図面を参照して制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.装置構成]
[1−1.エンジン構造]
本実施形態のエンジンの制御装置は、図1に示す車載のエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダのうち、一つのシリンダを示す。シリンダ内を往復摺動するピストン16は、コネクティングロッドを介してクランクシャフト17に接続される。
クランクシャフト17には、その回転角θCRを検出するクランク角センサ30が設けられる。回転角θCRの単位時間あたりの変化量はエンジン回転数Neに比例する。したがって、クランク角センサ30はエンジン10のエンジン回転数Neを検出する機能を持つものといえる。ここで検出(または演算)されたエンジン回転数Neの情報は、後述するエンジン制御装置5に伝達される。なお、クランク角センサ30で検出された回転角θCRに基づき、エンジン制御装置5でエンジン回転数Neを演算する構成としてもよい。
シリンダの頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。また、燃焼室のシリンダヘッド側の頂面には、吸気ポート11及び排気ポート12が設けられる。
この燃焼室の頂面には、吸気ポート11に通ずる開口部を開閉する吸気弁14と、排気ポート12に通ずる開口部を開閉する排気弁15とが設けられる。吸気弁14の開閉駆動により吸気ポート11と燃焼室とが連通又は閉鎖され、排気弁15の開閉駆動により排気ポート12と燃焼室とが連通又は遮断される。
吸気弁14及び排気弁15の上端部はそれぞれ、図示しない可変動弁機構内のロッカシャフトの一端に接続される。ロッカシャフトはロッカアームに軸支された揺動部材であり、それぞれのロッカシャフトの揺動により吸気弁14及び排気弁15が上下方向に往復駆動される。なお、可変動弁機構は、吸気弁14及び排気弁15のそれぞれについて、最大バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更する機構である。
シリンダの周囲には、その内部を冷却水が流通するウォータージャケット19が設けられる。冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット19とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
[1−2.吸気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクタ18が設けられる。インジェクタ18から噴射される燃料量は、エンジン制御装置5によって電子制御される。また、インジェクタ18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、複数のシリンダの吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダで発生する吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
インマニ20の上流端には、スロットルボディ23が接続される。スロットルボディ23の内部には電子制御式のスロットルバルブ24が内蔵され、インマニ20側へと流通する空気量がスロットルバルブ24の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置5によって電子制御される。
スロットルボディ23のさらに上流側には、吸気通路25が接続される。この吸気通路25内には、空気の流量QINを検出するエアフローセンサ27が設けられる。ここで検出される流量QINの情報は、エンジン制御装置5に伝達される。また、吸気通路25のさらに上流側にはエアフィルタ28が介装される。これにより、エアフィルタ28で濾過された新気が吸気通路25及びインマニ20を介してエンジン10のシリンダに供給される。
スロットルバルブ24の上流側及び下流側には、それぞれの位置での圧力を検出する大気圧センサ26及びインマニ圧センサ22が設けられる。大気圧センサ26はスロットルバルブ24の上流圧PBP(大気圧に対応する圧力)を検出するものであり、インマニ圧センサ22はスロットルバルブ24の下流圧PIM(サージタンク21内の圧力に対応する圧力)を検出するものである。これらの圧力センサ22,26で検出されたスロットルバルブ部の上流圧PBP及び下流圧PIMの情報は、エンジン制御装置5に伝達される。
[1−3.制御系]
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量に対応する操作量θACを検出するアクセルペダルセンサ29が設けられる。アクセルペダルの踏み込み操作量θACは、運転者の加速要求に対応するパラメータであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。また、冷却水循環路上の任意の位置には冷却水の温度(冷却水温WT)を検出する冷却水温センサ31が設けられる。ここで検出された操作量θAC及び冷却水温WTの情報は、エンジン制御装置5に伝達される。
この車両には電子制御装置として、エンジン制御装置5(Engine Electronic Control Unit)のほか、CVT-ECU6(Continuously Variable Transmission ECU),エアコンECU7,電装品ECU8等が設けられる。これらの電子制御装置は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられたCAN,FlexRay等の通信ラインを介して互いに接続される。
CVT-ECU6は、図示しないCVT装置(無段変速装置)の動作を制御するものであり、エアコンECU7は、図示しないエアコン装置(空調装置)の動作を制御するものである。また、電装品ECU8は、車載投光装置や各種照明装置,パワーウィンドウ装置,ドア施錠装置といったボディ系の各種電装品の動作を制御するものである。これらの各種装置は、エンジン10に対する負荷として作用する。
以下、これらのエンジン制御装置5以外の電子制御装置のことを外部制御システムとも呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置とも呼ぶ。外部負荷装置の作動状態等は、エンジン10の運転状態に関わらず変化しうる。そこで、上記の各外部制御システムは、外部負荷装置がエンジン10に要求するトルクの大きさを随時演算し、これをエンジン制御装置5に伝達する。また、外部制御システムがエンジン10に要求するトルクのことを外部要求トルクと呼ぶ。なお、外部要求トルクの値は、CVT-ECU6,エアコンECU7,電装品ECU8といった個々の外部制御システムで演算された後にエンジン制御装置5に伝達されることとしてもよいし、あるいは個々の外部制御システムで収集された情報に基づいてエンジン制御装置5で演算されることとしてもよい。
エンジン制御装置5は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダに対して供給される空気量,燃料噴射量及び点火タイミングを制御するものである。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。このエンジン制御装置5は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。エンジン制御装置5の具体的な制御対象としては、インジェクタ18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ24の開度などが挙げられる。
また、エンジン制御装置5は、外部負荷装置からエンジン10に与えられる負荷の変動を検出して、その負荷変動に対応するためのトルク増分を加味したトルクベース制御を実施する。ここでいう負荷の変動とは、例えばCVT装置のシフトレバー操作やエアコン装置,油圧式パワーステアリング装置,各種電装品の起動操作に伴って発生する過渡的な負荷変動等を意味する。
一般に、外部負荷装置からエンジン10に与えられる負荷の大きさは、定常的には変動が小さく、急変することは少ない。しかし、シフトレバー操作や各種電装品の起動操作の直後といった過渡状態では、負荷が安定化するまでの間に一時的に急変する可能性がある。そのため、外部制御システムからの出力要求をトルクに換算したものだけでは負荷変動を抑制することができず、エンジンの運転状態が不安定になる場合がある。上記のトルク増分とは、このような負荷変動に対応するためのトルクの余裕分である。
本実施形態では、エンジン制御装置5で実施されるトルクベース制御のうち、アイドル時に実施される吸気量制御について説明する。吸気量制御とは、エンジン回転数に応じて吸気量を調整し、エンジン10のアイドル運転時の動作を安定化させる制御である。なお、ここでいうアイドル運転時には、車両の停止時にエンジン10がアイドル回転速度で回転しているような一般的なアイドル状態だけでなく、コースト走行時(惰性走行時)であってスロットル開度が全閉で車両が減速しているような状態が含まれる。
エンジン制御装置5で実施されるトルクベース制御には、アイドルフィードバック制御及び燃料カット制御が含まれている。アイドルフィードバック制御は、所定のアイドル条件(例えば、車速やアクセルペダルの踏み込み操作量θACに関する条件)が成立したエンジン10のアイドル運転状態時に、実際のエンジン回転数Neを目標アイドル回転数に近づけるとともに、その目標アイドル回転数でのエンジン回転を維持するためのフィードバック制御である。また、燃料カット制御は、所定の燃焼カット条件(例えば、エンジン回転数Neやアクセルペダルの踏み込み操作量θACに関する条件)が成立したときに、燃料の噴射を停止させる制御である。
[2.制御装置の内部構成]
エンジン制御装置5は、エンジン10に要求されるトルク(アイドル回転を維持するためのトルクや外部負荷装置から要求されるトルク等を合計した要求トルク)に基づき、点火時期の調整によって達成されるトルクの目標値を点火制御用目標トルクPiTGTとして設定するとともに、吸入空気量の調整によって達成されるトルクの目標値を吸気制御用目標トルクPiETVとして算出する。点火プラグ13での点火時期は点火制御用目標トルクPiTGTに基づいて制御され、目標スロットル開度RTPS_TGTは吸気制御用目標トルクPiETVに基づいて制御される。
本実施形態でトルクを表現するために用いる記号Piは、図示平均有効圧(エンジン10の指圧線図に基づいて算出される仕事を行程容積で割った圧力値)を意味し、ここでは図示平均有効圧Piを用いてトルクの大きさを表現している。本実施形態では、エンジン10で生じる力のモーメントのことだけでなく、エンジン10のピストン16に作用する平均有効圧(例えば、図示平均有効圧Piや正味平均有効圧Pe)で表現されたトルク相当量(トルクに対応する圧力)のことも便宜的に「トルク」と呼ぶ。
また、本実施形態のエンジン制御装置5は、エンジン10の実際の熱効率と目標熱効率とが一致するように吸気制御用目標トルクPiETVを補正するための構成を備えている。この補正演算には、点火制御用目標トルクPiTGTが用いられる。以下の実施形態では、吸気制御用目標トルクPiETVに基づく吸気量制御を実施するための構成を主軸に据え、点火制御用目標トルクPiTGTの演算のための構成を吸気制御用目標トルクPiETVの補正量を演算するための構成として取り扱う。
図1に示すように、エンジン制御装置5には、目標演算部1,実演算部2,吸気量設定部3及び制御部4が設けられる。これらの目標演算部1,実演算部2,吸気量設定部3及び制御部4の各機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
エンジン制御装置5の入力側には、インマニ圧センサ22,大気圧センサ26,エアフローセンサ27,アクセルペダルセンサ29,クランク角センサ30,冷却水温センサ31及び外部制御装置が接続され、出力側にはスロットルバルブ24が接続される。
[2−1.目標演算部]
目標演算部1(目標演算手段)は、エンジン10の目標熱効率を設定するものである。ここでは、アイドル時におけるエンジン10の目標熱効率の指標の一つである目標点火効率係数Aが演算される。点火効率係数とは、その時点の運転条件(エンジン回転数Ne及び吸入空気量QIN)で点火時期を最適点火時期〔いわゆるMBT(Minimum spark advance for Best Torque)〕に設定したときに発生する最大トルクに対する、実際のトルクの比を意味する。なお、点火効率係数はトルク低減率や点火指標等とも呼称される。
ここで、図2を用いて点火効率係数について説明する。図2は、同一の燃焼条件(例えば、エンジン回転数が一定の条件)において、一定の実充填効率Ecで点火時期のみを変化させた場合に生成されるトルクの大きさをグラフ化するとともに、異なる実充填効率Ecでのグラフを重ねて表示したものである。実充填効率Ecが一定であるとき、横軸の点火時期の変化に対して縦軸のトルクが上に凸の曲線となる。このグラフの頂点の座標に対応する点火時期がMBTである。例えば、実充填効率EcがEc1のときのMBTはT1であり、実充填効率EcがEc2のときのMBTはT3である。また、それぞれのMBTで生じるエンジントルクはTq1,Tq3である。
充填効率とは、一回の吸気行程(ピストン16が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダ内に充填される空気の体積を標準状態での気体体積に正規化したのちシリンダ容積で除算したものである。充填効率はその行程でシリンダ内に導入された空気量に対応し、目標充填効率EcTGTは充填効率の目標値であって目標空気量に対応する。以下、実際にエンジン10の気筒内に導入された空気量に対応する充填効率を実充填効率Ecと呼ぶ。
実充填効率Ecが増加すると、気筒内に導入される空気量の増大によりトルクが増大するとともに燃焼速度(気筒内での火炎伝播速度)が上昇し、MBTは遅角方向へと移動する。ここで、実充填効率Ecが所定値Ec1である場合にMBTから所定値αだけ点火時期をリタードさせた際に得られるトルクをTq2とおき、実充填効率Ecが所定値Ec2である場合にMBTから所定値αだけ点火時期をリタードさせた際に得られるトルクをTq4とおく。実充填効率EcがEc1であり点火時期がT2であるとき、点火効率係数の値は(Tq2)/(Tq1)となる。なお、実充填効率EcがEc2であり点火時期がT4であるときの点火効率係数は(Tq4)/(Tq3)であり、点火時期がMBTであるときの点火効率係数は、実充填効率Ecの値に関わらず1となる。
目標演算部1で設定される目標点火効率係数Aとは、アイドル時の目標値としての点火効率係数である。目標演算部1には、図3に示すように、目標リタード量演算部1a,目標点火効率係数演算部1b,目標点火時期演算部1c,目標リタード量変換部1d及び目標熱効率演算部1eが設けられる。
目標リタード量演算部1aは、点火時期の目標値の演算に係る二種類のリタード量(点火時期の遅角量)を演算するものである。第一リタード量は、その時点での実充填効率EcにおけるMBTを基準として、エンジン回転数Neに応じて設定されるリタード量である。これに対して第二リタード量は、上記のMBTと基本点火時期とを基準として設定されるリタード量である。
基本点火時期とは、ノッキングを考慮して設定された点火時期のことであり、トレースノック点火時期K〔トレーストック(軽いノッキング)が生じる限界点火時期〕又はMBTのうち遅角側に位置する何れか一方である。ここで演算された第一リタード量及び第二リタード量の値は、目標点火効率係数演算部1bに伝達される。なお、リタード量の設定に用いられる実充填効率Ecは、エアフローセンサ27で検出された吸気流量QINに基づいて算出される。
目標点火効率係数演算部1bは、エンジン回転数Neと目標リタード量演算部1aで演算された第一リタード量及び第二リタード量とに基づき、複数の点火効率係数を演算するものである。ここでは、第一リタード量から第一点火効率係数A1が演算され、第二リタード量から第三点火効率係数A3が演算される。第一点火効率係数A1は、外部負荷によってエンジン回転数Neが変動した後で、そのエンジン回転数Neの変動に応じて点火時期を調整するための制御量であるといえる。
また、目標点火効率係数演算部1bは、負荷の大きさに依存しない大きさを持つトルク低減量ΔKpi_IDを演算するとともに、トルク低減量ΔKpi_ID及び第三点火効率係数A3に基づいて第二点火効率係数A2を演算する。トルク低減量ΔKpi_IDは、例えば負荷の大小にかかわらず一律の大きさにしてもよいし、負荷以外のパラメータに応じてトルク低減量ΔKpi_IDが設定される構成としてもよい。このようなトルク低減量ΔKpi_IDに基づいて演算される第二点火効率係数A2は、第一点火効率係数A1とは異なり、負荷によらずに点火時期を調整するための指標値であるといえる。
さらに、目標点火効率係数演算部1bは、第一点火効率係数A1と第二点火効率係数A2とのうちの何れか一方を実際のアイドル点火時期の目標値に対応する目標点火効率係数KpiID_TGTとして選択する。ここで選択された目標点火効率係数KpiID_TGTの情報は目標点火時期演算部1cに伝達される。
目標点火時期演算部1cは、実際にエンジン10から出力されるトルクの低減率(MBTを基準とした変化率)が目標点火効率係数演算部1bで選択された目標点火効率係数KpiID_TGTに一致するように、点火プラグ13を制御するための目標リタード量及び目標点火時期を演算するものである。目標点火時期演算部1cは、目標点火効率係数KpiID_TGTの単位時間(あるいは単位制御サイクル)あたりの変化量に制限を加え、点火時期の急変を抑制する。ここで変化量が抑制された点火効率係数のことを、制御用点火効率係数KpiIDと呼ぶ。
また、目標点火時期演算部1cは、目標リタード量演算部1aで演算されたその時点での実充填効率EcにおけるMBT(SAMBT)を基準として、目標リタード量RTDIDを演算する。ここで演算された目標リタード量RTDIDは、目標リタード量変換部1dに伝達される。
目標リタード量変換部1dは、目標点火時期演算部1cで演算された目標リタード量RTDIDを、前回の吸気行程時の実充填効率Ecに対応するMBT(SAMBT2)を基準としたリタード量RTDID2に変換するものである。ここでは、目標リタード量演算部1aで演算された現在のMBTと前回のMBTとの差に対応する点火時期が、目標リタード量RTDIDから減算(又は加算)される。変換後の目標リタード量RTDID2は、すでに点火が実行された行程におけるMBTを基準としたリタード量であり、目標熱効率演算部1eに伝達される。
目標熱効率演算部1eは、目標リタード量変換部1dで変換された目標リタード量RTDID2とエンジン回転数Neとに基づき、目標点火効率係数Aを演算するものである。ここでは、例えば図4に示すようなエンジン回転数Ne毎のリタード量と点火効率係数との関係に基づいて、目標点火効率係数Aが演算される。この目標点火効率係数Aは、前回点火を実行したときにおける点火効率係数の目標値に対応する値を持ち、すなわち前回の吸気行程での目標熱効率に対応するものである。ここで演算された目標点火効率係数Aは、吸気量設定部3に伝達される。
[2−2.実演算部]
実演算部2(実演算手段)は、エンジン10の実熱効率を演算するものである。ここでは、目標演算部1で演算された目標点火効率係数Aに対応する、実点火効率係数Bが演算される。実点火効率係数Bは、実際のエンジン10の運転状態に基づいて演算される点火効率係数であり、本実施形態では点火制御用トルクPiTGTと実充填効率Ecとに基づいて演算される場合の例を説明する。
目標演算部1には、図5に示すように、点火制御用目標トルク演算部2a,実トルク演算部2b,実点火効率係数演算部2c,実リタード量演算部2d,実リタード量変換部2e,実熱効率演算部2f,平均化処理部2g及び余裕演算部2hが設けられる。
点火制御用目標トルク演算部2aは、アクセル操作に係るアクセル要求トルク,外部負荷装置からエンジン10に対して要求される外部要求トルク,エンジン10のアイドル回転を維持するためのアイドル要求トルク等に基づき、点火制御用目標トルクPiTGTを演算するものである。
例えば、アクセル要求トルクは、エンジン回転数Neやアクセルペダルの踏み込み操作量θACに応じて設定される。また、外部要求トルクは、外部負荷装置の作動状態に応じて設定され、アイドル要求トルクは外部負荷装置の作動状態やエンジン回転数Ne,エンジン冷却水温等に応じて設定される。点火制御用目標トルクPiTGTは、所定の条件に応じてこれらの要求トルクの何れかを選択し、実点火効率係数演算部2cに伝達する。
実トルク演算部2bは、目標リタード量演算部1aで演算された(又はエアフローセンサ27で検出された吸気流量QINから得られる)実充填効率Ecに基づき、その気筒で生じうる最大のトルク(すなわち、実充填効率Ecで点火時期をMBTに設定した場合に発生するトルク)を実トルクPiACT_MBTとして演算するものである。ここでいう実トルクPiACT_MBTは、図2中に示された各実充填効率Ecでのトルク変動グラフの最大値に対応する。実トルク演算部2bは、このような対応関係を利用して実トルクPiACT_MBTを演算する。ここで演算された実トルクPiACT_MBTは、実点火効率係数演算部2cに伝達される。
実点火効率係数演算部2cは、点火制御用目標トルク演算部2aで演算された点火制御用目標トルクPiTGTと実トルク演算部2bで演算された実トルクPiACT_MBTとの比K〔 K=(PiTGT)/(PiACT_MBT)〕を演算するものである。なお、本実施形態の実点火効率係数演算部2cでは、比Kの値が1以下の範囲でクリップされる。ここで演算された比Kは実リタード量演算部2dに伝達される。
実リタード量演算部2dは、MBTを基準として、比Kに応じた大きさの実リタード量RTDACTを演算するものである。実リタード量演算部2dは、ここでは、例えば図4に示すようなエンジン回転数Ne毎のリタード量と点火効率係数との関係に基づいて、実リタード量RTDACTを演算する。なお、ここでいう実リタード量RTDACTは、点火系のハードウェア(点火プラグ13やエンジン制御装置5を含む)の制約を反映したリタード量であり、MBTを基準とした値である。ここで演算された実リタード量RTDACTは、実リタード量変換部2eに伝達される。
実リタード量変換部2eは、実リタード量演算部2dで演算された実リタード量RTDACTを、前回の吸気行程におけるMBTを基準としたリタード量に変換するものである。ここでは、目標リタード量変換部1dでの演算と同様の変換操作がなされる。すなわち、目標リタード量演算部1aで演算された現在のMBTと前回のMBTとの差に対応する点火時期が、実リタード量RTDACTから減算(又は加算)される。変換後の実リタード量RTDACT2は実熱効率演算部2fに伝達される。
実熱効率演算部2fは、実リタード量変換部2eで変換された実リタード量RTDACTとエンジン回転数Neとに基づき、点火効率係数B′を演算するものである。ここでは、目標熱効率演算部1eでの演算と同様に、例えば図4に示すようなエンジン回転数Ne毎のリタード量と点火効率係数との関係に基づいて、点火効率係数B′が演算される。この点火効率係数B′は、前回の吸気行程での制御結果として与えられる点火効率係数に対応する値を持ち、すなわち、前回実行した点火時期における実熱効率に対応するものである。ここで演算された点火効率係数B′は、平均化処理部2g及び余裕演算部2hに伝達される。
平均化処理部2gは、実熱効率演算部2fで演算された点火効率係数B′を平均化した実点火効率係数Bを演算するものである。ここでは、前回の演算周期で演算された点火効率係数B(n-1) ′と今回の演算周期で演算された点火効率係数B(n)′とに基づき、以下の式1に従って実点火効率係数Bが演算される。ここで演算された実点火効率係数Bは、吸気量設定部3に伝達される。
B=k・B (n-1) ′+(k-1)・B(n)′ … 式1
余裕演算部2hは、実リタード量変換部2eで変換された変換後の実リタード量RTDACTで点火したときのトルクの余裕分ΔXを演算するものである。余裕分ΔXは、前回の吸気行程におけるMBTを基準として、目標リタード量演算部1aでの演算に係るトレースノック点火時期で点火した場合に得られる点火効率係数(例えば図4に示すようなエンジン回転数Ne毎のリタード量と点火効率係数との関係に基づいて演算される点火効率係数)と実点火効率係数Bとの差として与えられる。ここで演算された余裕分ΔXは、吸気量設定部3に伝達される。
[2−3.吸気量設定部]
吸気量設定部3(補正手段)は、目標演算部1で設定された目標点火効率係数Aと、実演算部2で演算された実点火効率係数Bとのずれに応じた点火効率係数の補正量を演算するものである。図6に示すように、吸気量設定部3にはゲイン設定部3a,補正量演算部3b,吸気制御用目標トルク演算部3c,標準吸気目標トルク演算部3d,目標充填効率演算部3e,目標筒内空気量演算部3f及び目標流量演算部3gが設けられる。
ゲイン設定部3a(単位熱効率設定手段)は、目標点火効率係数A及び実点火効率係数Bの差に応じて、単位時間あたりの点火効率係数の補正量であるゲインCを設定するものである。ここではまず、目標点火効率係数A及び実点火効率係数Bの大小関係と、実点火効率係数Bの余裕分ΔXとに基づき、以下に示す三通りのゲイン設定条件が判定される。
(1)実点火効率係数Bが目標点火効率係数A未満(A>B)である。
(2)実点火効率係数Bが目標点火効率係数A以上(A≦B)であり、
かつ、余裕分ΔXがしきい値ΔY以上(ΔX≧ΔY)である。
(3)実点火効率係数Bが目標点火効率係数A以上(A≦B)であり、
かつ、余裕分ΔXがしきい値ΔY未満(ΔX<ΔY)である。
図7に点火効率係数とリタード量との関係を例示すると、上記(1)の場合は点B1に対応する。上記(1)の場合は、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aに達しておらず、すなわち熱効率の悪い運転が実施されていることになる。したがって、吸気量設定部3は吸気制御用の点火効率係数を増大させて、運転効率を改善するための正のゲインC1を設定する。このゲインC1の絶対値の大きさは、吸入空気量を減少させる速さを意味する。絶対値|C1|が大きいほど素早く熱効率が上昇し、すなわち実点火効率係数Bが素早く増加しながら目標点火効率係数Aに接近する。
また、図7中で余裕分ΔX及びしきい値ΔYに対応する値を表現すると、点火効率係数が1となる一点鎖線のラインを基準として、余裕分ΔXはこのラインと太線グラフ上の点の縦軸方向の座標との距離に対応し、しきい値ΔYはこのラインからの距離に対応する。したがって、上記(2)及び(3)の場合は、図7中の点B2及びB3に対応する。なお、実点火効率係数Bが大きいほど余裕分ΔXは減少する。
上記(2)及び(3)の場合は、実点火効率係数Bが目標点火効率係数A以上であり、すなわち目標よりも熱効率の良い運転が実施されていることになる。一方、熱効率が良いということは吸入空気量の余剰が少ない(トルクの余裕が少ない)ことを意味するため、外乱に対する耐性が低下している状態であるともいえる。したがって、吸気量設定部3は吸気制御用の点火効率係数を減少させて、トルクの余裕分を増加させるための負のゲインC2を設定する。特に、上記(3)の場合には余裕分ΔXが小さいため、上記(2)の場合よりも負のゲインC3の絶対値を大きく設定する。これにより、吸入空気量を増やしてトルクの余裕分ΔXを迅速に増加させることとする。
これらの負のゲインC2,C3の絶対値の大きさは、吸入空気量を増加させる速さを意味する。絶対値|C2|,|C3|が大きいほど素早く熱効率が低下し、すなわち実点火効率係数Bが素早く減少しながら目標点火効率係数Aに接近する。
なお、上記の(2)及び(3)の条件中のしきい値ΔYは、予め設定された固定値としてもよいし、エンジン冷却水温WTに応じて設定される設定値としてもよい。上記のゲインの大小関係をまとめると、C3<C2<0<C1となる。正のゲインC1の絶対値は、負のゲインC2の絶対値と同一であってもよいし、異なる値であってもよい。本実施形態では、|C1|=|C2|<|C3|の関係で各ゲインの大きさが設定されている。ここで設定されたゲインは、補正量演算部3bに伝達される。
補正量演算部3b(補正量演算手段)は、ゲイン設定部3aで設定されたゲインCを時間積算した補正量Dを演算するものである。ここでは、前回の演算周期で演算された補正量Dに対してゲインCが演算周期毎に加算(又は減算)される。前回の演算周期に演算された補正量DをD(N-1)と表記すると、今回の演算周期の補正量D(n)は以下の式2のように表現することができる。なお、式2中のゲインCは演算周期毎に異なる値(上記のC1〜C3の何れか)となる。ここで演算された補正量Dは、標準吸気目標トルク演算部3dに伝達される。
D(n)=D(n-1)+C … 式2
なお、補正量演算部3bで補正量Dを演算するための前提条件としては、エンジン10の運転領域がアイドル領域にあること(エンジン回転数Neや負荷が小さい運転領域)や、アイドルフィードバック制御が実施されていること等が考えられる。逆に、エンジン10の運転領域がアイドル領域にない場合には、補正量Dをゼロにリセットする構成としてもよい。また、アイドルフィードバック制御の非実施時には、前回の演算周期で演算された補正量の値をそのまま保持する(すなわち、D(n)=D(n-1)とする)構成としてもよい。
吸気制御用目標トルク演算部3cは、アクセル操作に係るアクセル要求トルク,外部負荷装置からエンジン10に対して要求される外部要求トルク,エンジン10のアイドル回転を維持するためのアイドル要求トルク等に基づき、吸気制御用目標トルクPiETVを演算するものである。ここでは例えば、点火制御用目標トルク演算部2aで設定される点火制御用目標トルクPiTGTと同様に、所定の条件に応じてアクセル要求トルク,外部要求トルク及びアイドル要求トルクの何れかが選択され、選択されたトルクの変動に吸気遅れを模擬したフィルタ処理が施された値が吸気制御用目標トルクPiETVとして演算される。ここで演算された吸気制御用目標トルクPiETVは、標準吸気目標トルク演算部3dに伝達される。
標準吸気目標トルク演算部3dは、吸気制御用目標トルク演算部3cで演算された吸気制御用目標トルクPiETVを、目標点火効率係数A及び補正量Dの加算値で除した値を標準吸気目標トルクPiETV_STDとして演算するものである。すなわち、標準吸気目標トルク演算部3dは、以下の式3に従って標準吸気目標トルクPiETV_STDを演算する。
標準吸気目標トルクPiETV_STD=PiETV/(A+D) … 式3
補正量Dがゼロである場合、標準吸気目標トルクPiETV_STDの値は、吸気制御用目標トルクPiETVに目標点火効率係数Aの逆数を掛けたものと同一であり、すなわち、目標点火効率係数Aに見合った空気量が確保されるように、吸気制御用目標トルクPiETVが増加方向に修正される。一方、本実施形態では、目標点火効率係数Aに補正量Dが加算(又は減算)されるため、熱効率の悪い運転が実施されている状態では補正量Dが正の方向に増大するため、式3の右辺分母の値が大きくなり、吸気制御用目標トルクPiETVの増加量が減少することになる。逆に、熱効率が良い運転状態では補正量Dの値が負の方向に増大して式3の右辺分母の値が小さくなり、吸気制御用目標トルクPiETVの増加量が増大することになる。ここで演算された標準吸気目標トルクPiETV_STDは、目標充填効率演算部3eに伝達される。
目標充填効率演算部3eは、標準吸気目標トルク演算部3dから伝達された標準吸気目標トルクPiETV_STDに対応する目標充填効率EcTGTを演算するものである。ここでは、例えば予め設定された目標トルクPiETVと目標充填効率EcTGTとのエンジン回転数Ne毎の対応マップや数式等に基づいて目標充填効率EcTGTが演算される。ここで演算された目標充填効率EcTGTは、目標筒内空気量演算部3fに伝達される。
目標筒内空気量演算部3fは、目標充填効率演算部3eで演算された目標充填効率EcTGTを、シリンダ内に導入される空気量の目標値QcTGTに変換する演算を行うものである。ここでは、例えば予め設定された目標充填効率EcTGTと目標値QcTGTとの対応マップや数式等に基づいて目標値QcTGTが求められる。ここで演算された目標値QcTGTは、目標流量演算部3gに伝達される。
目標流量演算部3gは、シリンダ内に導入される空気量の目標値QcTGTから、スロットルバルブ24を通過させたい空気量の目標値である新気の目標流量QTH_TGTを演算するものである。ここでは、サージタンク21の体積等に由来する吸気遅れを考慮して、予め設定された物理モデル,数式等に基づいて目標流量QTH_TGTが演算される。ここで演算された目標流量QTH_TGTは、制御部4に伝達される。
[2−4.制御部]
制御部4(制御手段)は、目標流量演算部3gで演算された目標流量QTH_TGTとスロットルバルブ部の流速Vとに基づいてスロットルバルブ24の目標開口面積Sを演算し、スロットルバルブ24に制御信号を出力するものである。目標開口面積Sは、流速Vを目標流量QTH_TGTで除した値として算出される。なお、流速Vの算出方法は任意であり、例えばスロットルバルブ部の圧力比(上流圧PBPに対する下流圧PIMの比)に基づいて算出することができる。
ここでは、例えば予め設定された目標開口面積Sと目標開度電圧Eとの対応マップや数式等に基づいて目標開度電圧Eが演算され、この目標開度電圧Eが制御信号としてスロットルバルブ24に出力される。なお、目標開口面積Sと目標開度電圧Eとの関係は、スロットルバルブ24の構造,形状,種類等に応じて規定される。例えば、開度電圧が高いほど通路を大きく開放する特性を持ったスロットルバルブ24の場合には、目標開口面積Sが大きいほど目標開度電圧Eを増大させればよい。
なお、スロットルバルブ24は制御部4からの制御信号を受けてスロットル開度を制御され、目標開口面積Sが実現される。これにより、スロットルバルブ24を通過する空気の流量が目標流量QTH_TGTになるとシリンダの実充填効率Ecが目標充填効率EcTGTとなり、エンジン10の出力トルクが目標トルクPiETVとなる。エンジン制御装置5ではこのように吸気量制御が実施される。
[3.作用]
[3−1.目標点火効率係数A>実点火効率係数Bの場合]
上記のエンジン制御装置5によるアイドル運転時の吸気量制御について、図8(a),(b)を用いて説明する。図8(a)中に太実線で示すグラフは、目標演算部1で設定される目標点火効率係数Aの変動を示し、太破線で示すグラフは、実演算部2で演算される実点火効率係数Bの変動を示す。
ここでは、時刻t1に外部負荷の変動により目標点火効率係数Aが所定値AAから徐々に増加し、この変化に実点火効率係数Bの追従が遅れた場合を想定する。時刻t1の直後には、目標点火効率係数Aが実点火効率係数Bよりも大きい状態となり、その差が徐々に増大する。
一方、吸気量設定部3のゲイン設定部3aでは、目標点火効率係数A及び実点火効率係数Bの差に応じてゲインCが設定される。このとき設定されるゲインCはC1(C1>0)であり、演算周期毎に補正量演算部3bで演算される補正量Dに対して値C1が加算される。したがって、図8(b)に示すように、時刻t1以降の補正量Dの変化勾配は、値C1に対応する勾配となる。
また、標準吸気目標トルク演算部3dでは、吸気制御用目標トルクPiETVが目標点火効率係数Aと補正量Dとの加算値で除算され、標準吸気目標トルクPiETV_STDが演算される。これにより、標準吸気目標トルクPiETV_STDの値が減少し、吸気量が減少する方向にスロットルバルブ24が制御される。つまり、熱効率が向上する方向に吸気量が制御されるため、実点火効率係数Bが上昇し、目標点火効率係数Aに近づく。
時刻t2に実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aの変動に追いつき、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの大小関係が逆転すると、ゲイン設定部3aで設定されるゲインCの値がC2(C2<0)となる。これにより、補正量演算部3bで演算される補正量Dから演算周期毎に値C2が減算される。したがって、時刻t2以降の補正量Dの変化勾配は、値C2に対応する勾配となる。
標準吸気目標トルクPiETV_STDの減少勾配が緩和され、時刻t3に実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aにほぼ一致すると、ゲイン設定部3aで設定されるゲインCの符号が繰り返し反転する状態となり、補正量Dはほぼ一定の値D1に収束する。このときの値D1の大きさは、目標点火効率係数Aに対する実点火効率係数Bの追従遅れによって生じた点火効率係数の相違量に相当する。また、標準吸気目標トルク演算部3dにおける標準吸気目標トルクPiETV_STDの演算にはこの値D1が反映されるため、実点火効率係数Bは目標点火効率係数Aに一致する。
[3−2.目標点火効率係数A≦実点火効率係数Bの場合]
時刻t4に外部負荷の変動が安定化し、目標点火効率係数Aが所定値ABに維持された状態となり、この変化に実点火効率係数Bの追従が遅れた場合を想定する。時刻t4の直後には、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aよりも大きい状態となり、その差が徐々に増大する。また、ゲイン設定部3aでは、余裕分ΔXとしきい値ΔYとの大小関係が判定される。
余裕分ΔXの方が大きい時刻t4の場合には、ゲインCの値がC2(C2<0)に設定され、補正量演算部3bで演算される補正量Dから演算周期毎に値C2が減算される。その後、補正量Dが反映された標準吸気目標トルクPiETV_STDに基づいて吸気量が制御され、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aに一致する。なお、時刻t5に実点火効率係数Bと目標点火効率係数Aとの相違量が0になると、補正量Dの値もほぼ0となる。
次に、時刻t6に外部負荷が再び変動し、目標点火効率係数Aが所定値ABから徐々に減少し、この変化に実点火効率係数Bの追従が遅れた場合を想定する。時刻t6の直後には、時刻t4の直後と同様に、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aよりも大きい状態となり、その差が徐々に増大する。
一方、図8(a)中に一点鎖線で示すように、余裕判定用のしきい値(1-ΔY)のグラフよりも実点火効率係数Bのグラフが上方に位置する状態では、余裕分ΔXがしきい値ΔYよりも小さくなる。つまり、エンジン10に持たせておきたい余裕トルクに対応する点火効率係数よりも実際の点火効率係数が大きい(熱効率が過剰に良好である)状態である。
これを受けて、ゲイン設定部3aではゲインCの値がC3(C3<C2<0)に設定され、補正量演算部3bで演算される補正量Dから演算周期毎に値C3が減算される。図8(b)に示すように、時刻t3〜t4間の補正量Dの減少勾配と比較すると、時刻t6以後の補正量Dの減少勾配はより大きくなる。
また、標準吸気目標トルク演算部3dでは、吸気制御用目標トルクPiETVが目標点火効率係数Aと補正量Dとの加算値で除算され、標準吸気目標トルクPiETV_STDが演算される。これにより、標準吸気目標トルクPiETV_STDの値が増加し、吸気量が増大する方向にスロットルバルブ24が制御される。つまり、熱効率が低下する方向に吸気量が制御されるため、実点火効率係数Bが低下し、目標点火効率係数Aに近づく。
時刻t8に実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aの変動に追いつき、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの大小関係が逆転すると、ゲイン設定部3aで設定されるゲインCの値がC1(C1>0)となる。これにより、補正量演算部3bで演算される補正量Dに演算周期毎に値C1が加算される。
また、標準吸気目標トルクPiETV_STDの増加勾配が緩和され、時刻t8に実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aにほぼ一致すると、ゲイン設定部3aで設定されるゲインCの符号が繰り返し反転する状態となり、補正量Dはほぼ一定の値D2に収束する。標準吸気目標トルク演算部3dで演算される標準吸気目標トルクPiETV_STDは、この値D2が反映された点火効率係数に基づくものとなり、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aに一致する。
[4.効果]
このように、上記のエンジン制御装置5では、エンジン10の目標熱効率に相当する目標点火効率係数Aと、実熱効率に相当する実点火効率係数Bとのずれに応じた大きさの補正量Dが演算され、この補正量Dに基づいて吸気制御用の標準吸気目標トルクPiETV_STDが演算される。これにより、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの間にずれが生じている場合にスロットルバルブ24の開度を変更することが可能となり、実熱効率の目標熱効率への収束性を高めることができる。
また、このような制御で吸収される目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの間の「ずれ」には、外乱や要求トルクの変動によって生じるずれだけでなく、センサ類の検出誤差や演算誤差に起因するずれも含まれる。上記のエンジン制御装置5は、これらの何れの誤差をも補正量Dとして吸収し、実点火効率係数Bを目標点火効率係数Aへと自己収束させることができる。したがって、エンジン10の制御性を向上させることができ、特にアイドル運転時におけるエンジン10の動作を安定化させることができる。
さらに、エンジン10の実熱効率が目標熱効率へと素早く収束することから、予め目標点火効率係数Aを小さめに設定しておく必要がない。これにより、余分な熱効率悪化を避けることができ、燃費を向上させることができる。
また、上記のエンジン制御装置5では、標準吸気目標トルク演算部3dにおいて、目標点火効率係数Aと補正量Dとの加算値を用いて吸気制御用目標トルクPiETVを演算する構成としており、演算構成が簡素でありながら、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとを一致させることができる。また、このような加算手法によれば、補正量Dが0の場合であっても目標点火効率係数Aのみを用いて吸気制御用目標トルクPiETVを演算させることができ、従来の演算手法への適合性が高い。つまり、目標熱効率と実熱効率とのずれを考慮しない従来のエンジン制御装置に対して容易に適用することが可能であり、汎用性を高めることができる。
また、上記のエンジン制御装置5では、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bと差に応じて複数種類のゲインCを設定し、それらのゲインCの時間積算値として補正量Dを演算している。補正量Dは、点火効率係数のフィードバック演算における積分項として働くため、目標点火効率係数A及び実点火効率係数B間に生じうる残留偏差を確実に取り除くことができる。したがって、実点火効率係数Bの収束性が向上し、実点火効率係数Bを目標点火効率係数Aに一致させることができ、エンジン10の制御性をより向上させることができる。
さらに、ゲインCの設定に関して、ゲイン設定部3aでは実点火効率係数Bの余裕分ΔXが小さいほど(すなわち、実点火効率係数Bが高いほど、あるいは、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの差が大きいほど)ゲインCの絶対値を増大させている。例えば、余裕分ΔXがしきい値ΔY未満であるときに設定されるゲインC3の絶対値は、余裕分ΔXがしきい値ΔY以上であるときに設定されるゲインC2の絶対値よりも大きい値である。
このようなゲインCの設定により、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aを上回ってずれている場合では、トルクの余裕に応じて補正量Dの変化速度を変更することができ、例えば十分に余裕のある運転状態では穏やかに補正量Dを変化させて過剰な吸気量の変動を抑制し、余裕が足りない運転状態では急激に補正量Dを変化させて迅速に吸気量を調節することができる。これにより、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの差が比較的大きい場合であっても、実点火効率係数Bを素早く目標点火効率係数Aに近づけることができる。
また、上記のエンジン制御装置5では、目標点火効率係数A及び実点火効率係数Bの大小関係とゲインCの正負符号とを対応させたゲインCの設定手法を用いている。これにより、簡素な構成で補正量Dを目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bと差に漸近させることができ、実点火効率係数Bを確実に目標点火効率係数Aに一致させることができる。
なお、図8(b)に示すように、上記のエンジン制御装置5では、補正量Dの増加勾配が減少勾配以下の大きさとなるように各ゲインCが設定されている。例えば、各ゲインCの絶対値に着目すると、補正量Dを増加させるためのゲイン|C1|の値は、補正量Dを減少させるためのゲイン|C3|の値よりも小さく設定される。言い換えると、吸気量を増加させる方向に作用するゲイン|C3|が、減少させる方向に作用するゲイン|C1|よりも大きく設定される。これにより、トルクの余裕を確保しやすくすることができる。また、実点火効率係数Bが目標点火効率係数Aを大きく超える(過度に熱効率が高くなる)ような事態を防止することができ、安定してトルクの余裕を確保することができる。
さらに、上記のエンジン制御装置5では、エンジン10の実熱効率を制御するための制御対象として吸入空気量を制御している。一方、エンジン10の点火時期は、実演算部2の点火制御用目標トルク演算部2aで演算される点火制御用目標トルクPiTGTに基づいて制御される。したがって、点火時期を設定するためのトルク(点火制御用目標トルクPiTGT)に影響を与えることなく実熱効率を調節することができ、点火時期制御から独立した演算が可能であるという利点がある。
また、上記のエンジン制御装置5では、点火効率係数を用いて吸入空気量を制御しており、すなわち、その時点での吸気流量QINで最適点火時期(MBT)に点火した場合に得られるものと推定される最大トルクを基準とした熱効率に基づいて、吸気量制御が実施される。したがって、簡素な構成でエンジン10の熱効率を正確かつリアルタイムに把握することが可能となり、このような点でもエンジン10の制御性を向上させることができる。
[5.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。上述の実施形態では、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの大小関係に応じてゲインCを設定する構成としているが、ゲインCの具体的な設定手法はこれに限定されない。
例えば、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの差(例えば、目標点火効率係数Aから実点火効率係数Bを減算した値)に基づいてゲインCを設定してもよいし、目標点火効率係数Aと実点火効率係数Bとの比(例えば、目標点火効率係数Aを実点火効率係数Bで除算した値)に基づいてゲインCを設定してもよい。また、これらの差や比の絶対値が大きいほどゲインCの絶対値を増大させてもよい。少なくとも、エンジン10の目標熱効率と実熱効率とのずれに応じた熱効率の補正量を与える構成とすればよい。これらのようなゲインCの設定により、実熱効率の目標熱効率への収束性を高めつつ、実点火効率係数Bの目標点火効率係数Aへの収束時間や実点火効率係数の変化勾配を調節することができる。
また、上述の実施形態では、エンジン10の熱効率の指標値として点火効率係数を利用したものを例示したが、エンジン10の熱効率の指標値として利用できる他のパラメータとしては、トルクやトルク低減率,トルク余裕率等が挙げられる。少なくともエンジン10の燃焼反応で発生したエネルギーに対するエンジン10の仕事の比率に対応するパラメータであれば、どのような指標値を用いてもよい。
また、上述の実施形態では吸気量制御について詳述したが、エンジン制御装置5による制御対象は吸気量のみに限定されず、すなわち、スロットルバルブ24の開度制御だけでなく、点火プラグ13の点火時期制御やインジェクタ18から噴射される燃料量制御に適用することが可能である。例えば、補正量演算部3bで演算された補正量Dに基づいて、エンジン10で目標となる熱効率が得られるように、燃料噴射量を増減させることが考えられる。なお、燃料噴射量の制御では当量比や空気過剰率,空燃比を用いて燃料噴射量の増減の度合いを把握してもよい。
上記の吸気量制御に代えて、エンジン10の点火時期(リタード量)を制御する場合、吸気量制御によって生じうる実熱効率と目標熱効率とのずれを点火時期制御で吸収することが可能となる。また、上記の吸気量制御に加えて点火時期を制御する場合には、実熱効率をさらに迅速に目標熱効率へと収束させることが可能となる。また、燃料噴射量制御の場合にも同様であり、実熱効率の目標熱効率への収束性を向上させることができる。
なお、上述の実施形態では、エンジン10のアイドル時に実施される吸気量制御について説明したが、上記の制御はアイドル時だけでなく、他の運転状態においても実施可能である。