本実施形態に係る透明積層フィルムについて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る透明積層フィルムの断面図である。図1に示すように、透明積層フィルム10は、透明高分子フィルム12と、透明積層部14と、粘着剤層16と、保護層18と、を有している。透明積層部14は、透明高分子フィルム12の面上に設けられている。粘着剤層16は透明積層部14に接して設けられている。保護層18は透明高分子フィルム12の透明積層部14が形成されている面とは反対の面上に設けられている。なお、保護層18は必要に応じて設ければよい。また、使用前(フィルム施工前)には、粘着剤層16の面上にセパレータ(離型フィルム)20が設けられていてもよい。
図2に示すように、透明積層フィルム10は、粘着剤層16を介して窓ガラスなどの透明基材22に貼り付けられる。すると、透明高分子フィルム12の透明積層部14が形成されている面とは反対の面上に設けられている保護層18が表面に現れる。透明積層フィルム10は、通常、室内側に配置する。屋外から差し込む日射は透明積層部14により反射されるので、透明積層フィルム10は良好な日射遮蔽性を有する。また、透明積層部14により室内における冷暖房効果が向上するので、透明積層フィルム10は優れた断熱性を備える。
本発明に係る透明積層フィルムは、粘着剤層を介してガラス面に貼り付けた状態において入射角80度、光学櫛の幅0.125mmの条件でJIS K7374に準拠して測定される像鮮明度が80%以上となるものである。このときの像鮮明度が80%以上であると、微小な歪みが少なく、車両の窓ガラスに貼ったときに優れた眺望性が確保される。
光学櫛は、スリット間隔の異なる複数のスリット(0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を有するものであり、像鮮明度は、光学櫛をスリットの並ぶ方向に移動させながら光透過部での最高光量と遮光部での最低光量から以下の式を用いて計算される。
C(n)=(M−m)/(M+m) (%)
ただし、
C(n):光学櫛のスリット間隔n(mm)のときの像鮮明度(%)
M:光学櫛のスリット間隔n(mm)のときの最高光量
m:光学櫛のスリット間隔n(mm)のときの最低光量
像鮮明度は、像鮮明度の差が現れやすい、スリット間隔nの小さい(0.125mm)ときの値を求める。また、透明積層フィルムは、面の平滑状態が悪いとフィルムの繰り出し方向(MD方向)にスジが発生し、MD方向の像鮮明度が特に悪くなりやすい。MD方向の像鮮明度と繰り出し方向に直交する方向(TD方向)の像鮮明度が近いほどより平滑な面であるといえる。よって、像鮮明度は、MD方向の像鮮明度とTD方向の像鮮明度の平均値とする。なお、MD方向の像鮮明度とは、光学櫛のスリットが延びる方向にフィルムの繰り出し方向(MD方向)を合わせたときに算出される像鮮明度であり、TD方向の像鮮明度とは、光学櫛のスリットが延びる方向にTD方向を合わせたときに算出される像鮮明度である。
像鮮明度の測定に際し、透明積層フィルムを貼り付ける板ガラスには、厚み3mmのフロートガラスを用いる。透明積層フィルムを室内側に貼り付けることを想定して、光源からの光は透明積層フィルムを貼り付けた面と反対側のガラス面から入射させる。光源からの光の入射角を80度とするのは、自動車等の車両のフロントガラスの取付角が10度であることを想定したものである。また、光の入射角に角度をつけたことで、観測される歪みがより強調されるため、微小な歪みをより計測しやすくなっている。
像鮮明度(微小な歪み)は、光の入射面となる粘着剤層の表面状態に影響を受けやすい。図3に示すように、従来の透明積層フィルム30は、透明高分子フィルム12の面上に透明積層部14と熱可塑性樹脂からなるトップコート層24と粘着剤層26とをこの順で有し、透明高分子フィルム12の透明積層部14が形成されている面とは反対の面上に保護層18を有する。トップコート層24および粘着剤層26は塗工形成するものであり、塗工形成したトップコート層24の面上に粘着剤層26を塗工形成することができない。このため、粘着剤層26はセパレータ20の面上に塗工形成する。よって、従来の透明積層フィルム30は、透明高分子フィルム12の面上に透明積層部14とトップコート層24を形成したものと、セパレータ20の面上に粘着剤層26を形成したものと、を貼り合わせることにより形成する。セパレータ20は離型性の点から表面凹凸が大きいため、セパレータ20の面上に粘着剤層26を塗工形成すると、セパレータ20を剥がした後の粘着剤層26の面上に凹凸が転写される。粘着剤層26のこの転写面が、透明基材22に貼り付ける面となり、光の入射面となる。このため、従来の透明積層フィルム30は、粘着剤層26に形成された表面凹凸が微小な歪みとして観測され、像鮮明度の低下による眺望性の悪化という問題が生じることがあった。
したがって、本発明において像鮮明度を向上させるには、光の入射面となる粘着剤層の表面を平滑にするとよい。このためには、1)セパレータではなく平滑な透明積層部が形成されている透明高分子フィルム側に粘着剤層を塗工形成する、2)粘着剤層の厚みを薄く制御する、3)粘着剤層を形成する材料の固形分の割合を小さくして塗工液の乾燥までの時間を長く制御する、4)塗工時の線速を小さく制御する、などの工夫が必要である。なお、粘着剤層を形成する材料の固形分の割合が小さいと、粘着剤層の厚みを薄くしやすい。
1)の方法によれば、粘着剤層の表面凹凸が小さくなり、歪みが改善される。2)の方法によれば、塗工液の垂れが抑えられ、歪みが改善される。3)の方法によれば、塗工液の粘度が低くなり、乾燥時の塗膜のレベリング性が向上して、表面凹凸が軽減し、歪みが改善される。また、液分の割合が大きいことで、乾燥までの時間を長くでき、乾燥時の塗膜のレベリング性が向上して、表面凹凸が軽減し、歪みが改善される。4)の方法によれば、乾燥時の塗膜のレベリング性が向上して、表面凹凸が軽減し、歪みが改善される。1)〜4)の各方法は、像鮮明度の向上に有効な方法であるが、これらのうちのいずれか1つを採用することで像鮮明度を本発明の特定範囲内にできるものではなく、これらの方法を組み合わせることが必要である。これらの方法を組み合わせることにより、像鮮明度を本発明の特定範囲内に調整することができる。
塗工に用いる装置としてはダイコータやリバースコータなどを用いることができる。
平滑な透明積層部の面上に平滑な層を有する構成であれば、粘着剤層は平滑な透明積層部の面上に直接塗工形成しなくてもよいが、他の平滑な層を形成しなくて良い点において、粘着剤層を直接塗工形成するほうがより好ましい。また、本発明では、透明積層部の形成に引き続き粘着剤層の形成を行うことができることから、従来、透明積層部の面上に形成していたトップコート層を形成しなくてよい。なお、平滑性の観点から、透明積層部は、表面粗さRaが0.14μm以下であることが好ましい。後述する透明積層部の製造方法によると、透明積層部の表面粗さを上記範囲内に設定しやすい。
粘着剤層の厚みとしては、歪みが改善されやすい、剥がしやすい(リワーク性に優れる)などの観点から、30μm以下であることが好ましい。より好ましくは22μm以下である。また、粘着性に優れるなどの観点から、2μm以上であることが好ましい。より好ましくは5μm以上である。
粘着剤層を形成する材料は、粘着剤層を塗工形成する点から、固形分としての粘着剤と液分とを少なくとも含むことが好ましい。また、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。粘着剤としては、アクリル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。液分としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエンなどの溶剤が挙げられる。
固形分濃度としては、粘着剤の種類にもよるが、塗工液の乾燥までの時間を長く制御するなどの観点から、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは28質量%以下である。一方、固形分濃度が低すぎると、乾燥時に対流が起こりやすくなり、乾燥ムラが生じて乾燥後の表面にゆず肌状の凹凸が形成されやすくなる。したがって、粘着剤層の厚みを十分に確保する、ゆず肌状の表面凹凸を抑えるなどの観点から、12質量%以上であることが好ましい。より好ましくは14質量%以上である。
粘着剤層を形成する塗工液の粘度としては、塗膜のレベリング性に優れるなどの観点から、2000Pa・s以下であることが好ましい。より好ましくは1500Pa・s以下である。一方、粘着剤層の厚みを十分に確保する、ゆず肌状の表面凹凸を抑えるなどの観点から、0.08Pa・s以上であることが好ましい。より好ましくは0.1Pa・s以上である。なお、塗工液の粘度は塗工時の温度(23℃)における粘度であり、DIN 53 211に準拠する粘度計(ディップカップ)を用いて測定される。この際、モデル321(DIN 53 211)のオリフィス径No.1〜5のいずれか1つを選択し、試料の流下した瞬間から流下完了までの時間を測定し、流出時間/粘度関係図より粘度を特定する。
粘着剤層を形成する塗工液の塗工時の線速としては、塗膜のレベリング性に優れるなどの観点から、30m/min以下であることが好ましい。より好ましくは25m/min以下である。なお、塗工液の塗工時の線速の下限としては、特に限定されるものではないが、10m/min以上とすることができる。
透明高分子フィルムは、透明積層部を形成するためのベースとなる基材である。透明高分子フィルムの材料としては、可視光領域において透明性を有し、その表面に薄膜を支障なく形成できるものであれば、特に限定されるものではない。
透明高分子フィルムの材料としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、透明性、耐久性、加工性に優れるなどの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマーがより好ましい材料として挙げられる。
透明積層部は、透明高分子フィルム側から金属酸化物薄膜・金属薄膜・金属酸化物薄膜・・・の順で金属酸化物薄膜と金属薄膜とが交互に積層された多層積層構造のものからなる。透明高分子フィルム側の最内層と透明高分子フィルムとは反対側の最外層には金属酸化物薄膜が配置されていることが好ましい。金属薄膜の一方面または両面には、さらにバリア膜が形成されていてもよい。バリア膜は金属薄膜に付随する薄膜層であり、金属薄膜とともに1層として数える。バリア膜は、金属薄膜を構成する元素が金属酸化物薄膜中に拡散するのを抑制する。
金属酸化物薄膜は、金属薄膜とともに積層されることで透明性を高める(可視光領域で透過性に優れる)などの機能を発揮するものであり、主として高屈折率層として機能しうるものである。高屈折率とは、633nmの光に対する屈折率が1.7以上ある場合をいう。金属薄膜は、主として日射遮蔽層として機能しうる。このような透明積層部により、良好な可視光透過性(透明性)、日射遮蔽性、断熱性を有する。
なお、透明積層部の層数は、可視光透過性(透明性)、日射遮蔽性、断熱性などの光学特性やフィルム全体の表面抵抗値などの電気特性の求めなどに応じて適宜設定すればよい。透明積層部の層数としては、各薄膜の材料や膜厚、製造コストなどを考慮すると、2〜10層の範囲内であることが好ましい。また、光学特性を考慮すると、奇数層がより好ましく、特に3層、5層、7層が好ましい。
保護層は、耐擦傷性を高めるものなどとして用いられる。保護層の硬化樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。具体的には、アクリル樹脂、アクリル・ウレタン樹脂、シリコンアクリル樹脂、アクリル・メラミン樹脂などが挙げられる。
保護層の厚みとしては、断熱性(熱貫流率を低く抑える)などの観点から、2.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.6μm以下である。また、耐擦傷性に優れるなどの観点から、1.0μm以上であることが好ましい。より好ましくは1.3μm以上である。
以下、透明積層部の金属酸化物薄膜、金属薄膜、バリア膜について詳細に説明する。
透明積層部の金属酸化物薄膜の金属酸化物としては、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などが挙げられる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複合酸化物であっても良い。これらのうちでは、可視光に対する屈折率が比較的大きいなどの観点から、チタンの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、亜鉛の酸化物、スズの酸化物などが好ましい。
金属酸化物薄膜は、気相法、液相法の何れでも形成することができる。液相法は、気相法と比較して、真空引きしたり、大電力を使用したりする必要がない。そのため、その分、コスト的に有利であり、生産性にも優れているので好適である。液相法としては、有機分を残存させやすいなどの観点から、ゾル−ゲル法を好適に利用することができる。
金属酸化物薄膜は、主として上述した金属酸化物より構成されているが、金属酸化物以外にも、有機分を含有していても良い。有機分を含有することで、透明積層フィルムの柔軟性をより向上させることができるためである。この種の有機分としては、具体的には、例えば、ゾル−ゲル法の出発原料に由来する成分等、金属酸化物薄膜の形成材料に由来する成分などを例示することができる。
上記有機分としては、より具体的には、例えば、金属酸化物を構成する金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどといった有機金属化合物(その分解物なども含む)や、上記有機金属化合物と反応して紫外線吸収性のキレートを形成する有機化合物(後述する)等の各種添加剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の下限値は、柔軟性を付与しやすいなどの観点から、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、7質量%以上であると良い。一方、金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の上限値は、高屈折率を確保しやくなる、耐溶剤性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、30質量%以下、より好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下であると良い。有機分の含有量は、X線光電子分光法(XPS)などを用いて調べることができる。また、上記有機分の種類は、赤外分光法(IR)(赤外吸収分析)などを用いて調べることができる。
上記ゾル−ゲル法としては、より具体的には、例えば、金属酸化物を構成する金属の有機金属化合物を含有するコーティング液を薄膜状にコーティングし、これを必要に応じて乾燥させ、金属酸化物薄膜の前駆体薄膜を形成した後、この前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させ、有機金属化合物を構成する金属の酸化物を合成するなどの方法を例示することができる。これによれば、金属酸化物を主成分として含み、有機分を含有する金属酸化物薄膜を形成することができる。以下、上記方法について詳細に説明する。
上記コーティング液は、上記有機金属化合物を適当な溶媒に溶解して調製することができる。この際、有機金属化合物としては、具体的には、例えば、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、セリウム、シリコン、ハフニウム、鉛などの金属の有機化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記有機金属化合物としては、具体的には、例えば、上記金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどを例示することができる。好ましくは、空気中での安定性などの観点から、金属キレートであると良い。
上記有機金属化合物としては、とりわけ、高屈折率を有する金属酸化物になり得る金属の有機化合物を好適に用いることができる。このような有機金属化合物としては、例えば、有機チタン化合物などを例示することができる。
上記有機チタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのM−O−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアルコキシドや、イソプロポキシチタンステアレートなどのM−O−CO−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアシレートや、ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート、ジヒドロキシビスラクタトチタン、ジイソプロポキシビストリエタノールアミナトチタン、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタトチタンなどのチタンのキレートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。また、これらは単量体、多量体の何れであっても良い。
上記コーティング液中に占める有機金属化合物の含有量は、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、1〜20質量%、より好ましくは、3〜15質量%、さらに好ましくは、5〜10質量%の範囲内にあると良い。
また、上記有機金属化合物を溶解させる溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどの有機酸エステル、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのシクロエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ヘキサンなどの炭化水素類、トルエンなどの芳香族類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
この際、上記溶媒量は、上記有機金属化合物の固形分重量に対して、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、5〜100倍量、より好ましくは、7〜30倍量、さらに好ましくは、10〜20倍量の範囲内であると良い。
上記溶媒量が100倍量より多くなると、一回のコーティングで形成できる膜厚が薄くなり、所望の膜厚を得るために多数回のコーティングが必要となる傾向が見られる。一方、5倍量より少なくなると、膜厚が厚くなり過ぎ、有機金属化合物の加水分解・縮合反応が十分に進行し難くなる傾向が見られる。したがって、上記溶媒量は、これらを考慮して選択すると良い。
上記コーティング液の調製は、例えば、所定割合となるように秤量した有機金属化合物と、適当な量の溶媒と、必要に応じて添加される他の成分とを、攪拌機などの撹拌手段により所定時間撹拌・混合するなどの方法により調製することができる。この場合、各成分の混合は、1度に混合しても良いし、複数回に分けて混合しても良い。
また、上記コーティング液のコーティング法としては、均一なコーティングが行いやすいなどの観点から、マイクログラビア法、グラビア法、リバースロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法など、各種のウェットコーティング法を好適なものとして例示することができる。これらは適宜選択して用いることができ、1種または2種以上併用しても良い。
また、コーティングされたコーティング液を乾燥する場合、公知の乾燥装置などを用いて乾燥させれば良く、この際、乾燥条件としては、具体的には、例えば、80℃〜120℃の温度範囲、0.5分〜5分の乾燥時間などを例示することができる。
また、前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段としては、具体的には、例えば、紫外線、電子線、X線等の光エネルギーの照射、加熱など、各種の手段を例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらのうち、好ましくは、光エネルギーの照射、とりわけ、紫外線照射を好適に用いることができる。他の手段と比較した場合、低温、短時間で金属酸化物を生成できるし、熱劣化など、熱による負荷を透明高分子フィルムに与え難いからである(とりわけ、紫外線照射の場合は、比較的簡易な設備で済む利点がある。)。また、有機分として、有機金属化合物(その分解物なども含む)などを残存させやすい利点もあるからである。
さらには、ゾルゲル硬化時に光エネルギーを用いるゾル−ゲル法を採用した場合には、スパッタ等により形成した金属酸化物薄膜に比べ、粗な金属酸化物薄膜とすることができる。そのため、建築物の窓ガラスに透明積層フィルムを水貼り施工した場合に、窓ガラスとの間に水が残ったときでも、良好な水抜け性が得られ、水貼り施工性を向上させることができるなどの利点があるからである。
この際、用いる紫外線照射機としては、具体的には、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプなどを例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
また、照射する光エネルギーの光量は、前駆体薄膜を主に形成している有機金属化合物の種類、前駆体薄膜の厚みなどを考慮して種々調節することができる。もっとも、照射する光エネルギーの光量が過度に小さすぎると、金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り難くなる。一方、照射する光エネルギーの光量が過度に大きすぎると、光エネルギーの照射の際に生じる熱により透明高分子フィルムが変形することがある。したがって、これらに留意すると良い。
照射する光エネルギーが紫外線である場合、その光量は、金属酸化物薄膜の屈折率、透明高分子フィルムが受けるダメージなどの観点から、測定波長300〜390nmのとき、好ましくは、300〜8000mJ/cm2、より好ましくは、500〜5000mJ/cm2の範囲内であると良い。
なお、前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段として、光エネルギーの照射を用いる場合、上述したコーティング液中に、有機金属化合物と反応して光吸収性(例えば、紫外線吸収性)のキレートを形成する有機化合物等の添加剤を添加しておくと良い。出発溶液であるコーティング液中に上記添加剤が添加されている場合には、予め光吸収性キレートが形成されたところに光エネルギーの照射がなされるので、比較的低温下において金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り得やすくなるからである。
上記添加剤としては、具体的には、例えば、βジケトン類、アルコキシアルコール類、アルカノールアミン類などの添加剤を例示することができる。より具体的には、上記βジケトン類としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、マロン酸ジエチルなどを例示することができる。上記アルコキシアルコール類としては、例えば、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシ−2−プロパノールなどを例示することができる。上記アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
これらのうち、とりわけ、βジケトン類が好ましく、中でもアセチルアセトンを最も好適に用いることができる。
また、上記添加剤の配合割合としては、屈折率の上がりやすさ、塗膜状態での安定性などの観点から、上記有機金属化合物における金属原子1モルに対して、好ましくは、0.1〜2倍モル、より好ましくは、0.5〜1.5倍モルの範囲内にあると良い。
金属酸化物薄膜の膜厚は、日射遮蔽性、視認性、反射色などを考慮して調節することができる。金属酸化物薄膜の膜厚の下限値は、反射色の赤色や黄色の着色を抑制しやすくなる、高透明性が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは、10nm以上、より好ましくは、15nm以上、さらに好ましくは、20nm以上であると良い。一方、金属酸化物薄膜の膜厚の上限値は、反射色の緑色の着色を抑制しやすくなる、高透明性が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは、90nm以下、より好ましくは、85nm以下、さらに好ましくは、80nm以下であると良い。
金属薄膜の金属としては、銀、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、ニオブ、タンタル、タングステン、ジルコニウム、鉛、パラジウム、インジウムなどの金属や、これら金属の合金などが挙げられる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
金属薄膜の金属としては、積層時の可視光透過性、熱線反射性、導電性などに優れるなどの観点から、銀または銀合金が好ましい。より好ましくは、熱、光、水蒸気などの環境に対する耐久性が向上するなどの観点から、銀を主成分とし、銅、ビスマス、金、パラジウム、白金、チタンなどの金属元素を少なくとも1種以上含んだ銀合金であると良い。さらに好ましくは、銅を含む銀合金(Ag−Cu系合金)、ビスマスを含む銀合金(Ag−Bi系合金)、チタンを含む銀合金(Ag−Ti系合金)等であると良い。銀の拡散抑制効果が大きい、コスト的に有利であるなどの利点があるからである。
銅を含む銀合金を用いる場合、銀、銅以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Bi、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Cu系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
銅を含む銀合金を用いる場合、銅の含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、1原子%以上、より好ましくは、2原子%以上、さらに好ましくは、3原子%以上であると良い。一方、銅の含有量の上限値は、高透明性を確保しやすくなる、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、20原子%以下、より好ましくは、10原子%以下、さらに好ましくは、5原子%以下であると良い。
また、ビスマスを含む銀合金を用いる場合、銀、ビスマス以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Bi系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
ビスマスを含む銀合金を用いる場合、ビスマスの含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、0.01原子%以上、より好ましくは、0.05原子%以上、さらに好ましくは、0.1原子%以上であると良い。一方、ビスマスの含有量の上限値は、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、5原子%以下、より好ましくは、2原子%以下、さらに好ましくは、1原子%以下であると良い。
また、チタンを含む銀合金を用いる場合、銀、チタン以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pb、Biなど、Ag−Ti系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
チタンを含む銀合金を用いる場合、チタンの含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、0.01原子%以上、より好ましくは、0.05原子%以上、さらに好ましくは、0.1原子%以上であると良い。一方、チタンの含有量の上限値は、膜にした場合、完全な固溶体が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは、2原子%以下、より好ましくは、1.75原子%以下、さらに好ましくは、1.5原子%以下であると良い。
なお、上記銅、ビスマス、チタン等の副元素割合は、ICP分析法を用いて測定することができる。また、上記金属薄膜を構成する金属(合金含む)は、部分的に酸化されていても良い。
金属薄膜の膜厚の下限値は、安定性、熱線反射性などの観点から、好ましくは、3nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、7nm以上であると良い。一方、金属薄膜の膜厚の上限値は、可視光の透明性、経済性などの観点から、好ましくは、30nm以下、より好ましくは、20nm以下、さらに好ましくは、15nm以下であると良い。
ここで、金属薄膜を形成する方法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などの気相法などを例示することができる。金属薄膜は、これらのうち何れか1つの方法を用いて形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を用いて形成されていても良い。
これら方法のうち、緻密な膜質が得られる、膜厚制御が比較的容易であるなどの観点から、好ましくは、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、金属薄膜は、後述する後酸化等を受けて、金属薄膜の機能を損なわない範囲内で酸化されていても良い。
金属薄膜に付随するバリア膜は、主として、金属薄膜を構成する元素が、金属酸化物薄膜中へ拡散するのを抑制するバリア的な機能を有している。また、金属酸化物薄膜と金属薄膜との間に介在することで、両者の密着性の向上にも寄与しうる。バリア膜は、上記拡散を抑制できれば、浮島状など、不連続な部分があっても良い。
バリア膜を構成する金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。なお、バリア膜は、上記金属酸化物以外に不可避不純物などを含んでいても良い。
ここで、バリア膜としては、金属薄膜を構成する金属の拡散抑制効果に優れる、密着性に優れるなどの観点から、金属酸化物薄膜中に含まれる金属の酸化物より主に構成されていると良い。
より具体的には、例えば、金属酸化物薄膜としてTiO2層を選択した場合、バリア膜は、TiO2層中に含まれる金属であるTiの酸化物より主に構成されるチタン酸化物層であると良い。
また、バリア膜がチタン酸化物層である場合、当該バリア膜は、当初からチタン酸化物として形成された薄膜層であっても良いし、金属Ti層が後酸化されて形成された薄膜層、または、部分酸化されたチタン酸化物層が後酸化されて形成された薄膜層等であっても良い。
バリア膜は、金属酸化物薄膜と同じように主に金属酸化物から構成されるが、金属酸化物薄膜よりも膜厚が薄く設定される。これは、金属薄膜を構成する金属の拡散は、原子レベルで生じるので、屈折率を十分確保するのに必要な膜厚まで厚くする必要性が低いからである。また、薄く形成することで、その分、成膜コストが安価になり、透明積層フィルムの製造コストの低減にも寄与することができる。
バリア膜の膜厚の下限値は、バリア性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、1nm以上、より好ましくは、1.5nm以上、さらに好ましくは、2nm以上であると良い。一方、バリア膜の膜厚の上限値は、経済性などの観点から、好ましくは、15nm以下、より好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、8nm以下であると良い。
バリア膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの下限値は、バリア性などの観点から、1.0/4.0以上、より好ましくは、1.0/3.8以上、さらに好ましくは、1.0/3.5以上、さらにより好ましくは、1.0/3.0以上、最も好ましくは、1.0/2.8以上であると良い。
バリア膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの上限値は、可視光の透明性などの観点から、好ましくは、1.0/0.5以下、より好ましくは、1.0/0.7以下、さらに好ましくは、1.0/1.0以下、さらにより好ましくは、1.0/1.2以下、最も好ましくは、1.0/1.5以下であると良い。
上記Ti/O比は、当該層の組成から算出することができる。当該層の組成分析方法としては、極めて薄い薄膜層の組成を比較的正確に分析することが可能な観点から、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)を好適に用いることができる。
具体的な組成分析方法について説明すると、先ず、超薄切片法(ミクロトーム)などを用いて、分析対象となる当該層を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製する。次いで、断面方向から積層構造と当該層の位置を、透過型電子顕微鏡(TEM)により確認する。次いで、EDX装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となる当該層の膜厚中央部近傍に入射させる。試験片表面から入射した電子は、ある深さまで入り込み、各種の電子線やX線を発生させる。この際の特性X線を検出して分析することで、当該層の構成元素分析を行うことができる。
バリア膜は、緻密な膜を形成できる、数nm〜数十nm程度の薄膜層を均一な膜厚で形成できるなどの観点から、気相法を好適に利用することができる。
上記気相法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などを例示することができる。上記気相法としては、真空蒸着法などと比較して膜界面の密着性に優れる、膜厚制御が容易であるなどの観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、上記積層構造中に含まれうる各バリア膜は、これら気相法のうち何れか1つの方法を利用して形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を利用して形成されていても良い。
また、上記バリア膜は、上述した気相法を利用し、当初から金属酸化物薄膜として成膜しても良いし、あるいは、一旦、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を成膜した後、これを事後的に酸化して形成することも可能である。なお、部分酸化された金属酸化物薄膜とは、さらに酸化される余地がある金属酸化物薄膜を指す。
当初から金属酸化物薄膜として成膜する場合、具体的には、例えば、スパッタリングガスとしてのアルゴン、ネオンなどの不活性ガスに、さらに反応性ガスとして酸素を含むガスを混合し、金属と酸素とを反応させながら薄膜を形成すれば良い(反応性スパッタリング法)。反応性スパッタリング法を用いて、例えば、上記Ti/O比を有するチタン酸化物層を得る場合、雰囲気中の酸素濃度(不活性ガスに対する酸素を含むガスの体積割合)は、上述した膜厚範囲を考慮して最適な割合を適宜選択すれば良い。
一方、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を成膜した後、これを事後的に後酸化する場合、具体的には、透明高分子フィルム上に上述した積層構造を形成した後、積層構造中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を後酸化させる等すれば良い。なお、金属薄膜の成膜には、スパッタリング法等を、部分酸化された金属酸化物薄膜の成膜には、上述した反応性スパッタリング法等を用いれば良い。
また、後酸化手法としては、加熱処理、加圧処理、化学処理、自然酸化等を例示することができる。これら後酸化手法のうち、比較的簡単かつ確実に後酸化を行うことができるなどの観点から、加熱処理が好ましい。上記加熱処理としては、例えば、上述した積層構造を有する透明高分子フィルムを加熱炉等の加熱雰囲気中に存在させる方法、温水中に浸漬する方法、マイクロ波加熱する方法や、積層構造中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜等を通電加熱する方法などを例示することができる。これらは1または2以上組み合わせて行っても良い。
上記加熱処理時の加熱条件としては、具体的には、例えば、好ましくは、30℃〜60℃、より好ましくは、32℃〜57℃、さらに好ましくは、35℃〜55℃の加熱温度、加熱雰囲気中に存在させる場合、好ましくは、5日間以上、より好ましくは、10日間以上、さらに好ましくは、15日間以上の加熱時間から選択すると良い。上記加熱条件の範囲内であれば、後酸化効果、透明高分子フィルム12の熱変形・融着抑制等が良好だからである。
また、上記加熱処理時の加熱雰囲気は、大気中、高酸素雰囲気中、高湿度雰囲気中など酸素や水分の存在する雰囲気が好ましい。特に好ましくは、製造性、低コスト化等の観点から、大気中であると良い。
積層構造中に上述した後酸化薄膜を含んでいる場合には、後酸化時に、金属酸化物薄膜中に含まれていた水分や酸素が消費されているため、太陽光が当たっても金属酸化物薄膜が化学反応し難くなる。具体的には、例えば、金属酸化物薄膜がゾル−ゲル法により形成されている場合、後酸化時に、金属酸化物薄膜中に含まれていた水分や酸素が消費されているため、金属酸化物薄膜中に残存していたゾル−ゲル法による出発原料(金属アルコキシド等)と水分(吸着水等)・酸素等とが、太陽光によってゾルゲル硬化反応し難くなる。そのため、硬化収縮等の体積変化によって生じる内部応力を緩和することが可能となり、積層構造の界面剥離等を抑制しやすくなる等、太陽光に対する耐久性を向上させやすくなる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
<透明積層フィルムの作製>
実施例1に係る透明積層フィルムとして、概略以下の7層積層構造からなる透明積層部と、この透明積層部に接して積層された粘着剤層とを有する透明積層フィルムを作製した。
(コーティング液の調製)
先ず、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜の形成に使用するコーティング液を調製した。すなわち、チタンアルコキシドとして、テトラ−n−ブトキシチタン4量体(日本曹達(株)製、「B4」)と、紫外線吸収性のキレートを形成する添加剤として、アセチルアセトンとを、n−ブタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより、コーティング液を調製した。この際、テトラ−n−ブトキシチタン4量体/アセチルアセトン/n−ブタノール/イソプロピルアルコールの配合は、それぞれ6.75質量%/3.38質量%/59.87質量%/30.00質量%とした。
(透明積層部の形成)
透明高分子フィルムとして、一方面に易接着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」)(以下、「PETフィルム」という。)を用い、このPETフィルムの易接着層面側とは反対側の面(PET面)側に、1層目として、TiO2薄膜を以下の手順により成膜した。
すなわち、PETフィルムのPET面側に、マイクログラビアコーターを用いて、所定の溝容積のグラビアロールで上記コーティング液を連続的に塗工した。次いで、インラインの乾燥炉を用いて、塗工膜を100℃で80秒間乾燥させ、TiO2薄膜の前駆体膜を形成した。次いで、インラインの紫外線照射機〔高圧水銀ランプ(160W/cm)〕を用いて、上記塗工時と同線速で、上記前駆体膜に対して連続的に紫外線を1.5秒間照射した。これによりPETフィルム上に、ゾルゲル硬化時に紫外線エネルギーを用いるゾル−ゲル法(以下、「(ゾルゲル+UV)」と省略することがある。)によるTiO2薄膜(1層目)を成膜した。
次に、1層目の上に、2層目を構成する各薄膜を成膜した。
すなわち、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、下側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、この下側の金属Ti薄膜上に、Ag−Cu合金薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、このAg−Cu合金薄膜上に、上側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。
この際、上側および下側の金属Ti薄膜の成膜条件は、Tiターゲット(純度4N)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
また、Ag−Cu合金薄膜の成膜条件は、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
次に、3層目として、2層目の上に、(ゾルゲル+UV)によるTiO2薄膜を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を2回行うことにより、所定の膜厚とした。
次に、4層目として、3層目の上に、4層目を構成する各薄膜を成膜した。ここでは、2層目に準じた成膜手順を行った。但し、Ag−Cu合金薄膜の成膜時に、上述した成膜条件を、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.8(kW)、成膜時間:1.1秒と変更することで、膜厚を変化させた。
次に、5層目として、4層目の上に、3層目と同じ構成の(ゾルゲル+UV)によるTiO2層を成膜した。
次に、6層目として、5層目の上に、2層目と同じ構成の各薄膜を成膜した。
次に、7層目として、6層目の上に、(ゾルゲル+UV)によるTiO2層を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を1回行うことにより、所定の膜厚とした。
次に、得られた透明積層部付きフィルムを、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜を熱酸化させ、チタン酸化物薄膜とした。
なお、TiO2薄膜の屈折率(測定波長は633nm)を、FilmTek3000(Scientific Computing International社製)により測定した。
また、TiO2薄膜中に含まれる有機分の含有量を、X線光電子分光法(XPS)により測定した。
また、金属Ti薄膜を熱酸化させて形成したチタン酸化物薄膜についてEDX分析を行い、Ti/O比を次のようにして求めた。
すなわち、透明積層部付きフィルムをミクロトーム(LKB(株)製、「ウルトロームV2088」)により切り出し、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製した。作製した試験片の断面を、電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)により確認した。そして、EDX装置(分解能133eV以下)(日本電子(株)製、「JED−2300T」)を用い、この装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の膜厚中央部近傍に入射させ、発生した特性X線を検出して分析することにより、チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の構成元素分析を行った。
また、合金薄膜中の副元素(Cu)含有量を次のようにして求めた。すなわち、各成膜条件において、別途、ガラス基板上にAg−Cu合金薄膜を形成した試験片を作製し、この試験片を6%HNO3溶液に浸漬し、20分間超音波による溶出を行った後、得られた試料液を用いて、ICP分析法の濃縮法により測定した。
また、各薄膜の膜厚を、上記電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)による試験片の断面観察から測定した。
表1に、透明積層部の詳細な層構成を示す。
(粘着剤層形成用塗工液の調製)
アクリル樹脂系粘着剤(東洋インキ社製「主剤:BPS5260、硬化剤:BHS8515」)と溶剤(質量比で、酢酸エチル:トルエン=1:1)を用い、固形分(粘着剤成分)濃度24.4質量%に調整したものを用いた。得られた塗工液について、国際規格DIN 53 211に準拠する粘度計(ディップカップ)(エリクセン社製「MODEL 321」)を用いて23℃における粘度を測定したところ、0.90Pa・sであった。
(粘着剤層の形成)
透明積層部の表面に直接、粘着剤層形成用塗工液を塗工後、乾燥・硬化することにより、粘着剤層を形成した。リップコータを用い、コータヘッドとフィルム巻き付けロールとの間のクリアランスを100μmに設定し、ライン速度25m/minの条件で塗工を行った。乾燥時間は1.12分であり、粘着剤層の膜厚は18μmであった。
(実施例2〜4)
粘着剤層形成用塗工液の固形分濃度を表1に記載の濃度とし、各塗工条件を表1に記載の条件とした以外、実施例1と同様にした。
(比較例1)
市販の熱線反射フィルム(Southwall Technologies,Inc.製「V−KOOLVK70」)を用いた。この熱線反射フィルムの構成は、基材フィルムとしてPETフィルムが用いられ、基材フィルム上に熱線反射膜が形成され、熱線反射膜上にPET層が形成され、PET層上に粘着剤層が形成されている。
(比較例2)
セパレータとして一方面に離型シリコーン層を有する厚み25μmのPETフィルム(東洋紡社製「東洋紡エステルフィルムE7302」)を用い、粘着剤層形成用塗工液を透明積層部の表面ではなくセパレータの表面に塗工後、乾燥・硬化することにより、粘着剤層を形成した。次いで、透明積層部付きフィルムと粘着剤層付きセパレータを貼り合わせ、セパレータを剥がすことにより、透明積層部の面上に粘着剤層を配置した。粘着剤層形成用塗工液の固形分濃度および塗工条件は表1に記載の通りである。
(比較例3)
粘着剤層形成用塗工液の固形分濃度を表1に記載の濃度とし、各塗工条件を表1に記載の条件とした以外、実施例1と同様にした。
実施例および比較例の透明積層フィルムを厚さ3mmのフロートガラスの片面に貼り付け、像鮮明度および光学特性を測定した。また、透明積層フィルム単体で粘着剤層の表面状態を評価し、透明積層フィルムをフロートガラスの片面に貼り付けた状態で眺望性を評価した。光学特性評価時の測定光は、ガラス面側から入射させた。これらの結果を表2に示す。
(像鮮明度)
図4に示すように、粘着剤層を介して透明積層フィルム1を板ガラス2に貼り付けた状態において、ガラス面側から入射角80度で光を入射し、光学櫛3の光透過部での最高光量と遮光部での最低光量を受光部4にて測定した。光学櫛3には、スリット間隔の異なる複数のスリット(0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を有するものを用い、光学櫛3をスリットの並ぶ矢印の方向に移動させた。像鮮明度は、スリット間隔が0.125mmのときの値とし、MD方向の像鮮明度とTD方向の像鮮明度の平均値とした。
(可視光透過率、可視光反射率)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜1000nmの透過スペクトルを測定し、可視光透過率および可視光反射率を計算することにより求めた。
(日射透過率)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜2500nmの透過スペクトルを測定し、日射透過率を計算することにより求めた。
(粘着剤層の表面状態)
天井に蛍光灯(60W)が設置されている室内において、目線の先にセパレータを剥離したA4サイズのフィルムサンプルと蛍光灯が並ぶようにフィルムサンプルを配置し、フィルムサンプルの粘着剤層面内におけるMD方向の直線と目線とのなす角度が10°となるようにフィルムサンプルの粘着剤層面を目視にて観察し、その表面にスジや凹凸が観察されるか否かを調べた。TD方向についても同様の観察を行った。この際、MD方向およびTD方向の両方でフィルムの表面にスジおよび凹凸が観察されなかった場合を合格「○」、MD方向およびTD方向の両方でフィルムの表面にスジは観察されなかったが凹凸は観察された場合を合格であるがやや劣る「△」、MD方向およびTD方向の両方でフィルムの表面にスジおよび凹凸が観察された場合を不合格「×」とした。
(眺望性)
フロートガラス(3mm厚)にA4サイズのフィルムサンプルを水貼り、乾燥し、眺望性評価用サンプルを作成した。次いで、「(粘着剤層の表面状態)」の評価方法と同様に眺望性評価用サンプルを目視にてガラス側から観察した。なお、評価基準は、「(粘着剤層の表面状態)」の評価基準と同じである。
比較例のものは、像鮮明度が80%未満であり、粘着剤層の表面状態が悪く、眺望性に劣っている。これに対し、実施例のものは、像鮮明度が80%以上であり、粘着剤層の表面状態がよく、眺望性に優れている。
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。