JP3891705B2 - 耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金および熱処理方法 - Google Patents

耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金および熱処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、高強度でありかつ耐応力腐食割れ性に優れた6000系アルミニウム合金、およびその熱処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金は、近年、その軽量性を生かして車両、建築等の各種構造部材として用途が拡大しつつある。一般に、構造部材として用いられる高強度アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Cu−Mg系、Al−Mg系、Al−Zn−Mg系、Al−Mg−Si系のものがある。この種のアルミニウム合金は、高強度になるに従って応力腐食割れを生じやすい傾向を示し、特に最大強度の得られるT6調質状態において応力腐食割れ感受性が高くなるという問題点がある。そのため、高強度、高耐応力腐食割れ性、加工性が要求される用途においては満足のいく合金はなかった。
【0003】
このような状況にあって、上述の合金系において諸性質を改善するために、従来は合金組成の面から検討が重ねられてきたが、強度を向上すべく合金組成を調節すると耐応力腐食割れ性が劣化するため、時効処理条件としてT76,T73を採用し、耐応力腐食割れ性を改善しようという試みがある。しかしながら、耐応力腐食割れ性が改善されると強度が低下してしまい、強度と耐応力腐食割れ性の両立が困難であった。
【0004】
このような問題点に対し、米国特許3,856,584号において、7075等の7000系アルミニウム合金について、容体化処理後、約121℃で約24時間のT6処理を施し、次いで200〜260℃×2〜3秒ないし2〜3分の復元熱処理を行い、さらに115〜125℃で16〜48時間の再時効処理を行うことにより、T6材相当の強度を維持しながらT7材と同等の耐応力腐食割れ性が得られるという報告がなされている。復元再時効(RRA)処理と呼ばれるこの熱処理方法は、耐応力腐食割れ性に対して影響する因子の中で、特に組織中の粒界および粒内析出形態の制御、具体的には熱処理後材料組織において、粒内ではG.P.ゾーン等強度に寄与する微細析出の促進、また粒界では粒界割れ感受性を低下させるための析出物の凝集粗大化を目的としている。しかし、現在実験レベルではその有効性が認められているものの、強度と耐応力腐食割れ性の両者を十分に向上させるには足りず、いまだ実用化はなされていない。また、特開昭62−142753号や特開平6−41669号においては、RRA処理の2段目の復元処理時間を長時間化した処理方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の熱処理方法は、いずれも7000系あるいは2000系のアルミニウム合金に適用される方法であり、他の合金系への適用に関しては報告がない。例えば、6000系アルミニウム合金でも高強度化に伴うMg、Si添加量の増加、特にSi添加量の増加に伴い、耐応力腐食割れ性の低下が指摘されているが、T6材強度と耐応力腐食割れ性の両立には有効な手段が見出だされていない。
【0006】
この発明は、このような技術背景に鑑み、高い強度と優れた耐応力腐食割れ性の両者を具備する、6000系アルミニウム合金ならびにその熱処理方法の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、上記RRA処理の6000系アルミニウム合金への適用を試みて鋭意研究の結果、高い強度と優れた耐応力腐食割れ性の両者を具有する粒界析出形態を見出だすとともに、両者を具有するための熱処理条件を見出した。
【0008】
即ち、この発明の6000系アルミニウム合金は、Al−Mg−Si系合金おるいはAl−Mg−Si−Cu系合金において、粒界析出物が110nm以上の間隔で存在するとともに、析出物の粒界方向における寸法が70nm以上であることを特徴とするものである。
【0009】
また、この発明の熱処理方法は、6000系アルミニウム合金鋳塊に対し、容体化処理後に150〜200℃で3〜80時間保持する一次時効処理を行い、次いで300℃/分以上の昇温速度で加熱し、200〜270℃で0.5〜20分保持したのち500℃/分以上の速度で冷却する復元処理を行い、さらに150〜190℃で8〜80時間保持する再時効処理を行うことを特徴とするものである。
【0010】
合金組織では、結晶粒界における析出物の析出形態が耐応力腐食割れ性に関与している。粒界における析出物は、大きくかつ析出間隔が大きくなるほど割れ感受性が低くなる傾向にある。この発明では、析出物の粒界の長さ方向における長さを70nm以上に成長させ、かつ析出物同士の間隔が110nm以上となるように析出させることにより、最も応力腐食割れが起きにくい状態にして高い耐応力腐食割れ性を確保している。耐応力腐食割れ性を向上させるために、粒界析出物の大きさの好ましい下限値は90nmであり、析出間隔の好ましい下限値は130nmである。
【0011】
また、Al−Mg−Si系合金あるいはAl−Mg−Si−Cu系合金において、次の組成が好ましく、各元素の含有量の限定理由は次のとおりである。
【0012】
Mg、Si、Cuは、ともに合金の強度向上に寄与する元素である。Si含有量は0.8〜1.5%が好ましい。0.8%未満では強度向上効果に乏しく、1.5%を超えると熱間加工性が著しく低下するためである。Si含有量の特に好ましい下限値は0.9%、特に好ましい上限値は1.2%である。また、Mg含有量は0.8〜1.4%が好ましい。0.8%未満では強度向上効果に乏しく、1.4%を超えると熱間加工性が低下するとともに伸びが低下するためである。Mg含有量の特に好ましい下限値は1.0%、特に好ましい上限値は1.2%である。また、Cu含有量は0.4〜0.8%が好ましい。0.4%未満では強度向上効果に乏しく、0.8%を超えると耐食性が劣化するとともに熱間加工性が低下するためである。
【0013】
Fe、Mn、Cr、Zn、Tiは、これらのうちから2種以上を任意に選択して合金の諸性質を向上させる元素である。即ち、Feは再結晶を抑制する効果があり、含有量は0.1〜0.3%が好ましく、特に好ましい下限値は0.2%、特に好ましい上限値は0.3%である。Mnは再結晶を抑制するとともに強度を向上させる効果があり、含有量は0.2%以下が好ましく、特に好ましい上限値は0.1%である。Crは再結晶を抑制する効果があり、含有量は0.2%以下が好ましく、特に好ましい上限値は0.1%である。Znは固溶強化により強度を向上させる効果があり、含有量は0.1%以下が好ましく、特に好ましい上限値は0.08%である。Tiは固溶強化あるいは析出強化により強度を向上させる効果があり、含有量は0.035%以下が好ましく、特に好ましい上限値は0.02%である。
【0014】
この発明の熱処理方法において、1段目の一次時効処理は、容体化処理後に時効処理を行って硬化させ強度を高める。容体化処理の方法は特に限定されず、例えば押出等の熱間加工後に続いて行われるT5処理、または押出後再容体化を施すT6処理を挙示できる。また、時効処理条件は最大強度を得られることが好ましく、150〜200℃で3〜80時間とする。処理温度の特に好ましい下限値は165℃、特に好ましい上限値は180℃であり、処理時間の特に好ましい下限値は6時間、特に好ましい上限値は24時間である。ただし、Mg2Si量が 1%以上である合金については、高温時効が強度が負の効果をもたらすので、容体化処理後の自然時効時間は短い方が良く、1〜72時間程度が好ましい。
【0015】
2段目の復元処理は、材料中の析出相の一部を固溶させる温度まで昇温して所定時間保持し、続いて一旦固溶した析出相が析出してこない温度で冷却することにより、前段の一次時効処理により硬化した組織を復元して硬度を低下させる。昇温速度が遅すぎると、析出相の固溶速度よりも析出速度の方が速いことが原因となって復元としての硬化低下が起こらなくなる。このため、昇温速度は300℃/分以上とする必要があり、特に600℃/分以上が好ましい。続いて行う加熱保持は、200〜270℃で0.5〜20分間行う。200℃未満では復元硬化を得るための析出相の固溶自体が起こりにくくなり、270℃を超えると粗大析出が促進されて、後段に再時効処理しても強度の回復が期待できなくなる。処理温度の特に好ましい下限値は220℃、特に好ましい上限値は260℃であり、処理時間の特に好ましい下限値は2分、特に好ましい上限値は7分である。また、復元処理後の冷却は、冷却中に時として起こる粗大析出により強度が低下するために、500℃/分以上の速度で行うことが必要があり、特に900℃/分以上が好ましい。この段の復元処理工程間に結晶粒界の析出物は粗大化し、前述したように、長さが70nm以上の大きな析出物が110nm以上の間隔で析出する。
【0016】
3段目の再時効処理は、前段の復元処理により固溶させておいた析出相を再析出させて1段目の硬度にまで回復させる再時効処理である。再時効処理条件は1段目の時効処理条件に準ずるが、十分な強度に復元させるためには処理時間は少なくとも8時間は必要である。そのため、150〜190℃で8〜80時間保持するものとする。処理温度の特に好ましい下限値は160℃、特に好ましい上限値は180℃であり、処理時間の特に好ましい下限値は6時間、特に好ましい上限値は24時間である。
【0017】
6000系アルミニウム合金に対し、以上のような3段階の熱処理を行うことにより、2段目で得た粒界析出状態を維持しつつ強度を回復することができ、高い強度と優れた耐応力腐食割れ性の両者を得ることができる。
【0018】
【実施例】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0019】
Al−Mg−Si系合金供試材およびAl−Mg−Si−Cu系合金供試材として、表1に示す組成のものを使用した。
【0020】
【表1】
Figure 0003891705
【0021】
これらの組成の供試材について、550℃×1時間の容体化焼入後、室温で24時間放置し、さらに、表2(Al−Mg−Si系合金)および表3(Al−Mg−Si−Cu系合金)に示す各条件で熱処理を行った。熱処理は、一段目一次時効処理、2段目復元処理、3段目再時効処理とし、各合金について、1段目一次時効処理のみを行ったものを比較例とした。そして、処理材について、常法により引張強度、耐力、伸びを測定するとともに、耐応力腐食割れ試験を行った。耐応力腐食割れ試験は、CrO3:36g/l、K2Cr27:30g/l、NaCl:3g/lを含有する試験液を用い、試験温度95℃、3点曲げの要領で材料耐力の100%負荷を与える条件で行った。評価基準は、実体顕微鏡にて40倍で観察し、材料表面に亀裂が入るまでの時間とした。また、各処理材について、結晶粒界における析出物の間隔および寸法を調べた。これらの結果を表2および表3に併せて示す。
【0022】
【表2】
Figure 0003891705
【0023】
【表3】
Figure 0003891705
【0024】
表2および表3の結果から、本願発明の結晶粒界の析出形態は、2段目の復元処理によって得られ、このような析出形態により耐応力腐食割れ性が向上することが確認できた。また、3段目の再時効処理を行うことにより、1段目の一次時効材と同等あるいはそれ以上の強度が得られ、かつ復元処理で得られた2段目の耐応力腐食割れ性を維持し、高い強度と耐応力腐食割れ性の両者を具備する6000系合金を得ることができた。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金は、Al−Mg−Si系合金あるいはAl−Mg−Si−Cu系合金において、粒界析出物が110nm以上の間隔で存在するとともに、析出物の粒界方向における寸法が70nm以上であるから、応力腐食割れ感受性が低く、6000系アルミニウム合金の高い強度と優れた耐応力腐食割れ性を兼ね備えている。特に、前記Al−Mg−Si系合金の組成が、Si:0.8〜1.5%、Mg:0.8〜1.4%を含有し、さらにFe:0.1〜0.3%、Mn:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Zn:0.1%以下、Ti:0.035%以下のうちの2種以上の元素を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなる場合は、高い強度と優れた耐応力腐食割れ性が得られる。また、Al−Mg−Si−Cu系合金においては、上述の組成に加えてCu含有量が0.4〜0.8%のときに、特に高い強度と優れた耐応力腐食割れ性が得られる。
【0026】
また、上述の粒界における析出形態は、この発明の熱処理方法、即ち、高い強度と耐応力腐食割れ性は、6000系アルミニウム合金鋳塊に対し、容体化処理後に150〜200℃で3〜80時間保持する一次時効処理を行い、次いで300℃/分以上の昇温速度で加熱し、200〜270℃で0.5〜20分保持したのち500℃/分以上の速度で冷却する復元処理を行い、さらに150〜190℃で8〜80時間保持する再時効処理を行うことにより得られ、高い強度と優れた耐応力腐食割れ性を兼ね備えたものとなし得る。

Claims (3)

  1. Si:0.8〜1.5%、Mg:0.8〜1.4%、Fe:0.1〜0.3%、Mn:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Zn:0.1%以下、Ti:0.035%以下を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるAl−Mg−Si系合金において、粒界析出物が110〜200 nmの間隔で存在するとともに、析出物の粒界方向における寸法が70〜150 nmであることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金。
  2. Si:0.8〜1.5%、Mg:0.8〜1.4%、Cu:0.4〜0.8%、Fe:0.1〜0.3%、Mn:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Zn:0.1%以下、Ti:0.035%以下を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるAl−Mg−Si−Cu系合金において、粒界析出物が110〜200 nmの間隔で存在するとともに、析出物の粒界方向における寸法が70〜150 nmであることを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金。
  3. 請求項1または2に記載された組成のアルミニウム合金鋳塊に対し、容体化処理後に150〜200℃で3〜80時間保持する一次時効処理を行い、次いで300℃/分以上の昇温速度で加熱し、200〜270℃で0.5〜20分保持したのち500℃/分以上の速度で冷却する復元処理を行い、さらに150〜190℃で8〜80時間保持する再時効処理を行うことを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた高強度6000系アルミニウム合金の熱処理方法。
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