JP6195448B2 - 耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、7000系アルミニウム合金押出形材は、プレス焼き入れ後、時効処理前の材料(T1調質)でも、自然時効によって硬化し、成形性が低下する。その成形性を改善するため、例えば特許文献5〜7に記載されているように、従来より、自然時効により硬化した7000系アルミニウム合金の強度を低下させる復元処理が行われている。
Y≦−0.1X+1.4 ・・・(1)
Y=σrs/σ 0.2 ・・・(2)
X=[Mg]+[Zn] ・・・(3)
ただし、σrsは前記7000系アルミニウム合金部材の前記最も大きく曲げ変形を受けた板における前記時効処理後の引張残留応力の最大値、σ 0.2 は前記7000系アルミニウム合金部材の前記復元処理を行っていない領域における前記時効処理後の0.2%耐力、[Mg]は前記7000系アルミニウム合金のMgの質量%、[Zn]は同じくZnの質量%を意味する。
前記7000系アルミニウム合金押出形材は、典型的には、対向配置された一対のフランジとそれらを連結する1又は2以上のウエブからなる。その場合、通常、前記ウエブが潰し加工により最も大きく曲げ変形を受ける板となる。
(アルミニウム合金の組成)
まず、本発明に係る7000系アルミニウム合金の組成について説明する。ただし、この組成自体は7000系アルミニウム合金として公知のものである。
Zn:3.0〜8.0質量%
Mg:0.4〜2.5質量%
ZnとMgは金属間化合物であるMgZn2を形成して、7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Zn含有量が3.0質量%未満又はMg含有量が0.4質量%未満では、実用材として必要な200MPa以上の耐力が得られない。一方、Zn含有量が8.0質量%を越え又はMg含有量が2.5質量%を越えると、押出形材に対し潰し加工前に所定の復元処理を行っても、潰し加工による亀裂の発生を防止できず、同時に、潰し加工により付与される引張残留応力を低減できず、耐応力腐食割れ性が顕著に低下する。高強度化及び軽量化の観点からは、Zn含有量、Mg含有量はより高合金側、例えばそれぞれ5.0〜8.0質量%、1.0〜2.5質量%、合計で6.0〜10.5質量%が望ましい。
Cuは7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Cu含有量が0.05質量%未満では十分な強度向上効果がなく、一方、2.0質量%を越えると押出加工性の低下を招く。Cu含有量は、望ましくは0.5〜1.5質量%である。
Ti:0.005〜0.2質量%
Tiは7000系アルミニウム合金の鋳造時に結晶粒を微細化して、押出形材の成形性(潰し加工性)を向上させる作用があり、0.005質量%以上添加する。一方、0.2質量%を越えるとその作用が飽和し、かつ粗大な金属間化合物が晶出して、かえって成形性を低下させる。
Cr:0.01〜0.3質量%
Zr:0.01〜0.3質量%
Mn,Cr,Zrは7000系アルミニウム合金押出形材の再結晶を抑制して、結晶組織を微細再結晶又は繊維状組織とし、耐応力腐食割れ性を向上させる作用があるため、その1種又は2種以上を上記範囲内で添加する。
不可避不純物
7000系アルミニウム合金の主要な不可避不純物として、Fe及びSiが挙げられる。7000系アルミニウム合金の諸特性を低下させないため、Fe:0.35質量%以下、Si:0.3質量%以下に制限される。
本発明に係る7000系アルミニウム合金部材は、上記組成を有し、複数の板から構成される7000系アルミニウム合金押出形材をプレス焼き入れで製造した後(通常、数十日〜数ヶ月の保管期間がある)、同形材の長手方向に沿った全部又は一部の領域に対し、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200〜550℃の温度範囲に0秒を超え60秒以下保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を施し、復元処理後72時間以内に、前記領域に押出方向に対し垂直方向の潰し加工を、前記複数の板のうち最も大きく曲げ変形を受けた板の板厚をtとし、曲げ内側半径の最小値をRとしたとき、1.5mm≦t≦4.0mm、3t/2≦R≦10tとなる条件で施し、さらに部材全体に時効処理を施すことにより製造することができる。
本発明において、押出形材のウエブの板厚tを1.5mm≦t≦4.0mmと比較的厚めに規定したのは、本発明に係る7000系アルミニウム合金部材の用途として、主としてドアビームやバンパーリインフォース等の自動車用補強部材を想定したためである。
また、保持温度からの冷却速度が0.5℃/秒未満の緩冷却では、冷却過程で再び金属間化合物の析出が生じ、この復元処理の効果が弱まり又は失われる。なお、従来の復元処理では、冷却過程の冷却速度について特に考慮されていなかった。
上記製造方法で製造された7000系アルミニウム合金部材は、高強度材であるにも関わらず、潰し加工を施した領域のウエブに亀裂の発生がなく、ウエブの引張残留応力σrsと部材の0.2%耐力値σ0.2の比Y(σrs/σ0.2)が、7000系アルミニウム合金のMg含有量[Mg]とZn含有量[Zn] の合計X(=[Mg]+[Zn])との間で、前記式(1)を満たし、優れた耐応力腐食割れ性を示す。
なお、図1において、Yの分母である0.2%耐力(σ 0.2 )は、後述する実施例に示すように、プレス焼き入れで製造された押出材を自然時効させた後、復元処理及び拡管加工を行うことなく時効処理した箇所の0.2%耐力である。
潰し加工後、No.1〜14の試験材(各2本)全体に130℃×8時間の時効処理を施した。
時効処理後、No.1〜14の一方の試験材を用い、下記要領で引張試験、ウエブの曲げ外側の亀裂発生の有無の検査、ウエブの曲げ内側半径(最小値R)の測定、及びウエブの引張残留応力の測定を行った。また、No.1〜14のもう1つの試験材を用い、耐応力腐食割れ性試験を行った。その結果を表2に示す。
試験材5の復元処理していない領域からJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に規定する金属材料試験方法に準じて引張試験を行い、0.2%耐力(σ0.2)を測定した。
(亀裂発生の有無)
試験材5の潰し加工した領域のウエブ3,4を目視で観察し、ウエブ3,4の曲げ外側における亀裂発生の有無を検査した。亀裂は主として試験材5の潰し加工した端面近傍に生じていた。
(曲げ内側半径の最小値R)
試験材5の潰し加工した端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径が最も小さくなることから、同端面においてウエブ3,4の曲げ内側半径を測定した。
残留応力の測定法は切断法により次の手順で行った。測定対象位置として、図2に示す潰し加工開始位置A、端部位置B、及び中間位置Cを選定し(いずれも高さ中央位置)、これら測定対象位置表面をサンドペーパーで研磨後、アセトン洗浄し、この研磨部位に歪みゲージを瞬間接着剤で接着し、24時間室温放置後、歪みゲージのリード線を歪み計に接続してゼロ点設定をし、歪みゲージの周囲を金属のこぎりで10mm角に切断して応力開放し、切断後の歪み量εを計測し、次式にて残留応力値σrsを算出した。 σrs=−E×ε(E;ヤング率)、ここでE=68894N/mm2とした。
なお、No.1〜14の試験材全てにおいて、潰し加工開始位置Aで測定した引張残留応力値が最大値となった。これは、潰し加工開始位置Aにおいて最も材料の拘束が大きく、一方、端部位置B及び中間位置Cでは材料の拘束が比較的小さく、潰し加工による歪みが解放されたためではないかと推測される。従って、表2に記載した残留応力値σrsは、潰し加工開始位置Aで測定した値である。
クロム酸促進法による耐応力腐食割れ試験を行った。潰し加工した試験材を用いて、90℃の試験溶液に最大16時間まで浸漬し、応力腐食割れを目視で観察した。また、試験溶液は、蒸留水に参加クロム36g、2クロム酸カリウム30g及び食塩3g(1リットルあたり)を加えて作製した。試験は1時間毎に試験材を溶液から取り出し、割れ発生の有無を確認し、割れ無し又は割れ発生までの時間が12時間以上であったものを耐応力腐食割れ性が優れる(○)と評価し、割れ発生までの時間が12時間未満であったものを劣る(×)と評価した。なお、応力腐食割れは全て潰し加工開始位置A(図2(b)参照)の付近で生じていた。
表1,2から、本発明に規定する合金組成を有し、本発明に規定する条件で復元処理及び潰し加工を行ったNo.1〜6の試験材は、潰し加工後のウエブに亀裂がなく、時効処理後の耐力値が200MPa以上で、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たし、いずれも耐応力腐食割れ性が優れる。
No.8の試験材は、復元処理の冷却速度が遅いため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.9の試験材は、復元処理の到達温度が低いため復元処理の効果がなく、時効処理により耐力が向上せず、比較的低Zn、Mgであるにも関わらず、潰し加工によりウエブに亀裂が入るのを防止できなかった。また、Y(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.11の試験材は、復元処理を行っていないため、潰し加工によりウエブに亀裂が発生した。また、Y(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性も劣る。
No.12の試験材は、復元処理から潰し加工を行うまでの時間が長いため、復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
No.14の試験材は、復元処理の冷却速度が小さいため復元処理の効果が失われ、潰し加工によりウエブに亀裂が入り、かつY(=σrs/σ0.2)とX(=[Zn]+[Mg])が前記式(1)を満たさず、耐応力腐食割れ性が劣る。
3,4 ウエブ
5 試験材(押出形材)
7 潰し加工用治具
Claims (2)
- Zn:3.0〜8.0質量%、Mg:0.4〜2.5質量%、Cu:0.05〜2.0質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらに、Mn:0.01〜0.3質量%、Cr:0.01〜0.3質量%、Zr:0.01〜0.3質量%の1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる組成を有し、複数の板で構成され、プレス焼き入れで製造された7000系アルミニウム合金押出形材の長手方向に沿った一部の領域に、押出方向に対し垂直方向の潰し加工を施して部材化する7000系アルミニウム合金部材の製造方法において、潰し加工の前に、前記押出形材の前記領域を含む長手方向に沿った一部の領域に対し、0.4℃/秒以上の昇温速度で加熱し、200〜550℃の温度範囲に0秒を超え60秒以下保持し、次いで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する復元処理を施し、復元処理後72時間以内に、前記複数の板のうち最も大きく曲げ変形を受けた板の板厚をtとし、曲げ内側半径の最小値をRとしたとき、1.5mm≦t≦4.0mm、3t/2≦R≦10tとなる条件で前記潰し加工を施し、潰し加工後、部材全体に時効処理を施して、下記式(1)〜(3)を満たす7000系アルミウム合金部材を製造することを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
Y≦−0.1X+1.4 ・・・(1)
Y=σrs/σ 0.2 ・・・(2)
X=[Mg]+[Zn] ・・・(3)
ただし、σrsは前記7000系アルミニウム合金部材の前記最も大きく曲げ変形を受けた板における前記時効処理後の引張残留応力の最大値、σ 0.2 は前記7000系アルミニウム合金部材の前記復元処理を行っていない領域における前記時効処理後の0.2%耐力、[Mg]は前記7000系アルミニウム合金のMgの質量%、[Zn]は同じくZnの質量%を意味する。 - 前記7000系アルミニウム合金押出形材が、対向配置された一対のフランジとそれらを連結する1又は2以上のウエブからなり、前記最も大きく曲げ変形を受けた板が前記ウエブであることを特徴とする請求項1に記載された耐応力腐食割れ性に優れた7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
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