以下、図面を用いて本実施の形態に係る車両用ポップアップフード装置30(以下、「車両用PUH装置30」と称する)について説明する。なお、図面において適宜示される矢印FRは車両用PUH装置30が適用された車両(自動車)Vの車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印RHは車両右方を示している。そして、以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下、車両左右方向(車幅方向)の左右を示すものとする。
図2に示されるように、車両用PUH装置30は、車両Vのフード10の後端部を持上げるリヤポップアップフード装置40(以下、「リヤPUH装置40」と称する)と、フード10の前端部を持上げるフロントポップアップフード装置80(以下、「フロントPUH装置80」と称する)と、を含んで構成されている。また、車両用PUH装置30は、リヤPUH装置40及びフロントPUH装置80を作動させる「制御部」としてのECU140を備えている。そして、車両Vと歩行者Pとの衝突時に、フード10が車両用PUH装置30によって持ち上がる(ポップアップする)ようになっている(図8参照)。以下、初めにフード10について説明し、次いでリヤPUH装置40、フロントPUH装置80、及びECU140について説明する。
フード10は、平面視で略矩形状に形成されて、車両Vの前部に設けられたエンジンルーム(パワーユニット室)ERを上側から覆っている。図7に示されるように、このフード10は、フードアウタパネル12とフードインナパネル14とを含んで構成されている。フードアウタパネル12は、フード10の車両外側(エンジンルームERとは反対側)部分を構成すると共に、車両Vの意匠面を構成している。フードインナパネル14は、フード10のエンジンルームER側の部分を構成している。そして、フードインナパネル14の端末部がヘミング加工によってフードアウタパネル12の端末部に結合されている(図3参照)。これにより、フードインナパネル14によってフードアウタパネル12が補強されている。
フード10の前端部における車幅方向中間部には、フードストライカ16が設けられており、フードストライカ16はフード10から下側へ突出されている。このフードストライカ16は、側面視で上側へ開放された略U字形状に形成されており、フードストライカ16の開放端部がフード10に接合されている。そして、フードストライカ16の下端部が係止部16Aとされており、係止部16Aは前後方向に延びている。また、フード10がエンジンルームERを閉じた状態(図7にて実線で示される位置であり、以下この位置を「閉止位置」という)では、フードストライカ16が、後述するフロントPUH装置80のフードロック装置82に係止されている。これにより、フード10の前端部が車体に固定されている。
また、図3に示されるように、フードインナパネル14の後端側(後部側)には、膨出部14Aが形成されている。膨出部14Aはフードインナパネル14に対して下側(エンジンルームER)側に膨出されており、膨出部14Aの底壁14A1が、側断面視でフードアウタパネル12と略平行に配置されている。
(リヤPUH装置40について)
図2に示されるように、リヤPUH装置40は、左右一対のポップアップ機構部42を主要部として構成されている。このポップアップ機構部42は、フード10の後端部における車幅方向両端部にそれぞれ配設されており、一対のポップアップ機構部42は左右対称に構成されている。このため、以下の説明では右側に配置されたポップアップ機構部42について説明し、左側に配置されたポップアップ機構部42についての説明は省略する。
図3及び図4に示されるように、ポップアップ機構部42は、フード10を開閉可能に支持するフードヒンジ44と、歩行者P等の衝突体との衝突時に作動する後側アクチュエータ60と、を含んで構成されている。
(フードヒンジ44について)
フードヒンジ44は、車体に固定されたヒンジベース46と、ヒンジベース46に回動可能に連結された第1アーム48と、フード10に固定された第2アーム54と、を含んで構成されている。
ヒンジベース46は、車両正面視で略逆L字形板状に形成されると共に、車幅方向内側から見た側面視で車両上斜め前方へ開放された略V字形状(詳しくは、図4参照)に形成されている。具体的には、ヒンジベース46は、上下方向を板厚方向にして配置された取付部46Aと、取付部46Aの車幅方向内側端部から上側へ延びる支持部46Bと、を含んで構成されている。そして、取付部46Aが、車体側構成部材であるカウルトップサイド20の上面部20Aに固定されている。なお、カウルトップサイド20は、フード10の後端側とウインドシールドガラスWGの下端部との間に車幅方向に沿って延在するカウルの両サイドに設けられている。
第1アーム48は、ヒンジベース46の車幅方向内側に配置されると共に、側面視で略逆三角形板状に形成されている。具体的には、第1アーム48は、側面視で、下端部48Aと、下端部48Aの前側且つ上側に配置された前端部48Bと、下端部48Aの後側且つ上側に配置された後端部48Cと、を頂点とした略逆三角形板状に形成されている。
また、第1アーム48の後端部48Cは、車幅方向を軸方向とした第1ヒンジピン50によってヒンジベース46の支持部46Bの上端部にヒンジ結合されている。これにより、第1アーム48は、第1ヒンジピン50を回動中心として上下方向(図3の矢印A方向及び矢印B方向)へ回動可能に構成されている。
さらに、第1アーム48の下端部48Aには、後述する後側アクチュエータ60の下端部を回動可能に支持する第1連結軸52が設けられている。第1連結軸52は、略円柱状に形成されて、車両幅方向を軸方向にして第1アーム48から車両幅方向内側へ突出されている。
第2アーム54は、第1アーム48の車幅方向内側に配置されると共に、略前後方向に沿って延在されている。具体的には、第2アーム54は、第1アーム48に対して略平行に配置された側壁部54Aを備えている。この側壁部54Aの前端部は、車幅方向を軸方向にした第2ヒンジピン56によって第1アーム48の前端部48Bにヒンジ結合されている。これにより、第2アーム54は、第2ヒンジピン56を回動中心として上下方向(図3の矢印C方向及び矢印D方向)に第1アーム48に対して相対回動可能に構成されている。
また、第2アーム54は頂壁部54Bを備えている。頂壁部54Bは、側壁部54Aの上端部から車幅方向内側へ折り曲げられて形成されると共に、フード10の膨出部14Aにおける底壁14A1に沿って略前後方向に延在されている。この頂壁部54Bには、図示しない取付孔が貫通形成されており、この取付孔に対応して、膨出部14Aの底壁14A1にウエルドナット(図示省略)が固定されている。そして、図示しないヒンジボルトが下側から当該取付孔内へ挿入されてウエルドナットに螺合されることで、頂壁部54Bがフード10に締結(固定)されている。
これにより、フード10の後端部が、フードヒンジ44によって車体に連結されている。また、第2アーム54の側壁部54Aには、車幅方向外側へ突出されたシェアピン58が設けられており、第2アーム54は、シェアピン58によって第1アーム48に結合されている。また、後述する後側アクチュエータ60の非作動状態では、第2アーム54の第1アーム48に対する相対回動が後側アクチュエータ60によって規制されている。このため、第2アーム54及び第1アーム48が第1ヒンジピン50を回動中心にして回動することで、フード10がエンジンルームERを開閉するようになっている。
さらに、第2アーム54における側壁部54Aの後端部には、後述する後側アクチュエータ60のピストンロッド70を連結するための第2連結軸59が一体に設けられている。この第2連結軸59は、略円柱状に形成されて、側壁部54Aから車幅方向内側へ突出されている。
(後側アクチュエータ60について)
図3に示されるように、後側アクチュエータ60は、第1アーム48の車幅方向内側に配置されて、第2アーム54の後端部と第1アーム48の下端部48Aとを架け渡すように延在されている。具体的には、後側アクチュエータ60が、側面視で上側へ向かうに従い後側へ傾斜されている。そして、後側アクチュエータ60は、シリンダ62と、シリンダ62の内部に収容されたピストンロッド70と、を有している。
シリンダ62は略円筒形状を成すパイプ材により構成されている。そして、シリンダ62の下端部が、取付ブラケット64を介して第1アーム48に連結されている。この取付ブラケット64は、側面視でシリンダ62の軸方向を長手方向とする略長尺状に形成されて、シリンダ62に固定されている。そして、取付ブラケット64の下端部が、第1アーム48の第1連結軸52に回動可能に支持されている。これにより、後側アクチュエータ60の下端部が第1アーム48に対して相対回動可能に構成されている。
シリンダ62の上端部には、略円筒形状のヘッド部66が嵌入されている。また、シリンダ62の下端部には、ガス発生装置68が設けられている。ガス発生装置68は、略円柱状に形成されて、シリンダ62の下端部を塞ぐようにシリンダ62内に嵌入されている。ガス発生装置68はスクイブ(点火装置)を備えており、ガス発生装置68内には、ガス発生剤が充填されている。また、ガス発生装置68は、後述するECU140と電気的に接続されており(図2参照)、ECU140の制御によってガス発生装置68が作動するように構成されている。そして、ガス発生装置68が作動すると、スクイブが発熱して、ガス発生剤が燃焼することで、ガス発生装置68によって発生したガスがシリンダ62内に供給されるようになっている。
ピストンロッド70は、シリンダ62内に収容されたピストン部72を有している。ピストン部72は、略円柱状に形成されると共に、シリンダ62と同軸上に配置されている。なお、ピストン部72とシリンダ62との間は、図示しないOリング等によってシールされている。
また、ピストンロッド70はロッド部74を有している。ロッド部74は、断面円形の棒状に形成されて、ピストン部72からシリンダ62の軸方向に沿って上側へ延出されている。さらに、ロッド部74はヘッド部66内を挿通しており、ロッド部74の上端部がシリンダ62に対して上側へ突出されている。ロッド部74の上端部には、ロッド連結部74Aが一体に設けられており、ロッド連結部74Aは、車幅方向を軸方向にした略円筒形状に形成されている。このロッド連結部74A内には、第2アーム54の第2連結軸59が挿入されており、これによりロッド部74の上端部が第2アーム54に対して相対回動可能に連結されている。
そして、ガス発生装置68によって発生したガスがシリンダ62内に供給されると、シリンダ62内のガス圧によってピストン部72(ピストンロッド70)がシリンダ62の軸方向に沿って上昇するようになっている。これにより、ピストンロッド70によって第2アーム54の後端部が上側へ持上げられて、フード10が持上位置(図7の2点鎖線で示される位置)に配置されるようになっている。なお、このときには、第2アーム54が第2ヒンジピン56を回動中心として第1アーム48に対して上側(図3の矢印C方向側)へ相対回動される。また、第2アーム54の回動に連動して、第1アーム48が第1ヒンジピン50を回動中心としてヒンジベース46に対して上側(図3の矢印A方向側)へ相対回動されるようになっている。
また、後側アクチュエータ60は、図示しないロック機構を有しており、後側アクチュエータ60が作動してピストンロッド70がフード10を持上位置に持上げたときには、ロック機構によってピストンロッド70の後退が規制されるようになっている。
(フロントPUH装置80について)
図2及び図5に示されるように、フロントPUH装置80は、フードロック装置82と、歩行者Pとの衝突時に作動する左右一対の「アクチュエータ」としての前側アクチュエータ110と、を含んで構成されている。
(フードロック装置82について)
フードロック装置82は、フード10の前端部における車幅方向中間部の下側に設けられている。図5に示されるように、フードロック装置82は、ロックベース84と、フードロック本体90と、固定プレート96と、を含んで構成されている。
図6に示されるように、ロックベース84は、前後方向を板厚方向とした略矩形板状に形成されると共に、図示しないラジエータサポートのアッパメンバに締結固定されている。ロックベース84の上部における車幅方向中央部には、正面視で上側へ開放された逃げ凹部84Aが形成されており、逃げ凹部84A内にフードストライカ16の係止部16Aが配置されている。また、ロックベース84の上部における右側部分には、後述するフードロック本体90を回動可能に支持する第1支持ピン86が設けられており、第1支持ピン86は、略円柱状に形成されて、前後方向を軸方向としてロックベース84から前側へ突出されている。また、ロックベース84の上部における左側部分には、ガイド孔84Bが形成されており、ガイド孔84Bは、上下方向に延びると共に、第1支持ピン86の中心を軸中心とした円弧状に湾曲されている。
フードロック本体90は、ロックベース84の前側に配置されると共に、正面視で略矩形状に形成されている。そして、フードロック本体90の右側端部が第1支持ピン86によって回動可能に支持されている。これにより、フードロック本体90が、第1支持ピン86を回動中心としてロックベース84に対して上下方向(図6の矢印E及び矢印F方向)に相対回動可能になっている。
また、フードロック本体90の左側端部には、ガイドピン92が設けられており、ガイドピン92は、円柱状に形成されると共に、前後方向を軸方向にしてフードロック本体90から後側へ突出されている。そして、ガイドピン92が、ロックベース84のガイド孔84B内にスライド可能に挿入されている。
さらに、フードロック本体90の上部には、ロックベース84の逃げ凹部84Aに対して前側の位置において、係止凹部90Aが形成されている。この係止凹部90Aは、上側へ開放された溝状に形成されており、係止凹部90Aの幅寸法が上側に向かうに従い大きくなるように設定されている。そして、フード10の閉止位置では、フードストライカ16の係止部16Aが係止凹部90Aの下端部内に配置されている。
また、フードロック本体90には、ラッチ94が設けられている。そして、係止凹部90Aの下端部内に配置された係止部16Aをラッチ94によって保持するようになっている。また、ラッチ94には、図示しないケーブルが接続されており、当該ケーブルが操作されることによって、ラッチ94による係止部16Aの保持状態が解除されるようになっている。
固定プレート96は、正面視で略扇形状に形成されて、フードロック本体90の前側に配置されている。固定プレート96は、その基端部において、前後方向を軸方向にした第2支持ピン98によってロックベース84に回動可能に連結されている。
また、固定プレート96の外周部における湾曲された部分が当接面96Aとされており、当接面96Aは、第2支持ピン98の中心を軸中心とする円弧状に形成されている。この当接面96Aは、フードロック本体90に設けられた円柱状の固定ピン100に当接されており、この状態では、フードロック本体90の上側(図6の矢印E方向側)への回動が規制されている。
また、固定プレート96には、ケーブル102の一端が係止されており、ケーブル102の他端は、後述する前側アクチュエータ110に係合されたリンク機構106(図5参照)に係止されている。そして、ケーブル102が左側へ引かれることで、固定プレート96が正面視で反時計回りに回動されて、固定プレート96の当接面96Aと固定ピン100との当接状態が解除されるようになっている。これにより、フードロック本体90が上側(図6の矢印E方向側)へ回動可能な状態になり、フード10の前端部における持上げが可能となるように構成されている。
なお、フードロック本体90には、図示しない逃げ部が形成されており、フードロック本体90が回動するときには、固定プレート96及び第2支持ピン98とフードロック本体90とが干渉しないようになっている。また、固定プレート96は、スプリング104によって正面視で時計回り方向へ付勢されている。
(前側アクチュエータ110について)
図5に示されるように、前側アクチュエータ110は、フードロック装置82に対して右側及び左側にそれぞれ設けられている。また、前側アクチュエータ110は、上下方向を軸方向とした略円柱状に形成されており、前側アクチュエータ110の下端部が、板状のブラケット108を介して、図示しないラジエータサポート(車体)に固定されている。そして、前側アクチュエータ110は、フード10の前端部における車幅方向両端部の下側に僅かに離間して配置されている。以下、前側アクチュエータ110の構成について説明する。
図1(A)及び(B)に示されるように、前側アクチュエータ110は、シリンダ112と、アクチュエータ本体120と、保持機構130と、を含んで構成されている。シリンダ112は下側へ開放された略有底円筒形状に形成されている。シリンダ112の下端部には、ヘッド部114が設けられており、ヘッド部114は、略円筒状に形成されて、シリンダ112の内周部に固定されている。ヘッド部114の内周部には、保持機構130を構成する収容溝132が形成されており、収容溝132は、ヘッド部114の周方向に沿って延びると共に、ヘッド部114の全周に亘って形成されている。また、収容溝132は、シリンダ112の径方向内側へ開放された断面略U字形状に形成されている。具体的には、収容溝132は、縦断面視でシリンダ112の軸方向(上下方向)に沿って配置された底面132Aと、底面132Aの上端からシリンダ112の径方向内側へ向かうに従いシリンダ112の上端側へ傾斜された上傾斜面132Bと、底面132Aの下端からシリンダ112の径方向内側へ向かうに従いシリンダ112の下端側へ僅かに傾斜された下傾斜面132Cと、を含んで構成されている。そして、下傾斜面132Cと底面132Aとの境界部分が円弧状に滑らかに接続されている。
収容溝132の内部には、保持機構130を構成する「摺動部材」としてのロックリング134が配置(収容)されている。ロックリング134は、断面円形状の金属製の線材によって構成されると共に、一部開放された円環状(リング状)に形成されている。換言すると、ロックリング134は略C字形状に形成されている。また、ロックリング134は、バネ性を有すると共に、自身の径方向に弾性変形可能に構成されている。そして、ロックリング134は、自然状態(ロックリング134が弾性変形していない状態)から径方向外側へ弾性変形して、後述するアクチュエータ本体120の外周部に当接された状態で収容溝132内に収容されている。
アクチュエータ本体120は、略円筒状に形成されて、シリンダ112と同軸上に配置されている。そして、アクチュエータ本体120の下端部を除く部分がシリンダ112内に相対移動可能に収容されており、アクチュエータ本体120の下端部が、前述したブラケット108によってラジエータサポートに固定されている。換言すると、シリンダ112が、アクチュエータ本体120の下端部を除く部分を、上下方向に相対移動可能に覆っている。そして、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して上下方向に相対移動するときには、シリンダ112と共にロックリング134がアクチュエータ本体120に対して相対移動して、ロックリング134とアクチュエータ本体120との間に摩擦力が発生するように構成されている。
アクチュエータ本体120の上下方向中間部には、略円柱状のガス発生装置122が嵌入されており、ガス発生装置122は、前述した後側アクチュエータ60のガス発生装置68と同様に構成されている。つまり、ガス発生装置122はスクイブ(点火装置)を備えると共に、ガス発生装置122内には、ガス発生剤が充填されている。ガス発生装置122の下端には、ワイヤハーネス122Aが接続されており、ガス発生装置122がワイヤハーネス122Aを介して後述するECU140と電気的に接続されている。これにより、ECU140の制御によってガス発生装置122が作動するようになっている。そして、ガス発生装置122が作動すると、ガス発生装置122によって発生したガスがアクチュエータ本体120内に供給されるようになっている。なお、ガス発生装置122の下端から延出されたワイヤハーネス122Aは、アクチュエータ本体120の内部に配策されると共に、アクチュエータ本体120の下端部から外側へ導出されている。そして、アクチュエータ本体120の内部に樹脂材が充填されて、ワイヤハーネス122Aとアクチュエータ本体120とが一体化されている。
さらに、アクチュエータ本体120の上端部には、径方向外側へ突出された大径部124が形成されており、大径部124の外径寸法が、シリンダ112の内径寸法に比べて僅かに小さく設定されている。この大径部124の外周部には、シール溝部124Aが形成されており、シール溝部124Aは、アクチュエータ本体120の径方向外側へ開放されて、大径部124の周方向に沿って延びると共に、大径部124の全周に亘って形成されている。そして、シール溝部124A内には、ゴム材等で構成されたOリング126が配置されており、アクチュエータ本体120とシリンダ112との間がOリング126によってシールされている。
また、アクチュエータ本体120の外周部には、大径部124に対してアクチュエータ本体120の下端側の位置において、保持機構130を構成する保持溝136が形成されている。保持溝136は、アクチュエータ本体120の径方向外側へ開放されて、アクチュエータ本体120の周方向に沿って延びると共に、アクチュエータ本体120の全周に亘って形成されている。具体的には、保持溝136は、縦断面視でアクチュエータ本体120の軸方向(上下方向)に沿って配置された底面136Aと、底面136Aの上端からアクチュエータ本体120の径方向外側へ延びる上面136Bと、底面136Aの下端からアクチュエータ本体120の径方向外側へ向かうに従いアクチュエータ本体120の下端側へ傾斜された「傾斜面」としての下傾斜面136Cと、を含んで構成されている。
そして、ガス発生装置122が作動すると、ガス発生装置122によって発生したガスがアクチュエータ本体120内に供給されて、アクチュエータ本体120内のガス圧によってシリンダ112が前側アクチュエータ110の軸方向に沿って上昇するようになっている。これにより、シリンダ112の上端部がフード10に当接して、フード10の前端部が持上位置(図5及び図7の2点鎖線で示される位置)に持上げられるように構成されている。そして、本実施の形態では、前側アクチュエータ110がフード10を持上げるときの持上力が6kNに設定されている。なお、詳細については後述するが、本実施の形態では、フード10上に倒れ込む歩行者Pと共にフード10を持上げることができるように当該持上力が設定されている。具体的には、各種衝突試験などによってフード10を持上げるときの反力が略5.5kNであることが判明されており、これらの試験データによって持上力を6kNに設定している。
なお、図5に示されるように、フードロック装置82に対して左側に配置された前側アクチュエータ110には、リンク機構106がシリンダ112に係合されており、リンク機構106には、前述したケーブル102の他端が係止されている。そして、前側アクチュエータ110の作動時にシリンダ112が上昇すると、リンク機構106が作動して、ケーブル102が左側へ引かれるようになっている。これにより、前側アクチュエータ110の作動時には、固定プレート96の当接面96Aと固定ピン100との当接状態が解除されて、フード10の前端部における持上げが可能となるように構成されている。
また、図1(A)及び(B)に示されるように、シリンダ112の下端部には、複数(本実施の形態では2箇所)のガス抜き孔112Aが形成されている。そして、シリンダ112が持上位置に上昇されたときに、ガス抜き孔112Aがアクチュエータ本体120よりも上側に配置されるように設定されている(図1(B)参照)。これにより、前側アクチュエータ110の作動後では、シリンダ112の内部と外部とがガス抜き孔112Aによって連通されて、シリンダ112(アクチュエータ本体120)内に供給されたガスがガス抜き孔112Aから排出される(抜かれる)ように構成されている。
さらに、図1(B)に示されるように、シリンダ112が持上位置に上昇したときには、シリンダ112の収容溝132が、アクチュエータ本体120の保持溝136に対して前側アクチュエータ110の径方向外側に配置されるように設定されている。すなわち、前側アクチュエータ110の径方向において、収容溝132と保持溝136とが対向配置するように設定されている。また、このときには、ロックリング134が径方向内側へ弾性変形(縮径)して保持溝136内に入り込むことで、ロックリング134と保持溝136の下傾斜面136Cとが係合するようになっている。さらに、このときには、ロックリング134の一部がアクチュエータ本体120の外周部よりも径方向外側に突出されるように、保持溝136の溝深さとロックリング134の線径とが設定されている。このため、収容溝132の上傾斜面132B及び保持溝136の下傾斜面136Cによってロックリング134が上下方向に挟まれて、シリンダ112が収容溝132の部位においてロックリング134に係止されるようになっている。これにより、シリンダ112の後退が制限されて、保持機構130によってフード10が持上位置に保持されるようになっている。
また、下側への所定の衝突荷重(本発明における「車両下側への歩行者からの衝突荷重」に対応)がフード10を介してシリンダ112に入力されたときには、シリンダ112の上傾斜面132Bがロックリング134を下側へ押圧して、ロックリング134が保持溝136の下傾斜面136Cに沿って径方向外側へ弾性変形するように構成されている。これにより、ロックリング134が収容溝132内に収容されると共に、ロックリング134と保持溝136の下傾斜面136Cとの係合状態が解除されるようになっている。そして、シリンダ112が、ロックリング134とアクチュエータ本体120との間の摩擦力に抗して、アクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動するようになっている。
ここで、所定の衝突荷重について説明する。この衝突荷重は、日本国の自動車アセスメント(JNCAP)において規定されている歩行者頭部保護性能試験に基づいて設定される。すなわち、大人又は子供の頭部を模擬した衝突体である頭部インパクタを試験機からフード10上に衝突させたときのシリンダ112に作用する(入力される)荷重が衝突荷重とされている。また、車両と歩行者との衝突では、子供のような比較的小柄な体格の歩行者は主としてフード10の前端部に倒れ込む傾向にある。そこで、本実施の形態では、小柄な体格である子供を想定した頭部インパクタがフード10の前端部に衝突したときにシリンダ112に作用する(入力される)荷重を衝突荷重として設定している。具体的には、本実施の形態では、2kN以上の下側への衝突荷重がシリンダ112に入力されたときに、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動するように構成されている。
(ECU140について)
ECU140は、後側アクチュエータ60及び前側アクチュエータ110の作動制御を行うためのものである。図2に示されるように、ECU140には、衝突検知センサ142及び衝突予知センサ144が電気的に接続されており、この衝突検知センサ142及び衝突予知センサ144から出力された信号に基づいて、ECU140が後側アクチュエータ60及び前側アクチュエータ110を作動させるか否かを判定するようになっている。以下、初めに衝突検知センサ142及び衝突予知センサ144について説明し、次いでECU140について説明する。
衝突検知センサ142は、車両Vの前端部に配置されたフロントバンパ22のバンパリインフォースメント(図示省略)の前面に配設されている。この衝突検知センサ142は、車両幅方向を長手方向とした略長尺状の圧力チューブ142Aと、圧力チューブ142A内の圧力変化に応じた信号をECU140へ出力する圧力センサ142Bと、を含んで構成されている。そして、歩行者P等の衝突体がフロントバンパ22に衝突したときには、圧力チューブ142Aが押し潰されることで圧力チューブ142A内の圧力が変化して、圧力チューブ142A内の圧力変化に応じた信号がECU140に出力されるようになっている。なお、衝突検知センサ142を、圧力チャンバや光ファイバを用いた構成としてもよい。
衝突予知センサ144は、ステレオカメラで構成されており、ステレオカメラは、ウインドシールドガラスWGの上部における車幅方向中央付近に設けられている。このステレオカメラは、車両Vの車両前方側を撮影して、車両Vへの衝突体を検出するようになっている。そして、ステレオカメラは、検出した衝突体までの距離や車両Vと衝突体との相対速度等を測定し、測定データをECU140へ出力するようになっている。なお、衝突予知センサ144をミリ波レーダ等によって構成してもよい。
ECU140は衝突判定部140Aを備えている。そして、衝突判定部140Aが、前述した圧力センサ142Bの出力信号に基づいて衝突荷重を算出すると共に、衝突予知センサ144の出力信号に基づいて衝突速度を算出するようになっている。さらに、衝突判定部140Aは、算出された衝突荷重及び衝突速度から衝突体の有効質量を求めると共に、有効質量が閾値を超えるか否かを判断して、車両Vへの衝突体が歩行者Pであるのか歩行者P以外(例えば、ロードサイドマーカーやポストコーン等の路上障害物)であるのかを判定するようになっている。そして、車両Vへの衝突体が歩行者Pであると衝突判定部140Aが判定したときには、ECU140によって車両用PUH装置30を作動させるように構成されている。
また、ECU140が車両用PUH装置30を作動させると判定したときには、後側アクチュエータ60よりも先に前側アクチュエータ110が作動するように設定されている。具体的には、フロントバンパ22が歩行者Pに衝突して、フード10上に倒れ込む歩行者Pの身体がフード10の前端部に接触する時と同時又は歩行者Pの身体がフード10の前端部に接触した後に、前側アクチュエータ110をECU140によって作動させるように構成されている。換言すると、前側アクチュエータ110の作動タイミングは、歩行者Pとフロントバンパ22との衝突時から第1の所定時間経過後とされている。
そして、本実施の形態では、ダミー人形を用いた衝突試験を行うことで、フード10上に倒れ込んだダミー人形がフード10の前端部に接触する時間を測定して、第1の所定時間を設定している。具体的には、時速40km/hで走行する車両Vが子供(6歳児)を想定したダミー人形に衝突した時の、ダミー人形がフード10の前端部に接触する時間を測定して、第1の所定時間(本実施の形態では、15msec)を設定している。なお、この衝突試験において、フード10上に倒れ込んだダミー人形がフード10の前端部に接触する時間は、大人を想定したダミー人形(例えば米国人成人男性50%をカバーするダミー人形(AM50))を用いた場合と、子供(6歳児)を想定したダミー人形を用いた場合と、で略同じであることが判明されている。このため、この第1の所定時間は、子供から大人に亘って対応することができるように設定されている。
また、ECU140は、前側アクチュエータ110の作動開始から第2の所定時間経過した後に後側アクチュエータ60を作動させるように設定されている。具体的には、後側アクチュエータ60の作動完了後に、歩行者Pの頭部がフード10に当たるように、第2の所定時間(後側アクチュエータ60の作動タイミング)が設定されている。なお、第2の所定時間の設定においても、各種のダミー人形を用いた衝突試験を行うことで、第2の所定時間を設定している。さらに、第1の所定時間及び第2の所定時間は、各種車両に対応して設定されている。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
車両用PUH装置30が非作動状態のときには、フード10が閉止位置に配置されて、フード10によってエンジンルームERが閉じられている(図7の実線で示されるフード10参照)。この状態から、歩行者P等の衝突体と車両Vが前面衝突すると、衝突体と前面衝突したことが衝突検知センサ142によって検知され、衝突検知センサ142からECU140に信号が出力される。このとき、ECU140の衝突判定部140Aは、衝突検知センサ142及び衝突予知センサ144から、車両Vへの衝突体が歩行者Pであるのか歩行者P以外であるのかを判定する。そして、車両Vへの衝突体が歩行者Pであると衝突判定部140Aが判定すると、ECU140によって車両用PUH装置30が作動する。
車両用PUH装置30の作動では、まずECU140の制御によって前側アクチュエータ110のガス発生装置122が作動する。具体的には、歩行者Pと車両Vとの衝突開始から15msec経過後にガス発生装置122が作動して、アクチュエータ本体120内にガスが供給される。アクチュエータ本体120内にガスが供給されると、アクチュエータ本体120内のガス圧によってシリンダ112が押圧されて、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して上側へ相対移動(上昇)する。シリンダ112が上側へ移動すると、シリンダ112の移動に連動してフロントPUH装置80のケーブル102が左側へ引かれる。これにより、固定プレート96が回動して、フードロック本体90の上側への回動が可能となる。つまり、フード10の前端部の持上げが可能となる。
また、シリンダ112が上側に移動すると、シリンダ112の上端部がフード10に当接してフード10の前端部を上側へ持上げる。これにより、フード10の前端部が持上位置に持上げられる(図5の2点鎖線を参照)。なお、このときには、シリンダ112の収容溝132の内部に収容されたロックリング134が、シリンダ112の移動に伴ってアクチュエータ本体120に対して上側に相対移動される。
また、図1(B)に示されるように、フード10が持上位置に持上げられたときには、シリンダ112の収容溝132が、アクチュエータ本体120の保持溝136に対してアクチュエータ本体120の径方向外側に配置される。そして、ロックリング134が径方向内側へ弾性変形(縮径)して保持溝136内に入り込むと共に、ロックリング134と保持溝136の下傾斜面136Cとが係合される。これにより、ロックリング134が、収容溝132の上傾斜面132B及び保持溝136の下傾斜面136Cによって上下方向に挟まれる。換言すると、シリンダ112が収容溝132の部位においてロックリング134に係止される。その結果、シリンダ112のアクチュエータ本体120に対する後退が制限されて、フード10が持上位置に保持される。
一方、前側アクチュエータ110の作動開始から第2の所定時間経過した後に、ECU140の制御によって、後側アクチュエータ60のガス発生装置68が作動して、シリンダ62内にガスが供給される。シリンダ62内にガスが供給されると、シリンダ62内のガス圧によってピストン部72が押圧されて、ピストンロッド70がシリンダ62内を上側へ軸方向移動(上昇)する。ピストンロッド70が上側へ軸方向移動すると、ピストンロッド70が第2アーム54の後端部を上側へ持上げて、フード10の後端部が持上位置に持上げられる。このときには、第2アーム54が第1アーム48に対して上側へ相対回動されると共に、第1アーム48がヒンジベース46に対して上側へ相対回動される(図4参照)。
ところで、図8に示されるように、車両Vのフロントバンパ22が歩行者Pに衝突するときには、フロントバンパ22が主として歩行者Pの脚部に当たる。このため、歩行者Pはフード10の前端側からフード10上へ倒れ込むようになる。
ここで、車両用PUH装置30では、フード10上に倒れ込む歩行者Pの身体がフード10の前端部に接触する時と同時又は歩行者Pの身体がフード10の前端部に接触した後に前側アクチュエータ110が作動するように設定されている。このため、前側アクチュエータ110が、フード10上に倒れ込む歩行者Pの腰部や胴部と共にフード10の前端部を持上げる。換言すると、歩行者Pの腰部や胴部が持ち上がりつつ、歩行者Pがフード10上に倒れ込む。これにより、フード10に倒れ込む歩行者Pの身体に上側への荷重f(図8参照)が作用するため、フード10に倒れ込む歩行者Pの下側への頭部速度v(図8参照)を減速することができる。
またここで、図1(B)に示されるように、シリンダ112の下端部には、ガス抜き孔112Aが形成されており、前側アクチュエータ110の作動後にシリンダ112(アクチュエータ本体120)の内部のガスがガス抜き孔112Aによって抜かれる。これにより、シリンダ112(アクチュエータ本体120)内に高圧のガスが残留することが抑制されて、シリンダ112をアクチュエータ本体120に対して下側へ移動させることができる。さらに、下側への所定の衝突荷重(2kN以上の衝突荷重)がシリンダ112に作用したときには、ロックリング134と保持溝136との係合状態が解除される。このため、ロックリング134とアクチュエータ本体120との間に生じる摩擦力に抗して、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動する。これにより、フード10に倒れ込んだ歩行者Pの頭部がフード10に当たるときに、歩行者Pの頭部に対する衝突エネルギを当該摩擦力によって吸収することができる。特に、小柄な歩行者Pと車両Vとの衝突では、フード10上に倒れ込む歩行者Pの頭部が主としてフード10の前端部に当たる傾向にあるため、小柄な歩行者Pの頭部に対する衝突エネルギを吸収することができる。
このように、本実施の形態の車両用PUH装置30によれば、前側アクチュエータ110の作動後に下側への所定の衝突荷重がシリンダ112に作用したときには、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動される。これにより、持上げられたフード10の下側の隙間を有効に活用して歩行者Pに対する衝突エネルギを吸収することができる。以上により、フード10上に倒れ込む歩行者Pの下側への頭部速度vを減速しつつ、持上げられたフード10の下側の隙間を有効に活用して歩行者Pに対する衝突エネルギを吸収することができる
以下、この点について、図9に示されるグラフを用いて比較例と比較しつつ具体的に説明する。なお、比較例では、前側アクチュエータ110の保持溝136にロックリング134が係合された後では、ロックリング134と保持溝136との係合状態が解除不能に構成されている。つまり、比較例では、例えば保持溝136における下傾斜面136Cが上下方向に対して直交する方向に沿って配置されている。
また、図9(A)に示されるグラフでは、歩行者Pの頭部を模した頭部インパクタがフード10の前端部(詳しくは、前側アクチュエータ110の近傍部分)に衝突したときの、衝突時間に対する頭部インパクタに作用する反力を示している。なお、このグラフの横軸は、頭部インパクタとフード10とが衝突開始したときからの時間(msec)であり、縦軸は、頭部インパクタに作用する反力(N)である。さらに、図9(B)に示されるグラフでは、頭部インパクタがフード10の前端部に衝突したときの、頭部インパクタのストロークに対する頭部インパクタに作用する加速度を示している。なお、このグラフの横軸が、頭部インパクタがフード10に衝突したときからのストローク(mm)であり、縦軸は、頭部インパクタに作用する加速度(G)である。そして、図9(A)及び(B)では、実線が本実施の形態のデータであり、点線が比較例のデータである。
そして、比較例では、シリンダ112のアクチュエータ本体120に対する下側への相対移動が制限されているため、頭部インパクタがフード10に衝突すると、頭部インパクタに作用する反力が徐々に上昇する。具体的には、衝突時間が略10〜15msecの間で当該反力が略5kNまで上昇する。また、このときには、頭部インパクタのストロークが略30mmから略37mmに変位して、頭部インパクタに作用する加速度が略400Gとなる。
これに対して、本実施の形態では、所定の衝突荷重(2kN以上の衝突荷重)がシリンダ112に入力されたときに、シリンダ112のアクチュエータ本体120に対する下側への相対移動が可能となっている。このため、本実施の形態では、衝突時間が約4〜6msecの間で頭部インパクタに作用する反力が約2kNまで上昇すると、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動するため、その後は頭部インパクタに作用する反力が減少する。そして、シリンダ112のアクチュエータ本体120に対する相対移動に伴って、頭部インパクタが略90mmまで変位すると共に、頭部インパクタに作用する加速度が略100G前後に低減される。すなわち、比較例と比較して、頭部インパクタに作用する加速度を略1/4に大幅に低減することができる。したがって、本実施の形態によれば、持上げられたフード10の下側の隙間を有効に活用して、フード10を下側へ変位させることで、頭部インパクタに作用する加速度を大幅に低減することができ、ひいては歩行者Pに対する頭部傷害値を低減することができる。
また、本実施の形態では、ロックリング134がバネ性を有する一部開放されたリング状に形成されている。また、ロックリング134が拡径された状態でアクチュエータ本体120の外周部に当接されると共に、シリンダ112の収容溝132の内部に収容されている。これにより、ロックリング134がシリンダ112の外部に露出することを抑制しつつ、ロックリング134をシリンダ112と共にアクチュエータ本体120に対して相対移動させることができる。
さらに、上述したように、持上位置では、アクチュエータ本体120の保持溝136に係合されたロックリング134によってシリンダ112が係止される。これにより、持上位置において、シリンダ112及びフード10の前端部を保持することができる。
また、保持溝136は、縦断面視で、上下方向に延在される底面136Aと、底面136Aの下端から下側へ向かうに従いシリンダ112の径方向外側へ傾斜された下傾斜面136Cと、を含んで構成されている。このため、下側への衝突荷重がシリンダ112に入力されたときには、シリンダ112の上傾斜面132Bがロックリング134を下側に押圧して、ロックリング134が下傾斜面136Cに沿って拡径する方向に弾性変形する。これにより、保持溝136の下傾斜面136Cとロックリング134との係合状態が解除される。この結果、シリンダ112のアクチュエータ本体120に対する下側への相対移動が許容されて、シリンダ112と共にロックリング134をアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動させることができる。以上により、持上位置においてフード10の前端部を保持しつつ、所定の衝突荷重がシリンダ112に入力されたときにシリンダ112をアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動させることができる。
さらに、車両用PUH装置30では、前側アクチュエータ110に加え、後側アクチュエータ60を有している。このため、フード10の後端部が後側アクチュエータ60によって持上げられる。これにより、仮にフード10の後端部を持上げない場合と比べて、フード10上に倒れ込む比較的大柄な歩行者Pの頭部を早期にフード10に当てることができる。その結果、歩行者Pの頭部に対する衝突エネルギを低減することができる。
また、本実施の形態では、前側アクチュエータ110の作動後に後側アクチュエータ60がECU140によって作動する。これにより、フード10の前端部を前側アクチュエータ110によって早期に持上げることができる。
以下、この点について説明する。後側アクチュエータ60が作動するときには、フード10の後端部が持上げられるため、フード10には、側面視でフード10の重心回りの回転モーメントが作用して、フード10の前端部が下側へ変位しようとする。これにより、仮に後側アクチュエータ60を前側アクチュエータ110と同時に作動させると、フード10に作用する上記回転モーメントが、前側アクチュエータ110によるフード10の持上げに影響を与える。その結果、フード10の前端部の持上げが遅れる可能性がある。
これに対して、本実施の形態では、前側アクチュエータ110の作動後に後側アクチュエータ60がECU140によって作動する。このため、前側アクチュエータ110の作動開始時には後側アクチュエータ60が作動していないため、前側アクチュエータ110によるフード10の作動初期では、上記回転モーメントがフード10に作用しない。これにより、後側アクチュエータ60が作動するまでは、フード10に生じる上記回転モーメントによる影響を受けることなく、前側アクチュエータ110によってフード10の前端部を持上げることができる。したがって、フード10の前端部を早期に持上げることができる。
(保持機構130の変形例について)
以下、保持機構130の変形例について図10を用いて説明する。上述した本実施の形態では、保持機構130が前側アクチュエータ110の内部に設けられているが、本変形例では、保持機構130が前側アクチュエータ110の外部に設けられている。以下、具体的に説明する。
保持機構130は、ホルダ150と、「摺動部材」としてのパウル160と、トーションスプリング162(広義には、「付勢部材」として把握される要素である)と、アクチュエータ本体120の外周部に形成された保持溝164と、を含んで構成されている。
ホルダ150は、一部開放された略円筒形状の筒部152と、筒部152の周方向両端から筒部152の径方向外側へ突出された一対の取付片154と、を含んで構成されている。取付片154は、互いに対向して配置されており、取付片154には、それぞれボルト挿通孔154Aが貫通形成されている。そして、シリンダ112の下端部が筒部152内に嵌入されている。また、ボルト挿通孔154A内に取付ボルトBが挿通されて、取付ボルトBの先端部に取付ナットNが螺合されることで、ホルダ150がシリンダ112の下端部に固定されている。
パウル160は、所定の厚みを有する略L字形板状に形成されている。このパウル160の上端部には、パウル側挿通孔160Aが貫通形成されており、パウル側挿通孔160A内に取付ボルトBが挿通されて、パウル160が取付ボルトBに回動可能に支持されている。これにより、パウル160がシリンダ112と共にアクチュエータ本体120に対して上下方向に相対移動可能に構成されている。
また、パウル160の下端部には、ロック歯160Bが形成されており、ロック歯160Bはアクチュエータ本体120側へ突出されている。そして、パウル160が回動することで、ロック歯160Bがアクチュエータ本体120に対して接離するように構成されている。
トーションスプリング162は、取付ボルトBによって支持されており、トーションスプリング162の一端部がパウル160に係止されて、トーションスプリング162の他端部がホルダ150の取付片154に係止されている。これにより、パウル160のロック歯160Bがアクチュエータ本体120に対して接近する方向にパウル160が付勢されている。その結果、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して上下に相対移動するときには、ロック歯160Bがアクチュエータ本体120の外周部上を摺動するように構成されている。
また、アクチュエータ本体120に形成された保持溝164は、アクチュエータ本体120の周方向全周に亘って形成されており、パウル160のロック歯160Bが保持溝164に係合可能に構成されている。そして、前側アクチュエータ110が作動して、シリンダ112が持上位置に上昇したときに、保持溝164にロック歯160Bが係合して、シリンダ112(フード10)が持上位置に保持されるようになっている。さらに、下側への所定の衝突荷重がシリンダ112に作用したときには、保持溝164とロック歯160Bとの係合状態が解除されるように、トーションスプリング162の付勢力などが設定されている。これにより、本変形例においても、シリンダ112がアクチュエータ本体120に対して下側へ相対移動するときに、パウル160とアクチュエータ本体120との間に生じる摩擦力によって衝突エネルギを吸収することができる。
なお、本実施の形態では、保持機構130を構成する保持溝136がアクチュエータ本体120に形成されているが、アクチュエータ本体120において保持溝136を省略してもよい。すなわち、ロックリング134のバネ力を適宜調整して、ロックリング134とアクチュエータ本体120との間に生じる摩擦力によってシリンダ112を持上位置に保持するように構成してもよい。
また、本実施の形態では、後側アクチュエータ60における図示しないロック機構によってピストンロッド70のシリンダ62に対する後退を制限するように構成されている。これに代えて、後側アクチュエータ60においても、前側アクチュエータ110と同様の保持機構130を設けてもよい。つまり、所定の衝突荷重がフード10の後端部に作用したときに、フード10の後端部が下側へ変位するように構成してもよい。
また、本実施の形態では、シリンダ112に2箇所のガス抜き孔112Aが形成されているが、ガス抜き孔112Aの個数や径寸法は適宜変更可能である。
また、本実施の形態では、フード10の前端部における車幅方向中央部を、フロントPUH装置80のフードロック装置82によってロックするように構成されている。これに代えて、フード10の前端部における車幅方向両端部を、フロントPUH装置80によってロックするように構成してもよい。
また、本実施の形態では、フロントPUH装置80における左右一対の前側アクチュエータ110によってフード10の前端部における車幅方向両端部を持上げるように構成されている。これに代えて、一対の前側アクチュエータ110の内の一方を省略して、前側アクチュエータ110の他方によってフード10の前端部における車幅方向中央部を持上げるように構成してもよい。