以下、実施形態の濾過フィルターを図面を参照して説明する。
本実施形態の濾過フィルターは、複数の貫通孔を有するフィルター基材と、フィルター基材の表面を被覆するめっき層と、めっき層の表面に形成された酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素のいずれか一方または両方を含む層とから構成されている。また、めっき層には、多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体が備えられている。酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素のいずれか一方または両方を含む層は、多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体の表面に形成される。
図1には、濾過フィルターの平面模式図を示し、図2には、濾過フィルターの部分断面図を示す。図2は、図1のA−A’線における断面図である。
図1及び図2に示す濾過用フィルター1は、フィルター基材6と、フィルター基材6の表面に、電気めっき処理等によって形成されためっき層3とを有する。図1及び図2に示す例では、フィルター基材6は、金属からなる線材2が綾織された金網で構成されている。図2に示すように、フィルター基材6をなす線材2の表面には、下地層4が形成され、下地層4上にめっき層3が形成されている。めっき層3の表面には、図示略の多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体が備えられている。
フィルター基材6は、線材2が綾織されて網目状となっており、線材2同士が交差する部分に線材2が重なり合うことで隙間が形成され、この隙間が複数の貫通孔8となる。貫通孔8の孔径は、0.5μm〜20μmの範囲が好ましく、1μm〜10μmの範囲がより好ましい。貫通孔8の孔径が0.5μm以上であると、適切な濾過流量が確保されやすくなる。貫通孔8の孔径が20μm以下であれば、処理水を濾過した際に、貫通孔8を塞ぐケークが形成されやすくなり、濾過用フィルター1によってケーク濾過を行うことができる。ケークは、被処理液中のSS粒子を捕捉し、被処理液中からSS粒子を分離するフィルターとして機能するものとなる。
なお、濾過用フィルター1の貫通孔8の孔径は、以下に示す方法により測定することができる。まず、濾過用フィルター1の貫通孔8を真上から走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影する。この時、貫通孔8は、縦方向に略平行に延在する2本の線材2と、縦方向と略直交する横方向に略平行に延在する2本の線材2とに囲まれた、略矩形の内面形状を有するものとなる。各線材2には下地層4とめっき層3が形成されるので、貫通孔8をなす内面はめっき層3の表面になる。そして、貫通孔8の内面における縦方向の最短距離と横方向の最短距離とを測定し、距離の短い方の寸法を貫通孔8の孔径とする。なお、縦方向の最短距離と横方向の最短距離とが同じである場合には、どちらか一方の寸法を貫通孔8の孔径とすればよい。また、貫通孔8は複数あるので、孔径を4箇所以上測定し、その平均を代表値とすればよい。
線材2の材料は、めっき処理によってめっき層3のみまたはめっき層3および下地層4を容易に形成するために、金属であることが好ましい。線材2に用いる金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などを用いることが好ましい。その中でも特に、線材2として、耐食性に優れ、低コストで、加工しやすい材料であるステンレス鋼線を用いることが好ましい。
下地層4は、めっき層3の線材2への密着性を高めるために、必要に応じて設けられる。下地層4の材質としては、例えば、線材2の表面にニッケル合金からなるめっき層3を形成する場合には、ニッケルまたはニッケル合金を用いることが好ましい。ニッケル合金としては、ホウ素、リン、亜鉛から選ばれる一種以上の元素を含有するものが挙げられる。
下地層4の厚みは、めっき層3の線材2への密着性を向上可能な厚み以上であればよい。また、下地層4を形成する場合は、下地層4の厚みによって貫通孔8の孔径が決まるので、貫通孔8の孔径を勘案して下地層4の厚みを決めるとよい。
めっき層3は、図2に示すように、下地層3の表面に形成されてもよく、下地層4を省略する場合は線材2の表面に直接形成してもよい。めっき層2には、図示略の多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体が備えられている。これら集合体については、後ほど詳しく説明する。
めっき層3に用いられる金属としては、電気めっき等の処理によって、フィルター基材6の表面に多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体を析出できるものを用いる。このような金属としては、鉄、ニッケル、銅、および、これらの合金などが挙げられる。めっき層3に用いられる金属としては、上記の金属の中でも特に、多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体の形状の制御がしやすく耐食性に優れた金属である、ニッケルまたはニッケル合金を用いることが好ましい。ニッケル合金としては、ホウ素、リン、亜鉛から選ばれる一種以上の元素を含有するものが挙げられる。
めっき層3には、図示略の表面改質層が形成されている。表面改質層は、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素のいずれか一方または両方を含む層である。酸化アルミニウムは、中性の水の中で正に帯電する性質がある。一方、酸化ケイ素は、中性の水の中で負に帯電する性質がある。従って、表面改質層における酸化アルミニウムと酸化ケイ素の存在割合を調整することで、めっき層表面の電位を調整することが可能になる。
また、めっき層表面の電位を調整することで、水中に含まれるろ過したい固形物とフィルターとの親和性を調整することができる。固形物の表面電荷と同じ符号の電荷をフィルター表面に持たせることで、固形物がフィルターに強固に付着するのを抑制することができる。
更に酸化アルミニウムや酸化ケイ素といった親水性の材料でめっき層表面を覆うことで、フィルター表面の水に対する親和性を調整できるようになる。すなわち、固形物とフィルターの親和性よりも、水とフィルターとの親和性を高くすることで、固形物がフィルターに強固に付着するのを抑制することができ、水によるフィルター洗浄の効果を高く保つことができる。
表面改質層における酸化アルミニウムと酸化ケイ素の存在割合は、例えば、酸化アルミニウムと酸化ケイ素の合計量に対する酸化ケイ素の含有率として0〜100%の範囲で任意に調整することができる。実際は、めっき層の表面電位と濾過フィルター1に付着する付着物が有する電位とが相互に同じ符号の電位になるように、表面改質層における酸化アルミニウムと酸化ケイ素の存在割合を決めればよい。付着物が正に帯電するなら、めっき層表面が正に帯電するように表面改質層の組成を調整すればよい。また、付着物が負に帯電するなら、めっき層表面が負に帯電するように表面改質層の組成を調整すればよい。
例えば、上水道の原水となる河川水、湖水、沼水や、下水道の下水を処理する場合、これらの水には負に帯電した固形分が含まれる場合が多いので、めっき層の表面が固形分と同様に負に帯電させるために、酸化ケイ素の含有率を50%以上、より好ましくは75%以上にすればよい。一方、処理水にアミン類等の正に帯電する官能基を持つ有機化合物や、中性域で正に帯電する水酸化鉄などを含む水を処理する場合、めっき層の表面を正に帯電させるために、酸化アルミニウムの含有率を50%以上、より好ましくは75%以上にすればよい。
表面改質層の厚みは、めっき層に備えられた多面体形状の析出物または針状析出物の平均的な高さの1〜100%の厚みであることが好ましく、1〜50%の厚みであることがより好ましく、1〜20%の厚みであることが更に好ましい。表面改質層の厚みが下限以上であれば、めっき層の表面電位を調整することが可能になる。また、表面改質層の厚みが上限以下であれば、めっき層の表面の凹凸形状が表面改質層によって埋められることがなく、多面体形状の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体の形状が維持できる。
表面改質層は、めっき層表面における酸化ケイ素または酸化アルミニウムの存在を確認することによって、その存在の有無を確認できる。酸化ケイ素または酸化アルミニウムは、例えば蛍光X線分析法またはX線光電子分光法などで分析できる。表面改質層の厚みは、湿式分析や各種の機器分析によって、めっき層表面の酸化ケイ素または酸化アルミニウムの存在量を定量することで決定できる。
表面改質層の形成方法は、特に制限はなく、PVD、CVDなど蒸着法の他、ゾルゲル法を用いることが好ましい。ゾルゲル法を適用する場合、酸化ケイ素の原料としては、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などのアルコキシドを用いることができる。また、酸化アルミニウムの原料としては、アルミニウムセカンダリブトキシドなどを用いることができる。表面改質層における酸化ケイ素と酸化アルミニウムの存在割合は、それぞれの原料の配合割合を調整することで制御できる。なお、酸化ケイ素の原料及び酸化アルミニウムの原料は、例示したものに限られる必要はなく、ゾルゲル法によって適用可能な原料なら特に制限はない。
次に、めっき層の詳細について説明する。本実施形態では、複数の針状析出物の集合体を備えためっき層、または、多面体形状の析出物の集合体を備えためっき層を用いることができる。
まず、複数の針状析出物の集合体を備えためっき層について説明する。図3に、複数の針状析出物の集合体を示す。図3には、濾過の過程でめっき層表面に捕捉されたSS粒子も図示されている。
複数の針状析出物の集合体を備えためっき層3は、図3に示すように、複数の針状構造物5が下地層4の表面に集合してなる複合体である。各針状構造物5では、各針状構造物5の線材2側の基部5aと、隣接する他の針状構造物5の基部5aとが一体化されている。針状構造物5の基部5aは、下地層4の表面に連続して形成されている。各針状構造物5は、例えば、多角錐状または円錐状の形状を有する。このような錐状の形状を有する各針状構造物5は、図3に示すように、基端53aから先端52に向けて先細りの形状を有している。隣接する針状構造物5間には、断面視で基端53aに近づくにつれて幅が狭くなる谷53が形成されている。谷53は、平面視で各針状構造物5を取り囲むように形成されている。各針状構造物5を取り囲む谷53は、隣接する別の針状構造物5を取り囲む谷53と平面視で繋がって形成されている。図3に示すように、複数の針状構造物5の一部に、被処理液中から捕捉したSS粒子がケーク7として付着している。
フィルター基材6の単位面積(1μm2)当たりの針状構造物5の数は、1.2〜10.0個/μm2が好ましく、3.0〜7.0個/μm2がより好ましい。
単位面積当たりの針状構造物5の数が1.2個/μm2以上であると、濾過用フィルター1の表面積が十分に広くなり、隣接する針状構造物5間にSS粒子が引っかかりやすくなる。このため、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすく、捕捉されたSS粒子によってケーク7が形成されやすい濾過用フィルター1となる。よって、濾過用フィルター1は、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉できる優れた除去機能を有するものとなる。
単位面積当たりの針状構造物5の数が10.0個/μm2以下であれば、隣接する針状構造物5間の隙間が狭くなりすぎない。このため、隣接する針状構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されているケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成される。空間31は、ケーク7が形成された時に、ケーク濾過された処理液が流れる流路として機能する。針状構造物5を有さないフィルターと比較すると、ケーク7を通過した処理液の得られる面積が大きくなるため、濾過流量を大きくすることができる。したがって、濾過用フィルター1は、SS粒子が除去されやすく、濾過流量の大きいものとなる。
フィルター基材6の単位面積(1μm2)当たりの針状構造物5の数は、以下に示す方法により測定できる。
濾過用フィルターを電子顕微鏡で観察し、縦2μm、横2μm、面積4μm2の正方形の領域内に存在する針状構造物の頂点の数を、4箇所測定する。そして、4箇所で測定した針状構造物の頂点の数を平均し、単位面積(1μm2)当たりの針状構造物の数を算出する。
また、フィルター基材6の断面における単位長さ(1μm)当たりの針状構造物5の数は1.0〜4.0個/μmが好ましく、1.5〜3.0個/μmがより好ましい。
単位長さ当たりの針状構造物5の数が1.0個/μm以上であると、単位面積当たりの針状構造物5の数が1.2個/μm2以上である場合と同様に、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉できる優れた除去機能を有するものとなる。
単位長さ当たりの針状構造物5の数が4.0個/μm以下であると、単位面積当たりの針状構造物5の数が10.0個/μm2以下である場合と同様に、隣接する針状構造物5間の隙間が狭くなりすぎることが防止される。このため、隣接する針状構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されているケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成されるものとなり、濾過流量の大きな濾過用フィルター1となる。
フィルター基材6の断面における単位長さ(1μm)当たりの針状構造物5の数は、以下に示す方法により測定できる。
濾過用フィルター1を埋め込み樹脂で固定して切断し、その切断面をイオンミリングで平滑化して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影する。その後、撮影したフィルター基材の断面の拡大写真におけるフィルター基材の表面の略延在方向に沿って、10μm当たりの針状構造物の数を測定する。そして、測定した針状構造物の数から単位長さ(1μm)当たりの針状構造物の数を算出する。
本実施形態において、フィルター基材6の断面における針状構造物5の平均高さHおよび基端部の平均幅Dは、以下に示す部分の寸法を、以下に示す測定方法により測定する。
図3に示すように、フィルター基材6の断面において隣接する針状構造物5間には、谷53が形成されている。フィルター基材6の断面において、針状構造物5を挟んで対向する谷底である基端53a、53a間を、直線51でつなぎ、その長さを針状構造物5の基端部の幅D1、D2とする。また、針状構造物5の先端52と上記の直線51との最短距離を、針状構造物5の高さH1、H2とする。
フィルター基材6の断面において、2つの針状構造物57、58が一体化されている場合(図2における符号59で示す針状構造物)には、以下に示す部分の寸法を、針状構造物57、58の高さH3、H4および針状構造物57、58の基端部の幅D3、D4とする。
まず、針状構造物57、58が一体化された針状構造物59を挟んで対向する谷底である基端53a、53a間を、直線54でつなぐ。次いで、2つの針状構造物57、58間の谷55の谷底から直線54に向かって垂線56を引く。垂線56と直線54との交点から各基端53a、53aまでのそれぞれの距離を、針状構造物57、58の基端部の幅D3、D4とする。また、各針状構造物57、58の先端52a、52bと上記の直線54との最短距離を、各針状構造物57、58の高さH3、H4とする。なお、垂線56の長さが、針状構造物57、58の高さH3、H4の両方の高さの3/4未満である場合には、独立した2つの針状構造物とみなす。また、2つの針状構造物57、58が一体化されているとする基準は、前記独立した2つの針状構造物とみなされる場合以外とする。
針状構造物5の高さおよび針状構造物5の基端部の幅を測定するには、濾過用フィルター1を埋め込み樹脂で固定して切断し、その切断面をイオンミリングで研磨して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影する。その後、撮影したフィルター基材6の断面の拡大写真におけるフィルター基材の表面の略延在方向に沿う長さ10μmの範囲を1つの測定領域とし、4箇所の測定領域に存在する全ての上記の針状構造物5の高さおよび基端部の幅を測定する。そして、測定した4箇所の針状構造物5の高さの平均値を、針状構造物5の平均高さHとする。また、測定した4箇所の針状構造物5の基端部の幅の平均値を、針状構造物5の基端部の平均幅Dとする。
フィルター基材6の断面における針状構造物5の高さの変動係数は0.15〜0.50が好ましく、0.18〜0.36がより好ましい。変動係数とは、上述したフィルター基材6の断面における針状構造物5の高さの分布の標準偏差を、前記針状構造物5の高さの算術平均値で除したものである。
変動係数が0.15以上であると、針状構造物5の高さのばらつきが十分に大きいものとなる。このため、濾過用フィルター1にSS粒子を含む被処理液を通過させる際に、濾過用フィルター1の表面でのSS粒子を含む被処理液の流れが複雑になるとともに、高さの高い針状構造物5にSS粒子が引っかかりやすくなる。その結果、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすくなるとともに、高さの高い針状構造物5に引っかかったSS粒子を起点として、めっき層3の表面にケーク7が形成されやすくなる。
変動係数が0.50以下であると、めっき層3の表面に形成されたケーク7を、高さの低い針状構造物5が支えることによって、隣接する針状構造物5間に形成されている谷53とケーク7とに囲まれた空間31の広さが確保されやすくなる。このため、濾過によってケーク7が形成された後、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量が増大する。したがって、濾過用フィルター1は、針状構造物のないフィルターと比較して濾過流量に優れたものとなる。
フィルター基材6の断面における針状構造物5の基端部の平均幅Dと平均高さHとのアスペクト比H/Dは0.5〜4.0であることが好ましく、1.0〜3.0がより好ましい。アスペクト比H/Dが0.5以上であると、隣接する針状構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されたケーク7とに囲まれた十分な高さの空間31が形成される。このため、濾過によってケーク7が形成された後に、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量に優れたものとなる。また、アスペクト比H/Dが4.0以下であると、強度に優れた針状構造物5となるため、耐久性に優れた濾過用フィルター1となる。
フィルター基材6の断面における針状構造物5の平均高さHは、0.2〜2.5μmであることが好ましく、0.4〜1.8μmであることがより好ましい。平均高さHが0.2μm以上であると、隣接する針状構造物5間に形成されている谷53と、めっき層3上に形成されるケーク7とに囲まれた十分な高さの空間31が形成される。このため、濾過の際にケークが形成された後に、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすくなり、濾過流量に優れたものとなる。
また、平均高さHが2.5μm以下であると、隣接する針状構造物5間の隙間が狭くなりすぎることが防止される。このため、10.0個/μm2以下である場合と同様に、空間31が十分に確保された濾過流量に優れた濾過用フィルター1となる。
フィルター基材6の断面における針状構造物5の基端部の平均幅Dと、除去対象物質の平均粒子径(D50)b(SS粒子の平均粒子径)との関係は、b/Dが0.33以上を満足することが好ましく、0.5以上を満足することがより好ましい。上限については、b/Dが3.00以下を満足することが好ましく、2.00以下を満足することがより好ましい。
上記b/Dが0.33以上であると、SS粒子が隣接する針状構造物5間に形成されている谷53の谷底の近傍に入り込みにくいものとなる。したがって、谷53と、めっき層3上に形成されたケーク7とに囲まれた広い空間31が形成されやすくなる。よって、濾過用フィルター1は、ケーク濾過された処理液が空間31内を流れやすく、濾過流量に優れたものとなる。
また、b/Dが3.00以下であると、SS粒子が隣接する針状構造物5間に、より一層引っかかりやすいものとなる。このため、より一層、深層濾過の機構によってSS粒子が捕捉されやすく、捕捉されたSS粒子によってケーク7が形成されやすい濾過用フィルター1となる。
ここで、平均粒子径bは、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
次に、図3に示す濾過用フィルター1を製造するには、まず、綾織されて網目状とされた線材2を用意する。
次いで、線材2の表面全面に、めっき処理を用いて、下地層4を形成する。下地層4を形成するためのめっき処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層3を形成する前に、ステンレスからなる線材2の表面に下地層4を形成する場合には、電解ニッケルめっき処理または無電解ニッケルめっき処理を用いて、ニッケルまたはニッケル合金からなる下地層4を形成することが好ましい。
次に、下地層4の設けられた線材2の表面全面に、電気めっき処理によって、複数の針状構造物5を析出させて、線材2をめっき層3で被覆する。めっき層3を形成するための電気めっき処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、下地層4およびめっき層3がニッケルまたはニッケル合金からなるものである場合、下地層4の形成後、めっき浴に添加剤を添加して、連続して電解ニッケルめっき処理または無電解ニッケルめっき処理を用いて、めっき層3を形成することが好ましい。
複数の針状構造物5を析出させる電気めっき処理では、めっき浴に添加する添加剤の種類、濃度、めっき時間を変化させることにより、針状構造物5の形状および大きさを変化させることができる。添加剤としては、エチレンジアミン二塩酸塩(ethylenediamine dihydrochloride)、エチレンジアミン(EDA)などが挙げられる。
めっき層3を形成するためのめっき処理を行った後、必要に応じて熱処理を行って、めっき層3の結晶化を促進してもよい。
その後、ゾルゲル法等により、めっき層3の表面に、表面改質層を形成する。このようにして、図1〜図3に示す濾過用フィルター1を製造する。
次に、めっき層の別の例として、多面体形状の析出物の集合体を備えためっき層について説明する。図4及び図5に、多面体形状の析出物の集合体を備えためっき層のSEM写真を示す。
図4及び図5に示すめっき層3は、多面体形状の複数の析出物が下地層4の表面に集合してなる集合体で形成されている。図4に示す集合体は、複数の多面体が相互に結合して体積の一部を共有している。多面体形状の複数の析出物は、それぞれ、3つ以上の平面が交わる頂点を複数有している。各析出物は、図4および図5に示すように、それぞれ異なる形状および異なる大きさを有しており、下地層4の表面に密集して形成されている。その結果、多面体形状の辺に相当する部分は、不規則な方向を向いている。
多面体形状の析出物の最大外形寸法の平均値は0.5〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましい。析出物の平均最大外形寸法が上記範囲内であると、被処理液中のSS粒子が引っかかりやすいものとなる。特に、被処理液中のSS粒子の平均粒子径が0.1〜10μmである場合、めっき層3にSS粒子が引っかかりやすいものとなる。したがって、被処理液中のSS粒子の平均粒子径が上記範囲である場合に、深層濾過の機構によって効率よくSS粒子を捕捉できる。また、析出物の平均最大外形寸法が上記範囲内であると、めっき層3にSS粒子が引っかかりやすいため、濾過用フィルター1に捕捉されたSS粒子によってケークが形成されやすくなる。その結果、ケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉しやすいものとなり、SS粒子を除去する機能の高い濾過用フィルター1となる。
多面体形状の析出物の平均最大外形寸法は、以下に示す測定方法により測定する。
すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大した濾過用フィルター1の写真を撮影し、画像処理を行う。具体的には、多面体形状の析出物の最も大きさの大きい部分の外形寸法を、一つの写真に対して代表的な10か所を選択して測定し、その平均値を平均最大外形寸法と定義する。
平面視で、めっき層3の被覆された貫通孔5の孔径は、貫通孔5の内壁に接する内接円の直径と近似したときに、平均値で1〜20μmが好ましい。内接円の直径の平均値は、貫通孔5の大きさおよび濾過用フィルター1の開孔率を決定するものである。濾過用フィルター1では、内接円の直径の平均値は、下地層4およびめっき層3を形成する前の線材2間の間隔と、下地層4の厚みと、めっき層3の厚みのうち、いずれか一つ以上を変化させることによって、調整できる。
平面視で、めっき層3の被覆された貫通孔5の孔径が1〜20μmであると、特に、被処理液中のSS粒子の平均粒子径が0.1〜10μmである場合に、貫通孔5の大きさが適切なものとなる。したがって、濾過用フィルター1に捕捉されたSS粒子によって、貫通孔5をふさぐケークが容易に形成され、ケーク濾過の機構を用いてSS粒子を捕捉しやすいものとなる。
貫通孔5の内壁に接する内接円の直径の平均値は、以下に示す測定方法により測定する。
すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大した濾過用フィルター1の写真を撮影し、画像処理を行う。具体的には、平面視で、めっき層3の被覆された貫通孔5の内壁に接する内接円51の直径を、一つの写真に対して代表的な10か所を選択して測定し、その平均値を内接円51の直径の平均値と定義する。
濾過用フィルター1においては、めっき層3の析出物の平均最大外形寸法と、平面視で、めっき層3の被覆された貫通孔5の内壁に接する内接円の直径の平均値とが、下記の関係を満たすものであることが好ましい。すなわち、析出物の平均最大外形寸法をAとし、上記の内接円の直径の平均値をBとしたときに、A≦3Bを満たすものであることが好ましい。
上記のA≦3Bを満たす場合、目詰まりが生じにくく、深層濾過および表面濾過の機構を利用して効率よくSS粒子を捕捉できる濾過用フィルター1となる。内接円51の直径の平均値が、析出物の平均最大外形寸法に対して極端に小さいと、深層濾過の機構によってめっき層3の表面に捕捉されるSS粒子の粒径と、表面濾過の機構によって貫通孔5に捕捉されるSS粒子の大きさとが逆転し、目詰まりが起こりやすくなる場合がある。
濾過用フィルター1において、平面視で、フィルター基材の面積(濾過用フィルター1の面積)に対する貫通孔8の面積である開孔率は、0.04〜5.00%であることが好ましい。濾過用フィルター1の開孔率が0.04〜5.00%であると、めっき層3を形成している多面体形状の析出物の間の空隙を通過して貫通孔8に向かう被処理液の量が十分に多くなり、めっき層3の表面にSS粒子が付着しやすくなる。このため、深層濾過の機構によってSS粒子を捕捉しやすいものとなる。また、開孔率が0.04〜5.00%であると、めっき層3に捕捉されたSS粒子が凝集して、濾過用フィルター1の貫通孔8をふさぐケークが形成されやすいものとなる。貫通孔8にケークが形成されると、ケーク濾過の機構を用いて、貫通孔5よりも大きさの小さいSS粒子を効率よく捕捉できる濾過用フィルター1となる。濾過用フィルター1の開孔率は2.50%以下が好ましく、1.50%以下であることがさらに好ましい。
濾過用フィルター1の開孔率は、以下に示す測定方法により測定した隣接する貫通孔8間の最短距離の平均値と、上述した方法を用いて測定した内接円の直径の平均値とを用いて、以下に示す方法により算出する。
図1に示す濾過用フィルター1においては、隣接する貫通孔8間の最短距離の平均値は、めっき層3によって被覆された線材2の平均線径である。このため、隣接する貫通孔8間の最短距離の平均値として、めっき層3によって被覆された線材2の平均線径を用いて、開孔率を算出する。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大した濾過用フィルター1の写真を撮影し、画像処理を行う。具体的には、めっき層3によって被覆された線材2の線径を、一つの写真に対して代表的な10か所を選択して測定し、その平均値をめっき層3に被覆された線材2の平均線径と定義する。
次いで、めっき層3に被覆された線材2の平均線径をA、内接円の直径の平均値をBとして、B2/(A+B)2(%)で算出される値を開孔率と定義する。
次に、図4または図5に示す濾過用フィルター1の製造方法について説明する。
線材2の表面全面に、めっき処理を用いて、下地層4を形成するまでは、先に説明した例のめっき層と同様である。
次に、下地層4が設けられた線材2の表面全面に、めっき処理によって、複数の多面体形状を有する析出物を析出させて、線材2をめっき層3で被覆する。めっき層3を形成するためのめっき処理としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、下地層4およびめっき層3がニッケルまたはニッケル合金からなるものである場合、下地層4の形成後、めっき浴に添加剤を添加して、連続して電解ニッケルめっき処理または無電解ニッケルめっき処理を用いて、めっき層3を形成することが好ましい。
複数の多面体形状を有する析出物で形成されているめっき層3を形成するためのめっき処理では、めっき浴に添加する添加剤の種類および濃度を変化させることにより、多面体形状の析出物の形状および大きさを変化させることができる。添加剤としては、2−ブチン−1,4−ジオールなどが挙げられる。
めっき層3を形成するためのめっき処理を行った後、必要に応じて熱処理を行って、めっき層3の結晶化(多面体化)を促進してもよい。
その後、ゾルゲル法等により、めっき層3の表面に、表面改質層を形成する。このようにして、図1、図4〜図5に示す濾過用フィルター1を製造する。
次に、図1〜図5に示す濾過用フィルター1を用いて、被処理水液中のSS粒子を除去する処理方法について説明する。
濾過用フィルター1にSS粒子を含む被処理液を通過させると、まず、表面濾過および深層濾過の機構によって、SS粒子が捕捉される。濾過用フィルター1は、多面体形状の析出物または針状析出物を所定の密度で有するものであるため、濾過用フィルター1とSS粒子を含む被処理液との接触面積が大きい。このため、表面濾過および深層濾過の機構によって多面体形状の析出物または針状析出物の表面に付着したSS粒子を起点として、めっき層3の表面の複数の箇所で速やかにSS粒子の凝集物が形成される。
形成された凝集物は、濾過用フィルター1へのSS粒子を含む被処理液の通過を継続させることにより、成長して剥離し、SS粒子を含む被処理液とともに貫通孔8に向かって移動する。貫通孔8に移動した1つまたは複数の凝集物は、貫通孔8をふさぐケークとなる。このように、本実施形態の処理方法では、表面濾過の機構だけでなく、深層濾過の機構およびケーク濾過の機構も利用して、被処理液中の小さなSS粒子を除去できる。よって、優れた濾過性能が得られる。
図3に示す濾過用フィルター1は、隣接する針状構造物の間または多面体形状の析出物同士の間に谷53を有している。谷53は、断面視で谷底である基端53aに近づくにつれて幅が狭くなっている。
このため、濾過用フィルター1に捕捉されたSS粒子は、谷53の基端53a近傍には入り込みにくい。したがって、めっき層3の表面にケーク7が形成されている濾過用フィルター1では、図2に示すように、谷53とケーク7とに囲まれた十分な広さの空間31が形成される。空間31が形成された後、さらに濾過用フィルター1へのSS粒子を含む被処理液の通過を継続させても、空間31の上部はケーク7で形成された蓋が被せられた状態となっているため、SS粒子は空間31内に入り込みにくい。したがって、濾過用フィルター1へのSS粒子を含む被処理液の通過を継続させると、ケーク7上にさらにSS粒子が堆積される。
以上は図3の場合についての説明だが、図4、図5に示すフィルターにおいても同様の現象が起きる。
本実施形態では、濾過用フィルター1が一定量のSS粒子を捕捉した段階で洗浄を行う。洗浄を行うタイミングは、特に限定されるものではなく、濾過用フィルター1に通過させる被処理液に含まれるSS粒子の量などに応じて適宜決定できる。洗浄は、濾過用フィルター1に、SS粒子を含む被処理液を通過させた方向と反対向きに洗浄液を通過(逆洗)させたり、濾過用フィルター1の表面に洗浄液を流したりして行う。
図3に示す濾過用フィルター1の逆洗を行うと、空間31には、各針状構造物5を取り囲むように形成された谷53を介して、多方向から洗浄液が流入する。このことにより、谷53の上部の少なくとも一部を覆うように形成されていたケーク7が、洗浄液に押し上げられて、ケーク7の剥離が促進される。また、水濾過用フィルター1の針状構造物5は、基端53aから先端52に向けて先細りの形状を有している。このため、洗浄液に押し上げられたケーク7は、水濾過用フィルター1から容易に剥離される。また、針状構造物5が先細りの形状を有しているので、針状構造物5に付着しているSS粒子が逆洗時に谷53に挟まりにくく、針状構造物5から容易に剥離される。したがって、本実施形態の処理方法では、逆洗を行うことにより、水濾過用フィルター1に堆積したSS粒子が速やかに除去される。逆洗を行うことにより、水濾過用フィルター1が再生される。
以上は図3の場合についての説明だが、図4、図5に示すフィルターにおいても同様にして逆洗が可能である。
実施形態の濾過用フィルター1によれば、めっき層3の表面に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素のいずれか一方または両方を含む表面改質層が形成されているため、濾過の過程でめっき層表面に滞留した処理水中の固形物やSS粒子が、めっき層表面に固定化しにくくなる。これにより、濾過用フィルターの洗浄工程において固形物やSS粒子をめっき層表面から容易に洗い流すことができる。
また、めっき層3に、多面体形状の複数の析出物の集合体または複数の針状析出物の集合体が備えられることにより、めっき層3の表面に処理水中のSS粒子がひっかかりやすいものとなる。しかも、このようなめっき層3は、めっき層3を形成している多面体形状の析出物同士または針状析出物同士の間の空隙が比較的大きいため、めっき層3とSS粒子を含む被処理水との接触面積が大きくなる。このため、実施形態の濾過用フィルター1は、めっき層3の表面に付着するSS粒子が多くなり、深層濾過の機構によって効率よくSS粒子を捕捉できる。
また、実施形態の濾過用フィルター1では、めっき層3を形成している多面体形状の析出物または針状析出物の間の空隙が大きく、析出物の間の空隙に被処理液が通りやすくなる。しかも、めっき層3は、線材2を被覆するものであり、めっき層3によって被覆された線材3間に形成されている貫通孔5をふさがない。このため、濾過用フィルター1にSS粒子を含む被処理液を通過させると、表面濾過および深層濾過の機構によって捕捉されたSS粒子によって、貫通孔8をふさぐように速やかにケークが形成される。したがって、濾過用フィルター1は、表面濾過の機構と深層濾過の機構に加えて、ケーク濾過の機構も利用できるものである。よって、実施形態の濾過用フィルター1は、優れた濾過性能が得られる。
また、実施形態の濾過用フィルター1では、めっき層3は線材2を被覆しており、多面体形状の複数の析出物がフィルター基材の表面に集合してなる集合体で形成されている。
したがって、濾過用フィルター1では、めっき層3と線材2との間に空間が存在していない。このため、例えば、めっき層3と線材2との間に空間が存在している場合と比較して、めっき層3が脱落しにくく、耐久性に優れた濾過用フィルター1となる。また、めっき層3と線材2との間に空間が存在していないので、めっき層3と線材2との間の空間に被処理液中のSS粒子が詰まることがない。したがって、濾過用フィルター1は、洗浄が容易である。
上記の実施形態では、線材2とめっき層3との間に、下地層4が設けられている濾過用のフィルターを例に挙げて説明したが、下地層は設けられていなくてもよい。
上記の実施形態では、網目状に配置された線材2の形状が平織である場合を例に挙げて説明したが、網目状に配置された線材2の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、綾織、畳織であってもよい。フィルター基材が織物である場合、線材2同士が交差して重なることによって、濾過用フィルター1の表面に凹凸が形成される。このため、濾過用フィルター1の表面にSS粒子がひっかかりやすいものとなり、より一層濾過性能の高いものとなる。
また、上記の実施形態では、フィルター基材が、線材2と、線材2の表面に形成された下地層4と、線材2間に形成された貫通孔5とで形成されている場合を例に挙げて説明したが、フィルター基材は、例えば、金属などで形成された板材に、貫通孔として所定の間隔で複数の開孔が設けられたもの(パンチングメッシュ)であってもよいし、その表面に下地層が形成されたものであってもよい。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、めっき層の表面に、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素のいずれか一方または両方を含む表面改質層が形成されているため、濾過の過程でめっき層表面に滞留した処理水中の固形物やSS粒子が、めっき層表面に固定化しにくくなる。これにより、濾過用フィルターの洗浄工程において固形物やSS粒子をめっき層表面から容易に洗い流すことができる。
以下、実施例を用いて詳細に説明する。
(実施例1)
ステンレス製の平織りの金網(目開き45μm,線径32μm)を用意した。これを、リンと亜鉛とニッケルとを含むめっき浴中に浸漬し、無電解ニッケルめっき処理を行った。このことにより、網目状に配置されたステンレスで形成されている線材をニッケル亜鉛合金からなる下地層で被覆した。
その後、下地層を形成しためっき浴中に、添加剤として2−ブチン−1,4−ジオールを添加して、無電解ニッケルめっき処理を行った。このことにより、下地層で被覆された線材を被覆するめっき層を形成し、実施例1の濾過用フィルターを得た。
次に、実施例1の濾過用フィルターのめっき層の表面に、表面改質層を形成した。表面改質層の形成方法は、ゾルゲル法を採用した。酸化ケイ素の原料として、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)を用い、酸化アルミニウムの原料としては、アルミニウムセカンダリブトキシドを用いた。これら原料の混合液を用いて、ゾルゲル法により表面改質層を形成した。表面改質層のAl/Si比は混合モル比により任意に調整できるが、ここでは表面を中性域で負電荷に寄せる為に、0.1〜0.3程度とした。
表1に実施例1の濾過用フィルターのめっき層の形状と、多面体形状の析出物の平均最大外形寸法と、貫通孔の直径の平均値と、フィルター基材の面積に対するめっき層の被覆された貫通孔の面積(貫通孔の割合(開孔率))とを示す。
(比較例1)
表面改質層の形成を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の濾過用フィルターを製造した。
(親水化の確認)
シリカを主成分とした親水化処理を行った濾過用フィルターの親水化評価を行った。
濾過用フィルターは多孔質である為、濡れ性評価として一般に行われる接触角を用いた評価ができない。そこで、以下のように行った。
デジタルマイクロスコープのステージに濾過用フィルターをセットし、デジタルマイクロスコープで撮影しながらマイクロピペットにより1μLの純水を滴下した。滴下の瞬間から1分間、滴下した液の挙動を観察した。
親水化処理を行っていない比較例1の濾過用フィルターにおいては、滴下直後は直径1mmの液滴であったが、徐々にフィルターへの浸透が進み、滴下後5秒後に液滴の浸透範囲が直径2mmとなった。液滴によって濡れた部分は更に徐々に広がり、32秒後の時点で最大となりその後は滴下した水の乾燥が進んだ。47秒時点で滴下した水は完全に乾燥し、観察されなくなった。
親水化処理した実施例1の濾過用フィルターにおいては、液滴の滴下直後からフィルター内に水が浸透したために液滴は観測できず、1秒後に直径10mmまで広がった。10秒経過の時点で濡れた部分の面積が最大となり、その後は乾燥が進んだ。25秒時点で滴下した水は完全に乾燥し、観察されなくなった。
以上の様の水滴の濡れ広がりの挙動によって、実施例1のフィルターが親水化されたことが確認された。
(洗浄試験)
破砕シリカ(E−1、株式会社龍森製)1gを1Lのイオン交換水に分散させ、サラダ油0.1mlを添加した後にホモジナイザー(ホモミクサーMk-II、PRIMIX)で撹拌速度5000rpm、時間10分間の条件で撹拌し、試験液を調整した。
実施例1の濾過用フィルターそれぞれφ13mlのシリンジフィルタホルダ(ADVANTEC)に合うように切断し、同ホルダにセットした後、20mlの試験液を濾過した。ろ過により、油を含むシリカのケーキ層が濾過用フィルター上に形成された。結果を図5に示す。
続いて、ビーカーにイオン交換水を採り、ケーキを形成したフィルタ上にイオン交換水を流し入れて搖動させて、洗浄した。
上記操作は、親水化処理をしていない比較例1の濾過用フィルターについても行い、親水化処理の洗浄効果を比較した。結果を図6に示す。
図6(a)及び図6(b)は、濾過後のフィルター表面をデジタルマイクロスコープで25倍の倍率で撮影した写真である。図6(a)は比較例1であり、図6(b)は実施例1である。図6(a)及び図6(b)に示すように、濾過後のフィルター表面には、親水化処理の有無にかかわらずケーキ層が形成されており、外観上の差異はなく、いずれもろ過できていると言える。
また、図7(a)及び図7(b)は、洗浄後のフィルター表面をデジタルマイクロスコープで100倍の倍率で撮影した写真である。図7(a)は比較例1であり、図7(b)は実施例1である。図7(a)及び図7(b)に示すように、比較例1及び実施例1では、白いシリカの残留に差が見られている。図7(a)に示すように、親水化しない比較例1では、洗浄後のフィルター表面にシリカが多く残っており、洗浄効果が劣ることが確認された。一方、図7(b)に示すように、親水化した実施例1では、黒色のフィルター材表面が多く観察され、洗浄によってケーキ層が除去されており、洗浄性に優れることがわかる。