍋は再びクレーンで吊り上げられて連続鋳造機へと搬送される。この搬送時においても経過時間に応じて溶鋼温度が低下する。
連続鋳造機では、鋳型内に溶鋼を注入し、鋳型内に注入した溶鋼を冷却しながら引き抜くことでスラブなどの半製品を製造する。この際、溶鋼温度が高い場合は、引き抜き速度を低速にして溶鋼を十分に冷却する必要がある。一方、溶鋼温度が低い場合は、連続鋳造機の上部のタンディッシュと呼ばれる溶鋼の受け皿へ取鍋から溶鋼を注入する際に、溶鋼が凝固した地金がノズル内に付着して流動が悪化する。その結果、最終的にはタンディッシュへ溶鋼を供給することができなくなるため、鋳造を中断しなければならない。尚、連続鋳造機では、複数のチャージを連続して鋳造することができる。以降、連続して鋳造される複数のチャージのグループを必要に応じて「キャスト」と呼ぶ。
以上の製鋼プロセスにおいては、各プロセスにおける処理状況により溶鋼温度が変化するため、転炉工程や2次精錬工程(RH処理)において溶鋼温度の調整が必要になる。転炉における昇温は、2次精錬における昇温よりもコスト面で有利である。転炉工程では、連続鋳造機に溶鋼が到着した際の溶鋼温度が目標温度となるように、2次精錬における操業を考慮して出鋼時の溶鋼温度を決定しなければならない。
このような製鋼プロセスにおける操業スケジュールの作成方法に関する技術として、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、バックワードシミュレーションによって仮算出した、転炉、2次精錬設備、及び連続鋳造機の処理順序を用いて、線形計画法により溶鋼搬送単位ごとの操業スケジュールを計算する方法が記載されている。
特開2006−247703号公報
H.P.ウイリアムス(前田栄次郎 監訳、小林栄三訳)、数理計画モデルの作成法、産業図書、1995年
前述したように、製鋼プロセスにおいては、連続鋳造機に到着する際の溶鋼温度が目標値に近づく(好ましくは一致する)ように、溶鋼温度を制御しなければならない。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、溶鋼温度の変化を考慮していない。そのため、各プロセスの操業スケジュールを決定した後に、当該操業スケジュールの下で、溶鋼温度の低下量を補償するように各設備における溶鋼温度を決定する必要がある。このように既に決められている操業スケジュールの範囲で溶鋼温度を正確に制御することは容易ではなく、また、操業スケジュールの立案と溶鋼温度の決定とを何度も繰り返して行わなければならなくなる。
したがって、特許文献1に記載の技術では、連続鋳造機に到着する際の溶鋼温度を目標値に十分に近づける(好ましくは一致させる)ことが容易でない。
また、搬送中の温度低下分だけ予め溶鋼温度を高めた状態で溶鋼を保持する必要がある。このため、搬送時間に長時間を要する場合に、転炉工程を終了する際の溶鋼温度を必要以上に高める操業を行うと、例えば、取鍋に用いる耐火物の溶損が激しくなるなどの問題が生じる虞がある。したがって、適切な溶鋼温度を確保することが必要になる。
前述したように、特許文献1に記載の技術では、溶鋼温度の変化を考慮していない。したがって、適切な溶鋼温度を確保することができない虞がある。
以上のように、従来の技術では、製鋼プロセスにおける操業スケジュールを、溶鋼温度を考慮して立案することができない虞があるという問題があった。
そこで、本発明は、製鋼プロセスにおける操業スケジュールを、溶鋼温度を考慮して立案できるようにすることを目的とする。
本発明の操業スケジュール作成装置は、転炉工程、2次精錬工程、および連続鋳造工程を含む複数の工程を有し、チャージの単位で鋳片を製造する製鋼プロセスにおける操業スケジュールを作成する操業スケジュール作成装置であって、前記操業スケジュールの立案の対象となる複数のチャージについての操業予定情報を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記操業予定情報に基づいて、制約式を設定する制約式設定手段と、前記取得手段により取得された前記操業予定情報に基づいて、目的関数を設定する目的関数設定手段と、前記制約式設定手段により設定された制約式に基づく制約条件を満足する範囲で、前記目的関数設定手段により設定された目的関数の値を最大または最小にする決定変数を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する操業スケジュール作成手段と、を有し、前記操業予定情報は、前記複数のチャージにおける前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値、または、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度から溶鋼の液相線温度を減算した値である温度余裕の目標値からなる連鋳開始時目標温度情報を含み、前記制約式は、前記複数の工程のうちの各工程の処理終了時刻と、当該工程と次工程との間の前記チャージの搬送時間との加算値で、次工程の処理開始時刻を表現する処理開始時刻定義制約式と、前記工程の処理開始時刻と、当該工程の処理時間との加算値で、当該工程の処理終了時刻を表現する処理終了時刻定義制約式と、前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間の各工程における処理開始時および処理終了時の溶鋼温度を、時間の関数で表現する溶鋼温度定義制約式と、を含み、前記目的関数は、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標を変数として含む関数であり、前記決定変数は、前記複数の工程の処理開始時刻および処理終了時刻と、前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間における各工程の処理開始時および処理終了時の溶鋼温度と、を含むことを特徴とする。
本発明の操業スケジュール作成方法は、転炉工程、2次精錬工程、および連続鋳造工程を含む複数の工程を有し、チャージの単位で鋳片を製造する製鋼プロセスにおける操業スケジュールを作成する操業スケジュール作成方法であって、前記操業スケジュールの立案の対象となる複数のチャージについての操業予定情報を取得手段により取得する取得ステップと、前記取得ステップにより取得された前記操業予定情報に基づいて、制約式を制約式設定手段により設定する制約式設定ステップと、前記取得ステップにより取得された前記操業予定情報に基づいて、目的関数を目的関数設定手段により設定する目的関数設定ステップと、前記制約式設定ステップにより設定された制約式に基づく制約条件を満足する範囲で、前記目的関数設定ステップにより設定された目的関数の値を最大または最小にする決定変数を数理計画法による最適化計算を行うことによって操業スケジュール作成手段により導出する操業スケジュール作成ステップと、を有し、前記操業予定情報は、前記複数のチャージにおける前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値、または、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度から溶鋼の液相線温度を減算した値である温度余裕の目標値からなる連鋳開始時目標温度情報を含み、前記制約式は、前記複数の工程のうちの各工程の処理終了時刻と、当該工程と次工程との間の前記チャージの搬送時間との加算値で、次工程の処理開始時刻を表現する処理開始時刻定義制約式と、前記工程の処理開始時刻と、当該工程の処理時間との加算値で、当該工程の処理終了時刻を表現する処理終了時刻定義制約式と、前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間の各工程における処理開始時および処理終了時の溶鋼温度を、時間の関数で表現する溶鋼温度定義制約式と、を含み、前記目的関数は、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標を変数として含む関数であり、前記決定変数は、前記複数の工程の処理開始時刻および処理終了時刻と、前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間における各工程の処理開始時および処理終了時の溶鋼温度と、を含むことを特徴とする。
本発明のプログラムは、操業スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
本発明によれば、複数のチャージにおける、連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差の総和を変数として含む関数を目的関数に含める。また、制約式として、各工程における処理開始時および処理終了時の溶鋼温度を表現する溶鋼温度定義制約式と、各工程の処理開始時刻および処理終了時刻を表現する処理開始時刻定義制約式および処理終了時刻定義制約式とを含める。したがって、最適化計算により溶鋼温度と、処理開始時刻および処理終了時刻とを同時に計算することができる。よって、製鋼プロセスにおける操業スケジュールを、溶鋼温度を考慮して立案することができる。
製鋼プロセスにおける溶鋼温度の変化の一例を概念的に示す図である。 製鋼プロセスのスケジュール作成装置の機能的な構成の一例を示す図である。 操業予定情報の一例を表形式で示す図である。 連続鋳造工程よりも前の各工程における処理開始時・処理終了時の溶鋼温度の上限値・下限値の一例を表形式で示す図である。 工程を識別する変数の内容の一例を表形式で示す図である。 スケジュール作成装置の処理の一例を説明するフローチャートである。 比較例の手法で決定された操業スケジュールを示す図である。 実施例の手法で決定された操業スケジュールを示す図である。 転炉出鋼温度とチャージ数との関係を示す図である。 実施例の手法で計算した各工程の処理開始時・終了時の溶鋼温度を示す図である。 比較例の手法で計算した各工程の処理開始時・終了時の溶鋼温度を示す図である。 溶鋼温度のばらつきが時間の経過とともに大きくなることを概念的に示す図である。 各期間における降温速度と標準偏差との関係の一例を表形式で示す図である。 2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度のばらつきの一例を概念的に示す図である。 昇温時間と温度調整時間の関係の一例を概念的に示す図である。 実施例で使用した標準偏差の値を表形式で示す図である。 連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の標準偏差の計算結果を示す図である。 2次精錬工程における処理時間(RH処理時間)の計算結果を示す図である。
以下に示す各実施形態では、1基の転炉による転炉工程と、1基の2次精錬設備(RH)による2次精錬工程と、2基の連続鋳造機による連続鋳造工程と、を有する製鋼プロセスの、操業スケジュールを作成する場合を例に挙げて説明する。
図1は、製鋼プロセスにおける溶鋼温度の変化の一例を概念的に示す図である。
図1に示すように、転炉工程において、溶鋼温度は、吹錬(溶鋼への酸素の吹き付け)により高められた後、出鋼の際に時間の経過とともに低下する。さらに、転炉工程から2次精錬工程に搬送される際に、取鍋内の溶鋼温度は低下する。
2次精錬工程においても、取鍋内の溶鋼温度は、時間の経過とともに低下する。ただし、オペレータは、転炉工程における溶鋼温度の実測値から、連続鋳造工程に到着する際の溶鋼温度が目標値を下回ると判断すると、溶鋼中に酸素を吹き込んで溶鋼を昇温させる作業を行う。その後、2次精錬工程から連続鋳造工程に搬送される際にも、取鍋内の溶鋼温度は低下する。
以上のように、本実施形態における製鋼プロセスにおいては、溶鋼温度を高めるために、転炉工程の終了時の溶鋼温度を高めることと、2次精錬工程(RH処理)において溶鋼温度を高めることとの、少なくとも何れか一方を行う必要がある。
本発明者らは、以上のような製鋼プロセスの各工程における処理中および搬送中の溶鋼温度と、操業スケジュール(各工程の処理開始時刻と処理終了時刻)とを同時に決定する最適化問題を構築することにより、適切な溶鋼温度を確保できる操業スケジュールを立案できることを見出した。以下、図面を参照しながら、かかる操業スケジュールの立案を実現するための本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
図2は、製鋼プロセスのスケジュール作成装置10の機能的な構成の一例を示す図である。以下の説明では、製鋼プロセスのスケジュール作成装置10を必要に応じて、「スケジュール作成装置10」と略称する。スケジュール作成装置10のハードウェアは、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、及び各種のインターフェースを備える情報処理装置や、専用のハードウェアを用いることにより実現される。以下に、スケジュール作成装置10が有する機能の一例を説明する。
[操業予定情報記憶部1]
操業予定情報記憶部1は、操業予定情報を記憶する。
図3は、操業予定情報(の一部)の一例を表形式で示す図である。
図3には、操業予定情報のうち、チャージに依存する情報のみを示す。具体的に図3に示す例では、チャージに依存する操業予定情報として、CH番号、連続鋳造機No、連々回数、連々順位、最短処理時間、最短処理間隔時間、液相線温度、および温度目標値を含む。
「CH番号」は、操業スケジュールの立案対象期間内に製造されるチャージの識別番号を表す。尚、前述したようにチャージは、取鍋1杯分の溶鋼の単位である。
「連続鋳造機No」は、チャージが鋳造される連続鋳造機の識別番号を表す。尚、図3に示す例では、同一の連続鋳造機で鋳造されるチャージの鋳造順は、CH番号が小さいチャージであるほど、早いものとする。
「連々回数」は、1つのキャスト内におけるチャージの総数を表す。尚、前述したようにキャストは、連続鋳造機で連続して鋳造される複数のチャージのグループを表す。
「連々順位」は、1つのキャスト内における各チャージの鋳造順を表す。
「最短処理時間」は、各工程における最短の処理時間(各工程において最低限確保することが必要な時間)を表す。尚、図3に示す「転炉」は転炉工程を表し、「RH」は2次精錬工程を表し、「鋳造」は連続鋳造工程を表す(以降も必要に応じて、これと同様の表記を行う)。
「最短処理時間」は、各チャージの成分規格等により定められるものである。
「最短処理間隔時間」は、あるチャージの処理を終了してから、次のチャージの処理を開始することが可能になるまでの最短の準備時間を表す。
「液相線温度」は、各チャージの凝固が開始する温度である。
「温度目標値」は、連続鋳造工程に到着する際の各チャージの温度の目標値である。
この他、操業予定情報記憶部1は、各工程における処理開始時・処理終了時の溶鋼温度の上限値・下限値を記憶する。本実施形態では、連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度が目標値に近づくように、転炉工程の処理終了時から連続鋳造工程の処理開始時までの溶鋼温度を決定する場合を例に挙げて説明する。したがって、操業予定情報記憶部1は、転炉工程の終了時の溶鋼温度の上限値・下限値と、2次精錬工程(RH)の開始時の溶鋼温度の上限値・下限値と、2次精錬工程(RH)の終了時の溶鋼温度の上限値・下限値と、を記憶する。
図4は、連続鋳造工程よりも前の各工程における処理開始時・処理終了時の溶鋼温度の上限値・下限値の一例を表形式で示す図である。
図4において、「転炉出鋼」の上限値・下限値が、転炉工程の終了時の溶鋼温度の上限値・下限値である。「RH開始」の上限値・下限値が、2次精錬工程(RH)の開始時の溶鋼温度の上限値・下限値である。「RH終了」の上限値・下限値が、2次精錬工程(RH)の終了時の溶鋼温度の上限値・下限値である。図4に示すように、本実施形態では、連続鋳造工程よりも前の各工程における処理開始時・処理終了時の溶鋼温度の上限値・下限値が、チャージに依らない一定値である場合を例に挙げて説明する。
また、操業予定情報記憶部1は、或る工程と当該工程の次に実施される工程との2つの工程の間における最短搬送時間を操業予定情報として記憶する。ここでは、操業予定情報記憶部1は、転炉とRHとの間の最短搬送時間が20(min)であり、RHと鋳造との間の最短搬送時間が25(min)であることを示す最短搬送時間を操業予定情報として記憶するものとする。このように本実施形態では、最短搬送時間がチャージに依らない一定値である場合を例に挙げて説明する。
また、図1に示すように、本実施形態では、各工程で処理中の溶鋼温度と時間との関係と、2つの工程間を搬送中の溶鋼温度と時間との関係とが、ともに線形である場合を例に挙げて説明する。図1に示すように、溶鋼温度が低下する場合も上昇する場合も、溶鋼温度と時間との関係は、線形であるものとする。
そこで、操業予定情報記憶部1は、各工程における溶鋼の単位時間当たりの降下量(℃/min)と、2つの工程間を搬送中の溶鋼の単位時間当たりの降下量(℃/min)と、各工程における昇温処理時の溶鋼の単位時間当たりの上昇量(℃/min)と、を操業予定情報として記憶する。尚、以降では、溶鋼温度の単位時間当たりの降下量を必要に応じて「降温速度」と呼ぶ。また、溶鋼温度の単位時間当たりの上昇量を必要に応じて「昇温速度」と呼ぶ。本実施形態では、溶鋼の降温速度と昇温速度がチャージに依らない値である場合を例に挙げて説明する。
ここでは、操業予定情報記憶部1は、転炉工程と2次精錬工程との間を搬送中の溶鋼の降温速度が1.5(℃/min)であり、2次精錬工程と連続鋳造工程との間を搬送中の溶鋼の降温速度が1(℃/min)であることを示す操業予定情報を記憶するものとする。また、操業予定情報記憶部1は、2次精錬工程における昇温処理時(RH時)の溶鋼の昇温速度が3(℃/min)であり、2次精錬工程における溶鋼の降温速度が1(℃/min)であることを示す操業予定情報を記憶するものとする。
操業予定情報記憶部1は、例えば、HDDを用いることにより実現される。
尚、本実施形態では、図3に示すように、「転炉」及び「RH」の「最短処理間隔時間」をチャージ毎に設定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、「転炉」及び「RH」の「最短処理間隔時間」をチャージに依らない値として操業予定情報に含めてもよい。このことは、「液相線温度」及び「温度目標値」についても同じである。
一方、前述した操業予定情報のうち、チャージに依らない値を持つ情報をチャージ毎に定めるようにしてもよい。
[操業予定情報読込部2]
操業予定情報読込部2は、操業予定情報記憶部1に記憶されている操業予定情報を読み出す。
操業予定情報読込部2は、例えば、CPUがROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
[スケジューリング問題生成部3]
スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報読込部2により読み出された操業予定情報を用いて、目的関数および制約式(制約条件)における定数・決定変数を設定する。尚、以下では、特に断りのない限り、変数を小文字で表し、定数を大文字で表す。
以下に、本実施形態で使用する目的関数と制約式について説明する。ここで、本実施形態では、数理計画法の一例である線形計画法による最適化計算を行う(最適化問題を解く)ことにより、操業スケジュールを立案する場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、工程を識別する変数k、k'(kは1〜4の整数、k'は工程kの直後に実施される工程の識別番号であり、2〜4の整数)は、それぞれ図5に示す工程を表すものとする。
<<制約式>>
まず、制約式について説明する。
<処理終了時刻ck,iの定義制約式>
工程kにおけるチャージi(iは1以上の整数であり、図3に示すように1〜10の整数)の処理終了時刻ck,iは、工程kにおけるチャージiの処理開始時刻sk,iと、工程kにおける当該チャージiの処理時間vk,iとを用いて、次の(1)式で表される。
k,i=sk,i+vk,i ∀i,k・・・(1)
スケジューリング問題生成部3は、工程k、チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(1)式の工程k、チャージiに与えることにより、(1)式の処理終了時刻の定義制約式を設定する。図3及び図5に示す例では、(1)式の工程kには1、2、3、4が与えられ、iには1、2、・・・、9、10が与えられる。その結果、合計40(=4×10)個の処理終了時刻定義制約式が設定される。
<処理開始時刻sk,iの定義制約式>
工程k'におけるチャージiの処理開始時刻sk',iは、当該工程k'の直前に実施される工程kのチャージiの処理終了時刻ck,iと、工程kと工程k'との間の搬送時間wi,k,k'とを用いて、次の(2)式で表される。ここで、搬送時間とは、或る工程において取鍋をクレーンで吊り上げることを開始してから、次の工程まで取鍋を搬送することを完了するまでの所要時間である。
k',i=ck,i+wi,k,k' ∀i,k、k'(但しk'≧2)・・・(2)
尚、工程k'は、2以上の整数(図5に示すように2〜4の整数)である。このように本実施形態では、連続して実施される2つの工程k、k'のうち実施順が前の工程を工程kとし、後の工程を工程k'と表記する。
また、本実施形態では、転炉工程の開始時が操業スケジュールの立案開始時刻である場合を例に挙げて説明する。したがって、転炉工程(k=1)の処理開始時刻s1,iは、立案開始時刻として予め与えられる。
スケジューリング問題生成部3は、工程k、k'、チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(2)式の工程k、k'、チャージiに与えることにより、(2)式の処理開始時刻の定義制約式を設定する。
<搬送時間制約式>
搬送時間wi,k,k'の下限は、工程kから工程k'へと溶鋼を搬送するために物理的に必要な最短搬送時間Wk,k'により制約されるので、以下の(3)式が成り立つ。
i,k,k'≧Wk,k' ∀i,k、k'≧2・・・(3)
スケジューリング問題生成部3は、工程k、k'、チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(3)式の工程k、k'、チャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(3)式の最短搬送時間Wk,k'に、操業予定情報に含まれる最短搬送時間Wk,k'を与える。本実施形態では、転炉工程と2次精錬工程と間の最短搬送時間W1,2として前述した20(min)が与えられ、2次精錬工程と連続鋳造工程との間の最短搬送時間W2,3として前述した25(min)が与えられる。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(3)式の搬送時間制約式を設定する。
<隣接チャージ(チャージiとチャージi+1)干渉制約式>
チャージi+1の処理はチャージiの処理が終了した後に開始される。このことから、チャージiとチャージi+1との関係は、工程kにおけるチャージi+1の最短処理間隔時間(チャージiの処理を終了してから、次のチャージi+1の処理を開始することが可能になるまでの準備時間)Qk,i+1を用いると、次の(4)式で表される。
k,i+1≧ck,i+Qk,i+1 ∀i,k・・・(4)
スケジューリング問題生成部3は、工程k、チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(4)式の工程k、チャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(4)式の最短処理間隔時間Qk,i+1に、操業予定情報に含まれる最短処理間隔時間Qk,i+1(図3を参照)を与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(4)式の隣接チャージ干渉制約式を設定する。
ここで、連続鋳造機において、チャージiに引き続いてチャージi+1を連続鋳造する場合には、チャージi+1の連続鋳造工程の処理開始時刻は、チャージiの連続鋳造工程の処理終了時刻と等しくなる。この関係は次の(5)式で表される。
k,i+1=ck,i ∀i、k=3,4・・・(5)
ただし、(5)式における工程kの値は、連続鋳造機の識別番号(本実施形態では、図5に示すように、k=3、4)である。
スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報から、時間を空けずに連続鋳造するチャージi、i+1を割り出し、(5)式の工程i、i+1に、割り出したチャージi、i+1を与える。また、スケジューリング問題生成部3は、連続鋳造工程を示す工程kとしてとり得る値を(5)式の工程kに与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(5)式の隣接チャージ干渉制約式を設定する。
図3において、同一のキャスト内の連々鋳順位が相前後するチャージが、時間を空けずに連続鋳造するチャージi、i+1となる。例えば、チャージ番号CH001、CH003が、時間を空けずに連続鋳造するチャージi、i+1となり、チャージ番号CH003、CH005が、時間を空けずに連続鋳造するチャージi、i+1となる。
以上のようにして(5)式の隣接チャージ干渉制約式を設定した後、スケジューリング問題生成部3は、(4)式の隣接チャージ干渉制約式のうち、(5)式で設定したチャージi、i+1と同じチャージi、i+1についての隣接チャージ干渉制約式を削除する。
<処理開始時溶鋼温度ts k,i定義制約式(温度降下)>
工程kの次に実施される工程k'におけるチャージiの処理開始時の溶鋼温度ts k',iは、工程kの処理終了時の溶鋼温度te k,iと、工程kと工程k'との間の搬送時間wi,k,k'と、工程kと工程k'の間を搬送中の溶鋼の降温速度Dk,k'と、を用いて、次の(6)式で表される。
s k',i=te k,i−Dk,k'×wi,k,k' ∀i,k、k'≧2・・・(6)
スケジューリング問題生成部3は、工程k、k'チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(6)式の工程k、k'、チャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(6)式の降温速度Dk,k'に、操業予定情報に含まれる降温速度Dk,k'を与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして(6)式の処理開始時溶鋼温度定義制約式を設定する。本実施形態では、転炉工程と2次精錬工程との間を搬送中の溶鋼の降温速度D1,2として前述した1.5(℃/min)が与えられ、2次精錬工程と連続鋳造工程との間を搬送中の溶鋼の降温速度D2,3として前述した1(℃/min)が与えられる。
<RH処理終了時溶鋼温度te 2,i定義制約式(温度上昇と降下)>
2次精錬工程(RH、k=2)でチャージiに昇熱処理を施した場合の、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度te 2,iは、2次精錬工程における昇温処理時の溶鋼の昇温速度Upと、2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度Btとを用いると、次の(7)式で表される。
e 2,i=ts 2,i+Up×h2,i−Bt×v2,i ∀i・・・(7)
ここで、h2,iは、2次精錬工程におけるチャージiの昇温時間(min)を表す。
本実施形態では、各工程kにおける処理時間vk,iは、当該工程kにおける最短処理時間Vk,iと(図3を参照)、昇温時間hk,iとの和になるものとし、次の(8a)式のように表される。
k,i−hk,i=Vk,i ∀i,k=2・・・(8a)
2次精錬工程における処理時間v2,iは、(8a)式において、k=2としたものとなる。
転炉工程、および連続鋳造工程に関しては以下の(8b)式の制約条件によって処理時間vk,iの下限値を制約する。
k,i≧Vk,i ∀i,k=1,3、4・・・(8b)
スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値を(7)式のチャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(7)式の昇温速度Upに、操業予定情報に含まれる2次精錬工程における昇温処理時の溶鋼の昇温速度Upを与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(7)式の降温速度Btに、操業予定情報に含まれる2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度Btを与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(7)式のRH処理終了時溶鋼温度定義制約式を設定する。
また、スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値を、それぞれ(8a)式及び(8b)式のチャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、(8a)式の工程kとして「2」を与え、(8b)式の工程kとして「1」、「3」及び「4」を与える。また、スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報に含まれる工程kにおけるチャージiの最短処理時間Vk,iを、(8a)式及び(8b)式の最短処理時間Vk,iに与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(8a)式及び(8b)式の処理時間制約式を設定する。
本実施形態では、2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度Btとして前述した1(℃/min)が与えられ、2次精錬工程における昇温処理時の溶鋼の昇温速度Upとして前述した3(℃/min)が与えられるものとする。
<連続鋳造工程処理開始時温度余裕δi定義制約式>
連続鋳造工程の処理開始時におけるチャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiは、工程kにおけるチャージiの処理開始時の溶鋼温度ts k,iを用いて以下の(9)式で表される。
δi=ts k,i−Zi ∀i、k=3,4・・・(9)
ただし、(9)式における工程kの値は、連続鋳造機の識別番号(図5に示すように、k=3、4)である。
スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値と、連続鋳造工程を示す工程kとしてとり得る値をそれぞれ(9)式の工程k、チャージiに与える。また、スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報に含まれるチャージiの液相線温度Zi(図3を参照)を、(9)式の液相線温度Ziに与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(9)式の連続鋳造工程処理開始時温度余裕定義制約式を設定する。
<溶鋼滞留時間di定義制約式>
チャージiの、転炉工程の処理終了時刻から連続鋳造工程の処理開始時刻(連続鋳造機において鋳込みが開始される時刻)までの時間である溶鋼滞留時間diは、チャージiの連続鋳造工程の処理開始時刻sk,iと、チャージiの転炉工程の処理終了時刻c1,iを用いて、次の(10)式で表される。
i=sk,i−c1,i ∀i、k=3,4・・・(10)
ただし、(10)式における工程kの値は、連続鋳造機の識別番号(図5に示すように、k=3、4)である。
スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値と、連続鋳造工程を示す工程kとしてとり得る値をそれぞれ(10)式のチャージi、工程kに与えることにより、(10)式の溶鋼滞留時間定義制約式を設定する。
<目標温度余裕誤差ri定義制約式>
連続鋳造工程の処理開始時におけるチャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riは、以下の(11a)式及び(11b)式で表される。尚、ここでは、後述する目的関数を最小化問題の目的関数として解く場合を例に挙げて示す。
δi−Hi−ri≦0 ∀i・・・(11a)
−δi+Hi−ri≦0 ∀i・・・(11b)
スケジューリング問題生成部3は、図3に示すCH番号のそれぞれにおいて温度目標値から液相線温度を減算した値を、各チャージiにおける温度余裕δiの目標値Hiとして導出する。そして、スケジューリング問題生成部3は、前記導出した各チャージiにおける温度余裕δiの目標値Hiを(11a)式及び(11b)式に与える。また、スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値を(11a)式及び(11b)式のチャージiに与える。スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(11a)式及び(11b)式の目標温度余裕誤差定義制約式を設定する。
尚、各チャージiにおける温度余裕δiの目標値Hiは鋳造時間の長さや製造する鋳片の品質によって決定すればよい。具体的に、図3に操業予定情報を示した各チャージの場合は、温度余裕を30℃と設定して液相線温度に前記温度余裕を加えた温度目標値を1550℃としている。
前述したように、本実施形態では、線形計画問題として定式化された最適化問題がスケジューリング問題生成部3で設定される場合を例に挙げて示す。線形計画問題として定式化する場合には、絶対値記号||を使用することはできない。そこで、本実施形態では、絶対値内の(δi−Hi)が正の場合と負の場合の2ケースについて、温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riの下限値(=絶対値)を制約するように、(11a)式及び(11b)式を設けた。尚、このようにして絶対値を表現する手法は公知の手法であり、例えば、非特許文献1に記載されている。
<溶鋼温度ts k,i、te k,i制約式>
本実施形態では、工程kにおけるチャージiの処理開始時の溶鋼温度ts k,iは、予め設定された上限値TsMAX k,iおよび下限値TsMIN k,iにより制約を受けるものとする。同様に、工程kにおけるチャージiの処理終了時の溶鋼温度te k,iは、予め設定された上限値TeMAX k,iおよび下限値TeMIN k,iにより制約を受けるものとする。したがって、以下の(12)式〜(15)式が成り立つ。
sMIN k,i≦ts k,i ∀i、k=2・・・(12)
s k,i≦TsMAX k,i ∀i、k=2・・・(13)
eMIN k,i≦te k,i ∀i、k=1,2・・・(14)
e k,i≦TeMAX k,i ∀i、k=1,2・・・(15)
前述したように、本実施形態では、転炉工程の処理終了時から連続鋳造工程の処理開始時までの溶鋼温度を計算する場合を例に挙げて説明する。また、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度ts k,i(k=3、4)を目標値Hiに近づけるようにする。したがって、転炉工程の終了時の溶鋼温度te 1,iと、2次精錬工程(RH)の開始時の溶鋼温度ts 2,iと、2次精錬工程(RH)の終了時の溶鋼温度te 2,iとが、(12)式〜(15)式による制約を受ける。言い換えると、転炉工程の処理開始時の溶鋼温度ts 1,iと、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度ts k,i(k=3、4)、及び処理終了時の溶鋼温度te k,i(k=3、4)については、(12)式〜(15)式のような制約を考慮しない。
よって、スケジューリング問題生成部3は、(12)式および(13)式の工程kとして「2」を与えるとともに(14)式および(15)式の工程kとして「1」と「2」を与える。
また、スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報に含まれる「転炉工程の終了時の溶鋼温度の上限値TeMAX 1,i、下限値TeMIN 1,i」をそれぞれ(14)式、(15)式に与える(図4の「転炉出鋼」の上限値・下限値を参照)。
また、スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報に含まれる「2次精錬工程(RH)の開始時の溶鋼温度の上限値TsMAX 2,i、下限値TsMIN 2,i」をそれぞれ(12)式、(13)式に与える(図4の「RH開始」の上限値・下限値を参照)。
また、スケジューリング問題生成部3は、操業予定情報に含まれる「2次精錬工程(RH)の終了時の溶鋼温度の上限値TeMAX 2,i、下限値TeMIN 2,i」をそれぞれ(14)式、(15)式に与える(図4の「RH終了」の上限値・下限値を参照)。
スケジューリング問題生成部3は、以上のようにして、(12)式〜(15)式の溶鋼温度制約式を設定する。
<<目的関数>>
次に、目的関数について説明する
本実施形態では、連続鋳造工程k(=3、4)における各チャージiの処理終了時刻ck,iと、各チャージiについての転炉工程の処理終了時刻から連続鋳造工程の処理開始時刻までの時間である溶鋼滞留時間diと、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riとの重み付き線形和で目的関数fを表す。すなわち、目的関数fは、以下の(16)式で表される。
Figure 0006398579
(16)式において、α、β、γは、コスト係数(重み係数)である。ここで、コスト係数は、市況や操業条件により左右される値であり、製造コスト、品質、生産量をどの程度重視したスケジュールとするかを表す比である。処理終了時刻ck,iを早めることを優先させる場合にはコスト係数αの値を大きくし、溶鋼滞留時間diを短くすることを優先させる場合にはコスト係数βの値を大きくし、温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riを小さくすることを優先させる場合にはコスト係数γの値を大きくする。本実施形態では、α=10、β=1、γ=1とした。
スケジューリング問題生成部3は、コスト係数α、β、γを(16)式に与えるとともに、チャージiとしてとり得る値を(16)式チャージiに与えることにより、(16)式の目的関数fを設定する。
スケジューリング問題生成部3は、例えば、CPUが、ROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
[最適スケジュール決定部4、スケジュール記憶部5]
最適スケジュール決定部4は、スケジューリング問題生成部3により設定された制約条件((1)式〜(15)式)を満足する範囲で、同じくスケジューリング問題生成部3により設定された目的関数fの値を最適化(最小化)する計算を行う。ここで、本実施形態では、処理開始時刻sk,i、処理終了時刻ck,i、処理開始時溶鋼温度ts k,i、及びRH処理終了時溶鋼温度te 2,iが決定変数であり、その他の変数は従属変数(決定変数に基づき従属的に定まる変数)である。尚、最適解の計算は、例えば、公知の混合整数計画問題解法によるsolverを用いることにより実現できる。
最適スケジュール決定部4は、求めた最適解のうち、少なくとも、各工程kにおける各チャージiの処理開始時刻sk,iと、各工程kにおける各チャージiの処理終了時刻ck,iと、各工程kにおける各チャージiの処理開始時の溶鋼温度ts k,iと、各工程kにおける各チャージiの処理終了時の溶鋼温度ts k,iと、を用いて、最適な操業スケジュールを示す情報を作成する。
最適スケジュール決定部4は、求めた最適な操業スケジュールを示す情報をスケジュール記憶部5に記憶する。
最適スケジュール決定部4は、例えば、CPUが、ROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。また、スケジュール記憶部5は、例えば、HDDを用いることにより実現される。
[スケジュール出力部6]
スケジュール出力部6は、スケジュール記憶部5に記憶された最適な操業スケジュールの情報を読み出して、最適な操業スケジュールの表示データを作成し、コンピュータディスプレイに表示する。スケジュール出力部6は、例えば、ガントチャートによる表示を行うことができる。
スケジュール出力部6は、かかる表示に加え、操業スケジュールの修正の要否を指示するためのGUI(グラフィックユーザインターフェース)と、操業スケジュールの修正を必要とする場合の修正内容を指示するためのGUI(グラフィックユーザインターフェース)と、の表示を行う。操業スケジュールの修正の態様としては、前述した決定変数(の一部)を固定値とすることや、コスト係数α、β、γを修正することや、前述した定数を修正すること等がある。
スケジュール出力部6は、例えば、CPUが、ROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行し、インターフェース介したデータの出力を行うことにより実現される。尚、出力の形態として、前述した表示に加えて、または代えて、外部装置への送信、および可搬型記憶媒体への記憶等を採用してもよい。
[ハンド情報入力部7]
ハンド情報入力部7は、スケジュール出力部6により表示された最適な操業スケジュールの修正が必要であると判定した場合、計画立案者のGUIに対する操作に基づいて、修正の内容を入力する。そして、ハンド情報入力部7は、当該入力した修正の内容を反映した上で、目的関数と制約式の設定をやり直すことをスケジューリング問題生成部3に指示する。これにより、計画立案者により最適な操業スケジュールの修正が必要ないと判断されるまで、操業スケジュールの導出と表示と変更が繰り返し行われる。
ハンド情報入力部7は、例えば、CPUが、ROMに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
((動作フローチャート))
次に、図6のフローチャートを参照しながら、本実施形態のスケジュール作成装置10の処理の一例を説明する。尚、ここでは、操業予定情報記憶部1に操業予定情報が記憶されているものとして説明を行う。
まず、ステップS1において、操業予定情報読込部2は、操業予定情報記憶部1に記憶されている操業予定情報を読み出す。
次に、ステップS2において、スケジューリング問題生成部3は、制約条件((1)式〜(15)式に示す制約式)を設定する。
次に、ステップS3において、スケジューリング問題生成部3は、目的関数((16)式)を設定する。
次に、ステップS4において、最適スケジュール決定部4は、ステップS2で設定された制約条件を満足する範囲で、ステップS3で設定された目的関数fの値を最適化(最小化)する計算を行う。そして、最適スケジュール決定部4は、計算の結果から、最適な操業スケジュールを決定し、決定した最適な操業スケジュールの情報をスケジュール記憶部5に記憶する。
次に、ステップS5において、スケジュール出力部6は、スケジュール記憶部5に記憶された最適な操業スケジュールの情報を読み出して、最適な操業スケジュールの表示データを作成し、コンピュータディスプレイに表示する。
次に、ステップS6において、ハンド情報入力部7は、計画立案者のGUIに対する操作に基づいて、ステップS5で表示された最適な操業スケジュールの修正が必要であるか否かを判定する。
この判定の結果、最適な操業スケジュールの修正が必要でない場合には、図6のフローチャートによる処理を終了する。
一方、最適な操業スケジュールの修正が必要である場合には、ステップS7に進む。ステップS7に進むと、ハンド情報入力部7は、計画立案者のGUIに対する操作に基づいて、修正の内容を入力する。そして、ハンド情報入力部7は、当該入力した修正の内容を反映した上で、目的関数と制約式の設定をやり直すことをスケジューリング問題生成部3に指示する。そして、前述したステップS2に戻る。ステップS2に戻ると、スケジューリング問題生成部3は、ステップS7で指示された修正の内容に従って、制約条件と目的関数の少なくとも何れか一方を変更し、最適スケジュール決定部4は、変更後の制約条件と目的関数に従って最適な操業スケジュールを再度決定する。
そして、ステップS6で最適な操業スケジュールの修正が必要でないと判定されると、図6のフローチャートによる処理を終了する。
((総括))
以上のように本実施形態では、転炉工程の処理を開始してから連続鋳造工程の処理を終了するまでの間における、各工程の処理開始時刻及び処理終了時刻と、転炉工程の処理を終了してから連続鋳造工程の処理を開始するまでの各工程の開始時及び終了時の溶鋼温度を同時に決定する。
この際、当該工程の処理開始時刻に、当該工程の処理時間を加算した値を当該工程の処理終了時刻ck,iとして定義する処理終了時刻定義制約式と、当該工程の直前に実施される工程の処理終了時刻に、当該工程と当該工程の直前に実施される工程との間の溶鋼の搬送時間を加算した値を当該工程の処理開始時刻sk,iとして定義する処理開始時刻定義制約式を設定する。
また、当該工程の直前に実施される工程の処理終了時刻における溶鋼温度に対し、当該工程と当該工程の直前に実施される工程との間の溶鋼の搬送時間と溶鋼の降温速度との乗算値を減算した値を、当該工程の処理開始時刻における溶鋼温度ts k,iとして定義する処理開始時溶鋼温度定義制約式を設定する。さらに、2次精錬工程においては、2次精錬工程の処理開始時刻における溶鋼温度に対し、昇温時間と溶鋼の昇温速度との乗算値の加算と、2次精錬工程の処理時間と溶鋼の降温速度との乗算値の減算とを行った値を、2次精錬工程の処理終了時刻における溶鋼温度te 2,iとして定義する処理終了時溶鋼温度定義制約式を設定する。
以上の制約式を含む制約条件の下で、連続鋳造工程k(=3、4)における各チャージiの処理終了時刻ck,iと、各チャージiについての転炉工程の処理終了時刻から連続鋳造工程の処理開始時刻までの時間である溶鋼滞留時間diと、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riとの重み付き線形和で表される目的関数fを最小化する最適解を計算して操業スケジュールを決定する。
したがって、適切な溶鋼温度を確保しつつ、各工程における溶鋼温度及びスケジュールを同時に決定することができる。よって、連続鋳造機に到着する際の溶鋼温度を考慮して、製鋼プロセスにおける操業スケジュールを立案できる。
また、各工程の処理開始時における溶鋼温度ts k,i、te k,iの上下限値を規定する溶鋼温度制約式を設定するので、溶鋼温度を目標値にする操業を容易に且つ高精度に行うことが可能になる。
((変形例))
[変形例1]
本実施形態では、1基の転炉による転炉工程と、1基の2次精錬設備(RH)による2次精錬工程と、2基の連続鋳造機による連続鋳造工程と、を有する製鋼プロセスの、操業スケジュールを作成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、製鋼プロセスは、転炉工程(1基以上の転炉)と、2次精錬工程(1基以上の2次精錬設備)と、連続鋳造工程(1基以上の連続鋳造機)とを含むプロセスであれば、このようなプロセスに限定されるものではない。
[変形例2]
本実施形態では、処理終了時刻ck,iと、溶鋼滞留時間diと、液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riと、を用いた目的関数を設定する場合を例に挙げて説明した。
しかしながら、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの溶鋼温度の目標値に対する誤差を用いて計算される指標を変数として含んでいれば、目的関数は(16)式に示したものに限定されない。ここで、当該指標を目的関数に含めるのは、製鋼プロセスにおいては、当該誤差が、連続鋳造工程で製造される鋳片のコストだけでなく、品質に大きく影響を与えるからである。
目的関数の変形例としては、例えば、以下のような変形例が挙げられる。
まず、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値ではなく、当該誤差の偶数次乗(n乗(nは偶数)、例えば2乗)を用いてもよい。
この他、当該誤差に代えて、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの溶鋼温度(そのもの)の、目標値(図3に示す温度目標値)からの誤差を用いてもよい。
尚、図3に示すように、本実施形態では、操業予定情報として、温度目標値と液相線温度とを入力し、温度目標値から液相線温度を減算した値を液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiとして導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、各チャージについて、液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiそのものを操業予定情報として入力してもよい。
また、前述した溶鋼滞留時間diは、転炉から連続鋳造機までの溶鋼の搬送や2次精錬工程における処理中の時間経過に伴う溶鋼温度の低下を補償するために生じる温度昇温コストを抑制することを主たる目的とする指標である。したがって、かかる目的を達成する指標であれば、当該指標は、必ずしも、前述した溶鋼滞留時間diに限定されない。例えば、前述した溶鋼滞留時間diに代えて、或いは、加えて、転炉工程の処理終了時の溶鋼温度te 1,iと、2次精錬工程におけるチャージiの昇温時間h2,iと、の少なくとも何れか一方を当該指標として目的関数に含めてもよい。尚、転炉工程の処理終了時の溶鋼温度te 1,iが、溶鋼温度の低下を補償するために生じる温度昇温コストに関係するのは、前述したように、転炉工程において溶鋼温度を上昇させることができるからである(図1を参照)。
また、前述した連続鋳造工程における各チャージiの処理終了時刻ck,iは、(単位時間(例えば1日)当たりの)生産量を増大させることを主たる目的とする指標である。すなわち、生産対象のチャージの、連続鋳造工程における処理終了時刻に制限がある場合、できるだけ早期に全てのチャージiの処理を終了する方が単位時間当たりの生産量が高くなる。したがって、かかる目的を達成する指標であれば、当該指標は、必ずしも、前述した連続鋳造工程における各チャージiの処理終了時刻ck,iに限定されない。例えば前述した連続鋳造工程における各チャージiの処理終了時刻ck,iに代えて、或いは、加えて、各チャージiの各工程kの非稼働時間を表す鋳造間隔時間を用いて生産量を評価しても良い。工程kにおける鋳造間隔時間は、例えば、工程kにおいて連続して処理が実施される2つのチャージのうちの先行チャージiの処理終了時刻ck,iと後行チャージi+1の処理開始時刻sk,i+1の差の、全てのチャージiについての総和で表すことができる。
[変形例3]
本実施形態では、最小化問題を解く場合を例に挙げて説明した。しかしながら、最大化問題としてもよい。このようにする場合には、例えば、目的関数fに(−1)を掛けるようにすればよい。
[変形例4]
本実施形態では、昇温時間h2,iを導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、例えば、2次精錬設備において、昇温処理を行わない場合の操業スケジュールを作成する場合には、昇温時間h2,iを考慮しなくてもよい。
[変形例5]
本実施形態では、処理時間制約式((8a)式及び(8b)式)において、工程kにおけるチャージiの処理時間vk,iは、下限値(最短処理時間Vk,i)により制約を受ける場合を例に挙げて説明した。しかしながら、工程kにおけるチャージiの処理時間vk,iが、上限値(最長処理時間)以下であるという制約を処理時間制約式に加えてもよい。
((実施例))
次に、本実施形態の実施例を説明する。
製鋼工場における、1基の転炉、1基の2次精錬設備、および2基の連続鋳造機の操業スケジュールを、本実施形態の手法(実施例)と、バックワードシミュレーションによる鋳造間隔が最短となるようにスケジュールを決定する手法(比較例)と、のそれぞれにより作成した。ここでは、定数として、前述した実施形態で示した値を使用した。
図7は、比較例の手法で決定された操業スケジュールを示す図である。図8は、実施例の手法で決定された操業スケジュールを示す図である。
図7および図8において、「DC」は転炉、「RH」は連続鋳造設備、「1CC」は連続鋳造機No.1、「2CC」は連続鋳造機No.2をそれぞれ表す。また、図7および図8の横軸は時間であり、図7および図8に示す四角形の色の違い(グレー及び白抜き)は、連続鋳造工程に用いられる連続鋳造機No.の違いを表している。
また、実施例で求めた操業スケジュールに基づき、各工程における処理中の溶鋼温度と、工程間を搬送している間の溶鋼温度の低下量とから、転炉出鋼温度(転炉工程の処理終了時の溶鋼温度)を計算した。また、比較例で求めた操業スケジュールから同様に転炉出鋼温度を計算した。図9は、転炉出鋼温度とチャージ数との関係を示す図である。具体的に、図9(a)は、実施例における転炉出鋼温度とチャージ数との関係を示す図であり、図9(b)は、比較例における転炉出鋼温度とチャージ数との関係を示す図である。
図7および図8を比較する。1CC(連続鋳造機No.1)で鋳造が開始される時刻と、2CC(連続鋳造機No.2)で鋳造が開始される時刻とをそろえた場合、例えば、チャージ番号CH001のチャージの転炉工程が終了してから当該チャージ番号CH001のチャージの連続鋳造工程が開始されるまでの所要時間は、図7に示す比較例の操業スケジュールの方が、図8に示す実施例の操業スケジュールよりも長い。同様に、例えば、チャージ番号CH002のチャージの転炉工程が終了してから当該チャージ番号CH002のチャージの連続鋳造工程が開始されるまでの所要時間も、図7に示す比較例の操業スケジュールの方が、図8に示す実施例の操業スケジュールよりも長い。
このように、比較例によるスケジューリングでは、転炉を出鋼してから鋳造を開始するまでの時間が長いチャージが生じる。そのため、転炉を出鋼してから鋳造を開始するまでの間に低下する温度の分だけ、転炉を出鋼する際の溶鋼温度を高めておく必要がある。その結果、図9(b)に示すように、転炉を出鋼する際の溶鋼温度(転炉出鋼温度)のばらつきが大きくなる。しかしながら、転炉を出鋼する際の溶鋼温度(転炉出鋼温度)を過剰に高くすると、例えば、溶鋼の搬送に用いる容器である取鍋の耐火物の溶損が進行する虞がある。したがって、オペレータは、鋳造時刻を調整するなど、スケジューリングを行う際の前提条件を変更して、定められた溶鋼温度の範囲内で操業可能な操業スケジュールを立案できるまで計算を繰り返し指示しなければならない。
一方、実施例では、操業スケジュールの決定時に溶鋼温度を考慮する。このため、図8に示すように、転炉を出鋼してから鋳造を開始するまでの時間を、比較例よりも低減することができる。その結果、転炉を出鋼する際の溶鋼温度(転炉出鋼温度)が過剰に高くならないように操業スケジュールを調整することができる。したがって、図9(a)に示すように、転炉から出鋼する際の溶鋼温度(転炉出鋼温度)のばらつきが、図9(b)に示す比較例よりも低減された。
図10は、実施例の手法で計算した各工程の処理開始時・終了時の溶鋼温度を示す図である。実施例では、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度を、液相線温度(1520℃)に上昇温度の目標値(30℃)を加えた温度(1550℃=1520℃+30℃)に一致させるとともに、各工程の処理開始時・処理終了時の溶鋼温度に上限値および下限値を課す。溶鋼温度の上限値及び下限値で定まる範囲を矢印線で図10及び図11に示す。このように、実施例では、溶鋼温度を考慮した操業スケジュールが決定される。
一方、図11は、比較例の手法で計算した各工程の処理開始時・終了時の溶鋼温度を示す図である。比較例では、溶鋼温度を考慮せずに操業スケジュールが決定される。
図10に示すように、実施例によれば、各工程の処理開始時・処理終了時における溶鋼温度が、当該工程の処理開始時・処理終了時における所望の溶鋼温度範囲内になるように、溶鋼温度と操業スケジュールを同時に決定することができる。これに対し、図11に示すように、溶鋼温度を考慮せずに操業スケジュールを決定すると、転炉工程における処理終了時(転炉終了時)の溶鋼温度が、上限値である1700℃を超える場合がある。以上のように、本実施形態の手法を用いれば、連続鋳造工程の処理開始時(連続鋳造開始時)における溶鋼温度が適切であり、且つ、各工程における溶鋼温度が適切である操業スケジュールを決定できることが確認された。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。
第1の実施形態では、各工程の処理開始時の溶鋼温度ts 2,i、ts 3,iと処理終了時の溶鋼温度te 1,i、te 2,iとが、確定値であるものとしてモデル化する場合を例に挙げて説明した。この確定値のモデルでは、工程間の搬送時間や、2次精錬工程における処理時(RH処理時)における溶鋼温度の降下量の平均値が与えられた条件下において、転炉工程の処理終了時、2次精錬工程の処理開始時・終了時、および連続鋳造工程開始時の溶鋼温度の平均値を計算する。
しかしながら、実操業においては、取鍋の蓄熱量等、操業条件の違いによって溶鋼温度の単位時間当たりの温度降下量(降温速度)にばらつきが生じる。このため、2次精錬工程における処理開始時・終了時、および連続鋳造工程開始時の溶鋼温度のばらつきが時間経過とともに大きくなることが考えられる。
図12は、溶鋼温度のばらつきが時間の経過とともに大きくなることを概念的に示す図である。尚、図12の上図は、図7および図8と同様、各工程における処理時間を表す。
図12の下図において、2次精錬工程(RH)における処理開始時の溶鋼温度の分布121、2次精錬工程(RH)における処理終了時の溶鋼温度の分布122、および連続鋳造工程(CC)における処理開始時の溶鋼温度の分布123のように、溶鋼温度の降温速度がばらつくため、溶鋼温度の標準偏差が時間の経過とともに大きくなる。
実操業において、このような溶鋼温度のばらつきが生じた場合には、2次精錬工程の処理中(RH処理中)に溶鋼温度を測定して、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度が目標値と一致するように、溶鋼温度を上昇させる昇熱処理と、溶鋼温度を降下させる冷却処理との何れかを実施する。このような溶鋼温度を調整するための処理を施した場合、2次精錬工程において通常の処理を実施する場合に比べ、2次精錬工程における処理時間が長くなる。
このことを言い換えると、2次精錬工程における通常の処理予定時間に加えて、予め温度調整時間を確保することによって、転炉工程と2次精錬工程との間の搬送中や、2次精錬工程の処理中に生じる溶鋼温度の目標値からの誤差を解消することが可能になる。すなわち、2次精錬工程において、この温度調整時間を確保することにより、この温度調整時間中に前述した溶鋼温度を調整するための処理を施すことができるので、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度を目標値と一致させることが可能になる。
以上のことから、本発明者らは、転炉工程の処理終了時における溶鋼温度のばらつきと、転炉工程の処理終了時から連続鋳造工程の処理開始時までの時間に生じる溶鋼温度のばらつきと、をモデル化し、溶鋼温度のばらつきが大きくなるチャージについては、2次精錬工程において温度調整時間を予め操業スケジュール上で確保することにより、溶鋼温度のばらつきを補償する操業を、処理時間の延長による後工程への悪影響無しに実行可能とする操業スケジュールを作成できることを見出した。
以上のように本実施形態では、第1の実施形態に対し、溶鋼温度のばらつきが大きくなるチャージについては、2次精錬工程において温度調整時間を確保することができるように、制約式の追加・変更と目的関数の変更とを行う。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図11に示した符号を付す等して詳細な説明を省略する。
<転炉工程における処理終了時の溶鋼温度te 1,iのばらつき>
転炉においては、吹錬(溶鋼への酸素の吹き付け)により、溶鋼中の炭素を除去するとともに溶鋼温度を高める。このとき、炭素や他の成分濃度によっては通常よりも酸素を過剰に吹き付ける場合や、反対に早期に酸素の吹き付けを停止する場合がある。このため、溶鋼温度の調整が不十分となることがある。
また、転炉における処理が終了すると、転炉から取鍋へ溶鋼を注入する。この溶鋼の注入の際に、成分調整のため合金を取鍋内に投入することや、溶鋼から取鍋へ温度が移行することの影響により、取鍋内の溶鋼温度が変化する。したがって、転炉工程の処理終了時の溶鋼温度te 1,iがばらつくことが考えられる。
そこで、本実施形態では、転炉工程における処理終了時の溶鋼温度te 1,iが標準偏差σ0を持つこととする。標準偏差σ0は、例えば、転炉における操業条件や、取鍋内への合金投入量や、取鍋が保有する熱量等に基づいて予め定められる。
<搬送中・処理中における溶鋼温度の降下>
第1の実施形態では、転炉工程(k=1)と2次精錬工程(k'=2)の間を搬送中の溶鋼の降温速度D1,2を一定値とした。また、2次精錬工程(k=2)と連続鋳造工程(k'=3)との間を搬送中の溶鋼の降温速度D2,3も一定値とした。さらに、2次精錬工程における処理中の溶鋼の処理中の降温速度Btも一定値とした。
しかしながら、溶鋼の降温速度は常に一定ではなく、例えば、取鍋や2次精錬設備の耐火物の状況等、操業条件によってばらつくことが予想される。
そこで、本実施形態では、図13に示すように、前述した3つの期間における溶鋼の降温速度が、それぞれ標準偏差σ1、σ2、σ3を持つこととする。
図13において、「転炉−RH搬送」は、転炉工程と2次精錬工程の間を搬送中の期間であることを示す。「RH処理中」は、2次精錬工程における処理中の期間であることを示す。「RH−CC搬送」は、2次精錬工程と連続鋳造工程との間を搬送中の期間であることを示す。
図13に示す統計量(標準偏差σ1、σ2、σ3)は、例えば、過去の操業の結果等に基づいて予め定められる。過去の操業における実際の時刻や溶鋼温度等に関する実績データを保管しておき、必要なときに参照できるようにし、当該実績データに基づいて前記統計量を設定・更新できるようにするのが好ましい。さらに、保管した実績データを、鋼種や操業条件等によって層別し、鋼種や操業条件別に前記統計量を得ることが好ましい。ただし、図13に示すように、前記統計量(標準偏差σ1、σ2、σ3)のそれぞれを一定値としてもよい。
<溶鋼温度のばらつきのモデル化>
本実施形態では、転炉工程における処理終了時の溶鋼温度te 1,iの標準偏差σ0と、転炉工程と2次精錬工程の間を搬送中の溶鋼の降温速度の標準偏差σ1と、2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度の標準偏差σ2とを用いて、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度の分散VarRHE iを以下の(17)式で表す。
VarRHE i=σ0 2+σ1 2×wi,1,2 2+σ2 2×v2,i 2−ρ2×e2,i ∀i・・・(17)
第1の実施形態で説明したように、wi,1,2は、転炉工程と2次精錬工程との間の搬送時間であり、v2,iは、2次精錬工程における処理時間である。
また、(17)式において、e2,1は、前述した温度調整時間(min)であり、2次精錬工程における最短処理時間V2,iからの延長時間である。2次精錬設備は、溶鋼温度が低ければ酸素を吹き付けることにより溶鋼温度を上昇させる処理機能と、溶鋼温度が高ければ冷材を投入して溶鋼温度を低下させる処理機能とを持つ。このため、これらの温度調整にかかる時間を確保する操業スケジュールを作成することにより、実操業において、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度と目標値との間に誤差が生じた場合であっても、当該誤差に従って温度調整のための処理を施すための時間が確保される。オペレータは、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度を目標値に近づけるための作業を行うことが可能になる。
図14は、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度のばらつきの一例を概念的に示す図である。
第1の実施形態のように、温度調整時間を確保しない場合、オペレータは、前述した、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度を目標値に近づけるための作業を行うための時間をとれないことがある。したがって、図14の破線で示すように、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度(の実測値)のばらつきが大きくなる(標準偏差が大きくなる)。これに対し、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度を目標値に近づけるための作業を行うための時間を確保することにより、図14の実線で示すように、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度(の実測値)のばらつきを低減することができる。
2次精錬工程において溶鋼に吹き付ける酸素の流量は決まっている。したがって、溶鋼温度の上昇量に応じた昇温処理の時間が必要である。すなわち、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度と目標値との間に誤差が大きいほど、温度調整に長い時間が必要になる。よって、想定される溶鋼温度のばらつきの大きさが大きいほど、温度調整時間を長くする必要がある。
そこで、本実施形態では、2次精錬工程における最短処理時間V2,iからの延長時間に応じて、溶鋼温度のばらつきが抑制されることとした。(17)式に示す例では、単位時間当たりにρ2(℃)ずつ、温度の分散が温度調整時間e2,1に比例して低下することとした。
溶鋼温度ばらつき抑制係数ρ 2は、例えば、2次精錬設備の温度調整能力等に基づいて予め定められる。例えば、溶鋼温度の降下・上昇を速く実現でき、且つ、目標通りの温度に高精度に制御可能である2次精錬設備であるほど、溶鋼温度ばらつき抑制係数ρ 2として大きな値を採用することができる。
図15は、昇温時間h2,iと温度調整時間e2,iの関係の一例を概念的に示す図である。
図15において、2次精錬工程における処理時間v2,iは、2次精錬工程における最短処理時間V2,iと、昇温時間h2,iまたは温度調整時間e2,iとの和となる。
昇温時間h2,iは、第1の実施形態で説明したように、2次精錬工程において昇温処理を行うのに要する時間である。すなわち、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度の平均値を目標値に一致させるために必要な時間である。
一方、温度調整時間e2,iは、操業時に生じる、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度のばらつきを低減させるために必要な時間である。
このように、昇温時間h2,iと温度調整時間e2,iは、目的が異なるものである。したがって、本実施形態では、昇温時間h2,iと温度調整時間e2,iを互いに独立した変数とする。尚、図15では、温度調整時間e2,iが昇温時間h2,iを上回る場合を例に挙げて示す。しかしながら、これとは逆に、昇温時間h2,iが温度調整時間e2,iを上回る場合もある。
第1の実施形態では、2次精錬工程における処理時間v2,iは、2次精錬工程における最短処理時間V2,iと昇温時間h2,iとを加算した値であるものとして、2次精錬工程における処理時間制約式を表現した((8a)式を参照)。
これに対し、本実施形態では、2次精錬工程における処理時間v2,iは、2次精錬工程における最短処理時間V2,iと、温度調整時間e2,i及び昇温時間h2,iのうち大きい方と、を加算した値であるものとして2次精錬工程における処理時間制約式を表現する。
すなわち、本実施形態では、(8a)式の代わりに、以下の(18a)式、(18b)式、および(18c)式を、2次精錬工程における処理時間制約式として定義する。尚、本実施形態では、その他の工程(転炉工程及び連続鋳造工程、k=1、3、4)については、(8b)式の処理時間制約式を用いる。
μ2,i≧h2,i ∀i・・・(18a)
μ2,i≧e2,i ∀i・・・(18b)
2,i−μ2,i=V2,i ∀i・・・(18c)
本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、線形計画問題として定式化された最適化問題がスケジューリング問題生成部3で設定される場合を例に挙げて示す。線形計画問題として定式化する場合には、最大値記号maxを使用することができない。そこで、新たな決定変数μ2,iを定義して、(18a)式および(18b)式の2つの制約条件によって、μ2,iの下限値を設定する。尚、このようにして最大値を表現する手法は公知の手法であり、例えば、非特許文献1に記載されている。
また、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度の分散VarRHE iと、2次精錬工程と連続鋳造工程との間を搬送中の溶鋼の降温速度の標準偏差σ3とを用いて、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の分散VarCCS iを、以下の(19)式で定義する。
VarCCS i=VarRHE i+σ3 2×wi,2,3 2 ∀i・・・(19)
第1の実施形態で説明したように、wi,2,3は、2次精錬工程と連続鋳造工程との間の搬送時間である。
また、本実施形態では、(19)式の溶鋼温度分散定義制約式で定義される、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の分散VarCCS iとコスト係数ηとの積を(16)式の右辺に加えたものを目的関数fとして定義する。すなわち、目的関数fは、以下の(20)式で表される。
Figure 0006398579
以上のように本実施形態では、スケジューリング問題生成部3は、2次精錬工程については、(8a)式の処理時間制約式を設定する代わりに、チャージiとしてとり得る値を(18a)式〜(18c)式のチャージiに与えることにより、(18a)式〜(18c)式の2次精錬工程における処理時間制約式を設定する。
また、スケジューリング問題生成部3は、チャージiとしてとり得る値を(18a)〜(18c)のチャージiに与えるとともに、予め定められている標準偏差σ0、σ1、σ2、σ3を(19)式((17)式)の標準偏差σ0、σ1、σ2、σ3に与えることにより、(19)式の溶鋼温度分散定義制約式を設定する。
また、スケジューリング問題生成部3は、コスト係数α、β、γ、ηを(20)式に与えるとともに、チャージiとしてとり得る値を(20)式チャージiに与えることにより、(20)式の目的関数fを設定する。
最適スケジュール決定部4は、(8a)式の代わりに(18a)式〜(18c)式を、(16)式の代わりに(20)式を、それぞれ用いて、第1の実施形態で説明したように、最適化の計算を行い、その結果から、最適な操業スケジュールを決定する。ここで、本実施形態では、処理開始時刻sk,i、処理終了時刻ck,i、処理開始時溶鋼温度ts k,i、RH処理終了時溶鋼温度te 2,i、及び温度調整時間e2,1が決定変数であり、その他の変数は従属変数である。
本実施形態のスケジュール作成装置のその他の構成と処理は、第1の実施形態で説明した通りである。
((総括))
以上のように本実施形態では、転炉工程の処理終了時の溶鋼温度のばらつき(σ0 2)と、転炉工程の処理終了時から2次精錬工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつき(σ1 2×wi,1,2 2)と、2次精錬工程の処理時間における溶鋼温度の降下量のばらつき(σ2 2×v2,i 2)と、2次精錬工程の処理終了時から連続鋳造工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつき(σ3 2×wi,2,3 2)と、2次精錬工程における温度調整時間に応じて低減される溶鋼温度のばらつき低減量(ρ2×e2,i)とによって、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の分散VarCCS iを定義する。
そして、連続鋳造工程における各チャージiの処理終了時刻ck,iと、各チャージiについての転炉工程の処理終了時刻から連続鋳造工程の処理開始時刻までの時間である溶鋼滞留時間diと、連続鋳造工程の処理開始時における各チャージiの液相線温度Ziからの温度余裕δiの目標値Hiに対する誤差の絶対値riと、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の分散VarCCS iと、の重み付き線形和で表される目的関数fを最小化する最適解を計算して操業スケジュールを決定する。
したがって、第1の実施形態で説明した効果に加えて、2次精錬工程における温度調整時間を含む操業スケジュールをオペレータに提示することが可能となる。オペレータは、各工程の処理開始時・処理終了時の溶鋼温度の計算値と、操業スケジュールとに従い操業を進める。2次精錬工程で測定した溶鋼温度と目標値とに誤差があれば、提示された温度調整時間内に、溶鋼温度を調整する作業を実施することで、2次精錬工程における処理終了時の溶鋼温度の目標値に対する誤差を解消することが可能になる。その結果、温度目標値に対する溶鋼温度のばらつきを低減することが可能になる。
((変形例))
本実施形態では、溶鋼温度のばらつきを分散で表す場合を例に挙げて説明したが、溶鋼温度のばらつきは分散に限定されない。例えば標準偏差等であってもよい。
また、本実施形態では、温度調整時間e2,i及び昇温時間h2,iのうち大きい方を採用する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、例えば、2次精錬設備において昇温処理を行わず冷却処理のみを実施する場合の操業スケジュールを作成する場合には、昇温時間h2,iを考慮に入れる必要はない。このようにする場合には、例えば、(18a)式及び(18b)式は不要になり、(18)式の「μ2,i」を「e2,i」に置き替えることにより、2次精錬工程における処理時間制約式を定義することができる。
この他、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
((実施例))
次に、本実施形態の実施例を説明する。
本実施例でも、第1の実施形態で説明した実施例と同じ条件で操業スケジュールを作成した。
ただし、標準偏差σ0、σ1、σ2、σ3をそれぞれ図16に示す値とした(σ0=0.5、σ1=0.2、σ2=0.3、σ3=0.1)。また、溶鋼温度ばらつき抑制係数ρ 2を25(ρ 2=25)とした。これは、処理1分間当たり5(℃)の標準偏差を抑制することを意味する。また、コスト係数ηを5(η=5)とした。
第1の実施形態で説明した操業予定情報(図3等を参照)に対して、溶鋼温度のばらつき(分散)を考慮しない第1の実施形態の手法(目的関数:(16)式、制約条件:(1)式〜(15)式)と、溶鋼温度のばらつき(分散)を考慮する第2の実施形態の手法(目的関数:(20)式、制約条件:(1)式〜(7)式、(8b)式、(9)式〜(15)式、(17)式、(18a)〜(18c)式、(19)式)とのそれぞれについて、前述したようにして操業スケジュールを作成した。そして、その結果から、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の標準偏差と、2次精錬工程における処理時間を比較した。
図17は、連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の標準偏差の計算結果を示す図である。また、図18は、2次精錬工程における処理時間(RH処理時間)の計算結果を示す図である。図17および図18において、横軸の「CC開始時の温度分散考慮なし」は第1の実施形態の手法で計算した値であることを示す。縦軸の「CC開始時の温度分散考慮あり」は第2の実施形態の手法で計算した値であることを示す。
図17に示す結果より、第2の実施形態の手法で計算した「連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の標準偏差」の平均値は7.7(℃)である。一方、第1の実施形態の手法で計算した「連続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の標準偏差」の平均値は18.8(℃)である。
また、図18に示す結果より、第2の実施形態の手法で計算した「2次精錬工程における処理時間(RH処理時間)」の平均値は33.4(min)である。一方、第1の実施形態の手法で計算した「2次精錬工程における処理時間(RH処理時間)」の平均値は32.0(min)である。
図17に示すように、第2の実施形態の手法では、第1の実施形態の手法と比較して、溶鋼温度の標準偏差を抑制することが可能であることが分かる。これは、図18に示すように一部のチャージに対して、2次精錬工程における処理時間として、より長い時間を設定して、溶鋼温度の調整時間を確保することにより、温度のばらつきを抑制するためである。
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
(請求項との関係)
<請求項1〜
取得手段は、例えば、操業予定情報読込部2(ステップS1)を用いることにより実現される。
制約式設定手段は、例えば、スケジューリング問題生成部3(ステップS2)を用いることにより実現される。
目的関数設定手段は、例えば、スケジューリング問題生成部3(ステップS3)を用いることにより実現される。
操業スケジュール作成手段は、例えば、最適スケジュール決定部4(ステップS4)を用いることにより実現される。
連鋳開始時目標温度情報は、例えば、図3に示す温度目標値及び液相線温度を用いることにより実現される(変形例2も参照)。
処理開始時刻定義制約式は、例えば、(2)式により実現される。
処理終了時刻定義制約式は、例えば、(1)式により実現される。
溶鋼温度定義制約式は、例えば、(6)式および(7)式により実現される。
前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標を変数として含む関数」は、例えば、(16)式(特に右辺第1項)により実現される(変形例2も参照)。
<請求項
「前記複数のチャージにおける、前記転炉工程の処理終了時刻から前記連続鋳造工程の処理開始時刻までの時間である溶鋼滞留時間の総和を変数として含む関数」は、例えば、(16)式(特に右辺第2項)により実現される(変形例2も参照)。
<請求項
2次精錬工程の昇温時間は、例えば、2次精錬工程におけるチャージiの昇温時間h2,iにより実現される。
「前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での溶鋼の昇温時間の総和を変数として含む関数」は、変形例2による目的関数の変形(溶鋼滞留時間diに代えて、或いは、加えて、2次精錬工程におけるチャージiの昇温時間h2,iを用いること)により実現される。
<請求項
2次精錬工程処理終了時溶鋼温度定義制約式は、例えば、(7)式により実現される。
2次精錬工程の最短処理時間は、例えば、図3の「最短処理時間」(特に「RH」の欄)により実現される。
昇温速度は、例えば、2次精錬工程における昇温処理時の溶鋼の昇温速度Upにより実現される。
降温速度は、例えば、2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度Btにより実現される。
昇温時間は、例えば、2次精錬工程における昇温時間h2,iにより実現される。
2次精錬工程処理時間定義制約式は、例えば、(8a)式、(8b)式により実現される。
<請求項
第1の溶鋼温度制約式は、例えば、(12)式及び(13)式により実現される。
第2の溶鋼温度制約式は、例えば、(14)式及び(15)式により実現される。
<請求項
「前記複数のチャージにおける、前記転炉工程の処理終了時の溶鋼温度の総和を変数として含む関数」は、変形例2による目的関数の変形(溶鋼滞留時間diに代えて、或いは、加えて、転炉工程の処理終了時の溶鋼温度te 1,iを用いること)により実現される。
<請求項
「前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理終了時刻の総和、または、前記複数のチャージの製造を行う場合の前記複数の工程における非稼働時間の総和を変数として含む関数」は、例えば、(16)式(特に右辺第3項)と、変形例2による目的関数の変形(連続鋳造工程における各チャージiの処理終了時刻ck,iに代えて、或いは、加えて、各チャージiの各工程kの非稼働時間を表す鋳造間隔時間を用いること)により実現される。
<請求項〜1、1
溶鋼温度ばらつき定義制約式は、例えば、(19)式により実現される。所定の係数は、例えば、溶鋼温度ばらつき抑制係数ρ 2により実現される。
温度調整時間は、例えば、温度調整時間e2,iにより実現される。
連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきは、例えば、続鋳造工程における処理開始時の溶鋼温度の分散VarCCS iにより実現される。
「前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきの総和を変数として含む関数」は、例えば、(20)式(特に、右辺第4項)により実現される。
<請求項1
2次精錬工程の最短処理時間は、例えば、図3の「最短処理時間」(特に「RH」の欄)により実現される。
昇温速度は、例えば、2次精錬工程における昇温処理時の溶鋼の昇温速度Upにより実現される。
降温速度は、例えば、2次精錬工程における処理中の溶鋼の降温速度Btにより実現される。
昇温時間は、例えば、例えば、2次精錬工程における昇温時間h2,iにより実現される。
2次精錬工程処理時間定義制約式は、例えば、(18a)〜(18c)式により実現される。
2次精錬工程処理終了時溶鋼温度定義制約式は、例えば、(7)式により実現される。
1:操業予定情報記憶部、2:操業予定情報読込部、3:スケジューリング問題生成部、4:最適スケジュール決定部、5:スケジュール記憶部、6:スケジュール出力部、7:ハンド情報入力部、10:製鋼プロセスのスケジュール作成装置

Claims (15)

  1. 転炉工程、2次精錬工程、および連続鋳造工程を含む複数の工程を有し、チャージの単位で鋳片を製造する製鋼プロセスにおける操業スケジュールを作成する操業スケジュール作成装置であって、
    前記操業スケジュールの立案の対象となる複数のチャージについての操業予定情報を取得する取得手段と、
    前記取得手段により取得された前記操業予定情報に基づいて、制約式を設定する制約式設定手段と、
    前記取得手段により取得された前記操業予定情報に基づいて、目的関数を設定する目的関数設定手段と、
    前記制約式設定手段により設定された制約式に基づく制約条件を満足する範囲で、前記目的関数設定手段により設定された目的関数の値を最大または最小にする決定変数を数理計画法による最適化計算を行うことにより導出する操業スケジュール作成手段と、を有し、
    前記操業予定情報は、
    前記複数のチャージにおける前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値、または、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度から溶鋼の液相線温度を減算した値である温度余裕の目標値からなる連鋳開始時目標温度情報を含み、
    前記制約式は、
    前記複数の工程のうちの各工程の処理終了時刻と、当該工程と次工程との間の前記チャージの搬送時間との加算値で、次工程の処理開始時刻を表現する処理開始時刻定義制約式と、
    前記工程の処理開始時刻と、当該工程の処理時間との加算値で、当該工程の処理終了時刻を表現する処理終了時刻定義制約式と、
    前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間の各工程における処理開始時および処理終了時の溶鋼温度を、時間の関数で表現する溶鋼温度定義制約式と、を含み、
    前記目的関数は、
    前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標を変数として含む関数であり、
    前記決定変数は、
    前記複数の工程の処理開始時刻および処理終了時刻と、
    前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間における各工程の処理開始時および処理終了時の溶鋼温度と、
    を含むことを特徴とする操業スケジュール作成装置。
  2. 前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標は、
    前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差の絶対値の総和、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差の絶対値の総和、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差の偶数次乗の総和、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差の偶数次乗の総和であることを特徴とする請求項1に記載の操業スケジュール作成装置。
  3. 前記目的関数は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記転炉工程の処理終了時刻から前記連続鋳造工程の処理開始時刻までの時間である溶鋼滞留時間の総和を変数として含む関数であることを特徴とする請求項1または2に記載の操業スケジュール作成装置。
  4. 前記目的関数は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での溶鋼の昇温時間の総和を変数として含む関数であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  5. 前記制約式は、
    さらに、前記2次精錬工程の最短処理時間と、前記2次精錬工程での溶鋼の前記昇温時間との加算値で、前記2次精錬工程の処理時間を表現する2次精錬工程処理時間定義制約式を含み、
    前記操業予定情報は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程の前記最短処理時間と、前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での前記昇温時間の単位時間当たりの溶鋼温度の上昇量である昇温速度と、
    前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での前記処理時間の単位時間当たりの溶鋼温度の降下量である降温速度と、を含み、
    前記溶鋼温度定義制約式は、
    前記2次精錬工程の処理開始時の溶鋼温度に対し、前記昇温速度と前記昇温時間との乗算値の加算と、前記降温速度と前記2次精錬工程の処理時間との乗算値の減算とを行った値で、前記2次精錬工程の処理終了時の溶鋼温度を表現する2次精錬工程処理終了時溶鋼温度定義制約式を含むことを特徴とする請求項に記載の操業スケジュール作成装置。
  6. 前記操業予定情報は、
    さらに、前記複数の工程の処理開始時の溶鋼温度の上限値および下限値と、
    前記複数の工程の処理終了時の溶鋼温度の上限値および下限値と、を含み、
    前記制約式は、
    さらに、前記複数の工程の処理開始時の溶鋼温度が、それぞれ上限値と下限値との間になることを規定する第1の溶鋼温度制約式と、前記複数の工程の処理終了時の溶鋼温度が、それぞれ上限値および下限値との間になることを規定する第2の溶鋼温度制約式と、を含むことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  7. 前記目的関数は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記転炉工程の処理終了時の溶鋼温度の総和を変数として含む関数であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  8. 前記目的関数は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理終了時刻の総和、または、前記複数のチャージの製造を行う場合の前記複数の工程での非稼働時間の総和を変数として含む関数であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  9. 前記制約式は、
    さらに、前記転炉工程の処理終了時の溶鋼温度のばらつきと、前記転炉工程の処理終了時から前記2次精錬工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつきと、前記2次精錬工程の処理時間における溶鋼温度の降下量のばらつきと、前記2次精錬工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつきと、前記2次精錬工程における温度調整時間に応じて低減される溶鋼温度のばらつき低減量とによって、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきを表現する溶鋼温度ばらつき定義制約式を含み、
    前記目的関数は、
    さらに、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきを用いて計算される指標を変数として含む関数であり、
    前記決定変数は、
    さらに、前記温度調整時間を含むことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  10. 前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきを用いて計算される指標は、
    前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきの総和であることを特徴とする請求項に記載の操業スケジュール作成装置。
  11. 前記溶鋼温度ばらつき定義制約式は、
    前記転炉工程の処理終了時の溶鋼温度のばらつきと、前記転炉工程の処理終了時から前記2次精錬工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつきと、前記2次精錬工程の処理時間における溶鋼温度の降下量のばらつきと、前記2次精錬工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの溶鋼温度の降下量のばらつきとの和に対し、前記2次精錬工程における温度調整時間と所定の係数との乗算値を減算した値で、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度のばらつきを表現する式であることを特徴とする請求項または1に記載の操業スケジュール作成装置。
  12. 前記操業予定情報は、
    さらに、前記複数のチャージにおける前記2次精錬工程の最短処理時間と、
    前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での溶鋼の昇温時間の単位時間当たりの溶鋼温度の上昇量である昇温速度と、
    前記複数のチャージにおける、前記2次精錬工程での前記処理時間の単位時間当たりの溶鋼温度の降下量である降温速度と、を含み、
    前記制約式は、
    さらに、前記2次精錬工程の前記最短処理時間と、前記2次精錬工程での溶鋼の前記昇温時間および前記温度調整時間のうちの大きい方の時間との加算値で、前記2次精錬工程の処理時間を表現する2次精錬工程処理時間定義制約式を含み、
    前記溶鋼温度定義制約式は、
    前記2次精錬工程の処理開始時の溶鋼温度に対し、前記昇温速度と前記昇温時間との乗算値の加算と、前記降温速度と前記2次精錬工程の処理時間との乗算値の減算とを行った値で、前記2次精錬工程の処理終了時の溶鋼温度を表現する2次精錬工程処理終了時溶鋼温度定義制約式を含むことを特徴とする請求項〜1の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  13. 前記ばらつきは、分散であることを特徴とする請求項〜1の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置。
  14. 転炉工程、2次精錬工程、および連続鋳造工程を含む複数の工程を有し、チャージの単位で鋳片を製造する製鋼プロセスにおける操業スケジュールを作成する操業スケジュール作成方法であって、
    前記操業スケジュールの立案の対象となる複数のチャージについての操業予定情報を取得手段により取得する取得ステップと、
    前記取得ステップにより取得された前記操業予定情報に基づいて、制約式を制約式設定手段により設定する制約式設定ステップと、
    前記取得ステップにより取得された前記操業予定情報に基づいて、目的関数を目的関数設定手段により設定する目的関数設定ステップと、
    前記制約式設定ステップにより設定された制約式に基づく制約条件を満足する範囲で、前記目的関数設定ステップにより設定された目的関数の値を最大または最小にする決定変数を数理計画法による最適化計算を行うことによって操業スケジュール作成手段により導出する操業スケジュール作成ステップと、を有し、
    前記操業予定情報は、
    前記複数のチャージにおける前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値、または、前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度から溶鋼の液相線温度を減算した値である温度余裕の目標値からなる連鋳開始時目標温度情報を含み、
    前記制約式は、
    前記複数の工程のうちの各工程の処理終了時刻と、当該工程と次工程との間の前記チャージの搬送時間との加算値で、次工程の処理開始時刻を表現する処理開始時刻定義制約式と、
    前記工程の処理開始時刻と、当該工程の処理時間との加算値で、当該工程の処理終了時刻を表現する処理終了時刻定義制約式と、
    前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間の各工程における処理開始時および処理終了時の溶鋼温度を、時間の関数で表現する溶鋼温度定義制約式と、を含み、
    前記目的関数は、
    前記複数のチャージにおける、前記連続鋳造工程の処理開始時の溶鋼温度の目標値からの誤差、または、前記複数のチャージにおける、前記温度余裕の目標値からの誤差を用いて計算される指標を変数として含む関数であり、
    前記決定変数は、
    前記複数の工程の処理開始時刻および処理終了時刻と、
    前記複数の工程にわたる期間のうち、少なくとも、前記転炉工程の処理終了時から前記連続鋳造工程の処理開始時までの期間における各工程の処理開始時および処理終了時の溶鋼温度と
    含むことを特徴とする操業スケジュール作成方法。
  15. 請求項1〜1の何れか1項に記載の操業スケジュール作成装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
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