(1.油圧制御装置の構成)
図1を参照して油圧制御装置1の構成について説明する。
本実施形態の油圧制御装置1は、所謂ベルト式又はチェーン式の無段変速機T(所謂フリクションドライブ)に用いられる。
無段変速機Tは、一対の入力側プーリDvと、一対の出力側プーリDrと、入力側プーリDvと出力側プーリDrとの間で動力を伝達可能なベルト又はチェーン(図示省略)とを備える。
一対の入力側プーリDvは、無段変速機Tの入力軸(図示省略)に沿って移動自在のプーリ(可動側のプーリ)と、固定されているプーリ(固定側のプーリ)とから成る。オイルの供給に応じて、入力側プーリDvの可動側のプーリの側圧が変化し、入力側プーリDvの入力軸の軸線方向の幅が変化する。このように、供給されるオイルが調整されることで、一対の入力側プーリDv間のベルトの挟圧力が調整される。
一対の出力側プーリDrは、無段変速機Tの出力軸(図示省略)に沿って移動自在のプーリ(可動側のプーリ)と、固定されているプーリ(固定側のプーリ)とから成る。オイルの供給に応じて、出力側プーリDrの可動側のプーリの側圧が変化し、出力側プーリDrの出力軸の軸線方向の幅が変化する。このように、供給されるオイルが調整されることで、一対の出力側プーリDr間のベルトの挟圧力が調整される。
ここで、入力側プーリDv及び出力側プーリDrにおいて、側圧とは、入力軸及び出力軸の軸方向に沿って、可動側の入力側プーリDv及び出力側プーリDrを、固定側の入力側プーリDv及び出力側プーリDrの方へ押圧する圧力をいう。側圧が増大して、挟圧力が増大するほど、入力側プーリDv又は出力側プーリDrにおけるベルトの掛け回し半径は増大する。無段変速機Tの変速比は、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給する油圧の制御(すなわち、側圧又は挟圧力の制御)により制御される。
油圧制御装置1には、比較的高い油圧(高油圧)を供給すべき油圧作動部2(高圧系。例えば、入力側プーリDv、出力側プーリDr及び高油圧で作動する前後進切替機構の前後進クラッチ、又は発進クラッチなど。)へ油圧を供給すると共に、比較的低い油圧(低油圧)が供給されれば十分な被供給部3(低圧系。例えば、オイルによる潤滑又は冷却が必要な作動部材や、低圧で作動するトルクコンバータのロックアップクラッチなど。)へ油圧を供給する油圧回路が構成される。油圧制御装置1は、大容量オイルポンプPbと、小容量オイルポンプPsとを備える。
大容量オイルポンプPbは、オイルタンク(図示省略)のオイルを汲み上げて圧力を加えることで、低油圧を出力すると共に、高油圧の供給に応じた作動がなされる油圧作動部2を作動させる油圧を出力するオイルポンプである。小容量オイルポンプPsは、大容量オイルポンプPbの容量よりも小容量のオイルポンプである。小容量オイルポンプPsは、油圧作動部2を作動させる油圧を出力する。また、小容量オイルポンプPsは、供給された油圧を更に加圧して油圧作動部2に供給する。
図1を参照して、油圧制御装置1は、第1〜第8の8つの圧力制御弁11〜18と、第1〜第11及び第21〜第24の15つの油路R1〜R11,R21〜R24と、切替弁61と、方向制御弁21と、第1切替部71と、第2切替部72と、気泡除去部81と、制御部90(本発明の「気泡混入判定部」に相当する)とを備える。
第1圧力制御弁11は、パイロット作動形式の圧力制御弁であり、外部から供給されるパイロット圧を変更することで任意に油圧の変更が可能な圧力制御弁である。第3〜第5の3つの圧力制御弁13〜15は、リニアソレノイドに供給する電流に応じて任意に油圧の変更が可能な圧力制御弁である。また、第3〜第5の3つの圧力制御弁13〜15は、リニアソレノイドに電力が供給されていない状態で一次側ポート(図示省略)と二次側ポート(図示省略)とを連通する所謂ノーマルオープンタイプの弁として構成されている。第6〜第8の3つの圧力制御弁16〜18は、パイロット作動形式の圧力制御弁である。
切替弁61は、高圧優先形シャトル弁である。詳細には、切替弁61は、2つの一次側ポート61a,61bと、1つの二次側ポート61cとを有する。切替弁61は、2つの一次側ポート61a,61bのうち、入力された油圧が高い方の一次側ポート(61a,61bのうち入力された油圧が高い方)と二次側ポート61cとを連通させる。これにより、切替弁61は、2つの一次側ポート61a,61bに入力された油圧のうち圧力が高い方の油圧を、二次側ポート61cから出力する。
方向制御弁21は、第1ポート21a、第2ポート21b及び第3ポート21cを有する。また、方向制御弁21は、パイロット圧として油圧が供給される第4ポート21d、第5ポート21eを有する。方向制御弁21は、第4ポート21d、第5ポート21eに入力される油圧に応じて、第1ポート21a、第2ポート21bと第3ポート21cとの連通を切り替える。
詳細には、方向制御弁21は、第4ポート21dに入力された油圧が、第5ポート21eに入力された油圧よりも高い場合には、第2ポート21bと第3ポート21cとを連通し、第1ポート21aと第3ポート21cとの連通を解除する。
また、方向制御弁21は、第5ポート21eに入力された油圧が、第4ポート21dに入力された油圧よりも高い場合には、第1ポート21aと第3ポート21cとを連通し、第2ポート21bと第3ポート21cとの連通を解除する。また、方向制御弁21は、第4ポート21dの油圧と第5ポート21eの油圧とが同じ場合には、第1ポート21a及び第2ポート21bと第3ポート21cとを連通する。
第1切替部71及び第2切替部72は、ソレノイド弁である。第1切替部71は、第1から第3の3つのポート71a〜71cとを有する。第1切替部71は、第1ポート71aと第2ポート71bとが連通し、第3ポート71cが閉塞される状態と、第1ポート71aと第3ポート71cが連通し、第2ポート71bが閉塞される状態との何れかの状態に切替自在に構成される。
第2切替部72は、第1から第3の3つのポート72a〜72cとを有する。第2切替部72は、第1ポート72aと第2ポート72bとが連通し、第3ポート72cが閉塞される状態と、第1ポート72aと第3ポート72cが連通し、第2ポート72bが閉塞される状態との何れかの状態に切替自在に構成される。
気泡除去部81は、オイルに混入した気泡を除去する装置である。気泡除去部81としては、例えば、特開平11−333207号公報、又は特開2013−2031号公報に記載された装置を用いることができる。詳細には、気泡除去部81は、供給されたオイルに旋回流を生じさせることでオイルと気泡とを分離して、オイル内の気泡を除去するように構成されている。
制御部90は、CPU及びメモリ等により構成された電子ユニットである。制御部90は、メモリに保持された制御用プログラムをCPUで実行することによって、油圧制御装置1の作動を制御する。
内燃機関ENGによって駆動される大容量オイルポンプPbから第1油路R1に供給される油圧は、第1圧力制御弁11によって調圧されている。第1油路R1に供給される油圧が、第1圧力制御弁11のパイロット圧に応じた所定の圧力よりも高くなった場合、第1圧力制御弁11は、余剰量のオイルを被供給部3へ排出し、第1油路R1の油圧を所定の圧力に維持する。第1圧力制御弁11から排出されたオイルは、油圧制御装置1が搭載された車両の各種部材(低圧系)の潤滑又は冷却等に用いられた後、オイルタンクへ戻る。第1圧力制御弁11のパイロット圧は、第3圧力制御弁13から供給される。
第1油路R1は、第1切替部71の第1ポート71aに接続されている。第1切替部71の第2ポート71bには第21油路R21が接続され、第1切替部71の第3ポート71cには第22油路R22が接続されている。第1切替部71は、電力が供給されていない場合には第1ポート71aと第2ポート71bとが接続されることにより第1油路R1と第21油路R21とを連通させる。逆に、第1切替部71は、電力が供給されている場合には第1ポート71aと第3ポート71cとが接続されることにより第1油路R1と第22油路R22とを連通させる。
第21油路R21は、第24油路R24に合流する。第22油路R22は、気泡除去部81に入力される。気泡除去部81は、供給されたオイルの気泡を除去した後のオイルを第23油路R23に出力する。
第23油路R23は、第2切替部72の第1ポート72aに接続されている。なお、第23油路R23には、第3逆止弁43が介設されている。第3逆止弁43は、気泡除去部81から第2切替部72へのオイルの流れを許容し、第2切替部72から気泡除去部81へのオイルの流れを遮断するように構成されている。
第2切替部72の第3ポート72cは、オイルタンクにオイルを排出可能であり、第2切替部72の第2ポート72bは、第21油路R21が合流する第24油路R24に接続されている。第2切替部72は、電力が供給されていない場合には、第1ポート72aと第3ポート72cとを接続し、第23油路R23から供給されるオイルをオイルタンクに排出し、第2ポート72bを閉塞させる。逆に第2切替部72は、電力が供給されている場合には、第1ポート72aと第2ポート72bとを接続し、第23油路R23と第24油路R24とを連通させ、第3ポート72cを閉塞させる。
また、第24油路R24は、切替弁61の一次側ポートの一方61aに接続される。切替弁61の二次側ポート61cには、第2油路R2が接続される。また、第2油路R2は、第3油路R3と第4油路R4とに分岐している。第3油路R3は、小容量オイルポンプPs(電動機MOTによって駆動されるオイルポンプ)に連結される。
小容量オイルポンプPsは、第3油路R3から供給された油圧を更に加圧して第5油路R5に出力する。また、小容量オイルポンプPsは、第2逆止弁42を介して、オイルタンクから汲み上げたオイルを加圧して、第5油路R5に出力することも可能に構成されている。
第4油路R4の途中には、第1逆止弁41が設けられている。第4油路R4は、第5油路R5に連結される。第1逆止弁41は、第4油路R4と第2油路R2との連結点から第4油路R4と第5油路R5との連結点の方向にオイルが流れることを許容し、当該方向とは逆方向にオイルが流れることを阻止するように設けられている。
第4油路R4と第5油路R5は、第6油路R6及び第7油路R7に連結している。また、油圧計Dが、第4油路R4と第5油路R5との連結部分の油圧を測定できるように設けられている。
第6油路R6は、第2圧力制御弁12に連結されている。第2圧力制御弁12は、第6油路R6から供給された油圧を所定の圧力となるように減圧する。第2圧力制御弁12は、減圧した油圧を、第3圧力制御弁13、第4圧力制御弁14、第5圧力制御弁15、及び車両に搭載されたクラッチCの各々に供給する。
第3圧力制御弁13は、供給された油圧を第1圧力制御弁11のパイロット圧となるように減圧して、第1圧力制御弁11に出力する。第4圧力制御弁14は、供給された油圧を第6圧力制御弁16のパイロット圧となるように減圧して、第6圧力制御弁16に出力する。第5圧力制御弁15は、供給された油圧を第7圧力制御弁17のパイロット圧となるように減圧して、第7圧力制御弁17に出力する。
第7油路R7は、第6圧力制御弁16と第7圧力制御弁17に連結している。第6圧力制御弁16は、第7油路R7から供給された油圧を第4圧力制御弁14から供給されたパイロット圧に応じた所定の圧力に減圧し、入力側プーリDvに供給する。また、第6圧力制御弁16は、入力側プーリDvの油圧が前記所定の圧力以上となった場合、余剰量のオイルを第6圧力制御弁16のドレンポート(図示省略)から第10油路R10に排出することにより、入力側プーリDvの油圧を前記所定の圧力に維持する。第7圧力制御弁17は、第7油路R7から供給された油圧を第5圧力制御弁15から供給されたパイロット圧に応じた所定の圧力に減圧し、出力側プーリDrに供給する。また、第7圧力制御弁17は、出力側プーリDrの油圧が前記所定の圧力以上となった場合、余剰量のオイルを第7圧力制御弁17のドレンポート(図示省略)から第10油路R10に排出することにより、出力側プーリDrの油圧を前記所定の圧力に維持する。
入力側プーリDvの幅を広くするとき、入力側プーリDvからオイルが排出される。この排出されたオイルが第6圧力制御弁16に流入し、第6圧力制御弁16のドレンポート(図示省略)から第10油路R10に排出される。出力側プーリDrの幅を広くするとき、出力側プーリDrからオイルが排出される。この排出されたオイルが第7圧力制御弁17に流入し、第7圧力制御弁17のドレンポート(図示省略)から第10油路R10に排出される。
第10油路R10は、第8圧力制御弁18及び切替弁61の一次側ポートの他方61bに連結されている。切替弁61には、2つの一次側ポート61a,61bに、第24油路R24及び第10油路R10が連結されており、二次側ポート61cに第2油路R2が連結されている。従って、切替弁61は、第24油路R24及び第10油路R10のうち高い油圧の油路と、第2油路R2とを連通する。
また、第8油路R8は、第6圧力制御弁16のパイロット圧となるように第4圧力制御弁14から出力される油圧を、方向制御弁21の第1ポート21a及び第4ポート21dに供給するように接続される。第9油路R9は、第7圧力制御弁17のパイロット圧となるように第5圧力制御弁15から出力される油圧を、方向制御弁21の第2ポート21b及び第5ポート21eに供給するように接続される。
また、第11油路R11は、方向制御弁21の第3ポート21cに連結される。従って、第11油路R11の油圧は、方向制御弁21によって、第8油路R8及び第9油路R9の油圧のうち低い方の油圧となる。
第11油路R11の油圧は、第8圧力制御弁18のパイロット圧となる。従って、第10油路R10の油圧は、入力側プーリDvに供給される油圧、及び出力側プーリDrに供給される油圧のうち低い方の油圧になるように、第8圧力制御弁18によって調圧される。なお、第10油路R10の油圧は、入力側プーリDvに供給される油圧、及び出力側プーリDrに供給される油圧のうち低い方の油圧以下に設定されてもよい。
第10油路R10には、入力側プーリDv及び出力側プーリDrのうち幅が広くなる方のプーリから排出されたオイルが流れる。このとき排出されたオイルは、加圧された状態でプーリの油室に入っていたオイルであり、圧力が加えられた状態である。このように、既に圧力が加えられたオイルを小容量オイルポンプPsに供給すれば、オイルタンク内のオイルのように圧力が加えられていない状態のオイルを、大容量オイルポンプPbで加圧して小容量オイルポンプPsに供給する場合に比べて、油圧制御装置1のエネルギ消費量を低減できる。
また、切替弁61によって、第10油路R10の油圧が、大容量オイルポンプPbからの油圧(すなわち、第21油路R21又は第24油路R24の油圧)よりも高い場合には、大容量オイルポンプPbから供給される油圧よりも高い油圧が、小容量オイルポンプPsに供給される。この場合には、小容量オイルポンプPsが大容量オイルポンプPbから供給されるオイルを加圧する場合に比べて、少ない圧力をオイルに加えるだけでよい。このため、小容量オイルポンプPsを駆動するときのエネルギ消費量を低減できる。
一方で、油圧作動部2に供給するオイルの流量(以下、「高圧流量」という。)が大きくなると、小容量オイルポンプPsを用いることなく大容量オイルポンプPbのみを用いて高油圧を油圧作動部2に供給した方が油圧制御装置1のエネルギ消費量が小さくなる場合がある。これは、小容量オイルポンプPsが大流量のオイルを供給しようとすることで、小容量オイルポンプPs及びそれを駆動する電動機MOTに大きな負荷が作用し、電動機MOTの電力損失が大きくなるからである。本実施形態においては、このような場合に小容量オイルポンプPsを介さずに第4油路R4を通じて(このとき第1逆止弁41が開く)大容量オイルポンプPbから油圧作動部2に直接オイルを供給可能に構成されている。このとき、大容量オイルポンプPbからの油圧(すなわち、第21油路R21又は第24油路R24の油圧)が、第10油路R10の油圧よりも高くなり、切替弁61は、第24油路R24と第2油路R2とを連通し、第10油路R10と第2油路R2との連通を解除する。
また、加圧されたオイルを貯蔵するアキュムレータAが、第7油路R7に、該加圧されたオイルを供給可能に設けられている。アキュムレータAは、図1に示される油圧回路を流れるオイルが、該油圧回路の外部に漏出する流量であるリーク流量Q_leakに応じた流量のオイルを、該油圧回路内に補填する。これにより、リーク流量Q_leak分のオイルとして、アキュムレータAから圧力が加えられたオイルを補填できるので、リーク流量Q_leak分のオイルを、圧力が加えられていない状態のオイル(例えば、オイルタンク内のオイル)を加圧して補填する場合に比べて、小容量オイルポンプを駆動するときのエネルギ消費量を低減できる。
ここで、リーク流量Q_leakは、第1〜第8流量制御弁11〜18,方向制御弁21と、クラッチC、入力側プーリDv及び出力側プーリDrとから該油圧回路の外部に漏出するオイルの総流量である。アキュムレータAは、少なくともリーク流量Q_leakを供給可能に構成されている。
(2.油圧制御装置の作動)
次に、油圧制御装置1の作動を、該油圧制御装置1が搭載された車両の状態(「クルーズ時」、「通常変速時」、「急変速時」、「アイドリングストップ時」、及び「電気系統異常時」)毎に説明する。
ここで、クルーズ時とは、油圧制御装置1が搭載された車両の走行速度が比較的一定に維持されており、無段変速機Tの変速比の変更が殆ど無いときである。通常変速時とは、例えば、無段変速機Tの変速比を通常の速度で変更するときである。このとき、変速比の変更速度は、急変速時に比べて遅い。
また、アイドリングストップ時とは、内燃機関ENGの作動が停止しているときである。電気系統異常時とは、油圧制御装置1が搭載された車両の電気系統に異常が生じているときである。このとき、例えば、リニアソレノイドにより駆動される第3〜第5の圧力制御弁13〜15による油圧の調整等ができない。
(2−1.クルーズ時)
クルーズ時における油圧制御装置1の作動について説明する。なお、本実施形態において所定流量αとは、大容量オイルポンプPbと小容量オイルポンプPsの両者を用いて高い油圧を生成する方がエネルギ効率が良いときの高圧流量の領域と、小容量オイルポンプPsを用いることなく大容量オイルポンプPbのみを用いた方がエネルギ効率が良いときの高圧流量の領域との境界の流量を意味する。
クルーズ時においては、無段変速機Tの変速比が殆ど変化しないので、入力側プーリDv及び出力側プーリDrからオイルが排出されること(ひいては、第10油路R10をオイルが流れること)が殆どない。従って、第24油路R24の方が第10油路R10よりも油圧が高くなり、切替弁61は、第24油路R24と第2油路R2とを連通する。また、クルーズ時においては、高圧流量Lが所定流量αより少なくなる。このため、大容量オイルポンプPbだけでなく小容量オイルポンプPsも作動させることで、油圧制御装置1のエネルギ効率を向上できる。
ここで、第6油路R6及び第7油路R7に供給される油圧、すなわちライン圧をP_lineで表し、大容量オイルポンプPbから第24油路R24(又は第21油路R21)及び第2油路R2を介して、小容量オイルポンプPsに供給される油圧をP_pbで表す。
クルーズ時においては、油圧が、「オイルタンク→大容量オイルポンプPb(油圧の無い状態からP_pbまで加圧)→第1油路R1→第21油路R21→第24油路R24→第2油路R2→第3油路R3→小容量オイルポンプPs(P_pbからP_lineまで加圧)→第5油路R5→第7油路R7」を介して、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給される。
(2−2.通常変速時)
図2を参照して、通常変速時における油圧制御装置1の作動について説明する。
通常変速時においては、無段変速機Tの変速比が変化することで、入力側プーリDv及び出力側プーリDrのいずれかから排出されるオイルの流量がクルーズ時と比較して大きい。
そのため、第10油路R10には入力側プーリDv及び出力側プーリDrのうち幅が広くなる方のプーリから排出されたオイルが流れ、当該油路の油圧は、入力側プーリDv及び出力側プーリDrの油圧のうち低い方の油圧となる。
通常変速時においては、高圧流量Lが所定流量αより小さいので、小容量オイルポンプPsを作動させることで、油圧制御装置1のエネルギ効率を向上できる。
このとき、本実施形態において、第10油路R10に供給される油圧は、大容量オイルポンプPbから出力された油圧よりも高くなり、切替弁61は、第10油路R10と第2油路R2とを連通させた状態となる。従って、入力側プーリDv及び出力側プーリDrのいずれかから排出されたオイルが、第10油路R10と第2油路R2とを介して、小容量オイルポンプPsに供給される。
ここで、大容量オイルポンプPbで加圧された油圧P_pbに対し、入力側プーリDv及び出力側プーリDrの油圧のうち低い方の油圧をPLで表す。このとき、PL>P_pbであるから、小容量オイルポンプPsが加圧する分の圧力ΔPは、「P_line−PL」となる。すなわち、クルーズ時と比較して小容量オイルポンプPsが加圧する分の圧力ΔPを、「PL−P_pb」だけ減少させることができる。また、小容量オイルポンプPsを駆動するトルクτは、「ΔP・V/2π」となる。従って、クルーズ時と比較して小容量オイルポンプPsを駆動するトルクτを、「(PL−P_pb)・V/2π」だけ減少させることができる。
このように、各オイルポンプを効率よく駆動することで、油圧制御装置1のエネルギ効率を向上できる。
通常変速時においては、オイルが、「第10油路R10→第2油路R2→第3油路R3→小容量オイルポンプPs(PLからP_lineまで加圧)→第5油路R5→第7油路R7→入力側プーリDv又は出力側プーリDr→第10油路R10→…」という閉回路(以下、「油圧閉回路」という)を循環するように流れる。これにより、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに油圧が供給される。
(2−3.急変速時)
急変速時における油圧制御装置1の作動について説明する。
急変速時においては、無段変速機Tの変速比を急激に変化させる必要があり、入力側プーリDv及び出力側プーリDrのいずれかに供給するオイルの流量が非常に多く、高圧流量Lが所定流量αより多くなる。従って、小容量オイルポンプPsの作動を停止し、大容量オイルポンプPbのみを作動させる。これにより、油圧制御装置1のエネルギ効率を向上できる。
急変速時においては、油圧が、「オイルタンク→大容量オイルポンプPb(油圧の無い状態からP_lineまで加圧)→第1油路R1→第21油路R21→第24油路R24→第2油路R2→第4油路R4→第7油路R7」を介して、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給される。
(2−4.アイドリングストップ時)
アイドリングストップ時における油圧制御装置1の作動について説明する。
アイドリングストップ時においては、内燃機関ENGが停止しているので、大容量オイルポンプPbの作動も停止する。従って、小容量オイルポンプPsが、オイルタンクのオイルを汲み上げて(このとき、第2逆止弁42が開く)、加圧したオイルを入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給する。
詳細には、アイドリングストップ時において、油圧が、「オイルタンク→小容量オイルポンプPs(油圧の無い状態からP_lineまで加圧)→第5油路R5→第7油路R7」を介して、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給される。
(2−5.電気系統異常時)
電気系統異常時における油圧制御装置1の作動について説明する。
電気系統異常時には、リニアソレノイドにより駆動される第3〜第5の圧力制御弁13〜15による油圧の調整等ができない。しかしながら、本実施形態においては、第3〜第5の圧力制御弁13〜15が、ノーマルオープンタイプの弁として構成されている。
従って、電気系統異常時において、無段変速機Tの変速比を調整することはできないが、入力側プーリDv及び出力側プーリDrに、一定の油圧を供給することができるので、車両の走行を継続することができる。
詳細には、電気系統異常時において、油圧が、「オイルタンク→大容量オイルポンプPb(油圧の無い状態からP_lineまで加圧)→第1油路R1→第21油路R21→第24油路R24→第2油路R2→第4油路R4→第7油路R7」を介して入力側プーリDv及び出力側プーリDrに供給される。
(3.気泡除去)
次に、通常変速時(図2参照)のように、油圧閉回路が形成されている状態において、オイルに混入している気泡を除去する制御について説明する。
図3は、制御部90によって実行される気泡を除去する制御処理の処理手順を示すフローチャートである。制御部90は、図3に示されるフローチャートを所定時間毎に実行する。
制御部90は、まず最初のステップST1で、オイルに気泡が混入しているか否かを判定する。制御部90は、この判定として、例えば、油圧閉回路が形成されて油圧作動部2へ油圧を供給している時間が、所定時間継続しているときに、オイルに気泡が混入していると判定する。なお、オイルに気泡が混入しているか否かの判定は、これに限らない。
制御部90は、ステップST1で、オイルに気泡が混入していないと判定した場合には、ステップST2に進み、第1切替部71及び第2切替部72をオフにする。ここで、各切替部71,72において、オフとは、電力供給がなされていないことを表す。また、各切替部71,72において、オンとは、電力供給がなされていることを表す。ステップST2が実行されることで、油圧閉回路が維持された状態を継続する。制御部90は、ステップST2の処理が終了すると、本フローチャートを終了する。
制御部90は、ステップST1で、オイルに気泡が混入していると判定した場合には、ステップST3に進み、第1切替部71をオンにする。
以下、図4を参照して、ステップST3の処理が実行された後のオイルの流れについて説明する。第1切替部71がオンになったので、第1油路R1と、第22油路R22とが連通される。また、この時点では、第2切替部72はオフであるので、第23油路R23を流れるオイルは、オイルタンクに排出される。すなわち、気泡除去部81を通過したオイルは、第23油路R23を介してオイルタンクに排出される。
制御部90は、ステップST3の処理が終了するとステップST4に進み、気泡除去部81の作動によってオイルに旋回流が生成されているか否かを判定する。制御部90は、この判定として、例えば、第1切替部71がオンになり気泡除去部81をオイルが通過している時間が所定時間継続しているときに、気泡除去部81を通過するオイルに旋回流が生成されていると判定する。なお、オイルに旋回流が発生しているか否かの判定手法はこれに限らない。
制御部90は、ステップST4で、オイルに旋回流が生成されていないと判定した場合には、本フローチャートを終了する。
制御部90は、ステップST4で、オイルに旋回流が生成されていると判定した場合には、ステップST5に進む。制御部90は、ステップST5で、第2切替部72をオンにする。これにより、図5に示されるように、第23油路R23と第24油路R24とが連通され、気泡除去部81によって気泡が除去されたオイルを、油圧作動部2(ひいては、油圧閉回路側)に供給することが可能となる。
制御部90は、オイルに気泡が混入されていないと判定されるときには(ステップST1の判定結果がNOのときには)、オイルポンプから供給されたオイルを、気泡除去部81を通過させずに油圧閉回路に供給するように第1切替部71及び第2切替部72をオフにする(ステップST2)。また、制御部90は、オイルに気泡が混入されていると判定されるときには、大容量オイルポンプPbから供給されたオイルを、気泡除去部81を通過させてから油圧閉回路側に供給するように、第1切替部71をオンにする(ステップST3)。これにより、油圧閉回路内を流れるオイルに気泡が混入した場合に、該混入した気泡を除去できる。
更に、制御部90は、オイルに気泡が混入されていると判定されるときにのみ気泡除去部81による気泡の除去を行えばよい。気泡除去部81による気泡の除去をするときには、オイルの流れに対して抵抗が生じるため、気泡の除去をしないものに比べて、エネルギ消費量が増加する。従って、オイルに気泡が混入しているか否かに拘らず、気泡除去部81を通過させる必要があるもの、すなわち、常に気泡除去部81を作動させる必要があるものに比べて、油圧制御装置1のエネルギ効率を向上させることができる。
また、制御部90は、気泡が混入していると判定した直後(ステップST1の判定結果がNOからYESになった直後)では、第1切替部71のみをオンにし、第2切替部72はオンにしていない。そして、オイルに旋回流が生成されていると判定したときに(ステップST4の判定結果がYESのときに)、第2切替部72をオンにしている。
これは、気泡除去部81が、供給されたオイルに旋回流を生じさせることでオイルと気泡とを分離して、オイル内の気泡を除去するように構成されているからである。すなわち、オイルに旋回流が発生するまでは、オイルと気泡とを充分に分離できていない。このように気泡を充分に分離できていない状態のオイルを油圧閉回路側に供給すると、気泡を油圧閉回路内に供給することになってしまう。
このため、オイルと気泡とを充分に分離できていない状態では、油圧閉回路にオイルを供給することを停止し、オイルに旋回流が発生した(すなわち、オイルと気泡とが充分に分離された)後に、油圧閉回路に気泡が除去されたオイルを供給するように第2切替部72をオンにする。これにより、油圧閉回路内に気泡が混入したオイルが流入されることを防止できる。
(4.変形例)
本実施形態においては、気泡除去部81は、供給されたオイルに旋回流を生じさせることでオイルと気泡とを分離して、オイル内の気泡を除去するように構成されているが、これに限らない。気泡除去部の構成によっては、第2切替部を設けなくてもよい。
また、本実施形態においては、大容量オイルポンプPbの駆動源として内燃機関ENGが設けられ、小容量オイルポンプPsの駆動源として電動機MOTが設けられているが、これらの各オイルポンプの駆動源は、これに限らない。
また、大容量オイルポンプの駆動源及び小容量オイルポンプの駆動源がいずれも内燃機関であってもよい。この場合、小容量オイルポンプとしては、供給するオイルの流量及び圧力が可変に構成された可変容量式のオイルポンプであってもよい。
また、本実施形態の油圧制御装置1は、無段変速機Tの入力側プーリDv及び出力側プーリDrに油圧を供給しているが、他の部材(例えば、高油圧で作動する前後進切替機構の前後進クラッチ、又は発進クラッチなど)に油圧を供給してもよい。
また、閉回路を有している油圧回路であれば、本発明の油圧制御装置を適用できる。