本発明のR’−Fe−Co系強磁性合金は、空間群ImmmのR’−Fe−Co系強磁性化合物を含むR’−Fe−Co系強磁性合金である。本明細書において、「R’」は、1種類以上の希土類元素であって、少なくともY(イットリウム)またはGd(ガドリニウム)を含む。このR’−Fe−Co系強磁性化合物は、希土類元素の占有サイト(占有し得るサイト)の少なくとも一部が一対のFe原子(Fe原子ペア)によってランダムに置換された強磁性化合物である。言い換えると、このR’−Fe−Co系強磁性化合物は、TbCu7型結晶構造とThMn12型結晶構造との中間的な結晶構造によって構成されている。(これらの結晶構造については後で詳しく説明する。)本発明のR’−Fe−Co系強磁性合金に含まれるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、希土類サイトに軌道角運動量を有する元素を部分的に配することで、より大きな体積磁化と磁気異方性を獲得できる。
前述したように、ThMn12型結晶構造を有するRFe12では、RFe12の熱的安定性を高めるため、Fe原子の一部、あるいはR原子の一部を他の元素(構造安定化元素)で置換することが提案されている。前者のFe原子の一部を置換する元素は、「Feサイト置換型元素(M)」、また、後者のR原子の一部を置換する元素は、「Rサイト置換型元素(T)」と呼ぶことができる。
Feサイト置換型元素の存在は、置換に伴うFe原子の減少量以上にRFe12の磁気モーメントを低下させる。これは、RFe12では3dのアップスピンバンドが既に占有されているために、Feサイト置換型元素でFeサイトの一部を置換するとダウンスピンバンドに電子が占有され不対電子が減少することによるものである。また、例えばMoなど、その割合が増加すると、強磁性磁気構造から傾角磁気構造へと変化するFeサイト置換型元素もある。そのような変化が生じると、RFe12の磁化も減少する。さらに、Feサイト置換型元素またはRサイト置換型元素の種類により多少異なるが、元素置換量の増加に伴って概して結晶格子は拡大する傾向にあり、仮に単位結晶格子あたりの磁化が同じでも、実用上重要な値である体積当たりの磁化も減少する。一方、特許文献2に示されたようなRサイト置換型元素は、希土類元素と比較してFe副格子に電子をより多く供給し、不対電子を減少させることによって磁化を低下させ、さらにRFe12の磁気異方性の著しい低下を誘発する。
本発明者は、構造を安定化できるR元素として、Fe副格子への電子供給が少ない元素を使用して熱的に安定したThMn12型構造を形成できれば、高性能な磁石材料の母相として機能するはずであると考え、本発明を想到するに至った。本発明者は、そのようなR元素として一原子当たり3個とわずかな電子しか供給しない希土類元素の中から原子半径の小さなY(イットリウム)を選択したところ、従来の構造安定化元素MやTを導入せずに高い熱安定性を有する構造を獲得することを実現できることを見出した。さらに、構造内部にYとFeダンベルとがランダムに置換した部位を有するために、RFe12よりもFe副格子へ電子供給を抑制できることを見出した。
これにより、従来の構造安定化元素MやTの置換を伴わないでThMn12型結晶構造の熱的安定化を図ることができる。また、ランダム置換が部分的に生じているため、Fe副格子への電子供給を低減し不対原子を増加し飽和磁束密度の低下を避けることが可能になる。
さらに、本発明者は、Fe元素の一部をCo元素で適量に置換することにより、本発明のR’−Fe−Co系強磁性化合物は従来の構造安定化元素MやTを使用したThMn12型結晶構造と比較して大きなキュリー温度上昇と磁化上昇が生じること、磁気異方性は低下するのではなくあるCo置換量の閾値までは上昇することをそれぞれ見出した。なお、このような元素としてY元素以外にも少なくともGd元素でも可能なことを確認した。Y元素とGd元素以外にR’を構成する元素としては、結晶場由来の大きな磁気異方性を供与する元素が望ましく、ThMn12型構造で一軸磁気異方性を付与する元素がより望ましい。これらの元素としては、葉巻型電子軌道を有するSm、Er、Tmがあげられ、特にFe副格子との磁化の向きが平行になる軽希土類元素のSmが望ましい。すなわち、R’元素としてはY元素とSm元素の組合せが最も望ましい。
以下、TbCu7型結晶構造とThMn12型結晶構造との中間的な結晶構造について詳しく説明する。
まず、ThMn12型結晶構造を説明する。ThMn12型結晶構造を有するRFe12は、CaCu5型結晶構造を有する仮想的なRFe5において、以下の式に示すように、半分のRを亜鈴型配置のFe原子ペアで置き換えることによって得られる。
2RFe5−R+2Fe=RFe12
ただし、前述したように、RFe12は安定しておらず、構造安定化元素によってRまたはFeの一部が置換される。
本明細書では、このような本来の希土類元素サイトに置換する「Fe原子のペア」を「Feダンベルペア」と称することとする。なお、「Feダンベルペア」を構成する2個のFeの一方または両方がCoによって置換されていても、それを「Feダンベルペア」と称することとする。
CaCu5型結晶構造は、図2に示される六方晶系の構成を有している。図2では、大きな白丸がCaのサイトを示し、小さな丸がCuのサイトを示している。図2では、Cuのカメノコ格子の中心にCaが配置された2層の格子面が示されているが、現実には、2層の格子面の中間にCuのみからなるカゴメ状の格子面も存在している。簡単のため、図2および他の図面においては、カゴメ状の格子面は図示しないこととする。
図3は、ThMn12型結晶構造の元となる仮想的なCaCu5型結晶構造を有する仮想的なRFe5を示している。図3において、大きな白丸で示されるサイトは、本来的には、希土類元素Rの占有サイトである。一方、相対的に小さな丸で示されるサイトは、FeおよびCoの占有サイトである。上述したように、図3に示される大きな白丸のサイトは、本来的には希土類元素Rの占有サイトであるが、その半分がFeダンベルペアによって置換されることにより、ThMn12型結晶構造を有するRFe12が得られる。
図4Aは、ThMn12型結晶構造の元となる仮想的なCaCu5型結晶構造を有する仮想的なRFe5において、Feダンベルペアによって置換される希土類元素Rのサイトを白丸で示し、Feダンベルペアによって置換されない希土類元素Rのサイトをグレイの丸で示している。図4Aに示されるように、ThMn12型結晶構造を有するRFe12では、希土類元素Rの特定のサイトが規則的にFeダンベルペアと置換されている。
図4Bは、ThMn12型結晶構造を有するRFe12において希土類元素Rを置換したFeダンベルペアが直線状に配列されている様子を示している。図4Bには、希土類元素Rの占有サイトとして「2aサイト」が示されている。また、Feダンベルペアの占有サイトとして、「8iサイト」が示されている。このように直線状に並んだFeダンベルペアの列を「Feダンベルライン」と称することができる。一方、Feダンベルペアに置換されていない希土類元素Rも直線状に並んでいる。このように直線状に並んだ希土類元素Rの列を「希土類元素ライン」と称することができる。「Feダンベルライン」および「希土類元素ライン」は相互に平行であり、これらのラインが延びる方向に垂直な方向に交互に配列されている。
図5は、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造を模式的に示している。図5では、希土類元素R’およびFeダンベルが占めることが可能なサイトが、大きな丸とダンベルとが重なり合って記載されている。より詳細には、希土類元素R’の占有サイトとして2aサイト(グレイの丸)および2dサイト(白丸)が示されている。一方、Feダンベルペアの占有サイトとして、4g1サイトおよび4g2サイトが示されている。本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物では、Feダンベルペアは、希土類元素R’の占有サイトを、ある程度はランダムに占有し得る。したがって、Feダンベルペアの位置も希土類元素R’の位置も、ランダムであり、図4Bに示すように直線状に並んでいない。しかしながら、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造は、Feダンベルが完全にランダムに希土類元素R’と置換しているわけではない。Feダンベルペアが完全にランダムに希土類元素R’と置換した結晶構造は、TbCu7型結晶構造である。
図6は、本発明におけるR’−Fe−Co強磁性化合物の結晶構造が、ThMn12型結晶構造とTbCu7型結晶構造との中間的な構造であることをサイトの対応関係で示している。図6に示されるように、TbCu7型結晶構造では、ThMn12型結晶構造における「Feダンベルライン」の8iサイトおよび「希土類元素ライン」の2aサイトのように区別されず、1aサイトおよび2eサイトが同じ位置に現れ得る。
図7は、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造、ThMn12型結晶構造、およびTbCu7型結晶構造を模式的に示している。ThMn12型結晶構造では、Feダンベルペアは希土類元素Rの占有サイトのうちのFeダンベルライン上に位置しているが、TbCu7型結晶構造では、Feダンベルペアが希土類元素Rの占有サイトの任意の位置に存在し得る。すなわち、TbCu7型結晶構造では、Feダンベルペアの占有確率は、Feダンベルラインと希土類元素ラインとの間で差が無い。これに対して、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造では、Feダンベルペアの占有確率は、Feダンベルラインと希土類元素ラインとの間で等しくない。Feダンベルペアの位置にこのような不規則性を有する結晶構造を「不規則ThMn12型」と称することにする。
本発明者は、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成を適切な範囲内から選択すれば、上記のR’−Fe−Co系強磁性化合物を得ることができ、しかも、合金組成および製造条件を調整することによって「希土類元素R’」と「Fe原子のペア」との部分的な規則配列の制御が可能であることを見出した。本発明者は、また、適切な組成範囲にあるR’−Fe−Co系合金を適切な条件で熱処理することにより、結晶構造内に不規則性を有する「不規則ThMn12型」結晶構造を有するR’−Fe−Co強磁性化合物を形成することを見出した。
以下、本明細書では、希土類元素とFeダンベルペアとの置換に長周期性がないことを「不規則(ランダム)」と表現する。長周期のオーダは、X線で測定される結晶子サイズ(約20nm)と同等と定義する。不規則ThMn12型結晶構造は、ThMn12型結晶構造よりも構成原子数が少ないためにFe副格子への電子供給量が少なくなる。その結果、不規則ThMn12型結晶構造を有するR’−Fe−Co強磁性化合物は大きな磁化を有する。
また、Feダンベルペアの一部がR’元素に置換すると、フェルミ準位が適当な位置にシフトする。このため、スピン・軌道相互作用由来の大きな一軸磁気異方性が発現することになる。一方、本発明の実施形態に係るR’−Fe−Co系強磁性合金は、典型的には、R’−Fe−Co系強磁性化合物と、不規則Th2Ni17型結晶構造を有する化合物と、Fe−Coとによって主として構成される。不規則Th2Ni17型結晶構造は、構造内に希土類サイトとFeダンベルペアとのランダムに置換した部位を有し、O.Moze et al., Phys. Rev. B 9293(1994).に詳細に記載されている。
本発明に係るR’−Fe−Co系強磁性合金は、希土類元素R’の組成によっては、Th2Zn17型の結晶相も包含し得る。
図1は、本発明のR’−Fe−Co系強磁性合金に含まれ得る化合物を示す。このR’−Fe−Co系強磁性合金は、R’−Fe−Co系強磁性化合物を必須の構成相として含有し、他の相を付加的に含有してもよい。例えば、Fe−Co系相、不規則Th2Ni17型結晶相、およびTh2Zn17型結晶相の少なくとも1つの相がR’−Fe−Co系強磁性合金に含有され得る。なお、必須構成相であるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、図1に示すように、熱処理によって最終的に不規則ThMn12型結晶相となる結晶構造変化過程を経る結晶相(図1では簡単の為「不規則ThMn12型」と記している)(タイプI)および熱処理によって最終的に擬不規則ThMn12型結晶相となる結晶構造変化過程を経る結晶相(図1では簡単の為「擬不規則ThMn12型」と記している)(タイプII)の少なくとも一方である。これらの結晶相の詳細な構造については、後に詳しく説明する。
以下、本開示における実施形態を説明する。
[基本構造]
本発明の実施形態におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、TbCu7型結晶構造とThMn12型結晶構造との中間的な結晶構造によって構成される。
図7に示すように、TbCu7型結晶構造は希土類サイトにFeダンベルペアがランダムに置換した結晶構造である。図7では、見易くするためカゴメ格子を除いて結晶構造を表示している。一方、ThMn12型結晶構造では、このTbCu7型結晶構造において[2−10]方向に希土類のみとFeダンベルペアのみで構成される直線が交互に表れ、[001]方向にはそれら直線が位相を逆にして積み上がった構造に相当する。中間的な結晶構造とは、上記の置換規則が中途段階の結晶構造を指す。図7において、aortho、bortho、corthoは、それぞれ、a軸、b軸、c軸の長さを示している。
本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、空間群Immmに属し、急冷凝固合金を熱処理することによってその温度と時間に応じて、最もTbCu7型結晶構造に近い側から最もThMn12型結晶構造に近い側へとR’サイトとFeダンベルペアの置換の規則性が連続的に発達し、それらのサイト占有率が変化する。図6に示すように、R’−Fe−Co系強磁性化合物は、2つの希土類元素サイト2a、2d、および、6つのFe、Coサイト4e、4f、4g1、4g2、4h、8kによって構成される。希土類元素R’とFeダンベルペアとのランダムな置換は、2aサイトと4g2サイトの間、および2dサイトと4g1サイトの間にそれぞれ存在する。
これらの占有率は熱処理温度と時間に応じて連続的に変化し、それに伴って格子定数や内部座標も連続的に変化する。4eサイトにはFe元素の原子欠損を有する場合があり、さらに2aサイトには原子欠損が生じている場合がある。Co元素は8kサイトに選択配位する。
原子欠損が生じていない2aサイトのサイト占有率をg2a、原子欠損が生じている2aサイトのサイト占有率をg2a vacとすると、g2aは0.40≦g2a≦0.9、望ましくは0.46≦g2a≦0.85の範囲にあり、g2a vacは0≦g2a vac≦0.40、望ましくは0.09≦g2a vac≦0.33の範囲にある。また、2dサイトのサイト占有率g2dは0.20≦g2d≦0.70、望ましくは0.26≦g2d≦0.65の範囲にある。さらに、サイト占有率gには0.40≦g2a+g4g2≦1と0.20≦g2d+g4g1≦1の関係が成立する(体心構造の並進対称性からg2a≧g2dの関係を課しても一般性を失わない)。2aサイトと4g1サイトの占有率が大きいほどThMn12型に近く、4g2サイトと2dサイトの占有率が大きいほどTbCu7型に近い。
一方、空間群Immm表記において、g4g2=0かつg2d=0かつa=bかつ、内部座標で4g1(x)=4e(x)かつ4h(y)=4f(x)の場合、空間群Immmはc軸周りに4回回転対称性を有する空間群I4/mmmのThMn12型になり、またa=√3cかつg2a=g2dかつg4g1=g4g2の場合には、空間群Immmはb軸周りに6回回転対称性を有する空間群P6/mmmのTbCu7型結晶構造になる。つまり、空間群Immmで一般座標位置にある原子が特殊座標位置にシフトし、かつサイト占有率が同等となることにより回転対称性が生じるために、高い対称性を有する空間群になる。空間群間での格子定数の対応関係は、chex=bortho/2=atetra、ahex=corhto=ctetraである。本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、構造変化過程の極限の構造ではTbCu7型結晶構造やThMn12型結晶構造に近い構造をとるが、サイト間の内部座標や占有率が非等価で特殊座標サイトとならないため回転対称性が生じない。ただし、これは少なくともX線で観る長周期の範囲で回転対称性がないということを意味し、単位胞数個程度の局所的に観た場合には短距離秩序が発達して回転対称性を有している場合を排除しない。
本発明の実施形態におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の室温におけるa軸の格子定数をa、b軸の格子定数をb、c軸の格子定数をcとすると、それぞれ8.38オングストローム≦a≦8.49オングストローム、8.37オングストローム≦b≦8.47オングストローム、4.77オングストローム≦c≦4.88オングストロームを有している。
[基本組成]
本発明の実施形態において、急冷凝固合金中のR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造は急冷凝固合金を作製する際の冷却速度によって異なり、冷却速度が十分早い場合には、合金中のR’−Fe−Co系強磁性化合物は、TbCu7型に近い結晶構造から熱処理によって最終的に不規則ThMn12型結晶構造や擬不規則ThMn12型結晶構造に変化する相分離過程を経る。このTbCu7型に近い結晶構造の組成は、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成および冷却速度に応じて、希土類元素とFeダンベルペアとの置換比率の相違により異なり、定数比ではない。このTbCu7型に近い結晶構造の組成は、熱処理による相分離を経て最終的に生成するR’−Fe−Co系強磁性化合物の構造を支配する。また、冷却速度が比較的遅い場合には、急冷凝固合金中のR’−Fe−Co系強磁性化合物は必ずしもTbCu7型に近い構造ではなく、より中間的な結晶構造から熱処理によって最終的に生成するR’−Fe−Co系強磁性化合物に変化する相分離過程を経る。
本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造において、a軸の長さとb軸の長さが同等となることにより、c軸方向における一軸磁気異方性が発達すると推定される。このため、一軸磁気異方性を高めるという観点から、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成は、合金中のTbCu7型に近い結晶構造が熱処理によりa軸長さとb軸長さとが同等になる組成範囲が望ましい。R’−Fe−Co系強磁性合金の組成をY(Fe,Co)zによって表現した場合、10.5<z<14.0の組成範囲が望ましく、11.5≦z<14.0の組成範囲がより望ましい。なぜなら、11.5≦z<14.0の組成範囲では、a軸およびb軸が同じ長さの斜方晶(不規則ThMn12型結晶構造)が最終的に生成し、また10.5<z<11.5の組成範囲では、a軸およびb軸の長さが最大でわずか0.1%程度異なった斜方晶(擬不規則ThMn12型結晶構造)が最終的に生成するためである。
以下では、前者(11.5≦z<14.0であり、熱処理によって最終的に不規則ThMn12型結晶構造に変化する相分離過程を経るもの)をタイプI、後者(10.5<z<11.5であり、熱処理によって最終的に擬不規則ThMn12型結晶構造に変化する相分離過程を経るもの)をタイプIIとそれぞれ呼称する。また、これら以外のz≦10.5の組成範囲をタイプIII、z≧14.0の組成範囲をタイプIVとそれぞれ呼称する。便宜上、本明細書では、このようにしてR’−Fe−Co系強磁性化合物をR’−Fe−Co系強磁性合金の組成範囲に応じて4種に分類する。本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、図1に示されるように、タイプIの化合物またはタイプIIの化合物を含む。
[基本磁気物性]
本発明の実施形態におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物は、上記の基本組成と基本構造に記載の通り、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成と冷却速度ならびに熱処理の温度と時間により、構造が変化する。磁気異方性の観点から、a軸およびb軸が同じ長さになることにより一軸磁気異方性が最大になると推定されるため、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成は熱処理によりa軸およびb軸が同じ長さになるタイプIとa軸およびb軸の長さが最大でわずか0.1%程度異なるタイプIIが適切である。例えば、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成を、Y(Fe1-yCoy)zとした場合、11.5≦z<14.0の組成範囲のタイプIの結晶は、Co置換量yに応じてキュリー温度は200℃〜860℃、室温の体積磁化は少なくとも1.35T〜1.61T、室温の磁気異方性磁界は1.7T〜2.7Tに達する。また、10.5<z<11.5の組成範囲のタイプIIの結晶は、Co置換率yが同じタイプIと比較すると、キュリー温度は10℃〜20℃低く、室温の体積磁化は測定誤差を考慮するとタイプIと同等であり、室温の磁気異方性磁界はタイプIより大きい傾向にある。さらに、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成を、(Y1-xSmx)(Fe,Co)zとした場合、Sm置換量に応じキュリー温度、室温の体積磁化と磁気異方性磁界はいずれも上昇する。
本発明におけるR'−Fe−Co系強磁性化合物のキュリー温度は、タイプの種類に関係なく650℃以上の熱処理で顕著な上昇を確認することができる。なお、図6および図7では、格子定数a、b、cがa≠b≠c(斜方晶)のものをImmmと記述しているが、本明細書においては、前記タイプI、すなわちa=b≠cの場合も本発明の化合物が属するImmm構造に含まれる。
[Co元素の部分置換]
Fe元素の一部をCo元素で置換することにより磁気物性値は飛躍的に向上する。磁気特性が最も高く実用上重要なタイプIの結晶、すなわち不規則ThMn12型結晶構造のCo置換効果では、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe1-yCoy)zにおいて、zが上記組成範囲のとき、0≦y≦0.3の組成範囲が望ましく、室温での体積磁化1.61T、かつ磁気異方性磁界2.7Tに飽和する0.1≦y≦0.3の組成範囲がより望ましい。当該組成範囲ではキュリー温度は410℃から680℃と実用上十分に高い値を有する。y<0.1の組成範囲ではCo置換量の増加に伴いキュリー温度は上昇し、室温での体積磁化と磁気異方性磁界は増大する一方、y>0.3の組成範囲ではCo置換量の増加に伴いキュリー温度は上昇するものの室温での体積磁化と磁気異方性磁界は低下する。さらに、y>0.42の組成範囲では熱処理をしてもa軸およびb軸の長さが同等の結晶は最終的に生成しない。
[R’元素の組合せ]
Y元素以外にR’を構成する元素としては、結晶場由来の大きな磁気異方性を供与する元素が望ましい。また、TbCu7型構造とThMn12型構造との中間的な結晶構造において一軸磁気異方性を付与する元素がより望ましく、葉巻型電子軌道を有するSm、Er、Tmが適切である。特にFe副格子との磁化の向きが平行になる軽希土類元素のSmがより適切である。例えば、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成をY1-xSmx(Fe,Co)zとした場合、zが上記組成範囲のとき、0≦x≦0.5の組成範囲が望ましい。x>0.5の組成範囲では、Y元素よりもSm元素が多くなるためR’−Fe−Co系強磁性化合物を形成することができない恐れがある。
以上をまとめると、結晶構造および磁気特性の観点から、R’−Fe−Co系強磁性合金のR’としてYとSmの組合せが適切である。R’−Fe−Co系強磁性合金の組成をY1-xSmx(Fe1-yCoy)zと表記した場合、0≦x≦0.5、かつ0≦y≦0.3かつ10.5<z<14.0の組成範囲が望ましく、0≦x≦0.5、かつ0.1≦y≦0.3かつ10.5<z<14.0の組成範囲がより望ましい。
以下、本発明のR’−Fe−Co系強磁性合金の製造方法の実施形態の一例を工程ごとに説明する。
[R’−Fe−Co系強磁性合金の作製方法]
(A)R’−Fe−Co母合金を作製する工程
R’とFeとCo、またはそれらの2種以上で構成される合金を混合して真空あるいは不活性ガス中で溶解して母合金を作製する(溶解鋳造法)。溶解により、合金組成が均一化される。前もって作製した組成が既知のR’−Fe−Co合金を使用することにより、急冷凝固法における金属溶融時に組成を調整しやすい利点がある。作製したR’−Fe−Co母合金のインゴットにおける組成ずれは、後述する工程(B)で修正することが可能である。また、別の方法として、組成の異なる複数のR’−Fe−Co合金を別々で作製し、後述する工程(B)で混合する方法も可能である。
R’−Fe−Co母合金インゴットの組成分析は、例えば誘導結合プラズマ発光分光(Inductively coupled plasma optical emission spectrometry、ICP−OES)法で可能である。組成ずれの抑制は、溶解のための昇温時間を短くするか、R’金属塊を後入れにすることなどによって可能である。
上記の方法に代えて、構成元素の酸化物や金属を粒状金属カルシウムと混合して、不活性ガス雰囲気中で加熱反応させる還元拡散法などを使用してもよい。
(B)母合金を急冷凝固させる工程
本実施形態では、上記で作製したR’−Fe−Co母合金を急冷凝固させて急冷凝固合金を作製する。急冷凝固法としては、例えばガスアトマイズ法や、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ストリップキャスト法、メルトスピニング法などのロール急冷法が挙げられる。希土類鉄合金は酸化しやすいため、高温では真空中または不活性雰囲気中で急冷することが好ましい。
不規則Th2Ni17型の化合物相であるR’2(Fe、Co)17は、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物よりも熱安定性が高く、後述する熱処理工程(C)を行っても本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物に変化せず不規則R’2(Fe、Co)17のままである。そのため、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の生成量を確保するという点において、急冷凝固時に不規則R’2(Fe、Co)17の生成を抑制するのが好ましい。これは冷却速度を上げることにより可能である。
空冷式のCu製単ロールによるメルトスピニング法を用いる場合、ある実施形態では、ロール周速度を15m/s以上に設定することが好ましい。ロール周速度が20m/s以上になると、R’−Fe−Co系強磁性化合物は50wt%以上の割合で生成する。ロール周速度をより高速にすることにより不規則Th2Ni17型化合物相の生成を抑制することができ、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の生成量は増加する。そのため、ロール周速度は30m/s以上に設定することがより好ましい。
一方、後述する熱処理工程(C)の熱処理温度に応じて、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の構造は変化すると共に熱分解が生じる。そのため、工程(C)の熱処理温度によってはロール周速度をより高速にしても本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の生成量は変わらない。生産性の観点からはロール周速度は50m/s以下に設定することが好ましい。
本発明の他の実施形態として、急冷凝固法以外の準安定相を生成する非平衡プロセスによっても可能である。例えば、ナノ粒子プロセスや薄膜プロセスである。分子線エピタキシー法、スパッタ法、EB蒸着法、反応性蒸着法、レーザアブレーション法、抵抗加熱蒸着法などの気相法や、マイクロ波加熱法などの液相法、メカニカルアロイ法が挙げられる。
(C)熱処理工程
上述の方法によって形成した本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性合金または本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の構造を適正化するため、好ましい実施形態では、熱処理を行う。本熱処理工程(C)により、R’−Fe−Co系強磁性合金に含まれるTbCu7型に近い結晶構造の化合物は相分離することにより、タイプIでは不規則ThMn12型結晶構造へ、タイプIIでは擬不規則ThMn12型結晶構造へとそれぞれ連続的に構造が変化する。そのため、熱処理温度と熱処理時間は重要である。
試料を高温環境で長時間保持することは、希土類元素の蒸発や試料の酸化を招くと共に生産性を低下させ得る。このため、比較的に短い時間で均一な熱処理ができる程度の温度で、熱処理工程を実施することが望ましい。熱処理の温度は、例えば、600℃から1000℃の間に設定され得る。熱処理の時間は、例えば0.01時間以上10時間未満の範囲内に設定され得る。
[磁石作製方法]
本発明のR’−Fe−Co系強磁性合金から磁石を製造することは、種々の方法によって可能である。例えば、上述の方法によって作製した合金を粉砕し、合金粉末を得る。その後、公知の粉末冶金的手法やボンド磁石の製造方法などを適用して合金粉末から磁石体を製造することができる。例えば急冷凝固法による場合、急冷凝固時および熱処理後に生成するR’−Fe−Co系強磁性合金の組織を適正化すると、磁壁ピンニングによる保磁力の発現も期待できる。組織の適正化とは、例えば、R’−Fe−Co系強磁性合金を構成するFe−Co以外の相において一軸磁気異方性を生じさせる他元素、例えばGa、Al、Siなどを少なくとも1種添加するなどが挙げられる。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の結晶構造解析は以下のようにして行った。
<X線リートベルト解析の構造モデルおよび解析方法>
まず、解析方法の流れを示す。
X線回折ピークの指数付けができるように、初期構造モデルとして試料に含まれる相の種類とそれらの結晶構造(格子定数、内部座標、サイトランダムネスなど)を設定した。その後、リートベルト解析ソフトにより、モデルを用いて計算されたX線回折パターン(計算データ)と実際に測定されたX線回折パターン(実測データ)との差異が小さくなるように、試料における相の比率、各相の格子定数、内部座標、サイトランダムネス、占有率などを、初期構造から変化させて精密化した。精密化の精度を判断する指標としては、本解析で一般的に用いられる、計算データと実測データにおける統計的重み付き残差二乗和Rwpと統計的に予想される最小のRwpであるReとの比Rwp/Re(以下、S値とする)を用い、これが最小の値になるようにパラメータを決定した。
以下に使用した構造モデルを示す。
本発明に係る試料では、X線回折のピーク位置とキュリー温度から、主としてTbCu7型に近い結晶構造、ThMn12型に近い結晶構造、不規則Th2Ni17型結晶構造、Fe−Coが含まれることを別途確認している。Th2Ni17型結晶構造に関しては、Y−Fe系では構造内部に希土類元素とFe元素とのランダムな置換が生じていることが一般的に知られており、明示する意味で不規則Th2Ni17型構造と表記する。一方、Y−Fe−Co系強磁性化合物のキュリー温度は、図8に示したように<工程C>の熱処理温度に応じて連続的に変化することを観測しており、結晶構造も連続的に変化していることが推定された。
本発明の構造群を明らかにするためには、TbCu7型構造とThMn12型構造を適当なパラメータを用いて連続的な構造変化として取り扱わなければならない。TbCu7型は空間群P6/mmmであり、c軸周りに6回回転対称性を有する。ThMn12型は空間群I4/mmmであり、c軸周りに4回回転対称性を有している。両構造とも、[001]、 [100]、[110]軸のそれぞれに垂直な鏡映面を有している。中間構造を含め連続的な構造変化を取り扱うには、ThMn12型構造で[001]軸周りの回転対称性を排除した空間群Immmが適切である。空間群Immmで解析することによりS値は低下する。
図6は、前述したように、各構造のサイトの対応関係を示す。連続的な構造変化を取り扱うためのパラメータは、希土類サイトとFeダンベルペアとの置換率であり、2aサイト、4g2サイト、2dサイト、4g1サイトの占有率が該当する。2aサイトと4g1サイトの占有率が大きいほどThMn12型に近く、4g2サイトと2dサイトの占有率が大きいほどTbCu7型に近い。サイト占有率には0<g2a+g4g2≦1と0<g2d+g4g1≦1の関係が成立する。また、構造の並進対称性から、g2a>g2dの関係を課しても一般性を失わない。
4gサイトは4g1と4g2に自己格子間分裂し、b軸上に配置する。一般に4g1サイトと4g2サイトの内部座標の間に関連性はないが、サイト占有率が小さい場合にはb軸上で原子位置が任意となり解析が収束しないため、希土類サイトからの距離は等しいと仮定した。その他のFeサイトの占有率は自由に変化し得るが、解析時に解析誤差程度(σ以内,σはgの標準偏差)の範囲で変動する場合には、占有率を1に固定した。
各サイトにおける占有率と温度因子(デバイ・ワラー因子)との間には強い相関があることが一般的に知られている。本発明では、各サイトにおいて等方的な温度因子を設定し、類似構造であるYFe11Mの室温での温度因子(Yサイト:0.28、8fサイト:0.10、8jサイト:0.29、8iサイト:0.27)に倣い、8kサイトは0.1、その他のサイトは0.3に固定した。その際に、不規則Th2Ni17型構造の格子定数・内部座標は、1000℃0.5hで熱処理した試料を用いて解析した値に固定して解析を行った。
粉末X線回折は、ブラッグ−ブレンターノ集中ビーム方式の広角X線回折装置(X−ray diffractometer、XRD、ブルカー・エイエックス(株)製D8 ADVANCED/TXS)を使用した。Cu製回転陰極に印加する電圧は45kV、電流は360mAとした。KβフィルタはNiを使用した。各スリットは、ソーラスリットを入射側と受光側ともに2.5°、発散スリットを1.0°、受光スリットを0.1mmに設定し、散乱スリットは使用しなかった。走査軸を2θ/θ連動動作で間隔を0.02°、速度を1.3sec./stepとし、 20°≦2θ≦70°または20°≦2θ≦100°の範囲を室温において走査した。X線リートベルト解析は、DIFFRACplus Professional TOPAS 4(ブルカー・エイエックス(株)製)を使用した。
[実施例1]
<Y−Fe−Co系強磁性合金の作製>
(工程A)
まず、組成が7.7Y―76.6Fe―15.7Co(at%)(化学式でY(Fe0.83Co0.17)12)で示される総重量1kgの原料合金を得るため、Y(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)と電解コバルト(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成7.7Y―76.6Fe―15.7CoよりもYが3質量%多くなるように、119.7gのYと、729.8gのFeと、154.0gのCoを秤量した。秤量した各金属を混合してアルミナ坩堝に投入し、高周波溶解によって溶解した。その後、水冷の銅ハース上に溶融金属を展開し、凝固させて合金のインゴットを得た。作製した合金インゴットを、ICP分析装置(島津製作所社製:ICPV−1017)を用いて分析した結果、組成は7.4Y―81.3Fe―11.3Co(at%)であった。
こうして得た組成が7.4Y―81.3Fe―11.3Coのインゴットに対して、全体の組成が例えば化学式でY(Fe0.83Co0.17)10.5の場合には、Yの金属塊0.269gとCoの金属塊0.306gを秤量添加し、それらを底部に穴(0.8mmφ)の開いた石英出湯管に投入した。7.4Y―81.3Fe―11.3Coインゴット、Y金属塊およびCo金属塊が投入された石英出湯管を高周波誘導加熱型の非晶質金属作製炉(日新技研(株)製)に導入し、20kPaのAr雰囲気中でインゴットおよび金属塊を高周波電界の印加によって加熱し溶解した。7.4Y―81.3Fe―11.3Coインゴットに対して、上記と同様の手順でYおよびCoおよび/またはFeの金属塊を適量添加することにより全体の組成を調整した試料を加熱し溶解した。組成は化学式でY(Fe0.83Co0.17)z(10.5≦z≦17.0)の範囲で調整した。以下、本実施例では合金組成は化学式で表記する。
(工程B)
工程AにおいてY−Fe−Co系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧48kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。本実施例では、ロール周速度40m/sを基本条件として設定した。ロール周速度を高速にすることにより、as−spun試料(急冷凝固後熱処理していない試料)での不規則Th2Ni17型の生成を抑制することが可能であり、熱処理過程での相分離や構造変化を追跡しやすいためである。ただし、冷却速度に応じた生成相の量や構造の相違を評価する場合には、より遅いロール周速度(0〜40m/s)でも作製した。
なお、本明細書では、合金溶湯の冷却速度を「ロール周速度」によって表現しているが、ロール周速度は、冷却に使用するロールの熱伝導率、熱容量、雰囲気の圧力、出湯管圧などによっても変化し得る。本明細書の実施例で使用したロールとは異なる材料またはサイズのロールを使用する場合、ロール周速度の好ましい範囲は本実施例における値を補正して決定すればよい。
(工程C)
工程Bにおいて作製した超急冷薄帯をNb箔に包み、Arフロー雰囲気とした石英管に装填した後、石英管を中で予め所定温度に設定された管状炉に投入し0.5時間保持した。その後、石英管を水中に投下し十分冷却した。Arフロー中での熱処理は、真空中での熱処理よりもY元素の蒸発を抑制することができる。そのため、本実施例ではYとFe,Coとの組成ずれを抑制する目的でArフロー中において熱処理を実施した。
<キュリー温度>
図8には、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)z(10.5≦z≦17.0)におけるY−Fe−Co系強磁性化合物のas−spun試料と900℃熱処理試料のキュリー温度を示す。900℃で熱処理することによりY−Fe−Co系強磁性化合物の構造は組成zに応じた構造に概ね収束することを確認している。図8からわかるように、組成zに関係なく、900℃で熱処理することによりキュリー温度は上昇する。少なくとも700℃以上の熱処理でキュリー温度が上昇することを別途確認した。また、キュリー温度は組成zに応じても変化することがわかった。11.5≦z≦14.0の組成範囲で、キュリー温度は比較的に高い値を有する。11.5≦z<14.0の組成範囲のタイプIではキュリー温度は514℃に達し、10.5<z<11.5の組成範囲のタイプIIの擬不規則ThMn12型結晶構造では、キュリー温度は500℃に達した。
<熱処理に伴う構造変化>
図9には、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)z(10.5≦z≦17.0)におけるY−Fe−Co系強磁性化合物の熱処理に伴う構造変化を室温での軸比で整理したグラフを示す。熱処理に伴う格子変化を明示するため、プロット同士を補間して表示している。
組成zの値に関係なく、熱処理温度の高温化に伴ってb/cの値は大きくなることを別途確認している。この格子変化から、図9のY−Fe−Co系強磁性化合物は熱処理による相分離・格子変化の過程で複数のタイプに大別される。磁気異方性の観点から、a軸の長さとb軸の長さが等しくなるにつれ、c軸方向における一軸磁気異方性が最大となることが推定される。このため、R’−Fe−Co系強磁性合金の組成は、熱処理により、不規則ThMn12型結晶構造になるタイプIと、擬不規則ThMn12型結晶構造になるタイプIIとが適切であると推定している。
タイプIは、11.5≦z<14.0の組成範囲であり、熱処理による格子変化の過程で格子が一時的に大きく歪んだあとa軸の長さとb軸の長さとが等しい不規則ThMn12型結晶構造(a=b)へと最終的に変化する。
タイプIIは、10.5<z<11.5の組成範囲であり、熱処理による格子変化の過程で格子歪みが小さく、a軸の長さとb軸の長さがわずかに異なる擬不規則ThMn12型結晶構造へと変化する。『擬不規則』は、0<|(a−b)/a|≦0.001のものを指すことにする。不規則ThMn12型結晶構造または擬不規則ThMn12型結晶構造を形成するためには、10.5<z<14.0の組成範囲が望ましい。
このように、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成に応じて、Y−Fe−Co系強磁性化合物の熱処理での相変化の過程が異なる。実施した組成範囲でのY−Fe−Co系強磁性化合物の室温での格子定数は、a軸は8.38オングストローム≦a≦8.47オングストローム、b軸は8.39オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.77オングストローム≦c≦4.87オングストロームである。特に、タイプIでは実施例4に関する後述の図13に示すように、結晶のサイズがa軸は8.38オングストローム≦a≦8.47オングストローム、b軸は8.43オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.77オングストローム≦c≦4.85オングストロームである。また、タイプIIでは、結晶のサイズがa軸は8.41オングストローム≦a≦8.46オングストローム、b軸は8.42オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.79オングストローム≦c≦4.86オングストロームである。
図10Aには、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)12のas−spun試料における生成相の量とロール周速度との関係を示す。図10Bには、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)12の900℃で熱処理した試料における生成相の量とロール周速度との関係を示す。図10Aに示されるas−spun試料では、ロール周速度が15m/s以上のとき、Y−Fe−Co系強磁性化合物が生成されるが、その比率は比較的小さい。ロール周速度が速くなるに伴い、Y−Fe−Co系強磁性化合物の生成量は増加する。ロール周速度が30m/s以上になると、Y−Fe−Co系強磁性化合物が合金全体に占める比率は90wt%以上となり飽和する。ロール周速度が12.5m/s以下と遅く試料の冷却が緩慢な場合には、十分な量のY−Fe−Co系強磁性化合物を生成できない。
一方、熱処理により、Y−Fe−Co系強磁性化合物は構造が変化するとともに熱分解も生じるため、全体に占める本発明におけるY−Fe−Co系強磁性化合物の相比率は低下する。例えば、図10Bに示されるように、900℃で熱処理した試料では、ロール周速度が22.5m/s以上になると、Y−Fe−Co系強磁性化合物が合金全体に占める比率は40wt%〜50wt%程度となり飽和する。結局、900℃で熱処理した状態では、ロール周速度が22.5m/s以上ならば相比率は同等である。ロール周速度は、as−spun試料において50wt%以上で生成する20m/s以上が望ましい。熱処理の温度に応じては、ロール周速度を高速にしても生成量は変わらない。
<結晶構造解析>
これらの合金に対して、上記に示した方法によって結晶構造解析を行った。図11Aには、上記タイプI(11.5≦z<14.0)のY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)zにおけるY−Fe−Co系強磁性化合物のサイト占有率の軸比b/cに対する変化を示す。図11Bには、上記タイプI(11.5≦z<14.0)のY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)zにおけるY−Fe−Co系強磁性化合物の内部座標の軸比b/cに対する変化を示す。
上記のとおり、b/cの大きさは熱処理温度が高温化すると大きくなる。このため、図11Aおよび図11Bは、熱処理温度を変化させた時のサイト占有率および内部座標の変化を示していると理解することができる。構造はb/cの大きさによって概して以下の3つに分けることができる。
(1) b/c≦1.746
(2) 1.746≦b/c≦1.760
(3) b/c≧1.760
b/c≦1.746では、TbCu7型結晶構造に近い構造が実現される。この構造では、希土類サイト2aサイトと2dサイトの57%がYによって占められ、希土類サイト2aサイトの22%がFeダンベルペア4g2サイトで置換され、22%が原子欠損している。(図11Aでは2a_vac.で示している。)測定上原子欠損でなくYよりも原子散乱因子の小さな元素、すなわちここではFeまたはCoが配置している可能性もあるが、そうであっても熱処理による相分離の変化過程は変わらないので、ここでは原子欠損として扱う。4eサイトの91%がFeによって占められ9%が原子欠損している。
一方、b/c≧1.760では、不規則ThMn12型結晶構造が実現される。この構造では、希土類サイトは2aサイトと2dサイトに分かれ、体心位置にある2aサイトの81%がYによって占められ、19%が原子欠損している。さらに2dサイトの33%がYによって占められ、66%がFeダンベルペア4g1で置換されている。これらの希土類サイト占有率や希土類サイトとFeダンベルペアとの置換比率は、ロール周速度に依存する。例えば、ロール周速度25m/sで出湯し900℃、0.5時間で熱処理して作製したY−Fe−Co系強磁性合金7.7Y−Fe76.6−15.7Co(化学式でY(Fe0.83Co0.17)12)に含まれるY−Fe−Co系強磁性化合物は、2aサイトの88%がYによって占められ、12%が原子欠損しており、2dサイトの23%がYによって占められ、74%がFeダンベルペア4g1で置換されている。ThMn12型結晶構造と不規則ThMn12型結晶構造とのサイト占有率に観る相違は、2dサイトの全てがFeダンベルペア4g1で置換されているか否か、及び2aサイトの原子欠損の有無である。
本発明の一部である不規則ThMn12型結晶構造のb/cの大きさは、実施した範囲では1.773以下であり、これ以上の大きさは結晶構造が不安定である。b/cの大きさをより大きくするには、特許文献1や非特許文献1に開示されているようにFeサイト置換型元素Mの添加が必要であるが、著しい磁気特性の低下を誘発し望ましくない。
内部座標は、4eサイトは(0.346<x<0.363、0、0)、4fサイトは(0.197<x<0.211、0、1/2)、4g1サイトは(0、0.335、0)、4g2サイトは(0、0.165、0)、4hサイトは(0、0.241<y<0.250、1/2)、8kサイトは(1/4、1/4、1/4)である。
前記のとおり、空間群Immm表記において、g4g2=0かつg2d=0かつa=bかつ、内部座標で4g1(x)=4e(x)かつ4h(y)=4f(x)の場合、空間群Immmはc軸周りに4回回転対称性を有する空間群I4/mmmのThMn12型になる。またa=√3cかつg2a=g2dかつg4g1=g4g2の場合には、空間群Immmはb軸周りに6回回転対称性を有する空間群P6/mmmのTbCu7型結晶構造になる。本発明におけるY−Fe−Co系強磁性化合物は、TbCu7型結晶構造やThMn12型結晶構造に近い構造をとるが、サイト間の内部座標や占有率が非等価で特殊座標サイトとならないため回転対称性が生じない。これは、少なくともX線で観る長周期の範囲で回転対称性はないことを意味し、単位胞数個程度の局所的に観た場合には回転対称性を有している場合を排除しない。
例えば、図12には、ロール周速度40m/sで出湯し熱処理することにより作製したタイプIのY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)zにおけるY−Fe−Co系強磁性化合物の構造変化過程の極限である(最もTbCu7型結晶構造に近い)結晶構造(b/c=1.74)と、不規則ThMn12型結晶構造(b/c=1.77)を示す。サイト占有率の誤差を考慮すると、Y−Fe−Co系強磁性化合物の組成はY(Fe0.83Co0.17)10近傍である。不規則性はX線で測定される結晶子サイズ内において秩序がないことを指す。R’−Fe−Co系強磁性化合物は、実施した範囲では少なくとも20nmに亘って希土類元素とFeダンベルとが確率的に置換した部位を有している。これにより、これらの合金は、空間群Immmに属し、希土類元素とFeダンベルペアとの置換に長周期性がない不規則ThMn12型結晶構造を有するY−Fe−Co系強磁性化合物を含んでいることがわかる。ただし、前述で指摘しているように、20nmよりも小さな距離で短距離秩序が生じ回転対称性を有している可能性はあり、その場合を排除しない。
図13には、実施例2でロール周速度40m/sで出湯し熱処理することにより作製したタイプIのY−Fe−Co系強磁性化合物Y(Fe0.83Co0.17)zの室温での格子定数の軸比b/cに対する変化を示す。b/c≧1.759では、a軸およびb軸の長さが等しくなることが特徴である。本実施例の場合、a軸8.38オングストローム≦a≦8.47オングストローム、b軸8.43オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸4.77オングストローム≦c≦4.85オングストロームを有することを特徴とする。
図14Aには、上記タイプII(10.5<z<11.5)のY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)zにおけるY−Fe−Co系強磁性化合物のサイト占有率の軸比b/cに対する変化を示す。ただし、タイプIとタイプIIの相違を明示するため、破線は図11Aで示したタイプIの変化を示す。図14Bには、上記タイプII(10.5<z<11.5)のY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe0.83Co0.17)zにおけるY−Fe−Co系強磁性化合物の内部座標の軸比b/cに対する変化を示す。ただし、タイプIとタイプIIの相違を明示するため、破線は図11Bで示したタイプIの変化を示す。
上記のとおり、b/cの大きさは熱処理温度が高温化すると大きくなるため、図14Aおよび図14Bは、タイプIの場合と同様に熱処理温度を変化させた時のサイト占有率および内部座標の変化と理解することができる。b/c≦1.746では、タイプIと同様にTbCu7型結晶構造に近い構造であり、希土類サイト(Immm表記では2aサイトと2dサイト)の57%がYによって占められ、2dサイトの43%がFeダンベルペア4g1で置換され、2aサイトの22%が原子欠損している。(図14Aでは2a_vac.で示している。)4eサイトの95%がFeによって占められ、5%が原子欠損している。一方、b/c≧1.761では、タイプIでは不規則ThMn12型結晶構造であるが、タイプIIではこの領域で構造を維持することができない。これらの希土類サイト占有率や希土類サイトとFeダンベルペアとの置換比率は、タイプIと同様にロール周速度に依存する。
本発明の一部である擬不規則ThMn12型結晶構造のb/cの大きさは実施した範囲では1.761以下であり、これ以上の大きさは結晶構造が不安定である。b/cの大きさをより大きくするには、タイプIの組成範囲が望ましい。内部座標は、4eサイトは(0.338<x<0.363、0、0)、4fサイトは(0.197<x<0.211、0、1/2)、4g1サイトは(0、0.325<x<0.335、0)、4g2サイトは(0、0.165<x<0.175、0)、4hサイトは(0、0.241<y<0.250、1/2)、8kサイトは(1/4、1/4、1/4)である。
図15には、上記タイプIIのY−Fe−Co系強磁性化合物Y(Fe0.83Co0.17)zの室温での格子定数の軸比b/cに対する変化を示す。ただし、タイプIとタイプIIの相違を明示するため、破線は図13で示したタイプIの変化を示す。タイプIとタイプIIで明らかに格子変形の仕方が異なることがわかった。タイプIIでは格子変形過程でa軸およびb軸の長さが概ね等しいことが特徴である。本実施例の場合、a軸8.40オングストローム≦a≦8.46オングストローム、b軸8.42オングストローム≦b≦8.45オングストローム、c軸4.79オングストローム≦c≦4.86オングストロームを有することを特徴とする。
[実施例2]
<Y−Fe−Co系強磁性合金の作製>
(工程A)
まず、組成がYFe12で示される総重量1kgの原料合金を得るため、Y(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成7.7Y―92.3Fe(at%)よりもYが3質量%多くなるように、120.6gのYと、882.9gのFeを秤量した。秤量した各金属を混合してアルミナ坩堝に投入し、高周波溶解によって溶解した。その後、水冷の銅ハース上に溶融金属を展開し、凝固させて合金のインゴットを得た。作製した合金インゴットを、ICP分析装置(島津製作所社製:ICPV−1017)を用いて分析した結果、組成は7.3Y―92.7Fe(at%)であった。
こうして得た組成が7.3Y―92.7Feのインゴットに対して、全体の組成が例えば化学式でYFe11Coの場合には、Yの金属塊0.150gとCoの金属塊0.773gを秤量添加し、それらを底部に穴(0.8mmφ)の開いた石英出湯管に投入した。7.3Y―92.7Feインゴット、Y金属塊およびCo金属塊が投入された石英出湯管を高周波誘導加熱型の非晶質金属作製炉(日新技研(株)製)に導入し、20kPaのAr雰囲気中でインゴットおよび金属塊を高周波電界の印加によって加熱し溶解した。7.3Y―92.7Feインゴットに対して、上記と同様の手順でYおよびCoの金属塊を適量添加することにより全体の組成を調整した試料を加熱し溶解した。組成は化学式でY(Fe1-yCoy)12(0≦y≦0.5)の範囲で調整した。以下、本実施例では合金組成は化学式で表記する。
(工程B)
工程AにおいてY−Fe−Co系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧48kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。ロール周速度を25m/sに設定した。出湯時の溶湯温度は合金溶湯が液体となる温度であれば任意である。
(工程C)
工程Bにおいて作製した超急冷薄帯をNb箔に包み、石英管中に配置して真空中で熱処理した。具体的には油拡散ポンプで1.0×10-4Pa以下の真空度まで排気しながら予め所定温度に設定された管状炉に投入した。その後、その温度で0.5時間保持した後、石英管を水中に投下し十分冷却した。
<Co置換量>
図16のグラフには、Y−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe1-yCoy)12におけるY−Fe−Co系強磁性化合物の(a)キュリー温度、および(b)室温での体積磁化、および(c)室温での磁気異方性磁界のCo置換量yに対する変化を示す。またこれらのそれぞれの値を表1に示す。体積磁化は、後述の実施例4で同定した磁気モーメントと実施例3で同定した単位胞体積・サイト占有率を使用して導出した。体積磁化は、0≦y≦0.1の組成範囲ではCo置換量の増加に伴い増大し、0.1≦y≦0.3の組成範囲では一定または微増、y≧0.3の組成範囲では低下した。磁気異方性磁界は、0≦y≦0.1の組成範囲ではCo置換量の増加に伴い増大し、0.1≦y≦0.3の組成範囲では一定または微減、y≧0.3の組成範囲では低下した。0.1≦y≦0.3の組成範囲では、キュリー温度は400℃から700℃であり、体積磁化は1.61Tであり、磁気異方性磁界は2.4Tから2.7T程度である。室温での体積磁化と磁気異方性磁界の変化から、Co置換量yは0<y≦0.3の組成範囲が望ましく、0.1≦y≦0.3の組成範囲がより望ましいということがわかった。
<Feサイト置換型元素Mを使用したThMn12型結晶構造の化合物との比較>
Feサイト置換型元素Mを使用した特許文献1と比較するため、ThMn12型結晶構造を有するY(Fe1-yCoy)11Ti(0<y≦0.5)について調査した。本実施例と作製条件を合わせるためロール周速度は25m/sで作製し、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で熱処理した。as−spun試料にはTbCu7型結晶構造とbcc−Fe−Coが含まれていることを観測した。熱処理温度の高温化に伴いTbCu7型結晶構造はThMn12型構造に変化することを観測し、900℃および1000℃熱処理した試料ではThMn12型が単相で生成した。急冷の効きが悪いとThMn12型結晶構造とTh2Ni17型結晶構造とbcc−Fe−Coが生成する傾向にあった。900℃で熱処理した試料について本発明に使用した空間群Immmを使用して構造解析を行ったところ、g4g2=0かつg2d=0かつa=bかつ、内部座標で4g1(x)=4e(x)かつ4h(y)=4f(x)となり、空間群Immmはc軸周りに4回回転対称性を有する空間群I4/mmmのThMn12型結晶構造になった。1000℃で熱処理した試料の磁気物性値を、本発明と同様の方法で評価した結果を表1に示す。これらの値を上記本発明の磁気物性値と比較すると、全ての磁気物性値において本発明に及ばないことがわかった。
<結晶構造解析>
これらの合金に対しても、実施例1と同様に結晶構造解析を行ったところ、これらの合金は、空間群Immmに属し、希土類元素とFeダンベルペアとの置換に長周期性がない不規則ThMn12型結晶構造を有するY−Fe−Co系強磁性化合物を含んでいることを確認した。
また、図17には、上記Y−Fe−Co強磁性合金の組成Y(Fe1-yCoy)12におけるY−Fe−Co強磁性化合物の格子定数のCo置換量に対する変化を示す。白丸が800℃熱処理した試料、塗潰した丸が900℃熱処理した試料である。X線リートベルト解析から、Co元素の置換量に関係なく、800℃で熱処理したY−Fe−Co強磁性化合物はa軸およびb軸の長さが異なることを確認した。y=0.5の組成を除き、900℃で熱処理したY−Fe−Co系強磁性化合物はa軸およびb軸の長さが同じ不規則ThMn12型となった。熱処理温度を800℃から900℃へと上げると、Co置換量に関係なくa軸およびb軸は拡大し、c軸は縮小する。本実施例の場合、a軸8.38オングストローム≦a≦8.47オングストローム、b軸8.37オングストローム≦b≦8.45オングストローム、c軸4.78オングストローム≦c≦4.84オングストロームを有する。
[実施例3]
本実験例では、57Feのメスバウア分光測定から不規則ThMn12型のY−Fe−Co系強磁性化合物のCo選択配位サイトと磁気モーメントについて評価した。実施例2のロール周速度25m/sで出湯し900℃0.5時間で熱処理した試料を室温において透過で測定した。
メスバウア分光測定によって得られる内部磁界と磁気モーメントとの間には、ThMn12型結晶構造で一般的に使用されている15.7T/μBの比例関係を用い換算した。メスバウアスペクトルの解析では、混相であるためFe元素の置かれた環境を全て反映して解析するのは自由度の多さから不可能である。そのため、サイト周りの局所環境が類似しているサイトは全て同一し、またCo原子からの距離によるFe原子の差異も無視し結晶学的な同一サイトとして扱った。結果、不規則ThMn12型で3成分、不規則Th2Ni17型で4成分、bcc−Fe−Coで1成分の合計8成分で解析を行った。任意性を排除するために、X線リートベルト解析の相比率の結果を参考にして最初に1000℃で0.5時間熱処理した試料から不規則Th2Ni17型とbcc−Fe−Coの5成分を同定した。その後、5成分を固定した条件で3成分を追加し、900℃で0.5時間熱処理した試料のメスバウアスペクトルを解析した。5成分を固定した解析の正当性は、900℃で0.5時間熱処理した試料と1000℃で0.5時間熱処理した試料とでは、不規則Th2Ni17型とbcc−Fe−Coのキュリー温度に差異がないことから支持される。なぜなら、キュリー温度に差異がないことは、交換相互作用や磁気モーメントの大きさに差異がないことを意味し、それらを反映したメスバウアパラメータの内部磁界と異性体シフトに差異がないことを意味するからである。
表2にY−Fe−Co系強磁性化合物のタイプIの不規則ThMn12型における各Feサイトへ配位する2.7オングストローム以内のFeサイトを示す。
ここで、「2.7オングストローム」は、ウィグナー・ザイツ胞の定義に使用する元素を全て包含するのに十分な距離であり、各Feサイトへ特に影響を与える元素を包含する距離である。有効配位数とは配位する元素数に距離の重み付きを掛けたものであり、各サイト周りの局所環境を反映し局在性の指標を与える。有効配位数が小さいほど局在性が大きいことを示しており、各Feサイトの局在性は4f>4g1>4h>4e>8kの順になっている。本解析では、有効配位数の近い4fと4g1、4hと4eをそれぞれ同一のサイトとして扱った。
図18にY−Fe−Co系強磁性合金の組成Y(Fe1-yCoy)12におけるY−Fe−Co系強磁性化合物のタイプIの不規則ThMn12型の(a)内部磁界と磁気モーメント、(b)四重極モーメント、(c)異性体シフト、(d)Y−Fe−Co系強磁性化合物の成分内での面積比率のCo置換量依存性をそれぞれ示す。ただし、室温で測定した。各成分とサイトとの対応付けの方法は、以下の異性体シフトと内部磁界の大きさに基づき実施した。異性体シフトは、各サイトの核位置でのs電子密度を反映しており、異性体シフトが大きいほどs電子密度は小さい。一般に局在性の大きいサイトはs電子密度が小さく、また内部磁界は大きい傾向にあるため、表2での局在性の順に従い異性体シフトと内部磁界の大きさが4f、4g1>4e、4h>8kの順となるようにサイトと各成分を対応付けた。
(a)室温での内部磁界と磁気モーメント<m>のCo置換量依存性では、0<y≦0.1の組成範囲ではCo置換量の増加に伴い急激に上昇し、0.1≦y≦0.35の組成範囲ではCo置換量増加に伴い微増または横ばいであり、y≧0.35では急激に減少することを観測した。内部磁界と磁気モーメント<m>の大きさから、Co置換量は0.1≦y≦0.35の組成範囲が望ましい。
(b)四重極分裂は各Feサイトの電場勾配と比例し、各Feサイトに配位する元素の情報を与えるため、Co元素が選択配位するサイトを同定することが可能である。Co置換量の増加に伴い、四重極分裂の変化量は8k>4e、4h>4f、4g1サイトの順であり、Co元素の配位による影響が大きな順となっている。表2から、8kサイトの第一近接サイトは8kサイトで0.239nm、4e、4hサイトの第一近接サイトは8kサイトで0.243nmであり、Co元素が8kサイトに配位していることを示唆している。また、(d)1−12相成分内での面積比率はFeサイトの数を表しており、4f、4g1サイトと4e、4hサイトはほとんど平行で比率が上昇する一方で、8kサイトは減少しており、Co元素が8kサイトに選択的に配位していることを確認した。
(c)異性体シフトは、核位置でのs電子密度を反映し、3d電子密度を反映する。3d電子密度が上昇すると、遮蔽効果により核位置でのs電子密度が低下し、異性体シフトは増加する。Fe元素の占有率の重み付き平均である平均異性体シフトは、0≦y≦0.18の組成範囲でほとんど変化がなく、y≧0.18の組成範囲で増加することを観測した。これは、Co置換量が0≦y≦0.18の組成範囲では3d電子密度にほとんど変化がなく、y≧0.18の組成範囲では3d電子密度が増加することを意味している。ThMn12型のYFe12では8i、8jサイトのアップスピンバンドは全て電子で占有されている一方、8fサイトのアップスピンバンドは電子占有の余地があるため、8fサイトにCoが選択配位することによりある閾値までは磁気モーメントは上昇することが知られている。構造が類似の不規則ThMn12型では8fサイトに対応するのが8kサイトであるため、Coの8kサイトへの選択配位により磁気モーメントは上昇すると推定している。しかし、閾値を超すことにより、ダウンスピンバンドへの電子占有を許すことになり不対電子が減少して磁気モーメントは低下する。これらの状況を踏まえると、(a)の内部磁界と磁気モーメント<m>のCo置換量依存性は以下のように説明できる。Co置換量が0<y≦0.1の組成範囲では、磁気モーメントmの増加とキュリー温度上昇の相乗効果により磁気モーメント<m>は急激に上昇し、Co置換量が0.1≦y≦0.35の組成範囲では、磁気モーメントmが減少し始めキュリー温度上昇の効果と拮抗することにより微増または横ばいとなり、Co置換量がy≧0.35の組成範囲では、磁気モーメントmの減少がキュリー温度上昇効果を勝り磁気モーメント<m>が減少すると推定できる。
本発明の実施形態における強磁性合金は、高性能磁石材料の母相として不可欠な磁気モーメントと磁気異方性磁界の大きさが、Fe元素置換系よりも大きいことがわかる。また、Feサイト置換型元素Mによる磁気モーメントの低下は大きく、Smの磁気モーメントを加味したSm(Fe、Co、M)12でも本発明の磁気モーメントの大きさには遠く及ばない。
[実施例4]
<Y−Sm−Fe−Co系強磁性合金の作製>
(工程A)
まず、組成が7.7Y―92.3Fe(at%)(化学式でYFe12)で示される総重量1kgの原料合金を得るため、Y(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成7.7Y―92.3FeよりもYが5質量%多くなるように、123.0gのYと、882.9gのFeを秤量した。秤量した各金属を混合してアルミナ坩堝に投入し、高周波溶解によって溶解した。その後、水冷の銅ハース上に溶融金属を展開し、凝固させて合金のインゴットを得た。作製した合金インゴットを、ICP分析装置(島津製作所社製:ICPV−1017)を用いて分析した結果、組成は7.7Y―92.3Feであった。同様の方法で、組成が9.3Sm―90.7Fe(at%)の合金インゴットを作製した。
こうして得た7.7Y―92.3Feインゴットと9.3Sm―90.7Feインゴットに対して、全体の組成が例えば化学式でY0.7Sm0.3(Fe0.83Co0.17)12の場合には、Yの金属塊0.089gとSmの金属塊0.064gとCoの金属塊1.504gを秤量添加し、それらを底部に穴(0.8mmφ)の開いた石英出湯管に投入した。7.7Y―92.3Feインゴットおよび9.3Sm―90.7FeインゴットおよびSm金属塊およびY金属塊およびCo金属塊が投入された石英出湯管を高周波誘導加熱型の非晶質金属作製炉(日新技研(株)製)に導入し、20kPaのAr雰囲気中でインゴットおよび金属塊を高周波電界の印加によって加熱し溶解した。7.7Y―92.3Feインゴットと9.3Sm―90.7Feのインゴットに対して、上記と同様の手順でYおよびSmおよびCoの金属塊を適量添加することにより全体の組成を調整した試料を加熱し溶解した。組成は化学式でY1-xSmx(Fe0.83Co0.17)z(0≦x≦0.5、11.5≦z≦12.0)の範囲で調整した。以下、本実施例では合金組成は化学式で表記する。
(工程B)
工程AにおいてY−Sm−Fe−Co系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧48kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。本実施例では、ロール周速度40m/sに設定した。ロール周速度を高速にすることにより、不規則Th2Ni17型の生成を抑制することが可能であり、熱処理過程での相分離や構造変化を追跡しやすいためである。
(工程C)
工程Bにおいて作製した超急冷薄帯をNb箔に包み、Arフロー雰囲気中で予め所定温度に設定された管状炉に投入し0.5時間保持した。その後、石英管を水中に投下し十分冷却した。Arフロー中での熱処理は、真空中での熱処理よりもY元素およびSm元素の蒸発を抑制することができる。そのため、本実施例では希土類元素と3d遷移金属との組成ずれを抑制する目的でArフロー中において熱処理を実施した。
図19A〜Cには、Y−Sm−Fe−Co系強磁性合金の組成Y1-xSmx(Fe0.83Co0.17)z(0≦x≦0.5、z=11.5、12.0)におけるY−Sm−Fe−Co強磁性化合物のキュリー温度、室温での磁気異方性磁界、および室温での体積磁化のSm置換量xに対する変化を示す。また、これらのそれぞれの値を表3に示す。
これらの合金に対しても、実施例1と同様に結晶構造解析を行ったところ、これらの合金は、空間群Immmに属し、希土類元素とFeダンベルペアとの置換に長周期性がない不規則ThMn12型結晶構造を有するR’−Fe−Co系強磁性化合物を含んでいることを確認した。また、x≧0.3の組成範囲では熱処理温度に応じて軽希土類元素に特徴的なTh2Zn17型結晶構造も生成することを確認した。X線リートベルト解析から、SmリッチなTh2Zn17型とYリッチなTh2Ni17型に分解することを確認した。
実施した組成範囲でのY−Sm−Fe−Co系強磁性化合物の室温での格子定数は、a軸は8.39オングストローム≦a≦8.49オングストローム、b軸は8.43オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.78オングストローム≦c≦4.88オングストロームである。
実施例1および実施例2の結果を含めると、本発明におけるR’−Fe−Co系強磁性化合物の室温での格子定数は、a軸は8.38オングストローム≦a≦8.49オングストローム、b軸は8.37オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.77オングストローム≦c≦4.88オングストロームである。
<Feサイト置換型元素Mを使用した合金との比較>
ThMn12型結晶構造を有するSm(Fe1-yCoy)11Ti(0<y≦0.5)について調査した。本実施例と作製条件を合わせるためロール周速度は40m/sで作製し、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で熱処理した。as−spun試料にはTbCu7型結晶構造とbcc−Fe−Coが含まれていることを観測した。熱処理温度の高温化に伴いTbCu7型結晶構造はThMn12型構造に変化することを観測し、900℃および1000℃熱処理した試料ではThMn12型が単相で生成した。急冷の効きが悪いとThMn12型結晶構造とTh2Ni17型結晶構造とbcc−Fe−Coが生成する傾向にあった。900℃で熱処理した試料について本発明に使用した空間群Immmを使用して実施例1と同様に構造解析を行ったところ、g4g2=0かつg2d=0かつa=bかつ、内部座標で4g1(x)=4e(x)かつ4h(y)=4f(x)となり、空間群Immmはc軸周りに4回回転対称性を有する空間群I4/mmmのThMn12型結晶構造になっていた。1000℃で熱処理した試料の磁気物性値を、本発明と同様の方法で評価した結果を表3に示す。
室温での磁気異方性磁界はSmFe11Tiで10.5―12.5Tであり、磁気異方性エネルギーは3.7MJ/m3である。Co置換量の増加に伴い室温での磁気異方性エネルギーは低下し、Sm(Fe0.9Co0.1)11Tiでは2.5MJ/m3、Sm(Fe0.8Co0.2)11Tiでは2.1MJ/m3でありSm(Fe0.6Co0.4)11Tiでは磁化は傾き一軸磁気異方性ではない。SmFe11Tiと比較した場合、本発明におけるSm−Fe−Co系強磁性化合物はSm元素の使用量は半分程度であるため磁気異方性エネルギーも半分程度である。しかしながら、本発明におけるSm−Fe−Co系強磁性化合物はCo置換により磁気異方性エネルギーが向上するため、Co置換量が同等のSm(Fe0.8Co0.2)11Tiと比較した場合、Sm元素の使用量は半分程度で磁気異方性エネルギーは同等である。体積磁化については、本発明におけるSm−Fe−Co系強磁性化合物のほうが格段に大きいと言える。
また、R元素置換型元素Tを使用した特許文献2および特許文献3と比較するため、Sm1-xZrx(Fe1-yCoy)11について調査した。本実施例と作製条件を合わせるためロール周速度は40m/sで作製し、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で本実施例と同様の方法で熱処理した。900℃以上の熱処理でTh2Zn17相とbcc−Fe−Coに分解した。a=√3cかつg2a=g2dかつg4g1=g4g2となり空間群Immmはb軸周りに6回回転対称性を有する空間群P6/mmmのTbCu7型結晶構造になった。特許文献2では1000℃以上の熱処理でもThMn12型が生成すると記載されているが、本検討では確認できず特許文献3の記載内容と同じ結果を得た。その結果、表に示す。
特許文献2に記載されている空間群P6/mmmでの軸比を本発明の空間群Immmに変換すると1.700<b/c<1.752の範囲になる。これは図9のグラフにおけるTbCu7型構造の範疇にあるため、特許文献2の合金と同様の合金を作製できたと言える。これに対し、本発明の合金組成によれば、特許文献2に記載されている化合物よりもb/cの大きな構造を得ることができる。
[実施例5]
<Gd−Fe−Co系強磁性合金の作製>
(工程A)
この実験例では、まず、組成が7.7Gd―80.8Fe―11.5Co(at%)(化学式でGd(Fe0.875Co0.125)12)で示される総重量900gの原料合金を得るため、Gd(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)と電解コバルト(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのGdの蒸発を考慮し、狙い組成7.7Gd―80.8Fe―11.5CoよりもGdが3質量%多くなるように、175.2gのGdと、634.3gのFeと、95.6gのCoを秤量した。秤量した各金属を混合してアルミナ坩堝に投入し、高周波溶解によって溶解した。その後、水冷の銅ハース上に溶融金属を展開し、凝固させて合金のインゴットを得た。作製した合金インゴットを、ICP分析装置(島津製作所社製:ICPV−1017)を用いて分析した結果、組成は7.6Gd―81.0Fe―11.4Coであった。
こうして得た組成が7.6Gd―81.0Fe―11.4Coのインゴットに対して、全体の組成が化学式でGd(Fe0.83Co0.17)12の場合には、Gdの金属塊0.110gとCoの金属塊0.421gを秤量添加し、それらを底部に穴(0.8mmφ)の開いた石英出湯管に投入した。7.6Gd―81.0Fe―11.4Coインゴット、Gd金属塊およびCo金属塊が投入された石英出湯管を高周波誘導加熱型の非晶質金属作製炉(日新技研(株)製)に導入し、20kPaのAr雰囲気中でインゴットおよび金属塊を高周波電界の印加によって加熱し溶解した。以下、本実施例では合金組成は化学式で表記する。
(工程B)
工程AにおいてGd−Fe−Co系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧48kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。ロール周速度を25m/sに設定した。出湯時の溶湯温度は合金溶湯が液体となる温度であれば任意であるが、溶湯温度が高すぎる場合、溶湯の粘性が著しく低下し出湯条件が同じでもロールへの接触面積が異なってくるため冷却速度に無視できない相違が生じる。合金の組成により合金の融点は異なる。本実験例で設定した組成範囲では、Gd−Fe−Co系合金の融点は推定で1100℃以上である。
(工程C)
工程Bにおいて作製した超急冷薄帯をNb箔に包み、石英管中に配置して真空中で熱処理した。具体的には油拡散ポンプで1.0×10-4Pa以下の真空度まで排気しながら予め所定温度に設定された管状炉に投入した。その後、その温度で0.5時間保持した後、石英管を水中に投下し十分冷却した。
こうして得たGd−Fe−Co系強磁性合金に対しても、実施例1と同様に結晶構造解析を行ったところ、これらの合金は、空間群Immmに属し、希土類元素とFeダンベルペアとの置換に長周期性がない不規則ThMn12型結晶構造を有するY−Fe−Co系強磁性化合物を含んでいることを確認した。またこれらの合金が含む強磁性化合物は、Y−Fe−Co系強磁性化合物に観られるのと同様の熱処理による格子変化を示すことをX線リートベルト解析により確認した。さらに、650℃以上の熱処理によりGd−Fe−Co系強磁性化合物のキュリー温度は上昇し、Y−Fe−Co系強磁性化合物と同様であることを確認した。
また、Smを添加したGd−Sm−Fe−Co系強磁性合金を作製し、Y−Sm−Fe−Co系強磁性合金と同様の方法で構造および物性値を評価したところ、実施例4と同様にGd−Sm−Fe−Co系強磁性化合物を含んでいることを確認した。またこれらの合金が含む強磁性化合物は、Gd−Sm−Fe−Co系強磁性化合物に観られるのと同様の熱処理による格子変化を示すことをX線リートベルト解析により確認した。さらに、650℃以上の熱処理によりGd−Sm−Fe−Co系強磁性化合物のキュリー温度は上昇し、Y−Sm−Fe−Co系強磁性化合物と同様であることを確認した。しかし、Y−Sm−Fe−Co系強磁性化合物と比較して、体積磁化は低下しその半面で磁気異方性磁界は向上することを確認した。
実施した組成範囲でのGd−Sm−Fe−Co系強磁性化合物の室温での格子定数は、a軸は8.39オングストローム≦a≦8.49オングストローム、b軸は8.43オングストローム≦b≦8.47オングストローム、c軸は4.78オングストローム≦c≦4.88オングストロームである。