JP6333513B2 - 細胞のガラス化保存液 - Google Patents

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Description

関連出願の参照
本願は、先行する日本国特許出願である特願2010−259525号(出願日:2010年11月19日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
発明の背景
発明の分野
本発明は、細胞をガラス化して凍結保存するための保存液に関する。詳しくは本発明は、操作時間による生存率の低下が起こりにくく、霊長類ES細胞または霊長類iPS細胞に対して好適に使用できる細胞ガラス化保存液に関する。
背景技術
従来、培養細胞の継代による変質や、雑菌による汚染を防止し、細胞を長期的に利用するために、細胞を凍結保存することが日常的に行われている。細胞をそのまま凍結すると、細胞内外に氷晶が形成され、細胞は物理的な損傷を受けて死に至る。特に細胞内には生命活動に不可欠な構造が多数存在しており、細胞内の氷晶形成は細胞にとって致命的である。この損傷を防ぐためには、ジメチルスルホキシド(DMSO)など細胞膜透過性の凍結保護剤を含む保存液を用いて保存する必要があり、細胞の保存効率に優れた保存液の開発が切望されている。
一般的に、細胞の凍結保存法には、大別して、緩慢凍結法と、ガラス化法とが知られている。
「緩慢凍結法」は、培地や血清などに凍結保護剤を5〜20体積%程度加えた保存液に細胞を懸濁し、細胞内に保護剤を浸透させた後に、温度を制御しながら徐々に低下させ、最終的に液体窒素中(−196℃)で保存する方法である。
細胞を含む懸濁液を冷却していくと、細胞内液および細胞外液がともに過冷却状態となる。過冷却状態はある温度に達すると解除され、氷晶が形成される。この温度は溶液の濃度や核となる物質の種類により決定され、一般に細胞内液に比べて細胞外液で高くなっている。
ここで、冷却速度が大きい場合、細胞内液と細胞外液がほぼ同時に過冷却状態から脱するため、細胞内外に多量の氷晶が形成され、細胞は物理的損傷を受ける。
これに対して、冷却速度が適度であると、まず細胞外に氷晶が形成される。水のみが凍結するために、細胞外液は次第に濃縮され、高張になっていく。これに伴い、細胞内液との浸透圧差により、細胞内の水が細胞外へ移動する。これは、いわゆる「脱水」現象である。この脱水により、凍結保護剤を含む細胞内液の濃度が高くなることで、細胞内液がガラス化する。
一方、冷却速度が小さい場合、凍結が完了する前に、細胞外に形成された氷晶が過度に成長することにより細胞が物理的損傷を受けたり、脱水に伴う過収縮状態が長時間続くことで細胞小器官が損傷を受けたりする。
ここで「ガラス化」について説明する。
液体とは、熱振動が分子間力を上回り、相内の粒子が自由に移動できる状態と理解される。液体状態の物質を冷却していくと、ある温度で熱振動が分子間力を下回り、相内の粒子が流動性を失う。このとき、物質によっては粒子がエネルギー的に安定な結晶構造に再配列する。例えば、水は通常0℃以下の低温で結晶化し氷となる。ところが、物質の種類や、圧力、冷却速度などの外部要因によっては、温度が低下しても結晶化せずに液体の粘性が高くなっていき、そのまま固体となることがある。この現象をガラス化という。ガラス化する物質として、例えば、二酸化ケイ素を主成分とするガラスは代表的なガラス物質として知られている。
ガラス化には冷却速度が大きく影響し、一般に冷却速度が大きいほどガラス化しやすい。ガラス化する温度をガラス転移点といい、物質の種類や冷却速度によって変動する。水も条件によってはガラス化することがあり、例えば、グリセリンなどのガラス化しやすい物質を混和すると、ガラス化しやすくなることが知られている。
緩慢凍結法では、細胞内液をガラス化させ、氷晶の形成を抑えることで、融解後も実用的な生存率を維持している。
しかしながら、緩慢凍結法で効率的に保存可能な細胞は、株化細胞など一部の細胞に限られ、初代細胞や正常細胞、生殖細胞、胚性幹細胞(ES細胞)のなかには効率的な保存が難しい細胞があることが知られている。また、生物種による違いも大きく、例えば、マウスなどげっ歯類のES細胞では比較的高い生存率を示しても、ヒトなど霊長類のES細胞では、十分な生存率を示さないという問題があった。
「ガラス化法」は、ガラス化をより積極的に細胞の保存に応用したものをいい、卵子や受精卵、胚など、緩慢凍結法による効率的な保存が難しい細胞等の保存に多く用いられている。ガラス化法は、30〜50体積%程度の凍結保護剤を含むガラス化保存液に、細胞を懸濁し、これを液体窒素に投入してガラス転移点以下にまで急速に冷却することによって、細胞の内外をガラス化させて保存する方法である。前述の緩慢凍結法に対する比較の意味で、「急速凍結法」ということがある。また、ガラス化法に用いられる保存液を、VS(vitrification solution)ということもある。
緩慢凍結法においても、細胞内液は脱水の結果、濃縮され、最終的にはガラス化すると考えられる。しかしながら、緩慢凍結法では、細胞外で形成される微小な氷晶により、細胞が損傷を受けることが考えられる。また、卵子や受精卵、胚などの水含量の多い細胞等では、細胞内が十分に脱水されずに細胞内にも氷晶が形成されることも考えられる。
これに対して、ガラス化法では、細胞外液、すなわち、保存液が高濃度の凍結保護剤を含むために、氷晶を形成することなくガラス化する。また、細胞内液は高浸透圧の保存液により直ちに脱水され、凍結保護剤に置換されて、ガラス化する。
前述の通り、ガラス化法は、緩慢凍結法による効率的な保存が難しい細胞等を対象として開発され、産業的には畜産分野においてウシの体外受精胚の保存のために利用されている。研究レベルではマウスやラットの胚を材料として改良が進められてきた。現在、胚のガラス化法に用いられる代表的なガラス化保存液としては、ジメチルスルホキシド、アセトアミド、およびプロピレングリコールをそれぞれ2M、1M、3Mの濃度で含む「DAP213」が知られている。
DAP213を用いた胚のガラス化法には複数の方法が知られているが、多くの場合、以下のような手順が踏まれる:
(1)低濃度の保護剤を含む溶液により胚を段階的に平衡化させる;
(2)液体窒素によって急速冷却してガラス化させる;
(3)加温した希釈液を加えて融解する;
(4)洗浄後、培養に移す。
ここでいう「平衡化」とは、細胞膜、または、膜上のチャネルや細孔を通して、細胞の内外で水やその他の細胞膜透過性物質の見かけ上の移動がなくなる(平衡化する)まで、細胞等を静置することをいう。「平衡化」に要する時間は、細胞種等によって異なるが、例えば、マウス胚では、通常1〜5分程度である。
近年、卵子や受精卵、胚などのほか霊長類ES細胞の保存にもガラス化法が利用されるようになった。さらに、ES細胞とほぼ同等の性質を有する誘導多能性幹細胞(iPS細胞)が開発され、ヒトiPS細胞の保存も、ガラス化法によるのが一般的となっている。そして、霊長類ES/iPS細胞のガラス化保存液としても、DAP213は広く用いられている。
DAP213の調製方法およびDAP213を用いた霊長類ES/iPS細胞のガラス化法については、独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)のホームページ(http://www.cdb.riken.go.jp/)に公開されている。DAP213を用いたガラス化法は、簡易で生存率の高い保存方法として、現在、日本における霊長類ES/iPS細胞の標準的な保存方法となっており、例えば理研CDBや独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)も霊長類ES/iPS細胞の保存方法としてこれを推奨している。
国際公開WO2005/045007号パンフレットには、ジメチルスルホキシド(DEMSO)と、プロピレングリコールと、培地、好ましくはアセトアミドとを含む保存用媒体を用いた霊長類ES細胞の保存方法が開示されている。ここでは、霊長類ES細胞用凍結保存液を用いることで効率的に霊長類ES細胞を保存することができるとされている。なおここに開示されている保存液は、株式会社リプロセルから、調製済みのガラス化保存液(製品名「霊長類ES細胞用凍結保存液」)として入手可能である。
もっとも、DAP213を用いたガラス化法と一括りに言っても、霊長類ES/iPS細胞を対象とする場合と、卵子や受精卵、胚などを対象とする場合とでは、細部において異なる。例えば、霊長類ES/iPS細胞を対象とする場合には、卵子や受精卵、胚などを対象とする場合に通常行われる、ガラス化前の平衡化は、一般的には、不要である。
このように、霊長類ES/iPS細胞の標準的な保存方法として、DAP213を用いたガラス化法は定着しつつあるが、いくつかの点で、依然として改善が望まれている。
1つは、操作性の問題である。ガラス化法では、一連の操作に要する時間、特に、DAP213に細胞を懸濁してから液体窒素に投入するまでに要する時間が、生存率に大きく影響することである。
例えば、Fujiokaらの文献(A simple and efficient cryopreservation method for primate embryonic stem cells, Fujioka T, Yasuchika K, Nakamura Y, Nakatsuji N, Suemori H. Int J Dev Biol 48:1149-54, 2004)では、サルES細胞を用いた実験において、DAP213に懸濁してから液体窒素に投入するまでに要する時間が15秒以内である場合の生存率を100%としたとき、同所要時間が30秒である場合の生存率は30%以下、60秒では10%以下にまで低下することが報告されている。
すなわち、霊長類ES/iPS細胞のDAP213を用いたガラス化法では、極めて迅速な操作が求められ、技術の熟練が必要となる。これは作業者の技能よって、結果にバラツキを生じ易くなり、安定した結果が得られ難くなる。
改善が求められる別の点としては、安全性の問題である。DAP213には、アセトアミドが含まれるが、これは発癌性が疑われる物質である。アセトアミドを、再生医療用細胞を保存するための保存液の成分として用いるには、必ずしも適しているとはいえない。
国際公開WO2007/058308号パンフレットには、増粘剤、凍害防御剤、糖類を含み、天然の動物由来成分を含まず、好ましくはリン酸緩衝液を含み、好ましくは浸透圧が1000mOsm以上である細胞保存用水溶液が記載されている。しかしながら、ここでいう細胞保存用水溶液は、いわゆる緩慢凍結法による保存液であり、ガラス化保存液とは異なるものである。また、ここでいう浸透圧は、全浸透圧に関するものである。
特表2001−502664号公報(国際公開WO98/09514号パンフレット)および特表2001−517204号公報(国際公開WO97/45010号パンフレット)には、細胞のガラス化保存方法が開示されており、浸透性低温保護剤と、非浸透性低温保護剤と、非浸透性補助溶質とを含む保存溶液を使用することが開示されている。しかしながら、ここには、細胞の収縮が有害となるため、細胞の体積を減少させない方法によって脱水すべきことが強調されており、細胞収縮はできるだけ避けるべきものとされている。
特許第3694730号公報には、メタノール、又はエタノールから選択される少なくとも1つの細胞膜透過性物質と、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも1つの氷晶形成抑止能力を有する物質と、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、ラクトース、フルクトースからなる群から選択される少なくとも1つの細胞膜非透過性脱水促進物質とを含有することを特徴とする組織の冷却保存液が開示されている(同公報の請求項1)。しかしながら、この保存液は、対象が主として組織や器官、特に、生殖器官であり、メタノールまたはエタノールを必須成分とするものである。
本発明者は今般、細胞膜透過性物質と細胞膜非透過性物質とを含んでなる細胞のガラス化保存液を用いて、細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上となるよう調整することで、DAP213などのように必要な細胞を保存液に懸濁してから凍結保存するまでの時間を例えば15秒以下といった短時間で行わなくとも、細胞生存率を高く維持することに成功した。このため、ガラス化保存処理の操作に熟練する必要性を低くでき、作業者の技術レベルによるバラつきを小さくして、安定した結果を望むことが可能となった。また、発癌性が疑われるアセトアミドを含まないため、安全性に優れている。本発明はかかる知見に基づくものである。
よって、本発明は、操作性および安全性に優れた細胞のガラス化保存液を提供することを目的とする。
本発明による細胞のガラス化保存液は、細胞膜透過性物質と、細胞膜非透過性物質とを含んでなる、細胞のガラス化保存液であって、
細胞膜透過性物質の含有量が30〜50体積%であり、
細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上となるものである。
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液において、細胞膜透過性物質は、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)、グリセリン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種以上のものである。
本発明の一つのより好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液において、細胞膜透過性物質は、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種のものである。
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液において、細胞膜非透過性物質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、単糖類、二糖類、多糖類、三糖類、糖アルコール、フィコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される1種または2種以上のものである。
本発明の別の一つのより好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液において、細胞膜非透過性物質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸二水素カリウムからなる群より選択される生理環境調整物質と、トレハロース、およびスクロースからなる群より選択されるガラス化促進物質とを含んでなるものである。
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液において、細胞膜非透過性物質は、保存液における濃度として0.2M〜1Mのトレハロースを含んでなる。
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明による細胞のガラス化保存液は、不凍タンパク質、およびセリシンからなる群より選択される氷晶成長抑制物質をさらに含んでなる。
本発明のさらに別の好ましい態様によれば、本発明のガラス化保存液は、多能性幹細胞のガラス化保存に用いられ、より好ましくは、霊長類ES細胞または霊長類iPS細胞(霊長類ES/iPS細胞)のガラス化保存に用いられる。
本発明の別の態様によれば、本発明による細胞のガラス化保存液に、細胞を懸濁した後、細胞を含むガラス化保存液を、液体窒素によって急速冷却しガラス化することを含んでなる、細胞のガラス化方法であって、
細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上とする方法が提供される。
本発明によれば、操作性および安全性に優れ、細胞、特に霊長類ES/iPS細胞を効率的に保存することができるガラス化保存液を提供することができる。具体的には、本発明のガラス化保存液にサルES細胞を懸濁後、60秒経過してから液体窒素に投入しても、60%程度の生着率を得ることができた(後述するように、サルES細胞の保存効率については、「生存率」ではなく「生着率」を用いる。ここで生着率は、細胞をガラス化せずに播種し、3日または4日後に生着している未分化コロニーの数を100として算出される)。従来、最も一般的に使用されているDAP213を用いた場合、懸濁後15秒以内で液体窒素に投入することが、生存率の低下を回避する上で重要であった。このため、作業に熟練を要し、作業者の技術レベルによってバラつきが生じる懸念があり、必ずしも安定して結果が得られない場合があった。上記のように本発明のガラス化保存液ではDAP213のような作業の迅速性は必要ないため、作業者の技術レベルによるバラつきが生じにくくなり、安定した結果を望むことができる。さらに、本発明によれば、発癌性が疑われるアセトアミドを含まないため、安全性に優れている。本発明のガラス化保存液が、霊長類ES細胞や霊長類iPS細胞の保存に有用であることから、医療現場への応用を考慮すると、発癌性の疑われるアセトアミドの使用を回避できることは極めて重要である。
ガラス化保存液に細胞を懸濁した後のガラス化前の体積変化を示す概念図である。 ガラス化保存液に細胞を懸濁した後の細胞膜透過性物質の変化を示す概念図である。 ガラス化した細胞の融解時の細胞体積変化を示す概念図である。 実施例1のマウスES細胞のガラス化後の生存率を示すグラフである。 実施例2のマウスES細胞のガラス化後の生存率を示すグラフである。 実施例3の結果を示すグラフである。 実施例5のトレハロースおよび浸透圧がガラス化後の生存率に及ぼす結果を示すグラフである。 実施例6のDAPに対する浸透圧のガラス化後生存率に及ぼす結果を示すグラフである。 実施例7のCMES生着率を示すグラフである。 実施例7のトレハロースおよび浸透圧がガラス化後の生存率に及ぼす結果を示すグラフである。 実施例7のCMES細胞用ガラス化保存液の性能評価の結果を示すグラフである。 実施例8の氷晶成長抑制物質の検討の結果を示すグラフである。
発明の具体的説明
浸透圧
まず、物理化学における浸透圧と物質量の関係について簡単に説明する。
浸透圧(π)とは、理想的な半透膜(溶媒のみを透過させ、溶質を透過させない膜)を挟んで膜の両側に溶液と純溶媒とを置いたとき、この半透膜にかかる圧力のことであり、van't Hoffの式によって以下のように求められる:
π=MRT
[ここで、Mは溶液中の溶質分子またはイオンの体積モル濃度、Rは気体定数、および、Tは絶対温度を表す]。
式から明らかなように、温度が一定の時、浸透圧は体積モル濃度に比例する。溶質が塩のように溶媒中で電離する場合、電離後の粒子数から体積モル濃度を考える。電離しない理想溶質の1M溶液と等しい浸透圧を与える溶質の物質量を1Osmと定義し、一般的にはOsmを浸透圧の単位としても使用する。
十分に希薄な水溶液では、溶液の体積と溶媒の体積の差は無視できるほど小さいため、体積モル濃度(溶質のモル数/溶液全体の体積)と重量モル濃度(溶質のモル数/溶媒のみの重量)は等値となる。このため、希薄水溶液の浸透圧を求める場合は、凝固点降下度(重量モル濃度に比例する)から溶質分子またはイオンの重量モル濃度を求め、浸透圧に相当する値として単位にOsm/kgを付けて表記する。これと区別するため、体積モル濃度から算出した真の浸透圧では単位をOsm/Lと表記することがある。
しかしながら、凝固点降下度は質量モル濃度に比例し、浸透圧は体積モル濃度に比例するため、凝固点降下度から求めた浸透圧の値(単位がOsm/kg)は、溶液濃度が高くなるにつれて真の浸透圧の値から離れていく。
本発明によるガラス化保存液は、体積基準で30〜50体積%の細胞膜透過性物質(特に、凍結保護剤)を含む比較的濃厚な水溶液であるため、本明細書中の浸透圧の単位はOsm/Lを意味する。簡略のためOsmと表記することがある。
次に、浸透圧が細胞に与える影響について説明する。
細胞膜は水を自由に透過させるが高分子やイオンを透過させないため、半透膜に近い性質を示す。そのため細胞内外の溶液に濃度差が生じると、浸透圧により水の移動が起こる。
本明細書においては、細胞を溶液に浸したとき、見かけ上の水の移動が起こらず、細胞の体積を変化させない場合に、その溶液を「等張」であるといい、水の移動により細胞の体積を収縮させる場合、その溶液を「高張」であるといい、水の移動により細胞の体積を膨張させる場合、その溶液を「低張」であるということとする。
また、血漿など細胞外を満たしている体液の浸透圧と同じおよそ270〜300mOsmの範囲の溶液を「等張液」といい、通常、等張液よりも浸透圧が高い溶液を「高張液」、低い溶液を「低張液」という。
一般的に等張液は等張、低張液は低張、高張液は高張であるが、溶質中に細胞膜透過性物質が含まれると、これらの関係が崩れることがある。細胞膜透過性物質による細胞内外の浸透圧差は細胞膜透過性物質の細胞内への浸透とともに小さくなり、平衡時には差を生じなくなる。このため、平衡時の細胞の体積は細胞外液の非透過性物質の濃度により決定されることとなる。
細胞内液と細胞外液の極端な濃度差により細胞膜に一定以上の負荷がかかると膜構造が破壊されるため、in vitroにおいて細胞などの生体材料は原則として体液と等張な溶液中で扱う。
前述の通り、等張液とはおよそ270〜300mOsmの溶液を指し、一般に塩類または糖類を主な溶質として調製される。例えば、溶質として塩化ナトリウムを用いた生理食塩水の場合、約0.9重量%水溶液である。その他、生体材料を生体外で扱う際に用いられる等張液としては、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline:PBS)、リンガー液など、塩類、糖類、アミノ酸またはタンパク質などを含む多くの等張液が公知である。また、細胞培養の際に用いられる培地も、細胞に合わせて等張となるよう浸透圧が調整されている。
浸透圧差による細胞体積の変化および細胞膜の破壊を人為的に起こす方法として、細胞を様々な浸透圧の溶液に浸す実験が知られている。
細胞を「等張液」に浸した場合、細胞内液と外液の浸透圧が等しいため、通常は、水の移動は起こらず、したがって、細胞の体積は変化しない。
細胞を「高張液」に浸した場合、細胞外液の浸透圧が高いため、細胞内から細胞外へ水が移動し、細胞は収縮していく。細胞の収縮は細胞内液が濃縮されて細胞外液と浸透圧が等しくなるか、細胞の構造的な限界に達するまで続く。
細胞を「低張液」に浸した場合、細胞外液の浸透圧が低いため、細胞外から細胞内へ水が移動し、細胞は膨張する。収縮の場合とは逆に、細胞内液が希釈されて細胞外液と浸透圧が等しくなるか、構造的な限界(例えば細胞壁による支えなど)に達するまで続く。構造的な限界を超えて細胞内への水の移動が続いた場合には、細胞膜は破壊される。一般に、動物細胞は細胞壁を持たないため、低張な環境では細胞膜が損傷を受け易い。
浸透圧は、理想的な半透膜(溶媒のみを透過させ、溶質を透過させない膜)を用いて定義されるが、細胞膜の場合は、溶媒としての水以外にも低分子を透過させることが知られている。細胞膜上にはアクアポリンと呼ばれる水が透過するための細孔が存在することが知られている。そのため、水の透過性は他の分子に比べて高い。ある分子が細胞膜を透過することができるか否かは、その分子の大きさと電荷や極性の有無により決定される。
電荷を持つイオンなどは受動的な拡散により細胞膜を透過できないのに対し、電荷を持たない低分子は細胞膜を透過しやすい。このため、これら細胞膜透過性物質は、分子量や極性の違いにより拡散速度の差はあるものの、平衡時の体積に影響を与えない。
従って、溶液が等張であるか高張であるか、または低張であるかを考えるとき、これら細胞膜透過性物質は除外して考えてよい。よって、凍結保護剤として用いられるジメチルスルホキシドや、エチレングリコール、プロピレングリコールなどは、細胞膜透過性物質として知られ、一般的に、平衡時には細胞の体積に影響を与えないと考えられる。
なおここで、「凍結」とは、氷晶形成を意味する場合があり、ガラス化法を凍結保存法ではなく、超低温保存法と定義する場合もあるが、本明細書において「凍結」とは、冷却により物質が液体から固体に変化することを意味するものとする。
一方、ここで「融解」とは、加温により物質が固体から液体に変化することを意味するものとする。
細胞のガラス化および融解と細胞体積の変化
以上を踏まえ、本発明者は、細胞をガラス化させる場合に、細胞の体積がどのように変化するのかを検討した。なお以下の説明は理論であって、本発明を限定するためのものではない。
細胞をガラス化保存液に懸濁させた場合の経時的な細胞の体積変化は、図1のようになると考えられた。
すなわち、細胞が全浸透圧の高いガラス化保存液(細胞膜透過性物質と、細胞膜非透過性物質とを含むものである)に接触すると、細胞外への水の移動と細胞内への細胞膜透過性物質の拡散が同時に起こる。細胞とガラス化保存液が接触した直後は、通常、細胞膜透過性物質が細胞内へ拡散する速度と比較して、水が細胞外へ移動する速度の方が大きいため、一時的に細胞は収縮していくと言える(図1において「A」で示した個所を参照)。ここでは、これを「脱水期」と呼ぶことがある。
なおここで「全浸透圧」とはガラス化保存液に細胞を懸濁した際に、細胞の細胞膜を挟んで細胞内と細胞外との間で、ガラス化保存液全体に基づいて生ずる浸透圧をいう。
その後、細胞膜透過性物質が細胞内に拡散していくにつれて、細胞内の浸透圧が高くなり、細胞は体積を増していくこととなる(以下、この段階を「拡散期」と呼ぶことがある)。そして、細胞内外の細胞膜透過性物質の浸透圧が等しくなったところで、細胞の体積変化が停止する(以下これを「保存液による平衡期」、又は、単に「平衡期」と呼ぶことがある)。平衡時の細胞の体積は細胞外液(保存液)の細胞膜非透過性物質の濃度に依存し、細胞外液の細胞膜非透過性物質の浸透圧が「等張」であれば、細胞は生理的環境と同等の体積に落ち着き、それよりも「低張」であれば膨張状態(図1において「B」で示した個所を参照)、「高張」であれば収縮状態へと落ち着く(図1において「C」で示した個所を参照)。このような細胞の体積変化はガラス化された時点で固定されるため、例えば、「脱水期」にガラス化された細胞は、通常の生理的環境に置かれたときよりも収縮した状態で固定される。一方、「平衡期」にガラス化された細胞は保存液の細胞膜非透過性物質の浸透圧によって、生理的環境と同等、または、収縮もしくは膨張した状態で固定され得ることとなる。
ここで、細胞内に存在する細胞膜透過性物質の量について検討した。
細胞内の細胞膜透過性物質の量は、細胞を保存液に懸濁してからガラス化させるまでの時間の経過とともに増大し、平衡時に最大となる(図2参照)。平衡時の細胞膜透過性物質の量は、細胞膜透過性物質の濃度と細胞体積の積であり、細胞膜透過性物質の濃度は、保存液の細胞膜透過性物質の濃度と等しくなる。一方、平衡時の細胞体積は、前述のように、保存液の細胞膜非透過性物質の浸透圧に依存する(図2の「A」、「B」、「C」は図1の各アルファベットA、B、Cに対応)。
ガラス化された細胞を融解した場合の経時的な細胞の体積変化は、図3のようになると考えられた。融解は、加温した希釈液(希釈用の溶液をいい、通常、融解後の培養に用いられる培地が用いられる)を添加することにより行われる。
ガラス化された細胞内液には細胞膜透過性物質が含まれており、浸透圧が高くなっている。このため融解の初期には、細胞内への水の移動と細胞外への細胞膜透過性物質の拡散が同時に起こる。ここでも水の移動速度の方が大きいため、一時的に細胞は膨張する(以下「吸水期」と呼ぶことがある)。そして、細胞が膨張できる限界体積を超えて吸水すると、細胞は破裂する。
細胞がどの程度膨張するかは細胞内に存在する細胞膜透過性物質の量に依存し、量が多いほど細胞は膨張する。細胞内に存在する細胞膜透過性物質の量は、前述のようにガラス化するまでの時間とガラス化保存液の細胞膜透過性物質濃度、および細胞膜非透過性物質の浸透圧により決定されると考えられた。
ここで、図3中のA、B、Cは図1の各アルファベットに対応するタイミングで、ガラス化した細胞の融解時の体積変化を示している。すなわち、
A: 細胞をガラス化保存液に懸濁してから15秒以内にガラス化させた場合、細胞内の細胞膜透過性物質の量が少ないため、細胞の体積変化は少ない。
B: 低張なガラス化保存液で細胞を平衡化後にガラス化した場合、細胞が膨張しているため細胞内には多くの細胞膜透過性物質が存在し、細胞体積は吸水によって膨張する。
ここで、細胞体積が限界体積を超えた場合、細胞は破裂する。
C: 高張なガラス化保存液で細胞を平衡化後にガラス化した場合、細胞が収縮しているため細胞内の細胞膜透過性物質の量は抑えられており、細胞はあまり膨張しない。
その後、細胞膜透過性物質が細胞外に拡散していくにつれて細胞内の浸透圧が低くなり、細胞は体積を減じていく(以下「拡散期」と呼ぶことがある)。細胞内外の細胞膜透過性物質の濃度が等しくなったところで、細胞の体積変化が停止する(「希釈液による平衡期」、あるいは、単に「平衡期」と呼ぶことがある)。
なお、細胞を高張液で融解することで、細胞内外の浸透圧差を小さくし、体積の膨張を抑えることができると考えられるが、希釈液を特別に調製する必要があるという点では必ずしも有利とは言えない。
DAP213との違い
霊長類ES/iPS細胞のガラス化保存液として、従来、一般的に用いられてきたDAP213について検討した。ここでは、理研CDB(独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)のホームページで公開されている方法(ヒト多能性幹細胞の維持培養プロトコール(2010))に従い、霊長類ES/iPS細胞を、DAP213を用いてガラス化保存する場合について検討した。
プロトコール等から明らかなように、保存液としてDAP213を用いる場合、保存液にES/iPS細胞を懸濁させてから「15秒以内」にガラス化操作を完了させる必要がある。このとき、ES/iPS細胞内の膜透過性物質の濃度は平衡に達していないと考えられる。ガラス化までの操作時間が15秒を超えると、ES/iPS細胞の生存率は急速かつ著しく低下し、60秒後にはほぼ全ての細胞が死滅することが知られている。
DAP213に含まれる凍結保護剤(すなわち、細胞膜透過性物質である)は、2Mジメチルスルホキシド、1Mアセトアミド、および3Mプロピレングリコールであるが、これらはいずれも電離しないため、浸透圧への寄与は6000mOsmとなる。
DAP213はこの他、約60体積%の培地で構成されており、簡便のため培地の浸透圧を300mOsmと見積もると、培地中の溶質分子によるDAP213全体の浸透圧への寄与は約180mOsmとなる。これらを合計すると、DAP213全体の浸透圧は、約6180mOsmと見積もることができる。
ここで、DAP213の浸透圧約6180mOsmのうち、保存液による平衡時の細胞体積に影響を与える、細胞膜非透過性物質に起因する浸透圧は約180mOsmであるといえる。
従って、DAP213は細胞にとって低張な溶液として振舞い、平衡時には細胞を膨張させると考えられた。
実際、赤血球を用いた実験では、赤血球を濃度の異なる食塩水に懸濁したとき、濃度が約0.5重量%以下の食塩水に懸濁すると細胞膜の破壊(溶血)が観察される。0.5重量%の食塩水は浸透圧に換算して約160mOsmであり、DAP213の約180mOsmと近似している。
従って、細胞によって多少の差異はあるにしても、DAP213に懸濁後、所定の時間を超えた場合、細胞は平衡に達し、限界体積付近まで膨張すると考えられる。このとき、細胞内には多量の保護剤が浸透した状態となり、この状態でガラス化し、次いで融解すると、前述のように細胞は吸水期に破裂することとなると考えられた。
以上のような本発明者による検討結果から、DAP213を用いたES/iPS細胞の保存において、DAP213に懸濁してから液体窒素に投入するまでに要する時間が、生存率に大きく影響するという現象について、従来問題視されていたガラス化保存液に含まれる高濃度の凍結保護剤による強い細胞毒性以外に、理由があると考えられた。
そこで、まず、ES/iPS細胞が平衡化するまでに要する時間に着目した。
卵子や受精卵、胚の場合、一般的に、平衡化のためにガラス化保存液中で細胞等を1〜5分静置するが、ES/iPS細胞では細胞の体積が小さいため、平衡化に要する時間が短いと言える。
このため、DAP213を用いたES/iPS細胞の保存において見られる時間の経過に伴う生存率の低下は、液体窒素に投入するまでの間に、細胞が平衡状態へ近づき、細胞内の細胞膜透過性物質の量が多くなることに起因するのではないかと考えた。
すなわち、細胞をガラス化保存液に懸濁してからの時間が15秒以内であれば、ガラス化時に細胞内の細胞膜透過性物質の量が少なく、融解時の浸透圧差による細胞内への水の移動とそれに伴う体積変化を許容できる。これに対し、細胞をガラス化保存液に懸濁してからの時間が15秒を超えると、時間の経過とともに細胞内の細胞膜透過性物質の量が増加し、融解時の体積変化を許容できずに、破裂する細胞が増加する。このような仮説を考えた。
以上の仮説を確認するために、培地の代わりにPBSを用いて細胞膜非透過性物質の濃度が異なる3種のDAP213を調製し、これにマウスES細胞を懸濁して90秒静置した後、ガラス化せずに等張なPBSによって希釈したときの生存率および生細胞数をトリパンブルー染色により確認した。トリパンブルー染色は生細胞が色素を能動的に排出することを利用して、陰性細胞を生細胞、陽性細胞を死細胞として生死判別をする方法だが、膜構造が破壊された細胞は生細胞にも死細胞にもカウントされず、生細胞・死細胞を含めた総細胞の減少という形で結果に反映される。試験前の細胞数を100とし、試験後の生細胞数の比から生存率を算出した(後述する実施例6参照)。
その結果、DAP213とほぼ同等の浸透圧(低張)となるようDAP213の基礎培地をPBSに置き換えて調製した場合(DAP−A)では、保護剤による溶液の希釈を考慮し、塩の終濃度が生理的環境と等しく(等張)なるよう調製した場合(DAP−B)および塩の終濃度が生理的環境の2倍(高張)となるよう調製した場合(DAP−C)に対し、生存率が15%〜20%減少していた。このことから、低張な保存液ではガラス化しない場合でも希釈時に細胞の生存率が低下することが示された。また、トリパンブルー陽性となる死細胞はほとんど観察されなかった。このことは、生細胞の減少が従来問題視されていた凍結保護剤の細胞毒性によるものではなく、膜構造の物理的破壊を伴う浸透圧によるものであることが示唆された。ガラス化保存液を高張にすると生存率が改善されるのは、ガラス化時の細胞の体積を小さくすることで細胞内の膜透過性物質の量が抑えられ、融解・希釈時に起こる細胞内への水の流入に耐えることができるためと考えられた。ガラス化保存液の保存効率は浸透圧に大きく左右され、保存液を高張にすることで生存率が大きく改善されることが示された。
本発明はこのような知見にも基づくものである。
温度上昇に伴う結晶化からの保護
さらに本発明者らは、ガラス化における温度上昇に伴う結晶化からの保護についても検討を行っている。
すなわち、ガラス化状態は、ガラス転移点以下の温度では安定だが、ガラス転移点以上に昇温した場合は容易にガラス状態を脱して結晶状態へ相転移する。これは温度の上昇により分子が運動エネルギーを獲得し自発的に安定な状態へ再配列(結晶化)するためであると考えられるが、このときに生じる氷晶によって、細胞は傷害を受けることがある。ガラス状態から結晶状態へ相転移すると多数の結晶界面で、光が屈折・散乱するために外観が透明から不透明へと変化する「失透」と呼ばれる現象が見られる。
ガラス化保存液のガラス転移点は、一般に−80℃よりも低く、例えば一度ガラス化した細胞を−80℃に移して保管すると失透し、氷晶による傷害を受けてほぼ全ての細胞が死滅する。
ガラス化した細胞を融解する際に失透現象が観察されることから、短時間ではあるが細胞は氷晶による傷害を受けていると考えられる。
本発明者らは、氷晶成長抑制物質として、セリシンや、不凍タンパク質などを加えることにより、結晶転移時に氷晶が大きく成長するのを抑え、細胞への傷害を低減することができることも見出した。本発明はさらに、このような知見にも基づく。
細胞のガラス化保存液
前記したように、本発明による細胞のガラス化保存液は、細胞膜透過性物質と、細胞膜非透過性物質とを含んでなる、細胞のガラス化保存液であって、
細胞膜透過性物質の含有量が30〜50体積%であり、
細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上となるものである。なおここで、細胞のガラス化保存液は、細胞のガラス化保存用組成物、特に細胞のガラス化保存用液体組成物と言い換えることができる。
ここで、保存対象となる細胞は、本発明のガラス化保存液を用いて保存できる細胞であれば特に限定されず、例えば、株化細胞、初代細胞、正常細胞、生殖細胞、ES細胞、iPS細胞などを挙げることができる。さらに、細胞と同等に扱うことができるサイズであれば、例えば膵島などの生体組織も保存対象とすることができる。また、生物種としては、微生物、植物、動物などを挙げることができ、動物種としては特に、哺乳類、鳥類、魚類、昆虫類などを挙げることができる。哺乳類のなかでも特に、マウス等のげっ歯類、サル、ヒト等の霊長類などを挙げることができる。なかでも、緩慢凍結法や、DAP213を用いたガラス化法による効率的な保存が困難であったES/iPS細胞が好ましく、霊長類ES/iPS細胞(霊長類ES細胞または霊長類iPS細胞)がより好ましい。
細胞膜透過性物質
本発明において、細胞膜透過性物質は、凍結保護剤として保存液および細胞内液をガラス化させる目的で用いられる。
細胞膜透過性物質としては、例えば、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)等のジオール類、グリセリン等のトリオール類、ジメチルスルホキシド(DMSO)などを挙げることができるが、細胞膜を透過して前記目的を達成する物質であって、しかも、細胞や生体への毒性が低い物質であればこれらに限定されない。好ましくは、細胞膜透過性物質は、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)、グリセリン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種以上のものである。
なかでも、ガラス形成能、細胞膜の透過性、細胞に対する保護効果、保存液への使用実績などの理由から、細胞膜透過性物質は、EG、PG、グリセリン、およびDMSOを用いることが好ましく、EG、PG、およびDMSOを用いることがより好ましく、EGおよびPGがさらに好ましい。これらは、2種以上組み合わせて用いることができる。組み合わせとしては、DMSOとPG、DMSOとEG、EGとPGの組み合わせが好ましい。単独ではEGが好ましい。
細胞膜透過性物質の含有量は、典型的には、30〜50体積%であり、好ましくは33〜47体積%であり、より好ましくは35〜45体積%である。ここで、前記含有量が30体積%未満であると、保存液がガラス化せず、氷晶を生じて細胞に損傷を与える可能性がある。一方、前記含有量が50体積%を超えると、ガラス化前に過度の脱水により細胞の構造が破壊されたり、水を必須とする生理的反応が停滞することで細胞の生存率が低下したりする可能性がある。また融解時に過大な浸透圧差を生じ、細胞膜が破壊される可能性がある。
細胞膜透過性物質として、DMSOと他の保護剤、例えばPGとを組み合わせて用いる場合、その体積比率は、1:5〜2:1であることが好ましく、1:3〜1:1であることがより好ましい。また、DMSOとEGとを組み合わせて用いる場合、その体積比率は、1:5〜2:1であることが好ましく、1:3〜1:1であることがより好ましい。また、EGとPGとを組み合わせて用いる場合、その体積比率は、1:100〜100:1であることが好ましく、1:10〜10:1であることがより好ましい。
細胞膜透過性物質を30〜50体積%で含む場合の浸透圧への寄与は、細胞膜透過性物質の分子量によって大きく異なるため一概に規定することはできないが、例えば、EGを単独で用いる場合の浸透圧への寄与は、通常、5000〜9000mOsmであり、PGを単独で用いる場合の浸透圧への寄与は、通常、4000〜7000mOsmである。また、DMSOとPGとを1:5〜2:1の体積比率で用いる場合の浸透圧への寄与は、通常、4000〜7000mOsmであり、DMSOとEGとを1:5〜2:1の体積比率で用いる場合の浸透圧への寄与は、通常、4000〜9000であり、EGとPGとを1:100〜100:1の体積比率で用いる場合の浸透圧への寄与は、通常、4000〜9000である。
細胞膜非透過性物質
本発明において、細胞膜非透過性物質は、浸透圧を調整するという目的の他、生理的環境に調整する、ガラス化を促進する、という目的で用いられる。したがって、細胞膜非透過性物質としては、生理的環境に調整するための物質(生理環境調整物質)と、ガラス化を促進するための物質(ガラス化促進物質)とを含むことができる。
生理的環境に調整するための物質としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リン酸塩等の塩類、グルコース、スクロース等の糖類、アルブミン等のタンパク質、マグネシウム、カルシウム等のミネラル類などを挙げることができる。なかでも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムが好ましく用いられる。
ガラス化を促進するための物質としては、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、トレハロース、スクロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類、セルロース、でんぷん等の多糖類、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、マンニトール等の糖アルコールなどを含む糖類全般、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、フィコール等の親水性ポリマーなどを挙げることができる。好ましくは、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース、ポリエチレングリコールが用いられ、より好ましくは、グルコース、スクロース、マルトース、トレハロース、ポリエチレングリコールが用いられる。なかでも、トレハロース、スクロースがより好ましく、トレハロースが特に好ましい。
本発明の一つの好ましい態様によれば、細胞膜非透過性物質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される1種または2種以上のものである。より好ましくは、細胞膜非透過性物質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸二水素カリウムからなる群より選択される生理環境調整物質と、トレハロース、およびスクロースからなる群より選択されるガラス化促進物質とを含んでなる。
細胞膜非透過性物質のうち、生理的環境に調整するための物質、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムを全く含まない場合、細胞の生存率は低下することがある。一方、ガラス化を促進するための物質は必須成分ではないが、例えば、残留する培地等によりガラス化保存液のガラス化能が低下し、氷晶が形成されることで細胞が損傷を受ける可能性があるため、添加することが好ましい。また、ガラス化保存液のガラス転移点(Tg)を上げることで、保存中の一時的な温度上昇によりガラス状態を脱し結晶状態へ相転移する危険性を低減することができる。
細胞膜非透過性物質の含有量は、細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上となるような量であることが求められる。浸透圧が280mOsm未満であると、保存液で懸濁後の細胞が平衡に向かうにつれて膨張することになり、融解時に細胞内に水が移動した際に細胞が破裂する可能性が高くなる。従って浸透圧が280mOsm未満であると、高い保存効率を得るために細胞が保存液で平衡化される前にガラス化を完了しなければならず、作業者の技能により保存効率が変動することになる。
細胞膜非透過性物質に起因する前記浸透圧は、好ましくは600mOsm以上、より好ましくは800mOsm以上となるように、ガラス化保存剤が細胞膜非透過性物質を含有するのがよい。前記浸透圧は、通常は、1500mOsm以下であればよいが、高濃度の塩が細胞にとって有害となりうるために、または糖類の溶解度の限界のために、あるいは、温度の低下による溶液の安定性低下、特には溶解物の析出を避けるため、通常は、1000mOsm以下であるのが望ましい。
したがって、上記の浸透圧を達成するためには、例えば、本発明によるガラス化保存液が、細胞膜非透過性物質として、保存液における濃度として0.2M〜1Mのトレハロースを含んでなることが好ましい。
好ましい組み合わせの具体例としては、細胞膜透過性物質を30〜50体積%、好ましくは40体積%含む一方で、細胞膜非透過性物質である生理環境調整物質として10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(10×PBS)を5〜20体積%、または10×PBSによる浸透圧が140〜600mOsmとなる量を含み、さらに細胞膜非透過性物質であるガラス化促進物質を0〜1.5M、好ましくは0.2〜1M、またはガラス化促進物質による浸透圧が0〜1500mOsm、好ましくは200〜1000mOsmとなる量を含むものである。これにより、細胞非透過性物質による浸透圧を280mOsm以上、好ましくは600mOsm以上、より好ましくは800mOsm以上となるよう調整することができる。
このとき、細胞膜透過性物質としてはエチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)、グリセリン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)を1種単独または組み合わせて用いることができ、好ましくはEG、またはPGを単独、またはDMSOとPGを1:3〜1:1の比率、もしくはDMSOとEGを1:3〜1:1の比率、あるいはEGとPGを1:10〜10:1の比率で組み合わせたものを使用する。
生理環境調整物質として用いる10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水の組成の具体例としては、塩化ナトリウム1370mM、塩化カリウム27mM、リン酸水素二ナトリウム100mM、リン酸二水素カリウム17.6mMからなる溶液が挙げられるが、上記組成の他に塩化マグネシウムや塩化カルシウムを含むものなど複数の組成が知られており、いずれを用いても良い。本発明では、好ましくは上記組成のものが用いられる。
氷晶成長抑制物質
氷晶成長抑制物質としては、例えば、不凍タンパク質(Antifreeze protein, AFP)として知られる一群のタンパク質などを用いることができる。AFPは氷の結晶面に吸着したり、自らの周囲に水分子を引きつけたりすることで結晶の成長を抑制する。AFPとしては、例えば、動物、植物、昆虫等由来のものが存在し、市販品を適宜利用することができる。しかしながら、AFPは一度に大量に得ることが難しく、一般的に、高価である。このため、氷晶成長抑制物質としては、AFPに代わるものとして、例えば、セリシン、を用いることができる。
この内、セリシンはこれまで凍結ストレスから細胞やタンパク質を保護することが知られていたが、今回、新たに氷晶成長を抑制することが見出された。すなわち、本発明者らは、細胞のガラス化保存液において、セリシンを加えて使用すると、セリシンが氷晶成長を抑制する効果があることを予想外にも今回見出したのである。
よって、本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明による細胞のガラス化保存液は、不凍タンパク質、およびセリシンからなる群より選択される氷晶成長抑制物質をさらに含んでなる。より好ましくは、氷晶成長抑制物質は、セリシンである。
本発明において使用されるセリシンは、天然物由来のものであっても、慣用の化学的及び/又は遺伝子工学的手法により合成されたものであってもよい。また、セリシンは、酸、アルカリ又は酵素等により加水分解したセリシンの加水分解物であってもよい。
天然物由来のセリシンは、慣用の抽出方法により繭又は生糸等から抽出して得ることができる。具体的には、例えば、セリシンは、繭、生糸、又は絹織物を原料として、これを熱水、又は酸、アルカリ、酵素等によって部分的に加水分解し抽出する方法等によって得ることができ、さらに高純度に精製されたものが品質が一定で安定した培養や保存状態を得るためには好ましい。
更にセリシンは、粉体や顆粒状の固体であっても、水や緩衝液に融解または懸濁させた液体であってもよい。
本発明において、セリシンの平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは、5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜50,000である。
セリシンの好ましい添加量は、ガラス化保存液の全量に対して重量換算で、0.1〜10%、より好ましくは1〜5%、とくに好ましくは3〜5%である。
他の成分
本発明による細胞のガラス化保存液は、以上に説明した成分を含んでなるものであるが、動物由来成分は含まないことが望ましい。血清等の動物由来成分は、ウイルス等の混入の原因となる可能性があるからである。
また本発明による細胞のガラス化保存液は、本発明の作用効果を損なわない範囲内で、他の成分を含んでなることができる。他の成分としては、例えば、アミノ酸、ホルモン、サイトカイン、抗酸化剤、pH緩衝剤、pH調整剤などを挙げることができる。
すなわち、本発明のガラス化保存液は、細胞をガラス化保存する際に用いられる公知の複数のプロトコール、例えば、理研CDBのプロトコール(例えば、ヒト多能性幹細胞培養実習プロトコール2010(http://www.cdb.riken.go.jp/より入手可))に記載のガラス化保存液の代わりに適用することができる。
ガラス化方法
前記したように、本発明によれば、本発明の細胞のガラス化保存液に、細胞を懸濁した後、細胞を含むガラス化保存液を、液体窒素によって急速冷却しガラス化することを含んでなる、細胞のガラス化方法であって、
細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が280mOsm以上とする方法が提供される。
本発明による方法の具体的な一例として、保存対象である細胞を回収し、遠心操作により培地を取り除き、次いで本発明によるガラス化保存液に懸濁した後に、少量を封入管に移し、液体窒素等を用いて急速に冷却し、ガラス化させる。保存は液体窒素温度(−190〜−196℃)で、気相または液相中にて行う。
融解は、加温した希釈液を直接封入管に添加することで行い、その後、培地等でさらに希釈・洗浄し、遠心操作により希釈液を取り除いた後に、培地に懸濁して培養する。
希釈液としては、培地を用いることができる。ただし、保存液の細胞膜非透過性物質濃度を十分に高くすることができない場合や、細胞膜が脆いなどの理由で融解時の浸透圧差により細胞が破裂してしまう場合には、希釈液として浸透圧を高めたものを用いることが好ましい。このとき、浸透圧を調整するための溶質は細胞膜透過性物質であっても細胞膜非透過性物質であってもよく、一般的には糖類、特にグルコースやスクロースが用いられるが、細胞にとって有害とならず、浸透圧を調整することのできるものであれば、どのようなものでも用いることができる。
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断りのない限り組成を示す%は体積%を意味するものとする。
実施例1:
材料:
細胞膜透過性物質
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・エチレングリコール(EG)
・プロピレングリコール(PG)
・ブチレングリコール(BG)
・イソプレングリコール(IPG)
・ジプロピレングリコール(DPG)
・ポリエチレングリコール#400(PEG)
使用した細胞:
・マウスES細胞 D3株(ATCCより入手)
・コモンマーモセットES細胞 CMES40株(理研セルバンクより入手)
*コモンマーモセットES細胞は実験動物中央研究所で佐々木らが樹立した細胞を理研セルバンクを通して入手、使用した。
・フィーダー細胞 STO株(理研セルバンクより入手)
使用した培地組成:
1) マウスES細胞維持培地
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・1000 U/ml LIF(和光社製)
2) コモンマーモセットES細胞維持培地
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・4 ng/ml bFGF(和光社製)
ガラス化保存液の対照区(DAP213):
・アセトアミド0.59gをKnockOut DMEM 6mlに溶解後、フィルター滅菌した;
・DMSO 1.42ml、PG 2.2mlを添加した;
・Knockout DMEMで10mlにメスアップした。
ガラス化保存液の試験区:
・ミリQ 400〜800μl
・10×PBS 100μl
細胞膜透過性物質 100〜500μl
計 1000μl
(1−1) 細胞膜透過性物質のガラス化能の検討
ガラス化保存液の毒性を大きく左右する細胞膜透過性物質の種類を検討した。ガラス化を促進する物質は多く知られているが毒性や変異原性を持たず細胞内へ浸透することが好ましい。これらの観点から化粧品原料として用いられている低分子量のジオール類に着目した。EGやPGなどいくつかのジオールは凍結保護剤としての使用実績があり、またこれらは肌に対する安全性が確認されており、細胞毒性が低いことが期待された。そこで、DMSOの他にEG、PG、BG、IPG、DPG、PEGの6種のジオールについてガラス化保存液としての性能を検討した。
6種のジオール(EG、PG、BG、IPG、DPG、PEG)と、DMSOについて、10〜50%の溶液を調製し、液体窒素で急冷してガラス化することを確認した。具体的には、各細胞膜透過性物質の濃度が10、20、30、40、50%となるようPBSに溶解し、ガラス化の判別を容易にするため少量のフェノールレッドにて着色した。調製後の溶液をクライオチューブに200μlずつ分注し、液体窒素に浸して急冷した。液体窒素中に5分以上浸し、温度を安定化させた後に1本ずつ取り出して観察した。
結果は下記の通りであった。
陰性対照であるPBSはガラス化せず、多結晶体として凍結した。多結晶体であることは結晶界面で光が散乱し、外観が不透明となることで確認した(図省略)。一方、陽性対照であるDAP213は全体が透明色を示し、ガラス状態であることが確認できた。また、温度上昇により不透明な結晶性固体へと相転移する様子が観察された。
試験した全てのジオールとDMSOはいずれも40%以上添加することでガラス化することが示された。なかでもPG、IPG、BG、DPGは30%溶液でもガラス化することが確認された。
(1−2) 細胞膜透過性物質の細胞に対する影響
(1−2−1) コモンマーモセット(CM)ES細胞を用いた細胞毒性、分化影響調査
細胞膜透過性物質のCMES細胞に対する影響を調べるためCMESの培地に各細胞膜透過性物質を2%添加して培養し、コロニーの状態を観察した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・CMES細胞はEstablishment of novel embryonic stem cell lines derived from the common marmoset (Sasaki E, Hanazawa K, Kurita R, Akatsuka A, Yoshizaki T, Ishii H, Tanioka Y, Ohnishi Y, Suemizu H, Sugawara A, Tamaoki N, Izawa K, Nakazaki Y, Hamada H, Suemori H, Asano S, Nakatsuji N, Okano H, Tani K. Stem Cells. 2005 Oct;23(9):1304-13)を参考にして培養した
・予めフィーダー細胞を接着させたφ35mmディッシュにCMES細胞を播種し、培地量の2%に相当する細胞膜透過性物質を添加した。
・3日後に顕微鏡観察を行い、CMES細胞に対する増殖抑制、分化促進の有無を調べた。
その結果、対照(未添加)、およびDAP213、DMSO、EG、PG、PEGではコロニー形態の性状は良好であった(図省略)。
(1−2−2) マウスES細胞を用いたガラス化保存効率測定
試験した7種の細胞膜透過性物質のうち、CMES細胞に対して分化促進効果の見られなかった4種(DMSO、EG、PG、PEG)を単独または1:1で組み合わせて細胞膜透過性物質の合計が40%となるよう使用し各細胞膜透過性物質のガラス化保護作用を確認した。CMES細胞は細胞数の計数が困難であるため、試験にはマウスES細胞を用いた。
ガラス化・融解後のマウスES細胞を播種し、培養後の細胞の状態を顕微鏡観察により確認した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・マウスES細胞は定法に従って培養した
・回収したマウスES細胞は細胞数をカウントし、100万cells/tubeとなるよう1.5mlチューブに分注し、1500rpm、5分遠心した
・上清を除き、ガラス化保存液を200μl加えて懸濁した
・懸濁後、DAP213は15秒、試験液は60秒経過後に液体窒素に投入し、ガラス化させた
・5分以上静置し、温度を安定化させた
・液体窒素からチューブを取り出し、予め37℃に加温した培地1800μlを加えて素早く懸濁して融解した
・懸濁液を一部サンプリングして細胞数をカウントした
・カウント時、生細胞のトリパンブルーに対する選択的排出能を指標に生死を判別し生存率を算出した
・残りの細胞を24wellプレートに播種し、3日後の状態を顕微鏡にて確認した
細胞膜透過性物質を単独で使用した場合、EGで最も多くのコロニーが観察され、次いでPGに多く見られた。DMSOでは僅かにコロニーが観察されたがPEGでは全ての細胞が死滅しコロニーは観察できなかった。細胞膜透過性物質を組み合わせた場合、DMSO+EG、DMSO+PG、DMSO+PEG、EG+PEGで多くのコロニーが観察された(図省略)。
形態観察でコロニーが多数観察されたEG、DMSO+EG、DMSO+PG、DMSO+PEG、EG+PEGの5種について、ガラス化後の生存率を計測した。各細胞膜透過性物質の40%溶液をPBSで調製し、マウスES細胞を懸濁して60秒静置後に液体窒素に投入してガラス化させた。
融解後の生存率を測定したところDMSO+PGで特に高い生存率を示した(図4)。
細胞膜透過性物質としてDMSOを使用しないものの中ではEG単独が最も優れていたがDMSO+PGに比べて生存率は大きく低下していた。
実施例2:
材料:
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・プロピレングリコール(PG)
使用した細胞:
・マウスES細胞 D3株(ATCCより入手可)
使用した培地組成:
マウスES細胞維持培地:
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・1000 U/ml LIF(和光社製)
ガラス化保存液:
・ミリQ 500μl
・10×PBS 100μl
・DMSO 80〜200μl
・PG 200〜320μl
計 1000 μl
試験液:
DMSOとPGの含量は下表に従い合計濃度が40%となるように調製
Figure 0006333513
DAP213:
・アセトアミド0.59gをKnockOut DMEM 6mlに溶解後、フィルター滅菌した;
・DMSO1.42ml、PG2.2mlを添加した;
・Knockout DMEMで10mlにメスアップした。
(2−1) マウスES細胞のガラス化
DMSOとPGの添加比率を変えた保存液を用いてマウスES細胞をガラス化し、融解後の生存率を比較した。
試験区では細胞を懸濁してからガラス化するまでの時間を60秒とし、対照区はDAP213を用いて懸濁から15秒以内にガラス化した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・マウスES細胞は定法に従って培養した
・回収したマウスES細胞は細胞数をカウントし、100万cells/tubeとなるよう1.5mlチューブに分注し、1500rpm、5分遠心した
・上清を除き、ガラス化保存液を200μl加えて懸濁した
・懸濁後、DAP213は15秒、試験液は60秒経過後に液体窒素に投入し、ガラス化させた
・5分以上静置し、温度を安定化させた
・液体窒素からチューブを取り出し、予め37℃に加温した培地1800μlを加えて素早懸濁して融解した
・懸濁液を一部サンプリングして細胞数をカウントした
・カウント時、生細胞のトリパンブルーに対する選択的排出能を指標に生死を判別し生存率を算出した
・残りの細胞を24wellプレートに播種し、3日後の状態を顕微鏡にて確認した
結果は図5に示されるとおりであった。
DMSO含量を10%まで減らしても生存率に影響しないが、8%まで減らすと生存率の低下が見られた。従って現行品であるDAP213のDMSO含量(14.2%)よりDMSO含量を低減できることが示された。
実施例3:
材料:
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・プロピレングリコール(PG)
・アセトアミド
使用した細胞:
・マウスES細胞 D3株(ATCCより入手可)
使用した培地組成:
マウスES細胞維持培地:
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・1000 U/ml LIF(和光社製)
DAP213:
・アセトアミド0.59gをKnockOut DMEM 6mlに溶解後、フィルター滅菌した;
・DMSO 1.42ml、PG 2.2mlを添加した;
・Knockout DMEMで10mlにメスアップした。
DP23:
・Knockout DMEMにDMSO1.42ml、PG 2.2mlを添加して10mlにメスアップした
(3−1) アセトアミドの有効性の検討
アセトアミドを含むDAP213と、そこからアセトアミドのみを抜いたもの(DP23)を用いて懸濁から15秒以内および60秒後にガラス化したマウスES細胞の生存率を測定した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・マウスES細胞は定法に従って培養した
・回収したマウスES細胞は細胞数をカウントし、100万cells/tubeとなるよう1.5mlチューブに分注し、1500rpm、5分遠心した
・上清を除き、ガラス化保存液を200μl加えて懸濁した
・懸濁後、DAP213は15秒、試験液は60秒経過後に液体窒素に投入し、ガラス化させた
・5分以上静置し、温度を安定化させた
・液体窒素からチューブを取り出し、予め37℃に加温した培地1800μlを加えて素早懸濁して融解した
・懸濁液を一部サンプリングして細胞数をカウントした
・カウント時、生細胞のトリパンブルーに対する選択的排出能を指標に生死を判別し生存率を算出した
結果は図6に示されるとおりであった。
15秒以内にガラス化した場合にはアセトアミドによる生存率の向上は認められず、60秒後においてはアセトアミドにより生存率が低下していた。
実施例4:
材料:
ガラス化促進物質:
・D−(+)−グルコース
・スクロース
・D−(+)−マルトース・一水和物
・D−(−)−フルクトース
・D−(+)−トレハロース・二水和物
・D−(+)−ラフィノース・五水和物
・エリスリトール
・キシリトール
・D−ソルビトール
・D−(−)−マンニトール
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
ガラス化保存液:
・ガラス化促進物質溶液 300〜500μl
・DMSO 300μl
・PBS 200〜400μl
計 1000μl
(4−1) ガラス化促進物質の検討
細胞に対する毒性が低くガラス形成能に優れる糖および糖アルコール類10種についてガラス化促進物質としての性能を比較検討した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・ガラス化促進物質として以下の糖類を検討した: グルコース、スクロース、マルトース、フルクトース、トレハロース、ラフィノース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトール。
・30%DMSO/PBSにガラス化促進物質の濃度が0.3M、0.6Mとなるよう調製した。
・調製後の溶液をクライオチューブに200μlずつ分注し、液体窒素に浸して急冷した。
・液体窒素中に5分以上浸し、温度を安定化させた後に1本ずつ取り出して観察した。
ガラス化しない濃度(30%)のDMSO溶液に各種の糖/糖アルコール類を添加し、液体窒素中で急冷したところ、トレハロースおよびラフィノースを添加した場合には0.3Mの添加量で溶液がガラス化することが確認された(図省略)。しかしながら、ラフィノースは低温での溶解度が低く析出物を生じるおそれがあることからガラス化促進物質としてトレハロースが最も優れていると考えられた。
実施例5:
材料:
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・プロピレングリコール(PG)
ガラス化促進物質:
・D-(+)-トレハロース・二水和物
使用した細胞:
・マウスES細胞 D3株(ATCCより入手可)
使用した培地組成:
マウスES細胞維持培地:
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・1000 U/ml LIF(和光社製)
ガラス化保存液:
下表に従って調整した。
Figure 0006333513
(5−1) トレハロースの添加効果
試作した保存液でマウスES細胞を懸濁、60秒静置後にガラス化し、融解後の生存率を測定した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・マウスES細胞は定法に従って培養した
・回収したマウスES細胞は細胞数をカウントし、100万cells/tubeとなるよう1.5mlチューブに分注し、1500rpm、5分遠心した
・上清を除き、ガラス化保存液を200μl加えて懸濁した
・懸濁後、DAP213は15秒、試験液は60秒経過後に液体窒素に投入し、ガラス化させた
・5分以上静置し、温度を安定化させた
・液体窒素からチューブを取り出し、予め37℃に加温した培地1800μlを加えて素早く懸濁して融解した
・懸濁液を一部サンプリングして細胞数をカウントした
・カウント時、生細胞のトリパンブルーに対する選択的排出能を指標に生死を判別し生存率を算出した
結果は図7に示されるとおりであった。
トレハロースを添加した保存液でガラス化した細胞は約90%の生存率を示した。ところが、トレハロースではなく塩(PBS)で浸透圧を調節した場合にもマウスES細胞は同様の高い生存率を示しており、ガラス化保存液の保存効率には浸透圧が大きく影響することが示された。しかし、塩をまったく添加せず、糖のみで浸透圧を調製した場合にはマウスES細胞の生存率は改善されず、ナトリウムイオンなどのように細胞内のイオンバランスを保つ環境も必要であることが示唆された。
実施例6:
材料:
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・プロピレングリコール(PG)
・アセトアミド
使用した細胞:
・マウスES細胞 D3株(ATCCより入手可)
使用した培地組成:
マウスES細胞維持培地:
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・1000 U/ml LIF(和光社製)
ガラス化保存液:
・DAP213:
Figure 0006333513
(6−1) DAP213に対する浸透圧の影響
浸透圧がガラス化のどの時点で細胞の生存率に影響を与えているのかを確認した。
まず、上記の組成に従い、浸透圧の異なる3種の保存液(DAP−A、DAP−B、DAP−C)を調製した。ここで、DAP−AはDAP213とほぼ同等の浸透圧となるようDAP213の基礎培地をPBSに置き換えて調製した。DAP−Bは細胞膜透過性物質による溶液の希釈を考慮し、塩の終濃度が生理的環境と等しくなるよう調製した。DAP−Cは塩の終濃度が生理的環境の2倍となるよう調製した。上記のDAP−A〜CでマウスES細胞を懸濁し、ガラス化は行わずに90秒後にPBSで希釈して生存率を測定した。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・マウスES細胞は定法に従って培養した
・回収したマウスES細胞は細胞数をカウントし、100万cells/tubeとなるよう1.5mlチューブに分注し、1500rpm、5分遠心した
・上清を除き、PBSおよび3種のDAP200μlで懸濁した
・氷上で90秒間静置した
・予め37℃に加温したPBS1800μlを添加して懸濁した
・トリパンブルー染色により生細胞数を測定した
・カウント時、生細胞のトリパンブルーに対する選択的排出能を指標に生死を判別し生存率を算出した
結果は図8に示されるとおりであった。
DAP−BとDAP−Cではほぼ全ての細胞が生存していたが、DAP−Aでは約20%の生細胞が減少していた。
このことから、低浸透圧の保存液ではガラス化後の融解・希釈時に細胞の生存率が低下することが示された。この時、DAP−Aでは生細胞が減少していたにも関わらず、トリパンブルー陽性となる死細胞はほとんど観察されなかった。このことから、死細胞は細胞膜が著しく損傷していることが示唆された。
ガラス化保存液に用いられているDMSOやEG、PGはいずれも細胞膜を透過することができ、したがって平衡時の細胞の体積はこれら細胞膜透過性物質以外の溶質(塩、糖、アミノ酸やタンパク質など)によって決定される。この平衡化にかかる時間は、細胞の大きさや透過性物質の拡散係数によって異なるが、およそ1〜5分であるといわれている。本試験では細胞を保存液に懸濁後60秒静置してからガラス化しており、比較的サイズの小さな細胞であるマウスES細胞はこの時点で平衡化が完了していると考えられる。本試験の結果、ガラス化保存液の浸透圧が保存効率に影響することが示され、保存効率と細胞体積の関係が示された。
DAP213でガラス化後の細胞をトリパンブルーで染色して計数すると、生細胞数と死細胞数の合計が元の細胞数から大きく減少していることが多々ある。にもかかわらず、トリパンブルー陽性となる死細胞は極端に少ない。このことから、DAP213を用いて細胞をガラス化した際に細胞の生存率を低下させる主な原因は細胞の過膨張による細胞の破裂ではないかと考えられた。
ガラス化保存液を高張にすると生存率が改善されるのは、ガラス化時の細胞の体積を小さくすることで細胞内の細胞膜透過性物質の量が抑えられ、融解・希釈時に起こる細胞内への水の流入に耐えることができるためと考えられる。また、高濃度の細胞膜透過性物質を用いても静置後にガラス化した細胞の生存率が9割を超えたことから、従来言われていた細胞膜透過性物質の細胞毒性がほとんど影響していないことが示唆された。
以上から、ガラス化保存液の保存効率は浸透圧に大きく左右され、保存液を高張にすることで生存率が大きく改善された。
実施例7:
材料:
細胞膜透過性物質:
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
・エチレングリコール(EG)
・プロピレングリコール(PG)

使用した細胞:
・コモンマーモセットES細胞 CMES40株(理研セルバンクより入手可)
・フィーダー細胞 STO株(理研セルバンクより入手可)
使用した培地組成:
コモンマーモセットES(CMES)細胞維持培地:
・KnockOut DMEM(GIBCO社製)
・20% Knockout Serum Replacement(GIBCO社製)
・0.1 mM 非必須アミノ酸(GIBCO社製)
・0.1 mM 2-メルカプトエタノール(GIBCO社製)
・2 mM L-グルタミン(GIBCO社製)
・4 ng/ml bFGF(和光社製)
ガラス化保存液:
Figure 0006333513
Figure 0006333513
Figure 0006333513
アルカリホスファターゼ(ALP)染色:
・Leukocyte Alkaline phosphatase Kit(sigma 86R)
・Acetone
・37%ホルムアルデヒド
・ミリQ
(7−1) コモンマーモセットES細胞に対する保存効果
細胞膜透過性物質としてDMSO+PGまたはEG、ガラス化促進物質としてトレハロースを用いた保存液でCMES細胞をガラス化し、融解後の生存率を調べた。マウスES細胞を用いた評価では、細胞膜透過性物質としてDMSOとPGの組み合わせが最も優れていたが、DMSOはES細胞に対する分化誘導能が報告されていることから、マウスES細胞で2番目に生存率の高かったEGについても同時に評価を行った。
具体的には、実験は下記の通りに行った:
・CMES細胞はSTO細胞をフィーダーとし、定法に従って培養した
・試験前日に、定法に従ってφ35mmディッシュに100万cells/枚となるようSTOを播種した
・試験当日、STOの培地を1.5mlのCMES細胞維持培地に交換してインキュベートした
・CMES細胞は定法に従って回収し、φ90mmシャーレ1枚から6〜9本の1.5mlマイクロチューブに分注した
・1500rpm、5分遠心し、氷上に静置した
・対照区(未凍結)は上清を除き、1mlの培地で懸濁後、STOを接着させたシャーレに450μl播種した
・試験区は上清を除き、ガラス化保存液を200μl加えて懸濁した
・懸濁後、DAP213は15秒および60秒、試験液は60秒経過後に液体窒素に投入してガラス化させた
・5分以上静置し、温度を安定化させた
・液体窒素からチューブを取り出し、予め37℃に加温した培地1800μlを加えて素早懸濁して融解した
・融解後、900μlを1.5mlマイクロチューブに分注して1500rpm、5分遠心し、上清を除いた
・450μlの培地に懸濁し、前述のφ35mmディッシュに全量を播種した
・播種2日後から毎日培地を交換し、コロニーの状態を見て3日ないし4日目にALPで染色し、陽性コロニーを計数した
・対照区に対する試験区の陽性コロニーの比を生着率として算出した。
結果は図9に示されるとおりであった。
CMES細胞に対しては細胞膜透過性物質としてEGを単独で用いた場合に高い保存効率を示すことが明らかとなった。
次に浸透圧を調整し、保存効率への影響を調べた。
結果は図10に示されるとおりであった。
糖と塩を合わせて浸透圧を800mOsm以上に調製した時に生着率が優れていたが、浸透圧を800mOsmより高くしてもそれ以上の保存効率向上は認められなかった。
これらの結果を踏まえ、細胞膜透過性物質に40%のEGを使用し、ガラス化促進物質としてトレハロースを加えて塩とトレハロースの合計浸透圧が800mOsmとなるよう調製し(ET45)、CMESを懸濁後15秒ないし60秒後にガラス化・融解したときの生着率をDAP213と比較した。
結果は図11に示されるとおりであった。
ET45はCMES細胞を懸濁後15秒以内にガラス化したとき、または60秒後にガラス化したときのいずれの場合においてもDAP213と比較して高い生着率を示した。
実施例8:
氷晶成長抑制物質の検討
氷晶成長抑制物質の検討はガラス化した保存液を結晶化させたときの融解時間を比較することによって行った。すなわち、同じ体積の結晶塊を融解させた場合であっても総表面積が大きい多結晶体の方が早く融解する。結晶状態への相転移時に氷晶の成長が抑制されていた場合、微小な氷晶が多数形成されていると考えられるため、融解時間が短くなると考えられる。
材料:
細胞膜透過性物質:
・エチレングリコール(EG)
氷晶成長抑制物質:
・セリシン
(比較例)
・ウシ血清アルブミン(BSA)
・トレハロース
・スクロース
使用した保存液:
・EG 400 μl
・10重量% 各種氷晶成長抑制物質 100〜500 μl
ミリQ 100〜500 μl
計 1000 μl
具体的には下記の手順に従って行った。
・調製した試験液を1.5mlマイクロチューブに200μlずつ分注した。
・デュワー瓶に液体窒素を入れ、タイマーを準備した。
・ピンセットでマイクロチューブを掴み、液体窒素に40秒浸してガラス化した。
・液体窒素から引き上げ、チューブ内の氷が完全に消滅するまでの時間を計測した。
結果は図12に示されるとおりであった。
一度ガラス化した保存液が完全に融解するまでの時間はセリシン濃度依存的に短縮していた。アルブミンにもセリシンと類似の作用が見られたが、その活性は十分ではなかった。また、通常ガラス化促進物質として用いられるスクロースやトレハロースでは融解時間の短縮は見られなかった。分子量の小さな糖類で融解時間の短縮が見られなかったことから、この作用が単なる凝固点降下によるものではないことが確認できた。
これらのことからセリシンによって氷晶の成長が抑制されていることが示唆された。

Claims (9)

  1. 細胞膜透過性物質と、細胞膜非透過性物質とを含んでなる、細胞のガラス化保存液であって、
    細胞膜透過性物質を35〜50体積%含み、細胞膜非透過性物質である生理環境調整物質として10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(10×PBS)を5〜20体積%含み、さらに細胞膜非透過性物質であるガラス化促進物質を0.2〜1.5M含み、
    細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が800〜1000mOsmとなるものであり、
    細胞膜透過性物質が、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)、グリセリン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種以上のものであり、
    ガラス化促進物質がトレハロースである、細胞のガラス化保存液。
  2. 細胞膜透過性物質が、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種のものである、請求項1に記載の細胞のガラス化保存液。
  3. 細胞膜非透過性物質が、保存液における濃度として0.2M〜1Mのトレハロースを含んでなる、請求項1または2に記載の細胞のガラス化保存液。
  4. 氷晶成長抑制物質としてのセリシンを、保存液全量に対して1〜5重量%さらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞のガラス化保存液。
  5. 多能性幹細胞のガラス化保存に用いられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の細胞のガラス化保存液。
  6. 霊長類ES細胞または霊長類iPS細胞のガラス化保存に用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞のガラス化保存液。
  7. 細胞のガラス化保存液に、細胞を懸濁した後、細胞を含むガラス化保存液を、液体窒素によって急速冷却しガラス化することを含んでなる、細胞のガラス化方法であって、
    ガラス化保存液が、細胞膜透過性物質を35〜50体積%含み、細胞膜非透過性物質である生理環境調整物質として10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(10×PBS)を5〜20体積%含み、さらに細胞膜非透過性物質であるガラス化促進物質を0.2〜1.5M含むのであり、
    細胞をガラス化保存液に懸濁したときに細胞の細胞膜に生ずる全浸透圧のうち、細胞膜非透過性物質に起因して生じる浸透圧が800〜1000mOsmとする、方法であり、
    ここで、
    細胞膜透過性物質が、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,3−プロパンジオール(1,3−PD)、ブチレングリコール(BG)、イソプレングリコール(IPG)、ジプロピレングリコール(DPG)、グリセリン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種以上のものであり、
    ガラス化促進物質がトレハロースである、方法。
  8. 細胞膜透過性物質が、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される1種または2種のものである、請求項7に記載の方法。
  9. 氷晶成長抑制物質としてのセリシンを、保存液全量に対して1〜5重量%さらに含んでなる、請求項7または8に記載の方法。
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