JP2014047366A - 強磁性合金およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】構成元素の一部を他の元素に置換することによって生じる問題を解決できる新たな強磁性合金およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のY−Fe系強磁性合金は、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金であって、前記Y−Fe系強磁性化合物は、Feの占有サイトで原子欠損が生じている二元系強磁性化合物である。
【選択図】図4
【解決手段】本発明のY−Fe系強磁性合金は、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金であって、前記Y−Fe系強磁性化合物は、Feの占有サイトで原子欠損が生じている二元系強磁性化合物である。
【選択図】図4
Description
本願は、強磁性合金およびその製造方法に関する。
近年、希土類元素の含有量を低減した磁石の開発が求められている。本明細書における希土類元素とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、およびランタノイドからなる群から選択された少なくとも1つの元素である。ここで、ランタノイドとは、ランタンからルテチウムまでの15の元素の総称である。
含有する希土類元素の組成比率が相対的に小さな強磁性合金として、体心正方晶のThMn12型結晶構造を有するRFe12(Rは希土類元素の少なくとも1種)が知られている。しかし、RFe12には、結晶構造が熱的に不安定であるという問題がある。
RFe12における結晶構造の安定性を高めるため、特許文献1は、Fe元素の一部を構造安定化元素M(M=Ti、V、Cr、Mn、Mo、W、Al、Si)で置換することを教示し、特許文献2は、R元素の一部を構造安定化元素T(T=Zr、Hf、Bi、Sn、In、Pbから選ばれた1種または2種以上の元素)で置換することを教示している。
特許文献1の強磁性合金では、Fe元素の一部を他の元素と置換することにより、磁気モーメントの低下および結晶格子の拡大が生じ、飽和磁束密度が低下するという問題がある。また、特許文献2の強磁性合金では、希土類元素Rの一部を希土類元素Rよりも小さい原子Zr、Hf、Bi、Sn、In、Pbの少なくとも1種で置換することにより、磁気モーメントの低下と希土類元素由来の磁気異方性の低下が生じるという問題がある。このように、従来の方法では十分な磁気特性を発現する低希土類組成の強磁性合金を作製することができなかった。
本発明の実施形態は、構成元素の一部を他の元素に置換することによって生じる問題を解決できる新たな強磁性合金およびその製造方法を提供することができる。
本発明のY−Fe系強磁性合金は、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金であって、前記Y−Fe系強磁性化合物は、Feの占有サイトで原子欠損が生じている二元系強磁性化合物である。
ある実施形態において、さらに、CaCu5型結晶構造を有するYFe5、TbCu7型結晶構造を有するYFe7、および、YFe5とYFe7との間の構造を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含有する。
ある実施形態において、前記Y−Fe系強磁性合金の組成をYFexとするとき、10<x<16を満たしている。
ある実施形態において、前記Y−Fe系強磁性化合物を質量比率で全体の10%以上含んでいる。
ある実施形態において、前記Y−Fe系強磁性化合物はYFe12-δ(δは正の数)で表される。
ある実施形態において、0<δ≦1.4が成立する。
ある実施形態において、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有する前記Y−Fe系強磁性化合物以外に、Y2Fe17および/またはα−Feを含有する。
ある実施形態において、前記Y−Fe系強磁性化合物は、室温において、a軸0.841nm〜0.846nm、c軸0.478nm〜0.484nmの格子定数を有する。
ある実施形態において、原子欠損が生じているFe占有サイトは、8iサイトを含む。
本発明のY−Fe系強磁性合金の製造方法は、YおよびFeを含有する二元系合金を用意する工程Aと、前記二元系合金から、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金を形成する工程Bとを含み、工程Bにおいて、前記Y−Fe系強磁性化合物におけるFeの占有サイトで原子欠損を生じさせる。
ある実施形態において、前記工程Bは、前記二元系合金の溶湯を形成し、前記溶湯を急冷して凝固させる冷却工程を含む。
ある実施形態において、前記工程Bは、前記冷却工程の後、前記凝固された二元系合金を加熱する熱処理工程を含む。
本発明の実施形態によれば、構成元素の一部を他の元素に置換したRFe12よりも高い飽和磁束密度を実現することが可能な二元系強磁性化合物が提供される。
前述したように、ThMn12型結晶構造を有するRFe12では、RFe12の熱的安定性を高めるため、Fe原子の一部、あるいはR原子の一部を他の元素(構造安定化元素)で置換することが提案されている。前者のFe原子の一部を置換する元素は、「Feサイト置換型元素(M)」、また、後者のR原子の一部を置換する元素は、「Rサイト置換型元素(T)」と呼ぶことができる。
Feサイト置換型元素の存在は、置換に伴うFe原子の減少量以上にRFe12の磁気モーメントを低下させる。これは、RFe12では3dのアップスピンバンドが既に占有されているために、Feサイト置換型元素でFeサイトの一部を置換するとダウンスピンバンドに電子が占有され不対電子が減少することによるものである。また、例えばMoなど、その割合が増加すると、強磁性磁気構造から傾角磁気構造へと変化するFeサイト置換型元素もある。そのような変化が生じると、RFe12の磁化も減少する。さらに、Feサイト置換型元素またはRサイト置換型元素の種類により多少異なるが、元素置換量の増加に伴って概して結晶格子は拡大する傾向にあり、仮に単位結晶格子あたりの磁化が同じでも、実用上重要な値である体積当たりの磁化も減少する。一方、特許文献2に示されたようなRサイト置換型元素はRFe12の磁気異方性の著しい低下を誘発する。
本発明者は、第三元素の導入なしで熱的に安定したThMn12型構造を形成できれば、高性能な磁石材料の母相として機能するはずであると考え、本発明を想到するに至った。本発明者は、希土類元素としてY(イットリウム)を選択したところ、原子欠損を生じさせることができ、第三元素を導入せずに高い熱安定性を獲得することを実現できることを見出した。元素置換を伴わないでThMn12型構造の熱的安定化を図ることができるため、元素置換による飽和磁束密度の低下を避けることが可能になる。
本開示のY−Fe系強磁性合金は、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含む。Y−Fe系強磁性化合物は、Feのサイトで原子欠損が生じている二元系強磁性化合物である。
Y−Fe系強磁性合金には、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有し、Feのサイトで原子欠損が生じているY−Fe系強磁性化合物以外に、CaCu5型結晶構造を有するYFe5、TbCu7型結晶構造を有するYFe7、および、YFe5とYFe7との間の構造を有する化合物からなる群からから選ばれる1種以上の化合物が含有され得る。YFe7は、YFe5の結晶においてYをFe原子ペアでランダムに置換した構造を有している。YFe5とYFe7の間の構造とは、ランダムな度合いが異なる構造を指す。本明細書ではこれらの化合物をY−Fe系強磁性中間化合物と総称する。Y−Fe系強磁性中間化合物は、後述の通り、熱処理によってY−Fe系強磁性化合物に変化したり、熱処理によるY−Fe系強磁性化合物の生成に寄与する。
ある実施形態において、Y−Fe系強磁性合金の組成をYFexとするとき、10<x<16が成立している。Y−Fe系強磁性合金は、Y−Fe系強磁性化合物を質量比率で全体の10%以上含み得る。このようなY−Fe系強磁性化合物は、Feのサイトで原子欠損が生じているため、YFe12-δ(δは正の数)で表され、ある実施形態では、0<δ≦1.4が成立する。Y−Fe系強磁性合金には、Y−Fe系強磁性化合物、Y−Fe系強磁性中間化合物以外に、不規則型Y2Fe17および/またはα−Feが含有され得る。
上記のYFe12-δ(δは正の数)におけるδは、原子欠損の量を表している。原子欠損の導入は、例えば合金溶湯を急冷して凝固させる非平衡プロセス(急冷凝固法)を採用することによって可能である。合金溶湯を急冷するときの冷却速度を調整することなどにより、結晶中に導入される原子欠損の量を制御できることも確認した。また、Y−Fe系強磁性化合物は、従来の元素置換型のThMn12型結晶構造を有する化合物よりも大きな飽和磁束密度を有するだけではなく、Fe格子由来の1軸磁気異方性を示すことも確認した。
以下、本開示における実施形態を説明する。
[基本組成]
本発明の実施形態におけるY−Fe系強磁性合金は、その全体が、原子欠損を有する二元系のY−Fe系強磁性化合物によって構成されている必要は無い。すなわち、Y−Fe系強磁性合金の一部が、Y−Fe系強磁性化合物YFe12-δ(δは正の数)によって占められ、他の部分がY−Fe系強磁性中間化合物や不規則型Y2Fe17および/またはα−Feによって占められていても良い。さらに、これら以外の同定できない相が含まれていてもよい。これら複数の相を含むY−Fe系強磁性合金の組成を全体としてYFex(平均組成)で表現するとき、ある実施形態では10<x<16が成立している。すなわち、Y−Fe系強磁性合金の平均組成を示すYFexにおける組成比率xそのものは、12よりも小さい値を持つ必要は無い。混乱を避けるため、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有し、かつ、原子欠損が生じているYFe12-δをY−Fe系強磁性「化合物」と呼び、このような強磁性化合物を含む合金をY−Fe系強磁性「合金」と呼び、両者を区別することにする。また、YFe5、YFe7、YFe5とYFe7の間の構造を有する相を含む化合物をY−Fe系強磁性中間化合物と呼ぶ。熱処理によりY−Fe系強磁性化合物に変化したり、熱処理によるY−Fe系強磁性化合物の生成に寄与する相をY−Fe系強磁性中間化合物とし、Y−Fe系強磁性化合物の生成に寄与しない不規則型Y2Fe17やα−Feと区別するためである。上述したように、「Y−Fe系強磁性合金」は、「Y−Fe系強磁性化合物」以外の相、「Y−Fe系強磁性中間化合物」や不規則型Y2Fe17とα−Feなどを含有していてもよい。
本発明の実施形態におけるY−Fe系強磁性合金は、その全体が、原子欠損を有する二元系のY−Fe系強磁性化合物によって構成されている必要は無い。すなわち、Y−Fe系強磁性合金の一部が、Y−Fe系強磁性化合物YFe12-δ(δは正の数)によって占められ、他の部分がY−Fe系強磁性中間化合物や不規則型Y2Fe17および/またはα−Feによって占められていても良い。さらに、これら以外の同定できない相が含まれていてもよい。これら複数の相を含むY−Fe系強磁性合金の組成を全体としてYFex(平均組成)で表現するとき、ある実施形態では10<x<16が成立している。すなわち、Y−Fe系強磁性合金の平均組成を示すYFexにおける組成比率xそのものは、12よりも小さい値を持つ必要は無い。混乱を避けるため、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有し、かつ、原子欠損が生じているYFe12-δをY−Fe系強磁性「化合物」と呼び、このような強磁性化合物を含む合金をY−Fe系強磁性「合金」と呼び、両者を区別することにする。また、YFe5、YFe7、YFe5とYFe7の間の構造を有する相を含む化合物をY−Fe系強磁性中間化合物と呼ぶ。熱処理によりY−Fe系強磁性化合物に変化したり、熱処理によるY−Fe系強磁性化合物の生成に寄与する相をY−Fe系強磁性中間化合物とし、Y−Fe系強磁性化合物の生成に寄与しない不規則型Y2Fe17やα−Feと区別するためである。上述したように、「Y−Fe系強磁性合金」は、「Y−Fe系強磁性化合物」以外の相、「Y−Fe系強磁性中間化合物」や不規則型Y2Fe17とα−Feなどを含有していてもよい。
本発明のY−Fe系強磁性合金を例えば急冷凝固法によって作製する場合、Y−Fe系強磁性合金の平均組成はYFexで表現され得る。この場合、ある実施形態では、組成比率xは、10<x<16の範囲に設定され得る。急冷凝固法による場合、x≦10では、不規則型Y2Fe17が主として生成する。一方、x≧16では、Fe元素間の隙間が少なくなり、構造が不明で磁気特性の低いY−Fe系強磁性合金が生成する。
急冷凝固法によってY−Fe系強磁性合金を生成する場合において、Y−Fe系強磁性化合物の割合を合金全体の10質量%以上に設定したいとき、組成比率xについて、10.5≦x≦15.5が満たされることが好ましい。Y−Fe系強磁性化合物がY−Fe系強磁性合金の10質量%以上であれば、後述のリートベルト解析によって格子定数を確実に同定できる。この組成範囲では900℃0.5時間の熱処理により、10質量%以上のY−Fe系強磁性化合物を生成することが可能である。特に、10.5≦x<13の組成範囲では、熱安定性が特に高いことが確認されている。Y−Fe系強磁性合金におけるY−Fe系強磁性化合物の割合が高くなるほど、Y−Fe系強磁性合金の磁石特性は向上する。
Y−Fe系強磁性合金中に生成された不規則型Y2Fe17、およびα−Feは、「異相」と呼ばれる場合がある。このような異相は、磁化反転サイトになり得るため、一般には、そのような異相の生成を抑制することが好ましい。異相がY−Fe系強磁性合金中に占める割合を小さくするには組成比率xを所望範囲内に調整することが有効である。
Y−Fe系強磁性化合物における原子欠損量は、原料合金を構成する金属を秤量・混合する際の組成比率xにも依存する。YFe12の化学量論比である1:12に比べて、Yリッチ側に組成を調整すると、Fe原子欠損量は増加する。また、急冷凝固法によって合金を得る場合、その後に熱処理を行うと、Y−Fe系強磁性中間化合物の一部がYFe12-δへと変化する。Fe原子欠損量に応じて磁気特性や熱安定性も変化するため、組成比率xや熱処理条件を適宜選択することにより、所望の熱安定性および磁石特性を実現することが可能になる。
なお、参考比較例として、Y元素以外の希土類元素、例えばNd、Smを用い同様の方法にて作製を試みたが、TbCu7型が主として生成してしまい、ThMn12型の生成を確認できなかった。
[基本構造]
Y−Fe系強磁性化合物はYFe12-δと表記され得る。放射光源を使用した高分解能粉末X線回折により、YFe12-δにおける少なくとも8iサイトにFe原子の欠損が生じていることを確認した。また、Yサイトにも原子欠損またはFeダンベルペア配置の可能性を確認した。このことは、後述する実験例で詳細に説明する。
Y−Fe系強磁性化合物はYFe12-δと表記され得る。放射光源を使用した高分解能粉末X線回折により、YFe12-δにおける少なくとも8iサイトにFe原子の欠損が生じていることを確認した。また、Yサイトにも原子欠損またはFeダンベルペア配置の可能性を確認した。このことは、後述する実験例で詳細に説明する。
YFe12-δの室温における格子定数は、a軸が0.841nm〜0.846nm、c軸が0.478nm〜0.484nm、単位胞体積は0.340〜0.344nm3である。参考比較例として、Y(Fe、M)12(M=Si、Ti、V、Cr、Mo、W)を作製し、置換量をゼロ外挿することで仮想のYFe12構造を見積った結果、室温ではa軸が0.845nm、c軸が0.478nm、単位胞体積が0.342nm3であった。
[基本磁気物性]
YFe12-δの基本磁気物性は、Fe原子欠損量δに依存する。そのFe原子欠損量は、作製条件(急冷凝固法)に依存するため、基本磁気物性値もまた作製条件に依存する。YFe12-δについて、メスバウア分光で測定した液体窒素温度における磁気モーメントは、希土類元素の磁気モーメントがないにもかかわらず、化学式量当たり25.4−27.4μB/f.u.と非常に大きな値を有していた。SPD(Singular Point Detection、特異点検出)法で評価した磁気異方性磁場は、室温で2T以上であり、大きいものでは3T以上であった。キュリー温度は、Y−Fe系強磁性合金の組成比率がYFe12の時に最大で487Kを有しており、最低でも380K以上であった。
YFe12-δの基本磁気物性は、Fe原子欠損量δに依存する。そのFe原子欠損量は、作製条件(急冷凝固法)に依存するため、基本磁気物性値もまた作製条件に依存する。YFe12-δについて、メスバウア分光で測定した液体窒素温度における磁気モーメントは、希土類元素の磁気モーメントがないにもかかわらず、化学式量当たり25.4−27.4μB/f.u.と非常に大きな値を有していた。SPD(Singular Point Detection、特異点検出)法で評価した磁気異方性磁場は、室温で2T以上であり、大きいものでは3T以上であった。キュリー温度は、Y−Fe系強磁性合金の組成比率がYFe12の時に最大で487Kを有しており、最低でも380K以上であった。
以下、Y−Fe系強磁性合金の製造方法の実施形態の一例を工程ごとに説明する。
[母相作製方法]
(A)Y−Fe母合金を作製する工程
YとFeまたはY−Fe合金を混合して真空あるいは不活性ガス中で溶解する(溶解鋳造法)。溶解により、合金組成が均一化される。組成が既知であるY−Fe合金にYとFeを適宜添加しても良い。前もって作製した組成が既知のY−Fe合金を使用することで、急冷凝固法における金属溶融時に組成を調整しやすい利点がある。ただし、高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成よりもYを多目に秤量することが望ましい。作製したY−Fe合金のインゴットにおける組成ずれは、後述する工程(B)で修正可能である。
(A)Y−Fe母合金を作製する工程
YとFeまたはY−Fe合金を混合して真空あるいは不活性ガス中で溶解する(溶解鋳造法)。溶解により、合金組成が均一化される。組成が既知であるY−Fe合金にYとFeを適宜添加しても良い。前もって作製した組成が既知のY−Fe合金を使用することで、急冷凝固法における金属溶融時に組成を調整しやすい利点がある。ただし、高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成よりもYを多目に秤量することが望ましい。作製したY−Fe合金のインゴットにおける組成ずれは、後述する工程(B)で修正可能である。
Y−Fe合金インゴットの組成分析は、例えば誘導結合プラズマ発光分光(Inductively coupled plasma optical emission spectrometry、ICP−OES)法で可能である。組成ずれの抑制は、溶解のための昇温時間を短くするか、Y金属塊を後入れにすることによって可能である。後述する工程(B)における組成調整を容易にするという観点から、YFexにおける組成比率xが9〜13の範囲で合金のインゴットを作製することが望ましい。
上記の方法に代えて、構成元素の酸化物や金属を粒状金属カルシウムと混合して、不活性ガス雰囲気中で加熱反応させる還元拡散法などを使用してもよい。
(B)母合金を急冷凝固させる工程
本実施形態では、結晶構造内に原子欠損を導入する方法として例えば急冷凝固法が採用できる。急冷凝固法としては、例えばガスアトマイズ法や、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ストリップキャスト法、メルトスピニング法などのロール急冷法が挙げられる。不規則型Y2Fe17は、Y−Fe系強磁性化合物やY−Fe系強磁性中間化合物よりも熱安定性が高く、後述する工程(C)で熱処理をしてもYFe12に変化せず不規則型Y2Fe17のままである。そのため、YFe12の生成量を確保するという点において、急冷凝固時に極力生成を抑制するのが好ましい相である。
本実施形態では、結晶構造内に原子欠損を導入する方法として例えば急冷凝固法が採用できる。急冷凝固法としては、例えばガスアトマイズ法や、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ストリップキャスト法、メルトスピニング法などのロール急冷法が挙げられる。不規則型Y2Fe17は、Y−Fe系強磁性化合物やY−Fe系強磁性中間化合物よりも熱安定性が高く、後述する工程(C)で熱処理をしてもYFe12に変化せず不規則型Y2Fe17のままである。そのため、YFe12の生成量を確保するという点において、急冷凝固時に極力生成を抑制するのが好ましい相である。
鉄原子欠損量は組成と作製条件に依存する。急冷凝固法による場合は、例えば急冷速度によって鉄原子欠損量を制御することが可能である。ロール急冷法の場合、ロール周速度を調整することにより、鉄原子欠損量を所望の範囲内に設定することができる。
急冷速度によりY−Fe強磁性合金に包含される相の生成比率は異なる。急冷速度が低すぎると、原子欠損を十分に導入できず、Y−Fe系強磁性化合物の生成量が少なくなる可能性がある。Y−Fe系強磁性中間化合物の少なくとも1部は、後述する工程(C)の熱処理によりYFe12-δに変化する、またはYFe12-δの相成長に寄与する。そのため、急冷後のY−Fe系強磁性合金においてYFe12-δ以外にもY−Fe系強磁性中間化合物の生成量も重要である。空冷式のCu製単ロールによるメルトスピニング法を用いる場合、ある実施形態では、ロール周速度を15m/s以上に設定することができる。ロール周速度が18m/s以上になると、YFe12-δは15mass%以上の割合で生成する。また、Y−Fe系強磁性化合物の生成量は、ロール周速度が速くなるに伴い増加する。生産性の観点から、ロール周速度は40m/s以下に設定され得る。希土類鉄合金は酸化しやすいため、高温では真空中または不活性雰囲気中で急冷することが好ましい。
本発明の他の実施形態として、急冷凝固法以外の非平衡プロセスによって原子欠損を導入することも可能である。例えば、ナノ粒子プロセスや薄膜プロセスによって原子欠損を導入できる。このような非平衡プロセスとしては、例えば、分子線エピタキシー法、スパッタ法、EB蒸着法、反応性蒸着法、レーザアブレーション法、抵抗加熱蒸着法などの気相法や、マイクロ波加熱法などの液相法、メカニカルアロイ法が挙げられる。
(C)熱処理工程
上述の方法によって形成したY−Fe強磁性合金の構造を調整し、または生成量を増加させるため、熱処理を行ってもよい。一般に工程(B)のみでYFe12-δを20mass%以上得ることは容易でない。本工程(C)は、YFe12-δの相比率を増加させ、YFe12-δの構造の不均一化を取り除くためのものである。熱処理の効果として、Y−Fe系強磁性中間化合物の少なくとも1部はYFe12-δに変化する、またはYFe12-δの相成長に寄与することが挙げられる。Y−Fe系強磁性中間化合物は、Y−Fe系強磁性合金が少なくとも10<x<16の組成範囲では900℃0.5hの熱処理後でも30mass%以上存在し、組成比率によっては1000℃0.5hの熱処理後でも最大で30mass%存在することを確認した。構造の均一化は、元素の固相拡散によって生じ、拡散速度に支配される。原子の拡散による再分布は、熱処理の温度および時間の関数である。試料を高温環境で長時間保持することは、試料の酸化を招くと共に生産性を低下され得る。このため、比較的に短い時間で均一な熱処理ができる程度の温度で、熱処理工程を実施することが望ましい。
上述の方法によって形成したY−Fe強磁性合金の構造を調整し、または生成量を増加させるため、熱処理を行ってもよい。一般に工程(B)のみでYFe12-δを20mass%以上得ることは容易でない。本工程(C)は、YFe12-δの相比率を増加させ、YFe12-δの構造の不均一化を取り除くためのものである。熱処理の効果として、Y−Fe系強磁性中間化合物の少なくとも1部はYFe12-δに変化する、またはYFe12-δの相成長に寄与することが挙げられる。Y−Fe系強磁性中間化合物は、Y−Fe系強磁性合金が少なくとも10<x<16の組成範囲では900℃0.5hの熱処理後でも30mass%以上存在し、組成比率によっては1000℃0.5hの熱処理後でも最大で30mass%存在することを確認した。構造の均一化は、元素の固相拡散によって生じ、拡散速度に支配される。原子の拡散による再分布は、熱処理の温度および時間の関数である。試料を高温環境で長時間保持することは、試料の酸化を招くと共に生産性を低下され得る。このため、比較的に短い時間で均一な熱処理ができる程度の温度で、熱処理工程を実施することが望ましい。
熱処理の時間は、例えば0.01時間以上10時間未満の範囲内に設定され得る。予め所望温度に保持した電気炉内に不活性雰囲気中(他えば熱伝導性の高い高純度ヘリウム)に封じた試料を投じ、所望時間保持後、即座に冷却できる機構を兼ね備えた熱処理設備で実施することができる。
Y−Fe系強磁性合金の組成比率をYFexとするとき、10<x<16の範囲では、組成に応じ異なるが、600℃以上1100℃未満の温度範囲で、0.01時間以上10時間未満の熱処理を行うことができる。下限温度未満の温度では、熱処理の効果が現れない可能性があり、上限温度以上では、結晶相が分解してしまう可能性がある。800℃〜1000℃で0.5h〜1hの熱処理を基本条件に、組成や所望の磁気特性に応じ熱処理条件を設定すればよい。
[磁石作製方法]
本発明のY−Fe系強磁性合金から磁石を製造することは、種々の方法によって可能である。例えば、上述の方法によって作製した合金を粉砕し、合金粉末を得る。その後、公知の粉末冶金的手法やボンド磁石の製造方法などを適用して合金粉末から磁石体を製造することができる。例えば急冷凝固法による場合、急冷凝固時に生成されるY−Fe系強磁性合金の組織を適正化すると、磁壁ピンニングによる保磁力の発現も期待できる。
本発明のY−Fe系強磁性合金から磁石を製造することは、種々の方法によって可能である。例えば、上述の方法によって作製した合金を粉砕し、合金粉末を得る。その後、公知の粉末冶金的手法やボンド磁石の製造方法などを適用して合金粉末から磁石体を製造することができる。例えば急冷凝固法による場合、急冷凝固時に生成されるY−Fe系強磁性合金の組織を適正化すると、磁壁ピンニングによる保磁力の発現も期待できる。
以下、本発明の実験例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
(実験例1)
<工程A>
この実験例では、まず、平均組成がYFe12で示される総重量1kgの原料合金を得るため、Y(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成(YFe12)よりもYが3mass%多くなるように、120.6gのYと、882.9gのFeを秤量した。
<工程A>
この実験例では、まず、平均組成がYFe12で示される総重量1kgの原料合金を得るため、Y(純度99.9%)と電解鉄(純度99.9%)をそれぞれ秤量した。高温でのYの蒸発を考慮し、狙い組成(YFe12)よりもYが3mass%多くなるように、120.6gのYと、882.9gのFeを秤量した。
秤量した各金属を混合してアルミナ坩堝に投入し、高周波溶解によって溶解した。その後、水冷の銅ハース上に溶融金属を展開し、凝固させて合金のインゴットを得た。作製した合金インゴットを、ICP分析装置(島津製作所社製:ICPV−1017)を用いて分析した結果、平均組成はYFe12.9であった。
こうして得た組成がYFe12.9のインゴットに対して、全体の平均組成が例えばYFe12の場合には、Yの金属塊を0.080gだけ秤量添加し、それらを底部に穴(0.5mmφ)の開いた石英出湯管に投入した。YFe12.9インゴットおよびY金属塊が投入された石英出湯管を高周波誘導加熱型の非晶質金属作製炉(日新技研(株)製)に導入し、−80kPaのAr雰囲気中でインゴットおよび金属塊を高周波電界の印加によって加熱し溶解した。YFe12.9のインゴットに対して、上記と同様の手順でYおよび/またはFeの金属塊を適量添加することで全体の平均組成を調整した試料を加熱し溶解した。
<工程B>
工程AにてY−Fe系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧−53kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。このとき、ロール周速度を変化させることにより、溶融金属の冷却速度を制御した。出湯時の溶湯温度は、合金溶湯が液体となる温度であれば任意である。合金の組成により合金の融点は異なる。本実験例で設定した組成範囲では、Y−Fe系合金の融点は推定で1200℃以上である。
工程AにてY−Fe系合金が十分に溶解したことを確認した後、出湯管圧−53kPaのArで高速回転する銅ロール(ロール直径230mm)上に溶融金属を出射して急冷凝固させリボン状の合金(以下、超急冷薄帯)を作製した。このとき、ロール周速度を変化させることにより、溶融金属の冷却速度を制御した。出湯時の溶湯温度は、合金溶湯が液体となる温度であれば任意である。合金の組成により合金の融点は異なる。本実験例で設定した組成範囲では、Y−Fe系合金の融点は推定で1200℃以上である。
図1は、Y−Fe系強磁性合金の組成比をYFe12に設定して作製したY−Fe系強磁性合金(熱処理前)における各生成相の質量比率とロール周速度との関係を示す。生成した各相の質量比率は、後述するX線リートベルト解析により導出した。
なお、本実験例では、合金溶湯の冷却速度を「ロール周速度」によって表現しているが、ロール周速度は、冷却に使用するロールの熱伝導率、熱容量、雰囲気の圧力、出湯管圧などによっても変化し得る。この実験例で使用したロールとは異なる材料またはサイズのロールを使用する場合、ロール周速度の好ましい範囲は、本実験例における値を補正して決定すればよい。
図1からわかるように、ロール周速度が15m/s以上のとき、ThMn12型のY−Fe系強磁性化合物が生成されるが、その比率は比較的低い。ロール周速度が18m/s以上になると、Y−Fe系強磁性化合物が合金全体に占める比率は15mass%以上になる。また、熱処理工程(C)によりY−Fe系強磁性合金に相変化またはその結晶成長に寄与すると推定されるY−Fe系強磁性中間化合物の質量比率も増加する。ロール周速度が低く急冷速度が小さすぎる場合には、十分な量のY−Fe系強磁性化合物とY−Fe系強磁性中間化合物を生成できない。得られた急冷薄帯の厚さは、ロール周速度が15m/sでは70μm程度、ロール周速度が18m/sでは50μm程度、ロール周速度が40m/sでは20μm程度であった。
以下の工程では、ロール周速度を25m/sに設定して作製した合金薄帯を使用した。
<工程C>
工程Bにて作製した合金薄帯をNb箔に包み、石英管中に配置して真空中で熱処理した。具体的には油拡散ポンプで1.0×10-4Pa以下の真空度まで排気しながら予め所定温度に設定された管状炉に投入した。その後、その温度で0.5時間保持した後、石英管を水中に投下し十分冷却した。
工程Bにて作製した合金薄帯をNb箔に包み、石英管中に配置して真空中で熱処理した。具体的には油拡散ポンプで1.0×10-4Pa以下の真空度まで排気しながら予め所定温度に設定された管状炉に投入した。その後、その温度で0.5時間保持した後、石英管を水中に投下し十分冷却した。
図2は、Y−Fe系強磁性合金に占めるY−Fe系強磁性化合物の質量比率とY−Fe系強磁性合金の組成比率との関係を示す。組成比率に応じたY−Fe系強磁性化合物の質量比率の変化を観るため、図2のグラフには、熱処理前の試料(as−spun試料)と、900℃と1000℃でそれぞれ0.5時間の熱処理を行った後の試料について、測定結果がプロットされている。適当な熱処理温度は、狙い組成により異なる。狙い組成をYFexと表記した場合、10.5≦x≦15.5のとき、as−spunで、Y−Fe系強磁性化合物が生成する。この実験例における主な異相は不規則型Y2Fe17とα−Feである。
900℃0.5h熱処理では、9≦x<19の組成範囲でY−Fe系強磁性化合物が生成する。特に、10.5≦x≦15.5の組成範囲では10mass%以上の割合で生成している。1000℃0.5h熱処理後でも、10<x<13の組成範囲ではY−Fe系強磁性化合物が存在しており比較的熱安定性が高い。
参考比較例としてY元素以外の希土類元素、例えばNd、Smを用い工程A〜Cに記載の方法にて作製しX線回折により評価した。Nd、SmではTbCu7型が生成しThMn12型の生成を確認することはできなかった。
(実験例2)
実験例1においてロール周速度25m/sで作製した試料の詳細な結晶構造解析を実施した。ThMn12型結晶構造に類似する構造にTbCu7型結晶構造がある。これらを明確に識別するために高分解能単波長の特徴を有する放射光源を使用することができる。
実験例1においてロール周速度25m/sで作製した試料の詳細な結晶構造解析を実施した。ThMn12型結晶構造に類似する構造にTbCu7型結晶構造がある。これらを明確に識別するために高分解能単波長の特徴を有する放射光源を使用することができる。
本実験例では、大型放射光施設SPring−8(Super Photon ring − 8GeV)の産業用ビームラインBL19B2に設置された大型デバイシェラーカメラ((株)リガク製、カメラ半径286.48mm)を使用した。粒径20μm以下に粉砕した磁粉をガラスキャピラリ(リンデマンガラス、 直径0.1mm)に充填した。試料に含有される元素、 特にYから生じる蛍光X線によるバックグラウンドを低減するため、Si(111)2結晶単色器により16.5keV(0.075nm)に単色化した。単色化したX線はトロイダルミラによりガラスキャピラリの軸方向に3mm、動径方向に0.3mmとなるように無収差で集光した。2θ軸上にイメージングプレート(Imaging plate、IP、 画素サイズ50μm)を設置し、20分間露光した。試料の交換・位置合わせ・測定を自動的に行うシステムJukeBOXを使用した。測定終了後20分以上放置し強度が安定したIPを、読取装置(富士フィルム(株)、BAS2500(オフライン読取))に入れ2次元の画像データを取得した。回折ピークが非対称にならないようデバイ・シェラー環の円周方向の中心部5mmの区間を積分し、2次元の画像データから1次元の粉末X線回折パターンを取得した。
ThMn12型結晶構造を有する強磁性化合物以外の副生成物のみを含む超急冷薄帯の試料(I)、900℃で0.5時間の熱処理をした組成比率がYFe12の超急冷薄帯の試料(II)、及び1000℃で0.5時間の熱処理をした組成比率がYFe11の超急冷薄帯の試料(III)について、それぞれ測定と解析を実施した。超急冷薄帯(I)は、ThMn12型結晶構造以外の生成物の結晶構造を同定するための試料であり、主として不規則型Th2Ni17、α−Fe(微量に、YFe2、YFe3)を含む。なお超急冷薄帯(I)は、1150℃熱処理によりY−Fe系強磁性化合物を分解させ作製した。
X線リートベルト解析による各相の比率やThMn12型結晶構造における原子欠損の割合の導出は、以下の通りに行った。
まず、X線回折ピークの指数付けができるように、初期構造モデルとして試料に含まれる相の種類とそれらの結晶構造(格子定数、内部座標、原子欠損)を設定した。その後、リートベルト解析ソフトにより、モデルを用いて計算されたX線回折パターン(計算データ)と実際に測定されたX線回折パターン(実測データ)との差異が小さくなるように、試料における相の比率、各相の格子定数、内部座標、原子欠損などを、後述する手順により初期構造から変化させて精密化した。リートベルト解析ソフトとしては、RIETAN−FP(F.Izumi and K.Momma、Solid State Phenom. 130、15−20 (2007).)を用いた。
本実験例の試料は、複数の相から構成されているため、ThMn12型構造における原子欠損などを決定する際の恣意性を排除するための手順を後述のとおり設定した。精密化の精度を判断する指標としては、本解析で一般的に用いられる、計算データと実測データにおける統計的重み付き残差二乗和Rwpと統計的に予想される最小のRwpであるReとの比Rwp/Re(以下、S値とする)を用い、これが最小の値になるようにパラメータを決定した。
本実施形態における具体的な解析の手順を以下に示す。
まず、ThMn12型を除く4相が含有される試料(I)を使用し、4相の構造、特に不規則型Th2Ni17型の構造を精密化した。それから、試料(I)により精密化した4相の構造に原子欠損を仮定していないThMn12型結晶構造を加えた5相を初期構造モデルに、試料(II)と試料(III)の精密化を実施した。なお、原子欠損量δは各サイトに占める元素の占有率gを同定することで求められ、gは各サイトにおける温度因子(デバイ・ワラー因子)強い相関があることが一般的に知られている。本発明では、各サイトにおいて等方的な温度因子を設定し、従来公知例に相当するYFe11Mの室温での温度因子(Yサイト:0.28、8fサイト:0.10、8jサイト:0.29、8iサイト:0.27)に固定した。その後、ThMn12型結晶構造に原子欠損を仮定せずに各相における格子定数、内部座標を精密化し、その後、各Feサイトの占有率gを含めた精密化を行って得られたS値が、原子欠損の存在を仮定しない(すなわちg=1)の場合のS値よりも低くなった場合に原子欠損が存在すると判断した。
一連の手順を用いた解析の結果、試料(II)、(III)のいずれにおいても、8f、8jサイトの占有率gは解析誤差程度(3σ以内、σはgの標準偏差)の範囲で変動するのみで、欠損はないと判断することができた。一方で、8iサイトの占有率は解析誤差以上の範囲で低下し、8iサイト欠損を仮定するとS値で0.1以上の低下が観られたため、原子欠損があると判断した。なお、本解析での最終的なS値は1.7以下であった。
また、実験例1で示した一連の試料における実験室系X線回折でのリートベルト解析は、放射光粉末X線回折で精密化した値を初期値として使用する点を除けば、解析方法は同じである。やはり、8iサイトの原子欠損を仮定することで、S値を大幅に低減させることができ、最終的なS値は1.5以下となった。
実験室系X線回折は、ブラッグ−ブレンターノ集中ビーム方式の広角X線回折装置(X−ray diffractometer、XRD、ブルカー・エイエックス(株)製D8 ADVANCED/TXS)を使用した。Cu製回転陰極に印加する電圧は45kV、電流は360mAとした。KBフィルタはNiを使用した。各スリットは、ソーラスリットを入射側と受光側ともに2.5°、発散スリットを1.0°、受光スリットを0.1mmに設定し、散乱スリットは使用しなかった。走査軸を2θ/θ連動動作で間隔を0.02°、速度を1.3sec./stepとし、 20°≦2θ≦70°の範囲を室温にて走査した。Y−Fe系強磁性合金の各相の含有比率は、リートベルト解析ソフトDIFFRACplus Professional TOPAS 4(ブルカー・エイエックス(株)製)を使用し同定した。
図3は、試料(I)と試料(II)の放射光粉末X線回折パターンを示す。各試料にはYFe2及びYFe3も微量に含有されている。試料(II)の解析において先述したTbCu7型の結晶構造を想定すると、回折ピークの中に指数付けできないものが存在する。これに対し、ThMn12型を想定することで全回折ピークの指数付けが可能である。こうして、試料(II)にはThMn12型結晶構造を有する相が存在することを確認した。同様に、試料(III)においてもThMn12型結晶構造を有する化合物が存在していることを確認した。
以下の表1および表2は、それぞれ、試料(II)および試料(III)についての放射光粉末X線リートベルト解析によって得た構造パラメータを示す。表における元素Y1、Fe1、Fe2、およびFe3は、それぞれ、図4に示されるThMn12型結晶構造における2a、8f、8j、および8iのサイトに対応する。表には、各サイトにおける元素の占有率g、x、y、zの値が示されている。特定のサイトにおける占有率gが1より小さいことは、そのサイトで原子欠損が生じていることを意味する。
上記の試料についての測定の結果、室温の格子定数は、a軸が0.843nm〜0.844nm、c軸が0.480nmとなり、少なくとも8iサイトに4%〜14%のFe原子欠損が生じていることがわかる。また、Yサイトにも原子欠損またはFeダンベルペア配置の可能性を確認した。
以下では、実験例1で作製した試料を汎用の実験室系X線回折装置を用いてリートベルト解析を行った。汎用の実験室系X線回折装置を用いてリートベルト解析を行う場合は、先述した放射光で精密化したThMn12型構造情報を初期値に設定することにより、汎用の実験室系X線回折でもリートベルト解析が可能となる。図5はY−Fe系強磁性化合物の室温の格子定数とY−Fe系強磁性合金の組成比率との関係を示す。格子定数の同定精度の観点から、YFe12-δの質量比率が10%以上の試料の値を表示している。10.8≦x≦14の組成範囲で、室温の格子定数は、a軸が0.8417nm〜0.8455nm、c軸が0.4789nm〜0.4830nmとなり、少なくとも8iサイトに4%〜35%のFe原子欠損が生じていることを確認した。これはYFe12-δ(0<δ≦1.4)とも表記できる。また、Yサイトにも原子欠損またはFeダンベルペア配置の可能性を確認した。
一方、表4に記載している従来例に相当するY(Fe、M)12では、原子欠損の仮定をしても占有率は解析誤差程度の範囲内で変動するのみであることから、原子欠損は生じていなかった。
(実験例3)
本実験例では、メスバウア分光測定からThMn12型のY−Fe系強磁性化合物の磁気モーメントを測定した。組成や熱処理条件に応じキュリー温度が変化することから、熱揺らぎを抑制する目的で液体窒素温度にて評価した。メスバウア分光測定によって得られる内部磁場と磁気モーメントとの間には、ThMn12型構造で一般的に使用されている14.8T/μBの比例関係を用い換算した。試料は実験例1で作製した8試料で評価した。具体的には、組成比率YFe13のロール周速度が20、25、30、35、40m/sの5試料とロール周速度25m/sで組成比率がYFe11.25、YFe12、YFe12.62で900℃0.5h熱処理した3試料の計8試料であり、表3に示す。
本実験例では、メスバウア分光測定からThMn12型のY−Fe系強磁性化合物の磁気モーメントを測定した。組成や熱処理条件に応じキュリー温度が変化することから、熱揺らぎを抑制する目的で液体窒素温度にて評価した。メスバウア分光測定によって得られる内部磁場と磁気モーメントとの間には、ThMn12型構造で一般的に使用されている14.8T/μBの比例関係を用い換算した。試料は実験例1で作製した8試料で評価した。具体的には、組成比率YFe13のロール周速度が20、25、30、35、40m/sの5試料とロール周速度25m/sで組成比率がYFe11.25、YFe12、YFe12.62で900℃0.5h熱処理した3試料の計8試料であり、表3に示す。
解析精度を考慮すると、化学式量当たり25.8−27.1μB/f.u.と非常に大きな値を有していた。SPD法で評価した磁気異方性磁場は、室温で1.6T以上を有し、大きいものでは4Tを有していた。キュリー温度は、仕込み組成がYFe12で900℃0.5h以上の熱処理により最大で487K、仕込み組成がYFe19の未熱処理で最低の380Kを有していた。
参考比較例として表4にFe元素置換したY(Fe、M)12とSm(Fe、M)12の磁気物性値を示す。
本発明の実施形態における強磁性合金は、高性能磁石材料の母相として不可欠な磁気モーメントと異方性磁場の大きさが、Fe元素置換系よりも大きいことがわかる。また、Feサイト置換型元素Mによる磁気モーメントの低下は大きく、Smの磁気モーメントを加味したSm(Fe、M)12でも本発明の磁気モーメントの大きさには遠く及ばない。
なお、Y以外の希土類元素としてNdとSmを使用して実験例1に記載の方法で作製したが、従来のTbCu7型の化合物が生成され、ThMn12型の化合物の生成を確認できなかった。
本発明のY−Fe系強磁性合金は、例えばバルク状の磁石に好適に利用され得る。
Claims (12)
- 体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金であって、
前記Y−Fe系強磁性化合物は、Feの占有サイトで原子欠損が生じている二元系強磁性化合物である、Y−Fe系強磁性合金。 - 体心正方晶ThMn12型結晶構造を有し、Feの占有サイトで原子欠損が生じている前記Y−Fe系強磁性化合物以外に、
CaCu5型結晶構造を有するYFe5、TbCu7型結晶構造を有するYFe7、および、YFe5とYFe7との間の構造を有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含有する請求項1に記載のY−Fe系強磁性合金。 - 前記Y−Fe系強磁性合金の組成をYFexとするとき、10<x<16を満たしている請求項1または2に記載のY−Fe系強磁性合金。
- 前記Y−Fe系強磁性化合物を質量比率で全体の10%以上含んでいる請求項1から3のいずれかに記載のY−Fe系強磁性合金。
- 前記Y−Fe系強磁性化合物はYFe12-δ(δは正の数)で表される、請求項1から4のいずかに記載のY−Fe系強磁性合金。
- 0<δ≦1.4が成立する請求項5に記載のY−Fe系強磁性合金。
- 体心正方晶ThMn12型結晶構造を有する前記Y−Fe系強磁性化合物以外に、Y2Fe17および/またはα−Feを含有する、請求項1から6のいずれかに記載のY−Fe系強磁性合金。
- 前記Y−Fe系強磁性化合物は、室温において、a軸0.841nm〜0.846nm、c軸0.478nm〜0.484nmの格子定数を有する、請求項1から7のいずれかに記載のY−Fe系強磁性合金。
- 原子欠損が生じているFe占有サイトは、8iサイトを含む請求項1から8のいずれかに記載のY−Fe系強磁性合金。
- YおよびFeを含有する二元系合金を用意する工程Aと、
前記二元系合金から、体心正方晶ThMn12型結晶構造を有するY−Fe系強磁性化合物を含むY−Fe系強磁性合金を形成する工程Bと、を含み、
工程Bにおいて、前記Y−Fe系強磁性化合物におけるFeの占有サイトで原子欠損を生じさせる、Y−Fe系強磁性合金の製造方法。 - 前記工程Bは、前記二元系合金の溶湯を形成し、前記溶湯を急冷して凝固させる冷却工程を含む、請求項10に記載のY−Fe系強磁性合金の製造方法。
- 前記工程Bは、前記冷却工程の後、前記凝固された二元系合金を加熱する熱処理工程を含む、請求項10または11に記載のY−Fe系強磁性合金の製造方法。
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