JP6005539B2 - 高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法 - Google Patents

高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金部材とは、素材としての押出形材を製品形状(使用形状)に成形加工したものを言う。
7000系アルミニウム合金部材は、周知の通り、素材の押出形材の組成として、主成分であるZn、MgやCuなどの合金元素量を調整し、その時効硬化性を利用した人工時効処理(人工時効硬化処理)などの調質によって、必要な高強度を確保している。主な用途例としては、バンパ補強材(バンパリィンホース)、ドアビームなどの自動車用補強部材あるいは航空機用などの構造部材があり、薄肉化による軽量化のためにも、より高強度化が求められ、0.2%耐力で300MPa以上の高強度が要求される。
ただ、7000系アルミニウム合金部材は前記合金元素量が多いために、他の合金系に比して、耐SCC性(耐応力腐食割れ性)が低いことが知られている。
また、7000系アルミニウム合金部材は、周知の通り、その時効硬化性ゆえに、素材としての押出形材として製造されたあと、自然時効硬化(以下、自然時効あるいは室温時効とも言う)によって大きく硬化する。例えば、熱間押出直後は0.2%耐力で150MPa程度であった強度が、自然時効(室温時効)20日経過後には、0.2%耐力で240MPa程度まで硬化してしまう。
このように自然時効した素材押出形材は、曲げ加工、断面の潰し加工(プレス加工)、打抜き加工から選択される成形加工(塑性加工)、あるいはこれらが組み合わされた成形加工の際に、成形性が極端に低下してしまう。そして、更に、自然時効が進展した場合、押出形材の均一伸びや局部伸びが低下し、部材への成形性や成形精度が更に低下する。これに対して、製品への成形側あるいは成形製品の使用側からは、設計自由度の拡大を目的に、現状よりも加工限界を向上できる素材や加工方法が要求されている、この点で、特に小Rでの曲げ加工や、張出量の大きいプレス加工などが要求されるようになってきている。
ちなみに、このような問題は、製造された素材押出形材に対して、別途に再加熱して溶体化処理(溶体化および焼入れ処理)を施した後でも同様で、このような調質を施した後に、成形されるまでの時間が経過するほど、自然時効が進展する。
また、前記成形加工が可能であっても、素材押出形材が製造されてから成形加工されるまでの時間の違い、すなわち自然時効硬化の程度(進行)の違いによって、押出形材同士の強度が異なる、すなわち押出形材同士の強度がばらつくために、前記成形加工時のスプリングバック量がばらつき、成形精度が劣るという問題もある。
更に、前記した、曲げ加工、断面の潰し加工、打抜き加工から選択される、塑性加工を伴う部材への成形加工では、残留応力が付加されやすく、この付加される残留応力が高いほど、その成形部位における耐SCC性が著しく低下するという問題もある。
このため、自然時効した押出形材の成形性の改善のために、従来から、成形加工に先立ち、自然時効した押出形材を予め熱処理して、前記耐力などの強度を低下させる回復処理が行われている。
例えば、特許文献1では、航空機用フレームなどの製造方法が記載されている。そして、7000系アルミニウム合金素材の押出形材あるいは板材の全体につき、これを溶体化処理後に塑性加工する部品の成形方法において、成形直前に、加熱温度:150〜350℃で、加熱時間:30秒〜5分間(急速加熱ができる場合は170〜200℃×20秒〜3分間)の復元処理を行なっている。これによって前記溶体化処理後の自然時効によって硬化した材料を軟化させて成形性を確保し、自然時効の進度の違いによるスプリングバック量のばらつきを解消したのち成形している。
特許文献2では、スピニング加工工程と該スピニング加工されたパイプを人工時効処理する高強度アルミニウム合金パイプの製造方法が記載されている。そして、溶体化処理後に自然時効された、素材の7000系高硬度アルミニウム合金押出パイプ全体を、スピニング加工による摩擦発熱や塑性変形による発熱などを利用して、150℃〜250℃の温度範囲に局部的に短時間で昇温および降温する復元処理を行った後に、スピニング加工している。
特許文献3では、長期の自然時効をしても優れた拡管加工性をそなえた自動二輪車のアウターチューブ材としての7000系高力アルミニウム合金押出管の製造方法が記載されている。そして、アルミニウム合金押出管をT4調質した後、その全体を105℃〜250℃の温度で30秒〜180分間熱処理するに際して、100℃から熱処理温度までの昇温速度を1℃/秒未満とする復元処理を行なうことが提案されている。その実施例では、2段時効後の引張強さ、耐力、伸びに優れ、応力腐食割れ寿命も優れるとしている。
特許文献4は、同じくアウターチューブ用高力アルミニウム合金押出管の耐応力腐食割れ性を向上させるために、7000系高力アルミニウム合金押出管を溶体化処理および焼入れし、室温で100時間以上の時間自然時効させたのち、150〜250℃の温度で30秒〜10分間熱処理し、100℃から熱処理温度までの昇温速度を1℃/秒以上とした復元処理を行ない、最後に人工時効処理を行う手法が提案されている。
また、押出形材分野ではないが、特許文献5、6には、プレス成形性の向上のために、アルミニウム合金板に対して部分的に前記復元処理を施すことが開示されている。
特開平7−305151号公報 特開2005−194620号公報 特開2007−119853号公報 特開平10−168553号公報 特開2011−111657号公報 特開2009−161851号公報
これら従来の復元処理は、特許文献2の条件を除き、素材全体である、素材の長手方向や幅方向全体に対して一律に行うものである。このため、特に押出形材で特徴的な長尺な部品に適用する場合、比較的大型の熱処理設備が必要になる。しかし、このような大型設備では、装置自体のコストアップに伴い、加工コストが高くなるという問題がある。また、様々な断面形状が容易に得られることを利点としている押出形材に適用することを考慮すると、断面形状が異なる場合にも容易に適用できる汎用性の高い熱処理方法が望まれる。
特許文献2の事例は、スピニング加工によるローラと素材パイプとの摩擦発熱とパイプの塑性変形による発熱を利用することで、スピニング加工部のみを部分的に復元処理しているといえる。しかし、本手法では、前述したようにアルミニウム合金パイプに素材形状が限定され、押出形材などに汎用的には適用できない。また、スピニング加工によるローラと素材パイプとの摩擦発熱とパイプの塑性変形による発熱の利用では、復元処理条件の制御が困難で条件のばらつきが大きくなる。このため、素材の必要部位を、正確にかつ均一に熱処理することが難しいという問題も生じる.
また、前述したように、アルミニウム合金形材の適用範囲拡大のためには、より小Rでの曲げ加工や断面を長手方向に形状を変化させる変断面加工も望まれるようになっている。前記したように、成形加工前に復元処理を追加することで、アルミニウム合金形材素材の加工限界は向上し、これに応じて部品の加工限界も向上するが、ユーザからは、さらに設計自由度が広くなるように、小Rでの曲げ加工や潰し加工限界を向上できる手法も望まれている。
更に、これら従来の復元処理は、その加熱温度や、保持時間の長さなどの条件から推測すると、全て完全なO材処理になりやすい。すなわち、O材処理にならないようにためには、後述する本発明の復元処理のように、特定の加熱速度による急熱、7000系アルミニウム合金押出形材などの素材の特定の実体温度、特定のごく短時間の保持などの諸条件を満足することが必要である。しかし、これら従来の多くの復元処理には、これらの条件の開示がなく、完全なO材処理になる可能性が高くなる。このため、復元処理によって耐力を一旦低下させたあとで、調質処理を施しても、その人工時効硬化処理によって向上させられる強度には大きな限界がある。ちなみに、これら従来の復元処理温度の記載は、通常の炉の雰囲気温度であって、実体温度ではないことが多い。このため、炉の構造や性能、素材の形状などの影響で、実体温度が異なることが多く、これも復元処理後の素材特性が安定しない要因になっていた。
また、特許文献5、6の、プレス成形性の向上のためのアルミニウム合金板に対する部分的な復元処理も、板の場合には板厚が薄いために、復元処理の熱膨張の影響で、素材板が熱変形することが大きな問題になる。このため、金型により素材の表裏を拘束して復元処理を行う必要があるが、煩雑である。しかも同じ合金系であっても、圧延板で成形性向上に有効な復元処理が、圧延板とはその製法や組織が異なる押出形材でも有効であるとは限らない。
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、塑性加工を伴う部材への成形加工前の復元処理を行うにあたり、より低コストで加工限界向上効果が見込める復元処理を施した、高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法を提供することを目的とする。
また、上記目的を達成するための本発明の高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法の要旨は、押出加工によって製造後に調質処理されることなく自然時効したのみの状態で、長手方向あるいは幅方向の一部分だけに予め復元処理を施した7000系アルミニウム合金押出形材を、前記復元処理部分あるいは前記復元処理部分とその周縁部分において成形加工を施す、アルミニウム合金部材の製造方法であって、前記復元処理を、前記押出形材の実体温度で200〜500℃の範囲に加熱するとともに、この温度範囲に0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持された後に冷却する条件で行い、この復元処理の冷却終了後から100分以内の時間内に前記成形加工を行うことである。
本発明では、その実体温度が比較的高温で、かつ絶対的に短時間などの特定条件での復元処理を、押出加工によって製造後に調質処理されることなく自然時効のみの状態での7000系アルミニウム合金押出形材に対して、従来の復元処理とは全く異なり、その長手方向あるいは幅方向の一部分だけ、あるいは押出形材断面の一部分だけに行う。そして、この部分的な復元処理の領域(部分)のみか、この部分的な復元処理部分の周縁部を含む領域か、この周縁部のみの領域にて成形加工を行う。
これによって、7000系アルミニウム合金素材が長尺の押出形材であっても、比較的小型設備で、簡便で安定した復元処理が可能となる。また、押出形材に、熱処理しない残りの大部分を残すため、押出形材全体に亘り均一に施す従来の復元処理やO材処理とは異なり、成形後の人工時効硬化処理で必要な部材強度を確保できる。
特に押出形材に施されることが多い曲げ加工の場合、曲げ加工部のみに部分的に前記復元処理を施すことで、素材の低耐力化、高n値化により加工(破断)限界曲げ半径を低減、すなわち、より小Rで曲げ加工することが可能になる。同時に、前記復元処理による部分的な耐力低減効果により、スプリングバック低減による形状精度の向上、残留応力の低減に伴う耐SCC(応力腐食割れ)性の向上を図ることができる。
さらに、この復元処理を長手方向に部分的のみならず、断面内で部分的に行うことで、曲げ加工限界をさらに向上させることも可能である。
曲げ中立軸の内側のみを復元処理した本発明の態様を示し、押出形材が曲げ加工された後の円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部分のみを示す平面図である。 曲げ中立軸の外側のみを復元処理した本発明の態様を示し、押出形材が曲げ加工された後の円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部分のみを示す平面図である。 曲げ中立軸の外側のみで、かつ曲げ加工部の周縁部を復元処理した本発明の態様を示し、押出形材が曲げ加工された後の円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部分のみを示す平面図である。 図3と同じく、曲げ中立軸の外側のみで、かつ曲げ加工部の周縁部を復元処理した本発明の態様を示す平面図である。 図3、4における最大ひずみの低減効果を示す説明図である。 実施例1における曲げ破断限界の向上効果を示す説明図である。 実施例1における曲げ破断限界の向上効果を示す説明図である。 実施例2における曲げ加工試験条件を示す説明図である。 実施例3における潰し加工性の向上効果を示す説明図である。 実施例3における潰し加工試験体を示す断面図である。 実施例3における潰し加工試験条件を示す説明図である。
以下に、本発明の実施の形態につき、順に要件ごとに具体的に説明する。
(復元処理)
本発明の復元処理は、押出加工によって製造された7000系アルミニウム合金押出形材であって、その製造(押出加工)後に、本発明の復元処理に先立って、溶体化および焼入れ処理や人工時効硬化処理などの調質処理を予め施されることなく、自然時効(自然時効硬化、室温時効硬化)したのみの状態での押出形材を対象とする。言い換えると、押出加工によって製造後に、前記調質処理されることなく、自然時効(室温時効、常温時効)したのみの状態の7000系アルミニウム合金押出形材素材に対して、本発明の復元処理を施す。これによって始めて、この復元処理を施された押出形材を成形加工した後の人工時効処理などの調質処理で、7000系アルミニウム合金部材の強度を0.2%耐力で300MPa以上の高強度に確保できる効果が得られる。
これに対して、その製造(押出加工)後に、溶体化および焼入れ処理や人工時効硬化処理などの調質処理を予め施した7000系アルミニウム合金押出形材に、本発明の復元処理を施しても、その効果は発揮されない。本発明の復元処理は、後述する復元処理条件の通り、通常の軟質化のためのO材処理とは異なり、一旦調質処理された7000系アルミニウム合金押出形材組織をキャンセルする(キャンセルできる)ものではないからである。
(復元処理条件)
本発明における部分的な復元処理の条件も、復元処理による効果発現のために重要である。この条件として、本発明の部分的な復元処理は、押出形材の実体温度で200〜500℃の範囲に加熱されるとともに、この温度範囲に0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持された後に冷却される条件で行われ、この復元処理の冷却終了後から100分以内の時間内に成形加工する。本発明では、押出形材の実体温度が500℃近傍の再溶体化領域であっても、前記短時間での保持や保持後の冷却などの条件を全て含めて、その目的から「復元処理」と称している。
復元処理の際の7000系アルミニウム合金押出形材素材の実体温度が200℃未満では、復元処理が不十分となって、特に、成形加工性が向上せず、付与される残留応力も高くなる。一方、実体温度を500℃を超えて高温とする必要は無く、これ以上の高温では、昇温に要する時間なども含めて熱処理時間が長くなりすぎて、完全なO材処理(焼きなまし処理)となる可能性が生じ、成形加工後の人工時効処理後の強度が0.2%耐力で300MPa以上に向上しない可能性が生じる。
この際、0.5℃/秒以上の加熱速度による急速加熱(急熱)によって、7000系アルミニウム合金押出形材素材の実体温度を200〜500℃の範囲まで加熱することが好ましい。加熱速度が0.5℃/秒未満と遅いと、温間あるいは高温状態での保持時間が長くなって、完全なO材処理(焼きなまし処理)となる可能性が生じ、前記成形加工後の人工時効処理後の強度が0.2%耐力で300MPa以上に向上しない可能性が生じる。
次に、上記温度範囲での加熱保持時間も重要で、復元処理における加熱処理時間は、押出形材素材の実体の温度が200℃以上、500℃以下の温度範囲にあるのが瞬間的な短時間であっても、素材の実体の温度がこの温度域にあれば効果がある。例えば、後述するように加熱体を直接、押出形材に接触させて直ちに離するような、瞬間的な保持(時間)の目安である0.1秒程度であっても、素材の実体の温度がこの温度域にあれば効果がある。一方で、この保持時間が20秒以上を超えて長すぎると、温度条件にもよるが、この復元処理によるベークハード性に寄与する微小析出物Bを再固溶や、反対に析出が進んでしまうことになる。また、保持時間が長すぎると、完全なO材処理(焼きなまし処理)ともなりやすい。これらの結果、成形加工後の人工時効処理によっても、強度が0.2%耐力で300MPa以上に高くできない。このため、加熱保持時間は前記した0.1秒以上、20秒未満とする。
前記温度範囲に0.1秒以上、20秒未満のごく短時間だけ保持するために、この保持後直ちに、室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で、強制的に急冷(空冷、水冷、ミスト冷却)することが好ましい。この際、本発明で言う室温とは、数℃、0℃あるいは0℃以下などの、いわゆる18〜25℃程度の室温以下の温度(への冷却)を含みうる。
(復元処理の形材への部分適用)
本発明では、押出形材の成形加工される領域(部分)や、成形加工される領域(部分)の周縁部を含む領域(部分)、成形加工される領域の周縁部のみの領域を、押出形材の長手方向あるいは幅方向の一部分だけに前記条件の復元処理を部分的に施すことを特徴とする。
従来の復元処理は、押出形材の長手方向あるいは幅方向の全体に亘って、一律あるいは均一に復元処理を施す。これに対して、本発明は、これら従来の復元処理やO材処理などの調質処理とは異なり、既定する条件の復元処理を施された領域(部分)以外の、押出形材の他の大部分の領域(部分)は、復元処理自体を施さずに、前記自然時効したままの組織として残すことが特徴である。
そして、この部分的な復元処理をした状態の押出形材を、復元処理した部分、あるいは復元処理をした部分とその周縁部を含む部分において、曲げ加工、プレス加工、打抜き加工から選択され、これらを組み合わせた加工も含む、成形加工を行う。ここで、成形加工を行う、復元処理した部分あるいは前記復元処理部分の周縁部分とは、復元処理した全部分、復元処理した部分の一部分、復元処理した部分の全部か一部分と復元処理した部分の周縁部分(周辺の隣接部分)を含む部分、あるいはこれら復元処理部分を含まない周縁部分(周辺の隣接部分)のことを言う。
このような、本発明の押出形材の部分的な復元処理によって、7000系アルミニウム合金素材がたとえ長尺の押出形材であっても、既存の比較的小型の設備や冶具のみを用いて、操作が簡便でしかも安定した熱処理が可能となる。そして、押出形材を前記のように成形加工した後の人工時効硬化処理で、部材としての必要強度を確保できる。
また、特に押出形材に施されることが多い曲げ加工の場合に、押出形材の曲げ加工部分のみに、部分的に前記復元処理を施すことによって、復元処理部分のみの部分的な低耐力化、高n値化が図れる。このため、曲げ加工の加工(破断)限界曲げ半径を低減でき、より小さな曲げ半径(小R)によって曲げ加工することが可能になる。同時に、復元処理による耐力低減効果により、スプリングバック低減による形状精度の向上や、残留応力の低減に伴う耐SCC(応力腐食割れ)性の向上を図ることもできる。
これらの復元処理する領域(部分)の平面的な広さは、成形加工時に押出形材が変形する部分の平面的な広さに対して、復元処理の成形加工性向上の実効的な効果発揮と、それ以上の領域の復元処理は不要であることの兼ね合いから決まる。そして、この範囲から、復元処理を施す前記部分的な部位と、素材7000系アルミニウム合金押出形材の組成や製法からくる材料特性や、製造後の自然時効の進み具合(強度の上昇程度)、そして、その押出材の成形加工条件の関係などを勘案して設定される。
(押出形材への復元処理の部分的な適用の仕方)
押出形材の部分的な復元処理は、前記した通り、押出形材の長手方向あるいは幅方向の一部分だけに施される。このように、復元処理を長手方向に部分的のみならず、押出形材の幅方向すなわち押出形材の断面内でも部分的に行うことで、成形加工限界をさらに向上させることができる。
曲げ加工の場合:
特に押出形材に施されることが多い曲げ加工は、押出形材の長手方向を円周方向とする曲げ加工である。このような曲げ加工の場合には、前記押出形材の部分的な復元処理として、押出形材の曲げ加工部(曲げ変形部)に相当する領域の一部あるいは全部(全領域)、さらには、曲げ加工部を含み隣接する直辺部まで含めた領域の全領域あるいはその一部領域を事前に予め部分的に本発明の復元処理してから曲げ加工する。この場合に、本発明の復元処理を、押出形材の長手方向のみならず、押出形材の幅方向すなわち押出形材の断面内でも部分的に行うことで、曲げ加工限界をさらに向上させることが可能である。
そして、このような復元処理部分あるいは復元処理部分とその周縁部を含む部分において押出形材の前記曲げ加工が施される。
プレス加工、打抜き加工の場合:
押出形材の一部の断面形状を長手方向に変化させるプレス加工(形材断面の部分的な潰し加工)や、押出形材に穴を設ける打抜き加工から選択される成形加工の場合にも、事前に予め部分的に本発明の復元処理をしてから成形加工する。すなわち、押出形材の、これらの成形加工部(加工変形部)に相当する部分の一部あるいは全部の領域か、また、これらの成形加工部(加工変形部)周縁部に相当する部分を含めた前記成形加工部に相当する領域の全領域もしくは一部領域を、成形加工前に、事前に予め部分的に本発明の復元処理を施す。この場合に、本発明の復元処理を、押出形材の長手方向のみならず、押出形材の幅方向すなわち押出形材の断面内でも部分的に行うことで、成形加工限界をさらに向上させることが可能である。
そして、このような復元処理部分あるいは復元処理部分とその周縁部を含む部分において押出形材の前記プレス加工や打抜き加工が施される。一例として、押出形材に施される成形加工が、形材の一部の断面形状を長手方向に変化させるために行うプレス加工の場合、このプレス加工部(プレス加工変形部)の一部や全部(全領域)、あるいは、このプレス加工部の近傍に位置し、成形加工時にパンチや金型と接触しない直辺部を含めて、事前に部分的に本発明の復元処理する。
押出形材の一部の断面形状を長手方向に変化させるプレス加工例として、口型、日型、目型などの長手方向に均一な矩形断面を有する押出形材の、両端部や一部を部分的に潰し加工する事例がある。このような潰し加工は、設計上の形状制約の確保や、また、他部品との取り付け部を確保するために行われる。例えば、特開2008-120110号の事例では、ドアインパクトバーやタワーバーなどのエネルギ吸収部品への適用も示唆されており、端部側スペースの制約が厳しいバンパ補強材などへの適用も期待される。このような場合に本発明を用いれば、バンパ補強材全体を復元処理せずとも、この両端部の潰し加工部、あるいは潰し加工部とその周縁部を含む部分を部分的に復元処理するだけで、バンパ補強材自体の強度や衝突エネルギ吸収特性を低下させずに、この両端部の潰し加工を行うことができる。また、復元処理のための大きな炉や装置も不要である。
押出形材断面内で復元処理条件を異ならせる:
特に押出形材を曲げ加工する場合には、押出形材の曲げ変形部の曲げ中立軸の内側と外側とに相当する部分同士か、または、この曲げ中立軸の内側と外側とに相当する部分と、この曲げ変形部の周縁とに相当する部分同士で、異なる条件の本発明復元処理を行っても良い。このように押出形材断面内で、互いに異なる条件の本発明復元処理を行うことで、前記曲げ中立軸の曲げ内側と外側との素材に、強度などの特性の差を設けることができ、かえって成形性を向上させることができる。ここで、これら異なる条件の復元処理とは、前記いずれかの側を本発明の復元処理をしないことを含む。
図1、2、3、4は各々この、曲げ中立軸の曲げ内側と外側とのいずれかの側を復元処理し、他方の側を復元処理しない、本発明の態様を示している。図1〜3は、復元処理する部分と曲げ加工との関係を分かりやすく説明するために、素材である押出形材が曲げ加工された後の部材の、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)した部分のみを平面的に示している。ここで、この素材押出形材乃至曲げ加工された部材の断面が、丸棒や角棒などの中実形状か、中空部を有する断面が口形、田形の中空形状かは問わない。言い換えると、中実であっても中空であっても、本発明復元処理の作用効果は同じである。
図1、2は、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部において、一点鎖線で示す、部材の長手方向(押出形材の押出方向)に延在する円弧状の曲げ中立軸N0に対して、部材の外側領域の変形部(加工部)全部か一部、あるいは部材の内側領域の変形部(加工部)全部か一部、のいずれか一方のみを復元処理した態様を示している。すなわち、前記押出形材でいうと、円弧状の曲げ変形部の曲げ中立軸の内側と外側とに相当する部分の全部か一部の、いずれか一方のみを復元処理した態様を示している。
図1は、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部において、部材(押出形材)の中立軸N0(図の下側に位置)の内側の変形部(加工部)の全域を復元処理した態様を示している。図1において点線で四角に囲んだ領域が、部材(押出形材)の中立軸N0の内側の変形部(加工部)全域である。この場合、図の中立軸N0の上側に位置する、外側の変形部(加工部)の側は本発明の復元処理をしていない。
一方、図2は、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部において、図の上側に位置する中立軸N0の外側領域の変形部(加工部)の、全部(全域)ではなく、点線で四角に囲んだ一部のみを復元処理した態様を示している。この場合、図の中立軸の下側に位置する押出形材の内側領域の変形部(加工部)の側は、本発明の復元処理をしていない。
図1において、この内側領域を復元処理した場合、円弧状の一点鎖線で示す平行な2本の曲げ中立軸N0、N1のうち、復元処理前の(元の)押出形材の幅方向中央の(図の内側の)方の曲げ中立軸N0{中立軸(通常)と記載}が、復元処理によって、左右2本の上向きの矢印で示す通り、図の外側の曲げ中立軸N1{中立軸(復元処理適用)と記載}へと移動する。これは、押し出したままの直線状の素材押出形材としてみた場合の、円弧状の曲げ変形部の曲げ中立軸N0の内側と外側とに相当する部分の、いずれか一方のみを復元処理した態様に共通した作用効果である。したがって、復元処理を図1のように、曲げ中立軸N0の内側の全部(全領域)ではなく、曲げ中立軸N0の内側の一部(一部の領域)とした場合でも同様の効果が生じる。
このため、曲げ加工の際のひずみ量を示す2本の平行な斜めの縦線(実線)S0、S1のうち、復元処理前の(元の)右側に示すS0が、4本の左斜め上方に向いた小さな矢印で示す通り、左側に示すS1へと移動し、曲げ加工時に曲げ外側表面に発生する引張ひずみ量は小さく、逆に、曲げ内側に発生する圧縮ひずみ量は増加することになる。このため、特に曲げ加工時に破断が問題になるような部品を曲げ加工する場合に有効である。
また、この図1の場合には、内側領域の復元処理によって、押出形材の内側領域の曲げ加工(曲げ変形)部分の部分的な低耐力化、高n値化が図れている。中立軸の移動に伴い曲げ内側への圧縮ひずみは増加するものの、前記材料特性の変化により、しわなどの形状不良も生じにくいという利点が得られる。
図2において、この内側領域の一部のみを復元処理した場合、円弧状の一点鎖線で示す平行な2本の曲げ中立軸N0、N1のうち、復元処理前の(元の)曲げ中立軸N0が、復元処理によって、左右2本の下向きの矢印で示す通り、図の内側の曲げ中立軸N1へと移動する。これは、前記図1の場合と同様、押し出したままの直線状の素材押出形材としてみた場合の、円弧状の曲げ変形部の曲げ中立軸N0の内側と外側とに相当する部分の、いずれか一方のみを復元処理した態様に共通した作用効果である。したがって、復元処理を図2のように曲げ中立軸N0の外側の一部(一部の領域)ではなく、曲げ中立軸N0の内側の全部(全領域)とした場合でも同様である。
この場合、曲げ加工の際のひずみ量を示す2本の斜めの縦線(実線)S0、S1のうち、復元処理前の(元の)左側に示すS0が、右側に示すS1へと移動し、曲げ加工時に曲げ内側に発生する圧縮ひずみ量が低減されることになり、特に曲げ内側でのしわ抑制が課題になる部品の曲げ加工に好適である。
この図2の場合、曲げ外側に発生する引張ひずみ量は増加することになるが、曲げ外側領域の素材特性は復元処理によって、低耐力化、高n値化が図れていることで、復元処理を適用していない通常の素材に比べて破断限界は高くなっており、破断自体も生じにくいといえる。
もちろん、曲げ加工を受ける領域について長手方向に部分的に復元処理しただけでも、前述したように、復元処理による低耐力化、高n値化効果により、成形性は向上する。これは、これによる破断限界の向上や、座屈しわの発生限界向上、さらにはスプリングバック低減により、所定の製品形状を得るための加工度を低減することができることによる効果である。
そして、前記したように、復元処理を押出形材の長手方向に部分的のみならず、断面内でも部分的に行うことで、曲げ加工限界をさらに向上させることが可能である。すなわち、前記したように、復元処理を施す位置や領域を選択、設計するによって、曲げ加工時の中立軸Nの位置を自由に変更できる効果を利用し、積極的にこの曲げ中立軸Nの位置をコントロールして、曲げ加工の加工限界を制御することが可能となる。より中立軸Nの位置を大きく変化させたい場合には、勿論、曲げ内側と外側とで、復元処理の温度や加熱時間条件を互いに変えて行うことも可能であるが、前記図1、2の通り、曲げ内側もしくは外側のどちらか一方にのみ熱処理を施すことでも、大きな効果が得られる。
図3は、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部において、曲げ加工部(曲げ変形部)のみを、軟化領域1として復元処理する場合を示している。また、図4は、これに加えてこの曲げ加工部のAで示す境界よりも外側にある(離れた)形材の周縁部(直線部)領域の曲げ中立軸に対する曲げ外側領域を軟化領域2として復元処理した態様を示している。この図4の場合は押し出したままの直線状の素材押出形材としてみた場合に、この曲げ加工部のAで示す境界よりも外側にある形材の周縁領域まで含めて、曲げ中立軸の外側に相当する部分のみを復元処理した態様となる。
図5に、これら図3、4の場合の、曲げ加工時のひずみ量の低減効果を示す。図5において、縦軸がひずみ量ε、横軸が前記図3の点線で示す曲げ中心軸からの、形材の曲げ外側領域の距離Sを示す。図5の、ひずみ量εと、曲げ中心軸からの形材曲げ外側領域の距離Sとの関係において、周縁部を含めて曲げ加工しない図3の場合のひずみ分布は、上側の細い実線のようになり、曲げ加工部のAで示す境界までは一定の高いひずみ量εとなって、Aで示す境界以降は急激に低下している。
これに対して、図4の場合には、図5の下側の太い実線で示すように、周縁部まで含めて復元処理した曲げ加工部のAで示す境界までは一定のひずみ量だが、周縁部を含まない場合に比べて、絶対値が低くなるとともに、曲げ加工部の境界Aを越えた右側領域まで広い範囲でひずみが発生していることがわかる。このひずみ量の低減は、周縁部の復元処理による低耐力化の影響で、変形領域が広がるためである。
図4に示すように、曲げ加工部の前記周縁領域まで含めて復元処理することで、素材低耐力化および高n値かの影響で変形範囲が広くなり、広い範囲で均一にひずみを受け持つことで、曲げ加工時のひずみ量が低減される。これは、円弧状の曲げ加工(曲げ変形)部において、曲げ加工部を含む前記周縁領域を復元処理した態様に共通した作用効果である。したがって、曲げ内側領域側を復元処理した場合、あるいは断面内の全領域を復元処理した場合でも同様の効果を得ることができる。このため、曲げ加工における破断あるいはしわなどの形状精度不良が抑制しやすくなり、加工限界曲げ半径を低減でき、より小さな曲げ半径(小R)によって曲げ加工することが可能になる。同時に、復元処理による耐力低減効果により、スプリングバック低減による形状精度の向上や、残留応力の低減に伴う耐SCC(応力腐食割れ)性の向上を図ることもできる。
ちなみに、図1〜3においても、これらの復元処理する領域の広さは、その素材7000系アルミニウム合金押出形材の組成や製法からくる材料特性や、製造後の自然時効の進み具合(強度の上昇程度)、そして、その押出材の成形加工条件の関係などを勘案して、その効果が生じる範囲から、経験的あるいは試行錯誤的に設定される。
(押出形材の復元処理手段)
本発明のように、前記押出形材の成形加工される部分、あるいは成形加工される部分を含む部分のみの、長手方向あるいは幅方向の一部分だけに前記条件の復元処理を施すためには、この復元処理を、通常の押出形材の熱処理に用いる加熱炉で行うことは無理である。通常の押出形材の熱処理に用いる加熱炉は、押出形材全体に対して均一に熱処理することを目的としており、押出形材の部分的な加熱には不適である。
したがって、前記復元処理を、押出形材への復元処理の前記した種々の部分的な適用場所に応じて、しかも前記した温度、短時間の最適条件で行うためには、所定の温度に熱した冶具を前記押出形材の長手方向あるいは幅方向の一部分だけに押し当て、この押し当てた部分を急速に加熱することによって行うことが好ましい。
このような冶具は、金属工具あるいはIHヒータが好適であって、これらの冶具を、少なくとも片側から押出形材(素材)に押し当て、前記した強制的な急冷手段と組み合わせることで、押出形材の部分的にのみ、かつ前記した温度、短時間の最適条件で、かつ、押出形材への復元処理の前記した種々の部分的な適用場所に応じて、復元処理することができる。
なお、このような高温の冶具を素材に押し当てる方法は、前記したアルミニウム合金の薄板では熱変形が問題となるが、厚肉の形材ゆえに剛性が比較的高い押出形材では、断面外側(片側)からの加熱でも、熱変形は殆ど問題とならない。
(成形加工)
以上説明したような復元処理が施された7000系アルミニウム合金押出形材の、前記復元処理部分あるいは前記復元処理部分を含む部分において、成形加工を施してアルミニウム合金部材とする。この成形加工は、前記した曲げ加工、プレス加工、打抜き加工から選択され、これらの各成形加工単独か、これらの各成形加工を適宜組み合わせた成形加工が、製品としての部材形状に応じて選択される。
押出形材に施されることが多い曲げ加工は、押出形材(あるいは部材)の長手方向を円周方向とする曲げ加工である。押出形材に施されることが多いプレス加工は、パンチや金型を用いて、押出形材(あるいは部材)の一部の断面形状を長手方向に変化させる、形材断面の部分的な潰し加工である。)や、押出形材に施されることが多いプレス加工は、押出形材(あるいは部材)の所定位置に、所定の大きさ(径)や個数だけ、他部材や締結具との嵌合、締結用の穴を設ける打抜き加工である。これらは、残留応力の発生を伴う、塑性加工としての部材形状への成形加工である。
成形加工までの経過時間:
但し、本発明の復元処理の効果を発揮させるためには、前記復元処理の冷却終了後から100分以内の短時間内に成形加工を開始することが必要である。前記復元処理の冷却終了後から成形加工の開始が、100分を超えた場合、高合金化組成の7000系アルミニウム合金は、自然時効が進んで、本発明の復元処理の効果が薄れてしまう。すなわち、この復元処理効果を成形加工において発現させるためには、復元処理(冷却)後に、自然時効が進まないうちに、あるいは自然時効が進んでも微小なうちに、なるべく早く(遅滞なく)成形加工を開始する必要がある。
この目安としては、勿論、7000系アルミニウム合金押出形材の組成や製造条件、あるいは前記した本発明の復元処理条件にもよるが、これらを押しなべて決定すると、前記復元処理の急冷直後から、成形加工を開始するまでの(所要)時間を100分以内とする。100分を超えると、高強度な7000系アルミニウム合金押出形材素材では、その組成からして、前記した通り自然時効が進みすぎて、成形性が著しく低下し、復元処理する意義が失われる。
すなわち、7000系アルミニウム合金押出形材の自然時効(強度増加)は短時間で進み、言い換えると、自然時効の初期の段階で、時効程度(強度増加)が大きく進む。このため、前記復元処理によって、成形加工部分やその近傍を低耐力化、高n値化しても、前記復元処理の急冷直後から成形加工開始までの時間が長くなった場合、自然時効が進みすぎる。この結果、勿論、成形加工開始までの時間にも勿論よるが、本発明の復元処理の効果が前記成形加工において充分に発現されない。
ここで、勿論、規定する100分という経過時間は、合金量や組成や押出加工条件などによっても異なる自然時効硬化量増加の明確な臨界的境界点を示すものではない。しかし、後述する好ましい7000系アルミニウム合金の組成範囲と、前記した本発明の復元処理条件との関係において、自然時効によって本発明の復元処理の効果が薄れる、汎用的で再現性の良い目安となりうる。
成形加工後の調質:
本発明では、前記した成形加工後の部材(7000系アルミニウム合金押出形材製部材)に人工時効硬化処理を行い、部材として必要とされる強度まで高めることが好ましい。本発明では、押出直後(押出機の出側で)の押出工程上で連続してオンラインにて行われる急冷あるいは焼入れ処理以外は、押出形材に対して、前記した通り、調質処理を行わない。したがって、部材として必要とされる強度に、強度を高めるためには、前記した成形加工後に、人工時効硬化処理を行うことが好ましい。
この人工時効硬化処理は、部材の機械的特性を向上させるために、好ましくは、加熱による100〜200℃での人工時効処理を、好ましくは12〜36時間(hr)行う。
本発明の復元処理によれば、成形加工後の部材の人工時効硬化処理との組み合わせで、自然時効した高強度の7000系アルミニウム合金押出形材であっても、この人工時効硬化処理による調質後の部材の0.2%耐力を300MPa以上とできる。
(7000系アルミニウム合金押出形材の製造)
組成:
本発明における7000系アルミニウム合金押出形材(素材)は、JIS規格およびAA規格を含むAl−Zn−Mg系組成あるいはAl−Zn−Mg-Cu系組成である。但し、部材としての要求される高強度を満たすためには、前記成形加工後の人工時効処理条件の範囲で、この人工時効処理後の部材強度を0.2%耐力で300MPa以上、好ましくは400MPa以上とすることが好ましい。
このための好ましい7000系アルミニウム合金押出形材(素材)組成は、質量%で、Zn:3.0〜8.0%、Mg:0.4〜2.5%、Cu:0.05〜2.0%、Ti:0.005〜0.2%を含有し、さらに、Mn:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%の1種又は2種以上を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる組成とする。元素量の%表示は全て質量%の意味である。
ここで、成形性や耐食性あるいは溶接性などの素材あるいは部材としての諸特性を低下させないために、前記不可避的不純物として、溶解原料としての地金やスクラップなどから必然的に混入するFe、Siなどは、Fe:0.35%以下、Si:0.3%以下に、経済的な範囲で少なくすることが好ましい。
Znは強度を向上させる主要元素であり、その好ましい含有範囲は3.0〜8.0%である。下限未満では強度が不十分になり、上限を超えて含有されると耐SCC性(耐応力腐食割れ性)の顕著な低下を招く。さらに好ましい含有範囲は6.2〜6.8%である。
Mgも強度を向上させる主要元素であり、その好ましい含有範囲は0.4〜2.5%である。下限未満では強度が不十分になり、上限を超えて含有されると耐SCC性の低下を招く。さらに好ましい含有範囲は0.6〜1.5%である。
Cuは強度も向上させる主要元素であり、その好ましい含有範囲は0.05〜2.0%である。下限未満では強度が不十分になり、上限を超えて含有されると押出加工性の低下を招く。さらに好ましい含有範囲は0.08〜0.2%である。
Tiは7000系アルミニウム合金の鋳造時に結晶粒を微細化して、押出形材の成形性(潰し加工性)を向上させる作用があり、0.005%以上含有させる。一方、0.2%を越えるとその作用が飽和し、かつ粗大な金属間化合物が晶出して、かえって成形性を低下させる。
Mn、Cr、Zrは選択的に含有される元素であり、一種または二種以上を含有することで、いずれも素材の結晶組織を微細化あるいは繊維状にし、耐SCC性を向上させる。それぞれ好ましい含有範囲は、Mn:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%である。いずれも上限を超えて含有されると粗大な金属間化合物を形成し、延性が低下するとともに成形性の低下を招く。
押出形材の製造方法:
7000系アルミニウム合金押出形材(成形素材)の製造方法を以下に説明する。なお、熱処理における記載温度は全て実体温度であって、炉の雰囲気温度ではない。
溶解、鋳造;
先ず、溶解、鋳造工程では、上記7000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造してビレットとする。
均質化熱処理:
熱間押出に先立って、鋳造されたアルミニウム合金ビレット(鋳塊)を470〜565℃の範囲で均質化熱処理(均熱処理)し、組織の均質化(鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすなど)を行う。均熱処理温度は470〜565℃の範囲、均質化時間は2時間以上の範囲から選択される。この均熱処理温度が高すぎると、形材組織中の分散粒子が粗大化し、結晶粒を微細化、高強度化できない。一方、この均熱処理温度が低すぎても、ビレット組織の均質化ができない。
熱間押出:
この均質化後の7000系アルミニウム合金ビレットを熱間押出(直接押出、間接押出)するが、押出形材の再結晶粒層を抑制し、組織を微細化、均質化させる条件にて熱間押出することが好ましい。ビレットの押出開始温度は好ましくは350〜450℃とする。
また、これら熱間押出直後の冷却については、溶体化域の温度(溶体化温度)での押出(押出機)出側温度から、空冷さらには水冷などの急冷(オンライン焼入れ)することが、押出形材組織の表面の再結晶組織や、内部の加工組織の結晶粒粗大化防止の点で好ましい。ちなみに、このような押出直後に(押出機の出側で)押出工程上で連続してオンラインにて行われる急冷あるいは焼入れ処理は、本発明では行わない。したがって、本発明でいう、自然時効による硬化以外は、溶体化処理などの調質することなく復元処理を行うとは、押出工程とは別途のオフラインにて、押出形材素材を再加熱して行われる溶体化および焼入れ処理などの調質することなく、復元処理を行うことである。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではない。例えば、素材として、押出形材だけでなく、前記各条件や下記実施例条件を、押出から圧延に置き換えれば、圧延板材へ適用することも可能であり、本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す各7000系アルミニウム合金からなる中空押出形材(素材)を、押出終了後に、自然時効以外は人工的に調質することなく、種々の条件で復元処理を行って、その成形性を調査、評価した。
実施例1は、先ず、適正な復元処理条件を確認する(本発明で規定する有効な復元処理条件範囲を裏付ける)ためのものである。すなわち、前記中空押出形材より平板状の小試験片を採取して、この試験片全体(全面)を、表2に示す種々の条件で復元処理を行って、復元処理による前記押出形材素材の、引張特性の変化および曲げ破断限界の向上効果を調査した。この結果を表2と、図6、7とに示す。
実施例2は、本発明の部分的な復元処理による前記中空押出形材の曲げ加工性の向上効果を調査した。この結果を表3に、曲げ加工試験条件を図8に各々示す。
実施例3は、本発明の部分的な復元処理によるプレス加工性(潰し加工性)の向上効果を調査した。この結果を表4、図9に、プレス加工試験条件を図10に各々示す。この潰し加工試験は、押出形材素材を前記したバンパ補強材などに部材化する際の、前記両端部の断面の潰し加工を模擬している。
(共通条件)
各実施例とも共通して、中空押出形材(素材)の製造条件は、先ず、表1に示す各7000系アルミニウム合金からなるビレット(丸棒鋳塊)に鋳造後した。このビレットを、各例とも同じく、500℃×10時間の均質化熱処理し、ついで押出開始温度440℃、押出機の出側にて、温度500℃から水冷(急冷)する直接熱間押出し、部材として略矩形の日形断面からなる中空押出形材(長尺材)を得た。ちなみに、この中空押出形材について、製造条件は同じで、同じ日形断面からなっていても、各実施例によってその寸法は若干異なる。また、表1の合金番号1、2のアルミニウム合金は本発明成分組成範囲内である。
前記熱間押出後、各実施例とも共通して、適当な長さに切断後、20日間の自然時効(室温時効)後に(この自然時効以外は人工的に調質することなく)、硝石炉への投入あるいは後述する鋼製の治具を押出形材に部分的に押し当てることで、各表に示す種々の加熱、保持温度(実体温度)、保持時間、冷却条件で、前記復元処理を行った。
この復元処理の終了後(室温までの急冷終了後)、各実施例とも共通して、各表に示す種々の時間(成形までの所要時間)経過後に、この復元処理以外は人工的に調質することなく、残留応力の発生を伴う前記各成形加工を行って部材化した。
前記中空押出形材の断面内を部分的に復元処理する場合、復元処理の加熱温度に応じて加熱した鋼製の冶具を前記押出形材の前記一方の側の復元処理部分だけに押し当て、この押し当てた部分を急速に所定時間加熱し、同じく冷却用の鋼製の冶具を前記一方の側の復元処理部分だけに押し当てて急冷することによって行った。押出形材の実体温度は、市販の接触式温度計を直接押出形材の復元処理部分に接触させて計った。
(実施例1)
実施例1として、復元処理による曲げ破断限界ひずみ量(%)の変化の調査結果を、表2と、図6、7とに示す。図6は表3を横軸の復元処理の形材実体温度(℃)と、縦軸の形材の0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、曲げ破断限界ひずみ量(%)とに、整理し直したグラフである。また、図7は表3を成形(曲げ試験)開始までの所要時間(min)と、縦軸の形材の0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、曲げ破断限界ひずみ量(%)とに、整理し直したグラフである。
この際、押出形材素材の0.2%耐力の経時変化として、前記熱間押出にて製造後20日間の自然時効後での復元処理直前(T1調質材)と、この復元処理における急冷後(復元処理材)との、押出形材素材の機械的な性質を後述する引張試験要領により測定した。
引張特性:
前記部材の押出方向に任意の位置から採取したJIS4号引張試験片を用い、JISZ2241に規定する金属材料試験方法に準じ、耐力を測定した。なお、これらの測定値は、各例とも3つの採取試験片の測定値の平均値とした。
曲げ破断限界ひずみは、幅25mm×長さ40mmの平板状素材を用い、先端曲げ半径の異なるV字状パンチ(先端角度60DEG)で押出方向に曲げ試験し、破断が生じなかったサンプルについては、その後さらに180度の折り曲げ加工を行い、破断時の曲げ先端部外側のひずみ量を調査した。
表1の合金番号1、2のアルミニウム合金を用いた、表2の各発明例の押出形材は、復元処理を前記した好ましい条件範囲内で行っている。この結果、各発明例は表2に示すとおり、T1調質時に220MPaの中強度材から、310MPaの高強度材まで、復元処理後の曲げ破断限界ひずみ量(%)が各々向上しており、前記復元処理の効果を確実に発揮させることができている。
これに対して、表2の各比較例の押出形材は、復元処理を前記好ましい条件から外れた範囲で行っている。比較例1、16、17は復元処理の実体温度が低すぎる。比較例8、15、19、30は復元処理終了後(室温までの冷却後)から成形開始までの所要時間がかかりすぎている(長すぎる)。この結果、各比較例は、表2に示すとおり、曲げ破断限界ひずみ量(%)は向上しているものの、その向上レベルは発明例よりは著しく低い。
また、この表2から破断限界ひずみ量(%)との関係で、復元処理を前記した好ましい条件範囲内で行うことの意義が裏付けられる。更に、図6、7の結果のうち、特に縦軸の曲げ破断限界ひずみ量(%)との関係から、復元処理における、押出形材の実体温度200〜500℃の範囲の加熱や、この復元処理の室温までの冷却終了後から100分以内の時間内に成形加工することの意義が裏付けられる。
さらには、好ましい条件範囲で復元処理した押出形材素材では、前記曲げ破断限界ひずみの向上だけでなく、表2の通り、引張変形時の破断伸びの増加や、0.2%耐力の低減も確認でき、中空形材の曲げ加工での破断限界向上や、耐力低減による形状凍結性の向上、残留応力の低減などの効果が期待できることがわかる。
(実施例2)
実施例2として、復元処理による、実際の形材の曲げ加工における、曲げ加工性の向上効果の調査結果を表3に、曲げ加工試験条件を図8に各々示す。
図8では、図の左上側に曲げ型と形材との曲げ加工(試験)の態様を平面視で示す。図の左下側に曲げ型と形材との曲げ加工(試験)の態様を断面で示す。形材の曲げ加工は、平面視で図示する通り、形材の右端側をクランプして固定した上で、曲げ型中心に対して回転変位(回転引き曲げ)し、形材の長手方向に円弧状に曲がる永久変形を与えた。図8の右上側には、曲げ加工する日型断面形材の形状(大きさ)を示す。また、図8の右下には、四角の枠内に、前記形材断面の曲げ加工時に、断面形状の変形防止のために、その日型断面の二つの閉空間内に各々挿入する芯金の形状を示す。
この曲げ加工に先立つ復元処理をした押出形材の処理範囲(領域)は以下の通りとした。
表3の処理する成形相当部位が「曲げ内外両側」で、かつ処理範囲が「変形部全域」の場合は、前記曲げ半径30mmに合わせて、曲げ中立軸の内側と外側との両方に相当する部分として、押出形材の曲げ変形相当部分の幅方向全域で、クランプ部から長手方向に80mmに亘る長さとした。
表3の処理する成形相当部位が図1の「曲げ内側のみ」で、かつ処理範囲が「変形部全域」の場合は、前記曲げ半径30mmに合わせて、曲げ中立軸の内側フランジに前記熱した鋼製の冶具を押し当てて、この部分の曲げ加工部に相当する長さ部分のみを復元処理した。
表3の処理する成形相当部位が図2の「曲げ外側のみ」で、かつ処理範囲が「変形部全域」の場合は、逆に曲げ外側フランジのみに前記熱した鋼製の冶具を押し当てて、ここの部分の曲げ加工部に相当する長さ部分のみを復元処理した。
表3の処理する成形相当部位が図3の「曲げ外側のみ」で、かつ処理範囲が「変形周縁のみ」の場合は、曲げ角度15DEG.の加工終了時に略直辺部となるクランプ部から10〜30mm部分(曲げ周縁部)の曲げ外側フランジのみに前記熱した鋼製の冶具を押し当てて、ここの部分の曲げ加工部に相当する長さ部分のみを復元処理した。
表3の各発明例の押出形材は、表1の合金番号1のアルミニウム合金を用い、復元処理を前記した好ましい条件範囲内で行っている。表3の破断判定の基準は、○は破断やネッキングが無いこと、△は破断には至っていないものの顕著なネッキングが発生していること、×は破断が生じたことを示している。また、しわ判定の基準は、発生したしわの深さによって「大」「中」「小」と区分けし、顕著な凹凸が見られない場合を「無」とした、4段階で評価している。
まず、曲げ内外両側で、かつ該変形部全域を復元処理した発明例34、35の場合、引張変形での破断伸びの増加効果により、一般的なT1調質材(比較例31〜33)に比べて、より曲げ角度が厳しい条件でも、破断が生じずに曲げ加工が可能になっている。同時に、曲げ内側フランジが低耐力化されることで、この部位に発生するしわ自体も小さくなっている。ただ、この発明例34、35の場合、曲げ内外両側を復元処理しているので、曲げ内側か、曲げ外側かのいずれか片方を復元処理する場合とは違い、前記図1、2で示したような、復元処理前の(元の)曲げ中立軸N0が、復元処理によって、曲げ中立軸N1へと移動することがない。この結果、破断が生じずに曲げ加工が可能な曲げ角度は、曲げ内側か、曲げ外側かのいずれか片方を、変形部全域で復元処理している、発明例36〜40に比べれば劣る。ただ、復元処理をしない比較例31〜33に比べれば格段に優れているので、この曲げ内外両側を復元処理する手法は、曲げ加工の際の破断としわの両方を抑制したい場合に有用である。
次に、曲げ内側フランジのみ復元処理した発明例36〜38の場合、破断限界となる曲げ角度は、発明例38のようにさすがに75度までは無理だが、発明例37のように60度までは可能という具合に、大幅に向上している。すなわち、一般的なT1調質材(比較例31〜33)に比べて、破断限界が著しく向上している。また、しわの発生状態についても、曲げ角度が大きく厳しい条件であるにもかかわらず、T1調質材と同等程度にとどめられている。したがって、この曲げ内側のみを復元処理する手法は、曲げ角度が大きい場合の曲げ加工の破断を抑制したい場合に特に有用である。
また、曲げ外側フランジのみ復元処理した発明例39〜41の場合、破断限界自体は、一般的なT1調質材(比較例31〜33)と同等レベルであるが、曲げ内側のしわの発生が大幅に低減されている。したがって、この曲げ外側のみを復元処理する手法は曲げ加工のしわの発生を抑制したい場合に特に有用である。
そして、発明例41は、他の発明例に比べて、変形周縁部のみという、非常に狭い範囲を復元処理を施しているが、同じ曲げ角度の比較例32と比べると、破断の程度が大きく改善されている。この発明例から、成形加工の際の変形周縁部など、最も破断が生じやすい部位のみ復元することで、曲げ加工性を向上できることが分かる。この効果は、破断限界の向上効果と、曲げ加工部周縁部の低耐力化に応じて変形が生じる領域が広くなることで破断が生じにくくなる効果との複合効果による。また、この発明例は、発明例36、37ほどの大きな破断限界向上効果はみられないものの、復元処理の装置自体も小さくて済み、コストも低減できるという点で好ましく、必要に応じて、復元処理の適用範囲を選定すればよい。
これらの事実から、復元処理を部分的に施す場合、成形加工の種類と目的とする効果との関係で、その処理する部位や範囲を制御することで、前記した破断とこれと相反するしわとの抑制を、その効果の程度を含めて制御あるいは選択することが可能であることが分かる。例えば、しわが問題になるような部材であれば曲げ外側を、破断が問題になる部材であれば、曲げ内側をそれぞれ復元処理することで望ましい効果が得られる。本発明の部分的な復元処理は、このように、破断としわのうち、部材や成形加工の大きな課題となる片方を、通常のT1調質材に比べて抑制し、部材や成形加工の課題とはならないもう一方を、通常のT1調質材同等程度にとどめる、などの制御あるいは選択ができる。すなわち、対象とする部材(製品)において、曲げ加工における破断あるいはこれと相反するしわのどちらが問題になるかによって、復元処理の適用位置を自由に制御あるいは選択できる。
(実施例3)
実施例3として、端部を復元処理した形材につき、両端部の潰し加工を模擬して、この端部を潰し加工した際の割れ性(破断性)の調査結果を表4、図9に示す。また、この潰し加工の、試験体を図10に、試験条件を図11に各々示す。
図10は潰し加工した試験体(押出形材)の日型矩形断面形状を示している。また、図11の上側は、試験体(押出形材)の端部断面の潰し加工を模式的に断面で示し、剛体で上下から挟持した形材(試験体)を矢印の通り、上下方向に圧力を加えて潰し加工している態様を示している。この図11の下側は、前記上側の図をより具体化した側面図であり、剛体上に置いた試験体(押出形材)の端部の日型矩形断面を、上側から剛体であるパンチで押しつぶしている。そして、試験体(押出形材)が、端部のみの部分的な潰し加工によって、この端部に連なる断面も、点線で示す元の断面から、図11の右側の前記端部に向かって(長手方向に)傾斜するように変形させている態様を示している。
図9は、表4を横軸の復元処理の形材の実体温度(材料到達温度と記載、℃)と、縦軸の形材の潰し加工率(%)とに、整理し直したグラフである。図9は、日型断面の潰れ具合を、端部断面図(上側)とウェブ板の曲げ外側表面破断状況(下側:破断部近傍の切り出しサンプル)でも示している。例えば、図の最左側(温度25℃)の黒丸でのプロット点はT1調質材(比較例42、43)の亀裂発生(破断発生)、これ以外の材料到達温度が200℃以下の黒丸の各点は、本発明範囲から外れた復元処理温度が低すぎる比較例44〜47の亀裂発生(破断発生)を示している。
この図9、表4から分かる通り、各比較例は、比較例48を除き、潰し加工率が小さい、断面変形が浅い段階から破断あるいはネッキングが生じている。比較例42、43は、押出後から曲げ加工までに長期間(20日)室温時効したT1調質材は復元処理をしていない。比較例44〜47は復元処理はしているものの、実体温度が低すぎ、好ましい条件から外れている。
これに対して、220℃〜400℃で復元処理した発明例49〜51は、潰し加工率が93%と大きくなり、断面変形が深くなった(平坦状に潰れた)段階でも、少なくとも外周リブには亀裂(破断)が発生せず、潰し加工できている。
これらの結果から、潰し加工における復元処理の実体温度(材料到達温度)は200℃以上とすることが望ましく、復元処理を前記した好ましい条件範囲内で行うことの、潰し加工性向上の意義が裏付けられる。ちなみに比較例48では、170℃で復元処理しても亀裂(破断)は発生していない結果が出ている。しかし、これと復元処理温度が近い160℃の比較例47でネッキングが発生しており、これを抑制する必要や、素材のバラツキによる安全性や再現性なども考慮し、また、前記曲げ加工の実施例1、2などの結果も考慮して、本発明では、復元処理における実体温度の下限を200℃以上と規定した。
なお、この潰し加工に先立って、予め復元処理をした押出形材の処理範囲(領域)は以下の通りとした。表4の処理する成形相当部位が「端部」で、かつ処理範囲が「変形部全域」の場合は、潰し加工部に相当する部分として、押出形材の潰し変形相当部分の幅方向全域で、長手方向150mmに亘る長さとした。表4の処理する成形相当部位が「端部」で、かつ処理範囲が「ウエブ面のみ」の場合は、端部から長手方向150mmに渡る範囲のウェブ板(高さ60mmの面)のみを復元処理した。
以上の実施例から、本発明における復元処理の各規定条件の、自然時効した後でも7000系アルミニウム合金押出形材素材の、部材への成形性自体を向上できる技術的な意義が裏付けられる。
本発明によれば、自然時効した後でも、高強度7000系アルミニウム合金部材の製造方法を提供できる。このため、本発明は、軽量化された高強度7000系アルミニウム合金からなる自動車用部材あるいは補強部材、更には航空機用などの構造部材に好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. 押出加工によって製造後に調質処理されることなく自然時効したのみの状態で、長手方向あるいは幅方向の一部分だけに予め復元処理を施した7000系アルミニウム合金押出形材を、前記復元処理部分あるいは前記復元処理部分とその周縁部分において成形加工を施すアルミニウム合金部材の製造方法であって、
    前記復元処理を、前記押出形材の実体温度で200〜500℃の範囲に加熱するとともに、この温度範囲に0.1秒以上20秒未満の短時間だけ保持された後に冷却する条件で行い、この復元処理の冷却終了後から100分以内の時間内に前記成形加工を行うことを特徴とする7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
  2. 前記成形加工が前記押出形材の長手方向を円周方向とする曲げ加工であり、
    前記押出形材の部分的な復元処理として、この曲げ加工における前記押出形材の円弧状の曲げ変形部の曲げ中立軸の内側と外側とに相当する部分同士か、または、この曲げ中立軸の内側と外側とに相当する部分と、この曲げ変形部の周縁とに相当する部分同士で、
    前記復元処理の条件に差を設ける請求項1に記載の7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
  3. 前記成形加工が前記押出形材の一部の断面形状を長手方向に変化させるプレス加工である請求項1に記載の7000系アルミニウム合金部材の製造方法。
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