JP6333133B2 - リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、リチウム電池、及びリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法 - Google Patents

リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、リチウム電池、及びリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、リチウム電池、及びリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法に関する。
近年、パソコン及び携帯電話等の電子機器の普及、自然エネルギーの貯蔵技術の発展、及び電気自動車等の普及により、安全で長寿命で高性能な電池の需要が高まっている。従来のリチウムイオン二次電池では、電解質層として有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解質層が用いられる場合があった。このような液体の有機電解質層を用いた電池では、有機溶媒の漏洩、発火、爆発等の危険性があり、安全面において好ましくない場合がある。そこで、近年、高い安全性を確保するために、液体の有機電解質層に代えて固体電解質層を用いると共に他の電池要素をすべて固体で構成した全固体電池の開発が進められている。
全固体電池は、電解質層がセラミックスであるので、漏洩や発火のおそれがなく安全である。また、全固体電池は、液体の有機電解質層を用いたリチウムイオン二次電池に設けられている外装を簡略化でき、各電池要素を積層化することにより小型化することができるので、単位体積あたり及び単位重量あたりのエネルギー密度を向上させることができる。全固体電池の中でも、電極にリチウム金属を含む全固体リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度化が期待されている。全固体リチウムイオン二次電池では、リチウム金属の反応性が高いため、リチウム金属に対して安定な、特定の材料で構成された電解質層を用いる必要がある。
例えば、特許文献1には、リチウム二次電池の固体電解質材料等として使用可能な程度の緻密度やイオン伝導率を示すことのできるセラミックス材料を提供することを目的として、「リチウム(Li)とランタン(La)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)と、アルミニウム(Al)とを含有し、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する、セラミックス材料」が開示されている(特許文献1の0008欄、請求項1)。このセラミックス材料は、LiLaZr12(LLZと称することもある)成分以外にアルミニウムを含有するので、安定して焼結体ペレットとして取得でき、良好なLi伝導性を示すことが開示されている(特許文献1の0009欄)。
特許文献2には、より高密度且つ良好なLiイオン伝導を有するペレットを得ることができるセラミックス材料を提供することを目的として、Li、La、Zr、Al及びOを含有し、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有するセラミックス材料において、Li及びZrが特定の配合量で配合された焼成用原料を焼成して得られるセラミックス材料が開示されている(特許文献2の0009欄、請求項1)。特許文献2には、Al成分を含有し、LLZ結晶構造を有するセラミックス(LLZ−Alセラミックスと称することもある)は、Li量によって密度及びLi伝導度が変化し、Li量を適宜調節することで良好な密度及びLiイオン伝導度が得られることが開示されている(特許文献2の0010欄)。
特許文献1及び特許文献2に示されるLLZ−Alセラミックスは、耐リチウム性に優れており、Li金属を含む電極と共に構成される固体電解質層として利用できることが開示されている。
特許第5132639号公報 特許第5376252号公報
ところで、全固体型のリチウム電池に関して、エネルギー密度のさらなる向上が望まれている。エネルギー密度を向上させる方法の一つとして、固体電解質層や固体電解質層と電極との間に配置される保護層を薄くし、全固体型のリチウム電池全体として、重量、体積を小さくすることが考えられる。さらに、これらを薄くすると電池内部抵抗が低減し、電池の出力も向上する。しかしながら、固体電解質層及び保護層を薄く形成すると、全固体型のリチウム電池の内部で短絡(すなわちリチウム電池内部の正極電極層と負極電極層との接触)が起こりやすくなり、長寿命の全固体型のリチウム電池とすることが困難になる。したがって、エネルギー密度を向上させると共に、長寿命の全固体型のリチウム電池とするためには、固体電解質層及び保護層としての機能を維持しつつ薄型化できることが求められる。
特許文献1及び特許文献2に示されるLLZ−Alセラミックスを、特許文献1及び特許文献2に記載の手順に従って作製したところ、大きな粒界が形成されているのが観察された。このような大きな粒界が焼結体に形成されていると、十分な密度が得られない。したがって、特許文献1及び特許文献2のLLZ−Alセラミックスを固体電解質層及び保護層として使用する場合には、固体電解質層及び保護層としての機能を維持しつつ薄く形成するのが難しく、長寿命で高性能なリチウム電池にすることができない。
本発明は、所定のイオン伝導率を維持すると共に高い密度を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体及びその製造方法を提供すること、並びにこのようなリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を備えることにより、長寿命で高性能なリチウム電池を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段は、
(1) Li、La、Zr、Al、Oを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体である。
前記(1)の好ましい態様は、
(2) 前記金属酸化物は、Li、La、Zr、Al、及びOからなる前記(1)に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体である。
(3) 相対密度が90%以上であり、室温におけるイオン伝導率が1×10−4S/cm以上である前記(1)又は前記(2)に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体である。
前記別の課題を解決するための手段は、
(4) 請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を備えるリチウム電池であって、
前記リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池である。
前記別の課題を解決するための手段は、
(5) 前記(1)〜前記(3)のいずれか一つに記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を製造する方法であって、
Li、Al、M(Mは、La、又は、LaとK、Mg、Ca、Sr、Y、Ba、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)、及びM(Mは、Zr、又は、ZrとSc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)の各成分を含む材料を、次の条件を満たすように配合して配合材料を得る配合工程と、前記配合材料を焼成する焼成工程とを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法。
(1)M/M>2/3(モル比)
(2)Zr/M>2/3(モル比)
である。
本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、Li、La、Zr、Al、Oを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有する。したがって、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、高い密度を有し、所定のイオン伝導率を維持できるという効果が得られる。このような効果が得られるメカニズムは明らかではないが、例えば以下のメカニズムによるものと言える。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体にLiZrOが形成されると、粒界に析出しやすいと考えられる物質(例えば、Alを含む酸化物、La及びAlを含む酸化物)の析出による粒界の成長が抑制される。したがって、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の焼結性が向上し、大きな粒界が形成され難くなる。そのため、高い密度を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。また、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、前述したガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物を有するので所定のイオン伝導率を維持することができる。したがって、本発明によると、所定のイオン伝導率を維持すると共に高い密度を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明に係るリチウム電池は、所定のイオン伝導率を維持すると共に高い密度を有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を、固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層として備えるので、固体電解質層又は保護層の機能を維持しつつ薄型化することができる。したがって、リチウム電池の内部抵抗を低減することができると共に、リチウム電池の内部で短絡(リチウム電池内部の正極電極層と負極電極層との接触)が起こるのを防止することができる。その結果、本発明に係るリチウム電池によると、長寿命で高性能なリチウム電池を提供することができる。
図1は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。 図2は、本発明に係るリチウム電池の他の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。 図3(a)は、実施例1のサンプル1の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図3(b)は、実施例2のサンプル2の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。図3(c)は、比較例1のサンプル3の研磨面をSEMで撮影して得られた画像である。 図4は、サンプル1〜3の焼結体を粉砕した粉末をXRD分析して得られたX線回折パターンである。 図5(a)は、サンプル3の粒界付近をSEMで観察して得られた画像である。図5(b)は、図5(a)における領域(1)をEDS分析して得られたEDSスペクトルを示す図である。図5(a)における領域(2)をEDS分析して得られたEDSスペクトルを示す図である。図5(a)における領域(3)をEDS分析して得られたEDSスペクトルを示す図である。 図6(a)は、サンプル2をSEMで観察して得られた画像である。図6(b)は、図6(a)における主結晶相をEDS分析して得られたEDSスペクトルを示す図である。図6(a)における第二相をEDS分析して得られたEDSスペクトルを示す図である。
(第1実施形態)
この発明に係るリチウム電池の第1実施形態である全固体電池を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。この全固体電池10は、全固体型のリチウムイオン電池であり、固体電解質層11と正極電極層12と負極電極層13と第1の集電部14と第2の集電部15とを備える。
前記固体電解質層11は、酸化物系のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体によって構成されている。このリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、その製造工程においてZr成分が過剰に添加されていることによって、その密度が向上されている。このリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体については後述する。
前記正極電極層12及び前記負極電極層13(単に電極と称することもある)は、固体電解質層11の両側にそれぞれ配置されている。正極電極層12は、正極活物質と固体電解質とを含有する材料によって形成されている。正極活物質としては、特に限定はなく、例えば、硫黄、TiS、LiCoO、LiMn、及びLiFePO等が挙げられる。電極に含まれる固体電解質としては、特に限定はなく、リチウムイオン伝導性を有している材料であればよい。例えば、電極に含まれる固体電解質としては、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、Li(Zr,Nb)(PO(LZNPと称する)、Li(Al,Ge)(PO(LAGPと称する)、Li(Al,Ti)(PO(LATPと称する)、La2/3−xLi3xTiO3(LLTと称する)、LiS−P、LiBO、LiPO等が挙げられる。なお、正極活物質に電子導電性がない場合には、正極活物質及び固体電解質と共に導電助剤が含有されてもよい。導電助剤としては、特に限定はなく、電子導電性を有する材料であればよい。例えば、導電助剤としては、導電性カーボン、ニッケル(Ni)、白金(Pt)及び、銀(Ag)等が挙げられる。
前記負極電極層13は、負極活物質と固体電解質とを含有する材料によって形成されている。負極活物質としては、特に限定はなく、例えば、Li金属、リチウム−アルミニウム合金(Li−Al合金)、LiTi12、カーボン、ケイ素(Si)、一酸化ケイ素(SiO)等が挙げられる。電極に含まれる固体電解質としては、特に限定はなく、Liイオン伝導性を有している材料であればよい。例えば、電極に含まれる固体電解質としては、本発明のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体、Li(Zr,Nb)(PO(LZNPと称する)、Li(Al,Ge)(PO(LAGPと称する)、Li(Al,Ti)(PO(LATPと称する)、La2/3−xLi3xTiO3(LLTと称する)、LiS−P、LiBO、LiPO等が挙げられる。なお、負極活物質に電子導電性がない場合には、負極活物質及び固体電解質と共に導電助剤が含有されてもよい。導電助剤としては、特に限定はなく、電子導電性を有する材料であればよい。例えば、導電助剤としては、導電性カーボン、ニッケル(Ni)、白金(Pt)及び、銀(Ag)等が挙げられる。
前記第1の集電部14は、正極電極層12における固体電解質層11が配置されている側とは反対側に配置されている。前記第2の集電部15は、負極電極層13における固体電解質層11が配置されている側とは反対側に配置されている。第1の集電部14及び第2の集電部15は、導電性を有する部材であり、例えば、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、及びこれらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって構成される。
次に、固体電解質層11を構成するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体について説明する。この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、Li、La、Zr、Al、及びOを少なくとも含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有する。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体にLiZrOが形成されていると、前記金属酸化物が母材でありLiZrOが形成されていない焼結体に比べて密度が向上する。その理由を発明者らは次のように考えている。例えば、下記一般式(1)に示される化合物が得られるようにLi成分、La成分、Zr成分を含む材料を所定の比率で配合し、ここに所定量のAl成分を含む材料を添加した原料を焼成すると、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有し、所望のイオン伝導率を有する焼結体が得られる。この焼結体には、図3(c)に示すように、大きな粒界が形成されているのが観察される。このような大きな粒界が焼結体に形成されていると、十分な密度が得られず固体電解質層11としての所望の機能が安定的に得られない。そうすると、内部抵抗を低減させるために固体電解質層を薄型化した場合に、全固体電池の内部で短絡が起こるおそれがある。一方、下記一般式(1)に示される化合物が得られるようにLi成分、La成分、Zr成分を含有する材料を所定の比率で配合する際に、所定量のAl成分を含む材料を添加するだけでなく、一般式(1)に示される組成比よりもZr成分を過剰に添加すると、LiZrOが形成され、粒界に析出しやすいと考えられる物質(例えばAlを含む酸化物、La及びAlを含む酸化物等)の析出による粒界の成長を抑制でき、焼結性が向上する。したがって、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物と共にLiZrOが形成されると、大きな粒界の形成が抑制され、高密度のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が得られる。その結果、固体電解質層11を薄型化しつつ全固体電池10の内部で短絡が起こるのを防止することができる。
LiLaZr12(LLZ)・・・一般式(1)
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する前記金属酸化物からなる主結晶相に第二相としてのLiZrOの粒子が分散した状態で存在しているのが好ましい。前記金属酸化物からなる主結晶相にLiZrOの粒子が分散した状態で存在することにより、大きな粒界が形成され難くなる。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体がガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する前記金属酸化物及びLiZrOを含有することは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の粉砕粉末をX線回折装置(XRD)で分析することにより確認することができる。具体的には、まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を粉砕して得られた粉末をX線回折装置(XRD)により分析し、X線回折パターンを得る。得られたX線回折パターンと、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードとを対比することにより、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に含有される物質が同定される。なお、X線回折パターンの対比は、LLZに対応するICDDカード(01−080−4947)(LiLaZr12)を利用して行う。ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する前記金属酸化物は、ICDDカード(01−080−4947(LiLaLa12))と組成が異なるので、回折ピークの回折角度及び回折強度比が異なる場合もある。
前記金属酸化物は、例えば、一般式(1)に示される化合物が得られるようにLi成分、La成分、Zr成分等を含む材料を所定の比率で配合する際に、所定量のAl成分を含む材料を添加した原料を焼成することにより形成される。前記金属酸化物は、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有し、この結晶は、Liが配置されるサイト(Liサイトと称する)とLaが配置されるサイト(Laサイトと称する)とZrが配置されるサイト(Zrサイトと称する)とを有する。Liサイトには、少なくともLiが配置され、Liの一部がAlに置換されてもよい。Laサイトには、少なくともLaが配置され、Laの一部がK、Mg、Ca、Sr、Y、Ba、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuからなる元素群より選択される少なくとも1種により置換されてもよい。Zrサイトには、少なくともZrが配置され、Zrの一部がSc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも1種により置換されてもよい。また、後述する固体電解質層11の製造工程における焼成時にLi等の元素が揮発したり、前述した各元素が結晶構造内に侵入したりすることがあるので、前記金属酸化物は一般式(1)に示される組成比からずれることがある。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体におけるAlの含有量は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の全質量に対して、0.1〜2質量%であるのが好ましい。Alの含有量が前記範囲内にあると、Alの含有されていないLLZセラミックス焼結体に比べて良好な焼結性が得られるので密度が向上し、また、イオン伝導率を向上させることができる。Alの含有量が小さくなるほど前記効果が得られ難くなる。Alの含有量が2質量%を超えるとイオン伝導率が低下する傾向にある。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に含まれる元素の種類及びこれらの相対的な含有割合は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)により求めることができる。具体的には、まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を切断して切断面を露出させ、この切断面を研磨して研磨面を得る。この研磨面の複数箇所をEDSにより分析し、各々の箇所の元素の種類及びこれらの相対的な含有割合を測定する。なお、EDSで分析できないLi等の元素については、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)により求めることができる。具体的には、焼結体を粉砕した粉末を酸などの溶媒に溶解させた溶液にICP分析を行うことによって、Li等の相対的な含有割合を求める。
LiZrOは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を形成する際の原料として、例えば、一般式(1)に示される組成比よりもZr成分を過剰に添加することにより形成される。すなわち、後述するように、LiZrOは、原料としてLaサイトに配置される元素M3モルに対してZrサイトに配置される元素Mを2モルを超えて添加し、かつZrを2モルを超えて添加することにより形成される。LiZrOは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の切断面において0.1〜10面積%の割合で含有されているのが好ましい。LiZrOの含有量が前記範囲内にあると、所定のイオン伝導率を維持しつつ高い密度のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。LiZrOの含有量が小さくなるほど大きな粒界の形成を抑制する効果が小さくなり、LiZrOの含有量が大きくなるほどイオン伝導率が低下する傾向にある。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体におけるLiZrOの含有量は、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の切断面から、LiZrOの面積の割合を求めることにより算出することができる。具体的には、まず、前述したEDS分析と同様にして研磨面を得る。この研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、LiZrOの粒子を複数個確認できる程度の倍率(例えば1000倍)で撮影する。得られた画像に観察されるすべてのLiZrOの面積を求める。画像全体の面積に対するLiZrOの全面積の割合を算出することにより、LiZrOの含有量を求めることができる。
本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、EPMA、EDS、ICPで分析することにより、Li、La、Zr、Al、及びOの各元素の存在が確認され、XRD分析によりガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとが同定されるものであればよい。本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体におけるAlの存在形態は特に限定されず、例えば、AlはLLZ結晶のLiサイトに配置され、LLZ結晶構造内に侵入し、及び/又は結晶粒界等に別の相として存在してもよい。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、緻密であることが好ましい。具体的には、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の理論密度に対する相対密度が90%以上であるのが好ましい。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の相対密度が90%以上であると、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体により構成される固体電解質層11としての機能を維持しつつ厚みを薄く形成することができる。したがって、全固体電池10の内部抵抗を低減させることができると共に、全固体電池10の内部で短絡が起こるのを防止することができる。前記相対密度は、次のようにして測定することができる。まず、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の乾燥質量を例えば電子天秤で測定し、体積をノギスで測定する。測定密度は、測定した乾燥質量を体積で割ることにより算出する。加えてリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の理論密度を算出する。相対密度(%)は、測定密度を理論密度で除算し、100を掛けた値として求めることができる。
リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、室温におけるイオン伝導率が1×10−4S/cm以上であるのが好ましい。リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のイオン伝導率が前記範囲にあると、全固体電池10の内部抵抗を低減させることができる。
この全固体電池10は、固体電解質層11がLi、La、Zr、Al、Oを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有するので、固体電解質層11に大きな粒界が形成され難く、LiZrOを含まないLLZ−Alセラミックス焼結体に比べて密度が高い。したがって、この全固体電池10は、固体電解質層11としての機能を維持しつつ固体電解質層11を薄型化することができる。それによって、全固体電池10の内部抵抗を低減することができると共に、全固体電池10の内部で短絡が起こるのを防止することができる。また、前記固体電解質層11は、前記金属酸化物を有するので、所定のイオン伝導率を維持することができる。したがって、この全固体電池10は、長寿命で高性能である。
次に、この発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池10の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、この実施態様の全固体電池10における固体電解質層11の製造方法を説明する。固体電解質層11は、原料を配合して配合材料を得る配合工程と、得られた配合材料を焼成する焼成工程とを有する。
前記配合工程では、原料として、Li、Al、M(Mは、La、又は、LaとK、Mg、Ca、Sr、Y、Ba、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)、及びM(Mは、Zr、又は、ZrとSc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)の各成分を含む材料を、次の条件(1)及び(2)を満たすように配合して配合材料を得る。
(1)M/M>2/3(モル比)
(2)Zr/M>2/3(モル比)
前記配合材料は、前記条件(1)及び(2)に示されるように、一般式(1)に示される組成比よりもZr成分を過剰に含有している。すなわち、前記配合材料は、Laサイトに配置されるM3モルに対してZrサイトに配置されるMを2モルを超えて含有し、かつZrを2モルを超えて含有している。したがって、これらの原料を後述するように焼成して一般式(1)に示される化合物が形成された場合に、この化合物のすべてのZrサイトに、配合されたZrが配置されても、余剰のZrが存在する。この余剰ZrによりLiZrOが形成される。それによって、大きな粒界の形成すなわち粒界の成長が抑制され、高密度のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を提供することができる。なお、配合材料におけるM及びZrの含有量が多すぎると、LLZ以外の化合物が形成され易くなり、イオン伝導率が低下する傾向にあることから、1>M/M及び1>Zr/Mであるのが好ましい。
前記配合材料は、Li、Al、M、及びMの各成分からガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物が得られる程度のLi、Al、M、及びMの各成分を含む。例えば、一般式(1)に示す結晶相を得るためには、Li成分を、Laサイトに配置されるM3モルに対して7モル程度添加するのが好ましい(Li/M=7/3(モル比))。Li成分が揮発し易いことを考慮して、M3モルに対して7モルよりも多く添加してもよく、例えばM3モルに対して9モルまで添加してもよい(Li/M=9/3(モル比))。
前記各成分を含む材料は、焼成により各成分に転化する材料であれば特に制限はなく、例えば、Li、Al、M、及びMの各成分を含む、酸化物、複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩等を挙げることができる。前記各成分を含む材料として、具体的には、LiO、LiOH、LiCo、Al、Al(OH)、AlCl、La、La(OH)、ZrO等の粉末を挙げることができる。前記各成分を含む材料は、酸素(O)成分を含んでいても含んでいなくてもよい。前記各成分を含む材料が酸素(O)成分を含んでいない場合には、酸化雰囲気で後述する焼成工程を行う等、焼成雰囲気を適宜設定することにより、Li、La、Zr、Al、Oを含有する金属酸化物を得ることができる。
前記配合材料の調製は、公知のセラミックスの合成における原料粉末の調製方法を適宜採用することができる。例えば、前記各成分を含む材料を、ジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、有機溶媒中で8〜20時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して配合材料を得る。前記有機溶媒としては、例えば、エタノール、ブタノール等のアルコールやアセトン等を挙げることができる。
前記焼成工程の前には、配合材料を仮焼成する工程を有するのが好ましい。この工程では、例えば、前記配合材料を、MgO板上で900〜1100℃で2〜15時間仮焼成を行い、仮焼成材料を得る。仮焼成工程を行うことにより、焼成工程の後にガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する焼結体が得られやすくなる。
前記焼成工程の前には、前記仮焼成材料にバインダーを加えて粉砕混合する工程を有するのが好ましい。この工程では、例えば、前記仮焼成材料にバインダーを加えて、有機溶媒中で8〜20時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して未焼成材料を得る。仮焼成材料をさらに粉砕混合することにより、焼成工程の後に均一な結晶相が得られ易くなる。前記バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリビニルブチラール等を挙げることができる。前記有機溶媒は、粉砕の条件によって公知の有機溶媒から適宜選択できる。
前記焼成工程では、前述した配合工程を経て得られた配合材料を焼成する。具体的には、前記配合材料を所望の形状及び大きさを有する金型に投入し、プレス成形した後に、例えば、冷間静水等方圧プレス機(CIP:Cold Isostatic Pressing)を用いて1〜2t/cmの静水圧を印加し、成形体を得る。この成形体を1000〜1250℃で3〜36時間にわたって焼成することでリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が得られる。前記配合材料を成形して成形体を焼成することで反応が促進され易くなる。なお、前記配合工程の後に、さらに仮焼成をする工程を実施した場合には前記仮焼成材料に対して前記焼成工程を行う。前記配合工程の後に、さらにバインダーを加えて粉砕する工程を実施した場合には前記未焼成材料に対して、前記焼成工程を行う。
前記正極電極層12及び前記負極電極層13は、公知のセラミックス成形体の製造方法を適宜採用して製造することができる。例えば、まず、焼成により、前述した正極活物質、固体電解質、所望により導電助剤になる化合物の粉末を、所定の割合で混合して混合粉末を得る。加圧成形可能な円筒型内に、第1の集電部14として用いる例えばSUS製の基材と得られた混合粉末とをこの順に積層配置し、プレス成形することにより正極ペレットを得る。負極ペレットについても正極ペレットと同様にして作製する。
次いで、正極ペレット、固体電解質層、及び負極ペレットを、この順に正極ペレット及び負極ペレットの集電部14,15が外側に配置されるように、積層して積層体を得る。次いで、第1の集電部14及び第2の集電部15を介して所定の圧力で前記積層体を挟持することで各部材を固定する。こうして、全固体電池10が得られる。
なお、全固体電池10の製造方法としては、上述した方法以外に、電極と固体電解質層とを同時に焼成する方法、板状に焼成した固体電解質層に電極を焼き付ける方法、及び板状に焼成した固体電解質層に電極を焼き付ける際に圧力をかけて焼き付ける方法(ホットプレス法)等がある。
これらの全固体電池10の製造方法によると、Li、La、Zr、Al、Oを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有する固体電解質層11を容易に製造することができる。したがって、この全固体電池10の製造方法によると、固体電解質層11の機能を維持しつつ薄型化することができる。それによって、全固体電池10の内部抵抗を低減することができ、また、全固体電池10の内部で短絡が起こるのを防止することができる。したがって、この全固体電池10の製造方法によると、長寿命で高性能な全固体電池10を提供することができる。
(第2実施形態)
この発明に係るリチウム電池の第2実施形態である全固体電池を、図面を参照しつつ説明する。図2は、本発明に係るリチウム電池の一実施例である全固体電池を示す断面概略説明図である。第2実施形態の全固体電池210は、以下に説明する点以外は、第1実施形態の全固体電池10と同じ構成を有している。
第2実施形態の全固体電池210は、第1実施形態における固体電解質層11とは構成材料の異なる固体電解質層211を備えている。また、この全固体電池210は、固体電解質層211と正極電極層212及び負極電極層213との間に第1の保護層216及び第2の保護層217(単に保護層と称することもある)がそれぞれ配置されている。すなわち、この全固体電池210は、第1の集電部214、正極電極層212、第1の保護層216、固体電解質層211、第2の保護層217、負極電極層213、第2の集電部215がこの順に積層されている。
前記固体電解質層211は、例えば、NASICON型構造のリチウムアルミニウムチタンリン酸複合酸化物、リチウムアルミニウムゲルマニウムリン酸複合酸化物、及びぺロブスカイト型構造のリチウムランタンチタン複合酸化物等によって構成される。より具体的には、前記固体電解質層211は、Li(Zr,Nb)(PO(LZNPと称する)、Li(Al,Ti)(PO(LATPと称する)、Li(Al,Ge)(PO(LAGPと称する)、La2/3−xLi3xTiO(LLTと称する)等によって構成される。これらの材料は、本発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体に比べて、リチウム成分と反応し易い。
前記第1の保護層216及び第2の保護層217は、第1実施形態で説明したリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体によって構成されている。固体電解質層211と正極電極層212との間に第1の保護層216及び固体電解質層211と負極電極層213との間に第2の保護層217がそれぞれ配置されていることにより、正極電極層212及び負極電極層213にそれぞれ含有されている正極活物質及び負極活物質に固体電解質層211が直接に接触しないので、固体電解質層211の酸化劣化又は還元劣化を抑制することができる。例えば、正極電極層212及び負極電極層213の少なくとも一方にリチウム成分が含有されている場合に、第1の保護層216及び第2の保護層217により、リチウムと固体電解質層211を構成する材料とが反応するのを防止することができる。また、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、リチウムイオン伝導性を維持しつつ高い密度を有しているので、正極電極層212及び負極電極層213と固体電解質層211とが反応し易い材料で形成されている場合、第1の保護層216及び第2の保護層217を薄型化しても反応防止の機能を果たすことができる。したがって、第1の保護層216及び第2の保護層217を設けることによる全固体電池210の内部抵抗の増大や全固体電池210の大型化による重量や体積の増大を抑制することができる。
第1の保護層216及び第2の保護層217は、前述したこの発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体により構成される固体電解質層11の製造方法と同様にして製造することができる。第1の集電部214、正極電極層212、第1の保護層216、固体電解質層211、第2の保護層217、負極電極層213、及び第2の集電部215をこの順に積層して所定の圧力で挟持することで、全固体電池210を得ることができる。
なお、全固体電池210の製造方法としては、上述した方法以外に、正極電極層、第1の保護層、固体電解質層、第2の保護層、負極電極層、それぞれにおいて未焼成の段階でこの順に積層し、同時に焼成する方法、板状に焼成した固体電解質層に第1の保護層と第2の保護層とを焼き付けた後、第1の保護層側に正極電極層、第2の保護層側に負極電極層を焼き付ける方法、及び板状に焼成した固体電解質層に保護層を焼き付ける際、保護層に電極を焼き付ける際に圧力をかけて焼き付ける方法(ホットプレス法)等がある。
この発明に係るリチウム電池は、正極電極層及び負極電極層の両方又は一方にリチウム成分を含む電池であり、一次電池及び二次電池を含む。したがって、この発明に係るリチウム電池としては、リチウムイオン電池の一例として示した全固体電池10、210に限定されず、例えば、負極活物質がリチウム金属であり、正極活物質が酸素であるリチウム空気電池も含まれる。なお、正極電極層及び/又は負極電極層に含有されるリチウム成分は、リチウム金属又はリチウム合金であってもリチウム化合物であってもよい。
この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、所定のイオン伝導率を有するから、リチウム電池を構成する各種材料として用いることができる。リチウム電池を構成する材料としては、正極電極層、負極電極層、固体電解質層、固体電解質層と電極層との間に配置される保護層を形成する材料等を挙げることができる。特に、この発明に係るリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体は、所定のイオン伝導率を有すると共に高い密度を有するから、リチウム電池における固体電解質層又は保護層として好適に用いられる。
この発明に係るリチウム電池は、前述した実施形態に限定されることはなく、この発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、第2実施形態の全固体電池210では、固体電解質層211の両側に第1の保護層216及び第2の保護層217が設けられているが、第1の保護層216又は第2の保護層217のいずれか一方のみが設けられていてもよい。なお、保護層とは、正極電極層及び/又は負極電極層と固体電解質層とが反応し易い材料により形成されている場合に、反応を防止するために設ける層である。
また、第1実施形態及び第2実施形態の全固体電池10,210の形状は、特に限定されず、コイン型、円筒型、角型、ラミネート型等の各種の形状を有することができる。
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の作製]
LiCO、γ−Al、La(OH)、ZrOを、Li、Al、La、及びZrの各成分の比率が、Li:Al:La:Zr=7.0:0.25:3.0:2.0(モル比)になるように秤量した(サンプル3)。これをジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、エタノール中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合し、さらに乾燥して配合材料を得た。なお、サンプル1及び2については、サンプル3におけるZr成分の比率2.0(モル比)に加えて、表1に示すZrの過剰添加量に応じた量を加えて秤量した。表1におけるZrの過剰添加量は、Zr成分の比率2.0に対する増加割合(mol%)で示した。
得られた配合材料を、1100℃で10時間にわたってMgO板上にて仮焼成を行い、仮焼成材料を得た。この仮焼成材料にバインダーを加えて、有機溶媒中で15時間にわたってボールミルで粉砕混合して、さらに乾燥して未焼成材料を得た。この未焼成材料を直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後に、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加し、成形体を得た。この成形体を1200〜1250℃で4時間にわたって焼成することでリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のサンプル1〜3を得た。
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のSEM観察]
サンプル1〜3を切断して得られた切断面をさらに研磨して、この研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)により画像撮影した。図3(c)に示すように、サンプル3には大きな粒界が観察された。一方、図3(a)及び(b)に示すように、サンプル1及び2には粒界が観察されなかった。サンプル1及び2には、主結晶相に第二相が分散しているのが観察された。撮影画像の全面積に対する第二相の面積割合を測定したところ、サンプル1は1.1面積%、サンプル2は2.1面積%であった。
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のXRD分析]
サンプル1〜3の焼結体を粉砕した粉末をX線回折装置(XRD)で分析して、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンとICDDカードとを対比した結果を図4に示す。図4に示すように、サンプル1〜3すべてにおいて、主結晶相としてガーネット型類似の結晶構造を有するLLZ結晶相が存在することが確認された。また、サンプル1及び2には、第二相としてLiZrOが存在することが確認された。一方、サンプル3には第二相の存在は確認されなかった。
[リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体のEDS分析]
サンプル1〜3における前記研磨面をエネルギー分散形X線分光器(EDS)で分析した。
サンプル3について、図5(a)に示すように、結晶粒界付近の(1)〜(3)で示す各領域を分析した。図5(b)に示すように、領域(1)の主結晶相には、La、Al、Zr、Oが検出された。図5(c)に示すように、領域(2)の粒界生成物には、La、Al、Oが検出された。図5(d)に示すように、領域(3)の粒界生成物には、Al、Oが検出された。なお、EDSによる元素分析ではLiは検出されない。また、領域(1)〜(3)のすべてにおいてAuが検出されているのは、サンプルに導電性処理をするためにAuスパッタを施しているからである。また、Cが検出されているのは、試料が大気中の二酸化炭素を吸収し易い材料であるためであると考えられる。
SEM観察及びEDS分析では、領域(2)及び領域(3)の粒界生成物が検出されたのに対し、図4に示すように、XRD分析では、これらの粒界生成物が検出されなかったのは、粒界生成物の量が少ないこと、及び領域(3)がガラス質であるためであると考えられる。
サンプル2について、図6(a)に示すように、主結晶相である領域(1)と第二相として主結晶相に分散している領域(2)とを分析した。図6(b)に示すように、領域(1)の主結晶相には、La、Al、Zr、Oが検出された。図6(c)に示すように、領域(2)には、Zr、Oが検出された。図4に示すように、XRD分析で第二相としてLiZrOが同定されていることから、領域(2)のZrを含む相は、第二相であるLiZrOであると判断される。
サンプル1についても、サンプル2と同様の結果が得られた。
以上から、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を作製する際の原料として、Li、Al、La、及びZrの各成分を含む材料を配合し、La3.0モルに対してZrを2.0を超えて添加することにより、主結晶相としてLLZ結晶相及び第二相としてLiZrOを含むリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が得られた。得られたリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体には大きな粒界が観察されず、主結晶相に分散するように第二相としてのLiZrOが形成されているのが観察された。
[相対密度]
サンプル1〜3をそれぞれ20枚ずつ作製し、理論密度に対する相対密度を測定した。まず、各サンプルの乾燥質量と体積とを測定することで測定密度を求めた。乾燥質量は電子天秤で測定し、体積はノギスにより測定した。測定密度は、各サンプルの乾燥質量を対応するサンプルの体積で除算して算出した。さらに、各サンプルの理論密度を算出し、測定密度を理論密度で除算し、100を乗算して相対密度(%)を求めた。得られた相対密度から算術平均値とばらつきを求めた。結果を表1に示す。表1に示すように、サンプル3の相対密度の平均値は88.6%であるのに対し、サンプル1及び2の相対密度の平均値は90%以上であった。これは、リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を作製する際の原料として、Li、Al、La、及びZrの各成分の比率におけるZr成分を、2.0を超えて添加することにより、大きな粒界が形成されなくなり、そのため、粒界生成物も形成されなくなり、主結晶相の焼結性が向上したためであると考えられる。
[イオン伝導率]
サンプル1〜3の両面をそれぞれ研磨して、金蒸着を施した後に、交流インピーダンス法によって、室温において、各サンプル1〜3の比抵抗及びイオン伝導率を測定した。この測定には、ソーラトロン(Solartron)社製1470E型マルチスタットにソーラトロン社製1255B型周波数応答アナライザを接続して用いた。なお、測定される抵抗R(比抵抗)は、粒内抵抗raと粒界抵抗rbとの合計である(R=ra+rb)。また、イオン伝導率Icは、その抵抗Rの逆数として求められる(Ic=1/R)。結果を表1に示す。
表1に示すように、サンプル1〜3すべてのイオン伝導率は1×10−4S/cmより大きかった。サンプル1及び2は、SEM観察、XRD分析、及びEDS分析の結果からイオン伝導率の低いことで知られているLiZrOを有することが分かっているが、イオン伝導率の低下の程度は小さく、所定の値を維持していた。
Figure 0006333133
10、210 全固体電池
11、211 固体電解質層
12、212 正極電極層
13、213 負極電極層
14、214 第1の集電部
15、215 第2の集電部
216 第1の保護層
217 第2の保護層

Claims (5)

  1. Li、La、Zr、Al、Oを含有し、かつガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する金属酸化物とLiZrOとを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体。
  2. 前記金属酸化物は、Li、La、Zr、Al、及びOからなる請求項1に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体。
  3. 相対密度が90%以上であり、室温におけるイオン伝導率が1×10−4S/cm以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性焼結体。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を備えるリチウム電池であって、
    前記リチウムイオン伝導性セラミックス焼結体が固体電解質層又は固体電解質層と電極との間に配置された保護層であることを特徴とするリチウム電池。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体を製造する方法であって、
    Li、Al、M(Mは、La、又は、LaとK、Mg、Ca、Sr、Y、Ba、Pr、Nd、Sm、Gd、及びLuからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)、及びM(Mは、Zr、又は、ZrとSc、Ti、V、Ga、Y、Nb、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、Bi、Si、Ge、Sb、及びTeからなる元素群より選択される少なくとも1種とからなる。)の各成分を含む材料を、次の条件を満たすように配合して配合材料を得る配合工程と、前記配合材料を焼成する焼成工程とを有するリチウムイオン伝導性セラミックス焼結体の製造方法。
    (1)M/M>2/3(モル比)
    (2)Zr/M>2/3(モル比)
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