JP2016073207A - 細胞凍結保存方法、細胞解凍方法、及び細胞 - Google Patents

細胞凍結保存方法、細胞解凍方法、及び細胞 Download PDF

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Abstract

【課題】DMSOを使用しない多能性幹細胞又は該多能性幹細胞が特定程度分化した分化細胞の保存方法を提供する。
【解決手段】
凍結保護剤を含む凍結保存液により多能性幹細胞又は該多能性幹細胞が特定程度分化した特定分化細胞を凍結保存する細胞凍結保存方法である。まず、多能性幹細胞又は特定分化細胞をAccutase等で単一細胞に解離し、凍結保護剤としてグリセリンを25℃〜42℃で、7.5〜25容積%になるよう加え、−5℃/分以下の速度で緩速凍結する。この際、グリセリンは、多能性幹細胞又は特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度で加えて10分以上、インキュベートする。また、緩速凍結は、−50℃以下になるまで行い、その後、多能性幹細胞又は特定分化細胞を液体窒素温度で保存する。
【選択図】図1A

Description

本発明は、細胞凍結保存方法、細胞解凍方法、及び細胞に係り、特に凍結保護剤を含む凍結保存液により多能性幹細胞又は該多能性幹細胞が特定程度分化した特定分化細胞を凍結保存する際の細胞凍結保存方法、細胞解凍方法、及び細胞に関する。
ヒトの胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells、ESCs)及び人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells、iPSCs)は、多能性幹細胞(Pluripotent Stem Cell)と呼ばれる細胞の一種であり、未分化状態にあり、三胚葉全ての細胞に分化誘導可能な能力を持っている。このため、多能性幹細胞は、各種疾患の再生医療又は新規医薬品の開発に使用することが潜在的に期待されている。
これらの多能性幹細胞は、多くの患者や研究者に供給するため、臨床グレードの複数の多能性幹細胞株の樹立、及びこれらの細胞の保存や配布等を行う細胞バンキング(以下、単に「バンキング」という。)が必要になってきている。
多能性幹細胞の凍結保存はバンキングにおいて重要な技術である。しかし、多能性幹細胞は凍結融解にセンシティブであることが知られている。つまり、これらの多能性幹細胞は、凍結融解により生存率が低くなり増殖能力も低下する。
このため、多能性幹細胞の凍結保存の際、ジメチルスルホキシド(Me2SO、DMSO)が凍結保護剤として用いられる。DMSOは最も一般的な凍結保護剤として使用されている。しかし、非特許文献1を参照すると、DMSOは、多くの種類の細胞の分化を引き起こすことが知られており、幹細胞の分化能に影響を与えていた。実際に、DMSOが凍結防止剤として使用された場合、未分化ステータスのマーカーとなる、Oct3/4の発現が、凍結保存後の培養中に低下していた。
また、非特許文献2を参照すると、分子レベルでは、DMSOは、1パーセント以下の低い濃度で多能性幹細胞のメチル化酵素に作用して、エピジェネティックな変化を引き起こしていた。
これに対して、従来の多能性幹細胞の凍結保存方法として、特許文献1を参照すると、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも一つを凍結保護剤として含有する凍結保存液を利用した霊長類胚性幹細胞の凍結保存方法の技術が開示されている(以下、従来技術1とする。)。
国際公開第2003/064634号
ZW.Yu,PJ.Quinn、1994、Biosci Rep、14(6)、pp.259−81 M.Iwatani,K.Ikegami,Y.Kremenska,N.Hattori,S.Tanaka,S.Yagi,K.Shiota、2006、Stem Ce11s、24(11)、pp.2549〜2556
しかしながら、従来技術1では、DMSO以外の凍結保護剤を使用すると、保存後の解凍した際の多能性幹細胞の生存率及び増殖率等が著しく低くなるという問題があった。
このため、多能性幹細胞の分化能、増殖率、エピジェネティックなDNAメチル化に影響を与えないDMSO以外の凍結保護剤を使用して、多能性幹細胞を凍結保存する凍結保存方法が求められていた。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消することを目的とする。
本発明の細胞凍結保存方法は、凍結保護剤を含む凍結保存液により多能性幹細胞又は該多能性幹細胞が特定程度分化した特定分化細胞を凍結保存する細胞凍結保存方法であって、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を単一細胞に解離し、前記凍結保護剤としてグリセリンを25℃〜42℃で、7.5容積%〜25容積%になるよう加え、−5℃/分以下の速度で緩速冷却して凍結することを特徴とする。
本発明の細胞凍結保存方法は、前記グリセリンを、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度で加え、10分以上、インキュベートし、前記緩速冷却は、−50℃以下になるまで行い、その後、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を液体窒素温度で保存することを特徴とする。
本発明の細胞凍結保存方法は、前記凍結保存液は、異種由来成分不含有であることを特徴とする。
本発明の細胞解凍方法は、前記細胞凍結保存方法により保存された多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を、あらかじめ37℃〜42℃に加温した恒温槽内にて急速解凍することを特徴とする。
本発明の細胞解凍方法は、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度の培地を加え、前記凍結保護剤を除去することを特徴とする。
本発明の細胞は、前記細胞凍結保存方法により、等張の濃度で前記グリセリンが細胞膜内に含まれて凍結保存されたことを特徴とする。
本発明によれば、解離された単一細胞に、7.5〜25容積%のグリセリンを使用して37℃〜42℃で平衡させ、その後、緩速冷却して凍結することで、DMSOを使用しないで解凍後の生存率及び増殖率が良好となる細胞凍結保存方法を提供することができる。
本発明の実施例1に係る凍結保護剤の種類の違いによる凍結保存後の生存率を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る凍結保護剤の種類の違いによる凍結保存後の増殖率を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る凍結温度の種類の違いによる凍結保存後の生存率を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る凍結温度の種類の違いによる凍結保存後の増殖率を示すグラフである。 本発明の実施例2に係る4℃でDMSOとEGが添加されたH9細胞の体積変化率を示すグラフである。 本発明の実施例2に係る4℃でDMSOとEGが添加された253G1細胞の体積変化率を示すグラフである。 本発明の実施例2に係るグリセリンの添加温度を変更した際のH9細胞の体積変化率を示すグラフである。 本発明の実施例2に係るグリセリンの添加温度を変更した際の253G1細胞の体積変化率を示すグラフである。 本発明の実施例2に係るグリセリン添加後のインキュベーション時間と、グリセリン除去時の温度とを変化させた際の生存率を示す図である。 本発明の実施例3に係るハイパートニック培地中のH9細胞の細胞体積変化を示すグラフである。 本発明の実施例3に係るハイポトニック培地中のH9細胞の細胞体積変化を示すグラフである。 本発明の実施例4に係る350mOsmの培地中のH9細胞の電子顕微鏡写真である。 本発明の実施例4に係る1000mOsmに調節された培地中のH9細胞の電子顕微鏡写真である。 本発明の実施例4に係る2500mOsmに調節された培地中のH9細胞の電子顕微鏡写真である。 本発明の実施例5に係る濃度の異なるグリセリン添加の凍結保存液による凍結保存後の細胞の生存率を示すグラフである。 本発明の実施例5に係る濃度の異なるグリセリン添加の凍結保存液による凍結保存後の細胞の増殖率を示すグラフである。 本発明の実施例6に係るKhES1の冷却速度による生存率への影響を示すグラフである。 本発明の実施例6に係るKhES1の冷却速度による増殖率への影響を示すグラフである。 本発明の実施例7に係る各冷却速度で冷却されたKhES1細胞の凍結融解のDSC記録を示すグラフである。 本発明の実施例8に係る10%グリセリンで凍結保存されたKhES1細胞の凍結前後でのコロニーの形態を示す写真である。 本発明の実施例8に係る10%グリセリンで凍結保存されたKhES1細胞の増殖率を示すグラフである。 本発明の実施例8に係るフローサイトメトリー分析における各多分化能マーカーの発現を示すグラフである。 本発明の実施例8に係るRT−PCRの結果を示す図である。 本発明の実施例8に係るテラトーマ分析の結果を示す写真である。 本発明の実施例8に係る20回の継代後のKhES1細胞の核型のGバンド分析を示す写真である。
<実施の形態>
上述したように、従来の凍結保護剤であるジメチルスルホキシド(DMSO、Me2SO)は多能性幹細胞の分化能、増殖率、エピジェネティックなDNAメチル化等に影響する。また、多能性幹細胞が特定の系列に特定程度分化した細胞(以下、「特定分化細胞」という。)、特に間葉系幹細胞及びこれが特定程度分化した細胞においても、DMSOを用いて凍結保存すると、最終的な分化能、増殖率、エピジェネティック制御等に問題が生じる。
本発明者らは、鋭意実験を行い、ヒト胚性幹細胞、ヒト人工多能性幹細胞、及び特定分化細胞の凍結保存のために最も無毒な凍結保護剤として知られているグリセリンを緩速冷却して凍結させる緩速凍結方法で使用可能として、本実施形態の細胞凍結保存方法を発明した。
具体的には、本発明者らは、グリセリンが低温で細胞に加えられた場合、グリセリンが細胞に入り込むことができないと仮定して鋭意研究を行った。そして、実際に、グリセリンは、低温(0℃〜4℃)では多能性幹細胞又は特定分化細胞に入り込まないものの、より高い温度では入り込むことを明らかにした。このため、本発明者らは、分離された単一細胞(シングルセル)と臨床グレードのグリセリンを使用して、分離された単一細胞を、37℃〜42℃程度で、7.5容積%〜25容積%になるよう加え、−5℃/分以下の速度で緩速凍結することで、多能性幹細胞又は特定分化細胞を容易に凍結保存する細胞凍結保存方法を開発した。
本実施形態の細胞凍結保存方法は、細胞のエピジェネティックの影響により幹細胞の分化を引き起こすことが知られているDMSOの使用のないGMP(Good Manufacturing Practice)条件下で、多能性幹細胞又は特定分化細胞を容易に凍結保存することが可能となる。
本発明の細胞凍結保存方法は、細胞治療用の幹細胞のバンキング、幹細胞研究、特定分化細胞の研究等に適用可能である。
より具体的に説明すると、本実施形態の細胞凍結保存方法に用いる多能性幹細胞は、ヒトを含む霊長類、霊長類以外のほ乳類、その他の脊椎動物等の生物で各種細胞に分化可能な幹細胞(Stem Cell)を含む。また、本実施形態の多能性幹細胞は、バンキングに用いるために、継代可能であり、継代しても分化が進まない状態を保ち、核型等が変化しにくく、又はエピジェネティックな表現型が変化しにくい性質を有することが好適である。また、本実施形態の多能性幹細胞は、これに関連して、生体外又は生体内で十分な増殖能力を備えていることが好適である。このような本実施形態の多能性幹細胞の具体例としては、胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells、ESCs)、人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells、iPSCs)、外的刺激により人工的に生成され若しくは選択された幹細胞が挙げられる。なお、本実施形態の多能性幹細胞としては、必ずしも全能性に近い多分化能を備えている細胞である必要はない。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法に用いる特定分化細胞は、多能性幹細胞に特定の分化誘導用因子を特定の培養条件下で加えて、特定の段階まで分化させた細胞を含む。たとえば、特定分化細胞として、内胚葉系、中胚葉系、外胚葉系の特定マーカーの遺伝子を発現するまで分化した細胞、各種前駆細胞等を含む。また、本実施形態の特定分化細胞は、特定の系列の細胞まで分化することが可能な特定の形質が固定されている細胞であってもよい。また、本実施形態の特定分化細胞は、特定の系列の細胞に分化可能な体性の幹細胞、例えば、造血幹細胞や特定の組織の幹細胞等であってもよい。また、中胚葉系の特定分化細胞としては、例えば、間葉系細胞(mesenchymal cell)を好適に本実施形態の細胞凍結保存方法に用いることができる。
なお、本実施形態の特定分化細胞には、分化の最終段階に到達した血球細胞等の終末分化細胞を含まなくてもよい。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法に用いる多能性幹細胞又は特定分化細胞は、接着性細胞の場合は、フィーダー細胞上又はコラーゲン等の基底膜マトリックスをコーティングした細胞培養用プレート等で培養された後、これを取得して単一細胞に解離してから、凍結保護用液を加える。また、単一細胞への解離には、プロテアーゼやキレート剤等を含む幹細胞分離用の試薬を使用することができる。なお、接着性の多能性幹細胞又は特定分化細胞の種類によっては、又は血液系等の浮遊性細胞の多能性幹細胞又は特定分化細胞の場合には、細胞の解離処理をせずに用いてもよい。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法に用いる凍結保護用液としては、当該多能性幹細胞又は特定分化細胞用の培地に凍結保護剤を含ませて使用することが可能である。この培地としては、例えば、一般的なDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)等の培地、多能性幹細胞又は特定分化細胞に特化した特定成分を含む培地等を用いることが可能である。また、培地には、各種血清代替物が含まれていてもよい。この各種血清代替物が含まれた培地は、異種由来成分不含有(Xeno−Free、XF、又はAnimal. Component−Free、ACF)の培養系で使用されてもよい。つまり、本実施形態の凍結保護用液には、無血清培地を使用しても、十分な凍結保護効果を得ることができる。なお、本実施形態の凍結保護用液には、各種血清を加えてもよい。
また、培地には、アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、抗生物質、コラーゲン前駆体、微量金属イオンや錯体、各種塩等が加えられて使用されてもよい。また、培地には、分離された単一細胞を維持するROCKi(Rho−associated protein kinase inhibitor)、成長因子であるFGF(Fibroblast growth factors)やEGF(Epidermal Growth Factor)やHGF(hepatocyte growth factor)等、分化抑制作用をもつLIF(Leukemia Inhibitory Factor)等の成分が、培養する多能性幹細胞又は特定分化細胞の種類等に対応した濃度で加えられていてもよい。また、特定分化細胞を培養する場合、培地には、レチノイン酸のような分化誘導用の低分子化合物、マイクロRNA、ペプチド、タンパク質成分等を含む分化誘導因子を含んでいてもよい。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法の凍結保護剤としては、グリセリン(glycerine、glycerin、グリセロール)を、25℃〜42℃で、7.5〜25容積%になるよう加える。
本実施形態のグリセリンは、いわゆる臨床グレード、すなわち自己血や稀血や赤血球の凍結保存にも使用可能で、腸洗浄等の医療に用いられ、GMP条件等である純度の高い試薬を使用することが好ましい。
また、本実施形態のグリセリンの温度は、多能性幹細胞又は特定分化細胞の通常の培養温度に近い、例えばヒト多能性幹細胞又は特定分化細胞の場合は37℃近辺で用いることが好ましい。これはグリセリンは、多能性幹細胞又は特定分化細胞に対して透過性が低く、25℃未満の室温、特に4℃等の低温の添加ではほとんど細胞膜を透過しないためである。また、42℃より温度が高いと、多能性幹細胞又は特定分化細胞がインキュベート中に細胞死する可能性があるためである。
また、本実施形態のグリセリンの濃度は、多能性幹細胞又は特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度で加え、最終的な濃度は、7.5容積%〜25容積%に調整することが望ましい。これにより、細胞膜より細胞内に十分な濃度のグリセリンが浸透し、凍結保護液と細胞内との間の浸透圧がアイソトニック(イソ−オスミック、等張)に近い濃度となり、好適な当該保護効果が得られる。特に、10容積%〜20容積%に調整すると、より好適な凍害保護効果が得られる。これに対して、7.5容積%よりも濃度が低いと細胞内に十分なグリセリンが浸透しないため凍害保護効果が減少する。また、逆にグリセリンの濃度が25容積%を超えると、浸透圧がハイパートニックとなり多能性幹細胞又は特定分化細胞の細胞膜が障害を受ける。また、このグリセリンの添加により細胞内外の塩濃度が低くならないように、グリセリン溶液は最終的には細胞内外が等調となるように濃度を高めて調製してもよい。この場合、例えば、−100mOs〜+1000mOs(ミリオスモル)以下の浸透性ストレスがかかるように、グリセリンの濃度を調整してもよい。つまり、この浸透圧ストレスは、例えば、ハイパートニックな培地を使用する場合、多能性幹細胞又は特定分化細胞を350mOsをアイソトニックとした場合に、1000mOs以下であることが好適である。また、浸透圧ストレスは、ハイポトニックな培地を使用する場合には、100mOs以下であることが好適である。また、本実施形態のグリセリンの濃度を調整した後、グリセリンが十分に多能性幹細胞又は特定分化細胞の細胞膜内部に浸透するよう、25℃〜42℃で、例えば、10分以上、インキュベートすることが望ましい。なお、最初から7.5〜25容積%の濃度のグリセリンを培地に加えた凍結保護溶液を用意して、多能性幹細胞又は特定分化細胞に加えてもよい。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法においては、従来の多能性幹細胞又は特定分化細胞の冷却よりも遅い速度で多能性幹細胞又は特定分化細胞が加えられた凍結保護用液を緩速冷却して、凍結することが望ましい。この緩速冷却の速度は、最速でも−5℃/分以下、望ましくは−0.1℃/分以下の速度で冷却して凍結することが好適である。これにより、細胞内の氷生成(Intracellular Ice Formation、IIF)等の障害を回避することが可能である。また、この緩速冷却では、示差走査熱量計等によって温度を確認しつつ冷却してもよい。また、緩速冷却の速度としては、多能性幹細胞又は特定分化細胞をプログラムフリーザー等で凍結する場合には、−50℃近辺まで凍結をすすめて、そこからすぐ液体窒素に入れて保存することが好適である。これにより、多能性幹細胞又は特定分化細胞を障害等なく長期保存することが可能である。また、バイセル等を用いる場合は、例えば、−80℃程度のディープフリーザー等に半日〜1日程度(オーバーナイト)以上載置してもよい。この場合、その後、ディープフリーザー等から液体窒素温度に冷却して保存しても、多能性幹細胞又は特定分化細胞を障害等なく長期保存することが可能である。
これにより、アイソトニックの濃度で前記グリセリンが細胞膜内に含まれて、安定して凍結保存された本実施形態に係る多能性幹細胞又は特定分化細胞を得ることができる。このような多能性幹細胞は、グリセリンを使用しているにもかかわらず、一般的なDMSO等の凍結保護剤を使用して凍結保存された多能性幹細胞と同等以上の保存期間、例えば、10年以上(予測値)、安定して保持することが可能となる。
本実施形態の細胞凍結保存方法においては、グリセリンの濃度が7.5%以上で、冷却速度が約−5℃/分以下、特に約−2℃/分の緩速冷却だった際に最適な細胞の生存率が得られた。また、冷却速度を速くした場合は、ほとんどの細胞は−20℃/分で障害が生じた。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法により保存された多能性幹細胞又は特定分化細胞は、あらかじめ37℃〜42℃程度に加温した恒温水槽等の恒温漕にて急速解凍することが好ましい。また、この際に、多能性幹細胞又は特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度の培地を加え、前記凍結保護剤を除去することが好ましい。つまり、融解後のグリセリン除去も、多能性幹細胞又は特定分化細胞の温度や浸透圧ストレスに対応して、段階的に除去する方法を用いる。この浸透圧ストレスは、例えば、−100〜+1000mOsとなるように調整することが好適である。また、加える培地も37℃〜42℃程度に加熱しておくことで、グリセリンを除去した後、すぐにプレートに播種することが可能となる。
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、hES細胞等の多能性幹細胞は、フィーダー細胞と共培養しコロニーの状態で培養継代を行っていた。コロニーの状態での緩速凍結法ではhES細胞等はその回収率が低い。そこで高濃度の凍結保存液を使うガラス化法がhES細胞等に応用されてきた。DAP液といわれるガラス化液は、多くの研究機関でも使用されており、その方法はインターネット等でも広く開示されている。しかしDAP液は凍結保存液の濃度が十分ではなく、昇温時に脱ガラス化が起こりや手技による差が出やすい。また、このガラス化法では細胞内にガラス化出液は浸透せず、偽ガラス化と呼ぶ状態にあることが保存を不充分にしていると考えられる。また、ガラス化法は現状のままではバンキング、大量培養での凍結保存には向いていなかった。これは、特定分化細胞でも同様であった。
これに対して、本実施形態の緩速凍結法は凍結保存液の濃度が低いことから、細胞毒性が低く、大量の細胞を同じ条件で凍結保存することに適している。
また、本実施形態の細胞凍結保存方法によって凍結保存された多能性幹細胞又は特定分化細胞は、非凍結細胞と同様によく増殖し、未分化の状態を維持し、異種由来成分不含有の培地を用いて長期培養した後であっても、正常核型を備え、三胚葉すべての細胞に分化誘導することが可能な能力を備えることができる。
本実施形態の細胞凍結保存方法は、異種由来成分不含有の培養状態で凍結保存することが可能であり、臨床グレードの多能性幹細胞又は特定分化細胞のバンキングを確立するために有用である。
また、従来、凍結防止剤の毒性の原因は2つのタイプに分類することができる。一つは化学的毒性であった。また、もう一つは浸透性ストレスである。
これに対して、凍結保護剤中でグリセリンは毒性のないものであり、組織等の保存や医療行為に係る臨床目的で使用されてきた。また、グリセリンは動物の組織や血液等を凍らせるために使用することができ、又、長期のDMSO接触に感受性があるいくつかの細胞の凍結保存に用いられてきた。加えて、従来から、グリセリンが多能性幹細胞に有毒ではないことが研究者の間では知られていた。しかしながら、従来、グリセリンは、凍害から細胞を防御しないと当業者間では考えられていた。
これに対して、本実施形態の細胞凍結保存方法では、毒性のないグリセリンを凍結保存剤として使用することを可能とした。グリセリンは代謝物質であり、残余のグリセリンが細胞に残っても有毒ではないため、多能性幹細胞又は特定分化細胞を治療等に用いる場合でも、安全に使用できる。
また、従来の凍結防止剤に含まれる培地に血清のような異種由来成分が含まれている場合、多能性幹細胞の分化や性質の変化、特定分化細胞の性質の変化等を引き起こすことがあり、好ましくなかった。
これに対して、本実施形態の凍結保存液は、異種由来成分不含有であるため、多能性幹細胞を未分化のまま保存することができ、特定分化細胞の性質を変化させないで保存することができる。よって、多能性幹細胞又は特定分化細胞を高品質で安定的に保存することが可能になる。
また、従来から、多能性幹細胞又は特定分化細胞のための凍結保存方法の多くの報告があるが、これらの細胞に関する基礎的な低温生物学的研究はわずかしかなかった。しかしながら、多能性幹細胞又は特定分化細胞は凍結融解に敏感である。また、多能性幹細胞又は特定分化細胞の効率的な凍結保存は、困難であると考えられていた。多能性幹細胞又は特定分化細胞は増殖能力が高いため、凍結融解の後に僅かに生き残った少数の細胞から増殖させることは可能である。しかしながら、コロニーの細胞がほとんど死滅するような凍結保存方法は、効率が悪く、バンキングに用いるのは難しかった。
これに対して、本発明者らは、凍結保存剤がよく浸透する単一細胞での凍結保存方法として、グリセリンが37℃で細胞懸濁液に加えられ、緩速凍結によって凍結保存する方法を開発した。本実施形態の凍結保存方法で保存された多能性幹細胞又は特定分化細胞は、DMSO及びEG(図1Bを参照)で保存されていたものと同様に良好に生き残った。
また、多能性幹細胞又は特定分化細胞をコロニーで保存する場合、コロニー内の透水性及び又は凍結防止剤の平衡化の違いによって引き起こされた細胞内の氷生成に敏感であった。このため、バンキングに用いるのには、実用的でなかった。
これに対して、本実施形態の多能性幹細胞又は特定分化細胞は、単一細胞で保存しても生存率が高いためバンキングに好適に使用可能となる。
なお、本実施形態の細胞凍結保存方法は、バンキング以外にも、大量培養バッグへ使用することも可能である。
この場合、大量培養バッグにて大量培養した細胞にグリセリン溶液を自動的に加える装置、また、関連装置を組み合わせて使用することが可能である。たとえば、インキュベーター内で、ローテーターとシリンジポンプのような機器と合わせて、細胞培養システムととして提供することも可能である。
次に図面に基づき本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
〔実験材料及び方法〕
(多能性幹細胞の維持)
多能性幹細胞株として、ヒト胚性幹細胞(hESC)とヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の細胞株が用いられた。hESCは、施設内治験審査委員会による承認の後、文部科学省の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」(2001年)に従って使用された。京都大学で樹立され30回継代培養されたhESC細胞株KhES1、同様に京都大学で樹立され50回継代培養されたhiPSC細胞株253G1が使用された。36回継代培養されたhESC細胞株であるH9(WA09)は、ウィスコンシン国際幹細胞バンク(ウィスコンシン州マディソン、アメリカ合衆国)から購入された。多能性幹細胞の細胞株は、従来の手法と同様に、hESC培地内で、マイトマイシンCで処理したマウス胎児線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上で維持された。
hESC培地は、DMEM/F12(シグマ・オールドリッチ社、セントルイス、ミズーリ、アメリカ合衆国)に、20%KSR(Knock Out Serum Replacement、ライフ・テクノロジーズ社、カールスバード、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)、0.1mM非必須アミノ酸(シグマ・オールドリッチ社製)、2mMのL−グルタミン(シグマ・オールドリッチ社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(シグマ・オールドリッチ社製)、及び5ng/mlのFGF−II(和光純薬工業株式会社、大阪、日本)を添加したものから構成される。
フィーダーフリー培養の際、多能性幹細胞は、2〜4分、37℃でCTK(コラゲナーゼ・トリプシンKSR)でインキュベートされ、その後、ピペット操作によって分離された。
多能性幹細胞の小さな塊は、Matrigel(商標)をコートしたプレート上に播種され、mTeSR1培地(StemCell Technologies社、バンクーバー、ブリティッシュコロンビア州、カナダ)で培養された。
Matrigel(グロースファクター削減済み、BDバイオサイエンス社、サンホセ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)は、プレートに0.2μg/cm2の濃度で使用し、4℃で一晩放置することでコーティングを行った。
(コロニーの単一細胞への解離)
細胞の培地が除去された後、吸着細胞はPBS(Phosphate Buffered Saline、カルシウム及びマグネシウムフリー、株式会社細胞科学研究所、仙台、日本)で一回洗浄された。そして、ACCUTASE(Innovative Cell Technologies社製、サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)が加えられ、その後、37℃、5分間インキュベートされた。剥離細胞は、新鮮な培地で回収され、遠心分離用のチューブに移された。その後、チューブは、4℃、5分、170Gで遠心分離された。これらの分離された単一細胞、0.1μM ROCKi Y−27633(和光純薬工業株式会社製、大阪、日本)で5×104/cm2密度でプレートに播かれた。培地は毎日交換された。また、細胞数が実験で必要な数に達するまで、細胞は増殖された。
(生存率、増殖率測定)
細胞の生存率(Viability)は、NucleoCounter NC−200又はNC−3000(Chemometec社製、Allerod、デンマーク)によってカウントされ評価された。
細胞は、蛍光染料であるアクリジンオレンジおよびDAPI(4'、6−Diamidino−2−フェニルインドール、二塩化水素化物)によって二重染色された。
同様に、培養前後、凍結保存前後にカウントされた生存している細胞数を用いて、細胞の増殖率(Prolifiration)も算出されて評価された。
(細胞体積変化の測定)
コロニーが単一細胞へ分離された後、細胞は最終濃度1μMのROCKi(和光純薬工業株式会社製)を加えた培地中でサスペンドされ、細胞が不規則な形状から平滑表面の球状になるまで室温で30分放置された。細胞が球状になった後、mTeSR1培地中に、20%(v/v)のグリセリン(小堺製薬株式会社製、東京、日本)と、等容積のエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)、プロピレングリコール(ナカライテスク株式会社製、東京、日本)、及びDMSO(シグマ・オールドリッチ社製)溶液とが、それぞれ、4℃、25℃、及び37℃で細胞懸濁液に一滴ずつ徐々に加えられた。細胞はこれらの温度で観察された。また、細胞の体積(Cell volume)は、顕微鏡(IX−70、オリンパス株式会社製、東京、日本)で細胞の直径を測定することにより計算された。細胞はイメージキャプチャ装置(オリンパス社製DP73)によって撮影され、細胞の直径が測定された。また、細胞の体積は、350mOsmのTeSR2培地中の細胞の割合として算出された。スライドグラスは、顕微鏡(BX50、オリンパス社製)上に載置された温度調整ステージのクリスタル(THMS600、Linkam Scientific Instruments社製、Tadworth、英国)上にセットされた。浸透圧ストレス・プロセスの間の細胞行動のイメージは、レコーディング装置(Linkam社製VTO232、及びCCD−IRIS、ソニー株式会社、東京、日本)により記録された。
(凍結保存用グリセリンの付加と除去)
実施例として、分離された単一細胞は、50mlのポリプロピレン試験管に入れられた。また、細胞は4℃、5分、170gで遠心分離された。上澄が吸引された後、細胞は6.5mlの培地にサスペンドされた。細胞懸濁液に、同容量の凍結保護材(20%、v/v)が、以下のように加えられた。凍害防止用の培地は、TeSR2培地(StemCell Technologies社製)中に20%のグリセリンを付加して作成された。培地の浸透圧は自動浸透圧計(Advanced Instruments社製、ノーウッド、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)で測定された。凍害防止用の培地(20%グリセリンを含むTeSR2培地)の浸透圧は、2200mOsだった。30分後、細胞懸濁液は1mlの凍結チューブに移された。凍結チューブは、発泡スチロール箱中に設定された凍結処理容器であるバイセル(Bio Freezing Vessel「BiCell」、日本フリーザー株式会社製、東京、日本)に置かれ、−80℃のフリーザー(三洋、大阪、日本)中に載置された。バイセルが−80℃に達した後、バイセルの中の凍結チューブが取り出され、液体窒素(LN2)タンク(気相、〜−190℃)に移され、48時間、載置された。冷却速度の影響を求めるため、凍結チューブ内の細胞は、プログラム冷凍装置(Kryo 560−16、Planner PLC社製、ミドルセックス、英国)により、1℃〜−50℃まで1分間で冷凍された。
グリセリンの除去は以下のように行なわれた。凍結されたサンプルが入ったテストチューブはLN2タンクから取り除かれ、37℃のウォーターバス中に入れられ、3分間放置した。溶かされた細胞は、遠心分離チューブに移された。1mlの37℃に加温された培地が、細胞懸濁液にゆっくり加えられた。遠心分離チューブは室温で5分放置された。2mlの培地がゆっくり加えられた後、4mlのPBSを追加してゆっくり加えられた。チューブは室温、5分、170Gで遠心分離された。細胞ペレットは2mlの培地でサスペンドされた。その後、細胞数がカウントされた。また、生存率が測定された。
(ガラス化法及びガラス化培地)
比較例として、従来と同様のガラス化方法及びガラス化培地が準備された。ガラス化培地の構成は、CMK培地(DAP社製)中、2M DMSO、1M アセトアミド、及び3M プロピレングリコールだった。ガラス化培地中の200μlの多能性幹細胞を再度サスペンションした後、サンプルは凍結バイアルに移され、直ちに液体窒素中に浸けられ、バイアルの底部から2/3ほどが浸透された。その後、凍結バイアルは、融解されるまで、−150℃のフリーザーに格納された。ガラス化細胞を溶解する際には、37℃にあらかじめ暖められた培地が、バイアルに加えられた。細胞は、ピペッティングにより速く溶解された。また、細胞は、遠心分離された後、上述の緩速冷却で記載したのと同様の方法で、同様のコーティング後のプレートに播かれた。
(電子顕微鏡観察)
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)観察のため、分離された単一細胞は、2%のグルタルアルデヒドを含む0.1Mの燐酸緩衝液(pH7.4)で前固定され、次に、1%のOsO4(四酸化オスミウム)を含む0.1Mの燐酸緩衝液(pH7.4)で後固定された。
浸透圧重量モル濃度を調節するためNaClを添加したハイパートニックの培地中で浸透圧ストレスをかけられた細胞については、固定培地の浸透圧はNaClの追加によって調節された。
段階的な濃度のエタノール(50%、70%、80%、90%、95%、95%)にそれぞれ浸して脱水した後、細胞はエポキシレジン中に埋め込まれた。
超薄切片(70〜90nm)が作成され、150メッシュの銅グリッドに載置された。超薄切片は酢酸ウラニルとクエン酸鉛で電子染色され、TEM(H−7650、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、日立、日本)で観察された。
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)観察のために、OsO4処理後のサンプルは、T−ブタノールを使用して臨界点乾燥法で乾燥された。
その後、サンプルをプラチナ−パラジウム(PtPd)蒸着し、走査型電子顕微鏡、S−4700(日立ハイテクノロジーズ社製、日立、日本)を使用して、細胞形状が観察された。
(DSC測定)
DSC測定(Differential scanning calorimetry、示差走査熱量測定)のため、分離されたKhES1細胞は、室温、5分、150gで遠心分離された。パックされた細胞は、封入可能なDSCのアルミニウム・サンプル・パン(ダイヤモンドDSC、パーキンエルマー社製、ウォルサム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)に置かれ、凍結実験のプロトコルに従って冷却又は暖められた。少なくとも5分間、その温度でアニールされた後、サンプルの冷却が再開された。これらの実験中でサンプルが冷却された最低温度は、−160℃であり、これはDSCによる正確な測定の下限であった。凍結融解の後、細胞は同じ溶液中でサスペンションされた。凍結防止剤を含む培地中でサスペンションされた細胞は、培地をゆっくり追加して、DMSO等を薄めるように洗浄された。サスペンションされた細胞は、−1℃/分、−2℃/分、−5℃/分、−20℃/分の割合で、4℃から−160℃まで冷却された。過冷却を回避するため、フリーズドライされた核形成する菌類(E.ananas)が、濃度2mg/mlで、細胞懸濁液に加えられた。
(臨床グレードの細胞培養)
臨床グレードの細胞製造下の長期細胞培養研究に使用されたKhES1細胞は、DAPソリューションを使用して、ガラス化方法によって凍結保存された。加温の後、上澄は廃棄された。また、TeSR2(StemCell Technologies社製)が加えられ、3〜4日間Synthemaxプレート(Cornig社製、ニューヨーク、アメリカ合衆国)中で培養された。その後、臨床グレードのROCKi、0.1μM塩酸ファスジル水和物(旭化成ファーマ株式会社、東京、日本)が培地に加えられた。コロニーが特定のサイズになった際に、培地が除かれた。また、細胞は、37℃で3分、0.5mg/mlのdispase(SERVA Electrophoresis社製、ハイデンベルグ、ドイツ)を含む溶液で培養された。その後、細胞は、PBSで一度、洗浄された。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(和光純薬工業株式会社製)が0.02%の濃度で加えられ、37℃で10分でインキュベートされた。温和な遠心分離後、分離された単一細胞は、回復後、全て、培養プレートに播かれた。細胞はSynthemaxプレート上で培養された。播種密度は、約5×104/cm2程度であった。
ROCKi(旭化成ファーマ株式会社製)存在下において、細胞密度は4.75〜4.0×105/cm2だった。十分な細胞増殖が観察されるまで、培地は毎日取り換えられた。4℃で3分、170gの遠心分離後、上澄が除去され、次に、新しい培地が加えられた。
(累積細胞分裂回数)
累積細胞分裂回数(Cumulative population doubling level、Total PDL、CPDL)が測定された。各培養系で累積的な細胞分裂回数(PDL)が、以下の式(1)により、細胞数から計算された。

X = [log10(NH)−log10(NI)]/log10(2) …… 式(1)

上記式(1)において、NIは播種細胞数、NHは取得時の細胞数、Xは分裂数を示す最初の培養で得られた細胞は、継代0(PDL0)として定義された。
(フローサイトメトリー分析)
細胞の未分化状態の検知のため、OCT3/4、NANOG、SSEA3、SSEA4、TRA−1−60、TRA−1−80およびSSEA1は、Human Pluripotent Stem Cell Sorting and Analysis Kit (560461), Human and Mouse Pluripotent Stem Cell Analysis Kit(560477), Human Pluripotent Stem Cell Transcription Factor Analysis Kit (560589)(BD Biosciences社製)を使用して、説明書記載の指示に従って分析された。
分析はFACS Aria II(BD Bioscience社製)で行われた。
FACS Diva Software (BD Bioscience社製)を使用して、データを取得した。
(胚様体媒介分化分析)
細胞を胚様体媒介分化分析(Embryoid body−mediated differentiation assay)した。
細胞は、dispase溶液処理後に、スクレーパーで取得された。その後、細胞は、分化培地(mTeSR1 w/o FGF II)中のAggrewell(StemCell Technologies社製)に移された。24時間後、凝集した細胞は、ultra low attachment plate(コーニング社製)に移され、次に2日ごとに培地を交換して7日間培養された。
(テラトーマ形成分析)
およそ2×106の細胞が、重症複合免疫不全症(Severe Combined Immunodeficiency、SCID)マウス(日本クレア株式会社、横浜、日本)の精巣に注入された。8週後に、マウスから奇形腫が外科的に取得され、次に、4% パラホルムアルデヒド/PBSで固定された。サンプルはパラフィンに埋め込まれて、5μmで区分され、ヘマトキシリン‐エオジン染色で処理された。これらの動物プロトコルは京都大学の動物保護委員会によって承認された。
(核型分析)
細胞は、2時間、100ナノグラム/mlのコルセミド(Life Technologies社製)で処理された。その後、細胞は、0.25%のトリプシン/EDTA溶液での解離された、細胞はハイポトニック溶液で処理され、カーノイズ溶液で固定された。処理後の細胞は、スライドガラス上に広げられ、ギムザ染色された。染色体スプレッドは、Ikaros Karyotyping System(Meta Systems社製、Altlussheim、ドイツ)を使用して、任意に選択された50個の細胞で分析された。
(RT−PCR及びリアルタイムPCR)
hESCとEBから、RNeasy Micro Kit(Qiagen社製、バレンシア、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を使用して、トータルRNAが抽出された。2μgのトータルRNAは、メーカーの指示によってOmniscript RTキット(Qiagen社製)を使用して逆転写された。半定量性PCR分析においては、TaKaRa ExTaq(タカラバイオ株式会社製、日本)でPCR反応が行われた。PCRは、増幅の対数増殖期内で、半定量比較のため最適化された。PCR産物は4%アガロースゲル上で分離され、エチジウムブロマイド染色で視覚化された。
本実施例で使用されるヒトの特定のPCRプライマーは、NANOG、OCT3/4、GATA6、GATA4、BRACH、VEカドヘリン、FOXF1、PAX6、EOMES、CDX2の遺伝子特異的な既知のプライマーを用いた。
(データの統計分析)
データは平均±標準偏差(SD)として表現された。統計的有意差はスチューデントのt検定を使用して評価された。P<0.05の場合、有意性があると判断された。
〔結果〕
(実施例1)
実施例1として、複数の異なる種類の凍結保護剤を加えた際における生存率及び増殖率の実験の結果について説明する。
分離された単一細胞は、凍結防止剤であるDMSO、EG(エチレングリコール)、PG(プロピレングリコール)、及びグリセリンのいずれかをそれぞれ添加され、10%(w/w)の終末濃度に調整され、バイセルにより−1℃/分で凍結保存された。
各凍結防止剤は10分、4℃で細胞に加えられた。次に、バイセルに設置されたチューブ中の細胞は、ゆっくりと、−80℃まで冷やされ、次に48時間LN2タンクに載置された。その後、37℃でウォーターバス中で急速に溶解された。さらに、細胞はガラス化法によっても凍結保存された。
図1Aは、異なる凍結保護剤を加えたH9及び253G1細胞の凍結保存後の生存率を示す(n=3)。
図1Aによると、これらの凍結防止剤が4℃で細胞に添加されて冷凍された際、10%DMSO、EG、及びPGでは、細胞の生存率は高かったものの、グリセリンでは非常に低かった。
図1Bは、異なる凍結保護剤を加えたH9及び253G1細胞の凍結保存後の細胞の増殖率を示す(n=3)。凍結保護剤を洗浄した後、これらの細胞は、上述の実験材料と方法で説明したように3日間培養された。増殖率は、凍結保存後の細胞数/凍結保存細胞していない細胞数×100(%)として計算された。つまり、各実施例の「増殖率」は、凍結保存されていない細胞を3日間培養した際の細胞増殖数を100%とした場合における、各凍結保存後の細胞を3日間培養した際の細胞増殖数の割合を示している。
図1Bによると、3日間培養した際の増殖率は、DMSO、EGでは高成長率を示した。しかしグリセリンでは増殖率が低かった。
図1Cは、4℃、25℃、及び37℃でグリセリンを添加された際の凍結保存後の細胞の生存率を示す(n=3)。左側のグラフはH9細胞の結果、右のグラフは253G1細胞の結果を示す。
図1Dは、4℃、25℃、及び37℃でグリセリンを添加された際の凍結保存後の細胞の増殖率を示す(n=3)。細胞は3日間培養された。左側のグラフはH9細胞の結果、右のグラフは253G1細胞の結果を示す。
また、図1C及び図1Dにおいて、グラフ中の「**」は、P<0.01であることを示す。
図1C及び図1Dによると、グリセリンが30分の室温又は37℃で加えられた場合、生存率及び増殖率は、DMSO、EG、及びPGで凍結保存されたものと同様の水準まで増加した。同様の結果は、他の多能性幹細胞の間でも得られた。
つまり、図1C、図1Dによると、37℃でグリセリンを用いて凍結保存された細胞は凍結保存から良好に回復し、増殖率も図1AのDMSO及び図1BのEGと同様に高かった。
(実施例2)
次に、実施例2として、異なる温度での凍結保護液内の体積変化率の実験の結果について説明する。
図2Aは、4℃でDMSOとEGが添加されたH9細胞の凍結保護液内での細胞の体積変化を示す。
図2Bは、4℃でDMSOとEGが添加された253G1細胞の凍結保護液内での体積変化率を示す。
この図2A及び図2Bでは、H9及び235G1の分離された単一細胞に、4℃でDMSO、EG、又はグリセリンがそれぞれ加えられた。凍結保護剤が加えられると、直ちに細胞体積は元の体積の約40%まで減少し、その後、4℃でDMSOを添加した培地中では5分以内、4℃でEGを添加した培地の中では10分以内に元の体積にまで戻った。一方、4℃でグリセリンを添加した培地中では、体積の復元は観察されなかった。
DMSOとEGの透過性に対して、グリセリンの透過性は、はるかに遅いことを示している。
図2Cは、4℃、25℃、又は37℃でグリセリンが添加された際の、解離されたH9単一細胞の体積変化率を示している。
図2Dは、4℃、25℃、又は37℃でグリセリンが添加された際の、解離された253G1単一細胞の体積変化率を示している
図2Cによると、これに対して、グリセリンが室温又は37℃でH9細胞へ添加された際に、細胞体積は縮小し、37℃で40分後に元の体積にゆっくりと戻った。つまり、図2Cによれば、グリセリンが細胞中で平衡状態になるのに30分以上かかった。
図2Dによると、253G1細胞は、H9細胞と同様に体積が戻るパターンを示したものの、80分後でさえ、完全には元の体積には達しなかった。
図2A〜図2Dで示されたように、DMSOとEGを添加された細胞は元の体積に戻ったものの、グリセリンが4℃で細胞に加えられた場合、細胞体積は元に戻らなかった。つまり、グリセリンは、細胞に入り込まなかったことを示している。さらに、グリセリンを添加した細胞が元の体積に戻るまでに必要な時間は、室温でさえ遅かった。
図2Eは、グリセリン添加後のインキュベーション時間と、グリセリン除去時の温度を変化させた際のH9細胞(WA09−DL−1)の生存率との関係を示している。
図2Eでは、10%のグリセリンを添加(addition)した際に、それぞれ、5分、15分、30分、37℃でインキュベートした。その後、上述のように凍結して保存後、解凍した際に、37℃又は4℃で培地を添加してグリセリンを除去(dilution)した際の生存率を示す。グラフにおいて縦軸は生存率(%)、横軸はインキュベートの条件を示す。
このように、グリセリンを添加後、少なくとも37℃で10分〜15分以上のインキュベートを行うことで、生存率を好適にすることが可能である。また、グリセリン除去時にも、37℃で行うことで、生存率を高めることができる。
(実施例3)
次に、実施例3として、ハイパートニック又はハイポトニックの培地での細胞体積変化の結果について説明する。
H9細胞が、ハイパートニック又はハイポトニックの培地中でサスペンドされ、細胞体積の変化が測定された。
図3Aは、ハイパートニック培地中のH9細胞の細胞体積変化を示す。
図3Bは、ハイポトニック培地中のH9細胞の細胞体積変化を示す。
それぞれのグラフで、横軸は添加後の時間、縦軸は細胞体積を示す。
図3Aのように、ハイパートニック培地で浸透圧が増加した場合、細胞は縮小した。逆に、図3Bのように、ハイポトニック溶液では、体積が増加した。
また、図3Aによると、ハイパートニック培地では、縮小した細胞は、培地中で体積が回復した。これは、細胞膜に障害を生じ、細胞外培地が細胞内へ侵入したことを示す。図3Aのグラフ上の値によると、ハイパートニック及びハイポトニック培地の浸透ストレスの実験では、細胞は約1000mOsの浸透性ストレスで障害を受けた。したがって、浸透圧耐性の限界を超えないよう、グリセリンは注意深く加えられるべきである。
また、図3Bによると、ハイポトニック培地では、175mOsでは体積が回復したものの、115mOs以下で5分間経過すると細胞の体積が大きくなったままであった。
図3A、図3Bに示すように、細胞からグリセリンを取り除く場合、より高温度で、洗浄用溶液を遅く追加して行うことが、ハイポトニックの浸透圧の限界を越えないために必要である。グリセリンが添加された細胞は、高張性又は低張性のストレス下にあるためである。
(実施例4)
次に、実施例4として、浸透圧ストレス下の細胞の形態を観察したものについて説明する。浸透圧ストレス下の細胞が、SEMとTEMとによって観察された。
図4A〜図4Cは、アイソトニック〜ハイパートニックの各濃度の培地中のH9細胞のSEM(上)又はTEM(下)の電子顕微鏡写真を示している。写真のバーに拡大率を示す。
図4Aは、浸透圧重量モル濃度350mOsmでアイソトニックの培地中の細胞を示している。
図4Bは、1000mOsmに調節された培地中の細胞を示している。
図4Cは、2500mOsmに調節された培地中の細胞を示している。
図4Aの上の写真によると、解離後の細胞は、アイソトニック培地では、正常の微絨毛を備えた円形になった。
図4B、4Cの上の写真によると、ハイパートニック培地では、細胞は縮んだ。また、約1000mOsの浸透圧重量モル濃度では、濾過胞形成が数秒で生じた。また、ほとんどの細胞はハイパートニックで同様の形状を示した。
図4Bの下の写真、4Cの下の写真によると、TEMでは、細胞内部に、細胞小器官のない多くの水疱があることを示している。
これら図4A〜図4Cに示されるように、ハイパートニック培地中で細胞は、特定の体積まで収縮した後、急に水疱を形成した。水疱は、TEMによって観察されたように、細胞小器官を含んでいなかった。この細胞形状は、「ロンリーデス・ダンス」と呼ばれた、ネクローシス間際の細胞に類似していた。
従来より、凍結防止剤の透過係数は様々なタイプの細胞の中で研究されてきた。これに対して、本実施例のグリセリンの係数透過性の測定は、これらの多能性幹細胞の凍結保存のための最良のプロトコルを決定するために使用することができる。
(実施例5)
次に、実施例5として、グリセリン濃度及び冷却速度の影響の実験の結果について説明する。
単一のH9細胞に37℃で、異なる濃度のグリセリンが添加され、次に、バイセル中で−1℃/分で冷却され、上述の手順で凍結保存、その後、解凍された。
図5Aは、A0〜10%のグリセリンを含む凍結保存液による凍結保存後の細胞の生存率(n=3)を示す。縦軸は、解凍後、3日間培養された後の生存率(%)を示す。横軸は、凍結保存時に添加されたグリセリン濃度を示す。「*」は、P<0.05、「**」はP<0.01であることを示す。
図5Bは、凍結保存後のH9細胞の増殖率に対するグリセリン濃度の影響(n=3)を示す。縦軸は、3日間培養された非凍結細胞の数を100%とした際の生存率(%)を示す。横軸はグリセリン濃度、「*」は、P<0.05、「**」はP<0.01であることを示す。
図5A、図5Bによると、生存率と増殖率は、グリセリンの濃度により影響された。
(実施例6)
次に、実施例6として、細胞を異なる冷却速度で冷凍した際の生存率及び増殖率への影響の実験の結果について説明する。
図6Aは、プログラムフリーザーを使用して、37℃で10%のグリセリンが添加された単一のKhES1を異なる冷却速度により冷凍し、解凍した際の生存率を示す。バイセルは、−20〜−40℃の間、冷却速度−1℃/分以下となる。コントロール(control)は、冷却保存せずに培養した際の細胞の生存率である。
図6Bは、図6Aの各濃度の細胞の増殖率を示す。3日間、培養された非凍結細胞の数が100%と見なされた。
各グラフにおいて、縦軸は生存率、横軸は濃度を示す。
図6A、図6Bによると、細胞の生存率と増殖率は冷却速度によって影響を受けた。冷却速度が−10℃/分より速かった場合、細胞の生存率が低下し、増殖率が抑えられた。つまり、冷却速度が−20℃/分よりも早いと、細胞が障害を受けたと考えられる。また増殖率を鑑みると、−2℃/分の冷却速度が最も細胞の増殖率が高かった。
(実施例7)
次に、実施例7として、DSC分析の結果を示す。ここでは、急冷によるhESCの細胞内凍結が、DSC測定によって確認された。
図7は、37℃で10%のグリセリンが添加されDSCステージに置かれ、それぞれの冷却速度で冷却されたKhES1細胞の凍結融解のDSC記録である。冷却速度は、左から、−2℃/分、−5℃/分、−10℃/分、−20℃/分のグラフを示している。
図7によると、細胞外凍結が生じた後、−10℃/分以上の速度で冷却された細胞は、凍結後に熱拡散が起こったことを示している。冷却が繰り返された場合、冷却時に1番目に観察されたピークは、見えなくなった。これは、外因性の細胞液の破壊が、最初の実行で観察された発熱線ピークは、細胞内凍結が原因であることを示唆する。
また、細胞内凍結は矢印によって示された−20℃/分の冷却速度で観察された。また、−5℃/分以下、特に−2℃/分の冷却速度では、細胞外培地が冷凍だった後、熱イベントはなかった。
結論として、図7のDSC測定によると、細胞の急速凍結によって引き起こされた細胞障害は、細胞内の氷結晶成長(IIF)に由来し、これが殆どの細胞を殺したことを示している。したがって、細胞は−10℃/分より遅く凍結保存されるべきである。
(実施例8)
次に、実施例8として、GMP条件下での凍結保存細胞の長期培養の結果を示す。実施例8では、グリセリンで凍結保存され、臨床利用と同様に増殖された細胞について、三胚葉の分化及び生体内での分化等が正常であるか否かを分析した。
実施例8では、10%グリセリンを添加されて凍結保存されたKhES1を、異種由来成分不含有(無血清状態)、フィーダー細胞なしの条件で長期培養した際の形質を示す。10%グリセリンの条件で凍結保存された細胞は、添加時と同様の条件(37℃、30分)で急速に溶解され、上述したようにグリセリンを除去され、血清及びフィーダー細胞なしで長期間、培養された。
図8Aは、コロニーの形態を示す。左が凍結保存前、右が凍結保存後して解凍後、継代20回(82日目)の培養時の写真を示す。バーは200μmを示す。
図8Bは、10%グリセリンで凍結保存されたKhES1の増殖率を示す。縦軸は、溶解後のKhES1の継代20回目までの累積細胞分裂回数を示す。横軸は、継代回数を示している。図8Bにおいては、テストされた3つの細胞株、KhES1、253G1、H9の結果をまとめて示す。
図8Cは、フローサイトメトリーによる多分化能マーカーの発現の観察結果を示すグラフである。20回の継代前後の培養における未分化状態のマーカー(SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、及びOCT3/4)、及び分化マーカー(SSEA−1)のフローサイトメトリー分析結果を、それぞれのグラフとして示されている。
図8Dは、胚葉体中の分化マーカー遺伝子発現についてRT−PCR分析をした結果を示す。コントロールとして、グリセリン凍結前のES細胞、グリセリン凍結後ES細胞を一緒に示す。図8Dでは、細胞の20回継代後に生成された胚葉体からトータルRNAを抽出した。未分化マーカー遺伝子(OCT3/4、NANOG)及び分化マーカー遺伝子(外胚葉:PAX6、内胚葉:GATA6、中胚葉:FOXF1、中内胚葉:BRACH、栄養外胚葉:EOMES)の発現が、RT−PCRによってそれぞれ分析された。
図8Eは、テラトーマ分析の結果である。図8Eの(a)は外胚葉、(b)は中胚葉、(c)は内胚葉の組織の細胞に分化した箇所を示す。
図8Fは、核型分析の結果を示す。写真には、20回の継代後のKhES1の各染色体のGバンド分析の結果を示している。
図8Aに示すように、細胞は、標準形状のコロニーを形成した。
図8Bによると、増殖率はDMSOで冷凍したものと同様だった。20回の継代後、多分化能力を示す、SSEA3、SSEA4、TRA1−60、TRA1−81、NANOG、及びOCT3/4の細胞マーカーは、グリセリンで凍結保存された細胞H9の中でよく維持された。
図8Cによると、SSEA1はこれらの細胞中で発現していなかった。
図8Dによると、q−PCRによって検知された胚体中のいくつかのマーカーに係る遺伝子発現を示していた。
図8Eでは、胚体の分化能力が組織化学的染色で示された。
図8Fによると、核型分析は、細胞集団に不ぞろいな形状がなかったことを示した。
図8に示したように、10%のグリセリンで凍結保存された細胞は、未分化状態で、分化能力を維持し、正常核型を備え、三胚葉の派生細胞へよい増殖率で増加した。
本実施例で実証されたように、グリセリンが凍結保存に使用された細胞は好結果を示した。
従来、凍結保蔵期間中、その追加及び除去中にも、DMSOではエピジェネティック変化を引き起こすことが知られていた。
これに対して、グリセリンで凍結保存した細胞間のエピジェネティック変化は観察されず、安定した長期保存が可能であることが示された。
また、従来の凍結保存方法として、分離された単一細胞に特定のROCKi加えて、解離細胞のアポトーシスを防いで細胞を維持する方法が知られている。また、これらの分離された単一細胞の凍結保存は、細胞の回復を広範囲に改善するかもしれない。しかしながら、単一細胞がコロニーと比較して、凍結保存に適している理由は分からなかった。ROCKiの追加が凍結保存の保存性を改善するといういくつかの報告がある。しかし、ROCKiが凍害から直接細胞を保護するかどうかはまだ明らかではなかった。
これに対して、本実施例の凍結保存方法によれば、凍結保護物質と同様に、ハイパートニック培地中のROCKiの存在が細胞生存率を改善しなかったことを示し、ROCKiが浸透圧ストレス、及び凍結融解において直接、細胞生存に寄与しないことを示唆する。なお、細胞死は、細胞骨格ネットワークの混乱によって引き起こされ、部分的にROCKiによって妨げられたことが知られている。
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明の細胞凍結保存方法は、エピジェネティック変化を引き起こすDMSOを使用しないで多能性幹細胞を保存することができ、バンキング等に適用可能となり、産業上に利用することができる。

Claims (6)

  1. 凍結保護剤を含む凍結保存液により多能性幹細胞又は該多能性幹細胞が特定程度分化した特定分化細胞を凍結保存する細胞凍結保存方法であって、
    前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を単一細胞に解離し、
    前記凍結保護剤としてグリセリンを25℃〜42℃で、7.5容積%〜25容積%になるよう加え、
    −5℃/分以下の速度で緩速冷却して凍結する
    ことを特徴とする細胞凍結保存方法。
  2. 前記グリセリンを、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度で加え、10分以上、インキュベートし、
    前記緩速冷却は、−50℃以下になるまで行い、その後、前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を液体窒素温度で保存する
    ことを特徴とする請求項1に記載の細胞凍結保存方法。
  3. 前記凍結保存液は、異種由来成分不含有である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞凍結保存方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞凍結保存方法により保存された多能性幹細胞又は前記特定分化細胞を、あらかじめ37℃〜42℃に加温した恒温槽内にて急速解凍する
    ことを特徴とする細胞解凍方法。
  5. 前記多能性幹細胞又は前記特定分化細胞の浸透圧耐性に対応した段階的な濃度の培地を加え、前記凍結保護剤を除去する
    ことを特徴とする請求項3に記載の細胞解凍方法。
  6. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞凍結保存方法により、
    細胞膜から細胞内へ十分な濃度のグリセリンが浸透して凍結保存された
    ことを特徴とする細胞。
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