JP5347145B2 - 反射防止膜及びこれを有する光学部品、並びに前記光学部品を有する交換レンズ及び撮像装置 - Google Patents

反射防止膜及びこれを有する光学部品、並びに前記光学部品を有する交換レンズ及び撮像装置 Download PDF

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Description

本発明は反射防止膜及びこれを有する光学部品、並びに前記光学部品を有する交換レンズ及び撮像装置に関し、詳しくはレンズ、プリズム、回折素子等の光学部品に適用される可視域において高い反射防止効果を有する反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部品、並びに前記光学部品を有するテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ等の交換レンズ及び撮像装置に関する。
写真用カメラや放送用カメラ等に広く用いられている高性能な単焦点レンズやズームレンズは、多数枚(10〜40枚)からなるレンズ群の鏡筒構成を有している。これらレンズ等の光学部品の表面には、基板の屈折率と異なる大小の屈折率を有する誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定し、干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
一般的な反射防止膜は1〜3層程度の構成で、その反射率は0.5%程度である。このような反射防止膜を20枚のレンズからなる鏡筒レンズ群に施した場合、レンズの面数は40面であるから透過率は計算上0.99540≒82%となり、約18%の反射損失が生じてしまう。しかも、レンズ内又はレンズ間での多重反射によりフレアやゴーストが生じ、コントラスト等の光学特性を著しく劣化させる。また光ピックアップなどにおいてはレーザー光の干渉といった大きな弊害が起こる。
また、レンズ表面には製造過程等においてヤケや傷等が生じることがある。ヤケ現象には、光学ガラスが大気中に放置された場合、ガラス表面への水滴の結露又は研摩工程中における水との接触等により、ガラス中の塩基性成分が溶出し薄い膜が形成される青ヤケ現象と、ガラス中から溶出した成分が何らかの化学反応を起こして白い斑点状の粒子として析出する白ヤケ現象とがある。特に、交換レンズ等の高屈折率を要する基材にはLaK系統、LaSF系統、LaF系統、SF系統等の硝材が用いられるため、ヤケが発生しやすいといった問題がある。
高い反射防止効果を得るためには、より多くの層を有する反射防止膜を用いた反射防止処理が有効であり、例えば特開平10-20102号(特許文献1)は、7層構造の反射防止膜を開示している。この反射防止膜は可視波長帯域の光に対する反射率を0.3%程度にまで改良するが、反射防止性能としては不十分である。
特開2001-100002号(特許文献2)は、MgF2、SiO2、Al2O3、ZrO2+TiO2の材料からなる10層構造を有する反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は可視波長帯域(約270 nmの波長幅)の光に対する反射率を0.1%以下に改良すると記載している。さらに、特開2002-107506号(特許文献3)は、MgF2、SiO2、Al2O3、ZrO2+TiO2の材料からなる10層構造を有する反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は可視波長帯域(約300 nmの波長幅)の光に対する反射率を0.1%程度に改良すると記載している。しかしながら、特開2001-100002号(特許文献2)及び特開2002-107506号(特許文献3)に記載の反射防止膜は、反射率0.1%程度の反射防止特性を有しているものの、ヤケ発生の防止という点では不十分である。
特開2005-352303号(特許文献4)及び特開2006-3562号(特許文献5)は、基材上に形成した複数の層からなる反射防止膜であって、基材及び各層の屈折率は基材から順に小さくなっており、隣り合う各層及び基板の屈折率差が0.02〜0.2であり、各層の物理層厚が15〜200 nmであり、最外層がシリカエアロゲル層である反射防止膜を開示している。しかしながら、屈折率が1.70以上の高屈折率ガラスに対してこれらの反射防止膜を使用した場合、低屈折率ガラスに使用した場合に比べて反射防止特性が悪く、十分に満足のゆくものではない。
特開平5-85778号(特許文献6)は、透過性の光学部品基板の表面に、複数の誘電体膜を積層して反射防止膜を形成し、前記反射防止膜の最も基板側に近い第1層の組成を酸化ケイ素(SiOx、1≦x≦2)、その膜厚ndを、0.25λ0≦nd(λ0は設計波長)とした反射防止膜を有する光学部品を開示しており、前記酸化ケイ素膜を設けることにより基板表面のヤケや傷等を目立たなくすることができると記載している。しかしながら、この反射防止膜はヤケの発生を抑えるわけではないので、根本的な解決にはなっておらず、長期の間には視認できるヤケが発生する場合がある。
特開2007-94150号(特許文献7)は、5層又は6層の屈折率及び光学膜厚を定め、可視光の波長領域400〜700 nmにおいて、5°入射分光反射特性で反射率0.05%以下の反射防止効果を有する反射防止膜を開示している。しかしながら、この反射防止膜は反射防止効果としては優れているものの、基板表面のヤケ対策としては何ら効果を発揮するものではない。
特開平10-20102号公報 特開2001-100002号公報 特開2002-107506号公報 特開2005-352303号公報 特開2006-3562号公報 特開平5-85778号公報 特開2007-94150号公報
従って、本発明の目的は、高屈折率ガラスにおいて広い入射角範囲で優れた透過率特性を有し、フレアやゴースト等の発生が少なく、かつ優れたヤケ防止効果を有する反射防止膜及びこれを有する光学部品、交換レンズ及び撮像装置を提供することである。
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、下記の7層構成を有する反射防止膜により、高屈折率ガラスにおいて広い入射角範囲で優れた反射防止、フレアやゴースト等の防止、及びヤケの防止の効果が得られることを発見し、本発明に想到した。
即ち、本発明の反射防止膜は、基板上に、前記基板側から順に第1層〜第7層を積層してなる反射防止膜であって、波長400〜700 nmにおいて、
前記基板の屈折率が1.6〜1.98であり、
前記第1層がアルミナを主成分とし、光学膜厚が25〜120 nmであり、
前記第2層の屈折率が1.84〜2.3、光学膜厚が27.5〜55 nmであり、
前記第3層の屈折率が1.33〜1.49、光学膜厚が50〜75 nmであり、
前記第4層の屈折率が1.95〜2.25、光学膜厚が40〜62.5 nmであり、
前記第5層の屈折率が1.33〜1.47、光学膜厚が87.5〜132.5 nmであり、
前記第6層の屈折率が1.7〜2.4、光学膜厚が11〜27 nmであり、
前記第7層はシリカを主成分とする多孔質層であり、光学膜厚が120〜180 nmであることを特徴とする。
前記第2層はTa2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなり、前記第3層はMgF2及び/又はSiO2を含有してなり、前記第4層はTa2O5ZrO 2 、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなり、前記第5層はMgF2及び/又はSiO2を含有してなり、前記第6層はTa2O5、TiO2、Nb2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、Y2O3及びPr6O11からなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなるのが好ましい。
前記第1層の屈折率は1.54〜1.77であるのが好ましい。前記第7層の屈折率は1.09〜1.19であるのが好ましい。
前記第7層はシリカエアロゲル層であるのが好ましい。
0°入射光の波長領域450〜600 nmにおける反射率は0.5%以下であり、30°入射光の波長領域400〜650 nmにおける反射率は1%以下であるのが好ましい。
前記第7層の上にさらに撥水性又は撥水撥油性を有する厚さ0.4〜100 nmのフッ素樹脂系膜を有するのが好ましい。
前記第1層〜第6層は物理成膜法により形成された層であり、前記第7層は湿式法により形成された層であるのが好ましい。前記物理成腹法は真空蒸着法であり、前記湿式法はゾル-ゲル法であるのが好ましい。
本発明の光学部品は、本発明の反射防止膜を有することを特徴とする。
本発明の交換レンズは、本発明の光学部品を有することを特徴とする。
本発明の撮像装置は、本発明の光学部品を有することを特徴とする。
本発明の7層からなる反射防止膜は、高屈折率を有する基板を用いた場合でも、可視光の波長領域(400〜700 nm)において、広い入射角範囲で優れた反射防止効果が得られ、かつヤケ防止効果が高いので、屋外で利用される一眼レフカメラの交換レンズ等の光学部品に好適である。
基板の表面に形成された本発明の反射防止膜の一例を示す断面図である。 基板の表面に形成された本発明の反射防止膜の他の一例を示す断面図である。 本発明の実施例1で作製した反射防止膜の分光反射率を表すグラフである。 本発明の実施例2で作製した反射防止膜の分光反射率を表すグラフである。 本発明の比較例1で作製した反射防止膜の分光反射率を表すグラフである。 反射防止膜を成膜する装置の一例を示す模式図である。
[1]反射防止膜
(1)構成
本発明の反射防止膜は、図1に示すように、所定の屈折率を有する第1層から第7層までの薄膜を基板3の表面に積層してなる。すなわち本発明の反射防止膜は、波長400〜700 nmにおいて、屈折率が1.6〜1.98の基板上に、
アルミナを主成分とし、光学膜厚が25〜120 nmである第1層と、
屈折率が1.84〜2.3、光学膜厚が27.5〜55 nmである第2層と、
屈折率が1.33〜1.49、光学膜厚が50〜75 nmである第3層と、
屈折率が1.95〜2.25、光学膜厚が40〜62.5 nmである第4層と、
屈折率が1.33〜1.47、光学膜厚が87.5〜132.5 nmである第5層と、
屈折率が1.7〜2.4、光学膜厚が11〜27 nmである第6層と、
シリカを主成分とする多孔質層であり、光学膜厚が120〜180 nmである第7層とを、この順に積層してなる。なお、光学膜厚とは、薄膜の屈折率(n)と物理膜厚(d)の積(n×d)である。
第1層(アルミナ層)のアルミナを主成分とする層の光学膜厚は30〜105 nmであるのが好ましい。屈折率は1.54〜1.77であるのが好ましく、1.58〜1.73であるのがより好ましい。アルミナは幅広い波長帯域で高い光透過性を有し、高密着性を有するとともに、高硬度で耐摩耗性に優れる。またアルミナは水蒸気に対する遮蔽性に優れるため、第1層の主成分としてアルミナを用いることにより、基板表面のヤケを効果的に防止することができる。
波長400〜700 nmにおいて良好な反射防止効果を得るためには、第2層の屈折率は好ましくは1.95〜2.2、光学膜厚は好ましくは35〜50 nmであり、第3層の屈折率は好ましくは1.34〜1.45、光学膜厚は好ましくは55〜67.5 nmであり、第4層の屈折率は好ましくは2〜2.18、光学膜厚は好ましくは45〜57.5 nmであり、第5層の屈折率は好ましくは1.35〜1.43、光学膜厚は好ましくは100〜120 nmであり、第6層の屈折率は好ましくは1.8〜2.3、光学膜厚は好ましくは15〜23.8 nmである。
第7層のシリカを主成分とする多孔質層はシリカエアロゲルからなるのが好ましい。シリカエアロゲルからなる層は低い屈折率を有するため、この層を基材から一番遠い位置に設けることにより、優れた反射防止機能を発揮することができる。屈折率は、1.09〜1.19であるのが好ましく、1.11〜1.18であるのがより好ましい。光学膜厚は137.5〜167.5 nmであるのが好ましい。多孔質層の細孔径は0.005〜0.2μmであるのが好ましく、空孔率は20〜60%であるのが好ましい。
シリカエアロゲルからなる層に耐水性及び耐久性を付与するために疎水化処理を施しても良い。疎水化処理はシリカエアロゲル層の上に、さらに撥水性又は撥水撥油性を有する厚さ0.4〜100 nmのフッ素樹脂系膜を形成することにより行うのが好ましい。
(2)材料
各層を構成する材料としては、例えば、Al2O3、TiO2、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、CeO2、Yb2O3、HfO2、Nd2O3、Pr6O11、La2O3、Er2O3、CdO、Eu2O3、NiO、Cr2O3、SnO2、Sb2O3、ZnO、ZnS、Sb2S3、CdS、AlN、SiO2、MgF2、AlF3、BaF2、CaF2、LiF、NaF、SrF2、In2O3、Y2O3、MgO、CeF3、YF3、DyF3及びフッ素樹脂が挙げられる。
第1層はアルミナ(酸化アルミニウム)のみからなるのが好ましい。アルミナの純度としては、99%以上が好ましい。
第2層はTa2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなるのが好ましい。
第3層はMgF2及び/又はSiO2を含有してなるのが好ましい。
第4層はTa2O5ZrO 2 、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなるのが好ましい。
第5層はMgF2及び/又はSiO2を含有してなるのが好ましい。
第6層はTa2O5、TiO2、Nb2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、Y2O3及びPr6O11からなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなるのが好ましい。
第7層はシリカを主成分とする多孔質層であり、シリカエアロゲルからなるのが好ましい。
[3]製造方法
(1) 第1層〜第6層の形成方法
反射防止膜の第1層〜第6層は、物理成膜法で形成するのが好ましい。物理成膜法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。なかでも特に製造コスト、加工精度の面において真空蒸着法が好ましい。
真空蒸着法としては、抵抗過熱式、電子ビーム式などが挙げられるが、以下に電子ビーム式による真空蒸着法に関して説明する。電子ビーム式真空蒸着装置30は、図6に示すように、真空チャンバ31内に、複数の基板100を内側表面に裁置する回転自在の回転ラック32と、蒸着材37を裁置するためのルツボ36を有する蒸着源33と、電子ビーム照射器38と、ヒーター39と、真空ポンプ40に接続した真空ポンプ接続口35とを具備する。反射防止膜の成膜は、真空チャンバ31内を減圧しながら蒸着材37の蒸気を基板100の表面に蒸着することにより行う。基板100は表面が蒸着源33側に向くように回転ラック32に設置し、蒸着材37はルツボ36に載置する。真空ポンプ接続口35に接続された真空ポンプ40により真空チャンバ31内を減圧し、蒸着材37は電子ビーム照射器38からの電子ビームの照射で加熱し蒸発させる。均一な蒸着膜を形成するため、基板100をヒーター39により加熱しながら、回転ラック32を回転軸34により回転させる。
真空蒸着法において、初期の真空度は、例えば、1.0×10-5〜1.0×10-6Torr であるのが好ましい。真空度がこの範囲外であると蒸着に時間がかかり製造効率を悪化させたり、蒸着が不十分となり成膜が完成しなかったりする。蒸着中の基板100の温度は、基板の耐熱性や蒸着速度に応じて適宜決めることができるが、例えば、60〜250℃であるのが好ましい。
(2) 第7層の形成方法
第7層のシリカを主成分とする多孔質層は湿式法により形成するのが好ましく、特にゾル-ゲル法が好ましい。多孔質層は、アルコキシシラン等のシリカ骨格形成化合物からなる湿潤ゲルを、必要に応じて有機修飾し、バインダーとして紫外線硬化性の樹脂を混合し、得られた塗工液を塗布、乾燥及び焼成することにより形成する。以下に第7層の形成方法を詳細に説明する。
(i) 湿潤ゲルの調製
シリカ骨格形成化合物及び触媒を溶媒に溶解し、加水分解・重縮合反応をさせた後、エージングすることにより湿潤ゲルを形成する。湿潤ゲルは末端の親水基を有機修飾するのが好ましい。
(a) シリカ骨格形成化合物
シリカ骨格形成化合物としては、飽和又は不飽和のアルコキシシラン及び/又は飽和又は不飽和のシルセスキオキサンを用いることができる。これらのアルコキシシラン及び/又はシルセスキオキサの加水分解・重縮合により、シリカゾル及びシリカゲルが生成する。
飽和アルコキシシランは、モノマーでもオリゴマーでも良い。飽和アルコキシシランモノマーはアルコキシ基を3つ以上有するのが好ましい。飽和アルコキシシランオリゴマーはモノマーの加水分解・重縮合により得られる。アルコキシ基を3つ以上有する飽和アルコキシシランをシリカ骨格形成原料とすることにより、優れた均一性を有する反射防止膜が得られる。
飽和アルコキシシランモノマーの具体例としてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランが挙げられる。飽和アルコキシシランオリゴマーとしては、上述のモノマーの縮重合物が好ましい。
飽和シルセスキオキサンをシリカ骨格形成原料とした場合も、優れた均一性を有する反射防止膜が得られる。飽和シルセスキオキサンは一般式RSiO1.5(ただしRは有機官能基を示す。)により表される構造単位を有するネットワーク状ポリシロキサンの総称である。Rとしては、例えばアルキル基(直鎖でも分岐鎖でも良く、炭素数1〜6である。)、フェニル基及びアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)が挙げられる。シルセスキオキサンはラダー型、籠型等種々の構造を有することが知られている。また優れた耐候性、透明性及び硬度を有しており、シリカエアロゲルのシリカ骨格形成原料として好適である。
シリカ骨格形成原料として、紫外線重合性の不飽和基を有する不飽和アルコキシシラン又は不飽和シルセスキオキサンのモノマー又はオリゴマーを使用しても良い。シリカ骨格形成原料として不飽和基を有するものを使用することによって、バインダーの配合量が少ない場合にも、優れた靭性を有するシリカエアロゲル膜を得ることができる。不飽和アルコキシシランモノマーは、少なくとも一つの二重結合又は三重結合を有する有機基(以下「不飽和基」という)と、アルコキシ基とを有する。不飽和基の炭素数は2〜10であるのが好ましく、2〜4であるのがさらに好ましい。
好ましい不飽和アルコキシシランモノマーは、下記一般式(1)
RaSi(ORb)3 ・・・(1)
(ただし、Raは不飽和結合を有する炭素数2〜10の有機基を示し、ORbは炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)により表される。
不飽和基Raは、紫外線重合性の不飽和結合を少なくとも一つ有する有機基であり、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。不飽和基Raの例としてビニル基、アリル基、メタクリロキシ基、アミノプロピル基、グリシドキシ基、アルケニル基及びプロパルギル基が挙げられる。RbはRaと同じ有機基であってもよいし、異なる有機基であってもよい。アルコキシ基ORbの例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基及びs-ブトキシ基が挙げられる。
不飽和アルコキシシランモノマーの具体例としてトリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリブトキシビニルシラン、トリプロポキシビニルシラン、アリルトリブトキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、ジメトキシジビニルシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジエトキシジビニルシラン、ジアリルジエトキシシラン、トリメトキシ(3-ブテニル)シラン、トリエトキシ(3-ブテニル)シラン、ジ(3-ブテニル)ジメトキシシラン及びジ(3-ブテニル)ジエトキシシランが挙げられる。
不飽和アルコキシシランのオリゴマーをシリカ骨格形成原料としても良い。不飽和アルコキシシランオリゴマーも少なくとも一つの不飽和基とアルコキシ基とを有する。不飽和アルコキシシランオリゴマーは、下記一般式(2)
SimOm-1Ra 2m+2-xORb x ・・・(2)
(ただし、Raは不飽和結合を有しかつ炭素数2〜10の有機基を示し、ORbは炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、mは2〜5の整数を示し、xは4〜7の整数を示す。)により表されるものが好ましい。不飽和基Ra及びアルコキシ基ORbの好ましい例は、上述のアルコキシシランモノマーのものと同じである。
縮合数mは2又は3であるのが好ましい。5以下の縮合数mを有するオリゴマーは、後述するように、酸触媒を用いたモノマーの重合により容易に得られる。アルコキシ基の数xは3〜5であるのが好ましい。3未満であると、アルコキシシランの加水分解重縮合が十分に起こらないために3次元架橋し難く、湿潤ゲルを形成しにくい。アルコキシ基の数xが5超であると、不飽和基の割合が少なすぎて、重合反応による機械的強度の向上が不十分である。不飽和基を有するアルコキシシランオリゴマーの具体例として、上述の不飽和基アルコキシシランモノマーの縮合により得られるジシラン、トリシラン及びテトラシランが挙げられる。
(b) 溶媒
溶媒は水とアルコールとからなるのが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。加水分解重縮合反応の活性の程度は、アルコキシシラン又はシルセスキオキサンのモノマー及び/又はオリゴマー(シリカ骨格形成化合物)に対する水のモル比に依存する。従ってって水/アルコールのモル比は加水分解重縮合反応の進行に直接影響を及ぼすものではないが、実質的には0.1〜2とするのが好ましい。水/アルコールのモル比が2超であると、加水分解反応が速く進行するため取り扱いが困難となる場合がある。水/アルコールのモル比が0.1未満であると、シリカ骨格形成化合物の加水分解が十分に起こりにくい。
(c) 触媒
シリカ骨格形成化合物の水溶液に加水分解反応を促進するための触媒を添加する。触媒は酸性であっても塩基性であっても良い。例えば酸性の触媒を含有する溶液中でシリカ骨格形成化合物モノマーを縮合させることによって得たオリゴマーを、塩基性触媒を含有する溶液中で重合させると、効率良く加水分解反応を進行させることができる。酸性触媒の例として塩酸、硝酸及び酢酸が挙げられる。塩基性触媒の例としてアンモニア、アミン、NaOH及びKOHが挙げられる。好ましいアミンの例としてアルコールアミン及びアルキルアミン(例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン、n-プロピルアミン)が挙げられる。
(d) 配合比
アルコキシシラン等のシリカ骨格形成化合物は、溶媒/シリカ骨格形成化合物のモル比が3〜100となるように溶媒に溶解するのが好ましい。モル比を3未満とするとシリカ骨格形成化合物の重合度が高くなり過ぎ、モル比を100超とするとシリカ骨格形成化合物の重合度が低くなり過ぎる。触媒/シリカ骨格形成化合物のモル比は1×10-7〜1×10-1にするのが好ましく、1×10-2〜1×10-1にするのがより好ましい。モル比が1×10-7未満であると、シリカ骨格形成化合物の加水分解反応が十分に起こらない。モル比を1×10-1超としても、触媒効果は増大しない。また水/シリカ骨格形成化合物のモル比は0.5〜20にするのが好ましく、5〜10にするのがさらに好ましい。
(e) エージング
加水分解により縮合したシリカ骨格形成化合物を含有する溶液を、約20〜60時間25〜90℃で静置するかゆっくり撹拌しながら、エージングする。エージングによりゲル化が進行し、酸化ケイ素を含有する湿潤ゲルが生成する。
(f) 分散媒の置換
湿潤ゲルの分散媒は、エージングを促進したり遅らせたりする表面張力及び/又は固相−液相の接触角や、後述の有機修飾工程における表面修飾の範囲に影響する他、後述する塗工工程における分散媒の蒸発率にも関係する。ゲルに取り込まれている分散媒は、別の分散媒を注ぎ、振とうした後でデカンテーションする操作を繰り返すことによって別の分散媒に置換することができる。分散媒の置換は有機修飾反応の前でも後でも良いが、工程数を少なくする観点から、有機修飾反応の前に行うのが好ましい。
置換分散媒の例としてエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、トルエン、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル及び酢酸エチルが挙げられる。これらの分散媒は単独で使用しても良いし、混合したものを使用しても良い。
好ましい置換分散媒はケトン系溶媒である。後述する超音波処理工程までにケトン系溶媒に置換しておくと、良好な分散性の有機修飾シリカ含有ゾルを得ることができる。ケトン系溶媒はシリカ(酸化ケイ素)及び有機修飾シリカに対して優れた親和性を有するので、有機修飾シリカはケトン系溶媒中で良好な分散状態になる。ケトン系溶媒は60℃以上の沸点を有するものが好ましい。沸点が60℃未満のケトン(例えばアセトン)は非常に揮発しやすいので、例えば後述する超音波照射工程で処理中にケトンが大量に揮発してしまい、分散液の濃度を調節しにくい。また成膜工程においても素早く揮発し過ぎるため、十分な成膜時間が得られない。
特に好ましいケトン系溶媒は、カルボニル基の両側に異なる置換基を有する非対称なケトンである。非対称ケトンは大きな極性を有するために、シリカ及び有機修飾シリカに対して特に優れた親和性を有する。ケトン系溶媒を用いることにより、有機修飾シリカは分散液中で200 nm以下の粒径を有することができる。このような小粒径の有機修飾シリカを用いることにより、実質的に平滑な表面を有するシリカエアロゲル膜を形成することができる。
ケトンの置換基はアルキル基又はアリール基が好ましい。好ましいアルキル基は炭素数1〜5程度のものである。ケトン系溶媒の具体例としてメチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
(g) 有機修飾
上記で説明した湿潤ゲルを用いて第7層のシリカを主成分とする多孔質層を形成しても良いが、さらに湿潤ゲルに有機修飾剤溶液を加えることにより、構成する酸化ケイ素の末端にある水酸基等の親水性基を疎水性の有機基に置換して用いるのが好ましい。有機修飾剤としては、下記に示す飽和有機修飾剤及び不飽和有機修飾剤を用いるのが好ましい。
好ましい飽和有機修飾剤は下記式(3)〜(8)
Rc pSiClq ・・・(3)
Rc 3SiNHSiRc 3 ・・・(4)
Rc pSi(OH)q ・・・(5)
Rc 3SiOSiRc 3 ・・・(6)
Rc pSi(ORb)q ・・・(7)
Rc pSi(OCOCH3)q ・・・(8)
(ただしpは1〜3の整数を示し、qはq = 4−p の条件を満たす1〜3の整数を示し、ORbは炭素数1〜4のアルコキシ基を示し、Rcは水素、炭素数1〜18の置換又は無置換のアルキル基、又は炭素数5〜18の置換又は無置換のアリール基を示す。)のいずれかにより表される化合物、又はそれらの混合物である。
飽和有機修飾剤の具体例として、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2-トリメチルシロキシペント-2-エン-4-オン、n-(トリメチルシリル)アセトアミド、2-(トリメチルシリル)酢酸、n-(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t-ブチルジメチルシラノール、ジフェニルシランジオール等が挙げられる。
不飽和有機修飾剤を使用すると、バインダーの配合量が少ない場合にも、優れた靭性を有するシリカエアロゲル膜を得ることができる。好ましい不飽和有機修飾剤は、下記式(9)〜(14)
Rd pSiClq ・・・(9)
Rd 3SiNHSiRd 3 ・・・(10)
Rd pSi(OH)q ・・・(11)
Rd 3SiOSiRd 3 ・・・(12)
Rd pSi(ORd)q ・・・(13)
Rd pSi(OCOCH3)q ・・・(14)
(ただしpは1〜3の整数であり、qはq = 4−p の条件を満たす1〜3の整数を示し、Rdは紫外線重合性不飽和結合を有し、炭素数が2〜10の有機基を示す。)により表される。不飽和基Rdはメチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。不飽和基Rdの例としてビニル基、アリル基、メタクリロキシ基、アミノプロピル基、グリシドキシ基、アルケニル基及びプロパルギル基が挙げられる。不飽和有機修飾剤は一種でも二種以上でも良い。また不飽和有機修飾剤に飽和有機修飾剤を併用しても良い。
不飽和有機修飾剤は不飽和クロロシランが好ましく、3つの不飽和基を有する不飽和モノクロロシランがより好ましい。不飽和有機修飾剤の具体例として、トリアリルクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、トリアセトキシアリルシラン、ジアセトキシジアリルシラン、トリクロロビニルシラン、ジクロロジビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、ジアセトキシジアリルシラン、トリメトキシ(3-ブテニル)シラン、トリエトキシ(3-ブテニル)シラン、ジ(3-ブテニル)ジメトキシシラン、ジ(3-ブテニル)ジエトキシシラン等が挙げられる。
有機修飾剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の炭化水素類、アセトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物のような溶媒に溶解するのが好ましい。有機修飾剤の種類や濃度にもよるが、有機修飾反応は10〜40℃で進行させるのが好ましい。10℃未満であると、有機修飾剤が酸化ケイ素と反応しにくい。40℃超であると、有機修飾剤が酸化ケイ素以外の物質とも反応してしまい制御が難しくなる。反応中、溶液の温度及び濃度に分布が生じないように、溶液を撹拌するのが好ましい。例えば有機修飾剤溶液がトリエチルクロロシランのヘキサン溶液の場合、10〜40℃で20〜40時間(例えば30時間)程度保持すると、シラノール基が十分にシリル化される。
(h) 超音波処理
超音波処理により、ゲル状及び/又はゾル状有機修飾シリカを塗工に好適な状態にすることができる。ゲル状の有機修飾シリカの場合、超音波処理により、電気的な力又はファンデルワールス力によって凝集していたゲルが解離するか、ケイ素と酸素との共有結合が壊れて、分散状態になると考えられる。ゾル状の場合も、超音波処理によってコロイド粒子の凝集を少なくすることができる。超音波処理には、超音波振動子を利用した分散装置を使用することができる。照射する超音波の周波数は10〜30 kHzであるのが好ましく、出力は300〜900 Wであるのが好ましい。
超音波処理は5〜120分間行うのが好ましい。超音波を長く照射するほど、ゲル及び/又はゾルのクラスターが細かく粉砕され、凝集の少ない状態になる。このため超音波処理によって得られるシリカ含有ゾル中で、有機修飾シリカのコロイド粒子が単分散に近い状態になる。5分未満とすると、コロイド粒子が十分に解離しない。超音波処理時間を120分超としても、有機修飾シリカのコロイド粒子の解離状態はほとんど変わらない。例えば、周波数10〜30 kHz、出力300〜900 W、処理時間5〜120分間の条件で超音波処理することにより、空隙率20〜60%及び屈折率1.07〜1.18のシリカエアロゲル膜を形成することができる。
湿潤ゲルの濃度や流動性が適切な範囲になるように、分散媒をさらに加えても良い。超音波処理に先立って分散媒を添加しても良いし、ある程度超音波処理した後で分散媒を添加しても良い。分散媒に対する有機修飾シリカの質量比は0.1〜20%とするのが好ましい。分散媒に対する有機修飾シリカの質量比が0.1〜20%の範囲でないと、均一な薄層を形成し難くなる。
単分散に近い状態の酸化ケイ素コロイド粒子を含有するゾルを用いると、小さな空隙率を有する有機修飾シリカエアロゲル膜が形成され、大きく凝集したコロイド粒子を含有するゾルを用いると、大きな空隙率を有するシリカエアロゲル膜が形成される。従って、超音波処理時間を調節することによりシリカエアロゲル膜の空隙率を制御することができる。例えば、5〜120分間超音波処理したゾルを塗工すると、空隙率20〜60%の有機修飾シリカエアロゲル膜を得ることができる。
(ii)紫外線硬化性樹脂溶液の調製
有機修飾シリカのバインダーとして紫外線硬化性樹脂を用いるのが好ましい。紫外線硬化性樹脂の溶液は、有機修飾シリカの分散液と相溶性を有するのが好ましい。溶媒は紫外線硬化性樹脂を溶解し、有機修飾シリカ分散液と相溶性を有するものであれば特に限定されない。従って、有機修飾シリカ分散液の置換分散媒として上に記載したものの中から適宜選択すれば良い。
紫外線硬化性樹脂は硬化後に1.5以下の屈折率を有するのが好ましく、1.3〜1.4の屈折率を有するのがより好ましい。硬化後に屈折率が1.5以下になる紫外線硬化性樹脂を使用すると、シリカエアロゲル膜の屈折率を1.07〜1.18にすることができる。フッ素系非結晶性の紫外線硬化性樹脂は、1.5以下の屈折率を有するとともに優れた透明性を有するので好ましい。非結晶性の紫外線硬化性フッ素系樹脂の具体例として、フルオロオレフィン系の共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体、フッ素化アクリレート系の共重合体が挙げられる。
フルオロオレフィン系の共重合体の例として37〜48質量%のテトラフルオロエチレンと、15〜35質量%のフッ化ビニリデンと、26〜44質量%のヘキサフルオロプロピレンとが共重合したものが挙げられる。
含フッ素脂肪族環構造を有する重合体には、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーが重合したものや、少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合したものがある。含フッ素環構造を有するモノマーの重合により得られる重合体については、特公昭63-18964号等に記載されているものを使用できる。この重合体はパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)等の含フッ素環構造を有するモノマーの単独重合、又はテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーとの共重合により得られる。
少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーの環化重合により得られる重合体は、特開昭63-238111号や特開昭63-238115号等に記載されているものを使用できる。この重合体はパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等のモノマーの環化重合、又はテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーとの共重合により得られる。共重合体の例として、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)等の含フッ素環構造を有するモノマーとパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを共重合して得られるものが挙げられる。
フッ素系樹脂以外の樹脂としてはアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは単独でバインダーとして使用しても良いが、フッ素系樹脂と混合して使用するのが好ましい。
(iii)塗工液の調製
塗工液は、有機修飾シリカと、少なくとも一種の紫外線硬化性樹脂と、光重合開始剤とを含有する。塗工液は、(a)有機修飾シリカを含有する分散液と、紫外線硬化性樹脂及び重合開始剤を含有する溶液とを混合するか、(b)有機修飾シリカ及び重合開始剤を含有する分散液と、紫外線硬化性樹脂を含有する溶液とを混合するか、(c) 有機修飾シリカ及び光重合開始剤を含有する分散液と、紫外線硬化性樹脂及び光重合開始剤を含有する溶液とを混合するか、(d) 有機修飾シリカを含有する分散液と紫外線硬化性樹脂を含有する溶液とを混合した後に光重合開始剤を添加することにより、調製することができる。混合前の分散液の有機修飾シリカの含有量は、上述のように、分散媒に対して0.1〜20質量%とするのが好ましい。フルオロオレフィン系共重合体をバインダーとする場合、共重合体の濃度は0.5〜2.0質量%とするのが好ましい。
塗工液中の有機修飾シリカ:紫外線硬化性樹脂の体積比が9:1〜1:9になるように、有機修飾シリカ含有分散液と紫外線硬化性樹脂溶液とを混合するのが好ましい。塗工液中の紫外線硬化性樹脂の体積率を90%超にすると、シリカエアロゲルの空孔が樹脂で埋まってシリカエアロゲル膜の屈折率が高くなり過ぎる。紫外線硬化性樹脂の体積率が10%未満であると、バインダーの比率が小さ過ぎてシリカエアロゲル膜の靭性が小さ過ぎる。
光重合開始剤は、後述する紫外線照射工程で紫外線硬化性樹脂、又は紫外線硬化性樹脂及び有機修飾シリカの不飽和基が重合可能な程度に添加する。予め紫外線硬化性樹脂溶液及び/又は有機修飾シリカ含有分散液に光重合開始剤を添加しておいても良いし、両者を混合した後で添加しても良い。光重合開始剤は塗工液中の固形分濃度で1〜15質量%にするのが好ましい。
光重合開始剤の具体例として、ベンゾイン及びその誘導体(ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等)、ベンジル誘導体(ベンジルジメチルケタール等)、アルキルフェノン類(アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等)、アントラキノン及びその誘導体(2-メチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン等)、チオキサントン及びその誘導体(2,4-ジメチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等)、ベンゾフェノン及びその誘導体(N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン等)が挙げられる。
(iv) 塗工
上記により得られた有機修飾シリカ、紫外線硬化性樹脂及び光重合開始剤からなる塗工液は、基板上に第1層〜第6層を形成した後に湿式で塗工する。塗工方法としてはスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、バーコート法等が挙げられ、特に均一な厚さの層を得るためにはスピンコート法が好ましい。
(v) 乾燥
塗工液中の溶媒は揮発性なので自然乾燥でも良いが、乾燥を促進させるため50〜100℃に加熱するのが好ましい。有機修飾シリカの空隙率は、分散媒が揮発している間は、毛管圧によって生じるゲルの収縮のために小さくなるが、揮発し終わると、スプリングバック現象によって回復する。このため乾燥によって得られる有機修飾シリカエアロゲル膜の空隙率は、ゲルネットワークの元々の空隙率とほぼ同じであり、大きな値を示す。シリカゲルネットワークの収縮及びスプリングバック現象については、米国特許5,948,482号に詳細に記載されている。
(vi) 紫外線照射
乾燥後の塗工膜に紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂、又は紫外線硬化性樹脂及び有機修飾シリカの不飽和基を重合させる。紫外線は、紫外線照射装置を用いて塗工膜に50〜10000 mJ/cm2程度照射するのが好ましい。塗工膜の厚さにもよるが、例えば10〜2000 nm程度の厚さの場合、照射時間は1〜30秒程度とするのが好ましい。
(vii) 焼成
塗工膜は50〜150℃で焼成するのが好ましい。焼成によって層中の溶媒や表面の水酸基等を除去し、膜の強度を高めることができる。また焼成温度が50〜150℃程度であれば、分解はほとんど起こらないので、焼成後のシリカエアロゲル膜は紫外線硬化性樹脂又は紫外線硬化性樹脂と、有機修飾シリカの不飽和基の重合によって形成した硬化樹脂を有する。
[4] 基板
基板3は、波長領域400〜700 nmの光の屈折率が1.60〜1.98であり、好ましくは1.65〜1.92である。基板3の屈折率がこのような範囲の値であると、可視光の波長帯域において光学性能を良好に改善することができ、かつ交換レンズのコンパクト化を図ることができる。
基板3の材料としては、BaSF2、SF5、LaF2、LaSF09、LaSF01、LaSF016、LAK7、LAK14等の光学ガラスが挙げられる。
[5] フッ素樹脂系膜
基板3上に形成した7層構成の反射防止膜1の第7層の上に、図2に示すようにさらに撥水性又は撥水撥油性(以下、特段の断りがない限り「撥水撥油性」とする)を有するフッ素樹脂系膜108を設けても良い。
フッ素樹脂系膜108の材質は無色で透明性が高いものである限り特に制限されず、フッ素を含有する有機化合物、フッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマー等を使用することができる。
フッ素含有有機化合物として、フッ素樹脂及びフッ化ピッチ[例えばCFn(n:1.1〜1.6)]が挙げられる。フッ素樹脂の例としては、フッ素含有オレフィン系化合物の重合体、並びにフッ素含有オレフィン系化合物及びこれと共重合可能な単量体からなる共重合体が挙げられる。そのような(共)重合体の例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(PETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(PECTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PEPE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられる。フッ素樹脂として市販のフッ素含有組成物を重合させたものを使用してもよい。市販のフッ素含有組成物として例えばオプスター(ジェイエスアール株式会社製)、サイトップ(旭硝子株式会社製)が挙げられる。
フッ素を含有する有機−無機ハイブリッドポリマーとして、フルオロカーボン基を有する有機珪素ポリマーが挙げられる。フルオロカーボン基を有する有機珪素ポリマーとして、フルオロカーボン基を有するフッ素含有シラン化合物を加水分解して得られるポリマーが挙げられる。フッ素含有シラン化合物としては下記式(15):
CF3(CF2)a(CH2)2SiRbXc ・・・(15)
(ただしRはアルキル基であり、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、aは0〜7の整数であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、b + c = 3である。)により表される化合物が挙げられる。式(15)により表される化合物の具体例として、CF3(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2SiCl3、CF3(CF2)7(CH2)3SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3Cl2等が挙げられる。有機ケイ素ポリマーの市販品の例としてはノベックEGC-1720(住友スリーエム製)、XC98-B2472(GE東芝シリコーン製)及び X71-130(信越化学工業製)が挙げられる。
フッ素樹脂系膜108の厚さは0.4〜100 nmであるのが好ましい。フッ素樹脂系膜の厚さが0.4 nm未満であると、撥水撥油性が不十分である。一方100 nm超とすると、透明性が損なわれる上に、反射防止膜の光学特性を変えてしまう。フッ素樹脂系膜の屈折率は1.5以下であるのが好ましく、1.45以下であるのがより好ましい。フッ素樹脂系膜は真空蒸着法によって成膜してもよいが、ゾル−ゲル法等の湿式法により成膜するのが好ましい。
[6] 反射防止膜の性能
上述したように、基板に本発明の反射防止膜を形成することにより優れた低反射率特性が得られる。具体的には、反射防止膜1の0°入射光の波長領域450 nm〜600 nmにおける反射率は0.5%以下であるのが好ましく、0.4%以下であるのがより好ましい。30°入射光の波長領域400 nm〜650 nmにおける反射率は1%以下であるのが好ましく、0.95%以下であるのがより好ましい。
[7]光学部品
本発明の反射防止膜を前述の基板に施すことにより、400〜700 nmの可視光帯域において、反射率0.5%以下の反射防止効果を有する光学部品が得られる。本発明の光学部品は、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載されるレンズ、プリズム、回折素子等に好適である。特にカメラの交換レンズに好適である。
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
実施例1の反射防止膜1を表1の層構成に従って以下のように形成した。各層の屈折率は波長550 nmの光に対する屈折率である。
(1) 第1層から第6層の形成
LaSF01(屈折率:1.790)からなる光学レンズの表面に、表1に示す第1層から第6層を図6に示す装置を用いて電子ビーム式の真空蒸着法により形成した。蒸着は初期真空度1.2×10-5 Torr 及び基板温度230℃の条件で行った。
(2) 第7層の形成
第7層のシリカエアロゲル層は、以下の手順によりゾル−ゲル法により形成した。
(i) シリカ湿潤ゲルの作製
テトラエトキシシラン5.21 gとエタノール4.38 gとを混同し、塩酸(0.01 N)0.4 gを加えて90分間攪拌した後、さらにエタノール44.3 gとアンモニア水(0.02 N)0.5 gとを添加して46時間攪拌した。この混合液を60℃に昇温して46時間エージングすることによりシリカ湿潤ゲルを得た。
(ii) 有機修飾シリカ分散液の調製
得られたシリカ湿潤ゲルの溶媒をデカンテーションにより除去し、素早くエタノールを加えて10時間振とうした後、さらにデカンテーションすることにより、未反応物等を除去した。エタノールで分散した湿潤ゲルにメチルイソブチルケトン(MIBK)を加えて10時間振とうし、デカンテーションすることにより、エタノール分散媒をMIBKに置換した。
このシリカ湿潤ゲルをトリメチルクロロシランのMIBK溶液(濃度5体積%)に浸し30時間攪拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにMIBKを加えて24時間振とうし、デカンテーションすることにより洗浄した。
この有機修飾シリカ湿潤ゲルにMIBKを加えて濃度3質量%に調節した後、超音波照射(20 kHz,500 W)を20分間行い、ゾル状有機修飾シリカ(有機修飾シリカ分散液)を得た。
(iii) 塗工液の調製
得られた有機修飾シリカ分散液と低屈折率紫外線硬化性樹脂溶液[ダイキン工業(株)製、商品名「AR100」]とを9:1の体積比で混合し、有機修飾シリカ含有塗工液とした。
(iv) スピンコート
得られた有機修飾シリカ含有塗工液を第6層の上にスピンコート法により塗布し、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより低屈折率紫外線硬化性樹脂を重合させた後、150℃で1時間焼成した。焼成により加水分解重縮合反応が起こり、表1に示す膜厚の有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル層が形成された。
Figure 0005347145
実施例2
光学膜厚を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、反射防止膜を形成した。
Figure 0005347145
比較例1
表3に示す層構成の反射防止膜を、実施例1の第1層から第6層と同様に蒸着法で形成した。
Figure 0005347145
実施例1、2及び比較例1で作製した反射防止膜を有する光学レンズに波長領域350〜800 nmの光を入射角0°及び30°で当てたときの反射率の分光特性をそれぞれ図3〜図5に示す。最外層に接する媒質は空気とした。
本発明の実施例1及び2で作製した反射防止膜は、それぞれ図3及び図4に示すように、0°入射光の波長領域450〜600 nmにおける反射率が0.5%以下であり、30°入射光の波長領域400〜650 nmにおける反射率が1%以下であり、優れた低反射率特性を有することがわかった。一方、比較例1で作製した反射防止膜は、図5に示すように、入射角が0°及び30°ともに、本発明に比べて反射率が高かった。
実施例1及び2で作製した光学レンズを用いて撮影した画像には、フレアやゴーストは発生していなかった。一方、比較例1で作製した光学レンズを用いて撮影した画像には、フレアやゴーストが見られた。
また実施例1、2及び比較例1で作製した光学レンズを高温多湿の条件(40℃90%RH)に1,000時間保存したところ、比較例1のレンズにはヤケが発生したが、実施例1及び2のレンズにはヤケは発生しなかった。
実施例3
実施例1で作製した反射防止膜の第7層の上に、さらにフッ素樹脂系膜を以下の方法で形成した。
シリコーン系フッ素樹脂[信越化学工業(株)製、商品名「X71-130」]3 gをハイドロフルオロエーテル60 gに添加し、フッ素樹脂系液を作製した。前記第1層から第7層が形成された光学レンズをフッ素樹脂系液に浸漬し、300 mm/分で引き上げて塗布し、室温で24時間乾燥し、36 nmの光学膜厚を有するフッ素樹脂系膜(屈折率:1.400)を形成した。
得られたフッ素樹脂系膜を有する反射防止膜は、実施例1で作製した反射防止膜と同等の光学性能を有し、反射率が低いものであった。また、この光学レンズを用いて撮影した画像には、フレアやゴーストは発生していなかった。
1,2・・・反射防止膜
101・・・第1層
102・・・第2層
103・・・第3層
104・・・第4層
105・・・第5層
106・・・第6層
107・・・第7層
108・・・フッ素樹脂系膜
3・・・基板
30・・・電子ビーム式真空蒸着装置
31・・・真空チャンバ
32・・・回転ラック
33・・・蒸着源
34・・・回転軸
35・・・真空ポンプ接続口
36・・・ルツボ
37・・・蒸着材
38・・・電子ビーム照射器
39・・・ヒーター
40・・・真空ポンプ
100・・・基板

Claims (11)

  1. 基板上に、前記基板側から順に第1層〜第7層を積層してなる反射防止膜であって、波長400〜700 nmにおいて、
    前記基板の屈折率が1.6〜1.98であり、
    前記第1層がアルミナを主成分とし、光学膜厚が25〜120 nmであり、
    前記第2層の屈折率が1.84〜2.3、光学膜厚が27.5〜55 nmであり、
    前記第3層の屈折率が1.33〜1.49、光学膜厚が50〜75 nmであり、
    前記第4層の屈折率が1.95〜2.25、光学膜厚が40〜62.5 nmであり、
    前記第5層の屈折率が1.33〜1.47、光学膜厚が87.5〜132.5 nmであり、
    前記第6層の屈折率が1.7〜2.4、光学膜厚が11〜27 nmであり、
    前記第7層はシリカエアロゲル層であり、光学膜厚が120〜180 nmであることを特徴とする反射防止膜。
  2. 請求項1に記載の反射防止膜において、
    前記第2層がTa2O5、TiO2、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなり、
    前記第3層がMgF2及び/又はSiO2を含有してなり、
    前記第4層がTa2O5ZrO 2 、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3及びZnOからなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなり、
    前記第5層がMgF2及び/又はSiO2を含有してなり、
    前記第6層がTa2O5、TiO2、Nb2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、Y2O3及びPr6O11からなる群から選ばれた少なくとも1材料を含有してなることを特徴とする反射防止膜。
  3. 請求項1又は2に記載の反射防止膜において、前記第1層の屈折率が1.54〜1.77であることを特徴とする反射防止膜。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第7層の屈折率が1.09〜1.19であることを特散とする反射防止膜。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜において、0°入射光の波長領域450〜600 nmにおける反射率が0.5%以下であり、30°入射光の波長領域400〜650 nmにおける反射率が1%以下であることを特徴とする反射防止膜。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第7層の上にさらに撥水性又は撥水撥油性を有する厚さ0.4〜100 nmのフッ素樹脂系膜を有することを特徴とする反射防止膜。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第1層〜第6層が物理成膜法により形成された層であり、前記第7層が湿式法により形成された層であることを特徴とする反射防止膜。
  8. 請求項7に記載の反射防止膜において、前記物理成腹法が真空蒸着法であり、前記湿式法がゾル-ゲル法であることを特徴とする反射防止膜。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の反射防止膜を有することを特徴とする光学部品。
  10. 請求項9に記載の光学部品を有することを特徴とする交換レンズ。
  11. 請求項9に記載の光学部品を有することを特徴とする撮像装置。
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