JP6222526B2 - AlまたはAl合金中に含有されるAlNの定量方法 - Google Patents
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当該窒素雰囲気中における融解工程を経て製造されたAlやAl合金においては、微量のAlNが生成し不純物として含有されることがある。ところが、AlNを含有するAlやAl合金を、例えば半導体素子の電極や電気配線材として使用すると、当該半導体素子の電気特性等に悪影響を与える可能性がある為、AlやAl合金中におけるAlNの含有量を把握することは極めて重要である。
当該非特許文献1に記載されたXRD法は、被測定対象の試料へX線を照射し、得られたAlN由来のX線回折ピークの強度を基にAlN濃度を定量する方法である。当該方法は、AlNが被測定対象の試料において主成分であり、且つ、数10質量%のオーダーにて含有されている場合には有効な方法である。
当該非特許文献2に記載された化学分析法は、粉末試料に硫酸や塩酸を添加して加圧容器で分解したのち、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES法)でAlNを定量する方法である。
そして、上述した、AlまたはAl合金からAlNを残渣として分離する方法、および、残渣中のAlNを定量分析する方法を組み合わせることで、被測定対象であるAlまたはAl合金中に含有された、例えば1質量%以下である微量のAlまたはAl合金を検出でき、且つ、それを定量できる方法を見出し本発明に至ったものである。
AlNを含有するAl金属材またはAl合金材を溶解容器に秤量したのち、硝酸と塩酸との混酸あるいは、硫酸と硝酸との混酸を加えてメタル分を溶解除去し、残渣を捕集材により捕集する工程と、
前記残渣を捕集した捕集材を灰化する工程と、
前記捕集材を灰化して得られた残渣へ、硫酸系の融剤を添加し加熱して融解塩とする工程と、
前記融解塩を酸性溶液により溶解し、融解塩の酸性溶液とする工程と、
前記融解塩の酸性溶液に含有されるAl濃度を測定し、前記AlNを含有するAl金属材またはAl合金材におけるAlNの含有率を算出する工程とを有する、ことを特長とするAlまたはAl合金中に含有されるAlNの定量方法である。
第2の発明は、
前記融解塩の酸性溶液に含有されるAl濃度の測定方法としてICP−OES法を用いることを特長とする第1の発明に記載のAlまたはAl合金中に含有されるAlNの定量方法である。
AlまたはAl合金試料を、天秤を用いて溶解容器へ秤量し、蓋をする。当該溶解容器はガラス製または石英製のものが適用可能であり、容量は200ml〜300mlのビーカーが好ましい。尚、AlまたはAl合金試料の秤量には、0.1mgまで秤量可能な電子天秤を用いることが好ましい。
AlまたはAl合金を酸により溶解し、含有されるAlNを残渣に残して分離する工程である。
1)AlまたはAl合金を溶解する酸
まず、AlまたはAl合金を溶解する酸について説明する。
当該酸としては、AlまたはAl合金を含むメタル分を溶解可能な酸化性の酸であれば、特に限定することはないが、硝酸と塩酸との混酸や、硫酸と硝酸の混酸を使用することが出来る。例えば、塩酸と硝酸との混酸であれば、12mol/Lの塩酸(10〜30ml)と、14mol/Lの硝酸(10〜30ml)と、純水(20〜30ml)との混合物である混酸を用いることが出来、硫酸と硝酸との混酸であれば、9mol/Lの硫酸(20〜30ml)と、14mol/Lの硝酸(10〜20ml)と、純水(10〜20ml)との混合物である混酸を用いることが出来る。
尚、本発明において、「塩酸」とは12mol/Lの塩酸であり、「硝酸」とは14mol/Lの硝酸であり、「硫酸」とは9mol/Lの硫酸である。
被測定対象であるAlまたはAl合金試料へ、上述した混酸を添加し、十分に撹拌後200℃程度の温度で加温し、当該試料中のメタル分が完全に溶解するまで加温し、AlまたはAl合金の溶解液を得る。
当該溶解の際、AlまたはAl合金試料への混酸の添加量は、AlまたはAl合金試料を十分に溶解できる量であれば良い。例えば、塩酸(20ml)と、硝酸(20ml)と、純水(20ml)との混合物である混酸で良い。また加熱には、サンドバスやホットプレート等の使用が便宜である。
得られたAlまたはAl合金の溶解液を室温まで放冷したのち、捕集材である定量濾紙等を用いて当該試料溶液を濾過し、AlN由来の残渣を捕集する。引き続き、濾紙と残渣を純水で十分に洗浄する。
当該濾過工程において、定量濾紙としては、5B以上の定量濾紙であれば特に限定することはなく、5Cの定量濾紙等も使用可能である。
AlN由来の残渣を捕集した定量濾紙を坩堝に移入したのち、当該濾紙が黒く炭化するまで加熱する。引き続き坩堝を強熱し、濾紙が完全に燃焼し灰化するまで加熱する。
当該灰化工程において、坩堝はAlが含まれていないものであれば使用可能であるが、Pt製坩堝を使用することが好ましい。
前記濾紙が完全に燃焼し灰化したら、残渣を含む坩堝を放冷する。その後、坩堝へ融剤を添加し、当該融剤から白煙が出なくなるまで加熱する。引き続き、坩堝を強熱しながら残渣を撹拌し、当該残渣が融剤へ完全に融解して、融解塩となるまで加熱する。
ここで、融剤としては硫酸系融剤である二硫酸カリウムを用いることが好ましいが、同じ硫酸系融剤として二硫酸ナトリウムを使用しても良い。
また、当該工程で硫酸系融剤を用いた融解を行う為、当該観点からも、坩堝として当該硫酸系融剤に不溶なPt製坩堝を使用することは、好ましい構成である。
融解塩が生成した坩堝を室温まで放冷したのち、当該坩堝を酸水溶液の入ったビーカー中に浸漬し、当該ビーカーへ蓋をする。そして、坩堝を浸漬した酸水溶液を加熱し、生成した融解塩を酸水溶液中へ完全に溶解し室温まで放冷する。放冷後、酸水溶液をメスフラスコに移入し、さらにビーカーと蓋とを純水で洗浄し、当該洗浄液も加えて定容して試料溶液を得る。
酸水溶液は、塩酸水溶液や硝酸水溶液が好ましく使用できる。例えば、塩酸水溶液であれば、純水(20〜40ml)と、塩酸(5〜20ml)との混合溶液を使用することが出来る。
酸水溶液の加熱には、サンドバスやホットプレート等が便宜である。
測定試料溶液のAl濃度測定には、ICP−OES装置を用いるのが便宜である。そこで以下、ICP−OES装置を用いた、測定試料溶液中のAl濃度の測定を例として説明する。
得られた試料溶液を、当該溶液中のAlN濃度に応じて、適宜希釈して測定試料溶液を調製する。
一方、測定試料溶液中のAl濃度に応じて、Al測定標準試料溶液を調製する。このとき、測定試料溶液とAl測定標準試料溶液とに含有される、酸濃度や二硫酸カリウム濃度は同程度の濃度になるように調製することが好ましい。また、Al測定標準試料溶液としては、市販の1g/Lの標準試料溶液を適宜希釈して調製することが便宜である。希釈濃度範囲は0.1〜100mg/Lの範囲で、複数の濃度水準で調製することが好ましい。
ICP−OES装置によるAl濃度の測定波長は、共存元素の妨害がなければ、特に限定することはないが、最も感度の良い167.079nmの波長を用いることが好ましい。また、その他の測定条件については、メーカー推奨の条件を使用することが望ましい。当該ICP−OES装置を用いて測定試料溶液とAl測定標準試料溶液とのAl濃度を測定し、当該測定値から試料溶液中のAlの含有量(g)を算出する。
尚、測定試料溶液中に含有されるAlの含有量測定に使用するICP−OES装置は、特に限定することはないが、例えば(株)日立ハイテクサイエンス社製のSPS3520UVや(株)島津製作所製のICPE−9000等が適用可能である。
本法の定量下限は、測定試料溶液中のAlNの含有率が0.01質量%程度まで定量可能である。
ICP−OESで測定したAlの含有量(g)を元に以下の式1を用いて、当該試料中のAlNの含有率を算出する。
A1=(A2/W)×F×100・・・式1
但し、A1:測定試料溶液中におけるAlNの含有率、
A2:測定試料溶液中におけるAl含有量(g)、
W:測定試料の試料採取量(g)、
F:Alの窒化係数(1.5191)
以上説明したように、本発明に係るAl合金中のAlNの定量方法を用いれば、AlまたはAl合金材中に含有される1質量%以下のAlNを、選択的に高感度で検出でき、且つ、精度良く定量可能である。したがって、本発明は、金属加工分野や半導体分野等で使用されるAlまたはAl合金中のAlN濃度のモニター方法として、好適に用いることが出来る。
実施例1に係るAl合金試料としてAlCu合金(Al90質量%、Cu10質量%)0.5gを準備し、300mlビーカーへ投入した。分析精度を確認するために当該試料の秤量は3個ずつ秤量して以下の操作を実施した。尚、当該実施例1に係るAl合金試料は1.0質量%のAlNを含有するものである。
一方、AlCu合金を投入したビーカーへ、純水20mlと硝酸20mlと塩酸20mlとをそれぞれ注入したのち、当該混酸を注入したビーカーへ時計皿で蓋をしてよく撹拌した。
当該ビーカーを室温まで放冷した後、5Bの定量濾紙を用いてビーカーの内容物を濾過し、さらにビーカーの内壁等に付着したAlN由来の残渣を純水で洗い流しながら、5Bの定量濾紙に捕集した。そして引き続き、当該5Bの定量濾紙と捕集された残渣とを、純水で十分に洗浄した。
当該室温まで放冷された融解塩が入ったPt製の坩堝を、純水40mlと塩酸10mlとの混酸を注入した200mlビーカーに投入し、時計皿で蓋をした。引き続き、当該ビーカーをサンドバスによりサンドバスで加温し、融解塩を完全に混酸中へ溶解した。そして、得られた融解塩を溶解した混酸を、100mlのメスフラスコへ移入し、さらにビーカーと時計皿とを純水で洗浄したものも加えて定容し、実施例1に係る試料溶液を得た。尚、空試験においても、(0027)〜(0031)段落に記載の操作を同様に実施した。
一方、標準試料溶液は、市販のAl標準試料溶液(1g/L)を、Al濃度で1.0mg/Lと、5.0mg/Lと、10mg/Lとになるように、10mlのメスフラスコに添加したのち、塩酸1mlと空試験溶液2mlとをそれぞれ添加し、純水で10mlに定容して調製した。
尚、試料溶液と空試験溶液の分取は、分取精度が相対標準偏差で1%程度のピペットを用いることが好ましい。
尚、ICP−OES測定装置は、(株)日立ハイテクサイエンス社製のSPS3520UVを用いた。そして、当該ICP−OES測定装置の測定条件を表2に記載した。
実施例2に係るAl合金試料として0.1質量%のAlNを含有するAlCu合金を準備した。そして、実施例2に係るAlの標準試料溶液は、Al濃度で0.1mg/Lと、0.5mg/Lと、1.0mg/Lとになるように調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るAl合金試料中のAlN含有率の定量値を測定した。これらの値、「定量値−1〜3」の平均値、RSD〔(相対標準偏差(%)=(標準偏差/平均値)×100〕も表1に記載した。
実施例3に係るAl合金試料として1.0質量%のAlNを含有するAlGa合金(Al75質量%、Ga25質量%)を準備し、実施例1と同様に実施した。実施例3に係るAl合金試料中のAlN含有率の定量値を測定した。これらの値、「定量値−1〜3」の平均値、RSD〔(相対標準偏差(%)=(標準偏差/平均値)×100〕も表1に記載した。
実施例4に係るAl合金試料として0.1質量%のAlNを含有するAlGa合金を準備した。そして、実施例4に係るAlの標準試料溶液は、Al濃度で0.1mg/Lと、0.5mg/Lと、1.0mg/Lとになるように調製した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るAl合金試料中のAlN含有率の定量値を測定した。これらの値、「定量値−1〜3」の平均値、RSD〔(相対標準偏差(%)=(標準偏差/平均値)×100〕も表1に記載した。
表1に示す結果から、実施例1から4において、AlN含有率の各「定量値−1〜3」の値、およびその平均値は、定量精度の範囲で、AlN含有率の仕込み値と良く一致しており、正確に定量できることが理解出来る。また、定量精度もRSD(相対標準偏差)の値で1.2〜5.4%であり、精度良く定量できることが理解出来る。
Claims (2)
- AlNを含有するAl金属材またはAl合金材を溶解容器に秤量したのち、硝酸と塩酸との混酸あるいは、硫酸と硝酸との混酸を加えてメタル分を溶解除去し、残渣を捕集材により捕集する工程と、
前記残渣を捕集した捕集材を灰化する工程と、
前記捕集材を灰化して得られた残渣へ、硫酸系の融剤を添加し加熱して融解塩とする工程と、
前記融解塩を酸性溶液により溶解し、融解塩の酸性溶液とする工程と、
前記融解塩の酸性溶液に含有されるAl濃度を測定し、前記AlNを含有するAl金属材またはAl合金材におけるAlNの含有率を算出する工程とを有する、ことを特長とするAlまたはAl合金中に含有されるAlNの定量方法。 - 前記融解塩の酸性溶液に含有されるAl濃度の測定方法としてICP−OES法を用いることを特長とする請求項1に記載のAlまたはAl合金中に含有されるAlNの定量方法。
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