JP7207167B2 - 溶液中のリンの定量方法 - Google Patents

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本発明は、溶液中のリンの定量方法に関する。
リンは、例えばリチウムイオン電池の電極材料などを構成する金属材料に含まれる。金属材料の特性はリンの含有量によって変化することから、金属材料の特性を改良するうえで、リンの含有量を把握することが重要となっている。また、最終製品である金属材料に含まれる含有量を制御するうえで、その製造過程での含有量、例えば中間物、原料となる各種鉱石、もしくは排水処理で得られる澱物などに含まれるリンの含有量を把握することも重要となっている。
ただし、金属材料や中間物などの金属化合物に含まれる微量のリンを定量する場合、その主成分や共存元素の影響により、リンの分析感度が低くなり、精度よく定量できないことがある。そのため、微量のリンを定量する場合、リンを分離濃縮して定量するのが一般的である。
この方法として、例えば、金属化合物に含まれるリンを溶媒抽出する方法が開示されている(例えば特許文献1を参照)。ただし、この方法では、使用する有機溶媒によっては毒性があったり、引火点や爆発限界濃度が低かったりすることで安全性が損なわれることがある。
そこで、別の方法として、金属化合物を溶解させて溶液とした後、その溶液に含まれるリンを定量する方法が検討されている。このとき、溶液に含まれるリンを分離濃縮する方法として、溶液を加熱気化することで、リンが濃縮された蒸気とする方法が開示されている(例えば特許文献2を参照)。
特開2015-145820号公報 特開平9-89841号公報
しかし、特許文献2に開示の濃縮方法では、高い分析感度が得られるものの、微量のリンを安定して定量しにくいため、分析精度が低くなることがある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、溶液に含まれるリンを微量でも精度よく測定する技術を提供することを一目的とする。
本発明の第1の態様は、
水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属とリンとが溶解する溶液中のリンの定量方法であって、
前記溶液に、水酸化物の形成を開始するpHが2.5以下である第2金属を含有する共沈剤を添加するとともに、前記溶液のpHを2.5以下に調整することにより、リンを含む前記第2金属の水酸化物を沈澱させる沈澱工程と、
前記第2金属の水酸化物を分離採取して酸溶液に溶解させて、測定溶液を調製する調製工程と、
前記測定溶液に含まれるリンを定量する定量工程と、を有する、
溶液中のリンの定量方法が提供される。
本発明の第2の態様は、第1の態様のリンの定量方法において、
前記沈澱工程の前に、
前記第1金属とリンとを含有する金属化合物を準備する準備工程と、
前記金属化合物を溶解して、前記溶液を得る溶解工程と、を有する。
本発明の第3の態様は、第1の態様のリンの定量方法において、
前記沈殿工程の前に、前記溶液として、前記第1金属とリンとを含有する廃水を準備する準備工程を有する。
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記第2金属が、チタン、ジルコニウム、セリウム、錫、ニオブ、タンタルおよびアンチモンの少なくとも1つである。
本発明の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記第2金属が4価の金属である。
本発明の第6の態様は、第5の態様のリンの定量方法において、
前記第2金属が、4価のチタン、4価のジルコニウムおよび4価のセリウムの少なくとも1つである。
本発明の第7の態様は、第1~第6の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記沈澱工程では、前記溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整する。
本発明の第8の態様は、第1~第7の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記第1金属が、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、マグネシウムおよびクロムの少なくとも1つである。
本発明の第9の態様は、第1~第8の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記第1金属が少なくとも鉄を含む。
本発明の第10の態様は、第1~第9の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記調製工程で用いる前記酸溶液は、塩酸、硝酸および過酸化水素水を含む混合溶液である。
本発明の第11の態様は、第1~第10の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記沈澱工程の前に、前記溶液に還元剤を添加し、前記溶液に含まれる金属イオンを還元する還元工程を有する。
本発明の第12の態様は、第11の態様のリンの定量方法において、
前記還元剤は、亜硫酸水素ナトリウムである。
本発明の第13の態様は、第2の態様のリンの定量方法において、
前記溶解工程では、前記金属化合物をアルカリ塩で融解して、得られる融解物を酸溶液で溶解する。
本発明の第14の態様は、第13の態様のリンの定量方法において、
前記アルカリ塩が、過酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの少なくとも1つである。
本発明の第15の態様は、第1~第14の態様のいずれかのリンの定量方法において、
前記定量工程では、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、フレーム原子吸光装置、フレームレス原子吸光装置および分光光度計のいずれか1つの分析機器を用いて、前記溶液に含まれるリンを定量する。
本発明によれば、溶液に含まれるリンを微量でも精度よく測定することができる。
図1は、共沈剤のpHによるリン捕集量の変化を示す図である。 図2は、実施例1におけるリンの定量方法の工程を示すフロー図である。
本発明者は、上記課題を解決すべく、溶液からリンを分離して濃縮する前処理操作として、共沈分離に着目した。
共沈分離では、金属やリンが溶解する溶液に共沈剤を添加することで、目的とするリンを共沈剤とともに水酸化物として沈澱させる。この沈澱物を分離採取し、そこに含まれるリンの含有量を測定することで、溶液に含まれるリンを定量することができる。共沈分離によれば、その他の前処理操作と比べて、微量成分であっても迅速に分離できるだけでなく、分離を簡易に行うことができる。
共沈剤としては、例えばランタン、鉄、マンガン、アルミニウム、マグネシウムなどの水酸化物が知られている。しかし、本発明者の検討によると、これらの共沈剤では、溶液に、幅広いpH範囲で水酸化物を形成して沈澱しやすい金属が溶解している場合、これらの金属がリンとともに沈澱しやすいため、リンを共沈分離することが困難であり、リンを精度よく定量できないことが分かった。例えば、鉄、アルミニウムおよびニッケルなどは、pHが2.5よりも大きな範囲で水酸化物を形成して沈澱物となりやすいため、これらの金属を多く含む溶液では、微量のリンを精度よく定量しにくくなる。
このことから、溶液に含まれる微量のリンを精度よく定量するには、鉄やアルミニウム等が沈澱しにくい、pHが2.5以下の範囲で、水酸化物の形成を開始する金属を含む共沈剤を用いるとよいことを見出した。このような共沈剤によれば、溶液に、pHが2.5よりも大きな範囲で水酸化物を形成して沈澱物となりやすい金属が含まれる場合であっても、これらの金属の共沈を抑制しつつ、リンを含む水酸化物を沈澱させることができる。すなわち、溶液に含まれるリンを微量であっても精度よく定量することができる。
本発明は、上記知見に基づいて成されたものである。
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる溶液に含まれるリンの定量方法について説明する。
本実施形態において、溶液とは、少なくとも、水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属と、リンと、が溶解するものを示す。この溶液としては、例えば、第1金属およびリンを含有する金属化合物を溶解させた溶解液、もしくは、これらの成分を含む廃液などがある。以下では、金属化合物中のリンを定量するために、金属化合物を溶解させて、その溶解液に含まれるリンを定量する場合を例として説明する。
本実施形態のリンの定量方法は、準備工程、溶解工程、還元工程、沈澱工程、調製工程および定量工程を有する。以下、各工程について詳述する。
(準備工程)
まず、定量対象となる溶液を得るための金属化合物を準備する。
金属化合物は、例えば、金属材料からなる製品、その製品の製造過程で得られる中間品のほか、その原料となる各種鉱石や排水処理における澱物などを示す。金属化合物は、少なくとも、水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属と、リンと、を含む。
ここで、水酸化物の形成を開始するpHとは、金属イオンが水酸化物として析出し始めるときのpHを示す。また、水酸化物として析出するとは、水酸化物の25℃での溶解度が0.1mol/l以下となることを示す。つまり、第1金属は、溶液のpHが2.5以下の範囲では溶解するものの、pHが2.5よりも大きな範囲では、水酸化物の溶解度が0.1mol/l以下となることで水酸化物として析出し始める金属である。なお、第1金属の水酸化物の形成を開始するpHの範囲は、特に限定されないが、例えば2.5よりも大きく11.0以下であるとよい。
このような第1金属は、リン以外の金属であり、例えば、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、マグネシウムおよびクロムの少なくとも1つである。なお、金属化合物は、第1金属およびリン以外の成分、例えば珪酸や硫黄などを含んでもよい。
また、共沈剤を準備する。
本実施形態では、上述したように、pH2.5以下の範囲で水酸化物の形成を開始する第2金属を含有する共沈剤を使用する。第2金属は、溶液のpHが2.5以下の範囲であっても、水酸化物の溶解度が0.1mol/l以下となることで水酸化物として析出し始める金属である。つまり、第2金属は、第1金属と比べて、水酸化物として析出し始めるpHがより低pH側にある金属である。なお、第2金属の水酸化物の形成を開始するpHは、特に限定されないが、例えば1.5以上2.5以下であるとよい。
第2金属としては、pH2.5以下で水酸化物を形成し始め、リンを捕集しつつ沈澱できるような金属であれば特に限定されない。このような第2金属としては、例えばチタン、ジルコニウム、セリウム、錫、ニオブ、タンタルおよびアンチモンの少なくとも1つを用いることができる。この中でも、pH2.5以下の範囲で水酸化物を安定して形成しやすく、リンを捕集して沈澱させやすいことから、チタン、ジルコニウム、セリウムおよび錫が好ましい。また、溶解性が低く沈澱しやすいこと、沈澱が早いこと、沈澱物をろ過しやすいことから、チタン、ジルコニウムおよびセリウムの少なくとも1つであることがより好ましく、チタンであることがさらに好ましい。また、これらの第2金属は複数の価数を取り得るが、より安定してリンを沈澱させる観点からは4価であることが好ましく、4価のチタン、4価のジルコニウム、および4価のセリウムの少なくとも1つであることが好ましい。具体的には、チタン(IV)化合物としては、例えば塩化チタン(IV)溶液(四塩化チタン溶液)やオキシ硫酸チタン(IV)・n水和物などが挙げられる。ジルコニウム(IV)化合物としては、塩化ジルコニウム(IV)溶液(四塩化ジルコニウム溶液)やオキシ塩化ジルコニウム(IV)・八水和物などが挙げられる。セリウム(IV)化合物としては、例えば硝酸二セリウムアンモニウム(IV)などが挙げられる。
(溶解工程)
続いて、金属化合物を溶解して溶液を得る。この溶液には、金属化合物に由来する第1金属やリン等がイオンとして存在している。
金属化合物の溶解方法は、特に限定されないが、金属化合物を容易に溶解させる観点からは、金属化合物を融解させた後、その融解物を酸溶液で溶解することが好ましい。具体的には、金属化合物とアルカリ塩とを容器に入れて混合した後、混合物を加熱して、例えば800℃まで昇温させて、金属化合物を融解する。そして、得られた融解物を室温まで放冷した後、融解物を酸溶液で溶解させることで溶液を得る。
融解の際に使用するアルカリ塩としては、例えば過酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび二硫酸カリウムなどを用いることができる。この中でも酸化力の観点からは、過酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムが好ましい。これらはそれぞれ単独で使用してもよいが、酸化力を調整するために併用してもよい。
また、融解の際の加熱方法としては、例えば電気マッフル炉やブンゼンバーナ等を用いて加熱するとよい。
また、融解の際に使用する容器としては、高純度アルミナ、高純度ニッケル、高純度ジルコニアなどの材質からなるルツボを用いることができるが、高い耐久性を得る観点からは、高純度アルミナからなるルツボが好ましい。
融解物の溶解に使用する酸溶液としては、例えば塩酸、硫酸および硝酸などを用いることができる。後述の還元工程において、還元操作を効率よく行う観点からは、溶解工程では、硝酸や硫酸などの酸化性酸よりも、塩酸などの非酸化性酸を用いることが好ましい。
なお、融解物が溶解せずに未溶解の残渣が生じる場合、融解物と酸溶液との混合物を低温で加熱して溶解を促進させるとよい。また、金属化合物を構成する第1金属がケイ酸を含有すると、特に高濃度で含有すると、ゲル状のケイ酸化合物が生成し、融解物が十分に溶解できないことがある。この場合、融解物と酸溶液との混合物を、例えば水浴で冷却しながら、融解物を溶解させるとよい。
(還元工程)
続いて、得られた溶液に還元処理を施す。具体的には、溶液に還元剤を添加して、この混合物をその色が変化しなくなるまで加熱する。この還元処理によれば、第1金属が沈澱し始めるpHの範囲をより高pH側へ変化させることができるので、後述の沈澱工程にて、第1金属の沈澱を抑制することができる。この点について、以下に具体的に説明する。
溶液には、金属化合物に由来する第1金属やリン等が溶解してイオンとして存在している。第1金属として、例えば鉄やニッケルなどの複数の価数を取り得る金属が含まれていると、その溶液には、同じ金属イオンでも価数の異なる複数のイオンが存在することになる。例えば鉄やニッケルなどは、2価や3価の金属イオンの形態で存在する。このような価数の異なる金属イオンは、金属の種類が同じでも、その価数によって沈澱し始めるpHの範囲が異なる。例えば3価の鉄イオンは、溶液のpHが2.0未満ではイオンとして存在しているが、2.0以上の範囲では水酸化物を形成して沈澱し始める。一方、2価の鉄イオンは、pHが6.0未満ではイオンとして存在しているが、pHが6.0以上の範囲では沈澱し始める。つまり、3価の鉄イオンは、2価の鉄イオンに比べて低いpHで沈澱しやすい。このように低いpHで沈澱しやすい金属イオンは、後述の沈澱工程でリンとともに沈澱して、共沈剤による共沈分離を阻害し、定量精度を低下させるおそれがある。特に、第1金属イオンの中でも、鉄イオンは幅広いpH範囲で水酸化物を形成して沈澱しやすいので、リンの定量精度に大きく影響する。この点、沈澱工程の前に予め還元工程を設けて、第1金属に由来する第1金属イオンを還元し、例えば3価の金属イオンを2価に、4価の金属イオンを3価にすることにより、沈澱工程での第1金属の沈澱を抑制し、定量精度を高く維持することができる。
還元剤としては、共存元素の種類や含有量などに応じて必要な還元力を有するものを使用すればよく、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、もしくは、還元力の強いヒドラジン化合物などを用いることができる。
(沈澱工程)
続いて、還元した後の溶液に共沈剤を添加する。本実施形態では、上述したように、第2金属を含有する共沈剤を使用する。また、溶液に緩衝剤を添加するとともに、そのpHを2.5以下の範囲に、好ましくは1.5以上2.5以下の範囲に調整する。この結果、共沈剤に含まれる第2金属が溶液中でリンを捕集しつつ水酸化物を形成し、この水酸化物が溶液中で沈澱することになる。この沈澱は、リンを含む第2金属の水酸化物からなり、例えば第2金属がチタン等であれば白色を呈し、セリウム等であれば黄色を呈する。なお、溶液には、第1金属に由来する第1金属イオンも存在するが、これらの金属イオンはpH2.5以下の範囲では水酸化物を形成しにくいため、水酸化物として沈澱しにくい。
なお、沈澱工程では、溶液のpHを調製した後、共沈剤を添加してもよい。
また、緩衝剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば酢酸水溶液や酢酸と酢酸ナトリウムとの混合溶液などを用いることができる。また、溶液のpHは、例えば塩酸や水酸化ナトリウム溶液などを添加して微調整するとよい。
(調製工程)
続いて、溶液に沈澱する水酸化物の沈澱物を分離採取する。得られた沈澱物に酸溶液を添加して低温で加熱する。これにより、沈澱物を溶解させて、リンや第2金属が溶解する溶液を得る。次に、この溶液に、内部標準物質(内標準物質ともいう)であるイットリウムを含む内部標準溶液を添加し、定容することにより、測定溶液を調製する。
調製工程で沈澱物を溶解させる酸溶液としては、硫酸を用いることもできるが、後述の定量工程で分析装置への負荷を低減する観点からは、塩酸、硝酸および過酸化水素水を含む混合溶液を用いることが好ましい。
また、調製工程では、沈澱物の分離採取の前に溶液を低温で加熱して、沈澱物を加熱熟成するとよい。また、分離採取は、例えば吸引ろ過などの公知の方法で行うとよい。なお、ろ過の際に使用するろ紙としては、例えば、通常の定量ろ紙、酢酸セルロースろ紙、親水性PTFEろ紙などを用いるとよい。沈澱物の溶解における利便性の観点からは、親水性PTFEろ紙を用いるとよい。なお、分離採取した沈澱物は、例えば純水で5,6回洗浄するとよい。
(分析工程)
続いて、測定溶液を分析装置に導入してリンを定量する。リンの定量方法は特に限定されず、絶対検量線法や標準添加法、内部標準法など公知の方法で定量するとよい。また、前述の沈澱工程で共沈剤を多く添加した場合、絶対検量線法及び内部標準法では、更なる測定精度向上のため、検量線作成用の標準溶液に、溶液に含まれる量と同量の共沈剤を添加して溶液の組成を合わせるマトリックスマッチング法(等組成法とも呼ばれる)を適用してもよい。
分析装置としては、リンの定量が可能な装置であれば特に限定されず、ICP発光分析装置、ICP質量分析装置、フレーム原子吸光装置、フレームレス原子吸光装置および分光光度計などを用いることができる。この中でも、微量なリンを簡易にかつ精度よく定量できることから、ICP発光分析装置が好ましい。
以上により、金属化合物に含まれるリンを定量することができる。
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
(a)本実施形態では、水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属とリンとを含有する金属化合物を溶解させた溶液に、水酸化物の形成を開始するpHが2.5以下である第2金属を含有する共沈剤を添加するとともに、溶液のpHを2.5以下に調整している。これにより、金属化合物に含まれる第1金属の沈澱を抑制しつつ、金属化合物に含まれるリンを捕集して第2金属の水酸化物として沈澱させることができる。そして、この水酸化物の沈澱物に含まれるリンの含有量を測定することにより、金属化合物に含まれるリンを精度よく定量することができる。しかも、リン以外の金属の捕集を抑制できるので、リンを微量であっても精度よく定量することができる。
(b)また、本実施形態では、金属化合物を溶解した溶液に共沈剤を添加して沈澱工程を行う前に、溶液に還元剤を添加し、溶液に含まれる金属イオンを還元している。これにより、第1金属イオンの中でも、pH2.5以下の範囲で水酸化物を形成して沈澱しやすい金属イオンを、pH2.5以下の範囲では沈澱しないような金属イオンに還元することができる。例えば、3価の鉄イオンを2価の鉄イオンに還元することができる。この結果、沈澱工程でpHを2.5以下に調整しても、リン以外の金属イオンの沈澱を抑制することができ、リンの定量精度を高めることができる。
(c)また、沈澱工程では、溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整することが好ましい。このような範囲にpHを調整し、共沈剤でリンを捕集することにより、pHを上記範囲以外に調整した場合と比べて、溶液に存在するリンをより高い回収率で捕集して沈澱させることができる。
この点につき、図1を用いて具体的に説明する。図1は、共沈剤のpHによるリン捕集量の変化を示す図であり、横軸は、溶液のpHを示し、縦軸は、共沈剤によるリンの捕集量[mmol/g]を示す。四角のプロット(□)は、共沈剤として水酸化チタン(IV)を用いたときの捕集量を示し、丸のプロット(○)は、水酸化ジルコニウム(IV)を用いたときの捕集量を示し、アスタリスクのプロット(*)は、水酸化セリウム(IV)を用いたときの捕集量を示す。
図1中、水酸化チタン(IV)の捕集量は以下の手順により測定した。
具体的には、まず、300mlビーカーに、塩化チタン(IV)溶液(四塩化チタン溶液)を、駒込ピペットで約0.33g(チタンとして約0.08g)採取し、純水200mlに溶解した。次に、水酸化ナトリウム溶液と塩酸を用いて所定のpHに調整し、水酸化チタン(IV)の白色沈澱を約0.2g生成させ、これを試験液とした。次に、試験液にリン(リン酸二水素アンモニウム)1mol/l溶液を0.4ml加え、撹拌しながら室温で24時間以上反応させた。最後に、試験液の最終pHを測定した後、沈澱を沈降させ、採取した上澄み液の残留リン濃度を、ICP発光分析法で分析することにより、沈澱のリン捕集量を測定した。この測定を、水酸化ナトリウムと塩酸の量を調整してpHを変動させて繰り返し行い、水酸化チタン(IV)の各pHでのリン捕集量を求めた。
また、水酸化ジルコニウム(IV)の捕集量を、上記と同様に測定した。
具体的には、300mlビーカーに、オキシ塩化ジルコニウム(IV)・八水和物を、約0.39g(ジルコニウムとして約0.11g)採取し、純水200mlに溶解した。次に、水酸化ナトリウム溶液と塩酸を用いて所定のpHに調整し、水酸化ジルコニウム(IV)の白色沈澱を約0.2g生成させ、これを試験液とした。そして、上記と同様の操作を行うことにより、水酸化ジルコニウム(IV)の各pHでのリン捕集量を求めた。
また、水酸化セリウム(IV)の捕集量を、上記と同様に測定した。
具体的には、300mlビーカーに、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)を、約0.53g(セリウムとして約0.13g)採取し、純水200mlに溶解した。次に、水酸化ナトリウム溶液と塩酸を用いて所定のpHに調整し、水酸化セリウム(IV)の黄色の沈澱物を、約0.2g生成させ、これを試験液とした。そして、上記と同様の操作を行うことにより、水酸化セリウム(IV)の各pHでのリン捕集量を求めた。
図1に示すように、本実施形態の共沈剤によれば、pHが1.5~2.5の範囲においても、リンの捕集量を高くできることが確認できる。特に水酸化チタンを用いた場合、捕集量が2.0mmol/gとなり、リンの回収率が100%であることが確認された。このように、溶液のpHを1.5~2.5に調整することにより、金属化合物からリンを高い回収率で採取して、より高い精度で定量することができる。なお、共沈剤を添加してpHを2.0程度に調整した試験液において、共沈剤に含まれる第2金属の濃度を測定したところ、チタン濃度が<1mg/l、ジルコニウム濃度が55mg/l、セリウム濃度が68mg/lであり、これらの金属が溶解せずに沈澱していることが確認された。つまり、これらの第2金属の水酸化物は、低いpH範囲でも溶解しにくく、耐酸性に優れている。これらの中でも、チタンの水酸化物は特に耐酸性に優れている。
(d)共沈剤に含まれる第2金属は、チタン、ジルコニウム、セリウム、錫、ニオブ、タンタルおよびアンチモンの少なくとも1つであることが好ましい。その中でも、4価の金属であることがより好ましく、4価のチタン、4価のジルコニウムおよび4価のセリウムの少なくとも1つであることがさらに好ましい。このような第2金属を含む共沈剤によれば、pH2.5以下の範囲で水酸化物を安定して形成しやすく、リンを捕集して沈澱させやすいので、リンの定量精度をより高くすることができる。
(e)金属化合物を構成する第1金属が、鉄、アルミニウム、ニッケル、珪酸、硫黄、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、マグネシウムおよびクロムの少なくとも1つであり、少なくとも鉄を含む。鉄は、幅広いpHの範囲で水酸化物を形成して沈澱しやすいため、鉄を含む金属化合物では、リンを精度よく定量することができない。この点、本実施形態では、pH2.5以下の範囲でも水酸化物を形成して沈澱しやすい共沈剤を使用するとともに、溶液のpHを2.5以下とすることで、鉄イオンを水酸化物として捕集するのを抑制しつつ、溶液に含まれるリンを水酸化物として捕集して沈澱させることができる。つまり、リンを濃縮して採取することができ、精度よく定量することが可能となる。
(f)共沈剤により沈澱させた、リンを含む水酸化物を溶解させる酸溶液としては、塩酸、硝酸および過酸化水素水を含む混合溶液で溶解させることが好ましい。このような酸溶液によれば、硫酸を用いる場合と比べて、最終的に得られる測定溶液の粘度を低く維持できる。これにより、測定溶液の分析機器の測定部への導入効率を、例えば噴霧により導入するときの噴霧効率を大きく損ねることがないので、導入効率の低下に起因する測定精度の低下を抑制することができる。
(g)また、共沈剤を用いることにより、例えば有機溶媒を用いて金属化合物からリンを溶媒抽出する場合と比べて、毒性を有したり引火点が低かったりする有機溶媒を使用することがないので、作業上の安全性を担保することができる。
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
上述の実施形態では、溶液として、金属化合物を溶解した溶解液に含まれるリンを定量する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶液として、少なくとも水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属と、リンと、を含む廃水のほか、リチウムイオン電池の電極材料の製造過程で排出される廃水などに含まれるリンを定量することもできる。
これらの廃水に含まれるリンを定量する場合、廃水に対して、必要に応じて還元剤を添加して還元処理を施した後、上述したように、沈澱工程、調製工程および定量工程を行うとよい。
なお、本発明の好ましい形態は以下のとおりである。
水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属と、リンとを含有する金属化合物を準備する準備工程と、前記金属化合物を溶解して、溶液を得る溶解工程と、前記溶液に、水酸化物の形成を開始するpHが2.5以下である第2金属を含有する共沈剤を添加するとともに、前記溶液のpHを2.5以下に調整することにより、リンを含む前記第2金属の水酸化物を沈澱させる沈澱工程と、前記第2金属の水酸化物を分離採取して酸溶液に溶解させて、測定溶液を調製する調製工程と、前記測定溶液に含まれるリンを定量する定量工程と、を有する、金属化合物中のリンの定量方法である。
水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属とリンとを含有する廃水を準備する準備工程と、前記廃水としての溶液に、水酸化物の形成を開始するpHが2.5以下である第2金属を含有する共沈剤を添加するとともに、前記溶液のpHを2.5以下に調整することにより、リンを含む前記第2金属の水酸化物を沈澱させる沈澱工程と、前記第2金属の水酸化物を分離採取して酸溶液に溶解させて、測定溶液を調製する調製工程と、前記測定溶液に含まれるリンを定量する定量工程と、を有する、金属化合物中のリンの定量方法である。
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
<実施例1>
本実施例では、図2に示すようなフローにより測定溶液を調製し、金属化合物に含まれるリンを定量した。
(測定溶液の調製)
具体的には、まず、分析対象として、下記表1に示すようなマトリックス組成を有する金属化合物を準備した。表1に示すように、金属化合物は、水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属として、FeやMg、Niなどを主成分として含んでいる。
Figure 0007207167000001
本実施例では、この金属化合物を3検体併行して以下のように処理し、検体1~3を作製した。まず、この金属化合物を0.5g秤量し、高純度アルミナルツボに添加した。また、アルカリ塩として、過酸化ナトリウムを2.5g、炭酸ナトリウムを2.5g、それぞれ秤量し、ルツボ内に添加して混合した。その後、混合物を昇温して、金属化合物を融解させた。
次に、ルツボを室温となるまで冷却した後、300mlビーカーへ移し、温水100mlと塩酸30mlとを加えて融解物を中和熱により十分に溶解させた。このとき、未溶解残渣がある場合、80℃~120℃の低い温度で加熱した。また、金属化合物がケイ酸を高濃度で含有する場合は、ビーカーを水浴で冷やしながら融解物を溶解させた。
次に、得られた溶液を冷却し、ビーカーからルツボを取り出して洗浄した。その後、還元剤としての亜硫酸水素ナトリウム2gを溶液に添加し、溶液を、その色が変化しなくなるまで加熱することで、還元処理を行った。
次に、還元処理を施した溶液を再び冷却した後、共沈剤として四塩化チタンを含む(チタンとして1g/lを含む)四塩化チタン溶液を10ml添加し、十分に撹拌した。続いて、緩衝剤として11倍希釈した酢酸(酢酸(1+10))5mlを添加するとともに、50%の水酸化ナトリウム溶液15mlを添加して、pHの粗調整を行った。そして、2倍希釈した塩酸(塩酸(1+1))と25%の水酸化ナトリウム溶液を用いて、pHを1.5~2.5の範囲に微調整した。これにより、白色の沈澱(水酸化物)を生成させた。
次に、生成した白色沈澱を80℃~120℃の範囲で30分以上加熱熟成した。その後、親水性PTFEろ紙(孔径(目の粗さ)0.1μm、直径47mm)を用いて吸引ろ過を行うことで、白色沈澱を分離採取し、純水で5,6回洗浄した。ろ別した白色沈澱をろ紙ごとビーカーへ移し、酸溶液として塩酸8ml、硝酸4ml、および過酸化水素水2mlを添加して120℃で加熱することにより、白色沈澱を溶解させた。この沈澱物の溶液をポリプロピレン容器へ移し入れ、内標準法用のイットリウム溶液(1g/l)を0.2ml加え、純水を用いて20mlに定容することで、実施例1の測定溶液を得た。
また、本実施例では、検体1~3とは別に、リンの回収率を評価するための検体として、リン添加検体4,5を作製した。具体的には、まず、高純度アルミナルツボに、濃度が100mg/Lのリン標準溶液を0.2ml(20μg相当のリン)添加し、60℃で乾燥させた後、ルツボを冷却した。続いて、乾燥したリンを含むルツボに、図2に示すフローにしたがって、金属化合物を秤量し、アルカリ融解を行うといったように、検体1~3の作製と同様の操作を行い、リン添加検体4,5を作製した。
また、本実施例では、検体1~3とは別に、空試験のためのブランク検体6,7を作製した。具体的には、高純度アルミルツボに金属化合物を秤量しない以外は、図2のフローにしたがって検体1~3の作製と同様の操作を行い、ブランク検体6,7を作製した。
(リンの定量)
次に、各検体をそれぞれICP発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製のICP-OES「Agilent730-ES」)に導入し、下記表2に示す測定条件で各検体に含まれるリンを測定した。なお、リン測定波長を213.618nmとした。
Figure 0007207167000002
各検体に含まれるリンの測定値を下記表3に示す。なお、リンの測定値は、リン濃度を0mg/l、0.5mg/l、1mg/l、2mg/lに変更して作成した検量線を用いて求めた。
Figure 0007207167000003
次に、各検体に含まれるリンの測定値から、金属化合物に含まれるリンの定量値を算出した。具体的には、検体1~3のリン測定値(試料測定値)と、ブランク検体6,7のリン測定値(空試験値)とから、下記式(1)によりリンの定量値を算出した。その定量値を表3に示す。
(リンの定量値[ppm])={(試料測定値[mg/l])-(空試験値[mg/l])}×(定容量[ml])/(試料量[g]) ・・・(1)
また、実施例1でのリンの回収率を算出した。具体的には、リン添加検体4,5のリン測定値(添加測定値)と、検体1~3のリン測定値(試料測定値)とから、下記式(2)によりリンの回収率を算出した。その回収率を表3に示す。
(回収率[%])={(添加測定値[mg/l])-(試料測定値[mg/l])}/(添加濃度[mg/l])×100 ・・・(2)
<実施例2,3>
実施例2,3では、共沈剤の種類を、四塩化チタン(IV)から、オキシ塩化ジルコニウム(IV)、もしくは硝酸二セリウムアンモニウム(IV)に変更した以外は、実施例1と同様に測定溶液を調製し、リンの定量値および回収率を算出した。
<比較例1>
比較例1では、共沈剤の種類を、四塩化チタン(IV)から、水酸化物の形成を開始するpHが8.0程度である硝酸ランタン(III)に変更するとともに、水酸化物を沈澱させるときのpHを10程度に調整した以外は、実施例1と同様に測定溶液を調製し、リンの定量値および回収率を算出した。
<実施例4>
実施例4では、定量対象となる溶液として、金属化合物を溶解させた溶液の代わりに、廃水を準備した。廃水のマトリックス組成を下記表4に示す。廃水は、表4に示すように、強酸性であり、水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属として、FeやMg、Niなどを主成分として含んでいる。
Figure 0007207167000004
本実施例では、実施例1における準備工程および溶解工程を省略し、準備した廃水200mlを300mlビーカーへ採取して、還元剤としての亜硫酸水素ナトリウム2gを溶液に添加し、溶液を、その色が変化しなくなるまで加熱することで、還元処理を行った。それ以降は、実施例1と同様に測定溶液を調製して検体1~3を作製した。
また、本実施例では、検体1~3とは別に、リンの回収率を評価するための検体として、リン添加検体4,5を作製した。具体的には、300mlビーカーに、濃度が100mg/lのリン標準溶液を0.2ml(20μg相当のリン)添加し、検体1~3の作製と同様の操作を行い、リン添加検体4,5を作製した。
また、本実施例では、検体1~3とは別に、空試験のためのブランク検体6,7を作製した。具体的には、廃水を採取する代わりに純水を使用した以外は、検体1~3の作製と同様の操作を行い、ブランク検体6,7を作製した。
続いて、実施例1と同様に、得られた各検体に含まれるリンを測定した。各検体に含まれるリンの測定値を下記表5に示す。
Figure 0007207167000005
続いて、実施例1と同様に、各検体に含まれるリンの測定値から、廃液に含まれるリンの定量値と、リンの回収率とを算出した。それぞれの数値を表5に示す。なお、実施例4においては、廃水の試料量が200mlに対し、最終的な定容量が20mlであるため、リンの濃度としては、元の廃水から10倍に濃縮された形となる。
<実施例5,6>
実施例5,6では、共沈剤の種類を、四塩化チタン(IV)から、オキシ塩化ジルコニウム(IV)、もしくは硝酸二セリウムアンモニウム(IV)に変更した以外は、実施例4と同様に測定溶液を調製し、リンの定量値および回収率を算出した。
<比較例2>
比較例2では、共沈剤の種類を、四塩化チタン(IV)から、水酸化物の形成を開始するpHが8.0程度である硝酸ランタン(III)に変更するとともに、水酸化物を沈澱させるときのpHを10程度に調整した以外は、実施例4と同様に測定溶液を調製し、リンの定量値および回収率を算出した。
<評価結果>
表3に示すように、実施例1~3によると、金属化合物に含まれるリンの量がそれぞれ、9ppm、7ppm、6ppmであることが確認された。また、金属化合物からのリンの回収率はそれぞれ、101%、80%、72%であることが確認された。このことから、金属化合物からリンを高い回収率で採取して、金属化合物に含まれるリンを精度よく定量できることが確認された。
特に、チタンを含む共沈剤を用いた実施例1は、ジルコニウムを含む共沈剤を用いた実施例2、セリウムを含む共沈剤を用いた実施例3と比べて、金属化合物からリンをより高い回収率で採取して、リンをより精度よく定量できることが確認された。ジルコニウムやセリウムの回収率がチタンよりも低くなるのは、リンを完全に水酸化物の沈澱物に生成できていないためと推測される。
これに対して、比較例1では、ランタンを含む共沈剤を用いて実施例1~3と同様に、測定溶液を調製しようとしたが、溶液に含まれる鉄イオンが水酸化物を形成して多量に沈澱したため、リンの定量を行うことができなかった。
また、実施例4~6に示すように、定量対象を廃水としてもリンを定量できることが確認された。具体的には、表5に示すように、廃水に含まれるリンの量がそれぞれ、0.015mg/l、0.012mg/l、0.010mg/lであることが確認された。また、廃水からのリンの回収率はそれぞれ、100%、86%、74%であることが確認された。このことから、廃水からリンを高い回収率で採取して、廃水に含まれるリンを精度よく定量できることが確認されたほか、各共沈剤毎のリンの回収率についても、実施例1~3の金属化合物の場合と同様の傾向であった。
これに対して、比較例2では、ランタンを含む共沈剤を用いて実施例4~6と同様に、測定溶液を調製しようとしたが、ここでも、溶液に含まれる鉄イオンが水酸化物を形成して多量に沈澱したため、リンの定量を行うことができなかった。
なお、リンの定量下限値は、下記表6,7に示すように空試験を10検体行ったところ、実施例1,2では2.3ppmまで、実施例3では1.8ppmまで、実施例4では0.004mg/lまで、実施例5では0.006mg/lまで、実施例6では0.007mg/lまでは保証できることが確認された。リンの定量下限値について、実施例1~3は下記式(3)に基づいて、実施例4~6は下記式(4)に基づいてそれぞれ算出した。
(定量下限値[ppm])={10×(標準偏差σ)[mg/l]}×(定容量[ml])/(試料量[g]) ・・・(3)
(定量下限値[mg/l])={10×(標準偏差σ)[mg/l]}×(定容量[ml])/(試料量[ml]) ・・・(4)
Figure 0007207167000006
Figure 0007207167000007
以上説明したように、金属化合物が溶解する溶液に、pH2.5以下の範囲で水酸化物の形成を開始する第2金属を含有する共沈剤を添加し、かつ溶液のpHを2.5以下に調整することにより、金属化合物に由来する金属成分の沈澱を抑制しつつ、金属化合物に含まれるリンを水酸化物として沈澱させることができる。これにより、金属化合物に含まれるリンを微量であっても精度よく定量することができる。また金属化合物の溶液と同様、第1金属とリンとを含有する廃水であっても、リンを精度よく定量することができる。

Claims (15)

  1. 水酸化物の形成を開始するpHが2.5よりも大きな第1金属とリンとが溶解する溶液中のリンの定量方法であって、
    前記溶液に、水酸化物の形成を開始するpHが2.5以下である第2金属を含有する共沈剤を添加するとともに、前記溶液のpHを2.5以下に調整することにより、リンを含む前記第2金属の水酸化物を沈澱させる沈澱工程と、
    前記第2金属の水酸化物を分離採取して酸溶液に溶解させて、測定溶液を調製する調製工程と、
    前記測定溶液に含まれるリンを定量する定量工程と、を有する、
    溶液中のリンの定量方法。
  2. 前記沈澱工程の前に、
    前記第1金属とリンとを含有する金属化合物を準備する準備工程と、
    前記金属化合物を溶解して、前記溶液を得る溶解工程と、を有する、
    請求項1に記載の溶液中のリンの定量方法。
  3. 前記沈殿工程の前に、前記溶液として、前記第1金属とリンとを含有する廃水を準備する準備工程を有する、
    請求項1に記載の溶液中のリンの定量方法。
  4. 前記第2金属が、チタン、ジルコニウム、セリウム、錫、ニオブ、タンタルおよびアンチモンの少なくとも1つである、
    請求項1~3のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  5. 前記第2金属が4価の金属である、
    請求項1~4のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  6. 前記第2金属が、4価のチタン、4価のジルコニウムおよび4価のセリウムの少なくとも1つである、
    請求項5に記載の溶液中のリンの定量方法。
  7. 前記沈澱工程では、前記溶液のpHを1.5以上2.5以下に調整する、
    請求項1~6のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  8. 前記第1金属が、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、マグネシウムおよびクロムの少なくとも1つである、
    請求項1~7のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  9. 前記第1金属が少なくとも鉄を含む、
    請求項1~8に記載の溶液中のリンの定量方法。
  10. 前記調製工程で用いる前記酸溶液は、塩酸、硝酸および過酸化水素水を含む混合溶液である、
    請求項1~9のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  11. 前記沈澱工程の前に、前記溶液に還元剤を添加し、前記溶液に含まれる金属イオンを還元する還元工程を有する、
    請求項1~10のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
  12. 前記還元剤は、亜硫酸水素ナトリウムである、
    請求項11に記載の溶液中のリンの定量方法。
  13. 前記溶解工程では、前記金属化合物をアルカリ塩で融解して、得られる融解物を酸溶液で溶解する、
    請求項2に記載の溶液中のリンの定量方法。
  14. 前記アルカリ塩が、過酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの少なくとも1つである、
    請求項13に記載の溶液中のリンの定量方法。
  15. 前記定量工程では、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、フレーム原子吸光装置、フレームレス原子吸光装置および分光光度計のいずれか1つの分析機器を用いて、前記溶液に含まれるリンを定量する、
    請求項1~14のいずれか1項に記載の溶液中のリンの定量方法。
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