本発明による放射線遮蔽体は、特に、沸騰水型原子力プラントにおいて炉内機器や燃料を搬出する際に用いられる。本発明による放射線遮蔽体は、互いに接続され、注液及び排液により上下方向又は横方向に伸縮可能な複数の放射線遮蔽袋(以下、単に「遮蔽袋」とも称する)を備える。遮蔽袋のそれぞれは、支持部材に固定されて配列され、互いに接続される。遮蔽袋のそれぞれは、遮蔽を行うための液体を収容可能であり、注液されると注液圧により膨張し、排液すると縮小して、上下方向又は横方向に伸縮可能である。遮蔽袋のそれぞれは、内部に、遮蔽袋の上下方向又は横方向の一方側とこの一方側に対向する他方側とを接続し伸縮可能な部材を備える。この伸縮可能な部材は、例えば、棒状部材、又は巻き上げバネと線状部材との組み合わせで構成され、遮蔽袋が上下方向又は横方向に縮小するのを案内する。伸縮可能な部材を構成する棒状部材としては、例えば、シリンダやバネを用いることができ、線状部材としては、例えば、テンションワイヤーを用いることができる。
また、遮蔽袋のそれぞれは、外面に形状維持部材を備える。この形状維持部材は、例えば金属の線若しくは板、又は繊維強化プラスチック(FRP)で構成され、遮蔽袋の膨張方向以外の方向の形状を維持し、遮蔽袋が膨張方向以外の方向に膨張するのを抑制する。本発明による放射線遮蔽体は、遮蔽袋を上下方向又は横方向に伸縮させることにより、放射線遮蔽体の設置と撤収が容易にでき、沸騰水型原子炉プラントにおける炉内機器の搬出を効率的に行うことができる。
遮蔽袋の内部に収容する液体としては、水などの、放射線の遮蔽効果を有する液体を用いることができる。水以外にも、例えば、常温で流動性があり、放射線に対する十分な遮蔽性を確保するために少なくともコンクリートの比重(2.15g/cm3)以上の比重を持つ材料を用いることができる。例えば、硫酸バリウムを溶液に分散させた材料は、医療材等として使われており人体への害はなく、また常温で液体になり、比重も4.5g/cm3程度を有しており、遮蔽材として適している。
遮蔽袋の内部の液体は、原子炉格納容器(PCV)の内部に排出してもよい。遮蔽袋から液体を排出することで、炉内から搬出する機器の重量を軽減可能であり、これにより作業の効率化が図れる。
以下、本発明の実施例による放射線遮蔽体を説明する。なお、以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付け、それらの繰り返しの説明は省略する場合がある。
初めに、本発明の実施例による放射線遮蔽体が用いられる沸騰水型原子力プラントの概略構造を、図1を用いて説明する。
図1は、沸騰水型原子力プラントの概要を表す図である。沸騰水型原子力プラント1は、原子炉2及び原子炉格納容器(以下、PCV3という)を備える。PCV3は、原子炉建屋4内に設置されて、上端部にPCV上蓋5が取り付けられて密封されている。PCV3は、内部に形成されたドライウエル6、及び冷却水が充填された圧力抑制プールが内部に形成された圧力抑制室7を有する。ドライウエル6に連絡されるベント通路8の一端が、圧力抑制室7内の圧力抑制プールの冷却水中に浸漬されている。PCV上蓋5の真上に、複数に分割された放射線遮へい体であるシールドプラグ9が配置され、これらのシールドプラグ9が、原子炉建屋4の運転床に設置されている。
原子炉2は、RPV上蓋10が取り付けられて構成される原子炉圧力容器(以下、RPV11という)、核燃料物質を含む複数の燃料集合体が装荷された炉心12、気水分離器13及び蒸気乾燥器14を備える。炉心12、気水分離器13及び蒸気乾燥器14は、RPV11内に配置される。RPV11内に設置された炉心シュラウド15が、炉心12を取り囲んでいる。炉心12内に装荷された各燃料集合体16は、下端部が炉心支持板17によって支持され、上端部が上部格子板18によって保持される。気水分離器13は、炉心12の上端部に位置する上部格子板18よりも上方に配置される。蒸気乾燥器14は、気水分離器13の上方に配置される。
複数の制御棒案内管19が炉心12の下方に配置され、炉心12の下方は、複数の制御棒案内管19とシュラウドサポートシリンダにより構成されている。炉心12内の燃料集合体16間に出し入れされて原子炉出力を制御する制御棒20が、各制御棒案内管19内に配置されている。複数の制御棒駆動機構ハウジング21が、RPV11の下鏡22に取り付けられている。制御棒駆動機構(図示せず)が、それぞれの制御棒駆動機構ハウジング21内に設置され、制御棒案内管19内の制御棒20と連結されている。RPV11内に設置された気水分離器13、蒸気乾燥器14、炉心シュラウド15、上部格子板18、炉心支持板17、サポートシリンダ、制御棒案内管19、及び炉心シュラウド下部胴は、炉内構造物である。
RPV11は、PCV3内の底部に設けられたコンクリートマット23上に設けられた筒状のペデスタル24上に据え付けられている。筒状のγ線遮蔽体25が、ペデスタル24の上端に設置され、RPV11を取り囲んでいる。
原子炉建屋4には、原子炉ウエル26を挟んで、ドライヤ・セパレータ貯蔵プール(以下、「DSP」27という)及び使用済みの燃料を一時的に保管する使用済燃料貯蔵プール(以下、「SFP」28という)が設けられている。DSP27は、定期検査時に気水分離器13や蒸気乾燥器14といった炉内構造物を仮置きする場所として使われる。また、RPV上蓋10の上部には、RPV保温材が設けられている。
炉内機器と燃料を搬出する作業を実施する前の準備作業として、各種装置を設けるための領域である作業ハウスを、原子炉の運転床上に設置する。本実施例では、この作業ハウス内に設置する放射線遮蔽体について説明する。
図2、図3A、及び図3Bを用いて、本実施例による放射線遮蔽体を説明する。図2は、本実施例による放射線遮蔽体100を示す図である。図2の上図は、放射線遮蔽体100の上面図であり、下図は、放射線遮蔽体100の排液時の正面図である。図3Aは、放射線遮蔽体100を構成する遮蔽袋101の注液時の正面図であり、図3Bは、遮蔽袋101の排液時の正面図である。
本実施例による放射線遮蔽体100は、互いに接続された複数の遮蔽袋101を備える。遮蔽袋101のそれぞれは、ボルト等で支持部材107に直接固定される。遮蔽袋101のそれぞれは、内部に液体を収容可能であり、注液されると注液圧により上方向に膨張し、排液されると下方向に縮小して、上下に伸縮可能である。遮蔽袋101のそれぞれは、内部に、遮蔽袋101の上部と下部を接続し伸縮可能な棒状部材102と、伸縮可能で注液及び排液のための給排液管104と、水中ポンプ105を備える。棒状部材102は、例えばシリンダ又はばねで構成されて伸縮可能であり、遮蔽袋が上下方向に膨張と縮小するのを案内する。給排液管104は、樹脂からなる管状部材をらせん状にしたものであり、全体として伸縮可能である。給排液管104に用いる樹脂としては、耐放射線性を考慮し、例えば、ポリウレタン樹脂、及びポリアミド樹脂(ナイロン)を用いることができる。また、遮蔽袋101のそれぞれは、外側面(上面と下面を含まず)に形状維持部材103を備える。形状維持部材103は、例えば金属の線若しくは板、又は繊維強化プラスチック(FRP)で構成され、遮蔽袋の横方向の形状を維持し、遮蔽袋が横方向に膨張するのを抑制する。
放射線遮蔽体100は、支持部材107の上に載置され、上部に上蓋106が設置される。また、複数の遮蔽袋101は、一部に空隙108が設けられて、互いに接続される。この空隙は、吊上げ天秤109のワイヤロープを通すためのものである。
図3Aに示すように、給排液管104は、図示しない外部ポンプに接続され、外部ポンプにより圧送された液体が流れる。遮蔽袋101は、給排液管104から液体が注入されると、注液圧により膨張する。このとき、遮蔽袋101は、形状維持部材103により横方向の膨張が抑制され、棒状部材102に案内されて上方向に膨張する。この放射線遮蔽体100により、放射線の遮蔽効果が得られる。
図3Bに示すように、遮蔽袋101の内部の液体が水中ポンプ105により圧送されて給排液管104を通して排出されると、遮蔽袋101は、内圧が低下し、棒状部材102に案内されて下方向に縮小する。遮蔽袋101には折り目があるが、棒状部材102は、例えばシリンダ又はばねで構成されているので、排液にあわせて強制的に遮蔽袋101を縮小させることができる。遮蔽袋101を下方向に縮小することで、炉内機器を吊り上げたときに、放射線遮蔽体100と天井クレーンとの隙間を狭くすることができ、吊り揚程をできるだけ確保することができる。
図4A及び図4Bを用いて、本実施例による放射線遮蔽体の別の構成を説明する。図4Aは、放射線遮蔽体100を構成する遮蔽袋151の注液時の正面図であり、図4Bは、遮蔽袋151の排液時の正面図である。遮蔽袋151は、内部に給排液管104と水中ポンプ105を備えず、下面に給排液穴110を備える。また、支持部材107は、遮蔽袋151の給排液穴110に接続するマニホールド111を備える。さらに、遮蔽袋151の底部には、マニホールド111に接続された排液ポンプ112が設置され、排液ポンプ112には給排液管113が接続される。給排液管113には、図示しない外部ポンプが接続される。
図4Aに示すように、図示しない外部ポンプによって給排液管113を通してマニホールド111へ液体が注入されると、遮蔽袋151は、マニホールド111から液体が注入され、注液圧により上方向に膨張する。
図4Bに示すように、排液ポンプ112がマニホールド111内の液体を給排液管113へ排液すると、遮蔽袋151の内部の液体がマニホールド111を通して排出され、遮蔽袋151は、内圧が低下し、棒状部材102に案内されて下方向に縮小する。
図4A及び図4Bに示す構成のように、遮蔽袋151の内部に給排液管104と水中ポンプ105を設けないと、遮蔽袋151の構造を簡素化でき、遮蔽袋151の重量を低減できるという効果がある。
炉内機器と燃料を搬出する作業では、作業ハウスを原子炉の運転床上に設置した後、シールドプラグ9を搬出する。本実施例では、シールドプラグ9の搬出作業で用いられ、シールドプラグ9と置き換えるための放射線遮蔽体について説明する。
図5Aは、本実施例による放射線遮蔽体200の上面図である。本実施例による放射線遮蔽体200は、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cという3つの部分からなる。第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cは、いずれも複数の遮蔽袋201を備える。上方から見ると、第1遮蔽体200Aと第3遮蔽体200Bは円弧と直線で囲まれた形状であり、第2遮蔽体200Cは2辺が円弧からなる四角形状であり、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cを合わせると円形になる。第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cは、それぞれの形状に対応した平板を支持部材207として使用し、この平板の下面に吊り具で固定される。
図5Bは、シールドプラグ9が搬出された後、放射線遮蔽体200の各部分がシールドプラグ9に置き換えられて設置される様子を示した正面図である。シールドプラグ9は、PCVの正面に向かって右側部、中央部、及び左側部の3つの部分に分けられ、各部分がシールドプラグ引上げジャッキにて原子炉ウエル26の上面まで引上げられて搬出される。引上げたシールドプラグ9の位置に、放射線遮蔽体200が設置される。第1遮蔽体200Aは、シールドプラグ9の右側部の位置に、第2遮蔽体200Bは、シールドプラグ9の左側部の位置に、第3遮蔽体200Cは、シールドプラグ9の中央部の位置に、それぞれ設置される。放射線遮蔽体200の設置に際しては、シールドプラグ引上げジャッキに設けられた引き込み装置を用いる。
図6Aは、放射線遮蔽体200を構成する遮蔽袋201の注液時の正面図であり、図6Bは、遮蔽袋201の排液時の正面図である。遮蔽袋201は、図3Aと図3Bに示した遮蔽袋101と同様に、形状維持部材103、給排液管104、及び水中ポンプ105を備える。放射線遮蔽体200は、上部に上蓋106が設置される。上蓋106には、巻き上げバネ202が設置され、巻き上げバネ202には、線状部材であるテンションワイヤー205が接続される。テンションワイヤー205は、一端が巻き上げバネ202に接続され、他端が遮蔽袋201の下部に接続される。巻き上げバネ202とテンションワイヤー205は、遮蔽袋201の一方側とこの一方側に対向する他方側とを接続する伸縮可能な部材を構成し、遮蔽袋201が縮小するのを案内する。また、放射線遮蔽体200は、上蓋106の上面に設けられた突出部によって、支持部材207に設けられた吊り具203から吊り下げられる。支持部材207は、着座リング204を有し、シールドプラグ9が設置してあった位置、すなわち、原子炉ウエル26の円周(外周面)に、着座リング204を介して設置される。
図6Aに示すように、給排液管104は、図示しない外部ポンプに接続され、外部ポンプにより圧送された液体が流れる。遮蔽袋201は、給排液管104から液体が注入されると、注液圧により膨張する。このとき、遮蔽袋201は、形状維持部材103により横方向の膨張が抑制され、液体の重量により下方向に膨張する。この放射線遮蔽体200により、シールドプラグ9を取り外しても、放射線の遮蔽効果が得られる。
図6Bに示すように、遮蔽袋201の内部の液体が水中ポンプ105により圧送されて給排液管104を通して排出されると、遮蔽袋201は、内圧が低下する。すると、遮蔽袋201は、排液による液体の重量の低減にあわせて、巻き上げバネ202の弾性力の作用で強制的に上方向に縮小する。テンションワイヤー205は、遮蔽袋201の下部を引上げ、遮蔽袋201が上方向に縮小するのを案内する。巻き上げバネ202のバネ定数は、遮蔽袋201に注入する液体の重量に応じて定める。
図7A〜図7Iを用いて、シールドプラグ9を放射線遮蔽体200に置き換える手順を説明する。放射線遮蔽体200(第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200C)の設置には、シールドプラグ引上げジャッキに設けられた引き込み装置を用いる。
図7Aに示すように、シールドプラグ9の右側部206Aを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、放射線遮蔽体200の第1遮蔽体200Aを、引上げたシールドプラグ9の右側部206Aのあった位置に挿入する。
次に、図7Bに示すように、第1遮蔽体200Aを、シールドプラグ9の右側部206Aが設置してあった位置(原子炉ウエル26の外周面)に着座させる。
次に、図7Cに示すように、第1遮蔽体200Aの内部に注液し、第1遮蔽体200Aを下方向に膨張させ、第1遮蔽体200Aによる遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の右側部206Aを取り外しても、放射線の遮蔽効果が得られる。
次に、図7Dに示すように、シールドプラグ9の左側部206Bを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、放射線遮蔽体200の第2遮蔽体200Bを、引上げたシールドプラグ9の左側部206Bのあった位置に挿入する。
次に、図7Eに示すように、第2遮蔽体200Bを、シールドプラグ9の左側部206Bが設置してあった位置(原子炉ウエル26の外周面)に着座させる。
次に、図7Fに示すように、第2遮蔽体200Bの内部に注液し、第2遮蔽体200Bを下方向に膨張させ、第2遮蔽体200Bよる遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の左側部206Bを取り外しても、放射線の遮蔽効果が得られる。
次に、図7Gに示すように、シールドプラグ9の中央部206Cを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、放射線遮蔽体200の第3遮蔽体200Cを、引上げたシールドプラグ9の中央部206Cのあった位置に挿入する。
次に、図7Hに示すように、第3遮蔽体200Cを、シールドプラグ9の中央部206Cが設置してあった位置(原子炉ウエル26の外周面)に着座させる。
次に、図7Iに示すように、第3遮蔽体200Cの内部に注液し、第3遮蔽体200Cを下方向に膨張させ、第3遮蔽体200Cよる遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の中央部206Cを取り外しても、放射線の遮蔽効果が得られる。
図7A〜図7Iを用いて説明した以上の手順により、シールドプラグ9を全て取り外しても、放射線遮蔽体200(第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200C)により遮蔽効果が得られる。
本実施例では、PCV上蓋5の搬出作業などに用いる放射線遮蔽体について説明する。本実施例による放射線遮蔽体は、DSP27から原子炉ウエル26上に展開される、展開式の放射線遮蔽体である。
図8は、本実施例による放射線遮蔽体300をDSP27から原子炉ウエル26上に展開した状態を示す図である。図8の上図は上面図であり、下図は正面図である。本実施例による放射線遮蔽体300は、実施例2による本実施例による放射線遮蔽体200と同様に、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cという3つの部分からなる。DSP27には、作業領域である補助ハウスが設けられ、補助ハウスに放射線遮蔽体300が設置される。第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cは、補助ハウスからレールなどのスライド機構301を用いて原子炉ウエル26の内部に挿入され、遮蔽袋201に液体が注入される。液体の注入により遮蔽袋201が膨張することで、放射線遮蔽体300は、原子炉2の内部からの放射線を遮蔽することができる。
本実施例による放射線遮蔽体300では、遮蔽袋201のそれぞれは、ボルト等で支持部材304の下面に直接固定される。また、本実施例による放射線遮蔽体300は、図8に示すように、リンク部材であるリンクアーム302と、押し出しシリンダ303を備える。リンクアーム302は、遮蔽袋201の上部に設けられ、押し出しシリンダ303は、遮蔽袋201を固定する支持部材304に設けられる。押し出しシリンダ303は、支持部材304を起点にリンクアーム302に押力を加える。
リンクアーム302は、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、第3遮蔽体200C、及び原子炉ウエル26のそれぞれの間の隙間を微調整するためのものであり、複数の板状部材が互いに軸回転可能に接続されて構成される(例えば、複数の板状部材がパンタグラフ形に接続されて構成される)。各板状部材が軸を中心に回転することで、リンクアーム302は、全体として伸縮可能である。第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cの遮蔽袋201は、注液により伸縮方向(下方向)以外にも多少膨張する。リンクアーム302は、この膨張を利用し、遮蔽袋201の膨張時の圧力で、遮蔽袋201の幅方向(横方向)の変化に合わせて伸長する。リンクアーム302は、伸長することで、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cのそれぞれの遮蔽袋201を互いに密着させたり、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cを互いに密着させたり、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cを原子炉ウエル26に密着させたりする。
図9A〜図9Fを用いて、放射線遮蔽体300をDSP27から原子炉ウエル26上に展開する手順を説明する。なお、図9A〜図9Fにおいて、上図は原子炉ウエル26とDSP27の上面図であり、下図は正面図である。
図9Aに示すように、まず、DSP27に放射線遮蔽体300(第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200C)を設置する。作業の効率化のため、第1遮蔽体200Aの下方に第2遮蔽体200Bを、第2遮蔽体200Bの下方に第3遮蔽体200Cを設置する。
次に、図9Bに示すように、押し出しシリンダ303で、第1遮蔽体200Aを原子炉ウエル26へ移動させる。移動後の第1遮蔽体200Aは、原子炉ウエル26の中央部に位置する。第1遮蔽体200Aの移動後、第2遮蔽体200Bをリフトで上昇させ、第1遮蔽体200Aがあった位置へ移動させるとともに、第3遮蔽体200Cをリフトで上昇させ、第2遮蔽体200Bがあった位置へ移動させる。
次に、図9Cに示すように、押し出しシリンダ303で、第1遮蔽体200Aを原子炉ウエル26の一端側へ移動させる。
次に、図9Dに示すように、第1遮蔽体200Aと同様に、押し出しシリンダ303で、第2遮蔽体200Bを原子炉ウエル26へ移動させ、原子炉ウエル26の他端側へ移動させる。第2遮蔽体200Bの移動後、第3遮蔽体200Cをリフトで上昇させ、第1遮蔽体200Aが当初あった位置へ移動させる。
次に、図9Eに示すように、押し出しシリンダ303で、第3遮蔽体200Cを原子炉ウエル26へ移動させる。第3遮蔽体200Cは、第1遮蔽体200Aと第2遮蔽体200Bの間に位置する。
次に、図9Fに示すように、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cのそれぞれの遮蔽袋201に注液し、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cを下方向に膨張させ、放射線遮蔽体300による遮蔽を実施する。第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cは、リンクアーム302により、互いに密着する。また、第1遮蔽体200A、第2遮蔽体200B、及び第3遮蔽体200Cと原子炉ウエル26も、リンクアーム302により、互いに密着する。
これにより、PCV上蓋5を搬出するときなどにおいて、原子炉2の内部からの放射線を遮蔽することができる。遮蔽袋201の内部の液体は、実施例2で述べたように、水中ポンプ105により圧送されて排出することができる。液体を排出して縮小した遮蔽袋201は、スライド機構301を用いて、DSP27内の補助ハウスに引き戻される。
以上の実施例では、上下方向に伸縮する放射線遮蔽体について説明した。本実施例では、横方向(横方向の一方向)に伸縮するスライド式の放射線遮蔽体400について説明する。本実施例による放射線遮蔽体400は、実施例2で述べたシールドプラグ9の搬出作業や、実施例3で述べたPCV上蓋5の搬出作業などに用いることができる。また、シールドプラグ9と置き換えた後は、随時、PCV上蓋5やRPV上蓋10等を搬出する際に、原子炉2の内部からの放射線を遮蔽するために用いることができる。本実施例による放射線遮蔽体400は、複数の遮蔽袋401から構成される。
図10Aは、本実施例による放射線遮蔽体400を構成する遮蔽袋401の排液時の図であり、図10Bは、遮蔽袋401の注液時の図である。図10Aと図10Bにおいて、上図は遮蔽袋401の正面図であり、下図は遮蔽袋401の下面図であり遮蔽袋401の支持部材404を示す図である。
本実施例での遮蔽袋401は、実施例2による放射線遮蔽体200を構成する遮蔽袋201(図6Aと図6Bを参照)において、上下方向と横方向を入れ替えたものに相当する。遮蔽袋401は、上面と下面と伸縮方向(横方向)に平行な側面とに形状維持部材103を備え、内部に給排液管104、水中ポンプ105、及び巻き上げバネ202を備える。遮蔽袋401は、形状維持部材103により上下方向と伸縮方向に垂直な方向との膨張が抑制され、後述するリンク機構404Aと走行輪404Bとに案内されて横方向の一方向に膨張する。巻き上げバネ202は、遮蔽袋401の横方向(伸縮方向)の一端側に設けられ、遮蔽袋401の下部に固定される。巻き上げバネ202には、線状部材であるテンションワイヤー205が接続される。テンションワイヤー205は、一端が巻き上げバネ202に接続され、他端が遮蔽袋401の横方向の他端側(伸縮方向において巻き上げバネ20と反対側の側部)に接続される。巻き上げバネ202とテンションワイヤー205は、遮蔽袋401の一方側とこの一方側に対向する他方側とを接続する伸縮可能な部材を構成し、遮蔽袋401が縮小するのを案内する。
遮蔽袋401は、支持部材404上に設置される。支持部材404は、底部に、リンク機構404Aと走行輪404Bを備える。リンク機構404Aは、複数の板状部材が互いに軸回転可能に接続されて構成される(例えば、複数の板状部材がパンタグラフ形に接続されて構成される)。各板状部材が軸を中心に回転することで、リンク機構404Aは、全体として横方向(横方向の一方向)に伸縮可能である。リンク機構404Aは、遮蔽袋401の伸縮に合わせて、全体として拡がる又は縮むように動き、走行輪404Bは、リンク機構404Aの動きに合わせて回転する。遮蔽袋401の伸縮方向は、走行輪404Bの走行方向である。このようにして、遮蔽袋401は、横方向へスライドして伸縮する。また、走行輪404Bは、図示しないモータが連結され、放射線遮蔽体400の走行部を兼ねている。したがって、本実施例による放射線遮蔽体400は、走行輪404Bの回転とリンク機構404Aの動きにより、原子炉ウエル26上を移動して、目的の位置で遮蔽することができる。
図11A〜図11Dを用いて、シールドプラグ9を放射線遮蔽体400に置き換える手順を説明する。
図11Aに示すように、放射線遮蔽体400を、原子炉2の運転床上に設置する。放射線遮蔽体400は、排液時の状態であり、縮小している。放射線遮蔽体400は、遮蔽時には、シールドプラグ9の右側部206A、左側部206B、及び中央部206Cに対応する位置に設置する。したがって、予め、3つの放射線遮蔽体400を、遮蔽時(膨張時)にこれらの位置に設置しやすいような位置に、原子炉2の運転床上に配置しておく。
次に、図11Bに示すように、シールドプラグ9の右側部206Aを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、シールドプラグ9の右側部206Aに対応する位置を遮蔽する放射線遮蔽体400の遮蔽袋401に注液する。遮蔽袋401は横方向(原子炉ウエル26の中央に向かう方向であり、図11Bでは左方向)に膨張してスライドするので、放射線遮蔽体400は、横方向に膨張して遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の右側部206Aを取り外しても、原子炉ウエル26からの放射線を遮蔽する効果が得られる。
次に、図11Cに示すように、シールドプラグ9の左側部206Bを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、シールドプラグ9の左側部206Bに対応する位置を遮蔽する放射線遮蔽体400の遮蔽袋401に注液する。遮蔽袋401は横方向(原子炉ウエル26の中央に向かう方向であり、図11Cでは右方向)に膨張してスライドするので、放射線遮蔽体400は、横方向に膨張して遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の右側部206Bを取り外しても、原子炉ウエル26からの放射線を遮蔽する効果が得られる。
次に、図11Dに示すように、シールドプラグ9の中央部206Cを、図示しないシールドプラグ引上げジャッキで原子炉ウエル26の上面まで引上げた後、シールドプラグ9の中央部206Cに対応する位置を遮蔽する放射線遮蔽体400の遮蔽袋401に注液する。遮蔽袋401は横方向に(原子炉ウエル26の中央に向かって)膨張してスライドするので、放射線遮蔽体400は、横方向に膨張して遮蔽を実施する。これにより、シールドプラグ9の中央部206Cを取り外しても、原子炉ウエル26からの放射線を遮蔽する効果が得られる。
図11A〜図11Dを用いて説明した以上の手順により、シールドプラグ9を全て取り外しても、放射線遮蔽体400により、原子炉ウエル26の開放部の全面を遮蔽する効果が得られる。
次に、図12を用いて、本実施例による放射線遮蔽体400を、PCV上蓋5の搬出作業に用いる例について説明する。
図12は、原子炉ウエル26とDSP27の上面図である。原子炉ウエル26の上面に、複数の放射線遮蔽体400を配置する。放射線遮蔽体400は、遮蔽袋401が膨張すると、原子炉ウエル26の中央に向かって(図12の矢印の方向に向かって)スライドするように配置する。放射線遮蔽体400の遮蔽袋401に注液すると、遮蔽袋401は、横方向に(原子炉ウエル26の中央に向かって)膨張してスライドするので、放射線遮蔽体400は、横方向に膨張して遮蔽を実施する。これにより、原子炉ウエル26からの放射線を遮蔽する効果が得られる。
本実施例では、本発明による放射線遮蔽体を構成する遮蔽袋の素材について説明する。
図13は、本発明の実施例による放射線遮蔽体を構成する遮蔽袋の素材について説明する図である。遮蔽袋は、ポリウレタン製のフィルム1100と、補強材としてのアラミド繊維のシート1110とステンレス繊維のシート1120とから形成される。図13に示すように、2枚のポリウレタン製のフィルム1100の間に2枚のアラミド繊維のシート1110を配置し、2枚のアラミド繊維のシート1110の間に1枚のステンレス繊維のシート1120を配置して、遮蔽袋を形成する。このように形成された遮蔽袋は、放射線に強く、補強材により必要な強度を保つことができ、また、構造物などに接触しても破損することがないという利点を有する。
なお、構造物などに接触する可能性が低い場合には、ステンレス繊維のシート1120を用いずに、2枚のポリウレタン製のフィルム1100と、その間に配置された1枚のアラミド繊維のシート1110とから遮蔽袋を形成してもよい。このような構成の遮蔽袋は、重量を低減できるという利点を有する。
図14は、本発明の実施例による放射線遮蔽体を構成する遮蔽袋の別の素材について説明する図である。遮蔽袋は、ポリウレタン製のゴムシート1130と、補強材としてのアラミド繊維のシート1110とステンレス繊維のシート1120とから形成される。図14に示すように、2枚のポリウレタン製のゴムシート1130の間に2枚のアラミド繊維のシート1110を配置し、2枚のアラミド繊維のシート1110の間に1枚のステンレス繊維のシート1120を配置して、遮蔽袋を形成する。このように形成された遮蔽袋は、図13に示した遮蔽袋が持つ利点に加えて、伸展性が向上するという利点を有する。
なお、構造物などに接触する可能性が低い場合には、ステンレス繊維のシート1120を用いずに、2枚のポリウレタン製のゴムシート1130と、その間に配置された1枚のアラミド繊維のシート1110とから遮蔽袋を形成してもよい。このような構成の遮蔽袋は、重量を低減できるという利点を有する。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成を追加・削除・置換することが可能である。