JP2020068713A - 凍結保存用治具 - Google Patents

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Abstract

【課題】融解操作の際に細胞または組織の視認を著しく阻害することなく、また細胞または組織を確実に回収することが可能な凍結保存用治具を提供することを課題とする。【解決手段】細胞または組織を載置する載置部が多孔性の保存液吸収体と、該保存液の吸収体上に水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を少なくとも有し、載置部の総厚みを200μm以下とする。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞または組織を凍結保存する凍結保存用治具に関する。
細胞または組織の優れた保存技術は、様々な産業分野で求められている。例えば、牛の胚移植技術においては、胚を凍結保存し、受胚牛の発情周期に合わせて胚を融解し、移植することが行われている。また、ヒトの不妊治療においては、母体から卵子または卵巣を採取後、移植に適したタイミングに合わせるために凍結保存しておき、移植時に融解して用いる手技がなされている。
一般に、生体内から採取された細胞または組織は、たとえ培養液の中であっても、次第に活性が失われていくことから、生体外での長期間の培養は好ましくない。そのため、生体活性を失わせずに長期間保存するための技術が重要になる。優れた保存技術により、採取された細胞または組織を、より正確に分析することが可能になる。また、優れた保存技術により、より高い生体活性を保ったまま、細胞または組織を移植に用いることが可能となり、移植後の生着率の向上が望める。さらには、生体外で培養した培養皮膚、生体外で構築した、いわゆる細胞シートのような移植のための人工の組織を、順次生産、保存しておき、必要な時に使用することも可能となり、医療、産業の両面において大きなメリットが期待できる。
細胞または組織の保存方法として、例えば緩慢凍結法が知られている。この方法では、例えば、リン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液に耐凍剤を含有させることで得られた保存液に、細胞または組織を浸漬する。該耐凍剤としては、グリセロール、エチレングリコールなどの化合物が用いられる。該保存液に、細胞または組織を浸漬後、比較的遅い冷却速度(例えば0.3〜0.5℃/分の速度)で、−30〜−35℃まで冷却すると、細胞内外または組織内外の保存液が十分に冷却され、粘性が高くなる。このような状態で、該保存液中の細胞または組織を、さらに液体窒素の温度(−196℃)まで冷却すると、細胞内または組織内とその外の周囲の微少溶液が、いずれも非結晶のまま固体となるガラス化が起こる。ガラス化により、細胞内外または組織内外が固化すると、実質的に分子の動きがなくなるので、ガラス化された細胞または組織を液体窒素中に保存することで、半永久的に保存できると考えられる。
例えば、特許文献1には緩慢凍結法によってブタ胚を凍結保存することが記載され、特許文献2にはウシ胚を緩慢凍結法によって保存することが記載されている。
しかしながら緩慢凍結法は、比較的遅い冷却速度で細胞または組織を冷却することから、凍結保存のための操作に時間を要する。また冷却速度を制御するための装置、または治具を必要とする問題がある。加えて細胞外または組織外の保存液中に氷晶が形成されるので、細胞または組織が該氷晶により物理的に損害を受けるおそれがある。
一方、上記した緩慢凍結法における問題点を解消する保存方法として、ガラス化凍結法が知られている。ガラス化凍結法とは、グリセロール、エチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの耐凍剤を多量に含む保存液の凝固点降下により、氷点下であっても氷晶ができにくくなる原理を用いたものである。この保存液を、急速に液体窒素中で冷却させると、氷晶を生じさせないまま固体化させることができる。このように固体化することをガラス化凍結という。ガラス化凍結に用いられる耐凍剤を多量に含む保存液は、ガラス化液と呼称される。
ガラス化凍結法では、ガラス化液に細胞または組織を浸漬させ、その後、液体窒素の温度(−196℃)で急速に冷却する。ガラス化凍結法は、このような簡便かつ迅速な工程であるために、凍結保存のための操作に長い時間を必要としないほか、温度制御をするための装置または治具を必要としないという利点がある。
ガラス化凍結法を用いた細胞または組織の凍結保存については、様々な方法で、様々な種類の細胞または組織を用いた例が示されている。例えば、特許文献3では、動物、ヒトの生殖細胞または体細胞へのガラス化凍結法の適用が、極めて有用であることが示されている。非特許文献1では、ショウジョウバエの胚の保存に、ガラス化凍結法が有効であることが示されている。さらに特許文献4では、植物培養細胞や組織の保存において、ガラス化凍結法が有効であることが示されている。
しかしながら、ガラス化液に含まれる高濃度の耐凍剤には化学的毒性がある。このため細胞または組織の凍結保存時には、細胞または組織の周囲に存在するガラス化液は少ない方が望ましく、細胞が保存液に暴露される時間、つまり凍結までの時間が短時間であることが望ましい。さらには、解凍後ただちに保存液を希釈する必要がある。
特許文献5、特許文献6には、短冊状の可撓性かつ無色透明なフィルムを卵付着保持用ストリップとして有する凍結保存用治具が記載されている。かかる文献では該ストリップの幅を制限することにより、細胞または組織の周囲に存在するガラス化液量を低減している。
特許文献7には、金網、紙などの天然物や、合成樹脂からなるフィルム状物で貫通孔を有した保存液除去材を有する凍結保存用治具が記載される。かかる文献において卵子または胚は、ガラス化液と共に保存液除去材上に載置され、卵子または胚の周囲に付着した余分なガラス化液は、保存液除去材の下部から吸引することで取り除かれる。また余分なガラス化液を下部から吸引せずとも取り除くことが可能で、細胞を載置する際の作業性が改善された凍結保存用治具として、特許文献8には特定のヘーズ値を有する保存液吸収体を利用した凍結保存用治具が記載される。特許文献9、特許文献10、特許文献11には、多孔質焼結形成体や、多孔質金属体、特定の屈折率を有する素材で形成された多孔質構造体を保存液吸収体として有する凍結保存用治具がそれぞれ記載されている。
また、余分なガラス化液を吸収除去した際に、載置部に載置された細胞又は組織が保存液吸収体に固着し、融解時において細胞または組織の回収が難しくなるとの問題に対し、特許文献12には、載置部の最表面に水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を有する凍結保存用治具が記載される。
特開平9−122158号公報 特開2005−261413号公報 特許第3044323号公報 特開2008−5846号公報 特開2002−315573号公報 特開2006−271395号公報 国際公開第2011/070973号パンフレット 特開2014−183757号公報 特開2015−142523号公報 特開2015−188404号公報 国際公開第2015/064380号パンフレット 特開2017−60457号公報
Steponkus et al.,Nature 345:170−172(1990)
特許文献7〜11では、余分なガラス化液を吸引操作によって取り除く、あるいは保存液吸収体自身がガラス化液を吸収して取り除くことにより、優れた生存率で細胞又は組織を凍結保存する凍結保存用治具が提案されている。しかしながら、多孔性樹脂、多孔質焼結形成体、多孔質金属体、紙、不織布など、構造中に空隙を有する多孔性のガラス化液吸収体を載置部に用いた場合、空隙中に入り込んだ液体窒素が、融解操作(融解液中に載置部を浸漬し、更に載置部を揺するなどして細胞または組織を載置部から剥離する操作)時に気化して微細な気泡が発生する場合があった。更にこの融解操作時に載置部の厚みが大きいと、前記した気泡よりも比較的大きい気泡が発生し、該気泡が細胞または組織の視認性を著しく阻害する場合があった。加えて、気泡の発生に伴い融解液中で細胞または組織が意図しない形で早期に剥離し、細胞または組織をロストしてしまうなどの問題があった。
特許文献12では、水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を保存液吸収体表面に設けている。該技術により、細胞または組織の剥離性が高まるとともに液体窒素の保存液吸収体への入り込みは抑制されるものの、融解操作時における細胞または組織の視認性や、回収性を高めるまでには至らなかった。
しかるに本発明は、凍結操作時には余分な保存液を吸収する機能を有する凍結保存用治具であって、融解操作時には気泡の発生が少なく、細胞または組織の視認性を著しく阻害しないことに加えて、該気泡の影響で細胞または組織をロストしない、つまりは融解操作の際に細胞または組織を確実に回収することが可能な凍結保存用治具を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する凍結保存用治具によって、上記課題を解決できることを見出した。
細胞または組織を載置する載置部を少なくとも有する凍結保存用治具であって、該載置部は多孔性の保存液吸収体と、該保存液吸収体上に水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を少なくとも有し、かつ載置部の総厚みが200μm以下であることを特徴とする凍結保存用治具。
上記の発明によれば、融解操作の際に細胞または組織の視認性を著しく阻害することなく、また細胞または組織を確実に回収することが可能な凍結保存用治具を提供することができる。
本発明の凍結保存用治具の一例を示す全体図である。 本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の一例である。 本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の別の一例である。 本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例である。 本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例である。 本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例である。
本発明の凍結保存用治具は、細胞または組織を凍結保存する際に用いられるものである。かかる凍結保存のプロトコルとしては、前記した緩慢凍結法や、ガラス化凍結法を挙げることができるが、特にガラス化凍結法に好適である。本発明の凍結保存用治具を用いると、細胞または組織の凍結保存にかかる作業を、容易かつ安全、確実に行うことができる。
本願明細書中で、細胞とは、単一の細胞のみならず、複数の細胞からなる生物の細胞集団を含むものである。複数の細胞からなる細胞集団とは、単一の種類の細胞から構成される細胞集団でも良いし、複数の種類の細胞から構成される細胞集団でも良い。また、本願明細書中で、組織とは、単一の種類の細胞から構成される組織でも良いし、複数の種類の細胞から構成される組織でも良く、細胞以外に細胞外マトリックスのような非細胞性の物質を含むものでも良い。
以下に、本発明の凍結保存用治具の構成を説明する。
本発明の凍結保存用治具は、細胞または組織を載置する載置部を有する。ここで、細胞または組織を載置する載置部とは、細胞または組織が保存液と共に載置される部分に相当する箇所である。
本発明において、細胞または組織を載置する載置部は、保存液吸収体を有する。また後述するように載置部は保存液吸収体と該保存液吸収体の自立を支える支持体との組み合わせにより構成されることが好ましい。
上記した保存液吸収体としては、繊維からなるシート、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シート等が例示される。また保存液吸収体は、これらを組み合わせた積層体であっても良い。
繊維からなるシートとしては、紙または不織布が例示される。紙はバインダーなどの結着剤成分の紙全体に占める割合が10質量%以下である紙が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に3質量%以下である紙が好ましい。これにより良好な保存液の吸収性が得られる。また該紙に含まれる製紙用薬品の紙全体に占める割合は1質量%以下であることが好ましい。通常、紙に含まれている製紙用薬品のうち、例えば蛍光増白剤や染料、カチオン系のサイズ剤などは、細胞や組織への悪影響が懸念される。
繊維からなるシートが紙である場合、密度が0.1〜0.6g/cmであり、坪量が10〜130g/mの紙であることが好ましい。特に密度が0.12〜0.3g/cmであり、坪量が10〜100g/mである紙を保存液吸収体として用いると、余分な保存液の吸収性に優れ、さらには、透過型顕微鏡を用いて、載置した細胞または組織を観察可能な、細胞または組織の視認性に優れた凍結保存用治具を提供することが可能となるため好ましい。
繊維からなるシートが不織布である場合、該不織布が含有する繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維からなる再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、さらにはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、絹繊維などが挙げられ、これら繊維を各種混合した不織布も用いることができる。中でもセルロース繊維、セルロース繊維由来の繊維でセルロース再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、更にはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維が好ましい。
繊維からなるシートが不織布である場合、密度が0.1〜0.4g/cmであり、坪量が10〜130g/mの不織布であることが好ましい。特に、密度が0.12〜0.3g/cmであり、坪量が10〜100g/mである不織布を保存液吸収体として用いると、余分な保存液の吸収性に優れ、さらには、細胞または組織の視認性に優れた凍結保存用治具を提供することが可能となるため好ましい。
不織布においても、前記した紙と同様に、バインダーなどの結着剤成分の不織布に占める割合が10質量%以下である不織布が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に3質量%以下である不織布が好ましい。特に、結着剤を含有しない不織布が好ましい。
不織布は紙と異なり様々な製造方法があるが、上記した結着剤成分が低減された不織布としては、スパンボンド法、メルトブロー法で製造された不織布、更には湿式法または乾式法で繊維を並べた後、水流交絡法またはニードルパンチ法で製造された不織布が好適に使用できる。また、上記したとおり、本発明において不織布が含有する好ましい繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維由来の繊維でセルロース再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、さらにはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維が挙げられるが、これらの繊維を用いて不織布を製造する場合は、湿式法、乾式法に関わらず水流交絡法またはニードルパンチ法での製造が好適である。
次に、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートについて説明する。これら各種シートにおける「多孔性」とは、上記したシートが表面に気孔(細孔)を有する構造体であることを意味し、シート表面および内部に連続的な気孔を有する構造体であることがより好ましい。
多孔性樹脂シートとしては、例えば特公昭42−13560号公報や、特開平08−283447号公報に記載される、少なくとも一軸方向に延伸し、樹脂の融点以上に加熱、焼結することで得た微細繊維状構造により多孔質構造を形成した樹脂シート、特開2009−235417号公報に記載される、乳化重合または粉砕などの方法によって得られた熱可塑性樹脂の固体粉末を金型に充填し、加熱、焼結して粉末粒子表面を融着させて冷却することにより、多孔質構造を形成した樹脂シートなどが挙げられる。
多孔性樹脂シートを形成する樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの各種ポリエチレンやポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニルジフロライドなどのフッ素樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル三元共重合体、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。中でもポリテトラフルオロエチレンやポリビニリデンジフロライドなどのフッ素樹脂の多孔性樹脂シートは、細胞または組織を保存液と共に載置部に載置した際、透過顕微鏡観察下での細胞または組織の視認性が飛躍的に高まるため好適である。また多孔性樹脂シートとしては、理化学実験用途や研究用途として市販されている濾過用のメンブレンフィルターも使用できる。
多孔性金属シートとしては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、錫、亜鉛、鉛、チタン、ニッケル、ステンレスなどの金属からなる多孔性金属シートが挙げられる。多孔性金属酸化物シートとしては、シリカ、アルミナ、ジルコニウムなどの金属の酸化物からなる多孔性金属酸化物シートを好ましく利用することができる。また、多孔性金属シートおよび多孔性金属酸化物シートは、上記した金属および金属酸化物をそれぞれ2種類以上含有する多孔性シートであっても良い。
上記した多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートの製造方法としては、一般に知られた方法を使用することができる。保存液吸収体が多孔性金属シートの場合には、粉末冶金法、スペーサー法などの方法を使用することができる。また、樹脂射出成型と粉末冶金法を組み合わせた所謂パウダースペースホルダー法も好ましく使用できる。例えば、国際公開第2006/041118号パンフレットや、特許第4578062号公報に記載された方法などを用いることができる。より具体的には、金属粉末とスペーサーとなる樹脂を混合後、圧力をかけて成型した後、高温環境下で焼成することで、金属粉末を焼き固め、スペーサーとなる樹脂を気化させて、多孔性金属シートを得ることができる。パウダースペースホルダー法などを用いる場合には、金属粉末とスペーサーとなる樹脂に加えて、樹脂のバインダーを混合することができる。また、金属粉末を高温で加熱した後に、ガスを注入して空隙を作製する発泡溶融法、ガス膨張法などの金属多孔体の製造方法も使用することができる。さらには、発泡剤を用いて金属多孔体を製造するスラリー発泡法のような製造方法も使用することができる。保存液吸収体が多孔性金属酸化物シートの場合には、例えば、特開2009−29692号公報や特開2002−160930号公報に記載された方法などを用いることができる。
本発明において、保存液吸収体の厚みは10〜180μmであることが好ましく、より好ましくは20〜100μmである。保存液吸収体の厚みが10μmに満たない場合、ガラス化液の吸収性が不足する場合がある。また保存液吸収体の厚みが180μmを超えると、気泡が多く発生し、細胞または組織の視認性が低下する場合がある。
保存液吸収体が、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの多孔体である場合には、該多孔体の細孔径は、0.02〜20μmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜5μmである。細孔径が0.02μm未満の場合、保存液の吸収性能が十分でない場合がある。また、多孔性シートの製造が難しいという問題がある。一方、細孔径が20μmを超える場合、保存液吸収体の十分な吸収能が得られない場合がある。また、多孔体の細孔径が大きくなるほど、孔内に取り込まれる液体窒素が気化した際に、細胞又は組織の視認性を低下させるおそれがある。なお、本発明における多孔体の細孔径は、多孔性樹脂シートの場合には、バブルポイント試験により測定される最も大きい細孔の直径である。多孔性金属シートおよび多孔性金属酸化物シートの場合には、該多孔体の表面および断面の画像観察から測定した平均細孔直径である。
本発明において、保存液吸収体の空隙率は、20容量%以上であることが好ましく、より好ましくは30容量%以上である。また、保存液吸収体が、上記した多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの多孔体である場合、多孔体の内部の気孔は、厚み方向のみならず、厚み方向に対して垂直な方向に対しても連続的な構造であることが好ましい。このような構造を有すると、多孔体内部の気孔を有効に用いることができるために、保存液の高い吸収性能が得られる。保存液吸収体の厚み、多孔体の空隙率は、用いる細胞または組織の種類や細胞または組織と共に滴下される保存液の滴下量などに応じて、適宜選択することができる。
上記した空隙率は、以下の式で定義される。ここで空隙容量Vは水銀ポロシメーター(測定器名称 Autopore II 9220 製造者 micromeritics instrument corporation)を用い測定・処理された、保存液吸収体における細孔半径3nmから400nmまでの累積細孔容積(ml/g)に、保存液吸収体の乾燥固形分量(g/平方メートル)を乗ずることで、単位面積(平方メートル)当たりの数値として求めることができる。
P=(V/T)×100(%)
P:空隙率(%)
V:空隙容量(ml/m
T:厚み(μm)
本発明では、前述した保存液吸収体の自立を支える目的で、載置部が支持体を有することが好ましい。この場合、載置部は支持体上に保存液吸収体と、該保存液吸収体上に水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を少なくともこの順に有する。保存液吸収体と支持体とを組み合わせることで、より高強度な細胞または組織の載置部を得ることができる。支持体としては、各種樹脂シート、金属シート、板ガラス、ゴムシート等の非吸収性支持体が例示される。
樹脂シートとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどの各種ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニルジフロライドなどのフッ素樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル三元共重合体、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどが例示される。樹脂シートを載置部として用いる場合には、透過型顕微鏡下での視認性がより良好な、JIS K 7361−1:1997に従う全光線透過率が60%以上の樹脂シートを使用することが好ましい。
金属シートを形成する金属としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、錫、亜鉛、鉛、チタン、ニッケル、ステンレスなどが例示される。また金属シートは、複数の孔を有していてもよく、あるいは金網であってもよい。
板ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、アクリルガラス、カルコゲン化物ガラス、金属ガラス、有機ガラスなどが例示される。
ゴムシートとしては、天然ゴムのシートや、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどの合成ゴムのシートが例示される。
本発明の凍結保存用治具において、細胞または組織の載置部が支持体を有する場合には、細胞または組織の載置部と支持体との間に、接着層を有することが好ましい。接着層としては、湿気硬化性の接着物質に代表されるような瞬間接着組成物、ホットメルト接着組成物、光硬化性接着組成物などを含有することが可能であるが、ポリビニルアルコール、ヒドロキシセルロース、ポリビニルピロリドン、澱粉糊などの水溶性高分子化合物が好適である。その他としては酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エラストマー系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ユリア系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、オレフィン系樹脂、EVA系樹脂などの非水溶性樹脂を含有する組成物が例示される。接着層は、一種類の樹脂を含有してもよいし、複数種類の樹脂を含有してもよい。接着層の固形分量は、0.01〜100g/mの範囲が好ましく、更に0.1〜50g/mの範囲がより好ましい。
上記した接着層は、凍結保存用治具における細胞または組織を載置する箇所以外の場所に設けることが好ましい。接着層が細胞または組織を載置する箇所にある場合、接着層が保存液吸収体の孔内に侵入、硬化することで、保存液吸収体の吸収能が低下する場合がある。
本発明の凍結保存用治具が有する載置部の面積は、細胞または組織と共に滴下される保存液の滴下量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、滴下する保存液1μlにつき1mm以上とすることが好ましく、2〜400mmとすることがより好ましい。
本発明の凍結保存用治具において、細胞または組織を載置する載置部の最表面は、水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を有する。本発明の凍結保存用治具は、上記した通り、凍結操作時に、細胞または組織を保存液と共に凍結保存用治具の載置部に載置した後に、冷媒(例えば液体窒素)に浸漬、凍結し、融解時には、凍結した細胞または組織を凍結保存用治具と共に取り出し、融解液中に浸漬して融解するものである。可溶性層が載置部の最表面に存在する場合、細胞または組織を融解する際に、該可溶性層の全部または一部が融解液中に溶解することで、細胞または組織の剥離性が相乗的に向上する。また、可溶性層によって、保存液吸収体の空隙中に入り込む液体窒素量が減少し、融解時の気泡を減少させることができる。
可溶性層が含有する水溶性高分子化合物としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、デンプンおよびその誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸およびその塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩などが挙げられる。中でも、アルギン酸およびその塩やゼラチンは、保存液に対する溶解性と適度な被膜形成作用が得られることから好ましく、ポリビニルアルコールは、非生物由来素材であり、かつ細胞または組織に対しても低毒性であるため、特に好ましい。これらの水溶性高分子化合物は、単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、可溶性層は、融解液に対する溶解度が10質量%を下回らない範囲で、架橋剤を含有することができる。
本発明において、可溶性層は保存液吸収体が有する細孔を閉塞することなく設けることが好ましい。したがって可溶性層は保存液吸収体上に均一な層として存在するよりも、保存液吸収体が有する細孔表面に可溶性層を有することが好ましい。
本発明において、可溶性層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量は、0.01〜100g/mであることが好ましく、より好ましくは0.1〜10g/mである。可溶性層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量が少なすぎる場合は、融解作業時に溶出する水溶性高分子化合物の量が少なすぎて、良好な細胞または組織の剥離性が得られない場合があり、他方、可溶性層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量が多すぎる場合には、保存液吸収体の吸収性が低下する。
本発明の凍結保存用治具を用いて細胞または組織を長期凍結保存する場合、細胞または組織を外界と遮断するために凍結保存用治具にキャップを被せる、または、該凍結保存用治具を任意の形状の容器に入れて密閉することが可能である。液体窒素が滅菌されておらず、細胞または組織を直接液体窒素に接触させて凍結させる場合は、凍結保存用治具が滅菌されていても滅菌状態を保証できない場合がある。よって、凍結前に細胞または組織を付着させた載置部にキャップをする、または凍結保存用治具を容器中に密閉することにより、細胞または組織を直接液体窒素に接触させずに凍結させることがある。上記理由から、キャップおよび容器は耐液体窒素性のある素材である各種金属、各種樹脂、ガラス、セラミックなどで作製することが好ましい。形状としては特に限定されず、例えば、キャップは、鉛筆用のキャップのような半紡錘状またはドーム状などのキャップ、円柱状のストローキャップなど、凍結保存用治具の載置部と接触せず、細胞または組織を外界と遮断できるような形状ならどのような形状でもよい。容器は、載置された細胞または組織に接触せずに、凍結保存用治具を被包または収納して密閉できるものであればよく、その形状は特に限定されない。
本発明の凍結保存用治具は、本発明の効果を損なわない限り、凍結保存用治具を上記したようなキャップ、容器と組み合わせて使用することができる。また、このような、キャップまたは容器と組み合わせて使用される形態の凍結保存用治具も、本発明に包含される。
本発明は、例えば、クライオトップ(登録商標)法において好適に用いられるものである。また、従来のクライオトップ法は、通常、単一の細胞または10個未満の少数の細胞の保存に用いられるが、本発明は、より多くの細胞の保存(例えば、10〜1000000個の細胞の保存)においても好適に用いることができる。本発明を用いると、細胞または組織の凍結保存作業において、細胞または組織を凍結後に融解する際に、細胞または組織を容易に、安定して剥離、回収することができる。
本発明の凍結保存用治具を用いて細胞または組織を凍結保存する手順は特に限定されない。例を以下に示す。まず、保存液に浸漬した細胞または組織を、保存液と共に載置部上に滴下する。該細胞または該組織の周囲には余分な保存液が付着しているが、凍結保存用治具載置部の保存液吸収体により、自動的に除かれる。次いで、前記細胞または組織を載置部に保持させたまま液体窒素などの中に浸漬することにより、細胞または組織を凍結する。この時、前記した載置部上の細胞または組織を外界と遮断することができるキャップを載置部に装着、または凍結保存用治具を前記した容器に密閉して、液体窒素などの中に浸漬することもできる。保存液は、通常卵子、胚などの細胞の凍結のために使用されるものを使用することができ、例えば、上述したリン酸緩衝生理食塩水などの生理的溶液に耐凍剤(グリセロール、エチレングリコールなど)を含有させることで得られた保存液や、グリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの各種耐凍剤を多量に(少なくとも保存液の全質量に対して10質量%以上、より好ましくは20質量%以上)含む保存液を使用できる。融解作業の際は、液体窒素などの冷却溶媒中から、該凍結保存用治具を取り出し、凍結された細胞または組織を載せた載置部を融解液中に浸漬させ、また載置部を融解液中で揺するなどして細胞または組織を回収する。
本発明の凍結保存用治具を用いて凍結保存することができる細胞として、例えば、哺乳類(例えば、人(ヒト)、牛、豚、馬、ウサギ、ラット、マウスなど)の卵子、胚、精子などの生殖細胞;人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞が挙げられる。また、初代培養細胞、継代培養細胞、および細胞株細胞などの培養細胞が挙げられる。また細胞は、一または複数の実施形態において、線維芽細胞、膵ガン・肝ガン細胞などのガン由来細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、組織幹細胞、および免疫細胞などの接着性細胞が挙げられる。さらに、凍結保存することができる組織として、同種または異種の細胞からなる組織、例えば、卵巣、皮膚、角膜上皮、歯根膜、心筋などの組織が挙げられる。本発明の凍結保存用治具は、特にシート状構造を有する組織(例えば、細胞シート、皮膚組織など)の凍結保存に好適である。本発明の凍結保存用治具は、直接生体から採取した組織だけでなく、例えば、生体外で培養し増殖させた培養皮膚、生体外で構築したいわゆる細胞シート、特開2012−205516号公報で提案されている三次元構造を有する組織モデルのような、人工の組織の凍結保存についても好適に用いることができる。本発明は、上記のような細胞または組織の凍結保存方法において好適に用いられる。
本発明の凍結保存用治具は、前記した細胞または組織を載置する載置部と共に把持部を有していても良い。把持部を有すると、凍結保存作業時および融解作業時の作業性が良好になるため好ましい。
図1は、本発明の凍結保存用治具の一例を示す全体図である。図1において凍結保存用治具7は把持部1を有し、該把持部1には、細胞または組織を載置する載置部2が接続されている。
把持部1は、耐液体窒素素材であることが好ましい。このような素材としては、例えばアルミ、鉄、銅、ステンレス合金などの各種金属、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素系樹脂や各種エンジニアプラスチック、更にはガラスなどを好適に用いることができる。図1中、把持部1は円柱形であるが、その形状は任意である。また、後述するように、細胞または組織を直接液体窒素に接触させないことを目的に、凍結前に細胞または組織を付着させた載置部2にキャップを被せることがあるが、この場合、把持部1を、載置部2を有さない側から、載置部2を有する側に向かって、円柱の径が連続的に小さくなる形状(テーパー状)とすることで、キャップを被せる際の作業性を向上させることも可能である。載置部2の形状は、ハンドリング上、短冊状またはシート状であることが好ましい。
図1の把持部1と載置部2の接続方法について説明する。把持部1が樹脂の場合、例えば、成形加工する時にインサート成形により載置部2を把持部1に接続することができる。更に、把持部1に図示しない構造体挿入部を作製し、接着剤にて載置部2を接続することができる。接着剤としては様々なものが使用できるが、低温に強いシリコン系やフッ素系の接着剤を好適に用いることができる。
図2は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の一例であり、詳細には、保存液吸収体4上に可溶性層6を有する載置部2aの断面構造の概略を示したものである。なお可溶性層6は前述の通り、保存液吸収体が有する細孔表面に存在することが好ましいが、図2および後述する図3〜図6では便宜上、保存液吸収体4上に存在する均一な層として示した。かかる構造を有する載置部2aを得るためには、例えば前記した多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの保存液吸収体4上に、水溶性高分子化合物を含有する塗布液を塗布することで可溶性層6を形成する方法を例示することができる。
図3は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図の別の一例であり、詳細には、保存液吸収体として保存液吸収体4aと保存液吸収体4bの積層体を有し、該保存液吸収体4a上に可溶性層6を有する載置部2bを示したものである。かかる構造を有する載置部2bを得るためには、例えば前記した多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シートなどの保存液吸収体の積層体(保存液吸収体4aと保存液吸収体4bを有する積層体)を準備し、該積層体の表面に水溶性高分子化合物を含有する塗布液を塗布することで可溶性層6を形成する方法を例示することができる。
図4は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例であり、詳細には、支持体3上に保存液吸収体4を有し、該保存液吸収体4上に可溶性層6を有する載置部2cを示した図である。かかる構造を有する載置部2cを得るためには、例えば支持体3上に、前記した繊維からなるシート、多孔性樹脂シート、多孔性金属シート、および多孔性金属酸化物シート等の保存液吸収体4を配置し、該保存液吸収体4上に水溶性高分子化合物を含有する塗布液を塗布することで可溶性層6を形成する方法を例示することができる。
図5は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例であり、詳細には、支持体3上に接着層5を介して、保存液吸収体4を積層し、該保存液吸収体4上に可溶性層6を有する載置部2dの断面構造を示した図である。かかる構造を有する載置部2dを得るためには、例えばホットメルト樹脂接着剤をメルターで溶融させ、支持体3上に吐出して接着層5を形成し、保存液吸収体4を接着層5上に貼合したのちに、水溶性高分子化合物を含有する塗布液を保存液吸収体4上に塗布することで可溶性層6を形成する方法を例示することができる。
図6は、本発明の凍結保存用治具における載置部の断面構造概略図のまた別の一例であり、詳細には、支持体3上に接着層5を介して保存液吸収体4を有するが、細胞又は組織を載置する箇所以外に接着層を設けた載置部2eの断面構造を示した図である。かかる構造を有する載置部2eを得るためには、例えばホットメルト樹脂接着剤をメルターで溶融させ、細胞または組織を載置する箇所にマスキングテープを貼ってマスキングを施した支持体3に接着剤を付与して接着層5を形成し、その後、マスキングテープを除去した後に、保存液吸収体4を貼合し、該保存液吸収体4上に水溶性高分子化合物を含有する塗布液を塗布することで可溶性層6を形成する方法を例示することができる。
本発明の凍結保存用治具が有する載置部の総厚みは200μm以下である。該総厚みが200μmを超えると、細胞または組織の視認性が十分でなく、また細胞または組織を回収することが困難となる。また、載置部の総厚みは20μm以上であることが好ましい。該総厚みが20μm未満であると、載置部の自立性が不十分となり、作業性が悪くなることがある。かかる厚みはデジタルマイクロメーターを用いて測定することができ、例えば(株)ニコンより市販されるデジタルマイクロメーターDIGIMICRO(登録商標)MFC−101Aにより測定することができる。なお本発明では、支持体上に接着層5を介して保存液吸収体4を積層するにあたり、接着層5は細胞または組織を載置する箇所以外の部分に設けることが好ましく、これによりガラス化液の良好な吸収性が得られる。このような場合、載置部の厚みは接着層が存在する箇所と存在しない箇所で異なることになるが、本発明における載置部の総厚みは、載置部の厚みが最も大きい箇所で測定するものとする。
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラー(登録商標)T60(厚み125μm、全光線透過率89%)に、(株)寺岡製作所製のマスキングテープ(厚み55μm)を用いて、凍結保存用治具の細胞または組織を載置する箇所に相当する部分にマスキングを施し、マスキング後のポリエチレンテレフタレートフィルムに、接着層として、ヘンケルジャパン(株)製のホットメルトウレタン樹脂Purmelt(登録商標)QR 170−7141Pを、乾燥時の固形分量が10g/mとなるように塗布した。接着層塗布後、マスキングテープを剥離し、接着層が硬化する前に、アドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)を貼り合わせた。得られたポリエチレンテレフタレートフィルム−ポリテトラフルオロエチレン多孔体貼合体を室温で24時間エイジングし、接着層の硬化を促した。接着層硬化後、該貼合体に日本合成化学工業(株)製のエチレンオキサイド基変性PVAゴーセネックス(登録商標)WO−320R(ケン化度88.3mol%)の2質量%水溶液をディップコーティングし、室温で1時間乾燥させた後に120℃の乾燥機中で40時間追加加温した。得られたコーティング後の貼合体を、短辺1.5mm×長辺25.0mmの長方形に裁断し、ABS樹脂製の把持部と接合させ、図6同様の形態で、実施例1の凍結保存用治具を作製した。なお、実施例1の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚み(接着層を有する箇所の総厚み)を(株)ニコン製のデジタルマイクロメーターDIGIMICRO MFC−101Aで測定したところ該厚みは170μmであった。
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラーT60(厚み100μm、全光線透過率89%)を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の凍結保存用治具を作製した。実施例2の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは145μmであった。
(実施例3)
実施例1において、アドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)に代わり、住友電工ファインポリマー(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体ポアフロン(登録商標)メンブレン(細孔径0.2μm、厚み30μm)を貼り合わせた以外は実施例1と同様にして、実施例3の凍結保存用治具を作製した。実施例3の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは165μmであった。
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラーT60(厚み100μm、全光線透過率89%)を用いる以外は実施例3と同様にして、実施例4の凍結保存用治具を作製した。実施例4の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは140μmであった。
(実施例5)
実施例1において、アドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)に代わり、(有)ウィンテックが取り扱うポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率80%、厚み65μm)を貼り合わせた以外は実施例1と同様にして、実施例5の凍結保存用治具を作製した。実施例5の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは200μmであった。
(実施例6)
ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラーT60(厚み100μm、全光線透過率89%)を用いる以外は実施例5と同様にして、実施例6の凍結保存用治具を作製した。実施例6の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは175μmであった。
(実施例7)
実施例2において、アドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)に代わり、(有)ウィンテックが取り扱うポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径1μm、空隙率80%、厚み85μm)を貼り合わせた以外は実施例2と同様にして、実施例7の凍結保存用治具を作製した。実施例7の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは195μmであった。
(比較例1)
実施例1において、アドバンテック東洋(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率71%、厚み35μm)に代わり、(有)ウィンテックが取り扱うポリテトラフルオロエチレン多孔体(細孔径0.2μm、空隙率80%、厚み85μm)を貼り合わせた以外は実施例1と同様にして、比較例1の凍結保存用治具を作製した。比較例1の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは220μmであった。
(比較例2)
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラーT60(厚み125μm、全光線透過率89%)に代わり、東レ(株)製のルミラーT60(厚み188μm、全光線透過率89%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例2の凍結保存用治具を作製した。比較例2の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは233μmであった。
(比較例3)
ポリテトラフルオロエチレン多孔体として、住友電工ファインポリマー(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体ポアフロンメンブレン(細孔径0.2μm、厚み30μm)を使用する以外は、比較例2と同様にして、比較例3の凍結保存用治具を作製した。比較例3の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは228μmであった。
(比較例4)
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、東レ(株)製のルミラーT60(厚み125μm、全光線透過率89%)に代わり、東レ(株)製のルミラーT60(厚み250μm、全光線透過率84%)を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例4の凍結保存用治具を作製した。比較例4の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは295μmであった。
(比較例5)
ポリテトラフルオロエチレン多孔体として、住友電工ファインポリマー(株)製のポリテトラフルオロエチレン多孔体ポアフロンメンブレン(細孔径0.2μm、厚み30μm)を使用する以外は、比較例4と同様にして、比較例5の凍結保存用治具を作製した。比較例5の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは290μmであった。
(比較例6)
実施例1において、可溶性層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の凍結保存用治具を作製した。比較例6の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは170μmであった。
(比較例7)
実施例3において、可溶性層を設けなかったこと以外は実施例3と同様にして、比較例7の凍結保存用治具を作製した。比較例7の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは165μmであった。
(比較例8)
実施例5において、可溶性層を設けなかったこと以外は実施例5と同様にして、比較例8の凍結保存用治具を作製した。比較例8の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは200μmであった。
(比較例9)
実施例7において、可溶性層を設けなかったこと以外は実施例7と同様にして、比較例9の凍結保存用治具を作製した。比較例9の凍結保存用治具において、上記により形成した細胞または組織の載置部の総厚みを実施例1と同様にして測定したところ、該厚みは195μmであった。
<マウス卵子の凍結操作>
直径が100μmのマウス卵子に、Irvine Scientific社製Vit Kit平衡液、およびガラス化液を用いて推奨プロトコルに従い耐凍処理を施し、実体顕微鏡観察下で、上記した実施例1〜7、および比較例1〜9の凍結保存用治具の載置部上であって接着層を有さない位置に耐凍処理後のマウス卵子を、少量のガラス化液と共にピペットで載置した。その後、液体窒素中に凍結保存用治具を浸漬してガラス化凍結させた。凍結後の凍結保存用治具は、液体窒素保存容器中で保管した。
<マウス卵子の融解作業と評価>
マウス卵子が凍結された凍結保存用治具を液体窒素中から取り出し、温度37℃のIrvine Scientific社製Vit Kit融解液に浸漬させた。融解液中で、載置部上のマウス卵子の様子を実体顕微鏡で観察し、その視認性と回収性を評価した。視認性は、融解操作時にマウス卵子が気泡の影響を受けずに明瞭に観察できるか否かを、以下の基準のとおり評価した。回収性は、マウス卵子を凍結保存用治具の載置部から回収する際に、載置部表面の気泡の影響を受けずに、マウス卵子が問題なく回収できるかを以下の基準に従い評価した。この結果を表1に示す。
<視認性>
◎:融解液中で、載置部上に発生した気泡による視認阻害がほとんどなく、マウス卵子の様子が明瞭に観察できた。
○:融解液中で、載置部上に発生した気泡による視認阻害が若干あったものの、マウス卵子の様子が問題なく観察できた。
△:融解液中で、載置部上に発生した気泡による視認阻害があり、マウス卵子の様子が観察しにくかったが、凍結保存用治具を軽く揺する、ピペットで気泡を取り除くなどの操作により、気泡を除去することができ、マウス卵子の様子を観察できた。
×:融解液中で、載置部上に発生した気泡による視認阻害の影響で、マウス卵子の様子が観察できない例があった。
<回収性>
○:融解液中で、載置部上に発生した気泡に阻害されることなく、マウス卵子が問題なく回収できた。
△:融解液中で、載置部上に発生した気泡の影響により、マウス卵子が回収しにくい場合があったが、凍結保存用治具を軽く揺する、ピペットで気泡を取り除くなどの操作により、気泡を除去することで、マウス卵子を回収することができた。
×:融解液中で、載置部上に発生した気泡の影響により、意図しない形でマウス卵子が早期に剥離し、ロストしてしまう場合があった。
表1の結果から、本発明の凍結保存用治具は、融解操作の際に細胞または組織の視認を著しく阻害することなく、また細胞または組織を確実に回収することが可能な凍結保存用治具であることがわかる。
本発明は、牛などの家畜や動物の胚移植や人工授精、人への人工授精などの他、iPS細胞、ES細胞、一般に用いられている培養細胞、生体から採取した検査用または移植用の細胞または組織、生体外で培養した細胞または組織などの凍結保存に用いることができる。
1 把持部
2 2a〜2e 載置部
3 支持体
4、4a、4b 保存液吸収体
5 接着層
6 可溶性層
7 凍結保存用治具

Claims (1)

  1. 細胞または組織を載置する載置部を少なくとも有する凍結保存用治具であって、該載置部は多孔性の保存液吸収体と、該保存液吸収体上に水溶性高分子化合物を含有する可溶性層を少なくとも有し、かつ載置部の総厚みが200μm以下であることを特徴とする凍結保存用治具。
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