JP4705473B2 - 幹細胞の凍結保存法およびシステム - Google Patents

幹細胞の凍結保存法およびシステム Download PDF

Info

Publication number
JP4705473B2
JP4705473B2 JP2005515279A JP2005515279A JP4705473B2 JP 4705473 B2 JP4705473 B2 JP 4705473B2 JP 2005515279 A JP2005515279 A JP 2005515279A JP 2005515279 A JP2005515279 A JP 2005515279A JP 4705473 B2 JP4705473 B2 JP 4705473B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cells
medium
cell
present
stem cells
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2005515279A
Other languages
English (en)
Other versions
JPWO2005045007A1 (ja
Inventor
憲夫 中辻
博文 末盛
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Reprocell Inc
Original Assignee
Reprocell Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Reprocell Inc filed Critical Reprocell Inc
Priority to JP2005515279A priority Critical patent/JP4705473B2/ja
Publication of JPWO2005045007A1 publication Critical patent/JPWO2005045007A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4705473B2 publication Critical patent/JP4705473B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01NPRESERVATION OF BODIES OF HUMANS OR ANIMALS OR PLANTS OR PARTS THEREOF; BIOCIDES, e.g. AS DISINFECTANTS, AS PESTICIDES OR AS HERBICIDES; PEST REPELLANTS OR ATTRACTANTS; PLANT GROWTH REGULATORS
    • A01N1/00Preservation of bodies of humans or animals, or parts thereof
    • A01N1/02Preservation of living parts
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01NPRESERVATION OF BODIES OF HUMANS OR ANIMALS OR PLANTS OR PARTS THEREOF; BIOCIDES, e.g. AS DISINFECTANTS, AS PESTICIDES OR AS HERBICIDES; PEST REPELLANTS OR ATTRACTANTS; PLANT GROWTH REGULATORS
    • A01N1/00Preservation of bodies of humans or animals, or parts thereof
    • A01N1/02Preservation of living parts
    • A01N1/0205Chemical aspects
    • A01N1/021Preservation or perfusion media, liquids, solids or gases used in the preservation of cells, tissue, organs or bodily fluids
    • A01N1/0221Freeze-process protecting agents, i.e. substances protecting cells from effects of the physical process, e.g. cryoprotectants, osmolarity regulators like oncotic agents
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A61MEDICAL OR VETERINARY SCIENCE; HYGIENE
    • A61PSPECIFIC THERAPEUTIC ACTIVITY OF CHEMICAL COMPOUNDS OR MEDICINAL PREPARATIONS
    • A61P43/00Drugs for specific purposes, not provided for in groups A61P1/00-A61P41/00
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N5/00Undifferentiated human, animal or plant cells, e.g. cell lines; Tissues; Cultivation or maintenance thereof; Culture media therefor
    • C12N5/06Animal cells or tissues; Human cells or tissues
    • C12N5/0602Vertebrate cells
    • C12N5/0603Embryonic cells ; Embryoid bodies
    • C12N5/0606Pluripotent embryonic cells, e.g. embryonic stem cells [ES]

Landscapes

  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • Wood Science & Technology (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Environmental Sciences (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Reproductive Health (AREA)
  • Gynecology & Obstetrics (AREA)
  • Dentistry (AREA)
  • Developmental Biology & Embryology (AREA)
  • General Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Cell Biology (AREA)
  • Animal Behavior & Ethology (AREA)
  • Veterinary Medicine (AREA)
  • Public Health (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Chemical Kinetics & Catalysis (AREA)
  • Pharmacology & Pharmacy (AREA)
  • Nuclear Medicine, Radiotherapy & Molecular Imaging (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • General Engineering & Computer Science (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Apparatus Associated With Microorganisms And Enzymes (AREA)
  • Medicines Containing Material From Animals Or Micro-Organisms (AREA)

Description

本発明は、幹細胞の分野にある。より詳細には、本発明は、幹細胞(特に、霊長類の胚性幹細胞(本明細書において以下ES細胞ともいう))の効率よい保存のための方法に関する。
再生医療による疾患治療が最近注目を浴びている。再生医療は、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用などに代わる治療法としての役割が期待されている。しかし、これを臓器または組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。
再生医療の中心にある幹細胞、特にES細胞は、その医療応用面での可能性から近年その重要性を増している。ヒトES細胞はその中でも特に重要であるがその樹立または安定した継代維持が難しく効率的な利用を阻害している。ヒトを含めた霊長類ES細胞は、その樹立必要とされる胚盤胞の供給がきわめて少なく、少数の胚盤胞から効率よくES細胞株の樹立を行う必要がある。従来の方法では胚盤胞からの樹立の効率は10から30%程度であるといわれている。
トランスジェニック動物の作出が、ES細胞を使用することで可能となっている。ES細胞とは、通常胚盤胞と呼ばれる発生段階の胚に存在する将来動物個体となる未分化な細胞群である内部細胞塊(Inner cell mass,ICM)の細胞を培養することによって得られた細胞株である。ES細胞は、M.J.Evans とM.H.Kaufman(1981年に非特許文献1)に続いて、G.R.Martin(非特許文献2)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。
ES細胞が、霊長類で樹立され、その応用に対する期待がますます高まる中、これらの問題を克服するために幹細胞治療とその応用を中心とした再生医学に対する期待がますます高まっている。
ES細胞などの幹細胞は、凍結保存されることが頻繁に行われているが、従来行われている緩慢冷却法(例えば、Geron社が提供する方法(非特許文献3))では、手順が煩雑であり、しかも、保存効率がそれほど高くないことが知られている。
より最近になってガラス化法という方法が開発された(非特許文献4)。この方法は、効率が緩慢冷却法よりも高く、しかも、簡便であるということで注目を浴びた。しかし、この方法で用いられるストロー状の容器のために、汚染の危険性が格段に上昇したという欠点がある。
幹細胞は、非特許文献5に記載されるように種々の応用が期待されているが、その保存方法の開発はそれほど進んでいない。
このように、種々の観点から簡便で確実な幹細胞の凍結保存方法、ならびにそのための媒体およびシステムが待ち望まれている。
M.J.Evans & M.H.Kaufman:Nature,292,154,1981 G.R.Martin:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78,7634,1981 Freshney R.I., Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,WIley−Liss,Inc.,pp.255−265、1994 Reubinoff BE, Para MF, Vajta G, Trounson AO.,Hum Reprod. 2001 Oct;16(10):2187−94 幹細胞・クローン 研究プロトコール 中辻編、羊土社(2001)
本発明は、従来技術では達成し得ない程度の効率で幹細胞(特に、霊長類のES細胞)を凍結保存することができる簡便な技術を提供することを課題とする。
本発明は、一部、上記課題が、プロピレングリコールを含む媒体を用いることによって、急速凍結をすると、簡便に、かつ、保存効率よく、幹細胞を凍結保存することができることを予想外に見出したことによって解決されることを本発明者らが見出したことによって完成された。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するための媒体(medium)であって、
A)ジメチルスルホキシド(DMSO);
B)プロピレングリコール;および
C)培地(culture medium)、
を含む、媒体を提供する。
一つの実施形態において、上記DMSOは、上記媒体の15〜40%を占める。
一つの実施形態において、上記プロピレングリコールと上記DMSOとは、合計で、上記媒体の約30%より多く、かつ、上記媒体の約50%未満を占める。
一つの実施形態において、上記DMSOと上記プロピレングリコールとは、約1:2〜約2:1のモル比率で存在する。
一つの実施形態において、上記DMSOと上記プロピレングリコールとは、約3:2のモル比率で存在する。
一つの実施形態において、本発明の媒体は、アセトアミドおよび糖からなる群より選択される成分をさらに含む。
一つの実施形態において、上記DMSOは約1M〜4M存在し、上記プロピレングリコールは約1.5M〜6M存在する。
一つの実施形態において、上記DMSOは、約2M存在する。
一つの実施形態において、上記プロピレングリコールは、約3M存在する。
一つの実施形態において、上記DMSOは約2M存在し、上記プロピレングリコールは約3M存在する。
一つの実施形態において、上記DMSOは約1M〜4M存在し、上記プロピレングリコールは約1.5M〜6M存在し、さらに約0M〜2Mのアセトアミドを含む。
一つの実施形態において、上記DMSOは、約2M存在する。
一つの実施形態において、上記プロピレングリコールは、約3M存在する。
一つの実施形態において、上記アセトアミドは、約1Mで含まれる。
一つの実施形態において、上記DMSOは、約2M存在し、上記プロピレングリコールは、約3M存在し、本発明の媒体は約1Mアセトアミドを含む。
一つの実施形態において、上記培地は、DMEM培地およびF12からなる群より選択される培地またはそれらの混合物を含む。
一つの実施形態において、上記培地は、DMEM/F12(1:1)培地+KSRである。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、組織幹細胞およびES細胞からなる群より選択される。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、霊長類ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ヒトES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記保存は、凍結保存である。
一つの実施形態において、上記保存は、急速凍結保存である。
一つの実施形態において、上記急速凍結保存は、約30℃/分以上の速度で凍結される。
一つの実施形態において、本発明の媒体は、上記保存の後、急速解凍される。
一つの実施形態において、上記急速解凍は、約50℃/分以上の速度で解凍される。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するための媒体(medium)であって、
A)DMSO;
B)エチレングリコール;および
C)培地(culture medium)、
を含み、
ここで、上記DMSOおよび上記エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、媒体を提供する。
一つの実施形態において、上記DMSOおよびエチレングリコールは、約15%ずつ含まれる。
一つの実施形態において、本発明の媒体は、さらに、糖を含む。
一つの実施形態において、上記糖は、スクロースを含む。
一つの実施形態において、上記DMSOは上記媒体の約7.5%〜30%含まれ、上記エチレングリコールは上記媒体の約7.5%〜30%含まれ、上記スクロースは、約0.1875M〜0.75M含まれる。
一つの実施形態において、上記DMSOは上記媒体の約15%含まれ、上記エチレングリコールは上記媒体の約15%含まれ、上記スクロースは、約0.375M含まれる。
一つの実施形態において、上記媒体は、上記幹細胞を凍結保存するためのものである。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するための方法であって、
A)a)DMSO;
b)プロピレングリコール;および
c)培地、
を含む、媒体中で、幹細胞を急速凍結させる工程、
を包含する、方法を提供する。
一つの実施形態において、上記急速凍結は、封入管を用いて行われる。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、大きなコロニーのまま剥離されたものである。
一つの実施形態において、上記幹細胞と、上記媒体とは、約1×10/100μl〜約5×10/100μlの比率で存在する。
一つの実施形態において、上記急速凍結は、液体窒素中で行われる。
一つの実施形態において、上記保存後、急速に解凍する工程をさらに包含する。
一つの実施形態において、上記急速解凍は、ピペッティングによる。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、組織幹細胞およびES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、霊長類ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ヒトES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するための方法であって、
A)a)DMSO;
b)エチレングリコール;および
c)培地(culture medium)、
を含み、
ここで、上記DMSOおよび上記エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、
媒体中で、幹細胞を凍結させる工程、
を包含する、方法を提供する。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するためのシステムであって、
A)a)DMSO;
b)プロピレングリコール;および
c)培地、
を含む、媒体;
B)急速凍結する手段、
を備える、システムを提供する。
一つの実施形態において、本発明のシステムは、さらに、封入管を備える。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、組織幹細胞およびES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、霊長類ES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記幹細胞は、ヒトES細胞を含む。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
一つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するためのシステムであって、
A)a)DMSO;
b)エチレングリコール;および
c)培地(culture medium)、
を含み、
ここで、上記DMSOおよび上記エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、
媒体;
B)凍結する手段、
を備える、システムを提供する。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
一つの局面において、本発明は、
a)DMSO;
b)プロピレングリコール;および
c)培地、
を含む、媒体の、幹細胞を急速凍結保存するための、使用を提供する。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
一つの局面において、本発明は、
a)DMSO;
b)エチレングリコール;および
c)培地(culture medium)、
を含み、
ここで、上記DMSOおよび上記エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、
媒体の、幹細胞を凍結保存するための、使用を提供する。
一つの実施形態において、上記媒体は、本明細書に記載される任意の実施形態の形態を採ることができる。
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
本発明によって、特に幹細胞を効率よく保存するための技術が提供される。特に、簡便で、かつ、効率よく幹細胞を保存するという従来達成不可能であった効果を本発明が達成する。このようにして、本発明によってES細胞を含む種々の幹細胞を効率よく保存することができるようになった。
図1は、本発明のDAP媒体を用いて幹細胞(ES細胞)を凍結保存し、解凍したとき(すなわち、簡易ガラス化法)の保存効率(真ん中)を、DES媒体を用いて通常のガラス化法を用いて行った結果(右)と、DMSO媒体を用いて行った緩慢冷却法(左)と比較して示す。図1では、独立した3回の実験データを示し、バーは標準誤差を示す。DAPに対して有意差あり(t検定,p<0.05)。 図2は、実施例6に記載されるように、DESを用いたガラス化凍結法の改良を示す。 図3は、DMSOとプロピレングリコール(PG)との比率を種々変更したときの凍結保存効率を示す。100をDAP(実施例5参照)を用いて行った場合の効率として相対比率を示す。 図4は、DMSOのみを含む媒体を用いて本発明の簡易ガラス化法を用いた場合の凍結保存効果を示す。 図5は、プロピレングリコールのみを含む媒体を用いて本発明の簡易ガラス化法を用いた場合の凍結保存効果を示す。 図6は、ES細胞樹立スキーム例を示す。 図7は、ヒトES細胞を記載の方法で凍結し、解凍した後の細胞生存率を示す。10%DMSOを使用した緩慢凍結法では解凍後の細胞生存率がほぼ0%に近かったのに対し、簡易凍結法を用いることで10%以上の細胞生存率を得ることができ、生存率の著しい向上が示された。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙し、必要な技術の説明を行い、本発明を説明する。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。細胞は、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この細胞を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。
本明細書において「胚性幹細胞」または「ES細胞」とは、交換可能に用いられ、初期胚に由来する任意の多能性幹細胞をいう。通常ES細胞は、全能性またはほぼ全能性を有するとされる。このES細胞を正常な宿主胚盤胞へ導入し仮親子宮へ戻すことによってキメラ作製を行ったところ、高いキメラ形成能を持つ、生殖系列キメラ(ES細胞由来の機能的生殖細胞を持つキメラマウス)が得られた(A.Bradley et al.:Nature,309,255,1984)。ES細胞株は、培養下で、種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、レトロウイルスベクター法、リポゾーム法、エレクトロポレーション法等)の適用が可能である。また、遺伝子が組込まれた細胞を選別する方法を工夫し、相同遺伝子組換え(homologous recombination)を利用し、特定の遺伝子を狙って改変(置換、欠失、挿入)させた細胞のクローンを得ることもできる。インビトロでこのような処理をしたES細胞株は生殖系列への分化能を保持することから、ある特定の遺伝子の機能を個体レベルで調べる研究が現在盛んに行われている(M.R.Capecchi:Science,244,1288,1989)。ES細胞を利用したトランスジェニックマウス作出法は、ある特定の遺伝子のみを任意に改変させた個体を得ることを可能にした点でマイクロインジェクション法によるトランスジェニック動物作出法にはない多くの利点が考えられる。特に、特定の遺伝子を不活化させたノックアウト動物を作出できるようになり、遺伝子の機能を解明したり、外来性の遺伝子のみを発現させることができる。従って、ES細胞の樹立が容易になれば、その効果は図り知れない。
本明細書において「組織幹細胞」とは、ES細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞をいう。通常、組織幹細胞は、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞としては、好ましくはES細胞が使用され得る。
本発明で用いられる幹細胞として使用される細胞は、幹細胞またはその対応物がある限り、どの生物由来の細胞(例えば、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞)が用いられてもよい。さらに好ましくは、幹細胞としては、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が用いられる。最も好ましくは、幹細胞としてはヒト由来の細胞が用いられる。
ES細胞株は、キメラマウス、ノックアウトマウスなどの作製において非常に重要であり、これらの技術により遺伝子機能の解析が飛躍的に進歩した。ES細胞から特定の組織を分化誘導する系の開発が進んでおり、移植医療への応用の現実味を帯びている。また、ヒトES細胞を利用した臨床応用を考えた場合、サルなどの適切なモデル動物のES細胞を利用して前臨床研究をすることは必須に近い程度に重要であると考えられ、その樹立もまた重要である。
ES細胞株の樹立は、フィーダー細胞を用いて行われる。通常、ES細胞は、胚盤胞から分離した内部細胞塊(ICM)をフィーダー細胞上で培養することによって樹立される。通常フィーダー細胞としては、マウス胎仔繊維芽細胞あるいはそれ由来の細胞株STOが用いられている。
次にES細胞の一般的な樹立法を解説する。マウスで説明すると、受精後3.5日で胚は胚盤胞に発生する。胚盤胞から胚本体を形成する未分化幹細胞である内部細胞塊を免疫手術により分離する。このICMは、胎盤などが作る細胞である栄養外胚葉への分化能を有する。このため、3.5日胚から直接ICMを分離するとICMが栄養外胚葉へと分化することから未分化細胞が喪失することがよくあるとされる。3.5日胚をさらに1日培養し、4.0−4.5日胚とすると、胚盤胞は透明帯を脱出する。このステージではICMはもはや栄養外胚葉には分化しない。このような状態から、ICMを分離し、培養を開始すると、未分化細胞の割合を高めることができる。従って、本発明における幹細胞の樹立の際も、このような日数の未分化細胞を用いることができる。
ES細胞を樹立する際には、胚盤胞は、フィーダー細胞上に直接培養することもできるが、直接の場合は、胚盤胞が接着し栄養外胚葉が伸展してICMが露出することからあまり好ましくない。これを分離し培養したものを用いてもよいが、好ましくは免疫手術が用いられる。模式的なES細胞株樹立スキームを図6に示す。簡単に言うと、免疫手術で分離したICMをフィーダー細胞上で培養し、継代を続けると分化した細胞に混じって、未分化幹細胞のコロニーが現れる。これを分離し、継代を行うことで、安定して維持することができるES細胞株を樹立することができる。本発明を用いると、樹立率が80%を超えることから、安定して維持することができるES細胞を得る効率も格段に上がる。
ES細胞を樹立するためには、実施例において例示的に使用されるフィーダー細胞のほか、PBS(Ca、Mg不含)、0.25%トリプシン・1mM EDTA in PBS、ES細胞用培地(ダルベッコ改変Eagle培地(DMEM)(ハイグルコース)400ml、ウシ胎仔血清 100ml、非必須アミノ酸溶液(Gibco)4ml、ヌクレオシド溶液(ヌクレオシド、グアノシン、シチジン、ウリジン各3mM、チミジン1mM水溶液、40℃に加熱して溶解し、濾過滅菌し、−20℃で保存する)4ml、2−メルカプトエタノール4μl(0.1mM)、LIF 100μl(2000U/ml))、M2培地(Sigmaなどから入手可能)、M16培地(Sigmaなどから入手可能)、酸性タイロード液(Sigmaなどから入手可能)、抗マウス血清(マウス脾臓細胞またはリンパ球5×10細胞をウサギに2週間おきに3回静脈免疫し、最終免疫から2週間後に採血する。これを抗血清として非働化し−80℃で保存する)、モルモット補体、流動パラフィン(軽質;ナカライテスクなどから入手可能)を用意することが必要である。実験器具としては、COインキュベーター、実体顕微鏡、キャピラリー、マルチウェルプレート(例えば、4ウェル、12ウェル、NUNCなどから入手可能)を用意するとよい。
以下にES細胞の樹立の例示的なプロトコール記載する。このプロトコールは、京都大学再生医科学研究所においてまとめられたヒトES 細胞株樹立計画書に準じて記載されるが、本明細書では、この特定のプロトコールに限定されず、いずれのプロトコールであっても用いることができる。
(1)凍結胚の解凍と胚盤胞期までの培養
凍結保存されたヒト受精卵または胚盤胞期までの初期胚を順次解凍して培養を行う。個々の凍結胚容器からは提供者を同定できるものは除去されているため、各回の解凍・培養実験に使用されたヒト受精胚の出自は同定され得ない。しかしながら、各々のヒト受精胚の取扱がおろそかにならないように、凍結胚として受け入れた時点からひとつの凍結容器内に納められたヒト受精胚を樹立研究の過程で個々の存在として尊重し、どのような経過をたどったかを記録する。
(2)内部細胞塊の分離と細胞株の樹立
胚盤胞期まで到達した胚(受精後の発生期間が14日以内のもの)について、抗ヒト血清による免疫手術などの方法によって内部細胞塊を分離したのち、フィーダー細胞層の上で培養する。フィーダー細胞としては、本実施例において例示されるフィーダー細胞を用いることができる。内部細胞塊を採取した後の残部についても、礼節をもって取扱う。フィーダー細胞の上で増殖した細胞を適時に解離して分割継代し、幹細胞と思われる細胞コロニーの選別培養などを行ないながら、ES 細胞と思われる細胞株を樹立する。この間に、培養維持方法や細胞凍結保存方法などの改良を目指した研究を行う。
(3) 幹細胞マーカー発現の有無および染色体検定
ES 細胞であることを確認するために、幹細胞マーカー(アルカリ性フォスファターゼ活性や特異的抗原)の検出を行なう。また核型解析を行なって染色体数や形態が正常かどうかを検定する。
(4)分化能の検定
培養下での分化能を検定するために、培養条件の変更や細胞凝集塊作成による細胞分化の誘導と各種機能細胞への分化能の解析を行なう。また免疫不全マウスなどへの移植を行なってテラトーマ形成による組織分化能の解析を行なう。
(5)安全性確保と事故防止
ヒト凍結胚の一時的保存は専用の液体窒素タンクを用いることによって、樹立計画に用いる以外の細胞や動物胚などに由来するウイルスと微生物による汚染を防ぐ。また細胞培養実験には専用の炭酸ガスインキュベーターを用いることによって、他種類の細胞との混合を防ぎ、ウイルスや微生物による汚染の可能性を小さくする。細胞培養に用いた培養液や培養器具は、実験室内で加圧高温滅菌処理を行なったのちに廃棄する。ヒト受精胚の保存および細胞株樹立を行なう実験室への入室者の管理を厳重に行う。
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に用いられ、細胞の性質をいい、1以上、好ましくは2以上の種々の組織または臓器に分化し得る能力をいう。従って、「多能性」および「多分化能」は、本明細書においては特に言及しない限り「未分化」と互換可能に用いられる。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官の構成細胞が別のものの細胞に変化することは少ない。従って多能性は通常失われている。とくに上皮性の細胞は他の上皮性細胞に変化しにくい。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。ES細胞は、多能性を有する。組織幹細胞は、多能性を有する。本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は全能性といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ある細胞が多能性を有するかどうかは、たとえば、体外培養系における、胚様体(Embryoid Body)の形成、分化誘導条件下での培養等が挙げられるがそれらに限定されない。また、生体を用いた多能性の有無についてのアッセイ法としては、免疫不全マウスへの移植による奇形種(テラトーマ)の形成、胚盤胞への注入によるキメラ胚の形成、生体組織への移植、腹水への注入による増殖等が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は「全能性」といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ただし、明確に区別する場合は、全能性と多能性とは区別され得、前者はどのような細胞へも分化し得る能力をいい、後者は、複数の方向を有するが、生物が可能なすべての方向には分化できない能力を有することをいう。また、1つの方向にのみ分化する能力は、単能性ともいう。
本明細書において全能性と多能性とは、例えば、受精後の日数により判定することができ、例えば、マウスであれば、受精後約8日を基準として区別され得る。理論に束縛されないが、マウスでは、受精後、以下のような経過をたどることが通常である。受精後6.5日(E6.5とも表記する)では、原始線条(原条ともいう)がエピブラストの片側に出現し、胚の将来の前後軸が明らかになる。原条は、胚の将来の後方端を示し、外胚葉を横切って円筒の遠位端まで達する。原条は、細胞運動が行われる領域であり、その結果、将来の内胚葉と中胚葉とが形成されることになる。E7.5までに結節の前方に頭部突起が出現し、この部分には脊索と、それを取り囲んで下層には将来の内胚葉、上層には神経板が形成されることになる。結節は、E6.5日ごろから現れ、後方へと移動し、軸構造が前から後ろへと形成される。E8.5日までに胚は幾分丈が長くなり、その前端には大部分前方神経板からなる大きな頭部ヒダが形成される。体節はE8日から1.5時間に1個の割合で前方から後方へと形成され始める。この時期を越えた細胞は、仮に胎盤に戻したとしても、脱分化をしない限りもはや全能性を示さず、個体を形成しない。これより前では特別の処理をしなくても全能性を示し得ることから、この点が全能性の分岐点であるといえる。このことは、ES細胞がこれ以降の胚から樹立することが困難であり、これ以降の胚からは通常EG(生殖細胞由来)細胞と呼ばれる細胞が樹立されることから、そのような意味でも分岐点であるといえる。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において用いられる場合、分化細胞は、集団または組織の形態であってもよい。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
本明細書において「繊維芽細胞」とは、支持組織の繊維成分を供給し,繊維性結合組織の重要な成分をなす細胞をいう。組織切片図では、扁平で長目の外形をもち、不規則な突起を示すことが多い。細胞質は、ミトコンドリア、ゴルジ体、中心体、小脂肪球などを含むが、そのほかに特殊な分化は示さない。核は楕円形をしており、しばしば膠原繊維に密接して存在する。
本明細書において「フィーダー層」または「フィーダー細胞」(feeder layerまたはfeeder cell)とは、互換可能に用いられ、培養基質に設けられる、単独では培養維持することのできない細胞種の増殖および/または分化形質発現を可能にするような、他の細胞種による支持細胞層をいう。組織細胞には、通常の細胞培養条件下では,分化形質発現はもとより増殖すらできない細胞種も多いといわれており、そのような細胞としては、例えば、幹細胞(特に、ES細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞など)などが挙げられるがそれらに限定されない。これらの細胞種は一般に、栄養要求性が高く特異的な増殖因子、分化誘導因子を必要とする。このような細胞種でも生体内でのその細胞種の支持細胞あるいはそれと類似の細胞が形成する特定の細胞の層を培養基質に活用することで、培養される細胞種が要求する因子および/または栄養源が供給されることによって、増殖および分化をするようになる。フィーダー細胞として用いる細胞種は、対象となる細胞種によって選択されるが、UV照射、マイトマイシンCなどの抗生物質処理などの方法で細胞増殖を抑制して用いることが多い。
本明細書において「対応物」とは、例えば、細胞について用いられる場合、ある種の生物中の細胞に関し、同様の性質および/または機能を有する別の種の細胞をいう。
本明細書において「胎児」または「胎仔」とは、交換可能に用いられ、哺乳動物の子が各器官原基の分化を完了し,成長期に入ったときから出産までの期間にある生物体をいう。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。樹立された分化細胞は、特定の確定した機能を有する。樹立された分化細胞は癌化していることが多いが、それに限定されない。
本明細書において本明細書において「分化」とは、一般的には、1 つの系が 2 つ以上の質的に異なる系に分離することをいい、細胞、組織または臓器について用いられるとき、機能および/または形態が特殊化することをいう。分化に伴い、通常、多能性は減少または消失する。
本発明の細胞は、細胞の保存を支持する限り、任意の培地または培養液を用いることができる。そのような培地または培養液としては、例えば、ダルベッコ改変Eagle培地(DMEM)、M2、M16、P199、改変Eagle培地(MEM)、ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)、Ham’s F12、Eagle基本培地(BME)、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)、DMEM/F12(1:1)などが挙げられるがそれらに限定されない。保存用の培養液と解凍用の培養液は、同一または異なるものが使用され得る。
このような培地または培養液には、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、骨形成タンパク質(BMP)、血小板由来増殖因子(PDGF)などの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、血清(ウシ胎仔、ウマ、ヒトなど)、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF・IL−2・IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウムなどを1つまたはその組み合わせとして含ませておいてもよい。
本明細書において「分化因子」とは、「分化促進因子」ともいい、分化細胞への分化を促進することが知られている因子(例えば、化学物質、温度など)であれば、どのような因子であってもよい。そのような因子としては、例えば、種々の環境要因を挙げることができ、そのような因子としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)などまたはそれらの任意の組み合わせが挙げられるがそれらに限定されない。そのような因子のうち代表的なものとしては、DNA脱メチル化剤(5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(トリコスタチンなど)、核内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本明細書において自己または自家とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。本明細書において自己というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片をも含み得る。
本明細書において同種(同種異系)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される個体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系のものは、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような細胞などの例としては、親由来の細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において異種とは、異種個体から移植されるものをいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植物は異種移植物という。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植される細胞などを受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植される細胞などを提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。レシピエントとドナーとは同じであっても異なっていてもよい。
本発明で使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。
本明細書において「移植」とは、本発明の細胞、組成物、医薬などを、単独で、または他の治療剤と組み合わせて体内に移入することを意味する。本発明は、以下のような治療部位(例えば、骨などなど)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る:本発明の医薬などの障害部位への直接注入し、貼付後に縫合し、挿入する等の方法があげられる。本発明の脂肪幹細胞と、分化細胞との組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、分化促進因子)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与または移植は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる細胞、医薬、化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
本明細書において「保存」とは、細胞、組織または臓器について用いられるとき、その機能および/または形態を実質的に保持させることをいう。特に、幹細胞の保存とは、細胞としての生存能のほか、好ましくは、幹細胞が有する多分化能を実質的に保持することをも含む。
本発明の「保存効率」は、解凍後の細胞の増殖能力、および幹細胞が有する多分化能を評価することによって算出することができる。そのような評価は、相対的または絶対的に行うことができる。
そのような評価は、例えば、凍結保存法の効率については、解凍後4日目のES細胞のコロニー数および、ES細胞数をカウントするというアッセイによって行うことができる。この方法において、解凍後の細胞の増殖能力はES細胞のコロニー数およびES細胞の細胞数として求め、解凍後の多分化能は、未分化特異的マーカー(例えば、Oct3/4など)の発現および未分化ES細胞コロニー特異的な形態)を指標として求めることができる。一般の細胞の凍結保存効率を求める方法として、トリパンブルー染色による細胞の生死の判別法が用いられることもあるが、この指標は必ずしも解凍後の細胞の増殖を保証するものではないことから、本明細書では、解凍後の細胞増殖量を直接計測することによって、凍結保存法の効率を測定することを採用する。
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織または臓器の一部が失われた際に、欠如した組織が補填されて復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨および末梢神経の再生医療がある。あるいは、本発明の凍結保存方法を利用して樹立された幹細胞を用いれば、どのような組織の再生も原理的には行うことができ、そのようにして調製された本発明の臓器、組織および細胞が再生のための移植物として提供される。細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞およびその分化細胞、造血幹細胞およびその分化細胞ならびに間葉系幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞およびその分化細胞、膵幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。
本発明において、幹細胞は遺伝子改変することができる。幹細胞は培養細胞であるので、他の培養細胞と全く同様に種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、リポゾーム法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法等)が利用できる。また、導入できる遺伝子も何ら制限されるものではなく、細菌、動物またはヒトの染色体に由来する遺伝子などを挙げることができるがそれに限定されない。同様に、ES細胞株を利用するジーンターゲッティングの方法として使用されるターゲッティングベクターを用いた内在遺伝子の相同遺伝子組換えによる改変も可能である。
本発明の方法によって保存された幹細胞は、対象とし得る疾患、障害、状態は、臓器または組織の再生が所望される任意の疾患、障害、状態を含む。本発明は特に、長期保存が要求される状況において幹細胞が処置に必要である疾患、障害、状態が対象として特に有利である。
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、循環器系(血液細胞など)であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期);心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫)が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、T細胞欠損症、白血病が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、運動器・骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、筋ジストロフィー、骨軟骨異形成症が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型等が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、食道疾患(たとえば、食道癌)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃癌、十二指腸癌)、小腸疾患・大腸疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱癌など)が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明が医薬目的で使用される場合、そのような医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。医薬目的で使用される場合は、そのまま医薬として使用することのほか、解凍してもとに戻してから医薬として使用することも含まれることが理解される。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、ジメチルスルホキシド(DMSO);プロピレングリコール;およびC)培地を含む媒体、あるいはその媒体を用いて維持された幹細胞あるいはその幹細胞から調製された分化細胞などを、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。
必要に応じて本発明の医薬は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤を含んでいてもよい。
本発明の処置方法において使用される医薬の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。投与する量は、処置されるべき部位が必要とする量を見積もることによって確定することができる。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用できるアッセイもしくは機器使用による標準的な臨床検査の結果または上記疾患(例えば、造血疾患、神経疾患、心臓疾患など)に特徴的な臨床症状の消滅によって支持され得る。治療は、上記疾患(例えば、造血疾患、神経疾患、心臓疾患など)の再発により再開することができる。
本発明はまた、本発明の医薬の1つ以上の成分(例えば、ES細胞のような幹細胞)および本発明の保存媒体を満たした1つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。
本発明が研究用試薬として使用される場合、本発明の幹細胞は、当局の定める倫理規定に従って、本発明の保存媒体を用いて分配されることが望ましい。そのような規定としては、例えば、日本政府が定めるものが挙げられるがそれに限定されない。以下にその規定の例を記載する。
樹立機関の業務および義務として政府指針などに定められているもの従い、ヒトES細胞の樹立および使用に関する指針に従って承認された研究計画をもつ使用機関からの要請を受けて、樹立後特性解析を行った細胞株を本発明の保存媒体を用いて分配する。分配の開始の時期としては、多分化能と正常核型の検定と確認を行った細胞株を増殖させて、細胞株保存のために必要な数の凍結細胞サンプルが得られた時点から分配を始めることが企図される。
樹立と分配を開始する時点では、分配機関が分配に責任を持って担当する。分配機関には細胞培養に必要なクリーンルームと機器および細胞凍結保存用液体窒素タンクが整備されるべきである。ヒトES細胞株の樹立チームが使用し、その人員構成は、例えば、研究者5名(内2名は医師免許保持者が好ましい)からなる。細胞の分配を開始する時点では、さらに実験補佐員2名程度と事務補佐員1名程度が実務を分担してもよい。細胞分配および研修の要請の増加に応じて、あらたに人員および施設を増加させることが好ましい。
分配の方法および条件は例えば以下のようなものを挙げることができる:ES細胞株の維持および増殖の継続に必要な樹立機関における細胞ストックの確保が優先されるべきである。
幹細胞の提供者がヒトである場合、インフォームド・コンセントを得る必要がある。
ヒト受精胚の提供候補者については、ES細胞研究に(好ましくは、本発明の保存媒体を用いた)凍結胚を提供依頼にあたってのインフォームド・コンセントによる同意が与えられるかどうかを、次のような手順に従って確認する。不妊治療の開始から凍結胚の廃棄決定に至る手続き、および関連文書、その後に始まるES細胞研究への提供に関するプロセスの例示的概要を示す。
(1) 不妊治療の結果作られて凍結保存されているヒト受精胚が、子宮へ移植されることなく廃棄させることが決定するまでは、ES細胞研究とは全く無関係な不妊治療プロセスとして患者と不妊治療担当医師による臨床的問題である。
(2) 廃棄させることが決定した凍結胚について、不妊治療担当医師が中立的立場を保ちながら、ES細胞の研究について説明を受けるかどうか提供候補者に質問する。
(3) 説明を受けたいとの意思を示した提供候補者に対して、樹立機関の説明者(樹立責任者以外)がES細胞とはなにか、将来の医療への応用の可能性、研究内容の概要、ES細胞株樹立によって提供者は利益も不利益も受けないこと、提供者のプライバシーは保護されること、などについて十分に説明する。これらの説明は、全く中立の立場で行われる。
(4) 提供候補者は説明を受けた後に、提供医療機関の長に対して提供に同意するかどうかを回答する。同意はインフォームド・コンセントの書類への署名を必要とし、その書類は提供医療機関が厳重に保管する。特定の提供候補者による同意あるいは不同意に関する結果は樹立関係者には伝えない。
(5) 提供候補者による同意の署名から一ヶ月間以上の猶予期間をおいて、提供候補者の意思に変更がない場合は、凍結胚を樹立機関に移送する。その際、複数の提供者からの凍結胚を同時に引渡すとともに、凍結胚容器からは提供者を同定できるラベルなどを完全に除去しておく。従って、樹立機関の説明担当者が複数の提供候補者と面会はするが、その氏名などの個人情報は知ることがなく、またそれらの候補のうち誰が同意して提供者となったかも知ることがないので、提供者の匿名性は保証され得る。さらに、複数の提供者からの凍結胚を使ってその一部のみから細胞株が樹立されるので、どの提供者の胚から実際にES細胞株が樹立されたかは樹立機関と提供医療機関の両者ともに知ることができないようにする。
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、試薬、細胞、本発明の保存媒体など)が提供されるユニットをいう。混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。例えば、本発明の保存媒体を用いて保存をする場合、各成分(例えば、DMSO、プロピレングリコール、エチレングリコール、アセトアミドなど)が各々配置されている。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、試薬、細胞、本発明の保存媒体の各成分など)をどのように処理すべきかを記載する説明書を備えていることが有利である。このような説明書は、どのような媒体であってもよく、例えば、そのような媒体としては、紙媒体、伝送媒体、記録媒体などが挙げられるがそれらに限定されない。伝送媒体としては、例えば、インターネット、イントラネット、エクストラネット、WAN、LANなどが挙げられるがそれらに限定されない。記録媒体としては、CD−ROM、CD−R、フレキシブルディスク、DVD−ROM、DVD−R、MD、ミニディスク、MO、メモリースティックなどが挙げられるがそれらに限定されない。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al. (1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed. (2001); Ausubel, F. M. (1987). Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. AssociatES and Wiley−Interscience; Ausubel, F. M. (1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley−Interscience; Innis, M. A. (1990). PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F. M. (1992). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F. M. (1995). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M. A. et al. (1995). PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F. M. (1999). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J. J. et al. (1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait, M. J. (1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M. J. (1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F. (1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R. L. et al. (1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al. (1994). Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G. M. et al. (1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G. T. (I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。なお、本発明の好ましい実施形態において使用される場合、特に言及しない限り、%は重量%を示す。
(幹細胞保存−DA媒体)
1つの局面において、本発明は、幹細胞を保存するための媒体(medium)であって、A)DMSO;B)プロピレングリコール;およびC)培地(culture medium)、を含む、媒体(本明細書において「DA媒体」とも称する)を提供する。ここで、DMSOは、細胞培養および/または保存に適したものであれば、どのような等級または由来のものであっても使用することができる。プロピレングリコールもまた、細胞培養および/または保存に適したものであれば、どのような等級または由来のものであっても使用することができる。このようなものは、各々の成分が単独で市販されたものを使用することができる。培地としては、細胞培養および/または保存に適したものであれば、どのような等級または由来のものであっても使用することができる。そのような培地としては、例えば、DMEM培地、F12培地、CMK培地(実施例1において説明される)、DMEM/F12(1:1)培地などまたはそれらの混合物を含むものを使用することができるがそれらに限定されない。好ましくは、このような培地としては、CMK培地が使用されるがそれらに限定されず、保存が企図される幹細胞に応じてその培地は変更して使用することができる。このような培地には、ウシ胎仔血清(FBS)、KSRなどの補充物が補充されていてもよい。好ましくは、DMEM/F12(1:1)培地+KSRが使用され、より好ましくは、DMEM/F12(1:1)培地+20%KSRが使用される。
本発明は、プロピレングリコールとDMSOとの混合物が、幹細胞の保存(特に、凍結保存)に特に適切であることを初めて見出したことによって完成されたものであり、それゆえ、この混合物が適切な培地中に適切な濃度で存在していることが必要である。そのような濃度は、本明細書の開示をもとに当業者が適宜決定することができるが、好ましくは、例えば、DMSOとプロピレングリコールとは、通常、約1:5〜約5:1で混合され、好ましくは約1:2〜約2:1のモル比率で混合され、より好ましくは、DMSOとプロピレングリコールとは、約1:1よりDMSOが若干多いモル比率(例えば、約3:2のモル比率)で混合されることが有利である。このような比率でこれらの成分を混合した媒体を用いることによって、従来達成不可能であった程度で幹細胞(特に、ES細胞)を凍結保存することが可能になった。
1つの実施形態において、本発明において使用されるDMSOは、本発明の媒体中15〜40%を占めることが好ましいがそれに限定されず、15%未満または40%以上DMSOが含まれる媒体もまた、本発明の目的に応じて使用することができることが理解され得る。
別の実施形態において、本発明において使用されるプロピレングリコールは、本発明の媒体中約5%〜約35%を占めることが好ましいがそれに限定されない。5%未満または35%以上プロピレングリコールが含まれる媒体もまた、本発明の目的に応じて使用することができることが理解され得る。
好ましい実施形態において、DMSOとプロピレングリコールとは、合計で、本発明の媒体の約30%より多く、かつ、本発明の媒体の約50%未満を占めることが好ましい。この範囲において、従来に比べて少なくとも3倍の、より好ましくは5倍の、さらに好ましくは10倍の保存効率が達成されたからである。従って、この範囲はあくまでも好ましい範囲であり、当業者は、DMSOとプロピレングリコールとが、認識可能な程度の量で混合される限り、従来達成されていた効率より高い保存効率で幹細胞(特に、ES細胞)を保存することができることを理解する。
好ましい実施形態において、本発明の媒体は、アセトアミドおよび糖からなる群より選択される成分をさらに含む。より好ましくは、本発明の媒体は、アセトアミドを含むことがなお有利である。アセトアミドを含むことによって、より高い保存効率が達成されたからである。アセトアミドは、任意の割合で本発明の媒体に含ませることができるが、好ましくは、DMSOまたはプロピレングリコールの10%〜100%の間、より好ましくは25%〜75%の間の割合で含ませることができる。あるいは、本発明の媒体中に0.5M〜1.5Mの間で存在することが好ましい。また、ある実施形態において、本発明において糖を含むことが好ましいのは、糖を含むことによって、凍結保存効率が上昇することが一般的に知られているからである。この糖としては、例えば、スクロースを含ませることができるが、それに限定されず、例えば、グルコース、ラフィノース、トレハロース、フィコール(Ficoll)、ラクトース、ソルビトールなどを挙げることができるがそれらに限定されない。
別の好ましい実施形態において、本発明の媒体において、DMSOは、約1〜4Mの間で存在し、より通常には約1〜3Mの間で存在し、同様にプロピレングリコールは、約1.5〜6Mの間で存在し、より通常には約2〜4Mの間で存在する。より好ましくは、それぞれ、DMSOは約2Mで存在し、プロピレングリコールは約3Mで存在することが有利である。この濃度で存在することによって、凍結保存効率が従来のガラス化凍結法に比べて少なくとも3倍、通常少なくとも約5倍になるからである。
ここで、2倍濃度で作製するとタンパク質、塩などが析出して液が濁ることがあるが、そのような場合、析出した後の液状の媒体を使用することができる。従って、これらの成分の合計濃度の上限は、通常およそ10Mであるが、各々の成分の比率によっても変化する。このような上限は、当業者が本明細書を参酌して容易に決定することができる。また、この上限濃度は、基材にする培地のタンパク質濃度によっても最高濃度が変わり得る。好ましくは、例示の範囲で、沈殿等を生じない組み合わせとしては、例えば、合計9Mを挙げることができるがそれに限定されない。最も好ましい組み合わせは、DMSO、アセトアミドおよびプロピレングリコールが、それぞれ約2M、約1Mおよび約3M付近である。アセトアミドについては、除去しても他の2成分の濃度を最適にすると7割程度の効果はあることから、0−2Mの濃度範囲が適切であり得、好ましくは0.5M〜2Mであり得る。
別の好ましい実施形態において、本発明の媒体において、DMSOは、約1〜4Mの間で存在し、より通常には約1〜3Mの間で存在し、同様にプロピレングリコールは、約1.5〜6Mの間で存在し、より通常には約2〜4Mの間で存在し、かつ、アセトアミドをさらに含み、このアセトアミドは、通常は、約0〜2M、より通常には、約0.5M〜2M存在する。より好ましくは、本発明の媒体において、DMSOは、約2Mで存在し、プロピレングリコールは約3Mで存在し、かつ、アセトアミドは、約1Mで存在することが有利である。この濃度で存在することによって、凍結保存効率が従来のガラス化凍結法に比べて少なくとも5倍、通常約10倍程度になるからである。
本発明が保存の対象とする幹細胞は、どのような幹細胞であってもよく、したがって、組織幹細胞およびES細胞を含む幹細胞から任意に選択される。組織幹細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、心筋幹細胞、骨髄細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、本発明が保存の対象とする幹細胞は、ES細胞を含む。ES細胞は、多能性を保持しつつ保存することが困難であると考えられており、本発明によって、初めて、従来では達成できなかった保存効率を達成することができたからである。本発明によって達成することができた保存効率によって、ES細胞の一般配布という行為が実質的に可能になったという事実にかんがみると、本発明の産業上における有用性および意義は高い。特に、本発明が対象とする幹細胞は、霊長類ES細胞であり、特にヒトES細胞である。このような霊長類、特にヒトのES細胞が保存可能になったことによって、一般配布が可能になり、霊長類およびヒトES細胞を用いた研究を行うことが格段に進歩したということは特筆に価するということができる。
本発明の幹細胞の保存は、通常凍結保存であるがそれに限定されない。本発明のDMSO、プロピレングリコールなどを含む媒体は、凍結保存によってその効力を通常発揮すると考えられるからである。
好ましくは、本発明の幹細胞の保存は、凍結保存によって行われる。凍結保存は、媒体が凍結するような状態で、行われるのあれば、どのような形態であってもよいが、通常0℃以下、−20℃以下、好ましくは、−80℃以下、より好ましくは、−150℃以下、さらに好ましくは液体窒素下またはそれよりも低い温度で行われることが好ましい。
好ましい実施形態において、本発明の保存は、急速凍結保存によって行われる。本発明において「急速凍結保存」とは、通常30℃/分以上の速度で、より通常には50℃/分以上の速度で凍結されることをいう。好ましくは、急速凍結保存は、100℃/分以上、より好ましくは、500℃/分以上であることが有利である。ここで、凍結速度は、初速および終速については、考慮しないことが好ましい。あるいは、この凍結速度は、平均速度であり得る。凍結開始直後、および目的とする温度に達する直前は、通常凍結速度が緩和される可能性が高いからである。あるいは、通常の培養温度(例えば、37℃)から、目的とする凍結保存温度(例えば、−196℃)までに要する時間が例えば、通常5分以内、より好ましくは3分以内、さらに好ましくは1分以内、もっとも好ましくは15秒以内であることもまた、急速凍結保存の定義内に入る。
別の好ましい実施形態において、本発明の保存の後、実際に使用する際には、本発明の幹細胞は、急速解凍されることが有利である。本発明において「急速解凍」とは、通常30℃/分以上の速度で、より通常には50℃/分以上の速度で解凍されることをいう。好ましくは、急速解凍は、100℃/分以上、より好ましくは、500℃/分以上であることが有利である。ここで、解凍度は、初速および終速については、考慮しないことが好ましい。あるいは、この凍結速度は、平均速度であり得る。解凍開始直後、および目的とする温度(例えば、37℃)に達する直前は、通常解凍速度が緩和される可能性が高いからである。あるいは、通常の保存温度(例えば、−196℃)から、目的とする温度(例えば、37℃)までに要する時間が例えば、通常5分以内、より好ましくは3分以内、さらに好ましくは1分以内、もっとも好ましくは15秒以内であることもまた、急速解凍の定義内に入る。
本発明では、急速凍結および急速解凍は、速ければ速いほどよいことが理解される。
本明細書において「ガラス化保存法」または「ガラス化法」とは、本明細書において交換可能に用いられ、非特許文献4に記載されるような従来技術に記載される方法をいい、特に、幹細胞などの凍結すべき細胞を、液体窒素などでの極低温での凍結および解凍により、保存および再利用する方法をいう。従来のガラス化法では、通常ストロー状の開口管を用いて凍結することが特徴であり、このような方法では、汚染の危険性がある。また、従来のガラス化法は、卵、精子または胚の凍結に用いられてきた方法であるが、ガラス管を用いるため、保存できる量が比較的少なく、操作も煩雑であるという欠点もあった。本発明は、これらの欠点を克服するという利点も有する。
本明細書において「簡易ガラス化保存法」または「簡易ガラス化法」は、本明細書において交換可能に用いられ、幹細胞などの凍結すべき細胞を、本発明の媒体を用いて液体窒素などを用いて急速冷凍し、その後、急速解凍する方法をいい、本発明において初めて提供されるものであり、本発明の範囲内にある。従来のガラス化法とは、ストロー状の開口管を用いるのではなく、好ましくは封入管のような汚染しにくいものを用いる点に特徴があり、このほか、簡易ガラス化法では、凍結細胞数のスケールアップが容易であり、ガラス化法に比べて操作が楽で簡易であるという利点があり、さらに、特別な器具(例えば、ガラス管)を用いる必要がないという点も特徴である。
(DE媒体)
別の局面において、本発明は、幹細胞を保存するための媒体(medium)であって、A)DMSO;B)エチレングリコール;およびC)培地(culture medium)、を含み、ここで、該DMSOおよび該エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、媒体(本明細書において「DE媒体」ともいう)を提供する。この媒体は、スクロースを含む場合にDES媒体とも呼ばれ、ガラス化凍結法で頻繁に用いられているが、本発明では、従来よりも薄いDMSOおよび/またはエチレングリコールを用いることによって、予想外に高い効率で幹細胞を保存することができたということが初めて見出された。特に、DMSOおよびエチレングリコールは、約15%ずつ含まれる場合に、従来のDES媒体(DMSO20%、エチレングリコール15%、スクロース0.5M)よりも顕著に高い保存効率(例えば、0.75×DESの場合約5倍)を達成することができたことは驚くべき発見である。このように、本発明の好ましい媒体では、糖を含むことが有利である。糖を含むことによって、凍結保存効率が上昇することが一般的に知られているからである。この糖としては、例えば、スクロースを含ませることができる。
依り好ましい実施形態では、本発明の媒体において、DMSOは本発明の媒体の約7.5%〜30%含まれ、エチレングリコールは本発明の媒体の約7.5%〜30%含まれ、スクロースは、約0.1875M〜0.75M含まれることが有利である。
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明の媒体において、DMSOは本発明の媒体の約15%含まれ、エチレングリコールは本発明の媒体の約15%含まれ、スクロースは、約0.375M含まれることが有利である。この比率において、従来のDES×1媒体を用いた場合に比べて約5倍以上の保存効率を達成したからである。
好ましくは、本発明の幹細胞のDE媒体を用いた保存は、凍結保存によって行われる。凍結保存は、媒体が凍結するような状態で、行われる限り、どのような形態であってもよいが、通常0℃以下、−20℃以下、好ましくは、−80℃以下、より好ましくは、−150℃以下、さらに好ましくは液体窒素下またはそれよりも低い温度で行われることが好ましい。DE媒体を用いた場合もまた、急速凍結保存を行うことが好ましい。
(DA媒体を用いた細胞保存法)
別の局面において、本発明は、幹細胞を保存するための方法であって、A)a)DMSO;b)プロピレングリコール;およびc)培地、を含む、媒体中で、幹細胞を急速凍結させる工程、を包含する、方法を提供する。ここで、この媒体において含まれるDMSO、プロピレングリコール、培地およびその他の成分についての詳細な説明は、上述のDA媒体の節において詳述されており、本発明の細胞保存法においてもまた、そこで説明される任意の形態を採用することができることが理解される。ここで、急速凍結もまた、上述のDA媒体の節において説明されており、本発明の細胞保存法においてもまた、そこで説明される任意の形態を採用することができることが理解される。
好ましくは、本発明における急速凍結は、封入管を用いて行われる。従来のガラス化凍結保存法では、先が開いたストロー状の管を用いて、幹細胞を凍結していた。保存効率に影響があるとされていたからである。しかし、そのような開放的な構造では、細胞汚染の問題が生じることから、本発明では、そのような構造のものを使用しないことが好ましい。しかも、本発明では、そのようなストロー状のものを使用しなくても、高度の細胞保存効率を達成したことは従来の保存技術からは達成できなかったことといえる。
好ましい実施形態において、本発明の保存方法の際に採取される幹細胞は、大きなコロニーのまま剥離されたものである。理論に束縛されることを望まないが、大きなコロニーのまま剥離されたほうが、細胞の凍結保存効率が上昇するからである。
本発明の保存方法において、幹細胞と、媒体とは、通常1×10/100μl〜5×10/100μlの比率で存在し、好ましくは、1×10/100μl〜1×10/100μlの範囲で存在することが有利である。理論に束縛されることを望まないが、上記範囲内の比率で細胞を混ぜることによって、少なすぎると操作の際にロスすることが多くなり、多すぎると細胞を懸濁することが難しくなることが予測されるからである。
1つの実施形態において、本発明の急速凍結は、任意の凍結手段を用いて行われるが、好ましくは、液体窒素中で行われる。比較的安価でかつ急速凍結を容易に行うことができるからである。液体窒素を用いた凍結を行う場合には、管の全体が液体窒素に浸されていること、細胞に保存液を加えた後、速やかに液体窒素中に浸すという点に注意する必要がある。細胞保存効率に影響することが考えられるからである。また、低温フリーザーまたはドライアイスを用いるよりも急速に凍結することができるという効果が期待されるからである。
好ましい実施形態において、本発明の急速凍結の後、保存し、その後、使用時には、急速に解凍する工程をさらに包含することが有利である。理論に束縛されることを望まないが、急速に解凍することによって、細胞の保存時の生存効率を上げることが可能となったからである。
上記急速凍結および急速解凍は、上記DA媒体の節において行った説明に記載されている任意の形態を用いることができる。
1つの実施形態において、本発明の幹細胞の保存において、急速解凍は、ウォーターバス中で振とうして解凍することも可能であり、温めた培地を加えピペッティングすることが好ましい。速やかに細胞を解凍することができるからである。
本発明が保存の対象とする幹細胞は、どのような幹細胞であってもよく、したがって、組織幹細胞およびES細胞を含む幹細胞から任意に選択される。組織幹細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、心筋幹細胞、骨髄細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、本発明が保存の対象とする幹細胞は、ES細胞を含む。ES細胞は、多能性を保持しつつ保存することが困難であると考えられており、本発明によって、初めて、従来では達成できなかった保存効率を達成することができたからである。本発明によって達成することができた保存効率によって、ES細胞の一般配布という行為が実質的に可能になったという事実にかんがみると、本発明の産業上における有用性および意義は高い。特に、本発明が対象とする幹細胞は、霊長類ES細胞であり、特にヒトES細胞である。このような霊長類、特にヒトのES細胞が保存可能になったことによって、一般配布が可能になり、霊長類およびヒトES細胞を用いた研究を行うことが格段に進歩したということは特筆に価するということができる。
(DE媒体を用いた保存方法)
別の局面において、本発明は、幹細胞を保存するための方法であって、A)a)DMSO;b)エチレングリコール;およびc)培地(culture medium)、を含み、ここで、該DMSOおよび該エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、媒体中で、幹細胞を凍結させる工程、を包含する、方法を提供する。
ここで、DE媒体としては、上記DE媒体の節において説明されている任意の形態を用いることができる。
好ましくは、本発明の幹細胞の保存は、凍結保存によって行われる。凍結保存は、媒体が凍結するような状態で行われる限り、どのような形態であってもよいが、好ましくは、0℃以下、−20℃以下、−80℃以下、より好ましくは、−150℃以下、さらに好ましくは液体窒素下またはそれよりも低い温度で行われることが好ましい。DE媒体を用いた場合、好ましくは急速凍結保存を行うことが有利である。
(DA媒体を用いた幹細胞保存システム)
別の局面において、本発明は、幹細胞を保存するためのシステムであって、A)a)DMSO;b)プロピレングリコール;およびc)培地、を含む、媒体;B)急速凍結する手段、を備える、システムを提供する。ここで、この媒体において含まれるDMSO、プロピレングリコール、培地およびその他の成分についての詳細な説明は、上述のDA媒体の節において詳述されており、本発明の細胞保存法においてもまた、そこで説明される任意の形態を採用することができることが理解される。ここで、急速凍結もまた、上述のDA媒体の節において説明されており、本発明の細胞保存法においてもまた、そこで説明される任意の形態を採用することができることが理解される。従って、急速凍結する手段としては、任意の凍結手段(例えば、液体窒素)を用いることができる。本発明の急速凍結手段は、上記「DA媒体を用いた細胞保存法」の節において例示されている任意のものを使用することができる。
好ましくは、本発明のシステムは、さらに、封入管を備えることが好ましい。封入管を使用することによって、本発明は、無菌的に幹細胞を効率よく保存することができるようになったからである。このような無菌的な高効率の保存方法は、従来開示されておらず、その有用性および意義は高い。
本発明のシステムが保存の対象とする幹細胞は、どのような幹細胞であってもよく、したがって、組織幹細胞およびES細胞を含む幹細胞から任意に選択される。組織幹細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、心筋幹細胞、骨髄細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、本発明が保存の対象とする幹細胞は、ES細胞を含む。ES細胞は、多能性を保持しつつ保存することが困難であると考えられており、本発明によって、初めて、従来では達成できなかった保存効率を達成することができたからである。本発明によって達成することができた保存効率によって、ES細胞の一般配布という行為が実質的に可能になったという事実にかんがみると、本発明のシステムもまた、産業上における有用性および意義は高い。特に、本発明が対象とする幹細胞は、霊長類ES細胞であり、特にヒトES細胞である。このような霊長類、特にヒトのES細胞が保存可能になったことによって、一般配布が可能になり、霊長類およびヒトES細胞を用いた研究を行うことが格段に進歩したということは特筆に価するということができる。
(DE媒体を用いたシステム)
別の局面において、本発明は、幹細胞を保存するためのシステムであって、A)a)DMSO;b)エチレングリコール;およびc)培地(culture medium)、
を含み、ここで、該DMSOおよび該エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、媒体;B)凍結する手段、を備える、システムを提供する。ここで、使用されるDE媒体中のDMSO、エチレングリコールなどは、上述のDE媒体の節において説明される任意の形態を用いることができる。凍結手段は、当該分野において使用される任意の手段を用いることができる。そのような手段としては、例えば、液体窒素、低温フリーザー、冷凍庫、塩を付加した氷、ドライアイスなどが挙げられるがそれらに限定されない。
(保存媒体の凍結保存のための使用)
別の局面において、本発明は、a)DMSO;b)プロピレングリコール;およびc)培地、を含む、媒体の、幹細胞を急速凍結保存するための、使用を提供する。ここで、DMSO、プロピレングリコール、培地および追加の成分としては、上述のDA媒体の節において説明される任意の形態を用いることができる。凍結保存についてもまた、上述のDA媒体の節において説明される任意の形態を用いることができ、当業者は上述の開示および下記実施例の記載から適宜任意の適切な形態で実施することができることが理解される。
他の局面において、本発明は、a)DMSO;b)エチレングリコール;およびc)培地(culture medium)、含み、ここで、該DMSOおよび該エチレングリコールの少なくともいずれか一方は、20重量%未満である、媒体の、幹細胞を凍結保存するための、使用を提供する。ここで、DMSO、エチレングリコール、培地および追加の成分としては、上述のDE媒体の節において説明される任意の形態を用いることができる。凍結保存についてもまた、上述のDE媒体の節において説明される任意の形態を用いることができ、当業者は上述の開示および下記実施例の記載から適宜任意の適切な形態で実施することができることが理解される。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigmaから、細胞関連の試薬はGibcoから得た。動物の飼育は、National Society for Medical Researchg作成した「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成、National Institute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication,No.86−23,1985,改訂)に遵って、京都大学および日本政府が規定する基準に遵い、動物愛護精神に則って行った。ヒトを対象とする場合は、厚生労働省の基準に従い、事前に同意を得た上で実験を行う。その同意方法は、本明細書において記載されるとおりである。
(実施例1:ヒトES細胞の調製)
ヒトES細胞の調製は、提供者の合意を得た上で、情報が完全に守られる形で行う。具体的には、本明細書において別の場所において記載されるように、慎重に、かつ、認証された機関で行う。以下に示す実験は京都大学再生医科学研究所において、行われる。
まず、その一般的手順は以下のとおりである。ES細胞のソースとなる胚を取得し、凍結する。その後、凍結胚を解凍し、胚盤胞期まで培養する。次に、内部細胞塊を分離し、細胞株を樹立する。幹細胞マーカー発現の有無および染色体検定により、幹細胞であること、特にES細胞であることを確認する。ES細胞であることを確認するために、幹細胞マーカー(アルカリ性フォスファターゼ活性、特異的抗原、Oct3/4など)の検出を行なう。また核型解析を行なって染色体数や形態が正常かどうかを検定する。その後、分化能を検定する。培養下での分化能を検定するために、培養条件の変更や細胞凝集塊作成による細胞分化の誘導と各種機能細胞への分化能の解析を行なう。また免疫不全マウスなどへの移植を行なってテラトーマ形成による組織分化能の解析を行なう。
具体的には以下のように行う。
(ES細胞用培養液)
培地組成:(本明細書においてCMK培地ともいう)
DMEM/F12 (Sigma D−6421) 80ml
非必須アミノ酸(Gibco) 0.8ml
200mM L−グルタミン 1ml
KSR(Gibco) 20ml
2−メルカプトエタノール 0.8μl
ヒト白血病阻害因子(huLIF)(10μg/ml) 100μl(10ng/ml)
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(1mg/ml) 0.4μl(4ng/ml)。
(細胞解離液)
0.25% トリプシン(リン酸緩衝化生理食塩水(PBS))
1mM CaCl
20%KSR。
(ディッシュ)
フィーダーをつくる培養ディッシュは予めゼラチンコートしておく。0.1%ゼラチン溶液(swine skin、Type A:Sigma社製)で覆い、37℃で1 時間以上インキュベートする。培養ディッシュのゼラチン溶液を除き、細胞の懸濁液を加える。数時間経てばフィーダー細胞として使用可能である。
フィーダー細胞を用いたES細胞の樹立は、以下のように行った。
1.フィーダー細胞の培養液をES細胞用の培養液に交換した。
2.免疫手術法もしくは機械的操作により胚盤胞から内部細胞塊を分離した。免疫手術法は、簡単に述べると、以下のとおりである。
酵素処理などにより透明帯を取り除き、マウス表面抗原に反応する抗体溶液内でインキュベートした。次に補体溶液内でインキュベートすることによって最外層の細胞である栄養外胚葉が取り除かれ、内部細胞塊が分離された。
ヒトES細胞の場合は、ヒトの細胞表面抗原に反応する抗体溶液を用いることに留意して上記手順を行った。カニクイサル((株)ケアリーから入手)の場合は、サルの細胞表面抗原に反応する抗体溶液を用いることに留意して上記手順を行った。
3.分離した内部細胞塊をフィーダー細胞上で培養した。
4.翌日内部細胞塊がフィーダー細胞に接着していることを確認して、培養液を交換した。以後毎日培地交換した。
5.5−10日後に内部細胞塊から増殖してくるES細胞様の細胞が認められるようになった。細胞塊が100から200μmになったら継代を行った。
6.培養液をのぞき細胞解離液を入れた。
7.5から10分間処理するとES細胞様細胞が培養ディッシュよりはがれてくるので、これを細く引いたガラス管で拾い上げ数回出し入れすることで細胞塊を数個に分けた。
8.培養液中で細胞解離液を洗浄して除き、新しいフィーダー上に細胞塊を移した。
9.翌日、培養液を交換した。以後毎日培地交換した。
10.フィーダー上で個々の細胞塊が100−200μm程度に増殖するのを確認した後、同様の操作で継代を行った。
11.細胞が十分増殖するようになれば(35mm培養ディッシュ1枚に増えるぐらい)サルES細胞の通常の継代操作と同様に継代ができるようになった。この段階に達すれば以後安定した培養が可能であることが確認される。
この実施例で樹立された細胞は、幹細胞であることが確認される。
本実施例では、基本培地にDMEM/F12を使用したが、DMEMまたは他の基本培地でも問題なく使用できることが示される。
(マーカーによる染色)
次に、樹立した細胞の未分化状態を、特異的マーカーによる染色により調べた。ES細胞を、4% PFAで固定し標準的な培養細胞の免疫染色法(Willingham,M.C.et.al., 1985.An Atlas of Immunofluorescence in Cultured Cell, Academic Press, Orlando, FL, pp.1−13.) に従い免疫染色を行った。ブロッキングは0.1% Triton X/PBS/2%スキムミルクを用い室温で一時間、洗いは0.1% TritonX/PBSを用い室温で5分を4回行った。一次抗体はSSEA−4、TRA−1−60のモノクローナル抗体をそれぞれ200μg/ml(CLONTECH)を1/100希釈したものを、二次抗体はFITC標識goat 抗−mouse IgG(H+L)(ZYMED LABORATORIES,INC)を1/200希釈したものを使用した。二次抗体の反応後はローダミンファロイディン(rhodamine phalloidin)(Molecular Probe)、DAPI(SIGMA)の順に染色を行いシグナルを検出した。
ALP(アルカリホスファターゼ)の組織化学的染色は、以下のように行った。培養ディッシュをダルベッコのPBS(−)で2回洗浄した後、4℃の95%冷エタノールで30分以上固定し、次いで4℃の無水エタノールで30分以脱水した。固定液を除き、ディッシュを室温で0.1M Tris−HCl(pH9.0〜9.5)にて5分間3回洗浄した後、1.5〜2mlの染色液(ナフトールAS−BIホスフェート(シグマ社、カタログ番号N−2125)2.5mgと、ファースト赤TR塩(Sigma)15mg[またはファースト紫B塩6mg(Sigma)、ファースト青BB塩12.5mg(Sigma)]とを0.1M Tris−HCl緩衝液25mlに加え、遮光下で3〜5分間撹拌して溶解し、次いで濾過する)を各ディッシュに加え、遮光下で室温にてALPを15〜30分間染色した。PBS(−)で2回洗浄した後グリセロールを加え位相差立体顕微鏡で赤褐色に染まったES細胞コロニーを検鏡した。
結果から明らかなように、樹立した幹細胞は通常どおり多分化能を保持していることが確認された。
このようにして得たES細胞を、以下の保存実験において用いる。
本実施例では、補填成分としてKSRを使用したが、KSRのかわりに通常使用されているウシ胎仔血清でもよいようである。ただし、KSRのほうがウシ胎仔血清よりも良い結果が出るようであった。
さらに必要に応じて1〜2mg/ml のコラゲナーゼを添加した。コラゲナーゼの添加により、若干樹立しやすくなるようである。
(実施例2:サルES細胞の調製)
カニクイサルからのES細胞の調製は、実施例1において記載されるヒトのES細胞の調製に準じて行った。カニクイサルは、(株)ケアリーから入手し、施設内では、京都大学において規定される基準に従って動物愛護精神にのっとって維持した。
このようにして得たES細胞を、以下の保存実験において用いた。
(実施例3:凍結保存の凍結保存のための媒体)
(1)10% DMSO/CMK培地
9 ml のES細胞培養培地に、1mlのDMSOを加え、−30℃で保存。4℃で使用した。
(2)DES(20%DMSO,20%エチレングリコール,0.5Mスクロース/CMK培地)
スクロースを1.026g量り取り、DMSOとエチレングリコールとをそれぞれ2ml加え、ES細胞培養培地で10mlにメスアップした。−30℃で保存した。4℃で使用した。
(3)DAP(2M DMSO,1Mアセトアミド,3Mプロピレングリコール/CMK medium)
アセトアミドを0.65g量り取り、1.42mlのDMSOと2.24mlのプロピレングリコールを加え、ES細胞培養培地で10mlにメスアップした。−30℃で保存した。4℃で使用した。
(実施例4:凍結保存法の比較)
実施例2で調製したカニクイザルES細胞を10 cm ディッシュで培養し、それぞれ3分の1量ずつ、緩慢冷却法、ガラス化法、および簡易ガラス化法の3法で凍結保存を行った。−150℃で数日間保存した後、それぞれの方法により、ES細胞を解凍し、その10分の1量および、2分の1量をフィーダー細胞でコートした3.5cmディッシュに解凍した。各凍結保存法の効率については、解凍後4日目のES細胞のコロニー数および、ES細胞数をカウントして求めた。
(A1. 緩慢冷却法)
従来技術として知られる緩慢冷却法は、Geron社から販売されるキットに従って、以下のようにして行った。その概略は非特許文献3に記載されるとおりである。
1)ES細胞をトリプシン処理し、出来るだけ大きなコロニーのままはがした。
2)細胞を回収し、遠心分離した。
3)上澄みを取り除き、ペレットに1mlの凍結保存液(10% DMSO/CMK培地)を加え、軽くピペッティングした。
4)細胞懸濁液をクライオチューブ(ナルゲン、system100 クライオジェニックバイアル)に移した。
5)クライオチューブを凍結保存容器(ナルゲン、Mr.frosty)に入れ、−80℃のフリーザー中で一晩放置した。
6)翌日、−150℃のフリーザーに移し、保存した。
(A2.緩慢冷却法の解凍手順)
1)あらかじめ、15 ml遠心チューブに培地を10 ml加えたものを準備しておいた。
2)クライオチューブを37℃のウォーターバス中で振りながら、すばやく溶かした。
3)氷が半分ほど溶けたら、遠心チューブに細胞懸濁液を移し、残った氷も培地を加え、完全に溶かした後、チューブに移した。
4)1000 rpm(クボタ ユニバーサル冷却遠心分離機5800)で3分間遠心分離した。
5)上澄みを取り除き、培地にサスペンドした。
6)フィーダー細胞でコートした3.5cmディッシュ2枚に、それぞれ10分の1量および2分の1量まいた。
7)37℃、5% COの条件下で、4日間培養した。
(B1. ガラス化法)
ガラス化法もまた、従来技術に基づいて行ったが、使用した管はストロー状ではなく、先が閉じた封入形状のものを用いた。そのほかは、非特許文献4に基づいて行った。
1)ES細胞をトリプシン処理し、出来るだけ大きなコロニーのままはがした。
細胞を回収し、遠心分離した。
2)上澄みを取り除き、ペレットに200μlの凍結保存液(DES)で細胞をサスペンドした後、すぐにクライオチューブに移し、液体窒素中で急速凍結した。
3)−150℃のフリーザーに移し、保存した。
(B2 ガラス化法の解凍手順)
1)あらかじめ、15ml遠心チューブに培地を10ml加えたものと、37℃に温めた培地を準備しておいた。
2)クライオチューブに温めた培地800μlを加え、すばやくピペッティングして、急速に氷を溶かした。
3)完全に溶けたら、遠心チューブに細胞懸濁液を移し、1000rpmで3分間遠心分離した。
4)上澄みを取り除き、培地にサスペンドした。
5)フィーダー細胞でコートした3.5cmディッシュ2枚に、それぞれ10分の1量および2分の1量まいた。
6)37℃、5% COの条件下で、4日間培養した。
(B1’ 従来のガラス化法)
プラスチック製ストロー(250μl、IMV,フランス)をホットプレート上でやわらかくして直径がほぼ半分になるまで引き伸ばす。細くした部分でストローを切断する。加工したストローを放射線照射により滅菌する。
4〜6個のES細胞の塊を、10%DMSO、10%エチレングリコール/DMEM+20%FBS中で、37℃で1分間インキュベートし、次いで20%DMSO、20%エチレングリコール、0.5Mスクロース/DMEM+20%FBS中で20秒間インキュベートした後、同溶液1〜2μlとともにストローの細いほうに吸い上げ、直ちに液体窒素を投入し、急速凍結する。
(B2’従来のガラス化法の解凍法)
解凍は、ストローを液体窒素から取り出した3秒後にストローの細いほうの先端を0.2Mスクロース/DMEM+20%FBSに浸し、ストロー内の液が解けたら反対の端を封じる。これにより、ストロー内の気体部分の温度上昇に伴いストロー内の液は、培地中に移動する。1分間インキュベートし、0.1Mスクロース/DMEM+20%FBSに細胞塊を移し、5分間インキュベートする。DMEM+20%FBSで細胞塊を5分間洗浄し、これを2回行い、フィーダー細胞の上に移し培養する。
(C1 簡易ガラス化法)
本発明の簡易ガラス化法を説明する。
1)ES細胞をトリプシン処理し、出来るだけ大きなコロニーのままはがした。
細胞を回収し、遠心した。
2)上澄みを取り除き、ペレットに200 μlの凍結保存液(DAP)で細胞をサスペンドした後、すぐにクライオチューブに移し、液体窒素中で急速凍結した。
3)−150℃のフリーザーに移し、保存した。
(C2 簡易ガラス化法の解凍手順)
簡易ガラス化法で凍結して保存したものを利用する場合、ガラス化法(B1)と同様の方法で解凍することができる。
(D 幹細胞のコロニー数の計測)
1)解凍後4日目に、10分の1量まいたディッシュのES細胞のコロニー数を、倒立顕微鏡下でカウントした。
(E 幹細胞の細胞数の計測)
1)ES細胞を0.25%トリプシンで処理した後、ピペッティングし、細胞を一つ一つバラバラにした。
2)培地を1ml加え、トリプシンの活性を止めた後、血球計算盤を用いて、ES細胞の数をカウントした。(細胞内小器官が多く、細胞の大きさも適当なものをES細胞としてカウントした。GFPを導入したES細胞を用いて確認した。
図1に上記実験結果を示す。図1には、A、BおよびCの方法を用いた場合を示す。図1からも明らかなように、本発明の方法によって、従来方法よりも、顕著に優れた効率でES細胞などの幹細胞を保存することができることが実証された。また、従来の非特許文献4において記載されるガラス化法で用いた場合は、本発明のDAPを用いて行ったものを100とした場合、凍結保存効率は5〜10程度であった。従って、本発明は、従来最高と言われていたReubinoffのガラス化法に比べて10倍以上の効果を示すことができる。また、B’で示される方法を用いた場合、手順が非常に煩雑であり、効率も、BまたはCの方法には及ばない。
(実施例5:DE媒体の効果)
次に、DES媒体(DMSO20%、エチレングリコール20%、スクロース0.5Mを×1溶液とする)の濃度を振って、その効果を確認した。ここでは、0.5×DES,0.75×DES、1.0×DES、1.25×DESおよび1.5×DESの5種類の媒体を調製して、実施例4に記載されるようにガラス化凍結法を行った。その結果を図2に示す。図2に示すように、1×DESに比べて、0.75×DESでの凍結効率が格段に上がっていたことが分かった。これは、従来使用されているDESが、ガラス化凍結法においてもより薄めの物を用いることが良いことを実証する。このような効果は従来知られておらず、従って、本発明において初めて見出された効果を示す。
(実施例6:DA媒体におけるDMSOとプロピレングリコールとの混合)
次に、DA媒体において、DMSOとプロピレングリコールの混合比が凍結保存効率に与える影響を考慮した。
15%、20%、25%、30%のDMSOと、15%、20%、25%、30%のプロピレングリコールとを混合したDA媒体を調製し、実施例4に記載されるように簡易ガラス化法によって凍結保存実験を行った。その結果を図3に示す。図から明らかなように、DMSOとプロピレングリコールとは、合計で約30%〜約50%、その比率は、約1:2〜2:1で存在することが好ましいことが明らかになった。しかし、どの混合比でも、DAP媒体には効率は及ばなかったが、従来技術で達成された凍結保存効率よりも格段に優れた効率であることには変わりはなかった。
(実施例7:媒体の説明−プロピレングリコールおよびDMSOの単独の効果)
DMSOおよびプロピレングリコールがそれぞれ、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%単独で存在する保存媒体を用いて、その凍結保存効率における効果を確認した。実施例4に記載の通り、簡易ガラス化法を行った。その結果を図4および図5に示す。結果から明らかなように、DMSOは単独では20−40%、プロピレングリコールは40−60%で存在することが好ましいことが明らかになった。しかし、どの存在比でも、DAP媒体には効率は及ばなかった。
また、エチレングリコールのみを含むものについても、凍結保存効果を見た。すると、40%の点においてDAPの40%程度の効率を示すことが明らかになった。この効果は、DES単独よりも高い。従って、本発明の簡易ガラス化法は、優れた効果を示すことが明らかになった。
さらに、グリセロール、アセトアミド単独のものについても効果を見たが、これらについては、ほとんど効果は見出されなかった。
(実施例8:濃度についてのさらなる検証)
実施例7に記載される実験を、DMSOの濃度(0.5M〜5M)、プロピレングリコール(0.5M〜8M)、アセトアミド(0.5M〜3M)の範囲内で0.5Mごとに行う。その結果、DMSOの濃度は、2Mを頂点に1M〜4Mの範囲で凍結保存改善効果が顕著であり、プロピレングリコールは、1.5M〜6Mの範囲で凍結保存改善効果が顕著であり、アセトアミドは、0.5M〜2Mの範囲で凍結保存改善効果が顕著であることが確認される。なお、アセトアミドについては、0Mであっても、他の二成分によって凍結保存改善効果が見られることから、必須ではないことが分かる。
エチレングリコールを含む媒体について確認したところ、DMSOの濃度を2.5%〜40%の間で2.5%ごと、エチレングリコールを2.5%〜40%の間で2.5%ごと、およびスクロースの濃度を、1.5Mから1/2の系列希釈により0.09375Mまでの濃度(0.75M、0.375Mおよび0.1875M)でアッセイを行う。その結果、DMSOは、7.5%〜30%の濃度範囲で凍結保存改善効果が顕著であり、エチレングリコールは、7.5%〜30%の濃度範囲で凍結保存改善効果が顕著であり、スクロースの濃度は、0.1875M〜0.75Mの濃度範囲で凍結保存改善効果が顕著であることが確認される。
(実施例9:神経細胞への分化)
本発明の上記実施例4において保存し解凍したES細胞を、3回無血清培地にて洗浄し、血清を完全に取り除く。KSR(Knockout Serum Replacement;GIBCO/Invitrogen Cat.No.10828−028)を含むES細胞培地を用いて、PA6フィーダー細胞上で未分化細胞を8−11日間培養する(Kawasaki et al.,2000,Neuron 28;31−40、Tada et al.,2003;Dev.Dyn.,227;504−510.参照)。これにより、神経細胞に分化させる。
その結果、本発明の方法で保存したES細胞は、神経への分化能を保持することが明らかになる。
(実施例10:テラトーマ形成)
次に、本発明の上記実施例4において保存し解凍したES細胞のテラトーマ形成能を確認した。SCIDマウス(日本クレア、東京)の皮下および腹腔内に本発明のES細胞を約10個移植し、1〜3ヶ月様子を見る。
1〜3ヵ月後に得られるテラトーマを回収し、組織学的解析を行う。その一例を図5に示す。本発明の方法で保存したES細胞は、外胚葉、内胚葉、中胚葉などに由来する種々の組織が観察される。したがって、本発明の方法で保存されたES細胞は、多分化能を保持していることが実証される。
(実施例11:造血系細胞への分化)
次に、本発明の上記実施例4において保存し解凍したES細胞の造血系細胞への分化を観察する。分化誘導培養液として、αMEM(Gibco BRL、Cat#11900−016)に10%ウシ胎仔血清を加え、5×10−5Mメルカプトエタノールを加えた培養液を使用した。
まず、ES細胞は、中胚葉細胞へと分化させた。未分化ES細胞を、上述の分化誘導培養液で懸濁し、IV型コラーゲンコート6プレートに1×10/ウェルの密度で播種する。これを37℃、5% COで4日間培養する。
培養上清を回収し、ウェルをPBS(−)で一回洗う。次に細胞剥離液(Cell Dissociation Buffer(Gibco BRL,#13150−016)を入れて10分間静置(37℃、5%CO)し、細胞を剥離して回収する。細胞塊をほぐし、ほぐれないものはメッシュで除き、細胞数を計数する。1,200rpmで5分間遠心分離し、上清を除いた。
次に、10mlのHBSS/BSAで細胞を懸濁し、1,200rpmで5分間遠心分離して上清を除いた。1×10細胞あたり0.1mlの正常マウス血清に懸濁し、10分間静置した。適切な量のE−カドヘリン抗体および抗FLK1抗体を加え20分間氷水上に配置した。HBSS/BSAで2回細胞を洗浄した後、FLK1+E−カドヘリン−中胚葉細胞をFACSによりソートする。
ここで選択した中胚葉細胞を、分化誘導用培養液で懸濁し、IV型コラーゲンコートプレートに3×10の密度で播種する。培養液は1ウェルあたり3ml加え、37℃、5%COで3日間培養する。
細胞の回収およびブロッキングを行う。回収およびブロッキングは、上述のように行う。適切な量のVE−カドヘリン抗体を加え、20分間氷温に静置する。細胞をHBSS/BSAで洗浄した後、VE−カドヘリン血管内皮細胞をFACSによりソートして血管内皮細胞を調製する。
このようにして、本発明の方法で保存したES細胞が造血系細胞へも分化することが実証される。
(実施例12:心筋への分化誘導)
上述の実施例で凍結保存した後に解凍したES細胞を、KSRを含む基本培地(例えば、DMEM)中で浮遊培養することによって胚様体を形成させる。胚様体形成後、4〜7日経過後に胚様体を集めゼラチンコート下培養ディッシュに播種する。KSRを含む基本培地中で1〜3週間培養することによって心筋細胞が分化する。
(実施例13:他の動物由来の幹細胞での実験)
次に、マウスES細胞を用いて、本発明の保存媒体がもたらす凍結保存効果を実証する。ES細胞は、非特許文献5に記載されるように調製することができる。具体的には、実施例1に記載される手順に準じて行う。
このようにして得たマウスES細胞を、実施例5に準じて保存する。マウス細胞を使用する場合の留意点は以下のとおりである。マウスの場合は、マウスに特異的なマーカーを用いることが重要である。
このようにして、マウスES細胞を用いた場合でも、本発明の媒体が優れた保存効果を有することが示される。
(実施例14:他の幹細胞(例えば組織幹細胞)での実験)
組織幹細胞(神経幹細胞、間葉系幹細胞など)を含む組織を取り出して単離して、上記実施例のように凍結保存および解凍することによって、組織幹細胞でも安定して凍結保存することができる細胞株が樹立される。
(実施例15:サルでの再生治療)
次に、カニクイサルから、ES細胞を採取し、実施例5と同様の保存を行った後、神経細胞に分化させる。神経への分化は、適切な分化因子(神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニューロトロフィン(neurotrophin)、IL−6、TGF−β、TNF)を含む培地中で培養することによって行う。この神経細胞の移植物を神経疾患を有するカニクイサル被検体に移植すると、移植物が機能できることがわかる。
(実施例16:ヒトのES細胞の調製)
実施例4に記載の方法を改変して、ヒトのES細胞の保存効率が上がることを実証した。以下に詳細なプロトコールを示す。
(ヒトES細胞の継代培養法)
方法
1)前日までに、4日以内に作成したフィーダー細胞を準備する。
通常の継代は、60mmディッシュ1枚分のES細胞を60mmディッシュ2枚に継代する。
継代当日、ヒトES細胞のコロニーの状態を観察し、コンフルエントであることを確認する。
2)(以下の試薬容量は、60mm細胞培養ディッシュ1枚の場合)
ヒトES細胞用培地を室温にもどす。ヒトES細胞用解離液を解凍し、室温にもどす。
3)細胞解離液0.5mlをディッシュに加え、細胞表面全体に液が行き渡るようにした後、37℃、COインキュベーターで5分間加温する。
4)細胞の状態を顕微鏡で観察する。半分以上のコロニーが周囲から小さくまとまり、フィーダー細胞からはがれかけている状態が望ましい。ここで、5分以上放置してもコロニーがこのような状態にならない場合は、原因として解離溶液が充分に室温にもどっていない、あるいは失活していることが考えられる。
5)ヒトES細胞用培地を2ml加え、細胞をディッシュからはがす。数回ピペッティングを行い、コロニーを適切なサイズに砕く。ギルソンP−1000を使用するとよい。ES細胞コロニー1つあたり約100細胞程度になるようにする。ここで、コロニーが小さくなりすぎると再接着・増殖の効率が極端に低下する原因になるため、顕微鏡で確認しながら、コロニーを解離する。
6)約170×g(1,000rpm)、5分間遠心。
7)上澄みをできるだけ除く。
8)フィーダー細胞のディッシュから培地を除き、ヒトES細胞用培地を4 mlずつ加える。
9)コニカルチューブに2mlの培地を加え、軽く懸濁する。ここで、既にES細胞は100細胞前後の適切なサイズのコロニーなっているため、激しいピペッティングを避ける。もし大きなコロニーがみえるようなら、細胞懸濁液を吸い上げたピペットの先端をコニカルチューブの底に軽く押しつけ、穏やかに細胞懸濁液を排出して細胞をほぐす。
10)フィーダー細胞ディッシュ1枚あたり1mlのES細胞懸濁液を加える。最終濃度5ng/mlで繊維芽増殖因子(bFGF;科研製薬)を加える
11)細胞の状態を顕微鏡で観察する。
12)ES細胞のコロニーがディッシュ全体に行き渡るように、ディッシュを充分に揺する。37℃、COインキュベーターで一晩培養する。
13)翌日、顕微鏡で細胞の状態を観察する。培地交換。
14)以後毎日培地交換する。3〜4日でコンフルエントになる。
(ヒトES細胞の凍結保存法)
材料
凍結保存溶液 DAP213
2 M DMSO,1Mアセトアミド,3Mプロピレングリコール/ヒトES細胞用培地
・0.59gアセトアミドを6ml程度のES培地に溶解。0.22μmフィルターで濾過滅菌。15mlの遠心分離チューブへ入れる。
・DMSO 1.42ml、プロピレングリコール2.2mlを添加する。
・10mlに培地でメスアップ(チューブの目盛りでよい)。
・よく混ぜて、1mlずつクライオチューブに分注し、−80℃で保存する。数回の融解・凍結は可能である。
方法
1)コンフルエントの状態のヒトES細胞を60mm細胞培養ディッシュ1枚準備する。
2)ヒトES細胞用培地を室温にもどす。ヒトES細胞用解離液を解凍し、室温にもどす。
3)液体窒素と氷を準備する。凍結保存用チューブ(Nulgene #5000−1012)に「細胞名」「日付」「継代数」等を記入し、氷上で冷やしておく。
4)凍結保存液DAP213を解凍、氷上で冷やしておく。
5)ヒトES細胞ディッシュの培地を除き、適量のPBS(−)を加え、細胞を洗う。
6)ヒトES細胞用トリプシン溶液1mlをディッシュに加え、細胞表面全体に液が行き渡るようにする。
7)細胞の状態を顕微鏡で観察する。半分以上のコロニーが周囲から小さくまとまり、フィーダー細胞からはがれかけている状態が望ましい。
8)ヒトES細胞用培地を5ml加え、細胞全体をディッシュからはがす。凍結、融解時に自然にコロニーがほぐれるため、この時点でほぐす必要はない。
9)細胞懸濁液を15 mlコニカルチューブに回収する。新しいヒトES細胞用培地5mlをディッシュに加え、残りの細胞も回収する。
10)170×g(1,000rpm)、4℃で5分間遠心分離する。ここで、サンプル数が多い場合、遠心後、氷上においておく。
11)上澄みをできるだけ除く。
12)DAPを200μl加え、穏やかに懸濁する。予め準備した凍結保存用チューブに移す。ピンセットで凍結チューブをつかみ、液体窒素につける。ここで、DAPは細胞毒性が強いため出来る限りすばやく作業すること。目安として15秒以内。また、加えるDAPは、凍結する細胞数に関係なく200μlで良い。
13)液体窒素中で、30秒から1分間凍結する。ここで、内部まで完全に凍らせる。
14)液体窒素保存容器に移す。
(ヒトES細胞の解凍法)
方法
1)前日までに、ヒトES細胞の凍結チューブ1本あたり60mm細胞培養ディッシュ1枚分のフィーダー細胞を用意する。
2)ヒトES細胞用培地10mlを15mlコニカルチューブに移し、37℃ウォーターバスで温めておく。
3)凍結保存していたヒトES細胞凍結チューブに、あらかじめ37℃に温めたヒトES細胞用培地を1ml加え、ピペッティングを行い、急速解凍する。ここで、解凍および希釈はすばやく行う。また、ウォーターバスでの解凍は、融解後の細胞生存率が極端に低下する原因になる。
4)細胞懸濁液を15mlコニカルチューブへ移す。
5)約170×g(1,000rpm)、5分間遠心。
6)上清を吸引し、ヒトES細胞用培地を10ml加える。ピペッティングを穏やかに行い、ES細胞のコロニーが小さくなりすぎない程度に懸濁する。大きなコロニーは、細胞懸濁液を吸い上げたピペットの先端をコニカルチューブの底に軽く押しつけ、穏やかに細胞懸濁液を排出してほぐす。
7)フィーダー細胞の培地を除く。
8)ES細胞懸濁液全量を60mmフィーダー細胞ディッシュに移す。
9)顕微鏡で細胞の状態を確認する。
10)37℃、COインキュベーターで一晩培養する。
11)翌日、顕微鏡で細胞の状態を確認する。通常解凍した翌日は、多数の細胞が死んでいるのが確認される。毎日1回培地交換を継続する。通常、3日程度で継代可能になる。
結果を、図7に示す。ヒトES細胞を記載の方法で凍結し、解凍後の細胞生存率が示されている。10%DMSOを使用した緩慢凍結法では解凍後の細胞生存率がほぼ0%に近かったのに対し、簡易凍結法を用いることで10%以上の細胞生存率を得ることができ、ヒトES細胞を用いても生存率の著しい向上が示された。
(実施例17:ヒトでの再生治療)
次に、ヒトのES細胞を調製し、実施例15に記載されるように保存した後、皮膚細胞に分化させる。皮膚への分化は、適切な分化因子(皮膚(ケラチノサイト)の場合は、TGF−β、FGF−7(KGF:ケラチノサイト増殖因子=keratinocyte growth factor)、EGF)を含む培地中で必要に応じて適切なフィーダー細胞を用いて培養することによって達成される。この皮膚細胞の移植物を、皮膚疾患を有するヒト被検体に移植すると、移植物が機能し、皮膚の機能が回復することがわかる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明は、再生医療において、多大な有用性を有する。好ましい実施形態では特に、従来達成不可能であった高い保存効率でかつ簡便に幹細胞を保存することができたことから、その有用性は高い。したがって、本発明は、再生医療およびその治療用医薬などを製造する業において利用可能性がある。

Claims (21)

  1. 多能性幹細胞を凍結保存するための媒体(medium)であって、
    A)ジメチルスルホキシド(DMSO)を1M〜4M;
    B)プロピレングリコールを1.5M〜6M;
    C)約0.5M〜2Mのアセトアミド;及び
    D)保存が企図される前記多能性幹細胞に応じた培地(culture medium)、
    を含む、媒体。
  2. 前記多能性幹細胞は、卵細胞及び胚を除く
    ことを特徴とする請求項1に記載の媒体。
  3. 前記多能性幹細胞は、コロニーのまま剥離された
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の媒体。
  4. 前記凍結保存は、簡易ガラス化法で行われる
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の媒体。
  5. 前記アセトアミドの濃度は、0.5M〜1.5Mである
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の媒体。
  6. 前記DMSOと前記プロピレングリコールとは、約1:2〜約2:1のモル比率で存在する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の媒体。
  7. 前記DMSOと前記プロピレングリコールとは、約3:2のモル比率で存在する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の媒体。
  8. 前記DMSOは、約2M存在する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の媒体。
  9. 前記プロピレングリコールは、約3M存在する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の媒体。
  10. さらに、糖を含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載の媒体。
  11. 前記培地は、ダルベッコ改変Eagle培地(DMEM培地)およびF12培地からなる群より選択される培地またはそれらの混合物を含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の媒体。
  12. 前記培地は、DMEM/F12(1:1)培地+KSRである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の媒体。
  13. 多能性幹細胞を凍結保存するための方法であって、
    a)ジメチルスルホキシド(DMSO)を1M〜4M;
    b)プロピレングリコールを1.5M〜6M;
    c)約0.5M〜2Mのアセトアミド;及び
    d)保存が企図される前記多能性幹細胞に応じた培地(culture medium)、
    を含む、媒体中で、前記多能性幹細胞を急速凍結させる工程、
    を包含する、方法。
  14. 前記急速凍結は、封入管を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
  15. 前記多能性幹細胞は、コロニーのまま剥離されたものである、請求項13又は14に記載の方法。
  16. 前記多能性幹細胞と、前記媒体とは、約1×104/100μl〜約5×107/100μlの比率で存在する、請求項13乃至15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 前記急速凍結は、約30℃/分以上の速度で凍結される、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記急速凍結は、液体窒素中で行われる、請求項13乃至17のいずれか1項に記載の方法。
  19. 多能性幹細胞を解凍するための方法であって、
    a)DMSOを1M〜4M;
    b)プロピレングリコールを1.5M〜6M;
    c)約0.5M〜2Mのアセトアミド;及び
    d)保存が企図される前記多能性幹細胞に応じた培地(culture medium)、
    を含む、媒体中で、凍結させた前記多能性幹細胞を、
    急速解凍する工程、
    を包含する、方法。
  20. 前記急速解凍は、ピペッティングによる、請求項19に記載の方法。
  21. 前記急速解凍は、約50℃/分以上の速度で解凍される、請求項19又は20に記載の方法。
JP2005515279A 2003-11-06 2004-10-29 幹細胞の凍結保存法およびシステム Active JP4705473B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005515279A JP4705473B2 (ja) 2003-11-06 2004-10-29 幹細胞の凍結保存法およびシステム

Applications Claiming Priority (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2003377523 2003-11-06
JP2003377523 2003-11-06
PCT/JP2004/016167 WO2005045007A1 (ja) 2003-11-06 2004-10-29 幹細胞の凍結保存法およびシステム
JP2005515279A JP4705473B2 (ja) 2003-11-06 2004-10-29 幹細胞の凍結保存法およびシステム

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPWO2005045007A1 JPWO2005045007A1 (ja) 2007-05-17
JP4705473B2 true JP4705473B2 (ja) 2011-06-22

Family

ID=34567152

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2005515279A Active JP4705473B2 (ja) 2003-11-06 2004-10-29 幹細胞の凍結保存法およびシステム

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP4705473B2 (ja)
WO (1) WO2005045007A1 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US11234434B2 (en) 2011-11-25 2022-02-01 Sumitomo Chemical Company, Limited Method of cryopreservation of tissue derived from pluripotent stem cells

Families Citing this family (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP1739179A1 (en) * 2005-06-30 2007-01-03 Octapharma AG Serum-free stable transfection and production of recombinant human proteins in human cell lines
EP2641966A4 (en) * 2010-11-19 2014-04-30 Seiren Kabushiki Kaisha VITRIFIED STORAGE SOLUTION FOR CELLS
SG11201908905SA (en) * 2017-04-06 2019-10-30 Univ North Carolina Chapel Hill Cryopreservation method
KR102142400B1 (ko) * 2018-06-19 2020-08-07 서울대학교산학협력단 돼지 만능성 줄기세포 배양용 배지 조성물
WO2020013247A1 (ja) * 2018-07-10 2020-01-16 大日本住友製薬株式会社 多能性幹細胞の分散体、多能性幹細胞製品及びその製造方法

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH03501207A (ja) * 1987-11-12 1991-03-22 ビオサイト コーポレーション 胎児及び新生児の造血幹及び前駆血液細胞の単離及び保存
WO2003064634A1 (fr) * 2002-01-31 2003-08-07 Asahi Techno Glass Corporation Liquide permettant le stockage a l'etat congele de cellules souches embryonnaires de primates et procede de stockage par congelation

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH03501207A (ja) * 1987-11-12 1991-03-22 ビオサイト コーポレーション 胎児及び新生児の造血幹及び前駆血液細胞の単離及び保存
WO2003064634A1 (fr) * 2002-01-31 2003-08-07 Asahi Techno Glass Corporation Liquide permettant le stockage a l'etat congele de cellules souches embryonnaires de primates et procede de stockage par congelation

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US11234434B2 (en) 2011-11-25 2022-02-01 Sumitomo Chemical Company, Limited Method of cryopreservation of tissue derived from pluripotent stem cells

Also Published As

Publication number Publication date
JPWO2005045007A1 (ja) 2007-05-17
WO2005045007A1 (ja) 2005-05-19

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Nayernia et al. Derivation of male germ cells from bone marrow stem cells
JP4330995B2 (ja) 絨毛膜絨毛、羊水、および胎盤からの胎児性幹細胞を単離、増殖、および分化させる方法、ならびにその治療的使用方法
JP5523830B2 (ja) 心筋細胞の細胞塊作製方法及び当該心筋細胞塊の用途
JP5924750B2 (ja) Cd82陽性心筋前駆細胞
US20100166714A1 (en) Cardiovascular stem cells, methods for stem cell isolation, and uses thereof
US20080254003A1 (en) Differentiation of Human Embryonic Stem Cells and Cardiomyocytes and Cardiomyocyte Progenitors Derived Therefrom
JP7315923B2 (ja) 臓器オルガノイド及びその製造方法
US20040241838A1 (en) Stem cells
US20100183566A1 (en) METHOD FOR EFFICIENT TRANSFER OF HUMAN BLASTOCYST-DERIVED STEM CELLS (hBS CELLS) FROM A FEEDER-SUPPORTED TO A FEEDER-FREE CULTURE SYSTEM
WO2007125916A1 (ja) 移植用臓器の調製方法
US7501231B2 (en) Methods and compositions for cryopreservation of dissociated primary animal cells
Zholudeva et al. Preparation of neural stem cells and progenitors: neuronal production and grafting applications
JP4705473B2 (ja) 幹細胞の凍結保存法およびシステム
Van Vranken et al. The differentiation of distal lung epithelium from embryonic stem cells
JP2008532474A (ja) 胚性幹(es)細胞系での組織モデリング
Nayernia et al. Spermatogonial stem cells
Wang et al. Adaptation within embryonic and neonatal heart environment reveals alternative fates for adult c-kit+ cardiac interstitial cells
JP2005523685A (ja) 体細胞由来胚幹細胞及びそれらの分化子孫
JPWO2005040361A1 (ja) 幹細胞の簡易調製法およびそれに使用するフィーダー細胞
Agarwal Cellular reprogramming
TW201734206A (zh) 高機能肝細胞及其利用
Vodicka et al. The minipig as an animal model in biomedical stem cell research
Jaffredo Ontogeny of Stem Cells
KR20240056604A (ko) 수임 심장 전구세포의 제조 방법
WO2024030443A1 (en) Bovine blastocyst like structures and uses thereof

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20071022

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20071120

RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20071120

RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424

Effective date: 20080822

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20100824

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20101020

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20101124

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110121

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20110215

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20110311

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 4705473

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250