JP6209560B2 - 蒸留酒の製造方法および装置 - Google Patents
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Description
従来、常圧蒸留工程を経て製造された蒸留酒は、味、香りともに濃厚で芳醇な酒質が得られるが、加熱反応によりオフフレーバーが生成され、香りの悪化をもたらしてしまうという問題が知られていた。常圧蒸留工程は、多くの微量成分を抽出し香りが強く、味わい深い芳醇な酒質にするのに必要であるため、常圧蒸留工程を経ながら、オフフレーバーの生成を低減することができる蒸留酒の製造方法が求められていた。
そこで、本発明は、常圧蒸留工程を経ながら、焦げ臭がなくオフフレーバーが少ない発酵液固有の芳香を含む芳醇な酒質の蒸留酒を提供することを目的とする。
減圧蒸留工程は、低沸点の成分のみを抽出し軽くてすっきりとした味わいの酒質にするのに必要であるため、減圧蒸留工程を経ながら、低沸点の成分であるエステル香や甘味を付加したが味、香りともにより濃厚な酒質の蒸留酒の製造方法が求められていた。
そこで、本発明は、減圧蒸留工程を経ながら、軽く、クセのないすっきりとした味わいにエステル香や甘味を付加してバランスよく混ぜあわさった官能的に特徴のある蒸留酒を提供することを目的とする。
そこで、本発明は、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒の双方の酒質を同時に改質することを目的とする。
また、一つの蒸留前醪から、焦げ臭がなくオフフレーバーが少ない発酵液固有の濃厚な芳香を含む芳醇な酒質の常圧蒸留工程を経た蒸留酒と、発酵液固有の芳香や風味を抑えてエステル香や甘味が前面に出た芳醇な酒質の減圧蒸留工程を経た蒸留酒を提供することを目的とする。
そこで、本発明は、固液分離した醪固形部を蒸留に用い、蒸留酒本来の芳香を生かした蒸留酒を製造することを目的とする。
そこで、本発明は、原材料追加、蒸留設備および工程の改変を最小限としながら、酒質の異なる複数の蒸留酒を製造する方法および装置を提供することを目的とする。
(1)少なくとも醪のアルコール発酵工程および蒸留工程を含む蒸留酒の製造方法において、蒸留前醪を常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に振り分け、該常圧蒸留用醪は物理的固液分離により醪液部と醪固形部に分離し、その後、得られた醪液部は常圧蒸留し、該減圧蒸留用醪は、前記分離された醪固形部を追加投入した後、減圧蒸留し、それぞれ酒質の異なる複数の蒸留酒を得ることを特徴とする方法。
(2)異なる容器中の蒸留前醪を各容器毎に常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪にそれぞれ振り分けることを特徴とする、上記(1)に記載の蒸留酒の製造方法。
(3)同一の容器中の蒸留前醪を分割して常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に振り分けることを特徴とする、上記(1)に記載の蒸留酒の製造方法。
(4)前記物理的固液分離が、遠心分離または圧搾濾過による工程である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(5)前記分離された醪固形部を追加投入した後の減圧蒸留用醪は、固形分の質量が追加投入する前の150〜250質量%である、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(6)前記固液分離により分離された醪液部は、酵母菌体を除去する工程を経た後で常圧蒸留に付されることを特徴とする、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(7)前記固液分離により分離された醪液部は、濁度が10倍希釈時に0.5以下である、上記(6)に記載の蒸留酒の製造方法。
(8)前記減圧蒸留を経て、醪液部の低沸点成分の芳香や風味と、醪固形部に含まれる果実を思わせるエステル香や甘味とがバランスよく混ざり全体で芳醇な酒質の蒸留酒を得ること、および、前記常圧蒸留を経て、焦げ臭や渋みといった不快な味、香りが減少あるいは除かれ、かつ、高沸点で多くの微量成分の香味により全体的に増強された香りが強く、味わい深い酒質の蒸留酒を得ることを特徴とする、上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(9)得られた前記酒質の異なる複数の蒸留酒をブレンドする工程を含むことを特徴とする、上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(10)前記蒸留前醪が蒸留前二次醪であり、前記蒸留酒が焼酎である、上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
(11)前記焼酎が麦焼酎である、上記(10)に記載の蒸留酒の製造方法。
(12)(1)ないし(11)のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法を実施するための蒸留酒の製造装置であって、常圧蒸留用醪を醪液部と醪固形部に分離するための物理的固液分離装置と、第一および第二の蒸留塔と、第一の蒸留塔に連通する第一の凝縮器および第一の回収容器と、第二の蒸留塔に連通する第二の凝縮器、真空ポンプおよび第二の回収容器とを有し、前記第一の蒸留塔が、前記物理的固液分離装置により固液分離された醪液部を常圧蒸留し、前記第二の蒸留塔が、減圧蒸留用醪に前記固液分離装置により固液分離された醪固形部を追加投入した醪を減圧蒸留することを特徴とする、蒸留酒の製造装置。
(13)前記固液分離機が、遠心分離機または圧搾濾過機である(12)に記載の蒸留酒の製造装置。
減圧蒸留工程を経て製造された蒸留酒は、オフフレーバーの生成を低減することができた、軽く、クセのないすっきりとした味わいの酒質が特徴であり、味、香りともに濃厚で芳醇な酒質が得られなかったところ、本発明においては、醪液部の低沸点成分の芳香や風味と、醪固形部に含まれる果実を思わせるエステル香や甘味がバランスよく混ざり全体で芳醇な酒質の蒸留酒を提供することができる。
すなわち、本発明により、焦げ臭がなくオフフレーバーが少ない発酵液固有の味、香りを含む味、香りともに濃厚で芳醇な酒質の蒸留酒、発酵液固有の芳香や風味およびエステル香や甘味が前面に出た芳醇な酒質の蒸留酒という、酒質の異なる複数の蒸留酒を製造する方法および装置を提供することができる。
そこで、本発明に係る蒸留酒の製造方法は、焦げ臭や不必要な分解成分の発生の原因となる固形分を除去した醪を常圧蒸留工程の蒸留対象とし、除去した固形分を別の醪と混合した醪を減圧蒸留工程の蒸留対象とすることで、従来の常圧蒸留と減圧蒸留の上記特有の性質を両方とも同時に変更して、新しい酒質をもった異なる複数の蒸留酒を得ようとするものである。
物理的固液分離装置で分離された醪液部には固形分をできるだけ含まないようにすることが好ましく、例えば、醪液部の濁度が10倍希釈時に1.0以下、好ましくは0.1〜0.5とするか、または、醪から分離された醪固形部の質量が、固液分離前の醪の体積あたり0.05〜0.20g/mlとすることが目標値とされる。これは、残留する固形分が常圧蒸留の工程中に加熱されて焦げ臭や不必要な分解成分が発生しないようにするためである。
醪固形部を追加投入した後の減圧蒸留用醪の固形分量は、醪固形部を追加投入する前の醪中に含まれる固形分の質量を100%とすると、150〜250%とすることが好ましい。醪固形部の固形分濃度については、醪固形部を醪に添加して減圧蒸留した際の原酒の香味改善効果にさほど影響を与えないと考えている。上記の範囲を維持することにより、酵母由来の旨味を増強することができる。
遠心分離または圧搾濾過による固液分離により分離された醪液部は、酵母菌体を除去する工程を経た後で常圧蒸留に付される。醪液部の濁度は常圧蒸留後の原酒の香味改善効果に影響を与える条件である。酵母菌体を除去する工程は遠心分離または圧搾濾過の精度を上げることにより行うことができる。後述する醪液部の濁度に関する再試験において、遠心分離条件(3000rpm、10分)で得られた醪液部の10倍希釈時の濁度は0.683であったが、過去の試験で、この条件では香味改善効果はないことが確認されていた。したがって、その結果より、常圧蒸留時に原酒の香味改善効果が得られるのは醪液部の10倍希釈時の濁度が約0.5以下(酵母生菌数が約2×104cells/ml以下)のときであると考えられるが、実規模でもろみの固液分離を行なう場合は、濁度がこの値よりも高くなることが考えられる。したがって、固液分離により分離された醪液部は、濁度が10倍希釈時に1.0以下、好ましくは0.5以下である。醪液部の濁度の下限は、香味改善効果が得られるには10倍希釈時に0.1程度である。
醪液部は、そのまま常圧蒸留工程で蒸留に付される。
よって、従来の材料追加、蒸留設備および工程の改変を最小限とすることができる。
また、醪固形部の利用には空隙材の添加が不要であるので、蒸留酒の本来の風味が阻害されることもない。
さらにまた、一つの蒸留前醪を常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に分けて用いた場合、一つの蒸留前醪から、焦げ臭がなくオフフレーバーが少ない、高沸点で多くの微量成分の香味が全体的に増強された香りが強く、味わい深い酒質の蒸留酒と、軽く、クセのないすっきりとした味わいにエステル香や甘味を付加してバランスよく混ぜあわさった官能的に新しい蒸留酒とを製造することができる。
常圧蒸留によって、固形分がほとんど存在しないので、焦げや渋みといった不快な味、香りが生じることはなく、蒸留温度が高いことによって、高沸点で多くの微量成分の香味が留出し、焦げ臭がなくオフフレーバーが少ない高沸点で多くの微量成分の香味が全体的に増強された香りが強く、味わい深い酒質の蒸留酒となり、減圧蒸留によって、蒸留温度が低いため、高い温度の蒸留成分の芳香や風味が抽出されないため、醪液部の低沸点成分の芳香や風味と、醪固形部に含まれる果実を思わせるエステル香や甘味がバランスよく混ざり全体で芳醇な酒質の蒸留酒となる。
常圧蒸留用醪を醪液部と醪固形部に分離するための物理的固液分離装置と、
第一および第二の蒸留塔と、
第一の蒸留塔に連通する第一の凝縮器および第一の回収容器と、
第二の蒸留塔に連通する第二の凝縮器、真空ポンプおよび第二の回収容器とを有し、
前記第一の蒸留塔が、前記固液分離装置により固液分離された醪液部を常圧蒸留し、
前記第二の蒸留塔が、減圧蒸留用醪に前記固液分離装置により固液分離された醪固形部を追加投入した醪を減圧蒸留することを特徴とする。
蒸留酒とは、醸造酒をさらに蒸留して製造するアルコール分が高い酒であって、米や大麦などの穀類、リンゴ、サクランボ、洋ナシなどの果実、その他にサトウキビ、リュウゼツラン、イモ類などを原料として発酵させて製造した醸造酒を蒸留してアルコール濃度を高くしたものであり、スピリッツとも称されている。その代表的な種類としては、ウォッカ、ラム、テキーラ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、カルバドス、キルシュなどが知られている。本発明で対象となる「蒸留酒」は、このような蒸留酒と称されている種類の酒類であるが、特に、焼酎のような少なくとも醪のアルコール発酵工程および蒸留工程を含む蒸留酒が好ましい。焼酎は、主原料には米や麦などの穀類、甘藷、馬鈴薯などのいも類、清酒製造の副産物である白糠、酒粕などの加工原料、黒糖などの糖質原料、木の実やその他の原料が使用される。この主原料により焼酎の風味特徴が形成され、焼酎の種類が決まる。
(あ)ウイスキー類
ウイスキー:発芽穀類、水を原料として、糖化・発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの、およびこれにアルコール、スピリッツ、香味料、色素などを添加したもの。
ブランデー:果実または果実と水を原料として、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの、およびこれにアルコール、スピリッツ、香味料、色素などを添加したもの。
スピリッツ:清酒、合成清酒、焼酎、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類(ウイスキー、ブランデー)の酒類以外の酒類で、かつエキス分が2度未満のもの(雑酒を除く)のうち、原料用アルコール以外のもの。例:ジン、ラム、ウォッカ、テキーラ、ニュースピリッツや甲類スピリッツなど。
ジン:アルコール含有物を蒸留する際、アルコールに他の物品の成分を浸出させたもの。
ラム:砂糖、糖蜜などの含糖質物を原料としたもので蒸留の際のアルコール分が95%未満のもの。
ウォッカ:しらかばの炭でこしたもの。
原料用アルコール:アルコール含有物を蒸留した酒類で、アルコール分が45%を越えるスピリッツ。
焼酎甲類:アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が36%未満のもの。
焼酎乙類:アルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が45%以下のもの。
[工程1]常圧蒸留用醪1および減圧蒸留用醪2を製造する工程
[工程2]常圧蒸留用醪を固液分離によって醪液部3と醪固形部4に分離する工程
[工程3A]醪液部3を常圧蒸留する工程
[工程3B]醪固形部4を減圧蒸留用醪5に追加投入して製造した混合醪5を減圧蒸留する工程
以下、焼酎を例に各工程の説明をする。
下記に説明する従来の焼酎の製造方法により、常圧蒸留用と減圧蒸留用の醪を製造する。本工程は大きく4つに分けられ、原料処理、製麹、一次仕込み、二次仕込み、という流れを経る。一次仕込みで醪を製造し、二次仕込みで醪をアルコール発酵させる。
本発明に係る製造方法は、上記工程を経た醪に限定して適用されるのではなく、蒸留酒の種類により異なる工程を経て製造された醪にも適用することができる。
原料には米や麦をはじめとする穀類、甘藷や馬鈴薯などの芋類、清酒製造の副産物である白糠や酒粕などの加工原料、黒糖のような糖質原料、木の実やその他の原料が使用される。この工程で麹原料および主原料の洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう、放冷が行われ、麹原料は麹造りの工程へ、主原料は二次仕込みの工程へと運ばれる。
麹原料に種麹と呼ばれる麹菌(黒麹・白麹・黄麹等)をまぶして、麹室の中にある麹台で一晩寝かせた後、麹蓋と言われる木の箱に盛り付け、さらに寝かせる。杜氏と蔵子により昼夜を問わず手入れが行われ、麹は繁殖する。
麹に水と酵母を加えて混ぜる。純粋培養した酵母菌を添加して酵母を大量に培養することと、二次仕込みに必要な酵素や、黄麹以外の麹を用いる場合には、醪の腐敗を防ぐクエン酸の溶出を目的としている。黄麹を用いる場合には、黄麹はクエン酸を生産しないので、もろみの腐敗を防ぐために乳酸を添加する。
厳しい温度管理のもと一週間の間で、酒母ともいわれる一次醪ができあがる。その一週間の間は、醪の温度が30℃以上にならないよう慎重に管理をする必要がある。30℃以上になると酵母が弱ってしまい、次の二次仕込みの際に、醪が腐りやすくなるためである。
一次仕込みでできた一次醪に、水洗いして蒸した主原料(芋、麦、黒糖等)と水を加えて混ぜる。略25〜30℃の温度で略8〜20日間かけて発酵し、芳醇な醪となる。ここでも温度管理が重要で、醪の温度が高くなりすぎると酵母によるアルコール発酵が抑えられるため、32℃以上にならないようにする。このような普通仕込に対して、主原料にも麹を使用した仕込は全麹仕込となる。
ここで仕込む主原料が、一次仕込み同様、芋であれば芋焼酎、大麦であれば大麦焼酎、黒糖であれば黒糖焼酎、米であれば米焼酎となる。
常圧蒸留用醪は物理的固液分離装置に投入され、醪液部と醪固形部に分離される。固液分離の方法は、醪の液体含有量を減らすことができればどのような方法をとってもよく、圧搾濾過、遠心分離等により行われる。遠心分離機または空気圧搾機構付横型フィルタープレス機(藪田式圧搾濾過機)を用いる方法が方法として例示される。
醪液部に固形分に含まれる酵母菌体が残っている場合、工程3Aで行う常圧蒸留時にオフフレーバーが発生してダイアセチル臭やイオウ臭の原因となるため、固液分離の際、醪液部に酵母菌体を残さないようにすることが好ましい。固液分離の目安として、分離された醪液部の濁度が10倍希釈時に1.0以下、好ましくは0.1〜0.5、または、醪から分離された醪固形部の質量が、分離前の醪の体積あたり0.05〜0.15g/mlとなるようにすることが好ましい。また、固液分離後の醪液部をさらに高速の遠心分離に投入することにより、酵母菌体を除去してもよい。
醪液部は工程3Aで、醪固形部は工程3Bで利用される。
工程2で得られた醪液部を常圧蒸留して蒸留酒を製造する。
蒸留は、例えば、単式蒸留機を用いて行われる。醪液部を常圧環境下で略85〜100℃に加熱してアルコールを溜出させる。アルコール度数は、蒸留の初めは略70%であるが、徐々に低下していく。アルコール度数が略8〜10%になったところで蒸留を終了する。
蒸留したばかりの焼酎原酒は焼酎油のために白濁しており、そのまま放置すると油が酸化して焼酎に油臭がつくので、すぐに油を分離する。
出来たばかりの焼酎の原酒は、風味や香りといった酒質が不安定な状態なので、一定期間貯蔵して酒質を安定させてから出荷される。貯蔵する期間は、例えば、略1〜3ヶ月である。例えば、泡盛のように、熟成させただけ風味が増し、長期熟成に耐える焼酎では、10年以上貯蔵することも少なくない。しかし、焼酎は種類によって必ずしも熟成を重ねれば旨みが増すとは限らない。焼酎の貯蔵方法もその容器や保管場所の蔵によって異なり、それが焼酎の個性にも反映される。
工程2で得られた醪固形部を減圧蒸留用醪に追加投入し、減圧蒸留して蒸留酒を製造する。
工程2で得られた醪固形部を減圧蒸留用醪に追加投入する。醪固形部に含まれる酵母が混合されることで、酵母由来の果実様のエステル香や旨味が増強される。
追加投入する醪固形部の量の目安として、醪固形部を追加投入した後の減圧蒸留用醪の固形分の質量が、追加投入する前の固形分の質量を100%とした場合で、150〜250%となるようにするのが好ましい。
蒸留は、例えば、単式蒸留機を用いて行われる。醪固形部を追加投入した減圧蒸留用醪を略100〜120Torrの減圧下で略45〜55℃に加熱し、発生した気体を略10〜20℃となるように冷却して凝縮させて焼酎を得る。本工程も工程3A−1と同様、すぐに油を分離する。
工程3A−2と同様、略1〜3ヶ月貯蔵して酒質を安定させる。
本発明に係る製造方法によれば、固液分離により得られた醪固形部を減圧蒸留用醪に追加投入することで、醪の固形分に含まれる酵母由来の果実様のエステル香や旨味が付与されるため、本工程で得られる蒸留酒は、香味および甘みが増加された芳醇な酒質の蒸留酒となる。
本発明に係る蒸留酒の製造方法は、焼酎に限らず、他の蒸留酒においても適用することができる。また、常圧蒸留用醪の固形分の除去量や、減圧蒸留用醪と醪固形部の混合量は適宜変更してもよく、醪の固形分量の異なる複数の蒸留酒を得ることもできる。さらに、得られた複数の蒸留酒をブレンドすることによって、新規な香味を有する蒸留酒を製造することもできる。
本発明に係る大麦焼酎の製造装置について、図2を用いて説明する。この製造装置は、後述する実験例1〜3に係る大麦焼酎を製造するための製造装置である。
図2に示すように、本実験例の蒸留酒製造装置10は、常圧蒸留用醪1および減圧蒸留用醪2の固形分量を調整し、常圧蒸留および減圧蒸留により、第一蒸留酒6および第二蒸留酒7の2種類の蒸留酒を得る装置である。蒸留酒製造装置10は、物理的固液分離装置11、常圧蒸留部12および減圧蒸留部13を主な構成要素とする。
第一蒸留塔14は、塔内の醪液部3を所定の温度まで加熱し、醪のアルコールや香気成分等を気化させ、これらを蒸留するための装置である。第一蒸留塔14には、塔内の醪液部3を加熱する図示しない加熱装置が備えられる。本実験例では、加熱装置として、第一蒸留塔14を覆うジャケットにスチームを供給することによって、間接的に醪液部3を加熱する間接加熱装置が開示される。その他の例として、第一蒸留塔14内の醪液部3にスチームを吹き込む直接加熱装置が挙げられる。
第一回収容器18は、第一凝縮器16により凝縮したアルコールや香気成分等を第一蒸留酒6として回収するための容器である。第一回収容器18は、第一蒸留酒6の酒質を悪化させないよう、例えば、ステンレス等の金属製の容器が用いられるが、第一蒸留酒6に独特の色や香味を付けるために木樽が用いられることもある。
第一凝縮器16および第一回収容器18は、蒸留中の気体が外部に漏れ出すことのないように第一蒸留塔14に連通している。
混合醪5は、減圧蒸留用醪2に醪固形部4が追加投入された醪である。
第二蒸留塔15は、塔内の混合醪5を減圧下で所定の温度まで加熱し、常圧の状態よりも低い温度で醪のアルコールや香気成分等を気化させ、これらを蒸留するための装置である。第一蒸留塔15には、塔内の混合醪5を加熱する図示しない加熱装置が備えられる。本実験例では、加熱装置として、第一蒸留塔15を覆うジャケットにスチームを供給することによって、間接的に醪液部3を加熱する間接加熱装置が開示される。
第二回収容器19は、第二凝縮器17により凝縮したアルコールや香気成分等を第二蒸留酒7として回収するための容器である。第二回収容器19は第一回収容器18と同様の構造である。
第二凝縮器17および第二回収容器19は、第一凝縮器16および第一回収容器18と同様、第二蒸留塔15に連通する。
実験例1では、醪を固液分離した醪液部から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
前述の一次仕込みおよび二次仕込みを経て、異なる製造場で製造された3種類の大麦焼酎醪(普通醪A、普通醪B、全麹醪)を原料として、図2に記載の製造装置を用いて12種類の大麦焼酎を製造し、評価した。
3種類の醪をそれぞれ物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、3種類の醪液部を作製した。得られた普通醪A、普通醪Bおよび全麹醪の醪液部を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−2、1−6、1−10)。
3種類の醪(固液分離せず)を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−3、1−7、1−11)。
3種類の醪をそれぞれ物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、3種類の醪液部を作製した。得られた普通醪A、普通醪Bおよび全麹醪の醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て3種類の大麦焼酎を得た(実験例1−4、1−8、1−12)。
例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例1−1と実験例1−4を同時に行うことにより、一つの醪から常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを製造することが可能である。
また、例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例1−1と実験例1−8を同時に行うことにより、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを二系列で製造することが可能である。
図3に実験例1に係る大麦焼酎の香気成分を示す。実験例1−1〜1−12の醪の種類、減圧/常圧蒸留、固形分離あり/なしの条件は、図中の醪、製造場、蒸留、固液分離の欄に示す。また、図中の数字は、同種の大麦焼酎醪(普通醪A、普通醪B、全麹醪)および同一の蒸留条件(減圧、常圧)において、「固液分離なし」の実験例での検出量を100とした場合に対する「固液分離あり」の実験例での検出量を相対比で表している。
「固液分離あり」の実験例に係る大麦焼酎は、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒はともに、それぞれ「固液分離なし」の実験例に係る大麦焼酎に比べ、香気成分のうち、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルが減少する結果が得られた。ただし、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒に含まれる例えば酢酸イソアミルは実験例1−2と1−4では相対値60が同一であっても、この成分の絶対値は同一ではない。また、これらの一群の成分の他にも、強い存在感のある、非常に主張の激しい香りの成分が混じっているかも知れないし、それぞれの相性で何が抑えられて、何が前面に出でくるか、官能検査をしなければ主役に据えられた香り、味質などの特色は分からない。
実験例1に係る大麦焼酎の官能評価を行った。図4に9名のパネル(A〜J)による官能評価結果の概要を、図5に普通醪(A、B)を用いた常圧蒸留の実験例(1−3、1−4、1−7、1−8)に係る大麦焼酎の官能評価結果のパネル別の詳細を示す。図4の欄に示す醪、製造場、蒸留、固液分離は、図3と同一である。
官能評価は、香、味、総合をそれぞれについての点数評価(1:最も良い、2:普通、3:最も悪い、0.5点刻み)と、コメントによる評価とした。図4の数値は、9名のパネルの点数の平均点であり、図4のコメント欄には、主な評価コメントを抜粋して記載した。また、図5の数値は、各パネルの付けた点数および平均点であり、コメント欄には、各パネルの付けた評価コメントを記載した。
以上のとおり、減圧蒸留においては、いずれの醪の「固液分離あり」の実験例(1−2、1−6、1−10)も、「固液分離なし」の実験例(1−1、1−5、1−9)に比べ、香、味、総合の全ての評価点数が0.1点以上改善したものはなかった。
常圧蒸留においては、普通醪の「固液分離あり」の実験例(1−4、1−8)は、「固液分離なし」の実験例(1−3、1−7)に比べ、香、味、総合の全ての評価点数について0.1点以上改善した。全麹醪の「固液分離あり」の実験例(1−12)は、「固液分離なし」の実験例(1−11)に比べ、香、総合の評価点数について0.1点以上改善せず、味の評価点数は0.14点悪化がした。
図5の右の表から、パネルCとIを除き、実験例1−8は実験例1−7に比べ、香、味、総合の全てにおいて同等または改善した評価点数が付けられた。また、実験例1−6では、香ばしい、甘味、バランス良、まろやか、やや稲わら臭といった評価コメントが、実験例1−5では、稲わら臭、ガス臭、焦げ臭、雑味、苦み、えぐみ、渋味、旨みといった評価コメントが付けられた。
以上より、固液分離による大麦焼酎の評価点数は、普通醪(A、B)で常圧蒸留した場合に、醪固形部が除去された後の醪液部が高温蒸留された香味の特徴が前面に押しだされていると理解される。すなわち、減圧とは対照的に、高温蒸留で見られる醪固形部だと比較的多く出る焦げ臭や渋みといった不快な味、香りが減少あるいは除かれ、かつ、高沸点で多くの微量成分が蒸留され香りが強く、味わい深い芳醇なタイプの蒸留酒(大麦焼酎)となり、多くの高沸点微量成分により蒸留酒の香味が全体的に増強されたことが官能試験で香味増強効果が高いと評価されたものと理解される。
また、普通醪(A、B)、全麹醪のいずれにおいても、減圧蒸留した場合、固液分離による大麦焼酎の評価点数は、常圧蒸留に比べての改善が小さいことを示していると理解される。大気圧(1気圧)より低くして蒸留するため沸点が下がり、低沸点の成分のみが蒸留し、高沸点の高級アルコールなどが少なくなることで軽くてきれいな原酒が得られるという特徴が前面に押しだされるか、醪固形部に含まれる果実を思わせる香りを低い温度で蒸留酒に運ばせるという特徴がバランスよく混ぜあわさるかの相違であり、官能的には特徴的な蒸留酒を評価していることになり、数値で表す官能試験では大きな差が出なかったものと理解される。
実験例2では、固形分量を調整した醪から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
前述の一次仕込みおよび二次仕込みを経て、異なる製造場で製造された2種類の大麦焼酎醪(普通醪B、全麹醪)を原料として、図2に記載の製造装置を用いて8種類の大麦焼酎を製造し、評価した。
得られた普通醪Bの醪液部と醪固形部を混合し、醪の固形分量を50%に調整した。また、普通醪B(固液分離せず)に同量の普通醪Bから固液分離して得られた醪固形部を追加投入し、醪の固形分量を200%に調整した。
普通醪Bの固形分量を0%(醪液部)、50%、100%(固液分離せず)、200%に調整した醪を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て4種類の大麦焼酎を得た(実験例2−1、2−2、2−3、2−4)。
得られた全麹醪の醪液部と醪固形部を混合し、醪の固形分量を50%に調整した。また、全麹醪(固液分離せず)に同量の全麹醪から固液分離して得られた醪固形部を追加投入し、醪の固形分量を200%に調整した。
全麹醪の固形分量を0%(醪液部)、50%、100%(固液分離せず)、200%に調整した醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て4種類の大麦焼酎を得た(実験例2−5、2−6、2−7、2−8)。
例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例2−1と実験例2−8を同時に行うことにより、常圧蒸留工程を経た蒸留酒と減圧蒸留工程を経た蒸留酒とを二系列で製造することが可能である。
図6、7に、実験例2に係る大麦焼酎の成分分析と吸光度の結果を示す。図6は低沸点香気成分(1、2)、図7はイオウ化合物成分、フェノール化合物成分、ダイアセチル成分を示す。イオウ化合物成分とダイアセチル成分は、オフフレーバー成分である。
図6に示すように、実験例2−1〜2−8は、固形分量が多いほど、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルが多い傾向にあった。
実験例2−1〜2−7は、固形分量が多いほど、酢酸β―フェネチルが多い傾向にあった。しかし、実験例2−8は実験例2−7に比べ、固形分量が多いが、同成分は少ない傾向にあった。
実験例2−1〜2−8は、β―フェネチルアルコールは固形分量に依存しなかった。
図7に示すように、実験例2−1〜2−3は、固形分量が多いほど、ガス臭の原因成分である硫化水素が多い関係にあった。しかし、実験例2−4は、実験例2−1〜2−3の傾向から外れ、同成分は少なかった。
実験例2−5〜2−8は、固形分量が多いほど、硫化水素が少ない傾向にあった。
実験例2−1〜2−4は、固形分量が多いほど、甘臭,煙臭の原因成分であるフルフラールは少ない傾向にあった。
実験例2−5〜2−8は、フルフラールは固形分量に依存しなかった。
実験例2−1〜2−5、2−7、2−8は、固形分量が多いほど、ダイアセチルは多い傾向にあった。しかし、実験例2−6は、実験例2−5、2−7、2−8の傾向から外れ、同成分は多かった。
(1)常圧蒸留、減圧蒸留のいずれにおいても、醪の固形分量が多いほど、得られる大麦焼酎の香気成分の一部およびダイアセチルが多い(図6、7)。
(2)常圧蒸留では、醪の固形分が少ないほど、得られる大麦焼酎の硫化水素は少ないが、フルフラールは多い(図7)。
(3)減圧蒸留では、醪の固形分が多いほど、得られる大麦焼酎の硫化水素は少ないが、醪の固形分量には、フルフラールは実質依存しない(図7)。
実施例1でも述べたように、個性的でクセのある酒質は香りが強く、味わい深い芳醇なタイプの焼酎と評価されるかも知れないし、個性的でクセは多すぎるとくどい味となり、雑味に繋がるかもしれないし、焦げ臭さの成分も全体の香味成分との相性で香ばしい香りに変わるかもしれない。含まれる全体の香味成分それぞれの相性で何が抑えられて、何が前面に出でくるか、官能検査をしなければ主役に据えられた香り、味質などの特色は分からない。
次に、常圧蒸留工程を経て製造した実験例2−1〜2−4に係る大麦焼酎を官能評価し、比較した。また、減圧蒸留工程を経て製造した実験例2−5〜2−8に係る大麦焼酎を官能評価し、比較した。
図8に8名のパネル(A〜H)による官能評価結果を示す。評価方法は、実験例1の官能評価と同様である。
図8の左の表の常圧蒸留においては、固形分量が100%より小さい実験例2−1、2−2は、固形分量が100%の実験例2−3に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数が良好であった。また、実験例2−2では、ガス臭、苦味といった評価コメントが付けられたが、実験例2−1では、上記のような評価コメントは付けられず、すっきり、きれいといった評価コメントが付けられた。
固形分量が100%より大きい実験例2−4は、実験例2−1、2−2に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数は悪かった。
図8の右の表の減圧蒸留においては、固形分量が100%より大きい実験例2−8は、香の評価点数が減圧蒸留の中で抜きんでて良好であったが、味と総合の評価点数は全体と同等であった。また、実験例2−8では、実験例2−7に比べ、甘味、まろやかといった評価コメントが増えたが、渋味、雑味といった評価コメントも付けられた。
固形分量が100%より小さい実験例2−5、2−6は、実験例2−8に比べ、実験例2−6の香を除き、評価点数は悪かった。
以上、本実験例の本実験例との比較から、官能評価で確認された事項をまとめると下記のとおりである。
(1)常圧蒸留では、醪の固形分量が少なくなることで、得られる大麦焼酎は、香、味、総合の全てにおいて評価点数が改善し、すっきり、きれいといった評価コメントが付けられた。
(2)減圧蒸留では、醪の固形分量が多くなることで、得られる大麦焼酎は、香の評価点数が改善し、甘味、まろやかといった評価コメントが増えた。
実験例2における成分分析と官能評価の結果を考察する。
醪の固形分量と得られる大麦焼酎の低沸点香気成分(図6)およびオフフレーバー成分(図7)は、基本的に比例関係にある。常圧蒸留では、固形分量が少なくすると、低沸点香気成分が少なくなり(図6)、オフフレーバー成分のイオウ化合物成分も少なくなり(図7)、甘臭,煙臭の原因成分であるフルフラールは多くなる(図7)。オフフレーバー成分である硫化水素やダイアセチルが少なくなると、それらの低沸点香気成分へのマスキング効果も弱まり低沸点香気成分が前面に押し出され、低沸点香気成分が主役に据えられる。これらの数値は常圧蒸留時に固形分量を少なくすると酒質は良くなるとの官能評価の評価コメントを裏付けるものである。
一方、減圧蒸留では、固形分量を多くすると、低沸点香気成分が多くなる(図6)。また、フルフラールは低い蒸留温度により生成され難く、また、硫化水素も低い含有量である(図7)。固形分量を多くすると、ダイアセチルは増加するが、低い含量における増加である(表10)。これはダイアセチルの低沸点香気成分へのマスキング効果が増加しても、硫化水素のマスキング効果の減少がそれに勝り、さらに低沸点香気成分が多くなることにより、減圧蒸留時に固形分量を多くすると酒質は良くなるとの官能評価の評価コメントを裏付けるものである。
実験例3では、固液分離により醪液部と醪固形部を得た後、醪固形部を別の種類の固液分離していない醪に追加投入して混合醪を調整し、醪液部および混合醪から得られた大麦焼酎の酒質を検証した。
実験例2と異なる点は、混合醪を異なる2種類の醪および醪固形部の組み合わせ(普通醪Aと普通醪Bの醪固形部、普通醪Aと全麹醪の醪固形部)で製造した点である(実験例3−2、3−3)。
普通醪Bを物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。普通醪Aに得られた普通醪Bの醪固形部を追加投入して、醪の固形分量を200%に調整した混合醪を作製した。得られた混合醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−2)。
全麹醪を物理的固液分離装置11に投入して遠心分離(8000rpm×10min、室温)を行い、醪液部と醪固形部を作製した。普通醪Aに得られた全麹醪の醪固形部を追加投入して、醪の固形分量を190%に調整した混合醪を作製した。得られた混合醪を用いて、前述の減圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−3)。
普通醪B(固液分離せず)、全麹醪(固液分離せず)を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−4、3−6)。
実験例3−2で得られた普通醪Bの醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−5)。
実験例3−3で得られた全麹醪の醪液部を用いて、前述の常圧蒸留工程および熟成工程を経て大麦焼酎を得た(実験例3−7)。
また、例えば、蒸留酒製造装置10を用いて、実験例3−2と実験例3−5を同時に行うことにより、異なる容器中の蒸留前醪を常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪にそれぞれ振り分け、該常圧蒸留用醪は物理的固液分離により醪液部と醪固形部に分離し、その後、得られた醪液部は常圧蒸留し、該減圧蒸留用醪は、前記分離された醪固形部を追加投入した後、減圧蒸留し、それぞれ酒質の異なる複数の蒸留酒を得ることが可能である。
実験例3に係る大麦焼酎の官能評価を行った。図9に8名のパネル(A〜I)による官能評価結果の概要を示す。また、図10に実験例(3−4、3−5、3−1、3−2)に係る大麦焼酎の官能評価結果のパネル別の詳細を示す。
図9において、実験例3−1〜3−7の醪の種類、減圧/常圧蒸留、醪の処理の条件は、図中の「醪」、「蒸留」、「醪の処理」の欄に示す。「醪の処理」の欄の表記について、「ブランク」とは、物理的固液分離装置11に投入しなかった醪を示し、「固形部追加投入」とは、醪固形部を追加投入した混合醪を示し、「固形分除去」とは、物理的固液分離装置11に投入した醪(醪液部)を示す。
官能評価の方法は、実験例1および2の官能評価と同様である。
図9より、常圧蒸留の場合、実験例3−5が、香、味、総合の全てにおいて評価点数が最も良好であった。減圧蒸留の場合、実験例3−2が、香、味、総合の全てにおいて評価点数が最も良好であった。
図10の左の表より、実験例3−5は、実験例3−4に比べ、香、味、総合の全てにおいて評価点数は改善した。また、実験例3−4では、穀物臭、油臭、稲わら臭といったオフフレーバーに関する評価コメントが付けられたが、実験例3−5では、これらの評価コメントは付けられず、甘み、すっきりといった評価のコメントが付けられた。
図10の右の表より、実験例3−1に比べ実験例3−2は、香の評価点数は同等、味、総合において評価点数は改善した。また実験例3−2では、渋み、苦味といった評価コメントが付けられたものの、甘味、まろやかといった評価コメントも付けられた。
以上より、普通醪Bを物理的固液分離装置11にかけ、醪液部と醪固形部に分離し、普通醪Bの醪液部を常圧蒸留し、普通醪Aと普通醪Bの醪固形部との混合醪を減圧蒸留することで、常圧蒸留工程を経ながら、オフフレーバーが少ない蒸留酒を製造することができ、減圧蒸留工程を経ながら、芳醇な酒質の蒸留酒を製造することができるとの評価を得た。
実験例4では、醪液部の濁度に関する再試験をした。
醪を各条件で遠心分離したときに得られる醪液部の濁度と酵母生菌数を測定した。結果を表1の各遠心分離条件で得られる醪液部の濁度(醪液部分析値)に示す。備考欄に過去の予備試験で得られた蒸留後の香味改善効果の有無を記載している。
遠心分離条件2(3000rpm、10分)で得られた醪液部の10倍希釈時の濁度は0.683であったが、過去の試験で、この条件では香味改善効果はないことが確認されていた。したがって、今回の結果より、常圧蒸留時に原酒の香味改善効果が得られるのは醪液部の10倍希釈時の濁度が約0.5以下(酵母生菌数が約2×104cells/ml以下)のときであると考えられる。
2 減圧蒸留用醪
3 醪液部
4 醪固形部
5 混合醪
6 第一蒸留酒
7 第二蒸留酒
8 排気
10 蒸留酒製造装置
11 物理的固液分離装置
12 常圧蒸留部
13 減圧蒸留部
14 第一蒸留塔
15 第二蒸留塔
16 第一凝縮器
17 第二凝縮器
18 第一回収器
19 第二回収器
20 真空ポンプ
Claims (13)
- 少なくとも醪のアルコール発酵工程および蒸留工程を含む蒸留酒の製造方法において、蒸留前醪を常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に振り分け、該常圧蒸留用醪は物理的固液分離により醪液部と醪固形部に分離し、その後、得られた醪液部は常圧蒸留し、該減圧蒸留用醪は、前記分離された醪固形部を追加投入した後、減圧蒸留し、それぞれ酒質の異なる複数の蒸留酒を得ることを特徴とする方法。
- 異なる容器中の蒸留前醪を各容器毎に常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪にそれぞれ振り分けることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留酒の製造方法。
- 同一の容器中の蒸留前醪を分割して常圧蒸留用醪と減圧蒸留用醪に振り分けることを特徴とする、請求項1に記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記物理的固液分離が、遠心分離または圧搾濾過による工程である、請求項1ないし3のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記分離された醪固形部を追加投入した後の減圧蒸留用醪は、固形分の質量が追加する前の150〜250%である、請求項1ないし4のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記固液分離により分離された醪液部は、酵母菌体を除去する工程を経た後で常圧蒸留に付されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記固液分離により分離された醪液部は、濁度が10倍希釈時に0.5以下である、請求項6に記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記減圧蒸留を経て、醪液部の低沸点成分の芳香や風味と、醪固形部に含まれる果実を思わせるエステル香や甘味とがバランスよく混ざり全体で芳醇な酒質の蒸留酒を得ること、および、前記常圧蒸留を経て、焦げ臭や渋みといった不快な味、香りが減少あるいは除かれ、かつ、高沸点で多くの微量成分の香味により全体的に増強された香りが強く、味わい深い酒質の蒸留酒を得ることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 得られた前記酒質の異なる複数の蒸留酒をブレンドする工程を含むことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記蒸留前醪が蒸留前二次醪であり、前記蒸留酒が焼酎である、請求項1ないし9のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
- 前記焼酎が麦焼酎である、請求項10に記載の蒸留酒の製造方法。
- 請求項1ないし11のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法を実施するための蒸留酒の製造装置であって、
常圧蒸留用醪を醪液部と醪固形部に分離するための物理的固液分離装置と、
第一および第二の蒸留塔と、
第一の蒸留塔に連通する第一の凝縮器および第一の回収容器と、
第二の蒸留塔に連通する第二の凝縮器、真空ポンプおよび第二の回収容器とを有し、
前記第一の蒸留塔が、前記固液分離装置により固液分離された醪液部を常圧蒸留し、
前記第二の蒸留塔が、減圧蒸留用醪に前記固液分離装置により固液分離された醪固形部を追加投入して製造されたた混合醪を減圧蒸留することを特徴とする、蒸留酒の製造装置。 - 前記固液分離装置が、遠心分離機または圧搾濾過機である、請求項12に記載の蒸留酒の製造装置。
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