JP5644733B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンに要求される要求トルクに基づいてエンジン出力を制御するエンジンの制御装置に関する。特に、エンジンの熱効率を用いて目標空気量を演算する制御装置に関する。
車両に搭載されたエンジンの制御手法の一つとして、エンジンに要求されるトルクの大きさを基準として吸入空気量や燃料噴射量,点火時期等を制御するトルクベース(トルクディマンド)制御が知られている。トルクベース制御では、例えばアクセル開度やエンジン回転速度に基づいてエンジンが出力すべきトルクの目標値が演算され、この目標トルクが得られるようにエンジンの運転状態が制御される。また、自動変速機やオートクルーズ装置,車両安定装置といった外部制御システムを搭載した車両では、各外部制御システムからエンジンへの出力要求がトルク値に換算されてエンジン制御装置(エンジンECU)内で一元化され、エンジンのトルク挙動が包括的に制御される。
従来、このトルクベース制御において、制御操作に対する応答性が異なる二種類の制御、すなわち、低応答トルク制御と高応答トルク制御とをともに実施するものが知られている。前者の低応答トルク制御は、例えば電子制御スロットルの操作に代表される吸入空気量操作によってトルクを制御するものである。また、後者の高応答トルク制御は、例えば点火時期操作や燃料噴射量操作によってトルクを制御するものである。これらの各制御は応答性だけでなくトルクの調整幅も相違するため、車両の走行状態やエンジンの運転状態に応じて適宜実施され、あるいは各制御による操作量が協調的に調整される。
例えば、特許文献1には、エアフローセンサーやインマニ圧センサーで検出されたエンジンの運転状態に基づき、スロットルバルブと点火プラグとを制御するトルクベース制御装置が記載されている。この技術では、吸気量制御部が吸入空気量を制御し、点火時期制御部が点火時期を制御している。
ところで、トルクベースの吸入空気量制御では、目標トルクを発生させるのに必要十分な燃焼反応を生じさせる量の空気がスロットルバルブを通過するように、スロットル開度を制御している。すなわち、目標トルクに基づいて筒内に導入すべき吸入空気量の目標値を演算し、吸気系の圧力条件や温度条件に応じた吸入空気の流体としての運動特性を考慮しつつ目標スロットル開度を演算して、実際のスロットル開度がその目標スロットル開度に一致するように、スロットルバルブに対して制御信号を出力している。このような手法を用いることで、目標トルクに対して吸入空気量を適切に調節することが可能となる。
一方、実際に筒内での燃焼反応に伴って生成されるエンジントルクは、筒内に吸入された空気量や混合気中の燃料量に応じて変化する。これは、吸入空気中の酸素濃度や燃焼のタイミング等によって、熱効率(筒内で発生した熱量のうちエンジンの機械的な仕事に変換されたエネルギーの割合)が変化するためである。そこで、近年のトルクベース制御では、スロットル開度の演算過程でエンジンの熱効率を算出し、この熱効率と目標トルクとを併用して正確に吸入空気量を演算する手法が採用されつつある。
典型的な熱効率の算出手法としては、各気筒における点火時期に基づいて算出する手法が知られている。例えば、点火時期とトルクとの関係を利用してその時点でのエンジントルクを算出し、これにエンジン回転速度の情報を加味することでエンジン出力(すなわち仕事率)を算出するものである。このように、実際のエンジンの運転状態に基づいてエンジン出力を精度よく推定することで、熱効率に対応する仕事量を把握することができ、正確な熱効率の値を演算することができる。
特開2009−281239号公報
しかしながら、各気筒における点火時期に基づく熱効率の算出手法では、エンジンの運転状態を遅滞なく把握することが難しい。例えば、一般的なトルクベースの点火時期制御では、エンジンの実際の運転状態に対応するセンサー検出値に基づいて点火時期が設定される。センサー検出値の具体例としては、吸気系に設けられた流量計で検出された実空気量や実充填効率が用いられる。上述の特許文献1に記載の技術においても、エアフローセンサーやインマニ圧(インテークマニホールド圧)センサーでの検出値に基づいて点火時期が設定されている。
一方、実空気量や実充填効率の値は、目標充填効率を実現するようにスロットルバルブ等を操作した結果として得られる値であり、その時点での目標充填効率に対して遅れて応答する。すなわち、センサー検出値に基づいて実空気量や実充填効率が検出されるのは、目標充填効率が演算された時点から所定の遅れ時間が経過した後となる。そしてこの所定の遅れ時間には、スロットルバルブに内蔵されたモーターの駆動遅れ時間や、スロットルバルブに伝達される制御信号を演算するまでにかかる演算時間が含まれる。
そのため、実空気量や実充填効率に基づいて設定された点火時期を用いて熱効率を算出したとしても、その熱効率の値は目標充填効率に対して遅延した値となる。これにより、点火時期制御によるトルク挙動と吸入空気量制御によるトルク挙動との間にずれが生じやすく、目標とするエンジン運転点への収束性が低下する場合がある。また、点火時期制御に対して吸入空気量制御が常にやや遅れた操作を加えることになるため、スロットルバルブの挙動が狙い通りになりにくく、吸入空気量制御の応答性や安定性を向上させにくいという課題もある。
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、トルクベース制御においてエンジンの運転点が変化する際に、目標とするエンジン運転点への収束性を向上させるべく、吸入空気量制御の制御応答性及び制御安定性を向上させたエンジンの制御装置を提供することである。
なお、これらの目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
(1)ここで開示するエンジンの制御装置は、エンジンの筒内に導入すべき空気量を算出するための目標点火時期を演算する目標点火時期演算手段と、前記目標点火時期に基づき、前記エンジンの熱効率を演算する熱効率演算手段と、前記熱効率に基づき、前記筒内に導入すべき空気量の目標値である目標空気量を演算する目標空気量演算手段とを備える。また、前記目標点火時期演算手段が、前記目標空気量演算手段において過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における前記目標点火時期を演算する。
ここでいう「エンジンの筒内に導入すべき空気量」は、エンジンの筒内へ導入される(導入された)空気の体積や質量、またはこれらに対応するパラメーターを含み、例えば充填効率や体積効率等を含む。
また、本件における「目標点火時期」は、点火プラグで実際に点火するための実行点火時期とは別個の点火時期であり、実行点火時期と同一の数値となる必要はない。すなわち「目標点火時期」は、実行点火時期の目標値という一般的な意味ではなく、目標空気量を算出するために必要な情報であって、目標運転点における点火時期を意味し、過去の目標空気量に基づいて演算される。
また「過去の目標空気量」とは、例えば前回の演算周期で得られた目標空気量や、二つ前の演算周期で得られた目標空気量等を含む。さらに「過去の目標空気量に基づく」とは、例えば目標空気量の前回値をそのまま用いることや、前回値及び前々回値の平均値を用いること等、過去の目標空気量に対して種々の演算を施したものを用いることを含む。
(2)また、前記過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における目標空燃比を演算する目標空燃比演算手段を備え、前記熱効率演算手段が、前記目標空燃比に基づき、前記エンジンの熱効率を補正することが好ましい。
前記目標空燃比演算手段で演算される前記目標空燃比は、目標空気量を算出するために必要な情報であって、目標運転点における空燃比を意味し、過去の目標空気量に基づいて演算される。
(3)また、前記過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における目標排気還流率を演算する目標排気還流率演算手段を備え、前記熱効率演算手段が、前記目標排気還流率に基づき、前記エンジンの熱効率を補正することが好ましい。
前記目標排気還流率演算手段で演算される前記目標排気還流率は、目標空気量を算出するために必要な情報であって、目標運転点における排気還流率を意味し、過去の目標空気量に基づいて演算される。
(4)また、前記目標点火時期演算手段が、直前の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の前記目標点火時期を演算することが好ましい。
(5)また、前記エンジンの筒内に導入された実空気量に基づき、点火プラグで実際に点火する時期に対応する実行点火時期を演算する実行点火時期演算手段を備えることが好ましい。例えば、前記目標空気量が変化する過渡運転時においては、前記目標点火時期演算手段が、前記実行点火時期とは独立に空気量演算用の前記目標点火時期を演算することが好ましい。
開示のエンジンの制御装置では、過去の演算周期で演算された目標空気量に基づいて現在の演算周期の時点における目標点火時期が演算され、この目標点火時期に基づいて演算された熱効率からエンジンの筒内に導入すべき目標空気量が演算される。このような演算により、目標空気量に対する実空気量の遅延時間の長短に関わらず、適切に吸入空気量を制御することができ、エンジンの運転点が変化する際に、目標とするエンジン運転点へ迅速かつ精度よく収束させることができる。また、熱効率を精度よく把握することが可能となり、吸入空気量制御の制御性を向上させることができる。
一実施形態に係るエンジンの制御装置のブロック構成及びこの制御装置が適用されたエンジンの構成を例示する図である。 本制御装置に係る制御用パラメーターの演算の流れを示す模式図である。 本制御装置の目標トルク演算部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の点火時期制御部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の目標充填効率演算部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の吸気量制御部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の目標点火時期演算部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の目標空燃比演算部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の目標EGR率演算部を例示するブロック構成図である。 本制御装置の熱効率係数演算部を例示するブロック構成図である。
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、図1に示す車載のガソリンエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジンの燃焼室26として機能する。
ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
シリンダー19の頂面には、吸入空気を燃焼室26内に供給するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。また、吸気ポート11,排気ポート12の燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる図示しない動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
シリンダー19の周囲には、その内部をエンジン冷却水が流通するウォータージャケット27が設けられる。エンジン冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット27とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
[1−2.吸排気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、各シリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルター25が介装される。これにより、エアフィルター25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
排気ポート12の下流側には、エキゾーストマニホールド30(以下、エキマニと呼ぶ)が設けられる。エキマニ30は各シリンダー19からの排気を合流させる形状に形成され、その下流側の図示しない排気通路や排気触媒装置等に接続される。
吸気通路24とエキマニ30との間は還流路40で接続され、その中途に冷却器29及び還流弁28が設けられる。還流路40は、いわゆるEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路であり、排気の一部を吸気通路24側へと再循環させるものである。図1中の還流路40は、一端が排気ポート12と近接する位置(エキマニ30)に接続され、他端がスロットルバルブ23よりも下流側(サージタンク21側)に接続されている。以下、還流路40を通って再び吸気側へ導入される排気ガスのことを、EGRガスとも呼ぶ。
冷却器29は、高温の排気ガスを冷却するための熱交換器(放熱器)である。また、還流弁28は、EGRガスの流量やEGRガスを吸気通路24側に導入するタイミングを調節する制御弁である。還流弁28の開度や開度を変更するタイミングは、エンジン制御装置1で制御される。
[1−3.検出系]
スロットルバルブ23の下流側には、圧力を検出するインマニ圧センサー31が設けられる。インマニ圧センサー31はスロットルバルブ23よりも下流側の吸気圧力(サージタンク21内の圧力)を下流圧PIMとして検出するものである。また、エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧センサー32が設けられる。
大気圧センサー32は大気の圧力(大気圧)PBPを検出するものである。大気圧PBPは、吸気通路24入口での圧力(エアフィルター25よりも上流側の圧力)としても取扱うことができる。したがって、大気圧PBPに基づいてスロットルバルブ23の上流圧PTHU(スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24内の圧力)を推定することも可能であり、スロットルバルブ23の上流側に圧力センサーを設けなくてもよい。
例えば、エンジン10の実回転速度Neや吸気流量QINに応じた吸気通路入口からスロットルバルブ23までの吸気系圧損値をエンジン制御装置1に予め記憶させておき、大気圧PBPから吸気系圧損値を減算することによってスロットルバルブ23の上流圧PTHUを得ることができる。
また、吸気通路24内には、吸気流量QINを検出するエアフローセンサー33が設けられる。吸気流量QINは、スロットルバルブ23を通過する空気の流量に対応するパラメーターである。スロットルバルブ23からシリンダー19への吸気流には、いわゆる吸気応答遅れ(流通抵抗や吸気慣性に由来する遅れ)が生じるため、ある時刻にシリンダー19に導入される空気の流量は、その時点でスロットルバルブ23を通過する空気の流量とは必ずしも一致しない。
また、上記の吸気応答遅れに加えて、スロットルバルブ23の動作には駆動遅れが生じる。この駆動遅れとは、スロットルバルブ23がエンジン制御装置1からの制御信号を受けた時点から、実際にスロットルバルブ23のスロットル開度が制御信号の指示通りの状態に変化し終わるまでにかかる時間である。さらに、エンジン制御装置1内での制御信号の演算時間も、スロットルバルブ23の駆動遅れ時間に含まれると考えることもできる。本エンジン制御装置1では、このようなスロットルバルブ23のさまざまな遅れの影響を考慮した吸入空気量制御を実施することで、エンジン運転点の収束性を高めている。
ウォータージャケット27又は冷却水循環路上の任意の位置には、エンジン冷却水の温度(冷却水温WT)を検出する冷却水温センサー34が設けられる。また、エンジン10のオイルパン又はエンジンオイルの循環経路上の任意の位置には、エンジンオイルの温度(油温OT)を検出するエンジン油温センサー36が設けられる。前記大気圧PBP及びこれらの冷却水温WT並びに油温OTは、無負荷損失(エンジン10自体に内在する機械的な損失等)やエンジン10の運転条件(環境条件)を把握するのに利用される。
クランクシャフト17には、その回転角を検出するエンジン回転速度センサー35が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量(角速度)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー35は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。なお、エンジン回転速度センサー35で検出された回転角に基づき、エンジン制御装置1の内部で実回転速度Neを演算する構成としてもよい。
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度APS)を検出するアクセル開度センサー37及び外気温ATを検出する外気温度センサー38が設けられる。アクセル開度APSは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応するものである。また、外気温ATは、スロットルバルブ23を通過する吸入空気の運動特性に関連するパラメーターである。
上記の各種センサー31〜38で取得(又は演算)された大気圧PBP,上流圧PTHU,下流圧PIM,吸気流量QIN,実回転速度Ne,油温OT,冷却水温WT,外気温AT,アクセル開度APSの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
[1−4.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。エンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムと呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置と呼ぶ。
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダー19に供給される空気量やEGR量,燃料噴射量、各シリンダー19の点火時期を制御するものである。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23及び還流弁28の開度などが挙げられる。
本トルクベース制御では、エンジン10に要求されるトルクとして、三種類の要求トルクを想定している。第一の要求トルクは運転者の加速要求に対応するものであり、第二の要求トルクは外部負荷装置からの要求に対応するものである。これらの要求トルクはともに、エンジン10に作用する負荷に基づいて算出されるトルクといえる。一方、第三の要求トルクは、エンジン10の実回転速度Neを目標回転速度に維持する回転フィードバック制御のためのものであり、エンジン10に負荷が作用していない無負荷状態であっても考慮される要求トルクである。これらの要求トルクは、エンジン10の運転条件に応じて自動的に切り換えられる。第二の要求トルクを吸気制御用と点火制御用とに分ける場合、エンジン10に要求されるトルクは四種類と取扱うこともできる。
以下、エンジン制御装置1で実施されるトルクベース制御のうち、エンジン10のシリンダー19に導入される吸気量に関する吸入空気量制御と、点火プラグ13での点火時期に関する点火時期制御とについて詳述する。吸入空気量の制御は、おもにスロットルバルブ23の開度調節によって実現される。
なお、本実施形態でトルクを表現するために用いる記号Piは、図示平均有効圧(エンジン10の指圧線図に基づいて算出される仕事を行程容積で割った圧力値)を意味し、ここでは図示平均有効圧Piを用いてトルクの大きさを表現している。本実施形態では、エンジン10で生じる力のモーメントのことだけでなく、エンジン10のピストン16に作用する平均有効圧(例えば、図示平均有効圧Piや正味平均有効圧Pe)で表現されたトルク相当量(トルクに対応する圧力)のことも便宜的に「トルク」と呼ぶ。
[2.制御の概要]
エンジン制御装置1で実施される吸入空気量制御及び点火時期制御のそれぞれの概要を、制御用パラメーター(以下、単にパラメーターと呼ぶ)の演算の流れに着目して説明する。
図2に示すように、本エンジン制御装置1の点火時期制御では、点火制御用目標トルクPiTGTを点火時期の調整によって確保すべきエンジントルクの目標値とする。この点火時期の目標値は、実際に点火プラグ13で点火を実行する点火時期であることから、実行点火時期SAACTと呼ぶ。一方、エンジン10の実際の運転状態に関するパラメーターとしては、エンジン10の実回転速度Neと吸気流量QINとを用いる。吸気流量QINは制御対象となるシリンダー19内に実際に導入された吸入空気量と相関するため、筒内の実空気量は吸気流量QINに応じた値となる。なお、本実施形態では、実空気量相当のパラメーターである実充填効率Ecを使用する。
吸入空気量が一定でありかつ回転数が一定であるとき、エンジン10で発生するトルクは実行点火時期SAACTの関数として表現される。したがって、実充填効率Ecと実回転速度Neが定まれば、出力したいエンジントルクに対応する実行点火時期SAACTを算出することが可能となる。このような手法を通して、点火制御用目標トルクPiTGTを得るために要求される実行点火時期SAACTの目標値を演算する。
これに対し、吸入空気量制御では、吸気制御用目標トルクPiETVをスロットルバルブ23の開度制御によって確保すべきエンジントルクの目標値とし、この吸気制御用目標トルクPiETVをエンジン10で発生させるのに必要十分な燃焼反応を生じさせる筒内空気量の目標値を算出する。本実施形態では、筒内空気量に相当するパラメーターである実充填効率Ecの目標値、すなわち目標充填効率EcTGTを使用する。
一方、筒内での燃焼反応に伴って生成されるエンジントルクは、エンジン10の熱効率に応じて変動する。そこで、目標充填効率EcTGTの演算過程で、エンジン10の熱効率を用いて吸気制御用目標トルクPiETVを標準条件(空燃比が理論空燃比で、吸入空気がEGRガスを含有せず、点火時期がMBTであるという燃焼条件)でのトルク値に換算し、換算後のトルクを用いて目標充填効率EcTGTを演算する。ここで用いる熱効率の値は、点火時期制御内で演算された実行点火時期SAACTに基づいて算出するのではなく、吸入空気量制御内で前回までの演算周期で演算された目標充填効率EcTGTに基づいて算出する。したがって、目標充填効率EcTGTは実行点火時期SAACTから独立して別個に演算される。
これは、点火時期制御内で演算された実行点火時期SAACTがエンジン10の実充填効率Ecに基づいて演算されたものであるからである。実充填効率Ecは、その値がエンジン10で実際に得られた時点よりも以前に算出された目標充填効率EcTGTに基づいてスロットルバルブ23が制御された結果として実測されたセンサー値に基づくものである。この目標充填効率EcTGTに対する実充填効率Ecの遅延時間には、これらのパラメーターの演算に係る時間や、スロットルバルブ23が目標充填効率EcTGTに対応する制御信号を受けてから実際にスロットル開度が動作を完了するまでの駆動遅れ時間等が含まれる。
そのため、実行点火時期SAACTに基づいて熱効率を算出すると、その熱効率に反映されたエンジン10の運転状態と、その熱効率を用いてこれから制御したいエンジン10の運転状態とが大きく乖離し、エンジンの運転点が変化する際に、目標とするエンジン運転点への収束性を低下させるおそれが生じてしまう。
そこで、本エンジン制御装置1では、吸入空気量制御内で演算された目標充填効率EcTGTを用いて熱効率Kpiを求め、これを新たに算出される目標充填効率EcTGTの値に反映させることとする。なお、本実施形態では、エンジン10の熱効率に相当するパラメーターとして、熱効率係数Kpiを用いる。
[3.制御装置構成]
図1に示すように、エンジン制御装置1の入力側には、インマニ圧センサー31,大気圧センサー32,エアフローセンサー33,冷却水温センサー34,エンジン回転速度センサー35,エンジン油温センサー36,アクセル開度センサー37及び外気温度センサー38が接続される。また、エンジン制御装置1の出力側には、トルクベース制御の制御対象である点火プラグ13,インジェクター18,スロットルバルブ23,還流弁28等が接続される。
このエンジン制御装置1には、目標トルク演算部2,点火時期制御部3,目標充填効率演算部4,吸気量制御部5,目標値演算部6及び熱効率係数演算部7が設けられる。これらの目標トルク演算部2,点火時期制御部3,目標充填効率演算部4,吸気量制御部5,目標値演算部6及び熱効率係数演算部7の各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
[3−1.目標トルク演算部]
目標トルク演算部2は、トルクベース制御に係る目標トルクを所定の演算周期で演算するものである。ここではまず、運転者から要求されるトルクや、外部制御システムから要求されるトルク等に基づいて、四種類の要求トルクが演算され、エンジン10の運転状態に即した目標トルクがこれらの四種類の要求トルクの中から目標トルクが選択される。四種類の要求トルクとは、アクセル要求トルクPiAPS、アイドル要求トルクPiNeFB、応答性の異なる二種類の要求トルク(点火制御用要求トルクPiEXT_SA,吸気制御用要求トルクPiEXT)である。
アイドル要求トルクPiNeFBは、アイドリング回転数を維持するために要求されるトルクであり、例えばアクセル開度APSや実回転速度Ne,インマニ20で発生した負圧(大気圧PBP−下流圧PIM),外気温AT,油温OT,冷却水温WT等に基づいて演算される。また、アクセル要求トルクPiAPSは、おもに運転者のアクセル操作に対応する要求トルクであり、すなわち加速要求に応えるためのトルクである。ここでは、アクセル開度APS及び実回転速度Neに基づいてアクセル要求トルクPiAPSが演算される。
点火制御用要求トルクPiEXT_SA及び吸気制御用要求トルクPiEXTは、外部負荷装置からの要求トルクであり、必要に応じて要求されているトルクをアクセル要求トルクPiAPSから切替えて用いられる。これらのうち、点火制御用要求トルクPiEXT_SAは、点火プラグ13での点火時期制御で用いられるトルクである。点火時期制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが短く、応答性の高い制御である。ただし、点火時期制御によって調整可能なトルクの幅は比較的小さい。
一方、吸気制御用要求トルクPiEXTは、スロットルバルブ23のスロットル開度調整による吸入空気量制御で用いられるトルクである。吸入空気量制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが長く、点火時期制御と比較して応答性にやや劣る制御である。ただし、吸入空気量制御によって調整可能なトルクの幅は、点火時期制御によるものよりも大きい。
これらの四種類の要求トルクを用いて、目標トルク演算部2は二種類の制御目標としての目標トルク、すなわち点火制御用目標トルクPiTGTと吸気制御用目標トルクPiETVとを演算する。
目標トルク演算部2での演算プロセスを図3に例示する。目標トルク演算部2には、第一選択部2a,第二選択部2b及び吸気遅れ補正部2cが設けられる。
第一選択部2aは、点火制御用要求トルクPiEXT_SA,アクセル要求トルクPiAPS及びアイドル要求トルクPiNeFBのうちの何れか一つを点火制御用のトルクの目標値として選択するものである。また、第二選択部2bは、吸気制御用要求トルクPiEXT,アクセル要求トルクPiAPS及びアイドル要求トルクPiNeFBのうちの何れか一つを吸気制御用のトルクの目標値として選択するものである。
これらの第一選択部2a,第二選択部2bは、例えば外部制御システムからのトルク要求の有無やエンジン10のアイドル運転の要否等といった情報に基づいて、点火時期制御,吸気量制御のそれぞれで目標とすべきトルク値を選択する。第一選択部2aで選択されたトルク値は、点火制御用目標トルクPiTGTとして点火時期制御部3に伝達される。一方、第二選択部2bで選択されたトルク値は、吸気遅れ補正部2cに伝達される。
吸気遅れ補正部2cは、吸気量制御で用いられる目標トルクの算出に際し、スロットルバルブ23からシリンダー19までの吸気遅れに応じた補正演算を行うものである。ここでは、第二選択部2bで選択されたトルク値に対して遅れ処理を施して吸気応答遅れを模擬したものが、吸気制御用目標トルクPiETVとして演算される。
具体的な吸気遅れ補正部2cでの遅れ処理の手法は、スロットルバルブ23の制御態様に応じて種々考えられる。例えば、入力されたトルク値に対して一次遅れ処理や二次遅れ処理を施すことによって、実現したいトルク変動の軌跡を生成してもよい。簡便な手法としては、吸気遅れ補正部2cからの出力値と吸気遅れ補正部2cへの入力値との差に所定のフィルター係数を乗じたものを、入力値に加算すればよい。また、可変動弁機構の作動状態(吸気弁14,排気弁15のバルブリフト量やバルブタイミング,オーバーラップ量等)に応じて吸気遅れ特性が変化する場合には、その作動状態に応じて吸気制御用目標トルクPiETVの変動を遅延させる演算を加えてもよい。ここで演算された吸気制御用目標トルクPiETVの値は、目標充填効率演算部4に伝達される。
[3−2.点火時期制御部]
点火時期制御部3(実行点火時期演算手段)は、目標トルク演算部2で演算された点火制御用目標トルクPiTGTに基づいて、所定の演算周期で点火時期制御を実施するものである。点火時期制御部3での演算プロセスを図4に例示する。点火時期制御部3には、実充填効率演算部3a,MBT演算部3b,実MBTトルク演算部3c,点火指標演算部3d,リタード量演算部3e及び減算部3fが設けられる。
実充填効率演算部3aは、スロットルバルブ23部を通過した吸気流量QINに基づき、実際の充填効率を実充填効率Ecとして演算するものである。充填効率とは、一回の吸気行程(例えば、ピストン16が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダー19内に充填される空気の体積を標準状態(25[℃],1[気圧])での気体体積に正規化したのちシリンダー容積VENGで除算したものである。ここでは、制御対象のシリンダー19について、直前の一回の吸気行程の間にエアフローセンサー33で検出された吸気流量QINの合計から、制御対象のシリンダー19に実際に吸入された空気量が演算され、実充填効率Ecが演算される。ここで演算された実充填効率Ecは、MBT演算部3b及び実MBTトルク演算部3cに伝達される。
MBT演算部3bは、実充填効率演算部3aで演算された実充填効率Ec及び実回転速度Neに基づき、最大のトルクを発生させるMBT点火時期(単にMBTとも呼ぶ;Minimum spark advance for Best Torque)を演算するものである。以下、点火時期を表す記号としてSAを用いる。また、点火時期SAのうちのMBT点火時期を意味するときには、SAMBTと表記する。MBT演算部3bは、例えば実充填効率Ec,点火時期SA及び理論空燃比で発生するトルクの対応関係を実回転速度Ne毎のマップや数式として記憶しており、これを用いてMBT点火時期SAMBTを演算する。ここで演算されたMBT点火時期SAMBTの値は、減算部3fに伝達される。
実MBTトルク演算部3cは、実充填効率演算部3aで演算された実充填効率Ec及び実回転速度Neで、制御対象のシリンダー19で生じうる最大のトルク(すなわち、実充填効率Ecで点火時期をMBTに設定した場合に発生するトルク)を最大実トルクPiACT_MBTとして演算するものである。実MBTトルク演算部3cは、例えばMBT演算部3bと同様のマップや数式を用いて最大実トルクPiACT_MBTを演算する。ここで演算された最大実トルクPiACT_MBTは、点火指標演算部3dに伝達される。
点火指標演算部3dは、目標トルク演算部2で演算された点火制御用目標トルクPiTGTと実MBTトルク演算部3cで演算された最大実トルクPiACT_MBTとの比を点火指標Kとして演算するものである。ここでは、エアフローセンサー33で検出された吸気流量QINに基づいて生成されうる最大のトルク対して点火制御用のトルクがどの程度の割合なのかが演算される。なお、本実施形態の点火指標演算部3dでは、最大実トルクPiACT_MBTを超えるような過剰な点火制御用目標トルクPiTGTが要求されても、点火時期がMBT点火時期SAMBTよりも進角することが生じないようにすべく、点火指標Kの値が1以下の範囲(0≦K≦1)でクリップされる。ここで演算された点火指標Kの値はリタード量演算部3eに伝達される。
リタード量演算部3eは、MBTを基準として、点火指標Kに応じた大きさのリタード量R(点火時期の遅角量)を演算するものである。リタード量演算部3eは、点火指標Kとリタード量Rとの対応関係を実回転速度Ne毎のマップや数式として記憶しており、このマップや数式を用いてリタード量Rを演算する。なお、ここでいうリタード量RはMBTを基準としたものであり、点火指標K(0≦K≦1)が1に近づくほどリタード量Rがゼロに近づく特性を持つ。また、リタード量Rは、実回転速度Neが大きいほど増大する特性を持つ。ここで演算されたリタード量Rは、減算部3fに伝達される。
減算部3fは、リタード量演算部3eで演算されたリタード量Rに基づいて実行点火時期SAACTを演算するものである。ここでは、例えばMBT演算部3bで演算されたMBT点火時期SAMBTからリタード量Rを減算したものが実行点火時期SAACTとして演算される。ここで演算された実行点火時期SAACTは、点火制御用目標トルクPiTGTに対応するトルクを生じさせる点火時期である。点火時期制御部3は、制御対象のシリンダー19に設けられた点火プラグ13がこの実行点火時期SAACTに点火するように制御信号を出力し、点火時期制御を実行する。
[3−3.目標充填効率演算部]
目標充填効率演算部4(目標充填効率演算手段)は、吸入空気量制御に用いられる目標充填効率EcTGTを所定の演算周期で演算するものである。目標充填効率EcTGTとは、制御対象のシリンダー19内に導入すべき目標空気量に対応する充填効率である。ここでは、エンジン10のその時点で目標とする運転点における熱効率を表す熱効率係数Kpiを用いて、吸気制御用目標トルクPiETVを発生させるために要する空気量に対応する充填効率が目標充填効率EcTGTとして演算される。
目標充填効率演算部4での演算プロセスを図5に例示する。目標充填効率演算部4には、標準条件吸気目標トルク演算部4a,変換係数演算部4b,トルク変換部4c及び記憶部4dが設けられる。
標準条件吸気目標トルク演算部4aは、目標トルク演算部2で演算された吸気制御用目標トルクPiETVを、標準条件でのトルク値に換算した標準条件吸気目標トルクPiETV_STDを演算するものである。ここでは、吸気制御用目標トルクPiETVを熱効率係数Kpiで除算したものが、標準条件吸気目標トルクPiETV_STDとして演算される。標準条件でのトルク値とは、空燃比が理論空燃比であってEGRガスを含まない吸入空気をMBTで点火した(熱効率係数KpiがKpi=1である)場合のトルク値を意味する。
また、熱効率係数Kpiとは、エンジン10の熱効率に相当するパラメーターであり、シリンダー19内での燃焼反応によって生じるトルクが標準条件で生じるトルクに対してどの程度の割合で減少または増加しているかを示す。
なお、熱効率係数Kpiの値は、後述する熱効率係数演算部7で演算されたものが用いられる。ここで演算された標準条件吸気目標トルクPiETV_STDの値は、変換係数演算部4bに伝達される。
変換係数演算部4bは、実回転速度Ne及び標準条件吸気目標トルクPiETV_STDに基づき、トルク値を充填効率(空気量)値に変換するための変換係数Zを演算するものである。変換係数演算部4bは、例えば実回転速度Ne及び標準条件吸気目標トルクPiETV_STDと変換係数Zとの関係をマップや数式として記憶しており、これを用いて変換係数Zを演算する。ここで演算された変換係数Zの値は、トルク変換部4cに伝達される。
トルク変換部4cは、標準条件吸気目標トルクPiETV_STDを変換係数Zで除算したものを目標充填効率EcTGTとして演算するものである。この目標充填効率EcTGTとは、標準条件吸気目標トルクPiETV_STDに対応する充填効率である。ここで演算された目標充填効率EcTGTの値は、記憶部4dに伝達される。
記憶部4dは、トルク変換部4cで演算された目標充填効率EcTGTを記憶するものである。ここでは、今回の演算周期で演算された目標充填効率EcTGTだけでなく、過去の演算周期で演算された目標充填効率EcTGTも併せて記憶される。ここに記憶される目標充填効率EcTGTの数は、今回値を除いて少なくとも一つ以上である。本実施形態では、目標充填効率EcTGTの今回値及び前回値の二つが記憶される場合を例示する。
これらの目標充填効率EcTGTのうちの今回値は、吸入空気量制御によってシリンダー19内に導入すべき空気量に対応する目標値として用いられる。一方、前回値は熱効率係数Kpiの演算に用いられる。以下、目標充填効率の前回値をEcTGT_PREと表記する。
[3−4.吸気量制御部]
吸気量制御部5は、目標充填効率演算部4で演算された目標充填効率EcTGTを用いて、所定の演算周期で吸入空気量制御を実施するものである。吸気量制御部5での演算プロセスを図6に例示する。吸気量制御部5には、目標筒内空気量演算部5a,吸気進み補償部5b,目標流量演算部5c,流速演算部5d及びスロットル開度演算部5eが設けられる。
目標筒内空気量演算部5aは、目標充填効率演算部4で演算された目標充填効率EcTGTを、シリンダー19内に導入される吸気流量(一回の吸気行程での空気量)の目標値Qccaに変換する演算を行うものである。ここでの変換に用いられるのは、目標充填効率EcTGTの今回値である。
上記の通り、充填効率は標準状態でのシリンダー19内の気体体積(単位行程あたりの体積)をシリンダー容積VENGで除算したものである。したがって、標準状態でのシリンダー19内の気体体積は、充填効率にシリンダー容積VENGを乗算することで算出される。
ここでは、例えば予め設定された目標充填効率EcTGTと目標値Qccaとの対応マップや数式等に基づいて目標値Qccaが求められる。なお、シリンダー19内に導入される吸気の圧力及び温度が標準状態と異なる場合を考慮して、吸気温度(外気温AT)や下流圧PIM(インマニ圧),吸気の密度等に応じて設定される補正係数を加味した目標値Qccaを演算してもよい。ここで演算された目標値Qccaの値は、吸気進み補償部5bに伝達される。
吸気進み補償部5bは、目標トルク演算部2の吸気遅れ補正部2cで施された遅れ処理とは逆の処理を施すものである。すなわち、吸気進み補償部5bに入力されるよりも以前の演算内容は、エンジン10の各シリンダー19でのトルクや空気量等に関するものであるのに対し、吸気進み補償部5b以降の演算内容は、スロットルバルブ23を通過する吸気に関するものとなる。ここでは、エンジン10やインマニ20,サージタンク21,スロットルバルブ23等に係る吸気特性に基づき、目標値Qccaに対して吸気遅れの逆演算(吸気進み演算)を施した第二目標値Qcca2が演算される。
なお、具体的な吸気進み演算の手法は任意である。例えば、目標値Qccaの過去の変化勾配が今回以降も維持されるものとみなして外挿値を演算する手法を採用することが考えられる。簡便な手法としては、目標値Qccaの前回値から今回値までの変化量に所定のフィルター係数を乗じたものを、今回値に加算すればよい。ここで演算された第二目標値Qcca2は目標流量演算部5cに伝達される。
目標流量演算部5cは、吸気進み補償部5bから伝達された第二目標値Qcca2に基づき、スロットルバルブ23を通過する吸気の目標流量QTH_TGTを演算するものである。第二目標値Qcca2は一回の吸気行程でスロットルバルブ23を通過させるべき空気量に対応する値である。そのため、ここでは実回転速度Neに基づいて第二目標値Qcca2の値が変換され、単位時間あたりの目標流量QTH_TGTが演算される。ここで演算された目標流量QTH_TGTは、スロットル開度演算部5eに伝達される。
流速演算部5dは、スロットルバルブ23を通過する吸入空気の流速Vを演算するものである。ここでは、スロットルバルブ23の上流圧PTHUに対する下流圧PIMの比(PIM/PTHU)に基づいて流速Vが演算される。流速演算部5dは、例えばスロットルバルブ23部の前後圧力比による流速Vの変化を規定するマップや数式等を用いて流速Vを演算する。ここで演算された流速Vは、スロットル開度演算部5eに伝達される。
スロットル開度演算部5eは、目標流量演算部5cで演算された目標流量QTH_TGTと流速演算部5dで演算された流速Vとに基づき、スロットルバルブ23の目標開口面積Sを演算するものである。目標開口面積Sは、例えば図6中に示すように、流速Vに臨界条件(流速Vが音速の条件)における質量流速MMACHを乗じた値で目標流量QTH_TGTを除算して求められる。質量流速MMACHは、温度による空気の密度変化を考慮して算入される値であり、例えば、外気温度センサー38で検出された外気温ATと上流圧PTHUとに基づいて設定される。
また、スロットル開度演算部5eは、スロットルバルブ23の実開口面積が目標開口面積Sと等しくなるように、スロットルバルブ23に対して制御信号を出力する。例えば、予め設定された目標開口面積Sと目標開度電圧ELとの対応マップや数式等に基づいて目標開度電圧ELが演算され、この目標開度電圧ELが制御信号としてスロットルバルブ23に出力される。目標開口面積Sと目標開度電圧ELとの関係は、スロットルバルブ23の構造,形状,種類等に応じて規定される。
その後、スロットルバルブ23がスロットル開度演算部5eからの制御信号を受けてスロットル開度を制御され、目標開口面積Sが実現される。この目標開口面積Sは、吸気制御用目標トルクPiETVに対応するトルクを生じさせる空気をシリンダー19に導入する開口面積であるといえる。このように、吸気量制御部5は、制御対象のシリンダー19で目標充填効率EcTGTが達成させるようにスロットル開度を制御して、吸入空気量制御を実行する。
[3−5.目標値演算部]
目標値演算部6は、制御目標とするエンジン10の現在の運転状態である運転点ではなく、目標充填効率演算部4で演算された目標充填効率EcTGTに対応する運転点における熱効率係数Kpiを算出するためのパラメーターを演算するものである。この目標充填効率EcTGTは,図5に示すように、実回転速度Ne及び吸気制御用目標トルクPiETVに基づいて演算された値である。したがって、エンジン回転速度及び出力トルクを横軸及び縦軸に配置した座標平面(いわゆるエンジン性能曲線グラフが描かれる平面)を用意して、エンジン10の運転点をこの座標平面上の点として定義すると、ここでいう「目標充填効率EcTGTに対応する運転点」の座標成分は、目標充填効率EcTGTが演算された時点での実回転速度Ne及び吸気制御用目標トルクPiETVに相当する。以下、このような目標充填効率EcTGTに対応する運転点のことを、目標運転点と呼ぶ。
目標値演算部6は、エンジン10の現在の運転状態を検出するセンサー値や実充填効率Ecに基づいて熱効率係数Kpiを算出するのではなく、目標充填効率EcTGTに基づいて熱効率係数Kpiを算出する。ここでは、熱効率係数Kpiの算出過程で三種類のパラメーターが演算される。図1に示すように、目標値演算部6には、目標点火時期演算部6A,目標空燃比演算部6B及び目標EGR率演算部6Cが設けられ、三種類のパラメーターがそれぞれの演算部で演算される。
なお、図5に示すように、熱効率係数Kpiは目標充填効率EcTGTの演算に用いられるパラメーターであり、熱効率係数Kpi及び目標充填効率EcTGTの演算プロセスが目標値演算部6を介してループすることになる。つまり、前回の演算周期で得られた目標充填効率EcTGT_PREが今回の熱効率係数Kpiの算出に用いられ、これに基づいて得られる今回の演算周期での目標充填効率EcTGTは、次回の演算周期で用いられる熱効率係数Kpiの算出に利用される。
[3−5−1.目標点火時期演算部]
目標点火時期演算部6A(目標点火時期演算手段)は、目標運転点における点火時期を目標点火時期SAMAIN_TGTとして演算するものである。この目標点火時期SAMAIN_TGTは、実際の点火時期制御では使用されないという点で、実行点火時期SAACTとは異なるものである。つまり、目標点火時期SAMAIN_TGTは熱効率係数Kpiを算出するための点火時期であり、シリンダー19内への吸入空気量を演算するための点火時期(吸入空気量制御用の便宜的な点火時期)である。
目標点火時期演算部6Aでの演算プロセスを図7に例示する。目標点火時期演算部6Aには、第一基本点火時期演算部61a,第二基本点火時期演算部61b,補間演算部62,環境条件補正部63,アイドル補正部64及び排気系補正部65が設けられる。
第一基本点火時期演算部61a,第二基本点火時期演算部61bはそれぞれ、目標充填効率の前回値EcTGT_PREと実回転速度Neとに基づき、第一点火時期A,第二点火時期Bを演算するものである。第一点火時期Aは、シリンダー19内の空気の充填効率が前回値EcTGT_PREであって高オクタン価の燃料(ハイオクガソリン)を使用した場合に、実回転速度Neを得るために要求される点火時期である。第一基本点火時期演算部61aには、例えば予め設定された実回転速度Neと目標充填効率EcTGTと第一点火時期Aとの対応マップや数式等が用意されており、この対応マップや数式等に基づいて第一点火時期Aが求められる。
一方、第二点火時期Bは、第一点火時期Aの算出過程における燃料条件を通常のオクタン価の燃料(レギュラーガソリン)に変更した場合の点火時期である。第二基本点火時期演算部61bには、例えば予め設定された実回転速度Neと目標充填効率EcTGTと第二点火時期Bとの対応マップや数式等が用意されており、この対応マップや数式等に基づいて第二点火時期Bが求められる。第一基本点火時期演算部61a,第二基本点火時期演算部61bで演算された第一点火時期A,第二点火時期Bのそれぞれの値は、補間演算部62に伝達される。
補間演算部62は、第一点火時期A及び第二点火時期Bをノック学習値KNで補間した補間点火時期Cを演算するものである。ノック学習値KNは、ガソリンのオクタン価に応じて変動するノック点に点火時期を適合させるための補正量を与える学習値であり、図示しないノック学習部で随時学習されている。図7中には、以下の式1に従って補間点火時期Cが演算されるものを例示する。なお、ノック学習値KNの定義域は0以上、1以下(0≦KN≦1)であり、その値が大きいほど点火時期を進角方向に移動させるような特性を持つ。
ノック学習値KNを用いて第一点火時期A及び第二点火時期Bの間を補間する演算を行うことで、その結果として得られる補間点火時期Cが、エンジン10に供給される実際の燃料のオクタン価に応じた点火時期となる。ここで演算された補間点火時期Cの値は、環境条件補正部63に伝達される。
Figure 0005644733
環境条件補正部63は、エンジン10の運転環境に関する環境条件に応じた点火時期の補正を加えるものである。ここでは、目標充填効率の前回値EcTGT_PRE,冷却水温WT及び外気温ATに基づいて設定された補正量が加算又は乗算されて、補間点火時期Cが補正される。具体的な補正手法は任意である。例えば、冷却水温WTや外気温ATが低いほどノッキングが発生しにくいため、補間点火時期Cを進角方向に移動させてもよい。ここで補正された補間点火時期Cの値は、アイドル補正部64に伝達される。
アイドル補正部64は、エンジン10のアイドル運転時の補正量を与えるものである。ここでは、エンジン10のアイドル条件が成立しているときに、アイドル条件が不成立のときよりも補間点火時期Cを遅角方向に移動させる補正量が与えられる。これにより、アイドル運転時のトルクリザーブ量を確保するためのリタード量に相当する点火遅角量が補間点火時期Cに反映される。ここで補正された補間点火時期Cの値は、排気系補正部65に伝達される。
排気系補正部65は、エンジン10の排気系に設けられる排気浄化装置や触媒装置から要求される点火時期補正を実施するものである。ここでは、冷態始動時の排気性能を向上させるための点火遅角量や、触媒装置を迅速に昇温させるための点火遅角量が与えられる。これらの遅角量が反映された補間点火時期Cの値は、目標点火時期SAMAIN_TGTとして熱効率係数演算部7に伝達される。
[3−5−2.目標空燃比演算部]
目標空燃比演算部6B(目標空燃比演算手段)は、目標運転点における空燃比を目標空燃比AFTGTとして演算するものである。この目標空燃比AFTGTは、実際の燃料制御では使用されないパラメーターであって、熱効率係数Kpiを算出するための空燃比であり、シリンダー19内への吸入空気量を演算するための空燃比(吸入空気量制御用の便宜的な空燃比)である。
目標空燃比演算部6Bでの演算プロセスを図8に例示する。目標空燃比演算部6Bには、第一基本空燃比演算部66a,第二基本空燃比演算部66b,補間演算部67,フィードバック補正部68及び排気系補正部69が設けられる。なお、図8では、目標空燃比AFTGTの代わりに目標空燃比係数KAF_TGTを演算するものを例示する。目標空燃比係数KAF_TGTは目標空燃比AFTGTに一対一で対応するパラメーターであり、理論空燃比を基準とした係数とする。すなわち、目標空燃比AFTGTがAFTGT=14.7であるときに、目標空燃比係数KAF_TGTがKAF_TGT=1をとるものとする。
第一基本空燃比演算部66a,第二基本空燃比演算部66bはそれぞれ、目標充填効率の前回値EcTGT_PREと実回転速度Neとに基づき、第一空燃比係数D,第二空燃比係数Fを演算するものである。第一空燃比係数Dは、シリンダー19内の空気の充填効率が前回値EcTGT_PREであって高オクタン価の燃料(ハイオクガソリン)を使用した場合に、実回転速度Neを得るために要求される空燃比に対応する係数である。第一基本空燃比演算部66aには、例えば予め設定された実回転速度Neと目標充填効率EcTGTと第一空燃比係数Dとの対応マップや数式等が用意されており、この対応マップや数式等に基づいて第一空燃比係数Dが求められる。
一方、第二空燃比係数Eは、第一空燃比係数Dの算出過程における燃料条件を通常のオクタン価の燃料(レギュラーガソリン)に変更した場合の空燃比に対応する係数である。第二基本空燃比演算部66bには、例えば予め設定された実回転速度Neと目標充填効率EcTGTと第二空燃比係数Eとの対応マップや数式等が用意されており、この対応マップや数式等に基づいて第二空燃比係数Eが求められる。第一基本空燃比演算部66a,第二基本空燃比演算部66bで演算された第一空燃比係数D,第二空燃比係数Eのそれぞれの値は、補間演算部67に伝達される。
補間演算部67は、前述の補間演算部62と同様に、第一空燃比係数D及び第二空燃比係数Eをノック学習値KNで補間した補間空燃比係数Fを演算するものである。ここで用いられるノック学習値KNは、補間演算部62で用いられるものと同一である。図8中には、以下の式2に従って補間空燃比係数Fが演算されるものを例示する。ノック学習値KNを用いて第一空燃比係数D及び第二空燃比係数Eの間を補間する演算を行うことで、その結果として得られる補間空燃比係数Fが、エンジン10に供給される実際の燃料のオクタン価に応じた空燃比の係数となる。ここで演算された補間空燃比係数Fの値は、フィードバック補正部68に伝達される。
Figure 0005644733
フィードバック補正部68は、エンジン10の空燃比フィードバック運転時の補間空燃比係数Fの値をF=1に設定するものである。一般に、空燃比フィードバック運転時には、燃焼室26内において混合気が燃焼した結果の燃焼ガスが理論空燃比での燃焼相当になるように燃料噴射量が自動的に調節される。一方、補間空燃比係数Fの値も理論空燃比を基準とした係数であることから、ここでは空燃比フィードバック運転時の補間空燃比係数Fの値がF=1に設定され、排気系補正部69に伝達される。また、空燃比フィードバック運転時でないときには、補間演算部67で演算された補間空燃比係数Fの値がそのまま排気系補正部69に伝達される。
排気系補正部69は、エンジン10の排気系に設けられる排気浄化装置や触媒装置から要求される空燃比補正を実施するものである。ここでは、例えば燃焼後の排気中の酸素濃度をやや高める(燃料濃度を低下させる)ことで触媒装置を迅速に昇温させ未燃ガス成分の排出を減少させるための空燃比補正量が与えられる。この補正量が反映された補間空燃比係数Fの値は、目標空燃比係数KAF_TGTとして熱効率係数演算部7に伝達される。
[3−5−3.目標EGR率演算部]
目標EGR率演算部6C(目標排気還流率演算手段)は、目標運転点におけるEGR率(排気還流率)を目標EGR率REGR_TGTとして演算するものである。目標EGR率REGR_TGTは、実際のEGR制御では使用されないパラメーターであって、熱効率係数Kpiを算出するためのEGR率であり、シリンダー19内への吸入空気量を演算するためのEGR率(吸入空気量制御用の便宜的なEGR率)である。
目標EGR率演算部6Cでの演算プロセスを図9に例示する。目標EGR率演算部6Cは、目標充填効率の前回値EcTGT_PREと実回転速度Neとに基づき、目標EGR率REGR_TGTを演算する。ここでは、前述の第一基本点火時期演算部61aや第一基本空燃比演算部66aと同様に、予め設定されたマップや数式等に基づいて目標EGR率REGR_TGTが求められる。ここで得られた目標EGR率REGR_TGTの値は、熱効率係数演算部7に伝達される。
[3−6.熱効率係数演算部]
熱効率係数演算部7(熱効率演算手段)は、目標値演算部6で演算された目標点火時期SAMAIN_TGT,目標空燃比係数KAF_TGT(目標空燃比AFTGT)及び目標還流率係数REGR_TGT(目標還流率EGRTGT)に基づいて、熱効率係数Kpiを演算するものである。ここでは、目標運転点における点火時期のMBTからのリタード量に応じた大きさの熱効率係数Kpiが演算されるとともに、目標空燃比係数KAF_TGT及び目標還流率係数REGR_TGTでこれが補正され、最終的な熱効率係数Kpiが演算される。ここで演算された熱効率係数Kpiは、前述の目標充填効率演算部4の標準条件吸気目標トルク演算部4aに入力され、次回の演算周期での吸入空気量制御で使用される。
熱効率係数演算部7での演算プロセスを図10に例示する。熱効率係数演算部7には、第二MBT演算部71,第二減算部72,熱効率係数演算部73,当量比効率係数演算部74,EGR効率係数演算部75及び乗算部が設けられる。
第二MBT演算部71は、目標充填効率の前回値EcTGT_PREと実回転速度Neとに基づき、目標運転点における目標MBT点火時期SAMBT_TGTを演算するものである。ここでは、例えばMBT演算部3bと同一のマップや数式等に基づいて目標MBT点火時期SAMBT_TGTが演算される。目標MBT点火時期SAMBT_TGTは、実回転速度Neで前回値EcTGT_PRE分の空気がシリンダー19内に吸入されたときに最大のトルクを発生させる点火時期を意味する。ここで演算された目標MBT点火時期SAMBT_TGTの値は、第二減算部72に伝達される。
第二減算部72は、目標点火時期演算部6Aで演算された目標点火時期SAMAIN_TGTを目標MBT点火時期SAMBT_TGTから減じた減算値ΔSAを演算するものである。この減算値ΔSAは、目標MBT点火時期SAMBT_TGTを基準とした目標点火時期SAMAIN_TGTのリタード量に相当する。ここで演算された減算値ΔSAは熱効率係数演算部73に伝達される。
熱効率係数演算部73は、減算値ΔSAと実回転速度Neとに基づき、熱効率係数Kpiを演算するものである。熱効率係数演算部73は、減算値ΔSA及び実回転速度Neと熱効率係数Kpiとの関係をマップや数式として記憶しており、これを用いて熱効率係数Kpiを演算する。減算値ΔSAは目標MBT点火時期SAMBT_TGTからのリタード量に相当する値である。また、MBTからのリタード量が一定であるとき、MBT時を基準とした点火リタードによるトルクの低減率は、空気量の大小に関わらず一定である。したがって、減算値ΔSA及び実回転速度Neに基づけば熱効率係数Kpiを一意に求めることができる。ここで演算された熱効率係数Kpiの値は乗算部76に伝達される。
当量比効率係数演算部74は、目標空燃比演算部6Bで演算された目標空燃比係数KAF_TGTに基づき、当量比効率係数Kpi_AFを演算するものである。当量比効率係数Kpi_AFは、熱効率係数演算部73で演算された熱効率係数Kpiを補正するための補正係数の一つである。当量比効率係数演算部74は、目標空燃比係数KAF_TGTと当量比効率係数Kpi_AFとの関係を予めマップや数式として記憶しており、これを用いて当量比効率係数Kpi_AFを演算するとともに、その値を乗算部76に伝達する。
同様に、EGR効率係数演算部75は、目標EGR率演算部6Cで演算された目標EGR率REGR_TGTに基づき、EGR効率係数Kpi_EGRを演算するものである。EGR効率係数演算部75は、目標EGR率REGR_TGTとEGR効率係数Kpi_EGRとの関係を予めマップや数式として記憶しており、これを用いてEGR効率係数Kpi_EGRを演算するとともに、その値を乗算部76に伝達する。
乗算部76は、熱効率係数演算部73で演算された熱効率係数Kpiに対して、当量比効率係数演算部74で演算された当量比効率係数Kpi_AFとEGR効率係数演算部75で演算されたEGR効率係数Kpi_EGRとを乗じたものを、最終的な熱効率係数Kpiとして演算するものである。この熱効率係数Kpiは、エンジン10の目標運転点における熱効率係数Kpiである。ここで演算された熱効率係数Kpiは、目標充填効率演算部4に伝達される。
[4.作用,効果]
このように、本実施形態のエンジン制御装置1によれば、以下のような作用,効果が得られる。
(1)上記のエンジン制御装置1では、前回の演算周期で演算された目標充填効率EcTGT_PREに基づいて現在の演算周期の目標点火時期SAMAIN_TGTが演算され、この目標点火時期SAMAIN_TGTに基づいて演算された熱効率Kpiからシリンダー19内に導入すべき吸入空気量が演算される。このような演算により、目標充填効率EcTGTに対する実充填効率Ecの遅延時間の長短に関わらず、適切に吸入空気量を制御することができ、エンジンの運転点が変化する際に、目標とするエンジン運転点へ迅速かつ精度よく収束させることができる。
また、このような遅延時間によらない安定した吸入空気量制御が期待できることから、駆動遅れ時間の比較的大きい安価な電子制御のスロットルバルブ23を用いたとしても制御応答性や制御安定性を確保することができ、製品コストを削減しつつ機能性を高めることができる。
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の目標運転点における目標点火時期SAMAIN_TGTだけでなく、目標空燃比AFTGTに対応する目標空燃比係数KAF_TGTが演算される。これにより、燃料のオクタン価がエンジン10の熱効率に与える影響が考慮された熱効率係数Kpiを演算することが可能となる。したがって、吸入空気量の制御精度をより向上させることができ、エンジンの運転点が変化する際に、目標とするエンジン運転点への収束性を高めることができる。
(3)さらに、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の目標運転点における目標還流率EGRTGTに対応する目標還流率係数REGR_TGTが演算される。これにより、EGRガスの還流量に応じた熱効率変化を加味した熱効率係数Kpiを演算することが可能となる。したがって、吸入空気量の制御精度をさらに向上させることができ、エンジンの運転点が変化する際に,目標とするエンジン運転点への収束性を高めることができる。
(4)また、上記のエンジン制御装置1の目標点火時期演算部6Aでは、目標充填効率の前回値EcTGT_PREに基づいて目標運転点での目標点火時期SAMAIN_TGTが演算されるため、目標充填効率演算部4での演算と目標点火時期演算部6Aでの演算とを連続して実行することができる。これにより、演算に係るタイムラグを解消することができ、エンジンの運転点が変化する際の熱効率変化を吸入空気量制御に最大限に反映することができ、運転点の変化に対するスロットルレスポンスを高めることができる。
(5)また、従来のトルクベース制御では、図2中に破線で示すように、点火時期制御で演算された実充填効率Ec(実空気量)の情報が吸入空気量制御に対して遅れて影響を及ぼす演算構成となっていたが、上記のエンジン制御装置1では、点火時期制御と吸入空気量制御とが互いに独立して実施される。これにより、制御上のコンフリクトが発生しにくくなる結果、エンジンの制御性を向上させることができる。
[5.変形例]
上記のエンジン制御装置10で実施される制御の変形例は、多種多様に考えられる。例えば、上述の実施形態では、吸入空気量制御と点火時期制御とを実施するトルクベース制御を例示したが、これらに加えて点火時期制御やEGR量制御,可変動弁機構制御等を同時に実施する構成としてもよい。
また、上述の実施形態では、目標充填効率の前回値EcTGT_PREに基づいて熱効率係数Kpiを演算するものを例示したが、このような構成の代わりに、前々回の演算周期で演算された目標充填効率EcTGTに基づいて熱効率係数Kpiを演算してもよいし、あるいは、目標充填効率EcTGTの前回値及び前々回値の平均値等を用いて熱効率係数Kpiを演算してもよい。少なくとも過去の演算周期で演算された目標空気量に対応するパラメーターを用いて熱効率係数Kpiを演算すればよい。どの程度過去の目標空気量の値を用いるかは、吸入空気量の制御操作に要求される応答性や安定性等に応じて適宜変更することができる。また、動作速度が高速な電子制御装置を採用する場合や、駆動遅れ時間の長いスロットルバルブ23を採用する場合には、それらの動作速度,応答速度に応じて、最適な演算手法を選択すればよい。
また、上述の実施形態では、空気量相当のパラメーターである目標充填効率EcTGTを用いて熱効率係数Kpiを演算するものを例示したが、目標充填効率EcTGTの代わりに筒内空気量(質量,体積)や体積効率等を用いてもよいし、熱効率係数Kpiの代わりに熱効率やこれに相関するパラメーターを用いてもよい。
また、上述の実施形態では、熱効率係数Kpiを演算するために目標充填効率EcTGTと実回転速度Neとを用いたものを例示したが、実回転速度Neに代えて、エンジン回転速度の変化分を見込んだ予測エンジン回転速度を用いてもよい。
1 エンジン制御装置
2 目標トルク演算部
3 点火時期制御部(実行点火時期演算手段)
4 目標充填効率演算部(目標充填効率演算手段)
5 吸気量制御部
6 目標値演算部
6A 目標点火時期演算部(目標点火時期演算手段)
6B 目標空燃比演算部(目標空燃比演算手段)
6C 目標EGR率演算部(目標排気還流率演算手段)
7 熱効率係数演算部(熱効率演算手段)
EcTGT 目標充填効率
EcTGT_PRE 前回値
Kpi 熱効率係数

Claims (5)

  1. エンジンの筒内に導入すべき空気量を算出するための目標点火時期を演算する目標点火時期演算手段と、
    前記目標点火時期に基づき、前記エンジンの熱効率を演算する熱効率演算手段と、
    前記熱効率に基づき、前記筒内に導入すべき空気量の目標値である目標空気量を演算する目標空気量演算手段とを備え、
    前記目標点火時期演算手段が、前記目標空気量演算手段において過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における前記目標点火時期を演算する
    ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
  2. 前記過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における目標空燃比を演算する目標空燃比演算手段を備え、
    前記熱効率演算手段が、前記目標空燃比に基づき、前記エンジンの熱効率を補正する
    ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
  3. 前記過去の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の時点における目標排気還流率を演算する目標排気還流率演算手段を備え、
    前記熱効率演算手段が、前記目標排気還流率に基づき、前記エンジンの熱効率を補正する
    ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
  4. 前記目標点火時期演算手段が、直前の演算周期で演算された前記目標空気量に基づき、現在の演算周期の前記目標点火時期を演算する
    ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
  5. 前記エンジンの筒内に導入された実空気量に基づき、点火プラグで実際に点火する時期に対応する実行点火時期を演算する実行点火時期演算手段を備え、
    前記目標点火時期演算手段が、前記実行点火時期とは独立に空気量演算用の前記目標点火時期を演算する
    ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
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