以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、「上」、「下」の語は、鉛直方向の上方、下方にそれぞれ対応するものである。
[第1の実施形態]
まず、図1を参照して、補強スラブ2で補強された既設構造物1の構成について説明する。本実施形態では、既設構造物1として、地下に埋設されるボックスカルバートを採用した場合の例について説明する。既設構造物1は、上側に配置されて側壁の上部を構成する天井スラブ(スラブ)3と、下側に配置されて側壁の下部を構成する床スラブ4と、既設構造物1の幅方向における両端側に配置されて天井スラブ3と床スラブ4とを連結する側壁部6,7と、を備えている。既設構造物1は、断面矩形状に構成されており、内部に空間SPが形成されている。すなわち、天井スラブ3の下方に空間SPが形成される。なお、本明細書において、「スラブ」とは板状に構成された構造部材のことを意味するものとする。既設構造物1の上下方向の大きさは5000〜7000mm、幅方向の大きさは7000〜10000mm、長さ方向(図1における紙面前後方向)の大きさは10000〜15000mmに設定されることが多い。また、スラブ3,4及び側壁部6,7の厚さは800〜1500mmに設定されることが多いが、実際の寸法は設計によって決められている。
補強スラブ2は、例えば既設構造物1の上方の地上Gに新たに車や電車を走行させ、荷重が増加する際などに、補強のために既設構造物1の上側に設けられるスラブである。補強スラブ2は、既設構造物1の天井スラブ3の上面3aとの間に隙間STを空けた状態で、当該天井スラブ3の上面3a側に設けられる。本実施形態では、補強スラブ2の幅方向の大きさ及び長さ方向の大きさは天井スラブ3と略同一に設定されているが、補強を必要とする範囲に限定される場合もある。補強スラブ2の厚さは設計によって決められる。
補強スラブ2は、天井スラブ3の上面3aに配置された補強スラブ支持部材8,9によって、補強スラブ2の下面2aが天井スラブ3の上面3aから離間するように支持されている。補強スラブ支持部材8,9は、天井スラブ3のうち、載荷点FEに対応する位置に配置されている。ここで、載荷点FEとは、天井スラブ3が他の部材によって下方で支えられている領域である。本実施形態では、天井スラブ3のうち側壁部6,7で支持されている領域が載荷点FEに該当し、天井スラブ3のうち下方に空間SPが形成されている領域は載荷点FEには該当しない。本実施形態では、天井スラブ3は幅方向における両端部において側壁部6,7で支持されているため、載荷点FEは天井スラブ3の幅方向における両端部に形成される。従って、補強スラブ支持部材8,9は、天井スラブ3の上面3aの幅方向における両端部において、長さ方向に延びるように配置されており、補強スラブ2の下面2aの幅方向における両端部を支持している。なお、補強スラブ支持部材8,9の材質は特に限定されず、補強スラブ2と同様にコンクリートを打設することによって形成してもよく、ゴムなどの弾性材料、金属製の支承等によって形成されていてもよい。
以上のような構成により、隙間STは、天井スラブ3の上面3aと、補強スラブ2の下面2aと、補強スラブ支持部材8,9の幅方向内側の側面と、によって囲まれる領域に形成される。隙間STは、天井スラブ3及び補強スラブ2の長さ方向における両端側で開口しているため、長さ方向に延びる貫通領域として構成される。隙間STの上下方向の大きさは100〜200mm、幅方向の大きさは既設構造物1と略同じに設定されてよい。このように設定することで、補強スラブ2が下方へ撓んだ場合であっても、補強スラブ2の下面2aが天井スラブ3の上面3aに当接して、補強スラブ2を介して荷重が天井スラブ3(載荷点FE以外の部分)に作用することを防止できる。
次に、図2〜図5を参照して、本実施形態に係る補強スラブ2の施工方法について詳細に説明する。
本実施形態に係る補強スラブ2の施工方法は、閉鎖空間形成部材としての管状体12を配置する配置工程と、補強スラブの上昇の位置を規制する規制手段としてのストッパ17を設ける規制手段設置工程と、管状体12より上側に補強スラブ2を打設する打設工程と、管状体12によって形成された閉鎖空間SC1に流体を供給して補強スラブ2を上昇させる流体供給工程と、上昇させた補強スラブ2を支持する補強スラブ支持部材8,9を設ける支持部材形成工程と、を備える。配置工程の前に、図2(a)に示すように、盛り土等を取り除き、施工前の状態における既設構造物1の天井スラブ3の上面3aに何も載せられていない状態とする工程が行われる。露出した天井スラブ3の上面3aの全面には、縁切り材としての縁切りシート11が敷設される(図5(a)参照)。縁切りシート11には、ビニールシート等のように、既設構造物1の天井スラブ3と新たに打設される補強スラブ2の下面2aが付着しないものが用いられる。
続いて行われる配置工程は、天井スラブ3の上面3a側に、流体の供給によって高さが高くなる閉鎖空間SC1を形成可能な管状体12を配置する工程である。図2(b)及び図4に示されるように、管状体12は、既設構造物1の幅方向に対して所定の間隔で配置されるものであり、天井スラブ3の長さ方向に沿って延びるように配置される。管状体12の一端12aは、内側に流体を供給できるように開口しており、他端12bは流体が透過できないように閉鎖されている。これにより、管状体12によって閉鎖空間SC1が形成可能となっている。管状体12は、内側の閉鎖空間SC1に流体が供給されていない状態では高さの低い扁平な断面形状をなし、閉鎖空間SC1に流体が供給されると流体の圧力によって高さが高くなり、断面円形状となる。本実施形態では、4本の管状体12が天井スラブ3の上面3a側において略等間隔に配置される。そのため、管状体12は天井スラブ3の幅方向の中心を基準として、左右にそれぞれ2本ずつ配置される。また、図5に示されるように、管状体12は、上面3aに敷設された縁切りシート11の上面11aに対して配置されるものである。なお、配置工程では、未だ閉鎖空間SC1に流体が供給されていないため、管状体12は断面扁平状となっている。ここでは、管状体12は、例えば消防用ホースのような所定の内部圧に耐え得る構成となっている。
続いて行われる規制手段設置工程は、天井スラブ3の上面3aに、補強スラブ2の上昇の位置を規制する規制手段としてのストッパ17を設ける工程である。図2(b)及び図4に示されるように、本実施形態では、配置工程によって配置された各管状体12の幅方向両側において、複数のストッパ17が、長さ方向に所定の間隔で配置される。図5に示されるように、ストッパ17は、丸鋼の両端にねじ切りがされた棒状のボルト体13と、このボルト体13に対応する円盤状のナット体14と、によって構成されている。天井スラブ3の上面3a側の所定位置には、ボルト体13に連結可能な埋込ナット15が埋め込まれており、この埋込ナット15に対してストッパ17のボルト体13が固定される。このとき、ボルト体13は縁切りシート11を貫通する。そして、ボルト体13よりも短い鞘管16がボルト体13の周囲を囲むように配置され、鞘管16の上端から突出したボルト体13の上端側にナット体14が固定される。円筒状に形成された鞘管16の内径は、ボルト体13の外径より大きく形成されている。そのため、鞘管16とボルト体13との間には、ボルト体13を中心として円筒状の空間16cが形成される。また、鞘管16の外径はナット体14の外径より小さく形成されている。そのため、鞘管16の内側にナット体14が入り込むことはない。ここで、鞘管16の上端16aからナット体14の下面14aまでの距離は、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との隙間STの厚さとなる。そのため、鞘管16の上端16aからナット体14の下面14aまでの距離がすべてのストッパ17で同じになるように、ナット体14の高さ位置が調整される。なお、規制手段設置工程は、配置工程よりも前または同時に行われてもよい。
続いて行われる打設工程は、天井スラブ3の上面3a側であって、縁切りシート11及び管状体12よりも上側にコンクリートを打設して補強スラブ2を形成する工程である。まず、図2(b)及び図4に示されるように、補強スラブ2の側面を形成するための側型枠部材18が配置される。側型枠部材18は、既設構造物1の側壁部6,7の幅方向における外面と天井スラブ3の長さ方向における両端面との上端部から上方へ延びるように設けられる。側型枠部材18の上端部は、打設されるコンクリートの上面より高い位置となっているため、側型枠部材18の外にコンクリートが流出することはない。天井スラブ3の上面3a側が、補強スラブ2の下面を形成するための下型枠部材の代わりとなるため、下型枠部材の設置は不要である。次に、縁切りシート11の上面11aの所定位置にモルタルスペーサが配置され、モルタルスペーサの上に鉄筋が配置される(不図示)。そして、図3(a)に示されるように、側型枠部材18の内側にコンクリートが流し込まれる。本実施形態では、鞘管16の高さを補強スラブ2の高さに合わせてあるため、図5(a)において二点鎖線で示されるように、コンクリートは鞘管16の上端16aの位置まで流し込まれる。このとき、天井スラブ3の上面3a側に配置されている管状体12は、コンクリートによって押し潰されることになる。
続いて行われる流体供給工程は、管状体12によって形成された閉鎖空間SC1に流体を供給して、補強スラブ2を上昇させる工程である。この工程は、打設工程によって打設されたコンクリート(補強スラブ2)の強度が、上昇に必要な所定の強度に到達してから行われる。まず、図3(a)に示されるように扁平な状態の管状体12に対して、管状体12の開口から高圧空気(流体)が供給される。これにより、閉鎖空間SC1内の圧力が高まり、扁平な状態であった管状体12が膨らむことで、管状体12の高さが高くなる。ここで、天井スラブ3と補強スラブ2との間は、縁切りシート11によって分離されており、ストッパ17と補強スラブ2との間は鞘管16によって分離されている。すなわち、補強スラブ2は、何かに固定されることなく、天井スラブ3の上面3a側に載置された状態となっている。そのため、図5(b)に示されるように、補強スラブ2は、管状体12の高さが高くなるにつれて、管状体12に押し上げられるようにして上昇する。これにより、天井スラブ3の上面3aと上昇した補強スラブ2の下面との間に隙間STが形成される。本実施形態のように複数本の管状体12によって補強スラブ2を上昇させる場合には、全ての管状体12に対して均等になるように流体を供給することで、補強スラブ2を安定して上昇させることができる。また、複数の管状体12が、補強スラブ2の幅方向の中心を基準として左右にそれぞれ配置されることで、補強スラブ2を安定して上昇させることができる。
続いて行われる支持部材形成工程は、流体供給工程によって補強スラブ2を上昇させている間に、天井スラブ3と補強スラブ2との間に補強スラブ支持部材(支持部材)を設ける工程である。まず、図5(b)に示されるように、管状体12の高さが所定の高さに到達して、補強スラブ2の上面2bが全てのナット体14の下面14aに当接するまで、管状体12への高圧空気の供給が継続される。補強スラブ2の上昇位置がストッパ17によって規制されるため、補強スラブ2を所定の高さ位置に安定して上昇させておくことができる。次いで、補強スラブ2の上面2bがナット体14の下面14aに当接した状態が維持されたまま、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との間であって、天井スラブ3の幅方向における両端部に、長さ方向に沿ってコンクリートが打設される。これにより、図3(b)に示されるように、補強スラブ支持部材8,9が形成される。補強スラブ支持部材8,9によって補強スラブ2が支持されることで、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との間に所定の隙間STが構築される。なお、補強スラブ支持部材8,9は、ゴムなどの弾性材料、金属製の支承等によって形成されていてもよい。
続いて、管状体12への高圧空気の供給が停止され、閉鎖空間SC1内の空気が抜かれてから、管状体12は潰れた状態で回収される。管状体12は、一端12a側あるいは他端12b側から引き抜かれることで、容易に回収することができる。そして、ボルト体13が埋込ナット15から外されることで、ストッパ17が撤去される。その後、鞘管16の内側の空間16cがコンクリートによって間詰めされ、図1に示される補強スラブ2の施工が完了する。
次に、本実施形態に係る補強スラブ2の施工方法の作用・効果について説明する。
既設構造物1の上方からの荷重が増加する場合、既設構造物1に対して、上側の天井スラブ3の上面3a側に補強スラブ2が設けられる。この場合、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との間に隙間STを空けておくことで、下方に空間SPが形成される天井スラブ3に、補強スラブ2の荷重が作用することを抑制することが要請される。しかしながら、既設構造物1の天井スラブ3と補強スラブ2との間の隙間STは狭く、且つ広い範囲に形成されるため、このような隙間STを形成することが困難であるという問題がある。
例えば、比較例に係る補強スラブ2の施工方法として、砂を敷き詰めて支保工とする施工方法について説明する。このような施工方法においては、天井スラブ3の上面3aに支保工として砂が敷き詰められ、その上に下型枠としての合板が敷かれ、合板上にシートが敷かれる。次に、シートの上に鉄筋が組み立てられると共にコンクリートが流し込まれることによって、補強スラブ2が形成される。補強スラブ2の打設後は、敷砂の除去及び下型枠の撤去が行われる。ここで、敷砂は、吸引器で吸い込まれることによって隙間から除去されるか、ジェット水等によって押し出されることによって隙間STから除去される。敷砂が除去された後、下型枠は天井スラブ3の上面3aに落下し、隙間から引き抜かれる。
このような施工方法においては、下型枠の設置、鉄筋組立、コンクリートの打設の際に敷砂が変形し易く、下型枠が安定しない場合がある。このため、補強スラブ2の底面精度の確保が難しく、凸凹が生じやすいという問題が生じる。また、シートを確実に接続しておかなくては、コンクリートのモルタルが敷砂の中に流れ出し、補強スラブ2の下面2aに強度の低いコンクリートの塊が形成される場合がある。この場合、吸引器での吸い込みやジェット水による押出し除去が困難になるという問題がある。また、天井スラブ3の面積が小さければ砂の除去は容易であるが、広い面積で、且つ隙間STの厚さが小さい場合は、砂を除去することが困難であり、取り残しが生じやすいという問題がある(すなわち、所定の大きさの空間を確保し難い)。また、下型枠に段差や凸凹が形成され易いため、コンクリートが下型枠に食い込み易くなる。従って、下型枠を完全に撤去することが困難であるという問題がある。
また、他の比較例に係る補強スラブ2の施工方法として、発泡スチロールを支保工とする施工方法について説明する。このような施工方法においては、天井スラブ3の上面3aに支保工として発泡スチロールが敷き詰められ、その上にシートが敷かれる。次に、シートの上に鉄筋が組み立てられると共にコンクリートが流し込まれることによって、補強スラブ2が形成される。補強スラブ2の打設後は、オレンジ精油(リモネン)の散布によって、発泡スチロールが溶けることで、当該発泡スチロールの撤去が行われる。
このような施工方法においては、発泡スチロールが用いられている。発泡スチロールが溶接の火花によって発火し易く、また、石油などで溶解等することにより、鉄筋の組み立て時における溶接作業に最大限の注意が必要となる。また、リモネンで発泡スチロールを溶かすと、2〜3%の滓が残り、その除去を行うことが難しいという問題がある。また、予めスプレーノズルを配置しておき、確実に発泡スチロールにリモネンをかけなくては溶け残りが生じるため、空間の形成が不十分になるという問題がある。また、発泡スチロールは一度の施工中に溶けてなくなるため、転用することができずコストアップになるという問題がある。
本実施形態に係る補強スラブ2の施工方法は、閉鎖空間形成部材である管状体12の配置工程よりも後に、天井スラブ3の上面3a側であって、管状体12より上側に補強スラブ2を打設する打設工程と、打設工程よりも後に、管状体12によって形成された閉鎖空間SC1に高圧空気を供給して閉鎖空間SC1によって補強スラブ2を上昇させる流体供給工程と、補強スラブ2を上昇させている間に、天井スラブ3と補強スラブ2との間に補強スラブ支持部材8,9を設ける支持部材形成工程と、を備える。これにより、閉鎖空間SC1が補強スラブ2の下側に形成されるため、閉鎖空間SC1に高圧空気を供給して閉鎖空間の高さを高くすることで、補強スラブ2を容易に上昇させることができる。上昇した補強スラブ2が、補強スラブ支持部材8,9により支持されるため、補強スラブ2が上昇した分の領域が、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との間の隙間STとして形成される。以上によって、既設構造物1の上面3aと補強スラブ2との間の隙間を容易に形成することができる。
また、前述のような敷砂を用いた施工方法とは異なり、本実施形態に係る施工方法では、天井スラブ3の上面3a側が、補強スラブ2の下面を形成するための下型枠部材の代わりとなっている。天井スラブ3の上面3a側は砂のように変形することなく安定しているため、補強スラブ2の底面精度を確保することができ、凸凹の発生を抑制することができる。また、砂のようにコンクリートのモルタルが染み出すことがないため、補強スラブ2の下面2a側にコンクリートの塊が形成されることも抑制できる。
また、前述のような発泡スチロールを用いた施工方法とは異なり、溶接作業による発火、溶解等の問題が生じないため、鉄筋の組み立て時の溶接作業を容易に行うことができる。
本実施形態に係る補強スラブの施工方法において、流体供給工程よりも前に、流体供給工程における補強スラブ2の上昇の位置を規制するストッパ17を設ける規制手段設置工程を更に備えている。補強スラブ2の上昇はストッパ17におけるナット体14の位置で停止するため、流体供給工程によって上昇する補強スラブ2の停止位置を、予め所定の高さに設定することができる。ストッパ17の規制の位置をナット体14の位置調整によって変更することにより、隙間STの高さを容易に調整することができる。
本実施形態に係る補強スラブの施工方法において、閉鎖空間形成部材は、内側に流体を供給可能な管状体12によって構成されている。これによれば、補強スラブ2が支持されることによって天井スラブ3の上面3aと補強スラブ2との間に隙間STが形成された後に、隙間STから管状体12を潰すことにより引き出すことができるため、管状体12を容易に回収することができる。このように、管状体12を隙間STから撤去する際に、砂のように吸引器やジェット水を用いる必要がなく、引き抜くだけでよいため、隙間が広く小さい場合であっても、確実に管状体12を撤去することができる。また、管状体12は、複数の施工において繰り返し転用することが可能である。
[第2の実施形態]
本実施形態において施工される補強スラブ22は、図1に示されるように、第1の実施形態と同様である。以下、図6〜図9を参照して、本実施形態による補強スラブの施工方法について説明する。なお、本実施形態は、閉鎖空間形成部材として、第1の実施形態における管状体12に代えてシート状の空気遮断膜42を用いるものである。
本実施形態に係る補強スラブ22の施工方法は、閉鎖空間形成部材としての空気遮断膜42を配置する配置工程と、補強スラブ22の上昇の位置を規制するストッパ37a,37bを設ける規制手段設置工程と、空気遮断膜42より上側に補強スラブ22を打設する打設工程と、空気遮断膜42によって形成された閉鎖空間SC2に流体を供給して補強スラブ22を上昇させる流体供給工程と、上昇させた補強スラブ22を支持する補強スラブ支持部材8,9を設ける支持部材形成工程と、を備える。第1の実施形態と同様に、配置工程の前に、図6(a)に示すように、既設構造物1の天井スラブ3の上面3aにおける盛り土等が取り除かれる。露出した天井スラブ3の上面3aにおいて、空気遮断膜42が配置される位置の内側及び外側に縁切りシート11を敷設する(図5(a)参照)。
続いて行われる配置工程は、天井スラブ3の上面3a側に、流体の供給によって高さが高くなる閉鎖空間SC2を形成可能な空気遮断膜42を配置する工程である。図8に示されるように、空気遮断膜42は、所定の幅及び長さをもった矩形状に形成されており、長さ方向の両端が重なるように、天井スラブ3の上面側の外周に沿って環状に配置される。
図9(a)に示されるように、空気遮断膜42の幅方向の一端42b側は、天井スラブ3の上面3a側から空気遮断膜42、ゴム板43、鉄板44の順で重ねられ、鉄板44側から天井スラブ3まで到達する埋込ボルト45によって天井スラブ3に固定される。ゴム板43は空気遮断膜42の配置に合わせた環状をなしており、その上側に配置される鉄板44によって押圧される。これによって、空気遮断膜42と天井スラブ3との間からの漏気が抑制される。鉄板44は、全周に亘ってゴム板43を押圧することができれば、ゴム板43と同様に環状をなしていてもよいし、複数のパーツを配置することで環状を形成してもよい。
空気遮断膜42の幅方向の他端42a側は、複数のモルタルブロック46の下面46a側から空気遮断膜42、ゴム板47、鉄板48の順で重ねられ、鉄板48側からモルタルブロック46まで到達する埋込ボルト49によってモルタルブロック46に固定される。ゴム板47は空気遮断膜42の配置に合わせた環状をなすものであり、ゴム板43より外周が小さくなっている。すなわち、ゴム板47はゴム板43の内側に収まる形状となっている。複数のモルタルブロック46は、ゴム板47の形状に合わせて環状をなすように配置される。また、鉄板48は、ゴム板47と同様に環状をなしているか、複数のパーツを配置することで環状を形成している。これにより、鉄板48側からモルタルブロック46側に、埋込ボルト49によってゴム板47を押圧することで、空気遮断膜42とゴム板47との間からの漏気が抑制される。また、さらに漏気を抑制するために、空気遮断膜42と天井スラブ3及びモルタルブロック46との間に接着剤を塗布したり、ゴム板を設けたりすることができる。また、配置工程において空気遮断膜42が配置されたとき、空気遮断膜42の内側及び外側に敷設された縁切りシート11は、空気遮断膜42の下側に入り込むようにして空気遮断膜42と重なり合っている。これにより、天井スラブ3の上面3aは、全面に亘って、少なくとも空気遮断膜42又は縁切りシート11によって覆われていることになる。ここで、空気遮断膜42は、所定の気密性及び引張強度を備えたシート体であり、例えば内側にゴムシートをコーティングした土木用帆布である。
続いて行われる規制手段設置工程は、天井スラブ3の上面3aに、補強スラブ22の上昇の位置を規制する規制手段としてのストッパ37a,37bを設ける工程である。本実施形態では、図8に示されるように、配置工程によって配置された空気遮断膜42の幅方向両側において、複数のストッパ37a,37bが、長さ方向に所定の間隔で配置される。これにより、環状に配置された空気遮断膜42の内側及び外側にそれぞれ複数のストッパ37a,37bが配置されることになる。図9(a)に示されるように、外側に配置されるストッパ37aは、第1の実施例同様、ナット体14と鞘管16に囲まれたボルト体13とによって構成されており、埋込ナット15に対して固定されている。内側に配置されるストッパ37bは、ナット体14と鞘管16に囲まれたボルト体13とによって構成されており、埋込ナット15に対して固定されている。そして、ストッパ37bはさらに、鞘管16の内側の空間16cに筒状又はドーナツ状のゴムリング38を備えている。ゴムリング38の内径はボルト体13の外形と略同程度であり、ゴムリング38の外径は鞘管16の内径と略同程度である。なお、規制手段設置工程は、配置工程よりも前または同時に行われてもよい。
続いて行われる打設工程は、天井スラブ3の上面3a側であって、縁切りシート11及び空気遮断膜42の上側にコンクリートを打設して補強スラブ22を形成する工程である。まず、第1の実施形態同様、天井スラブ3の上面3a側が補強スラブ22の下面22aを形成するための下型枠部材の代わりとなるため、側型枠部材18のみ設けられる。次に、縁切りシート11の上面の所定位置にモルタルスペーサが置かれ、モルタルスペーサの上に鉄筋が配置される(不図示)。この際、空気遮断膜42が固定されているモルタルブロック46の一部もモルタルスペーサとして利用することができる。そして、側型枠部材18の内側にコンクリートが流し込まれる。本実施形態では、鞘管16の高さが補強スラブの高さに合わせてあるため、図9(a)において二点鎖線で示されるように、コンクリートは鞘管16の上端16aの位置まで流し込まれる。このとき、図7(a)に示されるように、天井スラブ3の上面3a側に配置されている空気遮断膜42は、コンクリートによって押圧されている。
続いて行われる流体供給工程は、空気遮断膜42によって形成された閉鎖空間SC2に流体を供給して、補強スラブ22を上昇させる工程である。この工程は、打設工程によって打設されたコンクリート(補強スラブ22)の強度が、上昇に必要な所定の強度に到達してから行われる。コンクリートの強度が所定の強度になると、空気遮断膜42が固定されるモルタルブロック46とコンクリートとが一体化して、補強スラブ22が形成される。ここで、図9(b)に示されるように、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ22の下面22aとの間における、空気遮断膜42で囲まれた範囲によって閉鎖空間SC2が形成される。この閉鎖空間SC2は、空気遮断膜42の長さ方向の両端が重なる部分を開口42cとして(図8参照)、開口42cから高圧空気が供給されることで高さが高くなる。
図9(b)に示されるように、流体供給工程は、まず、天井スラブ3の上面3a、補強スラブ22の下面22a及び空気遮断膜42によって形成された閉鎖空間SC2に対して、開口42cから高圧空気が供給される。このとき、空気遮断膜42の内側に配置されている鞘管16の内側の空間16cにはゴムリング38が設けられているため、閉鎖空間SC2内から鞘管16を介して漏気することが抑制される。これにより、閉鎖空間SC2内の圧力が高まることで、閉鎖空間SC2の高さが高くなる。ここで、天井スラブ3と補強スラブ22との間は、縁切りシート11又は空気遮断膜42によって分離されており、ストッパ37a,37bと補強スラブ22との間は鞘管16によって分離されている。そのため、閉鎖空間SC2の高さが高くなるにつれて、補強スラブ22は閉鎖空間SC2に押し上げられるようにして上昇する。これにより、天井スラブ3の上面3aと上昇した補強スラブ22の下面22aとの間に隙間STが形成される。本実施形態のように天井スラブ3の上面3a、補強スラブ22の下面22a及び空気遮断膜42によって形成された閉鎖空間SC2を利用して補強スラブ22を上昇させる場合には、天井スラブ3の外周に沿って環状となるように空気遮断膜42を配置することで、閉鎖空間SC2を広く設けることができ、補強スラブ22を安定して上昇させることができる。
続いて行われる支持部材形成工程は、流体供給工程によって補強スラブ22を上昇させている間に、天井スラブ3と補強スラブ22との間に補強スラブ支持部材8,9を設ける工程である。まず、補強スラブ22の上面22bが全てのストッパ37a,37bによって規制されるまで、閉鎖空間SC2に対する高圧空気の供給を継続する。そして、図7(b)に示されるように、補強スラブ22の上昇位置がストッパ37a,37bによって規制された状態が維持されたまま、隙間STの幅方向における両端部に、長さ方向に沿ってコンクリートが打設される。これにより、補強スラブ支持部材8,9が形成される。補強スラブ支持部材8,9によって補強スラブ22が支持されることで、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ22との間に所定の隙間STが構築される。
続いて、閉鎖空間SC2への高圧空気の供給が停止され、閉鎖空間SC2の開口42cが開放される。そして、ストッパ37a,37bが撤去されてから、鞘管16の内側の空間16cがコンクリートによって間詰めされ、図1に示される補強スラブ22の施工が完了する。なお、補強スラブ22の下面22a側に空気遮断膜42が残るものの、隙間STは確実に確保される。
次に、本実施形態に係る補強スラブ22の施工方法の作用・効果について説明する。
本実施形態に係る補強スラブ22の施工方法は、閉鎖空間形成部材である空気遮断膜42の配置工程よりも後に、天井スラブ3の上面3a側であって、空気遮断膜42より上側に補強スラブ22を打設する打設工程と、打設工程よりも後に、空気遮断膜42によって形成された閉鎖空間SC2に高圧空気を供給して閉鎖空間SC2によって補強スラブ22を上昇させる流体供給工程と、補強スラブ22を上昇させている間に、天井スラブ3と補強スラブ22との間に補強スラブ支持部材8,9を設ける支持部材形成工程と、を備える。これにより、閉鎖空間SC2が補強スラブ22の下側に形成されるため、閉鎖空間SC2に高圧空気を供給して閉鎖空間SC2の高さを高くすることで、補強スラブ22を容易に上昇させることができる。上昇した補強スラブ22が、補強スラブ支持部材8,9により支持されるため、補強スラブ22が上昇した分の領域が、天井スラブ3の上面3aと補強スラブ22との間の隙間STとして形成される。以上によって、既設構造物1の上面3aと補強スラブ22との間の隙間STを容易に形成することができる。
また、前述のような敷砂を用いた施工方法とは異なり、本実施形態に係る施工方法は、天井スラブ3の上面3a側が、補強スラブ22の下面22aを形成するための下型枠部材の代わりとなっている。天井スラブ3の上面3a側は砂のように変形することなく安定しているため、補強スラブ22の底面精度を確保することができ、凸凹の発生を抑制することができる。また、天井スラブ3に対して、砂のようにコンクリートのモルタルが染み出すことがないため、補強スラブ22の下面22a側にコンクリートの塊が形成されることも抑制できる。また、前述のような発泡スチロールを用いた施工方法とは異なり、溶接作業による発火、溶解等の問題が生じないため、鉄筋の組み立て時の溶接作業を容易に行うことができる。
本実施形態に係る補強スラブ22の施工方法において、流体供給工程よりも前に、流体供給工程における補強スラブ22の上昇の位置を規制するストッパ37a,37bを設ける規制手段設置工程を更に備えている。補強スラブ22の上昇は、ストッパ37a,37bによる規制の位置で停止するため、流体供給工程によって上昇する補強スラブ22の停止位置を、予め所定の高さに設定することができる。また、ストッパ37a,37bの規制の位置をナット体14の位置調整によって変更することにより、隙間STの高さを容易に調整することができる。
本実施形態に係る補強スラブ22の施工方法において、閉鎖空間形成部材は、気密性を有する部材である空気遮断膜42によって構成される。空気遮断膜42が天井スラブ3及び補強スラブ22に密着することで、空気遮断膜42、天井スラブ3及び補強スラブ22によって閉鎖空間SC2を形成することができる。これによれば、上昇させる対象である補強スラブ22自体が閉鎖空間SC2の一部を形成するため、流体供給工程において安定して補強スラブ22を上昇させることができる。
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等を行ってもよい。
例えば、既設構造物1としてボックスカルバートを一例として示したが、これに限定されない。既設構造物は、下方に空間が形成されるスラブを備えるものであればどのような構成を有していてもよく、例えば、スラブの下面側を部分的に棒状の柱などで支持するような既設構造物であってもよい。また、既設構造物が地下に配置されている例を示したが、地上や上空に配置されているものであってもよい。
また、縁切り材としての縁切りシート11が敷設される例を示したが、これに限定されない。例えば、縁切りシート11の敷設に代えて、既設構造物の上面に対する剥離剤の塗布や、補強スラブ下面に対する埋設型枠の設置など、既設構造物と補強スラブとが接着しないものであればよい。
また、管状体12として消防用ホースを利用する例を示したがこれに限定されない。閉鎖空間形成部材としての管状体は、内部に流体を供給することができればよく、素材等は1本の管状体に加わる圧力によって決められるものである。例えば、補強スラブの補強スラブの厚さが薄い場合には、耐圧が7.1〜20.4kgf/cm2の消防ホースに代えて、耐圧が3.1〜5.1kgf/cm2であるサニーホース(登録商標)を利用してもよい。このように、補強スラブの厚さが薄く、質量が小さい場合には耐圧を小さくすることができる。
また、管状体12が4本である例を示したがこれに限定されない。例えば、管状体は3本以下であっても、5本以上であってもよい。管状体を複数本設ける場合には、天井スラブの幅方向の中心を基準として左右に少なくともそれぞれ1本配置することで、より安定的に補強スラブを上昇させることができる。また、1本の管状体を往復(蛇行)させて配置してもよい。
また、空気遮断膜42として、内側にゴムシートをコーティングした土木用帆布を利用する例を示したがこれに限定されない。管状体と同様に、空気遮断膜に必要な引張強度は、補強スラブの厚さに応じた上昇時の空気圧や、空気遮断に流体を供給した際の形状等によって決められるものである。そこで、空気遮断膜は土木用帆布(引張強度が例えば283kgf/cm程度)の他、テント生地等必要な引張強度と気密性を有したものであればよい。例えば、補強スラブの厚さが2m(圧力が0.48kgf/cm2程度)の場合、空気遮断膜内を0.5〜0.6kgf/cm2程度の空気圧とすることができれば、補強スラブを上昇させることができる。
また、流体供給工程において、流体として空気を利用する例を示したがこれに限定されない。例えば、空気以外の気体や水等の液体を利用してもよい。
また、ストッパ17が天井スラブ3に埋め込まれた埋込ナット15に対して固定されている例を示したが、これに限定されない。ストッパは、上昇する補強スラブを所定の高さで規制することができればよく、例えば図10に示されるように、既設構造物1の側壁部6,7の外面に固定されるストッパ57としてもよい。ストッパ57は、上端側が補強スラブ2の上方に向かって断面L字状に屈曲しているため、上端部側が補強スラブと当接することで補強スラブの上昇を規制することができる。