JP6380855B2 - 銅合金の製造方法および銅合金 - Google Patents

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Description

本発明は、銅合金の製造方法及び銅合金に関する。
従来、Cu−Ni−Sn系銅合金は、安価な金属元素で構成され、高い機械的強度が得られることから、実用合金の圧延材として使用されている。また、Cu−Ni−Sn系銅合金は、スピノーダル分解型の時効硬化性合金として知られており、耐熱性、例えば200℃などの高温下での応力緩和特性に優れた銅合金として知られている。
Cu−Ni−Sn系銅合金の製法としては、例えば、600〜770℃の温度範囲で熱処理し、加工率0〜60%の範囲で時効間加工し、350〜500℃の温度範囲で3〜300分間熱処理を施すことが提案されている(特許文献1,2参照)。こうした製法では、約800℃以上の単相領域からの熱処理法と異なり、2相が平衡する600〜770℃の温度域から熱処理し室温状態でマトリックス中に第2を均一に分散させた組織とすることによって、疲労特性が改善するとしている。そして、350〜500℃で行う時効処理によって、疲労特性がさらに向上するとしている。また、特許文献1,2の600〜770℃の温度範囲での熱処理の前に、800℃以上における溶体化処理を行うことが提案されている(特許文献3,4参照)。こうした製法では、単相域の800℃以上での加熱処理で合金中に存在する加工組織を完全に消滅させることなどにより、疲労特性だけでなく成形性や応力緩和特性を改善できるとしている。また、例えば、Cu−Ni−Sn系銅合金を、溶体化処理後に冷間圧延し、250℃〜500℃の温度で1時間以上の熱処理を行ったあと、引き続き300℃〜600℃の温度で1〜20分間の連続焼鈍を行うことが提案されている(特許文献5参照)。こうした製法では、効率よく平坦なミルハードン材が得られるとしている。
特開昭63−266055号公報 特公平6−37680号公報 特許第265965号 特開平2−225651号公報 特開昭59−96254号公報
しかしながら、Cu−Ni−Sn系銅合金は、スピノーダル分解型の時効硬化によって高い機械的強度が得られるものの、まだ十分でないことがあった。また、機械的強度を高めようとすると、耐熱性が劣化することがあった。このため、Cu−Ni−Sn系銅合金において、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制することが望まれていた。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、Cu−Ni−Sn系銅合金において、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制することを主目的とする。
本発明の銅合金の製造方法及び銅合金は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の銅合金の製造方法は、
Cu−Ni−Sn系銅合金の製造方法であって、
溶体化処理を行った溶体化処理材を用い、300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行う第1時効処理工程と、
前記第1時効処理工程の後に冷間加工を行う時効間加工工程と、
前記時効間加工工程の後に300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行う第2時効処理工程と、
を含むものである。
この銅合金の製造方法では、Cu−Ni−Sn系銅合金において、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。まず、溶体化処理材に対してピーク時効処理を行うと、D022規則相やL12規則相などの化合物相が複合的に析出し、析出硬化により機械的強度が向上する。続いて冷間加工を行うと、転位密度が増加したり変形双晶、即ち変形で生成する1次双晶および2次双晶が生じて組織微細化が図られることにより、機械的強度がさらに向上する。しかし、応力が負荷された状態で高温になると、高密度の転位が容易に移動し耐熱性が劣化することがある。そこで、さらに時効処理を行うと、高密度化した転位の周囲にコットレル雰囲気ができて転位が固定化されることによって、耐熱性の劣化を抑制できる。このようにして、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できると考えられる。
Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の時効処理時間とビッカース硬さとの関係を示すグラフ。 溶体化処理材を400℃で5分間保持(亜時効)した試料のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)。 溶体化処理材を400℃で10時間保持(ピーク時効)した試料のTEM写真(a)及び[001]α制限視野電子回折像(b)。 溶体化処理材を400℃で50時間保持(過時効)した試料のTEM写真(a)及び[112]α制限視野電子回折像(b)。 応力緩和試験に用いる試験治具の説明図。 比較例1〜3の応力ひずみ線図。 比較例1〜3の応力緩和試験結果。 比較例1の光学顕微鏡写真(a)及び比較例3の光学顕微鏡写真(b)。 比較例1の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)。 Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の溶体化処理材に、450℃で150分間保持する時効処理を行った試料のTEM像(a)、制限視野電子回折像(b)及び制限視野電子回折像の模式図(c)。 比較例5の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)。 比較例7の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)。
以下では、本発明の一実施形態に係る銅合金の製造方法及び銅合金について説明する。この銅合金の製造方法は、(1)溶解・鋳造工程、(2)均質化処理工程、(3)予備加工工程、(4)溶体化処理工程、(5)第1時効処理工程、(6)時効間加工工程、(7)第2時効処理工程、を含んでもよい。また、銅合金はこうした製造方法により製造されたものでもよい。
(1)溶解・鋳造工程
この工程では、所望の合金組成となるように原料を配合し、溶解・鋳造して鋳塊を得る。合金組成Cu−Ni−Sn系の銅合金組成であればよいが、Niを3質量%以上25質量%以下含み、Snを3質量%以上9質量%以下含むことが好ましい。こうした組成では、時効硬化能が高いため、機械的強度をより高めることができるし、導電率の低下を抑制できる。具体的には、例えば、Cu−21Ni−5.5Snや、Cu−15Ni−8Sn、Cu−9Ni−6Snなどの組成としてもよい。合金組成は、NiやSnの他に、Mnを0.05質量%以上0.5質量%以下含んでもよい。Mnを0.05質量%以上含むと、粒界反応と呼ばれる結晶粒界の周りに起こるNiやSnの不連続な析出を抑制可能なため、界面の脆化に伴う強度低下などが生じにくく、機械的強度を高めるのにより適している。また、Mnの量が0.5質量%以下であれば、熱間加工性を阻害することのあるMnの量が多すぎないため、製造性の悪化を抑制できる。合金組成において、残部は、Cuのみでもよいし、Cuと不可避的不純物を含んでもよい。不可避的不純物としては、例えば、P、Al、Mg、Fe、Co、Cr、Ti、Zr、Mo、Wなどがある。こうした不可避的不純物は、全体で0.1質量%以下であることが好ましい。溶解や鋳造は、公知の方法で行うことができる。例えば、大気中または窒素などの不活性雰囲気下で高周波誘導加熱溶解して金型鋳造することが好適であるが、電気炉内でるつぼによる溶解を行ってもよいし、黒鉛ダイスや銅鋳型を用いて連続鋳造を行ってもよい。また、これらに限定されることなく、その他の方法で行ってもよい。
(2)均質化処理工程
この工程では、後工程に悪影響を及ぼす不均一な組織、例えば鋳造時に非平衡的に生成した偏析など、を鋳塊から除去して均質な組織とする均質化処理を行い、均質化処理材を得る。この工程では、例えば、溶解・鋳造工程で得られた鋳塊を、780℃以上950℃以下などの温度範囲で、0.5時間以上24時間以下などの保持時間にわたって加熱保持してもよい。
(3)予備加工工程
この工程では、均質化処理材を、後の時効間加工に用いるのに適した寸法となるように加工し、予備加工材を得る。この工程では、熱間加工だけを行ってもよいし、冷間加工だけを行ってもよいし、熱間加工と冷間加工の両方を行ってもよい。また、加工の種類は特に限定されず、例えば、圧延加工やプレス加工、押出し加工、引抜き加工、鍛造などとしてもよい。このうち、板形状に成形していくためには圧延加工が好ましい。
(4)溶体化処理工程
この工程では、CuにNiやSn(、Mn)が固溶した溶体化処理材を得る。この工程では、例えば、予備加工材を、780℃以上950℃以下などの温度範囲で、0.5時間以上6時間以下などの保持時間にわたって加熱保持し、その後、水冷や空冷などによって表面温度が例えば20℃以下となるように冷却してもよい。この際には、可能な限り急冷することが好ましい。このとき好ましくは50℃/s以上の降温速度、より好ましくは100℃/s以上の降温速度である。
(5)第1時効処理工程
この工程では、溶体化処理材を用い、300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行い、第1時効処理材を得る。この時効処理は、ピーク時効処理又はそれより短時間の処理であることが好ましく、ピーク時効処理であることがより好ましい。ここで、ピーク時効処理とは、時効処理を行う温度で加熱保持したときにマイクロビッカース硬さ(以下単に硬さとも称する)が最大となる時間まで加熱保持を行う時効処理をいう。なお、硬さが最大となる時間を厳密に求めることは困難であることから、本願では、最大の硬さの90%以上の硬さが得られる時間範囲で加熱保持する時効処理を、ピーク時効処理と呼ぶ。この工程において、時効処理を行う温度範囲は、300℃以上500℃以下であればよいが、このうち、400℃以上が好ましく、420℃以上がより好ましい。スピノーダル分解状態からD022規則相やL12規則相などの化合物相が生成する温度だからである。また、500℃以下が好ましく、480℃以下がより好ましい。D022規則相やL12規則相などの化合物相は生成するが、D03平衡相は生成せず粒界反応が起こりにくい温度だからである。なお、D022規則相、L12規則相、D03平衡相はすべて立方晶であり、これらはいずれも超格子構造をもつ(Cu,Ni)3Sn相であると考えられる。この工程において、時効処理を行う時間は、時効処理の温度や溶体化処理材の寸法などに応じて経験的に定めてもよく、例えば、30分以上24時間以下の範囲としてもよい。このうち、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。処理する大きさによってD022規則相やL12規則相などの化合物相を生成するのに必要な時間だからである。また、12時間以下が好ましく、6時間以下がより好ましい。処理する大きさによってD022規則相やL12規則相などの化合物相を生成するのに十分な時間だからである。
(6)時効間加工工程
この工程では、冷間加工を行い、時効間加工材を得る。本発明において、冷間加工とは、材料温度が200℃以下となる温度域で行う加工をいう。冷間加工は、例えば、意図して加熱を行わず、常温で行うものとしてもよい。加工の種類は特に限定されず、例えば、圧延加工やプレス加工、押出し加工、引抜き加工、あるいは鍛造などとしてもよい。このうち、板形状に成形していくためには圧延加工が好ましい。この冷間加工は、加工率が60%を超え99%以下となるように行うことが好ましい。このうち、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。材料内部で転位密度が高まり、十分な加工硬化を得られる加工だからである。また99%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。加工硬化が進み、加工効率が低下(例えば圧延の場合、必要な加工率までの加工に要する圧延パス回数が増大)してしまう場合があるからである。ここで、加工率R(%)は、加工前の断面積をA0(mm2)、加工後の断面積をA(mm2)とすると、R=(A0−A)×100/A0の式から求められる。なお、圧延を行う場合、加工率R(%)は、圧延前の板厚をt0(mm)、圧延後の板厚をt(mm)とすると、R=(t0−t)×100/t0の式から求めてもよい。
(7)第2時効処理工程
この工程では、300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行い、第2時効処理材を得る。この工程では、第1時効処理工程の時効処理よりも短時間の時効処理を行うことが好ましい。こうすれば、過時効状態となりにくいため、機械的強度を高めるのに適している。時効処理温度は、300℃以上500℃以下であればよいが、400℃以上が好ましく、420℃以上がより好ましい。スピノーダル分解状態からD022規則相やL12規則相などの化合物相が生成する温度だからである。また、500℃以下が好ましく、480℃以下がより好ましい。D022規則相やL12規則相などの化合物相は生成するが、D03平衡相は生成せず粒界反応が起こりにくい温度だからである。また、この時効処理温度は、第1時効処理工程の時効処理温度と同じかそれ以下であることが好ましい。時効処理温度は第1時効処理工程の時効処理温度より高温としてもよいが、その場合、より短時間の時効処理をすることが好ましい。この工程において、時効処理を行う時間は、時効処理の温度や時効間加工材の寸法、時効間加工工程における加工率などに応じて経験的に定めてもよく、例えば、15分以上12時間以下の範囲としてもよい。このうち、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。処理する大きさによって、加工により導入された転位の周囲にSnが拡散して固定化し、あるいはD022規則相やL12規則相などの化合物相を生成するのに必要な時間だからである。また、6時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。処理する大きさによって、Snの拡散やD022規則相やL12規則相などの化合物相を生成するのに十分な時間だからである。
本発明の銅合金は、引張強さが1100MPa以上であることが好ましく、1200MPa以上であることがより好ましく、1300MPa以上であることがさらに好ましい。また、0.2%耐力が1050MPa以上であることが好ましく、1150MPa以上であることがより好ましく、1250MPa以上であることがさらに好ましい。また、マイクロビッカース硬さが400Hv以上であることが好ましく、410Hv以上であることがより好ましく、420Hv以上であることがさらに好ましい。これらのうちの1つ以上を満たすものでは、機械的強度が特に高いといえる。引張強さの上限は特に限定されないが、例えば1500MPa以下としてもよい。また、0.2%耐力の上限は特に限定されないが、例えば1450MPa以下としてもよい。また、マイクロビッカース硬さの上限は特に限定されないが、例えば480Hv以下としてもよい。
この銅合金は、0.2%耐力の80%の応力を200℃の雰囲気内で100時間負荷した後の応力緩和率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。こうしたものでは、耐熱性の劣化を特に抑制できるといえる。応力緩和率の下限は特に限定されないが、例えば0.01%以上としてもよい。
この銅合金は、転位密度が8.0×1014-2以上であることが好ましく、1.0×1015-2以上であることがより好ましく、1.2×1015-2以上であることがさらに好ましい。このように転位密度が高いものでは、機械的強度をより高めることができる。転位密度の上限は特に限定されないが、例えば1.0×1016-2以下としてもよい。また、この銅合金は、組織全体に変形双晶が満遍なく導入されていることが好ましい。変形双晶が結晶粒界と同様の役割を果たし、転位の移動を抑制することなどにより、機械的強度を高めたり、耐熱性の低下を抑制したりするのに適しているからである。このとき、変形双晶の平均双晶境界間隔が、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。また、この銅合金は、D022規則相及びL12規則相が形成されており、スピノーダル分解に起因する濃度変調組織が観察されないことが好ましい。一般的なCu−Ni−Sn系銅合金においては、スピノーダル分解に起因する濃度変調組織によって応力緩和特性が向上すると考えられているが、そうしたものとは異なる機構によって応力緩和特性を高めることができるからである。
この銅合金は、一定のひずみ速度で変形させたときに、応力−ひずみ線図において、降伏点で一旦応力の急激な減少が起こること、すなわち、降伏現象を示すことが好ましい。この現象は、コットレル雰囲気によって転位が固着していることを示すと考えられる。また、この銅合金は、一定のひずみ速度で変形させたときに、応力−ひずみ線図において、セレーションが確認されることが好ましい。この現象も、コットレル雰囲気によって転位が固着していることを示すと考えられる。転位が固着することによって、機械的特性が向上し、耐熱性の劣化を抑制できると考えられる。
この銅合金は、導電率が5%IACS以上であることが好ましく、6%IACS以上であることがより好ましい。銅合金には、導電性が求められる用途が多く、そうした用途に用いるのに適しているからである。なお、ここでいう導電率は、常温(通常は20℃)における焼き鈍した万国標準軟銅の導電率を100%としたときの相対比で導電率を表したものであり、単位として%IACSを用いる。
この銅合金の製造方法及び銅合金では、Cu−Ni−Sn系銅合金において、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。まず、溶体化処理材に対してピーク時効処理を行うと、D022規則相やL12規則相などの化合物相が複合的に析出し、析出硬化により機械的強度が向上する。続いて冷間加工を行うと、転位密度が増加したり変形双晶(1次および2次双晶)が生じることにより、機械的強度がさらに向上する。例えば、1次双晶の幅が150nm以上の広い場所では2次双晶が1次双晶と71度の方向に生成することから、1次双晶だけ、または1次双晶を補完するように2次双晶が生成した結果、組織微細化が起こると考えられる。このような変形双晶の生成は、ピーク時効した後に圧延する場合に顕著となり、平均双晶境界間隔も小さくなる。しかし、応力が負荷された状態で高温になると、高密度の転位が容易に移動し耐熱性が劣化することがある。そこで、さらに時効処理を行うと、高密度化した転位の周囲にコットレル雰囲気ができて転位が固定化されることによって、耐熱性の劣化を抑制できる。このようにして、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できると考えられる。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態では、銅合金の製造方法は、(1)溶解・鋳造工程、(2)均質化処理工程、(3)予備加工工程、(4)溶体化処理工程、(5)第1時効処理工程、(6)時効間加工工程、(7)第2時効処理工程を含むものとしたが、これらの工程を全て含むものでなくてもよい。例えば、(1)〜(4)の各工程を省略し、別途用意した溶体化処理材を用いて、(5)以降の工程を行ってもよい。また、(2)や(3)の処理は、省略してもよいし、他の工程に置き換えてもよい。
以下では、本発明の銅合金を製造した具体例を実施例として説明する。
1.供試材の作製
(溶体化処理材の作製)
まず、1150℃窒素雰囲気中で高純度るつぼを用い、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金を溶製した。次いで、熱間鍛造を行い鋳造組織の分塊と厚板状に形状寸法を整えた後に均質化処理、70%冷間圧延、溶体化処理をこの順に行い、溶体化処理材を得た。溶体化処理は、真空中にて800℃で30分間保持し、水焼入れすることにより行った。
(冷間圧延材の作製)
溶体化処理材を加工率50%〜80%まで冷間圧延し、50%〜80%の冷間圧延材を作製した(後述比較例1,2)。
(ピーク時効時間の決定)
溶体化処理材について、400℃で時効処理を行うときのピーク時効時間を以下のように求めた。まず、溶体化処理材を用い、400℃にて所定時間、時効処理を行い、時効処理時間の異なる複数の試料を作製した。作製した各試料の硬さを測定し、時効処理時間と硬さとの関係を調べた。そして、硬さが最大となる時間をピーク時効時間とした。50%〜80%冷間圧延材についても同様に、400℃で時効処理を行うときのピーク時効時間を求めた。図1は、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の時効処理時間とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。なお、硬さの測定方法の詳細については後述する。
ここで、時効処理による組織変化を確認するため、溶体化処理材や50%冷間圧延材、80%冷間圧延材について、時効時間の異なる試料についてTEM観察及びX線回折を行った。図2は、溶体化処理材を400℃で5分間保持(亜時効)した試料のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)である。図3は、溶体化処理材を400℃で10時間保持(ピーク時効)した試料のTEM写真(a)及び[001]α制限視野電子回折像(b)である。図4は、溶体化処理材を400℃で50時間保持(過時効)した試料のTEM写真(a)及び[112]α制限視野電子回折像(b)である。図2(a)では、<001>方向に元素濃度の微細な周期的変動、即ち変調構造により<110>方向に平行な線状コントラストが見られた。また、図2(b)において、母相の(002)αと(004)α回折斑点に注目した場合に、回折斑点は変調構造生成に起因して<001>方向に僅かに伸びて木の葉状を呈していた。変調構造は溶質原子濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持っており、これに起因してX線回折の主回折線に近接して両側に副極大をもつ回折強度(サイドバンド)が現れることが知られている。400℃で5分間保持した試料のX線回折測定を行ったところ、主回折線に近接したサイドバンドが観察された。したがって、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金では、時効初期に変調構造が生じていることがわかった。図3(b)では、規則格子反射の存在が確認できた。解析を行ったところ、規則格子反射はL12型規則相に対応することがわかった。規則格子反射は、時効の速い段階から認められ(図2(a)でも確認された)、時効が進むとともにより明瞭になった。このL12型規則相は、変調構造によってもたらされたSn原子濃度の高い領域に周期的に形成される準安定相である。Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金では、L12型規則相が時効硬化に大きく寄与していると推察された。硬さが減少した過時効段階の様子を示す図4(a)では、粒界反応セルの形成が確認された。解析の結果、この粒界反応セルは平衡γ相であることが確認された。50%冷間圧延材や80%冷間圧延材でも同様の結果が得られた。
図1〜4より、ピーク時効をすることによって好適な組織が得られることがわかった。また、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の溶体化処理材のピーク時効時間は約10時間であり、50%冷間圧延材のピーク時効時間は5時間であり、80%冷間圧延材のピーク時効時間は4時間であることがわかった。この結果を用いて、実施例1〜3及び比較例1〜3のCu−21Ni−5.5Sn系銅合金を作製した。
(他の溶体化処理材の作製)
また、Cu−15Ni−8Sn系銅合金を溶製した。この合金を、熱間鍛造を行い鋳造組織の分塊と厚板状に形状寸法を整えた後に均質化処理、50%冷間圧延、溶体化処理をこの順に行い、溶体化処理材を得た。溶体化処理は、真空中にて875℃で60分間保持し、水焼入れすることにより行った。なお、Cu−15Ni−8Sn系銅合金の溶体化処理材の平均結晶粒径dは55(μm)であった。
(冷間圧延材の作製)
また、Cu−15Ni−8Sn系銅合金の溶体化処理材を加工率50%〜60%まで冷間圧延し、50%〜60%の冷間圧延材を作製した(後述比較例4,5)。
(ピーク時効時間の決定)
Cu−15Ni−8Sn系銅合金の溶体化処理材について、400℃で時効処理を行うときのピーク時効時間を以下のように求めた。まず、溶体化処理材を用い、400℃にて所定時間、時効処理を行い、時効処理時間の異なる複数の試料を作製した。作製した各試料の硬さを測定し、時効処理時間と硬さとの関係を調べた。そして、硬さが最大となる時間をピーク時効時間とした。50%〜60%冷間圧延材についても同様に、400℃で時効処理を行うときのピーク時効時間を求めた。その結果、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金と同様に、ピーク時効をすることによって好適な組織が得られることがわかった。Cu−15Ni−8Sn系銅合金の溶体化処理材のピーク時効時間は約10時間であり、50%冷間圧延材のピーク時効時間は4時間であり、60%冷間圧延材のピーク時効時間は2時間であることがわかった。この結果を用いて、実施例4〜6及び比較例4〜7のCu−15Ni−8Sn系銅合金を作製した。
[実施例1]
まず、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の溶体化処理材を用い、ピーク時効処理(400℃で10時間保持)を行った(第1時効処理工程)。続いて、加工率80%の冷間圧延を行った(時効間圧延工程)。さらに、400℃で15分間保持する時効処理を行った(第2時効処理工程)。こうして、実施例1の合金を作製した。
[実施例2,3]
第2時効処理工程における400℃での保持時間を30分間とした以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例2の合金を作製した。また、第2時効処理工程における400℃での保持時間を1時間とした以外は、実施例1と同様の工程を経て実施例3の合金を作製した。
[実施例4]
Cu−15Ni−8Sn系銅合金の溶体化処理材を用い、ピーク時効処理(400℃で8時間保持)を行った(第1時効処理工程)。続いて、加工率50%の冷間圧延を行った(時効間圧延工程)。さらに、400℃で20分間保持する時効処理を行った(第2時効処理工程)。こうして、実施例4の合金を作製した。
[実施例5,6]
加工率60%の冷間圧延を行い、第2時効処理工程における400℃での保持時間を40分間とした以外は、実施例4と同様の工程を経て実施例5の合金を作製した。また、第2時効処理工程における400℃での保持時間を1時間とした以外は、実施例5と同様の工程を経て実施例6の合金を作製した。
[比較例1,2]
Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の50%冷間圧延材を用い、第1時効処理(400℃で5時間保持)を行った。こうして、比較例1の合金を作製した。また、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の80%冷間圧延材を用い、第1時効処理(400℃で4時間保持)を行った。こうして、比較例2の合金を作製した。
[比較例3]
第2時効処理工程を省略した以外は、実施例1と同様の工程を経て比較例3の合金を作製した。
[比較例4、5]
Cu−15Ni−8Sn系銅合金の50%冷間圧延材を用い、第1時効処理(400℃で4時間保持)を行った。こうして、比較例の合金を作製した。また、Cu−15Ni−8Sn系銅合金の60%冷間圧延材を用い、第1時効処理(400℃で2時間保持)を行った。こうして、比較例の合金を作製した。
[比較例6、7]
第1時効処理(400℃で10時間保持)を行ったのち、加工率50%の冷間圧延を行い、第2時効処理工程を省略した以外は、実施例4と同様の工程を経て比較例6の合金を作製した。また、第1時効処理(400℃で10時間保持)を行ったのち、加工率60%の冷間圧延を行い、第2時効処理工程を省略した以外は、実施例4と同様の工程を経て比較例7の合金を作製した。
2.引張試験
ワイヤカット放電加工機を用いて、平部寸法が20mm(長さ)×6mm(幅)×0.25mm(厚さ)の板状型付き試験片を作製した。そして、引張試験機(AUTOGRAPH AG−X)を用い、室温大気中、初期ひずみ速度5×10-3/秒の条件で引張試験を行った。この引張試験は、JISZ2201に準じて行った。
3.硬さ測定
マイクロビッカース硬度計により、2.9N、10secの条件で硬さを測定した。この際、圧延方向に垂直な板厚断面の中央部において各試料で10ヶ所測定を行い、平均値を求めた。この硬さ測定は、JISZ2244に準じて行った。
4.応力緩和試験(耐熱性試験)
応力緩和試験は、銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験法(日本伸銅協会技術基準JCBA T309:2001(仮))に準じ、スパン長さ30mmの片持ち梁方式を採用して行った。具体的には、図に示すように試験治具を用いて試験片端部を固定し、たわみ変位付加用ボルトで試験片に初期たわみ変位δ0を与えた。初期たわみ変位は、式(1)を用いて算出した。
δ0=σL2/1.5EH ・・・(1)
ここで、σは常温での0.2%耐力の80%の応力(N/mm2)、Lはスパン長さ(mm)、Hは試験片の厚さ(mm)、Eはヤング率(N/mm2)である。
続いて、試験治具ごと電気炉内で200℃の窒素雰囲気にて保持した。100時間経過後、試験片の永久たわみ変位δtを測定し、式(2)を用いて応力緩和率R(%)を算出した。
R=(δt/δ0)×100 ・・・(2)
5.導電率測定
JISH0505に準じて供試材の体積抵抗ρを測定し、焼き鈍した万国標準軟銅の抵抗値(1.7241μΩcm)との比を計算して導電率(%IACS)に換算した。換算には、以下の式を用いた。導電率γ(%IACS)=1.7241÷体積抵抗ρ×100。
6.光学顕微鏡観察
光学顕微鏡観察用試料の試験片表面は、エメリーペーパー(#400〜#2000)で研磨後、アルミナを使用したバフ研磨を行い、鏡面に仕上げた。そして、光学顕微鏡(OLYMPUS製BX51M)を用いて表面組織を観察した。また、圧延面に垂直で圧延方向に平行な断面を撮影した光学顕微鏡写真から、圧延方向に垂直な方向の粒界の平均間隔を平均結晶粒径d(μm)として求めた。実施例1〜3及び比較例2と3ではd=10μmであり、比較例1ではd=30μmであった。また、実施例4〜6及び比較例6と7ではd=15μmであり、比較例4ではd=27μmであり、比較例5ではd=22μmであった。
7.透過型電子顕微鏡(TEM)観察
透過型電子顕微鏡(日本電子製JEOL2000EX)を用いて、加速電圧200kVにて内部組織観察を行った。TEM観察用試料は、機械研磨によって約0.2mmの厚さまで研磨後、直径3mmの小片を切り出した。その後、電解研磨装置(ケミカル山本社製Ecopol)を使用して電解研磨を施し、薄膜試料を作製した。電界研磨液は硝酸:メタノール=1:4を用いた。Ecopol使用条件は電圧20.0V(作動中は13.5V)、試料と電極の距離0.25mm、電解研磨条件は電圧6.0V、電流0.1A、液温−30℃で行った。透過型電子顕微鏡により観察される変形双晶は転位の運動に対して結晶粒界と同様な役割を示すことが知られているので、実施例1〜6と比較例3、6、7ではTEM写真から得られた平均双晶境界間隔を平均結晶粒径dとした。なお、比較例1と2では変形双晶が局所的で双晶境界間隔が測定できなかったことと変形双晶の量が少ないため、平均結晶粒径そのものをdとした。
8.格子定数及び転位密度の測定
X線回折装置(理学電製RINT2500)を用いて、Cu管球、管電圧40kV、管電流200mAの条件のもとでX線回折測定を行い、Cu母相の格子定数及び転位密度を以下のように測定した。各面からの回折ピークより求めた格子定数の値をcos2θ/sinθの関数により外挿し、得られた値を最終的な格子定数として採用した。この格子定数は、実施例1〜3及び比較例1〜3のすべてにおいて、約0.3618nmであった。また、(111)、(220)、(311)反射面からの回折ピークの幅(半値幅)より、補正されたWilliamson−Hall法(T. Kunieda, M. Nakai, Y. Murata,T. Koyama, M. Morinaga: ISIJ Int. 45(2005),1909-1914参照)を用いてひずみを求め、転位密度に換算した。X線回折用試料は、#2000のエメリーペーパー及び6μm〜3μmのバフを用いた機械研磨を施し、試料表面が鏡面状態となるようにした。なお、このとき、試料の面出しは十分に行い、偏心による誤差を小さくした。
9.実験結果
表1に、実施例1〜6及び比較例1〜7の、引張強さ、0.2%耐力、伸び、硬さ、応力緩和率、導電率、結晶粒径、転位密度を示した。表1より、機械的強度の面では、比較例1,2よりも比較例3及び実施例1〜3が優れていることがわかった。同様に、機械的強度の面では、比較例4,5よりも比較例6、7及び実施例4〜6が優れていることがわかった。また、耐熱性の面では、実施例1〜3では、比較例1,2よりは劣るものの、比較例3よりも優れていることがわかった。同様に、耐熱性の面では、実施例4〜6では、比較例4,5よりは劣るものの、比較例6よりも優れていることがわかった。以上より、本願の実施例1〜6では、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できることがわかった。また、導電率も、比較例のものと同等であり、導電率の劣化を抑制できることがわかった。
図6に、比較例1〜3の応力ひずみ線図を示す。図6において、比較例1〜3のいずれにおいても、ひずみが2%以上となる付近からセレーションが確認された。これは、SnやNiなどの固溶原子によるコットレル雰囲気が形成されたことにより、転位の易動度が低下したことを示すものと推察された。実施例1〜3でも、同様のセレーションが確認された。また、図6において、比較例1,2では降伏現象が確認されたが、比較例3では降伏現象が確認されなかった。これは、比較例3のものでは、時効後に冷間圧延を行ったことによって、可動転位が増加したためと推察された。また、図示は省略するが、実施例3のものでは、比較例1,2と同様に降伏現象が確認されたが、実施例1と2では明瞭な降伏現象は観察されなかった。実施例3で降伏現象が確認されたのは、圧延後に時効処理を行うことによって、新たにコットレル雰囲気が形成され、可動転位が固着したためと推察された。一方、実施例1と2で明瞭な降伏現象が現れなかったのは、新たに形成されたコットレル雰囲気が実施例3の場合より少なく、その結果、可動転位の固着力が実施例3ほど強くなかったためと推察される。
図7に、比較例1〜3の応力緩和試験結果を示す。図7では、横軸に保持時間を、縦軸に応力緩和率を示した。図7より、比較例1〜3のいずれにおいても、応力緩和率は初期段階で急激に増加し、徐々にその増加割合は小さくなり、最終的にほぼ一定値となった。実施例1〜3でも同様に、応力緩和率は初期段階で急激に増加し、徐々にその増加割合は小さくなり、最終的にほぼ一定値となった。
図8に、比較例1の光学顕微鏡写真(a)及び比較例3の光学顕微鏡写真(b)を示す。図8(a)より、比較例1には、変形双晶が局所的に導入されていることがわかった。比較例2では、図8(a)と同様の組織が確認された。図8(b)より、比較例3では、試料全域に高密度に変形双晶が存在することがわかった。実施例1〜3では、図8(b)と同様の組織が確認された。
図9に、比較例1の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)を示す。図9(a)より、比較例1には、変形双晶が局所的に導入されていることがわかった。図9(b)では、2つの[011]回折パターンが重なって現れた。それらは{111}に関して鏡面対象でありそれぞれのパターンに対応する結晶が互いに双晶関係となることがわかった。実施例1〜3や比較例2,3でも、同様であった。
図10に、Cu−21Ni−5.5Sn系銅合金の溶体化処理材(ただし、処理時間4.5分)に、450℃で150分間保持する時効処理を行った試料のTEM像(a)、制限視野電子回折像(b)及び、制限視野電子回折像の模式図(c)を示す。図10に示すように、この試料では、L12規則相とD022相の析出が確認された。このことから、本願の銅合金では、処理条件によっては、L12規則相だけでなくD022規則相も析出することがわかった。
次に、実施例4〜6及び比較例4〜7のCu−15Ni−8Sn系銅合金の応力緩和試験を行った。その結果、図6のCu−21Ni−5.5Sn系銅合金と同様に、いずれの試料においても、ひずみが2%以上となる付近からセレーションが確認された。これは、SnやNiなどの固溶原子によるコットレル雰囲気が形成されたことにより、転位の易動度が低下したことを示すものと推察された。また、実施例6、比較例5では降伏現象が確認されたが、比較例7では降伏現象が確認されなかった。これは、比較例7では、時効後に冷間圧延を行った段階で高密度の転位の周辺にはコットレル雰囲気が形成されていないためであると推察された。実施例6で降伏現象が確認されたのは、圧延後に時効処理を行うことによって、新たにコットレル雰囲気が形成され、可動転位が固着したためと推察された。
図11に、比較例5の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)を示す。比較例5には、変形双晶が局所的に導入されていることがわかった。また、図12に、比較例7の変形双晶のTEM写真(a)及び[011]α制限視野電子回折像(b)を示す。比較例6、7では、変形双晶が局所的に導入されており、且つ変形双晶には、主たる双晶に対し、これと異なる方位(71度)に従たる双晶が認められた。以下、主たるものを1次双晶とし、従たるものを2次双晶と称する。比較例6,7の1次双晶の境界間隔は、10〜400nmに分布しており、1次双晶境界間隔が150nm以上であるCu母相中だけに2次双晶が確認された。この双晶境界間隔の測定結果より、溶体化処理後に冷間圧延を行った比較例4,5に比して、溶体化処理後に第1時効処理及び冷間圧延を行った比較例6,7の方が双晶境界間隔が極めて小さく、双晶境界密度が高いことがわかった。
以上のことから、本願の銅合金の製造方法によって、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制できる理由は、以下のように推察された。第1時効処理工程では、時効処理によって、D022規則相とL12規則相、すなわち変態途中にある(Ni,Cu)3Snの複合的な化合物相が析出した組織を作る。続く時効間加工(時効間圧延)により、転位密度を増やすとともに、析出で硬くなったCu母相内に満遍なく変形双晶を導入してさらに強度を上げる。ここまでで高強度は得られるが、高密度になった転位が200℃の雰囲気下では可動状態(応力緩和が容易に起こる状態)になることがある。第2時効処理工程では、こうした可動状態の転位を固着する。このとき、例えば、低融点のSn原子が、Cu母相の格子がひずんでいる高密度転位の周りに固着するように高速拡散することで、転位が動けない状態にする。このようにして、機械的強度をより高めると同時に耐熱性の劣化を抑制できると考えられる。
この出願は、2013年6月4日に出願された日本国特許出願第2013−117634号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
本発明は、銅合金に関連する分野に利用可能である。

Claims (5)

  1. 3質量%以上25質量%以下のNiと、3質量%以上9質量%以下のSnと、0.05質量%以上0.5質量%以下のMnと、残部が銅及び不可避的不純物であるCu−Ni−Sn系銅合金の製造方法であって、
    溶体化処理を行った溶体化処理材を用い、300℃以上500℃以下の温度範囲且つ30分以上24時間以下の範囲ピーク時効処理を行う第1時効処理工程と、
    前記第1時効処理工程の後に加工率が60%を超え99%以下となるように冷間加工を行う時効間加工工程と、
    前記時効間加工工程の後に300℃以上500℃以下の温度範囲で15分以上12時間以下の範囲で前記第1時効処理工程の時効処理よりも短時間の時効処理を行う第2時効処理工程と、をみ、
    引張強さが1200MPa以上、0.2%耐力が1150MPa以上、マイクロビッカース硬さが400Hv以上、0.2%耐力の80%応力を200℃の雰囲気内で100時間負荷した後の応力緩和率が10%以下である銅合金を製造する、銅合金の製造方法。
  2. 前記冷間加工は、冷間圧延である、請求項に記載の銅合金の製造方法。
  3. 3質量%以上25質量%以下のNiと、3質量%以上9質量%以下のSnと、0.05質量%以上0.5質量%以下のMnと、残部が銅及び不可避的不純物であるCu−Ni−Sn系銅合金であって、
    引張強さが1200MPa以上、0.2%耐力が1150MPa以上、マイクロビッカース硬さが400Hv以上、0.2%耐力の80%応力を200℃の雰囲気内で100時間負荷した後の応力緩和率が10%以下である、銅合金。
  4. 転位密度が1.0×1015-2以上である、請求項に記載の銅合金。
  5. 降伏現象を示す、請求項又はに記載の銅合金。
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