以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
図1〜図24を参照して、本発明の一実施形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造について説明する。本発明の実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、建物内部に配置された剛体部材間の隙間からの透過音に対して遮音する構造である。
図1〜図24に示すように、建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、建物内部に配置された剛体部材間の隙間に設けられた多孔質材料10を備えている。多孔質材料10は、連続気泡を有し、この連続気泡による通気性と吸音性とを有している。多孔質材料10の連続気泡は、隙間において、空気の流路となる。
多孔質材料10は、10N・s/m3以上、好ましくは30N・s/m3以上、より好ましくは60N・s/m3以上、より一層好ましくは120N・s/m3以上の流れ抵抗を有している。多孔質材料10がこのような流れ抵抗を有していると、隙間透過音を孔で効果的に吸収することができる。
ここで、上記「流れ抵抗」は、材料にある一定の流速空気を流したときの材料前後の圧力差により測定される値である。
多孔質材料10は、10N・s/m3以上の流れ抵抗、及び/または、連続気泡を有していれば特に限定されず、例えば、ガラス繊維、岩綿、石綿、不織布、不織布以外の布、発泡材料、細孔を有する板などを用いることができ、ガラス繊維、岩綿、石綿、不織布及び発泡材料からなる群より選ばれた少なくとも一種の材料よりなることが好ましい。
多孔質材料10は、好ましくは0.1kg/m2以上、より好ましくは0.3kg/m2以上、より一層好ましくは0.5kg/m2以上の面密度を有している。多孔質材料10がこのような面密度を有していると、隙間透過音を孔で効果的に吸収することができる。
ここで、上記「面密度」は、材料の単位面積当たりの質量により測定される値である。
ここで、本実施の形態における多孔質材料10の配置について、図1〜図24を参照して説明する。図1〜図24は、ドアの下部の隙間透過音に対する遮音構造を示し、多孔質材料10は、ドア枠20と、このドア枠20に取り付けられるドア本体30との隙間に設けられている。なお、ドア枠20は、ドア本体30を取り付けるための枠であり、建物内部の開口部に設けられ、床面または壁面であってもよい。
図1〜図14は、多孔質材料10として、不織布等の多孔質の各種布類を用いている。図1〜図14に示すように、多孔質材料10、10Aの一端11は、ドア本体30の下端面31に取り付けられ、多孔質材料10、10Aの他端12は、ドア枠20に接している。つまり、多孔質材料10、10Aは、ドア本体30からドア枠20に向けて延在している。また、多孔質材料10、10Aの一端11及び他端12は、ドア本体30の下端面31及びドア枠20の上端面21において左右(紙面手前から紙面奥)に延在している。つまり、多孔質材料10、10Aの一端11は、ドア本体30の下端面31の両側端を結ぶように延在している。
図1に示す配置においては、多孔質材料10の一端11は、ドア本体30の下端面31の厚み方向(下端面31における前面32側から後面33側に向けた方向)の略中央に設けられ、多孔質材料10の長さは、ドア枠20とドア本体30との隙間の長さと略同じである。
図2に示すように、ドア枠20とドア本体30との隙間の高さよりも長くなるように多孔質材料10を設けてもよい。この場合、ドア枠20とドア本体30と多孔質材料10との間に隙間が生じることを防止できる。
図3に示すように、多孔質材料10の一端11をドア本体30の前面32の下端部に取り付けてもよい。多孔質材料10の他端12は、ドア枠20においてドア本体30の前面32よりも前方に位置している。なお、多孔質材料10の一端11をドア本体30の後面33の下端部に取り付けてもよい。図3の配置では、ドア本体30の前面32または後面33における透過音の粒子速度が高い場合に、遮音効果をより高めることができる。
図4〜図8に示すように、隙間における透過音の進行方向に沿って、複数の多孔質材料10が設けられていてもよい。
図4に示す配置においては、ドア枠20とドア本体30との隙間において、厚み方向に複数列の多孔質材料10が設けられている。具体的には、3列の多孔質材料10の一端11は、ドア本体30の下端面31の厚み方向に並列している。3列の多孔質材料10の他端12は、ドア枠20に接している。
図5に示す配置においては、多孔質材料10としての1枚の布類を折返して2重にし、2重にした上端部を一端11として、ドア本体30の厚み方向に間隔を隔てて取り付け、その下端部を他端12としてドア枠20と接するように設けている。図5に示すように、側面視において、多孔質材料10は略U字形状である。このように、図5に示す配置においては、隙間における透過音の進行方向に沿って、2列の多孔質材料10が設けられている。
図6に示す配置においては、多孔質材料10としての1枚の布類を折返して4重にし、ドア本体30の厚み方向に間隔を隔てて3箇所に取り付け、その下端部がドア枠20と接している。つまり、多孔質材料10の3列の一端11は、ドア本体30の下端面31に取り付けられ、多孔質材料10の2列の他端12は、ドア枠20に接している。図6に示すように、側面視において、多孔質材料10は2つの略U字形状が並列している。このように、図6に示す配置においては、隙間における透過音の進行方向に沿って、4列の多孔質材料10が設けられている。
図7に示す配置においては、図5に示す場合に比べて、布類を折り返したときの撓みが少なく、多孔質材料10におけるドア枠20との接触面積が小さい。図7に示すように、側面視において、多孔質材料10は略V字形状である。図7に示す配置の場合、多孔質材料10に大きな勾配を持たせることができる。この場合、多孔質材料10がドア本体30からドア枠20に向けてテーパ状であるので、透過音の進行方向によっては、透過音の粒子速度がより抑制される。
図8に示す配置においては、ドア本体30の下端面31からドア枠20に向けて複数の多孔質材料10のそれぞれが傾斜するように延在している。具体的には、2列の多孔質材料10は、ドア本体30の下端面31から前面32側に傾斜するように下方に延在している。
図9及び図10に示すように、多孔質材料10として1枚の布類を用い、1枚の布類が折り返されて、一端11はドア本体30に取り付けられ、他端12はドア枠20と接し、布類の折り返された部分(他端12側)には、押圧部材13が設けられている。押圧部材13は、布類の折返し部分の内側に配置されており、例えば棒状の重しである。図9のように、布類の折返し部分が一箇所である場合には、押圧部材13は1つ設けられており、図10のように、布類の折返し部分が二箇所である場合には、押圧部材13が2つ設けられている。図9及び図10に示す配置の場合、多孔質材料10とドア枠20との密着性を高めることができる。また、図9及び図10に示す建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、ドア本体30を開ける際に、押圧部材13が上方に移動する機構をさらに備えていてもよい。
図11〜図14に示す配置においては、建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、ドア本体の開閉に伴い、多孔質材料10を移動させる移動機構をさらに備えている。なお、図11〜図14において、ドア本体30を閉めたときの多孔質材料の位置を10Aで示し、ドア本体30を開けたときの多孔質材料の位置を10Bで示している。図11〜図14に示す配置では、多孔質材料として不織布等の多孔質の各種布類を用い、多孔質材料10の一端11は、ドア本体30の下部に取り付けられている。ドア本体30を閉めたときには、図11〜図14に示すように、多孔質材料10Aの他端12は、ドア枠20に接している。ドア本体30を開けたときには、図11〜図14に示すように、多孔質材料10Bの他端12は、ドア枠20から離れて、上方に移動する。図11〜図14の配置では、移動機構は、ドア本体30に取り付けられた多孔質材料10の一端11を軸として、多孔質材料10の他端12を上下に移動させる。
具体的には、図11の配置では、多孔質材料の一端11は、ドア本体30の前面32(後面33でもよい)の下端部に取り付けられ、多孔質材料は、ドア枠20とドア本体30との隙間の高さと略同じ長さを有している。ドア本体30を閉めたときには、多孔質材料10Aは、ドア本体30からドア枠20に向けて鉛直に下方に延びている。ドア本体30を開けたときには、移動機構により、多孔質材料10Bの他端12が円弧を描くように上方に移動する。このように多孔質材料10を移動させる移動機構として、例えば、ドア本体30が押されたときに係止部材が外れる機構が挙げられる。
図12の配置では、多孔質材料としての1枚の布類を、ドア本体30の下端面31の厚み方向に間隔を隔てて取り付け、布類を折返して2重にしている。ドア本体30を閉めたときには、多孔質材料10Aにおいて折り返された下端部である他端12がドア枠20と接している。ドア本体30を開けたときには、移動機構により、多孔質材料10Bの折り返された下端部が上方に移動する。
図13の配置では、多孔質材料としての1枚の布類を、ドア本体30の下端面31の厚み方向に間隔を隔てて3箇所に取り付け、布類を折返して4重にしている。ドア本体30を閉めたときには、多孔質材料10Aの折り返された2列の下端部(他端12)がドア枠20と接している。ドア本体30を開けたときには、移動機構により、多孔質材料10Bの折り返された2列の下端部のそれぞれが上方に移動する。
図14の配置では、多孔質材料としての1枚の布類を、ドア本体30の下端面31の厚み方向に間隔を隔てて2箇所に取り付け、布類を折り返して2重にしている。ドア本体30を閉めたときには、多孔質材料10Aの折り返された下端部(他端12)がドア枠20と接している。ドア本体30を開けたときには、移動機構により、2重に折り返された下端部が、ドア本体30の下端面31まで上方に移動する。つまり、ドア本体30を閉めたときの多孔質材料10Aの下端部(他端12)が、ドア本体30を開けたときの多孔質材料10Bの上端部16になる。このように、ドア本体30を開けたときの多孔質材料10Bは、ドア本体30の下端面31の厚み方向に間隔を隔てて3箇所に取り付けられ、2列の下端部17はドア枠20と接していない。このように多孔質材料10を上方に移動させる移動機構としては、例えばワイヤ、紐などで多孔質材料10を引き上げる機構が挙げられる。
図15〜図21は、多孔質材料10として、発泡体等の多孔質のブロック体を用いている。図15〜図18に示す配置においては、ドア本体30の下端面31の厚みよりも小さい厚みの多孔質材料10が、ドア本体30の下端面31からドア枠20に渡って延在している。ブロック体の形状は、特に限定されず、図15に示すように、略直方体であってもよく、図16及び図17に示すように、ドア本体30からドア枠20に向けて厚みが小さくなるテーパ状であってもよい。なお、図16の多孔質材料10は、略三角柱であり、図17の多孔質材料10は、略半円柱状である。また、図18に示すように、隙間における透過音の進行方向に沿って、複数のブロック体が設けられていてもよい。
図19に示す配置では、多孔質材料10は、ドア本体30からドア枠20に向けて厚みが小さくなる第1の多孔質材料14と、ドア枠20からドア本体30に向けて厚みが小さくなる第2の多孔質材料15とを含み、第1の多孔質材料14と第2の多孔質材料15とが接している。第1の多孔質材料14及び第2の多孔質材料15は、例えば、断面視において半円状または楕円状である。図20に示す配置では、多孔質材料10は、ドア本体30からドア枠20に向けて略同じ厚みの第1の多孔質材料14と、ドア枠20からドア本体30に向けて略同じ厚みの第2の多孔質材料15とを含み、第1の多孔質材料14と第2の多孔質材料15とが接している。第1の多孔質材料14及び第2の多孔質材料15は、例えば、直方体であり、第1の多孔質材料14の厚みと第2の多孔質材料15の厚みとは、略同じである。図19及び図20の場合、隙間における透過音の進行方向に沿って、第1の多孔質材料14及び第2の多孔質材料15が配置されている。
図21に示す配置においては、ドア枠20に凹み部が設けられ、この凹み部に多孔質材料10としてのブロック体が配置され、多孔質材料10の上端面である一端11は、ドア枠20の上端面21から突出している。
図22は、多孔質材料10として、ブラシ状繊維を用いている。図22に示す配置においては、ドア本体30の下端面31からドア枠20に向けて延在するように、ブラシ状繊維が設けられている。
図23に示す配置においては、多孔質材料10は、不織布等の多孔質の各種布類18と、発泡体等の多孔質のブロック体19を含んでいる。図23に示す配置では、ドア本体30の下端面31にブロック体19が取り付けられ、ブロック体19の下端面に布類18が取り付けられている。布類18は、ブロック体19の下端面とドア枠20との隙間高さよりも長い。
図24に示す配置においては、ドア本体30の前面32または後面33のいずれか一方側(本実施の形態では前面32側)であって、ドア枠20上に、衝止部材22が配置されている。建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、衝止部材22におけるドア本体30と対向する側面に形成された気密材40と、この気密材40の表面を覆う多孔質材料10とを備えている。気密材40は柔軟性が低いので、隙間を埋めることが難しいが、柔軟性を有する多孔質材料10を用いることで、隙間を埋めやすくなる。
図1〜図24における多孔質材料10の配置において、建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、多孔質材料10を支持するための支持部材(図示せず)をさらに備えていてもよい。
また、多孔質材料10の一部は、他の部材で覆われていてもよいが、多孔質材料10の表面全体は他の部材で覆われていない。つまり、多孔質材料10の少なくとも一部は隙間において露出しており、多孔質材料10の連続気泡により、通気性は確保されている。
ここで、本実施の形態では、ドア下部の隙間からの透過音に対して遮音する構造を例に挙げて説明したが、本発明は、ドア上部若しくは側部の隙間からの透過音に対して遮音する構造にも適用できる。また、本実施の形態では、剛体部材として、ドア枠20と、このドア枠20に取り付けられるドア本体30とを例に挙げて説明したが、剛体部材は特に限定されず、例えば、間仕切り壁とその枠、収納部材の扉とその枠、壁と床、壁と天井、家具と床などであってもよい。なお、剛体部材は力を加えたときに全く変形しない部材と、多少変形するものの実質的に変形していないとみなせる部材とを含む。
以上説明したように、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、建物内部に配置された剛体部材間の隙間からの透過音に対して遮音する構造において、隙間に連続気泡を有する多孔質材料10、10A、10Bが設けられたことを特徴としている。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造によれば、音の粒子速度が高くなる(急激な圧力変化が生じる)剛体部材間の隙間に連続気泡を有する多孔質材料10、10A、10Bを設けているので、多孔質材料10、10A、10Bの内部を空気が通過した際に、摩擦によって音エネルギーが熱エネルギーとして吸収される。これにより、隙間透過音の粒子速度が抑制されるので、剛体部材間の隙間透過音を低減することができる。また、多孔質材料10、10A、10Bは連続気泡を有しているので、透過音を遮音する部材を隙間に設けていても、通気性を確保することができる。したがって、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、隙間透過音の抑制及び通気性を両立することができる。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造において好ましくは、多孔質材料10、10A、10Bは、連続気泡による通気性と吸音性とを有している。
これにより、隙間透過音の抑制及び通気性を両立する建物内部の隙間透過音に対する遮音構造を実現できる。
また、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、建物内部に配置された剛体部材間の隙間に設けられた多孔質材料10、10A、10Bを備え、多孔質材料は、10N・s/m3以上の流れ抵抗を有している。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造によれば、音の粒子速度が高くなる(急激な圧力変化が生じる)剛体部材間の隙間に10N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料10、10A、10Bを設けているので、多孔質材料10、10A、10Bの内部を空気が通過した際に、摩擦によって音エネルギーが熱エネルギーとして吸収される。これにより、隙間透過音の粒子速度が抑制されるので、剛体部材間の隙間透過音を低減することができる。また、隙間透過音を遮音する部材が多孔質材料10、10A、10Bであるので、通気性を確保することができる。したがって、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、隙間透過音の抑制及び通気性を両立することができる。
ここで、遮音部材として、本実施の形態の連続気泡を有する多孔質材料及び/または10N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料を用いた場合と、上記特許文献1などのように、ゴムや樹脂などの気密材を用いた場合とを比較して、その効果を説明する。
上記特許文献1などのように、ゴムや樹脂などの気密材で隙間を密閉することにより、透過音を遮音する場合、遮音性を高めようとすると、通気性が低下してしまう。一方、本実施の形態の連続気泡を有する多孔質材料及び/または10N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料は、密閉性の観点からではなく、隙間透過音の粒子速度を抑制する観点から設けられるので、通気性を確保しつつ、隙間透過音を低減できる。つまり、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、通気性と遮音性とを両立できる。
また、気密材を用いる場合において、通気性を向上するためには、ドアに通気機構を設ける必要がある。一方、本実施の形態では、多孔質材料により通気性を確保できるので、ドアなどの剛体部材に通気機構を設ける必要がない。このため、音漏れの経路となる通気機構を省略できるので、遮音性を高めることができる。また、通気機構を別途設ける必要がないので、コストを低減できる。
また、気密材を用いる場合には、ドアを開ける際に気密状態を解除して気密材を収納する機構が必要である。一方、本実施の形態では、音漏れとなる気密材を収納する機構を省略できるので、遮音性を高めることができる。また、収納する機構を別途設ける必要がないので、コストを低減できる。
このように、上記特許文献1などで用いる気密材を用いた遮音構造は、通気機構、気密材を収納する機構などを有するため、複雑な構造である。一方、本実施の形態では、簡単な構造で遮音性と通気性とを確保できる。このため、気密材が破損した場合に比べて、多孔質材料10、10A、10Bが破損した際に、容易に取り換えることができる。
また、気密材は、特定の周波数帯の音以外は遮音できない。一方、本実施の形態では、隙間透過音の粒子速度を抑制することで、隙間透過音を低減しているので、隙間透過音の周波数による効果の差が小さい。
さらに、気密材は柔軟性に乏しいため、隙間全体を埋めにくい。一方、本実施の形態の多孔質材料は、不織布等の布類など柔軟性を有する材料を選択することで、ゴムや樹脂等の気密材に比べて、隙間全体を埋めやすい。このため、遮音性能を向上することができる。したがって、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、気密材を用いることが難しいスライドドアなどであっても、支障なく開閉でき、高い遮音効果を有する。
また、気密材を構成するゴムや樹脂に比べて、本実施の形態の多孔質材料は安価な材料である。この点からも、本実施の形態は、コストを低減することができる。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造において好ましくは、多孔質材料10、10A、10Bは、ガラス繊維、岩綿、石綿、不織布及び発泡材料からなる群より選ばれた少なくとも一種の材料よりなる。
これらの材料は通気性と吸音性を有し、かつ剛体部材間の隙間を埋めるように配置しやすいので、隙間透過音の抑制及び通気性を両立する建物内部の隙間透過音に対する遮音構造を容易に実現できる。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造において好ましくは、多孔質材料10、10A、10Bは不織布であって、隙間における透過音の進行方向に沿って、単数または複数の不織布が設けられている。
不織布は薄いので、隙間における透過音の進行方向に沿って単数または複数枚の不織布を設置することができる。単数の不織布を設置することは、容易に実現できる。また、複数の不織布を設置する場合には、隙間透過音をより抑制することができる。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造において好ましくは、隙間は、ドア枠20と、このドア枠20に取り付けられるドア本体30との間である。
ドア枠20とドア本体30との隙間に対しては、遮音性と通気性とが求められているので、本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造は、ドアに好適に用いられる。
本実施の形態の建物内部の隙間透過音に対する遮音構造において好ましくは、多孔質材料10、10A、10Bの一端11は、ドア本体30の下部に取り付けられ、多孔質材料10、10A、10Bの他端12は、ドア本体30を閉めたときに、ドア枠20に接している。
これにより、ドア枠20とドア本体30との隙間全体を多孔質材料が覆うので、隙間透過音の抑制及び通気性を両立するドアの隙間透過音に対する遮音構造を実現できる。
本実施例では、鏡像を考慮した境界要素法による数値解析を用いて、剛体部材間の隙間に多孔質材料を設けることによる効果について調べた。
<数値解析の対象モデル>
本実施例において、剛体部材間の隙間として、床の上端面とドア本体の下端面との隙間を模した数値解析の対象モデルを図25に示す。入射領域及び透過領域は、1/4無限領域である。図25において、ドア本体は、z軸(紙面手前から奥行方向)に無限大であり、隙間はz軸方向に1mの幅を有する。
(実施例1)
実施例1では、剛体部材間の隙間に、多孔質材料を設けた場合と、多孔質材料を設けなかった場合との粒子速度を調べた。
剛体部材間の隙間は、0.01mの高さであった。多孔質材料は、200N・s/m3の流れ抵抗と、1kg/m2の面密度を有するとともに、連続気泡を有する不織布とした。入射音は平面波とし、波の伝搬方向はz軸と垂直に交わり、xy方向に限定している。周波数は1kHzとし、入射角θは45°として計算した。
鏡像を考慮した境界要素法による数値解析により、図25に示す0.04m四方の領域について、多孔質材料を隙間に設けた場合と、多孔質材料を隙間に設けなかった場合との水平(x軸)方向の粒子速度を求めた。その結果を図26及び図27に示す。図26は、隙間に多孔質材料が設けられなかった場合の結果を示し、図27は隙間に多孔質材料が設けられた場合の結果を示す。図26及び図27の左のグラフにおいて、横軸は、図25におけるx軸の位置を示し、縦軸は、図25におけるy軸の位置を示す。図26及び図27の右のグラフは、粒子速度(単位:m/s)を示し、色が薄くなるほど、粒子速度が大きいことを示す。
図26に示すように、隙間に多孔質材料が設けられない場合には、隙間では粒子速度が非常に大きくなっているが、図27に示すように、隙間に多孔質材料を設けた場合には、隙間の粒子速度が抑制されていることが分かる。図26に示す隙間に多孔質材料が無い場合に、隙間で粒子速度が非常に大きくなるのは、隙間両側で大きな音圧差が生じ、音圧が急激に変化することによる。
以上より、本実施例によれば、隙間に多孔質材料を設けることにより、剛体部材間の隙間の透過音の粒子速度を抑制できることを確認した。
(実施例2)
実施例2では、剛体部材間の隙間に、多孔質材料を設けた場合と、多孔質材料を設けなかった場合との音圧を調べた。
実施例1と同様の条件で、鏡像を考慮した境界要素法による数値解析により、図25に示す0.04m四方の領域について、多孔質材料を隙間に設けた場合と、多孔質材料を隙間に設けなかった場合との隙間近傍の音圧を求めた。その結果を図28及び図29に示す。図28は、隙間に多孔質材料が設けられなかった場合の結果を示し、図29は隙間に多孔質材料が設けられた場合の結果を示す。図28及び図29の左のグラフにおいて、横軸は、図25におけるx軸の位置を示し、縦軸は、図25におけるy軸の位置を示す。図28及び図29の右のグラフは、音圧(単位:Pa)を示し、色が薄くなるほど、音圧が大きいことを示す。
図28に示すように、隙間に多孔質材料が設けられない場合には、隙間では、音圧が急激に変化していることが分かる。一方、図29に示すように、隙間に多孔質材料を設置した場合には、音圧変化が緩やかになっており、透過領域においても透過音を低減できることが確認できた。
以上より、本実施例によれば、隙間に多孔質材料を設けることにより、音圧分布から、剛体部材間の隙間の透過音を低減できることを確認した。
(実施例3)
実施例3では、剛体部材間の隙間に、多孔質材料を設けた場合と、多孔質材料を設けなかった場合との音響インテンシティを調べた。
実施例1と同様の条件で、鏡像を考慮した境界要素法による数値解析により、図25に示す0.04m四方の領域について、多孔質材料を隙間に設けた場合と、多孔質材料を隙間に設けなかった場合との音響インテンシティの分布の計算を行った。その結果を図30及び図31に示す。図30は、隙間に多孔質材料が設けられなかった場合の結果を示し、図31は隙間に多孔質材料が設けられた場合の結果を示す。
図30に示すように、隙間に多孔質材料が設けられなかった場合には、隙間で音響インテンシティが大きくなり、結果として透過音も大きくなっていることが分かる。図31に示すように、隙間に多孔質材料を設けた場合には、隙間の透過側の音響インテンシティが小さくなり、結果として、透過音が小さくなっていることが分かる。
以上より、本実施例によれば、隙間に多孔質材料を設けることにより、音響インテンシティ分布から、剛体部材間の隙間を透過するエネルギーを低減できることを確認した。
(実施例4)
実施例4では、4条件の高さの隙間について、多孔質材料を設けることによる音響透過損失を調べた。
具体的には、1/4無限領域において方位角及び仰角を10°毎に計算し、それを統計的に平均することで乱入条件とした。隙間の遮音性能として、隙間に入射する音のx軸方向のインテンシティと、隙間の透過側のx軸方向のインテンシティとの比により音響透過損失を求めた。隙間の幅を1mとし、隙間の高さを0.001m、0.003m、0.005m及び0.01mの4条件とし、鏡像を考慮した境界要素法による数値解析により、50〜4kHzまで5Hzごとに、多孔質材料がないときに対して多孔質材料を設けたときの透過損失を相対的に比較した結果を図32に示す。図32において、横軸は周波数を示し、縦軸は透過損失の相対比較を示す。図32は、多孔質材料が設けられていない場合と比較して、多孔質材料が設けられた場合に遮音性能がどの程度向上するかを示している。
図32に示すように、隙間が狭いほど、隙間に多孔質材料を設置することによる遮音効果が向上することが分かる。また、多孔質材料を隙間に設けることにより、低周波数域では20〜40dB程度、高周波数域では10〜20dB程度の改善が見られ、特に低周波数域で多孔質材料を設置することによる効果が高いことが分かる。
(実施例5)
実施例5では、剛体部材間の隙間に設ける多孔質材料の流れ抵抗による音響透過損失を調べた。
具体的には、実施例4と同様に、隙間部に入射する音のx軸方向のインテンシティと、隙間の透過側のx軸方向のインテンシティとの比により音響透過損失を求めた。隙間の幅を1mとし、隙間の高さを0.001m及び0.01mとし、50〜4kHzまで5Hzごとに、多孔質材料がないときに対して、種々の流れ抵抗及び面密度を有する多孔質材料を用いたときの透過損失を相対的に比較した。隙間の高さが0.001mのときの結果を図33に示し、隙間の高さが0.01mのときの結果を図34に示す。図33及び図34において、横軸は周波数を示し、縦軸は透過損失の相対比較を示す。図33及び図34は、多孔質材料がない場合と比較して、所定の流れ抵抗及び面密度を有する多孔質材料を設けた場合に遮音性能がどの程度向上するかを示している。
図33及び図34に示すように、隙間の高さによらず、10N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料を隙間に配置することにより、遮音効果が向上することが分かる。また、図33に示すように、隙間が小さい場合には、30N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料を隙間に配置することにより、500Hzの周波数において約5dB改善されていることからも、遮音効果をより向上できることが分かる。
また、図33及び図34に示すように、隙間の高さによらず、0.1kg/m2以上の面密度を有する多孔質材料を隙間に配置することにより、遮音効果が向上することも分かる。
以上より、本実施例によれば、10N・s/m3以上の流れ抵抗を有する多孔質材料を剛体部材間の隙間に設けることにより、遮音効果が向上することを確認した。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。