以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるセル電圧監視装置を示す図である。
燃料電池システム1は、例えば、燃料電池スタック100にアノードガス及びカソードガスを供給して、燃料電池スタック100に接続される負荷に応じて発電する電源システムである。燃料電池システム1は、例えば、電動式の駆動モータによって走行する電気自動車に搭載される。
燃料電池システム1は、燃料電池スタック100を良好な発電状態に維持すると共に、燃料電池スタック100で著しく電圧が低下したときは燃料電池スタック100の運転を緊急停止する。
燃料電池システム1は、燃料電池スタック100とセル電圧監視装置200とを含む。
燃料電池スタック100は、例えば数百V(ボルト)の電圧を生じる。燃料電池スタック100には、外部からカソードガス(例えば酸素)及びアノードガス(例えば水素)が供給され、カソードガス及びアノードガスが、燃料電池の電解質膜において化学反応を起こして発電する。アノードガス及びカソードガスの供給量は、駆動モータなどの負荷からの発電要求に応じて調整される。
燃料電池スタック100の電圧端子101は、例えばDC/DC(Direct Current/Direct Current)コンバータに接続される。DC/DCコンバータによって燃料電池スタック100の電圧が調整されて、燃料電池スタック100から駆動モータへ電力が供給される。
燃料電池スタック100は、多数の電池セル10で積層された積層電池である。電池セル10の各々は、互いに直列に接続され、例えば、1V程度の起電力を生じる。
本実施形態では、燃料電池スタック100はn枚の電池セル10で構成されている。nは、2以上の自然数である。ここでは、電池セル10の各々は、電圧端子101から負極側へ順番に、電池セルCn、電池セルCn−1、電池セルC3、電池セルC2、電池セルC1と表わされている。なお、便宜上、電池セルC4〜Cn−2を省略している。
電池セルCnの正極端子は、セル電圧監視装置200の入力端子201と接続される。電池セルC2の正極端子は、電池セルC1の入力端子よりも負極側の入力端子201と接続される。また、電池セルC1の正極端子は、電池セルC2の入力端子201よりも負極側の入力端子201と接続される。
セル電圧監視装置200は、燃料電池スタック100の電圧を測定する装置である。セル電圧監視装置200は、測定回路210と、切替器220と、演算部300と、を含む。
測定回路210は、電池セル10に生じる電圧(以下「セル電圧」という。)を測定する。測定回路210は、切替器220から時分割で出力される各セル電圧を検出し、その検出信号をアナログ/デジタル(A/D)変換する。測定回路210は、変換した測定データを演算部300に順次出力する。測定回路210は、例えば、電圧検出用のオペアンプとA/D変換器とで構成される。
切替器220は、測定回路210に対して電池セルC1から電池セルCnまでの電池セル群を、電池セル単位で順次切り替える。切替器220は、例えば、ランダム接続可能なMUX(MUltipleXer:マルチプレクサー)により実現される。
切替器220は、電池セル群の各々の正極端子がそれぞれ接続される複数の入力端子21と、測定回路210の入力端子に接続される出力端子29と、を有する。切替器220は、予め定められたサンプリング周期ごとに、複数の入力端子21と出力端子29との間の接続を電池セル単位で順次切り替える。
サンプリング周期(制御周期)は、切替器220によって全ての電池セル10に切り替えるのに必要な1周期分の時間に基づいて設定される。
切替器220は、セル電圧の測定が開始されると、まず電池セルCnと測定回路210とを接続し、一定期間経過した後に測定回路210との接続を電池セルCnから電池セルCn−1に切り替える。そして切替器220は、測定回路210との接続を電池セルCn−2から電池セルC2まで順次切り替え、電池セルC2に接続してから一定期間を経過した後に、電池セルC1と測定回路210との接続に切り替える。
電池セルC1と接続した後サンプリング周期が経過すると、切替器220は、再び、電池セルCnと測定回路210とを接続し、上述のようにセル電圧の測定が繰り返される。
このように切替器220が電池セルC1からCnまでの接続を順次切り替えることにより、電池セルC1から電池Cnまでの電池セル群の各セル電圧が時分割で出力端子29に順次出力される。そして測定回路210は、切替器220の出力端子29に生じる電圧を検出して演算部300に測定データを順次出力する。
演算部300は、測定回路210から、電池セルC1から電池セルCnまでの各セル電圧を示す測定データを取得し、測定データに基づいて燃料電池スタック100の発電状態を監視する。演算部300は、例えば、電池セル10が異常状態であると判定したときは、燃料電池システム1を制御するコントローラに判定結果を通知する。この場合には、コントローラは、電池セル10の異常回避制御を実行する。例えば、コントローラは、電池セル群の一部の電池セル10で電解質膜に凝縮水が付着して目詰まりを起こしたと推定し、燃料電池スタック100に供給されるカソードガスの流量を増やして生成水を吹き飛ばす。
このようなセル電圧監視装置では、切替器220の使用により測定回路210の設置数を削減できるので、製造コストを低減することができる。
一方、切替器220の使用により、1個の電池セル10についてのセル電圧のサンプリング時間としては、切替器220が全ての電池セルC1〜Cnを測定するのに必要な1周期分の時間を要する。また、電池セル10の異常は、同一の電池セル10について測定回路210で測定された値(今回値)と、その直前に測定された前回値との差分、すなわちサンプリング時間あたりの差分に基づいて判定される。このため、切替器220による1周期分のサンプリング時間が長くなるほど、電池セル10の異常を検出するまでの時間が遅くなる。
これに対して電池セル10の異常を迅速に検出するには、切替器220による接続切替の速度を高速化してサンプリング周期を短くしなければならない。サンプリング周期を短くするには、測定回路210で高速なデータ処理が必要となるため、測定回路210のコストが高くなることが懸念される。
そこで本実施形態では、電池セル群のうちセル電圧が低下している電池セル10について測定間隔を、切替器220の1周期分の時間よりも短くする。
図2は、演算部300の機能構成を示すブロック図である。演算部300は、制御部301と、監視部320と、を備える。制御部301は、切替制御部310と、注意セル監視制御部330と、を備える。
切替制御部310は、切替器220の接続を順次切り替えて、各電池セル10の電圧をサンプリング周期ごとに測定回路210に出力させる。
サンプリング周期とは、切替器220の接続切替えによって、ひとつの電池セル10のセル電圧を測定してから同一の電池セル10のセル電圧を測定するまでに要する期間のことをいう。すなわち、サンプリング周期とは、電池セルC1から電池セルCnまでの電池セル群の各々の測定間隔のことである。
切替制御部310は、測定順序列保持部311と、サンプリング周期設定部312と、セル接続切替部313と、を備える。
測定順序列保持部311には、電池セルC1から電池セルCnまでの電池セル群の測定順番を示す順序列情報が記憶されている。本実施形態では、順序列情報には、電池セルCnから電池セルCnの負極端子側の電池セルC1まで、「1」から「n」の番号が順番(シーケンシャル)に付与されている。
サンプリング周期設定部312は、切替器220によって決まるサンプリング周期を、セル接続切替部313に設定する。サンプリング周期は、例えば100ms(ミリセカンド)である。
セル接続切替部313は、サンプリング周期設定部312によって設定されたサンプルリング周期に基づいて、電池セル10を接続してから次の電池セル10に切り替えるまでの切替期間を決定する。
セル接続切替部313は、セル電圧の測定が開始されると、測定順序列保持部311の順序列情報に示された測定順番に従って、切替期間ごとに電池セル10を切り替える。
監視部320は、電池セルC1から電池セルCnまでの電池セル群の各電池セル10のセル電圧に基づいて電池セル群の発電状態を監視する。例えば、監視部320は、燃料電池スタック100を良好な発電状態に維持するために、電池セル群のセル電圧に関する平均値、最大値及び最小値を算出する。電池セル群のセル電圧の平均値は、アノードガスやカソードガスの圧力制御に用いられる。電池セル群のセル電圧の最大値及び最小値は、例えば、システム異常の判断に用いられる。
なお、本実施形態では、燃料電池スタック100の電池セルC1から電池セルCnまでの全ての電池セル10を測定対象としているが、これに限られるものではない。例えば、電池セル群のうち奇数番目又は、偶数番目の電池セル10のみを測定対象としてもよい。これにより、演算部300の処理負荷を軽減すると共に、燃料電池スタック100の異常検出を迅速化することができる。
また、監視部320は、セル電圧が緊急停止閾値まで低下したか否かを判断する。緊急停止閾値とは、セル電圧が下がり過ぎたことにより燃料電池システム1の緊急停止が必要な電圧値のことである。また、監視部320は、1個の電池セル10に関するセル電圧の低下速度、平均値などを用いて、異常の蓋然性が高い電池セル10を判定する。
監視部320は、セル電圧低下率演算部321と、電圧データ保持部3211と、異常セル判定部322と、注意セル保持部3221と、異常通知部323と、を備える。
電圧データ保持部3211には、測定回路210で測定された電池セル群の各セル電圧を示す測定データが保持される。
セル電圧低下率演算部321は、測定データに基づいて電池セル10のセル電圧の低下速度を演算する。セル電圧低下率演算部321は、測定回路210から測定データを受け付けると、測定データを電圧データ保持部3211に記録すると共に、電池セル10の電圧の低下速度(以下「低下率」という。)を演算する。
具体的には、セル電圧低下率演算部321は、ひとつの電池セル10ごとに、前回取得した測定値から今回取得した測定値を減算して電圧低下幅を算出し、その電圧低下幅を、サンプリング周期あたりの電圧低下率として異常セル判定部322に出力する。なお、セル電圧低下率演算部321は、電圧低下幅をサンプリング周期で除算して電圧低下率を算出してもよい。
注意セル保持部3221には、電池セル群のうちセル電圧が低下している注意セルを識別するための注意セル情報が保持される。
異常セル判定部322は、セル電圧低下率演算部321から各電池セル10の電圧低下率を取得すると、電池セル10の電圧低下率が、低下閾値を超えているか否かを判断する。異常セル判定部322は、電池セル10の電圧低下率が低下閾値以下である場合には、その電池セル10は正常であると判定する。
低下閾値は、実験データ等によって定められる値である。例えば、低下閾値は、負荷変動に応じて低下するセル電圧の変化率よりも大きな値に設定される。燃料電池システム1では、アクセルペダルの操作量が大きくなるほど、駆動モータへの供給電力を大きくするため、燃料電池スタック100から取り出される出力電流が大きくなる。燃料電池スタック100は、出力電流が大きくなるほど、出力電圧が低くなる特性を有しているため、駆動モータへの供給電力の変動に応じて燃料電池スタック100の出力電圧、すなわちセル電圧も緩やかに変動する。
一方、電池セル10の目詰まりなどの異常が発生したときには、そのセル電圧は、負荷変動によるセル電圧の低下率よりも急峻に低下する。そのため、負荷変動によってセル電圧が低下したときに、誤って異常によるセル電圧の低下と判定されないように、低下閾値は、負荷変動によるセル電圧の低下率よりも大きな値に設定される。
異常セル判定部322は、電池セル10の電圧低下率が低下閾値よりも大きい場合には、電池セル10の異常が原因でセル電圧の電圧が低下したと判定する。
異常セル判定部322は、異常による電圧低下と判定された場合には、電圧低下したと判定された電池セル10を示す注意セル情報を生成し、その注意セル情報を注意セル保持部3221に記録すると共に注意セル監視制御部330に出力する。
さらに、異常セル判定部322は、電池セル10の電圧低下率が低下閾値よりも大きい場合には、セル電圧の異常を示す異常警告信号を異常通知部323に出力する。
また、異常セル判定部322は、同一の電池セル10において、セル電圧が異常であると複数回判定された場合、または、セル電圧が緊急停止閾値よりも低いと判断された場合には、燃料電池スタック1が異常であると判定して異常信号を出力する。
異常通知部323は、異常セル判定部322から異常警告信号を受けると、電池セル10が異常状態の可能性が高い旨を示す警告情報を、燃料電池システム1のコントローラに出力する。一方、異常通知部323は、異常信号を受けると、燃料電池スタック1が異常である旨を示す異常情報をコントローラに出力する。コントローラは、異常通知部323から警告情報を受け付けると、アノードガス及びカソードガスの供給流量を増加させる等の異常回避制御を実行する。
注意セル監視制御部330は、監視部320によって電池セル10のセル電圧の低下率が低下閾値よりも大きいと判断された場合には、その電池セル10の測定間隔(測定周期)をサンプリング周期よりも短くする。
これにより、サンプリング周期よりも短い間隔で、電圧低下した電池セル10の発電状態を監視できるので、電池セル10の異常を迅速に検出することができるようになる。なお、異常セル判定部322によってセル電圧の低下率が低下閾値よりも大きいと判断された電池セルのことを、以下「注意セル」という。
注意セル監視制御部330は、監視間隔カウンタ設定部331と、割込み指令部332と、退避メモリ333と、を備える。
監視間隔カウンタ設定部331は、注意セル10の測定間隔を、サンプリング周期よりも短い時間(以下「監視時間」という。)に設定する。
監視時間は、例えば、数十ms単位に設定される。または、注意セル10のセル電圧の値が低くなるほど、電池セル10が異常の可能性が高いと推定し、監視時間をさらに短く設定するようにしても良い。あるいは、注意セル10のセル電圧の低下率が大きい、すなわちセル電圧の変化速度が速いほど、監視時間を短くしてもよい。これにより、電池セル10の異常をより迅速に検出することができる。
監視間隔カウンタ設定部331は、時間を計測するカウンタ3311を有し、セル接続切替部313によって切替器220の接続が切り替えられるたびにカウンタ3331のカウント値をカウントアップする。
監視間隔カウンタ設定部331は、異常セル判定部322から注意セル情報を受けると、カウンタ3311のカウント値をゼロ(0)にセットし、カウントアップを開始する。そして監視間隔カウンタ設定部331は、カウント値が所定値に到達すると、時間経過信号を割込み指令部332に出力する。なお、所定値は、監視時間の長さによって決まる値である。
割込み指令部332は、監視間隔カウンタ設定部331から時間経過信号を受けると、測定順序列保持部311の順序列情報で指定された通常の電池セル10の順番に注意セル10の順番を割り込ませるために、注意セル情報をセル接続切替部313に設定する。
セル接続切替部313は、注意セル情報を受け付けると、順序列情報を参照し、切替器220に設定中の電池セル10の測定順番を退避メモリ333に記録し、次に設定される電池セルを、注意セル情報に示された電池セル(注意セル)10に入れ替える。そしてセル接続切替部313は、切替間隔が経過したときに切替器220の接続を注意セル10に切り替える。これにより、サンプリング周期よりも短い監視間隔で注意セル10を監視することができる。
セル接続切替部313は、切替器220の接続を注意セル10に切り替えると、退避メモリ333に記憶された電池セル10の測定順番を取得し、切替時間が経過したときに切替器220の接続を、退避メモリ333から取得した順番の電池セル10に切り替える。その後、セル接続切替部313に注意セル情報が設定されるまでは、通常のシーケンシャルな測定順番で電池セル10が順次切り替えられる。
図3は、注意セル10の監視間隔に関する図である。図3(A)は、通常のシーケンシャルな切替順序による測定間隔を示す図である。図3(B)は、2番目の電池セルCn−1が注意セル10と判定されたときの測定間隔を示す図である。ここでは、測定順番に符号「#」が付されている。例えば、電池セルCnの測定順番は「1」番である。
図3(B)では、異常セル判定部322によって電池セルCn−1のセル電圧の低下率が低下閾値よりも低いと判断されたことにより、監視間隔カウンタ設定部331によって電池セルCn−1の測定間隔がサンプリング周期よりも短い監視間隔に設定される。
このように、セル電圧が低下傾向にある電池セルCn−1について、短周期でセル電圧が測定されるので、高速でセル電圧の状態をモニターすることができる。これにより、電池セルCn−1の電圧低下については、一時的な低下か、電池セル10自体の異常による低下かを迅速に検出することが可能になる。
次に演算部300の動作について図面を参照して説明する。
図4は、演算部300による電池セル群の監視方法の処理手順例を示すフローチャートである。
図4では、サンプリング周期設定部312によってセル接続切替部313にサンプリング周期が設定され、測定順序列保持部311の順序列情報に従って切替期間ごとに電池セルCmの接続が切り替えられている。また、電圧データ保持部3211には、測定回路210で測定された電池セルC1からCnまでの各電池セル10のセル電圧が記憶されている。
ステップS901においてセル電圧低下率演算部321は、測定回路210から電池セルCmのセル電圧を取得する。
ステップS902においてセル電圧低下率演算部321は、測定回路210で測定されたセル電圧に基づいてセル電圧の低下率ΔVを演算する。
例えば、セル電圧低下率演算部321は、電圧データ保持部3211に記憶された電池セルCmの前回のセル電圧を参照し、ステップS901で取得した今回のセル電圧を前回のセル電圧から減算した差分を、セル電圧の低下率ΔVとして算出する。そしてセル電圧低下率演算部321は、セル電圧の低下率ΔVを異常セル判定部322に出力する。
ステップS903において異常セル判定部322は、電池セルCmに関するセル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vthよりも大きいか否かを判断する。そして異常セル判定部322は、セル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vthよりも大きい場合には、異常通知部323に対して異常警報信号を出力する。
ステップS904において異常通知部323は、異常セル判定部322から異常警報信号を受けると、燃料電池システム1のコントローラに対してセル電圧が異常に低下していることを警告する。これにより、コントローラは、燃料電池スタック100に対する異常回避制御を実行する。
ステップS905において異常セル判定部322は、電池セルCmに関するセル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vthよりも大きいと判断された場合には、電池セルCmを注意セルCaとして注意セル保持部3221に設定する。具体的には、電池セルCmを示す注意セル情報と、電池セルCmに関するセル電圧の低下率ΔVとが互いに対応付けられて注意セル保持部3221に記録される。
また、既に注意セルCaが注意セル保持部3221に設定されている状況では、異常セル判定部322は、セル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vthよりも大きい場合には、低下率ΔVが大きい方の電池セル10を注意セル保持部3221に設定する。あるいは、異常セル判定部322は、セル電圧が低い方の電池セル10を注意セル保持部3221に設定してもよい。
そして異常セル判定部322は、注意セル情報を、割込み指令部332と監視間隔カウンタ設定部331とに出力する。監視間隔カウンタ設定部331は、注意セル情報を受け付けると、カウント値Cnをゼロにセットし、カウントアップを開始する。
一方、ステップS903でセル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vth以下と判断されたときには、ステップS906において異常セル判定部322は、注意セル保持部3221に注意セルCaが記録されているか否かを確認する。注意セルCaが記録されておらず、注意セル情報がヌル(Null)値を示す場合には、ステップS917乃至ステップS919の通常切替え処理が実行される。
通常切替処理では、ステップS917においてセル接続切替部313は、電池セルCmの順番に「1」を加算した順番の電池セル10を次回の測定セルCmとして設定する。
そしてステップS918においてセル接続切替部313は、次回の測定セルCmが最後の電池セル10の順番Cmaxよりも大きいか否かを判断する。次回の測定セルCmが最後の電池セル10の順番Cmaxよりも大きい場合には、ステップS919においてセル接続切替部313は、次回の測定セルCmを「1」に設定する。これにより、切替器220の接続順番が最初に戻る。
ステップS906で注意セル保持部3221に注意セルCaが記録されているこが確認されると、ステップS907において異常セル判定部322は、注意セルCaと電池セルCmとが互い一致しているか否かを確認する。すなわち、注意セルCaが異常状態から復帰したか否かを判断する。
ステップS908において異常セル判定部322は、電池セルCmが注意セルCaと一致している場合には、電池セルCmの異常状態が解消されているため、注意セルCaにNull値を設定(上書き)する。これにより、注意セル保持部3221から注意セルCaが消去される。
次にステップS905又はステップS908の処理が終了すると、ステップS909乃至ステップS912の割込み処理が実行される。
ステップS909において監視間隔カウンタ設定部331は、注意セル情報が注意セルCaを示す場合には、カウンタ3311のカウント値Cnが、所定の監視時間に達したか否かを確認する。監視時間は、サンプリング周期よりも短い時間である。
ステップS910に監視間隔カウンタ設定部331は、カウント値Cnが監視時間に達した場合には、割込み指令部332に時間経過信号を出力する。そして割込み指令部332は、時間経過信号を受けると、セル接続切替部313に注意セル情報を設定する。
また、監視間隔カウンタ設定部331は、カウント値Cnが監視時間に達した場合には、カウンタ3311をリセットする。これにより、カウント値Cnがゼロに設定されて、カウントアップが開始される。
ステップS911においてセル接続切替部313は、電池セルCmを退避セルLcとして退避メモリ333に設定する。退避メモリ333には、例えば、退避セルLcを特定する情報として、測定順序列保持部311の順序列情報に示された電池セルCmの順番が記録される。
そしてステップS912においてセル接続切替部313は、次に設定される電池セルCmを注意セルCaに入れ替え、切替期間が経過したときに切替器220の出力端子29に注意セルCaの入力端子21を接続する。
一方、ステップS909でカウント値Cnが監視時間に達していないと判断された場合には、監視間隔カウンタ設定部331は、カウント値Cnを「1」だけカウントアップする。
次にステップS914乃至ステップS916においてセル接続切替部313は、割込み処理から通常のシーケンシャルな切替え処理へ移行する。
ステップS914においてセル接続切替部313は、退避メモリ333に退避セルLcが記録されているか否かを確認する。
注意セル保持部3221に注意セルCaが設定された後であって割込み処理が実行される前は、退避メモリ333には、退避セルLcが設定されておらず、Null値が記憶されている。退避メモリ333に退避セルLcが記憶されていない場合には、割込み処理が実行されていないため、通常の切替え処理が実行される。
またステップS915においてセル接続切替部313は、電池セルCmが注意セルCaと一致しているか否かを確認する。電池セルCmと注意セルCaとが一致していない場合には、割込み処理が実行されていないため、通常の切替え処理が実行される。
ステップS915及びステップS916においてセル接続切替部313は、退避メモリ333に退避セルLcが記憶されており、かつ、測定回路210で測定された電池セルCmが注意セルCaと一致している場合には、シーケンシャルな切替え処理に復帰させる。
具体的には、セル接続切替部313は、退避メモリ333から退避セルLcを取得すると、測定順序列保持部311の順序列情報を参照し、退避セルLcの順番を特定し、その順番に「1」を加えた順番の電池セル10を次回の測定セルCmとして設定する。これにより、次の割込み処理が実行されるまではステップS917からステップS919までの通常の切替え処理が実行される。
ステップS920においてセル接続切替部313は、セル電圧の測定指令が解除されるまではステップS901に戻って一連の処理手順を繰り返し行い、測定指令が解除されると、演算部300による電池セル群の監視方法を終了する。
このように、セル電圧の低下率ΔVが低下閾値Vthよりも大きい電池セルCmは異常と判定され、異常と判定された電池セルCaについては、セル電圧の測定間隔が、サンプリング周期よりも短い監視時間に設定される。
そしてカウント値Cnが監視時間を経過するたびに、通常の測定順番に注意セルCaの順番を割り込ませることにより、サンプリング周期よりも短い間隔で、注意セルCaのセル電圧を監視することができる。
本実施形態によれば、燃料電池システム1は、電池セル10に生じる電圧を測定する測定回路210と、複数の入力端子21と出力端子29との間の接続を電池セル10単位で切り替える切替器220と、演算部300と、を備える。演算部300は、制御部301を構成する切替制御部310及び注意セル監視制御部330と、監視部320と、を備える。
そして切替制御部310は、切替器220の接続を順次切り替えて、各電池セル10のセル電圧を所定のサンプリング周期ごとに測定回路210へ出力させる。また、監視部320は、電池セル群の各電池セル10のセル電圧に基づいて電池セル群の発電状態を監視する。
注意セル監視制御部330は、監視部320によって電池セル群のうちいずれかの電池セル10のセル電圧が低下したと判断された場合には、セル電圧が低下した電池セル(注意セル)Caの測定間隔(測定周期)をサンプリング周期よりも短くする。
このように、制御部301は、セル電圧が低下した場合には、セル電圧が低下した電池セル10の測定間隔を、切替器220が各電池セル10の切り替えに要する1周期分の時間によって決まるサンプリング周期よりも短い周期に変更する。
これにより、異常の可能性のある電池セル10の測定間隔が短くなるので、電圧低下した電池セル10の電圧状態を短い周期でモニターできる。このため、電池セル10の異常を迅速に検知することができる。さらに切替器220の切替速度を高速にしなくても電池セル10の異常を迅速に検知できることから、測定回路210でのデータ処理を高速化する必要がないのでコストの増加を抑制できる。
したがって、コストの増加を抑制しつつ電池セル10の異常検出を迅速化することができる。
また、監視部320では、セル電圧低下率演算部321が、電池セル10のセル電圧の低下速度を演算し、異常セル判定部322は、セル電圧の低下速度が低下閾値を超えるか否かを判断し、セル電圧の低下速度が低下閾値よりも大きい場合には、セル電圧が低下閾値を超えた電池セル10を注意セルCaと判定する。
そして注意セル監視制御部330では、監視間隔カウンタ設定部331が、セル電圧の変化速度が低下閾値を超えると判断された場合に、注意セルCaの測定間隔をサンプリング周期よりも短い監視時間に設定する。割込み指令部332は、監視間隔カウンタ設定部331に設定された短い監視周期で、注意セルCaの順番を、切替器220による通常の接続順序で指定された順番よりも先に割り込ませる。通常の接続順序とは、測定順序列保持部311の順序情報に示された注意セルCaの順番のことである。
このように、セル電圧の変化速度を用いて電圧異常を判定する判定手法では、セル電圧の前回測定した値と今回測定した値との差分を算出する必要がある。そのため、セル電圧の測定間隔を切替器220によって決まるサンプリング周期に固定すると、電池セル10の異常に伴いセル電圧が緊急停止閾値よりも低下した場合には、その電池セル10のサンプリング周期が経過するまでは異常の判定をすることができない。
このため、セル電圧が低下した電池セル10の測定間隔をサンプリング周期よりも短くすることにより、セル電圧の変化速度を異常の判定に用いても迅速に電池セル10の異常を検出することが可能になる。
また、本実施形態では、監視間隔カウンタ設定部331は、異常セル判定部322によってセル電圧が低下したと判定された場合には、カウント値をゼロにリセットし、切替器220の接続が切り替えられるたびにカウントアップする。そして割込み指令部332は、カウント値が監視時間に達したときには、切替器220の接続を注意セルCaに入れ替え、その後、注意セルCaを入れ替える前の元の測定順序で切替器220の接続を順次切り替えさせる。
これにより、注意セルCaの測定間隔をサンプリング周期よりも短くしつつ、他のセル電圧が低下していない電池セル10については、サンプリング周期と略同じ間隔でセル電圧の測定を継続することができる。
また、本実施形態では注意セル監視制御部330は、電圧異常と判定された注意セルCaが複数存在する場合には、注意セルCaのうちセル電圧の低下速度が最も速い電池セル10、又は、セル電圧が最も低い電池セル10のみ測定間隔を短くする。
このように、異常の可能性が最も高い電池セルCaの測定間隔のみを短い周期で測定し、その他の電池セル10をサンプリング周期と略同じ周期で測定することにより、電池セル10の異常検出の迅速化を図りつつ、監視制御の演算処理を軽減することができる。また、電圧異常と判定された全ての電池セル10について測定間隔を短くする場合には他の電池セル10の測定間隔が長くなってしまうので、測定間隔を短くできる電池セル10の数を限定することで、全体的な異常検出の長期化を抑制することができる。
また、本実施形態では、セル電圧低下率演算部321は、注意セルCaについて、前回測定されたセル電圧と、監視時間経過後に測定されたセル電圧との差分に基づいて変化速度を算出する。
電池セル10からセル電圧監視装置200への配線が断線したときの電圧の低下速度と、燃料電池スタック100の負荷の変動による電圧の低下速度と、電池セル10の異常による電圧の低下速度とは、互いに異なる。そのため、セル電圧の変化速度を注意セルCaの判定に用いることにより、電池セル10の異常を迅速に判定することができる。
また、監視間隔カウンタ設定部331は、注意セルCaのセル電圧の変化速度が大きいほど、電池セル10が異常を起こしている可能性が高いので、注意セルCaの測定間隔を短くするようにしてもよい。これにより、電池セル10の異常をさらに素早く検出することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では、セル電圧監視装置200の測定対象して燃料電池スタック100の電圧を測定する例について説明したが、燃料電池スタックに限られるものではなく、リチウムイオンバッテリなどの積層電池にも適用可能である。
また、本実施形態では、セル電圧の低下速度に基づいて注意セルCaを判定する例について説明したが、異常セル判定部322は、セル電圧が所定電圧値よりも低下した場合に、その電池セル10を注意セルCaと判定してもよい。
また、本実施形態では、ひとつの注意セルCaにのみ、測定間隔をサンプリング周期よりも短くする例について説明したが、セル電圧が異常と判定された全ての注意セルCaについて測定間隔を短くしてもよい。また、本実施形態では、電池セル10の異常を検出するまで測定間隔をサンプリング周期よりも短くする例について説明したが、電池セル10の異常を検出してから通常の電圧レベルに復帰するまで間も、測定間隔を短くして異常セルの発電状態を監視するようにしてもよい。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。