JP6273893B2 - 液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置 - Google Patents

液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置 Download PDF

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Description

本発明は、圧電素子の駆動により液体を噴射する液体噴射ヘッド、及び、これを備えた液体噴射装置に関するものであり、特に、圧力室の一部を区画する変位部を圧電素子の駆動により変位させてノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関するものである。
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
上記の液体噴射ヘッドは、圧力室に液体を導入し、当該圧力室の液体に圧力変動を生じさせて、この圧力室に通じるノズルから液体を噴射するように構成されている。上記圧力室となる空間は、シリコン等の結晶性基板に対して異方性エッチングによって寸法精度良く形成されている。また、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段としては、圧電素子が好適に用いられる。この圧電素子としては種々の構成があるが、例えば、圧力室に近い側の下電極膜と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電体層と、上電極膜とが、成膜技術によりそれぞれ積層形成されて構成される(例えば、特許文献1参照)。そして、上下の電極のうちの一方が圧力室毎に設けられる個別電極として機能し、他方が複数の圧力室に共通な共通電極として機能する。圧電体膜において上下の電極によって挟まれた部分が、電極への電圧の印加によって変形する能動部であり、上下の何れか一方或いは両方から外れた部分が、電極への電圧の印加によっても変形しない非能動部である。そして、圧力室の一方(ノズル面側とは反対側)の開口部分は、例えばSiOからなる可撓性を有する弾性膜で塞がれ、この上に絶縁膜(例えばZrO)を介して圧電素子が形成される。これらの弾性膜および絶縁膜が振動板として機能する。
上記のような液体噴射ヘッドの性能評価の指標として、排除体積と呼ばれるものがある。この排除体積とは、所定の駆動電圧を印加して圧電素子を駆動させたときの圧力室の容積の変化量(圧力室から排除される液体の体積)を意味する。この排除体積を向上させることで、ノズルから液体を効率良く噴射させることができる。当該排除体積の大小は、圧力室となる空間のノズル側とは反対側の上部開口の面積(或いは、当該空間の上部開口を封止する振動板において圧電素子の駆動に応じて変位する部分。以下、適宜、変位部と称する。)の面積と、所定の駆動電圧を印加したときの圧電素子の変位量(ストローク)との積で概ね把握することができる。この排除体積は、比較的大型の液体噴射ヘッド(例えば、ノズルの形成ピッチ(ノズル同士の中心間距離)が1/180インチ以上の間隔の液体噴射ヘッド)であれば、圧力室の容積や上部開口の面積を比較的大きく確保することが可能であるため、それに応じて排除体積も比較的大きく確保することが可能である。一方、ノズルの高密度化が図られている小型の液体噴射ヘッド(例えば、ノズルの開設ピッチが1/300インチ以下の液体噴射ヘッド)では、圧力室の幅(圧力室並設方向の寸法)が、大型の液体噴射ヘッドのものと比べて小さくなっている。このため、このような小型の液体噴射ヘッドにおいて、圧力室の容積や上部開口の面積をより大きく確保するために、圧力室の長さ(圧力室並設方向に直交する方向の寸法)をより長くすることが考えられる。
特開2007−118193号公報
ところが、圧力室の幅に対する長さの比が過度に大きくなると、変位部の動きやすさが阻害され、却って排除体積が悪化する。また、圧力室の長さを長くするほど液体噴射ヘッドの平面方向(ノズル面に平行な方向)の寸法が増大してしまう問題がある。さらに、圧電素子の電極構造や圧電体構造を工夫することで圧電素子の変位量を向上させたとしても、変位部が動きにくいと圧電素子の能力を活かしきれないという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化と排除体積の向上の両立が可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルに連通して圧力室となるべき空間が複数形成された圧力室形成部材と、
前記圧力室形成部材における前記空間の開口を封止して圧力室の一部を区画する変位部に対し、前記変位部に近い側から第1の電極、圧電体層、および第2の電極が順に積層された圧電素子と、を備え、前記圧電素子の駆動により前記変位部を変位させることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、前記圧力変動を利用して前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドあって、
前記開口の空間並設方向の幅に対する前記方向に直交する方向の長さの比が、4.3以上6.0以下であることを特徴とする。
この構成によれば、圧力室となる空間の変位部側の開口の幅に対する長さの比が、4.3以上6.0以下に設定されることで、従来よりも圧力室となる空間の開口面積が小さい場合であっても圧電素子および変位部の変位効率を向上させることができる。このため、圧力室の容積を低減して記録ヘッドの小型化に対応しつつも、圧電素子駆動時の排除体積を向上させることが可能となる。
また、上記構成において、前記第1の電極は、前記圧力室毎に個別に設けられる一方、前記第2の電極は、前記第1の電極および前記圧電体層を覆う状態で圧力室並設方向に沿って各圧電素子に渡って共通に設けられた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第2の電極が、第1の電極および圧電体層を覆う状態に形成されることで、前記第2の電極が、空気中の湿気等から能動部における圧電体層を保護する保護膜として機能する。このため、別途保護膜を設ける必要がなくなり、その分、圧電素子の厚さを薄くすることができる。これにより、圧電素子の変位が向上し、排除体積の向上に寄与する。
また、上記構成において、第2の電極の膜厚が、100〔nm〕以下である構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、圧電素子および変位部の変位効率の向上に寄与することができる。このため、排除体積をより向上させることが可能となる。
また、本発明は、前記ノズルが、1/300インチ以下の形成ピッチで複数形成された構成に好適である。
上記構成において、前記第2の電極の厚さが、30〔nm〕以上70〔nm〕以下である構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第2の電極の厚さが、30〔nm〕以上70〔nm〕以下に設定されることで、圧電素子駆動時の電極破壊等の不具合を生じさせることなく圧電素子の変位を一層向上させることができる。これにより、圧電素子および変位部の変位効率をさらに高めることができる。このため、排除体積のさらなる向上に寄与する。
上記構成において、前記空間の前記開口の幅に対する長さの比が、望ましくは5.14であることが望ましい。
この構成によれば、圧電素子および変位部の変位効率をより効果的に高めることができる。このため、排除体積を一層向上させることが可能となる。
さらに、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために提案される本発明の液体噴射ヘッドは、以下の構成を備えたものであってもよい。
すなわち、ノズルに連通して圧力室となるべき空間が複数形成された圧力室形成部材と、
前記圧力室形成部材における前記空間の開口を封止して圧力室の一部を区画する変位部に対し、前記変位部に近い側から第1の電極、圧電体層、および第2の電極が順に積層された圧電素子と、
を備え、
前記圧電素子の駆動により前記変位部を変位させることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、前記圧力変動を利用して前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドであって、
前記第1の電極は、前記圧力室毎に個別に設けられ、
前記第2の電極は、複数の前記圧力室が並設される並設方向に沿って、複数の前記圧電素子に渡って共通に設けられ、
前記開口の空間並設方向の幅に対する前記方向に直交する方向の長さの比が、4.3以上6.0以下であることを特徴とする。
本発明によれば、圧力室となる空間の変位部側の開口の幅に対する長さの比が、4.3以上6.0以下に設定されることで、従来よりも圧力室となる空間の開口面積が小さい場合であっても圧電素子および変位部の変位効率を向上させることができる。このため、圧力室の容積を低減して記録ヘッドの小型化に対応しつつも、圧電素子駆動時の排除体積を向上させることが可能となる。
また、第1の電極は圧力室毎に個別に設けられ、第2の電極は複数の圧力室が並設される並設方向に沿って複数の圧電素子に渡って共通に設けられたので、すなわち、第2の電極が、第1の電極および圧電体層を覆う状態に形成されることで、第2の電極が、空気中の湿気等から能動部における圧電体層を保護する保護膜として機能する。このため、保護膜を別途設ける必要がなくなり、その分、圧電素子の厚さを薄くすることができる。これにより、圧電素子の変位が向上し、排除体積の向上に寄与する。
また、上記構成において、第2の電極の厚さが、100〔nm〕以下である構成を採用することが望ましい。
当該構成によれば、圧電素子および変位部の変位効率の向上に寄与することができる。このため、排除体積をより向上させることが可能となる。
また、本発明は、前記ノズルが、1/300インチ以下の形成ピッチで複数形成された構成に好適である。
上記構成において、前記第2の電極の厚さが、30〔nm〕以上70〔nm〕以下である構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第2の電極の厚さが、30〔nm〕以上70〔nm〕以下に設定されることで、圧電素子駆動時の電極破壊等の不具合を生じさせることなく圧電素子の変位を一層向上させることができる。これにより、圧電素子および変位部の変位効率をさらに高めることができる。このため、排除体積のさらなる向上に寄与する。
上記構成において、前記圧力室の幅に対する長さの比が、5.14であることが望ましい。
この構成によれば、圧電素子および変位部の変位効率をより効果的に高めることができる。このため、排除体積を一層向上させることが可能となる。
そして、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。
プリンターの内部構成を説明する斜視図である。 記録ヘッドの分解斜視図である。 記録ヘッドの要部の構成を説明する図である。 圧力室空間の上部開口の寸法、圧電素子および変位部の変位量、および比較例に対する変位量の向上率を示した表である。 上電極膜の厚さ、圧電素子および変位部の変位量、および、比較例に対する変位量の向上率を示した表である。 圧力室空間の上部開口のアスペクト比および上電極膜の厚さと、圧電素子および変位部の変位量との関係を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明では、本発明の液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンター)を例に挙げる。
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対して液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
図2は、本実施形態の記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。また、図3は、記録ヘッド3の要部構成を示す図であり、(a)は圧力室形成基板15の上面図、(b)は(a)のA−A線における記録ヘッド3の要部断面図(圧力室長手方向断面図)、(c)は(a)のB−B線における記録ヘッド3の要部断面図(圧力室短尺方向断面図)である。なお、図3(a)においてハッチングで示される部分は、後述する上電極膜29の形成範囲を示している。また、図3(a)および図3(c)では、ノズル4つ分の構成が示されているが、他のノズルに対応する構成も同様である。
本実施形態における記録ヘッド3は、流路形成基板15(本発明における圧力室形成部材の一種)、ノズルプレート16、アクチュエーターユニット14、及び、封止板20等を積層して構成されている。流路形成基板15は、本実施形態ではシリコン単結晶基板からなる板材である。この流路形成基板15には、複数の圧力室22となる空間(本発明における空間に相当。以下、適宜、圧力室空間と称する。)が、隔壁22′を間に挟んで並設されている。これらの圧力室空間は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、ノズルプレート16の各ノズル25に一対一に対応して設けられている。すなわち、各圧力室空間(或いは圧力室22)の形成ピッチは、ノズル25の形成ピッチに揃えられている。本実施形態における圧力室空間の上部開口(ノズル25側とは反対側の開口。本発明における開口に相当。)は、平行四辺形状を呈している。この圧力室空間の寸法に関し、高さH(記録ヘッド構成部材の積層方向の寸法。図3(b)参照。)は70〔μm〕、圧力室空間の上部開口の幅W(ノズル列方向あるいは圧力室並設方向の寸法。図3(c)参照。)は70〔μm〕に設定されている。また、圧力室空間の上部開口の長さL(ノズル列方向あるいは圧力室並設方向に直交する方向の寸法。図3(b)参照。)は、360〔μm〕に設定されている。このため、本実施形態における圧力室空間の上部開口の長さLと幅Wの比は、5.14:1となっている。この圧力室空間の長さLと幅Wの比の詳細については後述する。
また、本実施形態における圧力室空間は、流路形成基板15の下面側(ノズルプレート16側)から異方性エッチングを行うことで形成され、その長手方向の両端部の内壁面は、流路形成基板15の上下面に対してそれぞれ傾斜している。より詳しくは、これらの内壁面は、上面側に向けて互いに近接する状態に傾斜している。また、これらの内壁面の途中には、段差部30が設けられている。この段差部30は、圧力室形成基板15とノズルプレート16との接合面における接着剤が、上面側、すなわち振動板21の弾性膜17(後述)側に這い上がることを防止するためのものである。このような構成であるため、圧力室空間の上部開口の面積は、下部開口の面積よりも小さくなっている。なお、圧力室に段差部が無く、内壁面も傾斜していない構成、すなわち、圧力室空間の上部開口の形状・寸法と下部開口の形状・寸法とが同じ構成であってもよい。
図2に示すように、流路形成基板15において、圧力室空間に対して当該圧力室長手方向の側方(ノズル25との連通側とは反対側)に外れた領域には、流路形成基板15を貫通する連通部23が、圧力室空間の並設方向に沿って形成されている。この連通部23は、各圧力室空間に共通な空部である。この連通部23と各圧力室空間とは、インク供給路24を介してそれぞれ連通されている。なお、連通部23は、後述する振動板21の連通開口部26および封止板20の液室空部33と連通して、各圧力室空間(圧力室22)に共通なインク室であるリザーバー(共通液室)を構成する。インク供給路24は、圧力室空間よりも狭い幅で形成されており、連通部23から圧力室空間に流入するインクに対して流路抵抗となる部分である。
流路形成基板15の下面(アクチュエーターユニット14との接合面側とは反対側の面)には、ノズルプレート16(ノズル形成基板)が、接着剤や熱溶着フィルム等を介して接合されている。本実施形態におけるノズルプレート16は、ドット形成密度300dpiに相当するピッチ(隣接ノズルの中心間距離)、すなわち、1/300インチ(84μm)で各ノズル25が並設されている。したがって、各ノズル25にそれぞれ連通する各圧力室空間の形成間隔も1/300インチとなっている。各ノズル25は、圧力室空間に対してインク供給路24とは反対側の端部で連通する。なお、ノズルプレート16は、例えば、シリコン単結晶基板やステンレス鋼などから作製される。
本実施形態におけるアクチュエーターユニット14は、振動板21および圧電素子19から構成される。振動板21は、流路形成基板15の上面に形成された二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜17と、この弾性膜17上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜18と、から成る。この振動板21における圧力室空間に対応する部分、即ち、圧力室空間の上部開口を塞いで圧力室22の一部を区画する部分は、圧電素子19の撓み変形に伴ってノズル25から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変位する変位部として機能する。図2に示すように、この振動板21における流路形成基板15の連通部23に対応する部分には、当該連通部23と連通する連通開口部26が開設されている。
振動板21の絶縁体膜18における圧力室空間に対応する部分、すなわち変位部の上(ノズル側とは反対側の面)には、圧電素子19が形成されている。本実施形態における圧電素子19は、振動板21の変位部側から順に下電極膜27(本発明における第1の電極に相当)、圧電体層28、および上電極膜29(本発明における第2の電極に相当)が、成膜技術により積層されて構成されている。この圧電素子19は、絶縁体膜18上において、圧力室空間の上部開口の縁(ノズル25と連通する側の開口縁)を越えて当該圧力室空間の長手方向の外側に外れた位置まで延設されている。そして、下電極膜27および圧電体層28は、上電極膜29の圧力室長手方向の端部よりも同方向の外側の位置までさらに延設されている。そして、下電極膜27および圧電体層28は、リソグラフィー及びイオンミリング等のエッチングによるパターニングによって圧力室22毎にパターニングされて分割されている。したがって、下電極膜27は、圧力室22毎の個別電極となっている。
また、図3(a)および図3(c)に示すように、上電極膜29は、圧力室並設方向(圧力室空間並設方向)に沿って圧力室空間の上部開口、当該上部開口上の下電極膜27を覆い隠すように一連に形成されており、各圧力室22に共通な電極となっている。積層方向において、上電極膜29、圧電体層28、および下電極膜27がオーバーラップする部分が、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる能動部である。すなわち、上電極膜29は圧電素子19の共通電極となっており、下電極膜27は圧電素子19の個別電極となっている。このような構成にすることで、圧力室空間の上部開口に重なる下電極膜27および圧電体層28は、上電極膜29によって被覆されている。そして、この上電極膜29は、能動部における圧電体層28を保護する保護膜としても機能する。すなわち、本実施形態における記録ヘッド3においては、耐湿用の保護膜を別途必要としない。これにより、保護膜の分だけ圧電素子19全体の厚さを低減することができ、圧電素子19全体の変位量を向上させることが可能となる。その結果、排除体積の向上に寄与する。上記構成の圧電素子19は、電界方向に撓み変形する所謂撓み振動型の圧電素子である。成膜技術により作製される圧電素子19は、小型化が可能であるため、当該圧電素子を圧力発生手段として搭載する液体噴射ヘッドの小型化に寄与する。
ここで、本実施形態における記録ヘッド3と保護膜を有する記録ヘッドとの構成を対比しやすくするため、特許文献1に開示されている記録ヘッドの構成を比較例として簡単に説明する。当該特許文献1の記録ヘッドは、本実施形態における記録ヘッド3と同様に、弾性膜(二酸化シリコン)および絶縁膜(酸化ジルコニウム)からなる振動板と、下電極膜、圧電体層、および上電極膜が積層されてなる圧電素子と、を有している。さらに、この特許文献1の記録ヘッドでは、圧電素子を保護するための耐湿性の保護膜が、当該圧電素子を覆う状態に形成されている。そして、特許文献1の記録ヘッドの各部の寸法に関し、弾性膜の厚さが約1.0〔μm〕、絶縁膜の厚さが約0.3〜0.4〔μm〕、下電極膜の厚さが約0.1〜0.2〔μm〕、圧電体層の厚さが約0.5〜5〔μm〕、上電極膜の厚さが約0.1〔μm〕、保護膜の厚さが約0.1〔μm〕となっている。
これに対し、本実施形態における記録ヘッド3の振動板21と圧電素子19の寸法に関し、弾性膜17の厚さが約1.3〜1.4〔μm〕、絶縁膜18の厚さが約0.3〜0.4〔μm〕、下電極膜27の厚さが約0.1〜0.2〔μm〕、圧電体層28の厚さが約0.5〜2〔μm〕、上電極膜29の厚さが、後述するように30〜70〔nm〕の範囲内に設定されている。前述したように、上電極膜29は、下電極膜27および圧電体層28を被覆して保護膜としても機能するので、保護膜を別途設ける必要がなくなり、圧電素子19全体としての厚さが従来よりも低減されている。
圧力室空間の上部開口縁よりも圧力室長手方向の外側に外れた領域における圧電体層28上であって、上電極膜29に対して所定の間隔を隔てた位置(図3(a)および図3(b)における左側の位置)には、リード電極部41が形成されている。そして、圧電体層28においてリード電極部41が形成されている位置には、図3(b)に示すように、当該圧電体層28を貫通する状態で、当該圧電体層28の上面から下電極膜27に至るスルーホール42が形成されている。リード電極部41は、個別電極である下電極膜27に対応してパターニングされている。このリード電極部41は、上記のスルーホール42を通じて下電極膜27に導通されている。そして、このリード電極部41を介して各圧電素子19に選択的に駆動電圧(駆動パルス)が印加される。
図2に示すように、アクチュエーターユニット14における流路形成基板15との接合面である下面とは反対側の上面には、圧電素子19を収容可能な収容空部32を有する封止板20が接合される。この封止板20は、アクチュエーターユニット14との接合面である下面側に収容空部32が開口した中空箱体状の部材である。上記の収容空部32は、封止板20の下面側から上面側に向けて封止板20の高さ方向途中まで形成された窪みである。また、封止板20には、収容空部32よりもノズル列に直交する方向の外側に外れた位置であって、振動板21の連通開口部26および流路形成基板15の連通部23に対応する領域には、液室空部33が設けられている。この液室空部33は、封止板20を厚さ方向に貫通して圧力室空間(圧力室22)の並設方向に沿って設けられており、上述したように連通開口部26および連通部23と一連に連通して各圧力室空間の共通のインク室となるリザーバーを画成する。なお、図示しないが、封止板20には、収容空部32と液室空部33の他に、封止板20を厚さ方向に貫通する配線開口部が設けられ、この配線開口部内にリード電極部41の端部が露出される。そして、このリード電極部41の露出部分には、プリンター本体側からの図示しない配線部材の端子が電気的に接続される。
上記構成の記録ヘッド3では、インクカートリッジ7からインクを取り込み、リザーバー、インク供給路24、圧力室22、およびノズル25に至るまでの流路内がインクで満たされる。そして、プリンター本体側からの駆動信号の供給により、圧力室22に対応するそれぞれの下電極膜27と上電極膜29との間に両電極の電位差に応じた電界が付与され、圧電素子19および振動板21の変位部が変位することにより、圧力室22内に圧力変動が生じる。この圧力変動を制御することで、ノズル25からインクが噴射される。
ここで、本発明に係る記録ヘッド3では、全体の小型化を図りつつ圧電素子19を駆動した際の圧力室22における排除体積の向上が図られている。具体的には、圧電素子19の変位量の向上と、圧力室空間の上部開口を封止する振動板21の変位部の変位効率の向上を図ることで、排除体積の向上させている。以下、この点についてより詳細に説明する。
まず、圧力室空間の上部開口のアスペクト比、すなわち、圧力室空間の上部開口の長さLと幅Wの比の最適化について説明する。本実施形態における記録ヘッド3のように、ノズルが1/300インチ以下の高密度で形成されている比較的小型の記録ヘッドでは、これに応じて圧力室の容積も限られてしまう。特に圧力室の幅については、ノズル形成ピッチと圧力室同士を仕切る隔壁の剛性(必要な厚さ)に応じて定まるため、大きく変更することができない。そのような条件の中で排除体積をより大きく確保するためには、圧力室の上部開口を封止する振動板において圧電素子の駆動に応じて変位する変位部の変位効率(すなわち、変位のし易さ)を向上することが望まれる。そこで、本実施形態における記録ヘッド3では、圧力室空間の上部開口の幅Wに対する長さLの比が、4.3以上6.0以下の範囲内となるように、当該圧力室空間の寸法が定められている。すなわち、排除体積を向上させるには、圧力室空間の上部開口の面積を単に増加させるのではなく、当該開口の適切なアスペクト比を採用することで、変位部の変位効率を向上させることができる。
図4は、圧力室空間の上部開口の寸法(長さL〔μm〕、アスペクト比(L/W))、一定の電圧を印加したときの圧電素子19および変位部の変位量〔nm〕、および比較例に対する変位量の向上率〔%〕を示した表である。この表において、圧力室空間の上部開口の幅Wは70〔μm〕で一定となっている。また、比較例の構成は、本実施形態の記録ヘッド3の同様の構成を有する記録ヘッドであって、圧力室の上部開口の長さLが700〔μm〕、幅Wが70〔μm〕に設定される。上電極膜の厚さは、本実施形態も比較例も同様に100〔nm〕である。この比較例のアスペクト比は10、変位量は約408〔nm〕である。また、圧電素子19および変位部の変位量については、例えばレーザー変位計により計測される。
図4に示されるように、圧力室空間の上部開口の一定の幅(70〔μm〕)に対し、圧力室空間の上部開口の長さLを変化させてアスペクト比L/Wを変えると、これに応じて変位量も変化する。より具体的には、圧力室の上部開口の長さLが360〔μm〕、アスペクト比5.14の場合(図4において太枠で示す部分(ベストモード))で、最大の変位量600〔nm〕および最大の向上率47〔%〕)が得られ、これよりもアスペクト比が小さくなるに連れて或いは大きくなるに連れて変位効率が次第に低下することが判る。ここで、アスペクト比が4.28(≒4.3)以上6.0以下の範囲内であれば、圧力室空間の長さLの10〔μm〕の変化に対して向上率が5〔%〕以内での変化となるのに対し、アスペクト比が上記範囲外となる場合(図4において網掛けで示す部分)では長さLの10〔μm〕の変化に対して向上率が5〔%〕超の急激な変化となっている。したがって、アスペクト比が4.3以上6.0以下の範囲内であれば、比較例に対する変位量の向上率が37〔%〕以上と比較的良好な結果が得られる。なお、圧力室の上部開口の寸法(幅Wおよび長さL)に関し、±10〔%〕程度の公差は許容されるものとする。
このように、圧力室空間の上部開口のアスペクト比を4.3以上6.0以下の範囲内とすることにより、従来よりも圧力室空間の長さLが短く、開口面積が小さくなったとしても当該開口部を封止する振動板21の変位部および圧電素子19の変位量を向上させることができる。このため、圧力室空間(圧力室22)の容積を低減して記録ヘッドの小型化に対応しつつも、圧電素子19駆動時の排除体積を向上させることが可能となる。そして、アスペクト比を5.14とすることで、圧電素子19および変位部の変位効率をより効果的に高めることができる。このため、排除体積を一層向上させることが可能となる。
本発明に係る記録ヘッド3では、上記の圧力室22の上部開口のアスペクト比の最適化(4.3以上6.0以下の範囲内に設定すること)に加え、圧電素子19の構成を見直すことで当該圧電素子19の変位効率を向上させている。具体的には、上電極膜29の厚さを100〔nm〕以下にすることで、圧電素子19および変位部の変位効率の向上に寄与することができ、これにより、排除体積をより向上させることが可能である。そして、望ましくは、上電極膜29の厚さを30〔nm〕以上70〔nm〕以下(0.030〔μm〕以上0.070〔μm〕以下)の範囲内に設定することにより、圧電素子19および変位部の変位量をさらに向上させることができる。これにより、排除体積のさらなる向上が期待できる。
図5は、上電極膜29の厚さ〔nm〕、一定の電圧を印加したときの圧電素子19および変位部の変位量〔nm〕、および、比較例に対する変位量の向上率〔%〕を示した表である。この表において、圧力室空間の上部開口の幅Wは70〔μm〕、長さLは360〔μm〕(すなわち、図4におけるベストモード)である。また、比較例の構成は、上電極膜29の厚さ以外の構成が同一で且つ上電極膜29の厚さが100〔nm〕(0.1〔μm〕)に設定されたものである。この比較例における変位量は約600〔nm〕である。
図5に示すように、上電極膜29の厚さを薄くするほど変位量が向上することが判る。すなわち、上電極膜29の厚さを30〔nm〕以上70〔nm〕以下の範囲内で設定することで、比較例に対し圧電素子19の変位量が25〔%〕以上向上し、最大(図5における太枠で示すベストモード)で約32%向上する。これに対し、上電極膜29の厚さが70〔nm〕を超えると、向上率が大きく低下する。具体的には、10〔nm〕の膜厚変化に対して2%よりも大きい変化率で低下する。なお、上電極膜29の厚さが30〔nm〕未満の場合、上電極膜29の膜厚を安定的に形成することができなかったため、今回の評価では上電極膜29の厚さが30〔nm〕未満の場合の実験は行われていない。したがって、上電極膜29の厚さについての上記の範囲は、圧電素子の信頼性を損なうことなく圧電素子19および変位部の変位効率をより効果的に向上させ得る範囲と言うことができる。
このように、上電極膜29の厚さを30〔nm〕以上70〔nm〕以下の範囲内で設定することで、圧電素子19の信頼性を損なうことなく、変位部および圧電素子19の変位量のさらなる向上に寄与することができる。特に、上電極膜29の厚さを30〔nm〕とすることで、圧電素子19および変位部の変位効率をより一層高めることができる。このため、排除体積をより一層向上させることが可能となる。
図6は、圧力室空間の上部開口における長手方向の位置と、一定の電圧を印加したときの圧電素子19および変位部の変位量〔nm〕との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、圧力室上部開口の長手方向の位置である。例えば、ノズル25との連通側の端部を原点0で示し、インク供給路側の端部に向かって数値が大きくなるように設定してある。なお、幅Wは、70〔μm〕で一定である。また、縦軸は、圧力室長手方向の所定位置における圧電素子19および変位部の変位量〔nm〕である。ここで、図6のAに対応する記録ヘッドは、比較例であり、上電極膜の厚さが100〔nm〕、圧力室の上部開口の長さLが700〔μm〕で保護膜無しの構成となっている。また、図6のBに対応する記録ヘッドは、上電極膜の厚さが100〔nm〕、圧力室の上部開口の長さLが360〔μm〕で保護膜無しの構成となっている。そして、図6のCに対応する記録ヘッドは、上電極膜の厚さが30〔nm〕、圧力室の上部開口の長さLがBと同じく360〔μm〕で保護膜無しの構成となっている。Aの記録ヘッドでは、圧力室空間の上部開口のアスペクト比が、本発明の条件である4.3以上6.0以下の範囲から大幅に外れた10となっている。この比較例のように、圧力室空間の上部開口の幅Wに対して長さLが大きくなりすぎると、変位部の変位効率が低下するため、図6に示すように最大でも408〔nm〕となっている。
これに対し、Bの記録ヘッドでは、圧力室空間の上部開口のアスペクト比が、4.3以上6.0以下の範囲内であってベストモードの5.14である。このため、Aの記録ヘッドと比較して圧電素子および変位部が動き易くなっている。具体的には、最大で600〔nm〕の変位量が得られている。この場合、Aの記録ヘッドに対する変位量の向上率は、ピーク値で比較して約47〔%〕である。そして、Cの記録ヘッドでは、上電極膜の厚さが30〔nm〕に設定されており、Bの記録ヘッドのものよりも大幅に薄くなっているため、その分、圧電素子および変位部がさらに動き易くなっている。このため、最大で786〔nm〕の変位量が得られる。このCの記録ヘッドの場合、Bの記録ヘッドに対する変位量の向上率は、ピーク値で比較して31〔%〕である。また、Aの記録ヘッドの場合と比較して、Cの記録ヘッドのベストモードでは、変位量は約92〔%〕(約2倍)向上する。
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、圧力室空間の上部開口の形状に関し、上記実施形態では、平行四辺形状のものを例示したが、これには限られず、アスペクト比が規定可能な形状であれば、どのような形状であっても良い。
また、上記実施形態における記録ヘッド3は、ノズル25が列状に並設された構成であったが、これには限られず、例えば、ノズルが記録ヘッド3の移動方向である主走査方向や記録媒体の搬送方向である副走査方向に対して斜めに並設されたものや、ノズルがマトリックス状に配列されたものにも本発明を適用することが可能である。このような構成において、ノズル同士の最小距離(中心間距離)が1/300インチ以下であれば、本実施形態と同様な課題が生じ、圧力室の上部開口のアスペクト比や圧電素子の構造(保護膜無し、上電極膜の厚さ)を同様に規定することで本実施形態の記録ヘッド3と同様の作用効果が期待できる。
そして、上述した実施形態では、インクジェットプリンターに搭載されるインクジェット式記録ヘッドを例示したが、上記構成の圧電素子および圧力室を有するものであれば、インク以外の液体を噴射するものにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
1…プリンター,3…記録ヘッド,14…アクチュエーターユニット,15…流路形成部材,16…ノズルプレート,17…弾性膜,18…絶縁体膜,19…圧電素子,21…振動板(変位部),22…圧力室(圧力室空間),25…ノズル,27…下電極膜,28…圧電体層,29…上電極膜,41…リード電極部,42…スルーホール

Claims (6)

  1. ノズルに連通して圧力室となるべき空間が複数形成された圧力室形成部材と、
    前記圧力室形成部材における前記空間の開口を封止して圧力室の一部を区画する変位部に対し、前記変位部に近い側から第1の電極、圧電体層、および第2の電極が順に積層された圧電素子と、
    を備え、
    前記圧電素子の駆動により前記変位部を変位させることで前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、前記圧力変動を利用して前記ノズルから液体を噴射させる液体噴射ヘッドであって、
    前記第1の電極は、前記圧力室毎に個別に設けられ、
    前記第2の電極は、複数の前記圧力室が並設される並設方向に沿って、複数の前記圧電素子に渡って共通に設けられ、
    前記開口の空間並設方向の幅に対する前記方向に直交する方向の長さの比が、4.3以上6.0以下であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
  2. 前記第2の電極の厚さが、100〔nm〕以下であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  3. 前記ノズルが、1/300インチ以下の形成ピッチで複数形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
  4. 前記第2の電極の厚さが、30〔nm〕以上70〔nm〕以下であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
  5. 前記圧力室の幅に対する長さの比が、5.14であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
  6. 求項1から請求項5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置。
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