JP2017177132A - 熱処理型アルミニウム合金材の接合方法 - Google Patents

熱処理型アルミニウム合金材の接合方法 Download PDF

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Abstract

【課題】接合時には低強度で、塑性変形によるかしめ接合が可能であり、かつ、前記接合後には構造部材としての高強度が確保できる、熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 T1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材の一部に、特定の条件にて復元処理を予め施し、室温まで冷却後短時間内に、前記復元処理を施した部分を、例えば図1〜6のように塑性変形させて他の部材とかしめ接合し、その後、前記熱処理型アルミニウム合金部材を人工時効処理する。
【選択図】図1

Description

本発明は熱処理型アルミニウム合金部材を塑性変形させて他の部材とかしめ接合する方法に関するものである。
2000系、6000系、7000系などの熱処理型アルミニウム合金は、比較的強度が高く、重量が軽いことから、代表的には自動車などの輸送機のパネル材やフレームなどの構造部材、バンパリィンホース、ドアビームなどのエネルギ吸収部材などへの適用が期待されている。
これら熱処理型アルミニウム合金部材には、前記用途に要求される強度や剛性を満たすべく、その強度を高くするために、時効硬化性を利用した人工時効処理(人工時効硬化処理)などの調質が施される。
ただ、これら熱処理型アルミニウム合金は、その優れた時効硬化性ゆえに、素材の圧延板あるいは押出形材として製造された後では、自然時効硬化(以下、自然時効あるいは室温時効とも言う)によって大きく硬化する。
特に7000系合金ではこの自然時効硬化が顕著であり、組成によっては、例えば、熱間押出直後は0.2%耐力で150MPa程度であった強度が、自然時効(室温時効)20日経過後には、0.2%耐力で240MPa程度まで硬化してしまうこともある。
このように、素材の強度があまり高くなると、プレス成形や曲げ加工などで、所定の前記用途の部材形状に成形加工する際に、破断や形状精度不良などが生じやすく、成形性が低下する。特に、素材耐力が高くなった場合には、降伏比が高くなることで、均一伸びが低下し、例えば、ヘミング加工により、板状部分を局部的に曲げ加工する際の破断限界の低下が顕著となる。
このように自然時効した素材は、曲げ加工、断面の潰し加工(プレス加工)、打抜き加工などの成形加工(塑性加工)の際に、成形性が極端に低下してしまう。そして、更に、自然時効が進展した場合、素材の均一伸びや局部伸びが低下し、部材への成形性や成形精度が更に低下する。
このような問題は、製造された素材に対して、別途に再加熱して溶体化処理(溶体化および焼入れ処理)を施した後でも同様で、このような調質を施した後に、前記成形されるまでの時間が経過するほど、自然時効が進展する。
このため、前記自然時効した素材の成形性の改善のために、従来から、自然時効した素材押出形材を熱処理して,前記耐力などの強度を低下させる、復元処理(回復処理)が、従来から、特許文献1などを代表として、その後も多数提案されている。
これら従来の復元処理は、その加熱温度の高さや保持時間の長さなどから、完全なO材処理になりやすい。このため、復元処理によって耐力を一旦低下させたあとで、調質処理を施しても、その人工時効処理によって向上させられる強度には大きな限界がある。
このため、耐力を一旦低下させたあとでも調質処理を施し、その人工時効処理によって強度を大きく向上できる、高強度7000系アルミニウム合金部材の特殊な復元処理が提案されている(特許文献2、3)。
この特殊な復元処理は、0.5℃/秒以上の加熱速度によって急熱して、実体温度で200〜500℃の範囲比較的低温で、0.1秒以上、20秒未満の超短時間保持し、保持後直ちに室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で急冷するものである。
特許文献2では、この復元処理によって、人工時効処理後の0.2%耐力を、その実施例ベースで、385〜485MPaとでき、この特殊な復元処理以外は人工的に調質することなく、構造部材への曲げ加工、断面の潰し加工、打抜き加工などの塑性加工を伴う成形加工によって付加される残留応力も小さくできる、とされている。
また、特許文献3では、前記塑性加工を伴う構造部材への成形加工前の復元処理を行うにあたり、前記特殊な復元処理条件とすれば、より低コストで、加工限界向上効果が見込めるとされている。
特開平7−305151号公報 特許第5671422号公報 特開2014−147958号公報
前記した従来の復元処理がこれまで想定していなかった新たな課題として、構造部材に成形された熱処理型アルミニウム合金部材の、他の部材(部品)との接合の課題がある。
構造部材に成形された熱処理型アルミニウム合金部材は、自動車車体への組み付け時に、必然的に他の部材(部品)との接合が行われる。
この接合には、溶融溶接や摩擦撹拌接合などとともに、接合時の熱変形や材質への熱影響を伴わない、熱処理型アルミニウム合金部材の塑性変形によるかしめ接合によって、行われることが多い。
このような、熱処理型アルミニウム合金部材の塑性変形によるかしめ接合としては、接合の効率や簡便さとともに、接合強度の確保が重要な課題である。
具体的なかしめ接合としては、セルフピアシングリベット(SPR)などの機械的接合や、TOX接合「TOX:トックスプレッソテクニック(TOX PRESSOTECHNIK)社の登録商標、ポンチとダイスで加圧して板同士をかしめて接合する技術、以下、単にTOX接合と記載する」、ヘム加工あるいは拡管(円管、角管)成形などが例示される。
前記かしめ接合は、一般的に、部品を構成する板状部を局部的に曲げ加工することで行われる。この際、曲げ変形する部材の延性が低い場合に破断が生じて問題になる。
また、部材の強度が高すぎれば、塑性変形時の圧力不足により、接合のための目標形状に、塑性変形させることができず、かしめ接合による所定の接合強度が得られないという問題が生じる。
この結果、これらの塑性変形によるかしめを用いた、従来の接合では、伸びの大きな低強度の、熱処理型アルミニウム合金部材にしか適用できない限界があった。
しかし、低強度部材では、構造部材としての強度や接合部の強度不足が問題になる。そして、接合強度が低くなる場合には、接合点数を増やすなどの新たな対策が必要になり、結果的にコストアップになることが多い。
また、構造部材としての強度が足りない場合、素材の厚肉化が必要になり、重量や素材コストの増加が生じ、熱処理型アルミニウム合金部材を用いる根拠が無くなる。更に、厚肉化に伴う変形強度の増加により、塑性変形によるかしめを用いた接合(かしめ接合)自体ができなくなるなどの問題も生じる。
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、接合時には低強度で塑性変形によるかしめ接合が可能であり、かつ、前記接合後には構造部材としての高強度が確保できる、熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法の要旨は、T1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材の一部を塑性形させて、他の部材とかしめ接合する方法であって、前記熱処理型アルミニウム合金部材の一部に、200℃〜500℃の実体温度範囲に0.5℃/秒以上の加熱速度で部分的に加熱した後、前記温度範囲にて0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持した後に、直ちに室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する条件にて復元処理を予め施し、前記室温まで冷却後100分以内に、前記復元処理を施した部分を塑性変形させて他の部材とかしめ接合し、その後、前記熱処理型アルミニウム合金部材を人工時効処理することである。
本発明は、前記した低温短時間の特殊な復元処理を、熱処理型アルミニウム合金部材の接合部に予め適用することを特徴とする。
これによって、前記熱処理型アルミニウム合金部材の前記塑性変形させる部分への、素材段階での経時による自然時効硬化の影響をキャンセルして、低強度化、高延性化、さらには局部曲げ性能を向上させて、塑性変形しやすくする。
また、かしめ接合に必要な塑性変形に要する変形荷重も低くでき、塑性変形部の破断を抑制することができる。また、変形荷重の低下によって、かしめ接合装置の小型化や、かしめ接合する相手方の部材の変形防止なども可能となる効果もある。
この結果、他の部材との、前記復元処理を施した部分を塑性変形させてのかしめ接合が、接合強度の確保も含めて可能とし、構造部材としての高強度も確保できる。
本発明の一実施態様として、他の部材を熱処理型アルミニウム合金部材に圧入する態様を示す断面図である。 本発明の一実施態様として、熱処理型アルミニウム合金部材を、他の部材の孔に挿入した上で曲げ変形させる態様を示す断面図である。 本発明の一実施態様として、熱処理型アルミニウム合金部材を、他の板材を挟み込むようにヘム曲げさせる態様を示す断面図である。 本発明の一実施態様として、熱処理型アルミニウム合金部材を折り曲げた上で、他の部材の穴内に圧入する態様を示す断面図である。 本発明の一実施態様として、熱処理型アルミニウム合金部材を、他の板材と重ね合わせた上で、SPRにて接合する態様を示す断面図である。 本発明の一実施態様として、熱処理型アルミニウム合金部材を、他の板材と重ね合わせた上で、TOXにて接合する態様を示す断面図である。
以下に、本発明の実施の形態につき、順に要件ごとに具体的に説明する。
熱処理型アルミニウム合金部材:
かしめ接合に用いる「T1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材」とは、通常の人工時効処理が施されていない、焼入れや焼もどしなどの熱処理によって所定の強度を得る、熱処理型アルミニウム合金部材を言う。すなわち、熱処理型アルミニウム合金材(素材)の状態や、この熱処理型アルミニウム合金材(素材)を所望の部材形状に成形して熱処理型アルミニウム合金部材とした状態のものを言い、通常の人工時効処理を施していない状態のアルミニウム合金部材を言う。言い換えると、本発明に係る復元処理を施されるまで、通常の人工時効処理を未だ施していない、熱処理型アルミニウム合金部材を言う。
これらT1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材に対して、本発明に係る復元処理を施すことによって始めて、この復元処理の、塑性変形によるかしめ接合への効果が得られる。
これに対して、人工時効処理したT5〜T10の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材では、本発明に係る復元処理を施しても、その効果は発揮されない。
本発明の復元処理は、後述する復元処理条件の通り、従来の復元処理と称する軟質化のためのO材処理とは異なり、一旦調質処理された熱処理型アルミニウム合金部材の組織をキャンセルする(キャンセルできる)ものではないからである。
熱処理型アルミニウム合金材:
熱処理型アルミニウム合金材とは、前記用途に応じた部材形状に、曲げ加工、プレス加工、打抜き加工などによって、成形される前の素材を言う。
具体的には、常法の圧延や熱間押出などにより製造された、種々の板厚の熱間圧延板や冷間圧延板、ソリッドや中空などの種々の断面形状(円形、矩形、円管、角管)を有する押出形材などが例示される。
T1〜T4の調質:
T1〜T4の調質とは、より具体的には以下の意味である。
T1とは、前記熱処理型アルミニウム合金材(素材)を製造後に、この製造のままで自然時効させた調質記号である。
T2とは、前記熱処理型アルミニウム合金材(素材)を熱間加工(押出)にて製造後に、更に冷間加工を行い、その後自然時効させた調質記号である。
T3とは、前記熱処理型アルミニウム合金材(素材)を製造後に、溶体化・焼き入れ処理、予備時効処理などの公知の調質を適宜行い、更に冷間加工を行い、その後自然時効させた調質記号である。
T4とは、前記熱処理型アルミニウム合金材(素材)を製造後に、溶体化・焼き入れ処理、予備時効処理などの公知の調質を適宜行い、その後自然時効させた調質記号である。
これに対して、T5〜T10の調質は、共通して、前記調質後に人工時効処理したものを言う。
熱処理型アルミニウム合金:
使用するアルミニウム合金の種類、組成は、熱処理型アルミニウム合金部材の、自動車などの輸送機のパネル材やフレームなどの構造部材、バンパリィンホース、ドアビームなどのエネルギ吸収部材などの用途の要求特性に応じて選択される。
熱処理型アルミニウム合金部材は、人工時効処理後の部材強度を0.2%耐力で300MPa以上、好ましくは400MPa以上とすることが好ましい。
熱処理型アルミニウム合金の中でも、高強度からすれば、7000系アルミニウム合金が好ましく、中でも、JIS規格およびAA規格を含むAl−Zn−Mg系組成あるいはAl−Zn−Mg-Cu系組成が好ましい。
このうち、特に、好ましい7000系アルミニウム合金組成は,質量%で,Zn:5.0〜8.0%、Mg:0.3〜2.0%、Cu:0.05〜0.5%を含有し、さらに、Mn:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%の一種または二種以上を含有し、残部が不可避的不純物およびアルミニウムからなる組成である。
低合金で高成形性な合金としては、6000系アルミニウム合金が好ましい。この組成としては、JIS規格およびAA規格を含む組成として、質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成が例示される。
また、溶体化処理及び焼入れを行う工程後に自然時効でも十分な強度が得られる合金として、2000系アルミニウム合金も適用できる。この組成としては、JIS規格およびAA規格を含む組成として、質量%で、Cu:1.0〜10%、Mg:2.5%以下、Mn:1.5%以下、Si:1.5%以下、Fe:1.5%以下、Zn:1.0%以下、Cr:0.30%以下、Zr:0.30%以下、Ti:0.30%以下、Ni:2.5%以下、V:0.30%以下を含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成が例示される。
復元処理:
本発明では、これらT1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材の一部を塑性形させて、他の部材とかしめ接合する際に、前記熱処理型アルミニウム合金部材の一部に、特定の条件での復元処理を予め施し、その上で、この復元処理を施した部分を塑性変形させて他の部材とかしめ接合することを特徴とする。
このような、かしめ接合の後で、前記熱処理型アルミニウム合金部材を、前記用途に要求される強度とするために、改めて人工時効処理する。
この復元処理によって、前記熱処理型アルミニウム合金部材の前記塑性変形させる部分への、素材段階での経時による自然時効硬化の影響をキャンセルして、低強度化、高延性化、さらには局部曲げ性能を向上させて、塑性変形しやすくする。
これによって、かしめ接合に必要な塑性変形に要する変形荷重も低くでき、塑性変形部の破断を抑制することができる。また、変形荷重の低下によって、かしめ接合装置の小型化や、かしめ接合する相手方の部材の変形防止なども可能となる効果もある。
この結果、他の部材との、前記復元処理を施した部分を塑性変形させてのかしめ接合が、接合強度の確保も含めて可能とし、構造部材としての高強度も確保できる。
また、特に、熱処理型アルミニウム合金部材として、押出形材に施されることが多い曲げ変形の場合に、押出形材の曲げ変形部分のみに、部分的に前記復元処理を予め施すことによって、復元処理部分のみの部分的な低耐力化が図れる。
このため、塑性変形としての曲げ変形の(破断)限界曲げ半径を低減でき、より小さな曲げ半径(小R)によって曲げ変形することが可能になる。
同時に、復元処理による耐力低減効果により、スプリングバック低減による形状精度の向上や、7000系アルミニウム合金部材などの高強度材に特有な、残留応力を低減でき、これにより耐SCC(応力腐食割れ)性の向上を図ることもできる。
なお、部材の変形抵抗の低減や、曲げ破断を防止するための別の汎用手段としては、温間成形を適用する手法も公知である。しかし、十分な延性と変形強度の低下を見込む条件での温間成形では、高温化や高温保持の長時間化により、どうしても材質が変化してしまうため、人工時効処理しても、所定の強度が得られない可能性が高い。
さらには、温間成形後の熱収縮などの問題により、接合部に加わる残留応力が大きくなり、応力腐食割れ(SCC)や熱変形などの問題が生じる可能性もある。
また、加熱−冷却に伴う加工時間の増加なども含めて、コストアップが大きく、特に厚肉材では加熱に時間がかかることも致命的な問題である。
復元処理条件:
前記した復元処理の効果を得るためには、復元処理を以下の特定の条件とする必要がある。
例えば、構造部材用途からすると、人工時効処理前や後の熱処理型アルミニウム合金部材の0.2%耐力は300MPa以上の高い強度であることが好ましい。このような熱処理型アルミニウム合金部材に対して、前記した復元処理の効果を得るためには、復元処理を施した部分の0.2%耐力の目安として、50〜120MPaとすることが好ましい。
このための復元処理条件は、前記熱処理型アルミニウム合金部材の一部を、200℃〜500℃の実体温度範囲に0.5℃/秒以上の加熱速度で部分的に加熱した後、前記温度範囲にて0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持した後に、直ちに室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する条件にて復元処理を予め施すこととする。
ちなみに、本発明では、前記実体温度が500℃近傍の再溶体化領域であっても、前記短時間での保持や保持後の冷却などの条件を全て含めて、その目的から「復元処理」と称している。
0.5℃/秒以上の加熱速度による急速加熱(急熱)によって、熱処理型アルミニウム合金部材の実体温度を200℃以上、500℃以下まで加熱し、この温度範囲に0.1秒以上、20秒未満のごく短時間だけ保持する。そして、この保持後に直ちに、室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で、強制的に急冷(空冷,水冷,ミスト冷却)する。
前記実体温度が200℃未満、保持時間が0.1秒未満では、勿論、部材の合金組成や厚みにもよるが、復元処理が不十分となって、前記自然時効硬化の影響をキャンセルして、低強度化、高延性化、さらには局部曲げ性能を向上させて、塑性変形しやすくする効果がなくなる。
前記実体温度が500℃を超えたり、保持時間が20秒以上に長すぎると、また、加熱速度が0.5℃/秒未満と遅いか、室温までの冷却速度が0.5℃/秒未満と遅くなって、保持時間が長くなり過ぎても、完全なO材処理(焼きなまし処理)となるなど、人工時効処理後の強度が、元の部の強度以上の強度、例えば、前記7000系では、0.2%耐力が300MPa以上に向上しない。また、かしめ接合の接合強度も低下する。
例えば、保持時間が20秒以上を超えて長すぎると、温度条件にもよるが、この復元処理によって、後で行う人工時効処理時に析出する(ベークハード性に寄与する)微小析出物の再固溶や、逆に析出が進んでしまう。
復元処理における加熱処理時間は、熱処理型アルミニウム合金部材の実体の温度が200℃以上、500℃以下の温度範囲にあるのが瞬間的な短時間であっても、素材の実体の温度がこの温度域にあれば効果がある。
例えば、加熱体を直接、熱処理型アルミニウム合金部材に接触させて直ちに離するような、瞬間的な保持(時間)の目安である0.1秒程度であっても、実体の温度がこの温度域にあれば効果がある。
前記した通り、前記実体温度に保持後、直ちに、室温まで急冷するが、ここで言う室温とは、数℃、0℃あるいは0℃以下などの、いわゆる18〜25℃程度の室温以下の温度(への冷却)も含みうる。
復元処理の適用部分:
これらの復元処理する領域(部分)の広さや大きさは、塑性変形させて、かしめ接合する領域に対応させることで決まる。
本発明では、熱処理型アルミニウム合金部材の塑性変形をさせてかしめ接合する領域(部分)や、塑性変形をさせてかしめ接合する領域(部分)の周縁部を含む領域(部分)の、全部または一部について、部材の長手方向あるいは幅方向の一部分、あるいは端部や側端部だけに、前記条件の復元処理を部分的に施す。
従来の復元処理は、熱処理型アルミニウム合金部材の全体に亘って、一律あるいは均一に復元処理を施す。これに対して、本発明は、これら従来の復元処理やO材処理などの調質処理とは異なり、塑性変形をさせてかしめ接合する領域以外の、他の部材の領域(部分)は、復元処理自体を施さずに、前記T1〜T4の調質したままの組織として残すことができる。
また、このような部材の部分的な復元処理によって、部材がたとえ長尺あるいは広幅であっても、既存の比較的小型の設備や冶具のみを用いて、操作が簡便でしかも安定した熱処理が可能となる。
復元処理手段:
本発明のように、熱処理型アルミニウム合金部材の、前記一部分だけに前記条件の復元処理を施すためには、この復元処理を、通常の熱処理型アルミニウム合金部材の熱処理に用いる加熱炉で行うことは無理である。通常の部材の熱処理に用いる加熱炉は、部材全体に対して均一に熱処理することを目的としており、部材の部分的な加熱には不適である。
したがって、前記復元処理を、部材への部分的に適用するためには、所定の温度に熱した冶具を、部材の長手方向あるいは幅方向の一部分だけに押し当て、この押し当てた部分を急速に加熱することによって行うことが好ましい。
このような冶具は、金属工具あるいはIHヒータが好適であって、これらの冶具を、少なくとも片側から押出形材(素材)に押し当て、前記した強制的な急冷手段と組み合わせることで、押出形材の部分的にのみ、かつ前記した温度、短時間の最適条件で、かつ、押出形材への復元処理の前記した種々の部分的な適用場所に応じて、復元処理することができる。
なお、このような高温の冶具を素材に押し当てる方法は、前記したアルミニウム合金の薄板では熱変形が問題となるが、厚肉の形材ゆえに剛性が比較的高い押出形材では、断面外側(片側)からの加熱でも、熱変形は殆ど問題とならない
かしめ接合までの時間:
前記復元処理を施した熱処理型アルミニウム合金部材は、前記室温まで冷却後に、100分以内の短時間内に、前記復元処理を施した部分を塑性変形させて他の部材とかしめ接合する。
前記復元処理の効果を発揮させるためには、前記復元処理の冷却終了後から100分以内の短時間内に、塑性変形を伴うかしめ接合を開始することが必要である。
前記復元処理の冷却終了後から成形加工の開始が、100分を超えた場合、特に高合金組成の7000系や2000系のアルミニウム合金では、自然時効が進んで、前記復元処理の効果が薄れてしまう。
高合金組成の7000系や2000系のアルミニウム合金の自然時効(強度増加)は短時間で進み、自然時効の初期の段階で、時効程度(強度増加)が大きく進む。このため、前記復元処理しても、前記復元処理の急冷直後から、塑性変形を伴うかしめ接合成形加工開始までの時間が長くなった場合、自然時効が進みすぎる。
この目安としては、勿論、熱処理型アルミニウム合金部材の組成や製造条件、あるいは前記した本発明の復元処理条件にもよるが、これらを押しなべて決定すると、前記復元処理の急冷直後から、成形加工を開始するまでの(所要)時間を100分以内とする。
勿論、規定する100分という経過時間は、合金量や組成や押出加工条件などによっても異なる自然時効硬化量増加の明確な臨界的境界点を示すものではない。しかし、前記した本発明の復元処理条件との関係において、自然時効によって本発明の復元処理の効果が薄れる、汎用的で再現性の良い目安となりうる。
かしめ接合:
塑性変形を伴うかしめ接合では、接合に際して塑性変形した部位が、経時変化によって再度、元の形状に戻るような塑性変形が生じやすく、このような経時変化が生じた際には、かしめ接合部の抜けが生じやすく、これが接合部強度を低下させるという、独特の課題がある。
これに対して、本発明の接合方法の場合、かしめ接合後に人工時効処理することで、部材強度を大幅に向上でき、この強度向上によって、前記経時変化による塑性変形に対する変形強度(変形抵抗)が大幅に増加することで、かしめ接合部の抜けが生じにくく、接合強度の向上が可能である点が大きな利点である。
かしめ接合の態様:
このような塑性変形を伴う接合方法としては、図1から図6に例示する、圧入や拡管など自身の拡管接合を伴うかしめ接合や、ヘム加工,SPR,TOXあるいは拡管フランジによる接合など自身の曲げ変形を伴うかしめ接合が例示される。
図1〜6において、Cとして円形に囲んだ領域が、かしめ接合領域である。
本発明は、これらかしめ接合のために塑性変形する熱処理型アルミニウム合金部材に対して、予め熱処理後に冷却する復元処理を施すことで、部材の低強度化、高延性化を図り、かしめ接合時の破断防止と変形強度低下を同時に達成する。
このため、かしめ接合の際の、破断防止や付加する圧力低減のための高温化は不要で、塑性変形(塑性加工)を冷間で行うことができる。また、かしめ接合後の接合部については、人工時効処理による部材の強度向上に伴い、接合強度の向上効果も見込める。
更に、かしめ接合のための塑性変形(塑性加工)を冷間で行うので、これに伴うコストアップは無く、潤滑なども通常の冷間成形と同様に実施可能である利点も大きい。
拡管変形:
図1に、熱処理型アルミニウム合金部材1自身の端部1aにおける拡管変形を伴う、かしめ接合を示す。
図1では、熱処理型アルミニウム合金部材1は、断面が円形あるいは矩形の押出中空形材(円管、角管)であり、その先端部(頭部)に圧入用のテーパ部2aを設けた円筒あるいは角筒状の他の部材2を、図の上部から端部1a内に挿入するような、圧入構造を示している。
この場合は、他の部材2の圧入(挿入)に先立ち、押出中空形材の端部1aの斜線部で示す拡管変形を伴う領域に、部分的に、予め、前記した条件にて復元処理を施す。
この復元処理後に、端部1aをテーパ部2aに沿って、外方に向けて拡管変形させながら、他の部材2を端部1aに順次圧入(挿入)して、端部1aを他の部材2のテーパ部2aやその上部の筒部にかしめ接合していく。
このような復元処理によって、前記圧入(挿入)の際の必要圧力の低下が可能である。また、拡管変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による接合強度の向上が期待できる。
曲げ変形1:
図2に、熱処理型アルミニウム合金部材1自身の端部1aにおける拡管と曲げの変形を伴う、かしめ接合を示す。
図2では、熱処理型アルミニウム合金部材1は、前記図1と同様、断面が円形あるいは矩形の押出中空形材(円管、角管)であり、板状の他の部材3に設けた、周縁にフランジが付いた孔3aに、図の下部から、押出中空形材の先端部1aを、突出させて挿入する構造を示している。
この場合は、孔3aへの挿入に先立ち、押出中空形材の先端部1aの斜線部で示す、拡管と曲げの変形(塑性変形)を伴う領域に、部分的に、予め前記した条件にて復元処理を施す。
この復元処理後に、先端部1aを外方に向けて拡管および曲げ変形させて、先端部1aを他の部材3の板状の平坦部や孔3aにかしめ接合する。
この場合でも、先端部1aを外方に向けて拡管および曲げ変形させる際の、必要圧力の低下が可能である。また、拡管および曲げ変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による接合強度の向上も期待できる。
曲げ変形2(ヘム加工):
図3に、熱処理型アルミニウム合金部材4自身の端部4aにおける曲げの変形を伴う、かしめ接合を示す。
図3では、熱処理型アルミニウム合金部材4は、圧延板あるいはこれを成形したパネル材であり、同じく圧延板あるいはこれを成形したパネル材である他の部材5の端部5aに、端部4aを、180度折り曲げて、他の部材5の端部5aを挟み込んでかしめる、ヘム加工の態様を示している。
この場合は、前記折り曲げに先立ち、部材4の先端部4aの斜線部で示す、折り曲げの変形(塑性変形)を伴う領域に、部分的に、予め前記した条件にて復元処理を施す。
この復元処理後に、端部4aを180度折り曲げて、他の部材5の端部5aを挟み込んでかしめ接合する。
この場合でも、先端部4aを前記曲げ変形させる際の、必要圧力の低下が可能である。また、曲げ変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による接合強度も期待できる。
曲げ変形3(クリップ加工):
図4に、熱処理型アルミニウム合金部材4自身の端部4aにおける曲げの変形を伴う、かしめ接合を示す。
図4では、熱処理型アルミニウム合金部材4は、前記図3と同じく、圧延板あるいはこれを成形したパネル材であり、任意の形状からなる他の部材10に設けた穴10a、10b内に、端部4aを、狭い穴10aに挿入できるような、90度以上の任意の角度で弾性を保持した状態で折り曲げて、穴10a、次いで10b内に、順次挿入していく。
そして、穴10aよりも広い穴10b内で、折り曲げた端部4aをスプリングバックさせて、穴10bの内壁面に当接させて、かしめ接合する態様を示している。
この場合は、前記折り曲げに先立ち、部材4の先端部4aの斜線部で示す、折り曲げの変形(塑性変形)を伴う領域に、部分的に、予め前記した条件にて復元処理を施す。
この復元処理後に、端部4aを折り曲げて、他の部材10の穴10a、次いで10b内に、順次挿入していく。
この場合でも、先端部4aを前記曲げ変形させる際の、必要圧力の低下が可能である。また、曲げ変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による接合強度の向上も期待できる。
SPR接合:
図5では、熱処理型アルミニウム合金部材6は、前記図3、4と同じく、圧延板あるいはこれを成形したパネル材であり、同じく圧延板あるいはこれを成形したパネル材である他の部材7と上下に重ね合わせる(上側が他の部材7)。
その上で、互いの接合部6a、7a同士を、図の上部からの、SPR(セルフピアシングリベット)8の圧入によって、図の下部に向かって膨らむように塑性変形させてかしめる接合の態様を示している。
この場合は、前記折り曲げに先立ち、部材6の接合部6aの斜線部で示す、下部に膨らむ塑性変形を伴う領域に、部分的に、予め復元処理を施す。
この復元処理後に、前記SPR8の圧入により、互いの接合部6a、7a同士を塑性変形させてかしめ接合する。この場合の塑性変形も、曲げ変形あるいは拡管変形とも言える。
この場合でも、接合部6aを前記塑性変形させる際の、前記SPR8の必要圧力の低下が可能である。また、塑性変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による、前記変形強度(接合強度)の向上という効果も期待できる。
TOX接合:
図6では、熱処理型アルミニウム合金部材6は、前記図5と同じく、圧延板あるいはこれを成形したパネル材であり、同じく圧延板あるいはこれを成形したパネル材である他の部材7と上下に重ね合わせる(下側が他の部材7)。
その上で、互いの接合部6a、7a同士を、図の上部からのポンチ9と、図の下部からの図示しないダイスとで加圧して接合するTOX接合によって、図の下部に向かって膨らむように塑性変形させてかしめる接合の態様を示している。
この場合は、前記折り曲げに先立ち、部材6の接合部6aの斜線部で示す、折り曲げの変形を伴う領域に、部分的に、予め復元処理を施す。
この復元処理後に、前記ポンチ9の圧入により、互いの接合部6a、7a同士を塑性変形させてかしめ接合する。この場合の塑性変形も、曲げ変形あるいは拡管変形とも言える。
この場合でも、接合部6aを前記塑性変形させる際の、前記ポンチ9の必要圧力の低下が可能である。また、塑性変形させたかしめ接合部の、人工時効処理による、前記変形強度(接合強度)の向上という効果も期待できる。
他の部材:
前記図1、2、3、4では、他の部材が、塑性変形を伴わずに、熱処理型アルミニウム合金部材とかしめ接合されている。
このように、熱処理型アルミニウム合金部材の接合対象となる他の部材が、塑性変形を伴わない接合の場合、他の部材には復元処理を行わず、復元処理を施した熱処理型アルミニウム合金部材のみを塑性変形させることで、熱処理型アルミニウム合金部材と、接合対象となる他の部材との大きな強度差を設けることができる。
このため、他の部材の高強度を保持することができ、かしめ接合時に、他の部材の塑性変形を抑制し、その寸法や形状制度を保持することが可能あるいは容易になる。
熱処理型アルミニウム合金部材と接合対象となる他の部材が、同一あるいは同種の熱処理型アルミニウム合金で構成されていれば、他の部材の高強度を保持でき、かしめ接合時に、他の部材の塑性変形を抑制でき、その寸法や形状制度を保持できる利点が大きい。
また、この場合、熱処理型アルミニウム合金部材と、接合対象となる他の部材との、最適な人工時効処理条件が同じあるいは類似であるため、人工時効処理後に、接合された部材構造として、強度などの安定した性能を確保できる。
更に、熱処理型アルミニウム合金部材と、接合対象となる他の部材とが、同一あるいは同種の熱処理型アルミニウム合金で構成されていれば、人工時効処理時の線膨張率が同じあるいは類似であるために、この人工時効処理時に、部材に熱変形が生じにくい利点もあげられる。
人工時効処理:
以上のかしめ接合後に、接合した熱処理型アルミニウム合金部材を人工時効処理する。
この際、接合対象となる他の部材とが、同一あるいは同種の熱処理型アルミニウム合金で構成されていれば、最適な人工時効処理条件が同じあるいは類似であるため、人工時効処理後に、接合された部材構造として、強度などの安定した性能を確保できる。
前記した通り、復元処理の効果を発揮するためには、7000系合金部材を例にとると、復元処理を施した部分の0.2%耐力は50〜120MPaとすることが好ましく、構造材用途を考慮すると、人工時効処理した後の、かしめ接合部(塑性変形部)を含む、7000系合金部材の0.2%耐力を300MPa以上にすることが好ましい。
これを満たすための、この人工時効処理は、一般的な人工時効硬化条件(T6、T7)から、その組成や前記復元処理条件、あるいはかしめ接合条件に応じて、適宜選択する。
人工時効処理条件を例示すると、1段の時効処理であれば、100〜200℃での時効処理を5〜36時間(過時効領域を含む)行う。また、2段の工程においては、1段目の熱処理温度が70〜100℃の範囲で2時間以上、2段目の熱処理温度が100〜200℃の範囲で5時間以上の範囲(過時効領域を含む)から選択する。
もしも、前記かしめ接合を施した部材に、残留応力に起因する応力腐食割れ(SCC)が懸念される場合には、前記かしめ接合後、前記人工時効処理を施す前に、一旦、400〜450℃の実体温度に加熱すれば、残留応力が開放されて、SCCの発生が生じにくくなる。
ちなみに、この熱処理は、前記実体温度での保持時間を必要とせず,部材温度がこの温度領域に到達していれば、保持が瞬間的(0.1秒程度)となっても、充分な残留応力開放効果が得られる。
この点で、熱処理温度が400℃未満であれば、保持時間が長くなっても、残留応力が十分に開放されず、満足なSCC抑制効果が得られない。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではない。例えば、素材として、押出形材だけでなく、前記各条件や下記実施例条件を、押出から圧延に置き換えれば、圧延板材へ適用することも可能であり、本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す7003相当の各7000系アルミニウム合金からなる円形断面の押出中空形材(円管)を、熱間押出加工終了後に水冷してT4調質部材とした。
このT4調質部材を、表2に示す条件での復元処理を行って、前記図2に示すアルミニウム合金部材1として用い、相手方の部材(他の部材)である鋼板3の孔3aに押出中空形材の先端部1aを挿入した後、曲げ変形させてかしめ接合した。そして、このかしめ接合の際の変形荷重(kN)と、破断の有無を目視で調査した。
その後、アルミニウム合金部材1と鋼板3ともども、人工時効処理を行い、アルミニウム合金部材1の0.2%耐力と、接合部の接合強度とを測定した。
これらの結果を表2に示す。
ここで、表1中の各元素の含有量の表示において、各元素における数値欄を「−」としている表示は、その含有量が検出限界以下であることを示す。
より具体的に、各例とも共通して、先ず、表1に示す各7000系アルミニウム合金からなるビレット(丸棒鋳塊)に鋳造した。このビレットを、各例とも同じく、500℃×10時間の均質化熱処理し、ついで押出開始温度440℃、押出機の出側にて、温度500℃から水冷(急冷)する直接熱間押出し、溶体化・焼き入れ処理を、この押出工程のオンラインにて行って、前記円形断面で、円管の外径はφ90mm、肉厚は2.5mmの押出中空形材(円管)を、前記T4調質部材として得た。
このT4調質部材を適当な長さに切断後、20日間の自然時効(室温時効)後に(この自然時効以外は人工的に調質することなく)、鋼製の加熱治具を、部材の曲げ変形させてかしめ接合させる先端部分に、部分的に押し当てることで、表2に示す加熱速度、保持温度(実体温度)、保持時間、室温までの冷却条件で、前記復元処理を行った。
この復元処理の終了後(室温までの急冷終了後)、表2に示す種々の時間(接合所要時間)経過後に、この復元処理以外は人工的に調質することなく、各例の7000系アルミニウム合金押出中空形材を、前記図2に示すアルミニウム合金部材1として、平板状の鋼板3の孔3aにかしめ接合した。
より具体的には、図2の平板状の鋼板3の孔3aに挿入した押出中空形材の先端部1aを、金型に対して10mm突き出すように配置した後、円錐台型工具および平板工具を用いて2工程で、復元処理した先端部分1aを室温にて(冷間にて)曲げ変形させて、拡管かしめ接合した。
なお、復元処理していない部材例も、部材製造後からかしめ接合までの時間を、復元処理した発明例に合わせてかしめ接合した。
そして、このかしめ接合した両方の部材ごと、170℃×10hrの条件で人工時効処理を行った。
前記復元処理の際には、復元処理の加熱温度に応じて加熱した前記鋼製の冶具を、T4調質部材1の先端部分1aだけに押し当て、この押し当てた部分を急速に所定時間加熱し、同じく冷却用の鋼製の冶具を、前記先端部分1aの復元処理部分だけに押し当てて急冷することによって行った。押出形材の実体温度は、市販の接触式温度計を直接押出形材の復元処理部分に接触させて計った。
熱処理型アルミニウム合金部材1としての、T4調質部材、復元処理材、かしめ接合後の人工時効処理後の部材から採取した試験片の、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)を引張試験により各々測定した。ここで、前記復元処理材の引張試験は、前記復元処理後の室温まで冷却後100分以内に行った。
前記引張試験は、前記部材の押出方向に任意の位置から採取したJIS5号引張試験片を用い、JISZ2241(1980)に規定する金属材料試験方法に準じ、前記耐力等を測定した。これらの各々の測定値は、各例とも3つの採取試験片の測定値の平均値とした。
更に、かしめ接合部として、アルミニウム合金部材1の曲げ変形させた先端部分1aと本体との角部(コーナー部)の破断の有無を目視で評価した。評価の基準は、破断(割れ)やしわが無いものを合格として〇と評価した。また、しわが発生しているが、微小でも破断が無いものを、変形条件を緩和すれば使用可能な合格として△と評価した。
また、微小でも破断(割れ)が生じている場合は、変形条件を緩和しても使用不可である不合格として×と評価した。この破断が生じた例は、前記人工時効処理後の部材の0.2%耐力(MPa)の測定は、意味が無いので、しなかった。
そして、かしめ接合部に破断が生じなかったものについては、かしめ接合したアルミ管端部を固定した上で、アルミニウム合金部材1に100トンの油圧プレスにより引き抜き力を加えることで、プレスに備えたロードセルを用いて引き抜き加重を測定し、これを接合強度(kN)とした。
なお、前記かしめ接合の際の曲げ変形の変形荷重(kN)も、前記かしめ接合の際に、ロードセルを用いて測定した。
これらの結果も表2に示す。
表1の合金番号1、2の7000系アルミニウム合金を用いた各発明例は、表2の通り、復元処理を、0.5℃/秒以上の加熱速度、200℃〜500℃の実体温度範囲にて0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持、その後直ちに室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却するなどの、請求項で規定する条件にて行っている。また、前記室温まで冷却後100分以内に、前記復元処理を施した部分を塑性変形させて他の部材とかしめ接合しており、これも請求項で規定する製造条件範囲内で行っている。
この結果、各発明例は表2に示す通り、7000系(熱処理型)アルミニウム合金部材の塑性変形させる部分への、素材段階での経時による自然時効硬化の影響をキャンセルして、低強度化、高延性化させ、さらには局部曲げ性能を向上させて、塑性変形しやすくしている。
これによって、各発明例は、かしめ接合に必要な塑性変形に要する変形荷重も低くでき、接合部(塑性変形部)の破断を抑制することができている。また、他の部材とのかしめ接合の接合強度が確保でき、構造部材としての高強度も確保できている。
特に、表1の合金番号2を用いた発明例16〜18は、表1の合金番号1を用いた発明例1〜8よりも、人工時効処理後の強度が著しく高い(高強度合金を用いた)にも関わらず、曲げ変形条件さえ緩和すればかしめ接合可能である。したがって、同じく表1の合金番号2を用いた、還元処理していない常法の代表例である比較例23との比較も含めて、本発明の還元処理の効果が裏付けられる。
これに対して、表2の各比較例は、復元処理をしていないか、規定する範囲から外れた条件で行っている。この結果、各比較例は、表2に示す通り、復元処理の効果が不十分となって、かしめ接合での変形荷重が高く、接合部(塑性変形部)の破断を抑制できていない。また、他の部材とのかしめ接合の接合強度も低い。
比較例9、19は復元処理の実体温度が低すぎ、前記かしめ接合部に破断が生じている。
比較例10、20は復元処理からかしめ接合までの時間がかかり過ぎ、前記かしめ接合部に破断あるいはしわが生じている。
比較例11、21は復元処理の保持時間が長すぎ、軟質化(O材化)されており、人工時効処理後の耐力や接合強度が低すぎる。
比較例12、22は復元処理の実体温度が高すぎ、軟質化(O材化)されており、人工時効処理後の耐力や接合強度が低すぎる。
比較例13は復元処理の加熱速度が遅すぎ、人工時効処理後の耐力や接合強度が低すぎる。
比較例14は復元処理の冷却速度が遅すぎ、人工時効処理後の耐力や接合強度が低すぎる。
比較例15、23は復元処理をしていないので、前記かしめ接合部に破断が生じている。
以上の実施例の結果から、復元処理の条件など、本発明で規定する各要件の意義が裏付けられる。
本発明によれば、接合時には低強度で、塑性変形によるかしめ接合が可能であり、かつ、前記接合後には構造部材としての高強度が確保できる、熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法を提供することができる。

Claims (4)

  1. T1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材の一部を塑性形させて、他の部材とかしめ接合する方法であって、前記熱処理型アルミニウム合金部材の一部に、200℃〜500℃の実体温度範囲に0.5℃/秒以上の加熱速度で部分的に加熱した後、前記温度範囲にて0.1秒以上、20秒未満の短時間だけ保持した後に、直ちに室温まで0.5℃/秒以上の冷却速度で冷却する条件にて復元処理を予め施し、前記室温まで冷却後100分以内に、前記復元処理を施した部分を塑性変形させて他の部材とかしめ接合し、その後、前記熱処理型アルミニウム合金部材を人工時効処理することを特徴とする熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法。
  2. 前記T1〜T4の調質がされた熱処理型アルミニウム合金部材の0.2%耐力が300MPa以上であり、前記復元処理を施した部分の0.2%耐力を120MPa以下とした上で、前記塑性変形させて前記他の部材とかしめ接合し、その後前記熱処理型アルミニウム合金部材を人工時効処理して0.2%耐力を300MPa以上とすることを特徴とする請求項1に記載の熱処理型アルミニウム合金部材の接合方法。
  3. 前記熱処理型アルミニウム合金部材の前記復元処理を施した部分を、曲げ変形あるいは拡管変形により塑性変形させて他の部材とかしめ接合することを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理型アルミニウム合金材の接合方法。
  4. 前記他の部材が、塑性変形を伴わずに、前記熱処理型アルミニウム合金部材とかしめ接合されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱処理型アルミニウム合金材の接合方法。
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