以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[アクリル系熱可塑性樹脂]
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、アクリル系熱可塑性樹脂からなる。アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位を有する。以下、各構造単位について説明する。
(第一の構造単位)
第一の構造単位は、下記式(1)で表される構造単位である。
式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。ここで、A群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群である。
なお、本明細書中、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、アリールアルキル基中のアルキル基及びアルコキシ基中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
R1における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R1における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
また、R1における炭素数5〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基が好適である。
また、R1における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基が好適である。
また、R1における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、フェニル基が好適である。
また、R1は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。
R1において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
第一の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で50〜95質量%であり、好ましくは60〜92質量%、より好ましくは70〜90質量%、更に好ましくは79〜90質量%である。第一の構造単位の含有量が、50質量%以上であれば高い全光線透過率及び耐環境性が発現する。
アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第一の構造単位を二種以上含有していてもよい。
例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、R1がアルキル基である構造単位と、R1がアリールアルキル基又はアリール基である構造単位と、を有するものとすることができる。このとき後者の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.1〜6質量%であることがさらに好ましい。この範囲にあるアクリル系熱可塑性樹脂によれば、大きな耐熱性低下を伴わずに、複屈折等の光学特性の改良効果が得られる。
第一の構造単位は、例えば、メタクリル酸単量体及びメタクリル酸エステル類から選ばれる第一の単量体から形成される。第一の単量体は、下記式(1−a)で表すことができる。
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ビシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸3−フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル等が挙げられる。これらの第一の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。メタクリル酸エステルのうち、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の透明性や耐候性が優れる点でメタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルが好ましい。
(第二の構造単位)
第二の構造単位は、下記式(2)で表される構造単位である。
式中、R
2は、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。B群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群である。
R2における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好適である。
また、R2における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
また、R2は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(B群)より選ばれる基である。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
置換基としての炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、R1における炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基として例示された基が同様に例示される。
R2において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
R3及びR4における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R3及びR4における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
R3及びR4における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
第二の構造単位の含有量としては、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜49.9質量%であり、好ましくは0.1〜35質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは7〜20質量%である。第二の構造単位の含有量がこの範囲であれば樹脂の透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく耐熱性が向上する。
アクリル系熱可塑性樹脂は、第二の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第二の構造単位を二種以上含有していてもよい。
第二の構造単位は、例えば、下記式(2−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第二の単量体から形成される。
式中、R2、R3及びR4は、それぞれ式(2)におけるR2、R3及びR4と同義である。
第二の単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3,4−トリフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第二の単量体のうち、アクリル系熱可塑性樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れることから、N−フェニルマレイミド及びN−ベンジルマレイミドが好ましい。これらの第二の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
(第三の構造単位)
第三の構造単位は、下記式(3)で表される構造単位である。
式中、R
5は、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R
6及びR
7はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。C群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群である。
R5における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が好適であり、アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性及び透明性などの光学特性が一層向上するとともに、アクリル系熱可塑性樹脂に低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好適である。
また、R5における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R5における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好適である。
また、R5は置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(C群)より選ばれる基である。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
R5において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。
R6及びR7における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R6及びR7における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
R6及びR7における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
R6及びR7は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
第三の構造単位の含有量としては、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜49.9質量%であり、好ましくは0.1〜35質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは0.1〜15質量%である。第三の構造単位の含有量がこの範囲であれば、透明性を維持し、低吸湿性が発揮される。
アクリル系熱可塑性樹脂は、第三の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第三の構造単位を二種以上含有していてもよい。
第三の構造単位は、例えば、下記式(3−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第三の単量体から形成される。
式中、R5、R6及びR7は、それぞれ式(3)におけるR5、R6及びR7と同義である。
第三の単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド、1−シクロヘキシル−3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第三の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性が優れる点から、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることからN−シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
アクリル系熱可塑性樹脂において、第二の構造単位及び第三の構造単位の総含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で5〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜35質量%、更に一層好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。この範囲内にあるとき、アクリル系熱可塑性樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、第二の構造単位の含有量及び第三の構造単位の含有量が50質量%を超えると、重合反応時に単量体成分の反応性が低下して、未反応で残存する単量体量が多くなり、アクリル系熱可塑性樹脂の物性が低下してしまう場合がある。
アクリル系熱可塑性樹脂において、第二の構造単位の含有量C2と第三の構造単位の含有量C3のモル比C2/C3は、望ましくは0より大きく15以下である。後述する光学特性(低い複屈折、低い光弾性係数)の観点から、モル比C2/C3は、より好ましくは10以下である。モル比C2/C3がこの範囲にあるとき、本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂はより一層良好な光学特性を発現する。
アクリル系熱可塑性樹脂において、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位の合計の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で、80質量%以上であってもよい。これにより、アクリル系熱可塑性樹脂は一層良好な光学特性を発現する。
(第四の構造単位)
アクリル系熱可塑性樹脂は、上記以外の構造単位をさらに含有していてもよい。例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、発明の目的を損なわない範囲で、上記第一、第二及び第三の単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構造単位を、さらに有していてもよい。以下、アクリル系樹脂中の第一、第二及び第三の構造単位以外の構造単位を、第四の構造単位と称する。
共重合可能なその他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基又は炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;オレフィン;ジエン;ビニルエーテル;ビニルエステル;フッ化ビニル;プロピオン酸アリル等の飽和脂肪酸モノカルボン酸のアリルエステル又はメタリルエステル;多価(メタ)アクリレート;多価アリレート;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類等を挙げることができる。その他の単量体は、これらの群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり得る。
上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
また、上記オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ジイソブチレン等が挙げられる。また、上記ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、上記ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等が挙げられる。また、上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。また、上記フッ化ビニルとしては、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
上記多価(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ、又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
多価アリレート単量体としては、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。グリシジル化合物単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物が挙げられる。
アクリル系熱可塑性樹脂中の第四の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.1〜15質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記範囲であると、アクリル系熱可塑性樹脂の吸湿性が一層改善される。耐候性の観点からは、10質量%未満であることが好ましく、7質量%未満であることがより好ましい。
アクリル系熱可塑性樹脂は、第四の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
第四の構造単位の一例として、下記式(4)で表される構造単位が挙げられる。
式中、R8は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、R9はハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基を示し、aは1〜3の整数を示す。
R8における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R9における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうちメチル基が好適である。
R9におけるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
また、R9における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R9における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
また、R9における炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられ、これらのうち、メトキシ基が好適である。
式(4)で表される構造単位は、例えば、下記式(4−a)で表される単量体から形成することができる。
式中、R
8、R
9及びaはそれぞれ式(4)におけるR
8、R
9及びaと同義である。
第四の単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。アクリル系熱可塑性樹脂を構成する第一の単量体、第二の単量体及び第三の単量体との共重合性に優れ、その光学特性の調整が少量の使用で可能な点からスチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。これらの第四の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、1種の共重合体から構成されていてもよいし、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位のうち1種以上の構造単位を有する2種以上の共重合体のブレンド物であってもよい。例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する1種の共重合体から構成される樹脂であり得る。あるいは、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位と、第二の構造単位、及び/又は第三の構造単位とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であってもよいし、第一の構造単位を有する重合体と、第二の構造単位を有する重合体と、第三の構造単位を有する重合体とから構成されるブレンド物であってもよい。透明性や均一性の観点から、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する共重合体であるか、第一の構造単位と、第二の構造単位、及び/又は第三の構造単位とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であることが好ましく、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する共重合体であることが特に好ましい。
アクリル系熱可塑性樹脂中のハロゲン原子の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.47質量%未満であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましい。アクリル系熱可塑性樹脂がハロゲン原子を0.47質量%未満とすることで、溶融成形等に際して高温でアクリル系熱可塑性樹脂を取り扱った場合でも、ハロゲン系ガスが発生し難く、ハロゲン系ガスに起因する装置の腐食や作業環境の悪化が防止される。また、アクリル系熱可塑性樹脂(又はその成形体等)を廃棄する際にも、環境負荷が比較的大きいハロゲン系ガスが発生し難いという利点がある。
アクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)は、3000〜1000000であることが好ましい。Mwが3000以上であれば成形によって必要な強度を有する光学等方性偏光膜保護フィルムを得ることができる。また、Mwが1000000以下であれば各種溶融成形時に必要十分な熱流動性を得ることができる。Mwは、より好ましくは30000〜800000であり、更に好ましくは60000〜600000である。特に好ましくは100000〜400000である。
アクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10であることが好ましい。アクリル系熱可塑性樹脂は、リビングラジカル重合法で重合することも可能であり、必要に応じて分子量分布を調整可能である。成形加工に適した樹脂粘度に調整する観点からは、分子量分布(Mw/Mn)は1.1〜7.0であることがより好ましく、1.2〜5.0であることがさらに好ましく、1.5〜4.0とすることもできる。
アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であることが好ましい。Tgが120℃以上であれば、近年の液晶ディスプレイ用フィルム成形体として必要十分な耐熱性を有している。Tgは、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上である。一方、Tgの上限としては、180℃以下であることが好ましい。
(アクリル系熱可塑性樹脂の光学特性)
(i)光弾性係数Cの絶対値
アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、3.0×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは、2.0×10−12Pa−1以下であり、さらに好ましくは1.0×10−12Pa−1以下である。
ここで、光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i−a)及び(i−b)により定義されるものである。光弾性係数CRの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことが判る。
CR=|Δn|/σR …(i−1)
|Δn|=nx−ny …(i−2)
式中、CRは光弾性係数、σRは伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。
アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数Cは、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂等)と比較して、十分に小さい。従って、外力に起因した(光弾性)複屈折を生じさせないために複屈折変化を受けにくい。また、成形時の残存応力に起因する(光弾性)複屈折を生じにくいために成形体内での複屈折分布も小さい。
(ii)面内方向の位相差Re
アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、8nm以下であることが好ましい。ここで位相差Reは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
位相差Reの絶対値は6nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることがさらに好ましい。
一般に、位相差Reの絶対値は、複屈折の大小を表す指標である。アクリル系熱可塑性樹脂の複屈折は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合の複屈折に対して十分に小さく、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途に好適である。
一方、面内方向の位相差Reの絶対値が8nmを超える場合、屈折率異方性が高いことを意味し、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途には使用できないことがある。また、光学材料(例えば、フィルム、シートなど)の機械的強度を向上させるために延伸加工をする場合があるが、延伸加工後の面内方向の位相差の絶対値が8nmを超える場合は、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折材料が得られたことにはならない。
(iii)厚み方向の位相差Rth
アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が、8nm以下であることが好ましい。ここで位相差Rthは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
位相差Rthの絶対値は、6nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることがさらに好ましい。
この厚み方向の位相差Rthは、光学材料、特に光学フィルムとしたとき、該光学フィルムを組み込んだ表示装置の視野角特性と相関する指標である。具体的には、厚み方向の位相差Rthの絶対値が小さいほど視野角特性は良好であり、見る角度による表示色の色調変化、コントラストの低下が小さい。
アクリル系熱可塑性樹脂は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合と比較して、光学フィルムとしたときの厚み方向の位相差Rthの絶対値が非常に小さいという特徴を有する。
(iv)全光線透過率
アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで全光線透過率は、100μm厚に換算して求めた値である。全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下し、高い透明性を要求される用途に使用できないことがある。
以上のとおり、アクリル系熱可塑性樹脂は、光弾性係数Cが十分に小さく(近似的にはゼロ)、また延伸加工の有無に関わらず、光学フィルムとして面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの絶対値がいずれも小さい(近似的にはゼロ)ことで特徴付けられ、従来公知の樹脂では達成できない光学的に完全な等方性を実現することができる。さらに、アクリル系熱可塑性樹脂は、高い耐熱性をも同時に達成することができる。
[アクリル系熱可塑性樹脂の製造方法]
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂は、第一の単量体、第二の単量体及び第三の単量体を含む単量体群を重合することにより得ることができる。アクリル系熱可塑性樹脂を得る手法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、通常、触媒の脱灰がないラジカル重合が選択される。
アクリル系熱可塑性樹脂を光学材料用途として用いるには、微小な異物や不純物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点から懸濁剤や乳化剤を用いないラジカルキャスト重合やラジカル溶液重合を用いることが望ましい。
また、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて適宜調整できるが、例えば、概ね重合温度が0〜160℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が80〜160℃、重合時間が1〜8時間である。
ラジカル重合反応時には、必要に応じて重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、重合温度に応じて一般的なラジカル重合開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が所望の範囲内に制御されるように添加される。
ラジカル溶液重合の場合の重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。重合温度、取扱いの容易さ、及び、樹脂と溶媒との分離除去の容易性より、沸点が50〜200℃である溶媒が好ましい。
ラジカル溶液重合では、重合液濃度(樹脂分の濃度)として10〜95質量%以下で実施することが望ましい。10質量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。95質量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。また、重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために75質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることが更に好ましい。
また、重合反応液の粘度を適切に保つという観点からは、重合中に重合溶媒を適宜添加することができる。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中の副反応を抑制することが容易となる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶媒を適宜添加して50質量%以下となるように制御することが更に好ましい。
溶液重合で得られたアクリル系熱可塑性樹脂は、溶液をそのまま用いて溶液キャスト法で光学等方性偏光膜保護フィルムとする場合以外では、溶媒や残存単量体と分離する必要がある。分離する方法は、溶液を加熱したり減圧したりして溶媒や残存単量体を揮発させる脱揮処理や、樹脂の貧溶媒中に入れて溶媒や残存単量体を抽出除去する方法等、公知の方法を用いることができる。
本実施形態において、アクリル系熱可塑性樹脂は、光学材料として精密な光学用途である偏光板に供されるものであることから混入する異物数は、少ないほど好ましい。異物数を減少させる方法としては、重合反応工程、脱揮処理工程、及び成形工程において、重合溶液又は溶融液を、例えば、濾過精度1.5〜15μmのリーフディスク型ポリマーフィルター等で濾過する方法等が挙げられる。
本実施形態においては、最終的な光学等方性偏光膜保護フィルムへの影響が出ない範囲内で、アクリル系熱可塑性樹脂に熱安定剤、紫外線吸収剤、光学等方性樹脂以外の樹脂を加えることができる。加える方法は公知の方法であれば特段の制限はない。例えば、重合時に添加する方法、重合後の溶液に添加する方法、樹脂に溶融混練等をして添加する方法、また、これらを組み合わせによる方法等によって添加することができる。
[光学等方性偏光膜保護フィルム]
本実施形態における光学等方性偏光膜保護フィルムとは、アクリル系熱可塑性樹脂を成形によりフィルム化したものである。偏光機能を有する偏光膜の両面若しくは片面に接着剤等により貼合され、偏光膜に形態保持性や耐擦傷性を付与して偏光膜を保護するのに使用される。
ここで、偏光膜とは入射する光を互いに直行する2つの偏光成分に分け、その一方のみを通過させ、他の成分を吸収又は反射させる働きを有する膜のことであり、その機能を有する膜であれば特に限定されず、いずれの偏光膜も用いることができる。また、その製造方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用することができる。例えば、一軸延伸状態を保持したままのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ化カリウム溶液にヨウ素を過溶解して製造した高次のヨウ素イオンを含む溶液に、浸漬し、ヨウ素を吸着後延伸したあと、1質量%から5質量%のホウ酸水溶液に浴温度20〜70℃の温度下で浸漬して偏光膜を製造する方法や、あるいは、ポリビニルアルコールフィルムを1〜5質量%のホウ酸水溶液に浴温度20〜40℃の温度下で浸漬し、一軸方向に3倍から7倍程度延伸した後、0.05〜5質量%の二色性染料水溶液に温度20〜40℃で浸漬して染料を吸着してから、80〜100℃で乾燥し、熱固定することで偏光膜を製造する方法等が挙げられる。
偏光膜の厚みは、特に限定されるものではないが、10〜50μm以下である。10μm以上であれば、延伸や浸漬時に破断することなしに製造が可能である。また50μm以下であれば最終乾燥が容易であり、ばらつきの少ない偏光膜を得ることが可能である。より好ましくは15〜45μm以下である。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、光弾性係数(C)が、−3.0×10−12Pa−1〜+3.0×10−12Pa−1であるアクリル系熱可塑性樹脂からなることが望ましい。本実施形態における光弾性係数(C)とは外力σを加えると、その外力σに応じた歪Sの大きさと向きが変化するような透明材料に、偏光を入射した際に観察される位相差Rと外力δの関係式、R=(C)×σにおいて定義される物理係数であり、個々の透明材料に固有の値である。光弾性係数Cは、その絶対値が、より好ましくは、2.0×10−12Pa−1以下であり、さらに好ましくは1.0×10−12Pa−1以下である。この範囲内であれば、新たな外力による光弾性複屈折の発生が少なく、大画面FPDで問題となる額縁光漏れが発生しない。また、偏光板一体型インナータッチパネル用途において、ペンタッチ等の外力を受けた場合での画像の色ずれ等が発生しない。
ここで、光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i−a)及び(i−b)により定義されるものである。光弾性係数CRの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことが判る。
CR=|Δn|/σR …(i−1)
|Δn|=nx−ny …(i−2)
式中、CRは光弾性係数、σRは伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数Cは、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂等)と比較して、十分に小さい。従って、外力に起因した(光弾性)複屈折を生じさせないために複屈折変化を受けにくい。また、成形時の残存応力に起因する(光弾性)複屈折を生じにくいために成形体内での複屈折分布も小さい。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、アクリル系熱可塑性樹脂をフィルム状成形体100μm厚みにおける透湿度が、3〜100g/(m2・24hr)であることが望ましい。3g/(m2・24hr)以上であれば、前記偏光膜用接着剤の乾燥が十分できる。また透湿度が100g/(m2・24hr)以下であれば、外部からの吸湿により偏光膜の偏光度が低下することを防ぐことができる。より好ましい透湿度は5〜90g/(m2・24hr)。更に好ましくは10〜80g/(m2・24hr)、特に好ましくは、20〜70g/(m2・24hr)である。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、アクリル系熱可塑性樹脂の屈折率と貼り合わせる偏光膜の屈折率との差分が±0.04以内であることが望ましい。±0.04内であれば偏光膜と偏光膜用接着剤層、偏光膜用接着剤層と偏光膜保護フィルムの各層での不必要な反射を防止することができ、全光線透過率を高く保持することができる。好ましくは±0.035以内、より好ましくは±0.03以内である。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、アクリル系熱可塑性樹脂をフィルム成形した場合の延伸倍率(S)と、その延伸倍率での100μm厚み換算複屈折(Δn(S))との最小二乗法近似直線関係式(a)における傾きαが、−0.30×10−5≦α≦+0.30×10−5の範囲にあるアクリル系熱可塑性樹脂からなることが望ましい。この範囲内にあるとき、光学等方性偏光膜保護フィルムの強度を上げる目的で、光学等方性偏光膜保護フィルムを延伸加工処理を施しても、延伸後の光学等方性偏光膜保護フィルムの発現する複屈折を小さいままに保つことが可能となる。
Δn(S)=α×S+β (a)
−0.30×10−5≦α≦0.30×10−5 (b)
[式中、βは定数であり、無延伸時の複屈折を示す。]
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度が130℃以上であることが望ましい。130℃以上あれば、近年バックライトに多用されているLED光源の付近においても、偏光膜保護フィルムの熱変形がなく使用に耐えることができる。また、屋外使用時に外部から入射する太陽光等の熱が加わっても熱変形を生じることもない。好ましいガラス転移温度としては135℃以上、更に好ましいガラス転移は140℃以上である。一方、Tgの上限としては、180℃であることが好ましい。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、表面の鉛筆硬度が3H以上であることが望ましい。鉛筆高度が3H以上あれば、偏光膜保護フィルムとして偏光膜の傷つきを防止することが可能である。好ましい表面の鉛筆硬度としては4H以上、更に好ましくは5H以上である。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムにおける面内方向の位相差(Re)、厚み方向の位相差(Rth)とは、偏光膜保護フィルムの面内、及び厚み方向に生じる成形時の残留応力による歪み、成形後に加えられる外部応力により生じる歪みのいずれか、又は両方を原因とする位相差である。本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、フィルム状に成形したときの100μm厚み換算の面内方向の位相差(Re)の絶対値が8nm以下であることが望ましい。本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、フィルム状に成形したときの100μm厚み換算の厚み方向の位相差(Rth)の絶対値が8nm以下であることが望ましい。
面内方向の位相差の絶対値が8nm以下であり、かつ厚み方向の位相差(Rth)の絶対値が8nm以下であれば、偏光が乱れることなくコントラストが良好な画像を得ることができる。より好ましくはRe、Rthともに6nm以下、更に好ましくは4nm以下が望ましい。
本実施形態における光学等方性偏光膜保護フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜300μm、より好ましくは15〜80μm、更に好ましくは20〜40μmである。10μm以上であれば偏光膜の傷つき強度を十分に発現でき、300μm以下であれば、必要十分な全光線透過率が維持できる。また、本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、光学等方性が極めて高く、フィルム状やシート状に成形後、強度を高めるために延伸加工を施しても複屈折が増加しないという特徴を有している。従って、前述したヨウ素ドープポリビニルアルコール型の偏光板ではなく、特開平03−54506号公報に開示されているような塗布型偏光板の基板としても非常に好適である。一般に、塗布型偏光板は、ガラス又は透明樹脂板を予めラビング処理しておき、次いで、二色性色素をコーティングしてラビングされた方向に二色性色素を配向させて偏光性能を付与するものであり、ラビング方向を任意に変えることにより、連続的にパターン化された、偏光ムラの少ない偏光板を作製することが可能であるという特徴がある。一方、本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂を透明樹脂板として用いた場合には、二色性色素をコーティングした後に、後加工として延伸による二色性色素の配向付与処理が可能であることから、より簡便に塗布型偏光板を作製することができる。
(成形)
本実施形態における成形とは、アクリル系熱可塑性樹脂を光学等方性偏光膜保護フィルムに加工する方法であり、溶融熱プレス、及び溶融熱プレスと熱溶融延伸法の組み合わせ、溶融押出法、及び溶融押出法と熱溶融延伸法の組み合わせ、射出成形法及び射出成形法と熱溶融延伸法の組み合わせ、溶媒キャスト法及び溶媒キャスト法と熱溶融延伸法の組み合わせ、熱アニール成形後の歪除去加工等公知の樹脂成形方法である。好ましい方法としては、生産性の観点から溶融押出成形法、光学性能の観点からはプレス成形があげられる。
本実施形態における溶融押出成形法とは、アクリル系熱可塑性樹脂を、供給装置を用いて押出機に供給し、加熱下にあるスクリューの回転により溶融、押出機から送り出し、加熱された流路を通して、T台等のダイより押出し光学等方性偏光膜保護フィルムを成形する方法である。
溶融押出成形法において、アクリル系熱可塑性樹脂を押出す際のダイ温度は、組成物の熱分解を抑制するために、溶融物が固化しない範囲で低く設定することが望ましく、概ね200〜300℃の範囲でできるだけ低く設定することが好ましい。またダイより溶融状態で押出されたアクリル系熱可塑性樹脂は、ダイ直下、又はダイ側方に設置された鏡面状の冷却ロール、鏡面状の冷却ベルト等の各種冷却支持体にキャストされることで冷却固化、その後に巻き取りロールでまきとられる。この際、Tダイより溶融押出された樹脂が自然放熱で固化する前に転写することが好まく、ダイと冷却ロール又は冷却ベルト等の支持体の距離を1mm以上、300mm以下程度にすることが一般的である。この範囲であれば、押出歪を少なくして製品間の光学的、機械的なムラの原因である歪のバラツキを減少させることが容易になる。また、冷却ロール、冷却ベルト等の支持体の構成や温度は、厚みによって好ましい構成や範囲が異なる。
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂を300μm以上の厚みの板状に一次成形品として製造する場合は、一次成形品の必要厚みに応じた間隔をもつ二本一対の冷却ロールや冷却ベルトに挟んで、押し出された一次成形品の両面から表面を同時に転写、固化することが好ましい。このようにすることにより表面が平坦、且つ、平滑な板状の一次成形品を得ることが容易となり、厚み精度の高い一次成形品を容易に製造することができる。また二本一組の冷却ロールや冷却ベルトに挟む直前に溶融樹脂の液溜り、所謂、バンクを設けることも必要があれば可能である。また、この厚み範囲の板状の一次成形品製造においては冷却ロールや冷却ベルトの温度は120〜160℃が好ましい。
一方、50μm以下の厚みの光学等方性偏光膜保護フィルムとして、アクリル系熱可塑性樹脂を直接成形、製造する場合は、一本の冷却ロールや冷却ベルト上に転写して冷却固化することが好ましい。この構成で、厚みムラが少なく、表面が平坦かつ平滑な光学等方性のフィルムを得ることが容易となる。この際の冷却ロールや冷却ベルトの温度は30〜120℃が好ましい。
溶融二軸延伸成形とは、300μmより厚い厚みを有する上記板状の一次製品及び300μm以下の厚みの光学等方性偏光膜保護フィルム(以下、原反)を薄型化すること、10〜200μmの光学等方性偏光膜保護フィルムを得る方法である。図1は、溶融延伸装置100を側方及び上方からみた模式図である。まず、原反ロール105から繰り出された原反は、余熱ロール106及び縦延伸ロール107が配置された縦延伸チャンバー108内でガラス転移温度+5〜+25℃の範囲に加熱され、機械の流れ方向(以後MD方向)に配置された複数のロール間の周速差により、10〜350%の範囲で縦延伸される。次いで、MD方向に延伸された原反は、張力制御ロール109及び引き取りロール110を通り、チェーンに付いたクリップ111でフィルムの端をチャッキングし、縦延伸同様にガラス転移温度+5℃〜+25℃下に保たれた横方向に延伸チャンバー112内部に導入後、クリップ間隔を広げることで機械の流れ方向に対し垂直方向(以後TD方向)に10%から350%の範囲で横延伸される。そして、TD方向に延伸された原反は、張力制御ロール113を通り、スリッター114を経て、端巻取りロール115を介して製品巻取りロール116に巻き取られる。一般的には延伸後、ガラス転移温度−15℃からガラス転移温度+5℃までに保たれた横延伸チャンバー112内部の出口付近でクリップ間隔を5%から10%縮めることがより好ましい。
シート又はフィルムの延伸は、押出成形、キャスト成形に連続して行うことができる。例えば、未延伸フィルム又はシートを機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸したり、またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸フィルムとすることができる。
延伸により、成形体の強度を向上させることができる。延伸倍率は、少なくとも一方向に0.1%以上350%以下である。好ましくは、0.2%以上320%以下であり、より好ましくは、0.3%以上300%以下である。この範囲に延伸することにより、強度、透明性、複屈折等の光学特性に優れる成形体が得られる。
(光学等方性偏光膜保護フィルムの後加工)
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは、偏光板に貼り付けられる前に、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、透明導電処理、帯電防止処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリアー処理等の表面処理を行って、最終的な用途に用いることができる。このような表面処理を行う場合は、必要に応じて、コロナ放電やプラズマ放電による処理や、エポキシ基、イソシアナート基等を持ったプライマー剤塗布による表面処理等所謂アンカーコート処理を併用でき接着剤や各種無機層との密着性を高めることができる。
偏光膜用接着剤との密着性を向上させる処理として、高周波発信機を用いたコロナ処理や、大気下でのグロー放電によるプラズマ処理があげられる。いずれの処理でも分単位で濡れ性が悪化するので処理後直ちに偏光膜用接着剤を塗布する必要性がある。
ハードコート処理としては、有機シリコーン系、メラミン系、エポキシ系、アクリル系、ウレタンアクリレート系等の有機ハードコート材料、二酸化ケイ素等の無機系ハードコート材料のハードコート層用材料を塗布する方法が挙げられる。なかでも、接着力が良好であり、生産性に優れる観点から、ウレタンアクリレート系及び多官能アクリレート系ハードコート材料の使用が好ましい。また必要に応じて公知の無機フィラーを含有しても良い。さらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等の各種添加剤を配合することもできる。無機フィラーとしては酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化セリウム、五酸化アンチモン、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化錫(IZO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、フッ素をドープした酸化錫(FTO)が挙げられ、特に透明性が高いという点から五酸化アンチモン、ITO、IZO、ATO、FTOが好ましい。これらフィラーの一次粒子径は通常1〜100nmであり、このようなナノサイズであれば可視光に対して十分透明性を発揮でき、好ましくは1〜30nmである。ハードコート処理層の厚みは、0.005〜1μmである。0.005μm以上であれば耐傷付き性が発揮され、また1μm以下であれば十分な透明性が発揮され、より好ましくは0.01μm〜0.5μmである。
また、反射防止処理としては、塗料を均等に塗布、乾燥してなる低屈折率層とモスアイ構造に代表されるナノ賦型構造層が挙げられる。塗料を均等に塗布する方法としては、ナノサイズの中空微粒子を含む、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、アルコキシシラン等の加水分解性有機珪素化合物及びその加水分解物等からなる塗料からなる低屈折率層があげられる。これらの中でも中空微粒子の分散性、多孔質体の強度からアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、加水分解性有機珪素化合物及びその加水分解物からなる塗料からなる低屈折率層が好ましい。特に好ましくは、含フッ素加水分解性有機珪素化合物からなる低屈折率層であり、具体例としては、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、使用する中空微粒子は特に制限されないが、無機中空微粒子が好ましく、特にシリカ系中空微粒子が好ましい。無機中空微粒子を構成する無機化合物としては、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、SnO2、Ce2O3、P2O5、Sb2O3、MoO3、ZnO2、WO3、TiO2−Al2O3、TiO2−ZrO2、In2O3−SnO2、Sb2O3−SnO2等を例示することができる。また、中空微粒子の外殻は細孔を有する多孔質なものであってもよく、あるいは細孔が閉塞されて空洞が外殻の外側に対して密封されているものであってもよい。外殻は、内側層と外側層等からなる多層構造であることが好ましい。
これら反射防止層の屈折率としては1.25〜1.40である。1.25以上であれば十分な層強度が得られ好ましい。また1.40以下であれば光学等方性偏光膜保護フィルムとの屈折率差が十分あり反射防止機能が発揮される。その層厚みとしては、0.005〜1μmである。0.005μm以上であれば強度が十分であり、また1μm以下であれば十分な透明性が発揮される。より好ましくは0.10〜0.40μm、更に好ましくは、0.15〜0.30μmである。
モスアイ構造に代表されるナノ賦型構造としては、特に材料としての屈折率制限はなく、0.15〜0.30μmの周期構造を有し、長さ0.1〜0.3μmの凸凹構造を示す公知のものであればいかなる構造でも構わない。ナノ賦型構造層としては0.30〜0.80μmが光学的に好ましい。更に、これら二つの反射防止処理層は、前記のハードコート処理層の上に形成することも可能である。
透明導電処理としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の従来公知の技術をいずれも使用できるが、膜の均一性やアンカーコート層への薄膜の密着性の観点から、スパッタリング法での薄膜形成が好ましい。また、用いる薄膜材料も特に制限されるものではなく、例えば、酸化錫を含有する酸化インジウム、アンチモンを含有する酸化錫等の金属酸化物のほか、金、銀、白金、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、コバルト、錫、亜鉛又はこれらの合金等が好ましく用いられる。中でも好ましいものとしては、酸化錫を含有する酸化インジウム(ITO)が挙げられる。形成される透明導電層の厚みとしては、用途により必要伝導度が異なることから一概に言えないが、一般に0.01〜0.1μmが透明性維持の観点から好ましい。
帯電防止層、電磁波遮蔽処理としては透明導電層が兼ねることができる。またガスバリアー層としてはハードコート層及び/又は透明導電層ハードコート層が、その機能を兼ねることができる。
[偏光板]
本実施形態における偏光板とは、本実施形態における光学等方性偏光膜保護フィルムを偏光膜の片面もしくは両面に貼り合わせたものである。
偏光膜及び光学等方性偏光膜保護フィルムは、そのままの状態で偏光板製造に用いてもよいが、偏光膜と光学等方性偏光膜保護フィルムとの接着性を増すために、偏光膜用接着剤と接する面に、コロナ放電処理、プラズマ処理を施してから貼り合わせに用いることもできる。
光学等方性偏光膜保護フィルムを偏光膜に貼り合わせるにあたっては、偏光膜用接着剤を使用する。偏光膜用接着剤としてはポリビニルアルコール水溶液や、ポリビニルアルコール、ポリウレタン系樹脂等の水溶液等の水系接着剤、エポキシ系硬化剤及び紫外線硬化性接着剤等の溶剤系接着剤が用いられる。偏光膜用接着剤としては、偏光膜と光学等方性偏光膜保護フィルムを接着可能であり、かつ、本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムと偏光膜とを接着させることができるものであれば特に限定されない。
偏光膜用接着剤は、乾燥後の厚さが好ましくは0.01〜50μmであり、より好ましくは0.01〜30μmであり、更に好ましくは0.01〜3μmとなるように塗布する。偏光膜用接着剤の乾燥後の厚さが0.01μm以上であれば必要十分な接着強度が得られ、層間剥離が生じ難く、50μm以下であれば必要十分な全光線透過率が得られる。
偏光膜用接着剤の乾燥後の屈折率は、偏光膜の屈折率と光学等方性偏光膜保護フィルムの屈折率の間にあることが望ましい。
偏光膜用接着剤塗布時の温度と貼り合わせ温度は15〜40℃が好ましく、15℃以上であれば必要十分な粘度を確保でき、40℃以下であれば、貼り合わせる時間的な余裕が確保できる。更に、偏光膜用接着剤として紫外線硬化性接着剤を用いた場合には、貼り合わせ後は露光処理を行い、接着剤を硬化させる。この際の露光光源は特に限定されないが、好ましくは紫外線であり、露光量は、好ましくは1〜2000mJである。
本実施形態の偏光板は、下記に代表される構造を、その一部に含む偏光板である。
[1] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜
[2] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/偏光膜保護フィルム
[3] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム
[4] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層
[5] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/反射防止層
[6] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/透明導電層
[7] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/帯電防止層
[8] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/電磁波遮蔽処理層
[9] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ガスバリアー層
[10] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/反射防止層
[11] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/透明導電層
[12] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/透明導電層
[13] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/帯電防止層
[14] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/電磁波遮蔽処理層
[15] 光学等方性偏光膜保護フィルム/偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/ガスバリアー層
[16] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層
[17] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/反射防止層
[18] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/透明導電層
[19] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/帯電防止層
[20] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/電磁波遮蔽処理層
[21] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ガスバリアー層
[22] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/反射防止層
[23] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/透明導電層
[24] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/透明導電層
[25] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/帯電防止層
[26] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/電磁波遮蔽処理層
[27] 偏光膜/光学等方性偏光膜保護フィルム/ハードコート層/ガスバリアー層
(偏光板の後加工)
本実施形態の偏光板は、偏光膜と偏光膜保護フィルムとを貼り合わせた後にも、必要に応じてハードコート処理、反射防止処理、透明導電処理、帯電防止処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリアー処理等の処理を行って、最終的な用途に用いることができる。このような表面処理を行う場合は、必要に応じて、コロナ放電やプラズマ放電による処理や、エポキシ基、イソシアナート基等を持ったプライマー剤塗布による表面処理等、所謂アンカーコート処理を併用でき密着性を高めることができる。
[液晶表示一体型タッチパネル]
本実施形態における液晶表示装置一体型タッチパネルとは、液晶表示装置と、操作者が表示された画面情報である絵やピクトグラム等の点又は領域に手やペンで触れることで、操作者の意思を情報信号として外部へ出力するタッチパネルとを組み合わせたものである。
本実施形態における液晶方式が横電界方式とは、所謂IPS(インプレーンスイッチング)方式である液晶表示装置であり、面状光源と、電極構造の電極板を有した液晶セルと、液晶セルを挟む二枚一組の直交状態に配置された偏光板のうち少なくとも一枚が本実施形態の偏光板であるものをいう。
本実施形態における液晶方式が斜め電界方式とは、所謂FFS(フリンジフィールドスイッチング)方式である液晶表示装置であり、面状光源と、電極構造の電極板を有した液晶セルと、液晶セルを挟む二枚一組の直交状態に配置された偏光板のうち少なくとも一枚が本実施形態の偏光板であるものをいう。
図2は、抵抗膜方式偏光板一体型インナータッチパネルを示す。作製するにはまず、透明導電膜11を付与した光学等方性支持板12の、透明導電膜11との反対面に、事前に調製した偏光膜用接着剤を塗布し、事前に作製しておいた片面に偏光膜保護フィルム14を貼り付けた偏光膜13からなる偏光板の、偏光膜保護フィルム14がある側との反対側の面を接着する。次に、偏光板保護フィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの三層からなる市販の偏光板5を用意し、その上にIPS型液晶表示素子6を重ねる。更に、ITO透明導電膜8を付与したうえで抵抗膜式タッチパネル用電極としてパターンを作製した光学ガラス7をITO透明導電膜膜8が上になるように重ね合わせ、次いで、その上に、適切なスペーサー9を介在させ、前述の光学等方性支持板と一体化された偏光板を透明導電膜11側が下になるように重ね合わせ、エポキシ接着剤15で四隅を封止する。こうして、抵抗膜方式偏光板一体型インナータッチパネル1が作製される。
図3は、静電投影方式偏光板一体型インナータッチパネルを示す。作製するには、別途、上記で作製した、偏光膜21に偏光膜保護フィルム22を貼り合わせ、更に、光学等方性支持板20を貼り合わせたものに、光学等方性支持板面に偏光膜用接着剤を塗布した後、静電投影方式のITOパターン19を作製した光学ガラス18の上に貼り付ける。更に、ガラス板に偏光膜用接着剤を塗布しIPS型液晶表示素子17(反対面には偏光板保護フィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの三層からなる市販の偏光板16を貼合する)上に貼り付けた後、エポキシ接着剤23で封止すると、静電投影方式偏光板一体型インナータッチパネル2が作製される。
本実施形態の光学等方性偏光膜保護フィルムは偏光膜と一体化することで良好な偏光機能を有し、耐熱性、表面硬度等の特性にも優れており、長期使用においても剥離、変形、偏光度変化等が生じにくく、高い信頼性を有し、耐久性に優れている。また、高強度で機械的耐久性に優れるため、本実施形態の液晶表示装置及び/又は液晶表示装置一体型タッチパネルは、車載用等の高度な耐久性が要求される用途においても、好適に用いることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[アクリル系熱可塑性樹脂の組成解析]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂をCDCl3に溶解し、ブルーカー株式会社製 DPX−400装置を用い、1H−NMR、13C−NMR(測定温度:40℃)測定を実施し、(i)第一の構造単位、(ii)第二の構造単位、(iii)第三の構造単位、及び(iv)第四の構造単位の量をそれぞれ同定し、その比率から組成を確認した。
[アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度測定]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
[アクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量測定]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量、及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販の標準PMMA換算により求めた。
[アクリル系熱可塑性樹脂の光学特性評価]
<アクリル系熱可塑性樹脂の光学評価用サンプルの調製>
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂を溶融真空プレス成形でフィルムとした。鉄板の上にカプトンシートを配置し、その上に15cm正方にくり貫いた厚み150μmの金枠を置き、そこにアクリル系熱可塑性樹脂を置いた。更に、カプトンシートを重ね置きし、鉄板を配置した。二枚の金板に挟んだまま、真空圧縮成形機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)にいれ、減圧を開始し10kPaに到達した段階で、260℃まで20分をかけて昇温した。その後、260℃で5分保持したあと、プレス圧10MPaで5分間圧縮、その後、冷却を開始、50℃に到達した段階で真空乾燥器内を大気圧に戻し、サンプルを取り出した。次いで、サンプルを一度、カプトンシートから剥離し、再度新しいカプトンシートで挟み、窒素で満たされ、ガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度に保たれた乾燥器の中で8時間、保持した。
<アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数測定>
Polymer Engineering and Science 1999, 39, 2349−2357に詳細について記載のある複屈折測定装置を用いた。23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行ったアクリル系熱可塑性樹脂からなるフィルム(厚み約150μm、幅6mm)を用い、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるようにフィルムを配置した。次いで、後述する複屈折測定装置(大塚電子製RETS−100)のレーザー光経路がフィルムの中心部になるようにし、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σR)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め光弾性係数(CR)を計算した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの間のデータを用いた。
CR=|Δn|/σR
|Δn|=|nx−ny|
(CR:光弾性係数、σR:伸張応力、|Δn|:複屈折の絶対値、nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
[光学等方性偏光膜保護フィルムの位相差測定]
<光学等方性偏光膜保護フィルムの押出成形と測定サンプルの調製>
二軸押出器を用い260℃にて溶融混練したアクリル系熱可塑性樹脂を押出速度180kg/hrで、255℃に調整した幅45cm、スリット間隔2mmのT台より押出し、150℃に調整された鏡面冷却ロールで表面転写、巻き取りロールの速度を調節し250μm厚みのロール状板サンプルとして製造した。その後、ロールをほぐし、MD方向に24cm、TD方向に20cmの長方形状になるようトムソン刃で打ち抜きサンプルを得た。更にサンプルを4cm正方形に切り取り、30枚の測定サンプルに分割し、それぞれの4隅、都合120点の厚みを測定、平均することで光学等方性偏光膜保護フィルムの全体厚みを求めた。
<複屈折の測定と厚み換算複屈折の算出>
大塚電子製RETS−100を用いて、光学等方性偏光膜保護フィルムの複屈折を回転検光子法により測定した。複屈折の値は、波長550nm光の値である。複屈折(Δn)は、以下の式により計算した。得られた値をシートの厚さ100μmに換算して測定値とした。
Δn=nx−ny
(Δn:複屈折、nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
複屈折(Δn)の絶対値(|Δn|)は、以下のように求めた。
|Δn|=|nx−ny|
<面内方向の位相差Re測定の詳細>
23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に設置した大塚電子(株)製RETS−100を用いて、回転検光子法により波長400nmから上800nmまでの範囲で光学等方性偏光膜保護フィルムの複屈折測定を実施した。上記の4cm角のサンプル30枚に関し、サンプル中心部で面内位相差Re測定を行い、次いでサンプル中心部の厚みの測定を実施、厚み100μmに換算された面内方向の位相差Reを求めた。次いで、絶対値に変換した後、平均をとり、更に上記で求めた全体厚みに換算しなおすことで、光学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向の位相差Reの絶対値を求めた。
なお、各厚みから、100μm厚みへの換算は下記の数式に基づいて行った。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差Reは以下の関係にある。
Re=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Re:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|nx−ny|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な方向の屈折率)
<厚み方向の位相差Rth測定の詳細>
23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に設置した王子計測機器(株)製位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用い、波長589nmにおいて光学等方性偏光膜保護フィルムの複屈折測定を実施した。測定は4cm角のサンプル30枚に関し、サンプル中心で厚み方向の位相差Rth測定を行い、次いで中心部のサンプル厚みの測定を行うことで、厚み100μmに換算された厚み方向の位相差Rthを求めた。次いで、絶対値に変換した後、平均をとり、更に上記で求めた全体厚みに換算しなおすことで、光学等方性偏光膜保護フィルムの厚み方向の位相差Rthの絶対値を求めた。
なお、各厚みから、100μm厚みへの換算は下記の数式に基づいて行った。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差Rthは以下の関係にある。
Rth=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Rth:位相差、d:サンプルの厚み)
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|(nx+ny)/2−nz|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な方向の屈折率、nz:面外で延伸方向と垂直な厚み方向の屈折率)
[光学等方性偏光膜保護フィルムにおける、歪みと複屈折の関係式の傾きαの測定の詳細]
光学等方性偏光膜保護フィルム(厚み約800μm、幅40mm)をインストロン社製10t引張り試験機を用いて、延伸温度(Tg+20)℃、延伸速度(500mm/分)で一軸フリー延伸して延伸光学等方性偏光膜保護フィルムを成形した。延伸倍率は、100%、200%、及び300%で延伸した。次いで、得られた延伸光学等方性偏光膜保護フィルムの複屈折を前述の方法で測定し、一軸延伸したときに発現する複屈折(Δn(S))を求めた。
求めた延伸光学等方性偏光膜保護フィルムの発現している複屈折(Δn(S))の値を、その延伸倍率(S)に対してプロットして得られる最小二乗法近似直線関係式(A)より傾きαの値を求めた。傾きαの値が小さいほど複屈折(Δn(S))、その変化が小さいことを意味する。
Δn(S)=α×S+β (βは定数:無延伸時の複屈折値)・・・(A)
但し、ここで複屈折とは、測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
また、延伸倍率(S)とは、延伸前のチャック間距離をL0、延伸後のチャック間距離をL1とすると、以下の式で表される値である。
完全に光学等方性を満足する光学等方性偏光膜保護フィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに「ゼロ」となり、大面積サンプルにおいてもその位相差にばらつきはない。
[アクリル系熱可塑性樹脂の表面硬度測定]
JIS K5600−5−4に準じて、電動鉛筆引っかき硬度試験機(株式会社安田精機製作所製)を使用し、荷重500gでアクリル系熱可塑性樹脂の鉛筆硬度を測定した。
[アクリル系熱可塑性樹脂の屈折率測定]
アクリル系熱可塑性樹脂の屈折率は、上記の光弾性測定用溶融成形フィルムを用い、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に設置したメトリコン社製モデル2010プリズムカップラーを使用して求めた。サンプルは測定を実施する23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室で一昼夜養生したものを使用した。
[アクリル系熱可塑性樹脂の透湿性測定]
JIS K7129Bに記載のモコン法に準じた方法で、光弾性係数測定用溶融成形フィルムを用いて、試験条件40℃、湿度90%の環境下に24時間で測定した。透湿度の単位はg/(m2・24h)である。測定装置:MOCON社製PERMATRAN W3/33型水蒸気透過試験機。
[光学等方性偏光膜保護フィルムの応力条件下コントラスト評価]
バックライト上に市販の偏光板を二枚用意し、直交状態に、空間をあけて設置した。次いで、その間に、光学等方性偏光フィルムを入れ、面方向に回転させたときの状態を観察した。その後、縦(MD)方向に弾性範囲内の応力で10%延伸をした光学等方性偏光膜保護フィルムを再度挟み込み、同様に回転させ、明暗の変化を目視で評価した。
延伸前の状態で回転させた場合に全く明暗が変化せず、かつ延伸状態で回転させた場合にも明暗の変化がないものを◎、延伸前の状態で回転させた場合に全く明暗が変化せず、かつ延伸状態で回転させた場合に僅かに明暗が変化するものを○、延伸前の状態で回転させた場合に成形による残留応力由来と考えられる部分的な明暗が見られ、かつ延伸状態で観点させた場合に観察された部分的な明暗が変化しないものを△、延伸前の状態で回転させた場合に成形による残留応力由来と考えられる部分的な明暗が見られ、かつ延伸状態で観点させた場合に観察された部分的な明暗が変化するものを×とした。
[光学等方性偏光膜保護フィルムの干渉縞評価]
光を通さない黒色板の上に、光学等方性偏光膜保護フィルムを置き、三波長蛍光灯(ナショナル:FL20SS・ENW/18)で照らして、表面を目視評価した。
全く干渉縞が見えないもの◎、干渉縞がうっすらと見えるもの○、干渉縞が目立つもの△、干渉縞が目立ち、かつギラツキが生じるもの×とした。
[偏光膜の作製]
湯浴に浸した、5Lの攪拌機ガラスセパラブルフラスコに蒸留水1Lを加える。次いで、セパラブルフラスコを冷却し、内部の蒸留水を4℃にする。その後、攪拌機を回転数150rpmで廻しながら、平均重合度1800、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(和光純薬製特級)粉体を加える。この状態で30分保持したあと、攪拌を続けながらセパラブルフラスコの内部温度2℃/分の速度で加熱し、内部温度が95℃に到達した段階で攪拌機の回転数を80prmに落とし、3時間攪拌を続ける。餅状の未溶解のポリビニルアルコールがないことを確認したあと、95℃に保ったまま攪拌を停止、攪拌で巻き込んだ空気の泡が抜けるのをまった。概ね泡が抜けた段階で、セパラブルフラスコにアスピレーターを接続し、僅かに減圧にすることで完全に脱泡する。
平滑なガラス板(縦45cm、横45cm、厚み3mm)とガラス丸棒(直径2.5cm、長さ60cm)、スコッチテープ(3M社製)を用意した。次いで、アセトンを浸したキムワイプでガラス板を良く拭きあげたあと、ガラス板の両端にスコッチテープを重ね貼りし、高さ1.3mmのスペーサーを設けた。スペーサーを左右にしたガラス板上の上方部分に、完全に脱泡したポリビニルアルコール溶液をゆっくりと滴下したあと、左右のスペーサーに対し垂直にガラス棒を置き、ゆっくりとガラス板下方まで引いた。次いで、ガラス板を水平台の上に置き、水平台との間に僅かに隙間ができる覆いをかぶせた上で、水分を乾燥させた。一週間後、厚さ、約80μmのポリビニルアルコールのフィルムを得た。
次いで、上記のポリビニルアルコールのフィルムを、室温下、引伸ばし治具で一軸3倍延伸をしたあと、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む水溶液(ヨウ素/ヨウ化カリウム/水=0.05/5/100(質量比))に60秒間浸漬した。次にヨウ化カリウム及びほう酸を含む65℃の水溶液(ヨウ化カリウム/ほう酸/水=2.5/7.5/100(質量比))に300秒浸漬した。30℃の純水で20秒水洗した後、50℃で乾燥し、ポリビニルアルコール系偏光フィルムを得た。
得られたポリビニルアルコール系偏光フィルムの屈折率を測定したところ1.53であった。
[偏光膜用接着剤の調製]
ポリビニルアルコール系樹脂である和光純薬工業(株)製の163−03045(分子量:22,000、ケン化度:88モル%)に、水を加えて固形分濃度が7質量%の水溶液を調製した。一方、ポリウレタン系樹脂である大日本インキ化学工業(株)製のWLS−201(固形分濃度35質量%)100部に、ポリエポキシ系硬化剤である大日本インキ工業(株)製のCR−5L(有効成分100%品)5部を配合し、水で希釈して固形分濃度が20質量%の水溶液を調製した。得られたポリウレタン系樹脂水溶液とポリビニルアルコール系樹脂水溶液とを、質量比で1:1(固形分質量比で80:20)の割合で混合し、固形分濃度が15質量%の混合接着剤を調製した。
[偏光板の作製]
上記、光学等方性偏光膜保護フィルム表面を大気圧下プラズマ処理で処理し、その後、直ちに偏光膜の両面を上記の偏光膜用接着剤で貼り付けた。その後、40℃にて一週間乾燥をおこなった。
[偏光板の湿熱試験と剥離性評価方法]
偏光板作製後、偏光膜の延伸方向に10cm、延伸方向に垂直な方向に8cmのサイズで4枚のサンプルを切り取った。次いで、4枚を一組として、温度85℃、湿度85%に調整した恒温恒室装置に24時間静置し、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に24時間静置をサイクルとして、20回繰り返した。
偏光膜と光学等方性保護フィルムとの界面に剥離が全く生じないものは◎、端部から1mm以内の剥離がある場合は○、端部から1mm以上、2mm未満の剥離はあるが偏光板中心部での部分的な剥離がないものは△、2mm以上の剥離が認められるか、あるいは偏光板中心部での部分的な剥離があるものは×とした。
[偏光板の湿熱試験と表面硬度試験方法]
偏光板作製後、温度85℃、湿度85%に調整した恒温恒室装置に24時間静置し、次いで23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に24時間静置を20回繰り返した。その後、JIS K5600に従って、偏光板の鉛筆硬度を測定した。
[偏光板の湿熱試験と曲げ試験方法]
偏光板作製後、温度85℃、湿度85%に調整した恒温恒室装置に24時間静置し、次いで23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に24時間静置を20回繰り返した。その後、試験片を幅1cm、長さ10cmのサイズで20枚、切り分けた。次いで、この試験片を5mm直径のガラス棒に巻きつけることで割れるかどうか評価した。
割れたフィルムが0枚ものを◎、割れたフィルムが1枚のものを○、割れたフィルムが2枚のものを△、割れたフィルムが3枚以上のものを×とした。
[表示装置の作製と表示品位評価]
市販の液晶テレビから液晶パネルを取り外し、次いで、視認側の偏光板のみを液晶セルから剥がし、湿熱試験前の偏光板と後の偏光板を並べて表示した。比較例2を標準とおき1点とした場合、表示品位の劣化が認められるが標準よりも良好なものを2点、表示品位の劣化が全くないものを3点とした。
[実施例1]
アクリル系熱可塑性樹脂を以下の方法で製造した。メチルメタクリレート(和光純薬特級、以下MMA)を減圧度0.01MPa、40℃で蒸留し、禁止剤を除いた。次いで、蒸留メチルメタクリレート24.30kg、フェニルマレイミド2.40kg(和光純薬特級、以下phMI)、シクロマレイミド(和光純薬特級、以下chMI)3.30kg、メタキシレン20kg(和光純薬特級、以下mXy)を、計量し、50Lタンク加え、混合モノマー溶液を得た。次いで100mL/分の速度で窒素によるバブリングを12時間実施し、溶存酸素を除去した。混合モノマー溶液を、窒素置換した60L反応器に加え、温度を130℃に上昇させた。次いで、パーブチルO(日本油脂)0.06kgをmXy6kgに溶解させた開始剤溶液を、1kg/時間の速度で追添することで重合を実施し、8時間後おり反応器を50℃まで冷却した。
次いで、1m3の反応器に500Lのメタノールを加え、上記の重合溶液を5時間かけて注ぎ、ポリマーを析出させた。その後、更に2時間攪拌を実施し、減圧濾過を行った。減圧濾過後のメタノール含有重合粉体に300Lのメタノールを更に注ぎ、再攪拌した。その後、減圧濾過を実施し、メタノール含有粉体を採取、0.3m3のコニカル真空乾燥器にて減圧度0.03MPa、温度80℃条件で乾燥を実施した。乾燥後の粉体を、250℃条件の二軸押出機にてペレタイジングを実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、ガラス転移温度(以下Tgと記す)を測定したところ、135℃、表面硬度は4H、透湿度は20g/(m2・24hr)、屈折率は1.50、重量平均分子量(以下Mw)は22.5であった。また光弾性係数は+0.4×10−12Pa−1、万、αは+0.03×10−5であった。
光学等方性偏光膜保護フィルムは二軸押出器を用い260℃にて溶融混粘した樹脂を押出速度180kg/hrで、255℃に調整した幅45cm、スリット間隔280μmのT台より押出し、150℃に調整された鏡面冷却ロールで表面転写、巻き取りロールの速度を調節し250μm厚みのロール状板サンプルとして製造した。次いでトムソン刃で20cmMD方向に24cm、TD方向に20cmの長方形状になるようトムソン刃で打ち抜きサンプルを得た。
光学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向の位相差(Re)の絶対値は2nm、厚み方向の位相差(Rth)は3nmであった。次に、応力下でのコントラスト評価を実施した。結果は○であった。このことから、外力による歪がかかってもコントラスト低下の原因になる偏光漏れが生じ難いことが判る。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
光学等方性偏光膜保護フィルムと屈折率1.53の偏光膜から偏光板を作製し、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は○であり、透湿度が適切で偏光膜用接着剤が良好に乾燥し、また試験中の湿度透過による偏光膜用接着剤の溶解等が生じがたいことが判る。また湿熱試験後も3Hと高い表面硬度を維持できていることが判った。更に、湿熱試験後の曲げ試験結果は○であり、必要十分な強度が維持できていることが判る。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認したところ2点であり、試験前に比較して劣化はあるものの従来品よりも優れていることが判った。
[実施例2]
スチレン(和光純薬特級)を減圧度0.01MPa、52℃で蒸留し、禁止剤を除いた。次いで、蒸留メチルメタクリレート21.72kg、フェニルマレイミド2.18kg(和光純薬特級)、シクロマレイミド5.28kg(和光純薬特級)、蒸留スチレン0.78kg(和光純薬特級)、メタキシレン20kg(和光純薬特級)を混合モノマー溶液とした以外は実施例1同様に重合を実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、メチルメタクリレート、フェニルマレイミド、シクロマレイミド、スチレンの各単量体由来の構造単位は、それぞれ、72.5質量%、7.3質量%、17.6質量%、2.6質量%であった。また、ガラス転移温度を測定したところ、141℃、表面硬度は4H、透過湿度は10g/(m2・24hr)、屈折率は1.52、Mwは15.6万であった。また、光弾性係数は+0.1×10−12Pa−1、αは−0.2×10−5であった。
次いで、得られたペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を溶融プレス成形でフィルムとした。まず、鉄板の上にカプトンシートを配置し、その上に幅30cm、長さ40cmの長方形にくり貫いた厚み100μmの金枠を置き、そこにアクリル系熱可塑性樹脂を置き、更にカプトンシートを置き鉄板を配置した。二枚の金板に挟んだまま、真空圧縮成形機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)にいれ、減圧を開始し10kPaに到達した段階で、260℃まで20分をかけて昇温した。その後、260℃で5分保ったあと、プレス圧10MPaで5分間圧縮、その後、冷却を開始50℃に到達した段階で、真空乾燥器内を大気圧にもどし、サンプルを取り出した。
縦26cm×横26cmにカッターで切断したあと、試験二軸延伸装置(東洋精機製作所)にて溶融延伸成形を実施した。延伸温度は150度、余熱時間5分、初期チャック間距離(縦25cm、横25cm)、延伸速度は縦横ともに25cm/分にて170%延伸を実施した。次いでサンプルをカプトンシートで挟み、窒素で満たされ、転移温度より10℃高い温度に保たれた乾燥器の中で8時間、熱を加えた。冷却後、トムソン刃で20cmかける24cmの長方形状になるようトムソン刃で打ち抜き、厚み33μmの光学等方性偏光膜保護フィルムを得た。
得られた学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向の位相差(Re)の絶対値は6nm、厚み方向の位相差(Rth)は5nmであった。応力下でのコントラスト試験の結果は◎であった。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
屈折率1.53の偏光膜と貼り合わせて偏光板を作製した。次いで、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は◎であり、透湿度が適切で偏光膜用接着剤が良好に乾燥し、また試験中の湿度透過による偏光膜用接着剤の溶解等が生じがたいことが判る。また湿熱試験後も3Hと高い表面硬度を維持できていることが判った。更に、湿熱試験後の曲げ試験からも必要十分な強度が維持できていることが判る。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。結果は2点であり試験前に比較して劣化はあるものの従来品よりも優れていることが判った。
[実施例3]
ベンジルメタクリレート(和光純薬特級)を減圧度0.01MPa、52℃で蒸留し、禁止剤を除いた。蒸留メチルメタクリレート24kg、フェニルマレイミド2.40kg(和光純薬特級)、シクロマレイミド3.30kg(和光純薬特級)、蒸留ベンジルメタクリレート0.30kg(和光純薬特級)、メタキシレン20kg(和光純薬特級)を混合モノマー溶液とした以外は実施例1同様に重合を実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、メチルメタクリレート、フェニルマレイミド、シクロマレイミド、ベンジルメタクルレートの各単量体由来の構造単位は、それぞれ、80.3質量%、7.9質量%、10.8質量%、1.0質量%であった。また、ガラス転移温度を測定したところ、139℃、透湿度は13g/(m2・24hr)、屈折率は1.51、Mwは22.0万であった。また光弾性係数は+0.7×10−12Pa−1、αは−0.02×10−5であった。
光学等方性偏光膜保護フィルムは実施例2同様に、鉄板の上にカプトンシートを配置し、その上に幅30cm、長さ40cmの長方形にくり貫いた厚み250μmの金枠を置き、そこにアクリル系熱可塑性樹脂を置き、更にカプトンシートを置き鉄板を配置した。二枚の金板に挟んだまま、真空圧縮成形機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)にいれ、減圧を開始し10kPaに到達した段階で、260℃まで20分をかけて昇温した。その後、260℃で5分保ったあと、プレス圧10MPaで5分間圧縮、その後、冷却を開始50℃に到達した段階で、真空乾燥器内を大気圧にもどし、サンプルを取り出した。
縦26cm×横26cmにカッターで切断したあと、試験二軸延伸装置(東洋精機製作所)にて溶融延伸成形を実施した。延伸温度は150度、余熱時間5分、初期チャック間距離(縦25cm、横25cm)、延伸速度は縦横ともに25cm/分にて170%延伸を実施した。次いでサンプルをカプトンシートで挟み、窒素で満たされ、転移温度より10℃高い温度に保たれた乾燥器の中で8時間、熱を加えた。冷却後、トムソン刃で20cmかける24cmの長方形状になるようトムソン刃で打ち抜き、厚み80μmの光学等方性偏光膜保護フィルムを得た。
得られた光学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向の位相差(Re)の絶対値は2nm、厚み方向の位相差(Rth)は2nmであった。応力下でのコントラスト試験の結果は◎であった。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
屈折率1.53の偏光膜と貼り合わせて偏光板を作製した。次いで、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は○であった。また湿熱試験後も表面硬度は3H、湿熱試験後の曲げ試験も必要十分な強度が維持できていることが判った。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。結果は2点であり試験前に比較して劣化はあるものの従来品よりも優れていることが判った。
[実施例4]
実施例1で得られた、厚み250μmのロール状光学等方性偏光膜保護フィルムを原反とし、図1の溶融延伸装置100で逐次延伸することで薄膜化した。まず原反ロールから繰り出された原反は、150℃に加熱され、MD方向に配置されたロール間の周速差により300%縦延伸し、次いで、を150℃に加熱された横延伸チャンバー内に導入後、TD方向)に300%横延伸した。延伸後のフィルム厚みは33μmであった。実施例1同様にトムソン刃で打ち抜き光学等方性偏光膜保護フィルムを得た。光学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向位相差(Re)の絶対値は4nm、厚み方向の位相差(Rth)は6nmであった。応力下でのコントラスト試験の結果は◎であった。
屈折率1.53の偏光膜と貼り合わせて偏光板を作製した。次いで、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は◎であった。また湿熱試験後も表面硬度は3H、湿熱試験後の曲げ試験結果も◎であった。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。結果は2点であり試験前に比較して劣化はあるものの従来品よりも優れていることが判った。
[比較例1]
ゼオノア480R(日本ゼオン社)に関してガラス転移温度を測定したところ、130℃、表面硬度はHB、透湿度は0.9g/(m2・24hr)であった。更に、屈折率は1.53であった。また光弾性係数を測定した、+5×10−12Pa−1、αは+0.60×10−5であった。Mwは測定しなかった。
成形に関しては実施例1同様に実施し、100μmの板を作製した。この板の面内方向位相差(Re)の絶対値は12nm、厚み方向の位相差(Rth)は9nmであった。応力下のコントラスト評価を実施した結果は、中心部から両端に向け歪がのこり、部分的な明暗の変化が見られたことから×とした。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
屈折率1.53の偏光膜と貼り合わせて偏光板を作製した。次いで、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は×であった。透湿度が低すぎるために偏光膜用接着剤の乾燥が不十分であり、湿熱試験中に剥がれやすいことが判った。表面硬度は湿熱試験前から変化せずHBであった。また剥がれは一部で見られるものの折れ曲げ強度という意味では割れは見られなかった。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。剥がれによる光漏れがあり、結果は1点であった。
[比較例2]
市販のトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム製、F−TAC、80μm厚み)を用意し、光弾性係数を測定した。ガラス転移温度は145℃、表面硬度はH、透湿度は175g/(m2・24hr)、屈折率は1.48であった。分子量の測定はサンプルが溶解せず出来なかった。また、光弾性係数は+15×10−12Pa−1であった。αは測定しなかった。
この板の面内方向の位相差(Re)の絶対値は5nm、厚み方向の位相差(Rth)は66nmであった。応力下コントラスト評価を実施した結果△であった。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
屈折率1.53の偏光膜と貼り合わせて偏光板を作製した。次いで、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は○であった。透湿度が高いため、偏光膜用接着剤の乾燥は不十分であった。しかしながら、表面硬度は湿熱試験前から低下し、HBになった。このことから、湿熱試験により耐傷付き性が悪化したことがわかる。また折れ曲げ強度も△と低下した。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。標準なので1点とした。
[比較例3]
モノマー溶液としてMMA単独を用い実施例1同様の方法で、重合、ポリマーを回収した。ガラス転移温度は110℃、表面硬度は2H、透湿度は16g/(m2・24hr)、屈折率は1.49、Mwは16万であった。また、光弾性係数は−4.7×10−12Pa−1、αは−0.3×10−5であった。
次いで、偏光膜保護フィルムとして二軸押出器を用い240℃にて溶融混粘した樹脂を押出速度180kg/hrで、225℃に調整した幅45cm、スリット間隔120μmのT台(図2)より押出し、130℃に調整された鏡面冷却ロールで表面転写、巻き取りロールの速度を調節し100μm厚みのロール状板サンプルとして製造した。次いでトムソン刃で20cmMD方向に24cm、TD方向に20cmの長方形状になるようトムソン刃で打ち抜きサンプルを得た。面内方向位相差(Re)の絶対値は7nm、厚み方向の位相差(Rth)は5nmであった。応力下でのコントラスト評価結果は△であった。干渉縞試験に関しては積層フィルムではないことから◎であった。
屈折率1.53の偏光膜から偏光板を作製し、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は○であり、透湿度が適切で偏光膜用接着剤が良好に乾燥し、また試験中の湿度透過による偏光膜用接着剤の溶解等が生じがたいことが判る。また湿熱試験後も2Hと評価前の値を維持できることが判った。一方、湿熱試験後の曲げ試験結果は○であり、必要十分な強度がないことが判る。
強度が不十分であることから、液晶表示装置を組むことはしなかった。
[比較例4]
比較例1の環状オレフィン樹脂と比較例3のポリメチルメタクリレートを用い、三層押し出しフィルムを製造した(質量比は、環状オレフィン樹脂:ポリメチルメタクリレート=50:50とした)。フィルム構成はポリメチルメタクリレート/環状オレフィン樹脂/ポリメタクリレートであり、夫々の層の厚みとしては25μm/50μm/25μm、フィルム全体厚みは100μmであった。
光学等方性偏光膜保護フィルムの面内方向の位相差(Re)の絶対値は5nm、厚み方向の位相差(Rth)は4nmであった。次に、応力下でのコントラスト評価を実施した。結果は○であった。干渉縞試験に関しては×であった。
屈折率1.53の偏光膜とから偏光板を作製し、湿熱試験後の密着性を評価した。結果は△であり、偏光膜用接着剤の乾燥が不十分であることが判る。湿熱試験後は2H、湿熱試験後の曲げ試験結果は△であり十分な強度がないことが判る。
作製した偏光板で液晶表示装置を組み、湿熱試験前後の品位低下を確認した。結果は2点であった。
実施例1、2、3、4、比較例1、2、3、4に関して表1にて特性をまとめた。
表1より本発明の光学等方性偏光膜保護フィルムは偏光板と一体化することで良好な偏光機能を有し、耐熱性、表面硬度等の特性にも優れており、湿熱時にも剥離等が生じにくく、高い信頼性を有し、機械的耐久性に優れることが判る。