JP6269384B2 - テトラヒドロフラン化合物の製造方法 - Google Patents

テトラヒドロフラン化合物の製造方法 Download PDF

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本発明は、ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物の製造方法に関する。
ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物は、ホルミル基(アルデヒド基)やカルボキシ基等の置換基を有するフラン化合物の置換基及びフラン環を還元する方法や、ホルミル基やカルボキシル基等の置換基を有するテトラヒドロフラン化合物の置換基を還元する方法により得られる。
ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物の具体的例として、例えば2,5−ビスヒドロキシメチルテトラヒドロフラン(以下、BHTFという。)が挙げられる。
BHTFは、水酸基を2つ有するジオールであることから、ポリエステル、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリカーボネート等の各種ポリマー製造時のモノマーとして利用することができる有用な化合物である。
このようにヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を製造するための原料は、フラン化合物やテトラヒドロフラン化合物等であることからバイオマス原料を使用することが一般的であり、また望ましい。
BHTFの製造方法としては、5−ヒドロキシメチル−2−フルアルデヒド(以下、HMFという。)の水素化による方法(例えば特許文献1及び2)、2,5−フランジカルボン酸の水素化による方法、2,5−フランジメタノールの水素化による方法(例えば非特許文献1)等が知られている。中でもグルコース、フルクトースの脱水によって得られるHMFを原料としてBHTFを製造する方法が最も検討されている。
国際公開第2013/133208号パンフレット 特表2013−531638号公報
Pest Management Science,67(12),2011,p.1499−1521
ところが、上記の特許文献1及び2に記載されているようなパラジウム触媒を使用して、BHTFの製造を行った際、目的化合物のBHTFの収率の低下が起こることがあり、再現が取れないことがわかった。
さらに発明者らが検討した結果、ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を得る際、還元反応で得られたヒドロキシメチル基が、還元反応条件下でさらに分解することが収率低下の原因であることを見出した。
HMFを還元してBHTFを製造する場合、HMFのフラン環と、ホルミル基を共に還元する際に、HMFが有するヒドロキシメチル基、及びHMFのホルミル基が還元されて得られたヒドロキシメチル基の少なくとも一方が、アルキル基(メチル基)に分解される反応(以下、「水素化分解」ということがある。)も起こり、BHTFの選択率が低下するという事実がある。
本発明の課題は、上記知見により見出されたものであり、フラン化合物を還元してテトラヒドロフラン化合物を得る工程において、ヒドロキシメチル基の前記水素化分解を抑制し、効率よくヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
上記課題に対し、本発明者らは、パラジウム触媒を用いた還元反応において、塩基を共存させることで、前記の水素化分解を抑制できることを見出した。
すなわち本発明の要旨は、
[1]フラン化合物を還元反応に供し、テトラヒドロフラン化合物を製造する方法であって、前記還元反応が、水素雰囲気において下記一般式(1)で表されるフラン化合物を塩基の共存下、パラジウム触媒と接触させて還元し、下記一般式(2)で表されるテトラヒドロフラン化合物を得ることを特徴とする、テトラヒドロフラン化合物の製造方法、
Figure 0006269384
上記一般式(1)において、Raは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、Rbは炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシル基を表す。またR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい。)
Figure 0006269384
(上記一般式(2)において、Rcは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2は前記一般式(1)と同義である。)
[2]前記塩基が、アミン類である、上記[1]に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法、
[3]前記還元反応において用いられる塩基の含有率が、前記パラジウム触媒に含まれるパラジウム原子に対し、50mol%以上、5000mol%以下である、上記[1]または[2]に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法、
[4]前記パラジウム触媒が、炭素、シリカ及びアルミナから選ばれる少なくとも1種に担持された触媒である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法、
[5]前記フラン化合物と前記パラジウム触媒とを、90℃以上、150℃以下の温度で接触させる工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
[6]前記一般式(2)において、Rcがヒドロキシメチル基である上記[1]〜[5]のいずれかに記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法、
[7]前記テトラヒドロフラン化合物中に含まれるtrans体の含有率が、前記テトラヒドロフラン化合物の全量に対し、25mol%以上である、上記[6]に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法、に存する。
本発明によれば、テトラヒドロフラン化合物が有するヒドロキシルメチル基の水素化分解が抑制され、高い選択率で、ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を得ることができる。
また本発明は、ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物の選択率が上がり、収率が向上するだけでなく、前記の水素化分解を抑制することができるため、製造時の基質濃度も上げることができ、製造効率上も有利である。
さらに、BHTFのようなcis/trans異性体が存在するテトラヒドロフラン化合物を製造した場合、本発明であればtrans体の含有率が高いテトラヒドロフラン化合物を得ることができる。trans体含有率が高いテトラヒドロフラン化合物を製造できることにより、BHTFのようなジオールを製造し、これをポリカーボネート等のポリマーのモノマーとして使用した場合に、ポリマーのガラス転移点が向上するなど、ポリマーの物性を向上させることができるという利点も有する。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明
は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるもの
ではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の製造方法において、原料として用いられるフラン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
Figure 0006269384
上記一般式(1)において、Raは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、Rbは炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシル基を表す。またR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい。
上記一般式(1)において、Raは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、好ましくは水素原子、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基である。原料が容易かつ豊富に得られることと、利用用途の広いBHTFを得るためには、Raは、より好ましくはホルミル基又はヒドロキシメチル基である。
aにおける炭素数1〜5のアルキル基としては、特に限定はされず、その形状は鎖状構造であっても環状構造を形成していてもよく、鎖状構造の場合は、分岐構造を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、t−ブチル基、などが挙げられる。
また炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基としては、特に限定されないが、その炭素数は当該置換基全体が有する炭素数を指すものとする。すなわち当該置換基が形成するエステル結合に関与するカルボニル炭素もその炭素数に含まれる。したがって前記アルコキシカルボニル基中に含まれるアルコキシ基は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、その形状は鎖状構造であっても環状構造を形成していてもよく、鎖状構造の場合は、分岐構造を有していてもよい。炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
bは、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、好ましくはホルミル基である。Rbの炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基は、Raと同様のものを挙げることができる。
1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシル基を表し、好ましくは水素原子である。R1及びR2の炭素数1〜5のアルキル基及びヒドロキシル基は、Raと同様のものを挙げることがでる。
またR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよく、その環の大きさは限定されないが、通常5員環から12員環であり、好ましくは5員環から8員環である。
一般式(1)で表されるフラン化合物の具体例としては、例えばフルフラール;5−ホルミルフルフラール(フルフリルジアルデヒド)、5−メチルフルフラール、5−エチルフルフラール等の5−アルキルフルフラール;フルフリルアルコール、5−ヒドロキシメチルフルフリルアルコール(フランジメタノール)等のフルフリルアルコール;5−ヒドロキシメチルフルアルデヒド(HMF);5−エチルフルフリルアルコール等の5−アルキルフルフリルアルコール;2,5−フランジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸メチルエステル、2,5−フランジカルボン酸エチルエステル等のフランジカルボン酸エステル等が挙げられる。好ましくは、HMF、5−ヒドロキシメチルフルフリルアルコール(フランジメタノール)、2,5−フランジカルボン酸であり、より好ましくはHMFである。
なお一般式(1)で表されるフラン化合物は、1種で用いても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
前記一般式(1)で表されるフラン化合物は、特に限定はされないが、通常はバイオマス原料から得られる。例えばHMFはグルコースやフルクトースなどのC6糖を酸触媒で3分子脱水して得られるものであり、バイオマス原料から比較的容易に、安定した量が供給可能であることから好ましい。
前記一般式(1)で表されるフラン化合物は、本発明の効果を阻害しない限り、他の成分を含んでいてもよく、例えばバイオマス原料由来の他の化合物等を含んでいてもよい。例えば糖類を原料としてHMFを得る場合、HMFは通常、糖由来の別の化合物、例えばレブリン酸、フルフラール、糖の重合体などが共存する混合溶液として得られるが、この混合溶液の状態でそのまま用いることも、必要な成分を分離、精製して用いることもできる。
本発明によって得られるテトラヒドロフラン化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である。
Figure 0006269384
上記一般式(2)において、Rcは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2は前記一般式(1)と同義である。
上記一般式(2)において、Rcは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を表し、好ましくはヒドロキシメチル基である。Rcの炭素数1〜5のアルキル基はRa及びRbと同様のものを挙げることができる。
1及びR2は前記一般式(1)と同義である。すなわち、特に限定はされないが、通常、還元反応前に一般式(1)のフラン化合物が有していたR1及びR2は、還元反応後もそのまま維持される。
上記一般式(2)で表されるテトラヒドロフラン化合物の具体例としては、例えば5−ビスヒドロキシメチルテトラヒドロフラン(BHTF)、テトラヒドロフルフリルアルコール、5−メチルテトラヒドロフルフリルアルコール等である。
本発明により得られる上記一般式(2)で表されるテトラヒドロフラン化合物は、2位と5位、3位と4位の置換基がそれぞれ同一のときは、幾何異性体を有する場合があり、それぞれcis/trans体を有する。
本発明により得られたテトラヒドロフラン化合物中に含まれるcis/trans体の比率は、特に限定はされないが、trans体の含有率が、従来の製造方法で得られるものより大きくなる。
すなわち、本発明により得られる上記一般式(2)で表されるテトラヒドロフラン化合物中に含まれるtrans体の含有率が、得られたテトラヒドロフラン化合物の全量に対し20mol%以上であり、好ましくは25mol%以上である。ジオールを各種ポリマーのモノマーとして使用する際は、前記テトラヒドロフラン化合物中に含まれるtrans体の含有量は多い方が各種物性面で好ましい場合がある。trans体の含有率の上限値は特に制限されないが、70mol%以下が好ましく、50mol%以下がさらに好ましい。
本発明の製造方法は、水素雰囲気において、塩基の共存下、パラジウム触媒を用いて前記フラン化合物を還元する。
本発明において用いられるパラジウム触媒(以下、単に「本発明の触媒」ということがある。)は、本発明において行なう還元反応の反応活性種となる態様のパラジウムとなるものを用いるものであれば特に限定はされないが、通常金属パラジウム又はパラジウム化合物を使用することができる。ここで、パラジウム化合物とは、金属元素としてパラジウム元素を含有する化合物である。
本発明の触媒は、金属元素としてパラジウム元素のみを有するものであっても、パラジウム元素以外の金属元素を1種類以上含んでいてもよい。
本発明の触媒が、金属パラジウム以外の金属元素を1種類以上含む場合、その組み合わせは特に限定されず、それぞれの金属が触媒活性を有するもの(共触媒)でも、1種類以上の金属の触媒活性を向上させるもの(助触媒)、または負触媒として働き触媒活性をコントロールするものであってもよいが、これらのうち助触媒が好ましい。
共触媒としては、例えば、ルテニウム、金、白金、ロジウム、ニッケル等が挙げられる。また助触媒としては、ルテニウム、金、白金、ロジウム、ニッケル、銀、銅、亜鉛、スズ等が挙げられる。また負触媒としてはスズ等が挙げられ、金属以外に硫黄化合物等を含んでいてもよい。
本発明の触媒がパラジウム化合物である場合、パラジウム化合物としては、具体的には、塩化パラジウム、臭化パラジウム等のハロゲン化パラジウム;酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウムと酸との塩;及び酸化パラジウム等が挙げられる。このうち、塩化パラジウム、硝酸パラジウムが、触媒調製の容易さの点で好ましい。
これらのパラジウム化合物は、水和物又は水溶液に溶解させた状態で用いてもよく、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の触媒は、金属パラジウムやパラジウム化合物を、後述する各種の担体に担持させた担持触媒を用いてもよく、反応液からの分離を容易にすること、触媒の再使用が容易であるという点から、担持触媒を用いることが好ましい。
前記担体としては特に限定はされないが、例えば活性炭、カーボンブラック等の炭素;アルミナ、シリカ、ジルコニア、ニオビア、チタニア、セリア、珪藻土、ゼオライト等の金属酸化物担体等が挙げられる。中でも炭素、シリカ及びアルミナから選ばれる少なくとも1種を担体として用いるのが、反応活性発現と触媒の活性安定化の面で好ましい。
本発明の触媒は、特に限定はされないが、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、チタニア(TiO2)、セリア(CeO2)、炭素(C)に金属パラジウム又はパラジウム化合物を担持させたものが、高い水素化能を発揮する触媒となり、また酸に対する安定性が高い点でより好ましい。なお以下で、パラジウム担持触媒を、「Pd/担体」として表すことがあり、例えばシリカ担持パラジウム触媒を「Pd/SiO2」というように表す。
特にHMFを原料としてBHTFを製造する際には、高い選択率が得られる点で、Pd/C、Pd/SiO2、Pd/Al23が好ましく、特に酸に対する安定性が高いことからPd/Cがより好ましい。
本発明の触媒に用いられる担体の表面積は特に限定されないが、通常1〜2000m2/gであり、好ましくは10〜1500m2/gである。前記下限値以上のものを用いることで、金属を担体に高い分散度で担持することを可能とし、十分な触媒活性を得る上で好ましい。また前記上限値以下のものを用いることは、通常担体が有する細孔を有効に利用できる点で好ましい。特に担体として活性炭を用いる場合は、その表面積が500〜1500m2/gであることが、高い生産性を得る上でより好ましい。
本発明の触媒中のパラジウム含有比率は、特に限定されないが、パラジウム金属原子に換算した質量百分率で、通常、担体と金属パラジウム、又は担体とパラジウム化合物の合計質量に対して0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。パラジウム含有比率を前記範囲内とすることにより、十分な触媒活性を得ることができる。なお、以下の触媒の記載において、質量%と記載されている値は、その触媒の担体と金属の合計質量に対する金属含有比率を表す。
本発明の触媒中に、パラジウム元素以外の金属元素を含む場合、その含有量は、特に限定されず、その金属のもたらす役割により、適宜最適化して使用することができるが、通常前記パラジウム触媒中のパラジウム含有量より少ない量を担持することが好ましく、この場合各々の金属の効果が十分に発揮されるためである。
本発明の触媒の製造方法は、本発明において行なう還元反応の際に、金属パラジウム又はパラジウム化合物が金属状態で触媒として機能していればよく、特に限定されないが、通常は用いる前記パラジウム金属、又はパラジウム化合物等を、還元処理して用いる。
担持金属触媒を用いる場合、その製造方法は特に限定されず、一般的な方法を適宜組み合わせて製造することができる。通常、パラジウム金属源となる金属パラジウム又はパラジウム化合物を担体に担持させ、乾燥、洗浄、焼成等の処理を行なった後、還元処理によって、パラジウムを金属状態に変換して用いる。
パラジウム化合物の担体への担持方法は、特に限定されないが、例えば含浸法、イオン交換法、スプレー法、共沈法等の担持金属触媒の調製に常用されている既知の方法を用いることができる。前記パラジウム化合物が担持された担体を還元処理することにより、担体に担持されたパラジウム化合物が金属パラジウムに変換されることで、目的とする触媒が得られる。
前記還元処理は、液相及び気相のいずれでも行うことができるが、水素やメタノールなどの還元性ガスを用いて還元する気相還元を行なうことが好ましい。
前記還元処理における還元温度は特に限定はされないが、通常100℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、通常600℃以下、好ましくは500℃以下で還元する。
上記還元処理を施して得られたパラジウム触媒は、必要に応じ引き続き安定化処理をおこなうことができる。
安定化処理とは、還元処理により活性化した触媒を安定化させるために行なう処理で、通常、低濃度の酸素を含む不活性な気体の流通下で一定時間放置する。不活性な気体中には、酸素等を少量含有していてもよい。この安定化処理により、還元処理後の触媒を空気中で取り扱う際に、急激な触媒中の金属の酸化による発熱を防ぐことができ、取り扱いが容易となる。安定化処理に使用される不活性な気体中に含まれる酸素濃度は、特に限定されないが、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上であり、通常15体積%以下、好ましくは10体積%以下、より好ましくは6体積%以下である。処理に使用する不活性な気体中の酸素濃度を上記範囲内にすることで、瞬時の発熱や、その発熱による触媒の劣化を防止することができ、十分に安定化をすることができる。
安定化処理の時間は、安定化効果が得られれば、具体的には不活性な気体の流通下で触媒の発熱がなくなったことが確認されれば特に限定されないが、通常10分以上、60分以下である。
本発明の触媒の形状は、特に限定はされず、本発明の触媒を用いて行なう反応の形式に応じて、適宜選択して用いることができる。本発明の触媒の具体的な形状としては、例えば粉末状、粒子状、ペレット状等の形状が挙げられるが、中でも操作性を向上する観点で粒状、ペレット状が好ましい。
また本発明の触媒の粒子径等も特に限定はされず、本発明の触媒を用いて行なう反応の形式に応じて、適宜選択して用いることができるが、通常、平均粒径100μm以上、20mm以下までの大きさの触媒が使用される。
本発明の製造方法においては、パラジウム触媒を塩基の共存下で還元反応を行なう。共存させる塩基は、本発明の目的を阻害しない範囲において、特に限定されるものではないが、例えばアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等のアルカリ金属化合物;アルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア水;トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、n−トリオクチルアミンなどの3級アミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン等の2級アミン;エチレンジアミン等の1級アミン;等を用いることができる。
前記塩基のうち、反応後の生成物との分離について蒸留精製が可能なアミン類が好ましく、パラジウム金属に配位した際に、金属中心を立体的に混んだ状態にさせて、trans体の製造を促進できる点から、エチレンジアミン、n−トリオクチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好ましく、n−トリオクチルアミンがより好ましい。なお塩基は、1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の製造方法における塩基の添加量は特に限定されないが、用いるパラジウム触媒におけるパラジウム原子換算での金属パラジウムのモル量に対して通常1mol%以上、好ましくは50mol%以上、通常5000mol%以下であり、好ましくは1000mol%以下、さらに好ましくは500mol%以下である。塩基量が前記範囲内にあることで、パラジウム触媒に十分に塩基が配位し、好ましい水素化能力が発揮され、前記水素化分解を抑制することができ、十分な収率でBHTFを得ることができる。
なお、バイオマス原料等の原料を使用する場合、原料中に酸が残存している場合があるが、その場合は添加する塩基が、原料中の酸の中和に消費されることがあるが、その場合も上記範囲内で塩基量を適宜調整することで、水素化能力と水素化分解抑制をバランスした反応系を形成することができる。
本発明において行なわれる還元反応は、水素雰囲気下で行われる。
本発明の実施態様における水素源としては特に限定はされないが、反応終了後に分離精製の必要がない水素ガスを用いることが望ましい。
水素ガス圧は、特に限定はされないが通常、水素ガス存在下、加圧条件下で行われる。水素化反応の圧力は特に限定されないが、通常0.1MPa以上、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.4MPa以上、通常10MPa以下、好ましくは5MPa以下であり、より好ましくは3MPa以下である。
また水素雰囲気下における水素ガスの水素濃度は、特に限定はされないが、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上であり、上限は通常100体積%であり、好ましくは95体積%以下である。
本発明の製造方法にて行なわれる還元反応は、通常、加圧下で行われる。前記還元反応の圧力は特に限定されないが、通常0.1MPa以上、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上であり、通常30MPa以下であり、好ましくは25MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。一般的には、反応圧力を上昇させると触媒への水素供給が促進され、反応速度が向上する。一方で、高い反応圧力で実施するには特別に耐圧性を高めた反応器等の設備が必要となるほか、水素化能力が上るため水素化分解が進行する可能性がある。
前記還元反応は、溶媒の存在下でも、無溶媒下でも行なうことができ、使用するフラン化合物の特性や、目的物であるテトラヒドロフラン化合物の性質によって適宜選択できる。
反応容器の使用効率を上げる等の生産性の向上の面からは、無溶媒下で行うことが望ましい。一方、使用するフラン化合物が無溶媒下で重合反応や分解反応が進行しやすいものの場合は、適宜溶媒を使用し、反応混合物の濃度を希釈して行なうことが望ましい。
溶媒を用いる際、具体的な溶媒としては、特に限定されないが、通常、水;メタノールやエタノール、1,4ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブテンジオールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンやジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;ヘキサン、デカリンなどの炭化水素;等である。これらの溶媒は、単独でも2種類以上の混合溶媒としても用いることができる。
特に糖類から脱水反応を行ない、そのまま次工程であるHMFの水素化を行なう場合は、糖類からの脱水反応(HMF製造反応)で使用できる溶媒を用いるとHMF水素化工程で溶媒の変更を行なう必要がなく、効率的である。そのような一貫で使用できる溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンやジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類が好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定はされず、原料として使用する前記フラン化合物の溶解度や反応性に応じ適宜調整することができるが、使用するフラン化合物の質量に対して通常0.1質量倍以上、好ましくは0.5質量倍以上、より好ましくは1.0質量倍以上であり、通常50質量倍以下、好ましくは20質量倍以下、特に好ましくは10質量倍以下である。溶媒の使用量が少ないとHMFの分解が進行してしまう可能性があり、溶媒の使用量が多いと反応の選択率は向上するが、反応の釜効率が低下するため好ましくない。
本発明の製造方法で行なわれる還元反応の反応温度は、特に限定されないが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上、通常350℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃である。反応温度が前記範囲内であることにより、ヒドロキシルメチル基の水素化分解が抑制され、また還元反応が十分に進行し、収率が向上する。
前記の還元反応では、終始同じ温度域で反応を行なっても、反応の進行度によって、反応途中で温度を適宜変更してもよい。終始同じ温度域で反応を行なう場合、90℃以上、150℃以下の温度域で反応させることが好ましい。
また反応途中で温度を変更する場合としては具体的には、まず第一の温度で反応を開始し、フラン環の水素化を進行させた後、第一の温度より高温の第二の温度で反応させて、原料となる前記フラン化合物の置換基の還元反応を進行させ、反応を押し切るといった方法を取ることができる。
特に前記還元反応では、前記第二の温度として90℃以上、150℃以下の温度域で反応する工程を含むことにより、目的物である前記テトラヒドロフラン化合物の選択率及び収率を向上させることができる。本発明の製造方法は、水素化分解が起こりにくいため、還元反応を前記温度範囲内で行なうことにより、高い触媒活性と選択性が得られ、生産性が向上する点で好ましい。
特にHMFのように、前記フラン化合物中にヒドロキシメチル基を当初から有しており、反応中にヒドロキシメチル基が生じて、1分子中に複数のヒドロキシメチル基を含む状態を経るフラン化合物や、フランジメタノールのように当初より複数のヒドロキシメチル基を使用する場合は、還元反応の際に水素化分解が起こりやすいため、上記の温度域で反応させることで効率よくBHTFを得ることができる。
前記還元反応の反応時間については特に限定はされないが、使用する前記フラン化合物が反応し、目的とするテトラヒドロフラン化合物を十分に得ることができれば特に限定されない。通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは5時間以下である。
本発明の製造方法で行われる還元反応においては、原料中に糖類などからの脱水反応副生成物が含まれていてもよい。脱水反応の副生成物とは例えばレブリン酸、フルフラール、糖誘導体から選ばれる少なくとも一つのことをいう。また、脱水反応の際に使用する触媒、例えば硫酸アルミニウム等と必要に応じてその助触媒が含まれていてもよい。反応液の中和のため、無機塩基やアンモニアを添加したものでもよい。必要に応じてこれらを除くために、精製工程を入れてもよい。活性炭やイオン交換樹脂での処理や、蒸留などを行ってもよい。
前記還元反応で使用されるパラジウム触媒の使用量については、特に限定されず、還元反応に供する前記フラン化合物の種類や量に応じ、適宜使用量を調整することができ、前記フラン化合物に対して通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、通常50質量%以下、好ましくは10質量%以下である。前記範囲であれば目的とする前記テトラフラン化合物を効率よく十分量製造することができる。
前記還元反応時に共存させる前記塩基の混合順序は特に限定されないが、通常、前記還元反応前に反応混合物中に共存させておく。その方法は特に限定されないが、使用するパラジウム触媒にあらかじめ添加してもよく、使用する前記フラン化合物に添加しておいてもよい。
本発明の製造方法で行われる還元反応の反応形態は、触媒の形態や用いるフラン化合物の性状に応じ、適宜選択することができ、回分式(バッチ式)及び連続式のいずれの方法も選択することができる。
本発明の製造方法に用いられる反応装置については、特に限定されないが、通常は高圧反応が可能なオートクレーブが使用される。連続反応器の使用も可能であり、触媒を反応器に充填し、原料液と水素を流通させ、反応を行なうことも選択できる。連続反応器の場合は、触媒の分離工程が不要であり、大量生産を行なう場合は連続反応器の方が望ましい。
連続反応においては、運転条件は特に限定はされないが、水素流量は、通常供給される原料フラン化合物の水素化されうる2重結合に対して1倍モル量以上の水素流量を供給する。好ましくは10倍モル量以上であり、通常は100倍モル量以下である。当該範囲であれば水素の物質移動が反応の律速段階とならないためである。
本発明の製造方法では、前記フラン化合物が、前記テトラヒドロフラン化合物に還元される。前記フラン化合物の還元反応の反応経路は不明であるが、前記フラン化合物が有する置換基から還元されたもの及び前記フラン化合物のフラン環構造から還元されたものの双方が考えられる。
そのため反応中間体としては、フラン化合物が有する置換基の一部または全部が還元されたヒドロキシメチル基等を有するフラン化合物や、前記フラン化合物のフラン環構造の一部または全部が還元された置換基を有していてもよいテトラヒドロフラン化合物が挙げられる。本発明の製造方法には、上記のような反応中間体の還元反応も含まれるものとする。
本発明の製造方法で得られる前記テトラヒドロフラン化合物の選択率は、特に限定はされないが、通常50%以上であり、好ましくは80%以上であり、上限は特に限定されず、通常は100%以下である。
なお前記選択率は、下記の通りの計算式で算出し、転化率と選択率の積として収率を求めた。本発明の方法に供する前記フラン化合物を「原料フラン化合物」とし、反応開始時の前記原料フラン化合物を「仕込原料フラン化合物」とした際、以下で表される。
転化率(%) = 100−(反応後の原料フラン化合物(mol)/ 仕込原料フラン化合物(mol))×100
選択率(%) =(反応後の目的テトラヒドロフラン化合物(mol))/
[{1−(反応後の原料フラン化合物(mol)/ 仕込原料フラン化合物(mol))}×仕込フラン化合物(mol)]×100
また前記テトラヒドロフラン化合物の収率は、特に限定はされないが、通常50%以上であり、好ましくは80%以上であり、上限は特に限定されず通常100%以下である。
本発明の製造方法で行われる還元反応により得られたテトラヒドロフラン化合物は、反応終了後、反応混合物から適宜、ろ過、濃縮、抽出、蒸留、昇華等の一般的な分離、精製操作を経て、分離され、適宜目的とする純度まで精製することができる。精製方法として、回分反応器の場合は触媒をろ別した後、一般的には蒸留が選択される。高分子膜やゼオライト膜などを使用して、蒸留工程を省く、もしくは簡便な条件にすることもできる。
本発明の製造方法によって得られたテトラヒドロフラン化合物、具体的にはヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物は、樹脂添加剤、医農薬中間体等として使用することができる他、ヒドロキシメチル基を2つ以上有するものは、その末端に水酸基を2つ以上有することから、例えばポリエステル、ポリカーボネート及びポリウレタン等のポリマーの原料モノマーなどに利用できる。
特にBHTFは、原料にバイオマス由来のHMFを使用するため、バイオマスポリマー原料となる点で重要なモノマーである。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
実施例で得られた反応混合物のガスクロマトグラフィー(以下、GC)測定条件は以下の通りである。
(ガスクロマトグラフィー(以下、GC)測定条件)
装置 :島津製作所社製 GC−14A
カラム :Inertcap pure wax 0.3mm×50m、膜厚0.25μm
カラム温度 :80℃から250℃まで
昇温速度 :10℃/分
検出器 :FID
キャリアーガス :He
サンプル注入量 :0.4μl
(高速液体クロマトグラフィー(以下、LC)測定条件)
装置 :アジレントテクノロジーズ社製 1100シリーズ
カラム :野村化学社製 Develosil C30 4.6mm×100mm、
粒径3μm
溶離液 :A液 0.05質量% HClO4水溶液
B液 アセトニトリルを用いたグラジエント分析
A液/B液=95/5(体積比)から20分間で、A液/B液
=0/100(体積比)へ変化させた後、5分間保持
カラム温度 :40℃
流速 :1.0mL/min
注入量 :10μL
検出波長 :280nm及び210nm
(NMRスペクトル測定条件)
装置 :BRUKER Ultra Shield
周波数 :400MHz
溶媒 :DMSO−d6
得られるテトラヒドロフラン化合物に幾何異性体が存在する場合、そのcis/trans比の測定は、1H−NMR分析によって行った。cis体とtrans体のそれぞれの1H−NMR基準値は、Organic Process Research & Development,2010,14, pp.459〜465と、Polymer Preprints A.C.S1975, 16, pp.30〜34の記載を参考にした。上記の測定条件による1H−NMR分析によって得られたNMRスペクトルにおけるテトラヒドロフラン環の2位及び5位のプロトンの積分値を比較することでcis/trans比を算出した。
(実施例1)
5−ヒドロキシメチル−2−フルアルデヒド(HMF)0.5g(4.0mmol、アルドリッチ社製)、シクロヘキサノール0.5g(HMF濃度50質量%)、トリノルマルオクチルアミン0.13g(0.38mmol)、及び5質量%Pd/C触媒0.2gを、内容積70mlのオートクレーブ中でアルゴン雰囲気下、攪拌子存在下で混合し、原料混合物とした。前記原料混合物を含むオートクレーブを密閉後、H2圧力8MPaとなるようにH2を仕込んだ。前記オートクレーブを反応温度である150℃に設定した電気炉内に設置して昇温し、15分経過した時点を反応開始とした。反応開始から1時間経過後、オートクレーブを電気炉から取り出し、室温まで放冷し、残圧をパージした後、前記反応に供した後のオートクレーブ中の反応混合物を全量回収した。
前記反応混合物にTHFを2.7g加えて均一化した後、約2gを採取し、0.45μmシリンジフィルターにより濾過した後に秤量し、内部標準としてジグライムを0.2g加え、GC測定用サンプルとした。
このGC測定用サンプルを、上記条件によるGC分析を行ない、HMF転化率、BHTF収率を求めた。また、ジメチルフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、5−ヒドロキシメチル−2−メチルフラン、5−ヒドロキシメチル−2−メチルテトラヒドロフランを合計した水素化分解物収率を求めた。結果を表1に示した。
(実施例2)
実施例1における原料混合物のうち、シクロヘキサノールに替えてテトラヒドロフラン1.5g、トリノルマルオクチルアミンの添加量を0.03g(0.09mmol)に変えた以外は、実施例1と同様に反応混合物を調製の後、反応温度を90℃、反応開始からの反応時間を4時間とした以外は同様に反応を行ない、反応混合物を回収した。
反応混合物回収後は、実施例1と同様の方法でGC分析を行なった。結果を表1に示した。
(比較例1)
実施例1における原料混合物中に、ノルマルトリオクチルアミンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。結果を表1に示す。
(合成例1)
Dean-Stark管と還流管を取り付けた内容積100mlの4つ口フラスコ中に、トリグライム24g、硫酸アルミニウム14−18水和物1.6gをこの順番で入れ、窒素シールをした。この4つ口フラスコを、120℃の湯浴上で加熱、撹拌した。
次に50質量%フルクトース水溶液15.8gを、前記フラスコに取り付けた滴下ロートを用いて約15分間かけて滴下した。滴下終了後、2時間経過後前記フラスコ中の反応混合物と留出した水を抜き出した。抜き出した反応混合物を、脱塩水約80倍量を加えて希釈し、0.45μmのフィルターで濾過し、上記のLC条件を用いて分析を行ない、反応混合物中に含まれるHMF量の定量を行ったところ7.0質量%であった。
(実施例3)
上記合成例1で製造した反応混合物であるHMF含有トリグライム溶液2g(HMF換算で0.14g:1.1mmol)、トリノルマルオクチルアミン0.03g(0.09mmol)、及び5質量%Pd/C触媒0.1gを、内容積70mlのオートクレーブ中で、アルゴン雰囲気下、攪拌子存在下で混合し、原料混合物とした。前記原料混合物を含むオートクレーブを密閉後、H2圧力4MPaとなるようにH2を仕込んだ。
前記オートクレーブを反応温度である90℃に設定した電気炉内に設置して昇温し、15分経過した時点を反応開始とした。反応開始から4時間経過後、オートクレーブを電気炉から取り出し、室温まで放冷後、残圧をパージした後、オートクレーブ中の反応混合物を全量回収した。
オートクレーブ回収物約2gを採取し、0.45μmシリンジフィルターにより濾過した後に秤量し、内部標準としてジグライムを0.2g加え、GC測定用サンプルとした。
以下、実施例1同様にGC分析を行なった。結果を表1に示した。
(合成例2)
合成例1において原料混合物中に硫酸ナトリウム8.0gを加えた以外は、合成例1と同様に反応を行ない、反応混合物を回収した。反応混合物中に含まれるHMF量は9.8質量%であった。
(実施例4)
上記合成例2で製造した反応混合物であるHMF含有トリグライム溶液2g(HMF換算で0.2g:1.6mmol)及びトリノルマルオクチルアミンに替えてトリエチルアミン0.002g(0.04mmol)を使用した以外は実施例3と同様の方法で、反応を行ない、GC分析を行った。結果を表1に示した。
(比較例2)
実施例3における原料混合物に、トリノルマルオクチルアミンを添加しなかったこと以外は実施例3と同様の方法で反応を行ない、GC分析を行った。結果を表1に示す。
Figure 0006269384
実施例1と、比較例1との比較において、塩基を加えずに反応を行った場合、大半が水素化分解したのに対し、トリノルマルオクチルアミンを使用した場合は、BHTFの収率が向上し、水素化分解物の生成を抑制することができたことがわかる。
この傾向は、実施例2、3及び4と、比較例2の比較においても同様で、反応温度を下げた場合も同様の傾向があることがわかる。
すなわちフラン化合物を還元し、2−ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を製造する際に、塩基を共存させることにより、ヒドロキシメチル基の分解を抑制することができるため、目的物の収率を飛躍的に向上させることができることがわかる。
これは塩基を添加することにより、使用するPd触媒周辺の酸点が中和され、また塩基がPdに配位することで適度に活性が弱められることで、水素化時におけるヒドロキシメチル基の分解が抑制できたものと考えられる。
HMFを原料とする場合、2,5−フランジメタノール、5−ヒドロキシ−2−ホルミル−テトラヒドロフランが反応中間体となる。これらをBHTFまで水素化して押し切る場合に、ヒドロキシル基の水素化分解が進行してしまうことがあった。この場合も、触媒に塩基を添加した系であれば、水素化分解が抑制されており、反応を押切ることが可能で、収率を向上させることができた。
(実施例5)
オートクレーブ(70ml)に、5−ヒドロキシメチル−2−フルアルデヒド(HMF:アルドリッチ社製)1.0g(7.9mmol)、テトラヒドロフラン1.0g(原料液を溶質濃度50質量%に調製)、トリノルマルオクチルアミン0.065g(0.18mmol)、及び5質量%Pd/C触媒0.2gを、内容積70mlのオートクレーブ中でアルゴン雰囲気下、攪拌子存在下で混合し、原料混合物とした。前記原料混合物を含むオートクレーブを密閉後、H2圧力8MPaとなるようにH2を仕込んだ。前記オートクレーブを反応温度である90℃に設定した電気炉内に設置して昇温し、15分経過した時点を反応開始とした。反応開始から4時間経過後、電気炉の温度を150℃に上昇させ、その後1時間反応させた。反応終了後はオートクレーブを電気炉から取り出し、室温まで放冷後、残圧をパージした後、反応に供したオートクレーブ中の反応混合物を全量回収した。
前記反応混合物にTHFを4.5g加えて均一化した後、約2gを採取し、0.45μmシリンジフィルターを用いて濾過した後、(ロータリーエバポレーターを用いて)減圧留去し、ジメチルスルホキシド−d6を加えてNMR測定サンプルとした。前記NMR測定サンプルを、上記の方法により1H−NMR測定を行なった。結果を表2に示す。
(実施例6)
HMF0.5g(4.0mmol)、テトラヒドロフラン0.5g、エチレンジアミン0.03g(0.04mmol)、及び5質量%Pd/C触媒を0.1gを用いて原料混合物を調製し、反応に供した以外は、実施例5と同様の方法で反応を行ない、得られた反応混合物を実施例5と同様に1H−NMR測定を行なった。結果を表2に示す。
(実施例7)
実施例6の反応混合物において、エチレンジアミンに替えてジイソプロピルエチルアミン0.03g(0.23mmol)を用いた以外は実施例5と同様の方法で反応を行ない、得られた反応混合物を実施例5と同様に1H−NMR測定を行なった。結果を表2に示す。
Figure 0006269384
文献値は(1) Organic Process Research & Development 2010,14, 459-465を引用
文献値ではtrans体の比率が5〜15%程度であったが、本発明の製造方法によって得られたBHTFのtrans体の比率は25〜33%と大幅に増大した。これは塩基を加えることによってパラジウム触媒のパラジウム原子周辺がバルキーな状態となり、基質の触媒への接触に制限が生じるため、選択性が発現したものと思われる。また、塩基を添加することにより、高温の反応条件でも水素化分解が抑制できるため、熱力学的に安定なtrans体の製造に有利と考えられる条件を選択できることも一因と考えられる。trans体の多いBHTFが製造できるため、ポリマーのモノマーとして使用した場合、cis体が多いものを使用するよりもガラス転移点が高まるなどのポリマー物性面でのメリットが期待できる。
本発明の製造方法により、ヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロフラン化合物を製造する際に、ヒドロキシメチル基の水素化分解を抑制することができ、効率よくテトラヒドロフラン化合物を得ることができる。特にモノマーとして利用が可能なBHTFを収率よく製造できることで、これを用いたポリマーを製造が期待できる。

Claims (7)

  1. フラン化合物を還元反応に供し、テトラヒドロフラン化合物を製造する方法であって、前記還元反応が、水素雰囲気において下記一般式(1)で表されるフラン化合物を塩基の共存下、パラジウム触媒と接触させて還元し、下記一般式(2)で表されるテトラヒドロフラン化合物を得ることを特徴とする、テトラヒドロフラン化合物の製造方法。
    Figure 0006269384
    (上記一般式(1)において、Raは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、Rbは炭素数1〜5のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、カルボキシル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシル基を表す。またR1とR2は互いに結合して環を形成していてもよい。)
    Figure 0006269384
    (上記一般式(2)において、Rcは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を表し、R1及びR2は前記一般式(1)と同義である。)
  2. 前記塩基が、アミン類である、請求項1に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
  3. 前記還元反応において用いられる塩基の含有率が、前記パラジウム触媒に含まれるパラジウム原子に対し、50mol%以上、5000mol%以下である、請求項1または2に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
  4. 前記パラジウム触媒が、炭素、シリカ及びアルミナから選ばれる少なくとも1種に担持された触媒である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
  5. 前記フラン化合物と前記パラジウム触媒とを、90℃以上、150℃以下の温度で接触させる工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
  6. 前記一般式(2)において、Rcがヒドロキシメチル基である請求項1〜5のいずれか1項に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
  7. 前記テトラヒドロフラン化合物中に含まれるtrans体の含有率が、前記テトラヒドロフラン化合物の全量に対し、25mol%以上である、請求項6に記載のテトラヒドロフラン化合物の製造方法。
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