[実施例1]
1.定着装置を備えた画像形成装置の概略説明
図1は本実施例1に係る像加熱装置を定着装置(定着器)として搭載している画像形成装置100の概略構成図である。この画像形成装置100は、電子写真方式のレーザービームプリンタである。
ここで、以下の説明においては、記録材Pの扱いに関して、給紙、通紙、通紙部、非通紙部、非通紙域、排紙、紙粉等の紙にまつわる用語を用いるが、記録材Pは紙に限られるものではない。
101は像担持体としての感光体ドラムであり、矢示の時計方向に所定のプロセススピード(周速度)にて回転駆動する。感光体ドラム101はその回転過程で帯電ローラ102により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。
103は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。スキャナ103は、不図示のコンピュータ等の外部機器から入力され、画像処理手段によって生成されたデジタル画像信号に対応してオン/オフ変調されたレーザー光Lを出力して、感光体ドラム101の帯電処理面を走査露光する。この走査露光により感光体ドラム101表面の露光明部の電荷が除電されて感光体ドラム101表面に画像信号に対応した静電潜像が形成される。
104は現像装置であり、現像ローラ104aから感光体ドラム101表面に現像剤(トナー)が供給されて、感光体ドラム101表面の静電潜像は、可転写像であるトナー像として順次に現像される。
105は給紙カセットであり、記録材Pを積載収納させてある。給紙スタート信号に基づいて給紙ローラ106が駆動されて、給紙カセット105内の記録材Pは、一枚ずつ分離給紙される。そして、レジストローラ対107を介して、感光体ドラム101と接触して従動回転する転写ローラ108との当接ニップ部である転写部位108Tに、所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101上のトナー像の先端部と記録材Pの先端部とが、同時に転写部位108Tに到達するように、レジストローラ107で記録材Pの搬送が制御される。
その後、記録材Pは転写部位108Tを挟持搬送され、その間、転写ローラ108には不図示の転写バイアス印加電源から所定に制御された転写電圧(転写バイアス)が印加される。転写ローラ108にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加され、転写部位108Tにおいて感光体ドラム101表面側のトナー像が記録材Pの表面に静電的に転写される。転写後の記録材Pは、感光体ドラム101表面から分離されて搬送ガイド109を通り定着装置Aに導入される。
記録材Pは定着装置Aにおいて、トナー画像の熱定着処理を受ける。一方、記録材Pに対するトナー像転写後の感光体ドラム101表面はクリーニング装置110で転写残トナーや紙粉等の除去を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。定着装置Aを通った記録材Pは、排紙口111から排紙トレイ112上に排出される。
2. 定着装置の概略説明
本実施例1において、定着装置Aは電磁誘導加熱方式の装置である。図2は定着装置Aの要部の横断側面模型図、図3は要部の正面模型図、図4は要部の斜視図である。
加圧部材(ニップ形成部材)としての加圧ローラ8は、芯金8aと、前記芯金周りに同心一体にローラ状に成形被覆させた耐熱性・弾性材層8bとで構成されており、表層に離型層8cを設けてある。弾性層8bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等で耐熱性がよい材質が好ましい。芯金8aの両端部は装置の不図示のシャーシ側板金間に導電性軸受けを介して回転自由に保持させて配設してある。
また、図3中加圧用ステー5の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材18a、18bとの間にそれぞれ加圧バネ17a、17bを縮設することで加圧用ステー5に押し下げ力を作用させている。なお、本実施例の定着装置Aでは、総圧約100N〜250N(約10kgf〜約25kgf)の押圧力を与えている。
これにより、耐熱性樹脂PPS等で構成されたスリーブガイド部材6の下面と加圧ローラ8の上面とが、導電層を有する筒状の回転体(加熱回転体)である定着スリーブ1を挟んで圧接して記録材搬送方向Yにおいて所定幅の定着ニップ部Nが形成される。
加圧ローラ8は不図示の駆動手段により矢示の反時計方向に回転駆動され、定着ニップ部Nにおける定着スリーブ1の外面との摩擦力で定着スリーブ1に回転力が作用する。これにより、定着スリーブ1が、その内面が定着ニップNにおいてスリーブガイド部材6の面に密着して摺動しながら矢示の時計方向に従動回転する。記録材Pは定着ニップ部Nに導入されて挟持搬送される。
フランジ部材12a・12bはスリーブガイド6の左右両端部(一端側と他端側)に外嵌され、左右位置を規制部材13a・13bで固定しつつ回転自在に取り付けられている。そして、定着スリーブ1の回転時に定着スリーブ1の端部を受けて定着スリーブのスリーブガイド部材長手に沿う寄り移動を規制する役目をする。フランジ部材12a・12bの材質としては、LCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)樹脂等の耐熱性の良い材料が好ましい。
ここで、定着装置Aに関して、正面側とは記録材Pを導入する側である。左右とは定着装置Aを正面側から見て左または右である。
導電層を有する回転可能な円筒形回転体としての定着スリーブ1は、直径10〜50mmの基層となる導電性部材でできた発熱層(導電層)1aと、その外面に積層した弾性層1bと、その外面に積層した離型層1cの複合構造の筒状の回転体である。
発熱層1aは、膜厚10〜50μmの金属フィルムとし、弾性層1bは、硬度が20度(JIS−A、1kg加重)のシリコーンゴムを0.3mm〜0.1mm成形し、長手長さは260mmである。そして、弾性層1b上に表層1c(離型層)として50μm〜10μmの厚さのフッ素樹脂チューブを被覆している。
この発熱層1aに対し、交番磁束を作用させ、誘導電流を発生させて発熱する。この熱が弾性層1b、離型層1cに伝達されて、定着スリーブ1全体が加熱され、定着ニップNに通紙される記録材Pを加熱してトナー像Tの定着がなされる。
発熱層1aに対し、交番磁束を作用させ、誘導電流を発生させる機構について説明する。図4は定着装置構成の斜視図である。本実施例では、磁性芯材としての磁性コア2は、不図示の固定手段で定着スリーブ1の中空部を貫通(挿通)して配置され、磁極NP,SPを持つ直線状の開磁路(磁路の一部が断絶した開磁路)を形成している。即ち、定着スリーブ1の中空部には母線方向に長い磁性コア2が挿通されている。磁性コア2は発熱層1aにの外側でループを形成せず、磁路の一部が断絶した開磁路を形成している。
励磁コイル3は、通常の単一導線を定着スリーブ1の中空部において、磁性コア2の長手方向に交差する方向で磁性コア2に螺旋状に巻回されて形成される。即ち、励磁コイル3は、中空部において磁性コア2に直接もしくはボビンなどの他物を介して巻かれている。励磁コイル3の給電接点部3a,3bを介して高周波コンバータ16などで高周波電流(交番電流、交流電流)を流す磁性コア2の内部に磁束を発生させる。即ち定着スリーブ1の母線方向に平行の磁束を発生させることができる。
40は制御回路部(制御部)である。温度検知素子9、10、11は非接触型サーミスタなどによって構成され、定着スリーブ1の温度を検知する。温度検知素子9、10、11の信号は定着温度制御部44においてあらかじめ設定された目標温度と比較され、その比較結果から高周波コンバータ16に投入する電力が決定される。電力制御部46は上記設定された電力を高周波コンバータ16に投入する。
本実施例では、以下のように電力調整を実施する。定着スリーブ1が所望の長手発熱分布となるように、図4に示す周波数制御部45において、駆動周波数を設定する。次にエンジン制御部43は、温度検知素子9における検知温度、プリンタコントローラ41から得られる記録材情報、画像情報、及びプリント枚数情報等を基に定着スリーブ1の目標温度を設定する。
その後、定着温度制御部44において目標温度と温度検知素子9の検知温度を比較して出力電圧を決定する。上記決定された電圧値に従い、電圧波形の振幅を電力制御部46で調整する。出力された電圧は高周波コンバータ16により所定の駆動周波数に変換され、励磁コイル3に印加される。
プリンタコントローラ41はホストコンピュータ42との間で通信と画像データの受信、及び受け取った画像データをプリンタが印字可能な情報に展開すると共に、エンジン制御部43との間で信号のやり取り及びシリアル通信を行う。
エンジン制御部43はプリンタコントローラ41との間で信号のやり取りを行い、さらに、シリアル通信を介してプリンタエンジンの電力制御部46、定着温度制御部44の制御を行う。定着温度制御部44は検温素子9によって検出された温度を基に定着装置Aの温度制御を行う。電力調整手段としての電力制御部46は励磁コイル3に印加する電圧を調整して高周波コンバータ16の電力の制御を行う。
このようなプリンタ制御部40を有するプリンタシステムにおいて、ホストコンピュータ42は画像データを転送したり、ユーザからの要求に応じて記録材サイズ等、様々なプリント条件を設定したりする。
3、定着装置の発熱メカニズム
図15の(a)を用いて本実施例の定着装置Aの発熱メカニズムについて説明する。励磁コイル3に交流電流を流して生じた磁力線が筒状の導電層1aの内側の磁性コア2の内部を導電層1aの母線方向(SからNに向かう方向)に通過し、磁性コア2の一端(N)から導電層の外側に出て磁性コア2の他端(S)に戻る。その結果、導電層1aの内側を導電層1aの母線方向に貫く磁束の増減を妨げる方向の磁力線を発生させる誘導起電力が導電層1aに生じて導電層の周方向に電流が誘導される。
この誘導電流によるジュール熱で導電層1aが発熱する。この導電層1aに生じる誘導起電力Vの大きさは、下記の式(500)から導電層1aの内部を通過する単位時間当たりの磁束の変化量(Δφ/Δt)及び励磁コイルの巻き数(N)に比例する。
V: 誘導起電力
N: 励磁コイル巻き数
ΔΦ/Δt: 微小時間Δtでの回路を垂直に貫く磁束の変化
4、導電層の外側を通る磁束の割合と電力の変換効率との関係
ところで、図15の(a)の磁性コア2はループを形成しておらず端部を有する形状である(開磁路)。図15の(b)のような磁性コア2が導電層1aの外でループ(閉磁路)を形成している定着装置における磁力線は、磁性コア2に誘導されて導電層1aの内側から外側に出て内側に戻る。
しかしながら、本実施例のように磁性コア2が端部を有する構成(開磁路)の場合、磁性コア2の端部から出た磁力線を誘導するものはない。そのため、磁性コア2の一端を出た磁力線が磁性コアの他端に戻る経路(NからS)は、導電層1aの外側を通る外側ルートと、導電層1aの内側を通る内側ルートと、のいずれも通る可能性がある。
以後、導電層1aの外側を通って磁性コア2のNからSに向かうルートを外側ルート、導電層1aの内側を通って磁性コア2のNからSに向かうルートを内側ルートと呼ぶ。
この磁性コア2の一端から出た磁力線のうち外側ルートを通る磁力線の割合は、励磁コイル3に投入した電力のうち導電層1aの発熱で消費される電力(電力の変換効率)と相関があり、重要なパラメータである。外側ルートを通る磁力線の割合が増加する程、励磁コイル3に投入した電力のうち導電層1aの発熱で消費される電力の割合(電力の変換効率)は高くなる。
この理由は、トランスにおいて漏れ磁束が十分少なく、トランスの1次巻線と2次巻線の中を通過する磁束の数が等しいと電力の変換効率は高くなることと原理は同じである。つまり、本実施例においては、磁性コア2の内部を通過する磁束と、外側ルートをに通過する磁束の数が近い程、電力の変換効率は高くなり、励磁コイル3に流した高周波電流を導電層1aの周回電流として効率よく電磁誘導できることになる。
これは、図15の(a)における磁性コア2の内部をSからNに向かう磁力線と、内側ルートを通る磁力線は向きが反対であるから、磁性コア2を含めた導電層1aの内側全体で見ると、これらの磁力線は打ち消しあうことになる。その結果、導電層1aの内側全体をSからNに向かって通過する磁力線の数(磁束)が減り単位時間当たりの磁束の変化量が小さくなる。単位時間当たりの磁束の変化量が減少すると、導電層1aに生じる誘導起電力が小さくなり、導電層1aの発熱量が小さくなる。
以上述べたことから、本実施例の定着装置Aは必要な電力の変換効率を得るために外側ルートを通る磁力線の割合を管理することが重要になる。
5、導電層の外側を通る磁束の割合を示す指標
そこで、定着装置Aにおける外側ルートを通る磁力線の割合を磁力線の通り易さをパーミアンスという指標を用いて表す。まず、一般的な磁気回路の考え方について説明する。磁力線が通る磁路の回路を電気回路に対して磁気回路という。磁気回路において磁束を計算する際、電気回路の電流の計算に準じて行うことができる。磁気回路は、電気回路に関するオームの法則が適用可能である。電気回路の電流に対応する磁束をΦと、起電力に対応する起磁力をVと、電気抵抗に対応する磁気抵抗をRと、すると、次の式(501)を満たす。
Φ=V/R・・・(501)
しかし、ここでは原理をより理解しやすく説明するために磁気抵抗Rの逆数であるパーミアンスPを用いて説明する。パーミアンスPを用いると、上式(501)は次の式(502)ように表せる。
Φ=V×P・・・(502)
更に、このパーミアンスPは、磁路の長さをBと、磁路の断面積をSと、磁路の透磁率をμと、すると下記の式(503)のように表せる。
P=μ×S/B・・・(503)
で表される。パーミアンスPは、断面積S及び透磁率μに比例し、磁路の長さBに反比例する。
図16の(a)は、導電層1aの内側に、半径a1[m]、長さB[m]、比透磁率μ1の磁性コア2に、励磁コイル3を螺旋軸が導電層1aの母線方向と略平行になるようにN[回]巻いたものを表した図である。ここで、導電層1aは、長さB[m]、内径a2[m]、外径a3[m]、比透磁率μ2の導体である。導電層の内側及び外側の真空の透磁率をμ0[H/m]とする。励磁コイル3に電流I[A]を流したときに、磁性コア2の単位長さ当たりに発生する磁束をφc(x)とする。
図16の(b)は、磁性コア2の長手方向に垂直な断面図である。図中の矢印は、励磁コイル3に電流Iを流したときに、磁性コア2の内部、導電層1aの内側、導電層1aの外側を通る磁性コア2の長手方向に平行な磁束を表している。磁性コア2の内部を通る磁束をφc(=φc(x))、導電層1aの内側(導電層1aと磁性コア2の間の領域)を通る磁束をφa_in、導電層そのものを通る磁束をφs、導電層の外側を通る磁束をφa_outとする。
図17の(a)に、図15の(a)に示した単位長さ当たりの磁性コア2、励磁コイル3、導電層1aを含む空間の磁気等価回路を示す。磁性コア2を通る磁束φcにより生じる起磁力をVm、磁性コア2のパーミアンスをPc、導電層1aの内側のパーミアンスをPa_in、フィルムの導電層1aそのものの内部のパーミアンスをPs、導電層の外側のパーミアンスをPa_outとする。
ここで、PcがPa_in及びPsに比べて十分に大きい時、磁性コア2の内部を通過して磁性コア2の一端から出た磁束は、φa_in、φs、φa_outの何れかを通過して磁性コア2の他端に戻ると考えられる。よって、以下の関係式(504)が成り立つ。
φc=φa_in+φs+φa_out・・・(504)
また、φc、φa_in、φs、φa_outはそれぞれ以下の式(505)〜(508)で表される。
φc=Pc×Vm ・・・(505)
φs=Ps×Vm ・・・(506)
φa_in=Pa_in×Vm ・・・(507)
φa_out=Pa_out・Vm ・・・(508)
よって、式(504)に(505)〜(508)を代入するとPa_outは次の式(509)示すように表される。
Pc×Vm=Pa_in×Vm+Ps×Vm+Pa_out×Vm
=(Pa_in+Ps+Pa_out)×Vm
∴Pa_out=Pc−Pa_in−Ps ・・・(509)
図16の(b)より、磁性コア2の断面積をSc、導電層1aの内側の断面積をSa_in、導電層1a自身の断面積をSs、とすると、は以下のように、「透磁率×断面積」で表すことができ、単位は[H・m]である。
Pc=μ1・Sc=μ1・π(a1)2 ・・・(510)
Pa_in=μ0・Sa_in=μ0・π・((a2)2−(a1)2)
・・・(511)
Ps=μ2・Ss=μ2・π・((a3)2−(a2)2) ・・・(512)
これらの(510)〜(512)を式(509)に代入すると、Pa_outは式(513)で表せる。
Pa_out=Pc−Pa_in−Ps
=μ1・Sc−μ0・Sa_in−μ2・Ss
=π・μ1・(a1)2
−π・μ0・((a2)2−(a1)2)
−π・μ2・((a3)2−(a2)2) ・・・(513)
上記の式(513)を使用することによって導電層1aの外側を通る磁力線の割合であるPa_out/Pcを計算することができる。
尚、パーミアンスPの代わりに磁気抵抗Rを用いても良い。磁気抵抗Rを用いて議論する場合、磁気抵抗Rは単純にパーミアンスPの逆数であるので、単位長さ当たりの磁気抵抗Rは「1/(透磁率×断面積)」で表すことができて、単位は「1/(H・m)」である。
以下、実施例の装置のパラメータを使用して具体的な計算した結果を表1に示す。
磁性コア2は、フェライト(比透磁率1800)で形成され、直径14[mm]であって、断面積は1.5×10-4[m2]である。スリーブガイド6は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)(比透磁率1.0)で形成され、断面積は1.0×10-4[m2]である。導電層1aは、アルミニウム(比透磁率1.0)で形成され、直径24[mm]、厚み20[μm]で断面積1.5×10-6[m2]である。
尚、導電層1aと磁性コア2の間の領域の断面積は、直径24[mm]の導電層の内側の中空部の断面積から磁性コアの断面積とスリーブガイド6の断面積を差し引いて計算している。弾性層1b及び表層1cは、導電層1aより外側に設けられており、発熱に寄与しない。従って、パーミアンスを計算する磁気回路モデルにおいては導電層の外側の空気層であるとみなすことができるので計算に入れる必要はない。表1からPc、Pa_in、Psは、次のような値になる。
Pc=3.5×10-7[H・m]
Pa_in=1.3×10-10+2.5×10-10[H・m]
Ps=1.9×10-12 [H・m]
これらの値を用いて、次の式(514)からPa_out/Pc計算することができる。
Pa_out/Pc=(Pc−Pa_in−Ps)/Pc
=0.999(99.9%) ・・・(514)
尚、磁性コア2を長手方向で複数に分割し、分割した各磁性コア同士の間に空隙(ギャップ)を設ける場合もある。この場合、この空隙が空気又は比透磁率が1.0とみなせるものや磁性コアの比透磁率よりもずっと小さいもので満たされている場合、磁性コア2全体の磁気抵抗Rは大きくなり磁力線を誘導する機能が劣化することになる。
このような分割された磁性コア2のパーミアンスの計算方法は複雑になる。以下に、磁性コアを複数分割し、空隙またはシート状非磁性体を挟んで等間隔に並べた場合の磁性コア全体のパーミアンスの計算方法について説明する。この場合長手全体の磁気抵抗を導出し、それを全体長さで割って単位長さ当たりの磁気抵抗を求め、その逆数を取って単位長さ当たりのパーミアンスを求める必要がある。
まず、磁性コアの長手方向の構成図を図18に示す。磁性コアc1〜c10は、断面積Sc、透磁率μc、分割された磁性コア1個当たりの幅Lcとし、ギャップg1〜g9は、断面積Sg、透磁率μg、1ギャップ当たりの幅Lgとする。この磁性コアの長手方向における全体の磁気抵抗Rm_allは、以下の式(515)で与えられる。
Rm_all=(Rm_c1+Rm_c2+・・・・・+Rm_c10)+
(Rm_g1+Rm_g2+・・・・・+Rm_g9)
・・・(515)
本構成の場合は、磁性コアの形状と材質、ギャップ幅は一様であるので、Rm_cの足し合わせた合計をΣRm_c、Rm_gの足し合わせた合計をΣRm_gとすると、次の式(516)〜(518)のように表せる。
Rm_all=(ΣRm_c)+(ΣRm_g)・・・(516)
Rm_c=Lc/(μc・Sc)・・・(517)
Rm_g=Lg/(μg・Sg)・・・(518)
式(516)に式(517)及び式(518)を代入して、長手全体の磁気抵抗Rm_allは次の式(519)のように表せる。
Rm_all=(ΣRm_c)+(ΣRm_g)
=(Lc/(μc・Sc))×10+(Lg/(μg・Sg))×9
・・・(519)
ここで、単位長さ当たりの磁気抵抗Rmは、Lcの足し合わせた合計をΣLc、Lgの足し合わせた合計をΣLgとすると次の式(520)となる。
Rm=Rm_all/(ΣLc+ΣLg)
=Rm_all/(L×10+Lg×9) ・・・(520)
以上から、単位長さあたりのパーミアンスPmは、以下の式(521)ように求められる。
Pm=1/Rm=(ΣLc+ΣLg)/Rm_all
=(ΣLc+ΣLg)/[{ΣLc/(μc+Sc)}+{ΣLg/(μg+Sg)}]
・・・(521)
ギャップLgを大きくすることは、磁性コア2の磁気抵抗の増加(パーミアンスの低下)につながる。本実施例の加熱装置を構成する上で、発熱原理上、磁性コア2の磁気抵抗が小さく(パーミアンスが大きく)なるように設計することが望ましいため、ギャップを設けることはあまり望ましくない。しかし、磁性コア2の破損防止のために磁性コア2を複数に分割してギャップを設ける場合がある。
以上述べたことから、外側ルートを通る磁力線の割合をパーミアンスもしくは磁気抵抗を使って表すことができることを示した。
6、装置に必要な電力の変換効率
次に、本実施例の定着装置で必要な電力の変換効率について述べる。例えば、電力の変換効率が80%である場合、残り20%の電力は導電層以外の励磁コイルや磁性コア等で熱エネルギーに変換されて消費される。電力の変換効率が低い場合は、磁性コアや励磁コイル等の発熱すべきでないものが発熱し、それらを冷却するための対策を講じる必要性がある場合がある。
そこで、導電層1aの外側ルートを通る磁束の割合を振って電力の変換効率を評価する。図19は、電力の変換効率の測定実験に用いる実験装置を表した図である。金属シート1Sは、幅230mm、長さ600mm、厚み20μmのアルミニウム製のシートである。この金属シート1Sを磁性コア2と励磁コイル3とを囲むように円筒状に丸めて、太線1ST部分において導通することによって導電層とする。
磁性コア2は、比透磁率が1800、飽和磁束密度が500mTのフェライトであり、断面積26mm2、長さ230mmの円柱形状をしている。磁性コア2を不図示の固定手段でアルミニウムシート1Sの円筒のほぼ中央に配置する。磁性コア2には励磁コイル3が巻数25回で螺旋状に巻かれている。金属シート1Sの端部を矢印1SZ方向に引くと、導電層の直径1SDを18〜191mmの範囲で調整することができる。
図20は、導電層の外側ルートを通過する磁束の比率[%]を横軸にとり、21kHzの周波数における電力の変換効率を縦軸にとったグラフである。図20のグラフ中のプロットP1以降に電力の変換効率が急上昇して70%を超えており、矢印で示すレンジR1では電力の変換効率が70%以上を維持している。P3付近において電力の変換効率は再度急上昇し、レンジR2において80%以上となっている。P4以降のレンジR3においては電力の変換効率が94%以上と高い値で安定している。この、電力の変換効率が急上昇し始めたことは導電層に効率的に周回電流が流れ始めたためである。
下記の表2は、図20のP1〜P4に該当する構成を、実際に定着装置として設計し、評価した結果である。
(定着装置P1)
本構成は、磁性コアの断面積が26.5mm2(5.75mm×4.5mm)で、導電層の直径が143.2mmであり、外側ルートを通る磁束の割合は64%である。この装置のインピーダンスアナライザによって求めた電力の変換効率は54.4%であった。電力の変換効率は装置に投入した電力のうち、導電層の発熱に寄与した分を示すパラメータである。従って、最大1000W出力可能な装置として設計しても約450Wが損失となり、その損失は励磁コイル及び磁性コアの発熱となる。
本構成の場合、立ち上げ時、数秒間1000Wを投入しただけでも励磁コイル温度は200℃を超える場合がある。励磁コイルの絶縁体の耐熱温度が200℃後半であること、フェライトの磁性コアのキュリー点は通常200℃〜250℃程度であることを考えると、損失45%では励磁コイル等の部材を耐熱温度以下に保つことは難しくなる。また、磁性コアの温度がキュリー点を超えると励磁コイルのインダクタンスが急激に低下し、負荷変動となる。
定着装置に供給した電力の約45%が導電層の発熱に使用されないので、導電層に900W(1000Wの90%を想定)の電力を供給するためには約1636Wの電力供給する必要がある。これは100V入力時、16.36Aを消費する電源という事になる。商用交流のアタッチメントプラグから投入できる許容電流をオーバーする可能性がある。よって、電力の変換効率54.4%の装置P1は、定着装置に供給する電力が不足する可能性がある。
(定着装置P2)
本構成は、磁性コアの断面積はP1と同じで、導電層の直径が127.3mmであり、外側ルートを通る磁束の割合は71.2%である。この装置のインピーダンスアナライザによって求めた電力の変換効率は70.8%である。定着装置のスペックによっては、励磁コイル及び磁性コアの昇温が課題になる場合がある。本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置にすると、導電層の回転速度は330mm/secとなり、導電層の温度を180℃に維持する必要がある。導電層の温度を180℃に維持しようとすると、磁性コアの温度は20秒間で240℃を超える場合がある。
磁性コアとして用いるフェライトのキュリー温度は通常200℃〜250℃程度であるから、フェライトがキュリー温度を超えて磁性コアの透磁率は急激に減少し、磁性コアで磁力線を適切に誘導することができなくなる場合がある。その結果、周回電流を誘導して導電層を発熱させることが難しくなる場合がある。
従って、外側ルートを通過する磁束の割合がレンジR1の定着装置を、前述した高スペックの装置にすると、磁性コアの温度を下げるために冷却手段を設けることが望ましい。冷却手段としては、空冷ファン、水冷、放熱板、放熱フィン、ヒートパイプ、または、ベルチェ素子などを用いることができる。もちろん、本構成においてそこまでの高スペックを要求しない場合は、冷却手段は不要である。
(加熱装置P3)
本構成は、磁性コアの断面積はP1と同じであり、導電層の直径が63.7mmの場合である。この装置のインピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は83.9%である。磁性コア及び励磁コイル等に定常的に熱量が発生するものの、冷却手段が必要なレベルではない。
本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置にすると導電層の回転速度は330mm/secとなり導電層の表面温度を180℃に維持する場合があるものの、磁性コア(フェライト)の温度は220℃以上に上昇することはない。従って、本構成において、定着装置を前述した高スペックにする場合は、キュリー温度が220℃以上のフェライトを用いることが望ましい。
以上述べたことから、外側ルートを通る磁束の割合がレンジR2の構成の装置は、高スペックで使用する場合は、フェライト等の耐熱設計を最適化することが望ましい。一方、装置として高スペックを要求しない場合は、このような耐熱設計は不要である。
(加熱装置P4)
本構成は、磁性コアの断面積がP1と同じであり、円筒体の直径が47.7mmの場合である。この装置でインピーダンスアナライザによって求められる電力の変換効率は94.7%である。本構成の定着装置を60枚/分の印字動作ができる高スペックな装置(導電層の回転速度は330mm/sec)で導電層の表面温度を180℃に維持する場合であっても、磁性コアや励磁コイル等は、180℃以上に達することはない。従って、磁性コアや励磁コイル等を冷却する冷却手段及び特別な耐熱設計は不要である。
以上述べたことから、外側ルートを通過する磁束の割合が94.7%以上であるレンジR3は、電力の変換効率が94.7%以上となり電力の変換効率が十分高い。よって、更なる高スペックの定着装置として用いても、冷却手段は不要である。
また、電力の変換効率が高い値で安定しているレンジR3においては、導電層と磁性コアの位置関係の変動によって導電層の内側を通過する単位時間当たりの磁束の量が若干変動しても、電力の変換効率が変動量は小さく導電層の発熱量が安定する。可撓性を有するフィルムのように、導電層と磁性コアとの距離が変動しやすい定着装置において、この電力の変換効率が高い値で安定している領域R3を用いることは、大きなメリットがある。
以上述べたことから、本実施例の定着装置は少なくとも必要な電力の変換効率を満たすために外側ルートを通過する磁束の割合が72%以上である必要があることがわかる。表2の数値は71.2%以上であるが測定誤差等を考慮して72%とした。
7、装置が満たすべきパーミアンス又は磁気抵抗の関係式
導電層の外側ルートを通過する磁束の割合が72%以上であることは、導電層のパーミアンスと導電層の内側(導電層と磁性コアの間の領域)のパーミアンスとの和が磁性コアのパーミアンスの28%以下であることと等価である。従って、本実施例の特徴的な構成の一つは、磁性コアのパーミアンスをPc、導電層の内側のパーミアンスをPa、導電層のパーミアンスPsとした時に、次の式(522)を満足することである。
0.28×Pc≧Ps+Pa・・・(522)
また、パーミアンスの関係式を磁気抵抗に置き換えて表現すると下記の式(523)になる。ただし、RsとRaの合成磁気抵抗Rsaは以下の式(524)ように計算する。
Rc:磁性コアの磁気抵抗
Rs:導電層の磁気抵抗
Ra:導電層と磁性コアとの間の領域の磁気抵抗
Rsa:RsとRaの合成磁気抵抗
上記のパーミアンスもしくは磁気抵抗の関係式を、加熱装置の記録材の最大搬送領域全域で、円筒形回転体の母線方向に直交する方向の断面において満足することが望ましい。
同様に、本実施例のレンジR2の加熱装置は導電層の外側ルートを通過する磁束の割合が92%以上であるから、パーミアンスの関係式は以下の式(525)になる。
0.08×Pc≧Ps+Pa ・・・(525)
上記のパーミアンスの関係式を磁気抵抗の関係式に変換すると以下の式(526)ようになる。
更に、本実施例のレンジR3の加熱装置は導電層の外側ルートを通過する磁束の割合が95%以上である。表2から正確には94.7%以上であるが測定誤差等を考慮して95%とする。導電層のパーミアンスと導電層の内側(導電層とじせい磁性コアの間の領域)のパーミアンスとの和が磁性コアのパーミアンスの5%以下と等価である。パーミアンスの関係式は以下の(527)ようになる。
0.05×Pc≧Ps+Pa ・・・(527)
上記のパーミアンスの関係式(527)を磁気抵抗の関係式に変換すると以下の式(528)になる。
ところで、定着装置の最大の画像領域内の部材等が長手方向で均一な断面構成を有している定着装置についてパーミアンス及び磁気抵抗の関係式を示した。ここでは、長手方向で装置を構成する部材が不均一な断面構成を有する定着装置について説明する。図21は、導電層の内側(磁性コアと導電層の間の領域)に温度検知部材9を有している。定着装置は導電層1aを有するフィルム1と、磁性コア2と、ニップ部形成部材(フィルムガイド)6と、を備える。
磁性コア2の長手方向をX軸方向とすると、最大画像形成領域はX軸上の0〜Lpの範囲である。例えば、記録材の最大搬送領域をLTRサイズ215.9mmとする画像形成装置の場合、Lp=215.9mmとすれば良い。温度検知部材9は、比透磁率1の非磁性体によって構成されており、X軸に垂直方向の断面積は5mm×5mmであり、X軸に平行方向の長さは10mmである。X軸上のL1(102.95mm)からL2(112.95mm)の位置にて配置されている。
ここで、X座標上0〜L1を領域1、温度検知部材9が存在するL1〜L2を領域2、L2〜LPを領域3と、呼ぶ。領域1における断面構造を図22のA)に、領域2における断面構造を図22のB)に示す。図22のB)に示すように、温度検知部材9はフィルム1に内包されているため、磁気抵抗計算の対象となる。
厳密に磁気抵抗計算を行うためには、領域1と、領域2と、領域3と、に対し、別々に「単位長さ当たりの磁気抵抗」を求め、各領域の長さに応じて積分計算を行い、それらを足し合わせて合成磁気抵抗を求める。まず、領域1または3における各部品の単位長さ当たりの磁気抵抗を、下記の表3に示す。
領域1における磁性コアの単位長さ当たりの磁気抵抗rc1は下記のようになる。
rc1=2.9×106[1/(H・m)]
ここで、導電層と磁性コアとの間の領域の単位長さ当たりの磁気抵抗raは、フィルムガイドrfの単位長さ当たりの磁気抵抗と導電層の内側の磁気抵抗rairの単位長さ当たりの磁気抵抗との合成磁気抵抗である。従って、下記の式(529)を用いて計算できる。
計算の結果、領域1における磁気抵抗ra1、及び、領域1における磁気抵抗rs1は下記のようになる。
ra1=2.7×109[1/(H・m)]
rs1=5.3×1011[1/(H・m)]
また、領域3は領域1と同じであるから下記のようになる。
rc3=2.9×106[1/(H・m)]
ra3=2.7×109[1/(H・m)]
rs3=5.3×1011[1/(H・m)]
次に、領域2における各部品の単位長さ当たりの磁気抵抗を下記の表4に示す。
領域2の磁性コアの単位長さ当たりの磁気抵抗rc2は下記のようになる。
rc2=2.9×106[1/(H・m)]
導電層と磁性コアの間の領域の単位長さ当たりの磁気抵抗raは、フィルムガイドrfの単位長さ当たりの磁気抵抗と、サーミスタrtの単位長さ当たりの磁気抵抗と、導電層の内側の空気rairの単位長さ当たりの磁気抵抗と、の合成磁気抵抗である。従って下記の式(530)で計算できる。
計算の結果、領域2のおける単位長さ当たりの磁気抵抗ra2及び単位長さ当たりの磁気抵抗rc2は下記のようになる。
ra2=2.7×109[1/(H・m)]
rs2=5.3×1011[1/(H・m)]
領域3の計算方法は領域1と同じであるので省略する。
尚、導電層と磁性コアの間の領域の単位長さ当たりの磁気抵抗raにおいて、ra1=ra2=ra3となっている理由について説明する。領域2における磁気抵抗計算は、サーミスタ9の断面積が増加し、導電層の内側の空気の断面積が減少している。しかし両方とも比透磁率は1であるため、結局検温素子9の有無によらず磁気抵抗は同一となる。
すなわち、導電層と磁性コアの間の領域に非磁性体のみが配置されている場合には、磁気抵抗の計算は空気と同じ扱いをしても、計算上の精度としては十分である。なぜなら、非磁性体の場合、比透磁率は殆ど1に近い値になるからである。これとは逆に、磁性体(ニッケル、鉄、珪素鋼等)の場合は、磁性体ある領域をその他の領域と分けて計算した方が良い。
導電層の母線方向の合成磁気抵抗としての磁気抵抗R[A/Wb(1/H)]の積分は、各領域の磁気抵抗r1,r2,r3[1/(H・m)]に対して下記の式(531)ように計算できる。
従って、記録材の最大搬送領域の一端から他端までの区間における磁性コアの磁気抵抗Rc[H]は下記の式(532)ように計算できる。
また、記録材の最大搬送領域の一端から他端までの区間における導電層と磁性コアとの間の領域の合成磁気抵抗Ra[H]は、下記の式(533)ように計算できる。
記録材の最大搬送領域の一端から他端までの区間における導電層の合成磁気抵抗Rs[H]は次の式(534)のようになる。
上記の計算を、それぞれの領域において行ったものを以下表5に示す。
上記表5から、Rc、Ra,Rsは下記のようになる。
Rc=6.2×108[1/H]
Ra=5.8×1011[1/H]
Rs=1.1×1014[1/H]
RsとRaの合成磁気抵抗Rsaは以下の式(535)で計算できる。
以上の計算から、Rsa=5.8×1011[1/H]となるので、下記の式(536)を満たしている。
このように、導電層の母線方向で不均一な横断面形状を有している加熱装置の場合は、導電層の母線方向で複数の領域に分けて、その領域毎に磁気抵抗を計算し、最後にそれらを合成したパーミアンス又は磁気抵抗を計算すればよい。ただし、対象となる部材が非磁性体である場合は、透磁率がほぼ空気の透磁率と等しいため、空気とみなして計算して良い。
次に、上記計算に計上すべき部品について説明する。導電層と磁性コアとの間の領域にあり、少なくとも一部が記録材の最大搬送領域(0〜Lp)のに入っている部品に関しては、パーミアンス又は磁気抵抗を計算することが望ましい。
逆に、導電層の外側に配置された部材は、パーミアンス又は磁気抵抗を計算する必要はない。なぜなら、前述したようにファラデーの法則において誘導起電力は回路を垂直に貫く磁束の時間変化に比例するものであり、導電層の外側の磁束とは無関係だからである。また、導電層の母線方向における記録材の最大搬送領域外に配置した部材は、導電層の発熱には影響しないため、計算する必要はない。
8.プリンタ制御
図2に示すように定着装置Aの検温素子9、10、11は、記録材Pが定着装置Aに搬送されてくる上流側に配置する。長手方向は、図3に示すように中央および両端部の定着スリーブ対向位置に配設する。検温素子9、10、11は非接触型サーミスタなどによって構成される。これにより、定着スリーブ1は表面の温度が所定の目標温度に維持・調整される。
また、定着スリーブ1の端部付近に配設された検温素子10、11では、小サイズ記録材を連続プリントした時に記録材が通過しない、いわゆる非通紙域の昇温具合を検知することができる。
図4はプリンタ制御部40のブロック図である。プリンタコントローラ41は後述するホストコンピュータ42との間で通信と画像データの受信、及び受け取った画像データをプリンタが印字可能な情報に展開すると共に、エンジン制御部43との間で信号のやり取り及びシリアル通信を行う。
エンジン制御部43はプリンタコントローラ41との間で信号のやり取りを行い、さらに、シリアル通信を介してプリンタエンジンの各ユニット44〜46の制御を行う。定着温度制御部44は検温素子9、10、11によって検出された温度を基に定着装置Aの温度制御を行うと共に、定着装置Aの異常検出等を行う。
駆動周波数設定手段としての周波数制御部45は高周波コンバータ16の駆動周波数の制御を、電力調整手段としての電力制御部46は励磁コイルに印加する電圧を調整して高周波コンバータ16の電力の制御を行う。
このようなプリンタ制御部を有するプリンタシステムにおいて、ホストコンピュータ42はプリンタコントローラ41に画像データを転送したり、ユーザからの要求に応じてプリンタコントローラ41に記録材サイズ等、様々なプリント条件を設定する。
9.小サイズ通紙時の非通紙部領域における磁性コアの温度上昇(比較例1)
本項目では、後述する実施例1との比較をするために、比較例1として磁性コア2の周囲に、グラファイトシート4を設置しなかった場合の説明を行う。
磁性コア2の温度上昇に影響を及ぼす要因として、小サイズ記録材の通紙時の非通紙部昇温による影響が挙げられる。一般的に、定着装置の温度制御は、定着性を安定的に確保するために、通紙部に配置された検温素子9により制御される。しかしながら、その結果、通紙していない部分の熱量は記録材に奪わず蓄熱され温度が上昇し、伝熱や放熱により磁性コア2の温度を上昇させてしまう。
また、図5に示すように、磁性コア2の温度が上昇することにより、飽和磁束密度は低下し、その結果、磁気飽和しやすくなる傾向がある。磁気飽和すると、励磁コイル3のインダクタンスが急激に減少するため、回路に大電流が流れ、回路の破損を引き起こす。そのため、磁気飽和に至らないような飽和磁束密度を一定以下に保つ必要がある。飽和磁束密度を一定以下に保つためには、磁性コアの断面積を確保すればよい。
図6は、比較例1における、定着スリーブ1、磁性コア2、励磁コイル3の断面図である。また、上記P3構成において、定着装置を60枚/分の印字動作できるように導電層の回転速度は330mm/secで駆動する。そして、記録材上のトナーを定着させるために導電層の表面温度を180℃にキープする条件で、A5サイズ記録材を縦長で1000枚通紙した場合の、磁性コア2の長手の温度分布を図7に示す。
磁性芯材としての磁性コア2の材質は、ヒステリシス損が小さく比透磁率の高い材料、例えば、焼成フェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)や、パーマロイ等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が好ましい。ここでは、比透磁率1800の焼成フェライトを用いる。形状は円柱形状をしており、長手長さは280mmである。また、励磁コイル3は、隣り合う励磁コイル同士が26mmの一定間隔で、磁性コア2の周りに11turn巻かれている。励磁コイル3には、30kHzの高周波交流を印加している。
図7をみると、1000枚通紙した後の非通紙部での温度は、190℃に到達していることが分かる。この際、1000W出力する際に、発生する磁束を磁気飽和のない磁束密度にするためには、断面積を1.5×10-4[m2]以上、つまり直径約14[mm]以上にする必要があることが分かった。
10.小サイズ記録材通紙時の非通紙部領域における磁性コアの温度上昇(実施例1)
本項目では、実施例1の構成について説明する。図2は、実施例1における、定着スリーブ1、磁性コア2、励磁コイル3、熱伝導部材4の断面図である。図2に示す比較例1と同じ作用をするものには同一の番号を付している。また、図7に、実施例1における定着スリーブ1の長手方向の発熱分布を示している。
実施例1が比較例1(図6)と異なるのは、高熱伝導部材4が磁性コア2及び励磁コイル3の周囲に配置されていることであり、その他の構成要素の材料や寸法は比較例1と同じである。
高熱伝導部材は磁性コア2よりも熱伝導率が高い特性を有する部材である。アルミ、金、銀、銅等の熱伝導金属や、グラファイトシート等で構成される高熱伝導部材が好ましい。本実施例1では、励磁コイル3を巻き回した状態の磁性コア2の周囲に励磁コイル3の長手方向に沿って上記に高熱伝導部材4を配設している。即ち、高熱伝導部材4を磁性コア2と励磁コイル3を覆うように形成している。
本実施例1では高熱伝導部材4として、面方向の熱伝導率1000W/mKのグラファイトシート(パナソニック製、PGSグラファイトシート、70μm品)を用いた。この材料は異方性材料で、シート面方向の熱伝導率に対し、厚み方向の熱伝導率が100分の1程度であるため、厚み方向に熱が浸透する際に、面方向に緩和しやすいという特徴を持つ。
一方、これらの熱伝導材料は、本実施例で使用している定着スリーブ材料(SUS)と同程度で比抵抗10^‐6Ωm程度である。そのため、磁性コア2の周囲に、高熱伝導部材としてのグラファイトシート4を十分に周回させないようにしないと、グラファイトシート自体に周回電流が流れ、発熱してしまう上に、定着スリーブ1の発熱を阻害してしまうという問題が発生してしまう。
そこで、磁性コア2と励磁コイル3を覆うように配設した高熱伝導部材4には、周方向の一部に不連続部(断絶部、切欠き部)4aを形成してある。本実施例1においては、図2に示すように、グラファイトシート4の巻き付き始点Aと巻き付き終点Bを不連続部4aとして離間させて一定の距離を設けることで、グラファイトシート4に周回電流を発生させないようにしている。本実施例1では、始点Aと終点Bの離間距離(不連続部)を3mm程度確保することで、周回電流を発せないような構成にしている。
実施例1では比較例1と同様に励磁コイル3が隣り合う励磁コイル同士がピッチ26mmの一定間隔で、磁性コア2の周りに長手に沿って11turn巻かれている。
上記P3構成において、定着装置を60枚/分の印字動作できるように導電層の回転速度は330mm/secで駆動する。そして、記録材上のトナーを定着させるために導電層の表面温度を180℃にキープする条件で、A5サイズ紙を縦長で1000枚通紙した後の磁性コア2の長手温度分布を図7に示す。
図7をみると、A5サイズ紙を1000枚通紙した後の非通紙部での最も高い温度は、160℃に抑えられていることが分かる。これはグラファイトシート4の高熱伝導特性により磁性コア2の長手方向の均熱効果が図られたためである。
図8には、本構成において磁気飽和が発生する、磁性コア2の外径と温度の関係をプロットした。この図をみると分かるように、前記比較例1で磁性コア径をφ14にする必要があったものが、本実施例の構成によりφ12.7に小径化することができることが分かった。この結果、定着スリーブの内蔵物の断面積を縮小できるため、定着スリーブ自体の外径をさらに小さく形成させても内蔵物を納めることが可能となる。
なお、本実施例は、高熱伝導部材4を磁性コア2と励磁コイル3を覆うように形成したが、これに限らない。定着スリーブ1に蓄積された熱は、定着スリーブ内面からの放熱や伝熱により磁性コアに伝達され昇温する。従って、定着スリーブ内面と磁性コア2の間に高熱伝導部材4が形成されていればよい。例えば、磁性コア2と励磁コイル3の間に高熱伝導部材を形成させても同様な効果が得られる。
[実施例2]
本実施例は、定着スリーブ1内の中空部に閉磁路を形成する磁性コア2の一部を挿通している構成を開示するものである。定着装置A以外の画像形成装置構成は実施例1における図1の電子写真方式のレーザービームプリンタと同様であるから再度の説明は省略する。
1.定着装置置の概略説明
図9は本実施例2の定着装置Aの要部の斜視図、図10は図9に示すB−Bにおける断面図を示す。図11は定着装置Aの正面図及びプリンタ制御部40のブロック図である。
本実施例2の定着装置Aも実施例1の定着装置Aと同様に電磁誘導加熱方式の装置であり、定着スリーブ1内の中空部に閉磁路を形成する磁性コア2の一部を挿通している構成である点で実施例1の定着装置Aと相違している。実施例1の定着装置Aと共通する装置構成部材には同じ符号を付して再度の説明を省略する。横断面略コの字形状のステー5は加圧力を図9においてH方向に受けて図10に示すスリーブガイド部材(摺動部材)6を加圧ローラ2側へ押圧し、定着スリーブ1と加圧ローラ8との間に定着ニップNを形成する。
2.スリーブ内部に発生する誘導電流
図12は、励磁コイル3に矢印I1の向きに電流が増加している瞬間の磁界と誘導電流を示す図である。磁性コア2は、励磁コイル3にて生成された磁力線を内部に誘導し、磁路を形成する部材として機能する。そのため磁力線は、磁路に集中して通って、閉磁路を形成する。ここでこの磁路を垂直に囲むように、定着スリーブ1の発熱層1aを設置させた。磁性コア2の内部には交番磁界(時間と共に大きさと方向が変化を繰り返す磁界)が形成される。
この発熱層1aの周回方向には、ファラデーの法則に従って誘導起電力が発生する。ファラデーの法則とは、「発熱層1aに生じる誘導起電力Eの大きさは、その発熱層1aを垂直に貫く磁界Φの変化の割合に比例する」というものであり、誘導起電力は、
以下の式(4−1)で表される。
E: 誘導起電力
N: 励磁コイル巻き数
ΔΦ/Δt: 微小時間Δtでの回路を垂直に貫く磁束の変化
励磁コイル3にI1を流すと、磁性コア2内部には交番磁界が形成され、発熱層1aには長手全体に周回方向の誘導起電力がかかり、長手全域に周回電流I2が流れる。発熱層1aは電気抵抗を有するので、この周回電流I2が流れることによりジュール発熱する。この電流I2を誘導する動作原理は、同心軸トランスの磁気結合と等価である。
3.小サイズ記録材通紙時の非通紙部領域における磁性コアの温度上昇(比較例2)
本項目では、後述する実施例2との比較をするために、比較例2として磁性コア2の周囲に、グラファイトシート4を設置しなかった場合の説明を行う。図13は、比較例2における、定着スリーブ1、磁性コア2、励磁コイル3の断面図であり、グラファイトシート4は設置されていない。磁性コア2の温度上昇に影響を及ぼす要因は実施例1の9.項に記載したとおりである。
また、上記P3構成において、定着装置を60枚/分の印字動作できるように導電層の回転速度は330mm/secで駆動する。そして、記録材上のトナーを定着させるために導電層の表面温度を180℃にキープする条件で、A5サイズ記録材を縦長で1000枚通紙した場合の、磁性コア2の長手の温度分布を図14に示す。
磁性コア2の断面形状は円柱形状をしており、定着スリーブ1内での長手長さは280mmである。また、励磁コイル3は、隣り合う励磁コイル同士がピッチ26mmの一定間隔で、磁性コア2の周りに11turn巻かれている。励磁コイル3には、30kHzの高周波交流を印加している。
図14をみると、1000枚通紙した後の非通紙部での温度は、180℃に到達していることが分かる。この際、1000W出力する際に、発生する磁束を磁気飽和のない磁束密度にするためには、断面積を1.4×10-4[m2]以上、つまり直径約13.5[mm]以上にする必要があることが分かった。
3.小サイズ記録材通紙時の非通紙部領域における磁性コアの温度上昇(実施例2)
本項目では、後述する実施例2の構成について説明する。図10は、実施例2における、定着スリーブ1、磁性コア2、励磁コイル3、高熱伝導部材4の断面図である。図13に示す比較例2と同じ作用をするものには同一の番号を付している。また、図14に、実施例2における定着スリーブ1の長手方向の発熱分布を示している。
実施例2が比較例2と異なるのは、高熱伝導部材4が磁性コア2及び励磁コイル3の周囲に配置されていることであり、その他の構成要素の材料や寸法は比較例2と同じである。図10に示すように、実施例1の場合と同様に、グラファイトシート4の巻き付き始点Aと巻き付き終点Bを不連続部4aとして離間させて一定の距離を設けることで、グラファイトシート4に周回電流を発生させないようにしている。本実施例2でも、始点Aと終点Bの離間距離(不連続部)を3mm程度確保することで、周回電流を発せないような構成にしている。
実施例2では比較例2と同様に励磁コイル3が隣り合う励磁コイル同士がピッチ26mmの一定間隔で、磁性コア2の周りに11turn巻かれている。
上記P3構成において、定着装置を60枚/分の印字動作できるように導電層の回転速度は330mm/secで駆動する。そして、記録材上のトナーを定着させるために導電層の表面温度を180℃にキープする条件で、A5サイズ紙を縦長で1000枚通紙した後の磁性コア2の長手温度分布を図14に示す。
図14をみると、A5サイズ紙を1000枚通紙した後の非通紙部での最も高い温度は、150℃に抑えられていることが分かる。これはグラファイトシート4の高熱伝導特性により磁性コア2の長手方向の均熱効果が図られたためである。図8には、飽和磁束密度以内に保つための、磁性コア2の外径と温度の関係をプロットした。この図をみると分かるように、前記比較例2で磁性コア径をφ13.5にする必要があったものが、本実施例2の構成によりφ12.3に小径化することができることが分かった。この結果、定着スリーブ1の内蔵物の断面積を縮小できるため、定着スリーブ自体の外径をさらに小さく形成させても内蔵物を納めることが可能となる。
なお、本実施例2においても、高熱伝導部材4を磁性コア2と励磁コイル3を覆うように形成したが、これに限らない。定着スリーブ1に蓄積された熱は、スリーブ内面からの放熱や伝熱により磁性コアに伝達され昇温する。従って、スリーブ内面と磁性コア2の間に高熱伝導部材4が形成されていればよい。例えば、磁性コア2と励磁コイル3の間に高熱伝導部材を形成させても同様な効果が得られる。
[その他の事項]
(1)像加熱装置には、未定着トナー画像を固着像として定着する以外にも、記録材に仮定着されたトナー画像あるいは一度加熱定着されたトナー像を再度加熱加圧して光沢度を向上させる装置も包含される。
(2)導電層1aを有する筒状の回転体1は、複数の張架部材間に懸回張設されて回転駆動される可撓性を有するエンドレスベルト形態のものにすることもできる。また、導電層1aを有する筒状の回転体1は、硬質の中空ローラあるいはパイプの形態のものにすることもできる。
(3)加熱回転体としての導電層1aを有する筒状の回転体1と定着ニップNを形成するニップ形成部材8は、回転体1が回転駆動されるものである場合には、回転体1の回転に従動してく回転する回転体にすることもできる。
また、回転体1が回転駆動されるものである場合には、ニップ形成部材8は回転体1および記録材Pよりも表面の摩擦係数が小さい、横長のパッド状部材などの非回転部材にすることもできる。定着ニップNに導入された記録材Pは裏面側(非画像形成面側)が非回転部材の形態のニップ形成部材の摩擦係数が小さい表面に対して摺動しながら、回転体1の回転搬送力で定着ニップNを挟持搬送されていく。
(4)画像形成装置において、記録材にトナー像を形成する画像形成部は実施例の転写方式の電子写真画像形成部に限られない。例えば、記録材として感光紙を用いてこれにトナー像を直接方式で形成する電子写真画像形成部であってもよい。また、像担持体として静電記録誘電体や磁気記録磁性体を用いる転写方式の静電記録画像形成部や磁気記録画像形成部であってもよい。また、記録材として静電記録紙や磁気記録紙を用いてこれにトナー像を直接方式で形成する静電記録画像形成部や磁気記録画像形成部であってもよい。