JP6390216B2 - アクリル繊維束の製造方法 - Google Patents
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一方、近年生産性向上の要求が急速に高まり、総繊度の太繊度化、高速化による生産性向上が図られてきた。しかしながら、総繊度の太繊度化、あるいは高速化すれば洗浄槽中での洗浄液の浸透が不十分になり脱溶剤が不足するという懸念が生じる。同時に、溶液の浸透が不十分になることで凝固糸束温度が中心まで上昇しないため延伸斑あるいは、糸切れを生じ、工程トラブルを引き起こすばかりか、分繊性が悪化しローラー等への膠着糸まで生ずることがある。
本発明は、アクリル系重合体が溶剤に溶解したアクリル系重合体溶液を紡糸ノズルの吐出孔から凝固浴中に吐出し、凝固浴中で凝固した凝固繊維束を凝固浴から引き上げ、洗浄槽に貯留された洗浄液中に導入して溶剤を除去する工程を有するアクリル繊維束の製造方法であって、
前記凝固繊維束が凝固浴から引き上げられた凝固繊維束に、前記洗浄槽から送液された洗浄液を付与する前洗浄工程を有し、
洗浄液が付与される凝固繊維束の速度が、凝固浴から引き上げられる凝固繊維束の引き上げ速度に対して0.8倍〜1.2倍であるアクリル繊維束の製造方法である。
ここで凝固浴とは溶剤と水とからなる水溶液である。溶剤としては、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用でき、アクリロニトリル重合体を溶解できるものであれば、限定されない。溶解性の観点から、ジメチルアセトアミドが好ましい。
溶剤濃度は、60〜70質量%が好ましい。また凝固浴の温度は30〜40℃が好ましい。そのような溶剤濃度及び凝固浴温度であれば、ボイドが少なく緻密な構造を形成できるからである。凝固浴では原料ポリマーを溶かしていた溶剤が凝固浴に拡散し、ポリマーが凝固し、繊維状に形成される。
凝固浴中の凝固繊維束は、第1のローラーを通り、空気中に引き上げられる。第1のローラーは溝付きのフリーローラーが好ましく、凝固繊維束の滑りを防止するために梨地表面となっていることが好ましい。
第2のローラーは駆動ロールが好ましく、本ロールが凝固浴からの引き上げ速度を決定している。
凝固繊維束のたるみを防止するため、第2のローラー以降で凝固繊維束の温度を上げずにそのままの環境雰囲気下でわずかに延伸するのが一般的である。
通常、脱溶剤を促進させるために複数の洗浄槽があり、後段になる程洗浄槽中の水溶液の溶剤濃度が低下する一方で高温度にする。
凝固繊維束は複数の洗浄槽を通過すると同時に洗浄槽出口の延伸ローラーで引き取られながら延伸される。
洗浄槽を通過した後の凝固繊維束は乾燥ロールと呼ばれる蒸気を熱媒体とした加熱ロール上を通過して乾燥される。
前述した通り、図2に示すB部では既に凝固繊維束は延伸されており溶剤の繊維間内部への浸透が進行している状態であるため、延伸がかかっていないA部で前洗浄することで脱溶剤が促進される。
引き上げ速度は、第1のローラーの表面速度とする。
前洗浄工程で洗浄液を付与する凝固繊維束の速度が、引上げ速度に対して0.8〜1.2倍であれば、延伸がかかっていないか、張力の低い状態の凝固繊維束に洗浄液を付与することになり、繊維間の内部まで洗浄液が浸透しやすく、繊維間内部の溶剤と置換しやすくなる。また凝固浴あがりの凝固繊維束は繊維束表面に溶剤を大量に保持しているため、脱溶剤し易い状態となっている。
一般的には凝固繊維束は延伸されるに従って凝固浴で付着した溶剤が繊維間内部に浸透するため、後の工程になるにつれて脱溶剤し難くなる。前記速度は、引上げ速度に対して0.9〜1.1倍がより好ましく、0.95〜1.05倍がさらに好ましい。
後述の実施例1で吐出線速度を9.4m/sと算出した、実際の計算例を示す。実施例1にて設定した洗浄液の付与量は1.0L/分であり、使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss^3である。該ノズルのオリフィス呼び径は1.5mmであることから、開口面積は1.77×10−2cm2となる。従って、吐出線速度は1000cm3/分÷(1.77×10−2)cm2=5.65×104cm/分=9.4m/秒となる。
前洗浄工程における凝固繊維束からの脱溶剤率は以下の手順で測定する。
・ バットを前洗浄工程部の洗浄液落下部に設置する。
・ 前洗浄工程部では付与した洗浄液は凝固繊維束を洗浄した後に落下するため、その落下液を1分間バットで受ける。
・ 得られた液の濃度c[%]と落下液流量L[g/分]を測定する。得られた液の濃度の測定の際には屈折率計を使用し、落下液量の測定の際には電子天秤で秤量することにより求めた。
・ 第一洗浄槽の濃度をc1[%%]とすると前洗浄工程で脱落した溶剤量はL×(c−c1)/100[g/分]となる。
以下、本発明の実施例について説明する。アクリロニトリル96.5質量%、アクリルアミド2.7質量%、メタクリル酸0.8質量%からなるアクリル系重合体を、アクリル系重合体21.2質量%、ジメチルアセトアミド78.8質量%の比率で混合溶解しアクリル系重合体溶液を得た。前記アクリル系重合体溶液を吐出孔径が0.075mmφである吐出孔を15000個有する紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴中に吐出して凝固繊維束とし、前記凝固繊維束を第1ロールを通って、駆動ロールである第2のローラーで引き上げた。引き上げ速度となる第1ローラーの表面速度は、8.0m/分であった。第1ローラー4と第2ローラー5との間の凝固繊維束の移送速度は引き上げ速度に対して1.0倍の速度である。第1ローラー4と第2のローラー5との間(図2中のA部)の凝固繊維束に、前洗浄工程として第一洗浄槽の底部より抜き出した洗浄液を付与した。洗浄液温度は65℃、洗浄液のDMAc濃度は18.7質量%、吐出ノズルからの洗浄液の吐出量は1.0L/分、ノズルから噴出す洗浄液の圧力は50KPa、吐出線速度は9.4m/秒であった。使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−3である。その後第2のローラー5と第3のローラー9の間で1.3倍に延伸し、65℃、DMAc濃度18.7%の第一洗浄槽6に導入した。
前洗浄工程での脱溶剤率を表1に示す。
脱溶剤率を27.2%と算出した実際の計算例を示す。
実施例1に示すように、アクリル系重合体溶液は紡糸ノズルの吐出孔から吐出量が180g/分でDMAc67%の濃度の凝固浴に吐出される。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束の含水分率[=(凝固浴あがり凝固繊維束(g)/絶乾凝固繊維束(g))×100]は250質量%であり、凝固繊維束に付着している溶剤濃度は凝固浴と同一、すなわち67%のDMAcであることから凝固繊維束が保有しているDMAc総量は180×67/100×250/100=301.5g/分である。
一方、前洗浄工程で脱落した溶剤量を求めるために凝固繊維束を洗浄した後に落下する液の流量とその濃度を測定すると、それぞれ762.8g/分、29.47%であった。従って、前洗浄工程で脱落した溶剤量は762.8×(29.47−18.7)/100=82.1g/分である。
脱溶剤率を(脱落した溶剤量)÷(前洗浄する前の凝固繊維束の保有溶剤量)×100と定義すると、本実施例での前洗浄工程での脱溶剤率は82.1÷301.5×100=27.2%となる。なお、前洗浄工程で凝固繊維束の保有溶剤が全て脱落した場合には脱溶剤率は100%となる。一般的に複数段の洗浄槽を通過した後は脱溶剤率がほぼ100%になるよう生産条件を決定している。
前洗浄工程の洗浄液付与位置を2段にし、前記位置を300mm離間し、それぞれのノズルから噴出す洗浄液の圧力を100KPa、洗浄液の付与量を0.5L/分、使用ノズルをスプレーイングシステム社製のB1/8HH−ss−1とした以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。この時、2段目の付与場所も引き上げ速度に対して1.0倍で凝固繊維束が移送されているA部である。
その結果を表1に示す。この結果より2段付与の場合も十分な脱溶剤効果が発揮されることが分かる。
実施例1と同様の作製方法で得られたアクリル系重合体溶液を吐出孔数6000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量469.0g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件とし、前洗浄工程として図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、スプレーノズルを使用して吐出線速度6.8m/秒、65℃、50KPa、0.2L/分で付与した以外は、実施例1と同様の作製方法でアクリル繊維束を製造した。なお、スプレーノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8G−3001.4のノズルを使用した。
前洗浄部で配管7の先端の洗浄液の付与方法をスプレーノズルではなく、内径6mmのナイロンチューブを1本用いて、吐出線速度を0.1m/秒として吐出した以外は実施例3と同様にして、アクリル繊維束を得た。ナイロンチューブを使用する際は吐出圧は0KPaとなる。
実施例1と同様の作製方法で得られたクリル系重合体溶液を、吐出孔数12000ホール、吐出孔径0.075mmφの口金を用いて、吐出量290g/分、引き上げ速度4.0m/分の条件下で、DMAc/水=67/33質量%、38℃の凝固浴に紡出した。凝固浴から引き上げられた凝固繊維束は図1中の第2のローラー5を通過して、65℃、DMAc濃度0%の第一洗浄槽6にて脱溶剤する。なお、本実施例では温度による効果を確認するために意図的に第一洗浄槽中の溶媒を純水に置換している。前洗浄工程として図2中のA部に第一洗浄槽の洗浄液を底部より抜き出し、0.3L/分、50KPa、65℃、10.2m/秒で付与した。この間、凝固繊維束は引き取り速度に対して1.0倍の速度で移送される。前洗浄に使用したノズルはスプレーイングシステム社製の型番:B1/8HH−ss−1である。
前洗浄工程として洗浄液の付与温度を20℃とした以外は、実施例2と同様にして、アクリル繊維束を得た。
前洗浄工程として凝固繊維束に洗浄液を付与した場所を引き上げ速度に対して1.3倍となる図2中のB部とした以外は、実施例1と同様にして、アクリル繊維束を得た。
2:口金
3:凝固繊維束
4:第1のローラー
5:第2のローラー
6:第一洗浄槽
7:配管
8:前洗浄部
9:第3のローラー
10:延伸ローラー
A:前洗浄工程位置
B:延伸糸への付与位置
Claims (7)
- アクリル系重合体が溶剤に溶解したアクリル系重合体溶液を紡糸ノズルの複数の吐出孔から凝固浴中に吐出し、凝固浴中で凝固した凝固繊維束を凝固浴から第1のローラーにより引き上げ、洗浄槽に貯留された洗浄液中に導入して溶剤を除去する工程を有するアクリル繊維束の製造方法であって、
凝固浴から引き上げられた前記凝固繊維束に、前記凝固繊維束が第1のローラーを通過した後で前記洗浄槽に入る前に、前記洗浄槽から送液された洗浄液を付与する前洗浄工程を有し、
洗浄液が付与される凝固繊維束の速度が、凝固浴から引き上げられる凝固繊維束の引き上げ速度に対して0.8倍〜1.2倍であるアクリル繊維束の製造方法。 - 前記前洗浄工程において、凝固繊維束に付与する洗浄液の温度が40℃以上98℃以下である請求項1に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前記前洗浄工程において凝固繊維束に洗浄液を付与する位置が凝固繊維束の進行方向に2箇所以上ある請求項1〜2のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 2箇所以上ある洗浄液を付与する前記位置間の各距離が200mm以上である請求項3記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前洗浄工程において水平に走行している凝固繊維束に対して洗浄液を付与する請求項1〜4のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 前洗浄工程において前記洗浄液を凝固繊維束に付与する位置から1m以上後に、前記凝固繊維束を前記洗浄槽に導入する請求項1〜5のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
- 凝固繊維束の繊維本数が1000本以上80000本以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載のアクリル繊維束の製造方法。
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