JP6294729B2 - 細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具 - Google Patents

細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具 Download PDF

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Description

本発明は生物の細胞又は組織を凍結保存する際に使用するガラス化凍結保存用治具に関する。
生物の細胞又は組織の優れた保存技術は、様々な産業分野で求められている。例えば、牛の胚移植技術に用いられる胚は、受胚牛の発情周期に合わせて移植が行われており、発情周期に胚の移植を合わせるために胚を凍結保存し、発情周期に合わせて胚を融解して移植することが行われている。また、ヒトの不妊治療においては、母体から卵子または卵巣を採取後、移植に適したタイミングに合わせるために凍結保存しておき、移植時に融解して用いることがなされている。
一般に、生体内から採取された細胞または組織は、たとえ培養液の中であっても、次第に活性が失われていくことから、生体外での細胞または組織の長期間の培養は好ましくない。そのため、生体活性を失わせずに長期間保存する技術が重要である。優れた凍結保存技術によって、採取された細胞または組織をより正確に分析することが可能になる。例えば再生医療分野では優れた凍結保存技術によって、より高い生体活性を保ったまま移植に用いることが可能となり、移植後の生着率が向上することが望める。さらには、生体外で培養した培養皮膚や生体外で構築した、いわゆる細胞シートのような移植のための人工の組織を、順次生産して保存しておき、必要な時に使用することも可能となり、医療の面だけではなく、産業面においても大きなメリットが期待できる。
細胞又は組織の保存方法として、例えば緩慢凍結法が知られている。この方法では、まず、例えばリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に耐凍剤を含有させることで得られた保存液に、細胞または組織を浸漬する。該耐凍剤としては、グリセロール、エチレングリコール等の化合物が用いられる。該保存液に、細胞または組織を浸漬後、比較的遅い冷却速度(例えば0.3〜0.5℃/分の速度)で、−30〜−35℃まで冷却することにより、細胞内外または組織内外の溶液が十分に冷却され、粘性が高くなる。このような状態で、該保存液中の細胞または組織をさらに液体窒素の温度(−196℃)まで冷却すると、細胞内または組織内とその外の周囲の微少溶液がいずれも非結晶のまま固体となるガラス化が起こる。ガラス化により、細胞内外または組織内外が固化すると、実質的に分子の動きがなくなるので、ガラス化された細胞または組織を液体窒素中に保存することで、半永久的に保存できると考えられる。
しかしながら、前記緩慢凍結法では、比較的遅い冷却速度で冷却する必要があるために、凍結保存のための操作に時間を要する。また、温度制御をするための装置または治具を必要とする問題がある。加えて、前記緩慢凍結法では、細胞外または組織外の保存液中に氷晶が形成されるので、細胞または組織が該氷晶により物理的に損害を受けるおそれがある。
前記緩慢凍結法での問題点を解決するための方法として、ガラス化凍結保存法が提案されている。ガラス化凍結保存法とは、グリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの耐凍剤を多量に含む水溶液の凝固点降下により、氷点下でも氷晶ができにくくなる原理を用いたものである。この水溶液を急速に液体窒素中で冷却させると氷晶を生じさせないまま固体化させることができる。このように固体化することをガラス化凍結という。また、耐凍剤を多量に含む水溶液をガラス化液という。
前記ガラス化法の具体的な操作としては、ガラス化液に細胞又は組織を浸漬させ、その後、液体窒素の温度(−196℃)で冷却する。このような簡便かつ迅速な工程であるために、凍結保存のための操作に時間を必要としない他、温度制御をするための装置または治具を必要としない。
ガラス化凍結保存法を用いると、細胞内外のいずれにも氷晶が生じないために凍結時及び融解時の細胞への物理的障害(凍害)を回避することができるが、ガラス化液に含まれる高濃度の耐凍剤には化学的毒性があり、細胞または組織の凍結保存時にはガラス化液が少ない方が好ましく、細胞または組織がガラス化液に暴露される時間つまりは凍結までの時間が短時間であることが好ましい。さらには、解凍後ただちにガラス化液を希釈する必要がある。
これらガラス化凍結保存法を用いた細胞または組織の凍結保存については、様々な方法で、様々な種類の細胞または組織を用いた例が示されている。例えば、特許文献1では、動物またはヒトの生殖細胞または体細胞へのガラス化凍結保存法の適用が凍結保存、融解後の生存率の点で、極めて有用であることが示されている。
ガラス化凍結保存法は、主にヒトの生殖細胞を用いて発展してきた技術であるが、最近では、iPS細胞やES細胞への応用も広く検討されている。また、非特許文献1では、ショウジョウバエの胚の保存にガラス化凍結保存法が有効であったことが示されている。さらに、非特許文献2では、植物培養細胞や組織の保存において、ガラス化凍結保存法が有効であることが示されている。このように、ガラス化凍結保存法は広く様々な種の細胞や組織で有用であることが知られている。
これらガラス化凍結保存法を用いた細胞又は組織の凍結保存法としては様々なものが提案されている。特許文献2、特許文献3などではストローにガラス化液を充満させた中で哺乳動物胚をガラス化凍結保存させ、解凍時に素早く希釈液と接触させて生存率を向上させる試みがなされている。
特許文献4では卵子又は胚の周囲に付着した余分なガラス化液を濾紙などの吸収体により吸収させることにより、凍結保存、解凍後の優れた生存率が得られる方法として提案している。
さらに、特許文献5、特許文献6では、人の不妊治療分野で使用されているいわゆるクライオトップ法という方法で、卵子を付着保持する短冊状の可撓性かつ無色透明なフィルム上にごく少量のガラス化液と共に卵子又は胚を透過型顕微鏡下で付着させ、凍結保存する方法が提案されている。当該方法は人の卵子又は胚などの凍結保存の場合、透過型顕微鏡下での確認作業が必要なため卵子付着保持用ストリップに光透過性など性能が付与されている。
特開2000−197481号公報 特開平5−176946号公報 特開平10−248860号公報 特開2005−40073号公報 特開2002−315573号公報 特開2006−271395号公報
Steponkus et al.,Nature 345:170−172(1990) 酒井昭,低温生物工学会誌 42:61−68(1996)
特許文献4では、卵子又は胚の周囲に付着した余分なガラス化液を濾紙などの吸収体に吸収させることにより、優れた生存率でこれらの生殖細胞を凍結保存させる方法を提案している。しかしながら、凍結保存する細胞や組織の体積が大きい場合には、ガラス化液の吸収速度が十分でないために、余分なガラス化液が残存する問題がある。また濾紙は全光線透過率が低いため、透過型顕微鏡下で卵子又は胚の付着を確認することは極めて困難であり、一方、反射型顕微鏡で確認した場合には、濾紙の繊維間に卵子又は胚が埋没してしまい、やはり付着した卵子又は胚を確認することは極めて困難であった。
特許文献5、特許文献6で提案されている方法では、卵子又は胚をのせるフィルムの幅を制限することにより、少ない量のガラス化液と共に卵子又は胚を凍結保存する方法が記載されている。しかしこの方法では、作業者の操作によって、極少量のガラス化液と共に、卵子又は胚をフィルム上にのせるが、この操作の難度が高いといった問題があった。更に無色透明な平坦フィルム上に卵子又は胚を滴下付着する場合、このようなフィルムはヘーズ値が10以下と低く、また全光線透過率が高いので、顕微鏡下の作業においてはどこにフィルムがあるのか判りづらい。このため、このような透明フィルムを卵子付着保持用スプリットとして用いた場合、例えばフィルム端部を黒くマジックでマーキングをして無色透明フィルムの存在を確認しながら作業する必要があり、改善が求められていた。
本発明は、細胞または組織の凍結保存作業を容易かつ簡便に行うことを可能にするガラス化凍結保存用治具を提供することを主な課題とする。より具体的には、細胞または組織をガラス化液に浸漬した後、該ガラス化保存用治具上に載せる際、ガラス化液の滴下する箇所を容易に確認でき、また細胞または組織の外周に付着した余分なガラス化液を吸収するための優れた吸収性能を備え、かつ付着した細胞または組織を容易に確認できるガラス化凍結保存用治具を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記した各種技術的な課題は、以下の構成を有する細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具で解決できることが判明した。
(1)平均繊維径が4.0μm以下の繊維を含有するガラス化液吸収体を有することを特徴とする細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
本発明のガラス化凍結保存用治具により、細胞または組織をガラス化液に浸漬した後、該ガラス化保存用治具上に載せる際、ガラス化液の滴下する箇所を容易に確認することができる。またガラス化液に浸漬させた細胞または組織をガラス化液と共にガラス化液吸収体上に載せた際に、細胞または組織の外周に付着した余分なガラス化液を吸収するための優れた吸収性能が得られ、かつ付着した細胞または組織を容易に確認することができる。
細胞または組織のガラス化凍結保存用治具の一例を示す全体図 図1の吸収保持部の拡大図 複数個の細胞または組織を1つの当該ガラス化凍結保存用治具で凍結保存させる場合に用いる吸収保持部の一例を示す概略図 複数個の細胞または組織を1つの当該ガラス化凍結保存用治具で凍結保存させる場合に用いる吸収保持部の別一例を示す概略図 ガラス化液吸収体を支持体の両面に配した吸収保持部の概略図
以下に本発明のガラス化凍結保存用治具を詳細に説明する。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、生物の細胞または組織を凍結保存する際に用いられるものである。本明細書中で細胞とは、単一の細胞のみならず、複数の細胞からなる細胞集団を含むものである。複数の細胞からなる細胞集団は単一の種類の細胞から構成される細胞集団でも良いし、複数の種類の細胞から構成される細胞集団でも良い。また、組織とは、単一の種類の細胞から構成される組織でも良いし、複数の種類の細胞から構成される組織でも良く、細胞以外に細胞外マトリックスのような非細胞性の物質を含むものでも良い。本発明のガラス化凍結保存用治具は、好ましくは、ガラス化液吸収体に細胞または組織をガラス化液と共に付着させ、細胞または組織が付着した治具を液体窒素等の冷却物質に浸漬し凍結させるためのものである。上記ガラス化液吸収体を有することにより、細胞または組織をガラス化液と共に容易に保持することができ、さらには細胞または組織の液体窒素への浸漬作業も容易かつ簡便に行うことができる。本発明のガラス化凍結保存用治具は、細胞または組織凍結保存用具、細胞または組織ガラス化保存用具と言い換えることができる。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、平均繊維径が4.0μm以下の繊維(以下、本発明の極細繊維とも記載)を含有するガラス化液吸収体を有する。このような平均繊維径を有する繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維からの再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、更にはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維、キチン・キトサン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、絹繊維、ポリビニル繊維、フッ素樹脂繊維や無機繊維であるガラス繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維などが挙げられる。その中でもガラス化液吸水性の良い繊維として、セルロース繊維、セルロース繊維からの再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、更にはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、マイクロガラス繊維などが更に好適に用いられる。ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、フッ素樹脂繊維などの繊維自体が吸水性に乏しい繊維でもプラズマ処理やポリビニルアルコールなどをグラフト処理することにより、より好適に用いられる。
本発明のガラス化凍結保存用治具が有する平均繊維径が4.0μm以下の繊維を含有するガラス化液吸収体としては、上記した繊維をランダムに並べた不織布あるいは紙であることが好ましい。またガラス化液吸収体における平均繊維径が4.0μm以下の繊維が占める割合は、ガラス化液の吸収性の観点から80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、更に好ましくは95質量%以上である。また本発明においてガラス化液吸収体は、ガラス化液吸収体繊維同士が束にならずに1本1本独立分散していることが好ましい。本発明の極細繊維で束にならずに不織布形態に加工するには、不織布の場合はメルトブロー法、スパンレース法(水流交絡法)、更にエレクトロスピニング法などの製造方法が好ましく用いられる。これら製造方法はバインダーなしで繊維同士を結着することができ、100%繊維だけの不織布が製造でき、ガラス化液を吸収するための優れた吸収性能が得られるため好ましい。
本発明の極細繊維で束にならずに紙形態に加工するには、例えば特開2006−193858号等に記載されているように、各種アルコール類を添加して、各セルロース繊維間の水素結合力を弱めるように製造することにより、ガラス化液の吸収能力が高いガラス化液吸収体を得ることができる。またガラス繊維などの無機の微細繊維は強い水素結合等がないので通常の抄紙法であっても、ガラス化液の吸収能力が高いガラス化液吸収体を得ることができる。
透過型顕微鏡下で細胞または組織を観察する場合、上記したガラス化液吸収体の坪量は3〜100g/mであることが好ましく、より好ましくは5〜75g/mである。またガラス化液吸収体の密度は、0.05〜0.75g/cmであることが好ましい。一方、反射型顕微鏡下で細胞または組織を観察する場合には、上記のような密度、坪量の制約は特にない。
本発明における平均繊維径とは、走査型電子顕微鏡を用いてガラス化液吸収体を撮影し、撮影画像中から任意に選んだ繊維30本の繊維径を測定した値の平均値である。ガラス化液吸収体が含有する繊維の平均繊維径が4.0μmを超えた場合、ガラス化液吸収体に付着した細胞または組織の存在を、透過型顕微鏡下あるいは反射型顕微鏡下にて容易に確認することが困難となる。ガラス化液吸収体が含有する繊維の平均繊維径の下限は、0.01μm以上であることが好ましい。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、ガラス化液吸収体が素早く余分なガラス化液を吸収する。これにより卵子又は胚などの細胞又は組織と共にガラス化液を滴下付着させる量が多くても安定した生存性が期待できる。このように操作された卵子又は胚などの細胞又は組織はごく少量のガラス化液に覆われており、凍結操作する場合でも速やかに凍結状態にすることができる。更には解凍後ただちにガラス化液を希釈することができる。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、上記したガラス化液吸収体を単独で、ガラス化液を吸収し、細胞又は組織を保持する吸収保持部として有していても良いし、吸収保持部はガラス化液吸収体と支持体を有していても良い。このような支持体としては例えば、各種樹脂フィルム、金属、ガラス、ゴム等が挙げられる。このような支持体は1種類の素材からなるものでも良いし、2種類以上の素材からなるものでも良い。中でも樹脂フィルムは、取扱い性の観点で好適に用いられる。樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。また、温度伝導性に優れ、急速な凍結を可能にするという観点で金属製支持体を好適に用いることができる。金属製支持体の具体例としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。該支持体の厚さは10μm〜10mmであることが好ましい。また、後述する接着層との接着強度を高めるために、支持体の表面をコロナ放電処理のような電気的な方法や、化学的な方法により易接着処理することもでき、さらには粗面化することもできる。
ガラス化液吸収体に付着した細胞または組織を透過型顕微鏡で観察する場合、ガラス化液吸収体を保持する支持体としては光透過性支持体が好ましく、全光線透過率が80%以上である光透過性支持体がより好ましい。また支持体のヘーズ値は10%以下であることが好ましい。
本発明において卵子又は胚などの細胞又は組織と共に滴下されるガラス化液の好ましい量は前記したガラス化液吸体の面積及びマイクロピペットでの操作を考慮すると、0.3〜5μLが好ましく、更には0.5〜3μLが好適であり、更にこの量に応じてガラス化液吸収体の素材などが選択される。
以上、本発明におけるガラス化液吸収体を説明してきた。以下にこれらを用いたガラス化凍結保存用治具の構成について説明する。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、ガラス化液吸収体を有するものであればよいが、例えば、ガラス化液吸収体に把持部が接続されていてもよい。把持部を有すると、凍結時の作業性が良好であるため、好ましい。
図1は本発明における細胞または組織のガラス化凍結保存用治具の一例を示す全体図である。図1においてガラス化凍結保存用治具5は、把持部1と吸収保持部2から構成される。把持部1は耐液体窒素素材であることが好ましい。このような素材としては、例えばアルミ、鉄、銅、ステンレス合金などの各種金属、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエレン樹脂、フッ素系樹脂や各種エンジニアプラスチック、更にはガラスなどを好適に用いことができる。また基本的に吸収保持部2はハンドリング上、短冊状又はシート状であることが好ましい。
本発明における吸収保持部の一例を、図2に示す。
図2は、図1の吸収保持部2の拡大図である。図2の吸収保持部2aは支持体4上にガラス化液吸収体3を有する。図2に示す吸収保持部2aは、支持体の全面にガラス化液吸収体を有する形態の一例である。
図2の吸収保持部2aはガラス化液吸収体3と支持体4を貼り合わせることで得ることができる。支持体4上にガラス化液吸収体3を貼り合わせる場合、一般に知られている様々な接着剤を使用することができる。例えばポリビニルアルコール、ヒドロキシセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉糊のような水溶性接着剤、酢酸ビニル系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ホットメルト接着剤、エラストマー系接着剤、シアノアクリル系に代表される瞬間接着剤、シリコーン系接着剤、ニトロセルロース接着剤 、ニトリルゴム系接着剤、スチレン−ブタジエン系接着剤ユリア樹脂系接着剤、クロロプレン系接着剤、塩化ビニル系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ブチラール樹脂系接着剤、スチレン系樹脂接着剤、フェノール樹脂系接着剤などを好適に用いることができる。ただし接着剤を多量に用いると繊維間の空隙を埋めてしまい、ガラス化液の吸収性が低下する場合があるため、接着剤の使用量は1〜20g/mの範囲で好ましく用いられ、更に1〜10g/mの範囲で好適に用いられる。
また本発明において上記接着剤をガラス化液吸収体の一部として積極的に使用することもできる。ポリビニルアルコール、ヒドロキシセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉糊のような水溶性接着剤はガラス化液を一部吸収することが可能であるため、好ましい。
図1の把持部1と吸収保持部2の接続方法について説明する。把持部1が樹脂の場合、例えば、成形加工する時にインサート成形により吸収保持部2を把持部1に接続することができる。更に、把持部1に図示しない挿入部を作製して接着剤にて吸収保持部2を接続することができる。接着剤は様々なものが使用できるが、低温に強いシリコーン系やフッ素系の接着剤が好適に用いることができる。
本発明の細胞又は組織のガラス化液保存用治具で、細胞又は組織を長期凍結保存する場合、図1に示す治具本体に安全のため、外界と遮断するためにキャップを被せることも可能である。更に、通常液体窒素は滅菌されておらず、直接液体窒素に接触させて凍結させる場合、ガラス化液保存用治具が滅菌されていても滅菌状態を保証できない場合がある。よって凍結前に細胞又は組織を付着させたガラス化液吸収体にキャップをして、直接液体窒素に接触させないで凍結させることがある。また、EUなど海外先進国では前記のように液体窒素に直接接触させない凍結方法が主流となってきている。このような理由からキャップは耐液体窒素性のある素材である各種金属、各種樹脂、ガラス、セラミックなどで作製することが好ましい。形状としては、鉛筆用のキャップやただの円柱状のストローキャップなどガラス化液吸収体と接触せず、外界と遮断できるような形状ならどのような形状でもよい。
図3は、複数個の細胞または組織を1つの当該ガラス化凍結保存用治具で凍結保存させる場合に用いる吸収保持部の一例を示す概略図を示す。また図4は複数個の細胞または組織を1つの当該ガラス化凍結保存用治具で凍結保存させる場合に用いる吸収保持部の別の一例を示す概略図である。図3、図4ではガラス化液吸収体3が支持体4上に、不連続であって複数が配置されている。
前述した図2のようにガラス化液吸収体3が連続した形状である場合、複数の細胞または組織をガラス化液吸収体3に付着させようとすると、ガラス化液はガラス化液吸収体において厚み方向の他に横方向に吸収されるため、例えば2個目以降の細胞または組織をガラス化液吸収体3に付着させた場合、ガラス化液の吸収性は低下する場合がある。しかし、図3、図4のようにガラス化液吸収体3が支持体4上に、不連続で複数設けられているとそのような心配がなく、ガラス化液と共に細胞または組織を各ガラス化液吸収体3に1個ずつ確実に付着させることができる。図3および図4では、一例として、升目状のガラス化液吸収体3を複数配置した。図3及び図4に示すガラス化液吸収体2b及びガラス化液吸収体2cは、支持体上の一部にガラス化液吸収体を有する吸収保持部の一例でもある。
図5は操作性、迅速性を向上させるために、ガラス化液吸収体を支持体の両面に配した吸収保持部の概略図である。ガラス化液吸収体3を支持体4の両面に配することにより、表裏を気にせず、直ぐに細胞または組織を素早く滴下付着させることができる。吸収保持部2dが支持体4のないガラス化液吸収体3だけの場合は両面ともガラス化液を吸収できるのでこのような形態にする必要はない。図3〜5に示す吸収保持部におけるガラス化液吸収体は、前述した図2の吸収保持部におけるガラス化液吸収体と同様の方法により形成することができる。
本発明のガラス化凍結保存用治具は、例えば、クライオトップ法において好適に用いられるものである。本発明のガラス化凍結保存用治具を用いると、細胞または組織の凍結時及び融解時に細胞外のガラス化液による損傷を受けにくく、細胞または組織を優れた生存性で凍結保存することができる。
本発明のガラス化凍結保存用治具を用いて卵子又は胚等の細胞を凍結保存する方法は特に限定されず、例えば、まず、ガラス化液に浸漬した卵子又は胚等の細胞をガラス化液と共にガラス化液吸収体上に滴下し、該細胞の周囲に付着しているガラス化液をガラス化液吸収体に吸収させる。次いで、前記細胞をガラス化液吸収体上に保持させたまま液体窒素等の中に浸漬することにより、細胞を凍結することができる。ガラス化液は、通常卵子、胚等の細胞の凍結のために使用されるものを使用でき、例えば、上述したグリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの各種耐凍剤を含有する水溶液を使用できる。
本発明のガラス化凍結保存用治具を用いて凍結保存することができる細胞として、例えば、哺乳類(例えば、人(ヒト)、牛、豚、馬、マウス等)の卵子又は胚、iPS細胞やES細胞、それら万能細胞が分化した各種細胞、再生医療等に用いられる膝軟骨細胞や皮膚細胞等や一般的な細胞が挙げられる。
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルム上にクラレ(株)製ポリビニルアルコールPVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布した。当該塗布層が乾燥する前に、東燃タピルス製 ナイロン製メルトブロー不織布 N020F5−00F(平均繊維径4.0μm、坪量20g/m、密度0.24g/cm)を当該塗布層に重ねて乾燥させ、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、実施例1のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<実施例2>
コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルム上にクラレ(株)製 PVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布した。当該塗布層が乾燥する前に、クラレクラフレックス製 親水化ポリプロピレン製メルトブロー不織布 PC0070−OEM(平均繊維径3.5μm、坪量70g/m、密度0.13g/cm)を当該塗布層に重ねて乾燥させ、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、実施例2のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<実施例3>
繊度0.06dtex(繊維約2μm)、カット長3mmの延伸結晶化ポリエチレンテレフタレートステープル40質量部、繊度0.1dtex(繊維約3μm)、カット長3mmの延伸結晶化ポリエチレンテレフタレートステープル20質量部および繊度0.2dtex(繊維約4μm)、カット長3mmの非延伸ポリエチレンテレフタレートステープル40質量部を湿式抄造し、更に、表面温度200℃の熱カレンダーにより繊維間を融着させつつ厚み調整を行い、平均繊維径が3.0μm、坪量25g/m、密度0.5g/cmのガラス化液吸収体を得た。コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルム上にクラレ(株)製 PVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布した。当該塗布層が乾燥する前に、上記で準備したガラス化吸収体を当該塗布層に重ねて乾燥させ、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、実施例3のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<実施例4>
株式会社スギノマシン社製 セルロース系ナノファイバー「BinFi−s」(平均繊維径0.02μm、長さ2μm)5%分散溶液にイソブチルアルコールを添加して、水−イソブチルアルコール混合2.5%分散溶液に調整した。その後、所定の容器に当該分散液を投入し、蒸発乾燥して、坪量20g/m、密度0.4g/cmのガラス化液吸収体を得た。コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルム上にクラレ(株)製 PVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布した。当該塗布層が乾燥する前に、上記で準備したガラス化吸収体を当該塗布層に重ねて乾燥させ、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、実施例4のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<比較例1>
市販の濾紙(平均繊維径20μm、坪量120g/m、密度0.57g/cm)を幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、比較例1のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<比較例2>
コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルムにクラレ(株)製 PVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布した。当該塗布層が乾燥する前に、市販のPPC用紙(平均繊維径23μm、坪量68g/m、密度0.72g/cm)を重ねて乾燥させ、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合して、比較例2のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<比較例3>
コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルムにクラレ(株)製 PVA117の10%水溶液を乾燥時質量2g/mで塗布乾燥し、次いで幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部を作製し、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合させ、比較例3のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<比較例4>
コロナ放電処理により、表面が易接着処理された厚さ250μm、ヘーズ値5.5%、全光線透過率91%の透明PETフィルムを幅2×25mmの短冊状にカットして吸収保持部とし、更に該吸収保持部とABS樹脂製の把持部と接合させ、比較例4のガラス化凍結保存用治具を作製した。
<ガラス化液吸収性の評価>
水:エチレングリコール=70:30(対容積)の比率で混合してガラス化液を調製した。実施例1〜4、比較例1〜4で得たガラス化凍結保存用治具の吸収保持部にマイクロピペットにて、前記ガラス化液をそれぞれ2μL滴下して、ガラス化液の吸収性を以下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
◎:滴下付着後、1秒未満でガラス化液を全て吸収した。
○:滴下付着後、ガラス化液を全て吸収するのに1秒以上5秒未満要した。
△:滴下付着後、ガラス化液を全て吸収するのに5秒以上10秒未満要した。
△×:滴下付着後、ガラス化液を全て吸収できないかあるいは吸収するのに10秒以上要した。
×:滴下付着後、ガラス化液を全く吸収できない。
<細胞又は組織の滴下付着作業性評価>
疑似細胞として直径約10μmのアルギン酸カルシウム粒子を作製した。この粒子は「アルギン酸カルシウム単分散微小球体の合成」(宮崎県工業試験所)中島忠夫、清水正高、久木崎雅人らの文献を参考に作製した。水:エチレングリコール=70:30(対容積)の比率で混合して調製したガラス化液に沈めた前記アルギン酸カルシウム粒子1個をマイクロピペットにて2μLのガラス化液と共に吸い込み、透過顕微鏡(オリンパス(株)製、SZH−121)での観察下または反射型顕微鏡(オムロン(株)製、VC4500SI顕微鏡システム)観察下にて、実施例1〜4、および比較例1〜4で得たガラス化凍結保存用治具の吸収保持部にそれぞれ滴下した。この時の作業性の評価を以下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
○:透過顕微鏡および反射型顕微鏡を用いた観察下で、短冊状の吸収保持部を容易に確認でき、ガラス化液を滴下すべき箇所を容易に見出すことができた。また該箇所にマイクロピペット先端を近づけ容易に滴下付着させることができた。
△:透過顕微鏡を用いた観察下で短冊状の吸収保持部を容易に確認できず、ガラス化液を滴下すべき箇所を容易に見出すことができなかった。ようやく滴下すべき箇所を見出し該箇所にガラス化液を滴下したところ、容易に滴下付着させることができた。
×:透過顕微鏡を用いた観察下で短冊状の吸収保持部を容易に確認できず、ガラス化液を滴下すべき箇所を容易に見出すことができなかった。ようやく滴下すべき箇所を見出し該箇所にガラス化液を滴下したが、滴下したガラス化液からマイクロピペットの先端を容易に離すことができなかった。
<透過型顕微鏡での細胞又は組織の視認性>
付着させた疑似細胞を透過顕微鏡(オリンパス(株)製、SZH−121)にて観察し、細胞又は組織の視認性を以下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
◎:短時間で疑似細胞だけを見つけることができ、輪郭、大きさ、および濃淡を確認可能な視認性がある。
○:短時間で疑似細胞を見つけられるが、疑似細胞の輪郭、大きさ、および濃淡を確認するのに時間を要する。
×:1分以上探しても疑似細胞の存在が確認できない。
<反射型顕微鏡での細胞又は組織の視認性>
付着させた疑似細胞を反射型顕微鏡(オムロン(株)製、VC4500SI顕微鏡システム)にて観察し、細胞又は組織の視認性を以下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
◎:短時間で疑似細胞だけを見つけることができ、輪郭、大きさ、および濃淡を確認可能な視認性がある。
○:短時間で疑似細胞を見つけられるが、疑似細胞の輪郭、大きさ、および濃淡を確認するのに時間を要する。
×:1分以上探しても疑似細胞の存在が確認できない。
以上の結果から、本発明のガラス化凍結保存用治具によって、細胞又は組織のガラス化凍結作業を容易にかつ確実に行うことが可能であることが判る。
本発明は、牛などの家畜や動物の胚移植や人工授精、人への人工授精などの他、例えば、細胞などの凍結保存にも応用され得る。また、本発明は、再生医療用細胞、細胞シートやiPS細胞、ES細胞の細胞バンクなどに用いる凍結保存方法に利用され得る。
1 把持部
2 吸収保持部
2a〜2d 吸収保持部
3 ガラス化液吸収体
4 支持体
5 ガラス化凍結保存用治具

Claims (1)

  1. 平均繊維径が4.0μm以下の繊維を含有するガラス化液吸収体を有することを特徴とする細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具。
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