JP6201404B2 - 耐擦傷性樹脂積層体 - Google Patents

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Description

本発明は、画像表示装置の前面側(視認側)に配置して用いられる表面保護パネル、特にタッチパネル機能を有する携帯電話や液晶ペンタブレット等のフロントカバー材として好適に使用することができる耐擦傷性樹脂積層体に関する。
従来、電子機器のディスプレイ用カバー材等の分野では、硬度、耐熱性、透明性の観点から、広くガラスが用いられてきた。
しかしながら、ガラスは衝撃により容易に割れ、またガラス自身の重量も重いことからプラスチックでの代替が検討されている。
また最近では、各種電子機器・装置の小型化、軽量化、高性能化、低価格化が進み、ディスプレイ用カバーを始めとした樹脂成形品の使用条件は一段と厳しくなっており、低価格化や少量・多品種生産に対応するためには、打ち抜き加工性に優れ、生産性の高い樹脂シートが強く求められている。
さらに、昨今のタッチパネル機能、ペン入力機能を有する電子機器・装置の著しい増加によって、優れた表面硬度の樹脂シートが強く求められている。
これらの用途には、透明性が高く、表面硬度にも優れていることからアクリル系樹脂が広く用いられている。さらには、アクリル系樹脂フィルム上に耐擦傷性皮膜(ハードコート層)が形成された構成が知られている。また、アクリル系樹脂の欠点である脆性、および耐擦傷性の低さを解消するものとして、ポリカーボネート樹脂層とアクリル系樹脂層を積層し、さらにアクリル系樹脂層上に耐擦傷性皮膜(硬化性樹脂層)が形成された構成が知られている。
例えば、特許文献1では、硬質性の分散相を含むアクリル系樹脂から構成される基材上にハードコート処理することにより、耐擦傷性を向上させた耐擦傷性樹脂積層体が提案されている。
また、特許文献2では、ポリカーボネート樹脂シートの片面に50〜120μm厚のアクリル樹脂を共押出により積層した総厚さが0.5〜1.2mmの積層体に、さらに硬化性樹脂層を付与した構成が提案されている。
さらに、特許文献3では、ポリカーボネート樹脂を含む積層体を構成するアクリル樹脂を含む層の厚み及び該積層体の総厚みを特定の範囲に制御し、更にアクリル樹脂を含む層上又はアクリル樹脂を含む層とポリカーボネート樹脂を含む基材上にハードコート処理することにより、鉛筆硬度、耐衝撃性のバランスのとれた液晶ディスプレーカバーに好適なポリカーボネート樹脂を含む積層体が提案されている。
特開2007−296711号公報 特開2006−103169号公報 国際公開パンフレット WO2008/047940号公報
上記特許文献1〜3においては、アクリル系樹脂上に耐擦傷性樹脂層またはハードコート処理層を10μm以下の厚みで設けているが、この範囲の厚みでは、例えばアクリル系樹脂層表面が凹凸を有する場合、その表面を十分に平滑化することが出来ず、凹凸部をきっかけとした傷を発生させる虞がある。つまり、言い換えれば、樹脂積層体表面の耐擦傷性機能が低下する虞がある。
また、上記特許文献2又は3においては、樹脂積層体の表面硬度を、鉛筆硬度にて評価されているが、本発明が想定している用途に対しては不充分な性能であった。
そこで、本発明の目的は、優れた表面平滑性と耐擦傷性を備え、かつ、優れた鉛筆硬度を有する耐擦傷性樹脂積層体を提供することにある。
本発明は、熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層して成る樹脂積層体において、
該樹脂層Aの鉛筆硬度がH以上であり、かつ、該樹脂層Aの厚みが60μm以上であって、
該樹脂層Bの厚みが15μmより大きく100μm以下であり、かつ、該樹脂層B表面の算術平均粗さが30nm以下であり、かつ、該樹脂層B表面の鉛筆硬度が7H以上であって、
該熱可塑性樹脂組成物cが、ポリカーボネート樹脂とその他の熱可塑性樹脂の混合物であり、前記その他の熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの一部、好ましくは55〜75モル%をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の一部、好ましくは10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これら共重合ポリエステルの混合物であることを特徴とする耐擦傷性樹脂積層体を提案する。
本発明が提案する耐擦傷性樹脂積層体は、熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層して成る樹脂積層体において、該樹脂層B表面の算術平均粗さが30nm以下であることにより、優れた表面平滑性と耐擦傷性を具備することができる。また、優れた鉛筆硬度を有することから、画像表示装置の前面側(視認側)に配置して用いられる表面保護パネル、特にタッチパネル機能を有する携帯電話や液晶ペンタブレット等のフロントカバー材として好適に用いることができる。
本実施形態にかかる耐擦傷性樹脂積層体の一例を示す図である。
以下、本発明の実施形態の一例としての耐擦傷性樹脂積層体(「本積層体」と称する)について説明する。但し、本発明が、この本積層体に限定されるものではない。
本積層体は、熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層して成るものである。
以下に、本積層体を構成する樹脂層A、樹脂層B、樹脂層Cについて、順に説明する。
<樹脂層A>
本積層体のうち、熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層してなる積層体において、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層Aは、樹脂層Bの裏側に配置されることにより、樹脂層B表面に優れた鉛筆硬度を発現させる役割を果たしている。
かかる理由により、樹脂層Aの鉛筆硬度はH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましい。樹脂層Aの鉛筆硬度がH以上であれば、その上に積層する樹脂層Bの表面に優れた硬度が維持され、即ち本積層体に優れた鉛筆硬度を付与できるので好ましい。
<アクリル系樹脂a>
本発明に用いることのできるアクリル系樹脂aを構成する単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、単独で重合して使用してもよく、2種類以上を重合して使用してもよい。
前記アクリル系樹脂aを構成する単量体と共重合可能な単量体は、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよい。
ここで、単官能単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンの如き芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルの如きアルケニルシアン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド;等が挙げられる。また、多官能単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートの如き多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルの如き不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートの如き多塩基酸のポリアルケニルエステル;ジビニルベンゼンの如き芳香族ポリアルケニル化合物;等が挙げられる。メタクリル酸アルキルまたはアクリル酸アルキルと共重合可能な単量体は、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
前記アクリル系樹脂aを構成する単量体との共重合樹脂としては、例えばアクリル系樹脂aの耐環境性(吸湿による反り)を改善する観点において、メチルメタクリレート−スチレン共重合体を好ましく使用することが出来る。メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂としては、全単量体単位を基準として、通常、メチルメタクリレート単位を30〜95重量%、スチレン単位を5〜70重量%有するものが用いられ、好ましくはメチルメタクリレート単位を40〜95重量%、スチレン単位を5〜60重量%有するものが用いられ、さらに好ましくはメチルメタクリレート単位を50〜90重量%、スチレン単位を10〜50重量%有するものが用いられる。メチルメタクリレート単位の割合が小さくなると、表面層自体の破壊強度が低くなり、フィルム全体が割れ易くなると共に、鉛筆硬度も低下する。また、メチルメタクリレート単位の割合が大きくなると、耐環境性が低下する。
本発明に用いることのできるアクリル系樹脂aは、前述した単量体成分を、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの公知の方法で重合させることにより調製することができる。その際、積層体を作製する際に好適な成形性を示す粘度を得るため、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体成分の種類やその組成などに応じて、適宜決定すればよい。
また、本積層体に用いるアクリル系樹脂aにおいては、耐熱性を有するアクリル樹脂(以下、耐熱性アクリル樹脂という)も好ましく使用することができる。
耐熱性アクリル樹脂を主成分として樹脂層Bを形成すると、本積層体において、耐熱性を付与しやすくなる場合があるため好ましい。
(耐熱性アクリル樹脂a1)
耐熱性アクリル樹脂a1としては、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位を含む共重合樹脂であることを特徴とするものが挙げられる。
Figure 0006201404
式(1)中、R1は水素またはメチル基であり、R2は炭素数1〜16のアルキル基である
Figure 0006201404
式(2)中、R3は水素またはメチル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキル置換基を有することにあるシクロヘキシル基である。
一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位のR2は炭素数1〜16のアルキル基であり、メチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などを挙げることができる。これらは1種類単独かあるいは2種類以上を併せて使用することができる。これらのうち好ましいのはR2がメチル基および/またはエチル基の(メタ)アクリル酸エステル構成単位であり、さらに好ましいのはR1がメチル基、R2がメチル基のメタクリル酸エステル構成単位である。
式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位としては、例えば、R3が水素またはメチル基で、R4がシクロヘキシル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するシクロヘキシル基であるものを挙げることができる。これらは1種類単独かあるいは2種類以上を併せて使用することができる。これらのうち好ましいのはR3が水素、R4がシクロヘキシル基の脂肪族ビニル構成単位である。
式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位と、式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位とのモル構成比は、15:85〜85:15の範囲であり、25:75〜75:25の範囲であることが好ましく、30:70〜70:30の範囲であることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル構成単位と脂肪族ビニル構成単位との合計に対する(メタ)アクリル酸エステル構成単位のモル構成比が15%未満であると機械強度が低くなりすぎて脆くなるので実用的ではない。また85%を超えると耐熱性が不十分となる場合がある。
前記耐熱性アクリル樹脂a1としては、主として一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位と、一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位とからなるものであれば、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを共重合した後、芳香環を水素化して得られたものが好適である。なお、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及び/ 又はアクリル酸を示す。この際に使用される芳香族ビニルモノマーとしては、具体的にスチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなど、およびそれらの誘導体を挙げることができる。これらの中で好ましいのはスチレンである。
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル類などを挙げることができるが、物性のバランスから、メタクリル酸アルキルを単独で用いるか、あるいはメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルを併用することが好ましい。メタアクリル酸アルキルのうち、特に好ましいものはメタアクリル酸メチルまたはメタアクリル酸エチルである。
主として一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位と、一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位とからなる耐熱性アクリル樹脂a1において、前記芳香族ビニルモノマーの芳香環の70%以上が水素化して得られたものであることが好ましい。即ち、耐熱性アクリル樹脂a1における芳香族ビニル構成単位の割合は耐熱性アクリル樹脂a1中30%以下であることが好ましい。30%を越える範囲であると耐熱性アクリル樹脂a1の透明性が低下する場合がある。より好ましくは20%以下の範囲であり、さらに好ましくは10%以下の範囲である。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーの重合には、公知の方法を用いることができるが、例えば、塊状重合法、溶液重合法により製造することができる。溶液重合法では、モノマー、連鎖移動剤、および重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的に供給し、100〜180℃で連続重合する方法などにより行われる。
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水素圧力3〜30MPa、反応温度60〜250℃でバッチ式あるいは連続流通式で行うことができる。温度を60℃以上とすることにより反応時間がかかり過ぎることがなく、また250℃以下とすることにより分子鎖の切断やエステル部位の水素化を起すことがない。
水素化反応に用いられる触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどの金属またはそれら金属の酸化物あるいは塩あるいは錯体化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土などの多孔性担体に担持した固体触媒が挙げられる。
耐熱性アクリル樹脂a1のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が110℃以上であると積層体の耐熱性が不足することがない。
(耐熱性アクリル樹脂a2)
耐熱性アクリル樹脂a2としては、アクリル系樹脂を構成する全単量体単位を基準として、メタクリル酸メチル単位60〜95重量%と、メタクリル酸単位、アクリル酸単位、マレイン酸無水物単位、N−置換又は無置換マレイミド単位、グルタル酸無水物構造単位、及びグルタルイミド構造単位から選ばれる単位5〜40重量%とを有し、ガラス転移温度を110℃以上とした重合体を挙げることができる。
ここで、メタクリル酸メチル単位は、メタクリル酸メチルの重合により形成される単位〔−CH−C(CH)(COCH)−〕であり、メタクリル酸単位は、メタクリル酸の重合により形成される単位〔−CH−C(CH)(COH)−〕であり、アクリル酸単位は、アクリル酸の重合により形成される単位〔−CH−CH(COH)−〕である。また、マレイン酸無水物単位は、一般式(3)で表されるマレイン酸無水物の重合により形成される単位であり、N−置換又は無置換マレイミド単位は、一般式(4)で表されるN−置換又は無置換マレイミドの重合により形成される単位である。
Figure 0006201404
式(4)中、R1は水素原子又は置換基を表し、この置換基の例としては、メチル基、エチル基のようなアルキル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基、フェニル基のようなアリール基、ベンジル基のようなアラルキル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜20程度である。
また、グルタル酸無水物構造単位は、グルタル酸無水物構造を有する単位であり、グルタルイミド構造単位は、グルタルイミド構造を有する単位であり、典型的にはそれぞれ、次の一般式(5)及び(6)で示される。
Figure 0006201404
式(5)中、R2は水素原子又はメチル基を表し、R3は水素原子又はメチル基を表す。式(6)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、R5は水素原子又はメチル基を表し、R6は水素原子又は置換基を表し、この置換基の例としては、メチル基、エチル基のようなアルキル基、シクロヘキシル基のようなシクロアルキル基、フェニル基のようなアリール基、ベンジル基のようなアラルキル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜20程度である。
メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸単位、アクリル酸単位、マレイン酸無水物単位、及びN−置換又は無置換マレイミド単位は、重合原料として、それぞれ、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸無水物、及びN−置換又は無置換マレイミドを用いることにより、導入することができる。
グルタル酸無水物構造単位は、メタクリル酸メチルの単独重合体、或いは、メタクリル酸メチルとメタクリル酸及び/又はアクリル酸との共重合体を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートのような塩基性化合物の存在下、通常150〜350℃、好ましくは220〜320℃で熱処理して変性させることにより、導入することができる。
また、グルタルイミド構造単位は、メタクリル酸メチルの単独重合体、或いは、メタクリル酸メチルとメタクリル酸及び/ 又はアクリル酸との共重合体を、アンモニアや一級アミンの存在下、通常150〜350℃、好ましくは220〜320℃ の範囲で熱処理して変性させることにより、導入することができる。
耐熱性アクリル樹脂a2としては、アクリル樹脂の単量体単位組成は、メタクリル酸メチル単位が、好ましくは65〜95重量%、より好ましくは70〜92重量% であり、メタクリル酸単位、アクリル酸単位、マレイン酸無水物単位、N−置換又は無置換マレイミド単位、グルタル酸無水物構造単位、及びグルタルイミド構造単位から選ばれる単位が、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは8〜30重量% である。また、アクリル系重合体のガラス転移温度は、好ましくは115℃以上であり、また通常150℃以下である。
(耐熱性アクリル樹脂a3)
耐熱性アクリル樹脂a3としては、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(α)を環化縮合反応させることにより形成されるラクトン環構造を有するものをあげることができる。前記重合体(α)は、(メタ)アクリレート系単量体(α1)と2−(ヒドロキシアルキル)アクリレート系単量体とを少なくとも含む単量体成分を重合した共重合体であり、前記ラクトン環構造が、下記一般式(7)で表わされる構造である。
Figure 0006201404
上記式(7)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。
前記一般式(7)で表されるラクトン環構造を形成するためには、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(α)として、例えば、(メタ)アクリレート系単量体(α1)および下記一般式(8)で表される構造単位を有するビニル単量体(α2)を含む単量体成分を重合して得られる重合体が好ましく挙げられる。
Figure 0006201404
式(8)中、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。
前記(メタ)アクリレート系単量体(α1)は、前記一般式(8)で表される、例えば2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル構造単位を有するビニル単量体以外の、いわゆる(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であれば特に限定されない。例えば、アルキル基等を持つ脂肪族(メタ)アクリレートでもよいし、シクロヘキシル基等を持つ脂環式(メタ)アクリレートでもよいし、ベンジル基等を持つ芳香族(メタ)アクリレートでもよい。また、これらの基の中に所望の置換基あるいは官能基が導入されていてもよい。
前記(メタ)アクリレート系単量体(α1)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られるアクリル系樹脂の耐候性、表面光沢、透明性の点では、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルが好ましく、得られるアクリル系樹脂の表面硬度の点でより好ましくはメタクリル酸メチルがよい。また、シクロヘキシル基を持つ(メタ)アクリレートは、アクリル系樹脂に疎水性を付与しその結果、アクリル系樹脂の吸水率を低減でき、またアクリル系樹脂に耐候性を付与できる点で好ましい。また、芳香族基を持つ(メタ)アクリレートは、芳香環により、さらに得られるアクリル系樹脂の耐熱性の向上が図れる点で好ましい。
単量体成分中、前記(メタ)アクリレート系単量体(α1)の割合は、特に制限されるものではないが、95〜10重量%が好ましく、90〜10重量%がより好ましい。さらに、良好な透明性、耐候性を保持させるためには、全単量体成分中、90〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは90〜60重量%、さらに好ましくは90〜70重量%であるのがよい。
本発明に用いられる耐熱性アクリル樹脂a3においては、前記(メタ)アクリレート系単量体(α1)として、不飽和モノカルボン酸(α1’)を併用してもよい。不飽和モノカルボン酸(α1’)を併用することにより、ラクトン環構造とともにグルタル酸無水物環構造が導入されたアクリル系樹脂を得ることができ、耐熱性や機械的強度をより向上させることができるので好ましい。不飽和モノカルボン酸(α1’)としては、例えば、(メタ)アクリル酸やクロトン酸、またはそれらの誘導体であるα−置換アクリル酸単量体等が例示できるが特に限定されない。好ましくは、(メタ)アクリル酸であり、さらに耐熱性の点ではメタクリル酸が好ましい。また、重合体(α)における前記(メタ)アクリレート系単量体(α1)由来のエステル基が加熱等の条件により、不飽和カルボン酸(α1’)と同等の構造となっていてもよい。また、不飽和カルボン酸(α1’)が持つカルボキシル基は、後述する環化縮合反応に支障がなければ、例えば、ナトリウム塩など金属塩等の塩の構造になっていてもいい。なお、単量体成分中、不飽和モノカルボン酸(α1’)の割合は、特に制限されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜設定すればよい。
前記一般式(8)で表される構造単位を有するビニル単量体(α2)としては、例えば、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸の誘導体が挙げられる。具体的には、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル系単量体が好ましく挙げられる。より具体的には、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル) アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸―t― ブチル等が挙げられ、この中でも特に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルと2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましい。さらに、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが、表面硬度、耐熱水性あるいは耐溶剤性の向上効果が高いことから、最も好ましい。なお、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
単量体成分中、前記一般式(8)で表される構造単位を有するビニル単量体(α2)の割合は、特に制限されるものではないが、5〜50重量%であることが好ましい。より好ましくは10〜40重量%であり、より好ましくは15〜35重量%である。ビニル単量体(α2)の割合が前記範囲より少ないと、環構造の量が少なくなるため、積層体の表面硬度が低くなったり、耐熱水性や耐溶剤性も低くなる場合がある。また、積層体の耐熱性が低くなる場合もある。一方、前記範囲より多いと、ラクトン環構造を形成する際に、架橋反応が起こってゲル化しやすくなり、流動性が低下し、溶融成形しにくくなる場合がある。また、未反応の水酸基が残りやすくなるため、得られたアクリル系樹脂を成形する時に、さらに縮合反応が進行して揮発性物質が発生し、積層体に泡や、シルバーストリーク(表面の銀条模様等)が入りやすくなる場合がある。
重合体(α)を得る際の単量体成分としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、前記(α1)および(α2)以外の重合性単量体を用いることも可能である。例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等が挙げられる。なお、これらは、1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。重合体(α)を得る際の単量体成分として上記重合性単量体を併用する際には、これらの単量体の含有量は、単量体成分中、0〜30重量%以下が好ましく、より好ましくは0〜20重量%以下、さらに好ましくは0〜10重量%以下とするのがよい。物性等の点で、所定量以上用いると、(メタ)アクリレート系単量体由来の良好な物性である耐候性、表面光沢あるいは透明性等の物性が損なわれる場合がある。
耐熱性アクリル樹脂a3は、前記重合体(α)を環化縮合反応させて環構造を形成させることによって得られる。前記環化縮合反応とは、加熱により、前記重合体(α)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基(もしくはさらにカルボキシル基)が環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、該環化縮合によってアルコールと水が副生する。このように環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与されると共に高い表面硬度、耐熱水性、耐溶剤性が付与される。
前記重合体(α)を環化縮合させてラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を得る方法としては、例えば、1)前記重合体(α)を押出機にて減圧下、加熱して環化縮合反応させる方法(Polym.Prepr.,8,1,576(1967)、2)前記重合体(α)の環化縮合反応を溶剤存在下で行い、かつ、該環化縮合反応の際に同時に脱揮を行う方法、3)特定の有機リン化合物を触媒として用い、前記重合体(α)を環化縮合させる方法(欧州特許1008606号)等がある。勿論、これらに限定されるものではなく、上記1)〜3)の方法のうち、複数の方法を採用してもよい。特に、環化縮合反応の反応率が高く、積層体に泡やシルバーストリークが入るのを抑制することができ、脱揮中の分子量低下による機械的強度の低下を抑えられる点からは、2)および3)を用いた方法が好ましい。
本発明に用いられる耐熱性アクリル樹脂a3は、重量平均分子量が1,000〜1,000,000 、さらに好ましくは5,000〜500,000、最も好ましくは50,000〜300,000であることが好ましい。重量平均分子量が前記範囲より低いと、表面硬度、耐熱水性あるいは耐溶剤性が低下するばかりではなく、機械的強度が低下し、脆くなりやすいという問題があり、一方、前記範囲より高いと、流動性が低下して成形しにくくなるので、好ましくない。
耐熱性アクリル樹脂a3のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは115℃以上、さらに好ましくは125℃以上、最も好ましくは130℃以上である。
以上、上記いずれかの耐熱性アクリル系樹脂を主成分として樹脂層Aを形成すると、本積層体に優れた耐熱性が付与出来るため好ましい。
(耐熱性アクリル樹脂a4)
耐熱性アクリル樹脂a4としては、耐熱性だけでなく、優れた硬度を併せ持つものとしてアクリル系樹脂のマトリックス中に硬質性の分散相を含有させたものを用いることもできる。より具体的には、アクリル系樹脂中に、アクリル系樹脂より耐熱性又は耐擦傷性の優れた硬質分散相材料を含有・分散してなるものを用いることができる。前記のマトリックス中に硬質性の分散相を含有させたアクリル系樹脂を用いることにより、樹脂層A表面の鉛筆硬度を5H以上とすることができる。
硬質分散相を形成する材料としては、熱硬化性樹脂が挙げられ、具体的には、フェノール樹脂、アミノ系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、熱硬化性ポリウレタン系樹脂等の重縮合又は付加縮合系樹脂の他、熱硬化性アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の付加重合系樹脂が挙げられる。
これらの中でも、熱硬化性樹脂を構成する不飽和モノマーが多官能性のものであれば、重合架橋により硬い材料の特性(不溶、高いガラス転移温度)が得られるため好ましい。不飽和モノマーの例としては、ポリオールとアクリル酸及び/又はメタクリル酸のポリエステル、更には、これらのポリオールのポリアリール及びポリビニルエーテルなどの架橋性モノマーを挙げることができる。ただし、これらに限定されるものではない。
不飽和モノマーとしては、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレート(ジ−、トリ−)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリトリトールトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールテトラアリルエーテル、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートまたはエトキシル化ペンタエリトリトールテトラアクリレート、およびこれらの混合物が挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂との親和性を考慮すると、トリメチロールプロパントリアクリラート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリラート(TMPTMA)を好適に用いることができる。ただし、これらに限定されるものではない。
熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの熱硬化性樹脂と架橋し得る不飽和結合を有する熱可塑性樹脂とを組み合わせて使用してもよい。
硬質分散相の形状は、粒子状、球状、線状、繊維状等が挙げられ、熱可塑性マトリックス樹脂であるアクリル系樹脂中に均等に分散され易い点からは球状が好ましい。ただし、これに限定されるものではない。
硬質分散相の粒径は、本積層体の使用目的、用途等に応じて適宜設定されるが、好ましくは0.1〜1000μmである。アクリル系樹脂相中における硬質分散相の配合量は、本積層体の使用目的、用途等に応じ適宜設定されるが、好ましくは0.1〜60重量%である。
アクリル系樹脂相中に硬質分散相を含ませる方法としては、特に限定されることはないが、例えば次の方法が挙げられる。
a)アクリル系樹脂材料に硬質分散相を構成する熱硬化性樹脂材料を添加する。
b)次に、溶融混練し、所定形状に成型した後、相分離及び架橋を生じさせることにより硬質分散相を構成することができる。また、熱硬化性樹脂を予め粒子状等に成型し、アクリル系樹脂中に添加し、熱硬化性樹脂が溶解しない温度で混練及び成型してもよい。
(その他の成分)
樹脂層Aは、アクリル系樹脂a成分のほかに、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、シリコーン系化合物などの難燃剤、フィラー、ガラス繊維、耐衝撃性改質剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
また、樹脂層Aを主に構成するアクリル系樹脂aは、本発明の効果を損なわない範囲で、弾性重合体部を有するアクリル系ゴム粒子をも含有することもできる。かかるアクリル系ゴム粒子は、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体からなる層(弾性重合体層)を有するものであり、弾性重合体のみからなる単層の粒子であってもよいし、弾性重合体層と硬質重合体からなる層(硬質重合体層)とによって構成される多層構造の粒子であってもよいが、積層体の表面に配される樹脂層Aの鉛筆硬度を考慮すると、多層構造の粒子であることが好ましい。なお、アクリル系ゴム粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
前述のとおり、樹脂層Aは樹脂層Bの裏側に配置されることにより、樹脂層B表面に優れた鉛筆硬度を発現させる役割を果たしている。かかる理由により樹脂層Aの厚みは、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがさらに好ましい。樹脂層Aの厚みが40μm以上であれば、樹脂層Bの厚みを薄くしても樹脂層B表面に優れた鉛筆硬度が発現されるので好ましい。一方、樹脂層Aの厚みは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。樹脂層Aの厚みが200μm以下であれば、打抜き加工を行う際の妨げとなる樹脂層Aの脆性を、樹脂層Cで補いやすくなるので好ましい。
<樹脂層B>
本発明における樹脂層Bは、本積層体に優れた表面硬度を付与する層であり、該樹脂層B表面のJIS K−5600−5−4に規定する鉛筆硬度試験の硬度が7H以上であることが好ましく、8H以上であることがより好ましい。鉛筆硬度が7H以上であれば、優れた表面硬度を有する積層体を提供することができる。
また、樹脂層Bは優れた耐擦傷性を有する層であり、#0000のスチールウールを用いて荷重1000gで擦ったときに、傷が発生するまでの往復回数が50回以上であることが好ましく、100回以上であることがより好ましい。
<硬化性樹脂組成物b>
本積層体の樹脂層Bは硬化性樹脂組成物bから形成されるものであり、本発明に用いることのできる硬化性樹脂組成物bは、例えば、電子線、放射線、紫外線などのエネルギー線を照射することにより硬化するか、あるいは加熱により硬化するものであれば、特に制限はないが、成形時間及び生産性の観点から紫外線硬化性樹脂からなることが好ましい。
また、硬化性樹脂組成物bを構成する硬化性樹脂の好ましい例として、アクリレート化合物、ウレタンアクリレート化合物、エポキシアクリレート化合物、カルボキシル基変性エポキシアクリレート化合物、ポリエステルアクリレート化合物、共重合系アクリレート、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテルエポキシ樹脂、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられ、これらの硬化性樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の化合物を組み合わせて用いてもよい。なかでも、優れた鉛筆硬度を付与する硬化性樹脂としては、例えば、多官能アクリレート化合物、多官能ウレタンアクリレート化合物、多官能エポキシアクリレート化合物など、ラジカル重合系の硬化性化合物や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシランなど、熱重合系の硬化性化合物を挙げることができる。さらに、本発明の硬化性樹脂組成物bは、前記硬化性樹脂に無機成分を含有させてなる有機・無機複合系硬化性樹脂組成物とすることもできる。
本積層体に特に優れた鉛筆硬度を付与する硬化性樹脂組成物bとして、有機・無機ハイブリッド系硬化性樹脂組成物を挙げることができる。有機・無機ハイブリッド系硬化性樹脂組成物としては、前記硬化性樹脂に反応性官能基を有する無機成分を含有させた硬化性樹脂組成物から構成されるものを挙げることができる。
このような反応性官能基を有する無機成分を利用して、例えば、この無機成分が、ラジカル重合性モノマーと共重合及び架橋することで、単に有機バインダーに無機成分を含有させてなる有機・無機複合系硬化性樹脂組成物に比べて、硬化収縮が生じにくく、かつ高い鉛筆硬度を発現することができるので好ましい。さらに、硬化収縮の低減の観点からは、反応性官能基を有する無機成分として紫外線反応性のコロイダルシリカを含む、有機・無機ハイブリッド系硬化性樹脂組成物を、より好ましい例に挙げることができる。
樹脂層Bの形成方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物bの塗料として樹脂層Aの表面に塗工した後、硬化膜とすることにより、樹脂層Aの表面に形成・積層する方法があるが、この方法に限定されるものではない。
樹脂層Aとの積層方法としては、公知の方法が使用される。例えば、カバーフィルムを使用するラミネート方式、ディップコート法、ナチュラルコート法、リバースコート法、カンマコーター法、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバー法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法、グラビアコート法等が挙げられる。その他、例えば、離型層に樹脂層Bが形成されてなる転写シートを用いて、当該樹脂層Bを樹脂層Aに積層する方法を採用してもよい。
(表面調整成分)
樹脂層Bを形成する硬化性樹脂組成物bは、表面調整成分としてレベリング剤を含むことができる。レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、アクリル系レベリング剤などを挙げることができ、特に、末端に反応性の官能基を有するものが好ましく、2官能以上の反応性の官能基を有するものがより好ましい。
具体的には、両末端に2重結合を有する、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK−UV 3500」、「BYK−UV 3530」)や、2重結合を末端に2個ずつ計4個有する、アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK−UV 3570」)などが挙げられる。
これらの中でも、ヘイズの値が安定し、かつ耐擦傷性の向上に寄与する、アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
硬化性樹脂を紫外線で硬化させる場合は、光重合開始剤を使用する。光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類などが挙げられる。光重合開始剤の添加量は、硬化性樹脂100重量部に対し、0.1〜5重量部の範囲が一般的である。
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で用いることができるほか、多くは2種以上混合して用いることもできる。また、これらの各種光重合開始剤は市販されているので、そのような市販品を用いることができる。市販の光重合開始剤としては、例えば、“IRGACURE651”、“IRGACURE184”、“IRGACURE500”、“IRGACURE1000”、“IRGACURE2959”、“DAROCUR1173”、“IRGACURE907”、“IRGACURE369”、“IRGACURE1700”、“IRGACURE1800”、“IRGACURE819”、“IRGACURE784”〔以上のIRGACURE(イルガキュア)シリーズ及びDAROCUR(ダロキュア)シリーズは、BASF社で販売〕、“KAYACUREITX”、“KAYACUREDETX−S”、“KAYACUREBP−100”、“KAYACUREBMS”、“KAYACURE2−EAQ”〔以上のKAYACURE(カヤキュア)シリーズは、日本化薬社で販売〕などを挙げることができる。
(その他の成分)
樹脂層Bを形成する硬化性樹脂組成物bは、硬化性樹脂成分のほかに、例えば、ケイ素系化合物、フッ素系化合物、またはこれらの混合化合物などの滑剤や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、シリコーン系化合物などの難燃剤、フィラー、ガラス繊維、耐衝撃性改質剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
樹脂層Bの厚みは、15μmより大きいことが好ましい。厚みが15μmより大きければ、樹脂層Aが製膜時または製膜後の傷つきによる凹凸を有していたとしても、樹脂層Bを被覆することにより十分にカバーすることができ、樹脂層B表面に十分な硬度と十分な表面平滑性を付与することができるので好ましい。かかる観点から、樹脂層Bの厚みは20μm以上であることが好ましく、25μ以上であることがさらに好ましい。一方、厚みの上限については、特に制限はないが、100μm以下であれば、樹脂層Bの硬化・収縮に伴う反りやうねり、剥離等が生ずる虞がない点で好ましい。
また、樹脂層B表面の算術平均粗さは、30nm以下であることが好ましい。算術平均粗さが30nm以下であれば、樹脂層Bの表面凹凸を起点とした傷が発生する虞がなく、耐擦傷性機能を損なうことがないので好ましい。かかる観点から、樹脂層Bの算術平均粗さは、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
<樹脂層C>
熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層Aおよび硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層してなる本積層体において、樹脂層Cは、本積層体に優れた耐衝撃性、あるいは打ち抜き性などの二次加工性を付与する役割を果たす。
<熱可塑性樹脂組成物c>
本積層体における樹脂層Cは、熱可塑性樹脂組成物cより形成される。該熱可塑性樹脂組成物cに用いることのできる熱可塑性樹脂としては、溶融押出しによってフィルム、シート、あるいはプレートを形成し得る熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、好ましい例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびポリ乳酸系重合体などの脂肪族ポリエステルに代表されるポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂およびこれらを主たる成分とする共重合体、またはこれら樹脂の混合物等を挙げることができる。特に本発明においては、可視光線域における吸収がほとんどないなどの点から、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、またはアクリル系樹脂が好ましい。
なかでも、本積層体に優れた耐衝撃性、あるいは打ち抜き性などの二次加工性を付与することができる点において、ポリカーボネート系樹脂が特に好ましい。
<ポリカーボネート系樹脂>
本発明に用いることのできるポリカーボネート系樹脂としては、溶融押出しによってフィルム、シート、あるいはプレートを形成し得るものであれば特に制限はなく、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂環族ポリカーボネートの群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
<芳香族ポリカーボネート>
芳香族ポリカーボネートとしては、例えば、i)二価フェノールとカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られるもの、ii)カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法などで重合させることにより得られるもの、iii)環状カーボネート化合物を開環重合法で重合させることにより得られるもの等が挙げられる。これらの中でも、i)二価フェノールとカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られるものが、生産性の点で好ましい。
前記二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
前記二価フェノールとしては、上述したものの中でも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる二価フェノールを単独で又は2種以上用いるのが好ましく、特に、ビスフェノールAの単独使用や、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群れから選ばれる1種以上の二価フェノールとの併用が好ましい。
前記カルボニル化剤としては、例えば、ホスゲンの如きカルボニルハライド、ジフェニルカーボネートの如きカーボネートエステル、二価フェノールのジハロホルメートの如きハロホルメート等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
(その他のポリカーボネート系樹脂)
前記芳香族ポリカーボネート以外のポリカーボネート樹脂としては、脂肪族ポリカーボネート、脂環族ポリカーボネート等が挙げられる。構造の一部に下記一般式(9)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むものが好ましい。
Figure 0006201404
(但し、前記一般式(9)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
前記ジヒドロキシ化合物としては、分子構造の一部が前記一般式(9)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物が挙げられる。
また、耐熱性の観点からは、スピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物を好ましく用いることもできる。具体的には、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
その他のポリカーボネート系樹脂としては、上記ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、その他のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオールのなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、等の脂環式ジヒドロキシ化合物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。
熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層Aおよび硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層してなる本積層体において、樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内とすることにより、例えば本積層体を高温、あるいは高温多湿の環境にさらした場合でも、本積層体の反りを抑制することができるので好ましい。かかる観点から、樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を25℃以内とするのがより好ましく、20℃以内とすることがさらに好ましい。
樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内とする方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(1)アクリル系樹脂aおよび/または熱可塑性樹脂組成物cにおいて、ガラス転移温度の異なる熱可塑性樹脂をブレンドして、少なくとも2種以上の熱可塑性樹脂の混合物とすることにより、樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差を30℃以内に調整する方法。ここでガラス転移温度の異なる二種類以上の熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が異なってさえいれば、熱可塑性樹脂の種類は同じものでも、異なっているものでも用いることができる。また、ここでブレンドする熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂aまたは熱可塑性樹脂組成物cと相溶性を有するものである。
(2)アクリル系樹脂aおよび/または熱可塑性樹脂組成物cについて、他成分との共重合体とすることにより、樹脂層Aと樹脂層Bのガラス転移温度の差を30℃以内に調整する方法。
(3)アクリル系樹脂aおよび/または熱可塑性樹脂組成物cについて、可塑剤等の添加剤を混合することにより、樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差を30℃以内に調整する方法。
また、例えば樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内とする以外の手法で、本積層体の反りを抑制するその他の方法として、アクリル系樹脂aおよび/または熱可塑性樹脂組成物cにおいて、互いに非相溶の熱可塑性樹脂を少なくとも2種以上含んでなる混合物とすることにより、樹脂層Aおよび樹脂層Cの伸長挙動が互いに近いものとなるように調整する方法を挙げることができる。
樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内とする方法のうち、前記(1)の例を熱可塑性樹脂組成物cがポリカーボネート系樹脂とその他の熱可塑性樹脂の混合物からなる場合について詳述する。
本発明における熱可塑性樹脂組成物cは、前記のとおり二種以上の熱可塑性樹脂からなる混合物とすることができる。例えば、熱可塑性樹脂組成物cがポリカーボネート系樹脂を主成分としてなる場合、両者のガラス転移温度の差の絶対値を30℃ 以内とするには、後者のポリカーボネート系樹脂にその他の熱可塑性樹脂を混合して、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を低下させる方法が挙げられる。即ち、ポリカーボネート系樹脂と他の熱可塑性樹脂とを溶融ブレンド(;混合して加熱溶融すること)してポリマーアロイ化することにより、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を低下させる方法が挙げられる。
一般的には、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は150℃付近で、アクリル系樹脂の一般的なガラス転移温度の100℃よりも50℃近く高いため、ポリカーボネート系樹脂にその他の熱可塑性樹脂を混合して、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を低下させる。かかる観点から、その他の熱可塑性樹脂として、芳香族ポリエステルや、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂等を好ましい例として挙げることができる。
(芳香族ポリエステルd1)
その他の熱可塑性樹脂として用いることのできる芳香族ポリエステルd1として、例えば、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分とが縮合重合してなる樹脂を挙げることができる。
ここで、上記の芳香族ジカルボン酸成分の代表的なものとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。また、テレフタル酸の一部が他のジカルボン酸成分で置換されたものであってもよい。他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。これらは、一種でも二種以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジカルボン酸の量も適宜選択することができる。
一方で、上記のジオール成分の代表的なものとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。エチレングリコールの一部が他のジオール成分で置換されたものでもよい。他のジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これらは、一種でも二種以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジオールの量も適宜選択することができる。
芳香族ポリエステルの具体例として、テレフタル酸とエチレングリコールとを縮合重合させたポリエチレンテレフタレート、テレフタル酸或いはテレフタル酸ジメチルと1,4−ブタンジオールを縮合重合させたポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。また、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分及び/又はエチレングリコール以外の他のジオール成分を含んだ共重合ポリエステルも好ましい芳香族ポリエステルとして挙げることができる。
中でも好ましい例として、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの一部、好ましくは55〜75モル%をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の一部、好ましくは10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これら共重合ポリエステルの混合物を挙げることができる。
以上説明した芳香族ポリエステルの中で、ポリカーボネート系樹脂と溶融ブレンドすることによりポリマーアロイ化し、且つ、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を十分に低下させることができるものを選択するのが好ましい。
このような観点から、ポリエチレンテレフタレートのジオール成分であるエチレングリコールの50〜75モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル(所謂「PCTG」)、或いは、ポリブチレンテレフタレートのテレフタル酸の一部、好ましくは10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これらの混合物は最も好ましい例である。これらの共重合ポリエステルは、ポリカーボネート系樹脂と溶融ブレンドすることによって、完全相溶してポリマーアロイ化することが知られており、しかも効果的にガラス転移温度を下げることができる。
(環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂d2)
その他の熱可塑性樹脂として用いることのできる環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂d2は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂である。環状アセタール骨格を有するジオール単位は下記の一般式(10)または(11)で表される化合物に由来する単位が好ましい。
Figure 0006201404
Figure 0006201404
R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。
一般式(10)及び(11)の化合物としては3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)− 2,4 ,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
また、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂d2において、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類; ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類; 1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ )、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類; 上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4 ,4’ −ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。本発明のポリエステル樹脂の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。例示したジオール単位は単独で使用する事もできるし、複数を併用する事もできる。
また、本発明に用いられる環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂d2のジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸; テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。本発明のフィルムの機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2, 6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。例示したジカルボン酸は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
なお、溶融ブレンドした混合樹脂組成物がポリマーアロイとなっているか、言い換えれば完全相溶しているか否かは、例えば示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が単一となるかどうかで判断することができる。ここで、混合樹脂組成物のガラス転移温度が単一であるとは、混合樹脂組成物をJIS K−7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量計を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示すピークが1つだけ現れるという意味である。
また、前記混合樹脂組成物を、歪み0.1%、周波数10Hzにて動的粘弾性測定(JIS K−7198A法の動的粘弾性測定)により測定した際に、損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するかどうかでも判断することができる。
混合樹脂組成物が完全相溶(ポリマーアロイ化)すれば、ブレンドされた成分が互いにナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態となる。
なお、ポリマーアロイ化する手段として、相溶化剤を用いたり、二次的にブロック重合やグラフト重合させたり、或いは、一方のポリマーをクラスター状に分散させたりする手段も採用可能である。
ポリカーボネート系樹脂と前述のポリエステルd1またはd2との混合比率は、混合して得られるポリカーボネート系樹脂組成物とアクリル系樹脂とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内になる比率であれば制限するものではないが、透明性維持の観点から、質量比率でポリカーボネート系樹脂:ポリエステルd1またはd2=20:80〜90:10であるのが好ましく、特にポリカーボネート系樹脂:ポリエステルd1またはd2=30:70〜80:20、中でも特にポリカーボネート系樹脂:ポリエステルd1またはd2=40:60〜75:25であるのが好ましい。
次に、樹脂層Aと樹脂層Cのガラス転移温度の差の絶対値を30℃以内とする方法のうち、前記(3)の例を熱可塑性樹脂組成物cがポリカーボネート系樹脂と可塑剤の混合物である場合について詳述する。
前述のとおり、一般的には、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は150℃付近で、アクリル系樹脂の一般的なガラス転移温度の100℃よりも50℃近く高いため、両者のガラス転移温度の差の絶対値を30℃ 以内とするには、後者のポリカーボネート系樹脂に可塑剤を混合して、ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を低下させる方法が挙げられる。
本積層体に用いることのできる可塑剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートの如きリン酸エステル系化合物;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシルフタレート)、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートの如きフタル酸エステル系化合物;トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテートの如きトリメリット酸エステル系化合物;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル) アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネートの如き脂肪族二塩基酸エステル系化合物;メチルアセチルリシノレートの如きリシノール酸エステル系化合物;トリアセチン、オクチルアセテートの如き酢酸エステル系化合物;N−ブチルベンゼンスルホンアミドの如きスルホンアミド系化合物;等が挙げられる。特に、樹脂成分がポリカーボネート樹脂である場合には、上述した可塑剤の中でも、ポリカーボネート樹脂との相溶性が良いこと、相溶後の樹脂の透明性が良いことから、リン酸エステル系化合物が好ましく、とりわけ、クレジルジフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートがより好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物cをポリカーボネート系樹脂と可塑剤との混合物とする場合、両者の割合は質量比率で、ポリカーボネート系樹脂:可塑剤=70:30〜99:1であることが好ましく、ポリカーボネート系樹脂:可塑剤=90:10〜98:2であることがより好ましい。可塑剤の量が前述した割合よりも少ないと、可塑化によるガラス転移温度の低下効果が不充分となり、樹脂層Aと熱樹脂層Cとのガラス転移温度の差の絶対値が30℃ 以内の範囲にならず、その結果、得られる積層体の反りを抑制するのが難しくなるおそれがある。一方、可塑剤の量が前述した割合よりも多いと、ポリカーボネート樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物cの流動性が著しく大きくなり、例えば熱可塑性樹脂組成物aと共押出成形する方法で積層体とする場合に、その外観が損なわれるおそれがある。
<その他の成分>
樹脂層Cを形成する前記熱可塑性樹脂組成物cは、樹脂成分のほかに、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、シリコーン系化合物などの難燃剤、フィラー、ガラス繊維、耐衝撃性改質剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
前述のとおり、樹脂層Cは、樹脂層Aおよび樹脂層Bと積層することにより、本積層体に優れた耐衝撃性、あるいは打ち抜き性などの二次加工性を付与する役割を果たす。かかる観点から、樹脂層Cの厚みは、樹脂層Aおよび樹脂層Bの合計厚みとの比をもとに設定されることが重要であり、該厚み比を樹脂層C厚/(樹脂層A厚+樹脂層B厚)で表せば、2以上であることが好ましく、4以上であることがさらに好ましい。厚み比が2以上であれば、本積層体に優れた耐衝撃性、あるいは打ち抜き性などの二次加工性を付与できるので好ましい。
<本積層体の構成>
本積層体は、樹脂層C、樹脂層Aおよび樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層してなる構成であるが、これ以外の層を備えた4層以上の多層構成であってもよい。例えば樹脂層Cの表面のうち、樹脂層Aを積層した面とは反対側に樹脂層Dを積層してなる構成であり、より具体的には、樹脂層D/樹脂層C/樹脂層A/樹脂層Bなどの構成が挙げられる。
<厚み>
本積層体の厚みは、特に限定するものではなく、例えば0.1mm〜1.5mmであるのが好ましく、特に、実用面における取り扱い性を考慮すると0.2mm〜1.0mm以下程度であるのが好ましい。
例えば、画像表示装置の前面側に配置して用いられる表面保護パネルとしては、厚みが0.2mm〜1.2mmであるのが好ましく、例えばタッチパネル機能を有する携帯電話や液晶ペンタブレット等のフロントカバー材としては、厚みが0.3mm〜1.0mmであるのが好ましい。
図1は、本積層体の一実施形態の構成を図示したものであり、図1の(a)では、樹脂層C(12)、樹脂層A(13)および樹脂層B(14)の順に三層を積層してなる耐擦傷性樹脂積層体(11)を例示している。
さらに、図1の(b)では、樹脂層C(12)、樹脂層A(13)の二層からなる積層体の両面に樹脂層B(14)を積層した構成の耐擦傷性樹脂積層体(15)を例示している。かかる構成によれば、樹脂層C(12)にも樹脂層B(14)が被覆された構成であるため、樹脂層C(12)表面に工程傷が発生することを抑制できるなどの利点を有する。なお、樹脂層C(12)側の樹脂層B(14)は、樹脂層A(13)側の樹脂層B(14)とは異なる硬化性樹脂により形成させても良い。
本発明が提案する耐擦傷性樹脂積層体は、熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層して成る樹脂積層体において、該樹脂層B表面の算術平均粗さが30nm以下であることにより、優れた表面平滑性と耐擦傷性を具備することができる。また、該樹脂層B表面が優れた鉛筆硬度を有することから、ディスプレイのフロントカバー剤、及び、ディスプレイのフロントカバー材を備える画像表示装置に好適に用いられる。
<用語の説明>
一般的に「フィルム」とは、長さおよび幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JIS K−6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
<測定及び評価方法>
実施例・比較例で得られた樹脂層、および積層体の各種物性値の測定方法及び評価方法について説明する。
(樹脂層表面の鉛筆硬度)
実施例及び比較例で得られた樹脂層について、表面の鉛筆硬度の測定をJIS K−5600−5−4に準拠(負荷荷重750gf)して行い、樹脂層表面の鉛筆硬度試験の硬度(「鉛筆硬度」と称する)とした。
(樹脂層表面の耐擦傷性)
実施例及び比較例で得られた樹脂層について、次の装置、条件により、傷が発生するまでの往復回数を調べた。得られた測定値について下記評価基準に基づいて耐擦傷性の評価を行った。
装置:摩擦堅牢度試験機 学振型(大栄科学精器製作所社製)
スチールウール番手:♯0000
試験荷重:1000gf
試験速度:30往復/分
試験ストローク:120mm
○:50回≦傷が発生するまでの往復回数
×:傷が発生するまでの往復回数<50回
(樹脂層表面の表面平滑性)
実施例及び比較例で得られた樹脂層について、次の装置、条件により、表面の算術平均粗さを測定し、樹脂層の表面平滑性を評価した。
装置:直接位相干渉型顕微鏡VertScan2.0(菱化システム製)
条件:観察モード Waveモード
観察視野 939.87×713.17μm2
<実施例1>
(積層体の作製)
熱可塑性樹脂組成物cとして、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名: ユーピロンE−2000)、アクリル系樹脂aとして、メタクリル樹脂(三菱レイヨン社製、商品名:アクリペットVH)を押出機C及びAに供給し、各押出機において、270℃および250℃で溶融混練した後、260℃に加熱された2種2層用のTダイに合流させ、樹脂層C/樹脂層Aの2層構成になるようにシート状に押出し、冷却固化して、厚み600μm(樹脂層C:520μm、樹脂層A:80μm)の積層体を得た。
上記で得られた積層体の樹脂層A側の表面に、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤(日本合成化学社製、商品名「紫光UV1700B」)、光開始剤(BASF社製、商品名「IRGACURE184」)、プロピレングリコールモノメチルエーテルを6:0.3:4の重量比で混合した塗工液b−1を、バーコーターを用いて塗布し、90℃で1分間乾燥後、500mJ/cmの露光量で露光し、厚み27μmの樹脂層B−1を備えた樹脂積層体を得た。得られた樹脂積層体の樹脂層B−1の表面について、鉛筆硬度および耐擦傷性、および表面平滑性の評価を行った。その結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1において、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型ハードコート剤(亜細亜工業社製、商品名「RUA−066VE」)、光開始剤(BASF社製、商品名「IRGACURE184」)、プロピレングリコールモノメチルエーテルを6:0.3:4の重量比で混合した塗工液b−2を用いて、厚み29μmの樹脂層B−2とした以外は、実施例1と同様の方法で樹脂積層体の作製および評価を行った。その結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1において、樹脂層B−1の厚みを7μmとした以外は、実施例1と同様の方法で樹脂積層体の作製および評価を行った。その結果を表1に示す。
<比較例2>
実施例2において、樹脂層B−2の厚みを6μmとした以外は、実施例1と同様の方法で樹脂積層体の作製および評価を行った。その結果を表1に示す。
<比較例3>
実施例1において、樹脂層B−1を設けずに、積層体の樹脂層A表面について、鉛筆硬度および耐擦傷性、および表面平滑性の評価を行った。その結果を表1に示す。
Figure 0006201404
表1から明らかなように、実施例1および2の本発明の樹脂積層体は、樹脂層B表面の鉛筆硬度が7H以上で優れた硬度を備え、かつ該樹脂層B表面の算術平均粗さが30nm以下で優れた表面平滑性を有していることが分かった。
一方で、比較例1および2の樹脂積層体は、樹脂層B表面の鉛筆硬度が4H以下であり、鉛筆硬度が劣っていることが分かった。また、算術平均粗さが30nm以上であり、表面平滑性も劣っていることが分かった。また、比較例3の積層体は、樹脂層Bを有していないことにより、鉛筆硬度、耐擦傷性、表面平滑性ともに劣っていることが分かった。
本発明が提案する耐擦傷性樹脂積層体は、優れた耐擦傷性、および、鉛筆硬度を備えているので、画像表示装置の前面側(視認側)に配置して用いられる表面保護パネル、特にタッチパネル機能を有する携帯電話や液晶ペンタブレット等のフロントカバー材に好適に用いられる。
11、15、16:本積層体
12 :樹脂層C
13 :樹脂層A
14 :樹脂層B

Claims (3)

  1. 熱可塑性樹脂組成物cを主成分とする樹脂層C、アクリル系樹脂aを主成分とする樹脂層A、および硬化性樹脂組成物bから形成される樹脂層Bの少なくとも三層をこの順に積層して成る樹脂積層体において、
    該樹脂層Aの鉛筆硬度がH以上であり、かつ、該樹脂層Aの厚みが60μm以上であって、
    該樹脂層Bの厚みが15μmより大きく100μm以下であり、かつ、該樹脂層B表面の算術平均粗さが30nm以下であり、かつ、該樹脂層B表面の鉛筆硬度が7H以上であって、
    該熱可塑性樹脂組成物cが、ポリカーボネート樹脂とその他の熱可塑性樹脂の混合物であり、前記その他の熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの55〜75モル%をシクロヘキサンジメタノールで置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、ポリブチレンテレフタレートにおけるテレフタル酸の10〜30モル%をイソフタル酸で置換してなる構造を有する共重合ポリエステル、又は、これら共重合ポリエステルの混合物であることを特徴とする耐擦傷性樹脂積層体。
  2. 請求項の耐擦傷性樹脂積層体を有するディスプレイのフロントカバー材。
  3. 請求項記載のディスプレイのフロントカバー材を備える画像表示装置。
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