図面を参照して、車両に適用されたエンジン制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジン制御装置は、図1に示す車載のエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジンの燃焼室26として機能する。
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
シリンダー19の頂面には、吸気を燃焼室26内に供給するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。また、吸気ポート11,排気ポート12の燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
シリンダー19の周囲には、その内部をエンジン冷却水が流通するウォータージャケット27が設けられる。エンジン冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット27とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
[1−2.吸気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には、吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルタ25が介装される。これにより、エアフィルタ25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
[1−3.検出系]
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサー31が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメーターであり、言い換えるとエンジン10の負荷(エンジン10に対する出力要求)に相関するパラメーターである。アクセル開度センサー31で検出されたアクセル開度APSの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
吸気通路24内には、吸気流量QINを検出するエアフローセンサー32が設けられる。吸気流量QINは、スロットルバルブ23を通過する実際の空気の流量に対応するパラメーターである。スロットルバルブ23からシリンダー19への吸気流には、いわゆる吸気遅れ(流通抵抗や吸気慣性によって生じる遅れ)が生じるため、ある時刻にシリンダー19に導入される空気の流量は、その時点でスロットルバルブ23を通過する空気の流量とは必ずしも一致しない。一方、本実施形態のエンジン制御装置1では、このような吸気遅れを考慮した吸気量の制御が実施される。エアフローセンサー32で検出された吸気流量QINの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
クランクシャフト17には、その回転角θCRを検出するエンジン回転速度センサー33が設けられる。回転角θCRの単位時間あたりの変化量(角速度ω)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー33は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。また、エンジン10が直列四気筒の場合の一点火は回転角θCRの半回転に対応する。したがって、エンジン回転速度センサー33は、エンジン10の点火回数IGを取得する機能を併せ持つ。ここで取得された実回転速度Ne及び点火回数IGの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。なお、エンジン回転速度センサー33で検出された回転角θCRに基づき、エンジン制御装置1の内部で実回転速度Ne及び点火回数IGを演算する構成としてもよい。
ウォータージャケット27、又は冷却水循環路上の任意の位置には、エンジン冷却水の温度(冷却水水温WT)を検出する冷却水温センサー34が設けられる。また、エンジン10のオイルパン、又はエンジンオイルの循環経路上の任意の位置には、エンジンオイルの温度(油温OT)を検出する油温センサー35が設けられる。これらの冷却水水温WT及び油温OTの情報はエンジン制御装置1に伝達され、エンジン10自体の機械的な損失分のトルク等を推定する際に用いられる。
[1−4.制御系]
この車両には電子制御装置として、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。以下、エンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムと呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置と呼ぶ。
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダー19に対して供給される空気量や燃料噴射量、各シリンダー19の点火時期を制御するものである。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23の開度などが挙げられる。
エンジン制御装置1で実施されるトルクベース制御では、制御操作に対する応答性が異なる二種類の制御、すなわち、低応答トルク制御と高応答トルク制御とがともに実施される。前者の低応答トルク制御は、例えばスロットルバルブ23の開度操作に代表される吸入空気量操作によってトルクを制御するものである。また、後者の高応答トルク制御は、例えば点火時期操作によってトルクを制御するものである。これらの各制御は応答性だけでなくトルクの調整幅も相違するため、車両の走行状態やエンジン10の運転状態に応じて適宜実施され、あるいは各制御による操作量が協調的に調整される。
また、本実施形態のトルクベース制御では、エンジン10に要求されるトルクとして、三種類の要求トルクを想定する。第一の要求トルクは運転者の加速要求に対応するものであり、第二の要求トルクは外部負荷装置からの要求に対応するものである。これらの要求トルクはともに、エンジン10に作用する負荷に基づいて算出されるトルクといえる。一方、第三の要求トルクは、エンジン10の実回転速度Neを目標アイドル回転速度に維持するアイドルフィードバック制御(アイドル制御)のためのものであり、エンジン10に外的な負荷が作用していないいわゆる無負荷状態であっても考慮される要求トルクである。
エンジン制御装置1は、低応答トルク制御と高応答トルク制御とのそれぞれについて、上記の三種類の要求トルクをエンジン10の運転条件に応じて自動的に切り換えながら、エンジン10が出力すべきトルクの目標値である目標トルクを演算し、その目標トルクが得られるように、燃料量や噴射時期,吸気量,点火時期等を制御する。
さらに、エンジン制御装置1は、車両の走行状態に応じて自動的に各シリンダー19への燃料供給を一時的にカットする燃料カット制御を実施する。ここでいう燃料カット制御とは、エンジン10の作動中に所定の燃料カット条件が成立したときに、少なくとも一つ以上の気筒においてインジェクター18から噴射される燃料の噴射量を減少させ、所定の復帰条件が成立したときに燃料供給を再開する制御である。燃料噴射量の減少率は、例えばエアフローセンサー32で検出された吸気流量QINに応じた燃料噴射量を基準として、0〜100%の範囲内で設定されうる。なお、燃料噴射量をゼロにした場合には、燃料カット制御の実施中におけるエンジンの燃焼トルクがゼロとなる。
以下、エンジン制御装置1で実施されるトルクベース制御のうち、燃料カット制御の前後に実施される高応答トルク制御の目標トルク(点火時期の演算に用いられる目標トルク)の算出手法について詳述する。また、本実施形態では、図示平均有効圧Pi(エンジン10の指圧線図に基づいて算出される仕事を行程容積で割った圧力値)を用いてトルクの大きさを表現する。つまり、本実施形態では、エンジン10で生じる力のモーメントのことだけでなく、エンジン10のピストン16の頂面に作用する平均有効圧(例えば、図示平均有効圧Piや正味平均有効圧Pe)で表現されたトルク相当量(トルクに対応する圧力)のことも便宜的に「トルク」と呼ぶ。
[2.制御構成]
図1に示すように、エンジン制御装置1の入力側には、アクセル開度センサー31,エアフローセンサー32,エンジン回転速度センサー33,冷却水温センサー34,油温センサー35が接続される。また、エンジン制御装置1の出力側には、トルクベース制御の制御対象である点火プラグ13,インジェクター18,スロットルバルブ23等が接続される。
このエンジン制御装置1には、要求トルク演算部2,目標トルク演算部3,燃料カット制御部4,開始前トルク演算部5,終了後トルク演算部6及び点火時期演算部7が設けられる。これらの要素の各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
[2−1.要求トルク演算部]
要求トルク演算部2(要求トルク演算手段)は、運転者から要求されるトルクと外部制御システムから要求されるトルクとを集約して、エンジン10への要求トルクを設定するものである。ここでは、四種類の要求トルク、すなわち、アクセル要求トルクPiAPS,アイドル目標トルクPiNeFB,点火制御用要求トルクPiEXT_SA,吸気制御用要求トルクPiEXTが演算される。
アイドル目標トルクPiNeFBは、エンジン10の実回転速度Neを目標アイドル回転速度に維持するのに要求されるトルクである。また、アクセル要求トルクPiAPSは、運転者から要求されているトルク(アクセルペダルの踏み込み操作量に応じたトルク)である。ここでは、アイドル目標トルクPiNeFB及びアクセル要求トルクPiAPSに基づいて、点火制御用要求トルクPiEXT_SAと吸気制御用要求トルクPiEXTとが演算される。
点火制御用要求トルクPiEXT_SAは、点火プラグ13の点火時期制御で用いられるトルクである。点火時期制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが短く、応答性の高い制御である。ただし、点火時期制御によって調整可能なトルクの幅は比較的小さい。一方、吸気制御用要求トルクPiEXTは、スロットルバルブ23の吸気量制御で用いられるトルクである。吸気量制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが長く、点火時期制御と比較して応答性にやや劣る制御である。ただし、吸気量制御によって調整可能なトルクの幅は、点火時期制御によるものよりも大きい。
要求トルク演算部2での演算プロセスを図2に例示する。この要求トルク演算部2には、アクセル要求トルク演算部2a,目標アイドル回転速度設定部2b,アイドル目標トルク演算部2c及び外部要求トルク演算部2dが設けられる。
アクセル要求トルク演算部2aは、運転者の運転操作によってエンジン10に要求されているトルクをアクセル要求トルクPiAPSとして演算するものである。ここではまず、実回転速度Neとアクセル開度APSとに基づいて、アクセル要求トルク瞬時値PiAPS0が演算される。このアクセル要求トルク瞬時値PiAPS0は、アクセルペダルの踏み込み操作に対して即時的に対応する大きさを持つトルクである。アクセル要求トルク演算部2aは、例えば予め設定された実回転速度Ne及びアクセル開度APSとアクセル要求トルク瞬時値PiAPS0との対応マップ,数式,関係式等に基づき、アクセル要求トルク瞬時値PiAPS0を演算する。
また、アクセル要求トルク瞬時値PiAPS0に時間遅れのフィルタ処理を施したものが、最終的なアクセル要求トルクPiAPSとして演算される。このフィルタ処理は、例えば一次遅れ処理や二次遅れ処理である。なお、外部負荷装置の作動状態に応じて、アクセル要求トルクPiAPSの大きさを変更する構成としてもよい。ここで演算されたアクセル要求トルク瞬時値PiAPS0及びアクセル要求トルクPiAPSの情報は、外部要求トルク演算部2d,目標トルク演算部3,開始前トルク演算部5及び終了後トルク演算部6に伝達される。
目標アイドル回転速度設定部2bは、エンジン10がアイドル運転状態のときの目標値となる回転速度を目標アイドル回転速度NeOBJ(いわゆるアイドル回転速度)として設定するものである。アイドル運転状態は、例えば車両の走行速度やアクセル開度APS,冷却水水温WT等に応じて判定される。また、目標アイドル回転速度NeOBJの値は、冷却水水温WTや油温OTや他の運転条件等に応じて設定される。なお、外部負荷装置の作動状態に応じて目標アイドル回転速度NeOBJの大きさを変更する構成としてもよい。ここで演算された目標アイドル回転速度NeOBJの情報は、アイドル目標トルク演算部2c,目標トルク演算部3及び開始前トルク演算部5に伝達される。
アイドル目標トルク演算部2cは、目標アイドル回転速度設定部2bで設定された目標アイドル回転速度NeOBJに対応するトルク(実回転速度Neを目標アイドル回転速度NeOBJに維持するために要するトルク)をアイドル目標トルクPiNeFBとして演算するものである。ここで演算されたアイドル目標トルクPiNeFBは、外部要求トルク演算部2d及び目標トルク演算部3に伝達される。
外部要求トルク演算部2dは、アイドル目標トルク演算部2cで演算されたアイドル目標トルクPiNeFBとアクセル要求トルク演算部2aで演算されたアクセル要求トルクPiAPSとをベースとして、外部制御システムから伝達される外部負荷装置からのトルク要求を加味した二種類の要求トルクを演算するものである。第一の要求トルクは点火制御用要求トルクPiEXT_SAであり、第二の要求トルクは吸気制御用要求トルクPiEXTである。これらの点火制御用要求トルクPiEXT_SA及び吸気制御用要求トルクPiEXTは、互いに独立して外部要求トルク演算部2d内で演算される。前者の要求トルクは高応答トルク制御用の要求トルクであり、後者の要求トルクは低応答トルク制御用の要求トルクである。ここで演算された各要求トルクは、ともに目標トルク演算部3に伝達される。
[2−2.目標トルク演算部]
目標トルク演算部3は、要求トルク演算部2で演算された各種要求トルクに基づき、二種類の制御目標としての目標トルクを演算するものである。ここでは、点火制御用目標トルクPiTGTと、吸気制御用目標トルクPiETV_STDとが演算される。スロットルバルブ23のスロットル開度や燃料噴射量は、ここで演算された吸気制御用目標トルクPiETV_STDに基づいて制御される。また、点火制御用目標トルクPiTGTは、開始前トルク演算部5及び終了後トルク演算部6で演算される制限トルクPiFCRと併せて、点火時期制御に用いられる。
目標トルク演算部3での演算プロセスを図3に例示する。目標トルク演算部3には、要求トルク演算部2で演算されたアイドル目標トルクPiNeFB,アクセル要求トルクPiAPS,点火制御用要求トルクPiEXT_SA及び吸気制御用要求トルクPiEXTが入力される。この目標トルク演算部3には、第一選択部3a,第二選択部3b及び吸気遅れ補正部3cが設けられる。
第一選択部3aは、点火制御用要求トルクPiEXT_SA,アクセル要求トルクPiAPS及びアイドル目標トルクPiNeFBのうちの何れか一つを点火制御用のトルクの目標値として選択するものである。また、第二選択部3bは、吸気制御用要求トルクPiEXT,アクセル要求トルクPiAPS及びアイドル目標トルクPiNeFBのうちの何れか一つを吸気制御用のトルクの目標値として選択するものである。これらの第一選択部3a,第二選択部3bは、例えば外部制御システムからのトルク要求の有無やエンジン10のアイドル運転の要否等といった情報に基づいて、点火時期制御,吸気量制御のそれぞれで目標とすべきトルク値を選択する。第一選択部3aで選択されたトルク値は点火制御用目標トルクPiTGTとして点火時期演算部7に伝達され、第二選択部3bで選択されたトルク値は吸気遅れ補正部3cに伝達される。
吸気遅れ補正部3cは、吸気量制御で用いられる目標トルクの算出に際し、スロットルバルブ23からシリンダー19までの吸気遅れに応じた補正演算を行うものである。ここでは、第二選択部3bで選択されたトルク値に対して時間遅れのフィルタ処理を施したものが、吸気制御用目標トルクPiETV_STDとして演算される。このフィルタ処理は、例えば一次遅れ処理や二次遅れ処理である。
ここで演算された吸気制御用目標トルクPiETV_STDの値は、図示しない吸気量制御部に伝達され、これに基づいて吸気量制御が実施される。例えば、吸気制御用目標トルクPiETV_STDに対応する空気量の目標値が演算されるとともに、その空気量をシリンダー19内に導入するためのスロットル開度やバルブリフト量,バルブタイミング等が演算され、スロットルバルブ23,吸気弁14,排気弁15等が制御される。
[2−3.燃料カット制御部]
燃料カット制御部4(燃料カット制御手段)は、エンジン10の燃料カットを実施するものである。ここでは、燃料カットに伴う燃焼トルクの変動を抑制するために、一般的な燃料カット制御に加えて、漸減制御と漸増制御とが併せて実施される。
漸減制御とは、エンジン10の点火時期を変化させたときの可燃限界に対応する下限トルクPiMINに向かって、点火制御用目標トルクPiTGTを徐々に減少させる制御であり、燃料カット制御の開始前に実施される。一方、漸増制御とは、点火制御用目標トルクPiTGTをアクセル要求トルクPiAPSに向かって徐々に漸増させる制御であり、燃料カット制御の終了後に実施される。これらの制御では、点火制御用目標トルクPiTGTの上限値を設定して点火制御用目標トルクPiTGTを減少させることにより、エンジン10の燃焼トルクを抑制する制御が実施される。以下、点火制御用目標トルクPiTGTの上限値として機能する値のことを「制限トルクPiFCR」と呼ぶ。
燃料カット制御部4では、漸減制御,燃料カット制御及び漸増制御の開始条件及び終了条件が判定される。漸減制御の開始条件は、例えば以下の条件1,条件2がともに成立し、かつ、条件3が成立することである。
条件1:エンジン10の実回転速度Neが第一速度Ne1以上である
条件2:アクセル開度APSがゼロである
条件3:条件1及び2の成立時からの点火回数IGが
所定点火回数IG1以上である
条件1は、燃料カットを実施したときにエンジン10の回転安定性が維持される程度の実回転速度Neであるかを判断するための条件である。第一速度Ne1は、少なくともアイドル回転速度NeOBJよりも高い回転速度とされる。また、条件2は、アクセルペダルの踏み込み操作が解除されたことを判断するための条件である。なお、アクセル開度APSを判定する代わりに、アイドルスイッチがオン状態であることを判定してもよい。
条件1及び条件2は、従来の一般的な燃料カット制御の開始条件に相当する。一方、本実施形態では、これらの条件が成立してから所定点火回数IG1に対応する時間が経過した時点から、漸減制御が開始される。所定点火回数IG1は、予め設定された定数としてもよいし、車速Vや実回転速度Ne等に応じて設定される変数としてもよい。また、漸減制御の終了条件は、以下の条件4が成立することである。
条件4:条件1及び2の成立時からの点火回数IGが
第二所定点火回数IG2(IG1≦IG2)以上である
この条件4は、燃料カット制御の開始条件でもある。第二所定点火回数IG2は、所定点火回数IG1と同様に、予め設定された定数としてもよいし、車速Vや実回転速度Ne等に応じて設定される変数としてもよい。なお、二つの所定点火回数IG1,IG2が同一値であるとき、実質的に漸減制御が実施されないことになるため、これらの大小関係をIG1<IG2とすることが好ましい。
燃料カット制御の終了条件は、例えば以下の条件5又は条件6が成立することである。これらの何れかの条件が成立したときに燃料カット制御が終了するとともに、漸増制御が開始される。
条件5:エンジン10の実回転速度Neが第二速度Ne2(Ne2<Ne1)未満である
条件6:アクセル開度APSがゼロでない
条件5は、条件1と同様に、エンジン10の回転安定性を考慮して設定される条件である。また、条件6は、条件2に対応するものであり、アクセルペダルが踏み込まれたことを判断するための条件である。アクセル開度APSを判定する代わりに、アイドルスイッチがオフ状態であることを判定してもよい。なお、漸増制御は制限トルクPiFCRがアクセル要求トルクPiAPSに一致するまで継続される。これらの値が一致した時点で漸増制御が終了し、通常の走行状態となる。
燃料カット制御部4は、漸減制御の開始条件が成立すると、開始前トルク演算部5に制御信号を出力して制限トルクPiFCRを演算させる。また、漸減制御の終了条件(燃料カット制御の開始条件)が成立すると、インジェクター18からの燃料噴射量を削減する(カットする)ための制御信号を出力する。さらに、燃料カット制御の終了条件(漸減制御の開始条件)が成立すると、インジェクター18からの燃料噴射を再開させるための制御信号を出力するとともに、開始前トルク演算部5に制御信号を出力して、制限トルクPiFCRを演算させる。
このような制御により、燃料カット制御の開始前には、開始前トルク演算部5で制限トルクPiFCRが演算され、これに基づいて点火プラグ13での点火時期が制御される。また、燃料カット制御の実施中は、燃料噴射量がカットされる。さらに、燃料カット制御の終了後には、燃料噴射が再開されるとともに終了後トルク演算部6で制限トルクPiFCRが演算され、これに基づいて点火時期が制御される。
[2−4.開始前トルク演算部]
開始前トルク演算部5(減算手段)は、燃料カット制御の開始前(漸減制御)における制限トルクPiFCRを演算するものである。制限トルクPiFCRは、燃料カット制御の突入時における点火制御用目標トルクPiTGTの上限値となるトルクであり、エンジン10の燃焼トルクを減少させて燃料カット開始時のトルク段差を小さくするように作用する。漸減制御では、基本的には制限トルクPiFCRの値が点火制御用目標トルクPiTGTよりも小さい値として演算されるため、制限トルクPiFCRに応じて点火時期の遅角量(リタード量)が制御されることになる。
点火時期の遅角量は、エンジン10が失火しない範囲内で設定される。一方、エンジン10の可燃限界に対応する点火時期は、その時点でのエンジン10の運転条件によって変化する。そこで、開始前トルク演算部5では、可燃限界に対応する下限トルクPiMINを演算し、制限トルクPiFCRをこの下限トルクPiMIN以上の範囲で、下限トルクPiMINに漸近させる制御を実施する。このとき、制限トルクPiFCRの値を必ずしも下限トルクPiMINに完全に一致させる必要はない。
図4に示すように、開始前トルク演算部5には、下限トルク演算部5a,制限トルク演算部5b及びトルク保持部5cが設けられる。
下限トルク演算部5a(下限トルク算出手段)は、その時点でのエンジン10の運転状態に基づき、下限トルクPiMINを演算するものである。ここでは、可燃限界に相当する運転状態におけるエンジン回転速度,吸気量,点火時期,燃料噴射量等に基づいて、下限トルクPiMINの値が設定される。冷却水水温WTや油温OTや他の運転条件等に応じて下限トルクPiMINの値を補正してもよい。ここで演算された下限トルクPiMINの値は、制限トルク演算部5bに伝達される。
制限トルク演算部5bは、漸減制御の開始時点で実際にエンジン10が出力しているトルクと下限トルクPiMINとに基づき、制限トルクPiFCRを演算するものである。まず、制限トルクPiFCRの初期値は、漸減制御が開始された時点でのアクセル要求トルクPiAPSと同一値に設定される。あるいは、その時点の点火制御用目標トルクPiTGTや後述する実目標トルクPiACT,又はこれらに相関する値を制限トルクPiFCRの初期値としてもよい。
続いて、制限トルク演算部5bは、制限トルクPiFCRが徐々に下限トルクPiMINに向かって漸減するように時間遅れのフィルタ処理を施して、制限トルクPiFCRの値を変化させる。このフィルタ処理は、例えば下限トルクPiMINに対する一次遅れ処理や二次遅れ処理であり、制限トルクPiFCRに乗じられるゲインを減少させつつ下限トルクPiMINに乗じられるゲインを増加させ、これらの加算値をフィルタ処理後の制限トルクPiFCRの値とする。ここで演算された制限トルクPiFCRの値は、点火時期演算部7に伝達される。
トルク保持部5c(保持手段)は、燃料カット制御を開始した時点の制限トルクPiFCRの瞬間値を保持するものである。すなわちここでは、上記の条件4が成立した時点での制限トルクPiFCRの値が保持トルクPiKEEPとしてメモリに保存される。保持トルクPiKEEPの値は、漸減制御の制御時間(漸減制御の開始時から条件4が成立するまでの時間)に応じて変化する。制御時間が十分に長ければ、保持トルクPiKEEPの値は下限トルクPiMINにほぼ一致する。一方、制御時間が短ければ、保持トルクPiKEEPの値は下限トルクPiMINよりも大きい値となる。何れにしても、保持トルクPiKEEPは少なくとも下限トルクPiMIN以上の値となり、かつ、漸減制御の制御時間が長引くほど下限トルクPiMINに近い値となる。ここで保持された保持トルクPiKEEPの値は、終了後トルク演算部6に伝達され、燃料カット制御の終了時点における制限トルクPiFCRの初期値となる。
なお、燃料カット制御の終了後の制限トルクPiFCRの初期値が小さいほど、エンジン10で発生する燃焼トルクが小さくなり、ショックが抑制される。一方、仮に制限トルクPiFCRの初期値が可燃限界を越えて過剰に小さく設定されると、エンジン10の燃焼安定性が低下し、失火に至る可能性が生じる。保持トルクPiKEEPはこのような不具合を回避して、エンジン10の燃焼安定性を確保するように機能するパラメーターである。
ただし、エンジン10の燃焼安定性が十分に高い運転状態のときには、例えば制限トルクPiFCRの初期値が可燃限界を越えて設定されたとしても不具合は生じにくい。したがって、トルク保持部5cは、エンジン10の燃焼安定性が十分に高い状態での燃料カット制御時には、保持トルクPiKEEPの値を破棄する。
トルク保持部5cによる保持トルクPiKEEPの値の保持条件は、例えば以下の通りである。燃料カット制御が実施されている間にこれらの条件の何れかが成立している限り、保持トルクPiKEEPの値が維持される。一方、これらの条件の全てが不成立になると、その時点で保持されていた保持トルクPiKEEPの値は破棄されてゼロにリセットされる。
条件7:冷却水水温WTが所定温度未満である
条件8:燃料カット制御が行われた気筒数が所定気筒数未満である
条件9:実回転速度Neが所定の回転速度範囲外にある
条件7の所定温度は、そのエンジン10での失火の発生確率と冷却水水温WTとの関係に基づいて設定される。例えば、エンジン10の冷態始動状態と温態始動状態とを判別するための温度(50[℃]程度)が所定温度として設定される。この場合、少なくとも冷却水水温WTが所定温度未満であれば、保持トルクPiKEEPの値が燃料カット制御の終了時まで保持される。
なお、本実施形態では特に言及していないが、冷態始動状態よりもさらに低温の極低温状態でないことを燃料カット制御の実施条件とする場合がある。例えば、冷却水水温WTが-10[℃]以下の極低温であるときには、燃料カット制御を禁止するというものである。この場合、保持トルクPiKEEPを保持するための温度条件は、燃料カット制御が実施される温度範囲の中で設定されることが好ましい。
条件8は、燃料カット制御の実施時間が極端に短い場合を想定して設けられた条件である。例えば、四気筒エンジンの場合であって、燃料カット制御が開始されてから数えて燃料カットが行われた気筒数が四未満の場合に該当する。このような場合、四気筒のうち少なくとも一つの気筒に対しては、燃料カット制御がまだ行われていないことから新気による掃気がなされておらず、燃焼による既燃ガスが残留していることとなる。そのような気筒は、通常の運転時と何ら異ならない可燃限界であるといえる。
そこで、燃料カット制御が行われた気筒数が所定数未満である間は、保持トルクPiKEEPの値を保持して可燃限界に相当する点火制御用目標トルクPiTGTを下回らないようにし、燃料カット制御終了時の燃焼安定性を向上させる。なお、条件8中の所定気筒数は、典型的にはエンジン10の気筒数以下の範囲で設定される。
条件9は、保持トルクPiKEEPの値を破棄するための回転速度条件に関するものである。条件9中の所定の回転速度範囲とは、制限トルクPiFCRの初期値をゼロに設定して大幅な点火時期の遅角をしたとしてもエンジン10の燃焼安定性が維持されるような安定した回転速度範囲である。実回転速度Neがこのような回転速度範囲内にある場合には、大幅な点火時期の遅角に起因するエンストの発生確率が極めて小さいものと判断し、保持トルクPiKEEPの値を破棄してゼロにリセットする。
[2−5.終了後トルク演算部]
終了後トルク演算部6(加算手段)は、燃料カット制御の終了後(漸増制御)における制限トルクPiFCRを演算するものである。ここで演算される制限トルクPiFCRは、点火制御用目標トルクPiTGTの増加勾配に制限をかけるためのトルクであり、アクセル要求トルクPiAPS(又はこれに相関するパラメーター)に向かって漸増するように制御される。ただし、点火制御用目標トルクPiTGTに対して過度に制限を加えると良好な応答性が得られなくなるおそれが生じる。そこで終了後トルク演算部6は、トルクショックを抑制しつつ良好な応答性を得るために、二種類の遅延トルクを演算した上で、これらの遅延トルクに基づいて制限トルクPiFCRを演算する。
終了後トルク演算部6での演算プロセスを図5に例示する。この終了後トルク演算部6には、第一遅延トルク演算部6a,第二遅延トルク演算部6b,選択部6c及び制限トルク演算部6dが設けられる。
第一遅延トルク演算部6aは、要求トルク演算部2で演算されたアクセル要求トルクPiAPSに対して遅れ処理を施した第一遅延トルクPiD1を演算するものである。ここでは、エンジン10の吸気応答遅れ以上に速い応答を与える時定数を用いて第一遅延トルクPiD1が演算される。この「時定数」は、スロットルバルブ23を通過した吸気がシリンダー19に到達するまでの遅延(いわゆる吸気遅れ)を模擬した吸気モデルの時定数以上に速い応答を与える時定数である。つまり、第一遅延トルクPiD1には、アクセル要求トルクPiAPSよりも、その値を変化させやすい特性が与えられる。なお、ここでいう吸気モデルの時定数には、例えば一次遅れモデルの時定数や二次遅れモデルの時定数等が含まれる。
具体的な第一遅延トルクPiD1の演算手法は任意であり、例えば、後述する制限トルク演算部6dから出力される制限トルクPiFCRの前回値(前回の演算周期での値)を取得し、これをアクセル要求トルクPiAPSに徐々に近づけるような演算を実施する。この場合、アクセル要求トルクPiAPSに乗じられるゲインを増加させつつ、制限トルクPiFCRの前回値に乗じられるゲインを減少させて、これらを加算したものを第一遅延トルクPiD1とする。ここで演算された第一遅延トルクPiD1の値は、選択部6cに伝達される。
第二遅延トルク演算部6bは、漸増制御時のエンジン10の燃焼トルクの上限値である第二遅延トルクPiD2を演算するものである。この第二遅延トルクPiD2は、第一遅延トルク演算部6aで演算された第一遅延トルクPiD1の増加勾配の最小値を与えるトルクである。例えば、第一遅延トルクPiD1の増加速度が過剰に緩慢であれば、エンジン10の燃焼トルクが過度に抑制された時間が長引くことになり、加速応答性が低下してしまう。そこで第二遅延トルク演算部6bは、許容される第一遅延トルクPiD1の最小増加勾配Xを設定し、その最小増加勾配Xに基づいて第二遅延トルクPiD2を演算する。最小増加勾配Xは、実回転速度Neとアクセル開度APSとに基づいて設定される。
具体的な第二遅延トルクPiD2の演算手法は任意であり、例えば、予め設定されたマップや数式等を用いて、実回転速度Ne及びアクセル開度APSから最小増加勾配Xを設定し、これを後述する制限トルク演算部6dから出力される制限トルクPiFCRの前回値(前回の演算周期での値)に加算したものを第二遅延トルクPiD2とする。ここで演算された第二遅延トルクPiD2の値は、選択部6cに伝達される。
選択部6cは、第一遅延トルクPiD1と第二遅延トルクPiD2とのうち、何れか大きい一方を選択し、その値を制限トルク演算部6dに伝達するものである。つまりここでは、第一遅延トルクPiD1の前回値から今回値までの増加勾配が最小増加勾配X以上であるときには、第一遅延トルクPiD1の今回値がそのまま選択される。一方、第一遅延トルクPiD1の前回値から今回値までの増加勾配が最小増加勾配X未満であるときには、前回値を始点として下限値の増加勾配で第一遅延トルクPiD1を増加させたときの値(第二遅延トルクPiD2の値)が選択値となる。したがって、第一遅延トルクPiD1がどのように変化したとしても、ここで選択される値は、少なくとも最小増加勾配Xよりも急勾配で増加する。
制限トルク演算部6dは、燃料カット制御部4から伝達された燃料カット制御の実施状態に関する情報に基づき、最終的な制限トルクPiFCRを設定するものである。ここでは、トルク保持部5cに保持されている保持トルクPiKEEPの値が、漸増制御の開始時点における制限トルクPiFCRの初期値として設定される。また、これ以降の演算周期では、選択部6cでの選択値が制限トルクPiFCRとして設定される。制限トルクPiFCRの初期値が保持トルクPiKEEPであることから、第一遅延トルクPiD1,第二遅延トルクPiD2の何れにも保持トルクPiKEEPの値が反映されることになる。ここで設定された制限トルクPiFCRの値は、点火時期演算部7に伝達される。
ただし、制限トルク演算部6dは、以下の条件10〜11が成立した場合には、制限トルクPiFCRの値を最大値PiMAXに設定し、実質的なトルク制限を解除するとともに漸増制御を終了させる。
条件10:アクセル要求トルク瞬時値PiAPS0が所定値以上である
条件11:制限トルクPiFCRがアクセル要求トルクPiAPS以上である
条件10は、アクセルペダルの踏み込み操作量が比較的小さい場合にのみ、トルク制限を加えることを定めた条件である。つまり、運転者による加速要求が大きい場合には制限トルクPiFCRが最大値PiMAXとなり、トルク制限が解除される。これにより、燃料カット制御の終了後における加速性を向上させている。また、条件11は、制限トルクPiFCRがアクセル要求トルクPiAPS以上となった時点でトルク制限を解除することを定めた条件である。
したがって、アクセルペダルが中程度の踏み込み量で踏み続けられていたとしても、制限トルクPiFCRがアクセル要求トルクPiAPSに追いついた時点で漸増制御が終了し、トルク制限が解除される。なお、条件11の判定は、制限トルクPiFCRとアクセル要求トルクPiAPSに相関するパラメーターとを比較するものであればよい。例えば、制限トルクPiFCRがアクセル要求トルク瞬時値PiAPS0以上となった時点で漸増制御を終了させてもよい。
[2−6.点火時期演算部]
点火時期演算部7(点火時期制御手段)は、目標トルク演算部3で演算された点火制御用目標トルクPiTGTと、終了後トルク演算部6で演算された制限トルクPiFCRとに基づいて、点火プラグ13の点火時期を制御するものである。点火時期演算部7での演算プロセスを図6に例示する。点火時期演算部7には、実充填効率演算部7a,MBT演算部7b,実トルク演算部7c,最小値選択部7d,点火指標演算部7e,リタード量演算部7f及び減算部7gが設けられる。
実充填効率演算部7aは、吸気流量QINに基づき、制御対象の気筒の実際の充填効率を実充填効率Ecとして演算するものである。ここでは、制御対象の気筒について、直前の一回の吸気行程(ピストンが上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にエアフローセンサー32で検出された吸気流量QINの合計から、制御対象の気筒に実際に吸入された空気量が演算され、実充填効率Ecが演算される。ここで演算された実充填効率Ecは、MBT演算部7b及び実トルク演算部7cに伝達される。
MBT演算部7bは、実充填効率演算部7aで演算された実充填効率Ec及び実回転速度Neに基づき、最大のトルクを発生させる最少進角点火時期(いわゆるMBT)を演算するものである。以下、点火時期を表す記号としてSAを用いる。また、点火時期SAのうちの最少進角点火時期を意味するときには、SAMBTと表記する。MBT演算部7bは、例えば図7に示すように、実充填効率Ec,点火時期SA及び理論空燃比で発生するトルクの対応関係を実回転速度Ne毎のマップや数式として記憶しており、これを用いて点火時期SAMBTを演算する。ここで演算された点火時期SAMBTは減算部7gに伝達される。なお、図7のグラフでは、実充填効率Ecが所定値Ec1であるときの点火時期SAMBTがSA1であり、実充填効率Ecが所定値Ec2であるときの点火時期SAMBTがSA2である。
実トルク演算部7cは、実充填効率演算部7aで演算された実充填効率Ecにて、制御対象の気筒で生じうる最大のトルク(すなわち、実充填効率Ecで点火時期をMBTに設定した場合に発生するトルク)を最大実トルクPiACT_MBTとして演算するものである。ここでいう最大実トルクPiACT_MBTは、図7中に示された各実充填効率Ecでのトルク変動グラフの最大値に対応する。実トルク演算部7cは、例えばMBT演算部7bに記憶されたこのようなマップや数式を用いて最大実トルクPiACT_MBTを演算する。図7のグラフでは、実充填効率Ecが所定値Ec1であるときの最大実トルクPiACT_MBTがPi1であり、実充填効率Ecが所定値Ec2であるときの最大実トルクPiACT_MBTがPi2である。ここで演算された最大実トルクPiACT_MBTは、点火指標演算部7eに伝達される。
なお、図7は、同一の燃焼条件(例えば、エンジン回転速度及び空燃比が一定の条件)において一定の実充填効率Ecで点火時期SAのみを変化させた場合に生成されるトルクの大きさをグラフ化し、異なる実充填効率Ecでのグラフを重ねて表示したものである。一定の実充填効率Ecでは、横軸の点火時期SAの変化に対して縦軸のトルクが上に凸の曲線となる。このグラフの頂点の座標に対応する点火時期がMBTであり、頂点の座標に対応するトルクが実トルクPiACT_MBTである。
また、実充填効率Ecが増加すると、気筒内に導入される空気量の増大によりトルクが増大するとともに燃焼速度(気筒内での火炎伝播速度)が上昇し、MBTは遅角方向へと移動する。実充填効率Ecが所定値Ec1である場合にMBTから所定値αだけ点火時期SAをリタードさせた際に得られるトルクをPi3とおき、実充填効率Ecが所定値Ec2である場合にMBTから所定値αだけ点火時期をリタードさせた際に得られるトルクをPi4とおくと、これらのトルク間には、(Pi3)/(Pi1) = (Pi4)/(Pi2) の関係が成立する。
最小値選択部7dは、点火制御用目標トルクPiTGTと制限トルクPiFCRとのうち、何れか小さい一方を点火時期制御の目標トルクとして選択するものである。ここで選択された一方のトルク値は、点火指標演算部7eに伝達される。したがって、終了後トルク演算部6で演算された制限トルクPiFCRが目標トルク演算部3で演算された点火制御用目標トルクPiTGTよりも大きくならない限り、制限トルクPiFCRが点火指標演算部7eに伝達される。
点火指標演算部7eは、最小値選択部7dで選択されたトルク値と実トルク演算部7cで演算された最大実トルクPiACT_MBTとの比Kpi(点火指標,点火効率係数)を演算するものである。ここでは、実際にエアフローセンサー32で検出された吸気流量QINに基づいて生成されうるトルクの大きさに対してどの程度の割合で点火制御用のトルクが必要なのかが演算される。ここで演算された比Kpiはリタード量演算部7fに伝達される。
リタード量演算部7fは、MBTを基準として、比Kpiに応じた大きさのリタード量R(点火時期の遅角量)を演算するものである。リタード量演算部7fは、例えば図8に示すように、比Kpiとリタード量Rとの対応関係を実回転速度Ne毎のマップや数式として記憶しており、これを用いてリタード量Rを演算する。なお、ここでいうリタード量RはMBTを基準としたものであり、比Kpi(0≦Kpi≦1)が1に近づくほどリタード量Rがゼロに近づく特性を持つ。また、リタード量Rは、例えば図8中に破線で示すように、実回転速度Neが大きいほど増大する特性を持つ。ここで演算されたリタード量Rは、減算部7gに伝達される。
なお、リタード量RはMBTを基準とした点火時期のずれ(時刻の相違量、ずれ時間、あるいは、これに対応する角度であってクランクシャフト回転角に対する位相のシフト量)の大きさを表す値である。また、図8に示すように、実回転速度Neが定まれば、リタード量Rは比Kpiの値に対応して一意に定められる。したがって、比KpiもMBTを基準とした点火時期の「ずれ量(進角量又は遅角量)」に対応する値といえる。
減算部7gは、リタード量演算部7fで演算されたリタード量Rに基づいて実行点火時期SAACTを演算するものである。ここでは、例えばMBT演算部7bで演算された点火時期SAMBTからリタード量Rが減算され、実行点火時期SAACTが演算される。ここで演算された実行点火時期SAACTは、最小値選択部7dで選択されたトルク値に対応するトルクを生じさせる点火時期である。点火時期演算部7は、制御対象の気筒に設けられた点火プラグ13がこの実行点火時期SAACTに点火するように制御信号を出力し、点火時期制御を実行する。
[2−7.制限トルクの保持条件]
上記のトルク保持部5cでの保持トルクPiKEEPの取り扱いに関して、冷却水水温WTとの関係を以下の表1に示す。また、表2は、燃料カット制御の実施時間(対象気筒数)との関係を示し、表3は、燃料カット制御中の実回転速度Neとの関係を示す。
[3.作用]
上記のエンジン制御装置1による漸減制御,燃料カット制御及び漸増制御について、図9(a)〜(d)を用いて説明する。図9(a)に示すように、車両走行中のアクセルペダルの踏み込み操作が緩められ、時刻t0に条件1及び条件2が成立すると点火回数IGの計測が開始される。また、時刻t0からの点火回数IGが所定点火回数IG1以上となった時刻t1には条件3が成立し、図9(b)に示すように、漸減制御が開始される。
漸減制御の開始時には、制限トルク演算部5bにおいて、制限トルクPiFCRの初期値がアクセル要求トルクPiAPSと同一値に設定される。つまり、時刻t1の時点で実際の点火時期制御で使用されている値が制限トルクPiFCRの初期値となるため、トルク制限の開始時のショックが抑制され、漸減制御への移行が円滑となる。また、下限トルク演算部5aでは、エンジン10の運転状態に基づき下限トルクPiMINが演算される。
時刻t1〜t2の区間では、図9(c)中に太実線で示すように、制限トルクPiFCRが徐々に下限トルクPiMINに向かって漸減するように制御される。これにより、燃料カット制御への突入前にエンジン10の燃焼トルクが低減され、トルクショックが抑制される。一方、時刻t0からの点火回数IGが第二所定点火回数IG2以上となった時刻t2には条件4が成立し、図9(b)に示すように、漸減制御が終了するとともに燃料カット制御が開始される。このとき、トルク保持部5cでは時刻t2の時点での制限トルクPiFCRの値が保持トルクPiKEEPとしてメモリに保存されるとともに、燃料カット制御の開始時からの点火回数IGの計測が開始される。
トルク保持部5cに保持された保持トルクPiKEEPは、条件7〜9の何れかが成立している限り燃料カット制御が終了するまで保持される。例えば、エンジン10が冷態始動状態であって冷却水水温WTが所定温度未満であるときには、保持トルクPiKEEPが保持される。この場合、図9(c)中に太実線で示すように、燃料カット制御中は保持トルクPiKEEPの値が一定となる。
また、時刻t4にアクセルペダルが踏み込まれると条件6が成立し、燃料カット制御が終了する。このとき、終了後トルク演算部6では、トルク保持部5cに保持されている保持トルクPiKEEPの値が制限トルクPiFCRの初期値として設定される。また、点火時期演算部7では、この制限トルクPiFCRに基づいて点火時期制御の目標トルクが設定され、リタード量Rが制御される。つまり、燃料カット制御の終了時点における目標トルクが燃料カット開始時点の目標トルクとほぼ同一になることから、エンジン10の失火の可能性が大幅に低減され、燃焼安定性が向上する。
図9(a)に示すように、アクセル開度APSが僅かに増加した状態が維持されると、エンジン10の実回転速度Neが徐々に上昇し、これに対応してアクセル要求トルク演算部2aで演算されるアクセル要求トルクPiAPSが徐々に増加する。また、終了後トルク演算部6では、アクセル要求トルクPiAPSに基づいて、第一遅延トルクPiD1及び第二遅延トルクPiD2が演算される。
第一遅延トルクPiD1は、アクセル要求トルクPiAPSに対して遅れ処理を施したものであるため、図9(c)中に破線で示すように、保持トルクPiKEEPを初期値として時刻t4から二点鎖線のグラフに追従するようにやや遅れて増加する。一方、第二遅延トルクPiD2により、第一遅延トルクPiD1の最小増加勾配Xが制限される。また、終了後トルク演算部6の選択部6cでは、第一遅延トルクPiD1と第二遅延トルクPiD2とのうち、何れか大きい一方が選択され、これが制限トルク演算部6dで最終的な制限トルクPiFCRとして設定される。
制限トルクPiFCRの変化勾配は、少なくとも第二遅延トルクPiD2の変化勾配以上の大きさとなる。したがって、図9(c)中に太実線で示すように、制限トルクPiFCRのグラフは、第一遅延トルクPiD1の変化勾配が大きい領域では第一遅延トルクPiD1に一致する。また、第一遅延トルクPiD1の変化勾配が小さくなり、第二遅延トルクPiD2の最小増加勾配X以下になると、制限トルクPiFCRは最小増加勾配Xで直線状に増加する。
その後、時刻t5に制限トルクPiFCRがアクセル要求トルクPiAPSに一致すると、漸増制御が終了してトルク制限が解除される。したがって、時刻t5以降は、アクセル要求トルク演算部2aで演算されたアクセル要求トルクPiAPSに基づいて点火時期が制御される。
図9(c)に示す制限トルクPiFCRの挙動は、保持トルクPiKEEPが燃料カット制御の終了時まで保持された場合のものである。これに対して、条件7〜9の全てが不成立となったときには、燃料カット制御中であっても保持トルクPiKEEPの値が破棄され、ゼロにリセットされる。
例えば、エンジン10が暖機状態であって冷却水水温WTが所定温度以上であり、かつ、実回転速度Neが所定の回転速度範囲内にあるときには、上記の条件7及び条件9が成立する。また、条件8は燃料カット制御が開始された時刻t2からの点火回数IGに基づいて判定可能である。したがって、燃料カットが行われた気筒数が所定気筒数以上となった時刻t3に条件7及び条件9が成立していれば、図9(d)中に太実線で示すように保持トルクPiKEEPの値がゼロに設定される。
一方、条件7及び条件9が成立する運転状態ではエンジン10の燃焼安定性が維持されるため、燃料カット制御終了時の失火や回転不良が回避される。また、図9(c)に示す場合とは異なり、漸増制御での制限トルクPiFCRの初期値がゼロとなることから、燃料カット制御からの復帰時におけるエンジン10の燃焼トルクが低減され、トルクショックがさらに抑制される。
[4.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、燃料カット制御の開始前に漸減制御を実施して、点火制御用目標トルクPiTGTを漸減させている。これにより、燃料カット制御への突入時のトルク段差を小さくすることができる。
また、燃料カット制御への突入時には制限トルクPiFCRの瞬間値が保持トルクPiKEEPとして保持される。これにより、燃料カット開始時点における目標トルクと燃料カット終了後の目標トルクの初期値とを同一とすることで、燃料カット開始前と燃料カット終了後とでトルク変動やショックを抑制し、運転フィーリングを向上させることができる。
また、同一となる燃料カット開始時点における目標トルクと燃料カット終了後の目標トルクの初期値とが、ともに可燃限界に対応する下限トルクPiMINよりも大きい値となるため、エンジン10の失火の可能性を低めることができ、エンジン10の作動状態の安定性を向上させることができる。
さらに、上記のエンジン制御装置1では、燃料カット制御の終了後に漸増制御を実施して、点火制御用目標トルクPiTGTを漸増させている。これにより、トルクの急変を抑制しつつ加速応答性を向上させることができる。また、吸気量及び点火時期の変化勾配の適合が不要であり、制御構成や適合工数を削減することができる。さらに、応答性の高い点火時期制御でトルクを制御しているため、燃料カット制御への突入の遅れや、燃料カット期間の減少を回避することができる。
このように、上記のエンジン制御装置1によれば、適合工数を増大させることなく、燃料カットに起因するトルク変動やショックを抑制することができるとともに、燃料カット期間の減少を回避することができ、運転フィーリングを向上させることができる。
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、表1に示すように、冷却水水温WTが所定温度未満のときに保持トルクPiKEEPの値が保持される。例えば、エンジン10が十分に暖まっていない状態での燃料カット制御時には、燃料カット制御が終了するまで保持トルクPiKEEPの値が保持される。したがって、エンジン10の燃焼安定性が低い場合や、失火の可能性が高い温度条件下であっても、燃料カット制御からの復帰時におけるエンジン10の失火の可能性を極めて小さくすることができる。
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、表2に示すように、燃料カット制御が行われた気筒数が所定数未満であるときに保持トルクPiKEEPの値が保持される。例えば、四気筒エンジンの場合であって、燃料カット制御が開始されてから数えて燃料カットが行われた気筒数が四未満の場合、その後の漸増制御では保持トルクPiKEEPの値が制限トルクPiFCRの初期値とされる。燃料カット制御がまだ行われていない気筒は新気による掃気がなされておらず、燃焼による既燃ガスが気筒内に残留しており、通常の運転時と何ら異ならない可燃限界の状態である。このように、四気筒のうちの少なくとも一つの気筒が可燃限界の状態であっても、保持トルクPiKEEPの値が保持されるため、保持トルクPiKEEPに対応する点火制御用目標トルクPiTGTを確保することができ、燃料カット制御からの復帰時におけるエンジン10の失火を回避することができる。
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、表3に示すように、実回転速度Neが所定速度範囲内にあるときには、保持トルクPiKEEPの値が破棄されてゼロにリセットされる。例えば、エンジン10の燃焼安定性が高い運転領域では、保持トルクPiKEEPの値が破棄され、漸増制御での制限トルクPiFCRの初期値がゼロに設定される。このように、大幅な点火時期の遅角に起因するエンストの可能性が小さい運転条件下では、制限トルクPiFCRの値を破棄することで、燃料カット制御からの復帰時のトルク段差をさらに小さくすることができ、トルクショックを低減させることができる。
一方、実回転速度Neが所定速度範囲外にあるときには、保持トルクPiKEEPの値が保持されるため、燃料カット制御からの復帰時におけるエンジン10の失火の可能性を低下させることができる。
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、図9(c)に示すように、漸減制御時の制限トルクPiFCRの値がエンジン10の可燃限界に対応する下限トルクPiMINに向かって漸減するように制御される。これにより、燃料カット制御への突入時における制限トルクPiFCRの値を少なくとも下限トルクPiMINよりも大きくすることができる。したがって、これに基づく漸増制御の開始時における失火や回転不良の可能性をさらに低減させることができる。
(6)なお、上記のエンジン制御装置1では、その時点でのエンジン10の運転状態に基づいて下限トルクPiMINが演算される。すなわち、下限トルク演算部5aにおいて、可燃限界に相当する運転状態におけるエンジン回転速度,吸気量,点火時期,燃料噴射量等に基づいて下限トルクPiMINの値が設定される。このように、実回転速度Neと目標アイドル回転速度NeOBJとに基づいて燃焼限界のトルクを演算することで、エンジン10の運転状態に適した大きさの下限トルクPiMINを演算することができ、エンジン10の失火の可能性をさらに低下させることができる。
(7)また、上記のエンジン制御装置1では、図9(c)に示すように、漸増制御時の制限トルクPiFCRの値がアクセル要求トルクPiAPS(又はこれに相関するパラメーター)に漸増するように制御されるため、運転者の加速要求に応じた燃焼トルクに制限トルクPiFCRを近づけることができ、運転フィーリングを向上させることができる。
一方、制限トルクPiFCRの初期値は、アクセル開度APSの大小に関わらず、燃料カット制御の開始時点における制限トルクPiFCRの瞬間値以下に設定されるため、エンジン10の回転安定性を維持しつつトルクショックを抑制することができる。
(8)また、上記のエンジン制御装置1では、燃料カット制御の前後で実施される漸増制御及び漸減制御において、点火制御用目標トルクPiTGTを使用しているため、高応答でのトルク制御が可能である。例えば、吸気制御用目標トルクPiETV_STDを増減させてスロットル開度,バルブリフト量,バルブタイミング等を制御する場合と比較して、エンジン10の失火をより確実に回避しつつ、燃料カット制御に起因するトルク変動やショックの抑制効果を高めることができ、運転フィーリングを向上させることができる。
[5.変形例]
上記のエンジン制御装置1で実施される燃料カット制御,漸増制御及び漸減制御の変形例は、多種多様に考えられる。例えば、上述の実施形態に記載された燃料カット制御,漸増制御及び漸減制御のそれぞれの開始条件や終了条件等は、実施の形態に応じて適宜変更してもよい。
また、上述の実施形態では、燃料カット制御への突入時,復帰時における点火リタード量Rに関する点火制御用目標トルクPiTGTの設定手法を例示したが、この制御を燃料カット制御の前後以外の状況に適用することも可能である。例えば、車両の加速時や変速操作によるトルクダウン時など、エンジン出力トルクが低下した後に急激に上昇するような運転状況で上記の制御を実施することで、効果的にトルクショックを緩和することができ、燃費やトルク応答性を改善することができる。
なお、低下した要求トルクが増大するときの差が大きいほど、あるいは、要求トルクの低下量が大きいほど(燃料カット時の場合を含み、要求トルクの絶対量が大きく低減された状態からのあらゆる復帰時を含む)、トルクショックの緩和効果をより高めることができる。
また、上述の実施形態では、点火制御用目標トルクPiTGTの上限値を与える制限トルクPiFCRの演算手法について詳述したが、上記の制御は点火時期制御だけでなく吸気量制御にも適用することができる。この場合、例えば上記の制限トルクPiFCRが吸気制御用目標トルクPiETV_STDの上限値を与えるような演算構成とすればよい。