以下、本発明に係る燃料電池二輪車の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1および図2は、燃料電池二輪車の第1の実施形態を全体的に示す図である。図1は、燃料電池二輪車10の外観を示す左側面図であり、図2は、燃料電池二輪車10の車両外装を部分的に除去して内部構造を示す左側面図である。燃料電池二輪車10は車両前方側を符号「F」、車両後方側を符号「R」でそれぞれ表わす。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池二輪車10は、燃料電池から得られる電力を用いて走行する自動二輪車である。
[車両本体の構成]
例示された燃料電池二輪車10は、スクータ型の自動二輪車である。燃料電池二輪車10は、車両本体(車体)11と、操舵輪である前輪12と、前輪12を操舵する操向ハンドル13と、駆動輪である後輪14と、後輪14を駆動させるモータ15と、を備える。モータ15は駆動輪を駆動する電動機として機能する。
車両本体11は、図2に示すように、主構造部材(メインフレーム)である車体フレーム17と、車体フレーム17を覆う車両外装18と、車体フレーム17の上方に配置されたシート19と、を備える。また、車両本体11は、空冷式の燃料電池システム20と、燃料電池システム20の発電に用いられる燃料を貯蔵する燃料タンク21と、燃料電池システム20の電力を補助する二次電池22と、燃料電池システム20の出力電圧を調整し、燃料電池システム20および二次電池22の電力分配制御を行う電力管理装置23と、電力管理装置23から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、モータ15の運転制御を行うモータコントローラ(図示せず)と、を備える。すなわち、燃料電池二輪車10のパワートレインは、燃料電池システム20および二次電池22を有するハイブリッドシステムである。
車体フレーム17は、ヘッドパイプ26と、上部ダウンフレーム27と、左右一対の下部ダウンフレーム28と、左右一対のアッパーフレーム29と、左右一対のロアーフレーム30と、を備え、メインフレームを構成している。
ヘッドパイプ26は、車両本体11の前部にフォーク式のフロントフォーク32を軸支する。
上部ダウンフレーム27は、ヘッドパイプ26の上部に接続され、車両本体11の後方に向かって後下がりに傾斜して設けられる。
下部ダウンフレーム28は、ヘッドパイプ26の下部からほぼ真下あるいは後下方に向かって延在される。
アッパーフレーム29は、車両本体11の前半部において下部ダウンフレーム28から上部ダウンフレーム27の下部を経て車両本体11の後方向に延び、車両本体11の後半部において車両本体11の後方に後上がりに滑らかに傾斜している。アッパーフレーム29の後半部の上方には、シート19が配置される。
また、アッパーフレーム29は、車両本体11の後半部にピボット33を備える。このピボット33廻りにスイングアーム34が揺動自在に支持される。スイングアーム34の後端部に後輪14が軸支される一方、スイングアーム34はリアクッションユニット35により昇降自在に弾力的に支持される。リアクッションユニット35はスイングアーム34の先端部と車体フレーム17の後部との間に支持される。後輪14の上方および後方を覆うリアフェンダ31がばね下に取り付けられて、後輪14とともに上下揺動可能にもうけられる。
下部ダウンフレーム28は、車両本体11の下方に向かって延在され、続いて、車両本体11の下端に達する位置でロアーフレーム30に接続され、屈曲される。ロアーフレーム30は車両本体11の前後方向に延在され、車両本体11の中央部分に達する位置で斜め後上方に屈曲され、車両本体11の後上方向に延在されてアッパーフレーム29に接続される。左右対をなすロアーフレーム30は、その前方側にライダーのためのフットレスト36を備える。車両本体11の左側に位置されたロアーフレーム30は、サイドスタンドブラケット37(図1)を備え、燃料電池二輪車10を左傾状態で自立させるサイドスタンド38が揺動自在に設けられる。符号36aは同乗者のためのフットレストである。
前輪12は、フロントフォーク32に回動自在に軸支される。フロントフォーク32は、弾性的に伸縮自在なテレスコピック構造に構成され、前輪12の上方にフロントフェンダ41が支持される。フロントフォーク32の上部側に設けられるステアリング軸に操向ハンドル13が接続される。操向ハンドル13は、ヘッドパイプ26周りに回動自在に軸支され、燃料電池二輪車10のステアリング機構42が構成される。
一方、モータ15は、後輪14を駆動させる燃料電池二輪車10の電動機である。モータ15は、スイングアーム34に一体的に取り付けられ、ユニットスイング式スイングアーム34を構成する。モータ15は、減速機構を介して後輪軸に接続され、後輪14を駆動させる。モータ15が発生させた駆動力は、減速機構を介して後輪14に伝達される。
また、車体フレーム17は、ロアーフレーム30の後方側の屈曲部に架設されたガードフレーム39を備える。ガードフレーム39には、燃料電池二輪車10を自立させるセンタースタンド(図示せず)が揺動自在に設けられる。
このように構成された車体フレーム17によって車両本体11は、左右一対のアッパーフレーム29および左右一対のロアーフレーム30のメインフレームで囲まれたセンタートンネル領域44に燃料タンク21を横臥状態で備え、アッパーフレーム29の後半部であって、車両外装18およびシート19で囲まれた機器搭載領域45(機器搭載空間)に燃料電池システム20、二次電池22、電力管理装置23、およびモータコントローラ(図示せず)が備えられる。機器搭載領域45には、車両本体11の前方側から二次電池22、電力管理装置23、燃料電池システム20が順次配置される。モータコントローラは、電力管理装置23の側方、例えば車両本体11の左側(又は右側)に併設される。
また、車体フレーム17のセンタートンネル領域44の後方で、かつ機器搭載領域45の後下方のリアスペース領域46が形成される。リアスペース領域46は、後部ボディカバー52とリアフェンダ31の間に構成され、後輪14の上方に配置される。機器搭載領域45とリアスペース領域46との間には、それぞれの領域を区画する隔壁部材48が設けられる。後輪14の泥跳ねを防ぐリアフェンダ31は、後輪14の後部および上部を覆う一方、後輪14と共に揺動するようにばね下側に設けられる。
車両外装18は、車両本体11の前半部を覆う前部ボディカバーのフロントレッグシールドカバー50と、車両本体11の中央上部に位置され、アッパーフレーム29を、上方から覆う中央ボディカバーのフロントフレームカバー51と、車両本体11の後半部に位置され、車両本体11の側面のうちシート19の下方部分を覆う後部ボディカバーのリアフレームカバー52と、を備える。リアフレームカバー52は、シート19とともに燃料電池システム20、二次電池22、電力管理装置23、およびモータコントローラが収容された機器搭載領域45を内部に構成している。
したがって、機器搭載領域45は、シート19と後部ボディカバーのリアフレームカバー52と隔壁部材48とで囲まれた密閉的な空間であり、後部ボディカバーのリアフレームカバー52、もしくは隔壁部材48の適宜の箇所に通気孔(図示省略)を設けることで、燃料電池システム20に供給される反応ガスとしての空気の流れを容易、かつ確実に制御できるとともに、冷却の必要な電気部品に冷却風としての空気の流れを容易、かつ確実に制御できる。なお、機器搭載領域45は、完全な密閉空間である必要はない。
シート19は、車両本体11の後半上部に位置される。シート19は、タンデム式であり、運転者が着座する前部シート19aと、同乗者が着座する後部シート19bとが一体的に形成される。
[燃料電池システムの配置構成]
燃料電池二輪車10に備えられる燃料電池システム20は、車両本体11のメインフレーム後部にレイアウトされ、燃料電池システム20は、シート19の下方に区画された機器搭載領域45の後側に偏倚して前方傾斜状態で配置される。具体的には、燃料電池システム20は、同乗者が着座する後部シート19bの下方に配置される。燃料電池システム20は、扁平な直方体形状に形成され、反応ガスの導入口を有する吸気面20aを前下方に斜め下向きに傾斜して位置される。燃料電池システム20の吸気面20aは、シート19の前部シート19aと後部シート19bとの段差部分の下方に位置され、車両前方側に斜め下向きに傾斜して設けられる。
また、燃料電池システム20の前部には斜め下向き(前下方)に傾斜した吸気ダクト54が備えられ、燃料電池反応および冷却のため、反応ガスとして反応用兼冷却用の空気は、吸気ダクト54を通り、燃料電池システム20に導入される。燃料電池システム20は吸気面の反対側に排気面が対向して形成され、排気ダクト55により排気が案内される。
ところで、燃料電池システム20は、図3および図4に示すように燃料電池本体を構成する燃料電池スタック57を備え、燃料電池スタック57の前側(吸気側)に除塵用フィルタ58が設けられ、後側(排気側)に排気圧力を均一化する排気プレナム59を介してファン60が設けられる。燃料電池(FC)システム20は、燃料電池スタック57と除塵用フィルタ58とファン60とを組み立てて構成される。
燃料電池システム20は、FCスタック57の吸気面から反応ガスとして空気が吸い込まれる。この空気に含まれる酸素が、燃料タンク21から供給される燃料の水素ガスと電気化学反応して発電され、発電後に、排気口から湿潤な余剰ガスを排気プレナム59からファン60により排出している。この過程で、燃料電池システム20は反応用兼冷却用の空気によって冷却され、燃料電池システム20の排気口は排気ダクト55に連通している。その際、吸気ダクト54は流路の圧力損失低減のため、燃料電池システム20の吸気面の断面積とほぼ等しい断面積を持つように設計される。
排気ダクト55は、燃料電池システム20の車両後方側に設けられる。具体的には、排気ダクト55は燃料電池システム20の排気面側に排気プレナム59およびファン60を介して設けられ、車両後方のリアコンビネーションランプ61を迂回するように、上側排気流路62および下側排気流路63に分岐され、図5に示すように、上側排気口64および下側排気口65により車両後方側および車両後下方側に開口している。
本実施形態の燃料電池二輪車10の排気ダクト55は、リアコンビネーションランプ61下側の下側排気流路63が、後部ボディカバー52の下面に下側排気口65を形成しており、この下側排気口65はリアフェンダ31の後輪14の後方側に向けて開口している。しかも、リアフェンダ31は後輪14の上側および後側を覆うようにばね下に取り付けられる。具体的には、リアフェンダ31は、スイングアーム34等に一体的に設けられる。
したがって、燃料電池二輪車10は、後部ボディカバー52の下面とリアフェンダ31との間に大きなリアスペース領域46が形成される。このリアスペース領域46は燃料電池二輪車10の車両後部において、車両の左右両側方および後方に大きく開放されている。後部ボディカバー52に形成される下側排気流路63の下側排気口65は大きく開放するリアスペース領域46に開口しており、下側排気口65の開口方向は、後輪14の後部を向くように指向される。しかも、後輪14が跳ね上げる泥や水は、リアフェンダ31により抑制され、後輪14の泥跳ねや水跳ねは、下側排気口65から排出される排気によっても抑えることができる。さらに、排気ダクト55の下側排気口65は、車両後部の後部ホディカバー52と後輪14との間で、車両走行時に負圧となるリアスペース領域46の空間に開口しており、下側排気流路63を通る空気は、負圧空間の吸出し効果により、排気し易くなる。
また、排気ダクト55は、燃料電池システム20の排気口の連通位置よりも上方に配置された上側排気口64と、大きく開放されたリアスペース領域46の負圧空間に開口する下側排気口65とを有することで、未反応の水素ガスを含む湿潤な余剰ガスを確実かつスムーズに車両本体11の外に排気できる。
その際、排気ダクト55に形成される下側排気流路63の下側排気口65は、リアフェンダ31が後輪14と一体的に揺動するようにばね下の後輪を回転自在に支持するスイングアーム34に取り付けられるので、開口面積の制約を受けることが少なく、大きな開口面積とすることができる。
一方、燃料電池システム20は、図3および図4に示すように、単位セルを複数積層して構成された燃料電池スタック57を備えており、前面に除塵を行なうフィルタ58が、背面に反応用兼冷却用空気を強制的に吸引するファン60が備えられ、燃料電池スタック57とファン60の間に、空気の圧力を均圧化するための排気プレナム59が備えられる。また、排気ダクト55も、吸気ダクト54と同様に、流路の圧力損失を少なくするために、断面積を大きく保つ設計が行なわれている。
[燃料タンクの配置]
燃料電池二輪車10は、図2,図6および図7に示すように、車体フレーム17のメインフレーム内に燃料タンク21が収容されて設置され、燃料電池システム20の燃料としての水素ガスを貯蔵している。燃料タンク21は、例えば約70MPa高圧圧縮水素貯蔵システムである。燃料タンク21は、車両本体11の略中央下部のセンタートンネル領域44に、中央ボディカバー51で覆われて、その長手軸方向を車両本体11の前後方向に沿わせて横臥状態で設置される。したがって、燃料タンク21は、その周囲を一対のアッパーフレーム29および一対のロアーフレーム30のメインフレームによって囲まれ、燃料電池二輪車10の転倒や衝突などの事象に対し、堅牢に保護される。また、燃料タンク21は、ロアーフレーム30に設けられた左右のフットレスト36の間に挟まれる。
また、燃料タンク21は、例えば車両本体11の右側に配置されたアッパーフレーム29と、車両本体11の左側に配置されたロアーフレーム30と、の間に架設されたクランプバンド67によって中央ボディカバー51内のセンタートンネル領域44に設けられる。なお、クランプバンド67は、車両本体11の左側に配置されたアッパーフレーム29と、車両本体11の右側に配置されたロアーフレーム30と、の間に架設しても良い。
さらに、図6に示すように、燃料タンク21は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で構成された圧力容器68と、電磁弁を用いた遮蔽弁69と圧力レギュレータ70とを一体的に有する弁部71(燃料供給元弁)と、燃料充填用継手(図示せず)と、を備える。圧力容器68は両端に半球状の鏡板を有する内筒あるいは円柱形状の容器である。
図7に示すように、圧力容器68に燃料充填用継手76が連通され、燃料としての水素ガスを燃料充填口75から圧力容器68内に導く。燃料充填口75は、二次電池22から十分に離間して配置される。具体的には、燃料充填口75は、多数の機器が収容された機器搭載領域45の前方の外側であり、上部ダウンフレーム27の近傍に配置され、中央ボディカバー51に覆われる。さらに具体的には、燃料充填口75は、圧力容器68の前方側鏡板の上方近傍に配置される。
また、燃料充填口75は、車両本体11の上方に指向される。燃料タンク21に燃料を充填するに際し、フロントフレームカバーの中央ボディカバー51を開放した状態において、燃料充填口75の上方は、開放された空間になる。したがって、燃料の充填作業において仮に燃料が漏洩しても、漏洩燃料が滞留することはない。さらに、燃料充填口75は、通常のガソリンエンジンを備えたスクータ型の自動二輪車における燃料給油口と配置を同じくするので、違和感を生じることがない。なお、図2および図7において、符号77は、車両本体11の底部側を覆うアンダーカバーである。
一方、燃料電池二輪車10の車両本体11を覆う車両外装(カウリング)18は、中央ボディカバー51の前方に、外気を取り入れる吸気取入口78が形成される。吸気取入口78は、図2に示すように、前輪12後方であって、中央ボディカバー51の前側であるカウリング前面に備えられる。車両走行に伴い走行風の外気を強制的に吸い込み、センタートンネル領域44内の吸気通路を経て燃料電池システム20に導かれるようになっている。
センタートンネル領域44の吸気通路79は、吸気取入口78から吸い込まれ、中央ボディカバー51とアンダーカバー77の車両外装18(図7参照)で囲まれたセンタートンネル領域44を経て吸気ダクト54内に導かれ、燃料電池システム20の吸気面に至る。吸気通路79は、センタートンネル領域44では燃料タンク21の周辺に沿って車両長手(前後)方向に導かれ、続いて、車両の斜め後上方に向きが変えられて吸気ダクト54に案内される。
ところで、燃料ガス(水素ガス)を貯蔵する燃料タンク21は、車体フレーム17のメインフレーム29,30に囲まれたセンタートンネル領域44の車両中央に横臥状態で配置される。燃料電池システム20に用いられる水素ガスは、内燃機関車両に用いられるガソリンや軽油の液体燃料に比べ、ガス燃料のエネルギ密度が低い。このため、燃料電池車両では航続距離延長のために、燃料である水素ガスを高圧状態に圧縮して燃料電池車両に搭載される。燃料電池二輪車10では、例えば、70MPaの高圧燃料タンク21が使用される。燃料タンク21は、タンク本体が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製で製造される。
また、燃料タンク21には、図6に示すように、タンク後端部の弁部71により燃料電池システム20に燃料ガス(水素ガス)を供給する(燃料取出配管である)水素供給配管79が接続される。水素供給配管79への水素の供給は、タンク後端部の弁部71に一体に搭載された燃料ガス遮断弁69により水素供給を遮断することができる。
さらに、燃料タンク21から燃料電池システム20の燃料電池スタック57に至る水素供給配管79の途中には、燃料タンク21の圧力制御を行なう圧力レギュレータ70および圧力測定のための圧力センサ80などの水素系部品が備えられる。燃料取出配管である水素供給配管79および水素系部品(69,70,81)は車体フレーム17の左右対をなすメインフレーム29,30の左右方向内側に配管・配置され、保護される。
また、燃料電池二輪車10の中央ボディカバー51の前側下部に走行風取入口81が図2に示すように設けられる。走行風取入口81は吸気取入口78の例えば下部両側左右に開口しており、走行風取入口81の背側に走行風導入ダクト82が接続される。走行風導入ダクト82は、流体配管あるいはパイプで構成され、中央ボディカバー51のセンタートンネル領域44を車両後方側に延びる。走行風導入ダクト82は燃料タンク21と中央ボディカバー51との間のセンタートンネル領域44内を車両後方側に延び、燃料タンク21の後方側で車両幅方向内側であって車両斜め上方に折曲される。さらに、走行風導入ダクト82は、スイングアーム34のピボット軸33付近からピボット軸33の外側を通って吸気ダクト54および燃料電池システム20の下方を後方斜め上方に延び、車幅方向内側に曲げられてダクト後端が燃料電池システム20の排気ダクト55に連結される。
走行風導入ダクト82は、図8に示すように、ダクト後端が排気ダクト55の下面に接合される。走行風導入ダクト82と排気ダクト55の接合角度θは、排気ダクト中心線と鋭角をなす角度で接合される。走行風導入ダクト82はダクト後端の排気ダクト55への進入角度が鋭角をなすため、走行風導入ダクト82を通る走行風は、排気ダクト55からの排気を助長する方向に導入される。したがって、走行風導入ダクト82からの走行風は、排気ダクト55から排気の流れを阻害することもなく、また、走行風進入角度が妨げられることもない。
また、走行風導入ダクト82は、本実施形態のスクータ型燃料電池二輪車10において、中央ボディカバー51および後部ボディカバー52内に納められ、車体外装18であるカウリング外に露出することがないので、外観デザインを損ねることがなく、レイアウトされる。
加えて、走行風導入ダクト82の走行風取入口81付近にフィルタ83に設置される。走行風導入ダクト82に設けられるフィルタ83は、燃料電池スタック57の吸気側に走行風を導入するものと異なり、圧力損失や異物吸着等の要求仕様はラフでよく、フィルタの選択肢は多い。一般的には、フィルタ83は圧力損失の低い粗いフィルタで足りる。
さらに、走行風導入ダクト82には、最下部近傍に水抜き穴が設けられる。水抜き栓84は、バルブタイプの栓付穴で構成してもよい。水抜き穴を設ければ、走行風導入ダクト82に入り込んだ砂塵や雨水、さらには排気ガスや浮遊微粒子等の化学物質の除去が可能である。さらに、燃料電池システム20の排気ダクト55から入り込んだ雨滴や異物の除去が可能となる。
燃料電池二輪車10においては、燃料電池システム20、燃料タンク21、二次電池22、電力管理装置23、車両モータコントローラ(図示せず)等の車両構成部品が、中央ボディカバー51、後部ボディカバー52、アンダーカバー77およびシート19に囲まれたセンタートンネル領域44および機器搭載領域45のスペースに搭載されている。
[二次電池]
二次電池22は、空冷式の燃料電池システム20の吸気ダクト54の前方に備えられ、例えば、箱状のリチウムイオン電池で構成される。二次電池22は、シート19の下方に区画された機器搭載領域45の前側に偏倚して配置され、燃料タンク21の圧力容器68の後方側鏡板の上方に配置される。さらに具体的には、二次電池22は、ライダーが着座するシート19の前部シート19aの下方に配置され、燃料電池二輪車10の仮想的な水平面に略直立される。この燃料電池二輪車10は、燃料電池システム20と二次電池22を電源に持つハイブリッド車両である。二次電池22は燃料電池システム20と並列にモータコントローラ(負荷)に接続され、交流電力に変換してモータ15に駆動用電力を供給するとともに、減速時の回生エネルギを吸収している。
なお、燃料電池二輪車10は、二次電池22の他に、メータ類(図示省略)、ランプ類(図示省略)用の電源として、例えば12V系の電力を供給できる二次電池を備える。二次電池22は、燃料タンク21の圧力容器68の側方、例えば車両本体11の右側方に配置される。二次電池22は、燃料充填口75よりも下方で、かつ、燃料タンク21の弁部71よりも車両前方側に配置される。仮に燃料である水素ガスが燃料充填口75から漏洩しても、水素ガスは燃料電池二輪車10の上方に向かって上昇するので、車内に滞留することなく、車外に拡散される。また、燃料である水素ガスが弁部71から漏洩しても、水素ガスはリアスペース領域46に向かって移動するので、車内に滞留することなく、車外に拡散される。
電力管理装置23は、二次電池22と燃料電池システム20とに挟まれて配置される。また、電力管理装置23に並設されたモータコントローラも、電力管理装置23と同様に、二次電池22と燃料電池システム20とに挟まれるとともに、二次電池22と燃料電池システム20との間隙に設けられて保持される。
燃料電池二輪車10は、二次電池22と、電力管理装置23と、モータコントローラ(図示せず)と、燃料電池システム20とを機器搭載領域45に配置することによって、極力近接配置の機器間で電気的接続が可能であり、機器間の配線長を短く、配線に係る重量を軽くすることができる。
電力管理装置23は、モータコントローラと並設される。例えば、モータコントローラ18は、車両本体11の左側に配置され、電力管理装置23は車両本体11の右側に配置される。
[燃料電池の発電原理]
本実施形態の燃料電池二輪車10は、燃料電池システム20を車両駆動モータ15の電力源として用いたものである。
燃料電池二輪車10に搭載される燃料電池システム20は、燃料である水素ガスと反応ガスである空気(酸素)とを電気化学反応により発電し、この発電に付随して水が生成される燃料電池発電システムである。
燃料電池システム20は、セルと呼ばれる最小構成単位を多数積層して燃料電池スタック57を構成している。通常の固体高分子型燃料電池(PEFC)は、図9に示すように、セル100は、水素および空気(酸素)をそれぞれ供給するアノード極101とカソード極102に挟まれて拡散層103,104および反応活性化のための触媒層105,106と、中央に水素イオンを選択的に透過させる電解質膜107とを配している。
アノード極101に供給された水素分子は、アノード極101の電解質膜107の表面にある触媒層105において活性な水素原子となり、さらに水素イオンとなって電子を放出する。
アノード極(陽極)101における陽極反応は(式1)で表わされる。
H2→2H++2e− ……(式1)
(式1)により発生した水素イオンは、電解質膜107に含まれる水分を伴ってアノード極101側からカソード極102側へと電解質膜107中を移動し、また電子は外部回路108を通じてカソード極102に移動する。この電子の移動により、外部回路108に介装された負荷(例えば、車両駆動モータ)109に電流が流れる。
一方、カソード極102に供給された空気中の酸素分子は、触媒層106において外部回路108から供給された電子を受け取り酸素イオンとなり、電解質膜107を移動してきた水素イオンと結合して水となる。カソード極(陰極)102におけるこの負極の反応は、(式2)で表される。
1/202+2H++2e−→H20 ……(式2)
(式2)で生成された水分の一部は、濃度拡散によりカソード極102からアノード極101へと移動する。(式1)と(式2)の電気化学反応において、セル100内部では電解質膜107や電極の電気抵抗に起因する抵抗過電圧、水素と酸素が電気化学反応を起こすための活性化過電圧、拡散層103,104中を水素や酸素が移動するための拡散過電圧など様々な損失が発生し、それにより発生した廃熱を冷却する必要がある。
[燃料電池システム]
燃料電池システム20には、発生した廃熱を冷却するものとして、水冷式と空冷式の燃料電池システムがある。
水冷式燃料電池システムは、冷却システムにラジエータ、冷却水ポンプ、リザーバタンク、配管類が必要であり、燃料電池スタックの出力密度を向上させるために、吸気空気を圧縮するコンプレッサを始めとして多くの補機類が備えられる。このため、水冷式燃料電池システムは、システムの複雑化、大型化、重量化、高コスト化を招いている。
これに対し、空冷式燃料電池システム20は、コンプレッサやラジエータ、冷却水ポンプ等の補機類を極力廃止でき、冷却に空冷方式を採用して、システム構成を簡素化できる。本実施形態の燃料電池システム20は、燃料に水素ガスを用いたシンプルな空冷式燃料電池システムである。
図10は、空冷式燃料電池システム110の全体を簡略的に示している。空冷式燃料電池システム110は、最小構成単位のセルを多数積層した燃料電池スタック57を備え、燃料電池スタック57に水素ガスを供給する水素ガス供給装置111を備えている。水素ガス供給装置111は、燃料タンク21として高圧の水素タンク21に貯蔵した圧縮水素ガスを、水素供給配管79により圧力レギュレータ70を介して燃料電池スタック57のアノード吸気部112に導入する。その際、燃料(水素)ガスの断熱膨張による温度低下で、燃料タンク(水素タンク)21、水素供給配管79、圧力レギュレータ70を始めとする水素系部品が積極的に冷却される。
また、燃料電池スタック57のカソード吸気部113に供給された空気は、水素との反応ガスとして燃料電池スタック57内に多数積層したセルにおける発電反応に供するのみでなく、冷却媒体として燃料電池スタック57における廃熱を奪い、燃料電池スタック57を冷却する役割を果している。
水素との反応後の余剰空気及び燃料電池スタック57を冷却後の空気は、図10に示すように、燃料電池スタック57のカソード排気部114からカソード排気としてファン60により排気ダクト55に排出され、外気に放出される。燃料電池スタック57で発電に使用されなかった余剰水素ガスは、アノード排気部115からアノード排気として水素パージ配管116に排出される。水素パージ配管116は、排気ダクト55の途中に接続されている。水素パージ配管116に排出されたアノード排気は、パージ弁117を経て排気ダクト55のカソード排気に混入される。アノード側の水素ガスパージを行う際には、排気水素ガスをカソード排気により可燃下限濃度以下に希釈して外気に放出する。
このように、反応用兼冷却用としての空気の供給を行う空冷式の燃料電池システム20においては、消費電力の低下やシステムの小型・軽量・簡素化が図られる一方で、空気流量の制限により水冷式の燃料電池システムに比べて冷却能力が相対的に低く、故に燃料電池スタック57の運転可能な温度範囲が狭いことがある。このため、夏季などの高温時に燃料電池スタック57のオーバーヒートに繋がる懸念がある。
本実施形態では、図2および図10に示すように、燃料電池二輪車10の中央ボディカバー51車両前面の吸気取入口78から取り入れられた空気(外気)は吸気通路79(センタートンネル領域44)を通って燃料電池システム20に導かれる。その際、吸気取入口78は車両前面に備えられているために、車両走行時の正圧が、吸気取入口78から取り入れられる空気(外気)に作用して、空気は吸気通路79を経て燃料電池システム20側に押し込まれる。これにより、燃料電池システム20のファン60の回転数を低減させることができ、ファン60の消費電力を低減させることができる。
その際、燃料電池二輪車10の走行により、走行風取入口81から取り入れられた走行風は、走行風導入ダクト82を通り、燃料電池システム20を迂回(バイパス)して燃料電池スタック57後方の排気ダクト55に積極的に送り込まれる。このとき、走行風導入ダクト82のダクト後端側は排気ダクト55の中心線に鋭角に接合して、走行風を取り込み、燃料電池の排気方向と略同方向に流して車両外に排出している。
したがって、走行風導入ダクト82から送り込まれる走行風が燃料電池からの排気の吸引作用として機能し、燃料電池システム20からの排気を促進させ、冷却空気量を増大させることができる。また、走行風の導入により、燃料電池の冷却空気量が増大するので、燃料電池スタック57の出力増を図ることができる。ファンの消費電力を減少させることができ、燃料である水素消費量の減少が可能となる。
燃料電池システム20の大元の発生出力(Gross)からファン等の補機の電力を引いたものが、最終的な出力(Net)となるから、Net出力が同じなら、走行風の積極的な導入により冷却空気量の吸引量の増加を図ることができ、結果として出力増を図ることができる。その際、ファン電力の減少分だけ、燃料電池システム20のグロス出力は少なくて足り、水素消費量を減少させることができる。
また、走行風導入ダクト82を設けて走行風を吸気ダクト54ではなく、燃料電池システム20をバイパスして排気ダクト55に直接積極的かつスムーズに取り込み、ファン60の負荷を軽減し、使用電力を低減させたので、吸気ダクト54に走行風を導入することに比べ、フィルタ58の損傷・劣化を有効的に防止できる。フィルタ58の損傷・劣化を防ぐことができるので、フィルタ58の圧力損失増加による燃料電池スタック57の性能劣化を軽減させることができ、燃料電池システム20の出力性能を長期間維持することができる。
加えて、燃料電池システム20の排気ダクト55に走行風導入ダクト82により走行風を取り込むことにより、定期的に放出されるパージ(濃度100%)の希釈効果が向上し、パージ水素は安全な希釈濃度となって車両外部に放出される。
なお、燃料電池システム20からのパージ水素は、ファン60の撹拌により希釈されるが、排気ダクト55に走行風を導入することで、より安全な希釈濃度になって車両外部に放出される。但し、低温時には、燃料電池スタック57自身を暖気させるため、燃料電池スタック57の出入口に設けられたシャッターが設けられ、ファン60の風は希釈用として得られず、パージ水素は排気ダクト55に設けられた小さな希釈ファン(図示せず)に依存するが、この場合にも、排気ダクト55に導入される走行風により希釈が促進される。
また、燃料電池システム20へ供給する燃料タンク21から水素を放出する際の断熱膨張効果により燃料タンク21は冷却される。その結果、燃料タンク21の周りを通過する反応用兼冷却用の空気は積極的に冷却され、燃料電池システム20の冷却効果が向上するとともに、ファン風量を節約することができる。結果的にファン60の負荷を減らすことができるので使用電力の節約に効果がある。
燃料タンク21は車両の中心軸線と平行に搭載して後端部に燃料ガス取出し(水素供給)配管79および燃料ガス遮断弁69を配置している。また、燃料電池二輪車10は、空冷式燃料電池システム20から前方に延びる吸気ダクト54が、吸気取入口を下向きに開口してこの開口が燃料タンク21の燃料ガス取出し(水素供給)配管79および燃料ガス遮断弁69を上側から覆うように配置される。
これにより、燃料タンク21の本体はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で形成されており、断熱膨張による燃料ガスの熱が伝わり難く温度が下がり難いが、内部の燃料ガスを取り出す燃料タンク21の後端部(弁部71)に設けられた燃料取出配管79の接続部分はアルミ合金で形成されていて燃料ガスの熱が伝わり易くかつ燃料タンク21の中で最も温度が低くなる箇所である。最も温度が低くなる箇所と吸気ダクト54の吸気取入口78を接近して配置すれば、より温度の低い空気を供給することが可能になる。
空冷式の燃料電池システム20がより大きな起電力を得るにはより大量の水素ガス燃料を消費して燃料電池システム20の温度が上昇し、大量の冷却空気で冷却する必要がある。燃料タンク21が水素ガス燃料を多く供給すれば、燃料タンク21はより温度が下がる。この燃料タンク21によって吸入空気の温度が下がるので、燃料電池システム20の起電力の増減にも効果を発揮することができる。
[燃料電池の吸気通路]
燃料電池二輪車10は、車両本体11の後部をシート19と共に左右上下から覆う後部ボディカバー52と、車体中央部を左右上下から覆う中央ボディカバー51と、車両本体11の前部を前方から覆う前部ボディカバー50とから、車両本体11を覆う車両外装(カウリング)18が構成される。
中央ボディカバー51で車両前方に開口する吸気取入口78からセンタートンネル領域44の吸気通路79を構成したので、吸気通路79を形成する専用の部品が不要となり、部品削減により重量およびコストの低減を図ることができ、燃料電池二輪車10のコンパクト化が図れる。
その上、燃料電池二輪車10は、燃料タンク21を車体中央部に配置する一方、燃料電池システム20は燃料タンク21よりも後方のシート19および後部ボディカバー52で覆われた車体後部に配置される。そして、中央ボディカバー51の前部に車両前方に開口する吸気取入口78を設けて燃料タンク21の周囲を車両後方側に吸入空気を案内する吸気通路79に形成され、この吸気通路79は燃料タンク21の後端部(弁部)71側から燃料電池システム20に向って後上方に、斜めに延びる吸気ダクト54を設けられる。
このため、吸気通路79の吸気取入口78を車両の進行方向前方に向けて形成することができ、車両走行による走行風を取り入れることができるので送風(吸入)ファンの負荷を減らすことができ、使用電力の節約に効果がある。
さらに、車両外装18で取り囲まれたセンタートンネル領域44の吸気通路内に設けられた燃料タンク21および水素系部品は、メインフレーム29,30の内側に配置される。メインフレーム29,30により、燃料タンク21や水素系部品は外部からの機械的・物理的ダメージから保護される一方、吸気通路79に案内される吸入空気は、燃料タンク21や水素系部品の搭載部を通過するために、燃料である水素ガスの断熱膨張による冷却作用により、積極的に冷却され、吸入温度の温度低減を図ることができる。
また、中央ボディカバー51、後部ボディカバー52、シート19およびアンダーカバー77からなる車両外装18で囲まれた車両内部を、吸気取入口78から燃料電池システム20に至る吸気パスとすることができ、燃料タンク21および水素系部品を通過して冷却された反応用兼冷却用空気と吸気ダクト54により燃料電池システム20に積極的に導くことができるので、燃料電池システム20は有効的に電気化学反応が促進され、効率よく冷却される。
燃料電池二輪車10は、車体中央部の上下高さが前記車体後部に配置されたシート19の座面よりも低く形成されて左右にフットレスト36を設けると共にこの左右のフットレスト36の間が上向きに膨らんで車体中央部を前後に亘って延びるセンタートンネル領域44を形成し、このセンタートンネル領域44に燃料タンク21が配置される。
一方、燃料電池システム20は、燃料ガスとしての水素と反応ガスとしての酸素との電気化学反応により発電が行なわれるが、この電気化学反応には適切な反応温度がある。低温下や高温下では反応効率が低下し、特に高温になり過ぎると、燃料電池システム20の電子寿命が損なわれる。
しかし、本実施形態の燃料電池二輪車10では、燃料電池システム20に供給される反応ガスとしての流入空気を、燃料タンク21やその水素系部品廻りを通すことで、燃料水素ガスの断熱膨張作用より積極的に冷却することができる。燃料電池システム20への吸入空気は燃料ガスの断熱膨張を利用した冷却作用より冷却されるので、周囲環境によって異常な温度になるのを確実かつ有効的に防止することができる。したがって、燃料電池スタック57は効率的に冷却され、長寿命化を図ることができる。
さらに、空冷式の燃料電池システム20が、大きな起電力を得るために、大量に水素ガス燃料を消費すると、燃料電池システム20の温度が上昇するため、燃料電池システム20はより大量の冷却空気で冷却する必要がある。この燃料電池二輪車10では、燃料電池システム20に水素ガス燃料を多く供給すれば、燃料ガスの断熱膨張効果による冷却作用が大きくなり、燃料タンク21および水素系部品は冷却され、より温度が低下する。燃料タンク21や水素系部品により燃料電池システム20の吸入空気の温度が下がるので、燃料電池システム20の起電力が増減する双方で、燃料電池システム20の効率的な発電に寄与することができる。
[燃料電池の排気通路]
燃料電池システム20において燃料ガスの水素ガスと反応ガスの空気(酸素)との電気化学反応より発電が行なわれる。燃料電池システム20の背面側には、排気プレナム59を介してファン60が備えられ、ファン60の車両後方側に燃料電池システム20からの排気を車両外部に排出する排気ダクト55が備えられる。排気ダクト55は燃料電池システム20からの排気を車両外部に排出する排気通路を構成している。排気ダクト55内の排気通路(流路)は、圧力損失を軽減するために、燃料電池システム20の吸気側と同様、断面積を大きく保つように設計されている。
また、燃料電池二輪車10では、図5に示すように、排気ダクト55は、車両後部のリアコンビネーションランプ61を避けるように、リアコンビネーションランプ61を迂回する上側排気流路62と下側排気流路63とに分岐された2つの排気流路が設けられる。リアコンビネーションランプ61上側を通る上側排気流路62は略水平方向に延び、上側排気口64から車両後方に開口している。リアコンビネーションランプ61下側を通る下側排気流路63は、後部ボディカバー52の後端側下面に下側排気口65が開口している。
排気ダクト55の下側排気流路63は、後部ボディカバー52の下面(底面)と後輪14を覆うリアフェンダ31との間に形成されるリアスペース領域46に下側排気口65が開口している。下側排気流路63の下側排気口65は、リアフェンダ31の接線方向へ後下向きに指向するように形成される。下側排気流路63の下側排気口65をリアフェンダ31の接線方向へ後下向きに排気するように形成したので、後輪14が跳ね上げた泥跳ねや水跳ねの捲込みを抑制することができる。
ところで、燃料電池二輪車10の車両後部に形成されるリアスペース領域46は、後部ボディカバー52の下面とリアフェンダ31との間に位置しており、リアスペース領域46は車両の両外側方および後方に大きく開口している。リアスペース領域46は、燃料電池二輪車10の走行に伴い負圧が生じる空間である。
本実施形態では、排気ダクト55の下側排気流路63の下側排気口65を後部ボディカバー52の下面に開口させることで、下側排気口65はリアスペース領域46の車両走行時の負圧空間に開口している。したがって、ばね下に取り付けられたリアフェンダ31上方のリアスペース領域46の車両走行時の負圧空間を、燃料電池システム20(燃料電池スタック57)の排気開口部として利用することができ、排気ダクト55の排気通路(流路62,63)は、従来の燃料電池二輪車より大きな開口面積を得ることができ、圧力損失を大幅に低減させることができる。
さらに、排気ダクト55の下側排気流路63は、車両後部(後部ボディカバー52下面)と後輪14直上のリアフェンダ31との間のリアスペース領域46に下側排気口65を開口させたので、燃料電池システム20からの排気を車両後部と後輪14との間の負圧空間に排気することができ、吸出し効果により排気がスムーズに行なわれる。結果的に、ファン60の負荷を減らすことができ、使用電力を節約することができる。加えて、下側排気流路63の下側排気口65の開口方向が後輪14の後部を向いているために、吹き出される排気により、泥跳ねや水跳ねを最小限に抑えることができる。
本実施形態では、後輪14の泥跳ねや水跳ねを防ぐリアフェンダ31を後輪14と共に上下に揺動するようにばね下側に設けたので、後部ボディカバーの下側面に、排気ダクト55の下側排気流路63の下側排気口65を形成することができる。本実施形態の燃料電池車では、従来の二輪車両の後部ボディカバー後端面に後向きに開口する排気口を形成するものより大きな開口面積を得ることができ、圧力損失を大幅に低減できる。
[第2の実施形態]
次に、燃料電池二輪車の第2の実施形態を図11を参照して説明する。
第2の実施形態に示された燃料電池二輪車10Aは、走行風導入ダクトの配置構造を第1の実施形態と異にし、他の構成は異なるところがないので、同じ構成には同一符号を付して重複する説明を省略ないし簡略化する。
第2の実施形態に係る燃料電池二輪車10Aは、走行風導入ダクト82Aは、ダクト入口側がラッパ状に拡開し、走行風取入口81Aが燃料タンク21の弁部71を車両後方より臨むように開口している。走行風導入ダクト82Aは、吸気ダクト54の下方に配設される。走行風導入ダクト82Aは、スイングアーム34のピボット軸33付近を通って後方斜め上方に延び、燃料電池システム20の下方を通り、燃料タンクシステム20からの排気ダクト55に接続される。具体的には、走行風導入ダクト82Aは、ダクト出口端が排気ダクト55の下面に、排気方向と略同じ方向を向くように鋭角に接合される。
第2の実施形態の燃料電池二輪車10にレイアウトされた走行風導入ダクト82Aは、ダクト入口側がラッパ状に拡開して燃料タンク21の弁部71側を車両後方から臨むように形成され、走行風取入口81Aは燃料タンク21の弁部71側に向って開口している。走行風導入ダクト82Aのダクト入口側付近にフィルタ(図示せず)を設置してもよい。
このため、中央ボディカバー51前方の吸気取入口78から取り入れられた走行風はセンタートンネル領域44に案内され、燃料タンク21廻りを車両後方に流れ、一部は吸気ダクト54側に案内され、残りは走行風取入口81Aから走行風導入ダクト82Aに導入される。走行風導入ダクト82Aに案内された走行風は燃料電池システム20をバイパスしてその排気ダクト55に導入される。
走行風導入ダクト82Aは、ダクト出口を排気ダクト55の最下端部分の下面に接続され、排気ダクト55内に積極的かつスムーズに導入される。走行風の導入方向に排気ダクト55の排気方向にほぼ等しいので、走行風の導入により排気ダクト55を排気を吸引し、引き出す方向に作用する。このため、ファン60の負荷を軽減させることができ、第1の実施形態に係る燃料電池二輪車10と同様な作用効果を奏することができる。
第2の実施形態に係る燃料電池二輪車10Aにおいても、吸気取入口78から取り入れられた走行風を、走行風導入ダクト82Aにより燃料電池システム20後方側の排気ダクト55に取り込むために、吸気ダクト54に走行風を導入することに比べ、燃料電池システム20のフィルタ58の損傷・劣化を軽減させることができる。
本発明の実施形態においては、スクータ型自動二輪車の燃料電池二輪車に適用した例を説明したが、燃料電池を搭載した自動二・三輪車や三輪または四輪の不整地走行(バギー)車両等の鞍乗型車両に適用することもできる。