図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置である(カラーインクジェット)プリンタ1の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pを搬送ローラ80aから搬送ローラ80bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行するように平板状の(ヘッド搭載)フレーム70が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つ液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体(インク)が供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載される液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッドの群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッドの群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷することで、印刷速度(搬送速度)を速くすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ
80aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82bの間を通り、最終的に回収ローラ80bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80bは、搬送ローラ82bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、75m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、布などでもよい。また、プリンタ1を、印刷用紙Pの代わりに搬送ベルトを搬送する形態にし、記録媒体は、ロール状のもの以外に、搬送ベルト上に置かれた、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどにしてもよい。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付け、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。特に、液体吐出ヘッド2から吐出される液体の吐出特性(吐出量や吐出速度など)が外部の影響を受けるようであれば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力に応じて、液体吐出ヘッド2において液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
また、引用用紙Pは図1(a)に示されているように平面上を搬送する以外に、円筒形上のドラムの上を搬送してもよい。
次に、本発明の液体吐出ヘッド2について説明する。図2は、ヘッド本体2aの平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した平面図である。図4は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため図3とは異なる一部の流路を省略した図である。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべきしぼり6、吐出孔8、加圧室10などを実線で描いている。また、図4の吐出孔8は、位置を分かりやすくするため、実際の径よりも大きく描いてある。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。図6は、図5の一部を拡大した断面図である。なお、図6における部分流路(ディセンダ)13bを構成する孔の縦断面形状は、エッチングで作製した際に生じる形状を詳細に示してあるが、図5では省略して模式的に示している。
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外にリザーバや、金属製の筐体を含んでいてもよい。また。ヘッド本体2aは、流路部材4と、変位素子(加圧部)30が作り込まれている圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。
ヘッド本体2aを構成する流路部材4は、共通流路であるマニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備え、加圧室10は流路部材4の上面に開口しており、流路部材4の上面が加圧室面4−2となっている。また、流路部材4の上面にはマニホールド5と繋がる開口5aを有し、この開口5aより液体が供給されるようになっている。
また、流路部材4の上面には、変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子30が加圧室10上に位置するように設けられている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子30に信号を供給するためのFPC(Flexib
le Printed Circuit)などの信号伝達部60が接続されている。図2には、2つの信号伝達部60が圧電アクチュエータ基板21に繋がる状態が分かるように、信号伝達部60の圧電アクチュエータ基板21に接続される付近の外形を点線で示した。圧電アクチュエータ基板21に電気的に接続されている、信号伝達部60に形成されている電極は、信号伝達部60の端部に、矩形状に配置されている。2つの信号伝達部60は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部にそれぞれの端がくるように接続されている。2つの信号伝達部60は、中央部から圧電アクチュエータ基板21の長辺に向かって伸びている。
ヘッド本体2aは、平板状の流路部材4と、流路部材4上に接続された変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21を1つ有している。圧電アクチュエータ基板21の平面形状は長方形状であり、その長方形の長辺が流路部材4の長手方向に沿うように流路部材4の上面に配置されている。
流路部材4の内部には2つのマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向の一端部側から、他端部側に延びる細長い形状を有しており、その両端部において、流路部材4の上面に開口しているマニホールドの開口5aが形成されている。
また、マニホールド5は、少なくとも加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分が、幅方向に間隔を開けて設けられた隔壁15で仕切られている。隔壁15は、加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分では、マニホールド5と同じ高さを有し、マニホールド5を複数の副マニホールド5bに完全に仕切っている。このようにすることで、平面視したときに、隔壁15と重なるように、吐出孔8および吐出孔8から加圧室10に繋がっている流路13を設けることができる。
複数に分けられた部分のマニホールド5を副マニホールド5bと呼ぶことがある。本実施形態においては、マニホールド5は独立して2本設けられており、それぞれの両端部に開口5aが設けられている。また、1つのマニホールド5には、7つの隔壁15が設けられており、8つの副マニホールド5bに分けられている。副マニホールド5bの幅は、隔壁15の幅より大きくなっており、これにより副マニホールド5bに多くの液体を流すことができる。また、7つの隔壁15は、幅方向の中央に近いほど、長さが長くなっており、マニホールド5の両端において、幅方向の中央に近い隔壁15ほど、隔壁15の端がマニホールド5の端に近くなっている。これにより、マニホールド5の外側の壁により生じる流路抵抗と、隔壁15により生じる流路抵抗との間のバランスがとれ、各副マニホールド5bのうち、加圧室10に繋がる部分である個別供給流路14が形成されている領域の端における液体の圧力差を少なくできる。この個別供給流路14での圧力差は、加圧室10内の液体に加わる圧力差につながるため、個別供給流路14での圧力差を少なくすれば、吐出ばらつきを低減できる。
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形あるいは楕円形状の平面形状を有する中空の領域である。
加圧室10は、1つの副マニホールド5bと個別供給流路14を介して繋がっている。1つの副マニホールド5bに沿うようにして、この副マニホールド5bに繋がっている加圧室10の行である加圧室行11が、副マニホールド5bの両側に1列ずつ、合計2列設けられている。したがって、1つのマニホールド5に対して、16行の加圧室11が設けられており、ヘッド本体2a全体では32行の加圧室行11が設けられている。各加圧室行11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、例えば、37.5dpiの間隔となっている。
各加圧室行11の端にはダミー加圧室16が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5とは繋がっているが、吐出孔8とは繋がっていない。また、32行の加圧室行11の外側には、ダミー加圧室16が直線状に並んだダミー加圧室行が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5および吐出孔8のいずれとも繋がっていない。これらのダミー加圧室16により、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造(剛性)が他の加圧室10の構造(剛性)と近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。なお、周囲の構造の差の影響は、距離の近い、長さ方向に隣接する加圧室10の影響が大きいため、長さ方向には、両端にダミー加圧室16を設けてある。幅方向については、影響が比較的小さいため、ヘッド本体21aの端に近い方のみに設けている。これにより、ヘッド本体21aの幅を小さくできる。
1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、矩形状の圧電アクチュエータ基板21の各外辺に沿った行および列をなす格子上に配置されている。これにより、圧電アクチュエータ基板21の外辺から、加圧室10の上に形成されている個別電極25が等距離に配置されることになるので、個別電極25を形成する際に、圧電アクチュエータ基板21に変形が生じ難くできる。圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に、この変形が大きいと外辺に近い変位素子30に応力が加わり、変位特性にばらつきが生じるおそれがあるが、変形を少なくすることで、そのばらつきを低減できる。また、最も外辺に近い加圧室行11の外側にダミー加圧室16のダミー加圧室行が設けられているために、変形の影響をより受け難くできる。加圧室行11に属する加圧室10は等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25も等間隔で配置されている。加圧室行11は短手方向に等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25の行も短手方向に等間隔で配置されている。これにより、特にクロストークの影響が大きくなる部位をなくすことができる。
本実施形態では、加圧室10は格子状に配置したが、隣接する加圧室列11に属する加圧室10の間に角部が位置するように千鳥状に配置してもよい。このようにすると、隣接加する圧室行11に属する加圧室10の間の距離がより長くなるので、よりクロストークを抑制できる。
加圧室行11をどのように並べるかによらず、流路部材4を平面視したとき、1つの加圧室行11に属する加圧室10が、隣接する加圧室行11に属する加圧室10と、液体吐出ヘッド2の長手方向において、重ならないように配置することにより、クロストークを抑制できる。一方、加圧室行11の間の距離を離すと、液体吐出ヘッド2の幅が大きくなるので、プリンタ1に対する液体吐出ヘッド2の設置角度の精度や、複数の液体吐出ヘッド2を使用する際の、液体吐出ヘッド2の相対位置の精度が印刷結果に与える影響が大きくなる。そこで、隔壁15の幅を副マニホールド5bよりも小さくすることで、それらの精度が印刷結果に与える影響を少なくできる。
1つの副マニホールド5bに繋がっている加圧室10は、2列の加圧室行11を成しており、1つの加圧室行11に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8は、1つの吐出孔行9を成している。2列の加圧室行11に属する加圧室10に繋がっている吐出孔8はそれぞれ、副マニホールド5bの異なる側に開口している。図4では、隔壁15には、2行の吐出孔行9が設けられているが、それぞれの吐出孔行9に属する吐出孔8は、吐出孔8に近い側の副マニホールド5bに加圧室10を介して繋がっている。隣接する副マニホールド5bに加圧室行11を介して繋がっている吐出孔8と液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路間のクロストークが抑制できるので、さらにクロストークを少なくすることができる。加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路全体が、液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないよう
に配置されていると、さらにクロストークを少なくすることができる。
また、平面視において、加圧室10と副マニホールド5bとが重なるように配置することにより、液体吐出ヘッド2の幅を小さくできる。加圧室10の面積に対する、重なっている面積の割合が80%以上、さらに90%以上にすることで、液体吐出ヘッド2の幅をより小さくできる。また、加圧室10と副マニホールド5bとが重なっている部分の加圧室10の底面は、副マニホールド5bと重なっていない場合と比較して剛性が低くなっており、その差により吐出特性がばらつくおそれがある。加圧室10全体の面積に対する、副マニホールド5bと重なっている加圧室10の面積の割合を、各加圧室10で略同じにすることで、加圧室10を構成する底面の剛性が変わることによる吐出特性のばらつきを少なくすることができる。ここで略同じとは、面積の割合の差が、10%以下、特に5%以下であることを言う。
1つのマニホールド5に繋がっている複数の加圧室10により加圧室群が構成されており、マニホールド5が2つあるため、加圧室群は2つある。各加圧室群内における吐出に関わる加圧室10の配置は同じで、短手方向に平行移動させたに配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなった部分があるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。つまり、これらの加圧室10によって形成された加圧室群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
加圧室10の個別供給流路14が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面の吐出孔面4−1に開口している吐出孔8に繋がる流路13が伸びている。流路13は、平面視において、加圧室10から離れる方向に伸びている。より具体的には、加圧室10の長い対角線に沿う方向に離れつつ、その方向に対して左右にずれながら伸びている。これにより、加圧室10は各加圧室行11内での間隔が37.5dpiになっている格子状の配置にしつつ、吐出孔8は、全体で1200dpiの間隔で配置することができる。
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている16個の吐出孔8、全部で32個の吐出孔8が、1200dpiの等間隔となっているということである。これにより、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に1200dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている1個の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で600dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で2色の画像が形成可能となる。この場合、2つの液体吐出ヘッド2を用いれば、600dpiの解像度で4色の画像が形成可能となり、600dpiで印刷可能な液体吐出ヘッドを用いるよりも、印刷精度が高くなり、印刷のセッティングも簡単にできる。なお、ヘッド本体2aの短手方向に並んでいる1列の加圧室列に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8で、仮想直線のRの範囲がカバーされている。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極列および個別電極群を構成している。また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極24とビアホールを介して電気的に接続されている共通電極用表面電極
28が形成されている。共通電極用表面電極28は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部に、長手方向に沿うように2列形成され、また、長手方向の端近くで短手方向に沿って1列形成されている。図示した、共通電極用表面電極28は直線上に断続的に形成されたものであるが、直線上に連続的に形成してもよい。
圧電アクチュエータ基板21は、後述のようにビアホールを形成した圧電セラミック層21a、共通電極24、圧電セラミック層21bを積層し、焼成した後、個別電極25および共通電極用表面電極28を同一工程で形成するのが好ましい。個別電極25と加圧室10との位置ばらつきは吐出特性に大きく影響を与えること、個別電極25を形成した後、焼成すると圧電アクチュエータ基板21に反りが生じるおそれがあり、反りが生じた圧電アクチュエータ基板21を流路部材4に接合すると、圧電アクチュエータ基板21に応力が加わった状態になり、その影響で変位がばらつくおそれがあることから、個別電極25は、焼成後に形成される。共通電極用表面電極28も同様に反りを生じされるおそれがあることと、個別電極25と同時に形成した方が、位置精度が高くなり、工程も簡略化できるので、個別電極25と共通電極用表面電極28は同一工程で形成される。
このような圧電アクチュエータ基板21を焼成する際に生じるおそれのある、焼成収縮によるビアホールの位置ばらつきは、主に圧電アクチュエータ基板21の長手方向に生じるので、共通電極用表面電極28が偶数個あるマニホールド5の中央、別の言い方をすれば、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央に設けられており、共通電極用表面電極28が圧電アクチュエータ基板21の長手方向に長い形状をしていることにより、ビアホールと共通電極用表面電極28とが位置ずれにより電気的に接続されなくなることを抑制できる。
圧電アクチュエータ基板21には、2枚の信号伝達部60が、圧電アクチュエータ基板21の2つの長辺側から、それぞれ中央に向かうように配置され、接合される。その際、圧電アクチュエータ基板21の引出電極25bおよび共通電極用表面電極28の上に、それぞれ、接続電極26および共通電極用接続電極を形成して接続することで、接続が容易になる。また、その際、共通電極用表面電極28および共通電極用接続電極の面積を接続電極26の面積よりも大きくすれば、信号伝達部60の端部(先端および圧電アクチュエータ基板21の長手方向の端)における接続が、共通電極用表面電極28上の接続により強くできるので、信号伝達部60が端からはがれ難くできる。
また、吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されたマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、ベースプレート4b、アパーチャ(しぼり)プレート4c、サプライプレート4d、マニホールドプレート4e〜j、カバープレート4kおよびノズルプレート4lである。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5を構成するように、位置合わせして積層されている。加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は流路部材4の内部の下面側に、吐出孔8は流路部材4の下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、ヘッド本体2aには、加圧室10を介してマニホールド5と吐
出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端からマニホールド5へと繋がる個別供給流路14を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。なお、この個別供給流路14には、アパーチャプレート4cに形成されている、流路の断面積が小さくなっている部位であるしぼり6が含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路13を構成する連通孔である。流路13は、吐出孔8側で断面が狭くなっているノズル部13aと、ノズル部13aを除いた部分流路(ディセンダ)13bとからなる。流路13は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4l(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。ノズル部13aはノズルプレート4lに形成されており、ノズル部13aの孔は、吐出孔8として流路部材4の外部に開口している径が、例えば10〜40μmのもので、内部に向かって径が大きくなっていくものが開けられている。ノズル部13aの内壁の傾斜は10〜30度とされる。部分流路13bは、最小径と最大径との比が2倍程度の、径の差の大きくない孔が連なっており、その径は50〜200μm程である。
第4に、マニホールド5を構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4e〜jに形成されている。マニホールドプレート4e〜jには、副マニホールド5bを構成するように隔壁15となる仕切り部が残るように孔が形成されている。各マニホールドプレート4e〜jにおける仕切り部は、ハーフエッチングした支持部17で各マニホールドプレート4e〜jと繋がった状態にされる。
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、個別供給流路14に入り、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って平面方向に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って平面方向に進み、加圧室10の他端部に至る。加圧室10から部分流路13に入った液体は下方に向かいつつ、平面方向にも移動する。平面方向への移動は、最初は大きく、吐出孔8に近い部分で小さくなる。液体は、部分流路13bの端から径の小さくなったノズル部13を通り、下面に開口した吐出孔8へと進み、吐出される。
図3では、しぼり6となる部位を含むアパーチャプレート4cの孔(以下でしぼりとなる孔ということがある)は、同じ副マニホールド5bから繋がっている他の加圧室10とわずかに重なるようになっている。しぼり6となる部位を含むアパーチャプレート4cの孔は、平面視した場合に、副マニホールド5b内に含まれるように配置すれば、しぼり6をより密集して配置できるので好ましい。しかし、そのようにするとしぼり6となる孔全体が、副マニホールド5b上の、他の部位と比較して厚さの薄い部分に配置されることになり、周囲からの影響を受け易くなってしまう。そのような場合、平面視したときに、しぼり6となる孔が、該孔に直接的に繋がっている加圧室10以外の加圧室10と重ならないようにすれば、しぼり6となる孔が副マニホールド5b上の薄い部位に配置されていても直上にある他の加圧室10からの振動の影響を直接的に受け難くできる。このような配置は、しぼり6となる孔のあるプレート(複数のプレートで構成されている場合は、それらの内で最も上のプレート)と加圧室10となる孔のあるプレート(複数のプレートで構
成されている場合は、それらの内で最も下のプレート)との間のプレートが1枚であって、振動が伝わり易い場合に、特に必要とされる。また、しぼり6となる孔のあるプレートと加圧室10となる孔のあるプレートとの間の距離が200μm以下、さらには100μm以下である場合に、特に必要とされる。重ならないように配置するには、例えば、図3に示したしぼり6となる孔の角度をヘッド本体2aの短手方向に沿った方向に近づけるか、しぼり6となる孔の一端を少し短くするなどすればよい。
圧電アクチュエータ基板21は、圧電体である2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21aの下面から圧電セラミック層21bの上面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層21a、21bは、例えば、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびとAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。個別電極25は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている個別電極本体25aと、そこから引き出された引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が形成されている。接続電極26は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極26は、信号伝達部60に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極25には、制御部100から信号伝達部60を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極24は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24の厚さは2μm程度である。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bに形成されたビアホールを介して繋がっていて、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、多数の個別電極25と同様に、信号伝達部60上の別の電極と接続されている。
なお、後述のように、個別電極25に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極25に対応する加圧室10の体積が変わり、加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路12を通じて、対応する吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および吐出口8に対応する個別の変位素子30に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする圧電アクチュエータである変位素子30が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極24、圧電セラミック層21b、個別電極25により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には加圧部である変位素子30が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって吐出口8から吐出される液体の量は1.5〜4.5pl(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極25は、個別に電位を制御することができるように、それぞれが信号伝達部60および配線を介して、個別に制御部100に電気的に接続されている。個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に
電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部100により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極25を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極25に供給することになる。このパルス幅は、圧力波がしぼり6から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、加圧
室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行なわれる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する吐出孔8から連続して行なう。一般に、吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。なお、この場合後から吐出される液滴の速度が速くなると考えられるが、その方が複数の液滴の着弾点が近くなり、好ましい。
なお、本実施形態では、加圧部として圧電変形を用いた変位素子30を示したが、これに限られるものでなく、加圧室10の体積を変化させることができるもの、すなわち、加圧室10中の液体を加圧できるものなら他のものでよく、例えば、加圧室10中の液体を加熱して沸騰させて圧力を生じさせるものや、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いたものでもよい。
ここでさらに液体吐出ヘッド2における部分流路13bの形状について詳述する。吐出孔行9は、吐出孔8がマニホールド5およびヘッド本体2aの長手方向に沿って等間隔で並んでいる。異なる吐出孔行9に属する吐出孔8同士を比較すると、ヘッド本体2aの長手方向に少しずつずれて配置されている。これに対して、加圧室10は、本実施形態では格子状に配置されている。加圧室10の配置は、格子状である必要はなく、千鳥配置などでもよいが、その配置は、各加圧室10において、周囲の加圧室10との距離や方向が規則的なものにされる。そのようにすれば、各加圧室10と周囲の加圧室10との配置に差異が大きいことで、各加圧室10で周囲の剛性が異なったり、周囲の加圧室10から受けるクロストークの影響が異なったりすることが避けられ、吐出特性の差を小さくできる。
しかし、このような加圧室10の配置と吐出孔8の配置を一致させることはできないので、加圧室10から吐出孔8へ向かう流路13は、加圧室面4−2から吐出孔面4−1に向かって下方に向かうだけでなく、吐出孔面4−1と平行な平面方向へも移動しなければならない。平面方向の移動量が大きくなると、吐出方向にその影響が表れる。具体的には、部分流路13bにおける平面方向への移動量が大きいと、吐出方向が、吐出孔面4−1と直交する方向から、その移動方向へずれる。吐出方向は、必ずしも、吐出孔面4−1と直交する方向でなければならないわけではないが、通常、液体吐出ヘッド2は、そのように使うように設計されるし、吐出孔8毎に吐出方向のずれがあると、着弾位置がずれて印刷精度が低くなってしまう。
吐出方向がずれる原理は、詳細には分かっていないが、部分流路13b内の液体が、吐出孔面4−1に対して斜めに進んでいくために、そのまま、斜めの方向に吐出されるのではないかと考えられる。ノズルプレート4lにおいて、吐出孔面4−1に直交する線に対して回転対称なノズル部13aがあるため、基本的には、そこを通る液体は吐出孔面4−1に直交する方向に向けられる。また、単に部分流路13bを進んでいた方向に、そのまま吐出されるのであれば、吐出方向は部分流路13bの角度と同程度になると考えられるが、実際の吐出方向のずれは、もっと小さい。例えば、部分流路13bの傾きが20度以上であっても、液滴を1mm飛翔させた後の着弾位置のずれは2μm程度で、吐出方向の傾きとしては0.03度程度である。
吐出方向の傾きは、ノズル部13aに形成されているメニスカスが吐出孔8に向かう際の面の形状が点対称な状態からずれて、わずかに斜めになったり、ノズル部13aを通過する際の液体の速度が、ノズル部13aの内壁の位置によってわずかに異なっていたり、吐出された液滴のテールが切れる際のテールの切れる位置がノズル部13aの中心からずれていることで、テールが液滴本体に追いつく際に横方向への運動成分を付加したりするといった液体の挙動が生じるのが原因になっているのではないかと考えられる。原因がどのようなものであっても、部分流路13bの傾きを小さくすれば、その影響を小さくすることはできるが、平面方向への移動距離は、上述のように加圧室10の配置と吐出孔8の配置から決まるものであり、根本的に小さくすることは難しい。部分流路13bの長さを長くすれば傾きは小さくなるが、ALが長くなるので、高周波駆動に向かなくなるなどの影響が出るおそれがある。
ヘッド本体2aの基本的な設計(ヘッド本体2aの長手方向における加圧室10のピッチ、およびヘッド本体2の短手方向に加圧室10を並べる個数など)を決めると、部分流路13bの平面方向の移動距離が決まる。しかし、平面方向の移動距離の異なる部分流路13bをヘッド本体2a内においてどのように配置するかによって、印刷精度への影響度合いが異なる。そこで、本発明では、平面方向の移動距離の異なる部分流路13bの配置を適切化する。
まず、部分流路13の形状の詳細について、図6を用いて説明する。部分流路13bはプレート4b〜4kに開けられた孔を繋いで形成されている。各孔は、エッチングで形成されているため、表面から開けた球形と裏面から開けた球形とが合わさった形状をしており、プレート4b〜4kの厚さ方向の中央付近で、断面積が小さくなっている。また、表面からのエッチングの中心と裏面からのエッチングの中心とはずれており、プレート間で平面方向に移動するように位置がずれているのに加えて、プレート内でも平面方向に移動するようになっている。
各孔の表面および裏面の形状は円形であるが、正方形に近い長方形状や、楕円形状でもよい。各孔の全体の形状は、概略は円柱状、あるいは傾いた円柱状であるが、詳細には上述のように2つの球を組み合わせた形状である。
W[μm](以下で単位を省略することがある)は、部分流路13bの平均径(詳細には、吐出孔面4−1と平行な断面の径)である。断面形状が円形でない場合、同じ面積を持つ円の直径を径とすればよい。より具体的には、部分流路13bの体積(μm3)を、部分流路13bの吐出孔面4−1に直交する方向の長さLD[μm]で割って断面積を算出して、その断面積に等しい面積の円の直径をW[μm]とすればよい。また、ここで、Wは、主に部分流路13bのノズル部13a側の形状を規定するためのものであるので、部分流路13bが、断面積の著しく異なるものを繋げて構成されている場合(例えば、径で2倍以上異なり、断面積で4倍以上異なるような場合)、ノズル部13a側の端部の開口径を用いてもよい。
部分流路13bのノズル部13a側の端部の、吐出孔面4−1と平行な面P1における断面形状の面積重心をC1とする。なお、ノズル部13aの部分流路13b側の開口は、平面視において、中にC1が含まれるように配置されている。部分流路13bの、ノズル部13a側の端部から、吐出孔面4−1と直交する方向の上側へ2Wの位置の吐出孔面4−1と平行な平面P2における断面形状の面積重心をC2とする。部分流路13bの加圧室10側の端部の、吐出孔面4−1と平行な面P3における断面形状の面積重心をC3とする。
部分流路13b内の液体は、C3からC2を経由してC1に向かう。C3からC2へは、液体が下方に向かうとともに、平面方向への移動が大きくなるように、プレート間において、開口の位置がずらされており、さらにプレートの表と裏とで、開口の位置がずらされている。
単純な設計では、C3、C2、C1は、ほぼ直線上に配置される。そのような場合、吐出される液滴は、吐出孔面4−1に直交する方向から斜めにずれて、ヘッド本体2aを平面視したときのC3からC1へ向かう方向へ吐出される。
C3、C2、C1が直線上にない場合は、吐出される液体の方向は、C2からC1へ向かう方向にずれる。これは、部分流路13bは、C3からC2までの間で角度が変わるように繋がっている形状の部分を含むため、圧力波は、その形状の影響を受けた乱れた状態になるが、開口径Wの倍の長さを進みC1に近づくうちに、内壁との散乱などの結果、C2からC1へ向かう方向に沿った圧力波に再構成されるためだと考えられる。
つまり、液体の吐出される方向のずれは、C3からC2に向かう方向にはほとんど影響されず、ほぼC2からC1へ向かう方向により決まる。ここでは、平面視した場合における、C2からC1までの間でC2からC1へ向かう方向は、あまり変わらないと考えている。その角度の変化は、大きくても45度以下である。C2からC1に向かう間に、平面方向の向きが大きく変わると、上述の圧力波の再構成の途中で吐出されるので、吐出方向のばらつきが大きくなると考えられる。
吐出孔面4−1に平行な方向におけるC2とC1との距離はD2[μm]であり。この値が大きいと、吐出される液滴の角度のずれが大きくなる。また、ヘッド本体2aを平面視した際における、液滴の吐出される角度は、C2からC1へ向かう角度になる。
液滴の吐出される方向に関して、印刷精度への影響が大きいのは、記録用紙Pの搬送方向に直交する方向への着弾位置のずれとなるものである。通常の液体吐出ヘッド2の使用では、この方向は、吐出孔行9において、吐出孔8の並んでいる方向であり、この方向を第1方向と呼ぶ。本実施形態では、ヘッド本体2aの長手方向と、第1方向とは一致している。また、第1方向と直交する方向を第2方向と呼ぶ。第2方向は、吐出孔行9が並ん
でいる方向でもある。
部分流路13bが斜めになっていることによる影響のうち、第1方向に関する着弾ずれの大きさは、吐出孔面4−1に平行な方向におけるC2とC1との距離はD2[μm]の第1方向成分に比例すると考えられ、この値をXD2[μm]とする。なお、XD2[μm]は、第1方向のどちらに向かっているかで正負を付けて表す。以下では、便宜上右方向に向かっている場合を正とする。
加圧室10と吐出孔8とXD2[μm]との関係について図7を用いて説明する。図7は、図4の一部を拡大した平面図であり、2つの加圧室10とその間に存在する隔壁15を示している。図7に示した仮想直線L上に、第2方向に沿って、図示しないものと合わせて32個の加圧室10が配置されている。吐出孔8については、図示した2つの加圧室10とそれぞれ繋がっている2つの吐出孔8を黒点で表し、他の図示しない加圧室10と繋がっている吐出孔8の、加圧室10に対する相対的な位置を鎖線の円で示した。仮想直線L上に配置されている32個の加圧室10に繋がっている吐出孔8は、図に示したようにRの範囲に等間隔d[μm]で配置されている。
なお、図7では、図の上に位置する加圧室10の下側に32個の吐出孔8の相対位置、図の下に位置する加圧室10の上側に32個の吐出孔8の相対位置を示しているが、実際に加圧室10の下側にある吐出孔8は、図に示した32個の相対位置のうち16カ所であり、加圧室10の上側にある吐出孔8は、図に示した32個の相対位置のうち16カ所である。正確には、それら、各16個の吐出孔8を合わせた計32個の吐出孔8がRの範囲に等間隔d[μm]で配置されているということである。なお、本実施形態では、dは1200dpiに対応する間隔であり、約21μm(=1インチ/1200)であり、Rは31×dであるので、約656μmである。
また、図では省略しているが、図の左右には、第2方向に隣り合っている加圧室列に繋がっている吐出孔8が連なっている。部分流路13bについては、ほとんどを省略し、加圧室10に直接接している部分のみを示すとともに、代わりにC3、C2、C1と、それらを繋ぐ線を示している。
XD2の値としては、−R/2からR/2までの32個の値がある。各吐出孔行9における吐出孔8は、R+d毎に配置されている。つまり、各吐出行9では、XD2の値が同じ(設計上同じ値にされているということであり、製造におけるばらつきは除く)である。また、別の吐出孔行9ではXD2の値が異なる。吐出孔8がこのように配置されていることにより、吐出孔8全体で、ヘッド本体2aの長手方向の一端部から他端部まで、吐出孔8が第1方向に等間隔で並ぶようになる。
このようなヘッド本体2aにおいて、部分流路13bの設計、より具体的には、各吐出孔行9に割り当てるXD2の値を変えることにより、印刷精度を向上させる設計について、何種類か説明する。これらの設計は組み合わせて用いてもよい。なお、ヘッド本体2a内で、加圧室10の位置と吐出孔8の位置との関係が第1方向で変わらない、すなわちR=0(設計上0ということであり、製造におけるばらつきは除く)の場合、吐出孔行9によってXD2の値を変えることはできないので、本発明の対象外である。また、吐出孔行9が2行しかない場合、XD2の値を入れ替えても差は、あまり生じないため、本発明の対象外である。すなわち本発明では、R>0であり、吐出孔行9は3行以上である。
第1に、液体吐出ヘッド2をプリンタ1へ設置する際の角度の影響を考慮した設計である。プリンタ1のようなラインプリンタの場合、液体吐出ヘッド2は、記録用紙Pの搬送方向にほぼ直交するように設置される。液体吐出ヘッド2を移動させて印刷するシリアル
プリンタの場合、液体吐出ヘッド2は、液体吐出ヘッド2の移動方向とほぼ直交するように設置される。いずれの場合も、印刷精度が高くなるよう、精度よく設置しようとするが、誤差なく設置することは原理的にできない。そこで、液体吐出ヘッド2の設置角度が設計からずれた場合について、印刷精度が低下し難いように部分流路13bの設計を行なう。
設置角度がずれた場合、設置角度の影響を最も受けるのが、第2方向の一方の端の吐出孔行9(以下で一端吐出孔行という)と他方の端の吐出孔行9(以下で他端吐出孔行という)である。これらの吐出孔行9は、液体吐出ヘッド2(ヘッド本体2a)の短手方向の端に位置するため、液体吐出ヘッド2が回転した際に、吐出孔8が第1方向へ移動する移動量が最も大きくなるからである。
液体吐出ヘッド2が所定の位置より右に回転した位置に設置された場合、一端吐出孔行の吐出孔8は右にずれ(以下で、一端吐出孔行が右にずれる、のように省略することがある)、他端吐出孔行は左にずれる。液体吐出ヘッド2が所定の位置より左に回転した場合、一端吐出孔行は左にずれ、他端吐出孔行は右にずれる。一端吐出孔行のXD2の値が正(吐出方向が右へ向かう)で、他端吐出孔行のXD2の値が負(吐出方向が左へ向かう)であった場合、液体吐出ヘッド2が右に回転すれば、印刷精度はより大きく低下し、液体吐出ヘッド2が左に回転すれば、印刷精度の低下は小さくなる。
設置角度のずれが左右どちらである場合にも、印刷精度の低下が大きくならないように、一端吐出孔行のXD2と他端吐出孔行のXD2を近い値にする。具体的には、一端吐出孔行のXD2と他端吐出孔行のXD2の差の絶対値をR/2以下にする。これにより設置角度のずれがどちらに回転するものであっても、印刷精度の低下が極端に大きくならない。差の絶対値は、R/4以下にするのがより好ましく、さらにd(設計上の最小値)にするのが好ましい。
また、一端吐出孔行のXD2および他端吐出孔行のXD2は、ともにR/4以下にすることで、液体吐出ヘッド2が回転したときに位置ずれが大きくなる一端吐出孔行および他端吐出孔行から吐出される液滴を吐出孔面4−1に直交する方向に近づけることで、印刷精度を高くできる。一端吐出孔行のXD2および他端吐出孔行のXD2は、ともにR/8以下にするが好ましい。
XD2の値としては、第2方向におけるヘッド本体2aの中央に向かっていくにしたがって、吐出孔行9のXD2の値が増えていくようにするのが好ましい。
一端吐出孔行のXD2および他端吐出孔行のXD2の値としては、液体吐出ヘッド2をプリンタ1に設置する際の位置決め構造まで考慮することが考えられる。
図8(a)は、液体吐出ヘッド2を(ヘッド搭載)フレーム70に位置決めして設置する構造を示した斜視図である。図8(b)は、フレーム70に液体吐出ヘッド2を設置する状態、およびその際生じる吐出孔8の位置ずれの状態を示した平面図である。
液体吐出ヘッド2の長手方向の一端には、第1位置決め部40が設けられており、他端には第2位置決め部41が設けられている。フレーム70には、液体吐出ヘッド2の一部が入り、ヘッド本体2aが記録用紙Pに面するように、貫通孔70cが開いている。貫通孔70cの平面形状は、ヘッド本体2aより少し大きな長方形状をしている。フレーム70の上面の、貫通孔70cの長手方向の外側には、それぞれ外部の位置決め基準である、円柱状の位置決めピン71a、71bが設けられている。
具体的な位置決めは、次のように行なわれる。第1位置決め部40には三角形状に切り欠いた部分があり、切り欠いた部分に露出した2つの側面が位置決めピン71aに当接することで、回転軸Gが定められる。液体吐出ヘッド2は、回転軸Gに対して回転可能になっているので、その状態で、回転規制方向Hに回転させられる。そうすると、第2位置決め部41の側面が、位置決めピン71bに当接することで、それ以上回転規制方向Hに回転できないようになる。このように、第1位置決め部40で回転軸Gを定め、第2位置決め部41で回転角度を定めることで、フレーム70に対して、液体吐出ヘッド2の位置を定めることができる。その後、例えば、ねじを第1位置決め部40の貫通孔40aを通してねじ穴70aに付け、ねじを第2位置決め部41の貫通孔41aを通してねじ穴70bに付けることで液体吐出ヘッド2をフレームに固定する。
このように固定すると液体吐出ヘッド2の設置角度のずれは、ほとんど回転規制方向Hと逆の方向に生じる。これは、例えば、回転規制方向Hへの回転が充分でなく、第2位置決め部41が位置決めピン71bに充分押し当てられないことや、回転規制方向Hへの勢いよく回転させることで、第2位置決め部41が位置決めピン71bに当たった後に反発して、位置決めピン71bから第2位置決め部41が離れてしまうことによる。
図8(b)では、そのように、位置決めピン71bと第2位置決め部41とが離れてしまった設置状態を表している(差が分かりやすいように、角度は誇張されている)。回転規制方向Hへの回転(右回転)が充分でないことにより、図8(b)では図の一番上の吐出孔行9である一端吐出孔行に属する吐出孔8aは、正常に位置決めした場合、8a’の位置にくるべきであるが、8aの位置にきている。つまり、回転規制方向Hと逆である逆回転Hr(左回転)が生じたように位置ずれする。吐出孔8aは左にずれるので、一端吐出孔行のC2からC1へ向かう方向が左を向いている(XD2が負)と、設置角度のずれと、吐出方向の傾きとが重なり合って、液体の着弾位置ずれが大きくなってしまう。逆に、一端吐出孔行における回転規制方向Hの第1方向における方向(右向き)と、一端吐出孔行におけるC2からC1へ向かう方向(右向き)とが一致していると、位置ずれと吐出角度の傾きが相殺されるので、液体の着弾位置ずれは小さくなり、印刷精度は高くなる。
図8(b)では図の一番下の吐出孔行9である他端吐出孔行に属する吐出孔8bは、正常に位置決めした場合、8b’の位置にくるべきであるが、8bの位置にきている。つまり、回転規制方向Hと逆である逆回転Hr(左回転)が生じたように位置ずれする。したがって、他端吐出孔行においても、他端吐出孔行における回転規制方向Hの第1方向における方向(左向き)と、他端吐出孔行におけるC2からC1へ向かう方向(左向き)とが一致していると、位置ずれと吐出角度の傾きが相殺されるので、液体の着弾位置ずれは小さくなり、印刷精度は高くなる。
また、他の吐出孔行9についても同様の傾向が生じるので、次のようにするのが好ましい。まず、一端吐出孔行と他端吐出孔行との間を、第2方向に2等分して2つの領域に分けて、吐出孔行9を、第2方向の一方の端側の領域に含まれる一端側領域の吐出孔行9と、第2方向の他方の端側の領域に含まれる他方端側領域の吐出孔行9とに分ける。一端側領域の吐出孔行9のXD2の平均を計算すれば、その値の正負により、一方端側領域の吐出孔行9のC2からC1へ向かう方向が、第1方向のどちら側を主に向いているかが分かる。その方向と、一端側領域の吐出孔行9における回転規制方向Hの第1方向における方向が一致していれば、位置ずれと吐出角度の傾きとが相殺されるので、設置角度がずれたときの印刷精度の低下が大きくなり難い。同様に、他端側領域の吐出孔行9のXD2の平均を計算すれば、その値の正負により、他端側領域の吐出孔行9のC2からC1へ向かう方向が、第1方向のどちら側を主に向いているかが分かる。その方向と、他端側領域の吐出孔行9における回転規制方向Hの第1方向における方向が一致していれば、位置ずれと吐出角度の傾きとが相殺されるので、設置角度がずれたときの印刷精度の低下が大きくな
り難い。
続いて、液体吐出ヘッド2をプリンタ1へ設置する際の角度の影響を考慮した設計として、記録用紙P上に隣り合って着弾する液滴の吐出孔8とXD2の関係を規定することが考えられる。記録用紙P上に隣り合って着弾する液滴の吐出される吐出孔8は、第1方向に隣り合っている吐出孔8であるので、第1方向に隣り合っている吐出孔8のXD2を考える。
ヘッド本体2における、第1方向に隣り合っている2つ吐出孔8の位置によって設置角度の影響は異なる。すなわち、それぞれの吐出孔8の属する吐出孔行9の第2方向における位置が離れれば離れるほど、設置角度の影響は大きくなる。設置角度のずれは、一般的にはどちらに回転するようにずれるか予測し難いので、回転方向により影響が表れ難いように、吐出方向の差は少ない方が良い。具体的には、第1方向に隣り合っている2つ吐出孔8のXD2の差の絶対値を、R/2以下とすればよい。XD2の差の絶対値は、R/4以下とするのがより好ましい。
第2に、記録用紙Pが平面上に搬送されない場合を考慮した設計である。図9(a)は、プリンタ101の側面図であり、プリンタ101では、記録用紙Pは円筒形のドラム85上を搬送される。このように凸形状の上を搬送される記録用紙Pに印刷する場合、吐出孔行9の位置によって、記録用紙Pまでの液滴の飛翔距離が異なる。
プリンタ101では、吐出孔面4−1の第2方向の中央から、吐出孔面4−1に直交するように伸ばした線がドラム85の中心を通るようになっている。ヘッド本体2aをこのような位置に設置をすると、第2方向の中央の吐出孔行9からの吐出される液滴の飛翔距離はLM[μm]となり、第2方向の端の吐出孔行9からの吐出される液滴の飛翔距離はLE[μm]となり、LE>LMとなる。
吐出孔8からの吐出角度のずれが同じでも、飛翔距離が長くなれば着弾位置のずれは大きくなる。そのため、飛翔距離が長い吐出孔8からの吐出角度を、相対的に小さくすれば、印刷精度が高くなる。
図9(b)は、ヘッド本体2aの平面図であり、第2方向の一方の端に位置する吐出孔行9と、第2方向の他方の端に位置する吐出孔行9との間を、第2方向に4等分して4つの領域に分けて、中央の2つの領域からなる中央領域AMと、両端の2つの領域からなる両端領域AEとを示している。中央領域AMに含まれる吐出孔行9は相対的に飛翔距離が短い吐出孔行9であり、両端領域AEに含まれる吐出孔行9は相対的に飛翔距離が長い吐出孔行9である。したがって、両端領域AEに含まれる吐出孔行9におけるXD2の平均値を、中央領域AMに含まれる吐出孔行9におけるXD2の平均値より小さくすれば、飛翔距離の長い吐出孔行9の吐出角度が小さくなるので、印刷精度を高くできる。
さらに、印刷精度を向上させるためには、第2方向に6等分して6つの領域に分けて、(端から1番目と6番目の領域の吐出孔行9のDX2の平均)<(端から2番目と5番目の領域の吐出孔行9のDX2の平均)<(端から3番目と4番目の領域の吐出孔行9のDX2の平均)のようにすればよい。分割数は、各領域に属する吐出孔行9が存在しなくなるまで増やしてもよい。
図9(c)は、プリンタ201の側面図であり、プリンタ201では、記録用紙Pは円筒形ドラム85上を搬送される。プリンタ201では、吐出孔面4−1に直交し、ドラム85の中心を通る線が、吐出孔面4−1と交わる点は、第2方向の端に位置する吐出孔行9よりも外側になっている。液滴の飛翔距離の差が少ない方が印刷精度は高くなるので、
その点では、プリンタ101のような構造が望ましいが、他の機械的な要因などでプリンタ201のような構造とする場合がある。
図9(d)は、ヘッド本体2aの平面図であり、第2方向の一方の端に位置する吐出孔行9と、第2方向の他方の端に位置する吐出孔行9との間を、第2方向に2等分して2つの領域に分けて、第2方向のドラム85の中心に近い側である一端側の一端側領域AE1と、他端側の他端側領域AE2とを示している。一端側領域AE1に含まれる吐出孔行9は相対的に飛翔距離が短い吐出孔行9であり、他端側領域AE2に含まれる吐出孔行9は相対的に飛翔距離が長い吐出孔行9である。したがって、他端側領域AE2に含まれる吐出孔行9におけるXD2の平均値を、一端側領域AE1に含まれる吐出孔行9におけるXD2の平均値よりも小さくすることで、飛翔距離の長い吐出孔行9の吐出角度が小さくなるので、印刷精度を高くできる。
さらに、領域の分割数を増やして、各領域に含まれる吐出孔行9のXD2の平均値が、他端側に向かうにしたがって小さくなるようにするのがよい。
続いて部分流路13bにおけるC3からC2までの構造とC2からC1までの構造について説明する(図6参照)。吐出孔面4−1に平行な方向におけるC2とC1との距離D2[μm]小さくすることで吐出方向の角度を小さくでき、D2≦0.1Wとするのが好ましい。これにより、吐出方向に対する影響の大きい、ノズル部13aから2Wの範囲の部分流路13bが、吐出孔面4−1に対して、ほぼ直交する形状になり、吐出方向が吐出孔面4−1に対して直交する方向に近くなる。
C1とC3とを繋ぐ直線C1C3と、ノズル部13a側の端部から吐出孔面4−1と直交する方向へ2Wの位置における前記吐出孔面と平行な平面P2との交点をCmとする。言い換えれば、Cmは、C1とC3とを直線的に繋ぐ形状の部分流路13bを作製した場合に、その部分流路13bの中心が平面P2を通る位置である。吐出孔面4−1に平行な方向におけるCmとC1との距離はDm[μm]であり、Dm>0.1Wとすることにより、C3とC1との平面方向の距離が離れている場合であっても、それらを繋ぐことができる。なお、図6では、C1、C2、C3が一つの縦断面にある場合を示しているが、そうである必要はない。
また、部分流路13bの、ノズル部13a側の端から吐出孔面4−1に直交する方向へ2Wの範囲内に、狭窄部13baが設けられていれば、圧力波が、その部分で部分流路13bの中心付近に集まるので、C2付近で生じた圧力波の乱れが整い、その後で、吐出孔面4−1に平行な圧力になりやすい。狭窄部13baの径は、0.5W〜0.9W、より好ましくは、0.6W〜0.8Wにすることで、小さすぎて抵抗が大きくなって、吐出速度が極端に下がることもなく、大きすぎて狭窄部13baがあることの効果があまり表れなくなることもない。
また、上述したようなC1から2Wの範囲を吐出孔面4−1に対して、ほぼ直交するような形状を有する液体吐出ヘッド2は、平面視したときに、吐出孔8(より正確には、吐出孔面4−1における吐出孔8の開口の面積重心Cn)とC3とを繋ぐ直線と、列方向との成す角度が大きい場合に特に有用である。
ここで、C3とCnとを繋ぐ線と列方向との成す角度θを考える。図では、Cnが図の右側に向かう際のθのうちで最大値をθ1、Cnが図の左側に向かう際のθのうちで最大値をθ2として示している。所望の解像度で印刷できる液体吐出ヘッド2を設計する際、通常の液体吐出ヘッド2(吐出孔面4−1付近の部分流路13bが、吐出孔面4−1に対してほぼ直交していないような液体吐出ヘッド2)では、C3とCnとを繋ぐ線と、列方
向との成す角度θ1、θ2は、液体の吐出方向の精度(着弾位置の精度)だけを考えた場合、θ1、θ2は小さい方が好ましい。しかし、d[μm]は、基本的な使い方をする際において、隣接する画素の距離(解像度)になる値であり、所望の解像度で印刷できる液体吐出ヘッド2を設計する際、d[μm]は変更できない値になる。d[μm]を一定の値とした場合に、θ1、θ2を小さくしようとすると、C3とCnとを繋ぐ直線の長さが長くなり(部分流路13bの長さはそれ以上になる)、液体吐出ヘッド2の短手方向に長さが長くなってしまう。そうすると、液体吐出ヘッド2を設置する際の角度が印刷精度に与える影響が大きくなるので好ましくない。
また、部分流路13bの長さが長くなると、部分流路13bおよび加圧室10内の液体の固有振動周期が長くなる。駆動波形の長さは、固有振動周期に比例するので、1回の吐出に必要な駆動波形の長さが長くなる。そうすると、高い駆動周波数で駆動しようとする際に、1つの駆動周期内に、駆動波形が納まらなくなるおそれがあるので、高い周波数での駆動(高速印刷)に向かなくなる。
通常の液体吐出ヘッド2では、θ1、θ2が45度以上になると、その角度が吐出方向における行方向にばらつきに与える影響が大きくなり印刷精度が悪くなる。しかし、本実施形態のように、吐出孔面4−1付近の部分流路13bが、吐出孔面4−1に対してほぼ直交していれば、θ1、θ2が45度以上であっても、印刷精度はほとんど悪くならない。そのため、θ1、θ2を45度以上にしても、印刷精度を低下させないで、短手方向の長さを短くしたり、高駆動周波数の液体吐出ヘッド2を作製できる。本発明の液体吐出ヘッド2では、そのようなメリットを生かすために、逆にθ1、θ2を大きくした方が好ましく、60度以上に、さらに75度以上にするのがよい。
また、C3からC2における平面方向への移動は、プレート間の開口のずれをW/3以下にすることで、プレート間で部分流路13bが狭くなることでの吐出速度の低下が抑制できる。また、プレート内での開口のずれをW/4以下にすることで、プレート間で部分流路13bが狭くなることや、プレート内で表側のエッチングと裏側のエッチングとが繋がらなくなることが抑制できる。
C3からC2にかけての設計にこのような制約がある場合など、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ際に必要な平面方向の移動距離が確保できない可能性がある。そのような場合、加圧室10の形状を吐出孔面4−2内で、回転させた形状にすればよい。これについて、図10を用いて説明する。
図10は、ヘッド本体2aの模式的な拡大平面図である。ただし、図10では、実際は断面形状が円形の孔が繋がって構成されている部分流路13bを、それらを繋げた模式的な形状で示している。このヘッド本体2aの基本的な構造は図2〜6で示したとものほぼ同じであり、差異のある部分について説明する。Ccは加圧室410の面積中心であり、各加圧室410のCcは、ヘッド本体2aと同様に格子状に配列されている。加圧室410は菱形形状をしており、その狭角を結ぶ長軸Lcは、加圧室410の格子状の配置に対して、0度でない角度が付いている。この角度は、菱形形状の加圧室410が平面方向に回転している回転角度である。平面方向の移動距離が大きい部分流路13bに繋がっている加圧室410における回転角度は、部分流路13bにおける平面方向の移動を助けるように付けられる。
A1は、加圧室410が連なっている方向の一方であり、A2はその反対の方向である。加圧室410の面積中心Ccに対して、その加圧室410に繋がっている吐出孔8がA1方向の側にあるにせよ、A2方向の側にあるにせよ、その間を流路で繋がなければいけない。吐出孔8までのA1方向への移動距離が大きい場合、C1とC3とを直線的に繋ぐ
ような部分流路13bにすると、吐出方向が、吐出孔面4−1に直交する方向に対して角度が付いてしまう。そのため、部分流路13bのノズル部側の長さ2Wの領域は、ほぼ吐出孔面に直交する方向を向いた形状にされ、部分流路13bにおける平面方向への移動はC3からC2(図示せず)の間で行なわれる。
図10の上側にある行の加圧室410では、C3からC1に向かう方向は、A1方向を向いている。また、その行の加圧室410は、平面方向に回転した形状をしていて、Ccからその端に繋がっている部分流路13bのC3に向かう方向もA1の方向を向いている。これにより移動距離が大きい場合であっても加圧室410と吐出孔8とを繋ぐことができる。図10の下側にある行の加圧室410のように、吐出孔8が加圧室410に対してA2の側にあって、移動距離が大きい場合も、同様である。いずれの場合でも、C3からC1に向かう方向と、CcからC3に向かう方向とが、A1の方向を向いているか、A2の方向を向いているかが一致していることにより、移動距離が大きい場合であっても加圧室410と吐出孔8とを繋ぐことができる。
より具体的には、吐出孔面4−1に平行な方向におけるCmとC1(C1、C2、Cmの定義は上述の場合と同じである)との距離が0.1Wより大きく、吐出孔面4−1に平行な方向におけるC2とC1との距離が0.1W以下である条件を満たしている部分流路13bに繋がっている加圧室410では、加圧室410の平面形状の面積重心Ccから当該部分流路13bのC3に向う方向と、当該部分流路13bのC3からC1に向う方向とは、吐出孔8あるいは加圧室410が連なっている方向の一方の方向であるA1の方向を向いているか、その反対の方向のA2の方向を向いているかが一致していればよい。前述の条件を満たしていない部分流路13bに繋がっている加圧室410では、方向は一致していなくても構わないが、一致させるようにすれば、部分流路13bにおける平面方向の移動距離を短くできるので、吐出方向のずれをより小さくできる。
また、D2の値をほぼ0(ゼロ)とするような部分流路13bの設計ができるのが好ましいが、そのような設計をするとC3からC2の平面方向の移動距離が長くなりすぎてしまい、エッチィングで繋がるような部分流路13bの孔を設計できないことがある。そのような場合、C2からC1へ向かう部分がある程度斜めになるように設計せざるを得ない。そのような場合の設計について図11を用いて説明する。
図11は、流路部材4の模式的な縦断面図であり、2つの部分流路13bが示されている。1つはC3−1からC2−1を通り、C1−1に至る部分流路13bであり、もう1つはC3−2からC2−2を通り、C1−2に至る部分流路13bである。C3−1からC1−1に至る部分流路13bは、平面方向の移動距離(図の右側へ向かう)が長いため、C2−1からC1−1までの移動距離(D2)を短くすることができない。このような場合、C3−2からC2−1に向かう部分流路13bを、一旦、C1−2より図の左側まで移動させ、それよりC1−2側で図の右側へ向かわせる。このようにすることで、C2−1からC1−1へ向かう部分流路13bの方向と、C2−2からC1−2へ向かう部分流路13bの移動距離を近づけることができる。
つまり、2つの部分流路13bのC2からC1への移動方向を合わせたり、移動距離の差を小さくすることは、C3からC1の平面方向への移動距離が小さい部分流路13bにおいて、C3からC2までの間で向かう方向を変えることで可能になる。
部分流路13bの基本的な構造は図6に示したもので、C3からC1達にするまでの平面方向の移動のさせ方を異ならせた部分流路13bを持つ液体吐出ヘッド2を作製して、部分流路13bの形状と吐出方向の関係を確認した。各評価で共通の部分流路13bの構
造は、LD=900μm、W=135μmである。1つの液体吐出ヘッド2内には、C3からC1へ向かう方向の第1方向成分XD3(C3に対するC1の第1方向の位置)が、ほぼ0μm(液体吐出ヘッド2の長手方向にはほぼ移動しなく、短手方向に少し移動するもの)から340μmの部分流路13bが存在している。なお、C3とCnとを繋ぐ直線と、第2方向との成す角度θ1およびθ2は、75度である。
まず、部分流路13bの、ノズル部側で吐出孔面4−1に直交する形状にされている部分(直交部)の長さを110μm、270μm、410μmと変えたものを作製した。逆に言えば、平面方向へのXD3の距離の移動は、この直交部より上側で行なわれるようにした。
XD3と測定した着弾位置の位置ずれの関係を図12(a)〜(c)のグラフに示した。XD3については、C3からC1(C2)へ向かう方向が第1方向の一方に向かっているか、他方に向かっているかの符号が付いている。着弾位置は、吐出孔面4−1より1mm離れた面に着弾させた場合の位置ずれで評価した。位置ずれは、第1方向へのずれだけを測定し、C3からC1へ向かう方向と同様に符号を付けている。また、Fire1とFire2とは、駆動波形のパルス幅が異なり、Fire2は、Fire1よりパルス幅が長く、吐出する液滴が大きなものである。
図12(a)のグラフから、直交部が110μmの液体吐出ヘッド2では、着弾位置のずれる方向は、C3からC2へ向かう方向と一致していて、着弾位置のずれる量は、XD3の距離に比例していることが分かる。これに対して、図12(b)の直交部が270μmの液体吐出ヘッド、および図12(c)の直交部が410μmの液体吐出ヘッド2では、着弾位置とXD3の値との相関は、ほぼ見られない状態となっている。これにより、部分流路13bのノズル部側に、部分流路13bの平均径W(=135μm)の倍の長さの直交部を設けることで、吐出方向のばらつきを抑制できることが分かった。
続いて、部分流路13bとしてC3からC1までをほぼ直線状に繋いだ形状とした液体吐出ヘッド2を作製した。この液体吐出ヘッド2を評価することで、XD2の値と着弾位置のずれを評価することで、部分流路13bの、ノズル部側の2Wの領域の方向と吐出孔面との直交性がどの程度必要かが分かる。
評価結果を図13に示す。第1方向の距離であるXD2の距離を0.1W(=13.5μm)以下とすることで、第1方向の着弾位置のずれは、1μm以下なっており、図12(b)(c)のばらつきと同程度以下にできることが分かった。この傾向は、第2方向にも同様であると考えられるので、D2の距離を0.1Wにすれば、着弾位置のずれを1μm以下にできると考えられる。印刷精度を高くするためには、直交部の吐出孔面4−1に対する直交性を、これと同程度以上にすればよいと考えられる。すなわち、部分流路13bのノズル部側から2Wまでの距離の領域における平面方向の移動距離D2を0.1W以下にすれば、着弾位置のずれを十分小さくできる。また、このような着弾位置のずれであれば、1200dpiの印刷を精度よく行なうことができる。