以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。図1に示す本実施例の画像形成システム1は、用紙Qの搬送経路を構成するプラテン11の上方に、インクジェットヘッド21を備える所謂インクジェットプリンタである。
この画像形成システム1は、周知のインクジェットプリンタと同様、プラテン11に沿って用紙Qを副走査方向に所定量搬送しては、用紙Qを停止させた状態でインクジェットヘッド21を用いて用紙Qの主走査方向(図1法線方向)に画像を形成する。具体的には、インクジェットヘッド21を搭載するキャリッジ20を主走査方向に搬送しつつ、インクジェットヘッド21にインク液滴を吐出させることにより、用紙Qの主走査方向に画像を形成する。画像形成システム1は、この動作を繰り返すことにより、用紙Qに段階的に画像を形成する。
この画像形成システム1において、用紙Qは、搬送ローラ13及び排紙ローラ15の回転によって、搬送経路の上流から下流に搬送される。搬送ローラ13は、プラテン11の上流で第一従動ローラ14に対向配置される。排紙ローラ15は、プラテン11の下流で第二従動ローラ16(例えば拍車ローラ)に対向配置される。
搬送ローラ13は、直流モータで構成されるLFモータ93からの動力を、動力伝達機構17を介して受けて回転する。搬送ローラ13は、第一従動ローラ14との間に用紙Qを挟持した状態で回転することにより、用紙Qを下流に搬送する。排紙ローラ15は、搬送ローラ13と同じLFモータ93からの動力を、ベルト機構19を介して受けて回転する。排紙ローラ15は、第二従動ローラ16との間に用紙Qを挟持した状態で回転することにより、用紙Qを下流に搬送する。
LFモータ93は、光学センサ25を用いて光学的に検出される用紙Qの移動量Yに基づき制御される。光学センサ25は、キャリッジ20に搭載される。この制御により、用紙Qは、所定量ずつ間欠搬送される。
本実施例の画像形成システム1は、図2に示すように、メインコントローラ30と、通信インタフェース40と、給紙部50と、記録部60とを備える。メインコントローラ30は、マイクロコンピュータ等から構成され、画像形成システム1を統括制御する。通信インタフェース40は、メインコントローラ30と外部機器(パーソナルコンピュータ等)との間の通信を実現する。メインコントローラ30は、通信インタフェース40を介して外部機器から印刷対象の画像データを受信すると、この印刷対象の画像データに基づく画像が用紙Qに形成されるように、給紙部50及び記録部60に対して指令入力する。
給紙部50は、図示しない給紙ローラや給紙トレイ等を備え、メインコントローラ30からの指令に従って、給紙トレイに載置された用紙Qを給紙ローラの回転により取り出し、これを搬送経路の上流から、搬送ローラ13に供給する。
記録部60は、メインコントローラ30からの指令に従って、給紙部50から供給された用紙Qの搬送制御を行う。この他、記録部60は、キャリッジ20の搬送制御及びインク液滴の吐出制御を行うことにより、印刷対象の画像データに基づく画像を、用紙Qに形成する。
記録部60は、インクジェットヘッド21を備える他、インクジェットヘッド21を搭載するキャリッジ20を主走査方向に搬送するための構成として、キャリッジ搬送機構71、CRモータ73、CR駆動回路75、エンコーダ77及び信号処理回路79を備える。キャリッジ搬送機構71は、インクジェットヘッド21及び光学センサ25を搭載するキャリッジ20を備え、CRモータ73からの動力を受けて、キャリッジ20をガイド軸に沿って主走査方向に搬送する。
CRモータ73は、直流モータにより構成され、キャリッジ搬送機構71に対し、キャリッジ20を主走査方向に搬送するための動力を付与する。CR駆動回路75は、制御回路100から入力されるCRモータ73に対する操作量に従って、このCRモータ73を駆動する。
一方、エンコーダ77は、キャリッジ20の搬送路に沿って設けられたリニアエンコーダによって構成され、エンコーダ信号として、キャリッジ20が所定量主走査方向に変位する度にパルス信号を信号処理回路79に入力する。信号処理回路79は、エンコーダ77から入力されるエンコーダ信号に基づいて、キャリッジ20の主走査方向における搬送位置及び速度を検出する。検出されたキャリッジ20の搬送位置及び速度は、制御回路100に入力される。
記録部60が備える制御回路100は、CRモータ73、LFモータ93及びインクジェットヘッド21の駆動を制御するためのものである。制御回路100は、信号処理回路79から入力されるキャリッジ20の搬送位置及び速度に基づき、CRモータ73に対する操作量を演算し、これをCR駆動回路75に入力するCR制御部110を備える。CR制御部110は、CR駆動回路75に対する周期的な操作量の入力によって、キャリッジ20の搬送制御を行う。
この他、記録部60は、ヘッド駆動回路80を備える。ヘッド駆動回路80は、制御回路100からの制御信号に従って、インクジェットヘッド21を駆動し、インクジェットヘッド21に、制御信号に従うインク液滴を吐出させる。記録部60が備える制御回路100は、ヘッド駆動回路80に対する制御信号を生成して入力する印字制御部120を備える。印字制御部120は、メインコントローラ30からの指令に従って、印刷対象の画像データに基づく画像が用紙Qに形成されるように、ヘッド駆動回路80に対して制御信号を入力し、インクジェットヘッド21によるインク液滴の吐出動作を制御する。
この他、記録部60は、用紙Qを副走査方向に搬送するための構成として、用紙搬送機構91、LFモータ93、LF駆動回路95、光学センサ25及び信号処理回路99を備える。用紙搬送機構91は、搬送ローラ13及び排紙ローラ15の回転により、プラテン11に沿って用紙Qを副走査方向に搬送する機構である。用紙搬送機構91は、上述した動力伝達機構17及びベルト機構19を備える。
動力伝達機構17は、例えば、図3に示すように、LFモータ93の回転軸に設けられたギヤ171と搬送ローラ13の回転軸に設けられたギヤ173とが連結されてなるギヤ機構170を備えた構成にされる。ベルト機構19は、搬送ローラ13の回転軸に設けられたプーリと、排紙ローラ15の回転軸に設けられたプーリとが無端ベルトにより巻回された機構を一例に挙げることができる。
このような動力伝達機構17及びベルト機構19を備えた用紙搬送機構91によれば、LFモータ93からの動力を搬送ローラ13が動力伝達機構17を介して受けて回転する。一方、排紙ローラ15は、搬送ローラ13の回転によりベルト機構19を介して伝達される動力を受けて、搬送ローラ13と同期回転する。用紙Qは、同期回転する搬送ローラ13及び排紙ローラ15の回転により、プラテン11の上下流で力の作用を受けて副走査方向に搬送される。
この用紙搬送機構91に対し動力を付与するLFモータ93は、LF駆動回路95によって回転駆動される。LF駆動回路95は、制御回路100から入力されるLFモータ93に対する操作量Uに従ってLFモータ93を駆動する。具体的に、LF駆動回路95は、操作量Uに従う駆動電流をLFモータ93に印加するようにLFモータ93を駆動する。LFモータ93の駆動は、PWM制御によって実現される。
また、光学センサ25は、プラテン11と対向するようにキャリッジ20に搭載されて、プラテン11上を通過する用紙Qの移動量を検出する。光学センサ25は、周知の光学センサと同様に、プラテン11上の用紙Qを撮影し、その撮影画像を解析することにより、微小時間毎に、この微小時間における特定方向への用紙変位量ΔPを検出する。信号処理回路99は、光学センサ25により検出された用紙変位量ΔPを、副走査方向への用紙変位量ΔYに変換し、累積することにより、用紙Qの副走査方向への移動量Yを検出する。そして、この移動量Yを制御回路100に入力する。
制御回路100は、信号処理回路99から入力される用紙Qの移動量Yに基づき、LFモータ93に対する操作量Uを演算し、これをLF駆動回路95に入力するLF制御部130を備える。LF制御部130は、LF駆動回路95に対する周期的な操作量Uの入力によって、搬送ローラ13及び排紙ローラ15の回転を制御し、ひいては、用紙Qの副走査方向に対する移動量Yを制御する。
続いて、LF制御部130の構成を、図4を用いて説明する。図4に示すようにLF制御部130は、目標指令器131と、FF制御器133と、FB制御器135と、切替器137と、スミス補償器139と、加算器141,143と、減算器145,147とを備える。
目標指令器131は、メインコントローラ30から指定された目標プロファイルに従って各時刻における目標移動量Yrを出力する。用紙Qの間欠搬送開始時には、目標プロファイルとして、用紙Qの現在位置から所定量Ye進んだ目標停止位置までの目標移動量Yrの時間関数Yr(t)が設定される。
時間関数Yr(t)は、例えば、図4に示すように、目標移動量Yrがゼロから目標停止位置に対応する所定量Yeに近づくに従って、時間微分dYr/dtがゼロに収束するような関数に設定される。ここで、時間関数Yr(t)は、各回の間欠搬送開始時を時刻t=0とする関数である。信号処理回路99から入力される移動量Yは、各回の間欠搬送開始時に値ゼロを採るものとする。
FF制御器133は、この目標指令器131から出力される目標移動量Yrに基づき、用紙Qの移動量Yをフィードフォワード制御する制御器であり、目標移動量Yrを所定伝達関数に入力して得られるフィードフォワード操作量Uffを加算器141に入力する。
一方、FB制御器135の手前に配置された減算器145は、目標指令器131からの目標移動量Yrと、信号処理回路99から入力される用紙Qの移動量Yをむだ時間補償量δで補正してなる補正後の移動量Y*=Y+δとの偏差E=Yr−Y*を算出する。この偏差Eは、FB制御器135に入力される。
FB制御器135は、偏差Eを所定伝達関数に入力して得られるフィードバック操作量Ufbを、加算器141に入力する。加算器141は、フィードフォワード操作量Uffとフィードバック操作量Ufbとを加算することにより、LFモータ93に対する操作量U=Uff+Ufbを算出し、算出した操作量UをLF駆動回路95に入力する。
図4に示す制御対象150は、LF駆動回路95、LFモータ93、用紙搬送機構91、光学センサ25、及び、信号処理回路99を構成要素とする操作量Uの入力から移動量Yの検出までの伝達系を表すものである。制御対象150の伝達系は、光学センサ25及び信号処理回路99において用紙Qの移動量Yを検出するのに要する時間に対応するむだ時間要素151と、それ以外の機械要素155とを含む。むだ時間Lは、光学センサ25による用紙Qの撮影から、その撮影結果に基づき検出した移動量YのLF制御部130に対する入力までに要する時間に対応する。信号処理回路99により検出された移動量Yは、LF制御部130が有する加算器143に入力される。
加算器141で算出された操作量Uは、切替器137にも入力される。切替器137は、用紙Qが目標停止位置よりも予め設定されたオフセット量Cだけ上流の切替位置を通過するまでは、操作量Uをスミス補償器139に入力し、用紙Qが当該切替位置を通過した後には、操作量Uに代えて値ゼロをスミス補償器139に入力する。以下では、切替器137からスミス補償器139への入力値のことを補償器入力とも表現し、補償器入力をパラメータU*を用いて表現する。
具体的に、切替器137は、目標停止位置に対応する目標移動量Yr=Yeからオフセット量Cだけ減算した値Yc=Ye−Cと、目標指令器131から入力される目標移動量Yrとを比較し、目標移動量Yrが上記切替位置に対応する値Yc未満であるときには、操作量Uに一致する値U*=Uをスミス補償器139に入力し、目標移動量Yrが値Yc以上であるときには、値U*=0をスミス補償器139に入力する。
スミス補償器139は、この補償器入力U*を、制御対象150の機械要素155をモデル化してなる伝達関数Gp*(s)に入力して、その出力値Ynを減算器147に入力する一方、値Ynをむだ時間要素151に対応する伝達関数exp(−L*s)に入力して、その出力値Ydを減算器147に入力する。伝達関数Gp*(s)は、制御対象150の機械要素155の真の伝達関数Gp(s)からのモデル化誤差を含む。同様に、伝達関数exp(−L*s)は、むだ時間L*において真値Lからの誤差を含む。
このスミス補償器139からの出力値Ynは、むだ時間要素151を考慮しない制御対象150の伝達モデルにおける操作量U(補償器入力U*)に対応する用紙Qの移動量Yを表す。出力値Ydは、むだ時間要素151を考慮した制御対象150の伝達モデルにおける操作量U(補償器入力U*)に対応する用紙Qの移動量Yを表す。
減算器147は、このように算出される値Ynと値Ydとの差(Yn−Yd)を、むだ時間補償量δとして算出するが、この差(Yn−Yd)は、信号処理回路99から入力される移動量Yのむだ時間要素151に起因する真値からの誤差に対応する。減算器147は、算出したむだ時間補償量δを加算器143に入力する。
加算器143は、信号処理回路99によって検出された用紙Qの移動量Yにむだ時間補償量δを加算して移動量Yを補正し、補正後の移動量Y*=Y+δを減算器145に入力する。
続いて、LF制御部130によるLFモータ93の制御手順の一例を、図5を用いて説明する。LF制御部130は、図5に示すモータ制御処理を所定の制御周期毎に実行することにより、LF駆動回路95に入力する操作量Uを更新し、用紙Qを所定量Ye搬送する過程(間欠搬送過程)における用紙Qの移動量Yを制御する。
LF制御部130は、制御周期毎のモータ制御処理において、まず入出力処理を実行する(S110)。入出力処理では、前回算出した操作量UをLF駆動回路95に入力する一方、信号処理回路99によって検出された最新の移動量Yを信号処理回路99から取り込む。
続いて、LF制御部130は、目標移動量Yrを更新し(S120)、目標移動量Yrが値Yc=(Ye−C)以上であるか否かを判断する(S130)。そして、Yr<Ycであるときには(S130でNo)、補償器入力U*=Uに設定し(S140)、Yr≧Ycであるときには(S130でYes)、補償器入力U*をU*=0に切り替える(S150)。S130〜S150によって実現される機能は、切替器137によって実現される機能に対応する。
LF制御部130は、この補償器入力U*に基づいてむだ時間補償量δを算出する(S160)。更に、S110の入出力処理で得た移動量Yに、むだ時間補償量δを加算することにより、光学センサ25を用いて検出された移動量Yを、Y*=Y+δに補正する(S170)。そして、補正後の移動量Y*と、目標移動量Yrとの偏差E=Yr−Y*を算出し(S180)、この偏差Eに基づいたフィードバック操作量Ufbと、目標移動量Yrに基づいたフィードフォワード操作量Uffとを加算して、LFモータ93に対する操作量U=Uff+Ufbを算出する(S190)。ここで算出された操作量Uは、次周期の入出力処理(S110)にて、LF駆動回路95に入力される。LF制御部130は、一例として、このようなモータ制御処理を周期的に実行する。
付言すると、LF制御部130は、用紙Qが目標停止位置に到達した後も、目標移動量Yr=Yeに対して上述した処理を繰り返すことにより、LFモータ93に対して保持電流を印加するための操作量UをLF駆動回路95に入力する。保持電流は、用紙Qを停止位置に維持するためにLFモータ93に印加する電流である。
本実施例によれば、搬送ローラ13とLFモータ93とを結ぶ動力伝達機構17がギヤ機構170を備えるために、用紙Qが目標停止位置に到達した後、LFモータ93に対する駆動電流をゼロにするとギヤ171,173が逆回転して用紙Qが後退してしまう。同様に、用紙Qには搬送抵抗が生じることから、LFモータ93に対する駆動電流をゼロにすると用紙Qと搬送ローラ13との間の力の均衡が解けて、搬送ローラ13が逆回転し用紙Qが後退してしまう。
特に、搬送ローラ13より上流の搬送経路(給紙経路)が湾曲している場合には、用紙Qの湾曲によって、用紙Qが後退する方向の力の作用が大きくなる。図1に示す画像形成システム1では、搬送ローラ13より上流の搬送経路が経路構成部材12によって湾曲している。
このような保持電流に対応する反力は、用紙Qが目標停止位置に到達する前から、用紙搬送方向とは逆方向の力としてLFモータ93に作用する。しかしながら、この種の反力を伝達モデルに組み込むことは複雑であることから、スミス補償器139には、伝達関数Gp*(s)として、上記反力を考慮しない伝達関数が通常設定される。本実施例のスミス補償器139においても、伝達関数Gp*(s)には、上記反力に対応する伝達系がモデル化されていない。
即ち、本実施例のスミス補償器139における伝達関数Gp*(s)には、上記反力に対応するモデル化誤差が含まれる。そして、このモデル化誤差は、仮にLF制御部130に対して切替器137を設けずに、補償器入力U*として常に操作量U*=Uを入力したとき、定常偏差を生む。
用紙Qを目標停止位置で停止させる際には、用紙Qが目標停止位置に近づくに連れてゆっくりと用紙Qを目標停止位置に搬送することになる。しかしながら、このときには、モデル化誤差の影響を受けて、補正後の移動量Y*が実際よりも大きく見積もられてしまい、このことが原因で、用紙Qが目標停止位置に到達していないのにも拘らず、偏差E=Yr−Y*がゼロに収束して、それ以上、用紙Qが下流に進まなくなってしまう。
ここで言う、定常偏差は、仮にLF制御部130に対して切替器137を設けずに、補償器入力U*として常に操作量U*=Uを入力したときに生じる目標停止位置と実際の用紙Qの停止位置との誤差のことを言う。
図6には、定常偏差の例を複数例示す。定常偏差は、搬送する用紙Qの種類によって異なる。用紙Qの種類としては、用紙のサイズ、材質及び厚み等で分類される種類を挙げることができる。例えば、用紙Qの種類としては、普通紙、光沢紙及び厚紙を一例に挙げることができる。一般的に、用紙Qが厚紙や光沢紙である場合には、用紙Qが普通紙であるときよりも搬送抵抗が高く、反力が大きい。例えば、用紙Qが厚紙や光沢紙である場合には、用紙Qが湾曲している場合の復元力(湾曲を解消しようとする力)が強いことから、反力は大きくなる。そして、定常偏差は、反力が大きい程、大きくなる。
このため、本実施例では、画像形成システム1において搬送される用紙Qの種類毎の定常偏差を求め、これらの内、最も大きい定常偏差よりも大きいオフセット量CをLF制御部130に設定する。このようなオフセット量Cの選択によって、用紙Qが停止してしまう位置よりも上流の位置に到達した時点で、補償器入力U*を、U*=UからU*=0に切り替えるようにLF制御部130を構成する。
補償器入力U*をゼロに切り替えると、スミス補償器139では、伝達関数Gp*(s)によりLFモータ93の駆動電流がゼロに切り替えられた状態での値Yn,Ydが演算され、むだ時間補償量δ=Yn−Ydが演算される。このとき値Yn,Ydは一定値に収束していくことから、このむだ時間補償量δは、徐々にゼロに減少していくように時間変化する。即ち、補正後の移動量Y*は、徐々に、移動量Yに収束する方向に変化する。
例えば、図3に示す動力伝達機構17を採用した場合には、次のような2慣性モデルを定義することができる。
ここで、パラメータJ1、D1及びθ1は、夫々順に、LFモータ軸における慣性モーメント、粘性摩擦係数及び回転角に対応し、パラメータJ2、D2及びθ2は、夫々順に、搬送ローラ軸における慣性モーメント、粘性摩擦係数及び回転角に対応する。この他、Ksは、捻りトルク定数を表し、Ktは、モータトルク定数を表し、iaは、LFモータ93に対する駆動電流を表す。
ここで、搬送ローラ軸の運動方程式に着目し、加速する側に作用するKs(θ1−θ2)を無視すると、この運動方程式は、次のように近似される。
上式は、J2が小さいほど、dθ2/dtが早く減少することを意味するが、J2は、1制御周期の間にdθ2/dtが瞬時にゼロに落ちるような小さな値を、通常の制御周期では採りえない。従って、本実施例のように補償器入力U*を、U*=UからU*=0に不連続に切り替えても、むだ時間補償量δは、制御周期に対して大きな不連続性を示さず、徐々にゼロに減少していくように時間変化する。従って、本実施例によれば、上記補償器入力U*の不連続な切替によっても、制御が不安定にならないように、適切にむだ時間補償量δを低減することができる。
以上、本実施例の画像形成システム1について説明した。本実施例によれば、用紙Qを所定量Ye搬送する搬送制御の初期には、LFモータ93の操作量Uに対応したむだ時間補償量δを算出して、スミスむだ時間補償を含む用紙Qの搬送制御を行う一方、搬送制御の後期には、補償器入力U*を、操作量Uからゼロに変更することで、むだ時間補償量δを低減し、最終的には、スミスむだ時間補償を含まない用紙Qの搬送制御を行う。
具体的には、用紙Qの種類毎に異なる定常偏差を考慮して、これらの定常偏差よりも大きいオフセット量Cを設定する。そして、目標停止位置からオフセット量C分上流の地点に用紙Qが到達した時点で、補償器入力U*を操作量Uからゼロに変更することで、むだ時間補償量δをゼロまで徐々に低減する。
従って、本実施例によれば、搬送制御後期の適切なタイミングで、しかも補償器入力U*の切替といった簡単な手順で、むだ時間補償量δを徐々に減少させながら、用紙Qの搬送制御に対するスミスむだ時間補償の影響を抑えることができる。結果、本実施例によれば、スミスむだ時間補償の利点を生かしながら欠点を抑えて、用紙Qを適切に目標停止位置まで搬送することができ、用紙Qを所定量Yeずつ正確に送り出すことができる。よって、本実施例によれば、高精度に用紙Qに画像を形成可能な画像形成システム1を構築することができる。
光学センサ25を用いた移動量Yの検出では、ロータリエンコーダ等を用いて搬送ローラ13の回転を観測し用紙Qの移動量Yを検出する場合よりも、精度よく移動量Yを検出することができるが、移動量Yの検出に時間を要し、むだ時間が大きい。
一方、このむだ時間による制御精度を解消するために、単にスミスむだ時間補償を行うだけでは、上述した定常偏差の問題が生じる。本実施例によれば、光学センサ25を利用しつつ、スミスむだ時間補償による定常偏差の問題を抑えることができるので、光学センサ25を用いて高性能な画像形成システム1を構築することができる。
ところで、上述した画像形成システム1には、次のような変形例が考えられる。
[第一変形例]
本変形例は、上記実施例の画像形成システム1において、オフセット量Cを、搬送対象の用紙Qの種類に応じて変更するようにした例である。この点を除いて本変形例の画像形成システム1は、上記実施例の画像形成システム1と同一構成にされ得る。従って、以下では、上記実施例の画像形成システム1と異なる構成を選択的に説明する。
本変形例の画像形成システム1は、メインコントローラ30が、内蔵するメモリ31に、用紙Qの種類毎のオフセット量Cを記憶する。そして、メインコントローラ30は、外部機器から印刷対象の画像データを受信したことを契機に、外部機器から指定された種類の用紙Qを給紙するように給紙部50に対して指令入力する。そして、この指令入力後、図7に示す処理を実行する。この処理では、給紙される用紙Qの種類に対応したオフセット量Cをメモリ31から読み出し(S210)、読み出したオフセット量CをLF制御部130に対して設定する(S220)。その後、メインコントローラ30は、記録部60に対して指令入力し、記録部60に、用紙Qを所定量Ye搬送する用紙Qの搬送制御、並びに、印字制御(インク液滴の吐出制御及びキャリッジ20の搬送制御)を交互に実行させる(S230)。
本変形例によれば、用紙Qの種類毎の定常偏差に対応したオフセット量Cを用いて、補償器入力U*を、一層適切なタイミングでU*=UからU*=0に切り替えることができるので、一層高精度な用紙Qの間欠搬送を実現することができる。
[第二変形例]
本変形例の画像形成システム1は、上記実施例の画像形成システム1と同様に、用紙Qの搬送制御の後期において、むだ時間補償量δをゼロまで徐々に低減するものであるが、そのむだ時間補償量δを低減する方法が異なる。この点を除いて本変形例の画像形成システム1は、上記実施例の画像形成システム1と同一構成にされ得る。従って、以下では、上記実施例の画像形成システム1と異なる構成を選択的に説明する。
本変形例の画像形成システム1におけるLF制御部161は、図8に示すように構成される。本変形例のLF制御部161は、加算器141からスミス補償器139への経路に切替器137を有さない。即ち、このLF制御部161は、用紙Qの搬送制御の後期においても、補償器入力U*として、スミス補償器139に操作量Uを入力し続ける構成にされる。
一方、このLF制御部161は、減算器147から加算器143への経路に、調整器163を備える。調整器163は、減算器147から入力されるむだ時間補償量δを補正し、補正後の補償量δ*を、加算器143に入力する。加算器143は、信号処理回路99から入力される移動量Yに、この補償量δ*を加算して、移動量YをY*=Y+δ*に補正する。LF制御部161は、このようにして算出される補正後の移動量Y*と目標移動量Yrとの偏差E=Yr−Y*に対応したフィードバック操作量Ufbを算出する。
具体的に、調整器163は、所定条件が満足されるまでは、補償量δ*として、減算器147からのむだ時間補償量δと同一値δ*=δを、加算器143に入力する。一方、所定条件が満足されると、その時点(時刻t=Tc)から、ゼロまで徐々に減少する係数F(t−Tc)をむだ時間補償量δに乗算して、加算器143に入力する補償量δ*を徐々に低減する。
ここで用いる係数F(t−Tc)の時間関数としては、例えば、次の関数を採用することができる。
ここで、パラメータAは、係数F(t−Tc)を、値1からゼロに低減するまでの経過時間に対応する。パラメータAは、設計者が定めることができる。但し、係数F(t−Tc)は、時刻t=Tcから次第にゼロに減少するような関数で定義されればよく、上記関数に限定されない。
調整器163は、このような係数F(t−Tc)を用いて、むだ時間補償量δに乗算して、加算器143に入力する補償量δ*=F(t−Tc)×δを算出することにより、偏差Eの算出に用いられるむだ時間補償量δ*を徐々に低減する。
この調整器163は、目標移動量Yrの時間微分dYr/dtから特定される目標移動速度Vrと、予め定められた基準速度Vcとを比較し、目標移動速度Vrが基準速度Vcより大きい値から基準速度Vc以下に下がるまでは、δ*=δを加算器143に入力し、目標移動速度Vrが基準速度Vc以下に下がる事象の発生時点(t=Tc)以降では、δ*=F(t−Tc)×δを加算器143に入力するように構成される。
図4に示す目標移動量Yrの軌跡から理解できるように、目標移動速度Vrは、搬送制御初期において、値ゼロから上昇し、その後下降に転じて、搬送制御後期には、基準速度Vcを下回る。本実施例では、この基準速度Vcを、用紙Qが目標停止位置より手前で停止する可能性を十分に抑制できる速度に定めて、これをLF制御部161に対して設定する。
このように構成されるLF制御部161によるLFモータ93の制御手順の一例を、図9を用いて説明する。但し、図9に示すS310,S320,S380,S390の処理は、夫々順に、図5に示すS110,S120,S180,S190の処理に対応する。従って、以下では、S330〜S370の処理について選択的に説明する。
S330に移行すると、LF制御部161は、入出力処理(S310)にて出力された操作量Uに対応するむだ時間補償量δを算出する。その後、用紙Qの搬送制御の開始時点(t=0)から現在までに目標移動速度Vrが基準速度Vcより大きい値から基準速度Vc未満に下がる事象が発生したか否かを判断する(S340)。そして、当該事象が発生していないと判断すると(S340でNo)、S350に移行して、補償量δ*をS330で算出したむだ時間補償量δに設定する(δ*=δ)。その後、S370に移行する。
一方、上記事象が発生したと判断すると(S340でYes)、S360に移行し、パラメータnを1加算した値に更新する。尚、時刻t=0におけるパラメータnの初期値はゼロである。
その後、LF制御部161は、S365に移行し、補償量δ*を、S330で算出したむだ時間補償量δに係数F=1−(1/N)×nを乗算した値{1−(1/N)×n}×δに設定する(δ*={1−(1/N)×n}×δ)。但し、n>Nであるときには、補償量δ*を、δ*=0に設定する。その後、S370に移行する。S340〜S365によって実現される機能は、調整器163によって実現される機能に対応する。
S370において、LF制御部161は、入出力処理(S310)で信号処理回路99から得た移動量Yに、補正後のむだ時間補償量δ*を加算することにより、光学センサ25を用いて検出された移動量Yを、Y*=Y+δ*に補正する。その後、S380,S390にて、偏差E=Yr−Y*に基づいたフィードバック操作量Ufbを算出し、LFモータ93に対する操作量Uを算出する。
以上、第二変形例の画像形成システム1について説明したが、本変形例によっても、上述した実施例と同様の効果を得ることができる。特に、本実施例によれば、補償量δ*を、δ*=δからδ*={1−(1/N)×n}×δに切り替える条件として、用紙Qの速度(目標移動速度Vr)の情報を用いるので、用紙Qの種類に依らず適切なタイミングで当該切替を行うことができる。
但し、上述した調整器163は、上記実施例の切替器137と同様の思想に基づいて補償量δ*の切替を行う構成にされてもよい。即ち、調整器163は、目標停止位置に対応する目標移動量Yr=Yeからオフセット量Cだけ減算した値Yc=Ye−Cと、目標指令器131から入力される目標移動量Yrと、を比較し、目標移動量Yrが上記切替位置に対応する値Yc未満であるときには、δ*=δを加算器143に入力し、目標移動量Yrが値Yc以上であるときには、所定条件が満足されたとして、δ*=F(t−Tc)×δを加算器143に入力する構成にされ得る。
[第三変形例]
本変形例の画像形成システム1は、上記実施例の画像形成システム1と同様に、用紙Qの搬送制御の後期において、むだ時間補償量δをゼロまで徐々に低減するものであるが、そのむだ時間補償量δを低減する方法が異なる。この点を除いて本変形例の画像形成システム1は、上記実施例の画像形成システム1と同一構成にされ得る。従って、以下では、上記実施例の画像形成システム1と異なる構成を選択的に説明する。
本変形例の画像形成システム1におけるLF制御部165は、図10に示すように構成される。本変形例のLF制御部165は、加算器141からスミス補償器139への経路に切替器137を有さない。即ち、このLF制御部165は、用紙Qの搬送制御の後期においても、補償器入力U*として、スミス補償器139に操作量Uを入力し続ける構成にされる。
一方、このLF制御部165は、スミス補償器139に設定されたむだ時間L*を調整するための調整器167を備える。この調整器167は、所定条件が満足されるまでは、むだ時間L*を、上記実施例と同様に、制御対象150のむだ時間Lの推定値L0に設定する。一方、所定条件が満足されると、その時点(時刻t=Tc)から、むだ時間L*を、L*=0まで徐々に減少させる。例えば、第二変形例で説明した係数F(t−Tc)と同様の係数を用いて、L*=F(t−Tc)×L0に設定することができる。
このようにして本変形例ではむだ時間L*を低減することにより、値Ydを値Ynに近づけ、結果として、所定条件が満足されると、加算器143に入力されるむだ時間補償量δをゼロまで減少させる。
具体的に、調整器167は、上記実施例の切替器137と同様の思想に基づいてむだ時間L*の切替を行う構成にすることができる。即ち、調整器167は、目標停止位置に対応する目標移動量Yr=Yeからオフセット量Cだけ減算した値Yc=Ye−Cと、目標指令器131から入力される目標移動量Yrと、を比較し、目標移動量Yrが上記切替位置に対応する値Yc未満であるときには、L*=L0に設定し、目標移動量Yrが値Yc以上であるときには、所定条件が満足されたとして、L*=F(t−Tc)×L0に設定する構成にすることができる。
この他、第二変形例と同様に、調整器167は、目標移動速度Vrに基づいて、上記所定条件が満足されたか否かを判断する構成にされてもよい。
[他の実施例]
以上に、本発明の実施例及び変形例について説明したが、本発明は、上述した実施例及び変形例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。例えば、本発明は、画像形成システム1に限定されるものではなく、対象物を目標停止位置まで搬送する種々の搬送システムに適用することができる。
[対応関係]
最後に、用語間の対応関係について説明する。用紙搬送機構91及びLFモータ93は、搬送ユニットの一例に対応し、LF駆動回路95は、駆動ユニットの一例に対応し、光学センサ25及び信号処理回路99は、検出ユニットの一例に対応する。
また、LF制御部130が有する目標指令器131、FF制御器133、FB制御器135、加算器141,143及び減算器145は、制御ユニットの一例に対応し、スミス補償器139及び減算器147は、スミス補償ユニットの一例に対応する。
この他、切替器137及びメインコントローラ30によるオフセット量Cの設定動作によって実現される機能、又は、調整器163,167によって実現される機能は、低減ユニットによって実現される機能の一例に対応する。