本実施形態に係る透明積層フィルム(以下、「本フィルム」という。)について詳細に説明する。
1.本フィルム
1.1 本フィルムの概略形態など
本フィルムは、透明高分子フィルムの片面または両面に、第1金属酸化物薄膜(以下、「第1MO」と略表記することがある。)、第1金属薄膜(以下、「第1M」と略表記することがある。)、第2金属酸化物薄膜(以下、「第2MO」と略表記することがある。)、第2金属薄膜(以下、「第2M」と略表記することがある。)、第3金属酸化物薄膜(以下、「第3MO」と略表記することがある。)、第3金属薄膜(以下、「第3M」と略表記することがある。)、第4金属酸化物薄膜(以下、「第4MO」と略表記することがある。)がこの順に積層された7層積層構造を基本的に有している。
第1金属薄膜、第2金属薄膜、および、第3金属薄膜から選択される1種または2種以上の薄膜の片面または両面には、さらに、バリア薄膜(以下、「B」と略表記することがある。)が形成されていても良い。なお、バリア薄膜を形成する場合、バリア薄膜は、各金属薄膜に付随させる薄膜であるため、バリア薄膜を含めた金属薄膜を1層として積層数を数える。
したがって、本フィルムの具体的な積層構造としては、具体的には、例えば、透明高分子フィルム側から、第1MO│B/第1M/B│第2MO│B/第2M/B│第3MO│B/第3M/B│第4MO、第1MO│B/第1M/B│第2MO│第2M│第3MO│第3M│第4MO、第1MO│第1M│第2MO│B/第2M/B│第3MO│第3M│第4MO、第1MO│第1M│第2MO│第2M│第3MO│B/第3M/B│第4MO、第1MO│B/第1M/B│第2MO│B/第2M/B│第3MO│第3M│第4MO、第1MO│第1M│第2MO│B/第2M/B│第3MO│B/第3M/B│第4MO、第1MO│B/第1M/B│第2MO│第2M│第3MO│B/第3M/B│第4MO、第1MO│第1M/B│第2MO│第2M/B│第3MO│第3M/B│第4MO、第1MO│B/第1M│第2MO│B/第2M│第3MO│B/第3M│第4MO、第1MO│第1M│第2MO│第2M│第3MO│第3M│第4MO、
などを例示することができる。なお、「│」が層の区切りを意味する。
これらのうち、本フィルムの好適な積層構造としては、熱環境下に曝された場合に、金属薄膜を構成する金属元素が金属酸化物薄膜中へ拡散するのを抑制しやすく、耐久性を向上させることができるなどの観点から、金属薄膜の少なくとも一方面にバリア薄膜が形成されたものが好ましい。より好ましくは、金属薄膜の両面にバリア薄膜が形成されたものが良い。
ここで、本フィルムでは、第1金属薄膜と第2金属薄膜との間の膜厚、および、第2金属薄膜と第3金属薄膜との間の膜厚が、55nm〜85nm以下の範囲内とされている。なお、膜厚は、物理膜厚を指す。
「第1金属薄膜と第2金属薄膜との間の膜厚」としては、具体的には、第2金属酸化物薄膜のみの膜厚、第1金属薄膜の第2金属酸化物薄膜側に形成されたバリア薄膜と第2金属酸化物薄膜との合計の膜厚、第2金属薄膜の第2金属酸化物薄膜側に形成されたバリア薄膜と第2金属酸化物薄膜との合計の膜厚、第1、第2金属薄膜の第2金属酸化物薄膜側に形成された両バリア薄膜と第2金属酸化物薄膜との合計の膜厚などが挙げられる。
同様に、「第2金属薄膜と第3金属薄膜との間の膜厚」としては、具体的には、第3金属酸化物薄膜のみの膜厚、第2金属薄膜の第3金属酸化物薄膜側に形成されたバリア薄膜と第3金属酸化物薄膜との合計の膜厚、第3金属薄膜の第3金属酸化物薄膜側に形成されたバリア薄膜と第3金属酸化物薄膜との合計の膜厚、第2、第3金属薄膜の第3金属酸化物薄膜側に形成された両バリア薄膜と第3金属酸化物薄膜との合計の膜厚などが挙げられる。
第1金属薄膜と第2金属薄膜との間の膜厚、および、第2金属薄膜と第3金属薄膜との間の膜厚が、意匠性(反射色が目立たない)と深く関係するのは、第1金属薄膜と第2金属薄膜とにより第2金属酸化物薄膜が、また、第2金属薄膜と第3金属薄膜とにより第3金属酸化物薄膜が挟まれており、これら部分の多重反射光の影響が大きいためであると推察される。
上記膜厚が55nm未満になると、反射色が赤色をおびて意匠性が低下する。一方、上記膜厚が85nmを越えると、反射色が青緑色をおびて意匠性が低下する。
上記膜厚の下限値は、反射色の赤色による着色を防ぎやすくなる等の観点から、好ましくは、56nm以上、より好ましくは、57nm以上、さらに好ましくは、59nm以上であると良い。
一方、上記膜厚の上限値は、反射色の青緑色による着色を防ぎやすくなる等の観点から、好ましくは、85nm未満、より好ましくは、84.5nm以下、さらに好ましくは、84nm以下であると良い。
なお、上記膜厚は、本フィルムの代表的な断面構造を透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
本フィルムにおいて、各薄膜は、一度に形成されたものであっても良いし、分割形成されたものであっても良い。また、積層構造中に含まれる各薄膜のうち、一部または全部が分割形成されていても良い。各薄膜が、複数の分割層よりなる場合、その分割数は、各薄膜ごとに同じであっても良いし、異なっていても良い。なお、分割層は積層数として数えず、複数の分割層が集合して形成された1つの薄膜を1層として数える。
本フィルムにおいて、各薄膜の組成または材料は、それぞれ同一の組成または材料から形成されていても良いし、異なる組成または材料から形成されていても良い。なお、この点は、各薄膜が複数の分割層よりなる場合も同様である。
本フィルムにおいて、上記積層構造における各薄膜の膜厚は、用途によって要求される光学特性、導電性などを考慮して異ならせることができる。但し、第1金属薄膜と第2金属薄膜との間の膜厚、および、第2金属薄膜と第3金属薄膜との間の膜厚は、上述した範囲内にある必要がある。
本フィルムは、概略、上述した積層構造を有している。以下、本フィルムの各構成についてより詳細に説明する。
1.2 透明高分子フィルム
本フィルムにおいて、透明高分子フィルムは、上記積層構造を形成するためのベースとなるものである。その材料としては、可視光領域において透明性を有し、その表面に薄膜を支障なく形成できるものであれば、何れのものでも用いることができる。
透明高分子フィルムの材料としては、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどの高分子材料を例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、2種以上積層して用いることもできる。
これらのうち、とりわけ、透明性、耐久性、加工性等に優れるなどの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマーなどを好適なものとして例示することができる。
上記透明高分子フィルムは、片面または両面に易接着層などが形成されていても良い。
上記透明高分子フィルムの厚みは、本積層フィルムの用途、フィルム材料、光学特性、耐久性などを考慮して種々調節することができる。上記透明高分子フィルムの厚みの下限値は、取扱いのしやすさ、強度などの観点から、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、25μm以上であると良い。一方、上記透明高分子フィルムの厚みの上限値は、透明性や経済性などの観点から、好ましくは、500μm以下、より好ましくは、250μm以下であると良い。
1.3 第1金属酸化物薄膜、第2金属酸化物薄膜、第3金属酸化物薄膜、第4金属酸化物薄膜
本フィルムにおいて、第1〜第4金属酸化物薄膜は、可視光領域において透明性を有し、主として高屈折率薄膜として機能しうるものである。ここで、高屈折率とは、633nmの光に対する屈折率が1.7以上ある場合をいう。
上記金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。
上記金属酸化物としては、とりわけ、可視光に対する屈折率が比較的大きいなどの観点から、酸化チタン(TiO2)、ITO、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)などを好適なものとして例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
ここで、第1〜第4金属酸化物薄膜は、主として上述した金属酸化物より構成されているが、金属酸化物以外にも、有機分を含有していても良い。有機分を含有することで、本フィルムの柔軟性をより向上させることができるためである。この種の有機分としては、具体的には、例えば、ゾル−ゲル法の出発原料に由来する成分等、金属酸化物薄膜の形成材料に由来する成分などを例示することができる。
上記有機分としては、より具体的には、例えば、上述した金属酸化物を構成する金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどといった有機金属化合物(その分解物なども含む)や、上記有機金属化合物と反応して紫外線吸収性のキレートを形成する有機化合物(後述する)等の各種添加剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
第1〜第4金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の下限値は、柔軟性を付与しやすいなどの観点から、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、10質量%以上であると良い。一方、第1〜第4金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の上限値は、高屈折率を確保しやくなる、耐溶剤性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、30質量%以下、より好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下であると良い。
なお、上記有機分の含有量は、X線光電子分光法(XPS)などを用いて調べることができる。また、上記有機分の種類は、赤外分光法(IR)(赤外吸収分析)などを用いて調べることができる。
第1〜第4金属酸化物薄膜の膜厚は、日射遮蔽性、視認性、反射色などを考慮して調節することができる。但し、第2金属酸化物薄膜の膜厚は、本発明で規定される第1金属薄膜と第2金属薄膜との間の膜厚範囲を超えない範囲から選択される。また、第3金属酸化物薄膜の膜厚は、本発明で規定される第2金属薄膜と第3金属薄膜との間の膜厚範囲を超えない範囲から選択される。
第2、第3金属酸化物薄膜の膜厚の下限値は、反射色の赤色の着色を防ぎやすくなるなどの観点から、好ましくは、40nm以上、より好ましくは、42nm以上、さらに好ましくは、44nm以上であると良い。一方、第2、第3金属酸化物薄膜の膜厚の上限値は、反射色の青緑色の着色を防ぎやすくなるなどの観点から、好ましくは、84nm以下、より好ましくは、83nm以下、さらに好ましくは、82nm以下であると良い。
第1、第4金属酸化物薄膜の膜厚の下限値は、反射率を低くしやすいなどの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上であると良い。一方、第1、第4金属酸化物薄膜の膜厚の上限値は、反射率を低くしやすい、経済性などの観点から、好ましくは、60nm以下、より好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、40nm以下であると良い。
以上のような構成を有する第1〜第4金属酸化物薄膜は、気相法、液相法の何れでも形成することができる。液相法は、気相法と比較して、真空引きしたり、大電力を使用したりする必要がない。そのため、その分、コスト的に有利であり、生産性にも優れているので好適である。
上記液相法としては、有機分を残存させやすいなどの観点から、ゾル−ゲル法を好適に利用することができる。
上記ゾル−ゲル法としては、より具体的には、例えば、金属酸化物を構成する金属の有機金属化合物を含有するコーティング液を薄膜状にコーティングし、これを必要に応じて乾燥させ、金属酸化物薄膜の前駆体膜を形成した後、この前駆体膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させ、有機金属化合物を構成する金属の酸化物を合成するなどの方法を例示することができる。これによれば、金属酸化物を主成分として含み、有機分を含有する金属酸化物薄膜を形成することができる。以下、上記方法について詳細に説明する。
上記コーティング液は、上記有機金属化合物を適当な溶媒に溶解して調製することができる。この際、有機金属化合物としては、具体的には、例えば、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、セリウム、シリコン、ハフニウム、鉛などの金属の有機化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記有機金属化合物としては、具体的には、例えば、上記金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどを例示することができる。好ましくは、空気中での安定性などの観点から、金属キレートであると良い。
上記有機金属化合物としては、とりわけ、高屈折率を有する金属酸化物になり得る金属の有機化合物を好適に用いることができる。このような有機金属化合物としては、例えば、有機チタン化合物などを例示することができる。
上記有機チタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのM−O−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアルコキシドや、イソプロポキシチタンステアレートなどのM−O−CO−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアシレートや、ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート、ジヒドロキシビスラクタトチタン、ジイソプロポキシビストリエタノールアミナトチタン、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタトチタンなどのチタンのキレートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。また、これらは単量体、多量体の何れであっても良い。
上記コーティング液中に占める有機金属化合物の含有量は、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、1〜20質量%、より好ましくは、3〜15質量%、さらに好ましくは、5〜10質量%の範囲内にあると良い。
また、上記有機金属化合物を溶解させる溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどの有機酸エステル、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのシクロエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ヘキサンなどの炭化水素類、トルエンなどの芳香族類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
この際、上記溶媒量は、上記有機金属化合物の固形分重量に対して、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、5〜100倍量、より好ましくは、7〜30倍量、さらに好ましくは、10〜20倍量の範囲内であると良い。
上記溶媒量が100倍量より多くなると、一回のコーティングで形成できる膜厚が薄くなり、所望の膜厚を得るために多数回のコーティングが必要となる傾向が見られる。一方、5倍量より少なくなると、膜厚が厚くなり過ぎ、有機金属化合物の加水分解・縮合反応が十分に進行し難くなる傾向が見られる。したがって、上記溶媒量は、これらを考慮して選択すると良い。
また、上記コーティング液中には、ゾル−ゲル法による加水分解が促進され、高屈折率化が図りやすくなるなどの観点から、必要に応じて水が含まれていても良い。
上記コーティング液の調製は、例えば、所定割合となるように秤量した有機金属化合物と、適当な量の溶媒と、必要に応じて添加される他の成分とを、攪拌機などの撹拌手段により所定時間撹拌・混合するなどの方法により調製することができる。この場合、各成分の混合は、1度に混合しても良いし、複数回に分けて混合しても良い。
また、上記コーティング液のコーティング法としては、均一なコーティングが行いやすいなどの観点から、マイクログラビア法、グラビア法、リバースロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法など、各種のウェットコーティング法を好適なものとして例示することができる。これらは適宜選択して用いることができ、1種または2種以上併用しても良い。
また、コーティングされたコーティング液を乾燥する場合、公知の乾燥装置などを用いて乾燥させれば良く、この際、乾燥条件としては、具体的には、例えば、80℃〜120℃の温度範囲、0.5分〜5分の乾燥時間などを例示することができる。
また、前駆体膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段としては、具体的には、例えば、紫外線照射、電子線照射、加熱など、各種の手段を例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらのうち、とりわけ、紫外線照射を好適に用いることができる。他の手段と比較した場合、低温、短時間で金属酸化物を生成できるし、熱劣化など、熱による負荷を透明高分子フィルムに与え難いからである。また、有機分として、有機金属化合物(その分解物なども含む)などを残存させやすい利点もあるからである。
この際、用いる紫外線照射機としては、具体的には、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプなどを例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
また、照射する紫外線の光量は、前駆体膜を主に形成している有機金属化合物の種類、コーティング層の厚みなどを考慮して種々調節することができる。もっとも、照射する紫外線の光量が過度に小さすぎると、金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り難くなる。一方、照射する紫外線の光量が過度に大きすぎると、紫外線照射の際に生じる熱により透明高分子フィルムが変形することがある。したがって、これらに留意すると良い。
照射する紫外線の光量は、金属酸化物薄膜の屈折率、透明高分子フィルムが受けるダメージなどの観点から、測定波長300〜390nmのとき、好ましくは、300〜8000mJ/cm2、より好ましくは、500〜5000mJ/cm2の範囲内であると良い。
なお、前駆体膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段として、紫外線照射を用いる場合、上述したコーティング液中に、有機金属化合物と反応して紫外線吸収性のキレートを形成する有機化合物等の添加剤を添加しておくと良い。出発溶液であるコーティング液中に上記添加剤が添加されている場合には、予め紫外線吸収性キレートが形成されたところに紫外線照射がなされるので、比較的低温下において金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り得やすくなるからである。
上記添加剤としては、具体的には、例えば、βジケトン類、アルコキシアルコール類、アルカノールアミン類などの添加剤を例示することができる。より具体的には、上記βジケトン類としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、マロン酸ジエチルなどを例示することができる。上記アルコキシアルコール類としては、例えば、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシ−2−プロパノールなどを例示することができる。上記アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
これらのうち、とりわけ、βジケトン類が好ましく、中でもアセチルアセトンを最も好適に用いることができる。
また、上記添加剤の配合割合としては、屈折率の上がりやすさ、塗膜状態での安定性などの観点から、上記有機金属化合物における金属原子1モルに対して、好ましくは、0.1〜2倍モル、より好ましくは、0.5〜1.5倍モルの範囲内にあると良い。
1.4 第1金属薄膜、第2金属薄膜、第3金属薄膜
本フィルムにおいて、第1〜第3金属薄膜は、主として導電性層として機能しうる。
上記金属としては、具体的には、例えば、銀、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、ニオブ、タンタル、タングステン、ジルコニウム、鉛、パラジウム、インジウムなどの金属や、これら金属の合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記金属としては、積層時の可視光透過性、熱線反射性、導電性などに優れるなどの観点から、銀または銀合金が好ましい。より好ましくは、熱、光、水蒸気などの環境に対する耐久性が向上するなどの観点から、銀を主成分とし、銅、ビスマス、金、パラジウム、白金などの金属元素を少なくとも1種以上含んだ銀合金であると良い。さらに好ましくは、銅を含む銀合金(Ag−Cu系合金)、ビスマスを含む銀合金(Ag−Bi系合金)等であると良い。銀の拡散抑制効果が大きい、コスト的に有利であるなどの利点があるからである。
銅を含む銀合金を用いる場合、銀、銅以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Bi、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Cu系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
銅を含む銀合金を用いる場合、銅の含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、1原子%以上、より好ましくは、2原子%以上、さらに好ましくは、3原子%以上であると良い。一方、銅の含有量の上限値は、高透明性を確保しやすくなる、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、20原子%以下、より好ましくは、10原子%以下、さらに好ましくは、5原子%以下であると良い。
また、ビスマスを含む銀合金を用いる場合、銀、ビスマス以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Bi系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
ビスマスを含む銀合金を用いる場合、ビスマスの含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、0.01原子%以上、より好ましくは、0.05原子%以上、さらに好ましくは、0.1原子%以上であると良い。一方、ビスマスの含有量の上限値は、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、5原子%以下、より好ましくは、2原子%以下、さらに好ましくは、1原子%以下であると良い。
なお、上記銅、ビスマス等の副元素割合は、ICP分析法を用いて測定することができる。また、上記第1〜第3金属薄膜を構成する金属(合金含む)は、部分的に酸化されていても良い。
第1〜第3金属薄膜の膜厚の下限値は、安定性、熱線反射性、導電性などの観点から、好ましくは、3nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、7nm以上であると良い。一方、第1〜第3金属薄膜の膜厚の上限値は、可視光の透明性、経済性などの観点から、好ましくは、30nm以下、より好ましくは、20nm以下、さらに好ましくは、15nm以下であると良い。
ここで、第1〜第3金属薄膜を形成する方法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などの気相法などを例示することができる。第1〜第3金属薄膜は、これらのうち何れか1つの方法を用いて形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を用いて形成されていても良い。
これら方法のうち、緻密な膜質が得られる、膜厚制御が比較的容易であるなどの観点から、好ましくは、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、第1〜第3金属薄膜は、後述する熱酸化等を受けて、第1〜第3金属薄膜の機能を損なわない範囲内で酸化されていても良い。
1.5 バリア薄膜
本フィルムにおいて、バリア薄膜は、主として、金属薄膜を構成する元素が、金属酸化物薄膜中へ拡散するのを抑制するバリア的な機能を有している。また、金属酸化物薄膜と金属薄膜との間に介在することで、両者の密着性の向上にも寄与しうる。
なお、バリア薄膜は、連続膜であることが好ましいが、上記拡散を抑制できれば、浮島状など、不連続な部分があっても良い。
バリア薄膜を構成する金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。なお、バリア薄膜は、上記金属酸化物以外に不可避不純物などを含んでいても良い。
ここで、バリア薄膜としては、金属薄膜を構成する金属の拡散抑制効果に優れる、密着性に優れるなどの観点から、第1〜第4金属酸化物薄膜中に含まれる金属の酸化物より主に構成されていると良い。
より具体的には、例えば、第1〜第4金属酸化物薄膜としてTiO2薄膜を選択した場合、バリア薄膜は、TiO2薄膜中に含まれる金属であるTiの酸化物より主に構成されるチタン酸化物薄膜であると良い。
また、バリア薄膜がチタン酸化物薄膜である場合、当該バリア薄膜は、当初からチタン酸化物として形成された薄膜であっても良いし、金属Ti薄膜が後酸化されて形成された薄膜、または、部分酸化されたチタン酸化物薄膜が後酸化されて形成された薄膜等であっても良い。
バリア薄膜は、第1〜第4金属酸化物薄膜と同じように主に金属酸化物から構成されるが、第1〜第4金属酸化物薄膜よりも膜厚が薄く設定される。これは、金属薄膜を構成する金属の拡散は、原子レベルで生じるので、屈折率を十分確保するのに必要な膜厚まで厚くする必要性が低いからである。また、薄く形成することで、その分、成膜コストが安価になり、本フィルムの製造コストの低減にも寄与することができる。
バリア薄膜の膜厚の下限値は、バリア性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、1nm以上、より好ましくは、1.5nm以上、さらに好ましくは、2nm以上であると良い。一方、バリア薄膜の膜厚の上限値は、経済性などの観点から、好ましくは、15nm以下、より好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、8nm以下であると良い。
但し、第1金属薄膜と第2金属薄膜との間に形成されるバリア薄膜の膜厚は、第2金属酸化物薄膜の膜厚との合計が、本発明で規定される膜厚範囲を超えないように選択される。同様に、第2金属薄膜と第3金属薄膜との間に形成されるバリア薄膜の膜厚は、第3金属酸化物薄膜の膜厚との合計が、本発明で規定される膜厚範囲を超えないように選択される。
バリア薄膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの下限値は、バリア性などの観点から、1.0/4.0以上、より好ましくは、1.0/3.8以上、さらに好ましくは、1.0/3.5以上、さらにより好ましくは、1.0/3.0以上、最も好ましくは、1.0/2.8以上であると良い。
バリア薄膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの上限値は、可視光の透明性などの観点から、好ましくは、1.0/0.5以下、より好ましくは、1.0/0.7以下、さらに好ましくは、1.0/1.0以下、さらにより好ましくは、1.0/1.2以下、最も好ましくは、1.0/1.5以下であると良い。
上記Ti/O比は、当該膜の組成から算出することができる。当該膜の組成分析方法としては、極めて薄い薄膜の組成を比較的正確に分析することが可能な観点から、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)を好適に用いることができる。
具体的な組成分析方法について説明すると、先ず、超薄切片法(ミクロトーム)などを用いて、分析対象となる当該膜を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製する。次いで、断面方向から積層構造と当該膜の位置を、透過型電子顕微鏡(TEM)により確認する。次いで、EDX装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となる当該膜の膜厚中央部近傍に入射させる。試験片表面から入射した電子は、ある深さまで入り込み、各種の電子線やX線を発生させる。この際の特性X線を検出して分析することで、当該膜の構成元素分析を行うことができる。
本フィルムにおいて、バリア薄膜は、緻密な膜を形成できる、数nm〜数十nm程度の薄膜を均一な膜厚で形成できるなどの観点から、気相法を好適に利用することができる。
上記気相法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などを例示することができる。上記気相法としては、真空蒸着法などと比較して膜界面の密着性に優れる、膜厚制御が容易であるなどの観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、上記積層構造中に含まれうる各バリア薄膜は、これら気相法のうち何れか1つの方法を利用して形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を利用して形成されていても良い。
また、上記バリア薄膜は、上述した気相法を利用し、当初から金属酸化物薄膜として成膜しても良いし、あるいは、一旦、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を成膜した後、これを事後的に酸化して形成することも可能である。なお、部分酸化された金属酸化物薄膜とは、さらに酸化される余地がある金属酸化物薄膜を指す。
当初から金属酸化物薄膜として成膜する場合、具体的には、例えば、スパッタリングガスとしてのアルゴン、ネオンなどの不活性ガスに、さらに反応性ガスとして酸素を含むガスを混合し、金属と酸素とを反応させながら薄膜を形成すれば良い(反応性スパッタリング法)。反応性スパッタリング法を用いて、例えば、上記Ti/O比を有するチタン酸化物薄膜を得る場合、雰囲気中の酸素濃度(不活性ガスに対する酸素を含むガスの体積割合)は、上述した膜厚範囲を考慮して最適な割合を適宜選択すれば良い。
一方、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を成膜した後、これを事後的に後酸化する場合、具体的には、透明高分子フィルム上に上述した積層構造を形成した後、積層構造中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を後酸化させる等すれば良い。なお、金属薄膜の成膜には、スパッタリング法等を、部分酸化された金属酸化物薄膜の成膜には、上述した反応性スパッタリング法等を用いれば良い。
また、後酸化手法としては、加熱処理、加圧処理、化学処理、自然酸化等を例示することができる。これら後酸化手法のうち、比較的簡単かつ確実に後酸化を行うことができるなどの観点から、加熱処理が好ましい。上記加熱処理としては、例えば、上述した積層構造を有する透明高分子フィルムを加熱炉等の加熱雰囲気中に存在させる方法、温水中に浸漬する方法、マイクロ波加熱する方法や、積層構造中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜等を通電加熱する方法などを例示することができる。これらは1または2以上組み合わせて行っても良い。
上記加熱処理時の加熱条件としては、具体的には、例えば、好ましくは、30℃〜60℃、より好ましくは、32℃〜57℃、さらに好ましくは、35℃〜55℃の加熱温度、加熱雰囲気中に存在させる場合、好ましくは、5日間以上、より好ましくは、10日間以上、さらに好ましくは、15日間以上の加熱時間から選択すると良い。上記加熱条件の範囲内であれば、後酸化効果、透明高分子フィルムの熱変形・融着抑制等が良好だからである。
また、上記加熱処理時の加熱雰囲気は、大気中、高酸素雰囲気中、高湿度雰囲気中など酸素や水分の存在する雰囲気が好ましい。特に好ましくは、製造性、低コスト化等の観点から、大気中であると良い。
1.6 反射率
本フィルムは、反射色の赤色や黄色、青緑色がより目立たなくなる等の観点から、測定波長600nmにおける反射率が好ましくは、5〜10%、より好ましくは、5.5〜9.5%、さらに好ましくは、6〜9%の範囲内にあると良い。また、測定波長700nmにおける反射率が好ましくは、7〜20%、より好ましくは、8〜18%、さらに好ましくは、9〜16%の範囲内にあると良い。また、測定波長800nmにおける反射率が好ましくは、20〜40%、より好ましくは、22〜39%、さらに好ましくは、24〜38%の範囲内にあると良い。
上記反射率は、本フィルムの多層膜面に、厚さ25μmのアクリル粘着シートを貼り付け、厚さ3mmのフロートガラスの片面に貼り付けたサンプルを準備し、当該サンプルについて分光光度計を使用することにより測定することができる。
2.本フィルムの用途
本フィルムの用途は、特に限定されるものではない。本フィルムは、熱線カット、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイなどのディスプレイ表示電極、タッチパネル電極、調光シート電極、電磁波シールド、有機ELなどのガス(O2、H2O等)バリアフィルムなどの各種の用途に適用することができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施例3,4は、参考例3,4と読み替える。
1.透明積層フィルムの作製
実施例および比較例に係る透明積層フィルムとして、概略以下の7層積層構造を有する各透明積層フィルムを作製した。
すなわち、実施例1、2に係る透明積層フィルムは、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(1層目)│金属Ti薄膜/Ag−Cu合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(3層目)│金属Ti薄膜/Ag−Cu合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(4層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(5層目)│金属Ti薄膜/Ag−Cu合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(6層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(7層目)が順に積層された積層構造を有している。
比較例1、2に係る透明積層フィルムは、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(1層目)│金属Ti薄膜/Ag−Bi合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(3層目)│金属Ti薄膜/Ag−Bi合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(4層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(5層目)│金属Ti薄膜/Ag−Bi合金薄膜/金属Ti薄膜が、後酸化されて形成された薄膜(6層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(7層目)が順に積層された積層構造を有している。
なお、比較例1、2に係る透明積層フィルムは、2、4、6層目の金属薄膜がAg−Bi合金薄膜である点、2層目のAg−Bi合金薄膜と4層目のAg−Bi合金薄膜との間の膜厚、および、4層目のAg−Bi合金薄膜と6層目のAg−Bi合金薄膜との間の膜厚が、本発明に規定される範囲外とされている点で、実施例1、2に係る透明積層フィルムと大きく異なっている。実施例1、2、比較例1、2では、上記金属Ti薄膜が後酸化されて形成されたものが、バリア薄膜に該当する。
実施例3に係る透明積層フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(1層目)│Ag−Cu合金薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(3層目)│Ag−Cu合金薄膜(4層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(5層目)│Ag−Cu合金薄膜(6層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(7層目)が順に積層された積層構造を有している。
なお、実施例3に係る透明積層フィルムは、2、4、6層目において、Ag−Cu合金薄膜の両面にバリア薄膜が形成されていない点で、実施例1、2に係る透明積層フィルムと大きく異なっている。
実施例4に係る透明積層フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(1層目)│チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)/Ag−Bi合金薄膜/チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)(2層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(3層目)│チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)/Ag−Bi合金薄膜/チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)(4層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(5層目)│チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)/Ag−Bi合金薄膜/チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)(6層目)│ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜(7層目)が順に積層された積層構造を有している。
なお、実施例4に係る透明積層フィルムは、2、4、6層目の金属薄膜がAg−Bi合金薄膜である点、上記バリア薄膜が、反応性スパッタにより形成されたものである点で、実施例1、2に係る透明積層フィルムと大きく異なっている。
上述した各透明積層フィルムでは、バリア薄膜は、合金薄膜に付随する薄膜として、合金薄膜に含めて積層数を数えている。また、上記後酸化は、具体的には、熱酸化である。
以下、実施例および比較例に係る透明積層フィルムの具体的な作製手順を示す。
(コーティング液の調製)
先ず、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜の形成に使用するコーティング液を調製した。すなわち、チタンアルコキシドとして、テトラ−n−ブトキシチタン4量体(日本曹達(株)製、「B4」)と、紫外線吸収性のキレートを形成する添加剤として、アセチルアセトンとを、n−ブタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより、コーティング液を調製した。この際、テトラ−n−ブトキシチタン4量体/アセチルアセトン/n−ブタノール/イソプロピルアルコールの配合は、それぞれ6.75質量%/3.38質量%/59.87質量%/30.00質量%とした。
(各薄膜の積層)
透明高分子フィルムとして、易接着層が片面に形成された厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」)(以下、「PETフィルム」という。)を用い、このPETフィルムの易接着層面側とは反対側の面(PET面)側に、1層目として、TiO2薄膜を以下の手順により成膜した。
すなわち、PETフィルムのPET面側に、マイクログラビアコーターを用いて、それぞれ所定の溝容積のグラビアロールで上記コーティング液を連続的に塗工した。次いで、インラインの乾燥炉を用いて、塗工膜を100℃で80秒間乾燥させ、TiO2薄膜の前駆体膜を形成した。次いで、インラインの紫外線照射機〔高圧水銀ランプ(160W/cm)〕を用いて、上記塗工時と同線速で、上記前駆体膜に対して連続的に紫外線を1.5秒間照射した。これにより各PETフィルム上に、ゾル−ゲル法による各TiO2薄膜(1層目)を成膜した。
次に、1層目の上に、2層目を構成する各薄膜を成膜した。
すなわち、実施例1、2については、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、下側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、この下側の金属Ti薄膜上に、Ag−Cu合金薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、このAg−Cu合金薄膜上に、上側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。
この際、上側および下側の金属Ti薄膜の成膜条件は、Tiターゲット(純度4N)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:2.2(kW)(実施例1)、2.9(kW)(実施例2)、成膜時間:1.1秒とした。
また、Ag−Cu合金薄膜の成膜条件は、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
実施例3については、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、Ag−Cu合金薄膜を上記成膜条件でスパッタリングにより成膜した。つまり、実施例3では、上述した上側および下側の金属Ti薄膜を成膜しなかった。
実施例4については、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、下側のチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)を反応性スパッタリングにより成膜した。次いで、この下側のチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)上に、Ag−Bi合金薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、このAg−Bi合金薄膜上に、上側のチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)を反応性スパッタリングにより成膜した。
この際、上側および下側のチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の成膜条件は、Tiターゲット(純度4N)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、反応性ガス:O2、ガス流量比:Ar/O2=100/20、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:7.9(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
また、Ag−Bi合金薄膜の成膜条件は、Ag−Bi合金ターゲット(Bi含有量0.5原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.2(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
比較例1、2については、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、下側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、この下側の金属Ti薄膜上に、Ag−Bi合金薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、このAg−Bi合金薄膜上に、上側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。
この際、上側および下側の金属Ti薄膜の成膜条件は、Tiターゲット(純度4N)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:2.2(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
また、Ag−Bi合金薄膜の成膜条件は、Ag−Bi合金ターゲット(Bi含有量0.5原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.2(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
次に、3層目として、2層目の上に、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を2回行うことにより、所定の膜厚とした。
次に、4層目として、3層目の上に、4層目を構成する各薄膜を成膜した。ここでは、2層目に準じた成膜手順を行った。
但し、実施例1〜3については、Ag−Cu合金薄膜の成膜時に、上述した成膜条件を、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.8(kW)、成膜時間:1.1秒と変更することで、膜厚を変化させた。
また、実施例4、比較例1、2については、Ag−Bi合金薄膜の成膜時に、上述した成膜条件を、Ag−Bi合金ターゲット(Bi含有量0.5原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒と変更することで、膜厚を変化させた。
次に、5層目として、4層目の上に、3層目と同じ構成のゾル−ゲル法によるTiO2薄膜を成膜した。
次に、6層目として、5層目の上に、2層目と同じ構成の各薄膜を成膜した。
次に、7層目として、6層目の上に、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を1回行うことにより、所定の膜厚とした。
その後、実施例1、2、比較例1、2については、上記積層工程を経て得られた透明積層フィルムを、加熱炉内にて、40℃で300時間加熱処理することにより、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜/Ag−Cu合金薄膜/金属Ti薄膜(実施例1、2の2、4、6層目)、あるいは、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜/Ag−Bi合金薄膜/金属Ti薄膜(比較例1、2の2、4、6層目)を後酸化させた。
以上により、実施例1〜4、比較例1、2に係る透明積層フィルムを作製した。
なお、TiO2薄膜の屈折率(測定波長は633nm)を、FilmTek3000(Scientific Computing International社製)により測定した。
また、TiO2薄膜中に含まれる有機分の含有量を、X線光電子分光法(XPS)により測定した。
また、金属Ti薄膜を後酸化させて形成したチタン酸化物薄膜(実施例1、2、比較例1、2)、反応性スパッタリングにより形成したチタン酸化物薄膜(実施例4)、についてEDX分析を行い、Ti/O比を次のようにして求めた。
すなわち、透明積層フィルムをミクロトーム(LKB(株)製、「ウルトロームV2088」)により切り出し、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製した。作製した試験片の断面を、電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)により確認した。そして、EDX装置(分解能133eV以下)(日本電子(株)製、「JED−2300T」)を用い、この装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の膜厚中央部近傍に入射させ、発生した特性X線を検出して分析することにより、チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の構成元素分析を行った。
また、合金薄膜中の副元素(実施例1〜3:Cu、実施例4、比較例1、2:Bi)含有量を次のようにして求めた。すなわち、各成膜条件において、別途、ガラス基板上にAg−Cu合金薄膜あるいはAg−Bi合金薄膜を形成した試験片を作製し、この試験片を6%HNO3溶液に浸漬し、20分間超音波による溶出を行った後、得られた試料液を用いて、ICP分析法の濃縮法により測定した。
また、各薄膜の膜厚を、上記電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)による試験片の断面観察から測定した。
表1に、作製した各透明積層フィルムの詳細な層構成を示す。
2.各透明積層フィルムの特性
作製した各透明積層フィルムについて、以下の各特性を測定した。なお、測定サンプルには、透明積層フィルムの薄膜積層面に、厚さ25μmのアクリル粘着シート(日東電工(株)製、「CS9621」)を貼り付け、この粘着シートの粘着層を、厚さ3mmのフロートガラスの片面に貼り付けたものを用いた。また、特性評価時の測定光は、ガラス面側から入射させた。
(可視光透過率、可視光反射率)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜1000nmの透過スペクトルを測定し、可視光透過率および可視光反射率を計算することにより求めた。
(反射率)
反射率は、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて測定を行った。なお、各測定波長(600nm、700nm、800nm)の反射率は、反射スペクトルに干渉等によるうねりがある場合は、うねりの中心を通るように仮想線を引き、うねりを除去した状態で求めた。
(反射色および反射色の色座標)
反射色は、目視により判定した。
一方、反射色の色座標は、JIS Z8730に準拠し、波長300〜1000nmの反射率から計算することにより求めた。
(日射透過率)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜2500nmの透過スペクトルを測定し、日射透過率を計算することにより求めた。
(遮蔽係数)
JIS A5759に準拠し、規定のパラメータを測定後、遮蔽係数を計算することにより求めた。
表2に、各透明積層フィルムについて測定した特性をまとめて示す。
表1、2によれば、次のことが分かる。すなわち、比較例1、2に係る透明積層フィルムは、2層目のAg−Bi合金薄膜(第1金属薄膜に相当)と4層目のAg−Bi合金薄膜(第2金属薄膜に相当)との間の膜厚、および、4層目のAg−Bi合金薄膜(第2金属薄膜に相当)と6層目のAg−Bi合金薄膜(第3金属薄膜に相当)との間の膜厚が、本発明で規定される範囲内にない。
そのため、反射色が赤色や青緑色になって目立ち、意匠性(反射色が目立たない)が低下し、意匠性(反射色が目立たない)と高日射遮蔽性とを両立させることができないことが分かる。
これに対して、実施例1〜4に係る透明積層フィルムは、2層目のAg−Cu合金薄膜あるいはAg−Bi合金薄膜(第1金属薄膜に相当)と4層目のAg−Cu合金薄膜あるいはAg−Bi合金薄膜(第2金属薄膜に相当)との間の膜厚、および、4層目のAg−Cu合金薄膜あるいはAg−Bi合金薄膜(第2金属薄膜に相当)と6層目のAg−Cu合金薄膜あるいはAg−Bi合金薄膜(第3金属薄膜に相当)との間の膜が、本発明で規定される範囲内にある。
そのため、反射色がほぼ無色となり、高い意匠性(反射色が目立たない)を有していることが分かる。また、同時に、高い日射遮蔽性、視認性も確保できていることが分かる。
これは、2層目の第1金属薄膜と4層目の第2金属薄膜との間の膜厚、および、4層目の第2金属薄膜と6層目の第3金属薄膜との間の膜厚を特定範囲としたことで、日射遮蔽性、視認性(可視光の透過性・低反射性)を損なうことなく、反射スペクトルの立ち上がり波長を反射色が目立たない方向に制御できたためであると推察される。
また、高い日射遮蔽性を有することから、実施例に係る各透明積層フィルムは、例えば、熱線カットフィルム等として十分にその機能を発揮できることが確認できた。
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。