以下、内燃機関の制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、この制御装置が適用される多気筒のエンジン1は、そのシリンダブロック2に複数のシリンダ3が備えられている(図1には1つのみ図示)。
各シリンダ3内に設けられたピストン4は、コネクティングロッド6を介してクランクシャフト5に連結されている。このコネクティングロッド6によって、ピストン4の往復運動がクランクシャフト5の回転運動へと変換される。クランクシャフト5は、変速段を自動的に切り替える自動変速機100の入力軸に接続されている。
シリンダブロック2の上部には、シリンダヘッド7が取り付けられている。シリンダ3において、ピストン4の上端とシリンダヘッド7との間には、燃焼室8が形成されている。
燃焼室8には、点火プラグ11が設けられている。また、燃焼室8に連通する吸気ポート12及び排気ポート13には、それぞれ吸気通路14及び排気通路15が接続されている。吸気ポート12には、燃料を噴射するインジェクタ16が設けられている。
シリンダヘッド7内に設けられた吸気バルブ17及び排気バルブ18は、吸気ポート12及び排気ポート13をそれぞれ開閉する。
吸気バルブ17は、吸気側カムシャフト31の回転に伴って同カムシャフト31に設けられたカムが回転することにより開閉動作する。排気バルブ18は、排気側カムシャフト32の回転に伴って同カムシャフト32に設けられたカムが回転することにより開閉動作する。
吸気側カムシャフト31の先端に設けられたタイミングプーリ33及び排気側カムシャフト32の先端に設けられたタイミングプーリ34は、タイミングベルト35を介してクランクシャフト5に駆動連結されている。クランクシャフト5が2回転すると各タイミングプーリ33、34は1回転する。
そして、エンジン1の運転時には、クランクシャフト5の回転力がタイミングベルト35及び各タイミングプーリ33、34を介して吸気側カムシャフト31及び排気側カムシャフト32に伝達される。
こうして、吸気バルブ17及び排気バルブ18は、クランクシャフト5の回転に同期して、すなわち各ピストン4の往復移動に対応して所定のタイミングで開閉動作する。
また、吸気側カムシャフト31に設けられたタイミングプーリ33には、吸気側可変動弁機構(以下、IN−VVT機構という)60aが設けられている。このIN−VVT機構60aが駆動されることで、クランクシャフト5に対する吸気側カムシャフト31の相対回転位相が変更されて吸気バルブ17のバルブタイミングが変更される。
また、排気側カムシャフト32に設けられたタイミングプーリ34には排気側可変動弁機構(以下、EX−VVT機構という)60bが設けられている。このEX−VVT機構60bが駆動されることで、クランクシャフト5に対する排気側カムシャフト32の相対回転位相が変更されて排気バルブ18のバルブタイミングが変更される。
吸気通路14の途中には、吸気脈動を抑えるサージタンク51が設けられている。サージタンク51の上流側には、アクセルペダル52の操作に基づいて開度が変更されるスロットルバルブ53が設けられている。このスロットルバルブ53の開度を変更することにより、燃焼室8内に吸入される空気の量が調節される。
点火プラグ11には、イグナイタ46から出力される高電圧が供給される。点火プラグ11の点火タイミングは、イグナイタ46からの高電圧の出力タイミングにより決定される。
そして、吸気通路14から供給される吸入空気とインジェクタ16から噴射される燃料とからなる混合気が点火プラグ11によって点火されることにより、その混合気は燃焼室8内で燃焼されて機関出力が発生する。この混合気の燃焼により発生する燃焼ガスは排気通路15に排出される。
排気通路15の途中には、燃焼室8からの排気(燃焼ガス)を浄化する触媒70が設けられている。
エンジン1には各種センサが設けられている。
例えばクランクシャフト5の近傍にはクランク角センサ41が設けられている。このクランク角センサ41は、クランクシャフト5の回転(クランク角)を検出しており、その検出結果に基づいて機関回転速度NEが検出される。また、吸気側カムシャフト31の近傍にはカム角センサ42aが設けられており、同カム角センサ42a及びクランク角センサ41の出力信号に基づいて吸気側カムシャフト31の回転位相が検出され、ひいては吸気バルブ17のバルブタイミングが検出される。同様に、排気側カムシャフト32の近傍にはカム角センサ42bが設けられており、同カム角センサ42b及びクランク角センサ41の出力信号に基づいて排気側カムシャフト32の回転位相が検出され、ひいては排気バルブ18のバルブタイミングが検出される。上記スロットルバルブ53には、その開度を検出するスロットル開度センサ54が取り付けられている。また、スロットルバルブ53の上流側には、エンジン1に吸入される吸入空気量GAに応じた出力が得られるエアフロメータ56が設けられている。
エンジン1の点火時期制御、燃料噴射量制御、あるいはIN−VVT機構及びEX−VVT機構の位相制御に基づく吸気バルブ17及び排気バルブ18のバルブタイミング制御等といった各種制御は、制御装置80によって行われる。
制御装置80は、中央処理制御装置(CPU)を備えるマイクロコンピュータを中心として構成されている。例えば制御装置80には、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)が設けられている。
また、制御装置80には、演算結果や予め記憶されたデータ等を機関停止後も保存するためのバックアップRAM、入力インターフェース、出力インターフェース等も設けられている。そして、上記各種センサからの出力信号が入力インターフェースを通じて入力されることにより、エンジン1の運転状態が検出される。
一方、出力インターフェースは、各々対応する駆動回路等を介してインジェクタ16、イグナイタ46、IN−VVT機構60a及びEX−VVT機構60bの駆動アクチュエータ等に接続されている。そして、制御装置80は、上記各種センサ等からの信号に基づき、ROM内に格納された制御プログラム及び初期データに従い、それらインジェクタ16、イグナイタ46、IN−VVT機構60a、及びEX−VVT機構60b等を制御する。
制御装置80は、機関負荷率KL(全負荷時の吸入空気量GAに対する現在の吸入空気量GAの割合)や機関回転速度NE等といった機関運転状態に基づき、点火時期や燃料噴射量を設定する。
ここで、自動変速機100の変速時に、エンジン1の出力トルクを一時的に低下させると、変速時のトルクショックを抑えることができる。そこで、自動変速機100の変速時において、制御装置80は、機関運転状態に基づき設定された点火時期を遅角補正してエンジン1の出力トルクを一時的に低下させるようにしている。
一方で、こうした点火時期の遅角補正は、排気温度の上昇を招きやすく、触媒70が熱害を受けるおそれがある。そこで、制御装置80は、触媒70の過剰な温度上昇が懸念されるときには、燃料噴射量を増量補正して燃料の気化熱を増大させることにより、排気温度や触媒温度の上昇を抑える処理、いわゆるOT増量の処理を実行する。
図2に、OT増量値の算出処理手順を示す。なお、本処理は、制御装置80によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されると、まず、今回の処理タイミングが、16ms(ミリ秒)のタイミングであるか否かが判定される(S100)。そして、16msのタイミングではないときには(S100:NO)、本処理は、一旦終了される。
一方、16msのタイミングであるときには(S100:YES)、OT増量値EOTの算出が行われる(S110)。このステップS110では、増量基本値OTBに要求増量値EKを加算することにより、OT増量値EOTが算出される。増量基本値OTBは、機関負荷率KLや機関回転速度NE等といった機関運転状態に基づいて設定される値であり、機関運転状態の変化に伴う触媒70の温度上昇を抑えるための燃料増量補正値である。また、要求増量値EKは、点火時期遅角に伴う触媒70の温度上昇を抑えるための燃料増量補正値である。
図3に、燃料の噴射期間ETAUを算出するときの処理手順を示す。なお、本処理も、制御装置80によって所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されると、まず、今回の処理タイミングが、8ms(ミリ秒)のタイミングであるか否かが判定される(S200)。そして、8msのタイミングではないときには(S200:NO)、本処理は、一旦終了される。
一方、8msのタイミングであるときには(S200:YES)、噴射期間ETAUの算出が行われる(S210)。このステップS210では、基本噴射期間ETAUBにOT増量値EOTが乗算されることにより、OT増量が反映された噴射期間ETAUが算出される。基本噴射期間ETAUBは、機関負荷率KLや機関回転速度NE等といった機関運転状態に基づき設定された燃料噴射量を噴射するために必要なインジェクタ16の駆動時間である。このようにして噴射期間ETAUが算出されると、本処理は一旦終了される。そして、この噴射期間ETAUの間、インジェクタ16には駆動信号が入力されることにより、OT増量された燃料がインジェクタ16から噴射される。
このように、本実施形態では、予め定められた時間周期毎(16ms毎)にOT増量値EOTの算出が行われる。また、予め定められた時間周期毎(8ms毎)に燃料の噴射期間ETAUの算出が行われる。
ところで、触媒70の温度上昇を抑えるためには、増量補正された燃料が、遅角補正された点火の時期までに燃焼室8に到達している必要があり、そうした点火時期の遅角補正に対して燃料の増量補正が間に合わない期間が生じると、触媒70の温度が一時的ではあるものの、過剰に高くなるおそれがある。
なお、触媒70の温度が、一時的であったにせよ過剰に上昇すると、触媒70の熱劣化が徐々に進行するおそれがある。また、触媒70の一時的な温度上昇は、触媒70において急激な温度分布の変化を生じさせるため、触媒70に強い熱応力が働くおそれもある。
そこで、本実施形態では、そうした点火時期遅角による触媒70の過昇温を抑えるために、図4に示すごとく、点火時期遅角を制限する処理を行うようにしている。なお、この制限処理は、制御装置80によって、各気筒の圧縮上死点前90°CA毎に実行される。
ちなみに、本実施形態では、圧縮上死点前90°CAのタイミングは、各気筒において最終点火時期を算出するタイミングにもなっている。
図4に示すように、本処理が開始されると、まず、遅角補正量RRの算出が行われる(S300)。この遅角補正量RRは、各種の遅角要求に応じた点火時期の遅角補正量のうちで最も遅角度合の大きい値が、当該遅角補正量RRとして選択される。なお、こうした各種の遅角要求としては、上述した自動変速機100の変速時におけるトルクショックを抑えるための遅角要求の他にも、例えば燃料カットからの復帰時におけるトルクショックを抑えるための遅角要求や、触媒70の早期暖機を図るための遅角要求などがある。
次に、遅角補正量RR等に基づいて上述した要求増量値EKが算出される(S310)。このステップS310では、例えば、機関回転速度NE、機関負荷率KL、及び遅角補正量RR等に基づいて触媒70の推定温度が算出される。そして、その推定温度が所定の判定温度を超える場合には、触媒70の温度を許容温度にまで低下させるために必要な燃料噴射量の増量係数である要求増量値EKが、触媒70の推定温度などに基づいて算出される。
次に、燃料増量が必要な状態であるか否かが判定される(S320)。このステップS330では、例えば「0」に近い所定値αよりも遅角補正量RRの絶対値が大きく、点火時期の遅角補正による触媒70の過度な温度上昇が懸念されるときや、触媒70の過度な温度上昇が懸念される機関運転状態のときに(例えば高負荷運転時や高回転運転時など)、燃料増量が必要な状態であると判定される。
ステップS320にて、燃料増量が必要な状態ではないと判定されるときには(S320:NO)、遅角ガード量RGが設定される(S370)。遅角ガード量RGは、遅角補正量RRが、遅角要求に応じた遅角補正量よりも少なくなるように制限する値であり、上記ステップS300で設定された遅角補正量RRが、遅角ガード量RGとして設定される。
ここで、ステップS370の処理が実行されるときには、ステップS320にて燃料増量が必要な状態ではないと判定されているため、遅角補正量RRは「0」、あるいは上記所定値α以下の小さい値となっている。従って、遅角ガード量RGも「0」、あるいは上記所定値α以下の小さい値に設定される。そのため、遅角ガード量RGによって遅角補正量RRが制限されるときには、遅角補正量RRの値が「0」、あるいは上記所定値α以下の小さい値に設定されることになり、実質的には、点火時期の遅角補正が実施されることなく保留されるようになる。
一方、ステップS320にて、燃料増量が必要な状態であると判定されるときには(S320:YES)、上記OT増量値EOTが再計算される(S330)。このステップS330では、時間周期にて算出されている上記OT増量値EOTが、本処理の実行周期、つまり点火時期の遅角要求に応じた遅角補正量RRの算出タイミングであって圧縮上死点前90°CAのタイミングで実行される本処理の実行周期において再度計算される。同ステップS330では、上記ステップS310にて算出された要求増量値EKを上記増量基本値OTBに加算することにより、OT増量値EOTが再計算される。
次に、時間周期にて算出されている上記噴射期間ETAUが、本処理の実行周期、つまり点火時期の遅角要求に応じた遅角補正量RRの算出タイミングであって圧縮上死点前90°CAのタイミングで実行される本処理の実行周期において、再計算される(S340)。このステップS340では、上記ステップS330にて再計算されたOT増量値EOTを上記基本噴射期間ETAUBに乗算することにより、噴射期間ETAUが再計算される。
これらステップS330及びステップS340の処理により、点火時期の遅角要求に応じた遅角補正量RRの算出タイミングにて、当該遅角補正量RRに応じた増量補正後の燃料噴射量に対応した噴射期間ETAUが算出される。
次に、燃料増量の初回であるか、つまりOT増量値EOTによる燃料増量を初めて実施するか否かが判定される(S350)。そして、燃料増量の初回であるときには(S350:YES)、遅角ガードカウンタRCが初期化される(S380)。
このステップS380で初期化される遅角ガードカウンタRCは、点火時期の遅角要求が有る期間内において、点火時期の遅角補正量RRを上記遅角ガード量RGで制限する点火の回数であって、本実施形態では、実質的に、点火時期の遅角を実施することなく保留する回数となっており、以下に説明する原理に基づいた値である。
すなわち、点火時期の遅角要求が生じてから、その遅角要求に応じた燃料のOT増量が開始されるまでの間は、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わない気筒が生じる。
そこで、本実施形態では、こうした燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒において、点火時期の遅角補正量を、遅角要求に応じた遅角補正量よりも少なくなるように制限することにより、上述した触媒70の過剰な温度上昇を抑えるようにしている。
より詳細には、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒では、遅角補正量RRを遅角ガード量RGにて制限することにより、遅角要求に応じて設定された遅角補正量RRの値を制限するようにしており、実質的には、点火時期の遅角補正を実施することなく保留するようにしている。
そして、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒の数、換言すれば、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される期間内でのエンジン1の点火回数が、上述の遅角ガードカウンタRCの初期値として設定される。
なお、こうした遅角ガードカウンタRCの初期値は、上記技術思想に基づいて適宜算出することができる。例えば、一例として、次のように算出することも可能である。
すなわち、点火時期の遅角要求後に最初に燃料噴射を開始する気筒について、その燃料噴射開始時期から当該気筒の最終点火時期算出時期(本実施形態では圧縮上死点前90°CA)までの間にエンジン1で実施される点火の回数を求めて、その求められた回数を遅角ガードカウンタRCの初期値とすることができる。なお、こうした回数は、例えば、以下のようにして算出することができる。
まず、点火時期の遅角要求後に最初に燃料噴射を開始する気筒について、その燃料噴射開始時期から当該気筒の最終点火時期算出時期までの間のクランク角の値である回転角CAPを求める。次に、この回転角CAPを各気筒間における点火間隔角度で除した値について、その小数点以下を切り捨てる。そして、その切り捨てた値に余裕代として「1」を加算した値を遅角ガードカウンタRCの初期値とする。
例えば、燃料噴射開始時期が「圧縮上死点前540°CA」であって、各気筒間における点火間隔角度が「120°CA」である場合には、「回転角CAP」は、「540−90=450」となり、「回転角CAPを各気筒間における点火間隔角度で除した値」は、「450/120=3.75」となる。そして、「除した値について、その小数点以下を切り捨てた値」は「3」になり、「切り捨てた値に余裕代として「1」を加算した値」は、「3+1=4」となる。従って、この一例の場合には、遅角ガードカウンタRCの初期値が「4」になる。
こうしてステップS360にて遅角ガードカウンタRCが初期化された後や、ステップS350にて燃料増量の初回ではないと判定されたとき(S350:NO)、つまり燃料増量が既に実施されているときや、ステップS370にて遅角ガード量RGが設定された後には、ステップS380以降の処理が行われる。
ステップS380では、遅角補正量RRを遅角ガード量RGで制限する遅角ガードの要求が有るか否かが判定される。このステップS380では、遅角ガードカウンタRCが「0」を超えているとき、つまり点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒が存在するときには、遅角ガードの要求が有ると判定される。
そして、遅角ガードの要求が有るときには(S380:YES)、遅角ガード処理が実行される(S390)。このステップS390では、上述したように、遅角ガード量RGによる遅角補正量RRの制限が実行されることにより、実質的には、点火時期の遅角補正が実施されることなく保留される。
この遅角ガード処理が実行された後、あるいは上記ステップS380において遅角ガードの要求がないと判定されるときには(S380:NO)、機関運転状態に基づいて設定される基本点火時期EABが遅角補正量RRの分だけ遅角補正されるとともに、他の各種補正も行われて最終点火時期EAOPが算出される(S400)。
そして、遅角ガードカウンタRCの減算処理が行われる(S410)。このステップS410では、現在の遅角ガードカウンタRCの値から「1」が減算されることにより、遅角ガードカウンタRCの更新が行われる。こうして更新された遅角ガードカウンタRCの値は、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒の残数、換言すれば、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測された期間内でのエンジン1の残りの点火回数を表す。
そして、遅角ガードカウンタRCの減算処理が行われると、本処理は一旦終了される。
次に、図5及び図6を参照して、上記制限処理の作用を説明する。なお、図5は、上記制限処理を実行しない場合の比較例であり、図6は、上記制限処理を実行した場合の一例である。
また、図5及び図6に示す例では、エンジン1がV型6気筒の内燃機関であって、一方のバンクに1番気筒#1、3番気筒#3、及び5番気筒#5が設けられており、他方のバンクに2番気筒#2、4番気筒#4、及び6番気筒#6が設けられている。各気筒間での点火間隔角度は「120°CA」であり、各気筒の点火順序は、「1番気筒#1→2番気筒#2→3番気筒#3→4番気筒#4→5番気筒#5→6番気筒#6」とされている。また、一例として、図6では、増量補正された燃料の噴射開始時期は「圧縮上死点前540°CA」となっている。
また、各気筒において1燃焼サイクル毎に噴射される燃料と、その噴射された燃料の点火時期との対応関係を示すために、「噴射(n)」にて噴射された燃料が、「○(一重丸)」または「◎(二重丸)」で示した点火(n)によって点火されるものとする。例えば、図5に示すように、1番気筒#1において、時刻t0からの噴射(1)にて噴射が開始された燃料は、時刻t2の「点火(1)」にて点火される。
なお、図5及び図6において、「○(一重丸)」で示す点火は、点火時期が遅角補正されていない点火を示し、「◎(二重丸)」で示す点火は、点火時期が遅角補正されている点火を示す。また、一点鎖線で示す噴射は、増量補正されていない噴射を示し、実線で示す噴射は、遅角補正量RRに応じたOT増量値EOTにより増量補正されている噴射を示す。
図5に示すように、この比較例では、時刻t1において、点火時期の遅角要求が生じた場合、その後、各気筒では、圧縮上死点前90°CA毎に、遅角要求に対応した最終点火時期EAOPの算出が行われる。また、先の図2に示したように、16ms毎にOT増量値EOTの算出が行われる。こうした比較例では、上述した制限処理が実行されないため、以下に説明する(A)及び(B)の不都合が生じる。
(A)図5に示すように、時刻t1において点火時期の遅角要求が生じた後でのOT増量値EOTの算出は、予め定められた時間周期(16ms)が到来した時点で行われる。従って、図5に示す例の場合には、時刻t1以降に最初に16msの周期が到来する時刻t3において、点火時期の遅角補正に応じたOT増量値EOTの算出が行われ、その直後の時刻t4における噴射(7)からOT増量が開始される。このように、予め定められた時間周期(16ms)が到来するまでOT増量値EOTの算出が行われないため、OT増量の開始が遅くなるという不都合が生じるおそれがある。
一方、上述した制限処理が実行される本実施形態では、図4のステップS330及びS340に示したように、各気筒毎の圧縮上死点前90°CAのタイミングで、OT増量値EOTの再計算と噴射期間ETAUの再計算が行われる。つまり、予め定められた時間周期(16ms)だけではなく、遅角要求に応じた点火時期の遅角補正量RRの算出タイミングにて、当該遅角補正量RRに応じた増量補正後の燃料噴射量が算出される。
従って、図6に示す例では、同じく時刻t1において点火時期の遅角要求が生じた場合、その直後の時刻(t1+A)における1番気筒#1での点火時期算出タイミングにおいて、遅角要求に応じた遅角補正量RRに対応するOT増量値EOTの算出が行われ、その後の時刻(t1+B)における噴射(5)からOT増量が開始される。この場合には、図5に示す例と比較して、OT増量の開始タイミングが2噴射分(すなわち噴射(7)→噴射(6)→噴射(5))早くなり、より早期に燃料の増量が開始される。
なお、各気筒において、圧縮上死点前90°CAのタイミング毎に、OT増量値EOTの再計算と噴射期間ETAUの再計算とを行う場合には、その再計算周期は、「120°CA」になる。例えば機関回転速度NEが「3000rpm」の場合、クランクシャフトが「120°CA」回転するのに要する時間は、「約6.7ms」であるため、16ms毎にOT増量値EOTを算出する場合と比較して、その算出周期は十分に短くなる。ちなみに、圧縮上死点前90°CAのタイミング毎に、OT増量値EOTの再計算と噴射期間ETAUの再計算とを行う場合には、機関回転速度NEが高くなるほど、その再計算周期は短くなっていく。
(B)図5に示すように、時刻t1において点火時期の遅角要求が生じた場合、先に説明したように、時刻t4における1番気筒#1での噴射(7)からOT増量が開始される。従って、噴射(7)よりも前の噴射、つまり、6番気筒#6での噴射(6)、5番気筒#5での噴射(5)、4番気筒#4での噴射(4)、3番気筒#3での噴射(3)、2番気筒#2での噴射(2)、及び1番気筒#1での噴射(1)では、燃料噴射量が増量されていない。従って、時刻t2における遅角要求後の最初の点火である点火(1)から点火時期の遅角補正を行ってしまうと、それら燃料噴射量が増量されていない各気筒では、遅角補正された点火時期に対して燃料噴射量の増量が間に合わずに不足してしまい、上述したような触媒70の温度上昇を招くといった不都合が生じるおそれがある。
一方、上述した制限処理が実行される本実施形態では、点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒については、当該気筒の点火時期の遅角補正量RRを遅角ガード量RGにて制限することにより、実質的には、点火時期の遅角補正を実施することなく保留するようにしている。
より具体的には、図6に示す例の場合、時刻t1において点火時期の遅角要求が生じると、その直後の時刻(t1+A)における1番気筒#1での点火時期算出タイミングにて、遅角ガードカウンタRCの初期化が行われる。これにより、点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒の数、換言すれば、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される期間内でのエンジン1の点火回数が設定される。
そして、時刻(t1+B)におけるOT増量の開始時には、遅角ガードカウンタRCが「4」にされる。そして、その後、各気筒において点火時期が算出されるタイミング毎に、遅角ガードカウンタRCは「1」づつ減算されていき、時刻t5において「0」になる。この時刻(t1+B)から時刻t5までの間は、点火時期の遅角補正が制限される期間であり、この遅角制限期間内に点火が行われる1番気筒#1、2番気筒#2、3番気筒#3、及び4番気筒#4では、点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合わない。そのため、それら点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合わない気筒での点火については、遅角補正量RRに対して遅角ガード処理が実行されることにより、点火時期の遅角補正は実施されることなく保留される。
そして、時刻t5以降の点火(5)では、その点火に先立った噴射(5)にてOT増量が行われており、点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合うようになっている。そのため、時刻t5以降の各気筒における点火については、遅角ガード処理が実行されることなく、遅角要求に応じた遅角補正量RRによる点火時期の遅角補正が実行される。
このように、本実施形態では、点火時期の遅角補正に対して燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒については、燃料噴射量の増量が間に合うようになるまで、当該気筒の点火時期の遅角補正は保留される。従って、上述したような触媒70の温度上昇が抑えられる。
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)点火時期の遅角補正量RRに応じて燃料噴射量を増量補正するに際して、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒については、その気筒の点火時期の遅角補正量RRを、遅角要求に応じた遅角補正量RRよりも少なくなるように制限している。
より詳細には、燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒については、燃料噴射量の増量が間に合うようになるまで、遅角補正量RRを遅角ガード量RGにて制限することにより、点火時期の遅角補正を保留するようにしている。
従って、燃料の増量が間に合わない気筒において点火時期の遅角補正による排気温度の上昇が抑えられるようになり、これにより点火時期遅角による触媒70の過昇温を抑えることができるようになり、例えば触媒70に対する熱害などを抑えることができるようになる。
(2)遅角要求に応じた点火時期の遅角補正量RRの算出タイミングにて、当該遅角補正量RRに応じた増量補正後の燃料噴射量を算出するようにしている。従って、遅角補正量RRが算出された後、予め定められた時間周期が到来した時点で、遅角補正量RRに応じた増量補正後の燃料噴射量を算出する場合と比較して、より早期に増量補正後の燃料噴射量が算出されるようになる。そのため、点火時期の遅角要求後において、燃料の増量開始タイミングを早めることができるようになり、点火時期の遅角補正に対して燃料の増量補正が間に合わない期間を短くすることができる。従って、上述したような点火時期の遅角補正量RRの制限をより早期に解除することも可能になる。
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、点火時期の遅角補正量RRを制限するに際して、その値を「0」、あるいは「0」に近い小さい値以下にすることにより、点火時期の遅角を実施することなく保留するようにした。この他、点火時期の遅角補正量RRを制限するに際して、遅角補正量RRの値をそうした「0」または「0」付近の値にするのでなく、少なくともそれら値よりも大きく、かつ遅角要求に応じて求められた遅角補正量RRよりも小さい値にて制限してもよい。この場合でも、点火時期の遅角補正に対して増量補正による燃料噴射量の増量が間に合わないと予測される気筒については、点火時期の遅角補正量RRが、本来の補正量よりも少なくなるため、燃料噴射量に対して点火時期の遅角量が多すぎることによる触媒70の温度上昇を抑えることができる。
・上述した制限処理の実行タイミングや最終点火時期の算出タイミングは、圧縮上死点前90°CAであったが、この他のクランク角タイミングに変更してもよい。
・触媒70の推定温度を機関回転速度NEや機関負荷率KL等に基づいて算出するようにしたが、機関運転状態に関連する他のパラメータに基づいて触媒70の推定温度を算出するようにしてもよい。例えば、排気温度を検出する排気温度センサを排気通路15に設け、その検出される排気温度に基づいて触媒70の推定温度を算出するようにしてもよい。また、触媒70の温度を直接検出するようにしてもよい。