JP6324431B2 - 銅合金板材および銅合金板材の製造方法 - Google Patents

銅合金板材および銅合金板材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、銅合金板材および銅合金板材の製造方法に関し、特に電気電子部品、例えばコネクタ、スイッチ、ソケット、時計用部品などに適用される銅合金板材の改良に関する。
例えばコネクタ、スイッチ、ソケット、時計用部品などの電気電子部品に使用される銅合金材料としては、りん青銅や黄銅等の固溶強化型合金が使用されていた。しかし、近年、電子部品の著しい軽薄・短小化に伴って、これらの材料では必要とされる強度を満足できない場合が多い。そのため、特に信頼性が要求される部品には、強度の高いベリリウム銅、チタン銅等の高強度型銅合金の需要が増えているが、ベリリウム銅は、ベリリウム化合物が毒性を有することや、コストが高いといった問題点があり、チタン銅は、耐食性が低く、塩水噴霧試験で容易に腐食するといった問題があり、例えば近年登場したスマートウォッチや眼鏡型端末といったウェアラブル機器などの、人体と接触し野外での使用が想定される製品の部品としては不適当である。従って毒性が無く、強度や耐食性に優れたCu−Ni−Sn系銅合金があらためて注目されている。また、Cu−Ni−Sn系の銅合金は、時効処理による第2相の析出によって強度を向上させる時効硬化型合金として知られている(例えば特許文献1〜5等)。
特許文献1には、仕上げ加工前の組織調整を目的として、単相域となる800℃以上の温度での熱処理と、室温で2相の出現が可能となる600〜770℃の温度範囲での熱処理の2段熱処理で行うとともに、疲労特性をさらに向上させるために、加工率0〜60%の範囲で行なう仕上げ加工後に、350〜500℃の温度範囲で時効熱処理を行い、常温状態でマトリックス(第1相)中に第2相を均一に分散させた組織を得ることで、機械的特性および導電性を実用レベルに保ちながら、安価に成形性が良好で疲れ特性に優れたCu−Ni−Sn合金の製造方法が記載されている。
特許文献2には、最終仕上げ加工前に、730〜770℃の熱処理と、急冷処理と、55〜70%の冷間加工と、400〜500℃の熱処理とを順次施し、2相領域となる温度で熱処理を行うことで、引張強度、0.2%耐力、硬度および疲労強度のいずれの特性とも改善したCu−Ni−Sn系合金が記載されている。
特許文献3には、最終冷間圧延前の溶体化処理において、結晶粒径を微細化しつつ、第2相粒子の析出を抑えることにより、高強度で、良好な曲げ加工性を有するNi−Sn系銅合金が記載されている。
特許文献4には、圧延材を780〜900℃で加熱して急冷する溶体化処理を行う工程と、加工率6〜12%で圧延加工する工程と、270〜400℃で加熱する時効処理を行う工程とを備え、溶体化処理後の所定の断面における圧延材の平均結晶粒径を6μm未満とすることにより、高い強度と優れた曲げ加工性を同時に得ることができる銅合金が記載されている。
特許文献5には、溶体化処理材を、300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行った後に、加工率が60%を超え99%以下の冷間加工を行ない、その後、300℃以上500℃以下の温度範囲で時効処理を行うことで、高密度の転位を固定化させ、機械的強度をより高め、耐熱性の劣化を抑制したCu−Ni−Sn系合金が記載されている。
特開平2−88750号公報 特開2002−266058号公報 特開2009−242895号公報 国際公開第2014/016934号パンフレット 国際公開第2014/196563A1号パンフレット
ところで、近年は、腕時計の方式で手首に装着できるウェアラブルデバイス(いわゆるスマートウォッチ)や、モバイル機器の小型化・高機能化に伴って、使用部品についても小型化するとともに使用個数も増加する傾向にあり、従来から、Cu−Ni−Sn合金が用いられている部品にも、省スペース化のため薄板化が求められるようになり、より高強度で曲げ加工性に優れた材料を開発することが必要になってきた。従来技術によれば、熱処理過程において、粒径微細化および第2相粒子の個数を規定することで、高強度化や曲げ加工性の向上を図っているが、強化機構の主体であるスピノーダル変調構造、すなわち固溶元素濃度が母相内で周期的に変動する変調構造の制御に関しては考慮が払われていなかったため、特許文献1〜4に記載のCu−Ni−Sn合金では、適正な変調構造を有していなかった。より詳細に述べると、変調構造の適正化を図るには、溶体化工程でSnおよびNiを十分に固溶する必要があるが、従来技術では十分な固溶をさせるほど高温にすると、粒径が粗大化して曲げ加工性が低下するという問題があった。
特許文献1および2は、曲げ加工性に関する開示や示唆がなく、また、特許文献3は、溶体化工程でSnおよびNiの析出を抑制することで、時効前の曲げ加工性の改善を図っているが、時効後の曲げ加工性に関する記載はない。また、特許文献4では、溶体化工程でSnおよびNiを十分固溶させていないため、時効後に適正な変調構造になっていない可能性が高く、結果として、十分な強度が得られておらず、加えて、伸びに関する記載がないため、強度と伸びの双方のバランス特性、特に十分な伸び(特に10%以上)を具備しているかについては開示がない。さらに、特許文献5では、スピノーダル変調構造に関する検討を行っているが、周期性の制御は行っていないため、適正な変調構造が得られているとは考えにくく、また、2回の時効処理と高加工率の冷間加工を行っているため、引張強さや0.2%耐力は高いものの、伸びが5〜6%と低く、曲げ加工性も低くなるという問題がある。さらに、特許文献1〜5に記載されたCu−Ni−Sn合金材は、いずれも、高強度(例えば引張強度が900MPa以上)と高伸び(例えば10%以上)のバランス特性に関し、何ら考慮が払われていないため、強度が高くても伸びが小さければ、部品加工時の成形性が低下するという問題点もある。
本発明は、変調構造の周期性と結晶粒の適正化を図り、変調構造の特性を有効に発揮させることで、特に強度、曲げ加工性、伸びおよび導電率の特性をバランスよく向上させた銅合金板材およびコネクタならびに銅合金板材の製造方法を提供することを目的とする。
Cu−Ni−Sn系合金は、スピノーダル分解によるSnの変調構造の形成にて強度を向上させる時効硬化型合金である。本発明者らが鋭意検討を行ったところ、中間熱処理、溶体化熱処理、時効熱処理、およびこれら熱処理の間で行う冷間圧延の各条件を適正に制御することによって、時効後に強固なスピノーダル変調構造を適正な構造に発達させることができるという知見を得た。また、発達させた変調構造は、特定方向に固溶した溶質原子であるSnの濃度が周期性を持っており、前記特定方向に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が数nm〜数十nm程度であることを見出した。さらに、時効温度が高くなるにつれて前記Sn濃度の周期も増大して強度が増加する傾向にあるが、前記Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長を1nm以上15nm以下の範囲に限定するとともに、Sn濃度の最大値と最小値の差を4〜18質量%の範囲に限定することによって、組織形態が適正に保たれ強度が高くなり、加えて、平均結晶粒径が0.1μm超え6μm以下とすることによって、特に曲げ加工性が向上し、その結果、強度、伸び、曲げ加工性および導電率をバランスよく向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有し、ならびに0〜0.2質量%Fe、0〜0.05質量%Si、0〜0.3質量%Mg、0〜0.5質量%Mn、0〜0.1質量%Zn、0〜0.15質量%Zrおよび0〜0.1質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で0〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、溶質原子Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持ち、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差が、4〜18質量%の範囲であり、(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が、1nm以上15nm以下であり、かつ平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下であることを特徴とする銅合金板材。
(2)結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の標準偏差が1〜4質量%である、上記(1)に記載の銅合金板材。
(3)0.02〜0.20質量%Fe、0.01〜0.05質量%Si、0.01〜0.30質量%Mg、0.01〜0.50質量%Mn、0.01〜0.10質量%Zn、0.01〜0.15質量%Zrおよび0.01〜0.10質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で1.0質量%以下含有する、上記(1)または(2)に記載の銅合金板材。
(4)引張強度が900MPa以上でかつ伸びが10%以上である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材からなるコネクタ。
(6)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材を用いた時計用部品。
(7)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材を与える合金成分組成からなる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、面削[工程4]、第1冷間加工[工程5]、中間熱処理[工程6]、第2冷間加工[工程7]、溶体化熱処理[工程8]、第3冷間加工[工程9]、時効処理[工程10]をこの順に施し、前記中間熱処理は、加熱温度が300℃〜850℃、該加熱温度での保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上であり、前記第2冷間加工は、総加工率が50〜90%であり、前記溶体化熱処理は、溶体化温度が650〜850℃、該溶体化温度での保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上であり、前記第3冷間加工は、総加工率が5〜70%であり、および、前記時効処理は、時効処理温度が300〜500℃および該時効処理温度での保持時間が0.1〜15時間であることを特徴とする銅合金板材の製造方法。
本発明によれば、3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有し、ならびに0〜0.2質量%Fe、0〜0.05質量%Si、0〜0.3質量%Mg、0〜0.5質量%Mn、0〜0.1質量%Zn、0〜0.15質量%Zrおよび0〜0.1質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で0〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、溶質原子Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持ち、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差が、4〜18質量%の範囲であり、(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が、1nm以上15nm以下であり、かつ平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下であることによって、特に強度、曲げ加工性、伸びおよび導電率の特性をバランスよく向上させた銅合金板材を提供することが可能になった。この銅合金板材は、電気電子部品や、例えばコネクタ、スイッチ、ソケット、時計用部品などの部品に使用するのに適している。特にスマートウォッチなどの軽量かつ耐腐食性を求められる機器の部品に使用するのに適している。また、本発明に従う銅合金板材の製造方法によれば、上記銅合金板材を好適に製造することができる。
図1は、本発明の銅合金板材から採取した試験片の表面をバフ研磨して酸化膜を除去した後、硝酸20%のメタノール溶液にて電解研磨することで観察用試料を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて結晶粒の(001)面を観察したときのものであって、図1(a)が回折パターン、図1(b)がTEM写真である。 図2は、(200)面のX線回折チャートであって、サイドバンドのピークの主回折線からの角度の変位Δθ(Δθ、Δθ)を示す。
以下、本発明の銅合金板材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
本発明に従う銅合金板材は、3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有し、ならびに0〜0.2質量%Fe、0〜0.05質量%Si、0〜0.3質量%Mg、0〜0.5質量%Mn、0〜0.1質量%Zn、0〜0.15質量%Zrおよび0〜0.1質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で0〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、溶質原子Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持ち、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差が、4〜18質量%の範囲であり、(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が、1nm以上15nm以下であり、かつ平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下である。
ここで、本発明でいう「銅合金板材」とは、(加工前であって所定の合金組成を有する)銅合金素材が所定の形状(例えば、板、条、箔、棒、線など)に加工されたものであって、特定の厚みを有し形状的に安定しており面方向に広がりをもつものを指し、広義には条材を含む意味である。本発明において、板材の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05〜1.0mm、さらに好ましくは0.1〜0.8mmである。
<成分組成>
本発明の銅合金板材の成分組成とその作用について示す。
(必須添加成分)
本発明の銅合金板材は、3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有している。
[3.0〜25.0質量%Ni]
Niは、Snとともにスピノーダル分解を生じさせて強度を向上させるための作用を有する重要な元素である。かかる作用を発揮するには、Ni含有量は3.0質量%以上含有することが必要である。一方、Ni含有量が25.0質量%よりも多いと、金属間化合物が生成しやすくなり、生成した金属間化合物が残存すると、それが起点となって冷間加工時に割れが生じ、冷間加工性が著しく劣化する。このため、Ni含有量は、3.0〜25.0質量%の範囲とし、好ましくは9〜20質量%とした。
[3.0〜9.0質量%Sn]
Snは、Niとともにスピノーダル分解を生じさせて強度を向上させるための作用を有する重要な元素である。かかる作用を発揮するには、Sn含有量は3.0質量%以上含有することが必要である。一方、Sn含有量が9.0質量%よりも多いと、金属間化合物が生成しやすくなり、生成した金属間化合物が残存すると、それが起点となって冷間加工時に割れが生じ、冷間加工性が著しく劣化する。このため、Sn含有量は、3.0〜9.0質量%の範囲とし、好ましくは5〜8質量%とした。
(任意添加成分)
本発明の銅合金板材は、NiおよびSnの必須の添加成分に加えて、さらに、任意添加元素として、0.02〜0.20質量%Fe、0.01〜0.05質量%Si、0.01〜0.30質量%Mg、0.01〜0.50質量%Mn、0.01〜0.10質量%Zn、0.01〜0.15質量%Zrおよび0.01〜0.10質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で1.0質量%以下含有させることができる。
[0.02〜0.20質量%Fe]
Feは、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する作用を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Fe含有量を0.02%以上とすることが必要である。しかしながら、Fe含有量が0.20質量%を超えると、導電率の低下が大きく、効果も飽和する。このため、Fe含有量は、0.02〜0.20質量%とする。
[0.01〜0.05質量%Si]
Siは、半田付け時の耐熱剥離性や耐マイグレーション性を向上させる作用を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Si含有量を0.01質量%以上とすることが必要である。しかしながら、Si含有量が0.05質量%超えだと、効果が飽和する上、Niとの強度に寄与しない粗大な析出粒子を形成して強度が低下するおそれがある。このため、Si含有量は、0.01〜0.05質量%とする。
[0.01〜0.30質量%Mg]
Mgは、応力緩和特性を向上させる作用を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Mg含有量を0.01質量%以上とすることが必要である。しかしながら、Mg含有量が0.30質量%を超えると、導電率が大きく低下するおそれがあるため好ましくない。このため、Mg含有量は、0.01〜0.30質量%とする。
[0.01〜0.50質量%Mn]
Mnは、母相に固溶して圧延加工性を向上させると共に、粒界反応型析出を抑制する効果を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Mn含有量を0.01質量%以上、好ましくは0.10〜0.30質量%とすることが好ましい。また、Mnを0.50質量%よりも多く含有させても、効果の向上が期待できないだけではなく、導電率を低下や曲げ加工性への悪影響を及ぼす傾向がある。このため、Mn含有量は、0.01〜0.50質量%とする。
[0.01〜0.10質量%Zn]
Znは、曲げ加工性を改善するとともに、Snめっきやはんだめっきの密着性やマイグレーション特性を改善する作用を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Zn含有量を0.01質量%以上とすることが好ましい。また、Znを0.10質量%よりも多く含有させると、導電性を低下させる傾向がある。このため、Zn含有量は、0.01〜0.10質量%とする。
[0.01〜0.15質量%Zr]
Zrは、主に結晶粒を微細化させて、銅合金板材の強度や曲げ加工性を向上させる作用を有する元素である。かかる作用を発揮させるには、Zr含有量を0.01質量以上とすることが好ましい。また、Zrを0.15質量%よりも多く含有させると、化合物を形成し、導電率及び銅合金板の圧延などの加工性が著しく低下する傾向がある。このため、Zr含有量は、0.01〜0.15質量%とする。
[0.01〜0.10質量%P]
Pは、0.01質量%以上の含有で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性等の製品特性を改善する作用を有する元素である。しかしながら、Pを0.10質量%よりも多く含有させても、特性を改善する効果の向上が期待できないだけではなく、化合物を成形して、熱間加工性が低下する傾向がある。このため、P含有量は、0.01〜0.10質量%とする。
[Fe、Si、Mg、Mn、Zn、ZrおよびPからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で1.0質量%以下]
Fe、Si、Mg、Mn、Zn、ZrおよびPからなる群から選ばれる少なくとも1成分の含有量は、合計で1.0質量%以下であることが好ましい。
上記任意添加成分の少なくとも1成分の含有量が合計で1.0質量%以下であれば、加工性や導電率の低下が生じにくいことから、上記任意添加成分の含有量は、合計で1.0質量%以下とする。
<銅合金板材中の溶質原子Snの存在状態(スピノーダル変調構造)>
本発明の銅合金板材は、溶質原子Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持ち、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差が、4〜18質量%の範囲であり、かつ(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が、1nm以上15nm以下であり、かつ平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下である。
本発明者らは、Cu−Ni−Sn系合金に関し、強度、伸び、曲げ加工性および導電率をバランスよく向上させるため鋭意検討を行なったところ、(I)中間熱処理、溶体化熱処理、時効熱処理、およびこれら熱処理の間で行う冷間圧延の各条件を適正に制御することによって、平均結晶粒径が微細でかつ、時効後に強固なスピノーダル変調構造を適正な構造に発達させることができること、(II)発達させた変調構造は、特定方向に固溶した溶質原子であるSnの濃度が周期性を持っており、前記特定方向に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が数nm〜数十nm程度であること、および(III)時効温度が高くなるにつれて前記Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長も増大して強度が増加する傾向があること、については既に前述した。
そして、本発明者らがさらに検討を行なった結果、平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下である金属組織において、(001)[100]方位に沿って測定したときの前記Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長を1nm以上15nm以下の範囲に限定することによって、強度を有効に向上させることができ、また、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差を4〜18質量%の範囲に限定することによって、組織形態が適正に保たれる結果、高強度および高伸びを具備するだけではなく、曲げ加工性および導電率もバランスよく向上させることができることを見出した。なお、ここでいう適正な組織形態とは、平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下と微細であるため曲げ加工性に優れており、Sn濃度を測定した時の最大値と最小値の差が4〜18質量%となる範囲で、結晶粒界を起点にNi―Sn析出物が存在することで、導電率が向上している金属組織を示す。
なお、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差の測定方法は、以下の方法で行うことができる。すなわち、各試験片について、硝酸20%のメタノール溶液にて電解研磨することで観察用試料を作製し、結晶粒の(001)面を観察した。観察には透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、検出(Sn濃度の分析)は、エネルギー分散形X線分光器(EDS)を用い、電子線のスポット径20nmで行った。観察は観察倍率を200,000倍で行い、(001)[100]方向、及び(001)[010]方向に、それぞれ100nm間隔で5点ずつ測定を行い、計25点の測定箇所におけるSn濃度を分析した。なお、析出物の影響による測定誤差を防ぐため、析出物が存在しない位置を測定箇所として選択した。そして、25点の測定箇所で測定したSn濃度のデータから、最小値および最大値を求め、その差を算出した。同様の分析を異なる観察視野で3回繰り返し、それらの平均を算出してSn濃度の最大値と最小値の差の測定値とした。図1(a)および(b)は、本発明の銅合金板材から観察用試料を作製し、結晶粒の(001)面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときのものであって、図1(a)が回折パターン、図2(b)がTEM写真を示したものである。図1(b)を見ると、(001)[100]方向に、スピノーダル変調構造特有の周期的な濃淡が存在しているのがわかる。本発明では、この濃淡の周期性を規定することで強度、伸び、曲げ加工性および導電率をバランスよく向上させた銅合金板材を得ることができる。
また、Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長の測定方法は、X線回折法や電子線回折法により求めることができる。一例として、Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長をX線回折法により測定する場合について以下で説明する。観察用試料としては、端子等の利用状態での特性を反映するために時効処理後の材料を用いて組織観察を実施した。板材から10mm×10mmの試料を切り出し、軽くバフ研磨して表面の酸化層を取り除き、X線回折装置を用いて(200)回折のサイドバンドを観察した。その回折線を模式的に示した回折チャートの一例を図2に示す。図2に示したように、主回折線(200)とその両側のサイドバンドについて、主回折線の回折角θ、回折線のミラー指数h、k、l、格子定数a、サイドバンドのピークの主回折線からの角度の変位をΔθとし、得られたX線サイドバンドに対して、下記(1)式に示すDaniel-Lipsonの式を用いて、変調構造の波長λ(すなわちSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長)を得た。なお、本発明では、Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を取っており、これに起因してX線回折の主回折線(基本反射)に近接して両側に副極大を持つ回折強度が現れている。これを本発明の合金に現れるX線サイドバンドとした。
λ=(h・a・tanθ)/{(h+k+l)・Δθ} ・・(1)
なお、図2に示したようにサイドバンドが非対称である場合は、高角度側のピークから求めたΔθを上記(1)式に代入して算出したSnの周期的な濃度ゆらぎの波長λ2と、低角度側のピークから求めたΔθを上記(1)式に代入して算出したSnの周期的な濃度ゆらぎの波長λ1とを平均したλをSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長とする。例えば、図2から求められるSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長λは、低角度側が7.1nm、高角度側が8.5nmであった場合、7.8nmとなる。
加えて、Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長を電子線回折法により測定する場合には、X線サイドバンドの場合と同様に、Daniel-Lipsonの式を用いて、電子線サテライトからSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長λを算出してもよい。
また、本発明では、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の標準偏差が1〜4質量%であることが好ましい。Sn濃度の標準偏差が1質量%未満だと、Sn濃度の変化が小さすぎるため、強度向上の効果が発揮されず、4質量%超えだと、Sn濃度の変化が大きくなりすぎ、粗大な第2相粒子が析出しやすくなるため、逆に強度や曲げ加工性が低下する恐れがある。なお、Sn濃度の標準偏差の算出方法は、上述した測定条件より得られた計25点のSn濃度のデータより算出することによって行なうことができる。
銅合金板材の平均結晶粒径は0.1μm超6μm以下であることが必要である。平均結晶粒径が0.1μm以下だと、再結晶組織が混粒(大きさの異なる結晶粒が混在した組織)と成り易く、曲げ加工性並びに応力緩和特性が低下する傾向があり、また、6μmよりも大きいと、曲げ加工性が低下する傾向があるからである。なお、結晶粒径はJIS H0501−1986に規定されている結晶粒度の測定方法(切断法)に基づいて測定し、任意に選択した3箇所を写真撮影し、1000倍の写真上から算出した結晶粒径の平均値である。
[銅合金板材の製造方法]
次に、本発明の銅合金板材の好ましい製造方法について説明する。
本発明の銅合金板材は、3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有させ、さらに必要に応じて、任意添加成分であるFe、Si、Mg、Mn、Zn、ZrおよびPについては適宜含有させ、残部がCuと不可避不純物から成る合金組成を有する銅合金素材を用意し、この銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、面削[工程4]、第1冷間加工[工程5]、中間熱処理[工程6]、第2冷間加工[工程7]、溶体化熱処理[工程8]、第3冷間加工[工程9]、時効処理[工程10]をこの順に施すことによって製造される。特に本発明の銅合金板材を製造するには、中間熱処理[工程6]、第2冷間加工[工程7]、溶体化熱処理[工程8]、第3冷間加工[工程9]および時効処理[工程10]の各条件を厳しく管理することが好ましい。
Cu、NiおよびSnの原料を、鋳造機内部(内壁)が好ましくは炭素製の、例えば黒鉛坩堝にて、溶解し鋳造する[工程1]。溶解するときの鋳造機内部の雰囲気は、酸化物の生成を防止するために真空もしくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。鋳造方法には特に制限はなく、例えば横型連続鋳造機やアップキャスト法などを用いることができる。そして、鋳塊時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化熱処理[工程2]でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。具体的には、鋳造工程の後に、800〜1000℃に加熱して1〜24時間均質化熱処理を行い、続いて熱間加工[工程3]を実施するのが好ましい。均質化熱処理後の熱間加工は省略可能であるが、例えば、処理温度850℃程度、加工度50%以上で行ってもよい。面削工程は、銅合金板材の表皮の酸化皮膜や変質層を除去するために行う。これは通常公知の方法により行うことができる。なお、熱間加工については、圧延加工、もしくは押出加工のどちらでも特に制限は無い。
熱間加工後、表面を面削[工程4]し、第1冷間加工[工程5]を行う。この第1冷間加工の加工率は70%以上であることが好ましい。なお、加工方法が圧延である場合、加工率R(%)は下記(2)式で定義される。
R=(t0−t)/t0×100 ・・(2)
なお、式中、t0は圧延前の板厚であり、tは圧延後の板厚である。
本発明の銅合金板材は、第1冷間加工と溶体化熱処理の間に、加熱温度が300〜850℃、保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上の中間熱処理[工程6]に続いて、総加工率が50〜90%の第2冷間加工[工程7]を行なう。中間熱処理は、溶体化熱処理温度より低い温度で熱処理を行うことにより、材料を完全に再結晶させず、部分的に再結晶させた亜焼鈍組織を得ることができる。第2冷間加工では、加工率90%以下の圧延によって、微視的に不均一な歪みを材料に導入することができる。これら二つの工程を導入することによって、溶体化熱処理時にSnを十分に固溶させるとともに、再結晶粒成長を抑制することが可能になり、時効処理で微細な結晶粒を維持しつつ、十分に固溶したSnによる変調構造が形成される結果、高い強度を得ることができる。中間熱処理のより好ましい範囲は、加熱温度が600〜750℃、保持時間が15〜45秒間である。第2冷間加工の総加工率のより好ましい範囲は55〜85%、更に好ましい範囲は60〜80%である。
従来、上記中間熱処理のような熱処理は、次工程の加工での荷重を低減するために材料を再結晶させて強度を落とすために行われていた。また、圧延は板厚を薄くすることが目的であり、通常の圧延機の能力であれば90%を超える加工率を採用するのが一般的である。本発明における中間熱処理および第2冷間加工を行なう目的は、これら一般的な内容とは異なり、Snの濃度分布の有意な変調構造の周期性を持たせるためである。
次いで、第2冷間加工後に、溶体化温度が650〜850℃、該溶体化温度での保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上である溶体化熱処理[工程8]を行う。溶体化熱処理では、NiやSnの濃度によって必要な温度条件が変わるため、NiおよびSnの濃度に応じて適切な温度条件を選択する必要がある。溶体化温度が650℃以上であると、時効処理工程において十分な強度が得られ、また、溶体化温度が850℃以下であれば、材料が必要以上に軟化せず形状制御が適正に行うことができる。
溶体化処理の後、5〜70%の第3冷間加工[工程9]を行う。この第3冷間加工は、加工による転位の導入で強度を高くするとともに、時効後の強度も高くするために行い、この加工率の冷間加工を施すとSn濃度分布が本発明の範囲内となり好ましい。第3冷間加工は、加工硬化により強度の向上にも寄与する。5%未満だと時効後に所望の強度が得られず、加工率70%を超えると更なる強度が望めない一方、曲げ加工性が劣化する問題点がある。
第3冷間加工後に、時効処理温度が300〜500℃および該時効処理温度での保持時間が0.1〜15時間である時効処理[工程10]を行う。時効処理温度が300℃以上であると、スピノーダル分解を促進されて十分な強度が得られ、また、時効処理温度が500℃以下であると、析出物が粗大化せず、強度が維持される。本発明においては、従来の技術とは異なり、溶体化処理で結晶粒径が微細かつ、Snを十分に固溶させているため、時効によってスピノーダル分解を促進させて、得られる銅合金板材の強度を向上させることができる。
さらに、時効処理後に、必要に応じて、仕上げ冷間加工および低温焼鈍を行ってもよい。この場合、仕上げ冷間加工は、加工率を0〜20%以下とするのが好ましく、低温焼鈍は、200〜400℃で5秒〜3時間とするのが好ましい。
<銅合金板材の特性>
本発明の銅合金板材は、例えばコネクタのような電気電子部品として使用する場合には、引張強度が900MPa以上でかつ伸びが10%以上であることが好ましい。
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1〜13および比較例1〜17)
まず、DC(Direct Chill)法により、表1に示す合金組成を有する銅合金を溶解して、これを鋳造して、厚さ30mm、幅100mm、長さ150mmの鋳塊を得た。次にこれら鋳塊を900℃に加熱し均質化処理を行い、この温度に1時間保持後、厚さ14mmに熱間圧延し、速やかに冷却した。次いで両面を各1mmずつ面削して酸化被膜を除去した後、第1冷間加工として加工率90〜98%の冷間圧延を施した。この後、表2に示す条件で中間熱処理を行い、第2冷間加工として加工率80%の冷間圧延を実施した。その後、表2に示す条件で溶体化熱処理を行った。次いで、第3冷間加工として表2に示す加工率で冷間圧延を施した。次に、不活性ガス雰囲気中で、表2に示す条件で時効処理を施して作製した銅合金板材を用いて、各種特性評価を行った。
このようにして製造した銅合金板に対して、各実施例および各比較例とも、時効処理後に銅合金板から切り出した試料を使用し、以下に示す試験及び評価を実施した。なお、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差、(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の標準偏差および平均結晶粒径の測定、ならびに銅合金板材の強度、伸び、曲げ特性および導電率に関する特性評価については、以下の方法で行なった。
1.結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差および標準偏差の算出方法
各試験片について、硝酸20%のメタノール溶液にて電解研磨することで観察用試料を作製し、結晶粒の(001)面を観察した。観察には透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、検出(Sn濃度の分析)は、エネルギー分散形X線分光器(EDS)を用い、電子線のスポット径20nmで行った。観察は観察倍率を200,000倍で行い、(001)[100]方向、及び(001)[010]方向に、それぞれ100nm間隔で5点ずつ測定を行い、計25点の測定箇所におけるSn濃度を分析した。なお、析出物の影響による測定誤差を防ぐため、析出物が存在しない位置を測定箇所として選択した。そして、25点の測定箇所で測定したSn濃度のデータから、最小値および最大値を求め、その差を算出した。同様の分析を異なる観察視野で3回繰り返し、それらの平均を算出してSn濃度の最大値と最小値の差の測定値とした。また、Sn濃度の標準偏差は、上述した測定条件より得られた75点(3つの観察視野で各々25点)のSn濃度のデータより算出した。表1に、Sn濃度の最大値と最小値の差の測定値と標準偏差の算出値を表1に示す。
2.(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長の測定
Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長の測定方法は、X線回折法や電子線回折法により求めることができる。例えば、Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長をX線回折法により測定する場合について以下で説明する。観察用試料としては、端子等の利用状態での特性を反映するために時効処理後の材料を用いて組織観察を実施した。板材から10mm×10mmの試料を切出し、軽くバフ研磨して表面の酸化層を取り除き、X線回折装置を用いて(200)回折のサイドバンドを観察した。その回折線を模式的に示した回折チャートの一例を図2に示す。図2に示したように、主回折線(200)とその両側のサイドバンドについて、主回折線の回折角θ、回折線のミラー指数h、k、l、格子定数a、サイドバンドのピークの主回折線からの角度の変位をΔθとし、得られたX線サイドバンドに対して、下記(1)式に示すDaniel-Lipsonの式を用いて、変調構造の波長λ(すなわちSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長)を得た。Snの周期的な濃度ゆらぎの平均波長を表1に示す。
λ=(h・a・tanθ)/{(h+k+l)・Δθ} ・・(1)
3.結晶粒径測定法
試験片の圧延方向に垂直な断面を湿式研磨、バフ研磨により鏡面に仕上げた後、クロム酸:水=1:1の液で数秒間、研磨面を腐食した後、SEMの二次電子像を用いて400〜1000倍の倍率で写真をとり、断面の平均結晶粒径(μm)をJIS H0501−1986の切断法に準じて測定した。断面は、圧延方向横断面で測定した。平均結晶粒径を表1に示す。
4.引張強度
供試材(試験片)の圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241:2011に準じて3本測定しその平均値を表3に示す。
5.伸び
JIS Z 2241:2011に準じて3本測定し、その平均値(%)を表3に示す。
6.曲げ加工性
試料のB.W.方向に幅10mm、長さ50mmの短冊形試料を作製し、W曲げ試験(JIS H3130:2012)を曲げ半径R(mm)と板厚t(mm)の比(R/t)=1となる条件で行い、曲げ凸面外観を日本伸銅協会標準JBMA T307:1999による評価基準と比較し、割れが生じない場合を良好であるとして「〇」、割れが生じた場合を不良であるとして「×」として表3に示す。
7.導電率
導電率は、JIS H0505−1975に基づく四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各試験片の2本について導電率を測定し、その平均値(%IACS)を表3に示す。このとき端子間距離は100mmとした。
表3に示す結果から、実施例1〜13はいずれも、合金組成、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差、および(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が適正範囲内であるため、引張強度が1039〜1423MPaと900MPa以上であり、伸びが10〜30%の10%以上であり、導電率が5.4〜14.1%IACSであり、曲げ加工性も良好であることから、引張強度、伸び、導電率および曲げ加工性の全ての特性をバランスよく高いレベルで満足しているのが分かる。
これに対し、比較例1〜17はいずれも、合金組成、結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差、および(001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長のうち、少なくとも一つが適正範囲外であるため、引張強度が490〜883MPaと900MPa未満と低く、また、比較例4〜9、11、13および16はいずれも、伸びが10%未満と低く、さらに、比較例1、2、5、6、8、9、11、14および16はいずれも、曲げ加工性が劣っていることから、比較例1〜17はいずれも、引張強度、伸び、導電率および曲げ加工性の全ての特性をバランスよく高いレベルで満足させることができないことがわかる。
本発明によれば、特に強度、曲げ加工性、伸びおよび導電率の特性をバランスよく向上させた銅合金板材を提供することが可能になった。特に、この銅合金板材は、電気電子部品や、例えばコネクタ、スイッチ、ソケット、時計用部品などの部品に使用するのに適している。特にスマートウォッチなどの軽量かつ耐腐食性を求められる機器の部品に使用するのに適している。また、本発明に従う銅合金板材の製造方法によれば、上記銅合金板材を好適に製造することができる。

Claims (7)

  1. 3.0〜25.0質量%Niおよび3.0〜9.0質量%Snを含有し、ならびに0〜0.2質量%Fe、0〜0.05質量%Si、0〜0.3質量%Mg、0〜0.5質量%Mn、0〜0.1質量%Zn、0〜0.15質量%Zrおよび0〜0.1質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で0〜1.0質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金板材であって、
    溶質原子Snの濃度が周期的に変動する微細な構造形態を持ち、
    結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の最大値と最小値の差が、4〜18質量%の範囲であり、
    (001)[100]方位に沿って測定したときのSnの周期的な濃度ゆらぎの平均波長が、1nm以上15nm以下であり、かつ
    平均結晶粒径が0.1μm超6μm以下であることを特徴とする銅合金板材。
  2. 結晶粒の(001)面にて母相中のSn濃度を面分析して測定したときのSn濃度の標準偏差が1〜4質量%である、請求項1に記載の銅合金板材。
  3. 0.02〜0.20質量%Fe、0.01〜0.05質量%Si、0.01〜0.30質量%Mg、0.01〜0.50質量%Mn、0.01〜0.10質量%Zn、0.01〜0.15質量%Zrおよび0.01〜0.10質量%Pからなる群から選ばれる少なくとも1成分を合計で1.0質量%以下含有する、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. 引張強度が900MPa以上でかつ伸びが10%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金板材からなるコネクタ。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金板材を用いた時計用部品。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であって、
    前記銅合金板材を与える合金成分組成からなる銅合金素材に、鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間加工[工程3]、面削[工程4]、第1冷間加工[工程5]、中間熱処理[工程6]、第2冷間加工[工程7]、溶体化熱処理[工程8]、第3冷間加工[工程9]、時効処理[工程10]をこの順に施し、
    前記中間熱処理は、加熱温度が300℃〜850℃、該加熱温度での保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上であり、
    前記第2冷間加工は、総加工率が50〜90%であり、
    前記溶体化熱処理は、溶体化温度が650〜850℃、該溶体化温度での保持時間が10〜300秒間および平均冷却速度が100℃/秒以上であり、
    前記第3冷間加工は、総加工率が5〜70%であり、および、
    前記時効処理は、時効処理温度が300〜500℃および該時効処理温度での保持時間が0.1〜15時間であることを特徴とする銅合金板材の製造方法。
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