以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。以下に示す実施の形態は例示であり、本願発明の技術的範囲をこれらに限定するものではない。
<第1の実施の形態>
<1.構成等>
<1−1.車両全体図>
図1は、車両CRの全体図である。車両CRは本実施形態の車両制御システム10に含まれるレーダ装置1と、車両制御装置2とを主に備える。車両CRはレーダ装置1を車両前方のバンパー近傍に備えている。このレーダ装置1は、一回の走査で所定の走査範囲を走査して、車両CRと物標との車両進行方向に対応する距離、つまり、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離である縦距離を導出する。また、レーダ装置1は車両CRと物標との車両横方向(車幅方向)の距離である横距離を導出する。この横距離は、具体的には、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸BLに対して略直交する方向の車両CRに対する物標の距離であり、例えば、基準軸BLを±0mとした場合、車両CRの左方向を−(マイナス)、車両CRの右方向を+(プラス)の値とする距離である。なお、横距離は車両CRに対する物標の角度および縦距離の情報に基づいて三角関数の演算を行うことで導出される。このように、レーダ装置1は車両CRに対する物標の位置情報を導出する。また、レーダ装置1は、車両CRの速度に対する物標の速度である相対速度を導出する。
なお、図1にはレーダ装置1の後述する2つの送信アンテナ(図2に示す送信アンテナ13aおよび送信アンテナ13b)から送信される送信波のビームパターンが示されている。基準軸BLを角度±0度とした場合、送信アンテナ13aから出力される送信波のビームパターンNAは、送信アンテナ13bから出力される送信波のビームパターンBAと比べて角度範囲が狭く(例えば、±6度)、縦距離が大きい比較的シャープなビームパターンで出力される。縦距離が大きいのは送信波を出力する出力レベルが比較的大きいためである。
また、これとは逆に送信アンテナ13bから出力される送信波のビームパターンBAは、送信アンテナ13aから送信される送信波のビームパターンNAと比べて角度範囲が広く(例えば±10度)、縦距離が小さい比較的ブロードなビームパターンで出力される。縦距離が小さいのは送信波を出力する出力レベルが比較的小さいためである。そして、送信アンテナ13aで送信波を出力する送信期間と、送信アンテナ13bと送信波を出力する送信期間とのそれぞれの送信期間において異なるビームパターンの送信波を出力することで、物標からの反射波の位相折り返しによる角度導出の誤りを防止できる。物標の角度導出処理については後述する。
また、図1のレーダ装置1はその搭載位置を車両前方のバンパー近傍としているが、前方のバンパー近傍に限らず、車両CRの後方バンパー近傍、および、車両CRの側方のサイドミラー近傍等、後述する車両制御装置2の車両CRの制御目的に応じて物標を導出できる搭載位置であれば他の部分であってもよい。
また、車両CRは、車両CRの内部に車両制御装置2を備える。この車両制御装置2は、車両CRの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。
<1−2.システムブロック図>
図2は、車両制御システム10のブロック図である。車両制御システム10は、レーダ装置1と車両制御装置2とが電気的に接続され、主にレーダ装置1で導出された位置情報および相対速度の物標情報を車両制御装置2に出力する。つまり、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の縦距離、横距離、および、相対速度の情報である物標情報を車両制御装置2に出力する。そして、車両制御装置2が物標情報に基づき車両CRの各種装置の動作を制御する。また、車両制御システム10の車両制御装置2は、車速センサ40、および、ステアリングセンサ41などの車両CRに設けられる各種センサと電気的に接続されている。さらに、車両制御装置2はブレーキ50、および、スロットル51などの車両CRに設けられる各種装置と電気的に接続されている。
レーダ装置1は、主に信号生成部11、発振器12、送信アンテナ13、受信アンテナ14、ミキサ15、LPF(Low Pass Filter)16,AD(Analog to Digital)変換器17、および、信号処理部18により構成される。
信号生成部11は、後述する送信制御部107の制御信号に基づいて、例えば三角波状に電圧が変化する変調信号を生成する。
発振器12は、電圧で発振周波数を制御する電圧制御発振器であり、信号生成部11で生成された変調信号に基づき所定周波数信号(例えば、76.5GHz)を周波数変調し、76.5GHzを中心周波数とする周波数帯の送信信号として送信アンテナ13に出力する。
送信アンテナ13は、送信信号に係る送信波を車両外部に出力する。本実施の形態のレーダ装置1は送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bの2本の送信アンテナを有している。送信アンテナ13a、および、13bは、切替部131のスイッチングにより所定の周期で切替えられ、発振器12と接続された送信アンテナ13から送信波が連続的に車両外部に出力される。そして、送信アンテナ13aと送信アンテナ13bとはアンテナ素子の配置(アンテナパターン)が異なる。これにより、図1に示したように送信アンテナ13aおよび13bから送信される送信波のビームパターンが異なるものとなる。
切替部131は、発振器12と送信アンテナ13との接続を切替えるスイッチであり、送信制御部107の信号により送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とを接続する。
受信アンテナ14は、送信アンテナ13から連続的に送信される送信波が物標に反射した反射波を受信する複数のアレーアンテナである。本実施の形態では、受信アンテナ14a(ch1)、14b(ch2)、14c(ch3)、および、14d(ch4)の4本の受信アンテナが設けられている。なお、受信アンテナ14a〜14dのそれぞれのアンテナは等間隔に設けられている。
ミキサ15は、各受信アンテナに設けられている。ミキサ15は、受信信号と送信信号とを混合する。そして、受信信号と送信信号との混合により送信信号と受信信号との両方の信号の差の信号であるビート信号が生成されて、LPF16に出力される。
ここで、ビート信号を生成する送信信号と受信信号について、図3を用いてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)の信号処理方式を例に説明する。なお、本実施形態では、以下にFM−CWの方式を例に説明を行うが、送信信号の周波数が上昇するUP区間と、送信信号の周波数が下降するDOWN区間のような複数の区間を組み合わせて物標を導出する方式であれば、このFM−CWの方式に限定されない。
また、下記に記載の数式や図3に示すFM−CWの信号やビート周波数等についての各記号は以下に示すものである。fr:距離周波数、fd:速度周波数、fo:送信波の中心周波数、△F:周波数偏移幅、fm:変調波の繰り返し周波数、c:光速(電波の速度)、T:車両CRと物標との電波の往復時間、fs:送信/受信周波数、R:縦距離、V:相対速度、θm:物標の角度、θup:UP区間のピーク信号に対応する角度、θdn:DOWN区間のピーク信号に対応する角度。
<2.FM−CWの信号処理>
物標の導出処理に用いられる信号処理の一例としてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式における信号処理について説明する。なお、本実施形態では、FM−CWの方式を例に説明を行うが、周波数が上昇する区間と周波数が下降する区間のような複数の区間を組み合わせて物標の位置等を検出する方式であれば、FM−CW方式に限定されない。
図3は、FM−CW方式の信号を示す図である。図3の上段の図はFM−CW方式の送信信号TX、および、受信信号RXの信号波形を示す図である。また、図3の中段の図は送信信号TXと受信信号RXとの差分により生じるビート周波数を示す図である。さらに、図3の下段の図はビート周波数に対応するビート信号を示す図である。
図3上段の図は、縦軸が周波数[GHz]、横軸が時間[msec]を示す図である。図中の送信信号TXは、中心周波数をf0(例えば、76.5GHz)として、所定周波数(例えば76.6GHz)まで上昇した後に所定周波数(例えば、76.4GHz)まで下降をするように200MHzの間で一定の変化を繰り返す。このように所定周波数まで周波数が上昇する区間(以下、「UP区間」ともいい、例えば、図2に示す、区間U1、U2、U3、および、U4がUP区間となる。)と、所定周波数まで上昇した後に所定の周波数まで下降する区間(以下、「DOWN区間」ともいい、例えば、区間D1、D2、D3、および、D4がDOWN区間になる。)がある。また、送信アンテナ13から送信された送信波が物体にあたって反射波として受信アンテナ14に受信されると、受信アンテナ14を介して受信信号RXがミキサ15に入力される。この受信信号RXについても送信信号TXと同じように所定周波数まで周波数が上昇する区間と、所定周波数まで周波数が下降する区間とが存在する。
なお、本実施の形態のレーダ装置1では、一つのUP区間と一つのDOWN区間の組み合わせを送信信号TXの1周期として、送信信号TXの2周期分に相当する送信波を車両外部に送信する。例えば、1周期目(時刻t0〜t1のUP区間の区間U1と、時刻t1〜t2のDOWN区間の区間D1)では送信アンテナ13aからビームパターンNAの送信波が出力される。次の周期の2周期目(時刻t2〜t3のUP区間の区間U2と、時刻t3〜t4のDOWN区間の区間D2)では送信アンテナ13bからビームパターンBAの送信波が出力される。そして、信号処理部18が送信信号TXと受信信号RXとにより物標情報を導出するための信号処理を行う(時刻t4〜t5の信号処理区間)。その後、3周期目(時刻t5〜t6のUP区間の区間U3と、時刻t6〜t7のDOWN区間の区間D3)では送信アンテナ13aからビームパターンNAの送信波が出力され、4周期目(時刻t7〜t8のUP区間U4と、時刻t8〜t9のDOWN区間D4)では送信アンテナ13bからビームパターンBAの送信波が出力され、その後、信号処理部18が物標情報を導出するための信号処理を行う。そして、以降は同様の処理が繰り返される。
なお、車両CRに対する物標の距離に応じて、送信信号TXに比べて受信信号RXに時間的な遅れ(時間T)が生じる。さらに、車両CRの速度と物標の速度との間に速度差がある場合は、送信信号TXに対して受信信号RXにドップラーシフト分の差が生じる。
図3中段の図は縦軸が周波数[kHz]、横軸が時間[msec]を示す図であり、図中にはUP区間およびDOWN区間の送信信号と受信信号との差を示すビート周波数が示されている。例えば、区間U1ではビート周波数BF1が導出され、区間D1ではビート周波数BF2が導出される。このように各区間において、ビート周波数が導出される。
図3の下段の図は、縦軸が振幅[V]、横軸が時間[msec]を示す図である。図中には、ビート周波数に対応するアナログ信号のビート信号BSが示されており、当該ビート信号BSが後述するLPF16でフィルタリングされた後、AD変換器17によりデジタルデータに変換される。なお、図2では1つの反射点から受信した場合の受信信号RXに対応するビート信号BSが示されているが、送信信号TXに対応する送信波が複数の反射点に反射し、複数の反射波として受信アンテナ14に受信された場合は、受信信号RXは複数の反射波に応じた信号が発生する。そして、送信信号TXとの差分を示すビート信号BSは、複数の受信信号RXと送信信号TXとのそれぞれの差分が合成したものとなる。
図2に戻り、LPF(Low Pass Filter)16は、所定周波数より低い周波数の成分を減少させることなく、所定周波数より高い周波数の成分を減少させるフィルタである。即ち、少なくとも制御対象となる物標の周波数成分を通過させるようカットオフ周波数が設定されている。なお、LPF16もミキサ15と同様に各受信アンテナに設けられている。
AD変換器17は、アナログ信号であるビート信号を所定周期でサンプリングして、複数のサンプリングデータを導出する。そして、サンプリングされたデータを量子化することで、アナログデータのビート信号をデジタルデータに変換して、デジタルデータを信号処理部18に出力する。なお、AD変換器17もミキサ15と同様に各受信アンテナに設けられている。
次に、ビート信号BSがAD変換器17によりデジタルデータに変換された後、信号処理部18によりFFT処理されることでビート信号BSの周波数ごとの信号レベルの値や位相情報を有するFFTデータが取得される。
信号処理部18は、CPU181、および、メモリ182を備えるコンピュータであり、AD変換器17から出力されたデジタルデータのビート信号をFFT処理してFFTデータを取得し、FFTデータのビート信号の中から信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号として抽出する。そして、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングしてペアデータを導出する。
ここで、ペアデータの縦距離は(1)式により導出され、ペアデータの相対速度は(2)式により導出される。また、ペアデータの角度は(3)式により導出される。そして、(3)式により導出された角度と縦距離の情報から三角関数を用いた演算により、ペアデータの横距離が導出される。
また、信号処理部18は、今回処理の物標情報を導出する場合に、今回処理のペアデータの物標情報と予測情報とを所定のフィルタ定数でフィルタリングして今回処理の物標情報を導出する(例えば、(ペアデータの物標情報×フィルタ定数0.25)+(予測情報×フィルタ定数0.75)=今回処理の物標の物標情報)。そして、信号処理部18は、フィルタ処理の対象となる移動物標に対応するペアデータが所定の条件を満たすことで、当該ペアデータのフィルタ処理における所定のフィルタ定数を変更してフィルタリングの処理を行う。なお、このフィルタ定数の変更の処理は後に詳細に説明する。
メモリ182は、CPU181により実行される各種演算処理などの実行プログラムを記憶する。また、メモリ182は、信号処理部18が導出した複数の物標の物標情報を記憶する。詳細には、今回処理を含む各処理(例えば、前回処理や前回処理以前の処理)の物標の物標情報を記憶する。また、メモリ182は、物標の物標情報を導出する際に用いられるフィルタ定数の値を記憶する。さらに、メモリ182は後述する物標の相対横距離と縦距離とにより、物標が車両CRの走行する車線内に存在する度合いを示す自車線存在値である自車線確率のマップデータを記憶する。
送信制御部107は信号処理部18と接続され、信号処理部18からの信号に基づき、変調信号を生成する信号生成部11に制御信号を出力する。また送信制御部107は、信号処理部18からの信号に基づき、送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とが接続する切替部131に制御信号を出力する。
車両制御装置2は、車両CRの各種装置の動作を制御する。つまり、車両制御装置2は、車速センサ40、および、ステアリングセンサ41などの各種センサから情報を取得する。そして、車両制御装置2は、各種センサから取得した情報、および、レーダ装置1の信号処理部18から取得した物標情報に基づき、ブレーキ50、および、スロットル51などの各種装置を作動させて車両CRの挙動を制御する。
車両制御装置2による車両制御の例としては次のようなものがある。車両制御装置2は、車両CRが走行する自車線内の移動物標である前方車両を追従対象として走行する制御を行う。具体的には、車両制御装置2は、車両CRの走行に伴いブレーキ50、および、スロットル51の少なくとも一の装置を制御して、車両CRと前方車両との間で所定の車間距離を確保した状態で車両CRを前方車両に追従走行させるACCの制御を行う。
また、車両制御装置2は、車両CRの障害物への衝突に備え、車両CRの乗員を保護する制御である。詳細には、車両CRが障害物に衝突する危険性がある場合に、車両CRのユーザに対して図示しない警報器を用いて警告の表示を行ったり、ブレーキ50を制御して車両CRの速度を低下させるPCSの制御を行う。さらに、車両制御装置2は車室内のシートベルトにより乗員を座席に固定、または、ヘッドレストを固定して衝突時の衝撃による車両CRのユーザへのダメージを軽減するPCSの制御を行う。
車速センサ40は、車両CRの車軸の回転数に基づいて車両CRの速度に応じた信号を出力する。車両制御装置2は、車速センサ40からの信号に基づいて、現時点の車両速度を取得する。
ステアリングセンサ41は、車両CRのドライバーの操作によるステアリングホイールの回転角を検知し、車両CRの車体の角度の情報を車両制御装置2に送信する。なお、このステアリングセンサ41から入力された車両CRの車体の角度の情報に基づいて、車両制御装置2が演算した車両CRの走行する車線のカーブ半径の情報がレーダ装置1に出力される。
ブレーキ50は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を減速させる。また、ブレーキ50は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を減速させる。例えば、車両CRと前方車両との縦距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を減速させる。
スロットル51は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を加速させる。また、スロットル51は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を加速させる。例えば、車両CRと前方車両との縦距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を加速させる。
<2.処理フローチャート>
<2−1.全体処理>
図4〜図6は、信号処理部18が行う物標情報の導出の処理フローチャートである。最初に信号処理部18は、送信波を生成する指示信号を送信制御部107に出力する(ステップS101)。そして、信号処理部18から指示信号が入力された送信制御部107により信号生成部11が制御され、送信信号TXに対応する送信波が生成される。生成された送信波は、車両外部に出力される。
次に、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信アンテナ14が受信し、反射波に対応する受信信号RXと送信信号TXとがミキサ15によりミキシングされ、送信信号と受信信号との差分の信号であるビート信号BSが生成される。そして、アナログ信号であるビート信号BSが、LPF16によりフィルタリングされ、AD変換器17によりデジタルデータに変換され、信号処理部18に入力される。
信号処理部18は、デジタルデータのビート信号に対してFFT処理を行い(ステップS102)、周波数ごとのビート信号の信号レベルの値を有するFFTデータを取得する。
次に、信号処理部18は、FFTデータのビート信号のうち信号レベルの値が所定の閾値を超えるビート信号をピーク信号として抽出する(ステップS103)。これにより、今回処理で信号処理部18が処理するピーク信号数が確定する。
そして、信号処理部18はピーク抽出処理で抽出された今回処理のピーク信号の中から、前回処理で導出された物標の物標情報から今回処理のピーク信号の周波数を予測した予測ピーク信号に対して、例えば±3BIN以内に存在する今回処理のピーク信号を前回処理の物標に対応するピーク信号と時間的な連続性を有する履歴ピーク信号として抽出する(ステップS104)。
次に、信号処理部18は、車速センサ40の車両CRの速度情報からUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との周波数差が、車両CRの速度に対応する周波数差となる各区間のピーク信号を静止物標に対応するピーク信号として抽出する処理を行う(ステップS105)。ここで、静止物標とは、車両の速度と略同じ相対速度を有する物標をいい、移動物標とは、特定速度で移動し、車両の速度と異なる相対速度を有する物標をいう。
なお、このように履歴ピーク抽出(ステップS104)、および、静止物ピーク抽出(ステップS105)の処理を行うのは、信号処理部18が車両制御装置2に対して優先的に出力する必要性のある物標に対応するピーク信号を選択するためである。例えば、前回処理で導出された物標と時間的な連続性を有する今回処理の物標のピーク信号は、前回処理で導出されていない新規に導出された物標と比べて物標が実際に存在する確率が高いため優先順位が高い場合があり、また、移動物標に対応するピーク信号は静止物に対応するピーク信号よりも車両CRと衝突する可能性が高いため優先順位が高い場合がある。
そして、信号処理部18はUP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間において、ピーク信号に基づいて方位演算を行う(ステップS106)。詳細には信号処理部18は、所定の方位演算アルゴリズムによって物標の方位(角度)を導出する。例えば、方位演算アルゴリズムは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)であり、各受信アンテナ14a〜14dにおける受信信号の位相情報から相関行列の固有値、および、固有ベクトル等が演算されて、UP区間のピーク信号に対応する角度θupと、DOWN区間のピーク信号に対応する角度θdnとが導出される。そして、UP区間およびDOWN区間の各ピーク信号がペアリングされた場合に、上述の(3)式によりペアデータの角度が導出される。
また、1つのピーク信号の周波数の情報は、物標の縦距離と相対速度の情報に対応しているが、1つのピーク信号の周波数に複数の物標の情報が含まれているときがある。例えば、車両CRに対する物標の位置情報において、縦距離が同じ値で角度が異なる値の複数の物標の情報が、同じ周波数のピーク信号に含まれている場合がある。このような場合、異なる角度から到来する複数の反射波の位相情報はそれぞれ異なる位相情報となる。そのため、信号処理部18は各反射波の位相情報に基づいて1つのピーク信号に対して異なる角度に存在する複数の物標の物標情報を導出する。
ここで、方位演算を行う場合、物標の角度によっては、位相が360度回転して物標が存在する本来の角度とは異なる角度情報が導出される場合がある。具体的には、例えば、受信アンテナで受信した物標からの反射波の位相情報が420度の場合、実際の物標は、図1で示したビームパターンNA以外のビームパターンBAの領域に物標が存在するときでも、位相折り返しにより位相情報が60度(420度-360度)と判定され、ビームパターンBAには含まれないビームパターンNAの領域に物標が存在するとする誤った角度情報が導出されるときがある。そのため、送信アンテナ13aおよび13bの2つの送信アンテナからそれぞれ異なるビームパターンの送信波を出力し、同一物標に対する各送信アンテナでの受信レベルを比較することで物標の正確な角度を導出する。
具体的には各ビームパターンの送信波に対する反射波に基づいて、次のように角度を導出する。反射波の位相情報が60度の場合に、送信アンテナ13aの送信波の反射波と、送信アンテナ13bの送信波の反射波とに対応するそれぞれの角度スペクトラムの信号レベルの値を比べて、送信アンテナ13aの送信波の反射波に対応する角度スペクトラムの信号レベルの値が大きい場合は、ビームパターンBAの領域を除くビームパターンNAの領域内の位相情報60度に対応する角度を物標の角度として導出する。また、送信アンテナ13bの送信波の反射波に対応する角度スペクトラムの信号レベルの値の方が大きい場合は、ビームパターンNAの領域を除くビームパターンBAの領域内の位相情報420度に対応する角度を物標の角度として導出する。このように送信信号TXの2周期分の送信波で各周期ごとに異なるビームパターンの送信波を出力することで、方位演算を行う場合の位相折り返しによる物標の誤った角度情報の導出を防止する。
次に、信号処理部18は、図5に示すUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングするペアリング処理を行う(ステップS107)。このペアリング処理は、ステップS103の処理で導出された全ピーク信号のうち履歴ピーク抽出処理(ステップS104)で抽出された履歴ピーク信号については、UP区間の履歴ピーク信号とDOWN区間の履歴ピーク信号とでペアリング処理が行われる。また、静止物ピーク抽出処理(ステップS105)で抽出された静止物ピーク信号については、UP区間の静止物ピーク信号とDOWN区間の静止物ピーク信号とでペアリング処理が行われる。さらに、ピーク抽出処理で抽出された全ピーク信号のうち履歴ピーク信号と静止物ピーク信号とを除く残りのピーク信号については、UP区間の残りのピーク信号とDOWN区間の残りのピーク信号とでペアリングの処理が行われる。
なお、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とのペアリング処理は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて行われる。具体的には、レーダ装置1を車両CRに搭載する前に試験的にUP区間のピーク信号とDONW区間のピーク信号とをペアリングする中で正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータと、誤った組み合わせでペアリングされたミスペアデータとのデータを複数取得し、複数の正常ペアデータにおけるUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との「信号レベルの値の差」、「角度の値の差」、および、「角度スペクトラムの信号レベルの値の差」の3つのパラメータ値から、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値を導出し、予めメモリ182に記憶する。
そして、レーダ装置1を車両CRに搭載した後に、信号処理部18が物標の物標情報を導出する場合、今回処理で取得されたFFTデータのピーク信号のうちUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号のすべての組み合わせの3つのパラメータ値と、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値とを用いて以下に示す(4)式によりマハラノビス距離を導出する。信号処理部18は、マハラノビス距離が最小の値となる今回処理のペアデータを正常ペアデータとして導出する。つまり、マハラノビス距離の値が小さい程、正常ペアデータである確率が高くなる。
ここで、マハラノビス距離は、平均がμ=(μ1, μ2, μ3)T で、共分散行列がΣであるような多変数ベクトルx=(x1, x2, x3)で表される一群の値に対するもので(4)式により導出される。なお、μ1, μ2, μ3は正常ペアデータの3つのパラメータの値を示し、x1, x2, x3は今回処理のペアデータの3つのパラメータの値を示す。
そして、信号処理部18は、このペアリング処理において正常ペアデータのパラメータの値と上述の(1)式〜(3)式とを用いて、正常ペアデータと判定されたペアデータの縦距離、相対距離、および、角度に基づく横距離を導出する。ここで、横距離は、絶対横距離と相対横距離とがある。絶対横距離とは、基準軸BLを±0mとした車両CRの車幅方向の左方向を−(マイナス)、右方向が+(プラス)とする横距離である。また、相対横距離とは、車両CRの走行する自車線のカーブ半径の情報と、物標の縦距離、および、絶対横距離の情報とから、カーブ半径に応じた物標の横距離として導出される距離である。詳細には車両CRのステアリングホイールを車両CRのドライバが操作することでステアリングセンサ41から入力されるステアリングホイールの回転角の情報に応じて直線および曲線に仮想的に変化する基準軸BLを±0mとした車両CRの車幅方向の左方向を−(マイナス)、右方向が+(プラス)とする横距離である。このような相対横距離を物標情報として用いるのは、横距離の算出において自車線のカーブの状態を考慮する必要があるときである。以下では、単に横距離と記載した場合は、上述の絶対横距離および相対横距離の少なくともいずれか一方として説明を行ない、特に必要な場合には一方のみの横距離を記載するが、その横距離(例えば、相対横距離)に限定されるのもではなく、他方の横距離(例えば、絶対横距離)を用いてもよいものとする。
次に、信号処理部18は、今回処理のペアデータの物標情報と、予測物標との間に時間的に連続する関係が存在するか否かの判定(連続性判定)処理を行う(ステップS108)。ここで、予測情報は、信号処理部18が前回処理の物標の物標情報における相対速度やこれまでの物標情報の値の変化等から、今回処理のペアデータの物標情報に含まれる縦距離、横距離、および、相対速度等を予測した情報である。
そして、今回処理のペアデータの物標情報と、予測情報とに時間的に連続する関係がある場合とは、例えば、今回処理のペアデータの物標情報と、予測情報との縦距離、横距離、および、相対速度のそれぞれの差の値が所定値以内の場合である。なお、信号処理部18は、所定値以内に複数の予測物標情報が存在する場合、今回処理のペアデータの物標情報との差の値が最も小さい所定値以内の予測情報が、今回処理のペアデータの物標情報と時間的に連続する関係を有するものと判定し、予測情報と時間的な連続性を有する今回処理のペアデータ(以下、「過去対応ペアデータ」という。)に対して後述するステップS110の処理のフィルタ処理を行う。
また、信号処理部18は、今回処理のペアデータの物標情報と、予測情報の縦距離、横距離、および、相対速度等のそれぞれの差の値が所定値以内ではない場合に、今回処理のペアデータの物標情報と予測情報とに時間的に連続する関係がないと判定する。そして、このように予測情報と時間的な連続性がないと判定された今回処理のペアデータ(以下「新規ペアデータ」という。)は、今回処理において初めて導出された物標に対応するペアデータとなる。なお、新規ペアデータの場合は、以下で説明するステップS110の処理のフィルタ処理では、時間的な連続性を有する前回処理の物標が存在しないため予測情報が導出されず、新規ペアデータの縦距離、横距離、および、相対速度が今回処理の物標の物標情報となる。
次に信号処理部18は、車両CRの速度とペアデータの相対速度の情報から移動物標に対応するペアデータを導出(ステップS109)し、移動物標に対応するペアデータの移動物フラグをON状態とする。この処理を行うことで優先的に処理する必要性のあるペアデータを導出できる。
そして、信号処理部18は、今回処理のペアデータの物標情報と予測情報とに時間的に連続する関係が存在する場合は、今回処理のペアデータの物標情報と予測情報との縦距離、横距離、および、相対速度のフィルタリングを行い(ステップS110)、今回処理のフィルタ処理により導出される物標の物標情報を今回処理の物標の物標情報として導出する。
信号処理部18は、例えば、移動物標に対応する今回処理のペアデータの横距離である今回横距離にフィルタ定数0.25の値の重み付けを行い、前回処理の物標の横距離である前回確定横距離から今回処理の物標の横距離を予測した予測横距離にフィルタ定数0.75の値の重み付けを行なう。そして重み付けを行なった後の両方の横距離を足し合わせたものを今回確定横距離として導出する(例えば、(今回横距離×フィルタ定数0.25)+(予測横距離×フィルタ定数0.75)=今回確定横距離)。ここで、信号処理部18は、フィルタ処理対象の過去対応ペアデータが所定の条件を満たすことで、過去対応ペアデータのフィルタ処理における所定のフィルタ定数を変更してフィルタリングの処理を行う。
詳細には、信号処理部18は、過去対応ペアデータが前方車両等の移動物標に対応する過去対応ペアデータで、当該移動物標と特定物標(例えば、トンネル内の壁やガードレール等の静止物標および隣接車両等の移動物標の少なくとも一つの物標)との関係が所定の関係となった場合にフィルタ定数の値を変化する。これにより、レーダ装置1は、移動物標を確実に導出でき、レーダ装置1から移動物標の物標情報が入力される車両制御装置2は、制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行える。なお、前方車両等の移動物標を含む物標の横距離のフィルタ処理の詳細は後述する。また、縦距離、相対速度については、各所定のフィルタ定数を用いたフィルタ処理が行なわれる。
次に、信号処理部18は、車両CRの制御には必要のない静止物標を導出する上下方物処理を行う(ステップS111)。具体的には、静止物標の車両CRの車高方向の位置を導出し、その位置が所定の高さよりも高い(例えば、車両CRの車高よりも高い)位置に存在する静止物標(例えば、車道の上方に設けられている片持式や門型式の道路標識など)を導出する。また、車両CRの車高よりも低い位置に存在する静止物標(例えば、道路の中央分離帯やカーブに設置されている反射板の付いたチャッターバーなどの道路鋲など)を導出する。このようにして導出された静止物標は後述するステップS114の処理の不要物除去処理で物標情報が除去され、レーダ装置1から物標情報として車両制御装置2に出力されることはない。
そして、信号処理部18は、今回処理の次に行われる処理(以下、「次回処理」という。)において、次回処理の履歴ピーク抽出処理(ステップS104)に用いる物標情報の予測値(予測縦距離、予測相対速度、予測横距離等)を導出する(ステップS112)。具体的には、車両制御を行う上で優先順位の高い20個の物標情報を導出して、UP区間、DOWN区間のそれぞれの今回処理のピーク信号の周波数等の予測値を算出しておくことで、次回処理における履歴ピークの導出処理に用いる。優先順位については、ACC制御を行う場合は、車両CRの走行している自車線上に相当する横距離を有し、車両CRとの縦距離が比較的小さい物標が優先順位が高く、隣接車線に相当する横距離で、車両CRとの縦距離が比較的大きい物標が優先順位が低い。また、PCSの場合は、衝突余裕時間(Time-To-Collision、以下「TTC」という。)の比較的短い物標の優先順位が高く、TTCの比較的長い物標の優先順位が低い。
次に、図6に示すように信号処理部18は予めメモリ182に記憶された相対横距離と縦距離とをパラメータとする二次元の自車線確率のマップデータから物標が自車線内に存在する確率を導出する(ステップS113)。そして、物標の相対横距離の絶対値が大きくなる程、自車線確率の値は低下する。また、物標の縦距離の値が大きくなる程、自車線確率の値は低下する。なお、この自車線確率の値が高い程、車両CRの走行する自車線内に物標が存在することとなるので、車両制御装置2は、そのような物標を対象に例えばACCの車両制御を実行する。
そして、信号処理部18は、これまでの処理で導出された物標に対して、車両制御装置2への出力が不要な物標を判定する処理を行う(ステップS114)。例えば、信号処理部18は、前回処理の後述する結合処理(ステップS115)で、複数の物標を一つの物標にまとめる結合対象となっていない物標(以下、「未結合物標」という。)が存在する場合、この未結合物標に対して所定範囲内に、結合対象となった物標(以下、「結合物標」という。)が存在し、未結合物標と結合物標との相対速度が略同一のとき、未結合物標と結合物標とが同一の物体の一部(例えば、車両の車体に付属したサイドミラー)であると判定するミラー判定を行なう。
そして、信号処理部18が上述の条件を満たす未結合物標に対するミラーフラグをON状態とすることで、このような未結合物標のレーダ装置1から車両制御装置2への出力は行われない。未結合物標を車両制御装置2への出力対象とすると、本来は同一物体の情報である結合物標と未結合物標とが2つの異なる物体に基づく物標の情報となり、車両制御装置2による正確な車両制御が行なわれない可能性がある。つまり、未結合物標が隣接車両の自車線側のサイドミラー等に対応する物標の場合、この未結合物標の物標情報をレーダ装置1から入力された車両制御装置2が、未結合物標を自車線内に存在する前方車両の物標と誤った判定を行い、未結合物標に対してACC等の車両制御を行なう可能性がある。そのため、このような未結合物標に対してはミラーフラグをON状態として、車両制御装置2への物標情報の出力を行なわない処理をする。
また、信号処理部18は上述のステップS111の上下方物処理で導出された物標情報の除去や、所定距離以上に存在する実際の物標に対応するピーク信号と、レーダ装置1の図示しない電源装置のDC-DCコンバータのスイッチングノイズとの干渉(相互変調)で生じる実際に存在しない物標に対応するゴーストのピーク信号に対応する物標に対しても所定のフラグをON状態とし、車両制御装置2への物標情報の出力を行なわない。
次に、信号処理部18は、複数の物標情報に対して一つの物体に対応する物標情報にまとめる処理を行う(ステップS115)。例えば、レーダ装置1の送信アンテナ13から送信波を射出した場合、送信波が物標に反射するとき、受信アンテナ14に受信される反射波は複数存在する。つまり、同一物体における複数の反射点からの反射波が受信アンテナ14に到来する。その結果、信号処理部18はそれぞれの反射波に基づき位置情報の異なる物標を複数導出するが、もともとは一つの物体の物標なので、各物標を一つにまとめて同一物体の物標の情報として取り扱う。そのため、複数の物標の各相対速度が略同一で、各物標の縦距離および横距離が所定範囲内であれば、信号処理部18は複数の物標を同一物体における物標とみなし、当該複数の物標を一つの物体に対応する物標にまとめる結合処理を行う。
そして、信号処理部18は、ステップS115の処理で結合処理された物標情報から車両制御装置2に出力する優先順位の高い物標情報を車両制御装置2に出力する(ステップS116)。
<2−2.特定物標(静止物標)が存在する場合のフィルタ定数変更>
次に、図5のフィルタ処理(ステップS110)で説明した過去対応ペアデータのフィルタ処理について、図7〜図11の処理フローチャートを用いて詳細に説明する。最初に図7〜図11のフィルタ処理の全体概要を述べると、例えば、車両CRの左側に静止物標が存在する場合に、その静止物標と、車両CRの進行方向と同方向に移動する所定の条件を満たす移動物標(以下、「対象移動物標」という。)に対応する過去対応ペアデータとの相対横距離の差の値が第1の値である所定値を下回る(図7〜図8に示すステップS201〜S209の処理区間で全ての条件を満たす)場合に、例えば、対象移動物標に対応する過去対応ペアデータに対するフィルタ処理のデォフォルト値として設定されているフィルタ定数(以下、「第1フィルタ定数」という。)(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.75、および、今回横距離のフィルタ定数0.25)が変更される。
変更後のフィルタ定数は、変更前よりも今回横距離の反映量を低減するフィルタ定数(以下、「第2フィルタ定数」という。)(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.95、今回横距離のフィルタ定数0.05)となる。また、上述の第1の値よりも小さい第2の値を下回る(図7〜図8に示すステップS201〜S208の処理区間で全ての条件を満たし、ステップS209の条件を満たさない)場合に、第2フィルタ定数よりも更に今回横距離の反映量を更に低減するフィルタ定数(以下、「第3フィルタ定数」という。)(例えば、予測横距離のフィルタ定数1.0、今回横距離のフィルタ定数0(ゼロ))となる。
このようにフィルタ定数を変更する理由は以下のとおりである。今回処理の対象移動物標に対応する過去対応ペアデータが特定物標からの影響(例えば、対象移動物標の周辺に静止物標や隣接移動物標などが存在することにより、対象移動物標の角度スペクトラムが特定物標の角度スペクトラムに埋もれ、かつ、対象移動物標のピーク信号の周波数近傍に特定物標のピーク信号が存在する場合はミスペアリングが生じる影響)により、ペアリング処理により導出される対象移動物標の今回横距離は、実際の対象移動物標の横距離とは異なる横距離(例えば、特定物標の横距離)として導出されることがある。
そして、対象移動物標の今回横距離と予測横距離とをフィルタリングする際に、今回横距離のフィルタ定数が他のフィルタ定数(第2フィルタ定数、および、第3フィルタ定数)と比べて大きな値となっている第1フィルタ定数でフィルタリングすると、対象移動物標の今回確定横距離は、実際の対象移動物標の今回確定横距離とは大きく異なるものとなる場合がある。そのため、前回確定横距離に基づいて導出される予測横距離を第1フィルタ定数(例えば、予測横距離の場合は0.75)よりも大きな値とした第2フィルタ定数(例えば、予測横距離の場合は0.95)や第3フィルタ定数(例えば、予測横距離の場合は1.0)を用いて(今回横距離のフィルタ定数の反映量を低減させて)フィルタリングすることで、レーダ装置1は対象移動物標を確実に導出でき、レーダ装置1から対象移動物標の物標情報が入力される車両制御装置2は、制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行なえる。
以下、処理について詳細に説明する。図7〜図11は、第1の実施の形態のフィルタ処理のフローチャートである。信号処理部18は、今回処理の複数の過去対応ペアデータの中から1つの過去対応ペアデータを対象にフィルタ処理を行なう。信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する前回処理で物標導出処理が完了した物標(以下、「第1前回物標」という。)の先行車フラグがON状態か否かを判定する(ステップS201)。このように今回処理の過去対応ペアデータに対する第1前回物標の情報を用いるのは、今回処理の過去対応ペアデータはまだ処理が完了しておらず(例えば、フィルタリング処理や結合処理等が完了していないため)、その物標情報が確定していいないため、前回処理の物標の物標情報をフィルタ処理の判定の材料として用いるものである。ここで、先行車フラグとは、車両CR前方のレーダ装置1の走査範囲内(例えば、ビームパターンBAの範囲内)に存在する移動物標であることを示す指標である。信号処理部18は、例えば、物標の縦距離、横距離、および、相対速度の情報から自車線内に存在する前方車両の移動物標や、隣接車線に存在し、車両CRと同方向に移動する隣接車両である隣接移動物標の先行車フラグがON状態となる。
そして、信号処理部18は、第1前回物標の先行車フラグがON状態(ステップS201がYes)の場合、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータとは異なる他の過去対応ペアデータを用いて車両CRの左右の特定物標の代表横距離を導出する処理を行なう(ステップS202)。なお、第1前回物標の先行車フラグがOFF状態(ステップS201がNo)の場合、図8に示すステップS216の処理を実行する。
図8のステップS216では、信号処理部18がフィルタ定数の変更を実施したか否かを判定する。そして、ステップS201〜ステップS215の処理の間にフィルタ定数の変更がなされていない(ステップS216がNo)場合、図9に示すステップS217〜ステップS223の処理区間、および、図11に示すステップS217a〜ステップS223の処理区間のいずれかの処理区間で全ての条件を満たせば、信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータをフィルタリングして今回確定横距離を導出する際に使用するフィルタ定数を変更する。
なお、上記処理区間においていずれかの条件を満たさない場合、信号処理部18は、図10に示すように前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS225)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータに対してフィルタリングを実行する(ステップS226)。例えば、信号処理部18は、前回処理で第1前回物標をフィルタリングしたフィルタ定数が第2フィルタ定数の場合、第1前回物標と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータをフィルタリングするフィルタ定数を第1フィルタ定数に変更する。そして、信号処理部18はこの第1フィルタ定数により過去対応ペアデータのフィルタリングを実行する。また、信号処理部18は、第1前回物標に対して設定されているフィルタ定数が第1フィルタ定数の場合、同じフィルタ定数の第1フィルタ定数により過去対応ペアデータに対するフィルタリングを実行する。
図7に戻り、車両CRの左右の特定物標の代表相対横距離を導出する処理であるステップS202の処理について、図12および図13を用いて具体的に説明する。図12および図13は、左右の特定物標である静止物標の代表相対横距離を導出する処理フローチャートである。信号処理部18は、上述の他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する前回処理の物標導出処理が完了した物標(以下、「第2前回物標」という。)の先行車フラグがOFF状態か否かを判定する(ステップS301)。信号処理部18は第2前回物標の先行車フラグがOFF状態(ステップS301がYes)の場合、この第2前回物標の移動物標フラグがOFF状態か否かを判定する(ステップS302)。ここで、移動物標フラグとは、図5のステップS109で説明した物標が移動物標の場合にON状態とされる指標である。これらのステップS301およびS302の処理で、信号処理部18は、第2前回物標が静止物標か否かを判定する。
次に、信号処理部18は、第2前回物標の移動物標フラグがOFF状態(ステップS302がYes)の場合、第2前回物標の縦距離が20m以上〜110m以下か否かを判定し(ステップS303)、第2前回物標の縦距離が20m以上〜110m以下(ステップS303がYes)の場合は、第2前回物標の角度の絶対値が15度以内か否かを判定する(ステップS304)。そして、信号処理部18は、第2前回物標の角度の絶対値が15度以内(ステップS304がYes)の場合、ステップS305の処理を実行する。これらのステップS303およびS304の処理で、信号処理部18は、物標の物標情報を正常に導出可能な縦距離および角度範囲に第2前回物標が存在するか否かを判定する。なお、これまで説明したステップS301〜ステップS304の条件のいずれか一つを満たさない(ステップS301がNo、S302がNo、S303がNo、および、S304がNoのいずれかの)場合、信号処理部18は、図13に示すステップS309の処理を実行する。ステップS309の処理は後述する。
次に、信号処理部18は、第2前回物標の相対横距離が−1.8m以下(基準軸BLから車両CRの車幅左方向に相対横距離−1.8m以下)か否かを判定し(ステップS305)、相対横距離が−1.8m以下(ステップS305がYes)の場合、第2前回物標を車両CR前方の左側領域に存在する特定物標である静止物標として分類する(ステップS306)。なお、信号処理部18は、第2前回物標の相対横距離が−1.8m以下でない(ステップ305がNo)場合、図13に示すステップS307の処理を実行する。
次に、信号処理部18は、第2前回物標の相対横距離が1.8m以上(基準軸BLから車両CRの車幅右方向に相対横距離1.8m以上)か否かを判定し(図13に示すステップS307)、相対横距離が1.8m以上(ステップS307がYes)の場合、第2前回物標を車両CR前方の右側領域に存在する特定物標である静止物標の情報として分類する(ステップS308)。なお、信号処理部18は、第2前回物標の相対横距離が1.8m以上でない(ステップ307がNo)場合、ステップS309の処理を行う。これらのステップS305〜S308の処理で、信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータとは異なる他の過去対応ペアデータの第2前回物標を車両CRの前方に存在する左右いずれかの特定物標である静止物標として分類する。なお、他の過去対応ペアデータが静止物標であってもステップS305およびS307のいずれかの条件を満たさない(例えば、静止物標が自車線上に存在する静止物標で、自車線上方に設けられている片持式や門型式の道路標識等の)場合、左右いずれかの領域の静止物標に分類されることなく、後述するステップS311の処理の左右静止物標の代表導出処理の対象とはならない。
次に、信号処理部18は、他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第2前回物標が複数存在する場合、ステップS202の処理が完了した以外の他の過去対応ペアデータの第2前回物標に対してもステップS301〜S308の処理が完了したか否かを判定し(ステップS309)、全ての他の第2前回物標に対して処理が完了していない(ステップS309がNo)場合、図12のステップS301の処理に戻って繰り返し処理を実行する。また、信号処理部18は、全ての第2前回物標に対してステップS301〜S308の処理が完了している(ステップS309がYes)場合は、左側および右側のそれぞれの領域に第2前回物標の少なくとも1つ以上が分類されているか否かを判定する(ステップS310)。
そして、信号処理部18は、左右両方の領域に第2前回物標の少なくとも1つ以上が分類されている(ステップS310がYes)場合は、左側に分類された第2前回物標の平均の相対横距離を導出する。また、信号処理部18は、右側に分類された第2前回物標の平均の相対横距離を導出する(ステップS311)。つまり、信号処理部18は、左側の平均の相対横距離を車両CR前方の左側の領域に存在する特定物標の代表相対横距離(以下、「左代表横距離」という。)として導出する。また、信号処理部18は、右側の平均の相対横距離を車両CR前方の右側の領域に存在する特定物標の代表相対横距離(以下、「右代表横距離」という。)として導出する。このステップS311の処理で、信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータの周辺において、当該過去対応ペアデータのペアリングの処理でミスペアを引き起こす原因となり得る特定物標の平均の相対横距離を導出する。なお、信号処理部18は、左右両方の領域に第2前回物標の少なくとも1つ以上が分類されていない(ステップS310がNo)場合は、処理を終了して、次の処理であるステップS203の処理を実行する。
ここで、図14および図15を用いて、これまで説明した図7のステップS201およびS202の処理(図12のステップS301〜図13のステップS311の処理)に関する各物標について具体的に例示する。図14はフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp1a、および、第1前回物標tp1を主に示す図である。図14には、車両CRに搭載されたレーダ装置1の送信アンテナ13から出力されるビームパターンBAの送信波の領域内に、複数の物標が示されている。なお、図中のビームパターンBAの一部が欠けているのは、車両CRの左右に存在する左側壁W1と右側壁W2とに送信波が遮られ、壁を貫通しないことを示している。
図14では、車両CRの走行する自車線ro1内の車両CR前方に前方車両CRaに対応する第1前回物標tp1が示されており、その相対横距離は、基準軸BLから車幅左方向の相対横距離Sd1(例えば、−0.6m)である。また、第1前回物標tp1と時間的な連続性を有するフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp1aが第1前回物標tp1よりも左後方に示されている。ここで、過去対応ペアデータtp1aと第1前回物標tp1との位置関係は、具体的には、図15に示すような関係となる。
図15は、図14に示す前方車両CRaの周辺を拡大した図である。図15の過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1a(例えば、−1.0m)は、第1前回物標tp1の相対横距離Sd1(例えば、−0.6m)よりも小さい値(絶対値では大きい値)となっている。つまり、過去対応ペアデータtp1aの相対横距離は、第1前回物標tp1を導出した時点からの1回分の物標導出処理の時間(例えば、50msec)の経過に伴い、距離Ea(0.4m)分だけ左の位置に移動している。また、過去対応ペアデータtp1aの縦距離は、第1前回物標tp1を導出した時点からの1回分の物標導出処理の時間経過に伴い距離Da(0.5m)分だけ後ろの位置に移動している。つまり車両CRに近づいている。
そして、前方車両CRaに対応する第1前回物標tp1から過去対応ペアデータtp1aへの相対横距離の変化から、前方車両CRaが前回処理よりも左側壁W1に近づいていることが示されている。つまり、前方車両CRaが1回分の物標導出処理の時間経過に伴い、左代表横距離の位置に存在する特定物標rp1(以下、「左特定物標rp1」という。)(左代表横距離Sd11、−1.8m)に近づいていることを示している。なお、この場合、前方車両CRaは図14に示すように右隣接車線ro2の右代表横距離の位置に存在する特定物標rp2(以下、「右特定物標rp2」という。)(右代表横距離Sd12、5.4m)からは時間の経過とともに遠ざかっていることを示している。
図7の処理に戻り、信号処理部18は、ステップS202の処理で左右の特定物標の代表相対横距離の導出を終えた後、左特定物標rp1の左代表横距離Sd11が、第1前回物標tp1の相対横距離以下か否かを判定し(ステップS203)、左代表横距離Sd11が、第1前回物標tp1の相対横距離以下(ステップS203がYes)(例えば、相対横距離Sd1(−0.6m)>左代表横距離Sd11(−1.8m))の場合、ステップS204の処理を実行する。なお、ステップS203の条件を満たさない場合は、信号処理部18はステップS216の処理を実行する。
また、信号処理部18は、右特定物標rp2の右代表横距離Sd12が、第1前回物標tp1の相対横距離以上か否かを判定し(ステップS204)、右代表横距離Sd12が、第1前回物標tp1の相対横距離以上(ステップS204がYes)の場合(例えば、相対横距離S1(−0.6m)<右代表横距離Sd12(5.4m)の場合)、ステップS205の処理を実行する。なお、ステップS204の条件を満たさない場合は、信号処理部18はステップS216の処理を実行する。このステップS203、および、S204の処理で、信号処理部18は、前方車両CRaの周辺の状況がフィルタ処理対象の過去対応ペアデータtp1aのフィルタ定数の変更を決定する複数の条件のうちの一つの条件(第1前回物標の左右に特定物標が存在する)を満たすか否かを判定する。
次に、信号処理部18は車両CRに対応する第1前回物標tp1のTTCが2sec以上か否かを判定し(ステップS205)、TTCが2sec以上(ステップS205がYes)の場合に、第1前回物標tp1の縦距離が30m以上か否かを判定する(ステップS206)。このステップS205の処理で信号処理部18は、第1前回物標tp1のTTCが2sec未満の場合は、車両CRと第1前回物標tp1に対応する前方車両CRaとが衝突するまでの時間が短時間となるため、その他のフィルタ定数の変更条件を満たすことで、第1フィルタ定数を用いて応答性の高いフィルタリングを行うこととなる。また、信号処理部18は、TTCが2sec以上の場合は、車両CRと例えば、第1前回物標tp1に対応する前方車両CRaとの衝突の危険性は少ないとして、フィルタ定数の変更を要する複数の条件のうちの一つの条件(衝突する可能性のある物標が車両CRの周辺に存在しない)を満たすと判定する。
そして、信号処理部18は、第1前回物標tp1の縦距離が30m以上(ステップS206がYes)の場合、ステップS207の処理を実行する。なお、このステップS206の処理で縦距離が30m以上の第1前回物標tp1は対象移動物標となり、この対象移動物標がその他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数が変更される。また、第1前回物標tp1が対象移動物標の場合、この第1前回物標tp1と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータtp1aも対象移動物標となる。
次に、信号処理部18は、各物標の相対横距離である「相対横距離Sd1」および「相対横距離Sd1a」と、「左代表横距離Sd11」および「右代表横距離Sd12」とを用いて、前回処理よりも今回処理の前方車両CRaが左右いずれかの特定物標に近づいているかを判定する。具体的には、左特定物標rp1との関係において、「過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1a−左代表横距離Sd11<第1前回物標tp1の相対横距離Sd1−左代表横距離Sd11」の条件を満たす場合に、信号処理部18は、前回処理よりも今回処理の過去対応ペアデータtp1aが左特定物標rp1に近づいていると判定する。
また、右特定物標rp2との関係において、「右代表横距離Sd12−過去対応ペアデータの相対横距離Sd1a<右代表横距離Sd12−第1前回物標tp1の相対横距離Sd1」の条件を満たす場合に、信号処理部18は、前回処理よりも今回処理の過去対応ペアデータtp1aが右特定物標rp2に近づいていると判定する。
図7のステップS207の処理ではこのように、第1前回物標tp1と比べて過去対応ペアデータtp1aが左右いずれかの特定物標(左特定物標rp1、および、右特定物標rp2のいずれか)に近づいている場合(ステップS207がYes)、信号処理部18は、図8に示すステップS208の処理を実行する。なお、ステップS207の処理において、具体的に図15に示す各物標の相対横距離を当てはめると、左特定物標rp1との関係では、「過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1a−左代表横距離Sd11<第1前回物標tp1の横距離Sd1−左代表横距離Sd11」は、「−1.0m−(−1.8m)<−0.6m−(−1.8m)=0.8m<1.2m」となり、ステップS207の処理の条件を満たすこととなる。なお、信号処理部18はステップS207の処理の条件を満たさない(ステップS207がNo)の場合、図9に示すステップS216の処理を実行する。
次に、信号処理部18は、前方車両CRaと左側壁W1との間隔の値に対応する過去対応ペアデータtp1aと左特定物標rp1との相対横距離の差の値を導出し、この値が第1の値である所定値を下回る場合にフィルタ定数を変更する。具体的には、信号処理部18は、過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1aから左特定物標rp1の相対横距離Sd11を減算した両者の差の値が2.2m以下か否かを判定し(ステップS208)、相対横距離の差の値が2.2m以下の場合(ステップS208がYes)の場合、ステップS209の処理を実行する。例えば、図15に示す各物標の位置関係では、「相対横距離Sd1a」−「左代表横距離Sd11」(−1.0−(−1.8)=0.8)となり、相対横距離の差の値が2.2m以下の条件を満たすこととなる。なお、相対横距離の差の値が2.2mを上回る(ステップS208がNo)の場合、信号処理部18は、ステップS212の処理を実行する。ステップS212の処理については後述する。
そして、信号処理部18は、ステップS208の処理で導出した過去対応ペアデータtp1aと左特定物標rp1との相対横距離の差の値が第1の値よりも小さい第2の値(例えば、0.5m)を上回る(ステップS209がNo)の場合、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第2フィルタ定数に変更する(ステップS210)。つまり、変更前の第1フィルタよりも今回横距離の反映量を低減するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.95、今回横距離のフィルタ定数0.05)が設定される。この第2フィルタ定数で過去対応ペアデータtp1aをフィルタリングすることで、信号処理部18は、周辺に静止物標が存在する場合でも、車両制御の対象となる対象移動物標を確実に導出できる。ここで、図15に示す各物標の位置関係では、過去対応ペアデータtp1aと左特定物標rp1との相対横距離の差の値が0.8mであるため、過去対応ペアデータtp1aをフィルタリングするフィルタ定数は、第1フィルタ定数から第2フィルタ定数に変更される。
また、信号処理部18は、過去対応ペアデータtp1aと左特定物標rp1との相対横距離の差の値が0.5m以下(ステップS209がYes)の場合、フィルタ定数を第1のフィルタ定数から第3フィルタ定数に変更する(ステップS211)。つまり、第2フィルタ定数よりも今回横距離の反映量を更に低減するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数1.0、今回横距離のフィルタ定数0(ゼロ))にフィルタ定数が変更される。この第3フィルタ定数で過去対応ペアデータtp1aをフィルタリングすることで、信号処理部18は、対象移動物標の周辺に存在する静止物標と、当該対象移動物標との位置関係がより近接した状態であっても車両制御の対象となる対象移動物標を確実に導出できる。
次に、信号処理部18は、上述のステップS208およびS209の処理で、「過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1a」と「左特定物標rp1の左代表横距離Sd11」との差の値から両方の相対横距離の差の値を導出したように、前方車両CRaと右側壁W2との間隔の値である過去対応ペアデータtp1aと右特定物標rp2との相対横距離の差の値を導出し、この相対横距離の差の値が所定値以下の場合にフィルタ定数を変更する。具体的には、信号処理部18は、右特定物標rp2の相対横距離Sd12から過去対応ペアデータtp1aの相対横距離Sd1aを減算した相対横距離の差の値が第1の値を下回る(例えば、2.2m以下)か否かを判定し(ステップS212)、相対横距離の差の値が2.2m以下の場合(ステップS212がYes)、ステップS213の処理を実行する。なお、相対横距離の差の値が2.2mを上回る(ステップS212がNo)場合は、ステップS216の処理を実行する。
そして、信号処理部18は、過去対応ペアデータtp1aと右特定物標rp2との相対横距離の差の値が第1の値よりも小さい第2の値(例えば、0.5m)を上回る(ステップS212がNo)の場合、フィルタ定数を第1のフィルタ定数から第2フィルタ定数に変更する(ステップS214)。つまり、変更前の第1フィルタよりも今回横距離の反映量を低減するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.95、今回横距離のフィルタ定数0.05)が設定される。このフィルタ定数で過去対応ペアデータtp1aをフィルタリングすることで、信号処理部18は、周囲に静止物標が存在する場合でも前方車両CRa等の車両制御の対象となる対象移動物標を確実に導出できる。
また、信号処理部18は、過去対応ペアデータtp1aの相対横距離と右特定物標rp2との相対横距離の差の値が0.5m以下(ステップS213がYes)の場合、フィルタ定数を第1のフィルタ定数から第3フィルタ定数に変更する(ステップS215)。つまり、第2フィルタ定数よりも今回横距離の反映量を更に低減するフィルタ定数(例えば、過去対応ペアデータtp1aの予測横距離のフィルタ定数1.0、過去対応ペアデータtp1aの今回横距離のフィルタ定数0(ゼロ))にフィルタ定数が変更される。この第3フィルタ定数で対象移動物標に対応する過去対応ペアデータtp1aをフィルタリングすることで、信号処理部18は、対象移動物標の周囲に存在する静止物標と、当該対象移動物標の位置関係がより近接した状態であっても車両制御の対象となる対象移動物標を確実に導出できる。
ここで、例えば、図15に示すように前方車両CRaの過去対応ペアデータtp1aと左側壁W1の左特定物標rp1との間隔が0.8mのときに、フィルタ定数が第1フィルタ定数から第2フィルタ定数に変更された場合の効果を図16を用いて説明する。図16は、第1フィルタ定数でフィルタリングした対象移動物標に対応する今回確定物標と第2フィルタ定数でフィルタリングした対象移動物標に対応する今回確定物標との時間ごとの導出状況を示す図である。図16には、図15で説明した車両CRのレーダ装置1の送信アンテナ13から送信されるビームパターンBA送信波の領域内に前方車両CRaに対応するフィルタ処理後に導出される今回確定物標tg1が示されている。
そして、今回確定物標の時系列の移動経路を示す軌跡Tr1は、今回確定物標tg1の導出以降の処理で導出された過去対応ペアデータを第1フィルタ定数でフィルタリングし、導出した今回確定物標tg1a〜tg1eの位置の変化を示している。また、軌跡Tr1とは異なる今回確定物標の時系列の移動経路を示す軌跡Tr2は、今回確定物標tg1の導出以降の処理で導出された過去対応ペアデータを第2フィルタ定数でフィルタリングし、導出した今回確定物標tg11〜tg15の位置の変化を示している。ここで、図16に示すように軌跡Tr1における今回確定物標の位置は、今回確定物標tg1aでは左側壁W1近傍の位置に導出されているものの、その後の処理では、今回確定物標tg1b〜tg1eの横距離が左側壁W1の横距離と略同じ位置となっている。そのため、今回確定物標tg1b〜tg1eの横距離は導出されず、レーダ装置1の信号処理部18は、今回確定物標tg1c〜tg1eをロストした状態となる。そのため、車両制御装置2は制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行えない。
これに対して、軌跡Tr2で示すように今回確定物標tg1の後に導出された今回確定物標tg11〜tg15の横距離は、左側壁W1の横距離とは異なる位置となる。このため、レーダ装置1は、車両CRaの今回確定物標tg11〜tg15は確実に導出でき、レーダ装置1から今回確定物標の物標情報が入力される車両制御装置2は、制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行える。
図8の処理に戻り、信号処理部18は、ステップS216の処理において上述のフィルタ定数の変更が行われた(ステップS216がYes)場合、図10に示すように、変更されたフィルタ定数に基づいて、過去対応ペアデータtp1aに対するフィルタリング処理を行う(ステップS225)。そして、図8のステップS216において、フィルタ定数の変更が行われていない(ステップS216がNo)場合、信号処理部18は、これまで説明した過去対応ペアデータtp1aとその左右に存在する特定物標(例えば左特定物標rp1)との位置関係による条件とは別の条件に基づくフィルタ定数の変更の処理に移行する。具体的には、前方車両CRa等の対象移動物標と、特定物標である隣接車両等の隣接移動物標との位置関係が所定の条件を満たす場合にフィルタ定数を変更する処理を行う。
<2−3.特定物標(隣接移動物標)が存在する場合のフィルタ定数変更>
次に、信号処理部18は、図9に示す車両CRの走行する自車線ro1に対して右側の右隣接車線ro2内に存在する特定物標である隣接移動物標の導出処理を実施する(ステップS217)。この処理は、後述する図18に示すように右隣接車線ro2内に隣接移動物標(例えば、隣接車両CRbに対応する隣接移動標)が存在するか否かを判定する処理である。この処理について図17の処理フローチャートを用いて説明する。図17は右隣接車線(例えば、図18に示す右隣接車線ro2)内の隣接移動物標を導出する処理フローチャートである。
図17に示すように信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータとは異なる他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第2前回物標(例えば、図18に示す第2前回物標tp2)に対してこの処理を行なう。つまり、他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第2前回物標が、隣接移動物標か否かを判定する処理を行う。
信号処理部18は、第2前回物標tp2の先行車フラグがON状態か否かを判定し(ステップS401)、第2前回物標tp2の先行車フラグがON状態(ステップS401がYes)の場合、第2前回物標tp2の角度スペクトラムの信号レベルの値が−35dB以上か否かを判定する(ステップS402)。
そして、信号処理部18は、第2前回物標tp2角度スペクトラムの信号レベルの値が−35dB以上の場合、ステップS403の処理を実行する。これらのステップS401およびS402の処理で、信号処理部18は、車両CRの前方の移動物標の中で、所定の信号レベル以上の角度スペクトラムを有する第2前回物標が存在するか否かを判定している。
次に、信号処理部18は、第2前回物標tp2の相対横距離が1.8m以上〜5.4m以下か否かを判定し(ステップS403)、第2前回物標tp2の相対横距離が1.8m以上〜5.4m以下の条件を満たす(ステップS403がYes)場合、第2前回物標tp2と時間的な連続性を有する他の過去対応ペアデータの隣接移動物標フラグをON状態とする(ステップS404)。これらのステップS403およびS404の処理で、信号処理部18は、例えば、自車線ro1および右隣接車線ro2の各車線幅を3.6mとし、車両CRが自車線ro1の略中央を走行している場合に、所定の信号レベル以上の角度スペクトラムを有する移動物標(例えば、トラック等)である第2前回物標tp2が右隣接車線ro2内に存在するか否かを判定している。
そして、信号処理部18は、第2前回物標tp2がステップS401〜S403の条件を満たすことでフィルタ定数を変更する条件の1つが満たされる(隣接移動物標に対応する第2前回物標tp2が右隣接車線ro2内に存在する)として、第2前回物標tp2と時間的な連続性を有する他の過去対応ペアデータの隣接移動物標フラグをON状態とする。なお、ステップS401〜S403のいずれかの条件を満たしていない(ステップS401がNo、S402がNo、および、S403がNoのいずれかの)場合、信号処理部18はステップS405の処理を実行する。
信号処理部18は、全ての第2前回物標に対してこの隣接移動物標の導出処理を行なったか否かを判定し(ステップS405)、全ての第2前回物標に対して処理が完了した(ステップS405がYes)場合、ステップS217の処理を終了して、ステップS218の処理を実行する。なお、全ての第2前回物標に対して処理が完了していない場合(ステップS405がNo)場合、ステップS401の処理に戻り繰り返し処理を実行する。
次に、信号処理部18は、上述の図9に示すステップS217の処理で、隣接移動物標フラグがON状態の過去対応ペアデータが存在するか否かを判定し(ステップS218)、隣接移動フラグがON状態の過去対応ペアデータが存在する(ステップS218がYes)場合、ステップS219の処理を実行する。
ここで、ステップS217およびS218の処理は、他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第2前回物標tp2が、隣接移動物標の物標か否かを判定する処理であった。これに対して、以下に説明するステップS219〜S222の処理は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第1前回物標tp1に対する処理である。信号処理部18は、第1前回物標tp1の先行車フラグがON状態か否かを判定し(ステップS219)、第1前回物標tp1の先行車フラグがON状態の場合(ステップS219がYes)、第1前回物標tp1の相対横距離が−5.4以上〜0m以下か否かを判定する(ステップS220)。例えば、後述する図18に示す左隣接車線ro3の車線幅を3.6mとし、車両CRが自車線ro1の略中央を走行する場合、信号処理部18は、第1前回物標tp1が基準軸BL(±0m)〜左隣接車線ro3の右端(−5.4m)の相対横距離Sdbの範囲内に存在するときに条件を満たすものと判定する。なお、このステップS219の処理で先行車フラグがON状態の第1前回物標は対象移動物標となり、この対象移動物標がその他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数が変更される。また、第1前回物標が対象移動物標の場合、この第1前回物標と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータも対象移動物標となる。
次に、信号処理部18は、図9に示すように第1前回物標tp1の縦距離が50m以上〜90m未満か否かを判定し(ステップS221)、第1前回物標tp1の縦距離が50m以上〜90m未満(ステップS221がYes)の場合、第1前回物標tp1が第2前回物標tp2に対して縦方向に−15m以上〜15m以下の範囲に存在するか否かを判定する(ステップS222)。このステップS222の処理で、信号処理部18は第1前回物標tp1が第2前回物標tp2に対して横方向だけではなく縦方向においてもある程度近接した位置に存在しているか否かを判定する。なお、縦方向の距離は、例えば、第2前回物標tp2の位置を基準(±0m)とした場合に、第2前回物標の進行方向を+(プラス)、第2前回物標の進行方向とは逆方向を−(マイナス)とする。
そして、信号処理部18は、第1前回物標tp1が第2前回物標tp2に対して縦方向に±15mの範囲内に存在する(ステップS222がYes)場合、変更前の第1フィルタよりも今回横距離の反映量を低減し、第2フィルタ定数よりも今回横距離の反映量を増加させるフィルタ定数(以下、「第4フィルタ定数」という。)(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.90、今回横距離のフィルタ定数0.10)に変更される。この第4フィルタ定数は、上述の第2および第3フィルタ定数と異なるフィルタ定数であるが、これらのフィルタ定数は、過去対応ペアデータに対応する前方車両の周辺の状況に応じて実験により導出された適合値である。
そして、ステップS218からステップS222の各処理において判定条件を満たさない(ステップS218がNo、S219がNo、S220がNo、S221がNo、および、S222がNoのいずれかの)場合、信号処理部18は、図10に示すステップS224の処理を実行する。
ここで、隣接移動物標が存在する場合のフィルタ定数の変更の具体的な条件について図18を用いて説明する。図18は、第1前回物標tp1と第2前回物標tp2との位置関係を主に示す図である。車両CRのレーダ装置1のビームパターンBA内では、右隣接車線ro2内を走行するトラックの隣接車両CRbが示されている。この隣接車両CRbの第2前回物標tp2は先行車フラグがON状態(図17に示すステップS401がYesに対応)で、角度スペクトラムの信号レベルの値が−35dB以上(ステップS402がYesに対応)となっている。そして、車両CRのレーダ装置1の基準軸BLが自車線ro1の略中央に位置する場合、第2前回物標tp2の相対横距離Sd2(2.3m)は、相対横距離1.8m以上〜5. 4m以下(横距離Sdaの範囲)の条件を満たす(ステップS403がYesに対応)。
このような場合に第2前回物標tp2と時間的な連続性を有する他の過去対応ペアデータの隣接移動物標フラグがON状態となる(ステップS404に対応)。そして、信号処理部18は、第2前回物標tp2と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータの隣接移動物標フラグがON状態である(図9に示すステップS218がYes)ため、次に、前方車両CRaに対応する第1前回物標tp1に基づいて、その他のフィルタ定数を変更する条件を満たすか否かを判定する。
つまり、第1前回物標tp1の先行車フラグはON状態であるため(ステップS219がYesに対応)、当該第1前回物標tp1と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータは、対象移動物標の過去対応ペアデータとなる。そして、第1前回物標tp1の相対横距離Sd1(−0.6m)は相対横距離−5.4m以上〜0m以下(相対横距離Sdbの範囲)の条件を満たす(ステップS220がYesに対応)。また、第1前回物標tp1の縦距離Db(60m)は、縦距離50m以上〜90m以下の条件を満たし(ステップS221がYesに対応)、第1前回物標tp1と第2前回物標tp2との間隔を示す距離Dc(2.5m)は、第1前回物標と第2前回物標との縦方向の距離−15m以上〜15m以下の条件を満たしている(ステップS222がYesに対応)。このように、対象移動物標に対応する第1前回物標tp1よりも車両CRに対する横距離の離れた位置に隣接移動物標に対応する第2前回物標tp2が存在し、第1前回物標tp1が第2前回物標tp2の近傍に存在するときに、第1フィルタ定数から今回横距離の反映量を低減する第4フィルタ定数にフィルタ定数を変更する(ステップS223に対応)ことで、信号処理部18は、隣接移動物標の影響を受けることなく対象移動物標を確実に導出できる。
ここで、上述の図9の処理説明では、ステップS220において、第1前回物標の相対横距離の条件を相対横距離−5.4m以上〜0m以下(図18に示す相対横距離Sdbの範囲)と説明した。つまり、図18に示す相対横距離0m以上〜1.8m以下(相対横距離Sdcの範囲)は、条件を満たさない範囲となっている。これの理由について図19を用いて説明する。
図19は、隣接車両CRbのサイドミラー部分に対応する物標tp3が自車線ro1内に存在する場合を示す図である。図19に示すように右隣接車線ro2を走行する隣接車両CRbが自車線ro1寄りに走行している場合に、隣接車両CRbの車体に付属する部分(例えば、サイドミラー)が自車線ro1内に入ったとき、サイドミラー部分に相当する前回処理の物標tp3の相対横距離Sd3は、図9のステップS220の処理において本来は条件を満たさないものであるが、仮にステップS220の処理で条件を満たす相対横距離の範囲に相対横距離0m以上〜1.8m以下の範囲を含む場合、相対横距離Sd3がステップS220の条件を満たすとすると、物標tp3がその他のフィルタ定数の変更条件(ステップS219、および、ステップS221〜S222)も満たすことで、第4フィルタ定数にフィルタ定数が変更される(ステップS223)。
その結果、物標tp3に対応する過去対応ペアデータは、隣接車両CRbの他の物標でフィルタ定数の変更条件を満たさない物標(例えば、前回処理の物標tp2aと時間的な連続性を有する過去対応ペアデータ)のフィルタ定数が第1フィルタ定数の場合、この物標tp2aとは異なるフィルタ定数(第4フィルタ定数)でフィルタリングされることとなる。
そして、隣接車両CRbが自車線ro1寄りの図19に示す位置から例えば、右隣接車線ro2の略中央の位置に移動した場合でも、前回処理の物標tp3に対応する今回確定物標は自車線ro1内の位置に導出され、実際は既に右隣接車線ro2の略中央の位置に存在する隣接車両CRbに対応する今回確定物標が、自車線ro1内に存在する可能性のある前方車両等に対応する今回確定物標として誤って導出され、車両制御装置2のACCの制御等において本来必要のない制御が行なわれる場合がある。そのため、相対横距離Sd3を含むような相対横距離0m以上〜1.8m以下の範囲はフィルタ定数を変更する範囲には含まれていない。
このように、信号処理部18は、隣接移動物標に対応する第2前回物標tp2の横距離が第1の距離範囲である相対横距離Sda内で、かつ、対象移動物標に対応する第1前回物標tp1の相対横距離が第1の距離範囲である相対横距離Sdaに含まれない第2の距離範囲内である相対横距離Sdb内の場合に、第1フィルタ定数から第4フィルタ定数にフィルタ定数を変更する。これにより、信号処理部18は、隣接移動物標の影響を受けることなく所定範囲内に存在する対象移動物標を確実に導出できる。
図10に示す処理フローチャートの説明に戻り、信号処理部18は、フィルタ定数の変更を行なったか否かを判定する(ステップS224)。信号処理部18は、フィルタ定数の変更を行なった(ステップS224がYes)場合、信号処理部18は変更された第4フィルタ定数により、予測横距離と、今回横距離とのフィルタリングを実行する(ステップS226)。これにより、レーダ装置1は、対象移動物標を確実に導出でき、レーダ装置1から対象移動物標の物標情報が入力される車両制御装置2は、制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行える。
次に、信号処理部18は全てのフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータに対してフィルタ処理を実施したか否かを判定する(ステップS227)。そして、全ての過去対応ペアデータに対して処理を実施した場合(ステップS227がYes)は、処理を終了して図5に示すフィルタ処理(ステップS110)の次の処理である上下方物処理(ステップS111)を実行する。なお、全ての過去対応ペアデータに対して処理を行っていない場合(ステップS227がNo)は、図7に示すステップS201の処理に戻り繰り返し処理を実行する。
なお、図10のステップS224においてフィルタ定数の変更が行なわれていない(ステップS224がNo)の場合は、信号処理部18は、図11に示す車両CRの走行する自車線ro1に対して左側の左隣接車線ro3内に存在する隣接移動物標の導出処理を実施する(ステップS217a)この左隣接車線ro3の隣接移動物標の導出の詳細な処理は、図20の処理フローチャートに示される。図20は、左隣接車線ro3内の隣接移動物標を導出する処理フローチャートである。この図20の処理は上述の図17の右隣接車線ro2内の隣接移動物標を導出する処理と略同じ処理であり、異なる処理は、ステップS403aにおける隣接移動物標の相対横距離の範囲(相対横距離−5.4m以上〜−1.8m以下)である。自車線ro1に対して右側の右隣接車線ro2とは反対側(左側)の左隣接車線ro3内の隣接移動物標を導出するためこのような処理となる。その他の処理は図17の処理と同じ処理である。
次に、信号処理部18は、上述の図11に示すステップS217aの処理で、隣接移動物標フラグがON状態の過去対応ペアデータが導出されたか否かを判定し(ステップS218a)、隣接移動フラグがON状態の過去対応ペアデータが存在する(ステップS218aがYes)場合、ステップS219の処理を実行する。
ここで、ステップS217aおよびS218aの処理は、他の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第2前回物標tp2が、隣接移動物標の物標か否かを判定する処理であった。これに対し、以下に説明するステップS219〜S222の処理は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータと時間的な連続性を有する第1前回物標tp1に対する処理である。信号処理部18は、第1前回物標tp1の先行車フラグがON状態か否かを判定し(ステップS219)、第1前回物標tp1の先行車フラグがON状態の場合(ステップS219がYes)、第1前回物標tp1の相対横距離が0m以上〜5.4m以下か否かを判定する(ステップS220a)。この範囲は、図18で示すと相対横距離Sdc(0m〜1.8m)、および、相対横距離Sda(1.8m〜3.6m)を併せた相対横距離の範囲である。
次に、信号処理部18は、第1前回物標tp1の縦距離が50m以上〜90m未満か否かを判定し(ステップS221)、第1前回物標tp1の縦距離が50m以上〜90m未満(ステップS221がYes)の場合、第1前回物標tp1が隣接車両に対して縦方向に−15m以上〜15m以下の範囲に存在するか否かを判定する(ステップS222)。このステップS222の処理で、信号処理部18は第1前回物標tp1が第2前回物標tp2に対して横方向だけではなく縦方向においてもある程度近接した位置に存在しているか否かを判定する。
そして、信号処理部18は、第1前回物標tp1が第2前回物標tp2に対して縦方向に±15mの範囲内に存在する(ステップS222がYes)場合、変更前の第1フィルタよりも今回横距離の反映量を低減し、第2フィルタ定数よりも今回横距離の反映量を増加させる第4フィルタ定数に変更される(ステップS223)。なお、ステップS218aからステップS222の各処理において条件を満たさない(ステップS218aがNo、S219がNo、S220aがNo、S221がNo、および、S222がNoのいずれかの)場合、信号処理部18は、ステップS225の処理を実行する。つまり、フィルタ定数の変更条件は満たされなかったため、信号処理部18は、前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS225)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータに対してフィルタリングを実行する(ステップS226)。
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、第1の実施の形態で説明したフィルタ定数の変更条件とは別の変更条件に基づき、その条件を満たした場合に、予め第1のフィルタ定数で設定されているフィルタ定数を、他フィルタ定数に変更するものである。例えば、主な条件として対象移動物標の今回処理の相対横距離と前回処理の相対横距離とを比較して、今回処理の相対横距離が前回処理の相対横距離よりも短い場合に、信号処理部18がフィルタ定数を第1フィルタ定数から他のフィルタ定数に変更するものである。第2の実施の形態は、第1の実施の形態の構成や処理とほぼ同一であるが、処理内容が一部異なる。第2の実施の形態では、主に図21〜図26に示す処理フローチャートを用いてフィルタ処理について説明する。
<3.処理フローチャート>
<3−1.前回処理の相対横距離と今回処理の相対横距離とに基づくフィルタ定数変更>
図21〜図26は第2の実施の形態の処理フローチャートである。信号処理部18は、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータ(例えば、後述する図27に示す過去対応ペアデータtp101a)と時間的な連続性を有する第1前回物標(例えば、図27に示す第1前回物標tp101)が前回処理において車両CRに対する縦距離が最も短く、かつ、絶対横距離が自車線ro1の範囲内(例えば、絶対横距離±1.8m以内)に存在する移動物標の場合にON状態となるフラグ(以下、「代表フラグ」という。)が、ON状態か否かを判定する(ステップS501)。第1前回物標tp101の代表フラグがON状態(ステップS501がYes)の場合、信号処理部18は、ステップS502の処理を実行する。
また、信号処理部18は、第1前回物標tp101の代表フラグがOFF状態(ステップS501がNo)の場合、フィルタ定数の変更を行う過去対応ペアデータであることを示す指標である後述するフィルタ変更フラグをOFF状態にして(ステップS520)、ステップS505の処理を実行する。つまり、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aと時間的な連続性を有する前回処理の第1前回物標tp101のフィルタ変更フラグがON状態の場合、今回処理ではフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aが、フィルタ定数変更の条件の一つ(例えば、ステップS501)を満たさないこととなるため、フィルタ変更フラグをOFF状態に設定する。また、信号処理部18は、第1前回物標tp101のフィルタ変更フラグがOFF状態の場合は、過去対応ペアデータtp101aのフィルタ変更フラグをOFF状態とする。
信号処理部18は第1前回物標の縦距離および相対横距離の情報を用いて、メモリ182内に記憶されている自車線確率のマップデータを用いて、第1前回物標tp101の自車線確率が50%以上か否かを判定する(ステップS502)。そして、信号処理部18は、第1前回物標tp101の自車線確率が50%以上(ステップS502がYes)の場合、ステップS503の処理を実行する。ここで、代表フラグがON状態(絶対横距離が±1.8m以内)の第1前回物標tp101に対して自車線確率を導出するのは、車両CRが走行する車線のカーブ半径の値によっては、絶対横距離±1.8mの範囲内の物標が必ずしも自車線ro1内に存在することとはならない場合もあるため(例えば、カーブ半径の値が所定値よりも小さい場合は、物標が必ずしも自車線ro1内に存在することとはならない場合もあるため)、相対横距離に基づいた自車線確率の値を用いて第1前回物標tp101が自車線ro1内に存在するか否かを判定する。これにより、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aと時間的な連続性を有する第1前回物標tp101が自車線ro1内に存在するか否かを判定する精度を高めることができる。
なお、信号処理部18は、第1前回物標tp101の自車線確率が50%未満(ステップS502がNo)の場合、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aの今回横距離から予測横距離を減算した横距離差の絶対値が、1.5m以下か否かを判定する(ステップS503)。
そして、信号処理部18は、横距離差の絶対値が1.5m以下(ステップS503がYes)の場合、ステップS504の処理を実行し、横距離差の絶対値が1.5mを上回る(ステップS503がNo)の場合、ステップS505の処理を実行する。なお、このステップS503の処理では、信号処理部18は、自車線ro1に第1前回物標tp101が存在している場合でも、当該第1前回物標tp101の縦距離がある程度離れた距離(例えば、90m以上)のときに、自車線確率が低下して50%未満と判定することがある。そのため、本来はフィルタ定数を変更する対象の過去対応ペアデータであるにもかかわらずフィルタ定数の変更処理が行なわれないことを避けるため、自車線確率が50%未満と判定された第1前回物標tp101であっても今回横距離と予測横距離との横距離差の絶対値が所定範囲内の第1前回物標tp101と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータtp101aは、フィルタ定数の変更処理の対象とするものである。
次に、信号処理部18は、上述の条件(ステップS502、および、ステップS503の条件のいずれかの条件)を満たすフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aに対して、フィルタ定数の変更対象であることを示す指標であるフィルタ変更フラグをON状態とする(ステップS504)。
そして、信号処理部18は第1前回物標tp101の縦距離が50m以上〜100m未満(ステップS505がYes)の場合、第1前回物標tp101がこれまでの物標導出処理における40scan(例えば、50msec/scan)の走査の間に連続して導出されている物標か否かを判定する(ステップS506)。これは、フィルタ変更処理の条件を満たす物標が導出された場合、信号処理部18が即時にその物標に対してフィルタ定数の変更処理を行なうと、本来フィルタ定数の変更を行うべきではない誤った対象(例えば、実際は導出された位置に存在しないゴーストの物標等)にフィルタ定数変更の処理を実行する場合があることから、これを避けるためこのステップS506の処理を実行する。つまり、複数回の物標導出処理において連続して導出されている物標に対してフィルタ処理の変更条件を満たすか否かを判定するものである。
信号処理部18は、第1前回物標tp101と時間的に連続性を有する物標がこれまでの40scanの間に連続して導出されている(ステップS506がYes)の場合、第1前回物標tp101のミラーフラグがOFF状態か否かを判定し(ステップS507)、ミラーフラグがOFF状態(ステップS507がYes)の場合、図22に示すステップS508の処理を実行する。
なお、信号処理部18は、ステップS505〜S507の処理において条件を満たさなかった(ステップS505がNo、S506がNo、および、S507がNoのいずれかの)場合、後述する図26に示すステップS801の処理を実行する。
次に、信号処理部18は、第1前回物標tp101の相対横距離の絶対値が0m以上〜3.6m以下か否かを判定する(図22に示すステップS508)。そして、信号処理部18は、相対横距離の絶対値が0m以上〜3.6m以下(ステップS508がYes)の場合、第1前回物標tp101の導出処理を行なった際の車両CRの走行する車線のカーブ半径の情報を取得し、このカーブ半径の絶対値が600m以上か否かを判定する(ステップS509)。信号処理部18は、カーブ半径の絶対値が600m以上(ステップS509がYes)の場合、ステップS510の処理を実行する。
このステップS509の処理で、信号処理部18は車両CRの走行する車線が比較的緩いカーブおよび直線のいずれかの場合に条件を満たすものとし、比較的急なカーブの場合は条件を満たさないものとする。比較的急なカーブの場合は、車両CRが走行する車線のカーブ半径と車両CRの前方に存在する前方車両の走行する車線のカーブ半径とが異なる場合が多いことから、その他のフィルタ定数の変更条件の判定結果に基づき、前回確定横距離に基づく予測横距離のフィルタ定数を増加させた第1フィルタ定数を用いる必要性があるためである。
なお、信号処理部18は、ステップS508およびS509の処理において条件を満たさなかった(ステップS508がNo、および、S509がNoのいずれかの)場合、後述する図26に示すステップS801の処理を実行する。
次に、信号処理部18は、第1前回物標tp101の先行車フラグがON状態か否かを判定し(ステップS510)、第1前回物標tp101の先行車フラグがON状態(ステップS510がYes)の場合、ステップS511の処理を実行する。なお、このステップS509の処理で先行車フラグがON状態の第1前回物標tp101は、対象移動物標となり、この対象移動物標がその他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数が変更される。また、第1前回物標tp101が対象移動物標の場合、この第1前回物標tp101と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータtp101aも対象移動物標となる。
そして、信号処理部18は、第1前回物標tp101のフィルタ変更フラグがON状態か否かを判定し(ステップS511)、第1前回物標tp101のフィルタ変更フラグがON状態(ステップS511がYes)の場合、予測相対横距離(今回横距離から前回確定横距離を減算して、前回処理の物標の相対横距離(以下、「前回確定相対横距離」という。)を加算した横距離(今回横距離−前回確定横距離+前回確定相対横距離))の絶対値が、前回確定相対横距離の絶対値よりも小さい(ステップS512がYes)場合、ステップS513が処理を実行する。つまり、信号処理部18は、第1前回物標tp101の今回処理の横距離が、前回処理の横距離よりも短い場合に条件を満たすものとする。
なお、信号処理部18は、ステップS510、S511、および、S512の処理のいずれかの条件を満たさなかった(ステップS510がNo、S511がNo、および、S512がNoのいずれかの)場合、後述する図25に示すステップS701の処理を実行する。
図22に戻り、信号処理部18は第1前回物標tp101の縦距離が90m以上か否かを判定し(ステップS513)、第1前回物標tp101の縦距離が90m以上の場合、ステップS514の処理を実行する。なお、信号処理部18は、第1前回物標tp101の縦距離が90m未満(ステップS513がNo)の場合、後述する図24に示すステップS601の処理を実行する。
次に、信号処理部18は、第1前回物標tp101の周辺の環境が例えば、特定物標である静止物標が比較的多く存在する環境か否かを示す指標である悪環境フラグがOFF状態か否かを判定する(ステップS514)。この悪環境フラグは、図4のステップS105の静止物ピーク抽出において、例えばUP区間の静止物標に対応するピーク信号の本数が80本以上抽出された場合に、図6のステップS114の不要物判定処理で、静止物標が比較的多数存在する環境で物標導出の処理が実行されたことを示すために第1前回物標tp101に対してON状態にするものである。
信号処理部18は、第1前回物標tp101の悪環境フラグがOFF状態(ステップS514がYes)の場合、図23に示すステップS515の処理を実行する。なお、信号処理部18は、悪環境フラグがON状態(ステップS514がNo)の場合、図23に示すように前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS519)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aに対してフィルタリングを実行する(ステップS517)。このように信号処理部18は、悪環境フラグON状態の場合、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aが、ミスペアリングにより導出された可能性があるため、今回横距離のフィルタ定数と比べて予測横距離の反映量を大きくした第1フィルタ定数でフィルタリングを行なう。
次に,信号処理部18は、車両制御装置2から取得した前回処理における車両CRの走行する車線のカーブ半径の情報に基づいて、カーブ半径の絶対値が2000m以上か否かを判定し(ステップS515)、カーブ半径の絶対値が2000m以上(ステップS515がYes)の場合、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する(ステップS516)。つまり、信号処理部18は、変更前の第1フィルタよりも今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.5、今回横距離のフィルタ定数0.5)にフィルタ定数を変更する。信号処理部18は、第4フィルタ定数で過去対応ペアデータをフィルタリングする(ステップS517)ことで、前方車両CRaに対応する対象移動物標を確実に導出でき、レーダ装置1から対象移動物標の物標情報が入力される車両制御装置2は制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行える。
そして、信号処理部18は、全てのフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータに対して処理が完了したか否かを判定し(ステップS518)、処理が完了している場合(ステップS518がYes)場合、処理を終了する。また処理が完了していない(ステップS518がNo)の場合、図21に示すステップS501の処理に戻り、繰り返し処理を実行する。
また、信号処理部18は、ステップS515において、カーブ半径の絶対値が2000m未満の場合、フィルタ定数を第1フィルタ定数によりフィルタリングを実行する(ステップS517)。これは、カーブ半径が所定値(例えば、2000m)よりも小さい場合、かつ、縦距離が所定値(例えば、90m)以上の場合、ステップS502で導出する自車線確率の値に誤差が生じやすい。そのため、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aと時間的な連続性を有する第1前回物標tp101は、対象移動物標ではない可能性が高いことから、第1フィルタ定数に基づいてフィルタリング処理が行われる(ステップS517)。
ここで、図27を用いて、フィルタ定数が変更される(例えば、第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更される)場合の対象移動物標の具体的な位置関係等について説明する。図27は、過去対応ペアデータtp101aと第1前回物標tp101とを主に示す図である。図27には、車両CRに搭載されたレーダ装置1の送信アンテナ13から出力されるビームパターンBAの送信波の領域内で導出される物標の一部が示されている。なお、右隣接車線ro2の右側には右側壁W2が存在する。
そして、第1前回物標tp101の前回確定横距離Sd101と過去対応ペアデータtp101aの今回横距離Sd101aとを比べて、前回確定横距離Sd101よりも今回横距離Sd101dが短い場合に、信号処理部18はフィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する。具体的には、車両CRの走行する自車線ro1内の車両CR前方には前方車両CRaの第1前回物標tp101が示されており、その横距離は、基準軸BLから車幅右方向の第1前回物標tp101までの前回確定横距離Sd101(例えば、1.2m)である。また、第1前回物標tp101と時間的な連続性を有するフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aが第1前回物標tp101よりも左後方の位置に示されている。つまり、過去対応ペアデータtp101aの今回横距離Sd101a(例えば、0.5m)は、第1前回物標tp101の前回確定横距離Sd101(例えば、1.2m)よりも小さい値となっている。言い換えると、対象移動物標の今回処理の横距離が前回処理の横距離よりも短くなっている(ステップS512のYesに対応)。そして、上述のその他のフィルタ定数の変更の条件を満たす場合に、信号処理部18はフィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する。
ここで、例えば、フィルタ定数が第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更された場合の効果を図28を用いて説明する。図28は、第1フィルタ定数でフィルタリングした今回確定物標と第4フィルタ定数でフィルタリングした今回確定物標との時間ごとの導出状況を示す図である。
図28には、図27で説明した車両CRのレーダ装置1の送信アンテナ13から送信されるビームパターンBA送信波の領域内に前方車両CRaに対応するフィルタ処理後の今回確定物標tg101が示されている。
そして、今回確定物標の時系列の移動経路を示す軌跡Tr3は、今回確定物標tg101を導出以降の処理で導出された過去対応ペアデータを第1フィルタ定数でフィルタリングし、導出した今回確定物標tg101a〜tg101eの位置の変化を示している。また、軌跡Tr3とは異なる今回確定物標の時系列の移動経路を示す軌跡Tr4は、今回確定物標tg101の導出以降の処理で導出された過去対応ペアデータを第4フィルタ定数でフィルタリングして導出された今回確定物標tg101〜tg105の位置の変化を示している。
ここで、図28に示すように軌跡Tr3における今回確定物標は、今回確定物標tg101a〜tg101eの位置が右隣接車線ro2内の位置となる傾向にある。その結果、信号処理部18が導出する今回確定物標の横距離は例えば、基準軸BLに対して1.8m以上となり、実際は今回確定物標に対応する前方車両CRaが自車線ro1内に存在しているにもかからず、今回確定物標がACCの制御対象とはならない場合がある。その結果、車両制御装置2は制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行えないこととなる。
これに対して、第4フィルタ定数でフィルタリングされ導出された今回確定物標は、軌跡Tr4に示すように今回確定物標tg101以降に導出される今回確定物標tg101〜tg105の横距離は、自車線ro1内となり、信号処理部18が導出する今回確定物標の横距離は例えば、基準軸BLに対して1.8m未満となる。その結果、レーダ装置1は自車線ro1内に存在する前方車両CRaに対応する今回確定物標を確実に導出できる、そして、レーダ装置1から今回確定物標の物標情報が入力される車両制御装置2は制御対象とすべき物標に対する適正な車両制御を行える。
次に、図22に戻りステップS513の処理において、第1前回物標tp101の縦距離が90m未満(ステップS514がNo)の場合の処理について説明する。信号処理部18は、第1前回物標tp101の縦距離が90m未満(ステップS513がNo)の場合、図24に示すように第1前回物標tp101の縦距離が50m以上か否かを判定する(ステップS601)。第1前回物標の縦距離が50m以上(ステップS601がYes)の場合、ステップS602の処理を実行する。
なお、第1前回物標tp101の縦距離が50m未満(ステップS601がNo)の場合、信号処理部18は、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第5フィルタ定数に変更する(ステップS608)。つまり、第4フィルタよりも更に今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.25、今回横距離のフィルタ定数0.75)が設定される。信号処理部18はこの第5フィルタ定数で過去対応ペアデータtp101aをフィルタリングする(ステップS517)ことで、前方車両CRaに対応する対象移動物標が車両CRの走行する車線ro1内に存在する場合に、対象移動物標を確実に導出できる。
第1前回物標tp101の縦距離が50m以上〜90m未満の場合は、縦距離が90m以上の場合と比べて自車線確率の値の導出精度が向上することから、フィルタ定数を変更するその他のフィルタ定数の変更条件を満たす場合は、信号処理部18は第4フィルタ定数よりも更に今回横距離のフィルタ定数の反映量を大きくする。
ステップS602の処理に戻り、信号処理部18は、過去対応ペアデータtp101aがペアリングされた際のマハラノビス距離が10以下(ステップS602がYes)の場合で、第1前回物標tp101が結合処理において、結合の対象となった結合物標である(ステップS603がYes)とき、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第5フィルタ定数に変更する(ステップS604)。つまり、第4フィルタよりも更に今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.25、今回横距離のフィルタ定数0.75)が設定される。そして、信号処理部18はこの第5フィルタ定数で過去対応ペアデータtp101aをフィルタリングする(ステップS517)。
なお、ステップS603の処理において、第1前回物標tp101が結合の対象とはなっていない未結合物標である(ステップS603がNo)場合、信号処理部18は、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第6フィルタ定数に変更する(ステップS605)。つまり、第5フィルタよりも更に今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0(ゼロ)、今回横距離のフィルタ定数1.0)が設定される。そして、信号処理部18はこの第6フィルタ定数で過去対応ペアデータtp101aをフィルタリングする(ステップS517)。
ここで、第1前回物標tp101が結合物標か未結合物標かでフィルタ定数に違いを設ける理由は、例えば、第1前回物標tp101が結合対象の場合、この第1前回物標tp101は1つの物体の複数の反射点のうちの1つの反射点に対応する物標であり、この1つの物体に対応する他の物標が存在こととなる。そして、この1つの物体の横距離を導出する場合、第1前回物標tp101の前回確定横距離とその他の物標の前回確定横距離とを平均した値が1つの物標の前回確定横距離となる。その結果、1つの物体の横方向の中央部分に対応する横距離からのずれが生じる場合がある。これに対して、1つの物体に対応する1つの反射点(1つの物体からの反射点が第1前回物標tp101のみ)の場合、1つの物体の横方向の中央部分に対応する横距離からのずれは小さいと考えられる。そのため、第1前回物標が結合物標場合の今回横距離のフィルタ定数と比べて、未結合物標の場合の今回横距離のフィルタ定数の大きな値としている。
次に、ステップS602の処理で、過去対応ペアデータtp101aがペアリングされた際のマハラノビス距離が10を上回る(ステップS602がNo)の場合、信号処理部18は、マハラノビス距離が30以下か否かを判定し(ステップS606)、マハラノビス距離が30以下(ステップS606がYes)の場合、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する(ステップS607)。つまり、第1フィルタよりも今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.5、今回横距離のフィルタ定数0.5)が設定される。なお、信号処理部18は、マハラノビス距離が30を上回る(ステップS606がNo)の場合、信号処理部18は前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS609)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp101aに対してフィルタリングを実行する(ステップS517)。
ここで、マハラノビス距離に応じて、フィルタ定数を設定する理由は、マハラノビス距離の値が小さければ小さい程、ペアリングの精度が高くなり、今回処理の過去対応ペアデータtp101aのペアリングの信頼性が高まる。そのため、マハラノビス距離の値が小さい程、今回横距離のフィルタ定数の反映量を増加させている。
次に、図22に戻りステップS510〜S512のいずれかの処理が条件を満たさない(ステップS510がNo、S511がNo、および、S512がNoのいずれかの)場合の処理について説明する。信号処理部18は、ステップS510〜S512のいずれかの処理が条件を満たさない(ステップS510がNo、S511がNo、および、S512がNoのいずれかの)場合、図25に示すように第1前回物標(例えば、後述する図29に示す第1前回物標tp102)の先行車フラグがON状態か否かを判定し(ステップS701)、第1前回物標tp102の先行車フラグがON状態(ステップS701がYes)の場合、ステップS702の処理を実行する。なお、このステップS701の処理で先行車フラグがON状態の第1前回物標tp102は対象移動物標となり、この対象移動物標がその他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数が変更される。また、第1前回物標tp102が対象移動物標の場合、この第1前回物標tp102と時間的な連続性を有する過去対応ペアデータ(例えば、図29に示す過去対応ペアデータtp102a)も対象移動物標となる。
そして、信号処理部18は第1前回物標tp102の代表フラグがON状態か否かを判定し(ステップS702)、第1前回物標tp102の代表フラグがON状態(ステップS702がYes)の場合、予測相対横距離の絶対値が、前回確定相対横距離の絶対値よりも大きいか否かを判定する。(ステップS703)。つまり、信号処理部18は、対象移動物標の今回処理の横距離が前回処理の横距離よりも長い場合に条件を満たすものとする。そして、信号処理部18は、予測相対横距離の絶対値が、前回確定相対横距離の絶対値よりも大きい(ステップS703がYes)場合、第1前回物標tp102が結合処理における結合物標か否かを判定する(ステップS704)。
信号処理部18は、第1前回物標tp102が結合物標(ステップS704がYes)の場合、前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS706)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp102aに対してフィルタリングを実行する(ステップS517)。
また、信号処理部18は、第1前回物標tp102が未結合物標(ステップS704がNo)の場合は、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する(ステップS705)。つまり、第1フィルタよりも今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.5、今回横距離のフィルタ定数0.5)が設定される。これにより、前方車両CRaに対応する対象移動物標が車両CRの走行する自車線ro1とは別の車線内(例えば、右隣接車線ro2)に存在する場合でも、対象移動物標を確実に導出できる。
なお、ステップS701からS703の処理で条件を満たさない(ステップS701がNo、S702がNo、および、S703がNoのいずれかの)場合、信号処理部18は、前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS706)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp102aに対してフィルタリングを実行する(ステップS517)。
ここで、図29を用いて、フィルタ定数が変更される(例えば、第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更される)場合の対象移動物標の具体的な位置関係等について説明する。図29は、過去対応ペアデータtp102aと第1前回物標tp102とを主に示す図である。図29には、車両CRに搭載されたレーダ装置1の送信アンテナ13から出力されるビームパターンBAの送信波の領域内で導出される物標の一部が示されている。なお、右隣接車線ro2の右側には右側壁W2が存在する。
そして、信号処理部18は、第1前回物標tp102の前回確定横距離Sd102と過去対応ペアデータtp102aの今回横距離Sd102aとを比べた場合、前回確定横距離Sd102よりも今回横距離Sd102aが長いことをフィルタ定数の変更条件の1つとし、その他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数を第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更する。具体的には、車両CRの走行する自車線ro1内の車両CR前方には前方車両CRaの第1前回物標tp102が示されており、その横距離は、基準軸BLから車幅右方向の第1前回物標tp102までの前回確定横距離Sd102(例えば、2.2m)である。また、第1前回物標tp102と時間的な連続性を有するフィルタ処理の対象の過去対応ペアデータtp102aが第1前回物標tp102よりも右後方の位置に示されている。
つまり、過去対応ペアデータtp102aの今回横距離Sd102a(例えば、4.7m)は、第1前回物標tp102の前回確定横距離Sd102(例えば、2.2m)よりも大きい値となっている。言い換えると、対象移動物標の今回処理の横距離が前回処理の横距離よりも長くなっている(ステップS703のYesに対応)。そして、第1前回物標が結合処理における結合の対象ではなく(ステップS704のYesに対応)、上述のその他のフィルタ定数の変更条件を満たす場合に、フィルタ定数が第1フィルタ定数から第4フィルタ定数に変更される。
次に、図21および図22に示すステップS505〜S509の処理で条件を満たさない(ステップS505がNo、S506がNo,S507がNo、S508がNo、および、S509がNoいずれかの)場合、図26に示すように信号処理部18は、第1前回物標の先行車フラグがON状態か否かを判定する(ステップS801)。そして、信号処理部18は、第1前回物標の先行車フラグがON状態(ステップS801がYes)の場合、第1前回物標の対象移動物標フラグがOFF状態か否かを判定する(ステップS802)。なお、上述のステップS801の処理で先行車フラグがON状態の第1前回物標は対象移動物標となり、この対象移動物標がその他のフィルタ定数の変更条件を満たすことでフィルタ定数が変更される。
次に、信号処理部18は、第1前回物標のフィルタ変更フラグがOFF状態(ステップS802がYes)の場合、予測相対横距離の絶対値が、前回確定相対横距離の絶対値よりも大きいか否かを判定する。(ステップS803)。つまり、信号処理部18は、対象移動物標の今回処理の横距離が前回処理の横距離よりも長い場合に条件を満たすものとする。
そして、予測相対横距離の絶対値が、前回確定相対横距離の絶対値よりも大きい(ステップS803がYes)場合、信号処理部18は、第1前回物標の縦距離が30m以上〜50m以下か否かを判定する(ステップS804)。そして、信号処理部18は、第1前回物標の縦距離が30m以上〜50m以下(ステップS804がYes)の場合、第1前回物標の速度が20km/hか否かを判定する(ステップS805)。
次に、信号処理部18は、第1前回物標の速度が20km/h以下の場合に、フィルタ定数を第1フィルタ定数から第5フィルタ定数に変更する(ステップS806)。つまり、第4フィルタよりも更に今回横距離の反映量を増加するフィルタ定数(例えば、予測横距離のフィルタ定数0.25、今回横距離のフィルタ定数0.75)が設定される。信号処理部18はこの第5フィルタ定数により過去対応ペアデータをフィルタリングする(ステップS517)。
これは例えば、車両CRの前方を走行する前方車両CRaが速度を落として右折および左折などの車線変更をする場合に、第1フィルタ定数のように予測横距離のフィルタ定数を今回横距離のフィルタ定数と比べて大きな値とすると、例えば、前方車両CRaが既に右折等をして車両CRの走行する車線(例えば、自車線ro1)から離脱しているにもかかわらず、前回処理の前回確定横距離に対応する予測横距離のフィルタ定数の値が大きいことから、前方車両CRaの対象移動物標が未だに自車線ro1に存在するものとして車両制御を行なう可能性がある。そのため、主に前方車両CRaの第1前回物標の速度が所定速度(例えば、20km/h)を下回る場合は、フィルタ定数を第1フィルタ定数よりも今回横距離の反映量を増加する第5フィルタ定数に変更する。これにより、対象移動物標に対応する前方車両CRaが減速した後、車両CRの走行する自車線ro1から別の車線に移動する場合でも、対象移動物標を確実に導出できる。
なお、ステップS801〜S805の処理で条件を満たさない(ステップS801がNo、S802がNo,S803がNo、S804がNo、および、S805がNoいずれかの)場合、前回処理で設定されているフィルタ定数から、第1フィルタ定数にフィルタ定数を変更し(ステップS807)、フィルタ処理の対象の過去対応ペアデータに対してフィルタリングを実行する(ステップS517)。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。なお、上記実施の形態で説明した形態、および、以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
上記実施の形態では、対象移動物標は主に前方車両CRaとして説明したが、これ以外にも、車両CRの進行方向と同方向に移動する車両CRの後方に存在する移動物標を対象移動物標とし、フィルタ定数を変更する処理を行ってもよい。
また、上記実施の形態においては、今回処理の値(例えば、横距離)および前回処理の値(例えば、横距離)のいずれかの値を用いると説明した処理において、今回処理の値を前回処理の値に替えてを用いてもよいし、前回処理の値を今回処理の値に替えて用いてもよい。具体的には、各処理のうち前回処理のカーブ半径は、今回処理のカーブ半径を用いてもよいし、今回処理のマハラノビス距離を用いた処理では前回処理のマハラノビス距離を用いてもよい。
また、上記の実施の形態において、レーダ装置1の角度方向推定はESPRITとして説明したが、これ以外にもDBF(Digital Beam Forming)、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、および、MUSIC(Multiple Signal Classification)などのうちいずれか一のアルゴリズムを用いてもよい。
また、上記実施の形態において、レーダ装置1は、車両に搭載する以外の各種用途(例えば、飛行中の航空機および航行中の船舶の監視の少なくともいずれか1つ)に用いてもよい。
また、第1の実施の形態では、2−2.特定物標(静止物標)が存在する場合のフィルタ定数変更の処理と、2−3.特定物標(隣接移動物標)が存在する場合のフィルタ定数変更の処理とは一連の処理として説明した。これに対して、信号処理部18は、各フィルタ定数変更の処理を別々の処理として実施してもよい。