JP6506678B2 - 自動車構造部材用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
自動車構造部材用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であり、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後であって、使用される自動車構造部材に成形され、塗装焼付硬化処理などの人工時効硬化処理される前の、素材アルミニウム合金板を言う。また、以下の記載ではアルミニウムをアルミやAlとも言う。
板の組織として、結晶粒のサイズやアスペクト比を制御し、人工時効処理後の耐力を230MPa以上とした、圧壊性を高めた6000系アルミニウム合金板が、特許文献1などで提案されている程度である。
このため、これら自動車の大型ボディパネルに要求される、プレス成形性とBH性(ベークハード性)との兼備や向上のために、従来から、成分組成や組織、あるいは集合組織などの冶金的な改善策が、数多く提案されている。
一方、本発明が用途とする、前記したメンバ、フレーム、ピラーなどの自動車構造部材では、前記した通り、このような自動車パネル用途とは違って、更なる高強度化や、圧壊性を新たに持たせた上での、プレス成形性や耐食性などの、この用途特有の諸特性の兼備が要求される。
この結果、MgとSiの含有量をバランスさせることや、Cube方位面積率を増加させるなどして、更なる高強度化や、圧壊性を新たに持たせた上で、プレス成形性や耐食性などの、この用途特有の諸特性の兼備できることを知見した。
本発明によれば、自動車構造部材用に好適な6000系アルミニウム合金板を、常法によって得ることができる。
その前提として、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板は、その用途が、従来の自動車パネル材ではなく、前記自動車構造部材である。
このため、この自動車構造部材(以下、単に構造部材とも記載)の要求特性として、前記した従来の自動車パネル材には無い、圧壊性に優れるともに、降伏比が低く複雑な形状に加工することができ、高ベーク後耐力で高耐粒界腐食性である諸特性を満足および両立させるものである。これらの特性のどれが欠けても、構造部材としては適用できない。
そして、より好ましくは、前記アルミニウム合金板の前記Cube方位の平均面積率が35%以上であるとともに、前記VDA曲げ試験にて90°以上の曲げ角度となる圧壊性を有しているものとする。
本発明では、前記構造部材の要求特性を組成の面から満たすようにするため、Al−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の組成を、質量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.2%、Cu:0.08〜0.20%、を各々含み、かつ、前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]が、[Si]/[Mg] ≧0.7と、1.4%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足し、残部がAl及び不可避不純物からなるものとする。
MgはSiとともに、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、Mg2Siなどの化合物相を形成し、この化合物相が析出することで強度を高める。
Mgの含有量が0.3%未満と少なすぎると、十分な強度が得られない。
一方、Mgの含有量が1.0%を超えて多すぎると、Mg2Si等の化合物相が鋳造時及び溶体化焼入れ処理時に、粗大な粒子として晶出又は析出して微小な破壊の起点として働く。このため、破断限界が低下することで降伏比が増加し、プレス成形性が低下する。
従って、Mgの含有量は0.3〜1.0%とする。
SiもMgとともに、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、Mg2Siなどの化合物相を形成し、この化合物相が析出することで強度を高める。
Siの含有量が0.5%未満と少なすぎると、十分な強度が得られない。
一方、Siの含有量が1.2%を超えて多すぎると、Mg2Si等の化合物相が鋳造時及び溶体化焼入れ処理時に、粗大な粒子として晶出又は析出して微小な破壊の起点として働く。このため、破断限界が低下することで降伏比が増加し、プレス成形性が低下する。
従って、Siの含有量は0.5〜1.2%とする。
Mgの含有量とSiの含有量とは、前記した各々の含有量の他に、組成面でプレス成形性や圧壊性を向上させるためには、両者のバランスが重要である。
この点で、前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]とが、[Si]/[Mg] ≧0.7と、1.4%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足するようにする。
Si含有量がより多く、Mgの含有量がより少ない方が、Siが母相に固溶することによる固溶強化により、加工硬化能が向上し、降伏比が低下し、プレス成形性が向上する。
[Si]/[Mg]が0.7未満では、十分な加工硬化能が得られず、降伏比は増加するため、プレス成形性が低下する。
従って、[Si]/[Mg]は0.7以上とする。また、[Si]/[Mg]は1.8以上であれば、さらに降伏比が低くなり、プレス成形性が向上するので、好ましくは、[Si]/[Mg]は1.8以上とする。
SiとMgは、ベークハード(人工時効硬化処理)後に、強化相となるβ’’相を形成し、この化合物相が析出することで強度を高める。
しかし、MgやSiを含有しすぎると、Mg2Si等の化合物相が鋳造時及び溶体化焼入れ処理時に、粗大な粒子として晶出又は析出して微小な破壊の起点として働くため、圧壊性を大きく低下させる。これらの晶出状態又は析出状態は、SiとMgの含有量に依存する。
1.3[Mg+[Si]が1.4%未満では、十分なBH性(ベーク後耐力)を得ることができない。
一方、1.3[Mg]+[Si]が1.9%を超えると、鋳造時及び焼入れ処理時に粗大粒として晶出又は析出し、圧壊性が著しく低下する。
従って、1.3[Mg](=1.3×Mg含有量の意味)+[Si](Si含有量の意味)は1.4〜1.9%の範囲、好ましくは、1.6〜1.9%の範囲とする。
Cuは、マトリックスに固溶して、固溶強化により、加工硬化能を向上させて、降伏比を減少させ、プレス成形性を向上させる。
しかし、0.20%を超えて、過剰にCuを含有すると、時効析出とともに粒界近傍にCuの溶質欠乏層PFZが形成され、腐食環境にて、粒内より電位的に卑なその層が選択的に溶解し、耐粒界腐食性が劣化する。
一方で、Cu含有量が0.08%より少ないと、十分な加工硬化能が得られず、降伏比を減少させられずに、プレス成形性が低下する。
従って、Cuの含有量は0.08〜0.20%の範囲とする。
その他の元素は、本発明では、基本的に不純物であり、スクラップなど、鋳塊の溶解原料などから含有される場合の許容量として、以下の上限量とする。なお、下記上限規定には0%を含む。
Mn:1.0%以下、Fe:0.5%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.2%以下、V:0.2%以下、Ti:0.1%以下、Zn:0.5%以下、Ag:0.1%以下、Sn:0.15%以下。
自動車構造部材としての必要な強度、剛性を有するために、アルミニウム合金板を、再現性のために、2%のストレッチ後に180℃20分の特定条件にて、人工時効硬化処理(以下、単に時効処理とも言う)した後の、BH性を規定する。
自動車構造部材として、BH性は高いほど良いが、本発明では、220MPa以上の0.2%耐力となるBH性を有するものを合格とする。
降伏比が低いということは、引張強さに対する耐力が低いことを示す。耐力に対する引張強さが高いほど破断限界が高く、引張強さに対する耐力が低いほど、スプリングバック量が小さく、プレス成形性が向上する。したがって、複雑な構造部材形状に加工することができる、プレス成形性を有するために、降伏比は0.63以下とする。
アルミニウム合金板の板厚は、自動車構造部材としての必要な強度、剛性を有するためには、板厚が2.0mm以上必要である。この板厚の上限は特に定めないが、プレス成形などの成形加工の限界や、比較材としての鋼板からの軽量化効果を損ねない重量増加の範囲を考慮すると、4.0mm程度である。この好ましい板厚の範囲(2.0〜4.0mm)から熱延板とするか、冷延板とするかが適宜選択される。
本発明では、板の圧壊性(耐圧壊性、圧壊特性)を向上させるために、この板の表面から板厚の10%の深さまでの任意の表面領域におけるCube方位の面積率を22%以上とする。
ここで、本発明でいう「板の表面」とは、アルミニウム合金マトリックスの上(表面)に形成された自然酸化皮膜(厚みは数十〜数百nmレベル)の表面の意味である。
この板の表面から、板厚(深さ)方向に、板厚の10%の深さまでの表面領域において、Cube方位を含有する層が板厚の表面近傍に存在する場合、Cube方位の面積率が高いほど、曲げ外側におけるせん断帯形成が抑制され、板の圧壊性が向上する。
圧壊性に重大な影響を与える曲げ外側層の厚さの目安は板厚の10% 程度であるので、Cube方位の面積率が高い領域を、この板の表面から板厚の10%の範囲の任意の領域(範囲)とする。
したがって、この表面領域のCube方位面積率は22%以上とし、更に、Cube方位面積率が35%より大きいと、圧壊性に優れるので、好ましくは、この表面領域のCube方位面積率は35%以上とする。
これら板の結晶粒のCube方位の平均面積率は、前記した板の表面から深さ方向に板厚の10%の深さまでの表面領域(範囲)のうちの、任意の深さ位置から採取した測定試料(3個)の、この板(測定試料)の平面視で圧延面(圧延表面)と平行に延在する観察面として、板の表面から板厚の10%の深さまでの表面領域のうちの、任意の深さ位置における観察面が出るよう、機械研磨あるいはバフ研磨などで研磨する。
SEM装置として、例えば、日本電子社製SEM(JEOLJSM5410)、TSL社製のEBSD測定・解析システム:OIM(Orientation Imaging Macrograph、解析ソフト名「OIM Analysis」)を用いて、各結晶粒が、Cube方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定視野における各結晶方位の面積を求める。
この測定は、例えば5μmのステップ間隔で電子線を走査して行い、各測定点の結晶方位を測定し、測定点位置データと組み合わせて解析することにより、測定領域内の個々の結晶粒の結晶方位を測定する。
そして、1試料当たりのCube方位を有する結晶粒の、測定全面積である前記測定範囲の面積(320000μm2)に対する、平均面積率(%)を測定し、更に、測定した試料数3個で平均化する。
より具体的に、SEM−EBSDの前記観察用試料の調整は、前記観察試料 (断面組織)を、更に機械研磨して鏡面化する。そして、FESEM の鏡筒内にセットし、試料の鏡面化した表面に、電子線を照射してスクリーン上にEBSD(EBSP)を投影する。 これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は3次元オイラー角として、位置座標(x、y)などとともに記録される。このプロセスが全測定点に対して自動的に行なわれるので、測定終了時には、板の断面における数万〜数十万点の結晶方位データが得られる。
このため、観察視野が広く、多数の結晶粒に対する、分布状態,平均結晶粒径、平均結晶粒径の標準偏差、あるいは方位解析の情報を、数時間以内で得られる利点がある。したがって、本発明のようなCube方位の面積率などの集合組織を正確に測定する場合には最適である。
Cube方位 {001}<100>
Goss方位 {011}<100>
Brass方位(B方位) {011}<211>
Cu方位(Copper方位){112}<111>
S方位 {123}<634>
圧壊性とは、自動車の衝突等の衝撃的な荷重が加わったときに、変形初期や途上で構造部材に割れや圧壊が発生せずに(あるいは発生しても)、最後まで変形する特性であり、圧壊性が良好な部材は、割れや圧壊が生じることなく(あるいは発生しても)、蛇腹状に曲げ変形する。
本発明において、圧壊性は、VDA曲げ試験にて60°以上の曲げ角度となる圧壊性を有しているものを自動車構造部材用として合格と評価する。この曲げ角度は大きいほど圧壊性が高く、90°以上がより好ましい。一方、この曲げ角度が60°未満の圧壊性では、自動車構造部材用として採用できない。
この試験方法を、図1に斜視図で示し、図2に使用するポンチの正面および側面図で示す。
先ず、板状試験片を、ロールギャップを設けて、互いに平行に配置した2個のロール上に、図1に点線で示すように、水平で左右均等の長さに載置する。
具体的には、板状試験片を、その圧延方向と、上方に垂直に立てて配置した板状の押し曲げ治具の延在方向とが、互いに直角になるように、ロールギャップ中央にその中央部が位置するよう、2個のロール上に、水平で左右均等の長さに載置する。
そして、上方から前記押し曲げ治具を板状試験片の中央部に押し当てて荷重を負荷し、この板状試験片を前記狭いロールギャップに向けて押し曲げ(突き曲げ)て、曲げ変形した板状試験片中央部を前記狭いロールギャップ内に押し込む。
また、板状の押し曲げ治具であるポンチは、図2に示すように、板状試験片の中央部に押し当たる下側の薄板状(厚み2mm)の刃の先端は、先端(下端)の半径rが0.2mmφと尖った、テーパ形状とされている。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、通常の目的である、組織の均質化(鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくす)の他に、SiやMgを充分に固溶させるために重要である。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
この均質化熱処理を行った後に熱間圧延を行い、熱延板を製造する。熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。 これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
熱延板は、熱間圧延の加工組織が残留し、Cube方位の集積度が高くなり、この板の表面から前記板厚の10%の深さまでの表面領域におけるCube方位の平均面積率が、好ましい35%以上となり、圧壊性が著しく向上する。したがって、熱延板に対して冷間圧延を行わずに、熱延板のままで、2.0mm以上の最終板厚の製品板としても良い。
上記熱延板を冷間圧延して所望の板厚とする場合には、熱間圧延の加工組織を残留させ、Cube方位の集積度を高め、この板の表面から前記板厚の10%の深さまでの表面領域におけるCube方位の平均面積率を22%以上、好ましくは35%以上と高くするために、冷間圧延率を70%以下の、できるだけ小さい圧延率とすることが好ましい。
冷間圧延の圧延率が70%を超えて高くなると、冷間圧延後に、板厚方向で均一な歪が導入され、溶体化熱処理時に均一微細で等軸結晶粒になるが、Cube方位以外の結晶方位の面積率が大きくなることで、板表面から板厚の10%の深さまでの表面領域のCube方位面積率は、必然的に22%より小さくなり、圧壊性が劣化する可能性がある。
この点で、冷間圧延の圧延率は、更に5%未満と小さい方が好ましい。冷間圧延の圧延率が5%未満の場合には、冷間圧延によってほとんど歪が導入されず、前記熱延板と同様に、熱間圧延ままの組織が残留し、Cube方位の集積度を高くなり、板表面から板厚の10%の深さまでの表面領域のCube方位面積率が35%以上となり、圧壊性が著しく向上する。従って、冷間圧延の圧延率は5%未満の方が望ましい。
なお、冷間圧延パス間で、適宜中間焼鈍を行っても良い。
冷間圧延後、溶体化処理と、これに続く、室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインを用いてよい。ただ、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るためには、540℃以上、570℃以下の溶体化処理温度(到達温度)で、0.1秒〜60秒保持した後に焼入れ処理を連続的に行うことが好ましい。
溶体化温度が540℃より低いと、MgとSiの十分な固溶度が確保されず、十分なベーク後強度が得られない可能性がある。一方、溶体化温度が570℃を超えると、融点に近く、溶体化処理中に融解する恐れがある。溶体化の保持時間が60秒より長いと、初期強度が高く、降伏比が増大する可能性がある。従って、溶体化温度は、好ましくは540℃乃至570℃、溶体化保持時間は好ましくは0.1〜60秒とする。
このような溶体化処理後に焼入れ処理して室温まで冷却した後(焼入れ処理終了後)10分以内に、再加熱処理を行い、素材温度が60〜90℃の範囲に3〜20時間保持することが好ましい。
再加熱処理の開始(加熱開始)までの室温保持時間が長すぎると、室温時効によりSiリッチのMg−Siクラスタが生成してしまい、MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタを増加させることができにくくなるため、BH性が低下する可能性がある。したがって、この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
再加熱処理温度が60℃未満か、または保持時間が3時間未満であると、この再加熱処理をしない場合と同様となって、前記MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタを増加させにくくなり、焼付塗装後の耐力(BH性)が低くなりやすい。
一方、再加熱処理温度が90℃を超える、または、保持時間が20時間を超えては、初期強度が高く、降伏比が増大する可能性がある。
その後、この冷延板を100℃/分以上の加熱速度で加熱し、表2に示す各温度と各保持時間での溶体化処理後、室温まで水中に浸漬させる、溶体化焼入れ処理を連続して行った。その後、再加熱処理を行うものは、表2に示す各温度域に再加熱し、60℃以上に保持する時間を表2に示す条件とし、その後室温まで放冷した。
Cube方位の面積率(%)は、前記再加熱処理後の供試材の板幅方向と直交する断面に対して機械研磨し、電解研磨後、SEM−EBSD法により、前記表面領域における板幅面法線方向の結晶方位を測定した。
なお、±5°以内の結晶方位のずれは同一の結晶方位に属するものと定義した。板表面から板厚の10%の深さまでの表面領域のCube方位の平均面積率を表2に示す。
機械的特性は下記条件での引張試験を実施して各々求めた。
降伏比は、前記再加熱処理後6ヶ月経過後(室温時効後)の供試材について求め、構造部材用として、降伏比が0.63以下を良好、0.60以下をさらに良好、0.64以上を不良とした。
BH後の耐力も、前記再加熱処理後6ヶ月経過後(室温時効後)の供試材に、板のプレス成形を模擬した2%の予歪を引張試験機により与えた後に、180℃20分の熱処理の条件にて人工時効させたもの(AB材)の耐力を測定した。そして、構造部材用として、220MPa以上を合格、230MPaをさらに良好と評価した。
圧壊性は、前記再加熱処理後6ヶ月経過後(室温時効後)の供試材に、2%の予歪を引張試験機により与えた後に、180℃20分の熱処理の条件にて人工時効させたものを、前記VDA曲げ試験の測定対象とした。
この試験片を用いて、前記VDA238−100に準拠し、曲げ線が圧延方向と平行となる3点曲げ試験を行った。荷重が30Nに達するまでの試験速度は10mm/分、それ以降の試験速度を20mm/分とした。クラック発生、もしくは、板厚減少により、最大荷重から60N減少したとき、曲げ加工がストップする設定とした。
上記曲げ試験は、各例とも板状試験片3枚ずつ(3回)行い、曲げ角度(°)はこれらの平均値を採用した。
そして、構造部材用として、この曲げ試験後の板状試験片の最大の曲げ角度(前記押し曲げ治具からの荷重Fが最大となる時=板状試験片中央部の曲げ先端が割れる寸前の曲げ角度)が90°以上は◎、60°以上は○で合格、60°未満を×で不合格と評価した。
耐粒界腐食性の評価試験は、ISO11846 Method Bに準拠した。
供試材は、前記再加熱処理後6ヶ月経過後(室温時効後)の供試材に、2%の予歪を引張試験機により与えた後に、180℃20分の熱処理の条件にて人工時効させたものとし、表面皮膜を除去するため、5%NaOH(60℃)に1分浸漬後、水洗を行い、70%HNO3に1分浸漬後、再び水洗し、室温乾燥を行った。
腐食液として、HClおよびNaClを含む水溶液(NaClを30g/Lおよび36%の濃塩酸を10±1ml/L含有する)を使用し、25℃で24時間、材料の表面積1cm2あたり5mlの腐食液に浸漬させた。次いで、70%HNO3への浸漬およびプラスチックブラシを用いたブラッシングにより腐食生成物を除去し、水洗後、室温乾燥させた。
焦点深度法により腐食が深いと判断される部位を3箇所選び、それぞれの部位を断面埋め込みし、光学顕微鏡にて各断面で最も深い粒界腐食の深さを測定した。
前記供試材は、板の任意の3箇所から採取したもの3個を使用し、構造部材用として、この3個の供試材を測定した中で、最大の粒界腐食深さが300μm未満であるものを○で合格とし、300μm以上のものを×で不合格とした。
この結果、上記、表2に示すように、発明例No.1〜11は、この板の表面から前記板厚の10%の深さまでの表面領域におけるCube方位の平均面積率が22%以上であるとともに、降伏比が0.63以下であり、前記アルミニウム合金板を2%のストレッチ後に180℃20分の人工時効処理した後の特性として、220MPa以上の0.2%耐力を有するとともに、VDA曲げ試験にて60°以上の曲げ角度となる圧壊性を有している。
また、発明例No.3は、前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]とが、更に、[Si]/[Mg]≧1.8と、1.6%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足するため、さらに優れた降伏比とBH後耐力を示した。
比較例No.12、13は、表1の合金番号6、7であり、Mgの含有量が下限値未満(比較例No.12は1.3[Mg]+[Si]も下限未満)であるため、ベーク後耐力が劣っている。
比較例No.14は、表1の合金番号8であり、Mgの含有量が上限値を超えるため、降伏比が0.63を超えている。また、1.3[Mg]+[Si]が本発明の上限値を超えているため、圧壊性が劣っている。
比較例No.15は、表1の合金番号9であり、1.3[Mg]+[Si]が上限値を超えているため、圧壊性が劣っている。
比較例No.16は、表1の合金番号10であり、Siの含有量が下限値未満であるため、BH後耐力が劣っている。また、[Si]/[Mg]が下限値未満であるため、降伏比が0.63を超えている。
比較例No.17は、表1の合金番号11であり、Siの含有量が上限値を超えているため、降伏比が0.63を超えている。また、1.3[Mg]+[Si]が上限値を超えているため、圧壊性が劣っている。
比較例No.18は、表1の合金番号12であり、1.3[Mg]+[Si]が上限値を超えているため、圧壊性が劣っている。
比較例No.19は、表1の合金番号13であり、Cuが下限値未満のため、降伏比が0.63を超えている。また、ベーク後耐力も劣っている。
比較例No.20は、表1の合金番号14であり、Cuが上限値を超えているため、粒界腐食性が劣っている。
比較例No.21は、表1の合金番号15であり、Mgの含有量が下限値未満で、[Si]/[Mg]が本発明の下限値未満のため、降伏比が0.63を超えている。また、1.3[Mg]+[Si]が本発明の下限値未満であるため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.22は、表1の合金番号16であり、1.3[Mg]+[Si]が下限値未満であるため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.23は、表1の合金番号17であり、1.3[Mg]+[Si]が上限値を超えているため、圧壊性が劣っている。
比較例No.24、25は、冷間圧延の圧延率が高すぎ、前記板の表面領域のCube平均面積率が22%未満であったため、圧壊性が劣っている。
比較例No.26は、再加熱処理を実施しないため、ベーク後耐力が劣っている。
比較例No.27、28は、再加熱処理を実施しないため、ベーク後耐力が劣っている。また、冷間圧延の圧延率が高すぎ、前記板の表面領域のCube平均面積率が22%未満であったため、圧壊性が劣っている。
比較例No.29は、溶体化温度が好ましい下限値未満であるため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.30は、溶体化保持時間が好ましい上限値を超えているため、降伏比が0.63を超えている。
比較例No.31は、再加熱までの所要時間が10分を超えるため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.32は、再加熱温度が好ましい下限値未満のため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.33は、再加熱温度が好ましい上限値を超えているため、降伏比が0.63を超えている。
比較例No.34は、再加熱後、60℃以上の保持時間が好ましい下限値未満のため、BH後耐力が劣っている。
比較例No.35は、再加熱後、60℃以上の保持時間が好ましい上限値を超えているため、降伏比が0.63を超えている。
Claims (4)
- 質量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.2%、Cu:0.08〜0.20%を各々含み、かつ、前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]とが、 [Si]/[Mg] ≧0.7と、1.4%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足し、残部がAl及び不可避不純物からなり、板厚が2.0mm以上であるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、この板の表面から前記板厚の10%の深さまでの表面領域におけるCube方位の平均面積率が22%以上、およびこの板の降伏比が0.63以下であるとともに、前記アルミニウム合金板を2%のストレッチ後に180℃20分の人工時効処理した後の特性として、0.2%耐力が220MPa以上、およびVDA曲げ試験での曲げ角度が60°以上である圧壊性を有することを特徴とする自動車構造部材用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板の前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]とが、更に、[Si]/[Mg]≧1.8と、1.6%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足する請求項1に記載の自動車構造部材用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板の前記Cube方位の平均面積率が35%以上であるとともに、前記VDA曲げ試験での曲げ角度が90°以上である圧壊性を有している請求項1または2に記載の自動車構造部材用アルミニウム合金板。
- 質量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.2%、Cu:0.08〜0.20%を各々含み、かつ、前記Mgの含有量[Mg]と、前記Siの含有量[Si]とが、 [Si]/[Mg] ≧0.7と、1.4%≦1.3[Mg]+[Si]≦1.9%との関係を各々満足し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理後に圧延して、板厚が2.0mm以上の圧延板とし、この圧延板に対して、540〜570℃の範囲で0.1〜30秒間保持する溶体化処理と焼入れ処理とを連続的に行い、前記焼入れ処理の終了後10分以内に、再加熱処理を行って素材温度が60〜90℃の範囲に3〜20時間保持して、自動車構造部材用アルミニウム合金板となし、この板の組織および特性として、この板の表面から前記板厚の10%の深さまでの表面領域におけるCube方位の平均面積率を22%以上、およびこの板の降伏比を0.63以下とするとともにし、この板を2%のストレッチした後に180℃20分の人工時効処理した後の特性として、0.2%耐力を220MPa以上、およびVDA曲げ試験での曲げ角度を60°以上とした圧壊性を有するようにしたことを特徴とする自動車構造部材用アルミニウム合金板の製造方法。
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