以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の好適な実施形態は、本発明における最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は以下の実施例により限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において他の構成に置き換えることは可能である。
[実施例1]
(1)画像形成装置100
図1を参照して、本発明に係る画像加熱装置を定着装置として搭載する画像形成装置を説明する。図1は電子写真記録技術を用いた画像形成装置(本実施例ではモノクロプリンタ)100の一例の概略構成を示す断面図である。
画像形成装置100において、記録材Rpにトナー画像を形成する画像形成部IFは、像担持体としての感光ドラム101と、帯電部材102と、レーザスキャナ103と、を有する。更に画像形成部IFは、現像器104と、感光ドラム101の外周面(表面)をクリーニングするクリーナ110と、転写部材108と、を有する。以上の画像形成部IFの動作は周知であるので詳細な説明は割愛する。
画像形成装置本体100A内のカセット105に収納された記録材Rpは、ローラ106の回転によって1枚ずつ繰り出された後に、ローラ107の回転によって感光ドラム101と転写部材108とで形成された転写部に搬送される。転写部でトナー画像が転写された記録材Rpは画像定着部としての定着装置Fに送られ、トナー画像は定着装置Fで記録材に加熱定着される。定着装置Fを出た記録材Rpはローラ111の回転によってトレイ112に排出される。
(2)定着装置(画像加熱装置)F
本実施例に示す定着装置Fは電磁誘導加熱方式の装置である。図2は定着スリーブ1の内周面側に電流周回部材30a,30bを配置した定着装置Fの概略構成を示す断面図である。図3は図2に示す定着装置Fを記録材Rpの搬送方向aの上流側から見たときの正面図である。図4は磁性コア2と励磁コイル3による定着スリーブ1の電磁誘導加熱を説明するための図である。
加圧部材としての加圧ローラ8は、芯金8aと、芯金8aの外周面上にローラ状に設けられた耐熱性の弾性層8bと、弾性層8bの外周面上に設けられた離型層8cと、を有する。弾性層8bの材質は、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等で耐熱性がよいものが好ましい。
記録材Rpの搬送方向aに直交するXa軸方向(図3参照)について、加圧ローラ8の芯金8aの両端部は定着装置Fの左右のフレーム(不図示)に軸受けを介して回転自由に保持されている。また、ステイ5の両端部と、左右のフレーム側のバネ受け部材18a,18bとの間に、それぞれ、加圧バネ17a,17bを縮設することでステイ5に押し下げ力を作用させている。本実施例の定着装置Fでは、図2に示すように、耐熱性樹脂PPS等で構成されたニップ形成部材6の加圧ローラ8とは反対側の座面6aに保持させたステイ5に総圧約100N〜250N(約10kgf〜約25kgf)の押圧力を与えている。
ステイ5を保持したニップ形成部材6の外周には、導電層を有する筒状の回転体としての定着スリーブ(以下、スリーブとも称する)1がルーズに外嵌させてある。ステイ5に押圧力を与えると、ニップ形成部材6の加圧ローラ8側の平坦面6bがスリーブ1の外周面を加圧ローラ8の外周面に圧接する。これにより、スリーブ1を介してニップ形成部材6の平坦面6bと加圧ローラ8の外周面とで所定幅のニップ部Nt(図2参照)が形成される。
加圧ローラ8はモータ(不図示)により矢印方向に回転駆動し、この加圧ローラ8の回転に追従してスリーブ1はスリーブ1の内周面がニップ形成部材6の平坦面6bに摺動しながら矢印方向に回転する。
記録材Rpの搬送方向aに直交するXa軸方向について、ステイ5の両端部にはフランジ部材12a,12bが外嵌されている。フランジ部材12a,12bは、それぞれ、規制部材13a,13bによりフレームに固定されている。各フランジ部材12a,12bは、スリーブ1の回転時にフィルム1側の規制面12a1,12b1でスリーブ1の端部を受けてフィルム1の母線方向に沿う寄り移動を規制する。フランジ部材12a,12bの材質としては、LCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)樹脂等の耐熱性の良いものが好ましい。
スリーブ1は、直径10〜50mmの基層となる導電性部材でできた筒状の導電層1aと、その導電層1aの外周面に積層した弾性層1bと、その弾性層1bの外周面に積層した離型層1cと、からなる複合構造の可撓性を有する筒形回転体である。導電層1aとして、膜厚10〜70μmの金属フィルムを用いている。弾性層1bとして、硬度が20度(JIS−A、1kg加重)のシリコーンゴムを0.3mm〜0.1mmの厚さに成形したものを用いている。そして、弾性層1bの外周面上に離型層(表層)1cとして、50μm〜10μmの厚さのフッ素樹脂チューブを被覆している。
記録材Rpの搬送方向aに直交するXa軸方向について、導電層1aの長さは340mmである。この導電層1aに対し、交番磁束を作用させ、誘導電流を発生させて発熱する。この熱が弾性層1b、離型層1cに伝達されて、スリーブ1全体が加熱され、ニップ部Ntに導入される記録材Rpを加熱して画像としての未定着トナー画像Tの定着がなされる。
導電層1aに対し、交番磁束を作用させ、誘導電流を発生させる原理と構成について詳述する。図4は磁性コア2と励磁コイル3によるスリーブ1の電磁誘導加熱を説明するための図である。
磁性芯材としての磁性コア2は、不図示の固定手段でスリーブ1の中空部を貫通して配置させ、磁極NP,SPを持つ直線状の開磁路を形成している。つまり、磁性コア2は、スリーブ1の中空部に挿通されスリーブ1の母線方向に沿って配置されている。磁性コア3の材質は、ヒステリシス損が小さく比透磁率の高い材料、例えば、焼成フェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)や、パーマロイ等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が好ましい。
本実施例では、磁性コア2として比透磁率1800の焼成フェライトを用いる。形状は直径5〜30mmの円柱形状をしている。記録材Rpの搬送方向aに直交するXa軸方向について、磁性コア2の長さは340mmである。
図5は、励磁コイル3の巻き方を示した図である。磁界発生手段としての励磁コイル3は、通常の単一導線をスリーブ1の母線方向に交差する方向で磁性コア2に螺旋状に巻き回して形成される。本実施例においては、長さ340mmの磁性コア2に対し、励磁コイル3は巻間隔が均等に20mmピッチで18回巻き回してある。ここで、スリーブ1の母線方向とは、スリーブ1の回転軸線1xと平行な方向である。
この励磁コイル3に給電接点部3a,3bを介して高周波コンバータ16から高周波交流電流を供給し、磁性コア2の記録材Rpの搬送方向aに直交するX軸方向に交番磁束(交番磁界)を発生させる。この交番磁束により導電層1aの周回方向に誘導電流が流れ、導電層1a自身の電気抵抗によってジュール熱を発生させることで、導電層1aを発熱させる。このとき導電層1aは導電層1aの外周全域で発熱する。
図4から図25までは単一導線の励磁コイル3を磁性コア2に18回巻き回してあるが、これは励磁コイル3の概念的な説明をするための構成である。本実施例、及び実施例2では、図28に示すように、励磁コイル3は4本の複数本の導線で磁性コア2に10回巻き回してある。
(3)プリンタ制御
図2、図3に示すように、非接触型サーミスタによって構成される温度分布検知手段としての温度検知素子9,10,11は、記録材Rpの搬送方向aに関し、ニップ部Ntの上流側でスリーブ1に対向させて配設してある。
記録材Rpの搬送方向aに直交するX軸方向に関し、スリーブ1の中央に配設された温度検知素子9は、大サイズ記録材と小サイズ記録材が必ず通過するスリーブ中央部(通過領域)の温度を検知する。この温度検知素子9の検知温度に基づきスリーブ1は表面の温度が所定の定着温度(目標温度)に維持・調整される。スリーブ1の両端部に配設された温度検知素子10,11では、大サイズ記録材が通過し小サイズ記録材が通過しないスリーブ端部(非通過領域)の昇温具合を検知することができる。
図4に、プリンタ制御部40のブロック図を示す。プリンタ制御部40において、プリンタコントローラ41は後述するホストコンピュータ42との間で通信と画像データの受信、及び受け取った画像データをプリンタが印字可能な情報に展開する。更にプリンタコントローラ41はエンジン制御部43との間で信号のやり取り及びシリアル通信を行う。エンジン制御部43はプリンタコントローラ41との間で信号のやり取りを行い、更にシリアル通信を介して定着温度制御部44、周波数制御部45、電力制御部46、通電制御部47の制御を行う。
定着温度制御部44は温度検知素子9,10,11によって検知された温度を基に定着装置Fの温度制御、定着装置Fの異常温度の検知等を行う。周波数制御部45は高周波コンバータ16の駆動周波数の制御を行う。電力制御部46は励磁コイル3に印加する電圧を調整して高周波コンバータ16の電力の制御を行う。
通電制御部47は温度検知素子9,10,11によって検知された温度を基に後述する励磁コイル3a,3b,3c,3d(図28参照)の夫々に対応して設けられた不図示のリレースイッチ(不図示)をON・OFF動作させる。そして各励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電状態を制御するための信号を高周波コンバータ16に出力する。
このようなプリンタ制御部40を有するプリンタシステムにおいて、ホストコンピュータ42はプリンタコントローラ41に画像データを転送したり、ユーザからの要求に応じてプリンタコントローラ41に記録材サイズ等、様々なプリント条件を設定する。
(4)導電層1aの発熱原理
図6は、励磁コイル3に矢印I1の向きに電流が増加している瞬間の磁界を示す図である。磁性コア2は、励磁コイル3にて生成された磁力線を内部に誘導し、磁路を形成する部材として機能する。そのため磁力線は、磁路に集中して通って、磁性コア2の端部において拡散し、外周の遥か遠くで繋がる形状となる(図の表記上は端部で途切れているものもある)。ここでこの磁路を垂直に囲むように、導電層1aの長さよりも極短い円筒形状の回路61を設置させた。磁性コア2内部には交番磁界(時間と共に大きさと方向が変化を繰り返す磁界)が形成される。
この回路61の周回方向には、ファラデーの法則に従って誘導起電力が発生する。ファラデーの法則とは、「回路61に生じる誘導起電力の大きさは、その回路61を垂直に貫く磁界の変化の割合に比例する」というものであり、誘導起電力は、以下の式(1)で表される。
V:誘導起電力
N:コイル巻き数
ΔΦ/Δt:微小時間Δtでの回路を垂直に貫く磁束の変化
導電層1aは上記の極短い円筒形の回路61が導電層1aの母線方向に多数つながったものと考えることが出来る。従って導電層1aは図7のようになる。励磁コイル3にI1を流すと、磁性コア2内部には交番磁界が形成され、導電層1aには母線方向全体に周回方向の誘導起電力がかかり、母線方向全域に点線で示す周回電流I2が流れる。導電層1aは電気抵抗を有するので、この周回電流I2が流れることによりジュール発熱する。磁性コア2内部に交番磁界が形成され続ける限り、周回電流I2は向きを変えながら形成され続ける。これが導電層1aの発熱原理である。
なお、例えばI1を50kHzの高周波交流電流にした場合、周回電流I2も50kHzの高周波交流となる。
図7において説明したように、I1は励磁コイル3内を流れる電流の向きを示し、これによって形成された交番磁界を打ち消す方向に、導電層1aの周方向全域に点線矢印I2方向に誘導電流が流れる。この電流I2を誘導する物理モデルは、図8に示すように、実線で示す1次コイル81と点線で示す2次コイル82を巻いた形状の同心軸トランスの磁気結合と等価である。2次巻き線82は回路を形成しており、抵抗83を有している。
高周波コンバータ16から発生した交番電圧により、1次巻き線81に高周波電流が発生し、その結果2次巻き線82に誘導起電力がかかり、抵抗83によって熱として消費される。ここで2次巻き線82と抵抗83は、導電層1aにおいて発生するジュール熱をモデル化している。
図8に示すモデル図の等価回路を図9(a)に示す。L1は図8中1次巻き線81のインダクタンス、L2は図8中2次巻き線82のインダクタンス、Mは1次巻き線81と2次巻き線82の相互インダクタンス、Rは抵抗83である。この回路図9(a)は、図9(b)に等価変換することが出来る。より単純化したモデルを考えるために、相互インダクタンスMが十分大きく、L1≒L2≒Mとであるとする。その場合(L1−M)と(L2−M)は十分小さくなるため、回路は図9(b)から図9(c)のように近似することが出来る。
以上、図7に示す構成に対し、近似した等価回路として図9(c)と置き換えて考える。またここで、抵抗について説明する。図9(a)の状態において2次側のインピーダンスは、導電層1aの周回方向の電気抵抗Rとなる。
トランスにおいて、2次側のインピーダンスは、1次側から見るとN2(Nはトランスの巻き数比)倍の等価抵抗R’となる。ここでトランスの巻き数比Nは、1次側巻き線の巻き数=発熱層1aの中での励磁コイルの巻き数(本説明では18回)に対し、発熱層1aを巻き数1回とみなし、トランスの巻き数比N=18と考えることが出来る。よってR’=N2R=182Rと考えることが出来、巻き数が多い程図9(c)に示す等価抵抗Rは大きくなる。
図10(b)は合成インピーダンスXを定義し、更に単純化したものである。合成インピーダンスXを求めると、以下の式(2)のようになる。
この単純化した等価回路は、後の説明で使用する。
(5)磁性コア2端部付近において導電層1aの発熱量が低下する原因
ここで「磁性コア2の端部付近においてスリーブ1の導電層1aの発熱量が低下してしまい、スリーブ1の母線方向に発熱ムラが発生する問題」について詳細を説明する。
図11に示すように、磁性コア2は磁極NP,SPを持つ直線状の開磁路を形成している。磁性コア2の長さは340mmである。本実施例では、この磁性コア2の長さはスリーブ1の導電層1aと同じ長さとしてある。
本構成は開磁路を採用したことにより定着装置全体の小型化を実現できるものの、図12に示すように磁性コア2の端部付近において導電層1aの発熱量が低下してしまい、スリーブ1の母線方向に発熱ムラが発生するという問題が発生する。スリーブ1の母線方向に発熱ムラが発生すると、導電層1aの発熱量の低い部分でトナー定着不良を起こしたり、導電層1aの発熱量の高い部分で過定着になり、画像不良の原因となる。
スリーブ1の母線方向に発熱ムラが発生する原因は、磁性コア2によって開磁路を形成していることと大きく関与している。具体的には、
5−1)磁性コア2端部において見かけの透磁率が小さくなること
5−2)磁性コア2端部において合成インピーダンスが小さくなること
の2つが寄与している。以下、5−1)と5−2)に分けて詳細を説明する。
5−1)磁性コア2端部において見かけの透磁率が小さくなること
図13は、磁性コア2の両端部において、「見かけの透磁率μ」が中央部よりも低くなってしまう現象のイメージ図である。この現象が発生する理由を下記に詳述する。一様な磁界H中において、物体の磁化が外部磁場にほぼ比例するような磁場領域においては、空間の磁束密度Bは、以下の式(3)に従う。
即ち、磁界H中に透磁率μの高い物質を置くと、理想的には透磁率の高さに比例した高さの磁束密度Bを作ることが出来る。本実施例ではこの磁束密度の高い空間を、「磁路」として活用する。特に、磁路を作る際に、磁路そのものをループで繋げて作る閉磁路と、磁路そのものを開放端にするなどして磁路を断絶させる開磁路がある。本実施例では開磁路を用いることに特徴がある。
図14は、一様な磁界H中に、フェライト201、空気202を配置した場合の磁束の形状を表している。フェライト201は、空気202に対し、磁力線と垂直な境界面NP⊥、SP⊥を有する開磁路を有している。磁界Hを磁性コア2の長手方向に平行に発生させた場合、磁力線は図14に示すように、空気202中では密度が薄く、磁性コア2の中央部201Cでは密度が高くなる。ここで磁性コア2に関し長手方向とはスリーブ1の母線方向と平行な方向である。
更に、磁性コア2の中央部201Cに比べ、磁束密度が磁性コア2の端部201Eにおいては低くなっている。このように磁束密度が端部201Eで小さくなる理由は、空気202とフェライト201の境界条件にある。磁力線と垂直な境界面NP⊥、SP⊥において磁束密度は連続となるため境界面付近においてはフェライト201と接している空気202部分は磁束密度が高くなり、空気202と接している端部201Eは、磁束密度が低くなる。これによって、端部201Eでの磁束密度が小さくなる。
本現象は、磁束密度が小さくなることによって、あたかも磁性コア2の端部201Eの透磁率が低くなっているかのように見えるため、本実施例においては「磁性コア2端部において見かけの透磁率が小さくなる」と表現する。
この現象は、インピーダンスアナライザを用いて間接的に検証することが出来る。図15において、磁性コア2に対し、直径30mmのコイル141(コイルはN=5回巻)を通し、矢印方向にスキャンする。この時、コイル141の両端をインピーダンスアナライザに接続し、コイル141両端からの等価インダクタンスL(周波数は50kHz)を測定すると、グラフに示す山形の分布形状となる。等価インダクタンスLは磁性コア2端部においては、磁性コア2中央の半分以下に減衰している。Lは以下の式(4)に従う。
ここで、μは磁性コア2の透磁率、Nはコイル141の巻き数、lはコイル141の長さ、Sはコイル141の断面積である。
コイル141の形状は変化していないので、本実験においてはS,N,lは変化していない。従って、等価インダクタンスLが山形の分布となる原因は、「磁性コア2端部において見かけの透磁率が小さくなっている」ことが原因である。
以上の説明を纏めると、磁性コア2を「開磁路に形成すること」によって、「磁性コア2端部において見かけの透磁率が小さくなる」という現象が現れる。
なお、閉磁路であった場合には、本現象は起こらない。例えば、図16に示すような閉磁路の場合について説明する。励磁コイル151及び発熱層152より外側において、磁性コア153はループを形成しており、閉磁路となる。この場合、先の開磁路の事例とは異なり、磁力線は閉磁路の中だけを通るため「磁力線と垂直な境界面(図14に示す磁力線と垂直な境界面NP⊥、SP⊥)」を一切有さない。従って磁性コア153の内部全体(磁路の全周)において一様の磁束密度を形成することが出来る。
5−2)磁性コア2端部において合成インピーダンスが小さくなること
磁性コア2を開磁路に形成する本構成は、見かけの透磁率において、磁性コア2の長手方向に発熱分布を有している。これらを簡単なモデルで説明するため、図17、図18の構成を用いて説明する。図17(a)は、図11に示した磁性コア2構成に対し、磁性コア2と導電層1aを磁性コア2の長手方向に3分割したものである。
導電層1aは、図17(a)に示すように、同一形状、同一物性の端部173eと中央部173cがそれぞれ配置されており、端部173eの周回方向の抵抗値をRe、中央部173cの周回方向の抵抗値をRcとする。周回抵抗とは、導電層1aの周回方向に電流経路を取った場合の抵抗値を示す。周回方向の抵抗をRとすると、図17(b)のように、導電層1aの体積抵抗率をρ、厚さをt、半径をr、長手方向の長さをWとした場合に、以下の式で表わされる。
周回抵抗はRe=Rc(=R)で同じ値になっている。磁性コア2は端部171e(透磁率μe)、中央部171c(透磁率μc)に分かれている。磁性コア2の長手方向について、端部171e、及び中央部171cの長さはそれぞれ約113mmである。端部171e、及び中央部171cの透磁率は端部μe<中央部μcの関係となっており、極力単純な物理モデルで考えるため、端部171e、及び中央部171cの内部における個々の見かけの透磁率の変化は考えないものとする。
図18に示すように、磁性コア2の端部171eには励磁コイル172eが、中央部171cには励磁コイル172cが、それぞれ、Ne=6回巻いてあり、これらの励磁コイル172e,172cは直列につながっている。また、端部171eと中央部171cでの相互作用は十分少ない。
磁性コア2の端部171eと励磁コイル172e、及び磁性コア2の中央部171cと励磁コイル172cからなる各回路は、図19に示すように、3つに枝分かれした回路でモデル化出来るものとする。磁性コア2の透磁率は端部μe<中央部μcの関係になっているので、相互インダクタンスの関係も端部Me<中央部Mcとなっている。更に簡略化したモデルを図20に示す。
各回路の1次側から見た等価抵抗を見ると、端部MeではR’=62R、中央部McではR’=62Rとなる。よって、合成インピーダンスXeとXcを求めると、それぞれ下記式(5)(6)となっている。
RとLの並列回路部分を、合成インピーダンスXに置き換えると、図21のようになる。相互インダクタンスの関係はMe<Mcであるため、Xe<Xcとなる。高周波コンバータ16から交流電圧をかけた場合、図21に示すXeとXcの直列回路においては発熱量の大小関係はXeとXcの大小関係によって決まるため、Qe<Qcとなる。よって、励磁コイル3に交流電流を流すと、図22のh1に示すように、スリーブ1の導電層1aの端部173eの発熱量が小さく、中央部173cの発熱量が大きい山形の分布形状となる。
本モデルは現象を簡略化して説明するために磁性コア2、及び導電層1aを磁性コア2の長手方向に3分割したが、図11に示す実際の構成においては、見かけの透磁率の変化が連続的に起こっている。また、磁性コア2の長手方向におけるインダクタンスの相互作用等を考えられるため、複雑な回路になる。しかし、本現象の骨子「磁性コア2端部付近において導電層1aの発熱量が低下する原因」については説明できている。
(6)励磁コイル3の巻き方と磁性コア2の長手方向の発熱量分布
導電層1aの母線方向の発熱量分布を変化させる方法として、励磁コイル3の巻き方がある。ここでは、励磁コイル3の巻き数を磁性コア2の端部で密、中央部で疎にした場合について説明する。励磁コイル3の巻き方を変えることで磁性コア2の端部と中央部において、インダクタンスと抵抗のバランスを変えることが出来る。
図17、図18で説明した磁性コア2と導電層1aを磁性コア2の長手方向に3分割したモデルで説明する。図23(a)、(b)に示すように、励磁コア2の端部171eには励磁コイル172eがNe=7回巻き回してある。励磁コア2の中央部171cには励磁コイル172cがNc=4回巻き回してある。その他は図17(a)のモデルと同一である。簡略化したモデル図を図24に示す。
磁性コア2の端部171eと励磁コイル172e、及び磁性コア2の中央部171cと励磁コイル172cからなる各回路の1次側から見た等価抵抗を見ると、端部171eではR’=72R、中央部171cではR’=42Rとなる。よって、合成インピーダンスXeとXcを求めると、それぞれ下記式(7)、(8)となっている。
RとLの並列回路部分を、合成インピーダンスXに置き換えると、図25のようになる。このように、導電層1aの母線方向の発熱量分布を変化させる方法として、励磁コイル3の巻き方を調整することによって、XeとXcのバランス、つまりQeとQcのバランスを変化させることができる。
(7)導電層1aの母線方向左右端部の発熱量分布
図26は、本実施例に係る定着装置Fの導電層1aと、磁性コア2と、励磁コイル3と、の位置関係、及び導電層1aの発熱量分布を示す図である。図27は、比較例1に係る定着装置の導電層1aと、磁性コア2と、励磁コイル3と、の位置関係、及び導電層1aの発熱量分布を示す図である。
上述のように、励磁コイル3の巻き方を調整することで導電層1aの発熱量分布を調整することができる。本実施例の定着装置Fでは、スリーブ1の表面温度が200℃となるように温調し、図26のように導電層1aの発熱量がスリーブ1の母線方向で均一に発熱するように励磁コイル3を磁性コア2に10回巻き回している。
これに対して比較例1の定着装置は、図27のように励磁コイル3が巻き回された磁性コア2がスリーブ1の母線方向で所定の位置から左側に2mmずれた構成である。
スリーブ1の母線方向について、導電層1aの発熱量分布は磁性コア2の長手方向に発生する磁束の分布に依存する。また、磁性コア2の長手方向に発生する磁束の分布は、磁性コア2に巻き回された励磁コイル3の巻き方によって変化する。このような原理から、スリーブ1の母線方向について、図27のように磁性コア2が所定の位置から左側にずれた場合に、導電層1aの左側の端部と右側の端部とで発熱量分布に差が発生することに関して、以下説明する。
図27のように磁性コア2が所定の位置から左側にずれた場合、導電層1aにとっては見かけ上左側の励磁コイル3の巻き数が増え、右側の励磁コイル3の巻き数が減ることとなる。すると、磁性コア2で発生する磁束は、導電層1aから見ると左側の磁束が増え、右側の磁束が減ることとなるため、導電層1aの発熱量分布は図27のように左側の発熱量が大きく、右側の発熱量が小さくなる。このような発熱量分布差は、励磁コイル3が巻き回された磁性コア2に対してスリーブ1が所定の位置からずれた場合にも同様に発生する。
(8)励磁コイル3の構成
図28は、本実施例の定着装置Fの励磁コイル3を説明するための図である。励磁コイル3は、4本(複数本)の励磁コイル3a,3b,3c,3dから成る。以下、比較例1の定着装置の励磁コイル3と区別するために、本実施例の定着装置Fの励磁コイルを励磁コイルセット3と記す。
励磁コイルセット3において、各励磁コイル3a,3b,3c,3d間は1mmの間隔が空けられている。励磁コイル3a,3b,3c,3dとしてコイル被覆AIW(ポリアミドイミド銅線)を使用することで各励磁コイル間の絶縁は確保されている。
励磁コイル3a,3b,3c,3dは、不図示のリレースイッチによって、それぞれ通電のON・OFFを独立して制御することができるようになっている。つまり、4本の励磁コイル3a,3b,3c,3dは各々独立して通電状態の制御が可能である。各励磁コイル3a,3b,3c,3dに関し、通電状態の制御とは、通電をON・OFFする制御、又は通電の比率を変える制御をいう。上記のリレースイッチは通電制御部47(図4参照)によってON・OFF動作が切り換えられるようになっている。
図29は、励磁コイルセット3を用いた場合の導電層1aの発熱量分布を示す図である。励磁コイルセット3の励磁コイル3a,3b,3c,3dについて通電のON・OFF(オン・オフ)を制御することで、導電層1aの発熱量分布差の発生を抑制することができる。本実施例では、励磁コイル3a,3bの通電をOFFとし、励磁コイル3c,3dの通電をONとする制御を行う。つまり、複数本の励磁コイル3a,3b,3c,3dのうち一部の励磁コイルだけを通電する。これにより、見かけ上励磁コイルセット3の位置を図の右側にずらすことが可能となる。
このような通電制御を行うことで、磁性コア2で発生する磁束は導電層1aから見ると左側の磁束と右側の磁束が略等しくなるため、導電層1aの左側の発熱量と右側の発熱量に差が発生しない発熱量分布になる。
以上のように本実施例の定着装置Fは、図27のようなスリーブ1の母線方向の発熱量分布(温度分布)を温度検知素子9,10,11で検知し、温度検知素子9,10,11からの検知温度(出力信号)を通電制御部47が取り込む。通電制御部47は温度検知素子9,10,11の検知結果に応じてリレースイッチをON・OFF動作させて励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電状態(ON・OFF)の制御を決定する。高周波コンバータ16(図4参照)はその通電状態の制御の決定に従って励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電をON・OFFする。
(9)本実施例の励磁コイルセット3を用いることによる効果
表1は、比較例1の定着装置、及び本実施例の定着装置Fに関し、スリーブ温度、及び画像不良の有無についてまとめたものである。比較例1の定着装置は、励磁コイル3が図27の構成をしており、スリーブ1の母線方向で導電層1aに発熱量分布差が発生する。
これに対して本実施例の定着装置Fは、励磁コイルセット3が図28の構成をしており、前述した通電制御を行うことで、図29のような発熱量分布が得られる。励磁コイルセット3が巻き回された磁性コア2は、図29に示すように、比較例1を示す図27と同様、スリーブ1の母線方向の所定の位置から左側に2mmずれている。
表1に記載した画像不良については、本実施例の定着装置Fを搭載したプリンタと、比較例1の定着装置を搭載したプリンタについて、以下のように確認した。
記録材RpとしてA3サイズの坪量80g/m2を使用した。スリーブ1は、スリーブ1の母線方向中心位置O(図29参照)に配設した温度検知素子9(図3参照)の検知温度に基づいて所定の定着温度200℃に維持・調整されている。
定着装置を10秒で200℃まで立ち上げた直後に1枚のプリントを行い、記録材Rp上に加熱定着された定着画像を目視で確認した。記録材Rpの搬送速度は300mm/secで、連続プリント時の記録材Rp間の間隔は40mmである。
以下、スリーブ1の端部温度が高いと、画像不良が発生することについて説明する。今回の条件においては、スリーブ1の温度が182℃以下では定着不良が発生し、206℃以上ではホットオフセットが発生してしまうトナーを用いている。ここでいう、定着不良とは、不均一にトナーがつぶされることで発生する定着ムラや、光沢、定着性を判断したものである。ホットオフセットとは、スリーブ1の温度が高くトナーが過溶融となり、過溶融トナーがスリーブ1表面に付着して、スリーブ1が1回転した後に過溶融トナーは後続の記録材Rpへ転移して定着され、記録材Rpを汚してしまう画像不良である。
比較例1では、図27に示す画像形成領域の左端部において、スリーブ1の温度が225℃であるためにホットオフセットが生じる。これに対して、本実施例では、図29に示す画像形成領域の左端部、及び右端部において、スリーブ1の温度が適正であるために定着不良やホットオフセットが生じず、良好な画像を得ることができる。
本実施例の定着装置Fにおいて、図29に示す場合とは逆に、励磁コイルセット3が巻き回された磁性コア2が、スリーブ1の母線方向の所定の位置から右側に2mmずれている場合を説明する。この場合には、励磁コイル3a,3bの通電をONとし、励磁コイル3c,3dの通電をOFFとする制御を行うことで、見かけ上励磁コイル3の位置を図の左側にずらすことが可能となる。このような通電制御を行うことで、磁性コア2で発生する磁束は導電層1aから見ると左側の磁束と右側の磁束が略等しくなるため、図29に示すような発熱量分布を得ることができる。
[実施例2]
定着装置Fの他の例を説明する。本実施例では、本実施例の定着装置Fについて、実施例1の定着装置Fと異なる構成のみを説明する。
本実施例に示す定着装置Fは、スリーブ1の母線方向について、磁性コア2やスリーブ1は所定の位置からずれておらず、記録材Rpの搬送位置がずれている場合に、導電層1aの発熱量分布差を抑制できるように構成したものである。記録材Rpの搬送位置(記録材の搬送方向の記録材位置)は位置センサー20で検知し、通電制御部47は位置センサー20からの搬送位置信号(出力信号)に応じてリレースイッチをON・OFF動作させる制御を行う。
(1)スリーブ1の母線方向左右端部の表面温度分布差
図30は、比較例2の定着装置の導電層1aと、磁性コア2と、励磁コイルセット3と、記録材Rpの搬送位置と、の位置関係、及び導電層1aの発熱量分布を示す図である。図31は、本実施例の定着装置Fの導電層1aと、磁性コア2と、励磁コイルセット3と、記録材Rpの搬送位置と、位置センサー20と、の位置関係、及び導電層1aの発熱量分布を示す図である。
比較例2の定着装置は、スリーブ1の母線方向について、記録材Rpの搬送位置が図の左側に3.5mmずれた構成である。ここで、磁性コア2、及び励磁コイル3は図28と同様である。スリーブ1の母線方向について、磁性コア2やスリーブ1が所定の位置からずれていないので、励磁コイル3a,3b,3c,3dに等しく通電させることで、導電層1aは図26と同様に発熱量分布差がほとんど無い状態に発熱する。しかし、記録材Rpの搬送位置が図の左側にずれているため、スリーブ1の左側は記録材Rpに熱を奪われやすく、右側は記録材Rpに熱を奪われにくくなる。
記録材RpとしてA3サイズの坪量80g/m2を使用した。スリーブ1は、スリーブ1の母線方向中心位置O(図30参照)に配設した温度検知素子9(図3参照)の検知温度に基づいて所定の定着温度200℃に維持・調整されている。
定着装置を10秒で200℃まで立ち上げた直後に10枚のプリントを行った。記録材Rpの搬送スピードは300mm/secで、連続プリント時の記録材Rp間の間隔は40mmである。
連続プリント時の10枚目のプリント直前のスリーブ1の表面温度を図30の分布に示している。上述した記録材Rpによるスリーブ1の熱を奪う作用によって、図30に示すようなスリーブ1の母線方向左右端部の表面温度分布差が生じる。
本実施例の定着装置Fは、比較例2と同様に、スリーブ1の母線方向について、記録材Rpの搬送位置が図の左側に3.5mmずれているが、磁性コア2、及びスリーブ1は所定の位置からずれていない。
本実施例の定着装置Fでは、図31のような記録材Rpの搬送位置を位置検知手段としての位置センサー20で検知し、位置センサー20からの搬送位置信号を通電制御部47が取り込む。通電制御部44は位置センサー20の検知結果に応じて上記のリレースイッチをON・OFF動作させて励磁コイル3a,3bの通電をONとし、励磁コイル3c,3dの通電をOFFとする制御を行う。つまり、複数本の励磁コイル3a,3b,3c,3dのうち一部の励磁コイルだけを通電する。これにより、見かけ上励磁コイルセット3の位置を図の右側にずらすことが可能となる。
このような通電制御を行うことで、磁性コア2で発生する磁束は導電層1aから見ると左側の磁束と右側の磁束が略等しくなるため、導電層1aの左側の発熱量と右側の発熱量に差が発生しない発熱量分布になる。よって、スリーブ1の母線方向左右端部の表面温度分布差が抑制され、10枚目プリント直前のスリーブ1の表面温度を図31の分布とすることができる。
以上のように本実施例の定着装置Fは、位置センサー20で検知した記録材Rpの搬送位置の検知結果に応じて通電制御部44がリレースイッチをON・OFF動作させて励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電状態(ON・OFF)の制御を決定する。高周波コンバータ16(図4参照)はその通電状態の制御の決定に従い励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電をON・OFFする。
(11)実施例2の効果
表2は、比較例2の定着装置、及び本実施例の定着装置Fに関し、スリーブ温度、及び画像不良の有無についてまとめたものである。比較例2の定着装置は、励磁コイル3a,3b,3c,3dの全ての通電をONとする制御を行う構成である。これに対して、本実施例の定着装置Fは、励磁コイル3a,3bの通電をONとし、励磁コイル3c,3dの通電をOFFとする制御を行う構成である。表2に記載した画像不良については、実施例1と同様の方法で、10枚目の画像を確認することで行った。
比較例2では、図30に示す画像形成領域の右端部において、スリーブ1の温度が210℃であるためにホットオフセットが生じる。これに対して、本実施例では、図31に示す画像形成領域の左端部、及び右端部において、スリーブ1の温度が適正であるために定着不良やホットオフセットが生じず、良好な画像を得ることができる。
本実施例の定着装置Fにおいて、図31に示す場合とは逆に、記録材Rpの搬送位置が図の右側に3.5mmずれている場合には、各励磁コイル3a,3b,3c,3dの通電制御を次のようにする。励磁コイル3a,3bの通電をOFFとし、励磁コイル3c,3dの通電をONとする制御を行うことで、見かけ上励磁コイルセット3の位置を図の左側にずらすことが可能となる。この通電制御を行うことで、磁性コア2で発生する磁束は導電層1aから見ると左側の磁束と右側の磁束が略等しくなるため、図31に示すような表面温度分布を得ることができる。
[他の実施例]
実施例1、及び実施例2の定着装置Fは、励磁コイルセット3の励磁コイル3a,3b,3c,3dについて、通電制御部47がリレースイッチによってそれぞれ通電のON・OFFを独立して制御しているが、通電の比率を変える制御でも構わない。例えば、リレースイッチの代わりにFETなどのスイッチング素子を用いて、励磁コイルセット3に流れる全電流のうち、励磁コイル3aは5%、励磁コイル3bは15%、励磁コイル3cは30%、励磁コイル3dは50%の電流が流れるような制御を行う。このような制御を行うことで、導電層1aの発熱量分布差をより細かく調整することが可能となる。
励磁コイルセット3の励磁コイル3a,3b,3c,3dの本数は4本に限られず2本以上の複数本であれば同様の方法で導電層1aの発熱量分布差を抑制することができる。実施例1の定着装置Fのように、スリーブ1の母線方向について、励磁コイルセット3が巻き回された磁性コア2に対してスリーブ1が所定の位置からずれた場合においても同様の方法で導電層1aの発熱量分布差を抑制することができる。