以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
[反射防止部材]
先ず、本発明の反射防止部材について説明する。本発明の反射防止部材は、樹脂基材と、該樹脂基材の表面に直接固定化されているメソポーラスシリカナノ粒子からなる粒子層とを備えており、前記ナノ粒子の少なくとも一部が前記樹脂基材の表面に埋設されており、かつ、前記ナノ粒子が単層で配置されて前記粒子層を形成している、ことを特徴とするものである。
(樹脂基材)
本発明にかかる樹脂基材は、反射防止部材の基材となる樹脂であり、反射防止部材に用いることが可能な樹脂基材であればよく、特に制限されず、公知の樹脂を適宜用いることができる。このような樹脂としては、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリシクロオレフィン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、ケイ皮酸含有樹脂、ジエン含有樹脂等の光硬化性樹脂、が挙げられる。
なお、本発明の反射防止部材を視認性の高いものとする場合には、樹脂基材として透明樹脂を用いることが好ましい。このような透明樹脂としては、反射防止部材に用いることが可能な透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されず、公知の透明樹脂を適宜用いることができる。このような透明樹脂としては、例えば、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸メチル、等)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)、ポリシクロオレフィン、エポキシ樹脂が挙げられる。なお、後述のメソポーラスシリカナノ粒子の屈折率との差が小さくなるという観点から、アクリル樹脂やポリエステルが好ましい。
なお、このような樹脂基材としては、良好な形状加工性の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリシクロオレフィンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、その中でも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリシクロオレフィンからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
また、本発明にかかる樹脂基材の形態としては、反射防止部材に用いることが可能な形態であればよく、特に制限はないが、例えば、シート、フィルム、プレート、ドーム、スフィア、キューブ等の形態のものを用いることができる。なお、本発明にかかる樹脂基材の厚さや大きさとしては、特に制限されず、反射防止部材の用途(所望の製品や部品等)に応じて適宜選択することができる。
(粒子層)
本発明にかかる粒子層は、前記樹脂基材の表面に直接固定化されているメソポーラスシリカナノ粒子からなる粒子層であり、前記ナノ粒子の少なくとも一部が前記樹脂基材の表面に埋設されており、かつ、前記ナノ粒子が単層で配置されて前記粒子層を形成しているものである。
ここで、本発明の粒子層において、樹脂基材の表面に「直接固定化」されているメソポーラスシリカナノ粒子とは、前記樹脂基材とナノ粒子が他の物質等を介在させることなく直接的に固定されていることを意味する。すなわち、前記樹脂基材とナノ粒子とが直接的に接着されていることを意味する。更に、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基材の表面に「直接固定化」されていることにより、メソポーラスシリカナノ粒子と樹脂基材との間に強力な接着力が付与されており、超音波洗浄によってナノ粒子が脱離せず、更に後述する粘着テープを用いたテープ剥離試験によってもナノ粒子が脱離しないこととなる。
また、本発明の粒子層において、「ナノ粒子の少なくとも一部が前記樹脂基材の表面に埋設されいる」とは、前記ナノ粒子の一部又は全部が前記樹脂基材の表面に埋入又は混入されていることを意味する。
更に、本発明の粒子層において、「ナノ粒子が単層で配置されて前記粒子層を形成している」とは、前記樹脂基材の表面に直接固定化されているナノ粒子が相互に重なり合うことなく一層で粒子層を形成していることを意味する。
このようなメソポーラスシリカナノ粒子(以下、単に「ナノ粒子」と称す場合がある。)としては、メソ細孔を多数有するナノ粒子であれば特に制限されず、例えば、直径が2〜50nmのメソ細孔を多数有するナノ粒子を用いる。このようなナノ粒子は、メソ細孔を多数有する構造(メソポーラス構造)を備えることによって、ナノ粒子の空隙率を十分に確保して屈折率を低減でき、反射防止性能に優れた反射防止部材となる。また、ナノ粒子の少なくとも一部が前記樹脂基材の表面に埋設され、ナノ粒子が樹脂基材の表面に直接固定化されているため、樹脂とナノ粒子とが強固に固定され、耐摩耗性に優れた反射防止部材となる。また、反射防止部材の機械強度が十分に確保される。また、メソポーラスシリカナノ粒子は、シリカ(光吸収係数:0.1cm−1未満、屈折率:1.45)の骨格を有しており、屈折率が低く、優れた反射防止性能が得られる。
このようなナノ粒子としては、平均粒子径が50〜300nmであることが好ましい。ナノ粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、前記粒子層を含む表面低屈折率層が薄くなり十分な反射防止効果が発現しない傾向にあり、前記上限を超えると、可視光との相互作用により光散乱や光干渉が起こり、膜の透明性が低下する傾向にある。また、このようなメソポーラスナノ粒子の平均粒子径としては、反射防止性能及び透明性がより向上するという観点から、100〜250nmがより好ましく、120〜220nmが特に好ましい。なお、ナノ粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察や透過型電子顕微鏡(TEM)観察、電子線マイクロアナライザー(EPMA)観察によって求められる。また、動的光散乱法によって測定することもできる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により行う場合、ナノ粒子の平均粒子径は、前記SEM観察において無作為に50個以上のナノ粒子を抽出し、これらの直径を測定することによって求められる値とする。
また、このようなナノ粒子としては、前記ナノ粒子の前記樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が前記平均粒子径の5〜70%であることが好ましい。ナノ粒子埋設部の深さの平均値が前記下限未満になると、樹脂基材との接着性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、表面空気層の割合が減ることで反射防止能力が低下する傾向にある。また、このようなナノ粒子埋設部の深さの平均値としては、反射防止性能、耐摩耗性及び基材の変形に対する耐久性がより向上するという観点から、前記平均粒子径の10〜60%がより好ましく、20〜55%が更により好ましく、30〜50%が特に好ましい。なお、ナノ粒子埋設部の深さの平均値は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)観察等によって求められる。例えば、ナノ粒子を固定化した基板の表面形状を原子間力顕微鏡(AFM)により観察し、AMF像の高さのプロファイルを測定することにより行う。なお、このようなナノ粒子埋設部の深さの平均値は、AMF像の1μm以上の長さ領域における高さのプロファイルを5つ以上抽出し、抽出された高さのプロファイルにおけるナノ粒子についてナノ粒子の埋設部分の樹脂基板表面からの最大深さを求め、ナノ粒子毎の最大深さをナノ粒子数で平均化することによって求められる値とする。
更に、本発明の反射防止部材においては、前記ナノ粒子の平均粒子径が50〜300nmであり、前記ナノ粒子の前記樹脂基材表面に埋設されている部分の深さの平均値が前記平均粒子径の5〜70%であることが好ましい。このような反射防止部材とすることにより、反射防止性能、耐摩耗性及び基材の変形に対する耐久性を更に向上させることができる。
また、このようなナノ粒子としては、空隙率が20〜80%であることが好ましく、30〜70%がより好ましく、光学特性と機械的特性との両立を考慮すると40〜60%が特に好ましい。ナノ粒子の空隙率が前記下限未満になると、ナノ粒子自体の屈折率低減が不十分となり反射防止性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ナノ粒子自体が脆くなり耐摩耗性が低下する傾向にある。なお、前記ナノ粒子の空隙率は、窒素吸着等温線とから求めることができる。
更に、このようなナノ粒子としては、メソ細孔の形状は特に制限はないが、放射型細孔が好ましい。このような形状とすることにより、樹脂とナノ粒子とをより強固に固定化することができる。
(反射防止部材)
本発明の反射防止部材は、前記樹脂基材と、該樹脂基材の表面に直接固定化されているメソポーラスシリカナノ粒子からなる前記粒子層とを備えている。
このような反射防止部材においては、粒子層が形成されている反射防止部材の表面の全表面積に対して、前記ナノ粒子により占められる面積の割合が40〜91%の範囲内であることが好ましく、50〜91%の範囲内であることがより好ましい。前記ナノ粒子の占める割合が、前記下限未満になると、反射防止膜の表面に凹凸構造が形成されにくく、十分な反射防止性能が得られない傾向にある。
本発明の反射防止部材は以上のような構成とすることにより、十分に優れた反射防止性能及び十分に高い耐摩耗性を有し、かつ、基材の変形に対する耐久性に優れた反射防止部材とすることが可能となる。すなわち、前記ナノ粒子は表面積が大きいため、前記樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を直接固定化せしめることができ、表面に低屈折率層を備え十分に優れた反射防止性能を有する反射防止部材としたものである。更に、このような反射防止部材は優れた耐摩耗性を発揮することが可能となる。したがって、曲面や複雑形状の樹脂基材にも容易に適用が可能であり、適用対象を拡大することができる。
また、本発明の反射防止部材は、樹脂基材の表面に個々の独立したナノ粒子が固定化されこれらナノ粒子が一層(単層)で配置されて前記粒子層を形成しているため、樹脂基材の変形(熱膨張や機械的な変形等)に対しても劣化や破損が起こりにくく耐久性に優れている。したがって、曲面や複雑形状の樹脂部品、フレキシブル基板等への適用が可能となる。更に、本発明の反射防止部材は、樹脂基材の材料、ナノ粒子の形状や埋設構造等を最適化することにより、屈曲耐久性に優れた反射防止部材とすることも可能である。
[反射防止部材の製造方法]
次に、本発明の反射防止部材の製造方法について説明する。本発明の反射防止部材の製造方法は、樹脂基材の表面に配置されたメソポーラスシリカナノ粒子の少なくとも一部を、高分子流動状態にある樹脂基材の表面に埋設せしめる工程(粒子埋設工程)と、前記高分子流動状態にある樹脂基材の表面を硬化せしめて前記樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を直接固定化せしめることにより上記本発明の反射防止部材を得る工程(固定化工程(反射防止部材作製工程))と、を含む方法である。
(粒子埋設工程)
本発明の反射防止部材の製造方法においては、先ず、樹脂基材の表面に配置されたメソポーラスシリカナノ粒子の少なくとも一部を、高分子流動状態にある樹脂基材の表面に埋設せしめる(粒子埋設工程)。
このような粒子埋設工程において、樹脂基材としては、反射防止部材の基材となる樹脂であり、樹脂基材の表面に高分子流動状態を形成できるものであれば特に制限はないが、具体的には本発明の反射防止部材において記載した樹脂基材を用いることができる。
また、このような粒子埋設工程において、メソポーラスシリカナノ粒子としては、特に制限はなく、本発明の反射防止部材において記載したものを用いることができる。
なお、このようなメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法によって製造することができる。例えば、界面活性剤の存在下でテトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン等の金属原子としてケイ素を有する金属アルコキシドを加水分解・縮合させてメソポーラスナノ粒子を調製する。また、界面活性剤の存在下で前記金属アルコキシドを加水分解・縮合させてメソポーラスシリカナノ粒子を調製することができる。更に、このようなメソポーラスシリカナノ粒子としては、市販のものを用いてもよい。
このような金属アルコキシドとして、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン;ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等のジアルコキシシラン等が挙げられ、中でも、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランがより好ましい。また、これらの金属アルコキシドは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
前記界面活性剤としては、炭素数8〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルアンモニウムハライドが挙げられ、中でも、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド等の炭素数9〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましく、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましく、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドが特に好ましい。
なお、本発明の粒子埋設工程において「高分子流動状態にある樹脂基材の表面」とは、樹脂基材の少なくとも表面が可塑状態、溶融状態、溶解状態等の前記ナノ粒子を埋入又は混入できるような高分子が流動する状態にあることを意味する。なお、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の未硬化状態で、前記ナノ粒子を埋入又は混入できるような高分子が流動する状態のものを含む。
また、このような高分子流動状態にある樹脂基材の粘度としては、0.3〜800Pa・sであることが好ましく、0.5〜500Pa・sであることがより好ましく、1〜200Pa・sであることが特に好ましい。このような樹脂基材の粘度が前記下限未満になると、表面のナノ粒子が樹脂基板内部へと埋没する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ナノ粒子が表面固定化されず容易に脱落する傾向にある。
更に、本発明の反射防止部材の製造方法の粒子埋設工程において、樹脂基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子を配置する方法としては、特に制限はなく、例えば、樹脂基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子を含む粒子層原料を塗布する方法(粒子層原料塗布法)や、後述する本発明の転写部材を用いて樹脂基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子を転写により配置する方法(転写法)がある。
このような粒子層原料塗布法においては、先ず、前記メソポーラスシリカナノ粒子と分散媒とを混合し、粒子層原料分散液を調製する。前記分散媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等の水溶性有機溶媒が挙げられる。粒子層原料分散液中の前記ナノ粒子の濃度としては、ナノ粒子が均一に分散している粒子層原料分散液が得られるという観点から、0.1〜10質量%が好ましい。
次に、樹脂基材の表面にナノ粒子を含む粒子層原料分散液を塗布する。粒子層原料分散液の塗布方法としては特に制限はなく、刷毛や筆による直接塗布、ディップコート、スピンコート、スプレー塗布等の公知の方法を採用できる。なお、曲面を有する樹脂基材へ塗布する場合、ナノ粒子をムラなく塗布する観点から、刷毛或いはスプレーで塗布することが好ましい。
このような粒子埋設工程において、高分子流動状態にある樹脂基材の形成方法としては、具体的には、前記樹脂基材が熱可塑性樹脂又は熱可塑性を有する他の樹脂からなるものである場合、樹脂基材の表面に、溶媒蒸気処理、熱処理及びガス処理からなる群から選択される少なくとも一種の可塑化処理を施すことにより前記樹脂基材の表面を可塑化して高分子流動状態とする方法であることが好ましい。このような方法により、樹脂基材の少なくとも表面に、樹脂の高分子流動状態を容易に形成することができる。
溶媒蒸気処理としては、溶媒を用いた蒸気処理により樹脂基材の表面を可塑化して高分子流動状態とすることができる方法であれば特に制限はないが、具体的には、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の有機溶媒、低分子量シロキサン類、フッ素化アルカン及びアルコール類等の溶媒の蒸気を用いて樹脂基材を可塑化(軟化)せしめて高分子流動状態とする方法等が挙げられる。なお、このような溶媒蒸気処理に用いる溶媒としては、溶媒使用量低減の観点から、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の高分子との親和性が高い低分子化合物の有機溶媒であることが好ましい。なお、後述の熱処理と組み合わせてもよく、例えば、50℃のクロロホルム蒸気を用いるといった、高温の溶剤蒸気を用いて樹脂基材を可塑化させる方法でもよい。
熱処理としては、熱を利用した処理により樹脂基材の表面を可塑化して高分子流動状態とすることができる方法であれば特に制限はないが、具体的には、熱風(例えば、約150〜200℃)を吹き付けて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とする方法、高温蒸気(例えば、約100℃以上)を接触せしめて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とする方法等が挙げられる。このような熱処理における条件としては、特に制限はないが、処理温度が100〜300℃の範囲内であることが好ましく、樹脂の熱分解抑制の観点から、100〜250℃の範囲内がより好ましい。処理時間としては特に制限はないが、1〜30分間であることが好ましく、樹脂の熱変形抑制観点から、1〜10分間がより好ましい。
ガス処理としは、ガスを用いた処理により樹脂基材の表面を可塑化して高分子流動状態とすることができる方法であれば特に制限はないが、具体的には、可塑化ガス(例えばCO2又はN2等)を高圧にして樹脂基材の少なくとも表面を溶解せしめることにより樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とする方法等が挙げられる。このようなガス処理における条件としては、特に制限はないが、圧力は1〜40MPaの範囲内であることが好ましく、樹脂基材内部への過度のガス侵入防止の観点から、1〜20MPaの範囲内がより好ましい。処理温度としては特に制限はないが、25〜150℃の範囲内であることが好ましく、樹脂の変形を防ぐ観点から、25〜100℃の範囲内がより好ましい。処理時間としては特に制限はないが、5〜300分間であることが好ましく、樹脂基材表面を選択的に高流動化する観点から、10〜120分間がより好ましい。
また、このような粒子埋設工程において、前記樹脂基材が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂からなるものである場合、未硬化で高分子流動状態にある樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を配置して前記ナノ粒子の少なくとも一部を埋設せしめることが好ましい。このような方法により、未硬化で高分子流動状態にある樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を配置して前記ナノ粒子の少なくとも一部を容易に埋設せしめることができる。
このような未硬化で高分子流動状態にある熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、特に制限はないが、具体的には、少なくとも表面が未硬化で可塑化状態にある熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂の少なくとも表面をその硬化開始温度よりも低い可塑化溶融温度に加熱して粘度を低下させ高分子流動状態にある樹脂基材の表面とした熱硬化性樹脂、熱可塑性を有する光硬化性樹脂の少なくとも表面を可塑化溶融温度に加熱して粘度を低下させ高分子流動状態にある樹脂基材の表面とした光硬化性樹脂、等が挙げられる。
なお、本発明の反射防止部材の製造方法の粒子埋設工程において用いるメソポーラスシリカナノ粒子としては、その表面が疎水化処理されている(表面に疎水基が導入されている)メソポーラスシリカナノ粒子(以下、「表面疎水化ナノ粒子」ともいう。)を使用することが好ましい。このような表面疎水化ナノ粒子を用いることにより、樹脂基材と表面疎水化ナノ粒子の親和性が高まり接着が強固になり、得られる反射防止部材の耐摩耗性及び反射防止性能が向上する傾向にある。また、ナノ粒子同士の溶媒中での凝集が抑えられるため、分散液の長期保存が可能となる。
このような疎水化処理としては、具体的には、アルキル基等の炭化水素基(疎水基)を有するクロロトリアルキルシラン(例えば、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン)、エトキシトリアルキルシラン等の有機金属化合物を添加して、前記ナノ粒子の表面に前記炭化水素基等を導入する方法が挙げられる。また、このような疎水化処理としては、アルキル基等の炭化水素基(疎水基)を有する有機金属化合物と酸とを添加して、前記ナノ粒子の表面に前記炭化水素基等を導入する方法が挙げられる。前記有機金属化合物としては、ヘキサアルキルジシロキサン(例えば、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン)、ヘキサアルキルジシラザン(例えば、ヘキサメチルジシラザン)、トリアルキルモノアルコキシシラン(例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン)等の有機ケイ素化合物;テトラキス(トリメチルシロキシ)チタン等の有機チタン化合物;アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロポキシド等の有機アルミニウム化合物が挙げられる。これらのうち、使用した金属アルコキシドと同種の金属原子を含有する有機金属化合物を用いることが好ましい。更に、酸としては、塩酸、酢酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸等が挙げられる。
更に、このような疎水化処理としては、ナノ粒子に疎水基を有するカップリング剤を接触させることによって、前記ナノ粒子の表面に前記カップリング剤由来の疎水基を導入する方法が挙げられる。例えば、疎水基を有するカップリング剤を含有する溶液にナノ粒子を浸漬又はナノ粒子を含む溶液を混合しながら加熱処理を施すことによって、ナノ粒子の表面にカップリング剤由来の疎水基(例えば、アルキル基等の炭化水素基)が導入される。カップリング剤としては疎水基の導入が可能なものであれば特に制限はないが、例えば、トリアルキルクロロシラン(例えば、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリプロピルクロロシラン)、トリフルオロアルキルジアルキルクロロシラン(例えば、トリフルオロプロピルジメチルクロロシラン)、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)ジメチルクロロシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
(固定化工程(反射防止部材作製工程))
次に、本発明の反射防止部材の製造方法においては、前記高分子流動状態にある樹脂基材の表面を硬化せしめて前記樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を直接固定化せしめることにより上記本発明の反射防止部材を得る(固定化工程)。
このような固定化工程において、前記高分子流動状態にある樹脂基材の表面を硬化せしめる方法(表面硬化方法)としては、前記粒子埋設工程における高分子流動状態の形成方法に対応して選択される。例えば、前記粒子埋設工程において溶媒蒸気処理を施した場合は、溶媒を除去することにより前記樹脂基材表面を硬化せしめる。また、前記粒子埋設工程において熱処理を施した場合は、冷却することにより前記樹脂基材表面を硬化せしめる。更に、前記粒子埋設工程においてガス処理を施した場合は、減圧することにより前記樹脂基材表面を硬化せしめる。また、樹脂基材が熱硬化性樹脂からなるものである場合は、前記高分子流動状態にある熱硬化性樹脂基材の表面をその硬化開始温度以上の温度条件で加熱等を施すことにより硬化せしめる。更に、樹脂基材が光硬化性樹脂からなるものである場合は、前記高分子流動状態にある光硬化性樹脂基材の表面に光(紫外線や電磁波等)を照射することにより前記樹脂基材表面を硬化せしめる。そして、このような表面硬化方法を施すことにより、前記樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を直接固定化せしめることができ、上記本発明の反射防止部材を得ることができる。
このような方法により、十分に優れた反射防止性能及び十分に高い耐摩耗性を有し、かつ、基材の変形に対する耐久性に優れた反射防止部材を容易に製造することが可能となる。すなわち、前記ナノ粒子は表面積が大きいため、樹脂基材表面の高分子流動状態の発現とともに樹脂とナノ粒子とが強固に接着され、更に、樹脂基材の表面を硬化せしめることにより前記樹脂基材の表面に前記ナノ粒子を直接固定化せしめることができ、表面に低屈折率層を備えた反射防止部材を得ることを可能としたものである。なお、このようにして製造することにより、得られる反射防止部材は優れた耐摩耗性を発揮することが可能となる。
また、本発明の反射防止部材の製造方法においては、樹脂基材の表面と接しているナノ粒子一層のみが選択的に固定化されたものであるため、樹脂基材の表面にナノ粒子を配置する際の粒子層原料塗布層等の厚み制御が不要となり、反射防止部材の製造を簡便に行うことができる。なお、このような方法は、曲面や複雑形状の樹脂基材にも容易に適用が可能であり、適用対象を拡大することができる。
更に、本発明の製造方法により得られる反射防止部材は、樹脂基材の表面に個々の独立したナノ粒子が固定化されていることにより反射防止層を形成しているため、樹脂基材の熱膨張や変形等にも強く、耐久性に優れている。なお、樹脂基材の材料、ナノ粒子の形状や埋設構造等の形成方法を最適化することにより、屈曲耐久性に優れた反射防止部材を得ることも可能である。
(除去工程)
このような本発明の反射防止部材の製造方法においては、前記樹脂基材の表面に固定化されなかったメソポーラスシリカナノ粒子を除去する工程を更に含むことが好ましい。このような樹脂基材の表面に固定化されなかったメソポーラスシリカナノ粒子を除去する方法としては、特に制限はなく、例えば、エタノールや水等の溶媒による超音波洗浄が挙げられる。具体的には、超音波洗浄器内に配置された溶媒に前記表面硬化方法を施した後の反射防止部材を浸漬し、その状態で超音波を印加することにより洗浄を行う。有機溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類やアセトン、トリクロロエチレン等を用いることができる。このような超音波洗浄により、前記樹脂基材の表面に固定化されなかったナノ粒子、すなわち、二層目以上に余分に付着したナノ粒子(樹脂基材表面に直接固定化されていないナノ粒子)等の余分なナノ粒子を効果的に除去することが可能となる。
以上、本発明の反射防止部材及びその製造方法の好適な実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、以下に説明する本発明の転写部材を用いて樹脂基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子を転写により配置する方法(転写法)を用いて本発明の反射防止部材を製造することもできる。
[転写部材及びそれを用いた反射防止部材の製造方法]
先ず、本発明の転写部材について説明する。本発明の転写部材は、剥離基材と、該剥離基材の表面に単層でかつ脱離可能な状態で仮固定化されているメソポーラスシリカナノ粒子とを備えていることを特徴とするものである。
(剥離基材)
本発明にかかる剥離基材は、転写部材の基材となるものであり、メソポーラスシリカナノ粒子を表面に脱離可能な状態で仮固定化できるものであればよく、特に制限されず、前述の本発明の反射防止部材に用いられる樹脂基材と同様の基材を適宜用いることができる。このような樹脂としては、熱処理等により適度に表面を可塑化(軟化)させることができるという観点から熱可塑性樹脂が好ましく、中でも、溶媒蒸気処理によっても適度に表面を可塑化(軟化)させることができるという観点からポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸メチル、等)がより好ましい。
また、本発明にかかる剥離基材の形態としては、特に制限はないが、曲面や球面を有する樹脂基材に対しても効率良くメソポーラスシリカナノ粒子を配置させることが可能となるという観点から、フィルム状やシート状の柔軟な形態であることが好ましい。
(転写部材)
本発明の転写部材においては、前記剥離基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子が単層でかつ脱離可能な状態で仮固定化されている。このようなメソポーラスシリカナノ粒子としては、前述の本発明の反射防止部材に用いられるメソポーラスシリカナノ粒子と同様のものが用いられる。
ここで、前記剥離基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子が「脱離可能な状態で仮固定化されている」とは、メソポーラスシリカナノ粒子と剥離基材との間に適度な接着力が付与されていることにより、転写部材を樹脂基材に接触せしめる後述の転写工程においてナノ粒子が剥離基材の表面から脱離して樹脂基材の表面に転写される状態となっていることである。このような「仮固定化」としては、超音波洗浄ではナノ粒子が脱離せず、一方、後述する粘着テープを用いたテープ剥離試験ではナノ粒子が脱離する状態となっていることが好ましい。
また、このような「仮固定化」は、メソポーラスシリカナノ粒子の少なくとも一部を、前述の本発明の反射防止部材における「直接固定化」よりも浅く部分埋設することによって達成されていることが好ましい。このような「仮固定化」におけるナノ粒子の前記剥離基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値は、用いるナノ粒子の平均粒子径の2〜20%であることが好ましく、3〜15%であることがより好ましい。ナノ粒子埋設部の深さの平均値が前記下限未満になると、剥離基材との接着性が低くなり過ぎて超音波洗浄でナノ粒子が脱離し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、剥離基材との接着性が高くなり過ぎて後述の転写工程においてナノ粒子が剥離基材の表面から脱離しにくくなる傾向にある。
また、このような「仮固定化」におけるナノ粒子埋設部の深さの平均値は、5〜30nmであることが好ましく、10〜20nmであることがより好ましい。更に、このような「仮固定化」におけるナノ粒子埋設部の深さの平均値は、転写後に得られる反射防止部材におけるナノ粒子埋設部の深さの平均値の1/10〜1/2程度であることが好ましい。「仮固定化」におけるナノ粒子埋設部の深さの平均値が前記下限未満になると、剥離基材との接着性が低くなり過ぎて超音波洗浄でナノ粒子が脱離し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、剥離基材との接着性が高くなり過ぎて後述の転写工程においてナノ粒子が剥離基材の表面から脱離しにくくなる傾向にある。
更に、本発明の転写部材におけるメソポーラスシリカナノ粒子の「単層」とは、前述の本発明の反射防止部材における「単層」と同様に、前記剥離基材の表面に配置されているナノ粒子が相互に重なり合うことなく一層で粒子層を形成していることを意味し、転写後に得られる反射防止部材の表面の全表面積に対してナノ粒子により占められる面積の割合が前述の範囲内となるように、転写部材の表面に対してナノ粒子の占める割合が40〜91%の範囲内であることが好ましく、50〜91%の範囲内であることがより好ましい。
このような本発明の転写部材を得る方法としては、特に制限されないが、例えば、前述の反射防止部材における樹脂基材に代えて前記剥離基材を用い、更に、メソポーラスシリカナノ粒子と剥離基材との間の接着力を適度に弱くして前記「仮固定化」状態となるようにすること以外は前述の反射防止部材の製造方法と同様の方法によって転写部材を得ることができる。すなわち、以下のような諸工程を含む方法によって本発明の転写部材を好適に得ることが可能である。
剥離基材の表面に配置されたメソポーラスシリカナノ粒子の少なくとも一部を、前述の反射防止部材を得る際の高分子流動状態よりも流動状態が小さい高分子半流動状態にある剥離基材の表面に埋設せしめる工程(粒子埋設工程)と、
前記高分子半流動状態にある剥離基材の表面を硬化せしめて前記剥離基材の表面に前記ナノ粒子を単層でかつ脱離可能な状態で仮固定化せしめて前記転写部材を得る工程(仮固定化工程)と、
を含む転写部材の製造方法。
このような粒子埋設工程において剥離基材の表面にメソポーラスシリカナノ粒子を配置する方法としては、特に制限はなく、例えば、前述の反射防止部材の製造方法における粒子層原料塗布法と同様の方法を用いることができる。また、このような粒子埋設工程において高分子半流動状態とする方法としては、前述の反射防止部材の製造方法と同様に、溶媒蒸気処理、熱処理及びガス処理からなる群から選択される少なくとも一種の可塑化処理が好ましく、前記剥離基材の表面を可塑化(軟化)する程度を調節することによって前記高分子半流動状態とすることができる。更に、前記仮固定化工程において剥離基材の表面を硬化せしめる方法としては、前述の反射防止部材の製造方法における固定化工程と同様の方法を用いることができる。
また、前記仮固定化工程の後に、前記剥離基材の表面に固定化されなかったメソポーラスシリカナノ粒子を除去する工程(除去工程)を更に含むことが好ましい。このような除去方法としては、前述の反射防止部材の製造方法における除去工程と同様の方法を用いることができる。
(転写部材を用いた反射防止部材の製造方法)
前述の本発明の転写部材を用いる場合、前記転写部材を樹脂基材に接触せしめることにより、該樹脂基材の表面に前記メソポーラスシリカナノ粒子を転写により配置することが可能となる(転写工程)。
このようなナノ粒子の転写は、転写先の樹脂基材の表面を高分子流動状態又は接着性を有する状態とし、そこに転写元の転写部材のナノ粒子を接触させ、必要に応じて加圧(プレス)した後に剥離基材を剥がすことにより好適に達成される。このような樹脂基材の表面を高分子流動状態とする方法としては、前述の反射防止部材の製造方法における粒子埋設工程において樹脂基材の表面を高分子流動状態とする方法と同様の方法を用いることができる。したがって、前記転写工程と前述の反射防止部材の製造方法における粒子埋設工程とを実質的に同一の工程として実施することが可能である。また、粒子埋設工程後に樹脂基材の表面を硬化せしめる方法としては、前述の反射防止部材の製造方法における固定化工程と同様の方法を用いることができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、反射防止部材の形態観察、メソ細孔構造評価、光学特性評価、剥離・摩耗試験及び冷熱サイクル試験は以下の方法に従って行なった。
<形態観察>
メソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察は、(株)日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡「SU3500」を用いて行った。また、メソポーラスシリカナノ粒子を固定化した基板の表面形状の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)観察は、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)(現(株)日立ハイテクサイエンス)製の走査型プローブ顕微鏡「NanoNavi E−sweep」を用いて行った。
<メソ細孔構造評価>
メソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線は、カンタクローム・インスツルメンツ社製のガス吸着量測定装置「Autosorb−1」を用いて測定し、比表面積をBET(Brunauer−Emmett−Teller)法、細孔径を密度汎関数法、細孔容量をt−プロット法により算出した。
<光学特性評価>
光透過率は、日本分光(株)製の分光光度計「V−670」を用いて測定した。また、光反射率は、(株)相馬化学製のマルチチャンネル分光計「S−2650」を用いて測定した。更に、透明性は、目視により観察し、ほぼ完全に透明な場合を「○」、光散乱による白濁がわずかに観察されるものを「△」、明らかな白濁が認められる場合を「×」と評価した。
<剥離・摩耗試験>
テープ剥離試験として、メソポーラスシリカナノ粒子を固定した基板表面に粘着テープ(住友スリーエム(株)製、Scotch(登録商標)「メンディングテープ」(カタログNo.810−1−18))を貼付・剥離し、基板表面に残存した粘着成分をエタノールで洗浄後、剥離の割合を目視で観察した。また、コットン摩耗試験として、基板表面にコットンウールを1kg/cm2の圧力で押し付け、20往復させた後の表面状態を目視で観察した。なお、基板に浸透した溶媒の影響を軽減するため、これらの試験は室温で一週間放置した試料(サンプル)に対して行った。それぞれの試験において、試験前後での変化がほとんどないものを「○」、一部変化が見られたものを「△」、明確な剥離や白化が見られたものを「×」と評価した。
<冷熱サイクル試験>
基板の熱膨張に対する反射防止層の耐性を調べるため、熱風による加熱(約80℃)及び水への浸漬による急冷(25℃)のサイクルを10回繰り返し、試験前後での可視光の透過率を測定した。
(調製例1)
容量100mLのナスフラスコに10質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(60mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、60℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら60℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(30g)、エタノール(30g)及び5M塩酸(60g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm、1時間)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1時間×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行った。このSEM観察において、無作為に50個のナノ粒子を抽出し、その直径を測定したところ、ナノ粒子の平均粒子径は約100nmであることが確認された。図1に、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。図2に、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、BET比表面積が748m2/g、メソ細孔径が5〜8nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.60cm3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm3とした場合、空隙率を算出したところ54%であった。
(調製例2)
容量100mLのナスフラスコに10質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(60mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とメチルシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら80℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(30g)、エタノール(30g)及び5M塩酸(60g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm,1h)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1h×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、調製例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行ったところナノ粒子の平均粒子径は約150nmであることが確認された。図3に、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。図4に、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、BET比表面積が484m2/g、メソ細孔径が4.7nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.37cm3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm3とした場合、空隙率を算出したところ42%であった。
(調製例3)
容量100mLのナスフラスコに25質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(24mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とメチルシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら80℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量100mLのナスフラスコに移し、これにトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、60℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製した、別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら60℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(10g)、エタノール(30g)及び34%塩酸(30g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm、1時間)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1時間×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、調製例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行ったところナノ粒子の平均粒子径は約170nmであることが確認された。図5に、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。図6に、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、メソ細孔径が4.8nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.47cm3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm3とした場合、空隙率を算出したところ48%であった。
(実施例1)
先ず、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
次に、このPMMA樹脂基板に、前記エタノール分散液を50mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板をクロロホルム蒸気に室温で48時間曝露して樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果を図7に示す。図7の(A)は本発明の実施例1により得られた反射防止部材の原子間力顕微鏡観察像(AFM像)であり、(B)は(A)の一部を取り出したAFM像の拡大図であり、(C)は(B)における白色線分の高さのプロファイルを表すグラフである。なお、図7の(C)に示される破線の円は、ナノ粒子を真球と仮定した時の輪郭線である。図7の(A)に示すAFM像より、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、図7の(C)に示す高さプロファイルを表すグラフの解析から、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の45%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例1)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図8に実施例1で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図9に実施例1で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図8及び図9に示した実施例1の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例1において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例2)
先ず、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
次に、このPMMA樹脂基板に、前記エタノール分散液を50mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板に対してヒートガンを用いて熱風(約150〜200℃)を2分間吹き付けて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、室温まで約2分間で冷却することにより高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が40nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の40%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例2)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図10に実施例2で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図11に実施例2で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図10及び図11に示した実施例2の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例2において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例3)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂基板の表面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子がPC樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が40nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の40%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例3)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。図12に実施例3で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図13に実施例3で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図12及び図13に示した実施例3の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例3において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例4)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
次に、このPMMA樹脂基板の両面に、平筆(材質:羊毛、穂の長さ:12mm、穂の幅:8mm、穂の厚み:2mm)を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板をクロロホルム蒸気に室温で48時間曝露して樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果を図14に示す。図14の(A)は本発明の実施例4により得られた反射防止部材の原子間力顕微鏡観察像(AFM像)であり、(B)は(A)の一部を取り出したAFM像の拡大図であり、(C)は(B)における白色線分の高さのプロファイルを表すグラフである。図14の(A)に示すAFM像より、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。なお、樹脂基板表面の他面においても同様にナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。更に、図14の(C)に示す高さプロファイルを表すグラフの解析から、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。なお、樹脂基板表面の他面においても同様にナノ粒子がPMMA樹脂基板に埋設されていることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例4)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図15に実施例4で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図16に実施例4で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図15及び図16に示した実施例4の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例4において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
次に、得られた反射防止部材に対して冷熱サイクル試験を行った。その結果、試験前後において透過率の変化は見られず、基板の熱変形に対して反射防止部材が十分な耐性を有していることが確認された。図17に実施例4で得られた反射防止部材の冷熱サイクル試験を行った結果を示すグラフを示す。また、図18に文字を書いた紙からの散乱光を映しこんだ状態の実施例4で得られた反射防止部材及び比較のためのPMMA樹脂基板(参考例1)の外観写真を示す。図18に示した実施例4の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、本実施例の反射防止部材は樹脂基材の透明性を確保したまま映り込みの低減が可能であり、視認性が向上していることが確認された。
(実施例5)
樹脂基材として、曲面を有するPMMA樹脂基板(幅:30mm、長さ:70mm、厚さ:2mm、局面部の曲率半径:約15mm)を用いた以外は実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂曲面基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面の両面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、ナノ粒子がPMMA樹脂基板の両面に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例5)及び比較のために未処理の上記曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)について光透過率及び光反射率を測定した。可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例5において得られた反射防止部材は、処理を行っていない曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
次いで、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。また、図19に文字を書いた紙からの散乱光を映しこんだ状態の実施例5で得られた曲面を有する反射防止部材及び比較のための曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)の外観写真を示す。図19に示した実施例5の結果と参考例3の結果との比較から明らかなように、本実施例の反射防止部材は樹脂基材の透明性を確保したまま映り込みの低減が可能であり、曲面を有する樹脂基板においても視認性が向上していることが確認された。
(実施例6)
先ず、実施例4と同様にして粒子層原料(エタノール分散液)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板を用意した。次に、このPMMA樹脂基板の両面に、噴霧器を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめてPMMA樹脂基板表面にメソポーラスシリカナノ粒子を吸着させた。その後、実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例6)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図20に実施例6で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図21に実施例6で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図20及び図21に示した実施例6の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例6において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例7)
可塑化処理条件をクロロホルム蒸気に50℃で6時間曝露とした以外は実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例7)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図22に実施例7で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図23に実施例7で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図22及び図23に示した実施例7の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例7において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、摩耗試験においてわずかな白化がみられたが、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例8)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用意した。
次に、このPC樹脂基板の両面に、平筆(材質:羊毛、穂の長さ:12mm、穂の幅:8mm、穂の厚み:2mm)を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、PC樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPC樹脂基板に対して、ヒートガンを用いて熱風(約150〜250℃)を2分間吹き付けて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、室温で約2分間冷却して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例8)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。図24に実施例8で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図25に実施例8で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図24及び図25に示した実施例8の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例8において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例9)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用いた以外は実施例6と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例9)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。図26に実施例9で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図27に実施例9で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図26及び図27に示した実施例9の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例9において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(比較例1)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P10」、平均粒子径100nm)を用いた以外は実施例1と同様にして、PMMA樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
得られた比較用材料及び未処理のPMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図28に比較例1で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図29に比較例1で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図28及び図29に示した比較例1の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例1において得られた比較用材料は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて反射率は低下したが透過率には大きな改善が見られなかったことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球が容易に脱離し、PMMA樹脂基板とシリカ球との接着が不十分であることが確認された。また、コットン摩耗試験を行った結果、比較用材料には明確な白化が見られた。得られた結果を表2に示す。
(比較例2)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P10」、平均粒子径100nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、PC樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
得られた比較用材料及び未処理のPC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。図30に比較例2で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図31に比較例2で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図30及び図31に示した比較例2の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例2において得られた比較用材料は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて反射率は低下したが透過率が劣ることが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(比較例3)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P15」、平均粒子径150nm)を用いた以外は実施例1と同様にして比較用材料を作製したところ、エタノール中での超音波洗浄処理によりシリカ球の大半が脱離し、シリカ球を固定化したPMMA樹脂基板を得ることができなかった。
(比較例4)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用い、粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P15」、平均粒子径150nm)を用いた以外は実施例1と同様にして、PC樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
得られた比較用材料及び未処理のPC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。図32に比較例4で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図33に比較例4で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図32及び図33に示した比較例4の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例4において得られた比較用材料は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて反射率は低下したが透過率には大きな改善が見られなかったことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、明らかな白濁が認められた。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球が容易に脱離し、PC樹脂基板とシリカ球との接着が不十分であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
(比較例5)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子150mg及びポリジメトキシシロキサン(Gelest社製、商品名「PSI−026」)250mgをエタノール5gに分散させた後、2M塩酸(100μL)を加えて25℃で6時間攪拌してゾル分散液を得た。次に、得られたゾル分散液をエタノール溶媒で8倍に希釈した後、PMMA樹脂基板に20mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子及びシリカ系マトリクスからなる被膜を備えたPMMA樹脂基板(比較用材料)を作製した。
得られた比較用材料及び未処理のPMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図34に比較例5で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図35に比較例5で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図34及び図35に示した比較例5の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例5において得られた比較用材料は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて400〜500nmの波長域で透過率が劣るものの、500nm以上の波長域で透過率がやや向上し、可視光全波長域で反射率が2〜3%低減したことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、わずかながら光散乱による白濁が観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、ナノ粒子の脱離や被膜の剥離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
次に、得られた比較用材料に対して冷熱サイクル試験を行った。その結果、試験後に明確な透過率の低下が見られ、樹脂基板の熱変形に対して本比較例の反射防止層は明らかな劣化を示し、基板の熱変形に対して比較用材料が十分な耐性を有していいないことが確認された。図36に比較例5で得られた比較用材料の冷熱サイクル試験を行った結果を示すグラフを示す。
(実施例10:転写部材の作製1)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、剥離基材として、ポリカーボネートフィルム(幅:40mm、長さ:60mm、厚さ:0.1mm)を用意した。
次に、この剥離基材の片面に、平筆を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、剥離基材表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着した剥離基材をクロロホルム蒸気に室温で24時間曝露して剥離基板の表面を弱く可塑化して高分子半流動状態とし、剥離基材の表面にナノ粒子を浅く埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子半流動状態にある剥離基材の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、剥離基材表面に仮固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、剥離基材の表面の片面に前記ナノ粒子が仮固定化された粒子層を有する転写部材を得た。
得られた転写部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図37に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が剥離基材の表面に単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が剥離基材に5〜20nm程度埋設されており、ナノ粒子の剥離基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が15nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の10%であることが確認された。
次に、得られた転写部材についてテープ剥離試験を行った結果、図38に示すように、剥離基材表面のナノ粒子が完全に脱離することが確認された。この結果から、得られた転写部材において、剥離基材表面のナノ粒子は、超音波洗浄では脱離せず、一方、テープ剥離試験では脱離する「仮固定化」状態となっていることが確認された。
(実施例11:転写部材の作製2)
先ず、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が6.8質量%のエタノール分散液(30g)からなる粒子層原料を調製した。また、剥離基材として、ポリカーボネートフィルム(幅:40mm、長さ:60mm、厚さ:0.1mm)を用意した。
次に、この剥離基材の片面に、平筆を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、剥離基材表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
次いで、表面にナノ粒子を吸着した剥離基材をクロロホルム蒸気に室温で24時間曝露して剥離基板の表面を弱く可塑化して高分子半流動状態とし、剥離基材の表面にナノ粒子を浅く埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子半流動状態にある剥離基材の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、剥離基材表面に仮固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、剥離基材の表面の片面に前記ナノ粒子が仮固定化された粒子層を有する転写部材を得た。
得られた転写部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図39に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が剥離基材の表面に単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が剥離基材に5〜20nm程度埋設されており、ナノ粒子の剥離基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が15nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の8.9%であることが確認された。
次に、得られた転写部材についてテープ剥離試験を行った結果、図40に示すように、剥離基材表面のナノ粒子が完全に脱離することが確認された。この結果から、得られた転写部材において、剥離基材表面のナノ粒子は、超音波洗浄では脱離せず、一方、テープ剥離試験では脱離する「仮固定化」状態となっていることが確認された。
(実施例12:転写部材を用いた反射防止部材の作製1)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で9時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例10で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で15時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図41に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に40〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例12)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。図42に実施例12で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図43に実施例12で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図42及び図43に示した実施例12の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例12において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が2.0〜2.6%向上し、反射率が2.0〜3.0%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例13:転写部材を用いた反射防止部材の作製2)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で8時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例10で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で16時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図44に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に65〜85nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が75nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の50%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例13)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。図45に実施例13で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図46に実施例13で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図45及び図46に示した実施例13の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例13において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が約1.0%向上し、反射率が1.0〜1.6%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例14:転写部材を用いた反射防止部材の作製3)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で9時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例11で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で15時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図47に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に50〜70nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が60nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の35.3%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例14)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。図48に実施例14で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図49に実施例14で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図48及び図49に示した実施例14の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例14において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が2.0〜2.3%向上し、反射率が1.5〜3.3%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(実施例15:転写部材を用いた反射防止部材の作製4)
ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)に対してヒートガンを用いて熱風(約150〜200℃)を吹き付けて樹脂基材の表面を約130℃とすることにより可塑化して高分子流動状態とした。この樹脂基材表面に対し、実施例11で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。その後、室温まで冷却することにより高分子流動状態にある樹脂基材の表面を硬化せしめ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、図50に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に50〜70nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が60nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の35.3%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
次に、得られた反射防止部材(実施例15)及び比較のためにナノ粒子を転写していないPMMA基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。図51に実施例15で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。図52に実施例15で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。図51及び図52に示した実施例15の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例15において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないPMMA基板(参考例1)に比べて透過率が約2.0%向上し、反射率が約4.0%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
(評価試験結果)
表1〜表2及び図1〜図52に示した実施例1〜15の結果と比較例1〜5の結果との比較から明らかなように、実施例1〜15においては、十分に優れた反射防止性能及び十分に高い耐摩耗性を有し、かつ、基材の変形に対する耐久性に優れた反射防止部材が得られていることが確認された。また、実施例1〜15における反射防止部材の製造方法により、このような反射防止部材を容易に得ることができ、また、曲面や複雑形状の樹脂基材にも容易に処理可能な製造方法であることが確認された。すなわち、実施例1〜15において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を樹脂表面に直接固定化することにより、光学特性の改善が見られ、しかも十分な力学特性も持ち合わせており、更に基材の変形に対する耐久性に優れており、しかも、これら反射防止部材が容易に得られるものであることが確認された。